【実施例】
【0043】
以下において、本願発明の実施例について説明する。なお、この実施例は、本願発明の好ましい一実施態様を説明するためのものであって、これにより本願発明が制限されるものでない。
【0044】
(実施例1)
表1に示す伝熱管母材(以下、適宜、母材という)用の化学成分を有する合金A〜M(以下、適宜、母材合金という)について、直径φ231mmのアルミニウム合金ビレットをDC鋳造法で作製し、長さ700mmに切断後、旋盤で外径φ217.5mmまで外削し、内径φ60mmの穴明け加工を行い、中空ビレットを作製した。
【0045】
また別途、表2に示す犠牲陽極層用の合金AA〜AE(以下、適宜、犠牲陽極材という)の化学成分を有する外径φ230mm、内径φ218mmの管状材をそれぞれ熱間押出で作製し、長さ700mmに切断した。そして、表3の試験材1〜19に示す組み合わせで、管状材を中空ビレットに被せることで、クラッドビレットを作製した。
【0046】
【表1】
【0047】
【表2】
【0048】
各クラッドビレットを520℃に加熱して、マンドレル押出に供した。得ようとする押出材である伝熱管1の外面形状は、
図1に示すごとく、本体部10の外周側に180°離れて平板状に連ねる一対の第1フィン11と、その間に30°ピッチで並んだ10枚の第2フィン12を有している。それぞれのフィン先端の厚さは、第1フィン11の厚さT1が4.3mm、第2フィン12の厚さT2が3.2mmである。本体部10の外径をD、本体部10からの第1フィンの突出量をL1、第2フィンの突出量をL2とすると、D=40mm、L1=16mm、L2=14mmである。谷部の円弧形状の曲率半径は、第1フィン11と第2フィン12の間の曲率半径Raが4.0mm、第2フィン12同士の間の曲率半径Rbが4.7mmである。また、同図に示すごとく、伝熱管1の内面形状は、内周側に30°ピッチで高さ2.5mmの溝を計12本有し、内接円直径dはφ24mmである。そして、外周面全周には、フィン及び谷部を含めて全周が犠牲陽極層2により覆われている。
【0049】
外面形状はダイスで形成し、内面形状はマンドレル先端で形成するよう、間接押出機で押出機出側速度5m/minの熱間押出を行った。押出後は空冷を行うことで、試験材1〜19を得た。なお、試験材13〜19は、押出後に180℃で4時間の人工時効処理を行い、評価に供した。
【0050】
試験材1〜19について、それぞれ以下の方法で犠牲陽極層の厚さ測定、犠牲陽極層と母材の元素拡散層厚さ測定、母材の硬さ測定、耐久性評価を行った。
【0051】
<犠牲陽極層の厚さ測定>
試験材を長さ20mmに切断し、押出方向に垂直な面が観察面になるよう樹脂埋めし、耐水研磨紙で#1200まで研磨後、アルミナ水溶液によるバフ研磨を行い、ケラー氏液によるエッチングを行う。そして、フィン先端の最大犠牲陽極層厚さ(Tmax)の測定、およびフィン谷部の最小犠牲陽極層厚さ(Tmin)を測定した。
【0052】
<犠牲陽極層と母材の元素拡散厚さ測定>
上記犠牲陽極層厚さ測定と同じ樹脂埋め試験片を用い、バフ研磨まで行った状態で、ケラー氏液によるエッチングをせずに、EPMAで1000倍の倍率になるよう、元素マッピング像を測定する。このとき、測定元素はAl、Mn、Mg、Znとし、コントラストの変化する幅をマッピング像から読み取り、元素拡散厚さを測定した。
【0053】
<母材の硬さ測定>
上記犠牲陽極層厚さ測定と同じ樹脂埋め試験片を用い、バフ研磨まで行った状態で、ケラー氏液によるエッチングをせずに、伝熱管母材の任意の位置でビッカース試験機による硬さ測定を行った。このとき合格基準は、Al−Mn系の場合には25以上、Al−Mg系の場合には40以上、Al−Mg−Si系の場合には50以上とした。
【0054】
<耐久性評価>
試験材を長さ100mmに切断し、切断面および内面をビニール樹脂で被覆する。試験液として、純水1Lあたり30gのNaClと10mLのHClを含有する水溶液を試験片毎に2Lずつ作製する。各試験片を室温の試験液に浸漬し、24時間経過後、取出し、水洗して腐食状況を確認する。フィン谷部のクラッド層が残存していれば合格、クラッド層が一部でもなくなり、母材が露出していれば不合格と判定した。
【0055】
試験結果を表3に示す。表3にみられるように、試験材1〜19はいずれも犠牲陽極層の厚さが0.005mm以上、5mm以下、Tmax/Tminが4以上であり、元素拡散層厚さが2μm以上であり、母材硬さが合格基準以上で、耐久性評価も合格であった。なお、表3には、押出性も示したが、押出材に割れ等が生じることなく成形できた場合を良好とした。試験材1〜19はいずれも良好であった。
【0056】
【表3】
【0057】
(比較例1)
表1に示す化学成分を有する合金A、E、JおよびN〜Vについて、実施例1と同じ条件で中空ビレットを作製し、表2の合金ACおよび合金AF〜AIの組成を有する外径φ230mm、内径φ218mmの管状材を熱間押出で作製し、長さ700mmに切断して、表4の試験材20〜40に示す組合せで前記中空ビレットに被せることで、クラッドビレットを作製した。
【0058】
各クラッドビレットを実施例1に示す条件でマンドレル押出を行い、押出後は空冷を行うことで、試験材20〜40を得た。このとき、押出材(伝熱管1)の形状は実施例1と同じとし、試験材26〜28および試験材34、37、40は押出後に180℃で4時間の人工時効処理を行った。
【0059】
試験材20〜40について、それぞれ実施例1と同一条件で犠牲陽極層の厚さ測定、犠牲陽極層と母材の元素拡散層厚さ測定、母材の硬さ測定、耐久性評価を行った。試験結果を表4に示す。
【0060】
試験材20は母材のMn含有量が下限未満であったため、硬さが低かった。試験材21は母材のMn含有量が上限を超えたため、押出で内面割れが発生した。試験材22は母材のSi、Fe、Cu含有量がそれぞれ上限を超えたため、耐久性評価で母材が露出し、不合格となった。
【0061】
試験材23は母材のMgおよびCr含有量が下限未満であったため、硬さが低く、耐久性評価で母材が露出し、不合格となった。試験材24は母材のMg含有量が上限を超えたため、押出で内面割れが発生した。試験材25は母材のSi、Fe、Cr含有量が上限を超えたため、耐久性評価で母材が露出し、不合格となった。
【0062】
試験材26は母材のMg、Si含有量が下限未満のため、硬さが低かった。試験材27は母材のMg、Si含有量が上限を超えたため、押出で内面割れが発生した。試験材28は母材のFe含有量が上限を超えたため、耐久性評価で母材が露出し、不合格となった。試験材29〜31はそれぞれ犠牲陽極層のZn含有量が下限未満のため、耐久性評価で母材が露出し、不合格となった。
【0063】
試験材32〜34はそれぞれ犠牲陽極層のZn含有量が上限を超えているが、耐久性は合格しており、押出で割れも発生せず、押出性にも問題なかった。試験材35〜37はそれぞれ犠牲陽極層のFe含有量が下限未満のため、耐久性評価で母材が露出し、不合格となった。試験材38〜40はそれぞれ犠牲陽極層のFe含有量が上限を超えたため、押出で外面割れが発生した。
【0064】
【表4】
【0065】
(比較例2)
表1に示す化学成分を有する合金A、E、Jについて、実施例1と同じ条件で中空ビレットを作製し、表2の合金ACの組成を有する外径φ230mm、内径φ218mmの管状材を熱間押出で作製し、長さ700mmに切断して、前記中空ビレットに被せることで、クラッドビレットを作製した。
【0066】
各クラッドビレットを520℃に加熱して、マンドレル押出に供した。得ようとする押出材である伝熱管1の外面形状は、
図1に示すごとく、本体部10の外周側に180°離れて平板状に連ねる第1フィン11と、その間に30°ピッチで並んだ10枚の第2フィン12を有している。それぞれのフィン先端の厚さは、第1フィン11の厚さT1が3.1mm、第2フィンの厚さT2が2.0mmである。本体部10の外径をD、本体部10からの第1フィンの突出量をL1、第2フィンの突出量をL2とすると、D=28mm、L1=8mm、L2=6mmである。谷部の円弧形状の曲率半径は、第1フィン11と第2フィン12の間の曲率半径Raが2.2mm、第2フィン同士の間の曲率半径Rbが1.8mmである。また、伝熱管1の内面形状は、内周側に30°ピッチで高さ2mmの溝を計12本有し、内接円直径dはφ16mmである。そして、外周面全周には、フィン及び谷部を含めて全周が犠牲陽極層2により覆われている。
【0067】
それぞれ外面形状はダイス、内面形状はマンドレル先端で形成するよう、間接押出機で押出機出側速度5m/minの熱間押出を行い、押出後は空冷を行うことで、試験材41〜43を得た。なお、試験材43は押出後に180℃で4時間の人工時効処理を行い、評価に供した。
【0068】
試験材41〜43について、それぞれ実施例1と同一条件で犠牲陽極層の厚さ測定、犠牲陽極層と母材の元素拡散層厚さ測定、母材の硬さ測定、耐久性評価を行った。試験結果を表4に示す。
【0069】
試験材41〜43はいずれもTmax/Tminが下限未満のため、耐久性評価で母材が露出し、不合格となった。
【0070】
(実施例2)
表1に示す化学成分を有する合金A、E、Jについて、実施例1と同じ条件で中空ビレットを作製し、表2の合金ACの組成を有する外径φ230mm、内径φ218mmの管状材を熱間押出で作製し、長さ700mmに切断して、前記中空ビレットに被せることで、クラッドビレットを作製した。
【0071】
各クラッドビレットを、表5に示す試験材44〜49の条件でマンドレル押出を行い、押出後は空冷を行うことで、試験材44〜49を得た。このとき、押出材の形状は実施例1と同じとし、試験材48〜49は押出後に180℃で4時間の人工時効処理を行った。
【0072】
試験材44〜49について、それぞれ実施例1と同一条件で犠牲陽極層の厚さ測定、犠牲陽極層と母材の元素拡散層厚さ測定、母材の硬さ測定、耐久性評価を行った。試験結果を表6に示す。
【0073】
表6にみられるように、合金44〜49はいずれも犠牲陽極層の厚さが0.005mm以上、5mm以下、Tmax/Tminが4以上であり、元素拡散層厚さが2μm以上であり、母材硬さが合格基準以上で、耐久性評価も合格であり、押出性も良好であった。
【0074】
【表5】
【0075】
【表6】
【0076】
(比較例3)
表1に示す化学成分を有する合金A、E、Jについて、実施例1と同じ条件で中空ビレットを作製し、表2の合金ACの組成を有する外径φ230mm、内径φ218mmの管状材を熱間押出で作製し、長さ700mmに切断して、前記中空ビレットに被せることで、クラッドビレットを作製した。
【0077】
各クラッドビレットを、表5に示す試験材50〜58の条件でマンドレル押出を行い、押出後は空冷を行うことで、試験材50〜58を得た。このとき、押出材の形状は実施例1と同じとし、試験材56〜58は押出後に180℃で4時間の人工時効処理を行った。
【0078】
試験材50〜58について、それぞれ実施例1と同一条件で犠牲陽極層の厚さ測定、犠牲陽極層と母材の元素拡散層厚さ測定、母材の硬さ測定、耐久性評価を行った。試験結果を表6に示す。
【0079】
試験材50、53、56はいずれもビレット温度が下限未満のため、元素拡散層の厚さが下限未満になり、耐久性評価で母材が露出し、不合格となった。試験材51、54、57はいずれもビレット温度が上限を超えたため、押出で内面割れが発生した。試験材52、55、58はいずれも押出機出側の速度が上限を超えたため、押出で内面割れが発生した。
【0080】
(実施例3)
図2を用いて、上述した伝熱管1を備えたオープンラック式気化器5の基本構成について簡単に説明する。同図に示すごとく、オープンラック式気化器5は、伝熱管1を多数平行に配列する共に、第1フィン11を平面状に連ねて構成した熱交換パネル51を有している。熱交換パネル51の上下には、上部ヘッダー52及び下部ヘッダー53が設けられ、それぞれ、各伝熱管1に連通している。このような熱交換パネル51及び上部ヘッダー52及び下部ヘッダー53を組み合わせたパネルユニットが、多数所定間隔を空けて並列に配置され、すべての上部ヘッダー52及び下部ヘッダー53は、それぞれ上部マニホールド525及び下部マニホールド535に接続される。
【0081】
各熱交換パネル51の間には、熱交換パネル51の表面に沿って流下させる海水6を供給するためのトラフ56が配置されている。トラフ56には、海水供給管57が接続されている。
【0082】
そして、上記オープンラック式気化器5においては、液体であるLNGが、下部マニホールド535を経て下部ヘッダー53に供給され、伝熱管1内を上昇中に、熱交換パネル51の外面を流下する海水6との熱交換により気化し、気体であるNGとして上部ヘッダー52から上部マニホールド525へと導かれる。
【0083】
このような構成及び機能を有するオープンラック式気化器5に、上述した伝熱管1を用いることにより、従来よりも、伝熱管1の寿命が長くなり、補修にかかる工数の低減を図ることができる。
【0084】
なお、本発明は上記の実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の実施形態に変更することが可能である。