【実施例】
【0059】
以下、実施例及び比較例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。なお、実施例及び比較例で用いたイソソルビド系ポリカーボネートの合成方法を以下に示す。
【0060】
(合成例)
減圧装置と攪拌装置とを備えるガラス容器に、イソソルビド(Aldrich社製)60.0g(410.57mmol)、ビスフェノールA(和光純薬工業(株)製)4.69g(20.53mmol)及び炭酸ジフェニル(東京化成工業(株)製)92.54g(432.0mmol)を仕込んだ。これに、触媒として4−ジメチルアミノピリジン(融点:108〜110℃。以下、「DMAP」と略す。)7.0mgを添加した。
【0061】
窒素ガスを20ml/分でガラス容器内に供給し、攪拌しながらオイルバスを用いてガラス容器内の温度を120℃まで上昇させた後、5分間保持した。その後、ガラス容器内の温度を160℃まで上昇させた後、5分間保持した。さらに、ガラス容器内の温度を180℃まで上昇させたところ、フェノールが発生したため、ガラス容器内を0.1Torrまで減圧して前記フェノールを溜去しながら、この状態を30分間保持した。次いで、ガラス容器内の温度を200℃まで上昇させ、窒素ガスの供給を停止した後、20分間保持した。その後、ガラス容器内の温度を230℃まで徐々に上昇させた後、230℃〜240℃で5時間保持して溶融重合を実施し、ポリカーボネートを合成した。反応終了後、ガラス容器内を室温まで冷却した。
【0062】
次に、得られた粗ポリカーボネートをクロロホルムに溶解し、この溶液にメタノールを添加してポリカーボネートを沈殿させた。この溶解・沈殿処理を合計2回繰返してポリカーボネートを精製した。精製したポリカーボネートを110℃で12時間真空乾燥し、イソソルビド骨格含有繰返し単位の含有率が95mol%であり、ビスフェノールA骨格含有繰返し単位の含有率が5mol%であるイソソルビド系ポリカーボネート(isPC)を得た。
【0063】
このイソソルビド系ポリカーボネートの物性を下記の測定方法に従って測定した。
【0064】
<分子量>
ゲルパーミエーションクロマトグラフィ((株)昭和通商製「Shodex GPC−101」)を用い、下記条件で前記イソソルビド系ポリカーボネートの数平均分子量(Mn)、重量平均分子量(Mw)及び分子量分布(Mw/Mn)を測定した。
カラム:昭和電工(株)製「K−805L」
溶媒:クロロホルム
流量:1.0ml/分
標準物質:標準ポリスチレン
その結果、数平均分子量(Mn)は25,000、重量平均分子量(Mw)は52,000、分子量分布(Mw/Mn)は2.1であった。
【0065】
<ガラス転移温度>
前記イソソルビド系ポリカーボネート約5.0mgを秤量し、示差走査熱量計(TA Instrument社製「DSC Q1000」)を用いて温度範囲25〜250℃、昇温速度10℃/分の条件で前記イソソルビド系ポリカーボネートのガラス転移温度を測定した。その結果。ガラス転移温度(Tg)は169℃であった。
【0066】
<熱分解温度>
前記イソソルビド系ポリカーボネート約7.0mgを秤量し、熱分析装置(理学電機(株)製「Thermoplus TG8120」)を用いて温度範囲25〜500℃、昇温速度10℃/分の条件で前記イソソルビド系ポリカーボネートの熱重量変化を測定した。前記イソソルビド系ポリカーボネートの質量が5%減少した時点の温度を熱分解温度とした。その結果、熱分解温度(Td)は318℃であった。
【0067】
(実施例1)
循環混合が可能な混練機(サーモフィッシャーサイエンティフィック株式会社製「マイクロレオロジーコンパウンダー HAAKE−MiniLab」)を用いて、前記合成例で得たイソソルビド系ポリカーボネート(isPC)とポリアミド11(PA11、アルケマ株式会社製「リルサンBMNO」)とを、質量比:isPC/PA11=30/70、スクリュー回転数:200rpm、混練温度:250℃、混練時間:10分間の条件で加熱溶融混練し、樹脂組成物を得た。
【0068】
この樹脂組成物を、小型真空加熱プレス機(株式会社井元製作所製「IMC−1824型」)を用い、設定温度250℃で1分間真空プレス成形して樹脂シートを作製した。得られた樹脂シートを、トリミングカッター(WISTA社製「C−4」)を用いて切出し、物性測定用試験片を作製した。
【0069】
(実施例2)
イソソルビド系ポリカーボネートとポリアミド11との質量比をisPC/PA11=50/50に変更した以外は実施例1と同様にして樹脂組成物を調製し、さらに、樹脂シート及び物性測定用試験片を作製した。
【0070】
(実施例3)
イソソルビド系ポリカーボネートとポリアミド11との質量比をisPC/PA11=70/30に変更した以外は実施例1と同様にして樹脂組成物を調製し、さらに、樹脂シート及び物性測定用試験片を作製した。
【0071】
(実施例4)
ポリアミド11の代わりにポリアミド12(PA12、宇部興産株式会社製「UBESTA3024」)を用い、混練温度を230℃に変更した以外は実施例1と同様にして樹脂組成物を調製し、さらに、設定温度を230℃に変更した以外は実施例1と同様にして樹脂シート及び物性測定用試験片を作製した。
【0072】
(実施例5)
ポリアミド11の代わりにポリアミド610(PA610、ダイセル・エボニック株式会社製「Vestamid Terra HS16」)を用いた以外は実施例1と同様にして樹脂組成物を調製し、さらに、樹脂シート及び物性測定用試験片を作製した。
【0073】
(比較例1)
イソソルビド系ポリカーボネートの代わりにビスフェノール系ポリカーボネート(bpPC、三菱化学エンジニアリングプラスチック株式会社製「ユーピロンS−2000」)を用いた以外は実施例1と同様にして樹脂組成物を調製し、さらに、樹脂シート及び物性測定用試験片を作製した。
【0074】
(比較例2)
イソソルビド系ポリカーボネートの代わりにビスフェノール系ポリカーボネート(bpPC、三菱化学エンジニアリングプラスチック株式会社製「ユーピロンS−2000」)を用い、ポリアミド11の代わりにポリアミド6(PA6、東レ株式会社製「アミラン1017」)を用いた以外は実施例1と同様にして樹脂組成物を調製し、さらに、樹脂シート及び物性測定用試験片を作製した。
【0075】
(比較例3)
ビスフェノール系ポリカーボネートとポリアミド6との質量比をbpPC/PA6=50/50に変更した以外は比較例2と同様にして樹脂組成物を調製し、さらに、樹脂シート及び物性測定用試験片を作製した。
【0076】
(比較例4)
ビスフェノール系ポリカーボネートとポリアミド6との質量比をbpPC/PA6=70/30に変更した以外は比較例2と同様にして樹脂組成物を調製し、さらに、樹脂シート及び物性測定用試験片を作製した。
【0077】
(比較例5)
ポリアミド11の代わりにポリアミド6(PA6、東レ株式会社製「アミラン1017」)を用いた以外は実施例1と同様にして樹脂組成物を調製し、さらに、樹脂シート及び物性測定用試験片を作製した。
【0078】
(比較例6)
イソソルビド系ポリカーボネートとポリアミド6との質量比をisPC/PA6=50/50に変更した以外は比較例5と同様にして樹脂組成物を調製し、さらに、樹脂シート及び物性測定用試験片を作製した。
【0079】
(比較例7)
イソソルビド系ポリカーボネートとポリアミド6との質量比をisPC/PA6=70/30に変更した以外は比較例5と同様にして樹脂組成物を調製し、さらに、樹脂シート及び物性測定用試験片を作製した。
【0080】
(比較例8)
ポリアミド11の代わりにポリアミド66(PA66、東レ株式会社製「アミラン3007」)を用い、混練温度を280℃に変更した以外は実施例1と同様にして樹脂組成物を調製し、さらに、樹脂シート及び物性測定用試験片を作製した。
【0081】
(比較例9)
イソソルビド系ポリカーボネートの代わりにビスフェノール系ポリカーボネート(bpPC、三菱化学エンジニアリングプラスチック株式会社製「ユーピロンS−2000」)を用い、ポリアミド11の代わりにポリアミド12(PA12、宇部興産株式会社製「UBESTA3024」)を用い、混練温度を230℃に変更した以外は実施例1と同様にして樹脂組成物を調製し、さらに、設定温度を230℃に変更した以外は実施例1と同様にして樹脂シート及び物性測定用試験片を作製した。
【0082】
(比較例10)
イソソルビド系ポリカーボネートの代わりにビスフェノール系ポリカーボネート(bpPC、三菱化学エンジニアリングプラスチック株式会社製「ユーピロンS−2000」)を用い、ポリアミド11の代わりにポリアミド610(PA610、ダイセル・エボニック株式会社製「Vestamid Terra HS16」)を用い、混練温度を230℃に変更した以外は実施例1と同様にして樹脂組成物を調製し、さらに、設定温度を230℃に変更した以外は実施例1と同様にして樹脂シート及び物性測定用試験片を作製した。
【0083】
(比較例11)
ポリアミド11の代わりにポリアミド10T(PA10T、ダイセル・エボニック株式会社製「Vestamid HT Plus M3000」)を用い、混練温度を320℃に変更した以外は実施例1と同様にして樹脂組成物を調製し、さらに、設定温度を320℃に変更した以外は実施例1と同様にして樹脂シート及び物性測定用試験片を作製した。
【0084】
<成形性(流動性)>
実施例及び比較例において、樹脂シートを成形する際、樹脂組成物が溶融して高流動状態となり、成形しやすかったものと、流動せずに成形しにくかったものとがあった。これは、樹脂組成物を調製する際の溶融混練時に、ポリカーボネートとポリアミドとの間で架橋反応が発生したため、流動性が低下したと考えられる。
【0085】
実施例及び比較例で使用したポリカーボネート及びポリアミドは全て1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロ−2−プロパノール(HFIP、和光純薬工業株式会社製)に溶解するため、樹脂組成物がHFIPに完全に溶解すれば、架橋反応は発生しておらず、成形性(流動性)は良好と判断でき、樹脂組成物がHFIPに溶解しない場合には、架橋反応が発生しており、成形性(流動性)は不良と判断できる。そこで、実施例及び比較例で得られた樹脂組成物をHFIPに溶解し、溶解性を下記基準で判定して成形性(流動性)を評価した。その結果を表1に示す。
A:100質量部のHFIPに対して10質量部の樹脂組成物が完全に溶解する(成形性は極めて良好)。
B:100質量部のHFIPに対して5質量部の樹脂組成物は完全に溶解するが、10質量部では溶解しない(成形性は良好)。
C:100質量部のHFIPに対して1質量部の樹脂組成物は完全に溶解するが、5質量部では溶解しない(成形性は不良)。
D:100質量部のHFIPに対して1質量部の樹脂組成物が溶解しない(成形性は極めて不良)。
【0086】
<耐発泡性>
実施例及び比較例で作製した樹脂シートを目視により観察し、樹脂シート中の気泡の状態を下記基準で判定して耐発泡性を評価した。その結果を表1に示す。
A:目視で確認できる1mm未満の気泡が存在しない。
B:目視で確認できる1mm未満の気泡が樹脂シート全体の2%未満である。
C:目視で確認できる2mm未満の気泡が樹脂シート全体の2%未満である。
D:目視で確認できる1mm以上の気泡が樹脂シート全体の2%以上である。
【0087】
<耐分解性>
実施例及び比較例で作製した物性測定用試験片について、JIS K7244−4に準拠して、粘弾性測定装置(アイティー計測制御株式会社製「DVA−220」)を用いて、周波数:10Hz、昇温速度:5℃/分、測定温度範囲:0〜250℃の条件で引張損失係数tanδを測定してポリカーボネートのガラス転移温度を求め、加熱プレス成形によるポリカーボネートのガラス転移温度の低下を下記基準で判定し、耐分解性を評価した。
A:ポリカーボネートのガラス転移温度の低下が1℃未満である。
B:ポリカーボネートのガラス転移温度の低下が1℃以上3℃未満である。
C:ポリカーボネートのガラス転移温度の低下が3℃以上5℃未満である。
D:ポリカーボネートのガラス転移温度の低下が5℃以上である。
【0088】
<剛性>
実施例及び比較例で作製した物性測定用試験片について、JIS K7244−4に準拠して、粘弾性測定装置(アイティー計測制御株式会社製「DVA−220」)を用いて、周波数:10Hz、昇温速度:5℃/分、測定温度範囲:0〜250℃の条件で引張貯蔵弾性率を測定し、100℃における樹脂組成物の引張貯蔵弾性率を求めて下記基準で判定し、剛性を評価した。
A:樹脂組成物の引張貯蔵弾性率がポリアミドの引張貯蔵弾性率の1.5倍以上である。
B:樹脂組成物の引張貯蔵弾性率がポリアミドの引張貯蔵弾性率の1.0倍以上1.5倍未満である。
C:樹脂組成物の引張貯蔵弾性率がポリアミドの引張貯蔵弾性率の0.9倍以上1.0倍未満である。
D:樹脂組成物の引張貯蔵弾性率がポリアミドの引張貯蔵弾性率の0.9倍未満である。
【0089】
【表1】
【0090】
表1に示した結果から明らかなように、イソソルビド系ポリカーボネートと、ポリアミド11、ポリアミド12及びポリアミド610からなる群から選択される少なくとも1種のポリアミドとを所定の質量比で含有する本発明の樹脂組成物(実施例1〜5)は、成形性(流動性)、耐発泡性、耐分解性及び剛性に優れたものであることが確認された。
【0091】
一方、ビスフェノール系ポリカーボネートとポリアミド11又はポリアミド12とを含有する樹脂組成物(比較例1及び9)は、成形性(流動性)、耐分解性及び剛性に劣るものであり、ビスフェノール系ポリカーボネートとポリアミド6とを含有する樹脂組成物(比較例2〜4)は、成形性(流動性)、耐発泡性、耐分解性及び剛性に劣るものであり、イソソルビド系ポリカーボネートとポリアミド6とを含有する樹脂組成物(比較例5〜7)は、耐分解性に劣る(イソソルビド系ポリカーボネートの割合が少なくなると、更に耐発泡性及び剛性にも劣る)ものであり、イソソルビド系ポリカーボネートとポリアミド66とを含有する樹脂組成物(比較例8)は、耐発泡性、耐分解性及び剛性に劣るものであり、ビスフェノール系ポリカーボネートとポリアミド610とを含有する樹脂組成物(比較例10)は、成形性(流動性)及び耐分解性に劣るものであり、イソソルビド系ポリカーボネートとポリアミド10Tとを含有する樹脂組成物(比較例11)は、耐分解性及び剛性に劣るものであることがわかった。