特許第6789544号(P6789544)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6789544回転体及び風力回転装置並びに風力発電装置、風力水循環装置、風力曝気装置
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6789544
(24)【登録日】2020年11月6日
(45)【発行日】2020年11月25日
(54)【発明の名称】回転体及び風力回転装置並びに風力発電装置、風力水循環装置、風力曝気装置
(51)【国際特許分類】
   F03D 1/06 20060101AFI20201116BHJP
   F03D 1/04 20060101ALI20201116BHJP
   F03D 9/28 20160101ALI20201116BHJP
   B63B 35/32 20060101ALI20201116BHJP
【FI】
   F03D1/06 B
   F03D1/04 A
   F03D9/28
   B63B35/32 E
【請求項の数】1
【全頁数】25
(21)【出願番号】特願2019-100689(P2019-100689)
(22)【出願日】2019年5月29日
(65)【公開番号】特開2019-218948(P2019-218948A)
(43)【公開日】2019年12月26日
【審査請求日】2019年9月30日
(31)【優先権主張番号】特願2018-115683(P2018-115683)
(32)【優先日】2018年6月19日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】303057365
【氏名又は名称】株式会社安藤・間
(73)【特許権者】
【識別番号】596109273
【氏名又は名称】株式会社高知丸高
(73)【特許権者】
【識別番号】302021259
【氏名又は名称】上村 壽一
(74)【代理人】
【識別番号】100082072
【弁理士】
【氏名又は名称】清原 義博
(72)【発明者】
【氏名】上村俊之
(72)【発明者】
【氏名】上村壽一
【審査官】 所村 陽一
(56)【参考文献】
【文献】 登録実用新案第3169592(JP,U)
【文献】 特開2014−101756(JP,A)
【文献】 登録実用新案第3189449(JP,U)
【文献】 実開昭59−040585(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F03D 1/06
B63B 35/32
F03D 1/04
F03D 9/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
毎秒12m以下の風速下で使用される風力回転装置の回転体であって、
前記回転体は、
円板と、該円板の中心に設けられた回転軸と、該円板の外周領域に立設された複数の羽根板とを有し、
前記羽根板は、前記円板の径方向に対して傾けて設けられており、
任意の前記羽根板の外側端と前記円板の中心とを結ぶ線上に、該羽根板の内側に隣接する羽根板の内側端が位置し、
任意の前記羽根板の外側端から、該羽根板の内側に隣接する羽根板の内側端までの距離(D1)を1としたときの、任意の前記羽根板の外側端から該羽根板の内側に隣接する羽根板の外側端までの円弧距離(D2)が1.2以上2.1以下であり、
前記回転体の外径が、25cm乃至200cmであり、
前記羽根板は外側に向けて凸状に湾曲した形状であり、
前記羽根板の長さ(L)は、流入口面積(S1)と、前記距離(D1)に対する前記円弧距離(D2)の割合と、前記円板の半径(R)と、流入口面積(S1)に対する流出口総面積(S2)の割合(P)に応じて決められ、下式の範囲であることを特徴とする回転体。
L=S1×((D2/D1)+1)1/2/(2πR)×P
ここに、P=S2/S1
0.7≦P≦1.0
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転体及び風力回転装置並びに風力発電装置、風力水循環装置、風力曝気装置に関する。
【背景技術】
【0002】
代表的な風力利用である発電目的にあって、小形風力発電装置の利用が普及していない。これは、投資回収率の低さ、支柱倒壊や近傍で回転する風車への不安、および騒音やバードストライク等の負の環境面などが原因している。
【0003】
風車には、水平回転軸と鉛直回転軸の形式がある。前者は、発電効率は比較的高いが、風車を支えるための支柱は不可欠である。支柱には、風車、発電機、支柱の自重、風圧および地震荷重が作用する。そのため、支柱や風車の倒壊、損傷事故が多く発生している。後者は、発電効率が相対的に低い。
【0004】
支柱を用いずに基盤上に風車を据える風力回転装置を考える。この場合、風力回転装置を動力源として利用する回転駆動装置も基盤上に据える。風車は、回転駆動装置の上に直列で連結するか、回転駆動装置の横に並列で設置する。
基盤とは、地盤、構造物等のことであり、風力回転装置を支える主体を指している。なお、これより以降は、この風車を「回転体」と記述することとする。
【0005】
回転体を水平回転軸とすると、回転体の回転円が基盤面に対して垂直となり、基盤上に据えられる回転体の回転円を広くとることができない。そのため、回転円を広くとり実用的な回転力を得るためには、回転軸を鉛直とする必要がある。ただし、既存の鉛直回転軸の風車は、発電効率が相対的に低いので除外する。そこで、鉛直回転軸の回転体が基盤面に平行な回転円面で風を受ける仕組みを検討する。この仕組みでは、任意の水平方向の風を鉛直下方向へ変えて回転体へ誘導する手段が別途必要となる。
【0006】
地上に回転体を据え付ける場合では、高所である支柱の先端に比べて、エネルギーとして利用する風速が低下する傾向にある。これを補う方法として、風を回転体の回転円面積より広い範囲で捉える集風による方法が考えられる。空気の流れである風は集積性を有しており、広い範囲で集風される時点で自ずと集積される。集風により風速を高めてその結果、エネルギー密度を高くした状態で風を利用することができる。
【0007】
回転体には、対面する風のエネルギーを取りこぼすことなく利用する機能が備わっていることが適切である。この場合、回転体には、大きな風力が作用することとなる。しかし、回転体が安定した基盤上に据え付けられていれば、回転体が支柱に据え付けられる場合のような、回転体を支える上での構造的安定性に関する問題は解消される。
【0008】
鉛直回転軸の回転体が、基盤面に平行な回転円面で風を受ける仕組みは、例えば、特許文献1がある。この提案は、走行する車両から取り入れた風を下向きに転換して鉛直回転軸の回転体を回転させるものである。ただし、走行車両から十分な風速が確保できることから広く集風する発想が無く、また、任意の方向からの風を対象としていない。そのため、本発明が目指す風力回転装置として用いるためには、集風および任意方向からの風を対象とする新たな仕組みが必要である。
【0009】
集風して回転体へ風を送る方法については、多くの提案(例えば、特許文献2)がある。これらは、集風するための手段を広く空間に配置して風を集めるものである。また、これらは集風することに限定した提案である。しかし、本発明では、集めた風の向きを鉛直下方向に変えることが重要であり、そのための仕組みを加える必要がある。
【0010】
回転軸を鉛直としたプロペラ式の風車を基盤近傍に配置し、鉛直下向きの風を風車に当てることを考える。この場合、プロペラの直下に風向に対面する基盤面が有るために、真っ直ぐに通過する風のエネルギーを利用するプロペラ式の風車にとって好ましくない。
【0011】
シロッコファンを回転体として用いる発想の中には、シロッコファンの円筒口から風を取り込み回転させる提案もある(例えば、特許文献3)。この方法は、シロッコファンの回転軸を基盤で支えているので、大きな風圧を受ける状態においても、シロッコファンは安定して支えられる。
【0012】
ただし、シロッコファンに関しては、受風回転に関する改善が求められる。もともと送風を目的として、円筒口から空気を取り込むシロッコファンは、モーターにより強制回転させて用いるものである。そのため、シロッコファンは、円筒口から入る風を受けて自ら回転もするが、その場合の回転効率は良好とはいえない。この点から、風力利用の回転体としてシロッコファンを用いる場合は、そのままの構造では適切ではなく、受風回転に優れた構造に変える必要がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開2000−125408
【特許文献2】特開2014−25473
【特許文献3】特開2011−117400
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明は、上述したような従来技術の問題点を解決すべくなされたものであって、風を効率よく回転駆動に変換する回転体及び風力回転装置並びに風力発電装置、風力水循環装置、風力曝気装置を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
請求項1に係る発明は、円板と、該円板の中心に設けられた回転軸と、該円板の外周領域に立設された複数の羽根板とを有し、前記羽根板は、前記円板の径方向に対して傾けて設けられており、任意の前記羽根板の外側端と前記円板の中心とを結ぶ線上に、該羽根板の内側に隣接する羽根板の内側端が位置し、任意の前記羽根板の外側端から、該羽根板の内側に隣接する羽根板の内側端までの距離(D1)を1としたときの、任意の前記羽根板の外側端から該羽根板の内側に隣接する羽根板の外側端までの円弧距離(D2)が1.2以上2.1以下であり、前記羽根板は外側に向けて凸状に湾曲した形状であることを特徴とする回転体に関する。
【0016】
請求項2に係る発明は、前記羽根板の長さ(L)は、流入口面積(S1)と、前記距離(D1)に対する前記円弧距離(D2)の割合と、前記円板の半径(R)と、流入口面積(S1)に対する流出口総面積(S2)の割合(P)に応じて決められ、下式の範囲であることを特徴とする請求項1に記載の回転体に関する。
L=S1×((D2/D1)+1)1/2/(2πR)×P
ここに、P=S2/S1
0.7≦P≦1.0
【0017】
請求項3に係る発明は、風を下向きに方向変換する風誘導部と、該風誘導部の下方に設けられ、該風誘導部からの下向きの風によって回転する回転体を有する回転体部とを備える風力回転装置であって、前記風誘導部は、風を受ける帆と該帆を支持する帆柱とを有し、前記回転体は、前記下向きの風に面する円板と、該円板の中心に設けられた回転軸と、前記円板の外周領域に立設された複数の羽根板とを有し、前記複数の羽根板は、円板の周方向に間隙を開けて略等間隔に配されていることを特徴とする風力回転装置に関する。
【0018】
請求項4に係る発明は、前記回転体において、前記羽根板は、前記円板の径方向に対して傾けて設けられており、任意の前記羽根板の外側端と前記円板の中心とを結ぶ線上に、該羽根板の内側に隣接する羽根板の内側端が位置し、任意の前記羽根板の外側端から、該羽根板の内側に隣接する羽根板の内側端までの距離(D1)を1としたときの、任意の前記羽根板の外側端から該羽根板の内側に隣接する羽根板の外側端までの円弧距離(D2)が1.2以上2.1以下であり、前記羽根板は外側に向けて凸状に湾曲した形状であることを特徴とする請求項3に記載の風力回転装置に関する。
【0019】
請求項5に係る発明は、前記羽根板の長さ(L)は、流入口面積(S1)と、前記距離(D1)に対する前記円弧距離(D2)の割合と、前記円板の半径(R)と、流入口面積(S1)に対する流出口総面積(S2)の割合(P)に応じて決められ、下式の範囲であることを特徴とする請求項4に記載の風力回転装置に関する。
L=S1×((D2/D1)+1)1/2/(2πR)×P
ここに、P=S2/S1
0.7≦P≦1.0
【0020】
請求項6に係る発明は、前記帆が3枚以上であって、各帆の面が水平方向外側に向けられていることを特徴とする請求項3乃至5のいずれか1項に記載の風力回転装置に関する。
【0021】
請求項7に係る発明は、前記帆として帆布を用いる場合に、前記帆の側部面を隣り合わせる各帆で共用することを特徴とする請求項6に記載の風力回転装置に関する。
【0022】
請求項8に係る発明は、前記帆が1枚であって、該帆の表面方向からの風と裏面方向からの風を受けることを特徴とする請求項3乃至5のいずれか1項に記載の風力回転装置に関する。
【0023】
請求項9に係る発明は、前記帆が2枚であって、該2枚の帆は対向して設けられていることを特徴とする請求項3乃至5のいずれか1項に記載の風力回転装に関する。
【0024】
請求項10に係る発明は、前記帆の材質が布、樹脂、メタル、及びそれらの複合材のいずれかであることを特徴とする請求項3乃至9のいずれか1項に記載の風力回転装置に関する。
【0025】
請求項11に係る発明は、請求項3乃至10のいずれか1項に記載の風力回転装置と、該風力回転装置の回転軸に軸連結された発電装置とによって発電する風力発電装置に関する。
【0026】
請求項12に係る発明は、請求項3乃至10のいずれか1項に記載の風力回転装置と、該風力回転装置に接続されたスクリューによって水循環を行う風力水循環装置に関する。
【0027】
請求項13に係る発明は、請求項3乃至10のいずれか1項に記載の風力回転装置と、該風力回転装置に接続されたエアー圧縮機と、エアーホースとを備え、水中に曝気する風力曝気装置に関する。
【0028】
請求項14に係る発明は、前記風力曝気装置が散気器を備えることを特徴とする請求項13に記載の風力曝気装置に関する。
【発明の効果】
【0029】
請求項1に係る発明の回転体によれば、羽根板の位置、形状等が適切なので、風を効率よく回転駆動に変換することが出来る。
【0030】
請求項2に係る発明の回転体によれば、羽根板の長さ(L)が適切なので、風を効率よく回転駆動に変換することが出来る。
【0031】
請求項3に係る発明の風力回転装置によれば、風誘導部と回転体部とによって、風を効率よく回転駆動に変換することが出来る。
【0032】
請求項4に係る発明の風力回転装置によれば、回転体の羽根板の位置、形状等が適切なので、風を効率よく回転駆動に変換することが出来る。
【0033】
請求項5に係る発明の風力回転装置によれば、羽根板の長さ(L)が適切なので、風を効率よく回転駆動に変換することが出来る。
【0034】
請求項6に係る発明の風力回転装置によれば、帆が3枚以上であって、各帆の面が水平方向外側に向けられているので、風を効率よく回転駆動に変換することが出来る。
【0035】
請求項7に係る発明の風力回転装置によれば、帆布の側部面を隣り合わせる各帆で共用することにより風を的確に捉えるので、風を効率よく回転駆動に変換することが出来る。
【0036】
請求項8に係る発明の風力回転装置によれば、帆が1枚であって、該帆の表面方向からの風と裏面方向からの風を受けるので、風を効率よく回転駆動に変換することが出来る。
【0037】
請求項9に係る発明の風力回転装置によれば、帆が2枚であって、該2枚の帆は対向して設けられているので、風を効率よく回転駆動に変換することが出来る。
【0038】
請求項10に係る発明の風力回転装置によれば、帆の材質が布、樹脂、メタル、及びそれらの複合材のいずれかであるので、設置場所の状況に応じた材質を用い、風を効率よく回転駆動に変換することが出来る。
【0039】
請求項11に係る発明の風力発電装置によれば、請求項3乃至9のいずれか1項に記載の風力回転装置を用いるので、効率よく風を電力に変換することができる。
【0040】
請求項12に係る発明の風力水循環装置によれば、請求項3乃至9のいずれか1項に記載の風力回転装置を用いるので、効率よく水の循環を行うことができる。
【0041】
請求項13に係る発明の風力曝気装置によれば、請求項3乃至9のいずれか1項に記載の風力回転装置を用いるので、効率よく曝気することができる。
【0042】
請求項14に係る発明の風力曝気装置によれば、散気器を備えるので、効率よく曝気することができる。
【図面の簡単な説明】
【0043】
図1】本実施形態に係る風力回転装置の斜視図である。
図2】(a)は本実施形態に係る風力回転装置の回転体の平面図であり、(b)は同回転体の側面図である。
図3】(a)(b)は図2(b)のA−A断面図である。
図4】(a)(b)は本実施形態に係る風力回転装置の羽根板の断面形状の説明図である。
図5】同風力回転装置の試験設備の概略図である。
図6】同風力回転装置の斜視図である。
図7】(a)は同風力回転装置のハウジングの平面図であり、(b)は同ハウジングの側面図である。
図8】同風力回転装置の帆の展開図である。
図9】同風力回転装置の帆の展開図である。
図10】(a)(b)(c)(d)は同風力回転装置の風誘導部の斜視図である。
図11】同風力回転装置の帆の展開図である。
図12】同風力回転装置の風誘導部の斜視図である。
図13】同風力回転装置の風誘導部の斜視図である。
図14】同風力回転装置の風誘導部の平面図である。
図15】同風力回転装置の風誘導部の平面図である。
図16】同風力回転装置の風誘導部の平面図である。
図17】同風力回転装置の風誘導部の平面図である。
図18】同風力回転装置の風誘導部の平面図である。
図19】(a)(b)は同風力回転装置の風誘導部の垂直断面図である。
図20】同風力回転装置の垂直断面図である。
図21】同風力回転装置の斜視図である。
図22】同風力回転装置を用いた風力水循環装置の概略図である。
図23】(a)(b)は同風力回転装置を用いた風力曝気装置の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0044】
本実施形態に係る風力回転装置について図面を参照しながら説明する。図1に風力回転装置の斜視図を示す。
風力回転装置1は、風を下向きに方向変換する風誘導部2と、風誘導部2の下方に設けられ、風誘導部2からの下向きの風によって回転する回転体31を有する回転体部3とを備える。
回転体31の下には回転体31によって駆動される回転駆動装置4である発電機41が設けられている。
風誘導部2は、風を受ける帆21と帆21を支持する帆柱22とを有し、回転体31は、下向きの風に面する円板32と、円板32の中心に設けられた回転軸33と、円板32の外周領域に立設された複数の羽根板34とを有し、複数の羽根板34は、円板32の周方向に間隙を開けて略等間隔に配されている。
帆21の材質に特に制限はなく、シート状で風を受けて孕む材質ならば何でもよい。帆21の材質として布、樹脂、及びそれらの複合材等、種々の材料が考えられる。
なお、予め風を受けて孕んだ形状に帆21の全体もしくは一部を固定しておくことも考えられ、その場合は固定部の材質としてメタルを利用することもできる。
【0045】
本実施形態では、帆柱22として3本の帆柱22(22a、22b、22c)を有しており、それぞれの帆柱22はロープ等によって固定されている。3本の帆柱22のそれぞれの頂部は3本の梁23で連結されている。それぞれ2本の帆柱22の間には帆21が張られている。帆21は両側方を2本の帆柱22に固定され、上方を梁23に固定されている。図1では、帆柱22aと帆柱22bとの間に張られた帆21が風Wによって帆柱22c側に膨らみ、回転体31全体を上方から覆っている。
帆21は、上方よりも下方の幅が広がっており、このことにより、風を受けたときに下方の方が大きく膨らむので、面が下向きに傾き、風が下向きに変向する。
回転体31は、風誘導部2からの風を受けて回転し、回転軸33が連結された発電機41を駆動し、発電させる。
【0046】
図2(a)は、本発明の実施形態に係る回転体31の平面図であり、図2(b)は回転体31の側面図である。また、図3(a)、(b)は、図2(b)のA−A断面図である。
回転体31は、風誘導部2からの風に面する円板32と、円板32の外周領域に立設された複数の羽根板34と、羽根板34の上側に接続されたリング形状のリング板35を有している。リング板35は円板形状の外周部分だけからなっている。羽根板34は、円板32の中心軸と略平行に立設されている。
リング板35の内径域が風を取り込む流入口となる。
【0047】
図3(a)では、回転円周の等分数Mを36として、36枚の羽根板34を配置している。
図3(b)は、回転体31への推進力作用を説明する水平断面図である。回転体31の流入口から流入した風、つまり空気が流出口から流出する。その時に、回転体31に推進力Fが作用し、回転体31は回転方向Hに回転する。ここでは、回転体31は時計回りに回転する状態となっている。
【0048】
図4(a)および(b)は、回転体31の羽根板34の断面形状の説明図である。
羽根板34は、円板32の径方向に対して傾けて設けられており、任意の羽根板34aの外側端Bと円板32の中心とを結ぶ線上に、該羽根板34aの内側に隣接する羽根板34bの内側端Cが位置している。
このように、外側端Bと円板32の中心とを結ぶ線上に内側端Cを配すると、円の中心から見た場合、それぞれのC点は隣の円弧のB点と重なり、全ての羽根により遮られて外が見えない状況となる。その結果、回転体31に流入した全ての風は何れかの羽根に作用しながら流出するので、風のエネルギーの取りこぼしが抑制される。なお、風が流出する流出口幅は、それぞれ隣り合う2枚の羽根において、任意の羽根板34の外側端B点から内側の羽根板34への垂線の交点であるD点と、B点との間の長さBD(D3)とする。また、流出口面積は、流出口幅と羽根板34の長さの積で得られる。流出口面積に羽根板34の枚数Mを掛けた値を流出口総面積(S2)とする。
また、以下の説明において、任意の羽根板34aの外側端Bから、該羽根板34aの内側に隣接する羽根板34bの内側端Cまでの距離BC(D1)を1としたときの、任意の羽根板34aの外側端Bから該羽根板34aの内側に隣接する羽根板34bの外側端Aまでの円弧距離(D2)の比をNとする(N=円弧距離AB(D2)/距離BC(D1))。Nは、直接的には外周に対する羽根板34の傾き度合いを示している。
【0049】
図4(a)は、羽根板34の断面形状を直線とした場合を説明している。断面形状が直線形状の場合、内側に隣接する羽根板34bの内側端Cから羽根板34aへの垂線である線分CEのところで最も狭くなる。羽根板34aの外側端Bを含む線分BDのところでは線分CEのところに比べて広がっている。
図4(b)は、羽根板34の断面形状を緩やかな湾曲線とした場合を説明している。断面形状が湾曲形状の場合、任意の羽根板34aと羽根板34bとの距離を、どこのところでもほぼ同じとすることができる。
このように、羽根板34の断面形状は、直線形状に比べて湾曲形状の方が、二枚の羽根板34の間を流れる風の流況が安定して好ましい。なお、湾曲形状の曲率は、円板32の外周曲率の1.5倍程度である。
【0050】
<羽根板34とNについて>
羽根板34とN(=D2/D1である)に関して、リング板35の幅Y、羽根板34の枚数Mおよび羽根板34の長さLとの関係から説明する。
前述の円弧距離AB(D2)は、円板32の外周をM等分した長さであり、距離BC(D1)はリング板35の幅Yである。よって、円板32の半径をRとすれば、2πR=M・N・Yの関係が成り立つ。
図4の△ABCと△BDCは、相似形として近似できる。よって、羽根板34の幅TはN(D2/D1)の二乗に1を加えた数値の平方根の値にリング板35の幅を乗じた値で近似できる。
図4の線分BDである流出口幅(D3)はNを大きくするほど広がるが、Y(リング板35の幅)を一定とすればM(羽根板34の枚数)を減らさねばならない。流出口総面積(S2)への影響は、Nの増による増大よりも、Mの減による減少の方が多い。結果として、Nを大きくする場合は、同じ流出口総面積を確保するためにはL(羽根板34の長さ)を増さねばならない。必要な羽根板34の長さは、Nの二乗に1を加えた数値の平方根の値にほぼ比例する。
このように、Nは、外周に対する羽根板34の傾き度合いを示す他に、羽根板34の幅Tおよび羽根板34の長さLの尺度ともなる。その結果、Yの値が定められた下に、Nを回転体31の羽根形状寸法の適正を評価する指標値として用いることができる。
<リング板35の幅(Y)について>
回転軸に直交する断面における羽根板34の幅に関係するリング板35の幅に関して記述する。
回転円周りに配置する羽根板34は、幅が短い方が内外径差の少ないリング板35の範囲内に収めることができる。結果として、同一外径に対して風の流入口の面積であるリング板35の内径域の面積を広くとれて、より多くの風を取り込める。このことから、支障のない範囲内で、羽根板34の幅を短くしてリング板35の幅を狭くする方が風を多く流入する点で良い。ただし、構造面からある程度の幅を確保する必要があるので、リング板35の幅は円板の外径の5%前後が適当である。
<羽根板34の幅()と長さ(L)について>
リング板35の幅が狭くなることは流出口幅BD(D3)が狭くなることになる。よって、同じ流出口総面積(S2)を確保するためには、羽根板34の長さ(L)長くするか羽根板34の枚数(M)を多くすることになる。この場合の考慮事項を以下に記す。
羽根板34の長さが長い(Nが大きい)と、回転体31の高さが増高して安定性に支障が生じたり、部材面積が増えて製作経費が増えたりすることになる。
羽根板34の枚数を多く(Nを小さく)すると、一枚当たりの羽根板34の幅が短くなる。羽根板34の幅が短いと、風を受ける面積が狭くなり受風状況が不安定になるので、推進力を得にくくなる。また、構造面からは、羽根板34の幅が短いほど前述の羽根板34の回転方向に対する剛性が低下する。
【0051】
<適切なN(=D2/D1)の値について>
この発明の実施例において回転体31の形状寸法は以下の如く定めることができる。用いる環境によって制限高さ、材質強度等の設計条件の違いがあることから、適切な回転体31の形状寸法は、ある程度の幅を持たせておくことが望ましい。ここにおいて、先述したように、直接的には羽根板34の傾きを示すNを、羽根板34の枚数M、幅Tおよび長さLを含む形状寸法の幅の代表指標として用いる。
表1は、リング板35の幅Yを円板の外径2Rの5%(Y=0.1R)とした場合を例に、Mを12から90まで6刻みで増やした場合のM(羽根板34の枚数)、N(=D2/D1)、L(羽根板34の枚数)/R(円板の半径)およびT(羽根板34の幅)/R(円板の半径)の数値を求めたものである。なお、前提として、流出口総面積S2を流入口面積S1(リング板35の内径円の面積)と同じとしている。
【0052】
【表1】
これから、Nが2.1程度以上(Mは30未満)であると、Lが円板の外径の半分以上の長さとなり回転体高さが高くなり不安定さを増す一方で、羽根板34の幅は外径の12%程度あり、それ以上増す必要が無い長さであることが分かる。よって、高さに関してNは2.1以下が適当であり、1.9以下がさらに好ましく、1.7以下が最も好ましい。なお、Nが2.1の場合の回転体高さをもう少し低くしたいが、そのことに関しては段落0053及び0054で触れている。
一方、Nを小さくするメリットは回転体高さを抑えることであるが、Nを小さくし過ぎると、羽根の幅は短くなり強度低下が課題となる。また、一単位の流出口の面積が狭くなり、羽根の傾きは外周に対し立った状況となってくることから、短い羽根幅での受風上の不安定性、内側の羽根板34の面への逆回転方向の作用力が大きくなってくる。そして、Nが1.2程度以下では羽根の長さの逓減度が少なくなる。強度と流況の安定性等に関してNは1.2以上が適当で、1.4以上がさらに好ましく、1.6以上が最も好ましい。
これらを勘案して、N(=D2/D1)は1.2〜2.1程度であることが良好である。なお、材質等の違いからリング板35の幅Yを外径の3%〜7%とした場合においても、羽根の強度および高さを勘案の上、Nを1.2〜2.1の範囲から定めることにより、適切な回転体形状寸法を選択することができる。
【0053】
<風の集積と羽根板長さ(L)>
次に羽根板34の長さ(L)について検討する。
羽根板34は、長いほど風を受ける面積が広くなり、風による推進力が大きくなる。しかしながら、本発明での風力回転装置1では、下向きの風が円板32に当たって周囲に拡散する時に風は円板側に集積され、その状態の風を羽根板34が受けるので、風による推進力の大部分は、羽根板34のうちで円板32に近い部分で発生する。羽根板34の内で円板32から離れた部分は風による推進力をあまり受けない。羽根板は風により推進力を得る一方で、同じ羽根板の反対面では回転に抵抗する力が作用する。このことから、推進力をあまり受けない部分の羽根は削除することが良い。また、羽根板34が長すぎると、羽根板34の重量が増え、回転体31の回転には障害となる。
このような状況は羽根の長さが長いほど顕著になると考えられるので、Nが3.7の条件の下で、羽根板34の長さ(L)を変え、流出口総面積(S2)が流入口面積(S1)に対する割合Pをかえて、発電機が発電する電圧、電流を測定した。
試験設備を図5に示し、試験結果を下記に示す。
回転体31の上からファンで送風し、発電機41の電圧及び電流を測定した。発電機41とテスターの間に抵抗は入れていない。尚、電圧と電流はテスターのモードを切り替えて別々に試験をして測定した。
【0054】
【表2】
*1 回転体外径:25cm
*2 供給風速:毎秒約3.2m
*3 N=3.7

その結果、流出口総面積が流入口面積(リング板35の内径円面積)に対する割合Pが50〜70%の範囲が良好で、60%付近が最もよいことが分かった。
また、Nを2.5として行った試験結果では、Pは70%付近が良かった。
なお、Nが小さく羽根の長さがもともと短い場合は、風の集積を考慮して羽根板の長さを縮小する必要はなくなる。
表1は、流出口総面積(S2)を流入口面積(S1)と同じとして求めている。しかし、これらの試験結果から、適正な回転体31の形状は、Nの値に応じて、流出口総面積(S2)を流入口面積(S1)に対して減じて羽根の長さ(L)を求めることが良い。
長さを求めるに当たっての数式を以下に示す。
L=S2/(D3・M)=P・S1/(D3・M)
=P・S1/(N/(N+1)1/2・Y・M)
=P・S1・(N+1)1/2/(M・N・Y)
=P・S1・((D2/D1)+1)1/2/(2πR)
=P・π・(R−Y)・((D2/D1)+1)1/2/(2πR)
ここに、
P=S2/S1
S1=π・(R−Y)
S2=D3・L・M
D3=N/(N+1)1/2・Y
N=D2/D1
M・N・Y=2πR
0.7≦P≦1.0
これらの数式はこの発明の実験的知見に基づくものである。
【0055】
<風力回転装置>
上述した回転体31の形状に限定されないが、回転体31を備えた風力回転装置1を用いた回転駆動装置4について詳述する。
回転体31から回転駆動装置4へ動力を伝える形態に関して記述する。
回転駆動装置4とは、軸を中心とする回転運動を利用して機能を発揮する機械を指し、代表的には発電機、ポンプおよび圧縮機がある。その他にも、スクリュー、ファン、車輪等々、多く有る。通常、回転駆動装置4はシャフトから回転力を得ており、回転駆動装置4を稼働させるためにはシャフトに回転力を伝えることとなる。ただし、発電機においては、シャフトとコイルを回転させずに、コイルに対してマグネットを回転させて発電するアウターローター式の発電機もある。
【0056】
<ハウジング>
回転体31をハウジングに内蔵することにより、回転体31の回転運動への周囲からの接触を回避することができる。
ハウジングを備えた風力回転装置1の斜視図を図6に示し、ハウジング5の平面図を図7(a)に、側面図を図7(b)に示す。
ハウジング5は、リング板35の上側に設けられた開口板52と、回転体31を下から支持する下板53と、回転体31の側方を保護する側面部54を有している。
開口板52には回転体31への風を通す開口部51が開けられている。開口部51及び側面部54には通風性部材であるネットやスクリーン等を設けてもよい。図7(b)では側面部54でのネットの記載を省略している。
開口板52および下板53には、風誘導部2とハウジング5を一体化させるために、帆柱22を通す貫通孔55が設けられている。
なお、開口部51を通風性部材で覆う場合は、リング板35の内周側に通風性部材を入れ込む状態とすることにより帆21の垂らし込みが可能となる。
開口板52には、帆21の下辺の端部を開口板52に固定するための固定部材56が3か所に配置されている。開口部51に通風性部材を設ける場合には、通風性部材を下側に窪ませることにより、帆21の下辺が触れない状態にすることができる。
【0057】
<風誘導部>
図8は、風誘導部2に用いる帆として、左右の端側の面(以下、側部面と記す)を三角形の面とした帆の展開図である。帆は、帆の正面21Cと、右側部面21Rおよび左側部面21Lの3面に細分される。その展開図は、正時からの時計周りに順次に、上辺210、右辺211、右下辺212、中下辺213、左下辺214、および左辺215によりなる6辺の平面である。製作においては、この他に、帆柱および梁に連結するためののりしろが必要となる。
上辺210は、梁23の長さと同じとして梁23に固定する。右辺211は、右側帆柱22aの頂部から回転体31のリング板35に触れないまでの長さとして、右側帆柱22aに固定する。また、左辺215は、左側帆柱22bの頂部から回転体31のリング板35に触れないまでの長さとして、左側帆柱22bに固定する。
上辺210と左辺215、および上辺210と右辺211は、それぞれ鈍角をなす関係とする。右下辺212、中下辺213および左下辺214の3辺よりなる下辺は、中下辺213を上辺210より短くし、下辺全体で下方に凸の線形となる関係としている。また、下辺は、風を受けて孕んだ時に、帆の裾が回転体31のリング板35の内径域に納まる長さとしている。
左辺215、右辺211、および上辺210が、それぞれ左側の帆柱、右側の帆柱、および梁に連結されており、下辺212、213、214の十分な弛みと、左辺215および右辺210がそれぞれ上辺210に対して鈍角をなしていることにより、帆全体が風を受けて孕むことができる。
上辺210と右辺211の交点P1点と、右下辺212と中下辺213の交点Q1点とを直線で結び、上辺210と左辺215の交点P2点と、左下辺214と中下辺213の交点Q2点とを直線で結べば、帆の右側部面21Rおよび左側部面21Lは三角形の面となり、帆21の展開面が平面となるので製作が容易である。この形状の帆を、特別に平面帆と呼ぶこととする。
なお、図8等では風誘導部2を構成する他のパーツ(2点鎖線で記載)との位置関係を示している。
【0058】
図9は、風誘導部2に用いる帆の1面として、側部面を概1/4楕円形状とした帆を平面状に裁断した展開図である。平面帆が一枚の平面的な幕によりなっているのとは異なり、側部面で概1/4楕円形状をなしている箇所の曲線部を縫合し、曲面的形状とする必要がある。
帆の端部の輪郭は、風上から見た帆の縁が、正時からの時計周りに、上辺210、右辺211、右下辺212、中下辺213、左下辺214、および左辺215によりなっている。輪郭上の各辺は平面帆の場合と相違ない。
帆の面の形状は、右辺211の長さを長軸半径とし、右下辺212の長さを短軸半径とした、概1/4楕円面の形状の部分を帆の右側部面21Rとする。同様に、左辺215の長さを長軸半径とし、左下辺214の長さを短軸半径とした、概1/4楕円面の形状の部分を帆の左側部面21Lとする。そして、上辺210、中下辺213、右側部面21Rの楕円曲線辺、および左側部面21Lの楕円曲線辺を4辺として曲面的に張られる部分を帆21の正面21Cとしている。その結果として、右側部面21R、左側部面21Lおよび正面21Cの3面により、平面帆に比べてより立体的に深く孕むことができる。このように孕んだ時の帆の風下方向鉛直断面を概1/4楕円面とすることにより、水平方向からの風が滑らかに鉛直下方へ誘導されることになり誘導効率が向上する。
【0059】
図10(a)〜(d)は、三角形の側部面を2面で共用する側部共用三面帆を用いた風誘導部2における、無風時の3面の帆の概要図である。帆の側部面21R(21L)の共用と、各帆の中下辺213により構成される三角形が重心側に寄った状態が明確に示されている。図10(a)は全体の状況、図10(b)〜(d)は、三つの面の帆のそれぞれの範囲を太い実線で示している。なお、頂部連結部材は省略している。
【0060】
図11は、側部面が三角形の側部共用三面帆の展開図である。側部共用三面帆とするには、3面の帆において、上辺210と右辺211(仮想線)の交点および右下辺212(仮想線)と中下辺213の交点を結ぶ辺216を、隣り合う帆の上辺210と左辺215の交点および左下辺214と中下辺213の交点を結ぶ線217に縫合する。その結果、各帆にとって必要な右辺211と右下辺212の2辺を構成2辺とする三角形の範囲を、各隣りの帆の左辺215と左下辺214の2辺を構成2辺とする三角形の範囲と共用することができる。
側部面が三角形の側部共用三面帆は、後述する側部面が概1/4楕円面の側部共用三面帆に比べて、風の誘導性において劣るが、製作が容易であることが利点となる。
【0061】
図10(a)〜(d)および図11の説明では、側部面が三角形である側部共用三面帆を用いた。しかし、側部面が三角形である帆は、斜め方向からの風を受ける場合は帆の上位部では孕みが浅いために、風向を下向きにする効率が低下する。この点を解消するには、側部面を概1/4楕円面とすることの他にも、概1/4楕円線を折れ線で近似し側部面を折れ線で囲まれた形状として孕みを深くすることにより行える。図12は、側部面を概1/4楕円面とした側部共用三面帆を用いた風誘導部2における3面の帆の無風時の概要図である。図10に比べて、風向を下向きにする効率が向上することが推察できる。
【0062】
孕みを深くする方法として、正面21C部分を帆の上側の範囲に限定することが考えられる。しかし、その場合は、風を下向きに誘導する機能が低くなる。そして、左右対称の帆で捉えられた左右からの風は、それぞれ水平方向に帆の中心に向かい、互いに干渉し合い風のエネルギーを減勢させてしまう。
図13は、側部面を折れ線面形状とし、中下辺を無くし、正面21C部分を帆の上側の限られた三角形範囲に収めた形状とした側部共用三面帆の無風時の概要図である。正面21C部分を少なくし過ぎると、風を下向きへ変える誘導機能が低くなることが窺える。
【0063】
図14〜17は、側部共用三面帆に関して、それぞれ無風時、正面風時、後面風時および斜め風時における、各帆の状態を示すものである。各帆の右下辺212、中下辺213、および左下辺214よりなる下辺の上から見た状態を、それぞれ太い実線により描写している。
孕んだ帆の下辺とリング板35の内径の円とで囲まれる風上側の空間が、実際に流入口として機能する流入口面積(実効流入口面積)となる。例えば、図15で斜線で示す部分である。上述した羽根板34の長さの段落0052で「流出口総面積が流入口面積(リング板35の内径円面積)に対する割合Pが50〜70%の範囲が良好で、60%付近が最もよいことが分かった。」としたが、流入口面積として実効流入口面積を用いてもよい。
また、帆の下辺が回転体31の流入口Kの範囲からはみ出すことを防止するための固定部材56により、下辺の孕みが流入口Kの範囲内に抑えられている。
【0064】
図18は、4面の帆による風誘導部2を用いた風力回転装置の、正面風時の帆の裾の状態を示している。各帆の右下辺212、中下辺213、および左下辺214よりなる下辺の、上から見た状態を、それぞれ太い実線により描写している。
3面の帆による風誘導部2を用いる場合に比べて、実効流入口面積は狭められている。これは、帆の裾の放物線の開きは、円周を面数により分割して得られる一つの弦の長さに影響されることによる。4分割の場合は、3分割の場合に比べて弦の長さは短くなる。
【0065】
図19(a)、(b)は、帆21および回転体31における、空気Wの流れの概況図である。(a)は回転体31が回転していない場合、(b)は回転している場合である。回転体31が回転すると、空気Wの流れの障害とならないので、流出口から流出し易くなる。結果として、帆21の下辺218と回転体31のリング板35の間からの、空気Wの逃げの抑制にもなる。
【0066】
図20は、回転体31の流入口Kが広く空いていることから、無風時は、帆の中下辺213を中心とする下辺218の一部を、流入口Kの内部まで垂らしこむことができることを描写したものである。太い実線が無風時に下辺218が垂れ下がった状態、太い破線が正面風時に下辺218が吹き流された状態を示している。
【0067】
図21は、ビル風のような正逆二方向の風に対応する風誘導部を用いた風力回転装置1の全体を示す概要図である。右側帆柱22aと左側帆柱22bの各頂部を梁23で連結し、両帆柱の間に正面21C、右側部面21Rおよび左側部面21Lによりなる1幕の帆を張る。このことにより、2本の帆柱、1本の梁および1幕の帆による風誘導部を構成する。2本の帆柱の基礎を結んだ線の中間点の鉛直線上に、回転体31の円の中心を配置する。
また、ビル風のような正逆二方向の風に対応する風力回転装置として、図21のように1枚の帆を用いるのでなく、それぞれ別の帆柱に張られた対向する2枚の帆を用いてもよい。正方向からの風を1枚の帆が受け、逆方向からの風を他の1枚の帆が受ける。1枚で行う場合にくらべ、帆柱を風上側へ設けることができることから帆の膨らみが増して風誘導性が向上する。また、帆が破損し難くなる。
なお、一方向からの風であれば、予め風を受けて孕んだ形状に帆21の全体もしくは一部を固定しておくことが考えられ、その場合は固定部の材質として積極的にメタルを利用することができる。帆21の一部の固定では、帆柱22や梁23の近傍の帆21の部分が固定の対象となる。その際には、帆柱22や梁23と一体化した形状とすることも可能である。
【0068】
<風力回転装置についてのその他の考察>
帆の下辺を構成する左下辺、中下辺および右下辺の各辺は、直線状、曲線状、もしくは折れ線状のいずれかの辺としてよい。また、風の有無に拘わらず、下辺が回転体31に接触しないことを考慮した範囲内で、下方に広げることにより、風の捕捉効率の向上を図ることができる。
なお、各帆の中下辺の長さをゼロとすることも考えられる。中下辺の長さをゼロとした場合、側部面を規定するQ1、Q2の点は、中下辺との交点ではなく、左下辺と右下辺との交点となり同一となる。この場合は、正面は帆の上部における三角形状の部分として形成される。
【0069】
風誘導部の基本形では3幕の各帆が独立してある。そのため、無風状態では各帆が鉛直に垂れて、3本の帆柱の位置を頂点とする三角形の範囲が、3幕の帆により囲われた状態となる。この状態は、回転体31の流入口が囲われていることでもあり、機敏な風の取り込みが行えない。また、帆の高さは、帆の上辺が連結される梁の標高からリング板35の標高までの長さに制限される。そのため、帆が風下になびいた場合に、帆と回転体31の上面との間の隙間が大きくなり風が逃げ易くなる。よって、これらの改善を図る必要がある。
【0070】
風誘導部の基本形を構成する3幕として用いる各帆は、1本の帆柱を共用する隣り合わせの2幕の帆において工夫することができる。すなわち、図10の風誘導部2のように外側から見た帆柱に対して、右側に位置する帆の左側部面を形成する、左辺と左下辺を(面を構成する)2辺とする形状の左側部と、左側に位置する帆の右側部面を形成する、右辺と右下辺を(面を構成する)2辺とする形状の右側部とを、帆柱に対して線対称の形状とすることができる。
その結果、左側部となる帆の範囲と、隣り合わせる帆の右側部となる帆の範囲とを、背面同士でぴったりと重ね合わせることができる。つまり、左側部の範囲と、隣り合わせる帆の右側部の範囲とを、一枚の帆の範囲として共用することができる。
この共用を、各帆柱を挟んで隣り合わせる各帆の全てにおいて行う。その結果として得られる帆の全体を、上述したように側部共用三面帆とする。そして、風誘導部を構成する帆とする。
【0071】
側部共用三面帆では、真上から見て各帆の中下辺により構成される三角形ができる。この三角形において、各帆の中下辺の長さを上辺の長さより一律の割合で短くする。その結果、3本の帆柱の位置を頂点としてなる三角形と重心位置を同一鉛直線上としながら、各帆の下辺全体が内側に寄った状態となる。
このことにより、何れの帆においても、中下辺の中間点を中心とする下辺の一部を、回転体31の流入口の内部にまで垂らしこませることができる。その結果、帆の高さを増すことができ、帆と回転体31の上面との隙間を少なくして、風の捕捉効率を向上させることができる。
また、回転体31の流入口の周囲が、全面的に帆で囲われる状態が無くなる。その結果、機敏に流入口から風を取り入れることが可能となるとともに、風向の急変にも対応しやすくなる。
【0072】
帆柱の先端部を連結する連結部材を、曲線梁もしくは折れ線梁とする場合では、帆の上辺の線形を、帆柱を頂点とする三角形の重心側に寄せることにより、帆の下辺全体を内側に寄せた状態とすることができる。極端な状態として、各帆の上辺を左帆柱〜3本の帆柱による三角形の重心〜右帆柱を結んだ折れ線上に配置することが考えられる。これは、前述の帆の上部における三角形状の正面部分を無くし、帆を左右の側部面だけにした状態である。しかし、この配置は風を下向きに誘導する機能が低く、左右対称の帆で捉えた左右からの風は、それぞれ水平方向に帆の中心に向かい、互いに干渉し合い風のエネルギーを減勢させてしまうことから好ましくない。
【0073】
ここで、帆の面数を4面とした場合の、風誘導性における効率低下に関して触れることとする。
一つの理由は、面の捕捉風量の減少である。
各帆柱が正三角形の各頂点の位置にある3本の場合、正面風を受ける幅として、左右の各帆柱とリング板35の円の中心を結んでできる中心角は120度である。一方、各帆柱が正方形の各頂点の位置にある4本の場合は、同様の中心角は90度である。リング板35の円の中心と帆柱の距離を等しくした場合、正面風を受ける幅は、帆柱を3本とし帆の面数を3面とした方が大きくなる。その結果、多くの風量を取り込める。
二つ目の理由は、風向に対する捕捉風量の変動度合いの差である。
帆が捉えることができる風の幅は、任意の風向きにおいて、その風向きに対する帆の風対面投影面積に相当する。帆が3面の場合に捉えることができる風の幅の割合は、正三角形の一辺の長さを1とすれば、正面風(当該帆の2本の帆柱を結んだ線に対して垂直であり、残りの1本の帆柱と反対方向からの風)および後面風(正面風の方向から180度回転した方向からの風)の場合の1から斜め風(正面風より±30度回転した方向からの風)の場合の0.87(正三角形の辺に対する高さ相当)の間での変動である。
一方、帆が4面の場合は正方形の一辺の長さを1とすれば、正面風の場合の1(あるいは0.69)から斜め風(正面風より±45度回転した方向からの風)の場合の1.44(あるいは1)(対角線相当)の間で変動する。
また、帆の合計面積を同じとすれば、3面の帆は4面の帆に比べて一辺が約1.3倍になり、風を捉える幅を増すことができる。
このように、風誘導部において3面の帆に対して4面の帆とすることのデメリットは、面の捕捉風量が減少すること、風向による捕捉風量の変動が大きいことが挙げられる。
なお、3面の帆の場合の記述における後面風は、正面に該当する面の帆を除く2面の帆により風を受ける。これら2面の帆にとっては、後面では無く、2面の内の1面ではそれらの正面風より60度、および残りの1面では−60度回転した方向からの風である。
【0074】
風誘導部において、斜めからの風を受ける場合に、帆の下辺の孕みが、回転体31の流入口であるリング板35の内径域を、大きくはみ出してしまう。このことを防止するために、下辺の帆柱近傍範囲の移動を規制する。この規制方法は、帆柱から回転軸方向に伸ばした下辺の、帆柱から回転体31の流入口の最寄りの縁までに相当する範囲を固定して行う。方法として、前記開口板に取り付けられた固定部材に、帆の下辺の両側の裾を固定することが望ましい。固定方法は、固定部材により帆の裾を挟み込む方法、あるいは、袋状にした帆の裾に固定部材を通す方法等が考えられる。固定箇所に応力が集中することから、固定箇所の帆の補強と、固定部材の開口板への確実な取り付けを行う。
風誘導部においては、右下辺に対する固定部材は、右隣の帆の左下辺に対する固定部材でもある。また、左下辺に対する固定部材は、左隣の帆の右下辺に対する固定部材でもある。
なお、固定部材により固定された範囲の下辺近傍の帆の部分は、後面風を受けた場合に風を逃がす流れ面の状態になる。しかし、近傍でない帆の大部分は受け面の状態に孕むので風を充分に捉えることができる。
【0075】
風力回転装置の全般に対するその他の配慮事項を以下に記す。
(1)風誘導部の帆柱は重量構造物を支えるものではないので、その設置は格段に容易になる。帆柱の先端からステイを設けて、風誘導部の安定性向上を図ることが望ましい。
(2)風誘導部と風力回転ユニットを一体化させることにより、風力回転装置の全体的な剛性と安定性を増す。
【0076】
風力エネルギーを利用するに当たっては、烈風対策が不可欠である。本発明の場合、風圧を最も受けるのは風誘導部の帆であり、烈風対策として以下の方法が考えられる。
先ず、台風など襲来が予測できる場合に、帆は基盤近傍にあることから、取り外し等の事前対策が比較的容易である。
また、帆の上げ下げを行える仕組みとしておけば、さらに簡易に事前対策が行える。
突風の発生が予測できない場合は、帆をビニールシートのような比較的弱く安価な材料で製作し、破損を許容しておくこともできる。
なお、回転体31の過剰回転に対しては、事前に開口板の開口部を適度に覆って風の流入量を抑制することもできる。
【0077】
本発明の一つである回転体31は、風力を回転力に変換する上で優れた3点の特徴を羽根板34に関して有している。
つまり、
1)流入した風を、羽根板34の隙間から放射方向に漏らさず、全て捉えて利用する羽根板34の配置。
2)流入口面積を多く確保するために配慮した羽根板34の傾きと幅。
3)空気を集積された状態で流出させることを考慮して短くした羽根板34の長さ。
である。
【0078】
本発明の構成要素である回転体31と風誘導部は、以下のとおり相互に補完し合う一体不可分の関係にある。
(1)回転体31は、リング板35の内径域から回転体内部に風を取り込み、その風の全てが回転円周りの羽根を通過することとなる。このため、取り込んだ風のエネルギーを余すことなく利用できる。ただし、回転円面全域で風を受けるため、回転体31に作用する風圧は大きくなる。結果として、回転体31を水平回転軸の回転体31として支柱の先端に据え付けて利用することが困難となる。つまり、プロペラ風車に増して、支柱の安定性確保、風向への対面性確保が困難となる。
回転体31に大きな風圧が作用しても、支持安定性を問題なく確保したい。そのために、回転体31を、流入口を上に向けて安定した基盤により支えることとし、その流入口へ風を送る装置とした。ただし、この装置は、任意な水平方向の風を鉛直下向きに風向を変える風誘導部無くしては成り立たない。
(2)風誘導部は、受風面積を回転体31の流入口面積より広くとる集風機能を備えることができる。集風された風は、風の流れを適切に下向きの流れへ変える形状の帆により集積され、単位容積当たりのエネルギーを高めた状態で帆の裾から回転体31へ送り込まれる。このように、回転体31は、集風された風のエネルギーを効率的に取り込むことができる最適な回転体31である。
(3)風誘導部では、吹き流される帆の下辺と回転体31の上面との隙間から風が漏れてしまうことが危惧される。これに対し、風誘導部の帆は、無風状態において、帆の下辺の中心部を回転体31の流入口内部まで垂らし込んで長くすることができる。その結果、風を捉えて吹き流される帆の下辺と回転体上面との隙間を少なくし、この隙間からの風の漏れを抑制する。
(4)風誘導部に用いられる側部共用三面帆は、水平な任意方向からの風を的確に捉えることができる。また、回転体31の流入口の周囲を全面的に帆で囲ってしまうことが無い。その結果、風向の急変においても、回転体31へ風を円滑に誘導する機能が有る。
【0079】
回転体31によって駆動される、発電機以外の駆動装置について説明する。
<風力水循環装置>
風力回転装置1の風力で駆動される風力水循環装置42について説明する(図22参照)。
風力回転装置1が台船421の上に載せられている。
回転体31の回転軸33にスクリュー422が軸支されており、スクリュー422は台船421上の軸受付支持台423と台船421を貫通して水中に伸びている。スクリュー422は、上部に開口424を有した揚水管425に囲まれている。台船421は浮き426を備えている。
スクリュー422の回転により、下方の水が揚水管425内を上昇して開口424から周囲に拡散される。また、スクリュー422の逆回転により、上方の水が下方に拡散される。
風力水循環装置42により水循環をさせることによって水質の改善を図ることができる。
【0080】
<風力曝気装置>
風力回転装置1の風力で駆動される風力曝気装置43について図23(a)を用いて説明する。
風力曝気装置43は、風力回転装置1の回転体31に接続されたエアー圧縮機431と、圧縮されたエアーを保留するエアータンク432と、空気を水中に曝気する散気器433と、エアー圧縮機431、エアータンク432、散気器433を連通連結するエアーホース434とを備えている。
風力曝気装置43を水上に設置する場合を図23(b)に示す。風力回転装置1、エアー圧縮機431及びエアータンク432が浮き435を備えた台船436に載せられている。
これらの風力曝気装置43により水上養殖の溶存酸素供給、下水、排水処理の散気処理、閉鎖水域の水質浄化を図ることができる。
なお、散気器433を備えずに風力曝気装置を利用することも考えられる。その方法は、例えば、水中に配置されたエアータンクに圧縮空気を蓄積した後に、大量の圧縮空気をエアータンクから一気に放出させることにより、水循環流を発生させるものである。
【0081】
上述した風力水循環装置42及び風力曝気装置43は、燃料経費が不要であり、感電の虞もない。また、安定した風力が期待できない場合は、風力以外の動力の装置との併設利用により稼働の継続性を確保しつつ、総体として燃料経費の節約を図ることが可能となる
【0082】
本発明に係る回転体31及び風力回転装置は、前述の実施形態に限定されるものでなく、例えば下記のようなものも本発明に含まれる。
(1)任意の羽根板34の外側端と円板の中心とを結ぶ線上に、該羽根板34の内側に隣接する羽根板34の内側端が位置していなくてもよい。内側に隣接する羽根板34の内側端は、外側の羽根板34の外側端と円板の中心とを結ぶ線上よりも、外側の羽根板側に周方向で近づいた所でも、外側の羽根板34から周方向で離れた所に位置してもよい。
(2)実施形態では風の補足性の良い柔軟なシートによる帆を主体に記述した。しかし、風の捕捉性は劣るものの強度、耐久性がより高い剛な帆を用いることも可能である。例えば、図12の形状を剛な材料で製作することによる。よって、帆の材質に特に制限はなく、布、樹脂、メタル等、種々の材料を用いることができる。
(3)帆の固定手段は、帆柱に限定されず、帆を固定できるならどのような手段でもよい。
【産業上の利用可能性】
【0083】
本発明は、回転体、風力回転装置、風力発電装置、風力水循環装置、風力曝気装置等に係り、特に風力回転装置は種々の駆動装置に用いることができる。製作費用も安価で風以外の駆動エネルギーが不要であり、排出物もないので環境を汚染することもない。
【符号の説明】
【0084】
1 風力回転装置
2 風誘導部
21 帆
22 帆柱
23 梁
3 回転体部
31 回転体
32 円板
33 回転軸
34 羽根板
35 リング板
4 回転駆動装置
41 発電機
42 風力水循環装置
43 風力曝気装置
5 ハウジング
W 風
図1
図2
図3
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図23