(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
入力側に設けられ、レバー操作により入力される回転トルクの伝達および遮断を制御するレバー側クラッチ部と、出力側に設けられ、レバー側クラッチ部からの回転トルクを出力側へ伝達すると共に、出力側から逆入力される回転トルクを遮断するブレーキ側クラッチ部とからなり、
前記ブレーキ側クラッチ部は、回転が拘束された静止部材と、回転が出力される出力部材と、静止部材と出力部材との間に配置され、前記レバー側クラッチ部からの回転トルクが入力される入力部材と、静止部材と出力部材との間での係合および離脱により、出力部材から逆入力される回転トルクの遮断と入力部材から入力される回転トルクの伝達とを制御する係合子とを備え、
前記出力部材にトルク伝達可能に連結された前記入力部材に、回転トルクの遮断時に静止部材と噛合し、かつ、回転トルクの伝達時に静止部材との噛合状態が解除されるギヤ部材を付設し、
前記ギヤ部材は、前記ブレーキ側クラッチ部の入力部材に対して軸方向移動可能に配置された構造を有し、前記ギヤ部材を軸方向に移動させて静止部材との噛合および噛合状態の解除を制御するカム機構を、ギヤ部材と前記レバー側クラッチ部の入力部材との間に介在させたことを特徴とするクラッチユニット。
【背景技術】
【0002】
一般に、円筒ころやボール等の係合子を用いるクラッチユニットにおいては、入力部材と出力部材との間にクラッチ部が配設される。このクラッチ部は、入力部材と出力部材との間で円筒ころやボール等の係合子を係合および離脱させることによって、回転トルクの伝達および遮断を制御する構成になっている。
【0003】
本出願人は、レバー操作により座席シートを上下調整する自動車用シートリフタ部に組み込まれるクラッチユニットを先に提案している(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
この特許文献1に開示されたクラッチユニットは、レバー操作により回転トルクが入力されるレバー側クラッチ部と、そのレバー側クラッチ部から入力される回転トルクを出力側へ伝達すると共に、出力側から逆入力される回転トルクを遮断するブレーキ側クラッチ部とを備えている。
【0005】
レバー側クラッチ部は、レバー操作により回転トルクが入力される外輪と、その外輪から入力される回転トルクをブレーキ側クラッチ部に伝達する内輪と、外輪と内輪との間の楔すきまでの係合および離脱により外輪からの回転トルクの伝達および遮断を制御する円筒ころと、外輪から入力される回転トルクで弾性力を蓄積し、回転トルクの入力がなくなると、蓄積された弾性力で外輪を中立状態に復帰させるセンタリングばねとで主要部が構成されている。
【0006】
ブレーキ側クラッチ部は、回転が拘束された外輪と、回転トルクが出力される出力軸と、外輪と出力軸との間の楔すきまでの係合および離脱により出力軸からの回転トルクの遮断とレバー側クラッチ部からの回転トルクの伝達とを制御する円筒ころおよび板ばねと、円筒ころおよび板ばねを円周方向等間隔に保持する保持器とで主要部が構成されている。なお、前述の保持器は、レバー側クラッチ部の内輪と一体的に形成されている。
【0007】
レバー側クラッチ部では、レバー操作により外輪に回転トルクが入力されると、円筒ころが外輪と内輪との間の楔すきまに係合する。この楔すきまでの円筒ころの係合により、内輪に回転トルクが伝達されて内輪が回転する。この時、外輪の回転に伴ってセンタリングばねに弾性力が蓄積される。
【0008】
レバー操作による回転トルクの入力がなくなると、センタリングばねの弾性力により外輪が中立状態に復帰する一方で、内輪は、与えられた回転位置をそのまま維持する。従って、外輪の回転繰り返し、つまり、操作レバーのポンピング操作により、内輪は寸動回転する。
【0009】
ブレーキ側クラッチ部では、座席シートへの着座により出力軸に回転トルクが逆入力されると、円筒ころが出力軸と外輪との間の楔すきまに係合して出力軸が外輪に対してロックされる。この出力軸のロックにより出力軸からの回転トルクは遮断される。これにより、座席シートの座面高さが保持される。
【0010】
一方、レバー側クラッチ部の内輪から回転トルクがブレーキ側クラッチ部の保持器に入力されると、保持器が回転し円筒ころと当接して板ばねの弾性力に抗して円筒ころを押圧することで、円筒ころが外輪と出力軸との間の楔すきまから離脱する。この円筒ころの離脱により、出力軸のロック状態が解除され、出力軸は回転可能となる。
【0011】
そして、ブレーキ側クラッチ部の保持器がさらに回転することにより、保持器からの回転トルクが出力軸に伝達され、出力軸が回転する。つまり、保持器が寸動回転すると、出力軸も寸動回転することになる。この出力軸の寸動回転により、座席シートの上下調整が可能となる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
ところで、特許文献1で開示された従来のクラッチユニットでは、座席シートへの着座により出力軸に回転トルクが逆入力されると、円筒ころが出力軸と外輪との間の楔すきまに係合して出力軸が外輪に対してロックされる。
【0014】
この出力軸のロックにより、出力軸から逆入力された回転トルクは、ブレーキ側クラッチ部でロックされてレバー側クラッチ部への還流が遮断される。これにより、座席シートの座面高さが保持される。
【0015】
ここで、自動車用シートリフタ部に組み込まれるクラッチユニットでは、座席シートへの着座状態で、悪路などでの車両走行時に上下振動が発生すると、正方向の回転トルクと逆方向の回転トルクが交互に連続した状態で出力軸に逆入力されることになる。
【0016】
この時、ブレーキ側クラッチ部では、外輪と出力軸との間の楔すきまでの円筒ころの接触位置が微妙にずれたり、回転トルクが負荷される出力軸、外輪、円筒ころおよび板ばねに弾性変形のヒステリシスが存在したりすることから、出力軸が徐々に回転してしまうことになる。その結果、座席シートが微小に下がる現象が発生する。
【0017】
そこで、本発明は前述の改善点に鑑みて提案されたもので、その目的とするところは、正逆方向の回転トルクが連続して出力軸に逆入力されても、出力軸を確実にロックし得る構造を具備したクラッチユニットを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明に係るクラッチユニットは、入力側に設けられ、レバー操作により入力される回転トルクの伝達および遮断を制御するレバー側クラッチ部と、出力側に設けられ、レバー側クラッチ部からの回転トルクを出力側へ伝達すると共に、出力側から逆入力される回転トルクを遮断するブレーキ側クラッチ部とからなる基本構成を具備する。
【0019】
本発明におけるブレーキ側クラッチ部は、回転が拘束された静止部材と、回転が出力される出力部材と、静止部材と出力部材との間に配置され、レバー側クラッチ部からの回転トルクが入力される入力部材と、静止部材と出力部材との間での係合および離脱により、出力部材から逆入力される回転トルクの遮断と入力部材から入力される回転トルクの伝達とを制御する係合子とを前提として備えている。
【0020】
前述の目的を達成するための技術的手段として、ブレーキ側クラッチ部において、出力部材にトルク伝達可能に連結された入力部材に、回転トルクの遮断時に静止部材と噛合し、かつ、回転トルクの伝達時に静止部材との噛合状態が解除されるギヤ部材を付設したことを特徴とする。
【0021】
本発明では、ブレーキ側クラッチ部の入力部材にギヤ部材を付設したことにより、出力部材のロック時、正方向の回転トルクと逆方向の回転トルクが交互に連続した状態で出力部材に逆入力されても、入力部材に付設されたギヤ部材が静止部材に噛合していることで、入力部材にトルク伝達可能に連結された出力部材を確実にロックすることができる。
【0022】
ブレーキ側クラッチ部では、静止部材と出力部材との間で係合子の接触位置が微妙にずれたり、回転トルクが負荷される出力部材、静止部材、係合子に弾性変形のヒステリシスが存在したりしても、ギヤ部材と静止部材との噛み合いにより、出力部材が徐々に回転することを回避できる。
【0023】
本発明におけるギヤ部材は、ブレーキ側クラッチ部の入力部材に対して軸方向移動可能に配置された構造を有し、ギヤ部材を軸方向に移動させて静止部材との噛合および噛合状態の解除を制御するカム機構を、ギヤ部材とレバー側クラッチ部の入力部材との間に介在させた構造が望ましい。
【0024】
このような構造を採用すれば、カム機構によりギヤ部材を軸方向に移動させることができるので、そのギヤ部材の軸方向移動でもってギヤ部材と静止部材との噛合および噛合状態の解除を容易に行うことができる。
【0025】
本発明において、ブレーキ側クラッチ部の入力部材とギヤ部材との間に、ギヤ部材と静止部材との噛合状態を解除する方向に弾性力に付勢する弾性部材を介在させた構造が望ましい。
【0026】
このような構造を採用すれば、弾性部材の弾性力を入力部材およびギヤ部材に作用させることができるので、出力部材のロック状態の解除時、ギヤ部材と静止部材との噛合状態を確実に解除することができる。
【0027】
本発明に係るクラッチユニットは、レバー側クラッチ部およびブレーキ側クラッチ部を自動車用シートリフタ部に組み込むことで自動車用途として適している。
【発明の効果】
【0028】
本発明によれば、ブレーキ側クラッチ部の入力部材にギヤ部材を付設したことにより、出力部材のロック時、正方向の回転トルクと逆方向の回転トルクが交互に連続した状態で出力部材に逆入力されても、入力部材に付設されたギヤ部材が静止部材に噛合していることで、その入力部材にトルク伝達可能に連結された出力部材を確実にロックすることができる。
【0029】
ブレーキ側クラッチ部では、静止部材と出力部材との間で係合子の接触位置が微妙にずれたり、回転トルクが負荷される出力部材、静止部材、係合子に弾性変形のヒステリシスが存在したりしても、ギヤ部材と静止部材との噛み合いにより、出力部材が徐々に回転することを回避できる。
【0030】
その結果、ブレーキ側クラッチ部を自動車用シートリフタ部に組み込んだ場合、座席シートへの着座状態で、悪路などでの車両走行時に上下振動が発生しても、座席シートが微小に下がる現象の発生を防止することができる。
【発明を実施するための形態】
【0032】
本発明に係るクラッチユニットの実施形態を図面に基づいて詳述する。
図1はこの実施形態のクラッチユニットの全体構成を示す断面図、
図2は
図1のP−P線に沿う断面図、
図3は
図1のQ−Q線に沿う断面図である。この実施形態の特徴的な構成を説明する前にクラッチユニットの全体構成を説明する。
【0033】
この実施形態のクラッチユニット10は、
図1に示すように、入力側に設けられたレバー側クラッチ部11と、出力側に設けられたブレーキ側クラッチ部12とをユニット化した構造を具備する。レバー側クラッチ部11は、レバー操作により入力される回転トルクの伝達および遮断を制御する。ブレーキ側クラッチ部12は、レバー側クラッチ部11から入力される回転トルクを出力側へ伝達すると共に、出力側から逆入力される回転トルクを遮断する逆入力遮断機能を有する。
【0034】
レバー側クラッチ部11は、
図1および
図2に示すように、レバー操作により回転トルクが入力される側板13および外輪14と、外輪14から入力される回転トルクをブレーキ側クラッチ部12に伝達する内輪15と、外輪14と内輪15との間での係合および離脱により外輪14からの回転トルクの伝達および遮断を制御する複数の円筒ころ16と、各円筒ころ16を円周方向等間隔に保持する保持器17と、保持器17を中立状態に復帰させるための内側センタリングばね18と、外輪14を中立状態に復帰させるための外側センタリングばね19とで主要部が構成されている。
【0035】
レバー側クラッチ部11において、側板13の外周縁部に形成された爪部13aを、外輪14の外周縁部に形成された切欠き凹部14aに挿入して加締めることにより、側板13が外輪14に固定される。これにより、側板13および外輪14が、レバー側クラッチ部11の入力部材として一体化されている。外輪14の内周には、複数のカム面14bが円周方向等間隔に形成されている。外輪14への回転トルクの入力は、側板13にねじ止め等により取り付けた上下方向揺動可能な操作レバー43(
図4参照)により行われる。
【0036】
内輪15は、出力軸22が挿通される筒状部15aと、その筒状部15aのブレーキ側端部を径方向外側に延在させた拡径部15bと、その拡径部15bの外周端部を軸方向に屈曲させることにより突出した複数の柱部15cとからなる。内輪15の筒状部15aの円筒状外周面15dと、外輪14の内周に形成されたカム面14bとの間に楔すきま20が形成され、その楔すきま20に円筒ころ16が保持器17により円周方向等間隔で配設されている。
【0037】
内側センタリングばね18は、保持器17とブレーキ側クラッチ部12のカバー24との間に配設された断面円形のC字状弾性部材で、その両端部を保持器17およびカバー24の一部に係止させている。この内側センタリングばね18は、レバー操作により外輪14から入力される回転トルクの作用時、静止状態にあるカバー24に対して、外輪14に追従する保持器17の回転に伴って押し拡げられて弾性力が蓄積され、外輪14から入力される回転トルクの開放時、その弾性力により保持器17を中立状態に復帰させる。
【0038】
内側センタリングばね18の径方向外側に位置する外側センタリングばね19は、外輪14とカバー24との間に配設されたC字状帯板弾性部材で、その両端部を外輪14およびカバー24の一部に係止させている。外側センタリングばね19は、レバー操作により外輪14から入力される回転トルクの作用時、静止状態にあるカバー24に対して、外輪14の回転に伴って押し拡げられて弾性力が蓄積され、外輪14から入力される回転トルクの開放時、その弾性力により外輪14を中立状態に復帰させる。
【0039】
保持器17は、円筒ころ16を収容する複数のポケット17aが円周方向等間隔に形成された樹脂製の円筒状部材である。この保持器17の一方の軸方向端部、つまり、ブレーキ側クラッチ部12のカバー24側の軸方向端部には、内側センタリングばね18の両端部を係止させている。この保持器17は、外輪14と内輪15との間に配されている。
【0040】
ロック型と称されるタイプで逆入力遮断機能を有するブレーキ側クラッチ部12は、
図1および
図3に示すように、レバー側クラッチ部11からの回転トルクが入力される入力部材である内輪15と、レバー側クラッチ部11からの回転トルクが出力される出力部材である出力軸22と、回転が拘束された静止部材である外輪23、カバー24および側板25と、外輪23と出力軸22との間での係合および離脱により、出力軸22から逆入力される回転トルクの遮断と内輪15から入力される回転トルクの伝達とを制御する係合子である複数対の円筒ころ27、および各対の円筒ころ27同士に円周方向への離反力を付勢する断面N字形の板ばね28と、出力軸22に回転抵抗を付与する摩擦リング29とで主要部が構成されている。
【0041】
出力軸22は、内輪15の筒状部15aが外挿された軸部22aの軸方向中央部位に、径方向外側に延びて拡径した大径部22bが一体的に形成されている。軸部22aの出力側端部には、シートリフタ部41(
図4参照)と連結するためのピニオンギヤ22dが同軸的に形成されている。また、軸部22aの入力側端部にウェーブワッシャ30を介してワッシャ31を圧入することにより、レバー側クラッチ部11の構成部品を抜け止めしている。
【0042】
出力軸22の大径部22bの外周には、複数の平坦なカム面22eが円周方向等間隔に形成されている。大径部22bのカム面22eと外輪23の円筒状内周面23aとの間で設けられた楔すきま26に、二つの円筒ころ27と二つの円筒ころ27間に介挿された一つの板ばね28とがそれぞれ配されている。円筒ころ27および板ばね28は、内輪15の柱部15cにより円周方向等間隔に配設されている。
【0043】
前述の内輪15は、レバー側クラッチ部11の外輪14から入力される回転トルクを出力軸22に拡径部15bを介して伝達することによりブレーキ側クラッチ部12の入力部材として機能すると共に、円筒ころ27および板ばね28をポケット15fに収容して円周方向等間隔に柱部15cで保持することにより保持器として機能する。
【0044】
出力軸22の大径部22bには、内輪15からの回転トルクを出力軸22に伝達するための突起22fが設けられている。突起22fは、内輪15の拡径部15bに形成された孔15eに円周方向のクリアランスをもって挿入配置されている(
図1参照)。このようにして、出力軸22と内輪15とは、突起22fおよび孔15eを介してトルク伝達可能に連結されている。
【0045】
ブレーキ側クラッチ部12において、厚肉板状の外輪23の外周縁部に形成された切欠き凹部23bと、カバー24の外周縁部に形成された切欠き凹部(図示せず)とに、側板25の外周縁部に形成された爪部25aを挿入して加締めることにより、外輪23およびカバー24に側板25が固定されている。これにより、外輪23、カバー24および側板25が、ブレーキ側クラッチ部12の静止部材として一体化されている。
【0046】
摩擦リング29は、例えば、樹脂材を射出成形などによりリング状に形成した部材であり、側板25に固着されている。この摩擦リング29は、出力軸22の大径部22bに形成された環状凹部22cの内周面22gに締め代をもって圧入される。摩擦リング29の外周面29bと出力軸22の環状凹部22cの内周面22gとの間に生じる摩擦力によって、レバー操作時、出力軸22に回転抵抗が付与される。
【0047】
以上の構成からなるレバー側クラッチ部11およびブレーキ側クラッチ部12の動作例を以下に説明する。
【0048】
レバー側クラッチ部11では、レバー操作により外輪14に回転トルクが入力されると、円筒ころ16が外輪14のカム面14bと内輪15の円筒状外周面15dとの間の楔すきま20に係合する。この楔すきま20での円筒ころ16の係合により、内輪15に回転トルクが伝達されて内輪15が回転する。この時、外輪14および保持器17の回転に伴って両センタリングばね18,19に弾性力が蓄積される。
【0049】
レバー操作による回転トルクの入力がなくなると、両センタリングばね18,19の弾性力により保持器17および外輪14が中立状態に復帰する。一方で、内輪15は、与えられた回転位置をそのまま維持する。従って、外輪14の回転繰り返し、つまり、操作レバー43のポンピング操作により、内輪15は寸動回転する。
【0050】
ブレーキ側クラッチ部12では、座席シート40(
図4参照)への着座により出力軸22に回転トルクが逆入力されても、円筒ころ27が出力軸22のカム面22eと外輪23の円筒状内周面23aとの間の楔すきま26に係合して出力軸22が外輪23に対してロックされる。このようにして、出力軸22から逆入力された回転トルクは、ブレーキ側クラッチ部12によってロックされてレバー側クラッチ部11への還流が遮断される。これにより、座席シート40の座面高さが保持される。
【0051】
一方、レバー操作によりレバー側クラッチ部11の内輪15からの回転トルクがその柱部15cに入力されると、柱部15cが円筒ころ27と当接して板ばね28の弾性力に抗して円筒ころ27を押圧する。これにより、円筒ころ27が楔すきま26から離脱する。この楔すきま26からの円筒ころ27の離脱により、出力軸22のロック状態が解除され、出力軸22は回転可能となる。この出力軸22のロック状態の解除時、摩擦リング29により出力軸22に回転抵抗が付与される。
【0052】
内輪15の柱部15cがさらに回転すると、内輪15の拡径部15bの孔15eと出力軸22の大径部22bの突起22fとのクリアランスが詰まって内輪15の拡径部15bが出力軸22の突起22fに回転方向で当接する。これにより、レバー側クラッチ部11からの回転トルクは、突起22fを介して出力軸22に伝達されて出力軸22が回転する。つまり、柱部15cが寸動回転すると、出力軸22も寸動回転することになる。これにより、座席シート40の上下調整が可能となる。
【0053】
以上のような構造を具備するクラッチユニット10は、レバー操作により座席シート40の高さ調整を行う自動車用シートリフタ部41に組み込まれて使用される。
図4は自動車の乗員室に装備される座席シート40を示す。
【0054】
座席シート40は、
図4に示すように、着座シート48と背もたれシート42とで構成され、シートリフタ部41により着座シート48の座面を高さ調整する。着座シート48の高さ調整は、クラッチユニット10におけるレバー側クラッチ部11(
図1参照)の側板13に取り付けられた操作レバー43によって行う。
【0055】
シートリフタ部41は、以下の構造を具備する。スライド可動部材44にリンク部材45,46の一端がそれぞれ回動自在に枢着されている。リンク部材45,46の他端はそれぞれ着座シート48に回動自在に枢着されている。リンク部材45の他端にはセクターギヤ47が一体的に設けられている。セクターギヤ47はクラッチユニット10の出力軸22のピニオンギヤ22dに噛合している。
【0056】
例えば、着座シート48の座面を低くする場合、レバー側クラッチ部11でのレバー操作、つまり、操作レバー43を下側へ揺動させることにより、ブレーキ側クラッチ部12(
図1参照)のロック状態を解除する。このブレーキ側クラッチ部12でのロック解除時、摩擦リング29(
図1参照)により出力軸22に適正な回転抵抗を付与することで、着座シート48の座面をスムーズに低くすることができる。
【0057】
ブレーキ側クラッチ部12でのロック解除により、レバー側クラッチ部11からブレーキ側クラッチ部12に伝達された回転トルクでもって、ブレーキ側クラッチ部12の出力軸22のピニオンギヤ22dが時計方向(
図4の矢印方向)に回動する。そして、ピニオンギヤ22dと噛合するセクターギヤ47が反時計方向(
図4の矢印方向)に揺動し、リンク部材45とリンク部材46が共に傾倒して着座シート48の座面が低くなる。
【0058】
このようにして、着座シート48の座面を高さ調整した後、操作レバー43を開放すると、操作レバー43が両センタリングばね18,19の弾性力によって上側へ揺動して元の位置(中立状態)に戻る。なお、操作レバー43を上側へ揺動させた場合は、前述とは逆の動作で着座シート48の座面が高くなる。着座シート48の高さ調整後に操作レバー43を開放すると、操作レバー43が下側へ揺動して元の位置(中立状態)に戻る。
【0059】
この実施形態におけるクラッチユニット10の全体構成、およびこのクラッチユニット10が組み込まれるシートリフタ部41は、前述のとおりであるが、クラッチユニット10の特徴的な構成について、以下に詳述する。
【0060】
ブレーキ側クラッチ部12での出力軸22のロック時、座席シート40(
図4参照)への着座状態で、悪路などでの車両走行時に上下振動が発生すると、正方向の回転トルクと逆方向の回転トルクが交互に連続した状態で出力軸22に逆入力されることになる。このような正逆方向の回転トルクが連続して出力軸22に逆入力されても、出力軸22を確実にロックするため、以下の構造を具備する。
【0061】
この実施形態のブレーキ側クラッチ部12において、
図1、
図5および
図6に示すように、回転トルクの遮断時にカバー24と噛合し、回転トルクの伝達時にカバー24との噛合状態が解除されるギヤ部材であるスライドギヤ32を内輪15に付設した構造を具備する。このスライドギヤ32は、カバー24の径方向内側に配置された状態で内輪15に対して軸方向移動可能に配置されている。
【0062】
このスライドギヤ32は、外周に歯部32a(以下、外歯と称す)が形成された帯板リング状部材である。これに対して、カバー24の内周には、スライドギヤ32の外歯32aと対応させた歯部24a(以下、内歯と称す)が形成されている。このスライドギヤ32の外歯32aとカバー24の内歯24aとが噛み合い可能となっている。
【0063】
スライドギヤ32の内周および内輪15の筒状部15aの外周にスプライン32b,15gが形成され、このスプライン32b,15gにより、内輪15に対するスライドギヤ32の軸方向移動を許容すると共にその周方向移動(回転)を不可としている。なお、この実施形態では、スライドギヤ32と内輪15との噛合構造について、軸方向移動可能なスプライン構造を例示するが、軸方向移動可能で、かつ、回り止め可能なキー構造であってもよい。
【0064】
一方、スライドギヤ32を軸方向に移動させてカバー24との噛合および噛合状態の解除を制御するカム機構33を、スライドギヤ32とレバー側クラッチ部11の外輪14との間に介在させている。
【0065】
このカム機構33は、
図7および
図8に示すように、スライドギヤ32の外輪14と対向する端面に軸方向に延びるように形成された突起32c(
図1および
図5参照)と、レバー側クラッチ部11の外輪14のスライドギヤ32と対向する部位に周方向に沿って形成されたカム溝14c(
図6参照)とで構成されている。
【0066】
図5および
図6に示すように、突起32cは、スライドギヤ32の端面の円周方向複数箇所(4箇所)に等間隔で設けられている。また、カム溝14cは、スライドギヤ32の突起32cと対応させて、外輪14の円周方向複数箇所(4箇所)に等間隔で設けられている。なお、この実施形態では、4つの突起32cおよびカム溝14cを例示しているが、その数は任意である。
【0067】
カム機構33では、
図7および
図8に示すように、スライドギヤ32の突起32cの先端曲成部32dを外輪14のカム溝14cのカム面14dに当接させている。このカム面14dは、カム溝14cの中央に位置する頂上部14daと、その頂上部14daから周方向両側に延びる傾斜部14dbと、その傾斜部14dbから周方向両側に延びる溝底部14dcとで構成されている。
【0068】
また、
図1、
図5および
図6に示すように、内輪15の拡径部15bの根元部位とスライドギヤ32との間に、スライドギヤ32とカバー24との噛合状態を解除する方向に弾性力に付勢する弾性部材34を介在させている。この弾性部材34としては、例えば、リング状の波ばねなどが好適である(
図5および
図6参照)。
【0069】
この弾性部材34は、その弾性力をスライドギヤ32に作用させることにより、静止状態にあるカバー24に対してスライドギヤ32を外輪14側に押圧する。これにより、出力軸22のロック状態の解除時、カバー24の内歯24aからスライドギヤ32の外歯32aを確実に離脱させるようにしている。
【0070】
この実施形態のクラッチユニット10において、レバー側クラッチ部11の外輪14から回転トルクが入力されていない状態では、外側センタリングばね19により外輪14が中立状態に維持されている。
【0071】
この時、ブレーキ側クラッチ部12のカム機構33では、
図7に示すように、スライドギヤ32の突起32cの先端曲成部32dが、レバー側クラッチ部11における外輪14のカム溝14cのカム面14dの頂上部14daに当接する中立位置にある。
【0072】
このスライドギヤ32の突起32cがカム溝14の中立位置にある状態では、スライドギヤ32が弾性部材34の弾性力に抗して軸方向のカバー24側に押圧され、スライドギヤ32の外歯32aとカバー24の内歯24aとが噛合する(
図1参照)。
【0073】
この時、内輪15は、スプライン15g,32bによりスライドギヤ32と結合されているために周方向移動(回転)が不可であり、静止状態を保持する。また、この内輪15と出力軸22とは、拡径部15bの孔15eと大径部22bの突起22fとによりトルク伝達可能に連結されている(
図1参照)。
【0074】
このように、スライドギヤ32の外歯32aがカバー24の内歯24aに噛合し、スライドギヤ32に対して内輪15がスプライン32b,15gにより回り止めされ、その内輪15が出力軸22にトルク伝達可能に連結されている。
【0075】
その結果、座席シート40への着座状態で、悪路などでの車両走行時に上下振動が発生し、その上下振動により、正方向の回転トルクと逆方向の回転トルクが交互に連続した状態で出力軸22に逆入力されても、出力軸22の突起22fが内輪15の孔15eに接触するクリアランス分の角度まで回転した時点で出力軸22の回転を停止させることができる。つまり、内輪15の孔15eと出力軸22の突起22fとのクリアランス分の微小角度以上は出力軸22が回転しないことから、出力軸22をロックすることができる。
【0076】
ブレーキ側クラッチ部12では、外輪23と出力軸22との間で円筒ころ27の接触位置が微妙にずれたり、回転トルクが負荷される出力軸22、外輪23、円筒ころ27に弾性変形のヒステリシスが存在したりしても、スライドギヤ32の外歯32aとカバー24の内歯24aとの噛み合いにより、出力軸22が徐々に回転することを回避できる。
【0077】
その結果、座席シート40が微小に下がる現象の発生を防止することができる。また、スライドギヤ32の外歯32aとカバー24の内歯24aとの噛み合いにより、ブレーキ側クラッチ部12に対して大容量のトルク負荷が可能となる。
【0078】
一方、レバー側クラッチ部11の外輪14から回転トルクが入力されると、ブレーキ側クラッチ部12のカム機構33では、スライドギヤ32の突起32cと外輪14のカム溝14cとが位相ずれする。
【0079】
つまり、
図8の実線矢印で示すように、外輪14の回転によりスライドギヤ32の突起32cの先端曲成部32dに対して外輪14のカム溝14cのカム面14dが周方向に移動すると、
図8の破線矢印で示すように、弾性部材34の弾性力によりスライドギヤ32の突起32cが外輪14に近接する方向に軸方向移動する。
【0080】
この外輪14のカム溝14cの周方向移動とスライドギヤ32の突起32cの軸方向移動により、スライドギヤ32の突起32cの先端曲成部32dは、カム面14dの頂上部14daから傾斜部14dbを経由して溝底部14dcへ移動する。これにより、スライドギヤ32の突起32cの先端曲成部32dがカム溝14cのカム面14dの溝底部14dcに当接した状態となる。
【0081】
以上のように、スライドギヤ32の突起32cと外輪14のカム溝14cとの位相ずれにより、
図9に示すように、スライドギヤ32が弾性部材34の弾性力によりカバー24から離脱するように軸方向に移動する(図中白抜き矢印参照)。
【0082】
このスライドギヤ32の軸方向移動により、カバー24の内歯24aからスライドギヤ32の外歯32aが離脱し、スライドギヤ32の外歯32aとカバー24の内歯24aとの噛合状態が解除される。これにより、出力軸22はロック状態が解除されて外輪23に対して回転可能な状態となる。
【0083】
この実施形態では、内輪15の拡径部15bとスライドギヤ32との間に、スライドギヤ32とカバー24との噛合状態を解除する方向に弾性力に付勢する弾性部材34を介在させた構造を採用している。このことから、出力軸22のロック状態の解除時、弾性部材34の弾性力によりカバー24の内歯24aからスライドギヤ32の外歯32aを確実に離脱させることができる。
【0084】
また、この実施形態では、スライドギヤ32を軸方向に移動させてカバー24との噛合および噛合状態の解除を制御するカム機構33(スライドギヤ32の突起32cと外輪14のカム溝14c)を、スライドギヤ32と外輪14との間に介在させた構造を採用している。このことから、スライドギヤ32とカバー24との噛合および噛合状態の解除を容易に行うことができる。
【0085】
また、スライドギヤ32の外歯32aがカバー24の内歯24aから離脱した直後、ブレーキ側クラッチ部12では、円筒ころ27が外輪23と出力軸22との間の楔すきま26に係合した状態にある。そのため、この時点で出力軸22に回転トルクが逆入力されても、出力軸22が確実にロックされている。
【0086】
その後、スライドギヤ32の軸方向移動によりスライドギヤ32の外歯32aがカバー24の内歯24aから完全に離脱した時点で、円筒ころ27が外輪23と出力軸22との間の楔すきま26から離脱するので、レバー操作時にスライドギヤ32とカバー24との間で歯打ち音などの異音が発生することはない。
【0087】
以上のことから、ブレーキ側クラッチ部12では、スライドギヤ32の外歯32aとカバー24の内歯24aとが噛み合う構造だけでなく、円筒ころ27が外輪23と出力軸22との間の楔すきま26で係合する構造も必要となる。
【0088】
本発明は前述した実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において、さらに種々なる形態で実施し得ることは勿論のことであり、本発明の範囲は、特許請求の範囲によって示され、さらに特許請求の範囲に記載の均等の意味、および範囲内のすべての変更を含む。