(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6789611
(24)【登録日】2020年11月6日
(45)【発行日】2020年11月25日
(54)【発明の名称】ガソリン直噴用フューエルレールの製造方法
(51)【国際特許分類】
F02M 55/02 20060101AFI20201116BHJP
B23K 1/00 20060101ALI20201116BHJP
B23K 1/19 20060101ALI20201116BHJP
B23K 31/02 20060101ALI20201116BHJP
C22C 38/00 20060101ALI20201116BHJP
C22C 38/14 20060101ALI20201116BHJP
B23K 101/06 20060101ALN20201116BHJP
B23K 103/04 20060101ALN20201116BHJP
【FI】
F02M55/02 320W
F02M55/02 350A
B23K1/00 330G
B23K1/19 J
B23K31/02 310G
C22C38/00 301Z
C22C38/14
B23K101:06
B23K103:04
【請求項の数】2
【全頁数】6
(21)【出願番号】特願2015-9969(P2015-9969)
(22)【出願日】2015年1月22日
(65)【公開番号】特開2016-133100(P2016-133100A)
(43)【公開日】2016年7月25日
【審査請求日】2018年1月11日
【審判番号】不服2019-12114(P2019-12114/J1)
【審判請求日】2019年9月12日
(73)【特許権者】
【識別番号】000120249
【氏名又は名称】臼井国際産業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000501
【氏名又は名称】翠特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】林 耕一
【合議体】
【審判長】
金澤 俊郎
【審判官】
北村 英隆
【審判官】
鈴木 充
(56)【参考文献】
【文献】
特開2005−226623(JP,A)
【文献】
特開2008−297588(JP,A)
【文献】
特開2010−106353(JP,A)
【文献】
国際公開第2014/153398(WO,A1)
【文献】
特表2016−518521(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02M55/02
C22C38/00,C22C38/26
C21D9/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料圧力が30MPa以上で使用されるとともに、ロールフォーミング加工により成形加工された鉄鋼製の溶接管にて形成されるガソリン直噴用フューエルレールの製造方法において、上記溶接管を、Cが0.18%〜0.20%、Siが0.20%〜0.21%、Mnが1.25%〜1.63%、Pが0.010%〜0.015%、Sが0.002%、Nbが0.025%〜0.026%、Moが0.25%〜0.38%の化学成分を含み、フェライト組織、又はフェライト−パーライト組織が形成された鉄合金にて形成するとともに、板厚tと外径Dとの比t/Dを0.2以下とし、この溶接管を、炉中で1000℃以上に昇温するとともに、この温度から室温まで徐冷を行う炉中ろう付け加工を施すことによりベイナイト組織を析出させ、上記炉中ろう付け加工後の引張強度、0.2%耐力、及び硬度の数値を、上記溶接管への成形加工前よりも高いものとすることを特徴とするガソリン直噴用フューエルレールの製造方法。
【請求項2】
燃料圧力は、30MPa〜80MPaであることを特徴とする請求項1のガソリン直噴用フューエルレールの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガソリン直噴用のフューエルレールの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来のガソリン直噴システムの燃料圧力は20MPa以下であり、フューエルレールの厚さを確保することにより耐圧強度を確保している。このような燃料圧力の領域では、特に高強度材を用いる必要はなく、フューエルレールも比較的肉薄であることから、溶接管の製造も可能である。しかし、近年の燃費の改善や排出ガス規制の強化等により、特許文献1、2に示す如きガソリン直噴システムの燃料圧力は更に高圧化する傾向にあり、現在では30MPaを超えるようになった。そのため、このような高圧に耐え得るよう、フューエルレールを厚肉に形成する必要がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−16668号公報
【特許文献2】特開2010−7651号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、30MPa以上の燃料圧力に耐える厚さとするためには、ロールフォーミング成形による溶接管の製造は困難であるため、シームレスパイプを製造するよりほかに方法がなかったが、シームレスパイプの製造にはコストが高くつくものである。また、肉厚化以外の方法として、材料自体を高強度化して薄肉なものを形成することが考えられるが、従来より使用されている高強度材は炭素量が多いことから、製造過程で行われる炉中ろう付け加工の際に高温により表面が脱炭して柔らかくなって疲労強度が低下するため、本来の目的である高強度の性質を満足させることが難しいものであった。更に、このような材料は溶接には不向きであり、溶接の品質の確保を十分に行うことができないものであった。
【0005】
そこで、本発明は上記の如き課題を解決しようとするものであって、溶接管への成形加工前は低硬度であって良好な成形性を保ち、ロールフォーミング加工により溶接管を成形可能とすることができるとともに、比較的薄肉に形成しても高い燃料圧力に耐え得る高強度の性質を備えたフューエルレールを安価に得ようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は上述の如き課題を解決したものであって、燃料圧力が30MPa以上で使用されるとともに
、ロールフォーミング加工により成形加工された鉄鋼製の溶接管にて形成されるガソリン直噴用フューエルレールの製造方法において、上記溶接管を、
Cが0.18%〜0.20%、Siが0.20%〜0.21%、Mnが1.25%〜1.63%、Pが0.010%〜0.015%、Sが0.002%、Nbが0.025%〜0.026%、Moが0.25%〜0.38%の化学成分を
含み、フェライト組織、又はフェライト−パーライト組織が形成された鉄合金にて形成するとともに、板厚tと外径Dとの比t/Dを0.2以下とし、この溶接管を、炉中で1000℃以上に昇温するとともに、この温度から室温まで徐冷を行う炉中ろう付け加工を施すことによりベイナイト組織を析出させ、上記炉中ろう付け加工後の引張強度、0.2%耐力、及び硬度の数値を、上記溶接管への成形加工前よりも高いものとするものである。
【0007】
また燃料圧力は、30MPa〜80MPaであっても良い。
【発明の効果】
【0008】
本発明は上述の如く、C、Si、Mn、P、S、Nb、Moの成分から成る化学成分を含む鉄合金から成るものであって、溶接管への成形加工前の状態ではフェライト組織、又はフェライト―パーライト組織を形成する。そのため、このような状態では低硬度を保持することができるとともに溶接品質を良好に保持することができるため、加工を容易なものとすることできる。
【0009】
更に、製造工程において炉中ろう付け加工を施すことにより、ベイナイト組織が析出される。このベイナイト組織の存在によって、材質が従来のものと比較して高強度となり、高耐圧性を確保することが可能となる。そのため、全体形状を薄肉に形成して軽量なものとすることができることから、ロールフォーミング成形により溶接管にて安価に形成することができるとともに、高強度及び高耐圧という性質により、30MPa以上の高い燃料圧力に対して使用可能な製品を得ることが可能となる。
【実施例】
【0010】
本発明の実施例であるガソリン直噴用のフューエルレールの製造方法について、以下に説明する。まず、本実施例を構成する鉄合金材料のうち、鉄と不純物を除く化学成分、及び全成分に対する配合割合を下記表1に示す。
【0011】
【表1】
【0012】
上記の如く本発明の実施例1、2は、C、Si、Mn、P、S、Nb、Moを含むものである。ここで実施例1、2の製造方法について以下に説明すると、実施例1、2は、表1に示す化学成分、及び鉄、その他不純物から成る鉄合金である。そしてこの材料によって溶接管を形成し、この溶接管の両端を部品にて塞ぐとともに、ソケットや固定具をそれぞれ組み付ける。そして、上記組み付けが完成したものについて、1000℃以上の炉中にて炉中銅ろう付け加工を施し、その後徐冷を行い、型合わせ、リークチェック等の工程を経て製品として出荷される。
【0013】
実施例1、2のフューエルレールは上記の如く、炉中銅ろう付け加工を行うものであり、この炉中銅ろう付け加工は、炉中にて1000℃以上に昇温した後、徐冷を行うものである。この炉中銅ろう付け加工を行うことにより、上記材料にて形成した実施例1、2の鉄合金の物性が変化するものとなる。ここで、この炉中銅ろう付け加工の前後の物性の変化を検証するためJIS規格に基づいて物性試験を行った。
【0014】
具体的には、実施例1、2の材料にてJIS5試験片(板厚1.6mm、形成幅25mm、形成長さ350mm)を形成し、この試験片を用いて引張試験、及び組織観察を行った。この引張試験及び組織観察の結果を以下の表2に示す。尚、表2の「炉通前」は溶接管への成形加工前を、「炉通後」は炉中銅ろう付け加工後を、それぞれ意味するものである。
【0015】
【表2】
【0016】
表2に示す如く、引張強度、0.2%耐力、硬度については、溶接管への成形加工前よりも炉中銅ろう付け加工後の方が数値が高いものとなった。また、各試料の組織を観察したところ、実施例1、2ともに、炉中銅ろう付け加工後のものはベイナイトの析出が見られた。一方、溶接管への成形加工前のものはフェライト又はフェライト−パーライト組織のみであり、ベイナイト組織は発見されなかった。
【0017】
上記結果から、C、Si、Mn、P、S、Nb、Moの化学成分を含む実施例1、2のフューエルレールは、炉中銅ろう付け加工を施すことによってベイナイト組織を生じさせ、このベイナイト組織の存在により溶接管への成形加工前よりも高強度且つ高硬度の性質を得ることができることが確認された。また、溶接管への成形加工前は従来品と同様にフェライト組織、又はフェライト−パーライト組織であるため、溶接品質を良好に保持可能とするとともに成形性に優れる材料であることが確認された。
【0018】
更に、上記実施例1、2の材料と、実施例1、2とは異なる化学成分の従来のフューエルレールの材料との物性の違いを確認するために、従来のフューエルレールに使用されている材料についても実施例1、2と同様に、JIS規格に基づく引張試験及び組織観察を行った。尚、従来のフューエルレールに使用されている材料の鉄及び不純物以外の化学成分及び全成分に対する配合割合について、比較例1として表1に示している。表1に示す如く、比較例1は実施例1、2とはその化学成分を異にするものであってNb及びMoを含まず、更に実施例1、2の材料では含有していないNi、Crを含むものである。尚、比較例1についても実施例1、2と同様にJIS5試験片(板厚1.6mm、形成幅25mm、形成長さ350mm)を用いた。その結果を以下の表3に示す。
【0019】
【表3】
【0020】
その結果、本実施例1、2は比較例1に比べて引張強度及び硬さともに高い値を示すことが明らかとなった。また、組織の確認を行ったところ、実施例1、2はベイナイト組織が析出しているのに対し、比較例1はオーステナイト組織であって、ベイナイト組織の析出は見られなかった。このことから、実施例1、2の材料は従来の材料と比較して高強度且つ高硬度であることが確認された。
【0021】
また、上記実施例1、2の材料にて形成したフューエルレールの一例として、表4に示すサイズの製品に成形することができる。尚、表4中、Dはフューエルレールの外径を、tはフューエルレールの肉厚を意味するものである。そして表4のaは、30MPa付近の燃料圧力下で主に使用されるものであって、実施例1、2の材料にて形成した場合、その外径Dを11mm、肉厚tを2.0mmとし、t/Dが0.2以下の肉薄に形成することができる。これに対し、比較例1の材料にて形成した従来品の場合には、30MPa付近の燃料圧力下で使用可能とするためには外径15mm、肉厚4.0mmとしなければならないためt/Dが0.2よりも高く、実施例1、2の材料にて形成したものよりもはるかに肉厚に形成しなければならない。
【0022】
また、表4のbは、80MPa付近の燃料圧力下で主に使用されるものであって、実施例1、2の材料にて形成した場合、その外径を13mm、肉厚を2.3mmとし、t/Dが0.2以下の肉薄に形成することが可能となる。これに対し、比較例1の材料にて形成した場合には、80MPa付近の燃料圧力下で使用するためには外径20mm、肉厚5.8mmとしなければならないためt/Dが0.2よりも高く、この場合も、実施例1、2の材料にて形成したものよりはるかに肉厚に形成しなければならない。
【0023】
【表4】
【0024】
以上の結果から、実施例1、2の材料にて形成したフューエルレールは、従来品よりも薄肉に形成して軽量なものとすることができ、ロールフォーミング加工による溶接管にて成形可能であるとともに、高強度及び高耐圧の性質を得ることができる。従って、30MPa〜80MPaという高い燃料圧力に対応可能な製品を廉価且つ容易に得ることができる。