(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6789541
(24)【登録日】2020年11月6日
(45)【発行日】2020年11月25日
(54)【発明の名称】レーザーレーダー装置
(51)【国際特許分類】
G01S 7/484 20060101AFI20201116BHJP
H01S 5/183 20060101ALI20201116BHJP
【FI】
G01S7/484
H01S5/183
【請求項の数】9
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2017-53286(P2017-53286)
(22)【出願日】2017年3月17日
(65)【公開番号】特開2018-155628(P2018-155628A)
(43)【公開日】2018年10月4日
【審査請求日】2020年2月20日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002303
【氏名又は名称】スタンレー電気株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504132272
【氏名又は名称】国立大学法人京都大学
(74)【代理人】
【識別番号】100091340
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 敬四郎
(74)【代理人】
【識別番号】100141302
【弁理士】
【氏名又は名称】鵜飼 伸一
(72)【発明者】
【氏名】久志本 琢也
(72)【発明者】
【氏名】河田 任史
(72)【発明者】
【氏名】江本 渓
(72)【発明者】
【氏名】野田 進
【審査官】
東 治企
(56)【参考文献】
【文献】
特開2013−211542(JP,A)
【文献】
特開2014−197665(JP,A)
【文献】
特開平08−292261(JP,A)
【文献】
特開2010−151958(JP,A)
【文献】
特開平09−329416(JP,A)
【文献】
特開2009−076900(JP,A)
【文献】
国際公開第2016/148075(WO,A1)
【文献】
米国特許出願公開第2003/0107480(US,A1)
【文献】
特開2007−139594(JP,A)
【文献】
特開2016−142571(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01S 7/48−7/51
G01S 17/00−17/95
H01S 5/00−5/50
G08G 1/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
それぞれ固有の出射方向特性を有する多数の個別出射領域を有する面発光レーザー装置であって、個別出射領域の各々は、フォトニック結晶構造を含むレーザー構造を有して、発光面の法線に対して対称な方向に2本のレーザー光線を出射可能であり、出射面の法線に対する角度が変化する複数の個別出射領域を含むレーザー装置と、
前記レーザー装置の個別出射領域を、時間系列的に、選択駆動し、2次元平面内のモニター領域を走査できる駆動回路と、
モニター領域からの反射光を検出して、対象物の方位と対象物までの距離を算出する信号処理部と、
を含み、
前記2次元平面内のモニター領域が複数の領域に区分され、前記駆動回路が区分に応じた異なる条件で前記多数の個別出射領域を駆動し、
前記複数の領域は前方領域と側方領域に分けられ、側方領域においては発光周波数が相対的に高く、発光強度は相対的に低く設定され、前方領域においては発光周波数が相対的に低く、発光強度を相対的に高く設定されている車両用のレーザーレーダー装置。
【請求項2】
前記信号処理部が、異なる位置に配置された複数の受光素子を含み、反射光が2本の出射レーザー光のいずれが反射されたものであるかを判定できる、請求項1に記載のレーザーレーダー装置。
【請求項3】
前記多数の個別出射領域が、2本の出射レーザー光線を含む出射面の発光面に対する射影の面内方向が同一方向である複数の個別出射領域を含む、請求項1または2に記載のレーザーレーダー装置。
【請求項4】
前記多数の個別出射領域が、2本の出射レーザー光線を含む出射面の発光面に対する射影が出射面における面内方向を変化させる複数の個別出射領域をさらに含む請求項1または2に記載のレーザーレーダー装置。
【請求項5】
前記フォトニック結晶構造が、2次元定在波を形成することにより波長λの光の共振状態を形成し、かつ光を外部に出射させない周期性を持つ格子点に異屈折率領域が配置された光共振状態形成用フォトニック結晶構造と、逆格子空間において波長λに対応する波数ベクトルとの和が所定範囲内の大きさになる逆格子ベクトルを有する格子点に異屈折率領域が配置された光出射用フォトニック結晶構造とを備える請求項1〜4のいずれか1項に記載のレーザーレーダー装置。
【請求項6】
前記光共振状態形成用フォトニック結晶構造は、正方格子、長方格子、三角格子のいずれかで構成され、前記光出射用フォトニック結晶構造は斜交格子、正方格子、長方格子、面心長方格子、三角格子のいずれかで構成されている請求項5に記載のレーザーレーダー装置。
【請求項7】
前記光共振状態形成用フォトニック結晶構造は、正方格子で構成され、前記光出射用フォトニック結晶構造は斜交格子で構成されている請求項6に記載のレーザーレーダー装置。
【請求項8】
前記正方格子がx軸、y軸に沿う隣接格子点間の格子定数aを有し、前記斜交格子がy軸方向に関して間隔aの格子点列を含み、x軸方向に関して隣接格子点列の格子点のk座標からr1a、r2a離れており、係数対(r1、r2)が異なる複数の個別出射領域を含む請求項7に記載のレーザーレーダー装置。
【請求項9】
前記正方格子がx軸、y軸に沿う隣接格子点間の格子定数aを有し、前記斜交格子がy軸方向に関して間隔aの格子点列を含み、x軸方向に関して隣接格子点列の格子点のk座標から同一距離離れており、
前記多数の個別出射領域が、出射レーザー光線を含む出射面の発光面に対する射影の面内方向が同一方向である複数の個別出射領域を含む請求項7に記載のレーザーレーダー装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザーレーダー装置に関し、特にフォトニック結晶を備えたレーザーレーダー装置に関する。
【背景技術】
【0002】
図1Aを参照する。レーザーレーダー装置は、例えばレーザーダイオード107から発したレーザー光を、スキャナ駆動部105によって駆動されるスキャナ106を用いて走査することで、対象物を検知する範囲内で2次元走査し、フォトダイオード108で対象物からの反射光(反射信号)を受信して、どの方向に向けて出した光に対する反射なのかということで方位を検出し、レーザーダイオードを発してからフォトダイオードで受信するまでの時間から距離を検出する(例えば特許文献1)。レーザーダイオードの向きを機械的駆動により変化させて、レーザー光の走査を行う機械的駆動は、駆動機構を必要とし、故障の原因ともなり得る。
【0003】
図1Bを参照する。活性層111と第1周期のフォトニック結晶層121と第2周期のフォトニック結晶層122とを備えるフォトニック結晶レーザー110は、フォトニック結晶層に垂直な方向に進行する主ビームと主ビームに対して傾斜した方向に進行する副ビームとを発することができる(例えば特許文献2)。2本のレーザービームを用いて検知範囲内の走査を行えば、走査を高速化できよう。
【0004】
図2Aを参照する。活性層115と、板状スラブ142中に、両対角線が互いに平行で、一方の対角線についてのみ長さが異なる第1の菱形状格子と第2の菱形状格子の各格子点上に空孔141が形成されたフォトニック結晶層114を備えたフォトニック結晶面発光レーザー110は、出射面法線に対して角度θをなす、対称な2方向に傾斜レーザー光を出射することができる。上記一方の対角線の長さが、該一方の対角線の延びる方向の位置により異なるようにし、電流注入の位置を該位置に沿って変更するようにすると、異なる出射角(最大45度)で傾斜ビームが出射するようになる(例えば特許文献3)。ここで、光を生じさせる活性層に積層される2次元フォトニック結晶層を検討する。
【0005】
図2Bを参照する。2次元フォトニック結晶層が、2次元定在波を形成することにより波長λの光の共振状態を形成し、かつ光を外部に出射させない周期性を持つ格子点に異屈折率領域が配置された光共振状態形成用フォトニック結晶構造PCAと、逆格子空間において波長λに対応する波数ベクトルとの和が所定範囲内の大きさになる逆格子ベクトルを有する格子点に異屈折率領域が配置された光出射用フォトニック結晶構造PCBとを備えることにより、面に垂直な方向から傾斜した対称的2方向にレーザー光を出射する2次元フォトニック結晶面発光レーザーも提案されている。図示の構成においては、光共振状態形成用フォトニック結晶構造PCAはx方向、y方向格子間距離(格子定数)aの正方格子であり、光出射用フォトニック結晶構造PCBはy方向の格子間距離はaであり、x方向の隣接する2格子点は、y方向に隣接する行の格子点のx方向位置に対してr1*a、及びr2*a、x方向に離れた位置にある、斜交格子である。(例えば特許文献4)。
【0006】
光共振状態形成用フォトニック結晶構造は、正方格子、長方格子、三角格子のいずれかで構成され、光出射用フォトニック結晶構造は斜交格子、正方格子、長方格子、面心長方格子、三角格子のいずれかで構成されると開示されている。尚、ここに用いられた用語は、特許文献4の明細書に規定された意味を持つ。
【0007】
光出射用フォトニック結晶構造の周期性を変化させることにより、出射するレーザー光の進行方向を変化させることができる。光出射用フォトニック結晶構造に、複数の領域を画定し、それぞれの領域で周期性を変化させ、電流を供給する領域を切り替えることにより、傾斜ビームの出射方向を変化させることができると教示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2004−28753号(特許第3659239号)公報
【特許文献2】特開2009−76900号(特許第5070161号)公報
【特許文献3】特開2013−41948号(特許第5794687号)公報
【特許文献4】特開2013−211542号(特許第6083703号)公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
例えば、車両搭載のレーザーレーダー装置においては、機械的駆動を行うことなく、2次元平面内の走査を行い、前走車等の対象物の検出を行うことが望まれる。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の実施例によれば、
それぞれ固有の出射方向特性を有する多数の個別出射領域を有する面発光レーザー装置であって、個別出射領域の各々は、フォトニック結晶構造を含むレーザー構造を有して、発光面の法線に対して対称な方向に2本のレーザー光線を出射可能であり、出射面の法線に対する角度が変化する複数の個別出射領域を含むレーザー装置と、
前記レーザー装置の個別出射領域を、時間系列的に、選択駆動し、2次元平面内のモニター領域を走査できる駆動回路と、
モニター領域からの反射光を検出して、対象物の方位と対象物までの距離を算出する信号処理部と、
を含
み、
前記2次元平面内のモニター領域が複数の領域に区分され、前記駆動回路が区分に応じた異なる条件で前記多数の個別出射領域を駆動し、
前記複数の領域は前方領域と側方領域に分けられ、側方領域においては発光周波数が相対的に高く、発光強度は相対的に低く設定され、前方領域においては発光周波数が相対的に低く、発光強度を相対的に高く設定されている車両用のレーザーレーダー装置
が提供される。
【0011】
フォトニック結晶の周期性を変化させると出射レーザー光の方向を変化させることができる。時系列的に選択される個別出射領域が擬似走査を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】
図1Aは従来技術によるレーザーレーダー装置の構成を概略的に示すブロック図、
図1Bは従来技術によるフォトニック結晶レーザーの例の構成を概略的に示す断面図である。
【
図2】
図2Aは先行出願によるフォトニック結晶面発光レーザー装置の構成を概略的に示す斜視図、
図2Bは該フォトニック結晶面発光レーザー装置の継続研究による光共振状態形成用フォトニック結晶構造と光出力用フォトニック結晶構造の例を示す平面図である。
【
図3-3】
図3Aは実施例によるレーザーレーダー装置の構成を概略的に示すブロック図、
図3Bは実施例におけるレーザー装置に含まれる多数の個別出射領域の分布を概略的に示す平面図、
図3Cは個別出射領域の構成を概略的に示す断面図、
図3Dはレーザー装置を構成するフォトニック結晶層の格子点の構成を概略的に示す模式図、
図3Eはレーザー装置から発する2つのレーザービームを概略的に示す斜視図、
図3Fは
図3Cに示すフォトニック結晶の格子定数a、係数r1、r2と、
図3Dに示すレーザービームの角度θ、φとの関係を示す式、
図3Gはレーザー装置内の個別照射領域と視野内の区画の関係を示す概略上面図、
図3H,3Iは2本のレーザービームの内の1本が対象物OBで反射され、反射光が2つのフォトダイオードPD1,PD2で受光される様子を示す上面図である。
【
図4-2】
図4Aはφ=0である場合の、傾斜角θと係数r1、r2の関係を表す数式、
図4Bは傾斜角θを変化させる時の係数r1=r2の変化を示すグラフ、
図4Cはレーザー装置上の個別出射領域の配列例を示す概略上面図、
図4Dは軸回転を含む場合のフォトニック結晶の変化、出射レーザー光の変化、個別出射領域の配列例、複数の回転角を含む場合の出射レーザー光の分布を示す概略上面図である。
【
図5】
図5Aは、検出領域を前方領域と側方領域とに分けた構成を示す概略上面図、
図5Bは側方領域と前方領域とを連続的に走査する走査工程を示すタイミングチャートである。
【符号の説明】
【0013】
1 レーザーレーダー装置、 2 レーザー装置、 4 駆動回路、
6 走査演算部、 14 検出信号演算部、 16 距離演算部、
21 活性層、 23 フォトニック結晶層、 25 第1導電型領域、
27 第2導電型領域、 28、29 電極、
OB (検出)物体、 PD フォトダイオード、 LB レーザー光、
IER 個別出射領域、 a 格子定数、 r1、r2 係数、
θ 傾斜角、 φ 方位角、 x、y 直交座標の軸、
FV 視野、 FVD 視野内区画。
【発明を実施するための形態】
【0014】
安全走行のためには、道路上を走行する車両は、前方を走行する前走車、歩道等を歩行する歩行者等に注意する必要がある。不注意による衝突などを回避するため、検出機器を用いて道路上の物体を検出し、必要な場合は対策をとることが望まれる。このような要求に応える機器として、レーザーレーダー装置が知られている。レーザー光を用いて道路上の前方領域、側方領域の物体を検出するために、レーザー光を所定領域内で走査する。機械的振動、温度変化等を避けがたい車両内では、機械的駆動部を用いないことが望まれる。
【0015】
フォトニック結晶レーザー装置の出射光は、フォトニック結晶層の周期構造に基づく方向に進行する。フォトニック結晶層に多数の領域を画定し、各領域の周期構造を変化させると、進行方向が変化するレーザー光を出射することが可能となる。2次元平面内の所定領域をレーザー光の集合でほぼ埋め尽くすことができれば、該所定領域を擬似走査することが可能と考えられる。このような進行方向の異なる多数のレーザー光を発することが可能な、多数の個別出射領域を備えたレーザー装置をフォトニック結晶構造を用いて形成し、所定領域内の物体からの反射光を複数の受光素子で検出することを検討する。
【0016】
図3Aは、実施例によるレーザーレーダー装置の構成を概略的に示す。レーザーレーダー装置1は、多数の個別出射領域を備えたレーザー装置2、このレーザー装置2の駆動回路4、駆動回路4を制御する信号を発生する走査演算部6、2つのフォトダイオードPD1,PD2,これらのフォトダイオードPD1,PD2からの検出信号及び駆動回路から供給されるレーザー光出射のタイミングに基づく演算を行う検出信号演算部14、その結果に基づいて反射光を生じた物体OBまでの距離、物体の方向を演算する距離方向演算部16を含む。レーザー装置2から発したレーザー光が物体OBで反射し、フォトダイオードPD1,PD2で検出される。
【0017】
図3Bは、発光面内に多数の個別出射領域IERを備えた半導体レーザー装置2の上面図を示す。図中垂直方向のy軸方向、水平方向のx軸方向に沿って、多数の個別出射領域IERが配列されている。各個別出射領域IERに電圧を供給するためには配線を形成する。半導体としては、近赤外の光を用いる場合、例えばGaAs,AlGaAs,InGaAs等GaAsを含む材質を用いることができる。
【0018】
図3Cは、個別出射領域IERの構造例を概略的に示す断面図である。第1導電型(例えばp型)層25、第2導電型(例えばn型)層27の間に活性層21、フォトニック結晶層23が配置されている。第2導電型層27の表面に共通電極である第2導電型側電極28が形成され、第1導電型層25の表面に個別出射領域IERに電流を供給する第1導電型側電極29が形成されている。活性層21は、例えばInGaAsをウェル層、GaAsをバリア層とする多重量子井戸構造で形成する。第1、第2導電型層25,27は、たとえば、AlGaAsで構成できる。フォトニック結晶層にもこれらの材料を用いることができる。電極は、例えばAu等の金属、インジウム錫酸化物(ITO)等の透明電極を用いて形成することができる。尚、電極の形状は、この形状に制限されない。単純クロス配線、共通配線とアクティブ配線の組み合わせ等、各個別出射領域に選択的に電圧を印加できるものであればよい。
【0019】
図3Dは、公知文献4の教示に従ったフォトニック結晶の設計例を示す。正方格子を用いて光共振状態形成用格子を形成し、斜交格子を用いて光出射用格子を形成し、両者を重ねあわせて、フォトニック結晶23を形成する場合を想定している。
【0020】
図3Eはレーザー装置2の個別出射領域IERから発する2本のレーザー光の領域表面の法線に対する傾斜角θ、領域表面内のx軸に対する方位角φを示す。
【0021】
図3Fは、係数r1、r2と、傾斜角θ、方位角φとの関係を表す(式1)と、格子定数aと(真空中の)波長λの関係を表す(式2)を示す。半導体活性層、フォトニック結晶層等の屈折率により有効屈折率が定まる。
【0022】
光出射用格子における係数r1、r2によって、出射光の発光面法線からの傾斜角θ、発光面内の基準軸xからの方位角φが定まる。言い換えると、所望の傾斜画θ、方位角φが得られるように係数r1、r2を選定する。
図3Eに示すように、出射平面内の原点から2本のレーザービームが対称的角度方向で出射される。一方のビームで第1象限を走査すると他方のビームは第3象限を走査する。視野内の所定領域を走査する場合、所定領域の中心を原点とし、一方のビームで例えば第1象限、第2象限を走査すれば、他方のビームが第3象限、第4象限を走査する。走査される領域として求められる傾斜角θ、方位角φを定め、これらを実現する係数r1、r2を求める。
【0023】
図3Gは、固定されるレーザー装置2を用いて視野FVを走査する場合の、視野FV内の区画FVDとレーザー装置2内の個別照射領域IERとの関係を示す概略上面図である。レーザー装置2内の多数の個別照射領域IERは視野内に定められる区画FVDと対応して設定される。
【0024】
図3H、3Iは、レーザー装置2から発したレーザー光LBが対象物OBで反射され、フォトダイオードPD1,PD2で検出される様子を示す概略上面図である。2つのフォトダイオードを用いることにより、例えば2本のレーザー光のどちらのレーザー光の反射光であるかを定めることができる。2つのフォトダイオードの受光面を互いに傾けることにより、受光した光の進行方向をさらに確認することもできる。発光タイミングから受光タイミングまでの時間差に基づき、レーザーレーダー装置から対象物までの距離を求めることができる。
【0025】
上述の例においては、視野を多数の区画(例えば行列状の区画)に分割し、それぞれの区画にレーザー光を照射できる共通軸方位を用いたフォトニック結晶層を備えた個別照射領域を形成したレーザー装置を用いる場合を説明した。この場合、係数r1、r2は夫々種々に変化するであろう。
【0026】
一軸方向の走査を検討する。x軸と平行な一軸方向の走査の場合、方位角φ=0となる。傾斜角θを0度、10度、20度、30度に変化させるとする。方位角φ=0の場合、sinθ*sinφ=0であり、
図3Fの(式1)からr1=r2となる。
【0027】
図4Aは、このφ=0場合を示す。r1、r2は最下段に示す式によってあらわされる。
【0028】
図4Bは、傾斜角θを変化させる時の係数r1、r2の変化を示す。フォトニック結晶において、傾斜角θを0度から30度まで変化させるには、r1=r2を1から約1.2程度まで増加させればよいことが判る。尚、傾斜角は最大45度と教示されている。
【0029】
図4Cは、レーザー装置2内の4つの個別照射領域に、角度対(θ、φ)として、(0,0)、(10,0)、(20,0)、(30,0)を順次設定する場合を示す。これらの個別照射領域を形成すれば、レーザー光の発光面に対する射影がx軸に平行であり、傾斜角が0度、10度、20度、30度のレーザー光を出射することができる。ここでは、一例として4電極としたが、これは一例であり、より制御性を高めるためには角度に対し分割電極数を増やすことが望ましい。
【0030】
以上の設定では、レーザー光の発光面に対する射影がx軸と平行であるレーザー光しか得られない。x軸、y軸を含む2次元平面の所定領域を走査することはできないことになる。ところで、この結論はx軸、y軸が1種類のみであることを前提としている。軸を回転することも可能であり、原点の周囲でx軸を回転させれば、平面をカバーすることができる。
【0031】
図4Dは軸回転を行う場合を示す。(DA)は90度回転を行う場合を示す。回転前のx軸方向が、回転後のy軸方向に相当し、回転前のy軸方向が回転後のx軸方向に相当する。
【0032】
(DB)は、回転後のフォトニック結晶によって傾斜角がy軸方向に沿って変化する出射光を示す。回転前の構造を有する個別出射領域からx軸方向の変化が得られるので、併せれば、x軸方向とy軸方向に沿う傾斜角が得られる。
【0033】
(DC)は、レーザー装置2の出射面内x軸方向、y軸方向に沿って、x軸方向の傾斜角変化、y軸方向の傾斜角変化を提供する個別出射領域を形成した場合を示している。
【0034】
(DD)は、90度回転以外の回転も用いる場合を示す。図示された構成では、x軸、y軸の間に2つの回転軸を形成し、かつx軸近傍の軸間角度は狭く、y軸に近づくと軸間角度が大きくなっている。対象物の検出は路面付近ほど精度高くする要求を考慮している。尚、係数対(r1、r2)を任意に選択する個別照射領域と、r1=r2を前提とする個別照射領域を混在させることもできる。
【0035】
車両用の対象物検出を前方領域と側方領域とに対して行う場合、要求される条件は前方領域と側方領域とでは異なる。レーザー装置を前方用と両側方用とに3セット備えることも考えられるが、1セットで行えればコスト抑制に有効であろう。前方のモニター対象物は例えば100m程度を中心としたモニター光でモニターし、側方のモニター対象物は例えば50m程度を中心としたモニター光でモニターできる。前方は距離が長いのでレーザー光の強度も高くする必要があり、レーザー光が往復する時間も長い、これに対し、側方は距離が短いので出射光の強度も低くでき、反射光が到達するまでの時間も短い。
【0036】
図5Aは、レーザーレーダー装置1のモニター空間を前方領域と両側方領域に分けた状態を示す概略的上面図であり、
図5Bは、時間分割して側方領域のモニターと前方領域のモニターを行う場合のタイミングチャートを示す。側方領域のモニターにおいては、発光周波数が相対的に高く、発光強度は相対的に低く設定され、前方
領域のモニターにおいては発光周波数を相対的に低く、発光強度を相対的に高く設定されている。
【0037】
以上、実施例に沿って説明したが、必要に応じて、特開2013−41948号(特許第5794687号)公報、特開2013−211542号(特許第6083703号)公報の実施例の欄に記載された事項を取込むこともできる。上述の記載中の材料数値などは例示であり、制限的なものではない。実施例に沿って説明したが、公知の均等物などを用いることも可能である。その他、種々の変更、改良、組み合わせ等が可能であることは当業者に自明であろう。