(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明の実施の形態やその変更例が、適宜図面に基づいて説明される。
当該形態や変更例における前後上下左右は、説明の便宜上定めたものであり、作業の状況や移動する部材の状態等により変化することがある。
又、本発明は、下記の形態や変更例に限定されない。
【0009】
[第1形態]
図1は、本発明の第1形態に係る、電動工具の内の切断機(手持ち式)の一例であるマルノコ1の斜視図であり、
図2は、マルノコ1の一部開蓋斜視図であり、
図3は、マルノコ1の一部開蓋右側面図であり、
図4は、マルノコ1の一部開蓋左側面図であり、
図5は、マルノコ1の一部開蓋前面図であり、
図6は、マルノコ1の一部開蓋上面図であり、
図7は、
図6のA−A線断面図である。
マルノコ1は、平板状のベース2と、ベース2上方に配置される本体ハウジング3を備えている。
本体ハウジング3は、先端工具としての鋸刃4を支持している。又、本体ハウジング3内には、鋸刃4を回転駆動するブラシレスモータ5が配置されている。本体ハウジング3は、ブラシレスモータ5を保持するモータハウジング6と、モータハウジング6の右側に連結されて鋸刃4の上部を覆うブレードケース8とを含んでいる。
モータハウジング6の上方には、ループ状のグリップハウジング9が設けられている。
尚、モータハウジング6及びブレードケース8は、
図1を除く各図において、省略されている。
【0010】
ブレードケース8の前部は、平面視U字状の連結板10に対し、連結板10を通るネジ11を介して、ブレードケース8の上下方向への回転が可能である状態で接続されている。連結板10は、ベース2の前部において立てられた円弧状の第1ガイド溝を有する左右方向の第1ガイド板12に対し、前後方向のピン10aによって回転可能に連結されている。連結板10は、第1ツマミネジ13によって、第1ガイド板12の第1ガイド溝に沿った任意の位置で固定可能である。
又、ブレードケース8の後部側面には、側方へ突出するローラ(図示略)が設けられている。ローラは、ブレードケース8の側方で前方へ向かって円弧状にカーブするデプスガイド15に貫通している。デプスガイド15は、ベース2の後部において立てられた左右方向の第2ガイド板14に対し、前後方向のピン17によって回転可能に接続されている。第2ガイド板14は、円弧状の第2ガイド溝を有しており、デプスガイド15は、第2ツマミネジ16によって当該第2ガイド溝に沿った任意の位置で固定可能に連結されている。上記ローラの延長軸上には、レバー18が設けられており、上記ローラは、レバー18によって任意にデプスガイド15をクランプする操作が可能となっている。
本体ハウジング3は、デプスガイド15に沿ったブレードケース8のクランプ位置を変更することで、ネジ11を中心として回転させて、ベース2に設けられた角穴19を通して下方へ突出する鋸刃4の突出量(切込量)が調整可能である。又、前後の第1ガイド板12,第2ガイド板14における連結板10とデプスガイド15との固定位置を変更することで、本体ハウジング3を、鋸刃4がベース2と直交する直角位置から、右側へ倒伏して鋸刃4がベース2と45°の角度で傾斜する最大傾斜位置までの任意の傾斜角度で固定可能である。尚、ベース2の前端には、鋸刃4の直角位置(0°)と最大傾斜位置(45°)で側縁がそれぞれ鋸刃4の延長線上に位置する切込み20a,20bが形成されており、被切断材の上面に表記した墨線に切込み20a,20bの側縁を合わせることで、墨線に沿った切断が容易に可能となっている。
【0011】
一方、グリップハウジング9は、モータハウジング6に連続するように配置されており、左側の半割ハウジング9aと、右側の半割ハウジング9bとを複数のネジ9c,9c・・により組付けることで形成されている。グリップハウジング9の後部は、グリップ部22となっている。
グリップ部22の前方であってグリップハウジング9の右部には、ブラシレスモータ5等のオンオフを切替えるスイッチ23が露出しており、グリップ部22の後側には、電源コード25が接続されている。尚、ここでは電源として交流電源(商用電源)を想定しているが、電源コード25に代えて、又は電源コード25と共に、バッテリ装着部ないしバッテリを設けることができる。バッテリは直流電源(例えばDC100V以上)とすることができる。
【0012】
ブラシレスモータ5は、三相であり、ステータ26と、ステータ26の内周側に配置されるロータ27を有している(インナーローター)。
図8や
図9にも示されるステータ26は、固定子鉄心28と、固定子鉄心28に(右側又は左側で)接する第1絶縁部材29a及び第2絶縁部材29bと、第1絶縁部材29a及び第2絶縁部材29bを介して固定子鉄心28に巻かれる6個のコイル30,30・・を有する。
【0013】
ロータ27は、軸芯に配置された左右方向のロータシャフト31と、ロータシャフト31の周囲に配置される筒状のロータコア32と、ロータコア32の外面に配置された複数(6個)の永久磁石33,33・・及び複数(6個)のセンサ用永久磁石(図示略)を有する。ロータコア32は、回転子鉄心とされている。
これに対し、ステータ26の第2絶縁部材29b(左側)に隣接して、上記センサ用永久磁石の位置を検出して回転検出信号を出力する3個の回転検出素子34a,34a・・を右面上に搭載したセンサ基板34が固定されている。
図10や
図11にも示されるセンサ基板34は、リング状部分34Rとその後部から後方へ突出する矩形状部分34Qを有しており、中央に孔35を有している。回転検出素子34a,34a・・は、孔35の周りに周方向で所定間隔を置いて配置されている。又、センサ基板34は、温度を測定するセンサとしてのサーミスタ34bや、センサ基板34におけるノイズを抑制する抵抗器(ノイズ
抑制素子)34c,34cを右面(裏面)に搭載している。更に、センサ基板34は、矩形状部分34Qにおいて、回転検出素子34a,34a・・の信号(回転検出信号)を伝達する複数(6本)のリード線34d,34d・・と、端子34eを介して接続されている。端子34eは、各リード線34dのセンサ基板34に対する接続部となっており、端子34eの一部は、センサ基板34の矩形状部分34Qの右面に載せられている。
センサ基板34は、右層(裏側層)と左層(表側層)を備えた二層構造である。裏面及び各層の間(左層の裏面)には、上記各種の素子や回路パターン、即ち電気の導通する導電部が露出している。又、センサ基板34の裏面から突出するように、各回転検出素子34a,サーミスタ34b,各抵抗器34cが配置されており、これらは、センサ基板34においてそれらの周辺部より突出する部分である導電突出部分となっている。他方、表面には、それらは露出しておらず、左層は、絶縁材で形成される絶縁層となっている。
センサ基板34は、上部周縁の左右と下部周縁の左右において、その隣接部に対して外方に突出する取付孔部36,36・・を備えている。
【0014】
センサ基板34の右面は、低温低圧射出成形により形成された被覆体40で覆われている。被覆体40は、樹脂製であって、絶縁性及び磁場非遮断性(磁場透過性)を有しており、回転検出素子34a,34a・・、サーミスタ34b、抵抗器34c,34c、及びリード線34d,34d・・の接続部としての端子34e(ないし各リード線34dの端子35a側の端部)を覆っている。尚、リード線34dは、導線と、その導線を被覆する筒状の絶縁被膜と、を有しており、その絶縁被膜は、端子側35a側の端部以外の部分において配置されていて、端子35a側の端部では上記導線が露出している。
被覆体40は、センサ基板34のリング状部分34Rの孔35の内面に隣接する内面隣接部40a(肉厚部)、及びセンサ基板34の左面(表面)における孔35の辺縁部に隣接する辺縁隣接部40bも一体的に有しており、各種素子の搭載されるセンサ基板34の裏面から、それとは異なる面である肉厚部の内面、ないし逆側である表面の一部まで回り込んでいる。又、被覆体40は、端子34eないしリード線34d,34d・・の端部の周りを経て、センサ基板34の矩形状部分34Qの表側(端子表側部分40c)まで回り込んでいる。被覆体40における端子表側部分40cの外方には、その周囲より右へ窪んでいる窪み部40dが設けられている。窪み部40dは、内方にセンサ基板34(矩形状部分34Q)がない箇所に設けられ、その箇所の肉厚を、センサ基板34のある箇所における被覆体40の肉厚に近づけている。かように肉厚が一様なものに近づくと、射出時に溶融樹脂の速度がより揃って樹脂がより均一に回り込み易くなり、樹脂内の気泡の発生や表面の波打ちが防止され、設計通りの肉厚が確保される。
尚、取付孔部36,36・・は、表裏両面とも、被覆体40に覆われていない。
【0015】
被覆体40は、例えば次のようにしてセンサ基板34に付着される。
低圧インサート成形に係る金型であって、金型内にセンサ基板34を配置可能であり、被覆体40の形状に対応した形状のものが用意される。例えば、金型は、窪み部40dに対応した金型突出部を備えている。1個の金型に、1箇所のセンサ基板34投入部(樹脂射出部)が配置されても良いし、複数(例えば4箇所)の樹脂射出部が配置されても良い。
そして、センサ基板34が配置された金型(基板配置工程)に対して、加熱溶融されて流動性を与えられた樹脂が、0.1MPa(メガパスカル)以上10MPa以下程度の低圧で押し出されて、センサ基板34の裏面側に被覆体40が一体成形される(低圧射出成形,樹脂低圧押し出し工程)。従来の一般的な樹脂成形では、40MPa以上の高圧で射出成形されるところ、かような低圧射出成形は従来の樹脂成形に比べて低圧で行われ、回転検出素子34a等の素子や回路パターン(導電部)を搭載したセンサ基板34(電気電子部品)であっても、耐圧性に制限のある素子等を損傷することなく被覆体40が一体成形される。
又、低圧で射出成形されることにより、従来に比べて低温で成形されることになり、例えば200℃以下で成形される。よって、回転検出素子34a等の素子や回路パターン(導電部)を搭載したセンサ基板34(電気電子部品)であっても、耐熱性に制限のある素子等を損傷することなく被覆体40が一体成形される。
低温低圧射出成形で用いられる樹脂は、その温度ないし圧力に適した(その温度ないし圧力でも溶融して射出可能となる)ものが選択され、好ましくは、軟化点が200℃未満である熱可塑性樹脂であり、より好ましくは、融点が200℃未満である熱可塑性樹脂であり、更に好ましくは、かような軟化点ないし融点を有する、脂肪族骨格を含むポリアミド(ナイロン)を主成分(重量比率で過半数)とする樹脂が用いられる。
被覆体40が一体成形されたセンサ基板34は、所定の冷却時間(例えば2分間)の経過後、金型から取り出される(取り出し工程)。
【0016】
かような被覆体40付きのセンサ基板34は、各取付孔部36にネジ
43,43・・(
図4参照)を通されることで、第2絶縁部材29bに固定される(基板設置工程)。
固定子鉄心28は、内面から内方への突出部分であり各コイル30が巻かれる合計6個のティース44,44・・を、周方向に等間隔に有している(
図8参照)。第2絶縁部材29bは、リング状の左面から左方へ突出するように複数(6個)形成され周方向に等間隔で配置された保持部45,45・・を有している。保持部45,45・・は、周方向において、ティース44,44・・の間に配置されている。上のティース44の両脇には、ネジ42,42に対する円筒状のボス部46,46が、左方へ突出するように設けられており、下のティース44の両脇にも、同様に円筒状のボス部46,46が設けられている。
各保持部45は、断面がコ字状となる一対の突起48,48を有している。突起48,48は、互いに対向する向きで第2絶縁部材29bの周方向に並べられ、ネジ止めされた被覆40付きのセンサ基板34の左面よりも高く左方へ突出している。各保持部45における一対の突起48,48の間には、コイル30接続用のコイル端子49が保持されている。コイル端子49,49・・には、所定のコイル30の巻線端部につながっておりあるいは独立している導線30a,30a・・が、所定の順番で接続されている。
後の保持部45,45の間には、第2絶縁部材29bの円筒面状の曲面後部から外方(後方)へ突出する一対の受け部50,50が設けられている。各受け部50の上方には、センサ基板34の矩形状部分34Q及び端子34e並びにその周囲の被覆体40が配置されており、受け部50,50は、被覆体40の後方突出部分の裏面に接触して、センサ基板34や被覆体40の後方突出部分を支持する。各受け部50を有する第2絶縁部材29bは、被覆体40を支持する支持部材としての役割を担う。
【0017】
ロータシャフト31は、モータハウジング6の左部に保持された軸受55と、モータハウジング6に保持された軸受56とによって回転可能に支持されている。ロータシャフト31の先端部(右部)には、第1ギヤ57が形成されており、ロータシャフト31の右部は、モータハウジング6内に配置されている。他方、ロータシャフト31の基部(左部)は、第2絶縁部材29bの中央孔やセンサ基板34の孔35を貫通している。
軸受56の左方には、ブラシレスモータ5冷却用の遠心ファン58が配置されている。遠心ファン58は、ロータシャフト31に固定されている。モータハウジング6の左面には、複数の吸気口(図示略)が形成されている。一方、ステータ26の右方には、遠心ファン58の周囲を囲む皿状のバッフルプレート60が設けられている。バッフルプレート60には、ロータシャフト31を通す孔が開けられている。
【0018】
又、ロータシャフト31の右方には、ロータシャフト31と平行な出力軸68が設けられている。出力軸68の右端部は、ベアリングリテーナ69に保持された軸受69aによって支持され、出力軸68の中央部は、円筒状のガイド70によって支持されている。ベアリングリテーナ69は、モータハウジング6の右部に取り付けられる。
出力軸68の左部には、ロータシャフト31の第1ギヤ57と、中間ギヤ71を介して噛み合う第2ギヤ72が設けられている。
出力軸68の右部は、ブレードケース8内に達している。出力軸68の右端部には、鋸刃4が、アウターフランジ73とインナーフランジ74によって挟まれた状態で出力軸68の軸心にボルト75を右からねじ込むことで固定されている。尚、出力軸68,アウターフランジ73,インナーフランジ74及びボルト75は、先端工具保持部を構成する。
ブレードケース8内には、常態において鋸刃4の下側を覆う安全カバー76が配置されている。安全カバー76は、ベアリングリテーナ69に回転可能に装着される。安全カバー76は、常態の位置へ向けて回転付勢されている。
【0019】
一方、モータハウジング6の後方には、張出ハウジング80が連接するように設けられている。
張出ハウジング80の内部には、コントローラ82が収容されている。コントローラ82は、図示されない制御回路基板を有している。制御回路基板は、マイコンや、ダイオード、平滑コンデンサ(電解コンデンサ)、スイッチング素子等を搭載することで、整流回路やインバータ回路を有している。
センサ基板34のリード線34d,34d・・は、コントローラ82と電気的に接続されている。
張出ハウジング80の内部は、モータハウジング6と通じており、張出ハウジング80の左側面には、吸気口(図示略)が形成されている。
【0020】
このようなマルノコ1の動作例が以下説明される。
安全カバー76が常態位置からブレードケース8に収容する位置へ回転され、電源コード25が電源に接続された状態でスイッチ23がオンになると、コントローラ82で整流された直流電源によってブラシレスモータ5が駆動する。即ち、コントローラ82のマイコンが、センサ基板34の回転検出素子34a,34a・・から出力されるロータ27のセンサ用永久磁石の位置を示す回転検出信号を、リード線34d,34d・・を通じて得ることで、ロータ27の回転状態を取得し、取得した回転状態に応じて各スイッチング素子のオンオフを制御して、ステータ26の各コイル30に対して順番に電流を流すことで、ロータ27を回転させる。
ロータ27の回転により、ロータシャフト31が回転して、第1ギヤ57に噛み合う中間ギヤ71が回転し、中間ギヤ71に噛み合う第2ギヤ72を通じて出力軸68が回転して、鋸刃4が回転するので、作業者はワークを切断可能となる。
【0021】
又、ロータシャフト31の回転に伴う遠心ファン58の回転により、上記吸気口からモータハウジング6内に吸い込まれた冷却用空気は、ブラシレスモータ5を通過してブラシレスモータ5を冷却した後、バッフルプレート60によって出力軸68側へ送られる。
一方、張出ハウジング80の吸気口から吸い込まれた冷却用空気は、コントローラ82を通過してコントローラ82を冷却した後、モータハウジング6内に移動して同じくバッフルプレート60によって出力軸68側へ送られる。
出力軸68側へ送られた冷却用空気の大部分は、ブレードケース8内に吹き出し、鋸刃4の回転に伴って発生する空気流と合流してブレードケース8の右側面に形成された排気口から排出される。冷却用空気の残りの一部は、ブレードケース8の前端に送られ、ベース2の前端に吹き付けられる。よって、墨線が切粉で隠れることが防止される。
【0022】
そして、センサ基板34には、電流の流れる部分である導電部としての回転検出素子34a,34a・・、サーミスタ34b、抵抗器34c,34c、及びリード線34d,34d・・の接続部(端子34e)を覆う樹脂(誘電体)製の被覆体40が、低温低圧射出成形により一体成形されている。
又、電気の導通する導電部を有するセンサ基板34を備えたマルノコ1において、導電部が、軟化点が200℃未満である熱可塑性樹脂製の被覆体40によって覆われている。
更に、被覆体40の樹脂は、低温低圧射出成形の施工の容易さや良好な成形品質の観点から、好ましくは軟化点が200℃未満である、脂肪族骨格を含むポリアミドを主成分としている。
よって、導電部が低温低圧射出成形により被覆体40で覆われることとなり、導電部の故障を招くことなくセンサ基板34に被覆体40が付着される。又、樹脂低圧押し出し工程は数時間で完了し、その工程後の冷却期間ないし取り出し工程は数分で済み、従来のボンドの施行に比べ、大幅に被覆体40の形成時間が短縮される。更に、センサ基板34の隣接位置にマルノコ1の他の部材を絶縁状態で配置する場合、他の部材に対する隣接箇所に被覆体40を配置することで、他の部材をセンサ基板34に絶縁状態を保ちながら十分に近接させることができ、マルノコ1の部材の配置の自由度が確保されるし、他の部材の近接配置によりセンサ基板34周辺、ひいてはブラシレスモータ5やマルノコ1がコンパクトになる。
尚、被覆体40は、低温低圧射出成形という製法により特定されるものとみられる可能性があり、たとえそうであるとしても、いわゆる不可能・非実際的事情を有することから、かような特定は許されるものと思料される。
即ち、低温低圧射出成形可能な樹脂として、多種多様なものが存在し、低温低圧射出成形不能である樹脂と区別するために、具体例を羅列することで被覆体40をその構造又は特性により直接特定することはおよそ実際的でない。尚、軟化点や融点が200℃未満である熱可塑性樹脂や、当該軟化点ないし融点を有する脂肪族骨格を含むポリアミドを主成分とした樹脂は、低温低圧射出成形可能な樹脂の代表例であるが、全てが網羅されたものではないと思料されるし、低温低圧射出成形不能な樹脂との区別が完全にできているものかどうか判然としない。
又、低温低圧射出成形された樹脂特有の構造や特性は現状知られておらず、又その構造や特性を探求することは、仮にかような構造や特性が存在したとしても、多大な設備と時間を要しておよそ不可能あるいは非実際的であると思料される。
従って、被覆体40が、低温低圧射出成形という製法により特定されるものとみられたとしても、かような特定は許されるべきである。
【0023】
加えて、被覆体40は、その肉厚を均一な状態に近づける窪み部40dを備えており、又被覆体40の金型は、被覆体40がその肉厚を均一な状態に近づける窪み部40dを有するように、窪み部40dに対応する金型突出部を有している。よって、被覆体40の品質が向上する。
又、センサ
基板34に搭載される導電部の一部として、センサ基板34において周辺部より突出する部分である導電突出部分(各回転検出素子34a,サーミスタ34b,各抵抗器34c,端子34e)を有しており、被覆体40は、その導電突出部分と周辺部を覆っている。よって、立体的な導電部に対しても、保護用の被覆体40が、短時間で容易に設けられる。
更に、被覆体40は、センサ基板34の裏面に接触していると共に、内面隣接部40aにおいてセンサ基板34の肉厚部内面に接触しており、更に辺縁隣接部40bにおいてセンサ基板34の表面に接触している。よって、被覆体40がセンサ基板34の裏面に広がるのみならず内面隣接部40aや辺縁隣接部40bにおいて回り込むこととなり、被覆体40がセンサ基板34の裏面のみに広がった場合に比べて、被覆体40がセンサ基板34から剥がれる事態が抑制される。
又更に、センサ基板34には、リード線34d,34d・・が接続されており、被覆体40は、リード線34d,34d・・とセンサ基板34の接続部(端子34e)を覆う。よって、リード線34d,34d・・の抜け止めが行われる。又、複数のリード線34d,34d・・は、被覆体40によって別途熱収縮チューブ等を用いることなく束ねられ、配線に適した位置に自然に配置される。更に、接続部(端子34e)が他の導電部と共に覆われるので、絶縁処理と合わせて一度でリード線34d,34d・・の処理も行える。
又、マルノコ1は、被覆体40が接触する受け部50,50を有する第2絶縁部材29bを備えている。よって、被覆体40が受け部50,50に接触して、被覆体40の弾性により振動が防止される。特に、受け部50,50は、端子34e(各リード線34d接続部)外側の被覆体40に接触するので、比較的に切断や漏電等の故障が起こり易い接続部(端子34e)を効果的に保護することができる。
【0024】
更に、マルノコ1の製造方法は、電気の導通する導電部を有するマルノコ1用のセンサ基板34を、金型内に配置する基板配置工程と、その金型内に、軟化点が200℃未満である熱可塑性樹脂を、200℃以下の熱を加えて溶融したうえで、0.1MPa以上10MPa以下の低圧で押し出す樹脂低圧押し出し工程と、その熱可塑性樹脂が一体成形されて被覆体40付きとなったセンサ基板34を、金型から取り出す取り出し工程と、被覆体40が一体成形されたセンサ基板34を、マルノコ1のブラシレスモータ5に設置する基板設置工程と、を有する。よって、導電部を破損することなく容易に短時間で導電部保護用の被覆体40を付着させることができ、マルノコ1が、センサ基板34やその隣接部材の絶縁状態を確保してそれらの配置の自由度が高く、又コンパクト化が可能である状態で製造される。
【0025】
[第2形態]
本発明の第2形態に係るマルノコは、コントローラを除いて第1形態と同様に成る。
第1形態と同様に成る部分や部材等については、適宜第1形態と同じ符号が付されて、説明が省略される。
図12,
図13に示される第2形態のコントローラ101は、1層構造の制御回路基板104と、被覆体110を有する。
【0026】
制御回路基板104は、IPM(インテリジェントパワーモジュール)112を搭載している。
IPM112は、図示されないスイッチング素子を複数(6個)備えている。スイッチング素子は、IGBT(絶縁ゲートバイポーラトランジスタ)である。
IPM112は、平板状のIPM本体112aと、IPM本体112aの両側部から側方ないし
上方へ出された複数の端子112b,112b・・を備えている。IPM本体112aは、制御回路基板104の下面に沿うようにしてその下面より下方に配置され、複数の端子112b,112b・・は、それらの二列状の配置に対応するように制御回路基板104に設けられた小孔を貫通して、制御回路基板104の上面から突出している。
【0027】
又、制御回路基板104は、ダイオードブリッジ114を搭載している。ダイオードブリッジ114は、交流電源から電源コード25及びヒューズ(図示略)を介して入力される交流電圧を全波整流し、全波整流後の電圧を、制御回路基板104における電源ラインとグランドラインとの間に出力する。ダイオードブリッジ114の出力電圧は、グランドラインを基準にした電源ラインの電圧として現れる。
ダイオードブリッジ114は、立板状のダイオードブリッジ本体114aと、ダイオードブリッジ本体114aの下部から下方へ出された複数の端子114b,114b・・を備えている。ダイオードブリッジ本体114aは、起立した状態で制御回路基板104の上面より上方に配置され、複数の端子114b,114b・・は、制御回路基板104の小孔を貫通して制御回路基板104の下面から僅かに突出している。
【0028】
更に、制御回路基板104は、マイコン116と、コンデンサ118と、抵抗器120を搭載している。
マイコン116は、IPM112のスイッチング素子に対して制御信号を送る。
IPM112のスイッチング素子は、3個のハイサイドスイッチとしてのスイッチング素子と、3個のローサイドスイッチとしてのスイッチング素子と、を備える。IPM112は、マイコン116からの制御信号に従って、各スイッチング素子のゲートに駆動信号を出力することにより、各スイッチング素子を所定の順番でオン・オフさせる。スイッチング素子の何れかがオンとなることにより、ブラシレスモータ5への通電経路が形成される。
コンデンサ118は、スナバ回路として機能する電気部品である。
抵抗器120は、電流検出用である。
【0029】
加えて、制御回路基板104は、複数のリード線122,122・・と電気的に接続されている。各リード線122は、IPM112やマイコン116と電気的に接続されており、又ブラシレスモータ5(各コイル30)と電気的に接続されている。
制御回路基板104の上面及び下面には、回路パターンが配置されている。この回路パターンや、IPM112、ダイオードブリッジ114、マイコン116、コンデンサ118、抵抗器120、各リード線122(の制御回路基板104に対する接続部122a)は、制御回路基板104における導電部である。
【0030】
被覆体110は、制御回路基板104の全体を覆っており、制御回路基板104を封止している。尚、各リード線122における接続部122a以外の部分は、被覆体110によって覆われない。リード線122は、導線と、その導線を被覆する筒状の絶縁被膜と、を有しており、その絶縁被膜は、接続部122a以外の部分において配置されている。
被覆体110は、第1形態の被覆体40と同様に、低温低圧射出成形によって形成されている。
被覆体110は、制御回路基板104に沿った平板状のベース部110aと、IPM112の端子112b,112b・・における各列を覆う、ベース部110aより上方に隆起した線状隆起部分110b,110bと、起立したダイオードブリッジ本体114aを覆う、ベース部110aより上方に大きく突出した突起部分110cと、IPM本体112aを覆う、ベース部110aより下方に隆起した下面隆起部分110dを有している。
被覆体110は、導電部の保護を行いながら、可能な限り複雑な形状となることを避けるように、又肉厚がほぼ一定となるようにされている。即ち、IPM112の各端子112bは、ベース部110aの肉厚より高く突出しているので、その突出の分、各端子112bの各列を覆う線状隆起部分110bが、ベース部110aより隆起している。又、ダイオードブリッジ114の各端子114bは、ベース部110aの肉厚より低く突出しているので、これらに対応する隆起部は設けられず、平坦な(肉厚一定の)状態が維持される。更に、ダイオードブリッジ本体114aの周りにおける突起部分110cの肉厚と、IPM本体112aの周りにおける下面隆起部分110dの肉厚は、ほぼ同一とされている。
被覆体110の金型は、被覆体110の形状に対応する形状を有しており、特に、被覆体110がその肉厚を均一な状態に近づける隆起部(各線状隆起部分110b,突起部分110c,下面隆起部分110d)を有するように、隆起部に対応する金型窪み部を有している。
【0031】
第2形態に係るマルノコでは、コントローラ101の制御回路基板104が低温低圧射出成形により形成される被覆体110で封止されるので、両面に導電部のある制御回路基板104が全体として十分に保護され、又その保護のための構造が短時間で容易に形成される。又、制御回路基板104の絶縁が確保され、制御回路基板104やその隣接部材について配置の自由度が増し、コンパクト化が図れる。
又、被覆体110は、肉厚を均一な状態に近づける隆起部(各線状隆起部分110b,突起部分110c,下面隆起部分110d)を備えており、又被覆体110の金型は、被覆体110がその肉厚を均一な状態に近づける隆起部を有するように、隆起部に対応する金型窪み部を有している。よって、被覆体110の形成時において気泡や波打ち等の発生が防止され、高品質の被覆体110を提供することができる。
更に、IPM本体112a,各端子112b,ダイオードブリッジ本体114a,各端子114b,マイコン116,コンデンサ118,抵抗器120は、制御回路基板104において周辺部より突出する部分である導電突出部分となっており、被覆体110は、それら導電突出部分とその周辺部を覆うので、従来のボンドでは施工が困難であった突出構造(立体構造)に対しても、高品質で容易に短時間で被覆することができる。特に、ダイオードブリッジ本体114aは、起立板状であり、制御回路基板104に対して高く突出しているところ(例えば突出高さが基板の肉厚の3倍以上)、かようなダイオードブリッジ本体114aであっても被覆体110で覆うことができる。
加えて、制御回路基板104には、リード線122,122・・が接続されており、被覆体110は、リード線122,122・・と制御回路基板104の接続部122aを覆う。よって、リード線122,122・・の抜け止めが行われる。又、複数のリード線122,122・・は、被覆体110によって別途熱収縮チューブ等を用いることなく束ねられ、配線に適した位置に自然に配置される。更に、接続部122aが他の導電部と共に覆われるので、保護処理と合わせて一度でリード線122,122・・の処理も行える。
【0032】
[第3形態]
本発明の第3形態に係るマルノコは、センサ基板やコントローラ(制御回路基板)を除いて、第2形態と同様に成る。
第2形態と同様に成る部分や部材等については、適宜第2形態と同じ符号が付されて、説明が省略される。
【0033】
図14に示される第3形態のセンサ基板201は、リング状部分201Rの一部から舌状の延設部分201Qが外方に延びる形状となっている。
センサ基板201は、3個の回転検出素子34a,34a・・を裏面上に搭載しており、スイッチング素子としての複数(6個)のFET(電界効果トランジスタ)202,202・・を表面上に搭載している。尚、図示が省略されているが、センサ基板201は、サーミスタや抵抗器を搭載しており、リード線34d,34d・・が延設部分201Qにおいて接続されている。
3個の回転検出素子34a,34a・・は、リング状部分201Rの中央の孔35の周辺部であって、延設部分201Q側に配置されている。
FET202,202・・は、制御回路基板のマイコン(図示略)からの制御信号に従ってオン・オフし、ブラシレスモータ5への通電・非通電を切替える。
そして、センサ基板201は、第2形態と同様の被覆体(図示略)によって、取付孔部36,36・・を除く全体が覆われている。
尚、第3形態に係る制御回路基板は、IPM112を搭載していない。
【0034】
第3形態に係るマルノコでは、センサ基板201が、低温低圧射出成形により形成される被覆体で封止されるので、両面に導電部のあるセンサ基板201が全体として十分に保護され、又その保護のための構造が短時間で容易に形成される。又、スイッチング素子としてのFET202,202・・と回転検出素子34a,34a・・を搭載したセンサ基板201の絶縁が確保され、センサ基板201やその隣接部材について配置の自由度が増し、コンパクト化が図れる。
【0035】
[変更例等]
尚、本発明は上記形態に限定されず、例えば上述の各形態等に対して次のような変更を適宜施すことができる。
被覆体は、導電部の全体を覆わず、一部を覆っても良い。被覆体は、1つの基板において複数設けられても良い。被覆体は、センサ基板の取付孔部を覆っても良い。取付孔部は、3個以下あるいは5個以上であっても良いし、基板の他の部分に対して突出していなくても良い。
被覆体において、窪み部や、受け部により支持される部分は、リード線接続端子の外側に代えて、あるいは当該外側と共に、被覆体の他の部分に設けられても良い。被覆体における、肉厚を均一な状態に近づける隆起部は、他の部分に設けられても良いし、窪み部と隆起部の双方が同じ基板において設けられても良い。これらの変更例は、金型隆起部と金型窪み部についても、適宜同様に当てはまる。
被覆体は、センサ基板と制御回路基板の少なくとも一方に設けられて良く、またこれらに代えて、あるいはこれらと共に、スイッチの基板や表示部の基板等の他の基板に設けられても良い。
基板には、リード線が接続されなくても良い。又、基板に接続されるリード線は、各種の信号線であっても良いし、電源線であっても良いし、これらの組合せであっても良い。リード線の本数は、1本でも良いし、2本以上であっても良い。リード線は、センサ基板に沿う方向に延ばされず、センサ基板の矩形状部分や延設部分の表面及び裏面の少なくとも一方に対して交わる方向に延ばされていても良いし、制御回路基板に対して沿う方向に延ばされていても良いし、各基板において交わる方向のリード線と沿う方向のリード線が混在していても良い。又、センサ基板において、リード線は、矩形状部分や延設部分以外の部分に接続されても良い。
基板に搭載される素子や回路パターンの種類や数や形状は、回転検出素子が2個以下あるいは4個以上とされたり、サーミスタが省略されあるいは2個以上設けられたり、リード線接続端子が省略されあるいは2個設けられたり、ダイオードブリッジが円筒形状や基板に沿う平板形状とされたり、コイルやLEDが搭載されたりする等、どのようなものであっても良い。回路パターンは、基板の表面に露出状態で設けられず基板内部に設けられても良いし、省略されても良い。基板から突出する素子や回路パターンが設けられず、基板から突出しない回路パターンのみが設けられるようにされても良い。又、基板は、3層以上を有する多層構造であっても良い。基板の形状は、リング形状や矩形以外であっても良い。
被覆体は、センサ基板の外周部から回り込むことで、基板の複数の面に隣接するようにしても良い。
センサ基板は、第1絶縁部材に取り付けられても良いし、ブラシレスモータから離れた箇所に配置されても良い。制御回路基板は、コントローラ外に配置されても良い。
基板を支持する支持部材は、ハウジングを始めとする他の部材であっても良い。
【0036】
ブラシレスモータにおける永久磁石やコイルの個数(ロータの極数)は、適宜増減することができ、例えば4極とすることができる。各コイルに対する所定の電気的接続は、各保持部に保持されるコイル端子によらなくても良い。保持部やコイル端子の数や形状は、適宜変更されて良く、例えば4個のコイルに対して4個の保持部ないしコイル端子とされても良いし、6個のコイルに対して3個の保持部ないしコイル端子とされても良い。
又、モータは、ブラシ付きのものとしても良い。
スイッチング素子は、バイポーラトランジスタ等、他の種類の素子であっても良い。ブラシレスモータを駆動させるための複数のスイッチング素子の構成は、IPMに具備されたもの(第2形態)や、6個のFET(第3形態)以外のものであっても良い。
第2形態に係るダイオードブリッジは、起立状態ではなく、制御回路基板に沿った状態で搭載されても良い。
各種の基板においては、上述の電子部品(素子)が、上述の目的以外の目的において搭載されても良い。又、上述の目的のため、他の種類の電子部品が搭載されても良い。更に、電子部品(リード線の接続部を含む)や回路パターンの配置は、上述のものに限定されず、一部の電子部品が省略されても良いし、他の電子部品が追加されても良いし、第2形態においてIPM本体とマイコンが基板の同じ面に搭載されても良いし、第3形態においてFETと回転検出素子が同じ面(表面又は裏面)に搭載されても良いし、第3形態においてFETが裏面に搭載され回転検出素子が表面に搭載されても良い。又更に、第2形態や第3形態においてマイコンがセンサ基板に搭載されても良いし、第3形態においてFETが制御回路基板に搭載されても良い。加えて、搭載される電子部品の種類や組合せは、上述のものに限定されず、任意の構成が採用されても良い。
マルノコにおけるモータ出力から出力軸への減速機構について、遊星歯車減速機構が用いられたり、ロータシャフトと出力軸の間に中間軸やこれらに噛み合うギヤが配置されたりして良い。
又、マルノコ以外の他の手持ち式切断機や、手持ち式でない切断機、あるいは充電式や非充電式のインパクトドライバやドライバドリル等の他の電動工具、クリーナ、園芸用トリマを始めとする園芸工具等に、本発明を適用することができる。