(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明に係る磁気識別装置を図示の実施例に基づいて詳細に説明する。
【0012】
(第一実施形態)
図1は、本発明の第一実施形態に係る磁気識別装置における磁気識別装置の動作原理を説明するための図である。
【0013】
図1(A)は、実施形態に係る磁気識別装置の一例及び一部を示す斜視外観図である。本実施形態の磁気識別装置が、被検知媒体としての磁気媒体33を識別する際の様子を示している。
【0014】
磁気媒体33は、一例として、磁性体を含む紙状の媒体である。より具体的には、例えば、磁気媒体33は、紙幣のように紙に磁性体を含んだインクを印刷したものである。また、磁気媒体33は、磁性体の箔帯を織り込んだものであってもよい。また、磁性体は、保磁力が大きい硬磁性のものが好ましいが、ほとんど保磁力を持たない軟磁性のものであってもよい。
【0015】
例えば、本実施形態では、複数の磁石2a、2b、2cと、複数の感磁素子の一例である磁気検出素子1a、1bとが、交互に並んで構成されている。詳細には、磁石2a、2bの間に磁気検出素子1aが配置され、磁石2b、2cの間に磁気検出素子1bが配置され、各々が略一直線上に配置されている。また、各磁石2a、2b、2cは、N極とS極とが磁極逆転して交互に並んで配置されている。すなわち、隣り合う一組の磁石2a、2bとその間に配置される磁気検出素子1aとで1つの磁界検出モジュール(磁気識別装置)が実質的に構成され、この磁界検出モジュールを直線的に配置することで、帯状の磁界検出領域が形成される。
【0016】
なお、これら各磁石2a、2b、2cは、Nd−Fe−B系やSm−Co系の希土類の磁石や酸化鉄系のフェライト磁石等であり、直方体状に成形されたものである。
【0017】
また、磁石2a等のNS方向は、媒体搬送面(XY面)に垂直であり、自身と隣接する磁石とは逆の極性を取るように並べられる。
図1(A)では、一例として、媒体搬送面上方(Z軸の正方向側)から見て、磁石2a、2b、2cの順にS、N、Sの順で並べられている。また、磁石2a、2b、2cは、媒体搬送方向(Y方向)と垂直なX軸方向にピッチPで配置されている。
【0018】
さらに、本実施形態における磁気検出素子1a、1bは、それぞれの検知面11a、11bが、磁石2a、2b、2cのNS極の概ね中点を通り、磁石2a等のNS方向を法線とする平面と略同一となるように配置されている。
【0019】
図1(B)は、磁気検出素子1a、1bの検知面11の拡大図の一例を示す図である。なお、磁気検出素子1の検知面11は、パーマロイ、アモルファス、微結晶構造等の高透磁率の細長い磁性薄膜12と、銅やアルミ等の導電性金属薄膜による平面コイル13とが不図示の絶縁膜を介して積層され、それぞれ電極14に引き出されている。
【0020】
本実施形態の磁気検出素子1a、1bは、直交フラックスゲートである。また、磁気検出素子1は、磁性薄膜12に高周波電流を印加し、磁性薄膜12内の磁束変化を、平面コイル13から電圧に変換したセンサ信号として取り出す。磁界検知方向は磁性薄膜12の長手方向であり、
図1(A)に示されるセンサ構成ではこれがX軸方向となるように磁気検出素子1a、1bが配置される。なお、この磁気検出素子1はバイアス磁界が不要であり、磁界ゼロで感度を有しており、本実施形態の磁気識別装置に好適である。当然、この検出方法は一例であり、他の磁気検出方法を用いてもよい。
【0021】
図2は、磁気検出素子1の磁界検知特性の一例を示す図である。
図2の例によれば、本例の磁気検出素子1等では、小磁界(例えば45a)での線形領域(例えば46a)と、高磁界(例えば45b)での非線形領域(例えば46b)を持ち、高磁界領域では所定の磁界(本実施例で用いる磁気検出素子の場合、およそ±10ガウス)を印加されたところで出力が飽和する。磁気識別装置の磁気センサとして高い感度を引き出すためには、上記線形領域を用いることで実現できる。
【0022】
すなわち、低磁界側で任意の磁界範囲45aを印加したときの出力範囲46aと、高磁界側で45aと概ね同じ大きさの範囲である磁界範囲45bを印加したときの出力範囲46bを比較すると、低磁界側で直線領域を用いた出力範囲46aが大きく、感度良く磁気媒体33の通過に伴う磁界変化を検出することができる。
【0023】
上記をさらに詳細に説明する。
図3(A)は、磁気検出素子1a、1bのそれぞれの検知面11a、11bが、磁石2a、2b、2cのNS極の概ね中点を通り、磁石2a等のNS方向を法線とする平面と略同一となるように配置されたときの磁界分布の様子を示している。例えば検知面11aには磁石2a、2bの磁界が印加され、磁極中点に配置された検知面11aでは、Y方向の磁界が印加されるが、検知方向であるX方向には磁界成分が存在しないため、検知面に印加される磁界は概ねゼロとなる。(
図2における41の状態)。
【0024】
さらに
図3(B)では、磁気媒体33が磁気検知素子1及び磁石2上に存在し、磁気媒体33による磁界変化を検出する様子を示している。磁気媒体33が磁気検知素子1及び磁石2上に存在するとき、磁気媒体33により磁石2のつくる磁界分布が変化し、磁気検出素子の検出方向であるX方向の磁界成分が生じる(
図2における42の状態)。その結果として、出力差46aを得ることができる。
【0025】
しかし、
図4(A)に示すように、検知面11a、11bが、磁石2a、2b、2cのNS極の概ね中点を通り、磁石2a等のNS方向を法線とする平面上にないとき検知面11上では、X方向の磁界成分が生じる((
図2における43の状態)。さらに、
図4(B)のように磁気媒体33が通過すると、さらにX方向の磁界成分が生じ、
図2におおける44の状態になる。
【0026】
結果として、磁気媒体33のない初期状態である41あるいは43の状態から、磁気媒体33が存在する状態である42あるいは44の状態に同様になった場合に、概ね同じ磁界変化である45aあるいは45bに対して、出力変化46a、46bとでは、大きな差となるため、46bの状態では十分に磁気媒体33の通過に伴う磁界変化を検出することができない。
【0027】
従って、本発明においてはゼロ磁界に近いところでセンサを動作させることが好ましい。
【0028】
図5は、磁気検出素子1と磁石2の相対位置関係と、センサの感度を十分に引き出すために要求される位置精度を表した概念図である。
【0029】
検出チャンネルを多数化するためには、
図5のように磁石2の間隔Pを小さくし、多くの磁気検出素子が配置できるようにすることが1つの方法である。
図5(A)と
図5(B)では、磁石を配置するピッチP1とP2が異なり、P1が小さく、より多チャンネル化に対応した配置となる。
【0030】
しかし、P1を小さくし、磁石2と磁気検出素子1の距離が近くなることで、検知部11に印加される磁界変化が大きくなり、例えば磁石2と磁気検出素子1の相対位置がずれた場合に、
図1で示したように、十分な感度を引き出すことができなくなる可能性が生じる。
【0031】
例えば、磁石2にBr1.1T、Hc10kOeの磁気特性で、x:0.75mm、y:2.0mm、c:1.5mmの磁石を用いて、ピッチPを可変させ、検知面11に印加される磁界を計算すると、P=3.0mmのとき(例えばP1)、磁石2bが2aに対して10μm、y方向にオフセットされて設置された場合、検出面1aには約6ガウス(
図6の47)だけ磁界が印加される。これが
図5(A)のようにP1がP2よりも小さく、例えば2.5mmのとき、上記のP1=3.0mmのときと磁石等は同条件にし、磁石2bを10μmだけy方向にオフセットさせて設置したとき、検知面1aには約9ガウス(
図6の48)の磁界が印加される。この場合、おおよそ磁界検知特性の飽和域に達してしまい、十分な感度を引き出すことができなくなるため、この例では10μmよりも十分小さな分解能での磁石の位置精度が必要となる。
【0032】
従って、
図5(A)のように、磁気検出素子1と磁石2の距離が近接している場合、磁気検出素子1同士を密に配置することが出来るためセンサ全体(磁気センサが配列される方向)の分解能が向上するが、センサの感度を十分に引き出す磁気検出素子1と磁石2の位置関係に高い精度が必要となる。
【0033】
センサとして求められる性能「高い感度・高い分解能・ムラの無い出力」を実現するためには、磁気検出素子1と磁石2の距離が近接している状態で、高精度に磁気検出素子1と磁石2の相対位置を決めなければならない。
【0034】
図7は、磁気検出素子1を実装した回路基板5の図である。回路基板5はFPCまたはリジット基板またはリジットフレキシブル基板で構成されている。
【0035】
図7(A)に示すように、磁気検出素子1は、磁石2を設置するための複数の開口部51を備えた回路基板5に電気的に接続(実装)される。また、磁気検出素子1は、その検知面11が回路基板5側を向いて接続されている。開口部51同士の間に磁気検出素子1が配置され、磁石2がその両脇の開口部51の位置に配置されることによって、磁気検出素子1に及ぼす磁界を形成する。
【0036】
図8は、磁石2と磁石2に取り付けられた保持部材6とで構成される磁石ユニット61を表した図である。保持部材6には、調整方向に対して角度が保証された1辺以上、あるいは1面以上がガイドとして設けられ、後述のガイド部材8と組み合わされることで磁石の調整方向を除く各種移動・回転を制限出来るようになっている。以下の説明においては、調整方向に対して角度が保証された部分を面として形成した場合の一例を当接面として説明している。
図8(A)は調整方向からの投影形状を磁石2と同一とした保持部材6aを示している。これにより、磁石ユニット61における調整方向以外の4辺および4面がガイドとして使用可能となる。
【0037】
保持部材6には調整方向に対して角度が保証された1辺以上、あるいは1面以上が設けられていれば構わないため、
図8(B)や
図8(C)示す円柱型保持部材6bやD型保持部材6cでも構わない。
【0038】
図9にガイド部材8の構成を示す。ガイド部材8は、磁石ユニット61を取り付けるためのガイドフレーム81と磁石ユニット61の移動や回転を規制するための支持部材83によって構成されている。ガイドフレーム81は、後述の制限部材811の一例である。
【0039】
すなわち、磁石ユニット61に当接面として設けられた1面に対して、ガイドフレーム81に櫛歯状に形成された挟持部の1面(制限部811a)が当接することによって当接面に垂直に効力を及ぼし(第1の抗力)、磁石ユニット61の移動や回転を規制している。挟持部は、面であるとして説明したが辺(稜線)で接触するように構成してもよく、当接面に対して垂直に効力を及ぼすことができればよい。
【0040】
また、支持部材83に設けられた支持面83aが、磁石ユニット61の他の面(辺や陵線も含む)に対して当接し、支持面83aに対して垂直な効力(第2の抗力)を磁石ユニット61に対して及ぼすことで、磁石ユニット61の移動や回転を規制している。
【0041】
ガイド部材8は、保持部材6と組み合わされることで磁石2の各種移動・回転を制限出来るよう、調整方向に対して角度が保証された穴8a、又は溝8b、又は壁8c、又は仮想接線を形成する1組の柱8dが設けられている必要がある。また、本実施例においては、磁石2の各種移動・回転の制限を行うための構造として、磁石ユニット61に設けられた当接面に当接して一方向への平行移動および第一軸の回転移動を制限する支持面83aを有する支持部材83と、磁石ユニット61に設けられた他の当接面に当接して他の一方向の平行移動および第二軸の回転移動を制限する制限部811aを有する制限部材811のように、分割して別々に設けることで、支持面と制限部による保証精度を高めているが、ガイド部材8が制限部材811としての孔8a、溝8b、壁8c柱8dと一体に支持部材83を設けても構わない。なお、制限部811aおよび支持面83aは規制部の一例である。
【0042】
図10は、保持部材6を取り付けた磁石2を、磁気検出素子1を実装した回路基板5の近傍に配したガイド部材8に組み込んだ外観斜視図である。保持部材6がガイド部材8と組み合わされ、当接面で接触することにより、磁石2の2方向の平行移動および全軸方向の回転移動を制限することが出来、残された1方向(調整方向)の位置調整のみで十分なセンサの感度を得ることが可能となる。すなわち、磁石ユニット61がガイド部材8と当接面において当接することで、x軸方向およびy軸方向に対する磁石ユニット61の移動や回転を制限し、z軸方向に対して位置調整することによって、磁石ユニット61のガイド部材8に対する相対位置を調整することができる。これによって、磁気検出素子1に対して磁石2が及ぼす磁界を調整し、磁気検出素子1の初期出力値を所望の値に調整することが出来る。
【0043】
磁石ユニット61の位置調整と固定の両方を行えるように、本実施形態の磁気識別装置においては、磁石ユニット61における磁石2が設けられる側とは逆側の端部がz軸方向に延びるビスに対して固定されるようになっている。ビスは図示しないビス受け部材に対して進退可能になっており、ビスを進退させることによって磁石ユニット61のz軸方向(調整方向)に対する位置調整と位置決めを行っている。
【0044】
この構成によれば、ビスを進退させることで磁石2の位置をz軸方向に変位させながら、磁気検出素子1の出力値を所望の値に調整していく調整作業を簡易化できる。
【0045】
本実施形態においては、磁石2はガイド部材8と接触せずに、保持部材6のみがガイド部材と接触するように構成されているが、その場合、磁石2と保持部材6との接合によるズレによって磁石ユニット61が傾くことを防止できる。但し、磁石ユニット61のガイド部材5との当接面側を面一に形成した場合には、磁石4がガイド部材5と当接するようにしてもよい。
【0046】
また、制限部材811に設けた磁石ユニット61が配置されるための凹構造(孔8a、溝8b、壁8c柱8d)は、支持部材83が磁石ユニット61に当接するために、凹構造の底部が支持部材83の側壁部分にまで到達するようになっている。
【0047】
調整方法の例としては
図11(A)に示すとおり、保持部材6を取り付けた磁石2とで構成される磁石ユニット61を調整方向に移動させ、磁気検出素子1の出力が図(B)に示す49aから、ピークまたはボトム49bを通過後、ゼロ点49c付近になるように調整する。
【0048】
図12は、ガイドフレーム81の構造を示した斜視図である。
図12に示すように、ガイドフレーム81は単一の板状金属部材を折り曲げることによって構成されている。より詳しくは、金属部材81cの中央部に互いに平行に配置された複数の長孔を跨ぐようにして、複数の長孔の中心を通る直線Aから等距離となる位置を平行に延びる2直線で折り曲げることによって金属部材81bの形状を形成し、対向する長孔の端部に接する磁石ユニット61同士を平行に配置させることができる。本実施形態においては、金属部材81b形状を形成したあと、磁石ユニット61の実装時に磁石ユニット61と当接しない部分をカットすることで、ガイドフレーム81aを形成し、ガイドフレーム81の軽量化を行ってもよい。
【0049】
(他の実施形態)
図13に示すように、ガイドフレーム81の両端部に切り欠き(溝部)を設け、折り返した両端部に設けた対向する切り欠きを渡るようにして磁石ユニット61を設けるようにしてもよい。
【0050】
図13に示す別実施形態のガイドフレーム81dの場合、中心線Aから磁石ユニット61が当接する位置までの距離82dは、折り曲げ前の金属部材81eの寸法82eと折り返しの量によって決まり、距離82dには寸法や曲げの誤差が影響する。
図12に示すように折り返すことで形成されたガイドフレーム81aおよび81bであれば、中心線Aから磁石ユニット61が当接する位置までの距離82bは、折り曲げ前の金属部材81cにおける寸法82cと同等となるため、対向する長孔の端部同士の位置ズレを低減し、複数の磁石ユニット61間の平行度を保つことが出来る。中心線Aから磁石ユニット61が当接する部分までの距離をガイドフレーム81a、81bのようにすることで低減でき、寸法や曲げ量による誤差を低減できる。
【0051】
また、ガイド部材8は、
図14に示すガイド部材8g、8h、8iのような形状であっても構わない。ガイド部材8の構成数が単数であれ複数であれ、磁石ユニットの各種移動・回転の制限となる構造であればよい。
【0052】
具体的には、ガイド部材8gは、
図13に示すガイドフレーム81dに支持部材83を組み合わせた構造となっている。
【0053】
また、ガイド部材8hは、
図12に示すガイドフレーム81bにおいて、折り曲げた部分の先端側の板状部分を延伸させ、それを略180度さらに外側に折り返した形状となっているガイドフレーム81hによって構成されている。折り返した先端部分はガイドフレーム81bに形成された磁石ユニット61が収容される溝形状の底部よりも上方まで延びている。すなわち、折り返した部分の先端側の板状部分によって磁石ユニット61に対する支持部を形成することによって、支持部材83が不要となる。
【0054】
また、ガイドフレーム81iは、ガイド部材8hで折り返した部分を、ガイド部材8i内側に向かって折り返した形状となっている。この場合、ガイド部材8hと同様に、支持部材83を設ける必要がなく、加えてガイド部材8iをコンパクトに形成することができる。
【0055】
これまでに説明したいずれの実施形態においても、制限部材811の一例としてのガイドフレーム81は、磁石ユニット61を挟持するような制限部811a(第1の制限部と第2の制限部)を設けてもよい。その場合、ガイドフレーム81における磁石ユニット61を収容するための溝形状の幅は、磁石ユニット61の幅に対して僅かに短く設計されているのが好ましく、制限部811aを保持部材6に設け、ガイドフレーム81の溝形状に対して僅かに圧入されるようにすることが好ましい。そうすることによって、調整方向に対して移動させることで磁石ユニット61の位置を調整した後での磁石ユニット61の移動を防ぐことができ、好適である。