(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明を好適な実施形態に沿って説明する。なお、本発明は以下に示す実施形態に限られるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において適宜変更可能である。また、以下に示す実施形態においては、一部構成の図示や説明を省略している箇所があるが、省略された技術の詳細については、以下に説明する内容と矛盾が生じない範囲内において、適宜公知又は周知の技術が適用されていることはいうまでもない。
【0028】
図1は、本発明の第1実施形態に係る導電性樹脂体を用いた車両アース構造を示す車両上面図である。
図1に示すように、車両アース構造1は、車両内に設置される車両バッテリBと複数の車載機器VDとのアースラインを確保するための構造であり、導電性樹脂体10と、各種電線W1〜W4とによって構成されている。
【0029】
導電性樹脂体10は、炭素繊維、高強度繊維、及びガラス繊維の少なくとも1種からなる複数本の繊維の間に樹脂が含浸された繊維強化樹脂(例えば炭素繊維強化プラスチックや繊維強化プラスチックと称呼されるもの)からなるものである。ここで、上記の高強度繊維とは、アラミド繊維、ポリアリレート繊維、及びPBO(poly(p-phenylenebenzobisoxazole))繊維などであり、破断時における引張強度が1GPa以上で破断時の伸び率が1%以上10%以下のものである。また、含浸される樹脂(母材となる樹脂)には、例えばエポキシ樹脂が用いられる。
【0030】
本実施形態において導電性樹脂体10は、上記の繊維に金属メッキ(例えば銅メッキ)が施されている。このような金属メッキにより導電性樹脂体10は通常の繊維強化樹脂よりも導電性が高められたものとなっている。さらに、本実施形態に係る導電性樹脂体10は、車両用のボディ(例えば車両フレーム)に用いられている。
【0031】
第1電線W1は、車両バッテリBのマイナス端子Tと導電性樹脂体10とを電気接続する電線である。第1電線W1は、車両バッテリBのマイナス端子Tに直接接続されていてもよいし、車両バッテリBのマイナス端子Tに他の部材を介して電気的に接続されていてもよい。また、第1電線W1は、導電性樹脂体10側において後述するように一部が樹脂に埋設し残部が露出した金属部材(導電性樹脂体10の一部構成であって後述の符号M)に電気接続されている。
【0032】
第2〜第4電線W2〜W4は、車載機器VDのマイナス端子と導電性樹脂体10とを電気接続する電線である。第2〜第4電線W2〜W4は、車載機器VDのマイナス端子に直接接続されていてもよいし、端子等の他の部材を介して電気的に接続されていてもよい。また、第2〜第4電線W2〜W4は、導電性樹脂体10側において金属部材(導電性樹脂体10の一部構成であって後述の符号M)に電気接続されている。
【0033】
図2は、
図1に示した導電性樹脂体10の外観図であり、(a)は平面図であり、(b)は側面図である。なお、
図2においては樹脂Rを破線にて示すものとする。また、
図3は、
図2に示した導電性樹脂体10の分解図であり、樹脂Rの図示を省略している。
【0034】
図2及び
図3に示すように、導電性樹脂体10は、複数本の導電性繊維EFと、金属部材Mとを備えている。複数本の導電性繊維EFは、炭素繊維、高強度繊維、及びガラス繊維の少なくとも1種からなる繊維に金属メッキが施されたものである。本実施形態において導電性繊維EFは、例えば縦糸及び横糸として織り込まれて繊維織物FFを構成している。本実施形態では繊維織物FFが積層されることで、複数本の導電性繊維EFが2以上の層に積層された積層体LBとなっている。
【0035】
金属部材Mは、上記複数本の導電性繊維EFの一部(全部でも可)に対して直接に接することにより導電性繊維EFに電気接続されるものである。この金属部材Mは、積層体LBの2以上の層のいずれか1つの層間に位置した薄型金属材TM(金属プレートや金属箔)で構成されている。特に、
図2及び
図3に示す薄型金属材TMは、層間の全域に亘って設けられており、広範な領域で複数本の導電性繊維EFと接して電気接続されている。
【0036】
また、金属部材Mは、
図2にも示すように、一部が樹脂R内に埋設され、残部が樹脂R外に露出している。金属部材Mは
、露出部分に予めボルト孔が
形成されており、上記したバッテリBのマイナス端子Tや車載機器VDのマイナス端子との電気接続については、金属部材Mのうち樹脂R外に露出した部位に対して行われる。
【0037】
なお、金属部材Mは、バッテリBのマイナス端子Tや車載機器VDのマイナス端子との電気接続箇所に対応して点在するように設けられていてもよいし、車両ボディ(フレーム)の全域に設けられていてもよい。また、
図2及び
図3において導電性繊維EFは、規則正しい並びで平面状に配置されているが、これに限らず、不規則な方向に延びたり屈曲したりして平面状に配置されていてもよいし、平面状に配置されていなくてもよい。
【0038】
ここで、本実施形態においては、金属メッキされる繊維に炭素繊維を採用することが好ましい。しかし、炭素繊維は銅との濡れ性が悪く、電気メッキを行ったとしても銅のメッキ析出性及び密着性が悪い。そこで、本実施形態において炭素繊維に銅メッキを行いたい場合には、超臨界状態の二酸化炭素に曝された炭素繊維を用い、表面酸素量が従来の炭素繊維と異なるものにして銅メッキを施すようにしている。
【0039】
ここで、本実施形態でいう表面酸素量は、X線光電子分光法により測定したO
1Sピーク強度を、同分光法により測定したC
1Sピーク強度で割り込んだ値(O
1S/C
1S)である。炭素繊維の表面が酸化していればしているほど、X線光電子分光法により測定したO
1Sピーク強度が高くなるため、表面酸素量の値が高くなる傾向にある。
【0040】
表面酸素原子の数と、酸性官能基の数とは、略同じ割合で増加することが知られている。また、酸性官能基は、界面接着に寄与すると考えられている。本実施形態に係る炭素繊維において、表面酸素量は、0.097以上0.138以下となっている。これにより、メッキ析出性及び密着性を向上させることできるからである。なお、表面酸素量が0.097を下回ると、銅との接着性が極端に低下してしまう傾向にある。また、表面酸素量が0.138を上回ると、炭素繊維の表面酸素が電気メッキを行う際の給電部との接触を阻害し、炭素繊維に電流が流れ難くなりメッキ析出性が悪くなる傾向にある。
【0041】
次に、本実施形態に係る導電性樹脂体10の製造方法を説明する。導電性樹脂体10の製造にあたっては、まず、複数本の繊維(炭素繊維)に対して金属メッキ(銅メッキ)を施して複数本の導電性繊維EFを作成する(メッキ工程)。
【0042】
図4は、炭素繊維に対するメッキ方法を説明するための概略図である。本実施形態において炭素繊維CFに金属メッキを施すためには、まず、処理槽C内に炭素繊維CFを投入する(第1工程)。ここで、第1工程において、本実施形態では有機金属錯体が処理槽C内に投入されていないものとする。有機金属錯体が処理槽C内に投入されていなくとも、所定のメッキ析出性及び密着性を得ることができるからである。
【0043】
次に、炭素繊維CFが投入された処理槽C内に超臨界状態とした二酸化炭素を供給する(第2工程)。そして、超臨界状態とした二酸化炭素が供給されてから、所定時間経過後に炭素繊維CFを処理槽Cから取り出す(第3工程)。これにより、表面酸素量を0.097以上0.138以下とする上記の炭素繊維CFを得ることができる。
【0044】
その後、いわゆる電気メッキを行って、炭素繊維CF上に金属メッキ(銅メッキ)を施す(第4工程)。
【0045】
このように、超臨界状態とした二酸化炭素に炭素繊維を曝すことで、炭素繊維の表面酸素量を変化させることができ、表面酸素量を0.097以上0.138以下とすることができる。なお、上記の第1工程では、
図4の破線に示すように、有機金属錯体が処理槽C内に投入されていてもよい。
【0046】
次に、上記メッキ工程にて得られた複数本の導電性繊維EFを縦糸及び横糸とし繊維織物FFを複数枚作成する。その後、複数枚の繊維織物FFを積層して複数本の導電性繊維EFが2以上の層に積層された積層体LBを作成する。また、この積層体LBの作成過程において、1つの層間に薄型金属材TMを挟み込む。これにより、複数本の導電性繊維EFに金属部材Mを電気接続した組立体Aが形成される(電気接続工程)。なお、この組立体Aにおいて薄型金属材TMは、その一部が積層体LBに挟み込まれており、残部が積層体LBからはみ出た状態となっている。
【0047】
次に、電気接続工程にて得られた組立体Aを金型に投入し、金型内に樹脂Rを注入して硬化させる。この際、金属部材Mの一部が樹脂R内に埋設し残部が樹脂R外に露出するように樹脂成形する(樹脂成形工程)。これにより、導電性樹脂体10が製造される。
【0048】
なお、上記においては、複数本の導電性繊維EFを縦糸及び横糸とした繊維織物FFを、複数枚積層して積層体LBを作成したが、これに限らず、電気接続工程に先立って、メッキ工程にて得られた繊維織物FF(複数本の導電性繊維EF)に樹脂Rを含浸させて中間材IMを形成し(中間材形成工程)、中間材IMを積層して積層体LBとしてもよい。そして、中間材IMを積層する過程において薄型金属材TMを挟み込むようにしてもよい。
【0049】
このようにして、第1実施形態に係る導電性樹脂体10及びその製造方法によれば、金属部材Mの一部が埋設されて残部が露出しているため、導電性樹脂体10と金属部材Mとを一体化して部品点数が増加することを防止すると共に、金属部材Mを後から取り付ける必要もない。従って、部品点数の増加を抑えると共に、金属部材Mの取り付け加工を不要とすることができる導電性樹脂体10を提供することができる。
【0050】
また、上記導電性樹脂体10によれば、複数本の導電性繊維EFは、2以上の層に積層された積層体LBとなっており、金属部材Mは、2以上の層のいずれか1つの層間に位置した平面状の薄型金属材TMであるため、金属部材Mが挟まれることとなり、金属部材Mが導電性樹脂体10から脱落してしまう可能性を減じた金属部材Mの埋設を行うことができる。
【0051】
さらに、上記導電性樹脂体10の製造方法によれば、複数本の導電性繊維間EFに樹脂Rを含浸させて中間材IMを形成した場合には、樹脂成形工程において型内で樹脂成形する際に複数本の導電性繊維EFが移動してしまうことを防止し、金属部材Mとの電気接続不良が発生してしまう頻度を低減することができる。
【0052】
また、本件発明者らは、表面酸素量が0.097以上0.138以下であると、金属メッキに対する濡れ性が向上し、メッキ析出性及び密着性を向上できることを見出した。よって、上記炭素繊維の表面酸素量を上記範囲とすることで、メッキ析出性及び密着性を向上させることができる。しかも、表面酸素量を上記範囲とすれば良いため、アルカリを用いる必要が無く、機械的強度の低下も抑えることができる。
【0053】
加えて、第1実施形態に係る車両アース構造1によれば、導電性樹脂体10の金属部材Mのうち樹脂R外に露出した部位に対して、車載機器VD及び車両バッテリBのマイナス端子Tが電気接続されているため、車両用のボディという強度が要求される部位に繊維強化樹脂を用いることができ、しかも、金属メッキを施した繊維によって所定の導電性が得られることから、車載機器VD及び車両バッテリBのマイナス端子Tを電気接続して、アース構造を構築することができる。加えて、金属部材Mの露出した部位に対してマイナス端子Tを電気接続可能となり、金属部材Mの取り付け加工を不要としたうえでのアース構造を提供することができる。
【0054】
次に、本発明の第2実施形態を説明する。第2実施形態は第1実施形態と同様であるが、導電性樹脂体10の構成及び製造方法が一部異なっている。以下、第1実施形態との相違点を説明する。
【0055】
図5は、第2実施形態に係る導電性樹脂体10の外観図であり、(a)は平面図であり、(b)は側面図である。なお、
図5においては樹脂Rを破線にて示すものとする。また、
図6は、
図5に示した導電性樹脂体10の分解図であり、樹脂Rの図示を省略している。
【0056】
図5及び
図6に示すように、第2実施形態に係る導電性樹脂体10は、導電性の金属からなる複数の金属ピンPを備えている。さらに、第2実施形態においては金属部材Mとして、平面視してL形状となる平面状の薄型金属材LTMを備えている。
【0057】
また、複数本の導電性繊維EFからなる繊維織物FF(1枚又は複数枚積層されたもの)は、L形状の薄型金属材LTM上に載置されており、L形状の薄型金属材LTMに対応するように各金属ピンPが繊維織物FF上からL形状の薄型金属材LTMに突き刺さるように配置されている。これにより、複数本の導電性繊維EFと金属部材Mとが他の導電性部材である金属ピンPを介して電気的に接続されている。
【0058】
なお、第2実施形態において金属ピンPは、平面状の繊維織物FFに対して垂直となる角度で繊維織物FFに突き刺さっているが、これに限らず、平面に対して交差する方向に延在して突き刺さっていてもよい。すなわち、金属ピンPはやや斜め方向に突き刺さっていてもよい。
【0059】
このような導電性樹脂体10を製造するにあたっては、第1実施形態と同様にメッキ工程が行われる。そして、メッキ工程にて得られた複数本の導電性繊維EFを縦糸及び横糸とし繊維織物FFを1枚以上作成して、L形状の薄型金属材LTM上に載置する。次いで、複数の金属ピンPをL形状の薄型金属材LTMと対応するように繊維織物FFに突き刺していく。これにより、複数本の導電性繊維EFに金属部材Mを電気接続した組立体Aが形成される(電気接続工程)。なお、この組立体AにおいてL形状の薄型金属材LTMの一部は平面視して繊維織物FFからはみ出た状態となっている。
【0060】
次に、電気接続工程にて得られた組立体Aを金型に投入し、金型内に樹脂Rを注入して硬化させる。この際、金属部材Mの一部が樹脂R内に埋設し残部が樹脂R外に露出するように樹脂成形する(樹脂成形工程)。これにより、導電性樹脂体10が製造される。
【0061】
なお、上記においては第1実施形態と同様に中間材IMを形成してもよい(中間形成工程)。
【0062】
このようにして、第2実施形態に係る導電性樹脂体10及びその製造方法によれば、第1実施形態と同様に、部品点数の増加を抑えると共に、金属部材Mの取り付け加工を不要とすることができる導電性樹脂体10を提供することができる。また、中間材IMを形成した場合には、樹脂成形工程において型内で樹脂成形する際に複数本の導電性繊維EFが移動してしまうことを防止し、金属部材Mとの電気接続不良が発生してしまう頻度を低減することができる。さらに、上記炭素繊維の表面酸素量を上記範囲とすることで、メッキ析出性及び密着性を向上させることができる。しかも、表面酸素量を上記範囲とすれば良いため、アルカリを用いる必要が無く、機械的強度の低下も抑えることができる。加えて、車両アース構造1によれば、金属部材Mの取り付け加工を不要としたうえでのアース構造を提供することができる。
【0063】
また、第2実施形態によれば、金属ピンPが平面に対して交差する方向に延在することで導電性繊維EFとL形状の薄型金属材LTMとを電気接続しているため、導電性繊維EFとL形状の薄型金属材LTMとを直接接触させなくともよく、導電性繊維EFとL形状の薄型金属材LTMとを導通し易くすることができる。
【0064】
次に、本発明の第3実施形態を説明する。第3実施形態は第1実施形態と同様であるが、導電性樹脂体10の構成及び製造方法が一部異なっている。以下、第1実施形態との相違点を説明する。
【0065】
図7は、第3実施形態に係る導電性樹脂体10の構成図であり、(a)は平面図であり、(b)は(a)のB−B断面図である。なお、
図7においては樹脂Rを破線にて示すものとする。また、
図8は、
図7に示した導電性樹脂体10の分解図であり、樹脂Rの図示を省略している。
【0066】
図7及び
図8に示すように、第3実施形態に係る導電性樹脂体10は、金属部材Mとして、フレーム部材FMを備えている。フレーム部材FMは、平面視して略四角枠形状となる金属材であって、その一つの角部に外側へ突出する端子部FTを備えている。この端子部FTは、後にバッテリBのマイナス端子Tや車載機器VDのマイナス端子と接続される箇所となる。
【0067】
また、フレーム部材FMは、複数本の導電性繊維EFからなる繊維織物FF(1枚又は複数枚積層されたもの)の平面外周側に配置されることとなる。第3実施形態では、複数本の導電性繊維EFがその周囲を包囲された状態で金属部材Mと電気的に接続されることとなる。
【0068】
このような導電性樹脂体10を製造するにあたっては、第1実施形態と同様にメッキ工程が行われる。そして、メッキ工程にて得られた複数本の導電性繊維EFを縦糸及び横糸とした繊維織物FFを1枚以上作成して、略四角形状のフレーム部材FM内に配置する。これにより、複数本の導電性繊維EFに金属部材Mを電気接続した組立体Aが形成される(電気接続工程)。
【0069】
次に、電気接続工程にて得られた組立体Aを金型に投入し、金型内に樹脂Rを注入して硬化させる。この際、端子部FTが樹脂R外に露出するように樹脂成形する(樹脂成形工程)。これにより、導電性樹脂体10が製造される。
【0070】
なお、上記においては第1実施形態と同様に中間材IMを形成してもよい(中間形成工程)。
【0071】
このようにして、第3実施形態に係る導電性樹脂体10及びその製造方法によれば、第1実施形態と同様に、部品点数の増加を抑えると共に、金属部材Mの取り付け加工を不要とすることができる導電性樹脂体10を提供することができる。また、中間材IMを形成した場合には、樹脂成形工程において型内で樹脂成形する際に複数本の導電性繊維EFが移動してしまうことを防止し、金属部材Mとの電気接続不良が発生してしまう頻度を低減することができる。さらに、上記炭素繊維の表面酸素量を上記範囲とすることで、メッキ析出性及び密着性を向上させることができる。しかも、表面酸素量を上記範囲とすれば良いため、アルカリを用いる必要が無く、機械的強度の低下も抑えることができる。加えて、車両アース構造1によれば、金属部材Mの取り付け加工を不要としたうえでのアース構造を提供することができる。
【0072】
また、第3実施形態によれば、複数本の導電性繊維EFは平面状に配置されており、金属部材Mは、平面状に配置された複数本の導電性繊維EFの、平面外周側に設けられたフレーム部材FMとなっているため、複数本の導電性繊維EFを金属部材Mが包囲した状態で電気接続されることとなり、金属部材Mの存在により導電性繊維EF間への樹脂Rの含浸を阻害させることなく、樹脂Rの含浸が比較的容易な導電性樹脂体10を提供することができる。
【0073】
次に、本発明の第4実施形態を説明する。第4実施形態は第1実施形態と同様であるが、導電性樹脂体10の構成及び製造方法が一部異なっている。以下、第1実施形態との相違点を説明する。
【0074】
図9は、第4実施形態に係る導電性樹脂体10の分解図であり、樹脂Rの図示を省略している。
図9に示すように、第4実施形態に係る導電性樹脂体10は、金属部材Mである薄型金属材TMに複数の開口Hが形成されている。これら開口Hは、繊維織物FFが重ねられる領域において形成されており、薄型金属材TMを貫通したものとなっている。また、開口Hは、樹脂Rの成形時において樹脂Rが通過するのに充分な大きさとなっている。
【0075】
このような導電性樹脂体10の製造方法は、第1実施形態と同様であるが、樹脂成形工程において開口Hを通じて樹脂Rが薄型金属材TMの表裏に行き亘り易くなり、薄型金属材TMの樹脂Rへの密着度の向上に寄与することとなる。
【0076】
このようにして、第4実施形態に係る導電性樹脂体10及びその製造方法によれば、第1実施形態と同様に、部品点数の増加を抑えると共に、金属部材Mの取り付け加工を不要とすることができる導電性樹脂体10を提供することができる。また、金属部材Mが挟まれることとなり、金属部材Mが導電性樹脂体10から脱落してしまう可能性を減じた金属部材Mの埋設を行うことができる。さらに、中間材IMを形成した場合には、樹脂成形工程において型内で樹脂成形する際に複数本の導電性繊維EFが移動してしまうことを防止し、金属部材Mとの電気接続不良が発生してしまう頻度を低減することができる。加えて、上記炭素繊維の表面酸素量を上記範囲とすることで、メッキ析出性及び密着性を向上させることができる。しかも、表面酸素量を上記範囲とすれば良いため、アルカリを用いる必要が無く、機械的強度の低下も抑えることができる。さらに、車両アース構造1によれば、金属部材Mの取り付け加工を不要としたうえでのアース構造を提供することができる。
【0077】
また、第4実施形態によれば、薄型金属材TMには複数の開口Hが形成されているため、開口Hを通じて薄型金属材TMの両面の樹脂Rがつながることとなり、薄型金属材TMの樹脂Rへの密着度を向上させることができる。
【0078】
次に、本発明の第5実施形態を説明する。第5実施形態は第1実施形態と同様であるが、導電性樹脂体10の構成及び製造方法が一部異なっている。以下、第1実施形態との相違点を説明する。
【0079】
図10は、第5実施形態に係る導電性樹脂体10の構成図であり、(a)は平面図であり、(b)は(a)の断面図である。なお、
図10においては樹脂Rを破線にて示すものとする。また、
図11は、
図10に示した導電性樹脂体10の分解図であり、樹脂Rの図示を省略している。
【0080】
図10及び
図11に示すように、第5実施形態に係る導電性樹脂体10は、金属部材M(薄型金属材TM)が2部材から構成されている。すなわち、金属部材Mが第1金属部材M1と第2金属部材M2とからなり、第1金属部材M1は積層体LBの2以上の層のいずれか1つの層間に位置してその側面のみが樹脂Rから露出するように埋設され、第2金属部材M2は第1金属部材M1の露出する側面に接続されると共にバッテリBのマイナス端子Tや車載機器VDのマイナス端子に接続されるようになっている。
【0081】
このような導電性樹脂体10を製造するにあたっては、第1実施形態と同様にメッキ工程が行われる。そして、メッキ工程にて得られた複数本の導電性繊維EFを縦糸及び横糸とした繊維織物FFを複数枚作成し、複数枚の繊維織物FFを積層して複数本の導電性繊維EFが2以上の層に積層された積層体LBを作成する。また、この積層体LBの作成過程において、1つの層間に第1金属部材M1を挟み込む。これにより、複数本の導電性繊維EFに金属部材Mを電気接続した組立体Aが形成される(電気接続工程)。
【0082】
次に、電気接続工程にて得られた組立体Aを金型に投入し、金型内に樹脂Rを注入して硬化させる。この際、第1金属部材M1の一側面が樹脂R外に露出するように樹脂成形する(樹脂成形工程)。その後、露出する第1金属部材M1の側面に第2金属部材M2を超音波やレーザを利用して接合する。これにより、導電性樹脂体10が製造される。
【0083】
なお、上記においては第1実施形態と同様に中間材IMを形成してもよい(中間形成工程)。
【0084】
このようにして、第5実施形態に係る導電性樹脂体10及びその製造方法によれば、第1実施形態と同様に、部品点数の増加を抑えると共に、金属部材Mの取り付け加工を不要とすることができる導電性樹脂体10を提供することができる。また、金属部材Mが挟まれることとなり、金属部材Mが導電性樹脂体10から脱落してしまう可能性を減じた金属部材Mの埋設を行うことができる。さらに、中間材IMを形成した場合には、樹脂成形工程において型内で樹脂成形する際に複数本の導電性繊維EFが移動してしまうことを防止し、金属部材Mとの電気接続不良が発生してしまう頻度を低減することができる。加えて、上記炭素繊維の表面酸素量を上記範囲とすることで、メッキ析出性及び密着性を向上させることができる。しかも、表面酸素量を上記範囲とすれば良いため、アルカリを用いる必要が無く、機械的強度の低下も抑えることができる。さらに、車両アース構造1によれば、金属部材Mの取り付け加工を不要としたうえでのアース構造を提供することができる。
【0085】
以上、実施形態に基づき本発明を説明したが、本発明は上記実施形態に限られるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、変更を加えてもよいし、可能な範囲で適宜他の公知や周知の技術を組み合わせてもよい。また、各実施形態を組み合わせてもよい。
【0086】
例えば、上記実施形態において導電性樹脂体10は車両アース構造1として用いられるが、これに場合に限らず、例えばシールド用や導電回路などの他の用途に用いられてもよい。
【0087】
また、第5実施形態では金属部材Mが2部材から構成されているが、これに限らず、3以上の部材から構成されるようになっていてもよい。また、薄型金属材TMが2以上の部材から構成される場合に限らず、第2及び第3実施形態に記載のL形状の薄型金属材LTMやフレーム部材FMについても2以上の部材から構成されるようになっていてもよい。