特許第6789071号(P6789071)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6789071オープンラック式気化器用アルミニウム合金伝熱管およびその製造方法並びにオープンラック式気化器
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6789071
(24)【登録日】2020年11月5日
(45)【発行日】2020年11月25日
(54)【発明の名称】オープンラック式気化器用アルミニウム合金伝熱管およびその製造方法並びにオープンラック式気化器
(51)【国際特許分類】
   F28F 19/06 20060101AFI20201116BHJP
   F28F 21/08 20060101ALI20201116BHJP
   F28F 1/42 20060101ALI20201116BHJP
【FI】
   F28F19/06 A
   F28F21/08 A
   F28F1/42 A
【請求項の数】6
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2016-216003(P2016-216003)
(22)【出願日】2016年11月4日
(65)【公開番号】特開2018-71945(P2018-71945A)
(43)【公開日】2018年5月10日
【審査請求日】2019年8月8日
(73)【特許権者】
【識別番号】510132510
【氏名又は名称】株式会社UACJ押出加工
(73)【特許権者】
【識別番号】000183369
【氏名又は名称】住友精密工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000648
【氏名又は名称】特許業務法人あいち国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】箕田 正
(72)【発明者】
【氏名】松田 眞一
(72)【発明者】
【氏名】高岡 大和
(72)【発明者】
【氏名】中村 拓郎
(72)【発明者】
【氏名】外池 嘉朗
(72)【発明者】
【氏名】平山 敏弘
【審査官】 河野 俊二
(56)【参考文献】
【文献】 特開2016−048121(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2010/0291400(US,A1)
【文献】 中国特許出願公開第105940129(CN,A)
【文献】 特開2007−275940(JP,A)
【文献】 特開平05−164496(JP,A)
【文献】 特開2011−237152(JP,A)
【文献】 特開平01−145487(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F28F 19/06
F28F 1/42
F28F 21/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミニウム合金からなり、外周面の長手方向に平行な複数のフィンを有する伝熱管母材と、
前記伝熱管母材の外表面に形成された犠牲陽極層とを有する押出材からなり、
前記犠牲陽極層は、Zn:0.5〜2.0%(質量%、以下同じ)、Fe:0.2〜0.5%を含有し、残部がAl及び不可避不純物からなり、
前記犠牲陽極層の厚さが0.005mm以上5mm以下であり、
前記犠牲陽極層の最大厚さをTmax、最小厚さをTminとしたときに、Tmin≦0.07mm、かつ、Tmax/Tminが10以上であり、さらに、
前記伝熱管母材と前記犠牲陽極層との界面における元素拡散層の厚さが2μm以上である、オープンラック式気化器用アルミニウム合金製伝熱管。
【請求項2】
前記伝熱管母材は、Mn:1.0〜1.5%、Fe:0.7%以下(0%を含まず)、Si:0.6%以下(0%を含まず)、Cu:0.3%以下(0%を含まず)を含有し、残部がAl及び不可避不純物からなり、前記伝熱管母材のビッカース硬さは25以上である、請求項1に記載のオープンラック式気化器用アルミニウム合金製伝熱管。
【請求項3】
前記伝熱管母材は、Mg:2.2〜2.8%、Cr:0.15〜0.35%を含有し、さらに不純物としてFe:0.4%以下、Si:0.3%以下を含有し、残部がAl及び不可避不純物からなり、前記伝熱管母材のビッカース硬さは40以上である、請求項1に記載のオープンラック式気化器用アルミニウム合金製伝熱管。
【請求項4】
前記伝熱管母材は、Mg:0.4〜1.0%、Si:0.2〜0.8%を含有し、さらに不純物としてFe:0.3%を含有し、残部がAl及び不可避不純物からなり、前記伝熱管母材のビッカース硬さは50以上である、請求項1に記載のオープンラック式気化器用アルミニウム合金製伝熱管。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載のオープンラック式気化器用アルミニウム合金製伝熱管を製造する方法であって、
前記伝熱管母材の化学成分組成を有する筒状の中空ビレットと、該中空ビレットの外周側に配置された前記犠牲陽極層の化学成分組成を有する管状材とからなるクラッドビレットを準備し、
前記クラッドビレットを480〜550℃に加熱し、
押出機出側の速度が2〜6m/minで間接マンドレル押出法によって押出する、オープンラック式気化器用アルミニウム合金製伝熱管の製造方法。
【請求項6】
請求項1〜4のいずれか1項に記載のオープンラック式気化器用アルミニウム合金製伝熱管を備えた、オープンラック式気化器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、オープンラック式気化器用アルミニウム合金伝熱管に関し、特に液化天然ガスなどの液体を気化するオープンラック式気化器に使用するための、表面に犠牲陽極層を有するアルミニウム合金伝熱管およびその製造方法並びにオープンラック式気化器に関する。
【背景技術】
【0002】
オープンラック式気化器(以下、適宜、ORVという)では、産出地で液化された後に輸入し貯蔵されている液化天然ガス(以下、適宜、LNGという)をアルミニウム合金伝熱管の内部に通過させ、外部に海水をかけることで熱交換して気化させている。その際、熱交換性能を上げるため、外周面の長手方向に平行な複数のフィンを有する形状が採用されている。
【0003】
通常アルミニウム合金は、海水に接すると腐食が発生しやすくなり、孔食が進展すると貫通孔ができてしまう。そのため、ORVに用いるアルミニウム合金としては、比較的耐食性の良好なAl−Mn系、Al−Mg系、あるいはAl−Mg−Si系合金を用い、その表面に犠牲陽極層を付与することが多い。
【0004】
表面犠牲陽極層の付与方法として、溶射あるいはクラッドなどの方法が用いられる。溶射の場合、単一成分のアルミニウム合金管を作製した後に、所定の組成の金属を溶射するため、製造しやすい利点がある。しかし、溶射層は多孔質であることから消耗しやすく、厚くても数100μm程度の薄膜しか施工できないために耐久性が劣る欠点がある。
【0005】
一方、クラッド伝熱管の場合には、一般に押出加工で犠牲陽極層を付与するため、押出に用いるビレット条件や押出条件を制御することで、犠牲陽極層の性状を制御することができる。特許文献1では、オープンラック式気化器に用いられるフィンチューブに関して、良好な熱伝導で液化天然ガスを気化させることができ、さらにフィンチューブの外周全体を犠牲陽極被膜で強固に被覆して海水に対する耐食性を向上させたとされるフィンチューブが開示されている。
【0006】
しかし、特許文献1では、クラッド伝熱管の製造方法は提案されているものの、具体的な押出加工条件などの詳細条件については何ら開示されておらず、また、犠牲陽極層の耐久性についても明確でない。さらに押出方法については静水圧押出が提案されており、デッドゾーンの生成をアプローチ面を有する形状の工具(ダイス)で抑制することが記載されていることから、直接押出法による製造方法を示していることが分かる。しかし、直接押出法は、間接押出法に比べて押出圧力が増大し、生産性が低下する問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2012−007872号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、かかる背景に鑑みて、多角的な実験を行った結果としてなされたものであり、表面に耐久性に優れた犠牲陽極層を有するアルミニウム合金伝熱管および当該伝熱管の製造方法並びにオープンラック式気化器を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一態様は、アルミニウム合金からなり、外周面の長手方向に平行な複数のフィンを有する伝熱管母材と、
前記伝熱管母材の外表面に形成された犠牲陽極層とを有する押出材からなり、
前記犠牲陽極層は、Zn:0.5〜2.0%(質量%、以下同じ)、Fe:0.2〜0.5%を含有し、残部がAl及び不可避不純物からなり、
前記犠牲陽極層の厚さが0.005mm以上5mm以下であり、
前記犠牲陽極層の最大厚さをTmax、最小厚さをTminとしたときに、Tmin≦0.07mm、かつ、Tmax/Tminが10以上であり、さらに、
前記伝熱管母材と前記犠牲陽極層との界面における元素拡散層の厚さが2μm以上である、オープンラック式気化器用アルミニウム合金製伝熱管にある。
【0010】
本発明の他の態様は、前記オープンラック式気化器用アルミニウム合金製伝熱管を製造する方法であって、
前記伝熱管母材の化学成分組成を有する筒状の中空ビレットと、該中空ビレットの外周側に配置された前記犠牲陽極層の化学成分組成を有する管状材とからなるクラッドビレットを準備し、
前記クラッドビレットを480〜550℃に加熱し、
押出機出側の速度が2〜6m/minの条件で、間接マンドレル押出法によって押出しを行う、オープンラック式気化器用アルミニウム合金製伝熱管の製造方法にある。
【0011】
本発明のさらに他の態様は、第1の態様のオープンラック式気化器用アルミニウム合金製伝熱管を備えた、オープンラック式気化器にある。
【発明の効果】
【0012】
前記オープンラック式気化器用アルミニウム合金製伝熱管は、上記構成を具備することによって、耐久性に優れたものとなる。また、前記製造方法によれば、前記オープンラック式気化器用アルミニウム合金伝熱管を確実に製造することができる。そして、この優れた伝熱管を用いたオープンラック式気化器においては、従来よりも、伝熱管の寿命が長くなることにより、補修にかかる工数を低減することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】実施例1にかかる、オープンラック式気化器用アルミニウム合金製伝熱管の断面形状を示す説明図。
図2】実施例3にかかる、オープンラック式気化器の基本構成を説明するための、(a)正面図、(b)A−A線矢視断面図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
前記オープンラック式気化器用アルミニウム合金製伝熱管(以下、適宜、単に「伝熱管」という。)は、上述したごとく、アルミニウム合金からなり、外周面の長手方向に平行な複数のフィンを有する伝熱管母材と、この伝熱管母材の外表面に形成された犠牲陽極層とを有する。
【0015】
(伝熱管母材)
伝熱管母材としては、種々の合金系のアルミニウム合金を採用しうる。例えば、伝熱管母材としては、Al−Mn系合金を採用することができる。すなわち、前記伝熱管母材は、Mn:1.0〜1.5%、Fe:0.7%以下(0%を含まず)、Si:0.6%以下(0%を含まず)、Cu:0.3%以下(0%を含まず)を含有し、残部がAl及び不可避不純物からなるものとすることができる。
【0016】
Mnは母材強度を高める働きを有し、1.0%未満ではその効果が不十分で、1.5%を超えて含有すると押出性が低下する。そのため、さらに好ましいMn含有範囲は1.0〜1.3%であり、最も好ましいMn含有範囲は1.0〜1.2%である。
【0017】
Fe、Si、Cuは、いずれもMn系化合物の析出を促進して、押出後の結晶粒を微細化することで耐食性を向上させる働きを有するが、いずれも上記の上限を超えて含有されると耐食性が低下する。さらに好ましい含有範囲は、Fe:0.3〜0.5%、Si:0.2%以下(0%を含まず)、Cu:0.2%以下(0%を含まず)である。その他不可避不純物はそれぞれ0.1%以下、合計0.15%以下が許容される。
【0018】
伝熱管母材としては、Al−Mg系合金を採用することもできる。すなわち、前記伝熱管母材は、Mg:2.2〜2.8%、Cr:0.15〜0.35%を含有し、さらに不純物としてFe:0.4%以下、Si:0.3%以下を含有し、残部がAl及び不可避不純物からなるものとすることができる。
【0019】
Mgは母材強度を高める働きを有し、2.2%未満ではその効果が不十分で、2.8%を超えて含有すると押出性が低下する。さらに好ましいMg含有範囲は2.3〜2.7%である。
【0020】
CrはCr系化合物を生成して、押出後の結晶粒を微細化することで耐食性を向上させる働きを有するが、0.15%未満ではその効果が不十分で、0.35%を超えて含有すると、粗大化合物を生成して耐食性が低下する。さらに好ましいCr含有範囲は0.15〜0.25%である。
【0021】
不純物として、Fe:0.4%以下、Si:0.3%以下が許容されるが、上限を超えて含有されると耐食性が低下する。Fe、Si以外の不可避不純物元素はそれぞれ0.1%以下、合計0.15%以下が許容される。
【0022】
伝熱管母材としては、Al−Mg−Si系合金を採用することもできる。すなわち、前記伝熱管母材は、Mg:0.4〜1.0%、Si:0.2〜0.8%を含有し、さらに不純物としてFe:0.3%を含有し、残部がAl及び不可避不純物からなるものとすることができる。
【0023】
MgとSiは、互いに結合してMgSi化合物を生成することで母材強度を高める働きを有し、それぞれ下限以下ではその効果が不十分で、上限を超えて含有すると押出性が低下する。さらに好ましい含有範囲は、Mg:0.4〜0.8%、Si:0.3〜0.6%、最も好ましい含有範囲は、Mg:0.4〜0.6%、Si:0.3〜0.5%である。
【0024】
Feは不純物として含有されるが、0.3%以下が許容され、0.3%を超えて含有されると耐食性が低下する。Fe以外の不可避不純物はそれぞれ0.1%以下、合計0.15%以下が許容される。
【0025】
(犠牲陽極層)
伝熱管母材の外表面に形成された犠牲陽極層は、Zn:0.5〜2.0%(質量%、以下同じ)、Fe:0.2〜0.5%を含有し、残部がAl及び不可避不純物からなる。
【0026】
Znは、犠牲陽極層の自然電位を卑にする働きを有するが、0.5%未満ではその効果が不十分になる。2.0%を超えてZnを含有しても特に悪影響はないが、耐食性にも影響しないことから、2.0%を上限とする。Znの好ましい含有範囲は、0.8〜1.5%である。
【0027】
Feは犠牲陽極層の結晶粒を微細化して耐久性を向上する働きを有し、0.2%未満ではその効果が不十分で、0.5%を超えて含有すると押出性が低下する。好ましいFe含有範囲は、0.2〜0.4%である。その他不可避不純物としてSiは0.2%以下が許容され、Si以外の元素はそれぞれ0.1%以下、合計0.15%以下が許容される。
【0028】
次に、伝熱管母材は、その外面の長手方向に、平板状に連ねる一対のフィンの他にさらに複数のフィンあるいは凹凸を有する形態を取ることもできる。これらフィンあるいは凹凸が熱交換時の表面積を増大させ、熱交換性能を向上させている。上記フィンは上記本体部の外周面に6枚〜18枚設けられていることが好ましい。上記フィンの数をこの範囲内に設定することによって、熱交換性能の向上を図ることができる。一方、フィンの数が6枚〜18枚という比較的多い枚数の場合には、クラッド成形が難しくなる。そのため、フィンの数が多い場合には、特に、本願に開示した製造方法の利用が有効である。
【0029】
また、伝熱管母材の外面は、フィンの外面も含めてその全体が犠牲陽極層に覆われている。そして、伝熱管母材と犠牲陽極層との界面における元素拡散層の厚さは2μm以上である。元素拡散層の厚さを2μm以上にすることで、元素拡散層の自然電位が傾斜的に伝熱管母材に近づき、犠牲陽極層が薄くなっても、厚い部分から優先的に腐食され、伝熱管の耐久性が向上する。好ましい元素拡散層の厚さは5μm以上である。一方、元素拡散層の厚さは、製造容易性の理由から50μm以下とすることが好ましい。なお、元素拡散層の厚さが50μmを超えても耐食性を含めた特性に悪影響を与えることはない。
【0030】
また、犠牲陽極層の厚さは、0.005mm以上とし、さらに前記犠牲陽極層の最大厚さをTmax、最小厚さをTminとしたときに、Tmax/Tminが4以上とする。
【0031】
上述したごとく、伝熱管母材自体が外周面の長手方向に平行な複数のフィンを有し、フィンを含む伝熱管母材の外表面全体を覆うように犠牲陽極層が形成される。フィン部分における犠牲陽極層の厚さは、フィン先端部が厚く、フィン付け根(谷部)が薄くなる傾向にある。犠牲陽極層の効果を十分に得るために、どの部位においても、犠牲陽極層の厚さを0.005mm以上とする。より具体的には、最も薄い部分(フィン付け根(谷部))において、犠牲陽極層の厚さを0.005mm以上に確保する。犠牲陽極層の厚さが0.005mm未満の場合は耐食性が低下するおそれがある。
【0032】
一方、犠牲陽極層の厚さは、5mm以下とすることが好ましい。より具体的には、最も厚い部分(フィン先端部)では、犠牲陽極層の厚さは5mm以下とすることが好ましい。犠牲陽極層の厚さが5mmを超えると、優先腐食で犠牲陽極層の厚さが減少した時に形状変化が大きくなり、熱交換性能が低下するおそれがある。
【0033】
さらに好ましい犠牲陽極層の厚さは0.007mm以上、4mm以下、最も好ましい犠牲陽極層の厚さは0.01mm以上、3mm以下である。
【0034】
また、Tmax/Tminは4以上にする。犠牲陽極層の厚い部分と薄い部分を積極的に設け、かつ、その厚さの関係をTmax/Tminは4以上とすることによって、犠牲陽極層の厚いフィン先端部分からの優先腐食を促し、犠牲陽極層の最も薄いフィン付け根(谷部)の耐久性を向上させることができる。特にフィン付け根(谷部)が腐食すると、実質的な厚さが局部的に低下し、耐圧性が低下するので好ましくない。Tmax/Tminが4未満では十分な耐久性向上効果が得られない。さらに好ましくは、Tmax/Tminは10以上である。
【0035】
なお犠牲陽極層と伝熱管母材との界面には元素拡散層が存在するが、元素拡散層を含んだ状態であっても、犠牲陽極層と母材では結晶粒径が異なることから、断面偏光ミクロ組織や、ケラー氏液などによるエッチング後の断面ミクロ組織観察によって、明確に判別できる。すなわち、ミクロ組織観察によって犠牲陽極層と母材を識別するが、それぞれに元素拡散層が存在することになる。なお元素拡散層の厚さについては、EMPAなどの分析装置によって測定が可能である。
【0036】
続いて、当該伝熱管の製造方法について説明する。
まず、所定の伝熱管母材組成を有するアルミニウム合金中空ビレットを作製し、その外周を機械的に切削する。外周の切削(外削)は、鋳肌が除去できていれば、切削量は任意で良い。外周に鋳肌が残存すると、犠牲陽極層と母材の元素拡散が不十分になり、元素拡散層の厚さが下限未満になって耐久性が低下する。
【0037】
外削したビレットの外周に、所定の厚さで犠牲陽極層の組成を有する管状材を被せ、クラッドビレットを作製する。当該管状材は押出材や圧延材などで作製された、展伸材であることが好ましい。また当該管状材の厚さは、最終的な押出製品であるオープンラック式気化器用アルミニウム合金製伝熱管のサイズや形状に応じて、最適なものを使用する。
【0038】
次に、前記クラッドビレットを480〜550℃に加熱し、間接押出機にてマンドレル押出する。押出速度は、押出機出側の速度が2〜6m/minとなるように設定する。直接押出の場合には、背景技術に記載したとおり、押出圧力が増大し、生産性が低下する問題があるため、間接押出を採用する。
【0039】
また、マンドレル押出法以外に、ポートホール押出法もあるが、その場合にはクラッド層が溶着部に流入することがあり、機能上問題が発生する。そのため、クラッド材の押出に適したマンドレル押出法を採用する。
【0040】
クラッドビレットの加熱温度は、上述したごとく、480〜550℃とする。ビレット加熱温度が480℃未満の場合、元素拡散層の厚さが下限未満になることがあり、耐久性の低下を招く。ビレット加熱温度が550℃を超えると、押出で割れが発生しやすくなる。
【0041】
押出速度は、上述したごとく、押出機出側の速度が2〜6m/minとなるように設定する。押出機出側の速度が2m/min未満でも強度、耐久性には悪影響を及ぼさないが、生産性が低下してコストが高くなる。押出機出側の速度が6m/minを超えると、押出で割れが発生しやすくなる。
【0042】
押出後の製品(伝熱管)に対し、必要に応じて熱処理を追加することができる。例えば、軟化処理や人工時効処理などを行うことができる。
【実施例】
【0043】
以下において、本願発明の実施例について説明する。なお、この実施例は、本願発明の好ましい一実施態様を説明するためのものであって、これにより本願発明が制限されるものでない。
【0044】
(実施例1)
表1に示す伝熱管母材(以下、適宜、母材という)用の化学成分を有する合金A〜M(以下、適宜、母材合金という)について、直径φ231mmのアルミニウム合金ビレットをDC鋳造法で作製し、長さ700mmに切断後、旋盤で外径φ217.5mmまで外削し、内径φ60mmの穴明け加工を行い、中空ビレットを作製した。
【0045】
また別途、表2に示す犠牲陽極層用の合金AA〜AE(以下、適宜、犠牲陽極材という)の化学成分を有する外径φ230mm、内径φ218mmの管状材をそれぞれ熱間押出で作製し、長さ700mmに切断した。そして、表3の試験材1〜19に示す組み合わせで、管状材を中空ビレットに被せることで、クラッドビレットを作製した。
【0046】
【表1】
【0047】
【表2】
【0048】
各クラッドビレットを520℃に加熱して、マンドレル押出に供した。得ようとする押出材である伝熱管1の外面形状は、図1に示すごとく、本体部10の外周側に180°離れて平板状に連ねる一対の第1フィン11と、その間に30°ピッチで並んだ10枚の第2フィン12を有している。それぞれのフィン先端の厚さは、第1フィン11の厚さT1が4.3mm、第2フィン12の厚さT2が3.2mmである。本体部10の外径をD、本体部10からの第1フィンの突出量をL1、第2フィンの突出量をL2とすると、D=40mm、L1=16mm、L2=14mmである。谷部の円弧形状の曲率半径は、第1フィン11と第2フィン12の間の曲率半径Raが4.0mm、第2フィン12同士の間の曲率半径Rbが4.7mmである。また、同図に示すごとく、伝熱管1の内面形状は、内周側に30°ピッチで高さ2.5mmの溝を計12本有し、内接円直径dはφ24mmである。そして、外周面全周には、フィン及び谷部を含めて全周が犠牲陽極層2により覆われている。
【0049】
外面形状はダイスで形成し、内面形状はマンドレル先端で形成するよう、間接押出機で押出機出側速度5m/minの熱間押出を行った。押出後は空冷を行うことで、試験材1〜19を得た。なお、試験材13〜19は、押出後に180℃で4時間の人工時効処理を行い、評価に供した。
【0050】
試験材1〜19について、それぞれ以下の方法で犠牲陽極層の厚さ測定、犠牲陽極層と母材の元素拡散層厚さ測定、母材の硬さ測定、耐久性評価を行った。
【0051】
<犠牲陽極層の厚さ測定>
試験材を長さ20mmに切断し、押出方向に垂直な面が観察面になるよう樹脂埋めし、耐水研磨紙で#1200まで研磨後、アルミナ水溶液によるバフ研磨を行い、ケラー氏液によるエッチングを行う。そして、フィン先端の最大犠牲陽極層厚さ(Tmax)の測定、およびフィン谷部の最小犠牲陽極層厚さ(Tmin)を測定した。
【0052】
<犠牲陽極層と母材の元素拡散厚さ測定>
上記犠牲陽極層厚さ測定と同じ樹脂埋め試験片を用い、バフ研磨まで行った状態で、ケラー氏液によるエッチングをせずに、EPMAで1000倍の倍率になるよう、元素マッピング像を測定する。このとき、測定元素はAl、Mn、Mg、Znとし、コントラストの変化する幅をマッピング像から読み取り、元素拡散厚さを測定した。
【0053】
<母材の硬さ測定>
上記犠牲陽極層厚さ測定と同じ樹脂埋め試験片を用い、バフ研磨まで行った状態で、ケラー氏液によるエッチングをせずに、伝熱管母材の任意の位置でビッカース試験機による硬さ測定を行った。このとき合格基準は、Al−Mn系の場合には25以上、Al−Mg系の場合には40以上、Al−Mg−Si系の場合には50以上とした。
【0054】
<耐久性評価>
試験材を長さ100mmに切断し、切断面および内面をビニール樹脂で被覆する。試験液として、純水1Lあたり30gのNaClと10mLのHClを含有する水溶液を試験片毎に2Lずつ作製する。各試験片を室温の試験液に浸漬し、24時間経過後、取出し、水洗して腐食状況を確認する。フィン谷部のクラッド層が残存していれば合格、クラッド層が一部でもなくなり、母材が露出していれば不合格と判定した。
【0055】
試験結果を表3に示す。表3にみられるように、試験材1〜19はいずれも犠牲陽極層の厚さが0.005mm以上、5mm以下、Tmax/Tminが4以上であり、元素拡散層厚さが2μm以上であり、母材硬さが合格基準以上で、耐久性評価も合格であった。なお、表3には、押出性も示したが、押出材に割れ等が生じることなく成形できた場合を良好とした。試験材1〜19はいずれも良好であった。
【0056】
【表3】
【0057】
(比較例1)
表1に示す化学成分を有する合金A、E、JおよびN〜Vについて、実施例1と同じ条件で中空ビレットを作製し、表2の合金ACおよび合金AF〜AIの組成を有する外径φ230mm、内径φ218mmの管状材を熱間押出で作製し、長さ700mmに切断して、表4の試験材20〜40に示す組合せで前記中空ビレットに被せることで、クラッドビレットを作製した。
【0058】
各クラッドビレットを実施例1に示す条件でマンドレル押出を行い、押出後は空冷を行うことで、試験材20〜40を得た。このとき、押出材(伝熱管1)の形状は実施例1と同じとし、試験材26〜28および試験材34、37、40は押出後に180℃で4時間の人工時効処理を行った。
【0059】
試験材20〜40について、それぞれ実施例1と同一条件で犠牲陽極層の厚さ測定、犠牲陽極層と母材の元素拡散層厚さ測定、母材の硬さ測定、耐久性評価を行った。試験結果を表4に示す。
【0060】
試験材20は母材のMn含有量が下限未満であったため、硬さが低かった。試験材21は母材のMn含有量が上限を超えたため、押出で内面割れが発生した。試験材22は母材のSi、Fe、Cu含有量がそれぞれ上限を超えたため、耐久性評価で母材が露出し、不合格となった。
【0061】
試験材23は母材のMgおよびCr含有量が下限未満であったため、硬さが低く、耐久性評価で母材が露出し、不合格となった。試験材24は母材のMg含有量が上限を超えたため、押出で内面割れが発生した。試験材25は母材のSi、Fe、Cr含有量が上限を超えたため、耐久性評価で母材が露出し、不合格となった。
【0062】
試験材26は母材のMg、Si含有量が下限未満のため、硬さが低かった。試験材27は母材のMg、Si含有量が上限を超えたため、押出で内面割れが発生した。試験材28は母材のFe含有量が上限を超えたため、耐久性評価で母材が露出し、不合格となった。試験材29〜31はそれぞれ犠牲陽極層のZn含有量が下限未満のため、耐久性評価で母材が露出し、不合格となった。
【0063】
試験材32〜34はそれぞれ犠牲陽極層のZn含有量が上限を超えているが、耐久性は合格しており、押出で割れも発生せず、押出性にも問題なかった。試験材35〜37はそれぞれ犠牲陽極層のFe含有量が下限未満のため、耐久性評価で母材が露出し、不合格となった。試験材38〜40はそれぞれ犠牲陽極層のFe含有量が上限を超えたため、押出で外面割れが発生した。
【0064】
【表4】
【0065】
(比較例2)
表1に示す化学成分を有する合金A、E、Jについて、実施例1と同じ条件で中空ビレットを作製し、表2の合金ACの組成を有する外径φ230mm、内径φ218mmの管状材を熱間押出で作製し、長さ700mmに切断して、前記中空ビレットに被せることで、クラッドビレットを作製した。
【0066】
各クラッドビレットを520℃に加熱して、マンドレル押出に供した。得ようとする押出材である伝熱管1の外面形状は、図1に示すごとく、本体部10の外周側に180°離れて平板状に連ねる第1フィン11と、その間に30°ピッチで並んだ10枚の第2フィン12を有している。それぞれのフィン先端の厚さは、第1フィン11の厚さT1が3.1mm、第2フィンの厚さT2が2.0mmである。本体部10の外径をD、本体部10からの第1フィンの突出量をL1、第2フィンの突出量をL2とすると、D=28mm、L1=8mm、L2=6mmである。谷部の円弧形状の曲率半径は、第1フィン11と第2フィン12の間の曲率半径Raが2.2mm、第2フィン同士の間の曲率半径Rbが1.8mmである。また、伝熱管1の内面形状は、内周側に30°ピッチで高さ2mmの溝を計12本有し、内接円直径dはφ16mmである。そして、外周面全周には、フィン及び谷部を含めて全周が犠牲陽極層2により覆われている。
【0067】
それぞれ外面形状はダイス、内面形状はマンドレル先端で形成するよう、間接押出機で押出機出側速度5m/minの熱間押出を行い、押出後は空冷を行うことで、試験材41〜43を得た。なお、試験材43は押出後に180℃で4時間の人工時効処理を行い、評価に供した。
【0068】
試験材41〜43について、それぞれ実施例1と同一条件で犠牲陽極層の厚さ測定、犠牲陽極層と母材の元素拡散層厚さ測定、母材の硬さ測定、耐久性評価を行った。試験結果を表4に示す。
【0069】
試験材41〜43はいずれもTmax/Tminが下限未満のため、耐久性評価で母材が露出し、不合格となった。
【0070】
(実施例2)
表1に示す化学成分を有する合金A、E、Jについて、実施例1と同じ条件で中空ビレットを作製し、表2の合金ACの組成を有する外径φ230mm、内径φ218mmの管状材を熱間押出で作製し、長さ700mmに切断して、前記中空ビレットに被せることで、クラッドビレットを作製した。
【0071】
各クラッドビレットを、表5に示す試験材44〜49の条件でマンドレル押出を行い、押出後は空冷を行うことで、試験材44〜49を得た。このとき、押出材の形状は実施例1と同じとし、試験材48〜49は押出後に180℃で4時間の人工時効処理を行った。
【0072】
試験材44〜49について、それぞれ実施例1と同一条件で犠牲陽極層の厚さ測定、犠牲陽極層と母材の元素拡散層厚さ測定、母材の硬さ測定、耐久性評価を行った。試験結果を表6に示す。
【0073】
表6にみられるように、合金44〜49はいずれも犠牲陽極層の厚さが0.005mm以上、5mm以下、Tmax/Tminが4以上であり、元素拡散層厚さが2μm以上であり、母材硬さが合格基準以上で、耐久性評価も合格であり、押出性も良好であった。
【0074】
【表5】
【0075】
【表6】
【0076】
(比較例3)
表1に示す化学成分を有する合金A、E、Jについて、実施例1と同じ条件で中空ビレットを作製し、表2の合金ACの組成を有する外径φ230mm、内径φ218mmの管状材を熱間押出で作製し、長さ700mmに切断して、前記中空ビレットに被せることで、クラッドビレットを作製した。
【0077】
各クラッドビレットを、表5に示す試験材50〜58の条件でマンドレル押出を行い、押出後は空冷を行うことで、試験材50〜58を得た。このとき、押出材の形状は実施例1と同じとし、試験材56〜58は押出後に180℃で4時間の人工時効処理を行った。
【0078】
試験材50〜58について、それぞれ実施例1と同一条件で犠牲陽極層の厚さ測定、犠牲陽極層と母材の元素拡散層厚さ測定、母材の硬さ測定、耐久性評価を行った。試験結果を表6に示す。
【0079】
試験材50、53、56はいずれもビレット温度が下限未満のため、元素拡散層の厚さが下限未満になり、耐久性評価で母材が露出し、不合格となった。試験材51、54、57はいずれもビレット温度が上限を超えたため、押出で内面割れが発生した。試験材52、55、58はいずれも押出機出側の速度が上限を超えたため、押出で内面割れが発生した。
【0080】
(実施例3)
図2を用いて、上述した伝熱管1を備えたオープンラック式気化器5の基本構成について簡単に説明する。同図に示すごとく、オープンラック式気化器5は、伝熱管1を多数平行に配列する共に、第1フィン11を平面状に連ねて構成した熱交換パネル51を有している。熱交換パネル51の上下には、上部ヘッダー52及び下部ヘッダー53が設けられ、それぞれ、各伝熱管1に連通している。このような熱交換パネル51及び上部ヘッダー52及び下部ヘッダー53を組み合わせたパネルユニットが、多数所定間隔を空けて並列に配置され、すべての上部ヘッダー52及び下部ヘッダー53は、それぞれ上部マニホールド525及び下部マニホールド535に接続される。
【0081】
各熱交換パネル51の間には、熱交換パネル51の表面に沿って流下させる海水6を供給するためのトラフ56が配置されている。トラフ56には、海水供給管57が接続されている。
【0082】
そして、上記オープンラック式気化器5においては、液体であるLNGが、下部マニホールド535を経て下部ヘッダー53に供給され、伝熱管1内を上昇中に、熱交換パネル51の外面を流下する海水6との熱交換により気化し、気体であるNGとして上部ヘッダー52から上部マニホールド525へと導かれる。
【0083】
このような構成及び機能を有するオープンラック式気化器5に、上述した伝熱管1を用いることにより、従来よりも、伝熱管1の寿命が長くなり、補修にかかる工数の低減を図ることができる。
【0084】
なお、本発明は上記の実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の実施形態に変更することが可能である。
【符号の説明】
【0085】
1 オープンラック式気化器用アルミニウム合金製伝熱管(伝熱管)
10 本体部
11 第1フィン
12 第2フィン
2 犠牲陽極層
図1
図2