(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記有機発光層で発光された光は、直接前記陰極から射出される第1光束と、前記陽極と前記陰極間で反射した後、前記陰極から射出される第2光束とを含み、前記第1光束と前記第2光束が共振するように、前記透明導電膜の膜厚が、当該発光する発光色の波長に応じて設定されている
ことを特徴とする請求項6に記載の有機EL素子。
前記陽極と前記陰極との間に、2つ以上の有機発光層が形成され、その各有機発光層間に電荷発生層が形成されると共に、少なくとも一つの有機発光層と前記電荷発生層との間に前記電荷発生層に接して前記機能層が形成され、前記電荷発生層が金属酸化物からなる
ことを特徴とする請求項1に記載の有機EL素子。
前記第3工程と第4工程との間に、前記機能層上に、無機酸化物からなる透明導電膜を形成する透明導電膜形成工程を含み、前記透明導電膜形成工程が、前記酸化工程を兼ねている
ことを特徴とする請求項16に記載の有機EL素子の製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0013】
≪本開示の一態様に至った経緯≫
上述のように特許文献1には、陰極から有機発光層への電子の移動を容易にするために、有機材料に低仕事関数のアルカリ金属類をドープした電子輸送層を形成して、これにより良好なキャリアバランスを維持して有機発光層における発光効率を良好にすると共に、電子輸送層と有機発光層との間に、アルカリ金属のフッ化物からなる中間層を設けて、下層の有機層からの水分によるアルカリ金属類の劣化を防止して、長寿命化を図る構成が開示されている。
【0014】
ところが、近年では、生産性や材料の使用効率の観点から、できるだけウエットプロセス(湿式法)により有機EL素子の各有機層を形成する傾向にあり、そうすると有機層内に残留する水分の量も多くなるので、水分をブロックする役割を担う中間層の膜厚を大きくする必要がある。中間層を形成するアルカリ金属のフッ化物は、還元によって部分的にアルカリ金属(例えば、Na)に解離し、電子注入性を得ることができる。一般的に、このような還元作用は、中間層の上層に他のアルカリ金属類で還元性の強い材料を積層することで発現するが、中間層の膜厚を大きくすると、上層の還元作用が中間層の特に下層部で小さくなるため、駆動電圧が高くなり、発光効率の向上の目的が十分達成できない。
【0015】
また、特許文献1のように中間層の上層に有機材料中にアルカリ金属類をドープした材料を積層する場合にはアルカリ金属類のみの積層よりも還元性が低下する為に、中間層の膜厚を大きくすると、駆動電圧の増加が一層大きくなり、発光効率の向上の目的が十分達成できないことがある。
一方、陰極の上方には、通常、封止層が形成されるが、それでも水分が電子輸送層への上層から電子輸送層内に浸入するおそれが皆無であるとは言い切れない。
【0016】
そこで、本願の発明者は、電子輸送層におけるアルカリ金属類の代わりに、希土類金属を使用することに思い至った。希土類金属は、アルカリ金属類と同程度に仕事関数が低いが、アルカリ金属類よりは水分との反応性が小さいので、長寿命化が期待できるからである。
また、発光効率を向上させるためには、まず、第1に、有機発光層で発光した光束ができるだけ多く、有機EL素子外に射出されるようにしなければならない。そのためには、有機発光層から陰極に至るまでの各層の光透過率(以下、単に「透過率」という。)が高いことが望ましい。
【0017】
第2に、駆動電圧(陰極と陽極に一定電流値を印加した時の電圧)ができるだけ低いことが望ましい。発光効率は、供給した単位電力当りの発光量と定義できるからである。
上記の方針に基づき、本願発明者は、ウエットプロセスを採用して低コスト化を図りつつ、発光効率を向上し、かつ長寿命化が可能な構成を求めて鋭意研究した結果、本開示の一態様に至ったものである。
【0018】
≪本開示の一態様の概要≫
本開示の一態様に係る有機EL素子は、陽極と、前記陽極の上方に配された有機発光層と、前記有機発光層上に配され、希土類金属と、他の材料とが混在されて存在し、かつ、前記希土類金属の一部が酸化されてなる機能層と、前記機能層の上方に配された陰極と、を備える。
【0019】
係る態様により、良好な発光効率を確保すると共に、長寿命化が可能な有機EL素子を提供できる。
ここで、前記他の材料は、アルカリ金属またはアルカリ土類金属から選択された金属のフッ化物であることが望ましい。
また、本開示の別の態様に係る有機EL素子は、前記アルカリ金属またはアルカリ土類金属から選択された金属のフッ化物と希土類金属との総量に対する希土類金属の含有量は、73wt%より多く、100wt%未満である。
【0020】
係る態様により、金属のフッ化物を希土類金属で部分的に還元させることで効率的に機能層の透明率の向上を確保しつつ、駆動電圧を低減することができる。
また、本開示の別の態様に係る有機EL素子は、前記アルカリ金属またはアルカリ土類金属から選択された金属は、Naであり、前記希土類金属は、Ybである。
このような金属の選択により、より発光効率の向上が望める。
【0021】
また、前記機能層は、前記有機発光層に接して形成されているのが望ましい。
これにより、有機発光層からの水分の浸入を防止すると共に、陰極から有機発光層への電子注入を確実に行える。
また、本開示の別の態様に係る有機EL素子は、前記機能層と前記陰極との間に、前記機能層に接して無機酸化物を含む透明導電膜が形成されている。
【0022】
係る態様により、光共振器構造のための膜厚の調整が容易になると共に、製造工程で機能層における第2の金属を酸化することになるので工数が削減できてコスト低減に繋がる。
また、本開示の別の態様に係る有機EL素子は、前記透明導電膜は、ITO膜もしくはIZO膜である。
【0023】
ITO膜もしくはIZO膜は透明性と導電性に優れ、発光効率の向上に貢献する。
また、本開示の別の態様に係る有機EL素子は、前記陽極は、光反射性を有すると共に、前記陰極は、半透過性を有する。
ここで、前記有機発光層で発光された光は、直接前記陰極から射出される第1光束と、前記陽極と前記陰極間で反射した後、前記陰極から射出される第2光束とを含み、前記第1光束と前記第2光束が共振するように、前記透明導電膜の膜厚が、当該発光する発光色の波長に応じて設定されている。
【0024】
これにより、高次の光共振器構造の構築が可能になり発光効率がさらに向上する。
また、前記機能層と前記陰極との間に、電子輸送層が形成されているとしてもよい。
これにより、陰極から有機発光層への電子注入・輸送性をより増すますことができる。
また、前記他の材料を、有機材料としてもよい。
これにより、材料の選択の自由度が増し、設計の多様性が期待できる。
【0025】
また、前記他の材料を、酸化物としてもよい。
これにより、酸化物を希土類金属と混在させて機能層を形成する際に、同時に一部の希土類金属を酸化が可能となり生産性が増す。
また、本開示の別の態様に係る有機EL素子は、前記陽極と前記陰極との間に、2つ以上の有機発光層が形成され、その各有機発光層間に電荷発生層が形成されると共に、少なくとも一つの有機発光層と前記電荷発生層との間に前記電荷発生層に接して前記機能層が形成され、前記電荷発生層が金属酸化物からなる。
【0026】
これにより、有機EL素子をタンデム型の構成とした場合において、さらに発光効率を増すことができる。
ここで、前記金属酸化物は、Moの酸化物であるとしてもよい。
また、本開示の別の態様に係る有機ELパネルは、基板上方に、上記の有機EL素子を複数、行列状に配列し、少なくとも行方向に隣接する有機EL素子における有機発光層は、列方向に延在する隔壁によって仕切られている。
【0027】
これにより、発光効率に優れ、長寿命化が可能な有機ELパネルを提供することができる。
また、本開示の別の態様に係る有機ELパネルは、トップエミッション型である。
トップエミッション型の有機ELパネルでは、光を射出する方向に、TFTなどからなる駆動回路が配されていないので、各有機EL素子の開口率を大きくでき、発光効率に優れる。
【0028】
また、本開示の別の態様に係る有機EL表示装置は、上記態様に係る有機ELパネルと、前記有機ELパネルを駆動して画像を表示させる駆動部とを備える。
また、本開示の別の態様に係る電子機器は、上記態様において、画像表示部として上記有機EL表示装置を備える。
係る有機EL表示装置および電子機器は、表示パネルの発光効率に優れ、寿命も長くすることができる。
【0029】
また、本開示の別態様に係る有機ELパネルの製造方法は、陽極を形成する第1工程と、前記陽極の上方に有機発光層を形成する第2工程と、前記有機発光層上に、希土類金属と、他の材料とが混在されて存在し、かつ、前記希土類金属の一部が酸化されてなる機能層を形成する第3工程と、前記機能層の上方に、陰極を形成する第4工程と、を含む。
係る態様により、上述のように発光効率に優れた良質な画像を表示できる有機EL素子の製造が可能となる。
【0030】
ここで、前記他の材料は、アルカリ金属またはアルカリ土類金属から選択された金属のフッ化物である。
また、前記第3工程は、前記有機発光層上に、前記希土類金属と前記他の材料を共蒸着する蒸着工程と、前記共蒸着された希土類金属の一部を酸化させる酸化工程とを含む。
これにより機能層の透明率を向上させることができる。
【0031】
本開示の別態様に係る有機ELパネルの製造方法は、前記第3工程と第4工程との間に、前記機能層上に、無機酸化物からなる透明導電膜を形成する透明導電膜形成工程を含み、前記透明導電膜形成工程が、前記酸化工程を兼ねている。
これにより製造コストが低減化される。
また、本開示の別態様に係る有機ELパネルの製造方法は、前記透明導電膜形成工程は、スパッタリング法によって実施される。
【0032】
これにより、機能層における希土類金属の酸化を効率的に行える。
なお、上記各開示の態様において「上」とは、絶対的な空間認識における上方向(鉛直上方)を指すものではなく、有機EL素子の積層構造における積層順を基に、相対的な位置関係により規定されるものである。具体的には、有機EL素子において、基板の主面に垂直な方向であって、基板から積層物側に向かう側を上方向とする。また、例えば「基板上」と表現した場合は、基板に直接接する領域のみを指すのではなく、積層物を介した基板の上方の領域も含めるものとする。また、例えば「基板の上方」と表現した場合、基板と間隔を空けた上方領域のみを指すのではなく、基板上の領域も含めるものとする。
【0033】
≪実施の形態≫
以下、本開示の一態様に係る有機EL素子および有機ELパネル、有機EL表示装置について、図面を参照しながら説明する。なお、図面は、模式的なものを含んでおり、各部材の縮尺や縦横の比率などが実際とは異なる場合がある。
1.有機EL表示装置1の全体構成
図1は、有機EL表示装置1の全体構成を示すブロック図である。有機EL表示装置1は、例えば、テレビ、パーソナルコンピュータ、携帯端末、業務用ディスプレイ(電子看板、商業施設用大型スクリーン)などに用いられる表示装置である。
【0034】
有機EL表示装置1は、有機ELパネル10と、これに電気的に接続された駆動制御部200とを備える。
有機ELパネル10は、本実施の形態では、上面が長方形状の画像表示面であるトップエミッション型の表示パネルである。有機ELパネル10では、画像表示面に沿って複数の有機EL素子(不図示)が配列され、各有機EL素子の発光を組み合わせて画像を表示する。なお、有機ELパネル10は、一例として、アクティブマトリクス方式を採用している。
【0035】
駆動制御部200は、有機ELパネル10に接続された駆動回路210と、計算機などの外部装置又はアンテナなどの受信装置に接続された制御回路220とを有する。駆動回路210は、各有機EL素子に電力を供給する電源回路、各有機EL素子への供給電力を制御する電圧信号を印加する信号回路、一定の間隔ごとに電圧信号を印加する箇所を切り替える走査回路などを有する。
【0036】
制御回路220は、外部装置や受信装置から入力された画像情報を含むデータに応じて、駆動回路210の動作を制御する。
なお、
図1では、一例として、駆動回路210が有機ELパネル10の周囲に4つ配置されているが、駆動制御部200の構成はこれに限定されるものではなく、駆動回路210の数や位置は適宜変更可能である。また、以下では説明のため、
図1に示すように、有機ELパネル10上面の長辺に沿った方向をX方向、有機ELパネル10上面の短辺に沿った方向をY方向とする。
【0037】
2.有機ELパネル10の構成
(A)平面構成
図2は、有機ELパネル10の画像表示面の一部を拡大した模式平面図である。有機ELパネル10では、一例として、R(赤色)、G(緑色)、B(青色)(以下、単にR、G、Bともいう。)にそれぞれ発光する副画素100R、100G、100Bが行列状に配列されている。副画素100R、100G、100Bは、X方向に交互に並び、X方向に並ぶ一組の副画素100R、100G、100Bが、一つの画素Pを構成している。画素Pでは、階調制御された副画素100R、100G、100Bの発光輝度を組み合わせることにより、フルカラーを表現することが可能である。
【0038】
また、Y方向においては、副画素100R、副画素100G、副画素100Bのいずれかのみが並ぶことでそれぞれ副画素列CR、副画素列CG、副画素列CBが構成されている。これにより、有機ELパネル10全体として画素Pが、X方向及びY方向に沿った行列状に並び、この行列状に並ぶ画素Pの発色を組み合わせることにより、画像表示面に画像が表示される。
【0039】
副画素100R、100G、100Bには、それぞれR、G、Bの色に発光する有機EL素子2(R)、2(G)、2(B)(
図3参照)が配置されている。
また、本実施の形態に係る有機ELパネル10では、いわゆるラインバンク方式を採用している。すなわち、副画素列CR、CG、CBを1列ごとに仕切る隔壁(バンク)14がX方向に間隔をおいて複数配置され、各副画素列CR、CG、CBでは、副画素100R、100G、100Bが、有機発光層を共有している。
【0040】
ただし、各副画素列CR、CG、CBでは、副画素100R、100G、100B同士を絶縁する画素規制層141がY方向に間隔をおいて複数配置され、各副画素100R、100G、100Bは、独立して発光することができるようになっている。
なお、画素規制層141の高さは、有機発光層のインク塗布時における液面の高さよりも低い。
図2では、隔壁14及び画素規制層141は点線で表されているが、これは、画素規制層141及び隔壁14が、画像表示面の表面に露出しておらず、画像表示面の内部に配置されているからである。
【0041】
(B)断面構成
図3は、
図2のA−A線に沿った模式断面図である。
有機ELパネル10において、一つの画素は、R、G、Bをそれぞれ発光する3つの副画素からなり、各副画素は、対応する色を発光する有機EL素子2(R)、2(G)、2(B)で構成される。
【0042】
各発光色の有機EL素子2(R)、2(G)、2(B)は、基本的には、ほぼ同様の構成を有するので、区別しないときは、有機EL素子2として説明する。
図3に示すように、有機EL素子2は、基板11、層間絶縁層12、画素電極(陽極)13、隔壁14、正孔注入層15、正孔輸送層16、有機発光層17、機能層18、IZO膜19、対向電極(陰極)20、および、封止層21とからなる。
【0043】
基板11、層間絶縁層12、機能層18、IZO膜19、対向電極20、および、封止層21は、画素ごとに形成されているのではなく、有機ELパネル10が備える複数の有機EL素子2に共通して形成されている。
(1)基板
基板11は、絶縁材料である基材111と、TFT(Thin Film Transistor)層112とを含む。TFT層112には、副画素ごとに駆動回路が形成されている。基材111は、例えば、ガラス基板、石英基板、シリコン基板、硫化モリブデン、銅、亜鉛、アルミニウム、ステンレス、マグネシウム、鉄、ニッケル、金、銀などの金属基板、ガリウム砒素などの半導体基板、プラスチック基板等を採用することができる。
【0044】
プラスチック材料としては、熱可塑性樹脂、熱硬化樹脂いずれの樹脂を用いてもよい。例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリアミド、ポリイミド(PI)、ポリカーボネート、アクリル系樹脂、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート、ポリアセタール、その他フッ素系樹脂、スチレン系、ポリオレフィン系、ポリ塩化ビニル系、ポリウレタン系、フッ素ゴム系、塩素化ポリエチレン系等の各種熱可塑性エラストマー、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル、シリコーン樹脂、ポリウレタン等、またはこれらを主とする共重合体、ブレンド体、ポリマーアロイ等が挙げられ、これらのうち1種、または2種以上を積層した積層体を用いることができる。
【0045】
(2)層間絶縁層
層間絶縁層12は、基板11上に形成されている。層間絶縁層12は、樹脂材料からなり、TFT層112の上面の段差を平坦化するためのものである。樹脂材料としては、例えば、ポジ型の感光性材料が挙げられる。また、このような感光性材料として、アクリル系樹脂、ポリイミド系樹脂、シロキサン系樹脂、フェノール系樹脂が挙げられる。また、
図3の断面図には示されていないが、層間絶縁層12には、副画素ごとにコンタクトホールが形成されている。
【0046】
(3)画素電極
画素電極13は、光反射性の金属材料からなる金属層を含み、層間絶縁層12上に形成されている。画素電極13は、副画素ごとに設けられ、コンタクトホール(不図示)を通じてTFT層112と電気的に接続されている。
本実施の形態においては、画素電極13は、陽極として機能する。
【0047】
光反射性を具備する金属材料の具体例としては、Ag(銀)、Al(アルミニウム)、アルミニウム合金、Mo(モリブデン)、APC(銀、パラジウム、銅の合金)、ARA(銀、ルビジウム、金の合金)、MoCr(モリブデンとクロムの合金)、MoW(モリブデンとタングステンの合金)、NiCr(ニッケルとクロムの合金)などが挙げられる。
【0048】
画素電極13は、金属層単独で構成してもよいが、金属層の上に、ITO(酸化インジウム錫)やIZO(酸化インジウム亜鉛)のような金属酸化物からなる層を積層した積層構造としてもよい。
(4)隔壁・画素規制層
隔壁14は、基板11の上方に副画素ごとに配置された複数の画素電極13を、X方向(
図2参照)において列毎に仕切るものであって、X方向に並ぶ副画素列CR、CG、CBの間においてY方向に延伸するラインバンク形状である。
【0049】
この隔壁14には、電気絶縁性材料が用いられる。電気絶縁性材料の具体例として、例えば、絶縁性の有機材料(例えば、アクリル系樹脂、ポリイミド系樹脂、ノボラック樹脂、フェノール樹脂等)が用いられる。
隔壁14は、有機発光層17を塗布法で形成する場合に塗布された各色のインクが溢れて混色しないようにするための構造物として機能する。
【0050】
なお、樹脂材料を用いる際は、加工性の点から感光性を有することが好ましい。当該感光性は、ポジ型、ネガ型のいずれであってもよい。
隔壁14は、有機溶媒や熱に対する耐性を有することが好ましい。また、インクの流出を抑制するために、隔壁14の表面は所定の撥液性を有することが好ましい。
画素電極13が形成されていない部分において、隔壁14の底面が層間絶縁層12の上面と接している。
【0051】
画素規制層141は、電気絶縁性材料からなり、各副画素列においてY方向(
図2)に隣接する画素電極13の端部を覆い、当該Y方向に隣接する画素電極13同士を仕切っている。
画素規制層141の膜厚は、画素電極13の膜厚よりも若干大きいが、有機発光層17の上面までの厚みよりも小さくなるように設定されている。これにより、各副画素列CR、CG、CBにおける有機発光層17は、画素規制層141によっては仕切られず、有機発光層17を形成する際のインクの流動が妨げられない。そのため、各副画素列における有機発光層17の厚みを均一に揃えることを容易にする。
【0052】
画素規制層141は、上記構造により、Y方向に隣接する画素電極13の電気絶縁性を向上しつつ、各副画素列CR、CG、CBにおける有機発光層17の段切れ抑制、画素電極13と対向電極20との間の電気絶縁性の向上などの役割を有する。
画素規制層141に用いられる電気絶縁性材料の具体例としては、上記隔壁14の材料として例示した樹脂材料や無機材料などが挙げられる。また、上層となる有機発光層17を形成する際、インクが濡れ広がりやすいように、画素規制層141の表面はインクに対する親液性を有することが好ましい。
【0053】
(5)正孔注入層
正孔注入層15は、画素電極13から有機発光層17への正孔の注入を促進させる目的で、画素電極13上に設けられている。正孔注入層15は、例えば、Ag(銀)、Mo(モリブデン)、Cr(クロム)、V(バナジウム)、W(タングステン)、Ni(ニッケル)、Ir(イリジウム)などの酸化物、あるいは、PEDOT(ポリチオフェンとポリスチレンスルホン酸との混合物)などの導電性ポリマー材料からなる層である。例えばスパッタプロセスやウエットプロセスにより形成しても良い。また、例えば、Ag(銀)、Mo(モリブデン)、Cr(クロム)、V(バナジウム)、W(タングステン)、Ni(ニッケル)、Ir(イリジウム)などの酸化物上にPEDOT(ポリチオフェンとポリスチレンスルホン酸との混合物)などの導電性ポリマー材料を積層しても良い。
【0054】
上記のうち、酸化金属からなる正孔注入層15は、正孔を安定的に、または、正孔の生成を補助して、有機発光層17に対し正孔を注入する機能を有し、大きな仕事関数を有する。
(6)正孔輸送層
正孔輸送層16は、正孔注入層15から注入された正孔を有機発光層17へ輸送する機能を有する。正孔輸送層16は、例えば、ポリフルオレンやその誘導体、あるいは、ポリアリールアミンやその誘導体などの高分子化合物であって、親水基を備えないものなどを用いてウエットプロセスにより形成される。
【0055】
(7)有機発光層
有機発光層17は、開口部14a内に形成されており、正孔と電子の再結合により、R、G、Bの各色の光を発光する機能を有する。なお、特に、発光色を特定して説明する必要があるときには、有機発光層17(R)、17(G)、17(B)と記す。
有機発光層17の材料としては、公知の材料を利用することができる。具体的には、例えば、オキシノイド化合物、ペリレン化合物、クマリン化合物、アザクマリン化合物、オキサゾール化合物、オキサジアゾール化合物、ペリノン化合物、ピロロピロール化合物、ナフタレン化合物、アントラセン化合物、フルオレン化合物、フルオランテン化合物、テトラセン化合物、ピレン化合物、コロネン化合物、キノロン化合物及びアザキノロン化合物、ピラゾリン誘導体及びピラゾロン誘導体、ローダミン化合物、クリセン化合物、フェナントレン化合物、シクロペンタジエン化合物、スチルベン化合物、ジフェニルキノン化合物、スチリル化合物、ブタジエン化合物、ジシアノメチレンピラン化合物、ジシアノメチレンチオピラン化合物、フルオレセイン化合物、ピリリウム化合物、チアピリリウム化合物、セレナピリリウム化合物、テルロピリリウム化合物、芳香族アルダジエン化合物、オリゴフェニレン化合物、チオキサンテン化合物、シアニン化合物、アクリジン化合物、8−ヒドロキシキノリン化合物の金属錯体、2−ビピリジン化合物の金属錯体、シッフ塩とIII族金属との錯体、オキシン金属錯体、希土類錯体などの蛍光物質で形成されることが好ましい。
【0056】
(8)機能層
機能層18は、対向電極20から供給される電子を有機発光層17側へと注入・輸送する機能を有する。
機能層18は、アルカリ金属類のフッ化物と、希土類金属の混合物からなり、一部の希土類金属が酸化された状態で存在する。
【0057】
アルカリ金属類のフッ化物は、水分の透過性が低く防水性を有する。また、希土類金属は、低仕事関数の金属であり電子注入性に優れると共に水分との反応性が低く、さらには、その酸化物は透明性が高いという特性を有する。
したがって、それらの混合物からなる機能層18は、防水性を有すると共に、良好な電子注入性と透明性を併せて有することになり、その結果、発光効率の大幅な向上が望める。
【0058】
また、希土類金属のうちでもYbなどの還元性が強い金属は、アルカリ金属類のフッ化物を還元してアルカリ金属類を解離させる効果があり、これにより電子輸送性がさらに向上するという効果が得られる。
本実施の形態では、アルカリ金属類のフッ化物として、NaF(フッ化ナトリウム)、希土類金属としてYb(イッテルビウム)を採用している。
【0059】
(9)IZO膜
IZO膜19は、透明導電膜であって、対向電極20と合わせて2層構造の陰極として作用すると共に、その形成時において、上記機能層18におけるYbの一部を酸化する役目を担っている。
なお、IZO膜は光透過性に優れているので、その膜厚を調整することにより、有機発光層17から対向電極20までの距離を調整して、高次の光共振器の構築に寄与することも可能である。詳しくは後述する。
【0060】
(10)対向電極
対向電極20は、IZO膜19上に形成され、陰極として機能する。
本実施の形態に係る有機ELパネル10は、トップエミッション型であるため、対向電極20は、光透過性と導電性を兼ね備える必要がある。本実施の形態では、光共振器構造をより効果的に得るために、対向電極20の材料として、銀、銀合金、アルミニウム、アルミニウム合金等の金属薄膜を用いる。膜厚は、5nm〜50nmが望ましい。
【0061】
(11)封止層
封止層21は、正孔輸送層16、有機発光層17、IZO膜19などの有機層が水分に晒されたり、空気に晒されたりして劣化するのを防止するために設けられるものである。
封止層21は、例えば、窒化シリコン(SiN)、酸窒化シリコン(SiON)などの透光性材料を用いて形成される。
【0062】
(12)その他
図3には示されてないが、封止層21上に透明な接着剤を介して防眩用の偏光板や上部基板を貼り合せてもよい。また、各有機EL素子2により発光される光の色度を補正するためのカラーフィルターを貼り合わせてもよい。これらにより、正孔輸送層16、有機発光層17、機能層18などを外部の水分および空気などからさらに保護できる。
【0063】
3.有機ELパネル10の製造方法
以下、有機ELパネル10の製造方法について、図面を用いて説明する。
図4(a)〜(f)、
図5(a)〜(d)および
図7(a)〜(d)は、有機ELパネル10の製造における各工程での状態を示す模式断面図である。また、
図8は、有機ELパネル10の製造工程を示すフローチャートである。
【0064】
(1)基板準備工程
まず、
図4(a)に示すように、基材111上にTFT層112を成膜して基板11を準備する(
図8のステップS1)。TFT層112は、公知のTFTの製造方法により成膜することができる。
(2)層間絶縁層形成工程
次に、
図4(b)に示すように、基板11上に、層間絶縁層12を形成する(
図8のステップS2)。
【0065】
具体的には、一定の流動性を有する樹脂材料を、例えば、ダイコート法により、基板11の上面に沿って、TFT層112による基板11上の凹凸を埋めるように塗布する。これにより、層間絶縁層12の上面は、基材111の上面に沿って平坦化した形状となる。
また、層間絶縁層12における、TFT素子の例えばソース電極上の個所にドライエッチング法を行い、コンタクトホール(不図示)を形成する。コンタクトホールは、その底部にソース電極の表面が露出するようにパターニングなどを用いて形成される。
【0066】
次に、コンタクトホールの内壁に沿って接続電極層を形成する。接続電極層の上部は、その一部が層間絶縁層12上に配される。接続電極層の形成は、例えば、スパッタリング法を用いることができ、金属膜を成膜した後、フォトリソグラフィ法およびウエットエッチング法を用いてパターニングすればよい。
(3)画素電極・正孔注入層の形成工程
次に、
図4(c)に示すように、層間絶縁層12上に画素電極材料層130を形成する。画素電極材料層130は、例えば、真空蒸着法、スパッタリング法などを用いて形成することができる。
【0067】
さらに、画素電極材料層130上に正孔注入材料層150を形成する(
図4(d))。正孔注入材料層150は、例えば、反応性スパッタ法などを用いて形成することができる。
そして、
図4(e)に示すように、画素電極材料層130と正孔注入材料層150とをエッチングによりパターニングして、副画素ごとに区画された複数の画素電極13と正孔注入層15とを形成する(
図8のステップS3)。
【0068】
なお、画素電極13、正孔注入層15の形成方法は上述の方法に限られず、例えば、画素電極材料層130をパターニングして画素電極13を形成してから、正孔注入層15を形成してもよい。
また、隔壁14を形成してから、正孔注入層15をウエットプロセスによって形成するようにしてもよい。
【0069】
(4)隔壁・画素規制層形成工程
次に、隔壁14および画素規制層141を形成する(
図8のステップS4)。
本実施の形態では、画素規制層141と隔壁14を別工程で形成するようにしている。
(4−1)画素規制層形成
まず、Y方向(
図2)における画素電極列を副画素毎に仕切るため、X方向に伸びる画素規制層141を形成する。
【0070】
図5(a)に示すように、画素電極13、正孔注入層15が形成された層間絶縁層12上に、画素規制層141の材料となる感光性の樹脂材料を一様に塗布して、形成すべき画素規制層141の高さと等しい膜厚の画素規制層材料層1410を形成する。
具体的な塗布方法として、例えばダイコート法やスリットコート法、スピンコート法などのウエットプロセスを用いることができる。塗布後には、例えば、真空乾燥及び60℃〜120℃程度の低温加熱乾燥(プリベーク)などを行って不要な溶媒を除去するとともに、画素規制層材料層1410を層間絶縁層12に定着させることが好ましい。
【0071】
そして、フォトリソグラフィ法を用いて、画素規制層材料層1410をパターニングする。
例えば、画素規制層材料層1410がポジ型の感光性を有する場合は、画素規制層141として残す箇所を遮光し、除去する部分が透明なフォトマスク(不図示)を介して画素規制層材料層1410を露光する。
【0072】
次に、現像を行い、画素規制層材料層1410の露光領域を除去することにより、画素規制層141を形成することができる。具体的な現像方法としては、例えば、基板11全体を、画素規制層材料層1410の露光により感光した部分を溶解させる有機溶媒やアルカリ液などの現像液に浸した後、純水などのリンス液で基板11を洗浄すればよい。
その後、所定温度で焼成(ポストベーク)することにより、層間絶縁層12上に、X方向に延伸する画素規制層141を形成することができる(
図5(b))。
【0073】
(4−2)隔壁形成
次に、Y方向に伸びる隔壁14を上記画素規制層141と同様にして形成する。
すなわち、上記画素電極13、正孔注入層15、画素規制層141が形成された層間絶縁層12上に、隔壁用の樹脂材料を、ダイコート法などを用いて塗布して、形成すべき隔壁14の高さと等しい膜厚の隔壁材料層140を形成し(
図5(c))、フォトリソグラフィ法により隔壁材料層140にY方向に延在する隔壁14をパターニングした後、所定の温度で焼成して隔壁14を形成する(
図5(d))。
【0074】
なお、上記では、画素規制層141と隔壁14のそれぞれの材料層をウエットプロセスで形成した後にパターニングするようにしたが、いずれか一方または双方の材料層をドライプロセスで形成して、フォトリソグラフィ法とエッチング法により、パターニングするようにしてもよい。
(5)正孔輸送層形成工程
次に、
図5(c)に示すように、隔壁14が規定する開口部14aに対し、正孔輸送層16の構成材料を含むインクを、印刷装置の塗布ヘッド301のノズル3011から吐出して開口部14a内の正孔注入層15上に塗布する。この際、正孔輸送層16のインクは、画素電極列の上方においてY方向(
図2)に沿って延伸するように塗布される。その後、乾燥させて、正孔輸送層16を形成する(
図8のステップS5)。
【0075】
(6)有機発光層形成工程
次に、上記正孔輸送層16の上方に、有機発光層17を形成する(
図8のステップS6)。
具体的には、
図8(d)に示すように、各開口部14aに対応する発光色の発光材料を含むインクを、印刷装置の塗布ヘッド301のノズル3011から順次吐出して開口部14a内の正孔輸送層16上に塗布する。この際、インクを画素規制層141の上方においても連続するように塗布する。これにより、Y方向に沿ってインクが流動可能となり、インクの塗布むらを低減して、同一の副画素列における有機発光層17の膜厚を均一化することが可能となる。
【0076】
そして、インク塗布後の基板11を真空乾燥室内に搬入して真空環境下で加熱することにより、インク中の有機溶媒を蒸発させる。これにより、有機発光層17を形成できる。
(7)機能層形成工程(機能層前駆体形成工程)
次に、
図7(a)に示すように、有機発光層17および隔壁14上に、機能層前駆体181を形成する(
図8のステップS7)。機能層前駆体181は、一定の割合のNaFとYbを共蒸着法により成膜することにより形成される。
【0077】
(8)IZO膜形成工程
次に、機能層前駆体181上にIZO膜19を形成する(
図7(b)、
図8のステップS8)。IZO膜19は、IZOをスパッタリングすることにより形成される。
なお、このスパッタリングの実施の際にIZOの微粒子が機能層前駆体181の表面から侵食し、これにより機能層前駆体181中のIZO膜19側の一部のYbが一定の厚みで層状に酸化して最終的に機能層18が完成する。
【0078】
なお、IZO膜19の膜厚は、15nm以上が望ましく、後述の光共振器構造を構築する場合には40nm以上が望ましい。
(9)対向電極形成工程
次に、
図7(c)に示すように、IZO膜19上に、対向電極20を形成する(
図8のステップS9)。本実施の形態では、対向電極20は、銀、アルミニウム等を、スパッタリング法、真空蒸着法により成膜することにより形成される。
【0079】
(10)封止層形成工程
次に、
図7(d)に示すように、対向電極20上に、封止層21を形成する(
図8のステップS10)。封止層21は、SiON、SiN等を、スパッタリング法、CVD法などにより成膜することにより形成することができる。
これにより、有機ELパネル10が完成する。
【0080】
なお、上記の製造方法は、あくまで例示であり、趣旨に応じて適宜変更可能である。
4.有機EL素子の評価実験
上記実施の形態により形成された有機EL素子2の発光効率の良好性を示す指標である有機発光層17と対向電極20間の透過率および駆動電圧について評価実験を行った。
(1)透過率に関する評価実験
図9は、上記有機EL素子2における画素電極(陽極)13の対向電極(陰極)20までの積層構造を模式的に示す図である。同図に示すように有機EL素子2(実施品)では、ガラス基板上にAl合金を蒸着して画素電極(陽極)13とし、正孔注入層15、正孔輸送層16、有機発光層17、機能層18、IZO膜19、対向電極(陽極)20を順に積層している。
【0081】
機能層18は、上述のように、まず、有機発光層17上にNaFとYbを共蒸着してNaFとYbの混合物からなる層(以下、「NaF:Yb層」と表記)を形成し、その上にIZO膜19をスパッタリング法により形成する。その際にNaF:Yb層におけるYbの一部がその主面と平行な層状に酸化されていると推察される。
具体的に、本実施の形態に係る有機EL素子2の透過率を評価するための実施品のサンプルとして、ガラス基板上に機能層18とIZO膜19を形成したものを用いた(H14)。発光効率を評価するためには、この2層を合わせた透過率が一番貢献するからである。
【0082】
なお、本実験においては、NaFとYbの合計の重量に対するYbの重量の割合(wt%)は、80wt%に設定している。また、機能層18の厚みは、15nmである。
そして、比較実験をするための、次の3つの比較品を作成した。
第1比較品として、上記実施品のうち、機能層18をNaFのみで、膜厚15nmに形成したものを作成した(H11)。
【0083】
第2比較品として、上記実施品のうち、機能層18をYbのみで膜厚15nmに形成したものを作成した(H12)。
第3比較品として、上記実施品のうち、機能層18を2層構造とし、有機発光層17側の第1層をNaFのみで形成し、その上の第2層をYbのみで形成した(以下、「NaF/Yb層」と表記)ものを作成した。第1層と第2層の膜厚の合計は、15nmであり、2層のうちYbの量が、本実施品と同じ80wt%となるように第1層と第2層の膜厚を設定した。
【0084】
いずれも、IZO膜の膜厚は、5nmに統一した。
透過率の測定は島津製作所製可視・近赤外分光光度計SolidSpec3700を用いて測定を行った。まず、ガラス基板のみの透過率を測定し、それをベースラインとしてガラス基板上に機能層を製膜したサンプルを測定することで透過率の算出を行った。
透過率の実験は、実験対象品の下方に可視光の照明装置を配すると共に、上方には照度センサーを配置し、各実験対象品に対する照度センサーによる検出値を、ガラス基板のみの照度センサーの検出値を基準値とした場合の相対値で求めた。
【0085】
図10は、透過率実験の評価を示すグラフであり、縦軸は、上記基準値に対する相対値を示している。
同グラフに示すように、本実施品(H14)が一番透過率に優れ、第1比較品(H11)がそれよりわずかに低く、第2比較品(H12)、第3比較品(H13)にいたっては、かなり低い透過率になっている。
【0086】
第1比較品の透過率が高いのは、NaF自体の光透明性が高いことによる。第2比較品の透過率が低いのは、Ybの光透過性が低いことによる。第3比較品の透過率が第2比較品の透過率よりやや改善されているのは、NaFの層が含まれていることによる。
しかし、同じNaFとYbが含まれていながら、共蒸着した実施品(H14)の透過率が、第3比較品に比べて格段に優れているのは、次のような理由によるものと解される。
【0087】
すなわち、Ybなどの希土類金属は、酸化すると透明性が向上するという特性を有する。その一方で希土類金属単体を酸化させても希土類金属単体の表面のみに酸化物(不動態)が形成され、希土類金属の表面に緻密に形成された酸化物によりブロックされて、それ以上内層のYb原子を酸化するまでは至らない。したがって、第2比較品、第3比較品においては、Yb層の表面に酸化膜が形成されるだけで、内部まで、酸素が浸透せず深い層まで酸化できないため、透過率の改善はあまり望めない。
【0088】
ところが、本実施品(H14)では、NaFとYbが共蒸着され、Yb原子とNaF分子が、混合物として互いに分散されて存在するため、Yb原子(もしくはYbのクラスター)同士に隙間が存在する。ここにIZOをスパッタリングすると、表面にあるYb原子を酸化するだけでなく、Yb原子同士の隙間からIZOが浸入して内部のYb原子を次々に酸化していくことができる。これにより膜厚方向においてかなり深くにあるYb原子まで酸化をすることができ、それだけ透過率が格段に向上することになる。
【0089】
もともとNaF自体は、透過率が高く(H11参照)、Ybの酸化物はさらに透過率が高いので、本実施品(H14)に示すように第1比較品(H11)を抜き、透過率が一番高くなったものと解される。
(2)駆動電圧に関する評価実験
次に、駆動電圧に係る評価実験を行った。
【0090】
本実施品(H24)として、
図9の積層構造のうち、正孔輸送層16を省略したものを形成し、機能層18は、Ybが80wt%のNaF:Yb層であって膜厚を15nmに設定している。
比較例として、次の構成の有機EL素子を作成した。
第1比較品(H21)は、上記本実施品において機能層18をNaFのみで膜厚15nmで形成したものである。
【0091】
第2比較品(H22)は、上記本実施品において機能層18をYbのみで膜厚15nmで形成したものである。
第3比較品(H23)は、上記本実施品において機能層18を2層構造とし、有機発光層17側の第1層をNaFのみで形成し、第2層をYbのみで形成した。第1層と第2層の膜厚の合計は、15nmであり、2層全体に対してYbの量が、本実施品と同じ80wt%となるように第1層と第2層の各膜厚を設定した。
【0092】
その他の、条件は、全て、本実施品と同じである。
図11は、比較例と実施例との駆動電圧の実験結果を示すグラフである。各実験対象品の陽極と陰極に一定電流値を印加した時の電圧値を測定した。
同図のグラフに示すように、第1比較品(H21)から第3比較品(H23)と順に駆動電圧が低下し、本実施品(H24)は、第3比較品(H23)とほぼ同じ低い駆動電圧となっている。
【0093】
このような結果になったのは、機能層18が、NaF単体(H21)では、NaFが解離されず絶縁層のままで存在し、陰極と有機発光層とのエネルギー障壁を十分解消できず電子注入性が低いためであり、また、機能層18がYb単体の場合は、YbがNaFよりも電子注入性が高いので、駆動電圧がやや低下している。さらに、NaF/Yb並びにNaF:Ybは、NaFとYbでエネルギー障壁を順次小さくして、電子注入性・電子輸送性を向上させることができ、同程度に低い駆動電圧となったと考えることができる。
【0094】
既述のように、発光効率の評価基準として透過率が高く、駆動電圧の低いことが重要であるので、
図10、
図11に示す実験結果により本実施品による発光効率の向上の効果が得られることが検証された。
5.機能層におけるNaF:Ybの共蒸着比
上述のように機能層をNaF:Ybの共蒸着で形成すると共に、その上層にIZO膜を形成することにより、特許文献1で開示している構成に対して、次のような優れた効果を得ることができる。
【0095】
(ア)本開示によれば、ウエットプロセスにより有機発光層等を形成して生産コストを低減しつつ、NaFが、アルカリ金属類のフッ化物であって、水分のブロック性と光透過性に優れており、かつ、還元性を有するYbと共蒸着させることにより、NaFの一部がNaに解離し、電子輸送性を有するので、長寿命化、高発光効率を得ることが可能である。
【0096】
(イ)また、特許文献1のように中間層(NaF)の上層に有機材料中にアルカリ金属類をドープした有機材料を積層する場合にはアルカリ金属類のみを積層する場合よりも還元性が低下する為に、中間層の膜厚を大きくすると、駆動電圧の増加が一層大きくなり、発光効率の向上の目的が十分達成できないことがある。しかし、本開示に係る構成によれば、同一の機能層の中にNaFとYbが共蒸着によって混在しているため、ある程度厚みを大きくしても電子輸送性が低下しにくく、光共振器構造における光学的距離の調整層としての役割を果たすことができる。これにより他に特別な膜厚調整層を設ける必要性がなくなるので、特許文献1の場合よりも製造プロセスが簡易化され、生産コストを低減しつつ、光共振器構造を構築して発光効率の向上化を図ることが可能となる。
【0097】
次に、機能層18のNaF:Yb層におけるNaFとYbの総量に対するYbの重量の割合(wt%:以下、単に「共蒸着比」という。)をどのような範囲内にすれば、さらによい発光効率が得られるかについて考察する。
上述のように、機能層18におけるYbの酸化物の層の厚みを大きくするためには、Ybの原子(もしくはクラスター)間にNaFが散在しており、IZOのスパッタ時にこの部分からIZO、特に酸素原子Oが機能層18の内部まで浸入する必要があると考えられる。
【0098】
図12は、NaF:Ybの共蒸着比と、透過率及び駆動電圧との関係を示すグラフである。
横軸は、共蒸着比をYbの重量%(wt%)で示している。左側の縦軸は、可視領域の光線の透過率であって、ガラスの透過率を「1」とした場合の相対値で示しており、右側の縦軸は、一定電流値を印加した時の駆動電圧の大きさを示す。
【0099】
同グラフにおいて、実線(H31)は、透過率の変化を示すグラフであり、破線(H32)は駆動電圧の変化を示すグラフである。
なお、透過率の実験は、
図13(a)の模式図に示すように、ガラス基板上にNaF:Yb層を所定の共蒸着比で膜厚15nmに形成し、その上にIZO膜を50nmで形成したものを評価構造とした。
【0100】
また、駆動電圧の実験は、
図13(b)の模式図に示すように、ガラス基板上に、Alを蒸着してなるアノード(50nm)、正孔注入層(35nm)、正孔輸送層(20nm)、有機発光層(50nm)を積層した上に、NaF:Yb層を所定の共蒸着比で膜厚15nmに形成し、その上にIZO膜を50nmで形成し、さらにカソードとしてAgを80nmの膜厚で蒸着して形成したものを評価構造とした。
【0101】
まず、透過率を見ると、実線H31に示すように、共蒸着比が90wt%までは、0.74以上の透過率を維持するが、共蒸着比が90%を超えると、透過率が急激に悪化することが分かる。
一方、駆動電圧を見ると、破線H32に示すように、共蒸着比が73wt%を超えると、急激に低下し、100wt%に至るまで(100wt%未満)は、駆動電圧に抑えることができるのが分かる。なお、共蒸着が100%になると、
図11で説明した第2比較品(H22)と同じに結果となり駆動電圧が上昇するが、わずかでもNaFが残っていれば、駆動電圧の低減の効果を得られるので、共蒸着比は、73wt%より大きく100wt%未満であることが望ましい。
【0102】
図14は、上記の透過率と駆動電圧の実験結果から、発光効率を総合評価したグラフである。
同グラフにおいて、横軸は、機能層18(膜厚15nm)のNaF:Ybの共蒸着比を示し、縦軸は、共蒸着比が0wt%の発光効率(E
0)と、共蒸着比がXwt%のときの発光効率(E
X)の差分ΔEx(=E
x−E
0)を、発光効率が最大となるときのΔE
80を「1」とした場合の相対値で示している。
【0103】
同グラフに示すように、共蒸着比が73wt%を超えて100wt%未満の範囲において、他の共蒸着比の場合よりも発光効率が増加しているのが分かる。さらに、共蒸着比が75wt%以上95wt%以下の範囲においては、発光効率の相対値が、0.5を超えており、より望ましい結果となった。
6.機能層の膜厚と発光効率との関係
図15は、機能層(NaF:Yb層)18の膜厚と、透過率、駆動電圧との関係を示すグラフである。
【0104】
なお、透過率の評価に使用した構造は、
図13(a)と同じであり、NaF:Yb層の共蒸着比を80%に固定し、その膜厚のみを変化させた。
また、駆動電圧の評価に使用した構造は、
図13(b)と同じであり、NaF:Yb層の共蒸着比を80%に固定し、その膜厚のみを変化させた。
図15のグラフにおいて、横軸は、NaF:Yb層の膜厚を示している。左側の縦軸は、ガラスの透過率を1とした場合の透過率を相対値で示し、右側の縦軸は、駆動電圧の大きさを示す。
【0105】
実線H41は、透過率の変化を示すグラフであり、破線H42は駆動電圧の変化を示すグラフである。
NaF:Yb層が10nmのとき、透過率(H41)が、予め測定しておいたNaF:Yb層の共蒸着比0%のときと同じ値(相対比0.770)になり、それより、NaF:Yb層が薄くなると、Ybの酸化物の絶対量も少なくなって、透過率が低下する。
【0106】
また、NaF:Yb層が10nmのとき、駆動電圧(H42)が、予め測定しておいたNaF:Yb層の共蒸着比100%のときと同じ値(8V)になり、それより、NaF:Yb層が薄くなると、同じくYbの酸化物の絶対量も少なくなって、駆動電圧が上昇してしまうと考えられる。
また、NaF:Yb層が、20nmを超えると、透過率(H41)の減少率が、駆動電圧(H42)の減少率よりも大きくなり、発光効率としては低下してしまうので、共蒸着比が80wt%のときのNaF:Yb層の膜厚は、10nm以上、20nm以下が望ましい。
【0107】
なお、共蒸着比を73wt%を少し超えた値(具体的には、74wt%)と、100wt%少し小さい値(具体的には99wt%)についても同様な実験を行っても、NaF:Yb層の膜厚が、少なくとも10nm以上、20nm以下の範囲内においては、他の膜厚のときよりも発光効率が改善されることが分かった。これにより、共蒸着比が、73wt%を超え、100wt%未満の範囲においては、機能層18の膜厚が10nm以上、20nm以下が望ましいと言える。
【0108】
7.効果のまとめ
以上のように、有機発光層の上に、NaFとYbを共蒸着して機能層を形成し、その上にIZO膜を形成すれば、発光効率のさらなる向上が望め、長寿命化も可能となる。
この際、Ybの共蒸着比は、73wt%を超えて100wt%未満とすることが望ましく、また、機能層の膜厚は、10nm以上、20nm未満とすることが望ましい。
【0109】
これによって、さらに発光効率を改善させることができる。
なお、このような効果を得られるのは、機能層の各成分が次のような物性を有することによるものと解される。
(1)NaFが、アルカリ金属類のフッ化物であって、水分のブロック性と光透過性に優れており、かつ、還元性を有するYbと共蒸着させることにより、NaFの一部がNaに解離し、電子輸送性を有すること。
【0110】
(2)Ybが希土類金属であって、低仕事関数の金属であると共に、アルカリ金属類に比して活性が小さいため、水分との反応性が低く劣化しにくい。また、IZO膜の成膜時に生成されたYbの酸化物も仕事関数が低く、アルカリ金属のフッ化物と同等かそれ以上の光透明性を有する。
したがって、NaFの代わりに他のアルカリ金属フッ化物を使用し、Ybの代わりに他の適当な希土類金属を使用しても上記実施の形態と同様な効果を得ることが可能である。
【0111】
なお、IZO膜も他の無機酸化物を含む透明導電膜、例えば、ITO膜により代替されてもよい。その形成過程において、機能層における希土類金属を酸化させるという点においては作用効果が同じであるからである。
≪変形例≫
以上、本発明の一態様として、有機EL素子、及び有機ELパネル、及び有機EL素子の製造方法などの実施の形態について説明したが、本発明は、その本質的な特徴的構成要素を除き、以上の説明に何ら限定を受けるものではない。以下では、本発明の他の態様を説明する。
【0112】
(1)光共振器構造
発光効率をさらに向上するためには、光共振器構造を採用することが望ましい。
IZO膜の透明性が高いので、その膜厚を他の層より比較的大きく取れ、光共振器構造における光路長の調整に利用することができる。
図16は、本変形例に係る有機EL素子2の光共振器構造における光の干渉を説明する図である。
【0113】
光共振器構造は、画素電極13の正孔注入層15との界面と、対向電極20のIZO膜19との界面との間に構成される。
図16には、有機発光層17から出射される光の主な光路を示している。光路C1は、有機発光層17から対向電極20側に出射された光が、反射されることなく対向電極20を直接透過する光路である。
【0114】
光路C2は、有機発光層17から画素電極13側に出射された光が、画素電極13で反射され、有機発光層17を経由して対向電極20を透過する光路である。
対向電極20は、下方からくる光を一部反射するような半透過性を有することが望ましい。このような対向電極20は、例えば、対向電極20をAgまたはAl、それらの合金など、蒸着法で5nm〜50nm程度の膜厚で形成することにより達成できる。
【0115】
光路C3は、有機発光層17から対向電極20側に出射された光が、対向電極20で反射され、さらに画素電極13で反射され、有機発光層17を介して対向電極20を透過する光路である。
光路C1と光路C2の光学距離の差(光路差)ΔC1は、
図16に示す光学膜厚L1の2倍の長さに対応する。光学膜厚L1は、有機発光層17から画素電極13の正孔注入層15との界面までの、正孔注入層15と正孔輸送層16の合計の光学距離(各層における膜厚と屈折率との積の合計値)である。
【0116】
また、光路C2と光路C3との光距差ΔC2は、
図16に示す光学膜厚L2の2倍の長さに対応する。光学膜厚L2は、有機発光層17から対向電極20のIZO膜19との界面までの、機能層18、IZO膜19の光学距離(各層における膜厚と屈折率との積の合計値)である。
光共振器構造では、各光路C1、光路C2、光路C3を経た光が、同位相で有機EL素子2から射出されるように調整する必要がある。そのため、
図16で発光される光の目標波長をλとすると、光路C2では、1回反射して半波長だけずれているので、
光路差ΔC1=λの整数倍+λ/2 であるのが望ましい。
【0117】
このように、正孔注入層15、正孔輸送層16、有機発光層17の膜厚などのいずれか1つ、または2つ値が設定されている。
また、光路C3を経た光が、同位相で有機EL素子2から射出されるように調整する必要があるが、そのためには、光路C3では、2回反射しているので、この場合には、
光路差ΔC2=λの整数倍 であるのが望ましい。
【0118】
また、上記光路差ΔC1は、正孔注入層15または正孔輸送層16の厚みおよびそれらの屈折率により決定されるが、光路差ΔC2については、IZO膜19の膜厚と屈折率によって調整されるが望ましい。上述の通りIZO膜19は透明性が高いので、当該薄膜の膜厚の多少の相違があっても、影響は少ないからである。
各発光色の波長が異なるので、その波長にあわせて、上記光路差ΔC1、ΔC2を設定すべく、正孔注入層15、正孔輸送層16、有機発光層17の膜厚およびIZO膜19の膜厚が決定される。
【0119】
なお、実際には、さらに多く回数の反射を得て対向電極20から射出される高次の反射光の光路C4、C5、・・・も存在し得るが、光共振器の原理は上記とまったく同じなので、これ以上の説明を省略する。
発光色ごとに、IZO膜19の膜厚を変更するためには、例えば、R、G、Bのうち1種類の発光色の副画素に対応する部分が開口したスパッタリング用のマスクを用意し、当該マスクの開口をR,G,Bの副画素の位置に順次ずらせていき、それぞれの位置でのIZOのスパッタリング時間を調整することにより実現できる。
【0120】
(2)タンデム型の有機EL素子について
有機発光層を、低分子有機材料などで形成するような場合には、より発光効率を改善するため、陽極と陰極との間に、2つ以上の有機発光層を形成し、その各有機発光層間に電荷発生層を形成してなる、いわゆるタンデム型の有機EL素子が提案されている。本発明は、このようなタンデム型有機EL素子に対しても適用可能である。
【0121】
図17は、このようなタンデム型有機EL素子500の構成を模式的に示す図であり、各層におけるエネルギー準位の関係を示すため、便宜上、有機EL素子500の積層構造を水平方向に並べて図示している。
同図に示すように、有機EL素子500は、左から順に、不図示の基板に形成されたアノード(陽極)510、正孔注入層511、正孔輸送層512、第1有機発光層513、電子輸送層(機能層)514、電荷発生層515、正孔注入層516、正孔輸送層517、第2有機発光層518、電子輸送層519、陰極520の順に積層されてなる。
【0122】
中間にある電荷発生層515は、本例では、無機のP型酸化物としてMoO
3で形成され、正孔注入層516には、正孔を供給し、電子輸送層514には電子を供給する機能を有する。
機能層としての電子輸送層514は、NaFとYbを例えば、Yb80wt%で共蒸着してなり、この上に電荷発生層515をスパッタリング法で形成する際に一部のYbが酸化される。
【0123】
したがって、この場合にも、上記実施の形態における機能層18と同様、電子輸送層514の光透過率と電子注入性が向上し、発光効率がよりよくでき、また長寿命化を図れるという効果が得られる。
(3)機能層前駆体の製法の別の態様
上記実施の形態では、機能層前駆体を、NaFとYbを所定の比で共蒸着して形成したが、必ずしも共蒸着による製法に限定されず、例えば、NaFとYbの微粒子を有機溶媒中に均等に分散させて、スピンコート法などにより塗布して乾燥させる方法でも構わない。
【0124】
(4)NaF以外の物質とYbとの共蒸着
(4−1)上記実施の形態では、機能層18を、NaFとYbを所定の比で共蒸着して形成することによって、NaFとYbの粒子をほぼ均等に分散させ、機能層18上にIZO膜19をスパッタリングで形成する際に、Yb粒子同士の隙間を介してIZOが内部まで浸入し、比較的厚いYbの酸化物の層を形成して、高い透過率を得ることができた。
【0125】
この原理からすれば、NaF以外の物質、例えば透過率の高い有機物とYbを共蒸着させても、同様な効果が得られると解される。
図18は、NaFとYbの共蒸着した場合(H51)と、有機物とYbを共蒸着した場合(H52)の共蒸着比と透過率との関係を示すグラフである。
なお、評価構造は、H51については、
図13(a)と同様であり(NaF:Yb層[15nm]、IZO膜[5nm])、H52については、NaF:Yb層の代わりに、有機物:Yb層[15nm]を形成した。共蒸着する有機物として、透光性と電子輸送性を有する公知の有機材料を用いることにより、機能層18の電子注入性・輸送性をより向上させることができる。本例では、この有機材料の一例として、フェナンスロリン誘導体(BCP)を用いた。もちろん、このような有機物と共蒸着させる希土類金属については、還元性は不要である。
【0126】
図18のH52に示すように、有機物とYbを共蒸着した場合でもに、共蒸着比が95wt%程度までは、良好な透過率を有していることが検証された。
なお、機能層18を有機物とYbの共蒸着で形成する場合には、有機発光層17と機能層18との間に、防水性のためNaF層を形成することが望ましい。
(4−2)さらには、IZOとYbを共蒸着して、IZO:Yb層を機能層として用いることも可能である。この場合には、IZOとYbの共蒸着の段階で、一部のYbが酸化されるので、機能層18上にさらにIZO膜を形成する必要はないと解される。
【0127】
(5)有機EL素子の積層構造の変形例
上記実施の形態では、有機EL素子の積層構成として、機能層18やIZO膜19、正孔注入層15や正孔輸送層16を有する構成であるとしたが、これに限られない。例えば、正孔輸送層16を有しない有機EL素子であってもよい。また、例えば、正孔注入層15と正孔輸送層16とに替えて、単一層の正孔注入輸送層を有していてもよい。
【0128】
また、機能層18上のIZO膜19と対向電極20との間に別の電子輸送層を設けるようにしても構わない。この場合の電子輸送層に用いられる材料としては、例えば、オキサジアゾール誘導体(OXD)、トリアゾール誘導体(TAZ)、フェナンスロリン誘導体(BCP、Bphen)などのπ電子系低分子有機材料が挙げられる。これにより電子注入輸送性をさらに向上させることができる。
【0129】
(6)また、2次以上の高次の光共振器構造を特に考慮する必要がなければ、IZO膜19も必ずしも必須ではない。機能層18に共蒸着されたYbを酸化する方法は、他にもあり得るからである。例えば、高圧の酸素雰囲気下に所定時間放置することが考えられる。
なお、Ybの酸化物を含む層の深さは、発光効率の向上に寄与するために、少なくとも機能層18の膜厚の50%以上あることが望ましい。
【0130】
(7)隔壁・画素規制層の形成工程の変形例
上記実施の形態では、隔壁14と画素規制層141を別の工程で形成するようにしたが、ハーフトーンマスクを用いて、隔壁14と画素規制層141を同時に形成するようにしてもよい。
まず、画素電極13、正孔注入層15が形成された層間絶縁層12上に、ダイコート法などのウエットプロセスにより、樹脂材料を塗布して隔壁材料層140(
図5(c)参照)を形成する。
【0131】
塗布後には、例えば、真空乾燥及び60℃〜120℃程度の低温加熱乾燥(プリベーク)などを行って不要な溶媒を除去するとともに、隔壁材料層を層間絶縁層12に定着させることが好ましい。
次に、フォトマスク(不図示)を介して隔壁材料層140を露光する。
例えば、隔壁材料層140がポジ型の感光性を有する場合は、隔壁材料層140を残す箇所を遮光し、除去する部分を露光する。
【0132】
画素規制層141は、隔壁14よりも膜厚が小さいので、画素規制層141の部分は、隔壁材料層140を半露光する必要がある。
そのため、露光工程で使用されるフォトマスクとして、隔壁14に対応する位置に配され光を完全に遮断する遮光部と、画素規制層141に対応する位置に配された半透明部と、それ以外の画素電極13の露出部分に対応する位置に配された透光部とを有するハーフトーンマスクを使用する。
【0133】
上記半透明部の透光度は、所定時間露光したときに、画素電極13上の隔壁材料層140が全露光され、画素規制層141は、その高さ分だけ露光されないで残るように決定される。
次に、現像を行い、隔壁材料層140の露光領域を除去することにより、隔壁14と、これよりも膜厚の小さな画素規制層141を形成することができる。具体的な現像方法としては、例えば、基板11全体を、隔壁材料層140の露光により感光した部分を溶解させる有機溶媒やアルカリ液などの現像液に浸した後、純水などのリンス液で基板11を洗浄すればよい。その後、所定の温度で焼成する。
【0134】
以上のようにハーフトーンマスクの使用により、層間絶縁層12上に、Y方向に延伸する隔壁14およびX方向に延伸する画素規制層141を同一の工程で形成することができ、その分だけ工程数を減らすことができるので、有機ELパネル製造のコストダウンに資する。
(8)上記実施の形態に係る有機ELパネル10では、
図2に示すように、画素規制層141の延伸方向が有機ELパネル10の長軸X方向、隔壁14の延伸方向が有機ELパネル10の短軸Y方向であったが、画素規制層141と隔壁14の延伸方向は、逆であってもよい。また、画素絶縁層及び隔壁の延伸方向は、有機ELパネル10の形状とは無関係な方向であってもよい。
【0135】
また、上記実施の形態に係る有機ELパネル10では、一例として画像表示面を長方形状としたが、画像表示面の形状に限定はなく、適宜変更可能である。
また、上記実施の形態に係る有機ELパネル10では、画素電極13を長方形平板状の部材としたが、これに限られない。
さらに、上記実施の形態においてはラインバンク方式の有機ELパネルについて説明したが、一つの副画素ごとにその四方を隔壁で囲むようにした、いわゆるピクセルバンク方式の有機ELパネルであっても構わない。
【0136】
(9)上記実施の形態に係る有機ELパネル10では、R、G、B色にそれぞれ発光する副画素100R、100G、100Bが配列されていたが、副画素の発光色はこれに限られず、例えば、R、G、Bに加えて黄色(Y)の4色であってもよい。また、一つの画素Pにおいて、副画素は1色あたり1個に限られず、複数配置されてもよい。また、画素Pにおける副画素の配列は、
図2に示すような、赤色、緑色、青色の順番に限られず、これらを入れ替えた順番であってもよい。
【0137】
(10)また、上記実施の形態に係る有機ELパネル10は、アクティブマトリクス方式を採用したが、これに限られず、パッシブマトリクス方式を採用してもよい。また、トップエミッション型の有機EL表示パネルだけでなくボトルエミッション型の有機EL表示パネルにも適用可能である。
(11)上記実施の形態で示した有機ELパネルは、
図19に示すようにテレビ装置400の表示部401や、その他パーソナルコンピュータ、形態端末、業務用ディスプレイなど様々な電子機器の表示パネルとして用いることができる。
≪補足≫
以上、本開示に係る有機EL素子およびその製造方法並びに有機ELパネル、有機EL表示装置、電子機器について、実施の形態および変形例に基づいて説明したが、本発明は、上記の実施の形態および変形例に限定されるものではない。上記実施の形態および変形例に対して当業者が思いつく各種変形を施して得られる形態や、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で実施の形態および変形例における構成要素及び機能を任意に組み合わせることで実現される形態も本発明に含まれる。