特許第6789697号(P6789697)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6789697
(24)【登録日】2020年11月6日
(45)【発行日】2020年11月25日
(54)【発明の名称】トナー
(51)【国際特許分類】
   G03G 9/087 20060101AFI20201116BHJP
   G03G 9/097 20060101ALI20201116BHJP
【FI】
   G03G9/087 331
   G03G9/087 325
   G03G9/097 365
【請求項の数】5
【全頁数】35
(21)【出願番号】特願2016-131465(P2016-131465)
(22)【出願日】2016年7月1日
(65)【公開番号】特開2018-4933(P2018-4933A)
(43)【公開日】2018年1月11日
【審査請求日】2019年6月27日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110870
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 芳広
(74)【代理人】
【識別番号】100096828
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 敬介
(72)【発明者】
【氏名】山下 祥平
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 雄介
(72)【発明者】
【氏名】佐野 智久
(72)【発明者】
【氏名】鈴村 禎崇
(72)【発明者】
【氏名】池尻 拓馬
【審査官】 廣田 健介
(56)【参考文献】
【文献】 特開2013−257415(JP,A)
【文献】 特開2015−106075(JP,A)
【文献】 特開2015−049496(JP,A)
【文献】 特開2009−251193(JP,A)
【文献】 特開2016−218104(JP,A)
【文献】 特開2017−173384(JP,A)
【文献】 特開2017−003788(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G03G 9/08−9/113
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
結着樹脂、着色剤、ワックスおよび結晶性ポリエステルを含有するトナー粒子を有するトナーであって、
該トナーの断面において、該結晶性ポリエステルが複数のドメインを形成しており、各ドメインの長径の個数平均径が50nm以上300nm以下であり、
該トナーの断面における該ドメインの個数が8個以上500個以下であり、
該結着樹脂がスチレンアクリル系の樹脂を主成分としており、
プローブのトナーと当接する部位がポリテトラフルオロエチレンであるタッキング試験機を用いて測定される、プローブ温度200℃でトナーとの押しつけ保持時間を0.05sとしたときの応力積分値が5.0g・m/sec以下であり、
該結着樹脂100質量部に対して該結晶性ポリエステルを5質量部以上30質量部以下含有し、
該ワックスと該結晶性ポリエステルとを合わせた全体の結晶化度が70%以上である
ことを特徴とするトナー。
【請求項2】
該結晶性ポリエステルが炭素数10以上30以下の脂肪族モノアルコールおよび/または、炭素数11以上31以下の脂肪族モノカルボン酸に由来する部位を有する請求項1に記載のトナー。
【請求項3】
該トナー断面において、該ワックスがドメインを形成しており、該トナー断面の面積に対する該ワックスのドメインの総面積が10.0面積%以上50.0面積%以下である請求項1または2に記載のトナー。
【請求項4】
該トナー断面において、該結晶性ポリエステルが複数のドメインを形成しており、該ドメインが該トナー表面から該トナー断面の粒径に対して25%の深さの領域に60個数%以上存在する請求項1〜3のいずれか1項に記載のトナー。
【請求項5】
該ワックスがエステルワックスを含有する請求項1〜4のいずれか1項に記載のトナー。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子写真法,静電記録法,トナージェット方式記録法などを利用した記録方法に用いられるトナーに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、複写機やプリンター等の画像形成装置は、市場拡大に伴い使用環境の多様化が進んでいる。このため、トナーに対しても、適切に温度と湿度が保たれていない環境での使用および長期保管後でも画質が劣らず、海上輸送中の昼夜の寒暖差などを経ても品質を維持できるといった、耐熱保存性能が求められている。
また、更なる高画質化を求める観点で定着工程に着目してみると、使用目的及び使用環境の多様化に伴い顕在化した課題として、高温高湿環境における高印字率画像後端のオフセットという問題がある。
低印字率画像より、高印字率画像でオフセットが厳しい理由は、おそらくトナー層に与えられる熱量によるものと思われる。高印字率画像になるほど、定着器からの熱量がより多くのトナーに分散されるために、溶融が不十分なトナーが多くなる傾向にある。すなわち定着不良が起きやすい状態となる。
一般的に、定着工程においては、トナーによる未定着画像が形成された紙が定着器を通過する際(特に通過する部分を以下、定着ニップと呼ぶ)、熱と圧力が与えられることにより、紙に対してトナーが定着される。
ここで、紙の後端になるほど、定着ニップ部から与えられる熱量が小さくなる傾向があるため、画像の後端のほうが定着性が不利になりやすい。
さらに、定着ニップを低圧にすることでトナーの変形が不十分となり後端のオフセット(以下、後端オフセットと呼ぶ)が発生しやすい。
また、ポリテトラフルオロエチレンとの界面付着力と内部凝集力を規定することで転写材の巻きつきを防止する技術が開示されている。(特許文献3)特許文献3に記載のトナーは、通常の定着機構成では耐後端オフセット性に優れる。しかし、さらなる定着ニップの軽圧化に加えて高印字率の画像を高速で出力すると、少ない加圧、熱量での溶融性に乏しく、耐後端オフセット性が未だ不十分であった。
特に、上記のオフセット現象は、高温高湿環境に放置された紙で顕著になる傾向がある。これはおそらく放置されて水分を多く含んだ紙が定着器を通過する際に、定着ニップ部において、定着器からの熱を受けて、紙から水蒸気が発生することで、紙の上のトナー層が定着フィルム側に押されることによると推測される。
上記後端オフセットの課題に加え、複写機やプリンターに対しては常に更なる省エネが求められており、トナーは低温定着性能の向上が急務となっている。そこで近年、定着時に瞬間的に溶融してトナーの溶融粘度を下げることが可能な、結晶性ポリエステルに関する技術が発展している。
しかし、結晶性ポリエステルは、結着樹脂に相溶し易いという特性を持ち、特にトナーを輸送する際等、高温の苛酷な環境で保管されることにより、結着樹脂に相溶している結晶性ポリエステルがトナー粒子表面に染み出しやすくなる。これにより結晶性ポリエステル含有トナーは苛酷環境下での保存性に課題がある。また、結晶性ポリエステルは加熱時に容易に溶融することから、トナーが可塑した際の定着フィルムへの付着も課題である。
定着フィルムが汚染されることで加圧ローラーも汚染され、印刷時の紙裏汚れが発生してしまう。
トナーの付着力を確認した先行例として特許文献1がある。ここではタッキング試験機にてトナー間の付着力を観測しているが結晶性ポリエステルを含む系での実施はない。結晶性ポリエステルを含む系ではタッキング試験機のプローブの材質によって付着力の観点が異なる。プローブとトナーの組み合わせによってトナー間の結着力とトナー‐プローブ間の付着力のどちらかが支配的に作用するためと考えられる。特許文献1で扱うトナーでいえばプローブの材質がステンレス鋼であるとトナー間の結着力が支配的になりトナー‐プローブ間の付着力を見ることはできない。
特許文献2におけるタッキング試験の装置構成では長時間加熱した後のタッキングであり、画像形成装置を想定した瞬間的な加熱による付着力の観測はできなかった。
また、同様に特許文献3におけるタッキング試験の装置構成も瞬間的な加熱を行うことはできず、とりわけプロセススピードの速い評価機では測定された付着力と後端オフセット性との間に相関を見ることはできなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010−282146号公報
【特許文献2】特開2014−71332号公報
【特許文献3】特開2006−330706号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の課題は上記問題に鑑みなされたものであり、結晶性ポリエステルを使用したトナーにおいて、苛酷環境にさらされた場合にも現像性を維持するトナーを提供することである。また、高温高湿環境下においても、高印字率画像の後端オフセットの発生が抑制された高品位な画像を得ることができ、かつ耐フィルム汚染性に優れたトナーを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは鋭意検討の結果、タッキング試験機を用いて瞬間的な熱量を与える条件でトナーの瞬間的な溶融特性をある値以下に調整した。それと共に、添加する結晶性ポリエステル量および、生成したトナー中の結晶性材料の結晶化度をある範囲に調整することで、上記課題を解決する手段を見出し、本発明を完成させた。本発明における結晶性材料とは結晶性ポリエステルとワックスである。
すなわち、本発明のトナーは、結着樹脂、着色剤、ワックスおよび結晶性ポリエステルを含有するトナー粒子を有するトナーであって、
該トナーの断面において、該結晶性ポリエステルが複数のドメインを形成しており、各ドメインの長径の個数平均径が50nm以上300nm以下であり、
該トナーの断面における該ドメインの個数が8個以上500個以下であり、
該結着樹脂がスチレンアクリル系の樹脂を主成分としており、
プローブのトナーと当接する部位がポリテトラフルオロエチレンであるタッキング試験機を用いて測定される、プローブ温度200℃でトナーとの押しつけ保持時間を0.05sとしたときの応力積分値が5.0g・m/sec以下であり、
該結着樹脂100質量部に対して該結晶性ポリエステルを5質量部以上30質量部以下含有し、
該ワックスと該結晶性ポリエステルとを合わせた全体の結晶化度が70%以上であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、苛酷環境にさらされた場合にも現像性を維持するトナーを提供することができる。また、高温高湿環境下においても、高印字率画像の後端オフセットの発生が抑制された高品位な画像を得ることができ、かつ耐フィルム汚染性に優れたトナーを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】ドメインの形状を示す図である。
図2】ドメインの存在状態を示す図である。
図3】本発明のトナーを好適に用いることが出来る画像形成装置の一例を示す模式的断面図である。
図4】応力の積分値を測定するためのタッキング試験機の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明のトナーは、結着樹脂、着色剤、結晶性ポリエステル、およびワックスを含有するトナー粒子を有するトナーであって、該トナーは結晶性ポリエステル添加量を結着樹脂100質量部に対し5質量部以上30質量部以下含有し、該ワックスと該結晶性ポリエステルとを合わせた全体の結晶化度が70%以上であり、ポリテトラフルオロエチレンプローブを使用したタッキング試験機を用いて測定される200℃における、トナーとの押しつけ保持時間を0.05sとしたときの該トナーの応力の積分値が5.0g・m/sec以下、より好ましくは4.0g・m/sec以下であることを特徴とする。
【0009】
本発明が上記課題を解決した理由についてはまだ、明らかになってはいないが、本発明者等は以下のように考えている。
【0010】
まずフィルム汚染は付着力の強いトナーが定着フィルムに付着することで発生する。フィルム汚染が発生すると、その付着したトナーが加圧ローラー側に移り、最終的にメディアの裏側を汚染する、いわゆる紙裏汚れを発生させる。ここで定着フィルムへの汚染の程度はトナーが熱を受けた際の可塑したトナーの定着フィルムに対する付着力が支配的であると推測される。
【0011】
したがって耐フィルム汚染性に優れたトナーを得るには、トナー表面の熱可塑性を抑えることが考えられるが、これは低温定着性とトレードオフの関係にある。そこで低温定着性を維持しつつフィルム汚染を良化させる方法としてはトナーが定着フィルムから瞬間的に熱を受け溶融変形した際、トナー内部のワックスが速やかにトナー中より染み出し、フィルムとトナー間の離型性を高めることが重要だと推測する。
【0012】
そこでタッキング試験機を用いて、ポリテトラフルオロチレン素材プローブとトナーとの応力の積分値を測定し、この値を制御することで、フィルム汚染の抑制を可能にした。ポリテトラフルオロチレンは定着フィルムに使用されている低付着力のフッ素系樹脂を想定し使用している。一般的に定着フィルムとしてはポリテトラフルオロエチレンとパーフルオロアルキルエーテルの共重合体等のフッ素系樹脂が使用される。ここでパーフルオロアルキルエーテルの重合割合はポリテトラフルオロエチレンに対し少ないことが多く、さらに今回着目する低付着力という観点に関しては炭素―フッ素結合の対称性が支配的に寄与していると推測している。そのためポリテトラフルオロエチレン単独であっても炭素―フッ素結合の対称性をもつことからパーフルオロアルキルエーテルとの共重合体と同等の付着性と近似できる。また、プローブにその他の定着部材(トナーに対して低付着性の材質)を用いた場合も各種トナーのプローブに対する相対的な付着力の値は変化しない。よって、ポリテトラフルオロエチレンプローブによる測定で効果を確認することで、その他の定着部材に変更したシステムにおいても同様の効果を発現するものと考える。本発明ではポリテトラフルオロチレン材質のプローブを使用することで、ステンレス鋼といったトナーとの付着力が高いプローブを用いた場合には検出できなかった有意差を確認することができた。すなわち、結晶性ポリエステルの含有量に相関のあるトナー−プローブ間の付着力を本件では見出した。
【0013】
なお、本発明で用いるタッキング試験機は瞬間的な加熱が可能であり、これにより実機におけるメディアのニップ通過時の熱履歴を忠実に再現できることが特徴である。これにより測定される応力積分値と実機評価結果との間に高い相関性を見出すことができた。
【0014】
なお、具体的なタッキング試験機の測定条件の詳細は後述するが以下とする。
押しつけ温度:200℃
押しつけ保持時間:0.05s
押しつけ圧:19.7kg・m/sec
【0015】
すなわち、前述した条件で測定することによりフィルム汚染と相関性の強い応力の積分値の値が得られることを見出した。
【0016】
なお、上記の押しつけ温度は定着ニップ部における定着フィルムの温度と考えることができる。また、用いる押しつけ温度によって測定される応力積分値は変化するものの、各温度帯における各種トナーの応力積分値の相対的な値は変化することがない。よって温度条件を変更したとしても上記条件による測定で評価可能である。
【0017】
押しつけ保持時間は増速機を想定し、プロセススピードを250mm/sec、ニップ幅を1.25cmとしたときのニップ通過時間に合わせ0.05sとした。また、用いる押しつけ保持時間によって測定される応力積分値は変化するものの、各保持時間における各種トナーの応力積分値の相対的な値は変化することがない。よって保持時間を変更したとしても上記条件による測定で評価可能である。
【0018】
押しつけ圧に関しては上記押しつけ温度および押しつけ保持時間を設定した上で定着を満足しうる範囲で、比較的軽圧の構成を想定し19.7kg・m/secとした。また、用いる押しつけ圧によって測定される応力積分値は変化するものの、各圧における各種トナーの応力積分値の相対的な値は変化することがない。よって圧を変更したとしても上記条件による測定で評価可能である。
【0019】
トナーの結晶性材料の結晶化度について、結晶化度をある程度の範囲内に調整することが保存性の改善に必須である。結晶化度が低すぎると、結着樹脂中の結晶性材料の相溶成分が多くなり、苛酷環境下等での結晶性材料のトナー表面への染み出しが促進されやすく、トナー凝集および外添剤の固着状態の変化により現像性を悪化させる懸念がある。
【0020】
この際、結晶性材料の内訳として結晶性ポリエステルとワックスが存在するが、これら材料は結着樹脂中に相溶した状態では苛酷環境下で同様に染み出しやすい。本発明者らの検討においてはその染み出しの総量がトナー品質の悪化度合いと相関してくることから、トナー中に含まれるワックスと結晶性ポリエステルとを合わせた全体の結晶化度を高める、すなわち結晶化度が70%以上であることが重要である。より好ましくは75%以上であり、更に好ましくは80%以上である。
【0021】
結晶性材料の結晶化度の制御方法としては結晶性材料の種類、部数および併用する結晶性ポリエステルとワックスの組み合わせにより制御可能である。さらに、トナー製造工程のうち冷却工程における冷却速度によっても結晶化度を制御することが可能である。
【0022】
結晶性材料の部数が多いと結着樹脂中に相溶する成分が多くなるため結晶化度は低下する。また、構造的な傾向は不明だが結晶性ポリエステルの種類によっても結晶化度に有意差は存在する。加えて結晶性ポリエステルが併用するワックスと分子構造的に似た構造を有していると、ワックスが造核剤となって働き結晶性ポリエステルを含めた結晶性材料全体の結晶化度を高める結果となった。
【0023】
また、本発明において、結晶性材料の結晶化度を制御するにあたり、以下に述べる手法を用いることで、結晶化度を本発明の好ましい範囲に制御しやすくなる。
【0024】
まず、重合性単量体を重合して樹脂粒子を得た後、樹脂粒子が水系媒体に分散された分散体を、上記結晶性ポリエステル及びワックスの融点を超える温度まで昇温する。ただし、重合温度が該融点を超えている場合はこの操作は必要ない。
【0025】
本発明において、結晶性ポリエステルやワックスなどの結晶性物質、特に結晶性ポリエステルを結晶化させる目的でトナーの製造方法に関して着目する。例えば、粉砕法や懸濁重合、乳化重合によってトナーを製造する場合、一度結晶性ポリエステルやワックスが融解するような温度まで昇温し、その後常温まで冷却する工程を含むことが多い。
【0026】
冷却工程について考えると、昇温によって液化した結晶性ポリエステルは温度が下がるにつれて分子運動が鈍くなり、結晶化温度付近に到達すると結晶化が始まる。さらに冷却すると結晶化が進み、常温では完全に固化する。本発明者らの検討によると、冷却速度によって結晶性物質の結晶化度が異なることが分かった。
【0027】
具体的には、結晶性ポリエステルやワックスが融解する十分に高い温度(例えば100℃)から結晶性物質の結晶化温度付近まで速い冷却速度で冷却すると、含有される結晶性物質の結晶化度が高まる傾向であった。また、冷却速度が十分に速いことで、結晶化度を本発明の好ましい範囲に制御しやすい。
【0028】
一方、冷却速度が遅いと、徐々に冷却される間に、結晶性ポリエステルやワックスの結晶化度が低下しやすく、結着樹脂に相溶しやすい。この場合、結晶性ポリエステルの小ドメインは形成されにくくなる傾向があり、ワックスはより大きな大ドメインを形成しにくくなる傾向がある。その結果、結着樹脂が軟化しやすく、高温の苛酷環境下に放置された後のカブリの発生を抑制しにくくなると共に、後端オフセットの発生も抑制しにくくなる。
【0029】
より具体的には、冷却速度が十分に速い状態というのは、50.0℃/分以上の冷却速度で冷却した場合であり、特に結晶性ポリエステルを結晶化させる目的の場合、好ましくは、100.0℃/分以上、より好ましくは、150.0℃/分以上である。逆に、冷却速度が十分に遅い状態というのは、10.0℃/分よりも十分に遅い速度で冷却した場合であり、例えば、0.5℃/分以上5.0℃/分以下の冷却速度が挙げられる。
【0030】
また、結晶性物質の結晶化温度付近(具体的には、結晶化温度±5℃の範囲)で、アニール処理を行うことも、結晶性物質の結晶化度を高める点で好ましい。
【0031】
保持する時間は、30分以上であることが好ましく、60分以上であることがより好ましく、100分以上であることがさらに好ましい。該保持時間の上限は、製造効率の関係から24時間以下程度である。長時間保持することにより、結晶性物質の結晶化度を高めやすく好ましい。
【0032】
結晶性ポリエステルの添加量について、該トナーは結晶性ポリエステル添加量が結着樹脂100質量部に対し5質量部以上30質量部以下とする。その結果、本発明では結着樹脂中に相溶する結晶性ポリエステルの量を抑え苛酷環境における染み出しや、定着フィルムへの付着を顕在化させずに熱可塑性向上による低温定着性を達成した。
【0033】
該トナーは結晶性ポリエステル添加量が結着樹脂100質量部に対し5質量部未満であると、加熱圧着時のトナーの可塑性が著しく失われ、低温定着性に劣ると考えられる。また、結晶性ポリエステル添加量が結着樹脂100質量部に対し30質量部より多いと低温定着性には優れるものの、結着樹脂中の相溶成分が増加し、苛酷環境下での結晶性ポリエステルの染み出しが著しく多くなると推察される。その結果トナー表面の組成が変動し帯電性等に影響することでカブリ等の画像弊害を引き起こす懸念がある。
【0034】
以上の理由により、上記の条件を満たすことが出来れば、苛酷環境下での保存性を維持しつつ、良好な低温定着性を実現し、また耐フィルム汚染性に優れたトナーを得られることを見出し、本発明を完成させた。
【0035】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0036】
本発明において、タッキング試験機を用いて測定される、プローブ温度200℃でトナーとの押しつけ保持時間を0.05sとしたときの該トナーの応力の積分値が、5.0g・m/sec以下であることが重要であり、より好ましくは4.0g・m/sec以下である。本発明者らの検討によれば応力積分値が5.0g・m/secより高いとトナー溶融時の定着フィルムとの付着力が強いためフィルム汚染が発生しやすい傾向にあった。ここで低温定着性の向上を狙って、一定量以上の結晶性ポリエステルを含んだ従来のトナーは応力積分値が5.0g・m/secより高くなるため耐フィルム汚染性が低い懸念があった。
【0037】
そこで本発明では一定量以上の結晶性ポリエステルを含有させた場合にも、トナー内部の構造を制御することで応力積分値の値も一定以下に制御できることを見出した。応力積分値に関しては低くなるほどフィルム汚染の良化が見られたため下限値は設定していない。
【0038】
トナーの応力の積分値を制御する方法としては結着樹脂、結晶性ポリエステル、ワックスの量や種類を調整することに加えて、トナー中の結晶性材料のドメイン構造を制御することで可能である。
【0039】
結着樹脂、結晶性ポリエステル、ワックスの量や種類の調整についてはすでに述べた結晶性材料の結晶化度の制御により、トナーと定着フィルム間の応力積分値を本発明の範囲に制御するものである。すなわち結晶化度が高いほど結着樹脂中に相溶する結晶性材料の量を減らすことができる。この相溶成分が加熱時にフィルムへの付着を促進する主成分と考えられるため、結晶化度を高めることでフィルムへの付着を抑制したと推察している。
【0040】
本発明におけるトナーにおいて各結晶性材料は以下のような構造をとっていることが好ましい。
【0041】
本発明のトナーにおいて、トナーのルテニウム染色処理された透過型電子顕微鏡(TEM)で観察されるトナー断面において、該結晶性ポリエステルが複数のドメインを形成していることが好ましい。また、該ドメインの個数平均径が、50nm以上300nm以下であり、該トナー断面における該ドメインの個数が8個以上500個以下であることが好ましい。
【0042】
トナーの断面をルテニウム染色処理を行い、TEMで観察することによって、結晶性ポリエステルのラメラを観察することが可能である。このラメラを構成する一つの形状をドメインと呼ぶ。すなわち、本発明においては、結晶性ポリエステルのドメインが上述の形状のように、比較的小さい複数のドメインを、トナー中に形成していることが好ましい。このようにドメインがトナー内部に存在している状態を、「ドメインが分散している」と呼ぶ。トナーが定着器の熱を受けることによって、結晶性ポリエステルの融点を超えた時に、トナー内部に分散しているドメインが瞬時に軟化するが、ドメインが分散していることで、トナー全体が軟化しやすくなり、定着性が大幅に向上する。
【0043】
本発明のトナーは、結晶性ポリエステルのドメインが、該トナーの表面から該トナー断面の粒径に対して25%の深さの領域に60個数%以上存在することが好ましい。
【0044】
該ドメインが、該トナーの表面から該トナー断面の粒径に対して25%の深さの領域に60個数%以上存在するとは、図2に示すように、トナー表面近傍の領域に、全ドメイン数の60個数%以上が存在するということである。このようにドメインの60個数%以上がトナー表面近傍に存在することにより、低温定着性に有効な結晶性ポリエステルのドメインの量を確保することができる。本発明において、トナーの表面からトナー断面の粒径に対して25%の深さの領域に存在する結晶性ポリエステルのドメインの割合(個数%)を以後、「25%率」と呼ぶ。
【0045】
また、本発明のトナーはトナーと定着フィルムとの付着力をさらに抑制するため、トナー断面において、該ワックスがドメインを形成していること。また、該トナー断面の面積に対する該ワックスのドメインの総面積が10.0面積%以上50.0面積%以下であることが好ましい。
【0046】
ワックスがドメインを形成することで、定着時にトナーの過度な溶融変形が行われた際に、ワックスがトナーから溶出し、定着フィルムへのトナー付着を抑制できる。また、ワックスによるトナーの溶融変形は、結晶性ポリエステルによるトナーの溶融変形をさらに加速し、トナーの低温定着性を向上させることが可能だと推察する。
【0047】
以下に本発明のトナーに用いられる材料を具体的に説明する。
【0048】
まず、本発明の効果を発現するためには該トナーが一定量の結晶性ポリエステルを含有していることが必須である。
【0049】
本発明で使用できる結晶性ポリエステルについて述べる。
【0050】
本発明の結晶性ポリエステルは公知のものを使用できるが、飽和ポリエステルであると好ましい。更に、脂肪族ジカルボン酸、脂肪族ジオール、更に脂肪族モノカルボン酸の縮合物であることが好ましい。脂肪族モノカルボン酸は分子量や水酸基価の調整がし易くなることに加えて、ワックスとの親和性を制御できるため、好ましい形態である。また、結晶性ポリエステルが炭素数10以上30以下の脂肪族モノアルコールおよび/または、炭素数11以上31以下の脂肪族モノカルボン酸に由来する部位を有することが好ましい。
【0051】
下記には結晶性ポリエステルが脂肪族ジカルボン酸、脂肪族ジオール、脂肪族モノカルボン酸の縮合物であり、且つ飽和ポリエステルである場合について使用できるモノマーを例示する。
【0052】
脂肪族ジカルボン酸としては、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカン二酸、ヘキサデカンジカルボン酸、オクタデカンジカルボン酸等が挙げられる。
【0053】
脂肪族ジオールとしては、具体的には、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、1,2−プロピレングリコール、1,3−プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、トリメチレングリコール、ネオペンチルグリコール、1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,7−ヘプタンジオール、1,8−オクタンジオール、1,9−ノナンジオール、1,10−デカンジオール、1,11−ウンデカンジオール、1,12−ドデカンジオール、1,16−ヘキサデカンジオール、1,18−オクタデカンジオール等が挙げられる。
【0054】
脂肪族モノカルボン酸としては、デカン酸(カプリン酸)、ドデカン酸(ラウリン酸)、テトラデカン酸(ミリスチン酸)、ヘキサデカン酸(パルミチン酸)、オクタデカン酸(ステアリン酸)、エイコサン酸(アラキジン酸)、ドコサン酸(ベヘン酸)、テトラコサン酸(リグノセリン酸)等が挙げられる。
【0055】
ここで、モノカルボン酸はカルボン酸が一つであるため、モノカルボン酸由来の構造は結晶性ポリエステルの末端に位置する。
【0056】
このような結晶性ポリエステルであると、ワックスと親和性が高まる。その結果、結晶性ポリエステルがワックスを被覆するような形になり、結晶性ポリエステルのドメインが熱的に安定化傾向となり、高温の苛酷な環境の履歴を受けた後でもカブリなどの特性が悪化しにくい。さらに、結晶性ポリエステルとワックスが同時に溶融することで周囲の結着樹脂を瞬時に可塑することで、相乗効果的に後端オフセットが良化しやすい。
【0057】
トレードオフになりやすい後端オフセットと苛酷な環境における耐性について、上記のような結晶性ポリエステルを使用することにより、これらの両立がさせやすく、結晶性ポリエステルの構造として好ましい。
【0058】
特に、末端に炭素数10以上24以下のアルキル基を有する結晶性ポリエステルと、エステル基を1分子内に2以上6以下有するエステルワックスを併用すると、両者の高い親和性によりワックスに対する結晶性ポリエステルの被覆率が飛躍的に高まり好ましい。本発明においては、ステアリン酸モノマー由来の構造を末端に有する結晶性ポリエステルであると、上述したエステルワックスとの親和性が更に高まり、ワックスに対する結晶性ポリエステルの被覆率も高まる傾向であるため、好ましい。
【0059】
結晶性ポリエステルは重量平均分子量(Mw)が10000以上50000以下であることが好ましく、30000以上40000以下であることがより好ましい。結晶性ポリエステルの重量平均分子量(Mw)が10000未満であると結着樹脂中に相溶する成分が増加し結晶化度が低下しやすい。また、結晶性ポリエステルの重量平均分子量(Mw)が50000より大きいと瞬間的な可塑性が鈍り、良好な低温定着性を得ることが難しい。
【0060】
結晶性ポリエステルの重量平均分子量(Mw)は、結晶性ポリエステルの種々の製造条件によって制御可能である。たとえば、原料となるアルコールモノマーと酸モノマーの比率を1:1に近づけることで分子量(Mw)を上記範囲に制御できる。
【0061】
また、結晶性ポリエステルの酸価は、トナー内への分散性を考えた場合に低く制御しておくことが好ましく、具体的には8.0以下である。より好ましくは5.0以下であり、更に好ましくは3.5以下である。
【0062】
次に、ワックスに関して述べる。
【0063】
まず、本発明で用いることのできるワックスは保存性およびフィルム汚染防止の観点からエステルワックスを含有していることが好ましい。このことについて発明者等の考えを述べると、エステルワックスをトナー中に含有することで、それを核材として結晶性材料の結晶化を補助し結晶化度を高めやすい。これにより結着樹脂中の相溶成分が減り、染み出し成分が抑制されることで保存性を高めることができると推察する。また、熱を受けた際、結晶性ポリエステルの溶融とともにその核材となるワックスも同時に染み出すことでフィルムとの付着力を低減しやすく、低温定着性を維持しつつフィルム汚染も抑制できると推察する。
【0064】
また、本発明に適用できるエステルワックスは、公知のエステルワックスを使用することが出来る。例えば、カルナウバワックス、モンタン酸エステルワックス等の脂肪酸エステルを主成分とするワックス類;及び脱酸カルナウバワックスなどの脂肪酸エステル類から酸成分の一部または全部を脱酸したもの;植物性油脂の水素添加等によって得られる、ヒドロキシル基を有するメチルエステル化合物;ステアリン酸ステアリル、ベヘニン酸ベヘニル等の飽和脂肪酸モノエステル類;セバシン酸ジベヘニル、ドデカン二酸ジステアリル、オクタデカン二酸ジステアリル等の飽和脂肪族ジカルボン酸と飽和脂肪族アルコールとのジエステル化物;ノナンジオールジベヘネート、ドデカンジオールジステアレート等の飽和脂肪族ジオールと飽和脂肪酸とのジエステル化物が挙げられる。
【0065】
なお、これらのワックスの中でも、結晶性材料の分散性を向上させ、結晶化度を高める観点から分子構造中に2つのエステル結合を有する2官能エステルワックスを含有していることが好ましい。
【0066】
本発明においては、本発明の効果を阻害しない範囲でエステルワックス以外のワックスを使用することができる。エステルワックス以外のワックスとして、公知のワックスを使用することが可能であるが、定着ローラとトナーの離型性の観点からフィッシャートロプシュワックス等の脂肪族炭化水素系ワックスを好適に用いることができる。
【0067】
トナー中における前記エステルワックス(A)と前記脂肪族炭化水素系ワックス(B)の比としては(A)/(B)が0.25以上4.0以下であることが好ましく、より好ましくは0.40以上2.3以下である。
【0068】
なお、ワックスの含有量は、結着樹脂100.0質量部に対して5.0質量部以上30.0質量部以下であることが好ましい。
【0069】
本発明のトナーに用いられる結着樹脂としては、ポリスチレン、ポリビニルトルエンなどのスチレン及びその置換体の単重合体;スチレン−プロピレン共重合体、スチレン−ビニルトルエン共重合体、スチレン−ビニルナフタリン共重合体、スチレン−アクリル酸メチル共重合体、スチレン−アクリル酸エチル共重合体、スチレン−アクリル酸ブチル共重合体、スチレン−アクリル酸オクチル共重合体、スチレン−アクリル酸ジメチルアミノエチル共重合体、スチレン−メタアクリル酸メチル共重合体、スチレン−メタアクリル酸エチル共重合体、スチレン−メタアクリル酸ブチル共重合体、スチレン−メタクリル酸ジメチルアミノエチル共重合体、スチレン−ビニルメチルエーテル共重合体、スチレン−ビニルエチルエーテル共重合体、スチレン−ビニルメチルケトン共重合体、スチレン−ブタジエン共重合体、スチレン−イソプレン共重合体、スチレン−マレイン酸共重合体、スチレン−マレイン酸エステル共重合体などのスチレン系共重合体;ポリメチルメタクリレート、ポリブチルメタクリレート、ポリ酢酸ビニル、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリビニルブチラール、シリコーン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、エポキシ樹脂、ポリアクリル酸樹脂を用いることができ、これらは単独で又は複数種を組み合わせて用いることができる。この中でも特にスチレン−アクリル酸ブチルに代表されるスチレン系共重合体が応力の積分値を所望の範囲に制御する上で好ましい。
【0070】
次に、本発明に用いられる着色剤としては、以下の有機顔料、有機染料、及び、無機顔料が挙げられる。
【0071】
シアン系着色剤としては、銅フタロシアニン化合物及びその誘導体、アントラキノン化合物、及び、塩基染料レーキ化合物が挙げられる。具体的には、以下のものが挙げられる。C.I.ピグメントブルー1、7、15、5:1、15:2、15:3、15:4、60、62、及び、66。
【0072】
マゼンタ系着色剤としては、以下のものが挙げられる。縮合アゾ化合物、ジケトピロロピロール化合物、アントラキノン、キナクリドン化合物、塩基染料レーキ化合物、ナフトール化合物、ベンズイミダゾロン化合物、チオインジゴ化合物、及び、ペリレン化合物。具体的には、以下のものが挙げられる。C.I.ピグメントレッド2、3、5、6、7、C.I.ピグメントバイオレット19、C.I.ピグメントレッド23、48:2、48:3、48:4、57:1、81:1、122、144、146、150、166、169、177、184、185、202、206、220、221、及び、254。
【0073】
イエロー系着色剤としては、縮合アゾ化合物、イソインドリノン化合物、アントラキノン化合物、アゾ金属錯体、メチン化合物、及び、アリルアミド化合物が挙げられる。具体的には、以下のものが挙げられる。C.I.ピグメントイエロー12、13、14、15、17、62、74、83、93、94、95、97、109、110、111、120、127、128、129、147、151、154、155、168、174、175、176、180、181、185、191、及び、194。
【0074】
黒色着色剤としては、カーボンブラック、及び、上記イエロー系着色剤、マゼンタ系着色剤、シアン系着色剤、および磁性粉体を用いて黒色に調色されたものが挙げられる。
【0075】
これらの着色剤は、単独又は混合し更には固溶体の状態で用いることができる。本発明に用いられる着色剤は、色相角、彩度、明度、耐光性、OHP透明性、及び、トナー粒子中の分散性の点から選択される。
【0076】
本発明のトナーに磁性粉体を用いる場合、磁性粉体は、四三酸化鉄やγ−酸化鉄などの磁性酸化鉄を主成分とするものであり、リン、コバルト、ニッケル、銅、マグネシウム、マンガン、アルミニウム、珪素などの元素を含んでもよい。これら磁性粉体は、窒素吸着法によるBET比表面積が2〜30m2/gであることが好ましく、3〜28m2/gであることがより好ましい。また、モース硬度が5から7のものが好ましい。磁性粉体の形状としては、多面体、8面体、6面体、球形、針状、鱗片状などがあるが、多面体、8面体、6面体、球形等の異方性の少ないものが、画像濃度を高める上で好ましい。
【0077】
磁性粉体は、個数平均粒径が0.10μm以上0.40μm以下であることが好ましい。一般に磁性粉体の粒径は小さい方が着色力は上がるものの磁性粉体が凝集しやすくなり、トナー中での磁性粉体の均一分散性が劣るものとなり好ましくない。また、個数平均粒径が0.10μm未満では磁性粉体自身が赤味を帯びた黒となるために、特にハーフトーン画像において赤味の目立つ画像となり、高品位な画像とは言えず好ましくない。一方、個数平均粒径が0.40μmより大きい場合ではトナーの着色力が不足すると共に、本発明の好適なトナーの製造方法である懸濁重合法(後述)においては均一分散が難しくなり好ましくない。
【0078】
なお、磁性粉体の個数平均粒径は、透過型電子顕微鏡を用いて測定できる。具体的には、エポキシ樹脂中へ観察すべきトナー粒子を十分に分散させた後、温度40℃の雰囲気中で2日間硬化させ得られた硬化物を得る。得られた硬化物をミクロトームにより薄片状のサンプルとして、透過型電子顕微鏡(TEM)において1万倍ないしは4万倍の拡大倍率の写真で視野中の100個の磁性粉体粒子径を測定する。そして、磁性粉体の投影面積に等しい円の相当径を基に、個数平均粒径の算出を行う。また、画像解析装置により粒径を測定することも可能である。
【0079】
本発明のトナーに用いられる磁性粉体は、例えば下記の方法で製造することができる。第一鉄塩水溶液に、鉄成分に対して当量又は当量以上の水酸化ナトリウム等のアルカリを加え、水酸化第一鉄を含む水溶液を調製する。調製した水溶液のpHをpH7以上に維持しながら空気を吹き込み、水溶液を70℃以上に加温しながら水酸化第一鉄の酸化反応を行い、磁性酸化鉄粉体の芯となる種晶をまず生成する。
【0080】
次に、種晶を含むスラリー状の液に前に加えたアルカリの添加量を基準として約1当量の硫酸第一鉄を含む水溶液を加える。液のpHを5から10に維持しながら空気を吹き込みながら水酸化第一鉄の反応を進め、種晶を芯にして磁性酸化鉄粉体を成長させる。この時、任意のpH及び反応温度、撹拌条件を選択することにより、磁性粉体の形状及び磁気特性をコントロールすることが可能である。酸化反応が進むにつれて液のpHは酸性側に移行していくが、液のpHは5未満にしない方が好ましい。このようにして得られた磁性体を定法によりろ過、洗浄、乾燥することにより磁性粉体を得ることができる。
【0081】
また、本発明において水系媒体中でトナーを製造する場合、磁性粉体表面を疎水化処理することが非常に好ましい。乾式にて表面処理をする場合、洗浄・ろ過・乾燥した磁性粉体にカップリング剤処理を行う。湿式にて表面処理を行う場合、酸化反応終了後、乾燥させたものを再分散させる、又は酸化反応終了後、洗浄、濾過して得られた酸化鉄体を乾燥せずに別の水系媒体中に再分散させ、カップリング処理を行う。本発明においては、乾式法及び湿式法どちらも適宜選択出来る。
【0082】
本発明における磁性粉体の表面処理において使用できるカップリング剤としては、例えば、シランカップリング剤、チタンカップリング剤等が挙げられる。より好ましく用いられるのはシランカップリング剤であり、一般式(I)で示されるものである。
RmSiYn (I)
[式中、Rはアルコキシ基を示し、mは1から3の整数を示し、Yはアルキル基、ビニル基、エポキシ基、(メタ)アクリル基などの官能基を示し、nは1から3の整数を示す。但し、m+n=4である。]
【0083】
一般式(I)で示されるシランカップリング剤としては、例えば、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリス(β−メトキシエトキシ)シラン、β−(3,4エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−フェニル−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、ビニルトリアセトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、ジフェニルジメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、ジフェニルジエトキシシラン、n−プロピルトリメトキシシラン、イソプロピルトリメトキシシラン、n−ブチルトリメトキシシラン、イソブチルトリメトキシシラン、トリメチルメトキシシラン、n−ヘキシルトリメトキシシラン、n−オクチルトリメトキシシラン、n−オクチルトリエトキシシラン、n−デシルトリメトキシシラン、ヒドロキシプロピルトリメトキシシラン、n−ヘキサデシルトリメトキシシラン、n−オクタデシルトリメトキシシラン等を挙げることができる。本発明においては、一般式(I)のYがアルキル基であるものが好ましく用いることが出来る。中でも熱伝導率を所望の値にする観点で、炭素数3以上6以下のアルキル基であり、特に好ましくは3又は4である。
【0084】
上記シランカップリング剤を用いる場合、単独で処理する、或いは複数の種類を併用して処理することが可能である。複数の種類を併用する場合、それぞれのカップリング剤で個別に処理してもよいし、同時に処理してもよい。
【0085】
用いるカップリング剤の総処理量は磁性粉体100質量部に対して0.9質量部以上3.0質量部以下であることが好ましく、磁性粉体の表面積、カップリング剤の反応性等に応じて処理剤の量を調整することが重要である。
【0086】
本発明では、磁性粉体以外に他の着色剤を併用しても良い。併用し得る着色剤としては、上記した公知の染料及び顔料の他、磁性又は非磁性の無機化合物が挙げられる。具体的には、コバルト、ニッケルなどの強磁性金属粒子、又はこれらにクロム、マンガン、銅、亜鉛、アルミニウム、希土類元素などを加えた合金。ヘマタイトなどの粒子、チタンブラック、ニグロシン染料/顔料、カーボンブラック、フタロシアニン等が挙げられる。これらもまた、表面を処理して用いることが好ましい。
【0087】
なお、トナー中の磁性粉体の含有量の測定は、パーキンエルマー社製熱分析装置、TGA7を用いて測定することができる。測定方法は以下の通りである。窒素雰囲気下において昇温速度25℃/分で常温から900℃までトナーを加熱する。100℃から750℃まで間の減量質量%を結着樹脂量とし、残存質量を近似的に磁性粉体量とする。
【0088】
次に、本発明によって製造されるトナーの重量平均粒径(D4)は4.0μm以上12.0μm以下であることが好ましく、より好ましくは5.0μm以上10.0μm以下である。重量平均粒径(D4)が4.0μm以上12.0μm以下であると良好な流動性が得られ、潜像に忠実に現像することができる。
【0089】
本発明のトナーは、粉砕法に熱球形化することよって製造することも可能であるが、本発明のトナーは結晶性ポリエステルやエステルワックスの存在状態を制御する上でも水系媒体中でトナーを製造することが好ましい。特に、懸濁重合法は結晶性ポリエステルを微分散状態とすることや結晶化促進に関して制御がしやすく、好ましい。
【0090】
以下に、懸濁重合法について述べる。
【0091】
懸濁重合法とは、重合性単量体及び着色剤(更に必要に応じて重合開始剤、架橋剤、荷電制御剤、その他の添加剤)を均一に溶解又は分散させて重合性単量体組成物を得る。その後、この重合性単量体組成物を分散剤を含有する連続層(例えば水相)中に適当な撹拌器を用いて分散し同時に重合反応を行なわせ、所望の粒径を有するトナーを得るものである。この懸濁重合法で得られるトナー(以後「重合トナー」ともいう)は、個々のトナー粒子形状がほぼ球形に揃っているため、帯電量の分布も比較的均一となるために画質の向上が期待できる。
【0092】
本発明に関わる重合トナーの製造において、重合性単量体組成物を構成する重合性単量体としては以下のものが挙げられる。
【0093】
重合性単量体としては、スチレン、o−メチルスチレン、m−メチルスチレン、p−メチルスチレン、p−メトキシスチレン、p−エチルスチレン等のスチレン系単量体;アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸イソブチル、アクリル酸n−プロピル、アクリル酸n−オクチル、アクリル酸ドデシル、アクリル酸2−エチルヘキシル、アクリル酸ステアリル、アクリル酸2−クロルエチル、アクリル酸フェニル等のアクリル酸エステル類、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸n−プロピル、メタクリル酸n−ブチル、メタクリル酸イソブチル、メタクリル酸n−オクチル、メタクリル酸ドデシル、メタクリル酸2−エチルヘキシル、メタクリル酸ステアリル、メタクリル酸フェニル、メタクリル酸ジメチルアミノエチル、メタクリル酸ジエチルアミノエチル等のメタクリル酸エステル類;その他のアクリロニトリル、メタクリロニトリル、アクリルアミド等の単量体が挙げられる。これらの単量体は単独で、又は混合して使用し得る。上述の単量体の中でも、スチレンを単独で、或いは他の単量体と混合して使用することがトナーの現像特性及び耐久性の点から好ましい。
【0094】
本発明のトナーの重合法による製造において使用される重合開始剤としては、重合反応時における半減期が0.5から30時間であるものが好ましい。また、重合性単量体100質量部に対して0.5から20質量部の添加量で用いて重合反応を行うと、分子量5,000から50,000の間に極大を有する重合体を得、トナーに望ましい強度と適当な溶融特性を与えることができる。
【0095】
具体的な重合開始剤例としては、2,2’−アゾビス−(2,4−ジメチルバレロニトリル)、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル、1,1’−アゾビス(シクロヘキサン−1−カルボニトリル)、2,2’−アゾビス−4−メトキシ−2,4−ジメチルバレロニトリル、アゾビスイソブチロニトリル等のアゾ系又はジアゾ系重合開始剤、ベンゾイルパーオキサイド、メチルエチルケトンパーオキサイド、ジイソプロピルパーオキシカーボネート、クメンヒドロパーオキサイド、2,4−ジクロロベンゾイルパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイド、t−ブチルパーオキシ2−エチルヘキサノエート、t−ブチルパーオキシピバレート、ジ(2−エチルヘキシル)パーオキシジカーボネート、ジ(セカンダリーブチル)パーオキシジカーボネート等の過酸化物系重合開始剤が挙げられる。
【0096】
本発明のトナーを重合法により製造する際は、架橋剤を添加しても良く、好ましい添加量としては、重合性単量体100質量部に対して0.001質量部以上15質量部以下である。
【0097】
本発明に用いられる架橋剤としては、主として2個以上の重合可能な二重結合を有する化合物が用いられ、例えばジビニルベンゼン、ジビニルナフタレン等のような芳香族ジビニル化合物、エチレングリコールジアクリレート、エチレングリコールジメタクリレート、1,3−ブタンジオールジメタクリレート、トリエチレングリコールジアクリレート、テトラエチレングリコールジアクリレート、ポリエチレングリコールジアクリレート、1,4−ブタンジオールジアクリレート、1,5−ペンタンジオールジアクリレート、1,6−ヘキサンジオールジアクリレート、1,7−ヘプタンジオールジアクリレート、1,8−オクタンジオールジアクリレート、1,9−ノナンジオールジアクリレート、1,10−デカンジオールジアクリレート、1,11−ウンデカンジオールジアクリレート、1,18−オクタデカンジオールジアクリレート、ネオペンチルグリコールジアクリレート、トリプロピレングリコールジアクリレート、ポリプロピレングリコールジアクリレート等のような二重結合を2個有するカルボン酸エステル、ジビニルアニリン、ジビニルエーテル、ジビニルスルフィド、ジビニルスルホン等のジビニル化合物、3個以上のビニル基を有する化合物が単独で、又は2種以上の混合物として用いられる。
【0098】
特に下記式で示される1,4−ブタンジオールジアクリレート、1,5−ペンタンジオールジアクリレート、1,6−ヘキサンジオールジアクリレート、1,7−ヘプタンジオールジアクリレート、1,8−オクタンジオールジアクリレート、1,9−ノナンジオールジアクリレート、1,10−デカンジオールジアクリレート、1,11−ウンデカンジオールジアクリレート、1,18−オクタデカンジオールジアクリレートが、好ましく用いられる。
【0099】
【化1】
[式中、R1は水素原子または炭素数1乃至3のアルキル基を示し、R2は炭素数4乃至18の直鎖状アルキレン基を示す。]
【0100】
上記の化合物は柔軟性を持ち、比較的分子鎖が長いために結着樹脂の架橋点の間隔が広くなりやすく、大きな網目構造を形成しやすくなる。その結果、本発明におけるトナーの応力積分値を制御しつつ、後端オフセットと両立させやすくなる。この理由は定かではないが、架橋構造を持たせることでトナーの応力積分値を制御しやすくなると同時に、架橋点の間隔が広いために、定着時に樹脂の変形を促進させやすくなり、架橋構造が定着性を阻害しにくいためと推測している。
【0101】
前記重合性単量体の重合の際に用いられる媒体が水系媒体の場合には、重合性単量体組成物の粒子の水系媒体中での分散安定剤として以下のものを使用することができる。
【0102】
無機分散安定剤として、リン酸三カルシウム、リン酸マグネシウム、リン酸亜鉛、リン酸アルミニウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム、メタ珪酸カルシウム、硫酸カルシウム、硫酸バリウム、ベントナイト、シリカ、アルミナが挙げられる。
【0103】
また、有機系分散安定剤としては、ポリビニルアルコール、ゼラチン、メチルセルロース、メチルヒドロキシプロピルセルロース、エチルセルロース、カルボキシメチルセルロースのナトリウム塩、デンプンが挙げられる。
【0104】
さらに、市販のノニオン、アニオン、カチオン型の界面活性剤の利用も可能である。このような界面活性剤としては、以下のものが挙げられる。ドデシル硫酸ナトリウム、テトラデシル硫酸ナトリウム、ペンタデシル硫酸ナトリウム、オクチル硫酸ナトリウム、オレイン酸ナトリウム、ラウリル酸ナトリウム、ステアリン酸カリウム。
【0105】
本発明において、難水溶性無機分散安定剤を用い、水系媒体を調製する場合に、これらの分散安定剤の添加量は重合性単量体100.0質量部に対して、0.2乃至2.0質量部であることが好ましい。また、重合性単量体組成物100質量部に対して300乃至3,000質量部の水を用いて水系媒体を調製することが好ましい。
【0106】
本発明において、上記のような難水溶性無機分散剤が分散された水系媒体を調製する場合には、市販の分散安定剤をそのまま用いてもよい。また、細かい均一な粒度を有する分散安定剤を得るためには、水の如き液媒体中で、高速撹拌下、難水溶性無機分散剤を生成させてもよい。具体的には、リン酸三カルシウムを分散安定剤として使用する場合、高速撹拌下でリン酸ナトリウム水溶液と塩化カルシウム水溶液を混合してリン酸三カルシウムの微粒子を形成することで、好ましい分散安定剤を得ることができる。
【0107】
本発明において、トナー粒子は、極性樹脂を含有してもよい。該極性樹脂としては、飽和又は不飽和のポリエステル樹脂が好ましく例示できる。
【0108】
当該ポリエステル樹脂としては、下記に挙げるカルボン酸成分とアルコール成分とを縮合重合したものを用いることができる。
【0109】
カルボン酸成分としては、テレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸、フマル酸、マレイン酸、シクロヘキサンジカルボン酸、及び、トリメリット酸が挙げられる。アルコール成分としては、ビスフェノールA、水素添加ビスフェノール、ビスフェノールAのエチレンオキサイド付加物、ビスフェノールAのプロピレンオキサイド付加物、グリセリン、トリメチロールプロパン、及び、ペンタエリスリトールが挙げられる。
【0110】
また、該ポリエステル樹脂は、ウレア基を含有したポリエステル樹脂であってもよい。
【0111】
本発明において、極性樹脂の重量平均分子量は、4,000以上100,000未満であることが好ましい。また、極性樹脂の含有量は、トナー粒子に含有される結着樹脂成分を基準として、3.0乃至70.0質量%であることが好ましく、より好ましくは3.0乃至50.0質量%であり、さらに好ましくは5.0乃至30.0質量%である。
【0112】
本発明において、トナー粒子は荷電制御剤を含有してもよい。荷電制御剤としては、公知のものが使用できる。特に帯電スピードが速く、かつ、一定の帯電量を安定して維持できる荷電制御剤が好ましい。さらに、トナー粒子を直接重合法により製造する場合には、重合阻害性が低く、水系媒体への可溶化物が実質的にない荷電制御剤が特に好ましい。
【0113】
荷電制御剤として、トナー粒子を負荷電性に制御するものとしては、以下のものが挙げられる。有機金属化合物及びキレート化合物として、モノアゾ金属化合物、アセチルアセトン金属化合物、芳香族オキシカルボン酸、芳香族ダイカルボン酸、オキシカルボン酸及びダイカルボン酸系の金属化合物。他には、芳香族オキシカルボン酸、芳香族モノ及びポリカルボン酸及びその金属塩、無水物、又はエステル類、ビスフェノールの如きフェノール誘導体類なども含まれる。さらに、尿素誘導体、含金属サリチル酸系化合物、含金属ナフトエ酸系化合物、ホウ素化合物、4級アンモニウム塩、カリックスアレーンが挙げられる。
【0114】
一方、トナー粒子を正荷電性に制御する荷電制御剤としては、以下のものが挙げられる。ニグロシン及び脂肪酸金属塩の如きによるニグロシン変性物;グアニジン化合物;イミダゾール化合物;トリブチルベンジルアンモニウム−1−ヒドロキシ−4−ナフトスルフォン酸塩、テトラブチルアンモニウムテトラフルオロボレートの如き4級アンモニウム塩、及びこれらの類似体であるホスホニウム塩の如きオニウム塩及びこれらのレーキ顔料;トリフェニルメタン染料及びこれらのレーキ顔料(レーキ化剤としては、リンタングステン酸、リンモリブデン酸、リンタングステンモリブデン酸、タンニン酸、ラウリン酸、没食子酸、フェリシアン化物、フェロシアン化物など);高級脂肪酸の金属塩;樹脂系荷電制御剤。
【0115】
これら荷電制御剤は単独で或いは2種類以上組み合わせて含有することができる。これら荷電制御剤の中でも、含金属サリチル酸系化合物が好ましく、特にその金属がアルミニウムもしくはジルコニウムが好ましい。最も好ましい荷電制御剤としては、3,5−ジ−tert−ブチルサリチル酸アルミニウム化合物である。
【0116】
また、樹脂系荷電制御剤としては、スルホン酸系官能基を有する重合体が好ましい。スルホン酸系官能基を有する重合体とはスルホン酸基、スルホン酸塩基又はスルホン酸エステル基を有する重合体又は共重合体である。
【0117】
スルホン酸基、スルホン酸塩基又はスルホン酸エステル基を有する重合体又は共重合体としては、側鎖にスルホン酸基を有する高分子型化合物等が挙げられる。特にスルホン酸基含有(メタ)アクリルアミド系モノマーを共重合比で2質量%以上、好ましくは5質量%以上含有し、且つガラス転移温度(Tg)が40乃至90℃のスチレン及び/又はスチレン(メタ)アクリル酸エステル共重合体である高分子型化合物が好ましい。高湿下での帯電安定性が良化する。
【0118】
上記のスルホン酸基含有(メタ)アクリルアミド系モノマーとしては、下記一般式(X)で表せるものが好ましく、具体的には、2−アクリルアミド−2−メチルプロパン酸や2−メタクリルアミド−2−メチルプロパン酸等が挙げられる。
【0119】
【化2】
[上記一般式(X)中、R1は水素原子、又はメチル基を示し、R2とR3は、それぞれ水素原子、C1乃至C10のアルキル基、アルケニル基、アリール基又はアルコキシ基を示し、nは1乃至10の整数を示す。]
【0120】
上記スルホン酸基を有する重合体は、トナー粒子において、結着樹脂100質量部に対して0.1乃至10.0質量部含有させることにより、トナー粒子の帯電状態を一層良好なものとすることができる。
【0121】
これらの荷電制御剤の添加量としては、結着樹脂又は重合性単量体100.00質量部に対して、0.01乃至10.00質量部であることが好ましい。
【0122】
本発明のトナーにおいては、各種特性付与を目的として、以下のような有機微粉体又は無機微粉体でトナー粒子表面が処理されていてもよい。
【0123】
(1)流動性付与剤:シリカ、アルミナ、酸化チタン、カーボンブラック及びフッ化カーボン。
(2)研磨剤:チタン酸ストロンチウム、酸化セリウム、アルミナ、酸化マグネシウム、酸化クロムの如き金属酸化物、窒化ケイ素の如き窒化物、炭化ケイ素の如き炭化物、硫酸カルシウム、硫酸バリウム、炭酸カルシウムの如き金属塩。
(3)滑剤:フッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレンの如きフッ素系樹脂粉末、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸カルシウムの如き脂肪酸金属塩。
(4)荷電制御性粒子:酸化錫、酸化チタン、酸化亜鉛、シリカ、アルミナの如き金属酸化物、カーボンブラック。
【0124】
これらの微粉体は、単独で用いても、又、複数併用してもよい。
【0125】
これら微粉体は、疎水化処理されていることによって、トナーの帯電性の調整、高湿環境下での帯電特性の向上を達成することができるので、疎水化処理されていることが好ましい。疎水化処理の処理剤としては、未変性のシリコーンワニス、各種変性シリコーンワニス、未変性のシリコーンオイル、各種変性シリコーンオイル、シラン化合物、シランカップリング剤、その他有機ケイ素化合物、有機チタン化合物が挙げられる。これらの処理剤は単独であるいは併用して用いられても良い。
【0126】
その中でも、シリコーンオイルにより処理された無機微粉体が好ましい。より好ましくは、無機微粉体をカップリング剤で疎水化処理すると同時にあるいは処理した後に、シリコーンオイルより処理したものである。シリコーンオイルで処理された疎水化処理無機微粉体が高湿環境下でもトナーの帯電量を高く維持し、選択現像性を低減する上で好ましい。
【0127】
これらの微粉体のBET比表面積は、10m2/g以上450m2/g以下であることが好ましい。BET比表面積は、BET法(好ましくはBET多点法)に従って、動的定圧法による低温ガス吸着法により求めることができる。例えば、比表面積測定装置「ジェミニ2375 Ver.5.0」(島津製作所社製)を用いて、試料表面に窒素ガスを吸着させ、BET多点法を用いて測定することにより、BET比表面積(m2/g)を算出することができる。
【0128】
これらの微粉体はトナー粒子表面に強固に固着や付着させてもよい。トナー粒子表面に微粉体を強固に固着又は付着させるための外添混合機としては、ヘンシェルミキサー、メカノフュージョン、サイクロミックス、タービュライザ、フレキソミックス、ハイブリタイゼーション、メカノハイブリット、ノビルタが挙げられる。また、回転周速を早めたり、処理時間を長めにしたりすることで強く固着や付着することができる。
【0129】
応力の積分値を所望の範囲に調整しやすくする観点から、これらの微粉体の添加量は、トナー粒子100.00質量部に対し、0.01乃至10.00質量部であることが好ましく、より好ましくは0.02乃至5.00量部であることが好ましく、さらに好ましくは0.03乃至1.00質量部である。
【0130】
本発明のトナーのテトラヒドロフラン不溶分の含有量は、トナーの着色剤及び無機微粉体以外のトナー成分に対して50.0質量%未満であることが好ましく、より好ましくは0.0質量%以上45.0質量%未満であり、さらに好ましくは5.0質量%以上40.0質量%未満である。テトラヒドロフラン不溶分の含有量を50.0質量%未満とすることによって、低温定着性を向上させることができる。
【0131】
上記トナーのテトラヒドロフラン不溶分の含有量とは、テトラヒドロフラン溶媒に対して不溶性となった超高分子ポリマー成分(実質的に架橋ポリマー)の質量割合を意味する。トナーのテトラヒドロフラン不溶分の含有量は、結着樹脂の重合度、架橋度によって調整することが可能である。
【0132】
次に、本発明のトナーを好適に用いることのできる画像形成装置の一例を図3に沿って具体的に説明する。図3において、100は感光ドラムであり、その周囲に一次帯電ローラー117、現像スリーブ102を有する現像器140、転写帯電ローラー114、クリーナー116、レジスタローラー124等が設けられている。感光ドラム100は一次帯電ローラー117によって例えば−600Vに帯電される(印加電圧は例えば交流電圧1.85kVpp、直流電圧−620Vdc)。そして、レーザー発生装置121によりレーザー光123を感光体100に照射することによって露光が行われ、目的の画像に対応した静電潜像が形成される。感光ドラム100上の静電潜像は現像器140によって一成分トナーで現像されてトナー画像を得、トナー画像は転写材を介して感光体に当接された転写ローラー114により転写材上へ転写される。トナー画像を載せた転写材は搬送ベルト125等により定着器126へ運ばれ転写材上に定着される。また、一部感光体上に残されたトナーはクリーナー116によりクリーニングされる。
【0133】
なお、ここでは磁性一成分ジャンピング現像の画像形成装置を示したが、ジャンピング現像又は接触現像のいずれの方法に用いられるものであってもよい。
【0134】
次に、本発明のトナーに係る各物性の測定方法に関して記載する。
【0135】
<トナーの応力の積分値の測定方法>
(1)トナーぺレットの作製
トナー約3gを(試料の比重により可変する。)、内径27mm測定用の塩化ビニル製リングに入れ、200kNで60秒プレスし、試料を成型することで、トナーペレットを作製する。尚、100kNで60秒プレスしたもの、および300kNで60秒プレスしたものに関して、いずれも同等の応力積分値が測定された。このことから上記手法でペレットを作成した場合のペレット表面の平滑性の誤差は微小で応力積分値測定に与える影響はないものと考える。
【0136】
(2)応力の積分値の測定
トナーの応力の積分値は「TAC−1000」(レスカ社製)を用いて、装置の操作マニュアルに従い、測定を行った。尚、プローブに関しては定着フィルム素材を想定し、トナーとの付着性の低いポリテトラフルオロエチレンコートされたものを使用した。ポリテトラフルオロエチレンコートについては以下のような行程を経て行った。
【0137】
プローブ部位を脱脂、サンドブラスト処理の後、マスキングしてから予熱を行い、ポリテトラフルオロエチレンを塗布する。乾燥させた後、マスキングを解除してから焼成、冷却を行いコートを完了した。
【0138】
上記手法でコートされた表面の粗さRaは0.5μmであった。また、Raが0.3〜0.8μmの範囲では測定される応力積分値の値が誤差範囲で変わらないことが確認された。
【0139】
具体的な測定方法としては、図4に示したように、サンプル押さえ板205の上に前記トナーペレット204を載せ、プローブユニット202を用いてプローブ先端203を200℃にする。
【0140】
次に、ヘッド部200を調整することにより、プローブ先端203がトナーペレット204を加圧できる手前まで、プローブ先端203を降下させる。次に、以下の条件でトナーペレット204を加圧し、プローブ先端203を引き上げるときの応力値を荷重センサ201で検出する。
・押しつけ速度 5mm/sec
・押しつけ荷重 19.7kg・m/sec
・押しつけ保持時間 0.05sec
・引き上げ速度 15mm/sec
【0141】
荷重センサで検出した応力値を積分することで応力の積分値を算出する。
【0142】
<トナー(粒子)の重量平均粒径(D4)及び個数平均粒径(D1)の測定>
トナー(粒子)の重量平均粒径(D4)及び個数平均粒径(D1)は、100μmのアパーチャーチューブを備えた細孔電気抵抗法による精密粒度分布測定装置「コールター・カウンター Multisizer 3」(登録商標、ベックマン・コールター社製)と、測定条件設定及び測定データ解析をするための付属の専用ソフト「ベックマン・コールター Multisizer 3 Version3.51」(ベックマン・コールター社製)を用いて、実効測定チャンネル数2万5千チャンネルで測定し、測定データの解析を行い、算出する。
【0143】
測定に使用する電解水溶液は、特級塩化ナトリウムをイオン交換水に溶解して濃度が約1質量%となるようにしたもの、例えば、「ISOTON II」(ベックマン・コールター社製)が使用できる。
【0144】
尚、測定、解析を行う前に、以下のように前記専用ソフトの設定を行う。
【0145】
前記専用ソフトの「標準測定方法(SOM)を変更画面」において、コントロールモードの総カウント数を50000粒子に設定し、測定回数を1回、Kd値は「標準粒子10.0μm」(ベックマン・コールター社製)を用いて得られた値を設定する。閾値/ノイズレベルの測定ボタンを押すことで、閾値とノイズレベルを自動設定する。また、カレントを1600μAに、ゲインを2に、電解液をISOTON IIに設定し、測定後のアパーチャーチューブのフラッシュにチェックを入れる。
【0146】
専用ソフトの「パルスから粒径への変換設定画面」において、ビン間隔を対数粒径に、粒径ビンを256粒径ビンに、粒径範囲を2μm以上60μm以下に設定する。
【0147】
具体的な測定法は以下の通りである。
(1)Multisizer 3専用のガラス製250ml丸底ビーカーに前記電解水溶液約200mlを入れ、サンプルスタンドにセットし、スターラーロッドの撹拌を反時計回りで24回転/秒にて行う。そして、解析ソフトの「アパーチャーのフラッシュ」機能により、アパーチャーチューブ内の汚れと気泡を除去しておく。
(2)ガラス製の100ml平底ビーカーに前記電解水溶液約30mlを入れ、この中に分散剤として「コンタミノンN」(非イオン界面活性剤、陰イオン界面活性剤、有機ビルダーからなるpH7の精密測定器洗浄用中性洗剤の10質量%水溶液、和光純薬工業社製)をイオン交換水で3質量倍に希釈した希釈液を約0.3ml加える。
(3)発振周波数50kHzの発振器2個を、位相を180度ずらした状態で内蔵し、電気的出力120Wの超音波分散器「Ultrasonic Dispersion System Tetora150」(日科機バイオス社製)の水槽内に所定量のイオン交換水を入れ、この水槽中に前記コンタミノンNを約2ml添加する。
(4)前記(2)のビーカーを前記超音波分散器のビーカー固定穴にセットし、超音波分散器を作動させる。そして、ビーカー内の電解水溶液の液面の共振状態が最大となるようにビーカーの高さ位置を調整する。
(5)前記(4)のビーカー内の電解水溶液に超音波を照射した状態で、トナー(粒子)約10mgを少量ずつ前記電解水溶液に添加し、分散させる。そして、さらに60秒間超音波分散処理を継続する。尚、超音波分散にあたっては、水槽の水温が10℃以上40℃以下となる様に適宜調節する。
(6)サンプルスタンド内に設置した前記(1)の丸底ビーカーに、ピペットを用いてトナー(粒子)を分散した前記(5)の電解水溶液を滴下し、測定濃度が約5%となるように調整する。そして、測定粒子数が50000個になるまで測定を行う。
(7)測定データを装置付属の前記専用ソフトにて解析を行い、重量平均粒径(D4)を算出する。尚、専用ソフトでグラフ/体積%と設定したときの、分析/体積統計値(算術平均)画面の「平均径」が重量平均粒径(D4)であり、専用ソフトでグラフ/個数%と設定したときの、「分析/個数統計値(算術平均)」画面の「平均径」が個数平均粒径(D1)である。
【0148】
<ルテニウム染色処理された透過型電子顕微鏡(TEM)におけるトナー断面の観察方法>
トナーの透過型電子顕微鏡(TEM)による断面観察は以下のようにして実施することができる。
【0149】
本発明のトナーは、トナー断面をルテニウム染色することによって観察を行う。本発明のトナーに含有される結晶性樹脂は、結着樹脂のような非晶樹脂よりもルテニウムで染色されるため、コントラストが明瞭になり、観察が容易となる。染色の強弱によって、ルテニウム原子の量が異なるため、強く染色される部分は、これらの原子が多く存在し、電子線が透過せずに、観察像上では黒くなり、弱く染色される部分は、電子線が透過されやすく、観察像上では白くなる。
【0150】
まず、カバーガラス(松波硝子社、角カバーグラス 正方形 No.1)上にトナーを一層となるように散布し、オスミウム・プラズマコーター(filgen社、OPC80T)を用いて、保護膜としてトナーにOs膜(5nm)およびナフタレン膜(20nm)を施す。次に、PTFE製のチューブ(Φ1.5mm×Φ3mm×3mm)に光硬化性樹脂D800(日本電子社)を充填し、チューブの上に前記カバーガラスをトナーが光硬化性樹脂D800に接するような向きで静かに置く。この状態で光を照射して樹脂を硬化させた後、カバーガラスとチューブを取り除くことで、最表面にトナーが包埋された円柱型の樹脂を形成する。超音波ウルトラミクロトーム(Leica社、UC7)により、切削速度0.6mm/sで、円柱型の樹脂の最表面からトナーの半径(重量平均粒径(D4)が8.0・mの場合は4.0・m)の長さだけ切削して、トナーの断面を出す。次に、膜厚250nmとなるように切削し、トナー断面の薄片サンプルを作製した。このような手法で切削するこで、トナー中心部の断面を得ることができる。
【0151】
得られた薄片サンプルを真空電子染色装置(filgen社、VSC4R1H)を用いて、RuO4ガス500Pa雰囲気で15分間染色し、TEM(JEOL社、JEM2800)を用いてSTEM観察を行った。
【0152】
<結晶性ポリエステル及びワックスのドメインの同定>
トナーの断面のTEM画像をもとに、結晶性ポリエステル及びワックスのドメインの同定を、以下の手順により行う。
【0153】
結晶性ポリエステル及びワックスを原材料として入手できる場合、それらの結晶構造を、上述のルテニウム染色処理された透過型電子顕微鏡(TEM)におけるトナー断面の観察方法と同様にして、観察し、原材料それぞれの結晶のラメラ構造の画像を得る。それらと、トナーの断面におけるドメインのラメラ構造を比較し、ラメラの層間隔が誤差10%以下であった場合、トナーの断面におけるドメインを形成している原材料を特定することができる。
【0154】
<結晶性ポリエステル及びワックスの単離>
結晶性ポリエステル及びワックスの原材料を入手できない場合、次のように単離作業を行う。まず、トナーに対する貧溶媒であるエタノールにトナーを分散させ、結晶性ポリエステル及びワックスの融点を超える温度まで、昇温させる。この時、必要に応じて、加圧してもよい。この時点で、融点を超えた結晶性ポリエステル及びワックスが溶融している。その後、固液分離することにより、トナーから、結晶性ポリエステル及びワックスの混合物を採取できる。この混合物を、分子量毎に分種することにより、結晶性ポリエステル及びワックスの単離が可能である。
【0155】
<結晶性ポリエステルのドメインの長径の個数平均径の測定>
本発明において、結晶性ポリエステルのドメインの個数平均径とは、TEM画像をもとに、結晶性ポリエステルのドメインの長径(図1)から求められる個数平均径を意味する。ルテニウム染色処理された透過型電子顕微鏡(TEM)におけるトナー断面の観察により得られたTEM画像をもとに、結晶性ポリエステルのドメインの長径の個数平均径を計測する。その際、100個以上のトナーの断面を観察する。全てのドメインを計測し、個数平均径を算出する。得られた個数平均径を、結晶性ポリエステルのドメインの長径の個数平均径とする。
【0156】
<結晶性ポリエステルのドメインの個数の測定>
上述の結晶性ポリエステルのドメインの長径の個数平均径の測定と同様にして、トナー断面当りに含まれる結晶性ポリエスエルのドメインの個数を計測する。これを100個以上のトナーの断面について行い、一つのトナー断面当りのドメインの個数を、結晶性ポリエステルのドメインの個数とする。
【0157】
<結晶性ポリエステルのドメインの25%率の測定>
本発明において25%率とは、トナーの表面からトナー断面の粒径に対して25%の深さの領域に存在している結晶性ポリエステルの割合(個数%)である。
【0158】
25%の算出の仕方は、以下の通りである。
【0159】
後述する、トナー断面の中心点にワックスのドメインが存在する割合の測定(中心率)と同様にしてトナーの輪郭及び中心点をもとめる。その中心点から、トナーの輪郭上の有る点に対して、対して線を引き、その線において、輪郭から25%の長さの位置を、25%輪郭とする。そして、トナーの輪郭に対して一周分、この操作を行い、トナー表面から25%の深さを明示する(図2)。この画像をもとに、上述のドメインの個数の測定と同様にして、トナー表面から25%の領域に存在する結晶性ポリエステルのドメインの個数を計測する。以下の式により、結晶性ポリエステルのドメインの25%率を算出する。
25%率=「トナー表面から25%の領域に存在する結晶性ポリエステルのドメインの個数」/「トナー全体に存在する結晶性ポリエステルのドメインの個数」×100(%)
【0160】
<ワックスのドメインの総面積の測定>
上述のTEM観察によって得られた画像をもとに、画像処理ソフトを用いて、トナー断面におけるワックスの面積を算出する。ワックスのドメインが複数ある場合、面積を累積する。これを100個以上のトナーの断面について行い、トナー一つ当りのワックスのドメインの総面積を下記式により求める。
ワックスのドメインの総面積=「ワックスのドメインの総面積」/「トナー断面の面積」×100(面積%)
【0161】
<トナー断面の中心点にワックスのドメインが存在する割合の測定(中心率)>
上述のTEM観察によって得られた画像をもとに、以下の作業をもとに、トナー断面の中心点を求める。画像処理ソフトを用いて、トナー断面から、トナーの輪郭(エッジ検出)を明らかにする。次いで、トナーの断面から重心によって導かれる点をトナーの中心点とする。その後、中心点にワックスのドメインが存在している場合のトナー断面の個数及び、存在していない場合のトナー断面の個数を、100個以上のトナーの断面について計測する。そして、下記式を用いて、中心率を算出する。
中心率=「中心点にワックスのドメインが存在しているトナー断面数」/「計測したトナー断面数」×100(個数%)
【0162】
<酸価の測定>
本発明における結晶性ポリエステル及びワックスの酸価は、以下の操作により求められる。基本操作はJIS K0070に属極性樹脂の酸価は以下の方法により測定した。
【0163】
酸価は試料1gに含まれる酸を中和するために必要な水酸化カリウムのmg数である。極性樹脂の酸価はJIS K 0070−1992に準じて測定した。具体的には、以下の手順に従って測定した。
【0164】
(1)試薬の準備
フェノールフタレイン1.0gをエチルアルコール(95vol%)90mlに溶かし、イオン交換水を加えて100mlとし、フェノールフタレイン溶液を得た。
【0165】
特級水酸化カリウム7gを5mlの水に溶かし、エチルアルコール(95vol%)を加えて1lとした。炭酸ガス等に触れないように、耐アルカリ性の容器に入れて3日間放置後、ろ過して、水酸化カリウム溶液を得た。得られた水酸化カリウム溶液は、耐アルカリ性の容器に保管した。前記水酸化カリウム溶液のファクターは、0.1モル/l塩酸25mlを三角フラスコに取り、前記フェノールフタレイン溶液を数滴加え、前記水酸化カリウム溶液で滴定し、中和に要した前記水酸化カリウム溶液の量から求めた。前記0.1モル/l塩酸は、JIS K 8001−1998に準じて作製されたものを用いた。
【0166】
(2)操作
(A)本試験
粉砕した結晶性ポリエステルまたはワックスの試料2.0gを200mlの三角フラスコに精秤し、トルエン:エタノール(2:1)の混合溶液100mlを加え、5時間かけて溶解した。次いで、指示薬として前記フェノールフタレイン溶液を数滴加え、前記水酸化カリウム溶液を用いて滴定した。尚、滴定の終点は、指示薬の薄い紅色が約30秒間続いたときとした。
(B)空試験
試料を用いない(すなわちトルエン:エタノール(2:1)の混合溶液のみとする)以外は、上記操作と同様の滴定を行った。
【0167】
(3)得られた結果を下記式に代入して、酸価を算出した。
A=[(C−B)×f×5.61]/S
【0168】
ここで、A:酸価(mgKOH/g)、B:空試験の水酸化カリウム溶液の添加量(ml)、C:本試験の水酸化カリウム溶液の添加量(ml)、f:水酸化カリウム溶液のファクター、S:試料(g)である。
【0169】
<融点の測定>
結晶性ポリエステル及びワックスの融点は、示差走査熱量分析装置「Q1000」(TA Instruments社製)を用いてASTM D3418−82に準じて測定する。
【0170】
装置検出部の温度補正はインジウムと亜鉛の融点を用い、熱量の補正についてはインジウムの融解熱を用いる。
【0171】
具体的には、結晶性ポリエステルまたはワックス1mgを精秤し、アルミニウム製のパンの中に入れ、リファレンスとして空のアルミニウム製のパンを用い、測定範囲20℃から140℃の間で、下記の設定でモジュレーション測定を行う。
・昇温速度1℃/min
・振幅温度幅±0.318℃/min
【0172】
この昇温過程で、温度20℃から140℃の範囲において比熱変化が得られる。結晶性ポリエステルまたはワックスの融点Tm(C)は、比熱変化曲線における最大吸熱ピーク温度とする
【0173】
<トナー中の結晶性物質に由来する結晶化温度の測定>
結晶性ポリエステルやワックスの単体でも結晶化ピークを求めることが可能であるため、その手法から記載する。
【0174】
結晶性ポリエステル又はワックスの結晶化温度及び発熱曲線は、示差走査熱量分析装置「Q1000」(TA Instruments社製)を用いて測定する。
【0175】
装置検出部の温度補正はインジウムと亜鉛の融点を用い、熱量の補正についてはインジウムの融解熱を用いる。
【0176】
具体的には、試料を1.00mg秤量し、アルミニウム製のパンに入れ、対照用に空のアルミニウム製のパンを用い、下記測定条件で測定を行う。
・測定モード:Standard
・昇温条件:10℃/minで、20℃から100℃へ昇温する。
・降温条件:0.5℃/minで、100℃から20℃へ降温する。
【0177】
得られた結果をもとに、温度―Heat Flowのグラフを作成し、降温時の結果より、結晶性ポリエステル又はワックスの発熱曲線を得る。該発熱曲線において、最大発熱ピークのピーク温度を結晶化温度とする。
【0178】
トナーから、結晶性ポリエステル又はワックスの結晶化温度を得るには、トナーから上述ように単離作業を行い、得られた単体を上記方法により分析するとよい。
【0179】
<結晶性ポリエステルの分子量の測定>
結晶性ポリエステル、非晶性ポリエステル樹脂およびトナーの分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により、以下のようにして測定する。
【0180】
まず、室温で結晶性ポリエステルまたはトナーをテトラヒドロフラン(THF)に溶解する。そして、得られた溶液を、ポア径が0.2μmの耐溶剤性メンブランフィルター「マエショリディスク」(東ソー社製)で濾過してサンプル溶液を得る。尚、サンプル溶液は、THFに可溶な成分の濃度が0.8質量%となるように調整する。このサンプル溶液を用いて、以下の条件で測定する。
装置:高速GPC装置「HLC−8220GPC」[東ソー(株)製]
カラム:LF−604の2連
溶離液:THF
流速:0.6ml/min
オーブン温度:40℃
試料注入量:0.020ml
【0181】
試料の分子量の算出にあたっては、標準ポリスチレン樹脂(例えば、商品名「TSKスタンダード ポリスチレン F−850、F−450、F−288、F−128、F−80、F−40、F−20、F−10、F−4、F−2、F−1、A−5000、A−2500、A−1000、A−500」、東ソ−社製)を用いて作成した分子量校正曲線を使用する。
【0182】
<結晶性ポリエステルの末端構造の同定>
樹脂サンプルを2mg精秤し、クロロホルム2mlを加えて溶解させてサンプル溶液を作製する。樹脂サンプルとしては結晶性ポリエステル樹脂Aを用いるが、樹脂Aを含有するトナーをサンプルとして代用することも可能である。次に、2,5−ジヒドロキシ安息香酸(DHBA)20mgを精秤し、クロロホルム1mlを添加して溶解させてマトリックス溶液を調製する。また、トリフルオロ酢酸Na(NaTFA)3mgを精秤した後、アセトンを1ml添加して溶解させてイオン化助剤溶液を調製する。
【0183】
このようにして調製したサンプル溶液25μl、マトリックス溶液50μl、イオン化助剤溶液5μlを混合して、MALDI分析用のサンプルプレート上に滴下させ、乾燥させることで測定サンプルとする。分析機器として、MALDI−TOFMS(Bruker Daltonics製 ReflexIII)を用い、マススペクトルを得る。得られたマススペクトルにおいて、オリゴマー領域(m/Zが2000以下)の各ピークの帰属を行い、分子末端にモノカルボン酸が結合した構造に対応するピークが存在するか否かを確認する。
【0184】
<結晶化度の算出>
まず、示差走査熱量分析装置「Q1000」(TA Instruments社製)を用いて各結晶性材料単体の発熱量(J/g)を求める。得られた発熱量と、トナー中に含まれる各結晶性材料の質量部との積を算出する。それらの総和を原材料の総質量部で除することで含有する結晶性材料がすべて結晶化していた際の発熱量(J/g)を算出し、その値を理論ΔHとする。続いて各サンプルトナーの発熱量(J/g)を同装置で測定し、先に求めた理論ΔHで除することで結晶化度(%)を算出した。
【実施例】
【0185】
以下、本発明を製造例及び実施例により具体的に説明するが、これは本発明をなんら限定するものではない。実施例5、21乃至26は参考例である。尚、以下の配合における部数は全て質量部である。
【0186】
<磁性酸化鉄1の製造>
Fe2+を2.0mol/L含有する硫酸鉄第一水溶液50リットルに、4.0mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液55リットルを混合撹拌し、水酸化第一鉄コロイドを含む第一鉄塩水溶液を得た。この水溶液を85℃に保ち、20L/minで空気を吹き込みながら酸化反応を行い、コア粒子を含むスラリーを得た。
【0187】
得られたスラリーをフィルタープレスにて、ろ過・洗浄した後、コア粒子を水中に再度分散させ、リスラリーした。このリスラリー液に、コア粒子100部あたりケイ素換算で0.20質量%となるケイ酸ソーダを添加し、スラリー液のpHを6.0に調整し、撹拌することでケイ素リッチな表面を有する磁性酸化鉄粒子を得た。得られたスラリーをフィルタープレスにてろ過、洗浄、更にイオン交換水にてリスラリーを行った。このリスラリー液(固形分50g/L)に500g(磁性酸化鉄に対して10質量%)のイオン交換樹脂SK110(三菱化学製)を投入し、2時間撹拌してイオン交換を行った。その後、イオン交換樹脂をメッシュでろ過して除去し、フィルタープレスにてろ過・洗浄し、乾燥・解砕して1次粒子の個数平均径が190nmの磁性酸化鉄1を得た。
【0188】
<シラン化合物1の製造>
iso−ブチルトリメトキシシラン30部をイオン交換水70部に撹拌しながら滴下した。その後、この水溶液をpH5.5、温度55℃に保持し、ディスパー翼を用いて、周速0.46m/secで120分間分散させて加水分解を行った。その後、水溶液のpHを7.0とし、10℃に冷却して加水分解反応を停止させた。こうして加水分解物を含有する水溶液であるシラン化合物1を得た(表1)。
【0189】
【表1】
【0190】
<磁性体1の製造>
磁性酸化鉄1、100部をハイスピードミキサー(深江パウテック社製 LFS−2型)に入れ、回転数2000rpmで撹拌しながら、シラン化合物1、8.0部を2分間かけて滴下した。その後5分間混合・撹拌した。次いで、シラン化合物1の固着性を高めるために、40℃で1時間乾燥し、水分を減少させた後に、混合物を110℃で3時間乾燥し、シラン化合物1の縮合反応を進行させた。その後、解砕し、目開き100μmの篩を通して磁性体1を得た(表2)。
【0191】
【表2】
【0192】
<ワックス>
本実施例、及び比較例で使用したワックスについて、以下、表3に示す。
【0193】
【表3】
【0194】
<結晶性ポリエステル1の製造>
窒素導入管、脱水管、撹拌器および熱電対を装備した反応槽中に、カルボン酸モノマー1としてセバシン酸100.0部、カルボン酸モノマー2としてステアリン酸1.6部、アルコールモノマーとして1,9−ノナンジオール89.3部、を投入した。撹拌しながら140℃に昇温し、窒素雰囲気下で140℃に加熱して常圧下で水を留去しながら8時間反応させた。次いで、ジオクチル酸スズを0.57部加えた後、200℃まで10℃/時間で昇温しつつ反応させた。更に、200℃に到達してから2時間反応させた後、反応槽内を5kPa以下に減圧して200℃で分子量を見ながら反応させて結晶性ポリエステル1を得た。得られた結晶性ポリエステル1の物性を表4に示す。
【0195】
<結晶性ポリエステル2乃至9の製造>
結晶性ポリエステル1の製造において、アルコールモノマーとカルボン酸モノマー1および2を表4のように変更し、反応時間および温度を所望の物性になるように調整したこと以外は同様にして、結晶性ポリエステル2乃至9を得た。得られた結晶性ポリエステルの物性および構造を表4に示す。
【0196】
【表4】
【0197】
<トナー粒子1の製造>
イオン交換水720部に0.1モル/L−Na3PO4水溶液450部を投入して60℃に加温した後、1.0モル/L−CaCl2水溶液67.7部を添加して、分散安定剤を含む水系媒体を得た。
【0198】
・スチレン 78.0部
・n−ブチルアクリレート 22.0部
・1,6−ヘキサンジオールジアクリレート 0.65部
・モノアゾ染料の鉄錯体(T−77:保土ヶ谷化学社製) 1.5部
・磁性体1 90.0部
・非晶性ポリエステル樹脂 3.0部
(ビスフェノールAのエチレンオキサイドおよびプロピレンオキサイド付加物とテレフタル酸との縮合反応により得られる非晶性ポリエステル樹脂;Mw=9500、酸価=2.2mgKOH/g、ガラス転移温度=68℃)
上記処方をアトライター(三井三池化工機(株))を用いて均一に分散混合して単量体組成物を得た。この単量体組成物を63℃に加温し、そこに表4に記載の結晶性ポリエステル1を10.0部、セバシン酸ベヘニル(融点:℃)を10.0部、およびパラフィンワックス(融点:75℃)を10.0部、添加混合し、溶解した。
【0199】
上記水系媒体中に上記単量体組成物を投入し、60℃、N2雰囲気下においてTK式ホモミキサー(特殊機化工業(株))にて12000rpmで10分間撹拌し、造粒した。その後パドル撹拌翼で撹拌しつつ重合開始剤t−ブチルパーオキシピバレート9.0部を投入し、70℃に昇温して4時間反応させた。反応終了後、懸濁液を100℃まで昇温させ、2時間保持した。その後、冷却、濾過・乾燥してトナー粒子1を得た。冷却工程について下記に詳細を記載する。製法および処方を表5に示す。
【0200】
(冷却工程)
冷却工程として、懸濁液に常温の水を投入し、100℃/minの速度で懸濁液を100℃から50℃まで冷却した後、50℃で120分保持し、常温(以下、30℃以下を常温とする)まで放冷した。
【0201】
<トナー粒子2乃至26の製造および比較トナー粒子1乃至6の製造>
トナー1の製造において、結晶性ポリエステルとワックスの種類および部数を表5に記載の通りに変更し、上記記載の冷却工程の冷却速度についても表5の通りに変更した以外は同様にして、トナー粒子2乃至26および比較トナー粒子1乃至6を製造した。製法および処方を表5に示す。
【0202】
【表5】
【0203】
「100℃/min」という条件は、トナー粒子1の製造工程における冷却工程において、懸濁液を100℃から100℃/minの速度で結晶性ポリエステルの結晶化ピーク温度付近まで降温し、その温度(結晶化ピーク温度±3℃が好ましい)において、60分間保持し、その後常温まで放冷することを示す。「10℃/min」条件も冷却速度が異なること以外同様である。
【0204】
「アニール」という条件は、冷却工程において、100℃から0.5℃/minの速度で結晶性ポリエステルの結晶化ピーク温度付近まで降温し、その温度(結晶化ピーク温度±3℃が好ましい)において、12時間保持し、その後常温まで放冷することを示す。
【0205】
<トナー1の製造>
100部のトナー粒子1と、BET値が300m2/gであり、一次粒子の個数平均径が8nmの疎水性シリカ微粒子0.8部とをヘンシェルミキサー(三井三池化工機(株))で混合してトナー1を得た。
【0206】
<トナー2乃至26の製造および比較トナー1乃至6の製造>
トナー1の製造において、トナーの粒子を表6に記載の通りに変更した以外は同様にして、トナー2乃至26および比較トナー1乃至6を製造した。トナー2乃至26および比較トナー1乃至6の物性も合わせて表6に示す。なお、表6の結着樹脂成分の項目において「St−Ac80%」と表記した場合は、残りの20%の結着樹脂成分はポリエステル樹脂である。
【0207】
【表6】
【0208】
〔実施例1〕
(評価1.苛酷保管後のカブリ)
画像形成装置として、LBP−224X(キヤノン製)を改造して用いた。改造点としては、プロセススピードを本来の220mm/secよりも早回しにした250mm/secとし、定着フィルムと加圧ローラの当接圧を軽圧となる様、通常時の30%に設定した。これにより後端オフセットをより厳しく評価することができる。
【0209】
また、定着フィルムについては表面粗さRaが0.5μmのものを使用した。
【0210】
カートリッジには、現像スリーブとして、直径14mm径から直径10mm径スリーブを搭載させた改造カートリッジを用いた。
【0211】
小径の現像スリーブを搭載したカートリッジを用いると、現像スリーブと現像ブレードの間のニップが狭くなり、トナーの帯電付与性が不利となるため、カブリを厳しく評価することができる。
【0212】
この改造カートリッジを用いて、トナー1を使用し、低温低湿環境下(15℃/10%RH)にて、印字率4%の横線チャートを出力したのち、ベタ白を2枚プリントし、2枚目のカブリを以下の方法により測定した。このときのカブリ値を、苛酷保管前カブリとした。
【0213】
次に、このカートリッジを高温環境下(50℃/55%RH)に、12時間放置し、苛酷環境の履歴を与えた。この改造カートリッジを用いて、トナー1を使用し、低温低湿環境下(15℃/10%RH)にて、印字率4%の横線チャートを出力したのち、ベタ白を2枚プリントし、2枚目のカブリを以下の方法により測定した。このときのカブリ値を、苛酷保管後カブリとした。
【0214】
まず、カブリの測定方法を示す。評価1で得た、ベタ白画像の反射率を東京電色社製のREFLECTMETER MODEL TC−6DSを使用して測定した。一方、べた白画像形成前の転写紙(標準紙)についても同様に反射率を測定した。フィルターは、グリーンフィルターを用いた。ベタ白画像出力前後の反射率から、下記式を用いてカブリを算出した。
カブリ(反射率)(%)=標準紙の反射率(%)−べた白画像サンプルの反射率(%)
【0215】
苛酷保管後のカブリの判断基準は以下の通りである。
【0216】
苛酷保管後のカブリ(反射率)(%)と、苛酷保管前のカブリ(反射率)(%)の差(カブリ悪化度(%))が、
A:1.0%未満
B:1.0%以上1.5%未満
C:1.5%以上2.5%未満
D:2.5%以上
【0217】
(評価2.後端オフセット)
画像形成装置として、評価1で使用した改造機を用い、さらに定着器の温調を10℃下げるように定着器の設定を変更した。カートリッジとして同様に評価1で使用した改造カートリッジを用いた。さらに定着器の温調を10℃下げるように定着器の設定を変更した。カートリッジとして同様に評価1で使用した改造カートリッジを用いた。
【0218】
高温高湿環境下(32.5℃/80%RH)において、評価間には定着器を取り外し、定着器を扇風機などを使用して十分に冷やした状態で以下の評価を実施した。評価後に定着器を十分に冷やしておくことで、画像出力後に上昇した定着ニップ部の温度が冷やされることで、トナーの定着性を厳しく、さらに再現良く評価することが可能である。
【0219】
後端オフセットを評価するに際して、記録材としてキヤノン製A4サイズOceRedLabel紙(坪量80g/m2)の放置紙(上記高温高湿環境下に48時間以上放置した紙)を使用した。比較的重く、表面粗さの大きい紙を使用し、放置した紙を使用することで、後端オフセットを厳しく評価することが可能である。
【0220】
トナー1を用いて、定着器が十分に冷えた状態で、上記放置紙にベタ黒画像を出力した。この際、紙上のトナーの載り量を9g/m2となるように調節した。
【0221】
トナー1の評価結果においては、ポツ抜け画像のない良好なベタ黒画像が得られた。
【0222】
後端オフセットについての判断基準を以下に述べる。
【0223】
後端オフセットは上記の手順で出力したベタ黒画像についてポツ抜けのレベルを目視で評価した。後端オフセットの判断基準は以下の通りである。
A:非常に良好(ポツ抜けが全くない)
B:良好(よく見るとポツ抜けが若干見られる)
C:普通(ポツ抜けが見られるが目立たない)
D:劣る(ポツ抜けが目立つ)
【0224】
(評価3.フィルム汚染)
画像形成装置として、評価1で使用した改造機を用いた。カートリッジも同様に評価1で使用した改造カートリッジを用いた。画像形成装置およびカートリッジを低温環境(7.5℃/30RH)に十分放置した後、評価を実施した。画像形成装置およびカートリッジを低温にしておくことでトナーの定着ローラーへの付着を促進させ、耐フィルム汚染性を厳しく評価できる。
【0225】
定着フィルムが汚染されていた場合、加圧ローラーに汚染が移り紙裏の汚れが発生することから以下の評価手法を実施した。
【0226】
ベタ画像を5枚プリントアウトした後、ベタ白画像を出力し加圧ローラーおよびプリントアウトした紙裏の汚れを目視で確認した。
A:加圧ローラー、紙裏ともに汚れが未発生
B:加圧ローラーに軽微の汚れが確認されるが、紙裏には汚れが未発生
C:加圧ローラーに軽微の汚れが確認され、紙裏にも僅かな汚れが発生
D:加圧ローラーに汚れが確認され、紙裏にも明確な汚れが発生
【0227】
〔実施例2乃至26および比較例1乃至6〕
実施例1において、トナー粒子2乃至26および比較トナー粒子1乃至6を用いたこと以外は同様にして、評価を行った。評価結果を表7に示す。
【0228】
【表7】
【符号の説明】
【0229】
1:ワックスのドメイン、2:結晶性ポリエステルのドメイン、3:トナーの表面からトナー断面の粒径に対して25%の深さの領域、100:静電潜像担持体(感光体)、102:トナー担持体、103:現像ブレード、114:転写部材(転写帯電ローラー)、116:クリーナー容器、117:帯電部材(帯電ローラー)、121:レーザー発生装置(潜像形成手段、露光装置)、123:レーザー、124:ピックアップローラー、125:搬送ベルト、126:定着器、140:現像器、141:撹拌部材、142:トナー規制部材、200:ヘッド部、201:荷重センタ、202プローブユニット、203:プローブ先端、204:トナーペレット、205:サンプル押さえ板
図1
図2
図3
図4