(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施の形態について、詳細に説明する。
【0011】
実施形態によれば、少なくとも一面に凹部又は凸部を有し、ポリテトラフルオロエチレン含有の離型性を有するシートが提供される。このようなシートは、凹部又は凸部を有する面の離型性に優れている。よって、対象物に対する滑り性又は離型性を改善させたい部品等に、シートをこの面を対象物に向けて配置することにより、部品等の対象物に対する滑り性及び離型性が良好になる。そのため、対象物の搬送等を円滑にすることが可能となる。
【0012】
凹部又は凸部を有する面は、シートの一方の面のみに形成してもよいが、シートの両面に形成することも可能である。また、一つの面に凹部と凸部の両方が存在していても良い。
【0013】
凹部又は凸部のピッチを0.23mm以上0.7mm以下することが望ましい。ピッチを0.7mm以下にすることにより、ポリテトラフルオロエチレン含有シートの滑り性及び離型性を向上することができる。ピッチが狭い方が滑り性及び離型性が良好になるものの、ピッチが0.23mm未満になると、シートの凹部又は凸部を有する面と接する物に、凹部又は凸部の跡が付着しやすくなる。また、シートの機械的強度が低下する恐れがある。よって、ピッチを0.23mm以上0.7mm以下にすることにより、ポリテトラフルオロエチレン含有シートの機械的強度を損なわず、かつシートと接する物を変形させることなく、その物に対する滑り性及び離型性を向上することができる。ピッチのより好ましい範囲は、0.32mm以上0.52mm以下である。ここで、凹部又は凸部のピッチは、隣り合う凹部又は凸部間の距離をいう。
【0014】
シートの厚さは、0.025mm以上0.15mm以下の範囲にすることが望ましい。厚さを0.025mm以上にすることにより、シートに必要な機械的強度を保つことができる。また、厚さを0.15mm以下にすることにより、シートに必要な柔軟性を保つことができる。よって、厚さを0.025mm以上0.15mm以下にすることにより、シートに必要な機械的強度と柔軟性を付与することができる。
【0015】
シートの表面粗さは、15μm以上130μm以下の範囲にすることが望ましい。表面粗さを15μm以上にすることにより、シートの滑り性を高めることができる。また、表面粗さを130μm以下にすることにより、シートの凹部又は凸部を有する面と接する物に、凹部又は凸部の跡が付着するのを抑えることができる。よって、表面粗さを15μmm以上130μmm以下にすることにより、シートと接する物を変形させることなく、その物に対する滑り性及び離型性を向上することができる。
【0016】
シート中のポリテトラフルオロエチレンの含有量は、50重量%以上100重量%以下の範囲にすることが望ましい。含有量を50重量%以上にすることにより、シートの撥水性を高めて滑り性及び離型性を向上することができる。
【0017】
シートには、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)以外の他の成分を含有させることができる。他の成分には、例えば、変性ポリテトラフルオロエチレン(変性PTFE)、四フッ化エチレン−六フッ化プロピレン共重合樹脂(FEP)、四フッ化エチレンパーフルオロアルキルビニルエーテル共重合樹脂(PFA)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)及びエチレン四フッ化エチレン共重合樹脂(ETFE)が含まれる。これらのフッ素樹脂は、耐候性及び耐薬品性に優れる難燃性材料である。他の成分の種類は、1種類または2種類以上にすることができる。
【0018】
シートの片面あるいは両面の少なくとも一部に粘着材層を形成しても良い。これにより、シートを粘着材層によって目的の位置や部材等に固定することができる。
【0019】
シートの製造方法を説明する。ポリテトラフルオロエチレン粒子(PTFE粒子)を金型に充填し、加圧成型を施した後、焼成することにより、PTFEの焼成体を得る。得られた焼成体から切削加工によりフィルムを得る。得られたフィルムにエンボス加工を施した後、必要に応じて裁断することにより、実施形態のシートを得る。エンボス加工の前あるいは後または前後にアニール処理を施すことも可能である。
【0020】
エンボス加工の一例を
図4に示す。表面に複数の凸部が設けられた金属ロール(第一ロール)11と、表面に凸部を持たない、平滑な表面を有する弾性ロール(第二ロール)12との間に、未加工のフィルム13を挟んで
図4に示す矢印14の方向に加圧すると、フィルム13の一方の面に第一ロール11の凸部に対応した凹部が形成され、一方の面に凹凸を有する実施形態のシート15が得られる。なお、矢印16は、フィルム13の搬送方向を示す。
【0021】
PTFE粒子には、例えば、PTFEモールディングパウダーを使用することができる。ここで、モールディングパウダーとは、懸濁重合で得られた原料粉末を意味する。モールディングパウダーは、いったん数十〜数百μmの大きさに粉砕され、続いて成形用途に応じ、粒状化{造粒(pelletizing)}、微粉化(finecutting)、前加熱(presintering)などの処理が施されたものである。また、granular resinとも言われる。
【0022】
焼成温度は、特に限定されるものではないが、例えば、PTFEの未焼成ポリマーの融点340℃以上、好ましくは360℃以上380℃以下にすることができる。なお、焼成後に冷却工程を行っても良い。
【0023】
実施形態のシートの適用例として、例えば、搬送部材の表面に離型性を付与するための搬送部材用離型シート、金型あるいはプレス機等に熱融着性シート等の異物が付着するのを防止するための離型シートが挙げられるが、これらの用途に限定されるものではない。
【0024】
適用例を
図5〜
図8を参照して説明する。
図5及び
図6は、搬送部材としての搬送用トレイ上に離型シートして実施形態のシートを用いた例を示す。
図5に示す搬送用トレイ17は、パンの製造工程において、パン生地18を搬送するためのものである。実施形態のシート19は、離型シートとして搬送用トレイ17上に配置されている。パン生地18は、搬送用トレイ17上に直接置かれているのではなく、シート19上に並べられている。このようにすることでパン生地18の離型性が良好になるため、パン生地18を搬送用トレイ17から次工程に移すのが容易になる。例えば、
図6に示すパンの製造工程は、搬送用トレイ17上のパン生地18を揚げ工程に搬送するものである。パン生地18を載せた搬送用トレイ17は、コンベア20により21に搬送される。シート19によりパン生地18の離型性が良好になるため、パン生地18はスムーズに金網ベルト21上に移される。金網ベルト21上のパン生地18は、フライヤー22に搬送されて揚げ加工が施される。
【0025】
シート19を使用することにより、パン生地18に手粉をまぶさなくても、パン生地18の滑りが良くなるため、手粉を不要もしくは少なくすることができる。その結果、パンの食味をよくすることが可能となる。また、シート19は、使用時の割れ、欠け及びほつれ等が起こり難い。さらに、シート19は、カビの発生の恐れが少なく、衛生面でも優れている。
【0026】
実施形態のシートは、パン生地のような粘着性物質の滑り性又は離型性を改善する効果に優れているが、搬送用トレイで搬送する物は粘着性物質に限られない。
【0027】
なお、ガラス繊維製布にPTFEを含浸させたシートは、離型性を有するものの、ガラス繊維製布が研磨材として機能したり、割れ、欠け及びほつれが生じやすくなる。また、キャンパス地のシートをパン生地搬送部材に使用すると、手粉が必要になり、また布製のためにカビが発生しやすい。一方、ポリアミド及びシリコーン樹脂を含有するシートは、手粉の使用量を減らせ、かつ軽量であるものの、カビが発生しやすい。
【0028】
図7は、ヒートシール装置のヒートシールバーの離型シートとして実施形態のシートを使用する例を示す。ヒートシール装置23は、上部ヒートシールバー24aと、下部シールバー24bと、離型シート固定部材25と、上部ヒートシールバー24aに設置されたヒータ(図示しない)とを含む。上部ヒートシールバー24a及び下部シールバー24bは、それぞれ、中央付近に凹部26a,26bを有する。離型シート固定部材25は、上部ヒートシールバー24aの凹部26a内に配置されている。離型シートとして実施形態のシート19は、離型シート固定部材25に架けられた状態で、上部ヒートシールバー24aのヒートシール面を被覆している。下部シールバー24bのシール面も実施形態のシート19で被覆されている。熱可塑性フィルム27を上部ヒートシールバー24aのヒートシール面と下部シールバー24bのシール面との間に配置して、上部ヒートシールバー24a及び下部シールバー24bで加圧すると、上部ヒートシールバー24aと熱可塑性フィルム27の間並びに下部シールバー24bと熱可塑性フィルム27の間それぞれにシート19が介在されているため、熱可塑性フィルム27を上部ヒートシールバー24a及び下部シールバー24bに付着させることなく、熱可塑性フィルム27にヒートシール処理を施すことができる。
【0029】
図8は、瓶や段ボール等の搬送に使用される搬送レールのガイド壁に実施形態のシートを配置した例を示す。搬送レール28は、瓶や段ボール等の搬送に使用されるもので、
図8では瓶29が搬送されている。ガイド壁30は、搬送レール28の両側に設けられている。ガイド壁30の内面に離型シートとして実施形態のシート19が配置されている。シート19の片面が粘着材層(図示しない)で被覆されており、シート19が粘着材層によってガイド壁30の内面に固定されている。これにより、ガイド壁30の滑り性及び離型性が改善されるため、瓶29は、ガイド壁30に沿って搬送レール28上をスムーズに移動することが可能となる。
【実施例】
【0030】
以下、実施例を図面を参照して説明する。
(実施例1〜6)
金型に、ダイキン工業株式会社製の型式M−391Sの、嵩密度が0.78g/mLのPTFEモールディングパウダーを充填した。次いで、金型内のモールディングパウダーを上方から17MPaの圧力で加圧し、予備成形品を得た。
【0031】
得られた予備成形品を370℃で焼成することにより、PTFE焼成体を得た。得られたPTFE焼成体に切削加工を施すことにより、厚さが100μm、短辺が300mmのPTFE長尺フィルムを得た。
【0032】
得られたPTFE長尺フィルムの片面に、
図4に示すエンボス加工装置を用い、第一ロールの凸部の高さ及びピッチを表1に示す値に設定して凹部を形成することにより、凹凸を形成した。ひきつづき、PTFEフィルムに230℃でアニール処理を施すことにより、実施例1〜6のPTFE含有長尺シートを得た。実施例1〜6のPTFE含有シートのピッチ及び表面粗さは、エンボス加工装置の第一ロールの凸部のピッチ及び高さを変更することによって下記表1に示す値に設定した。
【0033】
実施例1のPTFE含有長尺シートのエンボス加工面の非接触式形状測定機(キーエンス社製形状解析レーザー顕微鏡VK-X110)による画像データを
図1に、
図1に示すシートの二方向の断面図を
図2に、エンボス加工面の反対側に位置する面の非接触式形状測定機による画像データを
図3に示す。
図1及び
図3に示す画像データは、PTFE含有長尺シートの一部のみを表している。
図1の付番3で示す線分は、PTFE含有長尺シートの長手方向に平行な線分である。また、
図1の付番2で示す線分は、PTFE含有長尺シートの幅方向(短辺方向)に平行な線分である。
図1と
図3の画像データの比較から明らかな通り、
図1に示すエンボス加工面の方が凹凸が大きい。そのため、
図1に示すエンボス加工面を凹凸面1、
図3に示すエンボス加工面の反対側に位置する面を裏面7とする。PTFE含有シートを線分2に沿って切断した断面、PTFE含有シートを線分2に垂直な線分3に沿って切断した断面、PTFE含有シートを線分8に沿って切断した断面を
図2に示す。
図2に示す断面2,3,8は、凹凸面1が
図2の上側に位置した状態を示す。線分2は、凹凸面1におけるPTFE含有長尺シートの幅方向に平行な断面形状線(凹部5bの中でJIS B 0601:1994の表面粗さRzが最も高い箇所の断面形状線)である。線分3は、凹凸面1におけるPTFE含有長尺シートの長手方向に平行な断面形状線(凹部5bの中でJIS B 0601:1994の表面粗さRzが最も高い箇所の断面形状線)である。線分8は、裏面7におけるJIS B 0601:1994の表面粗さRzが最も高い箇所を斜めに結んだ線分である。
図3の裏面7における線分8を実線に、
図1の凹凸面1における線分8と対応する箇所を点線で示す。
【0034】
凹部は、凹凸面1から裏面7に向かって角錐台形のすり鉢形状に窪んでいる部分であり、最も深い箇所を5bで示す。凹部は凸部に囲まれて凸部により1つずつ仕切られている。凸部は、
図1において白い格子状の枠で示す部分であり、最も高い箇所を5aで示す。
【0035】
PTFE含有シートの凹凸面1及び裏面7の表面粗さと、凸部5a間のピッチを以下に説明する方法で測定し、その結果を下記表1に示す。
【0036】
凹凸面1の表面粗さについては、二つ方向の断面2,3それぞれにおいて、JIS B 0601:1994の表面粗さRzの最大値を求め、得られた二つの最大値を比較し、大きい方4を凹凸面1の表面粗さRzとする。
【0037】
一方、凹凸面1の凸部5a間のピッチについては、凹凸面1の表面粗さRzを定めた方向の断面において、JIS B 0601:1994に基づいて凹凸の平均間隔Smを算出し、得られた値を凸部5a間のピッチ5とする。
【0038】
図2において、裏面7における凸部の最も高い箇所を6で示し、凹部の最も深い箇所を9で示す。裏面7において、JIS B 0601:1994に基づいて算出した表面Rzを10で示す。裏面7の凸部の最も高い箇所6と対応する凹凸面1の位置に、凹部の最も深い箇所5bがある。
【0039】
実施例1のPTFE含有シートの厚さ、凸部間のピッチ、凹凸面及び裏面の表面粗さRz、第一ロールの凸部のピッチと凸部の高さを下記表1に示す。実施例2〜6についても、実施例1と同様にしてPTFE含有シートの厚さ、凸部間のピッチ、凹凸面及び裏面の表面粗さRz、第一ロールの凸部のピッチと凸部の高さを表1に併記する。
(比較例)
エンボス加工を施さないこと以外は、実施例1と同様にしてPTFE含有シートを作製した。得られたPTFE含有シートは、両面とも平滑な面であった。比較例1のPTFE含有シートの厚さを表1に併記する。
【0040】
実施例1〜6及び比較例のPTFE含有シートについて、90°剥離試験を実施した。
ポリエチレンフィルムを加熱により溶融させて幅80mm分をPTFE含有シートに熱融着させた。ポリエチレン(PE)フィルムを空冷により冷却させた後、ポリエチレンフィルムをPTFE含有シートに対する角度が90°となるようにして50mm/minの速度で引き、ポリエチレンフィルムがPTFE含有シートから剥離した時点での力をPE剥離性として表1に示す。
【0041】
【表1】
【0042】
表1から明らかなように、実施例1〜6のPTFE含有シートは、熱融着されていたポリエチレンフィルムを容易に引き剥がすことができ、滑り性と離型性に優れていることがわかる。
【0043】
上記実施例では、凸部を略正方形の格子形状にしたが、凸部の形状はこれに限らず、例えば、略菱形等の正方形以外の格子形状にすることができる。また、エンボス加工のための第一ロールに凸部を設ける代わりに凹部を設けても良い。その場合、凹凸面には、角錐台形の凸部と、凸部を仕切る格子状の凹部とが形成され得る。また、
図4では、第一ロール11を上部に、第二ロール12を下部に配置したが、第一ロール11と第二ロール12の位置を反対にして第一ロール11を下部に、第二ロール12を上部に配置しても良い。
以下に、本願出願の当初の特許請求の範囲に記載された発明を付記する。
[1] 少なくとも一面に凹部又は凸部を有し、ポリテトラフルオロエチレン含有の離型性を有するシート。
[2] 前記凹部又は凸部のピッチが0.23mm以上0.7mm以下である、[1]に記載のシート。
[3] 粘着性物質の搬送部材に用いられる離型シートである、[1]又は[2]に記載のシート。
[4] 前記粘着性物質がパン生地である、[3]に記載のシート。