(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記作業計画に従って前記対象箇所に関する前記要素の状態を変化させたときに、他の箇所の前記要素で生じる状態の変化のパターンを前記データベースに記憶された情報に基づいて検証する検証部を備える請求項1に記載のアイソレーション管理システム。
前記解析部は、アナログ回路の解析を行うアナログ回路解析部と、論理回路の解析を行う論理回路解析部と、経路探索の解析を行う経路探索解析部との少なくともいずれかを備える請求項1から請求項5のいずれか1項に記載のアイソレーション管理システム。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本実施形態を添付図面に基づいて説明する。まず、発電所などのプラントは、配電システム、運転機器、監視機器などの複数の要素を用いて構築される。このようなプラントにおいて、機器またはシステムなどの工事、保守点検、修理などを行う際に、作業員の安全確保、他の機器または他のシステムに与える影響を最小限に抑える必要がある。そのため、作業の対象となる機器またはシステムを、他の機器または他のシステムから電気的に隔離して停止(停電)させる。このような作業をアイソレーションと称する。
【0010】
従来では、アイソレーション作業の計画を立案する際に、各機器の接続関係を示す単線結線図、構成機器の制御関係を示すECWD(展開接続図)、IBD(インターロックブロック線図)、ソフトロジック図などを含む設計図書を、専門のエンジニアが参照する。そして、影響を検討しながら計画の立案を行う。例えば、原子力発電所では、アイソレーション計画をエンジニアが策定する際に、数千から数万の関連図書を調査する必要がある。また、エンジニアには、専門性と熟練された経験が必要とされ、多くの労力が費やされる。さらに、エンジニアの検討不足または見落としなどに起因する計画のミスによって異常を知らせる警報が発生したり、プラントの運転が停止したりしてしまう事象も生じる。
【0011】
さらに、実際のアイソレーション作業には、所定の手順がある。この手順(順序)通りに作業を進めないと警報が発せられたり、インターロックが作動してプラントに影響を与えたりする事象が生じる。そのため、アイソレーション作業のために操作が必要となる機器について、専門のエンジニアが手順毎に、設計図書やプラントの状態を参照しながら評価する必要があり、多大な労力を要していた。このような人手による評価を、手順毎にシミュレーション評価する手法もあるが、シミュレーションには多くの計算コストが嵩む。
【0012】
また、アイソレーション作業の計画を立案する際に、例えば、ジャンパーする端子または遮断器について、予めルールを設けてシミュレーションパターンを大幅に減らすことも考えられる。しかし、シミュレータによってアイソレーションパターンを抽出した場合において、抽出されたアイソレーションパターンが最適な計画であるか否かが明確でない。この最適の定義は、管理者のマネジメント指針に依存する。例えば、作業員の被ばく線量を最小に抑えるアイソレーション計画および作業工数(時間)を最も短くするアイソレーション計画などが、最適なアイソレーション計画案として想定される。
【0013】
図1の符号1は、アイソレーション作業の計画を管理し、自動的に作業計画を生成する、アイソレーション管理システム1である。このアイソレーション管理システム1は、プラントの建屋、配置図、P&ID、ECWD、IBD、単結線図、ソフトロジック図などのプラントの設計図書と、プラントの運転、監視、計装機器などの運転状態に関する運転情報(プロセスデータ)と、プラント内での工事計画、進捗などの人員計画情報と、プラント内の各作業箇所の放射線量、温度、湿度などの環境情報と、現場での障害物、干渉物、高所作業などの作業性に関する工事情報と、過去のトラブル事象などを日時、場所、機器、システム、工事毎に対応付けて記憶したトラブル情報と、過去に作成したアイソレーション作業計画と、が記憶された統合データベース2を備える。
【0014】
なお、これらの各種情報は、統合データベース2上で相互に関連付けられている。すなわち、各種情報を示すデータが構造化されている。また、統合データベース2は、プラント内に設けたデータサーバ上に構築しても良いし、プラント外の施設に設けたサーバ上に構築しても良いし、ネットワーク上のクラウドサーバに構築しても良い。さらに、これらの各種情報は、事前に統合データベース2に入力される。
【0015】
また、アイソレーション管理システム1は、所定の機器または所定のシステムをアイソレーションした場合に、他の機器または他のシステムに与える影響の変化をシミュレートするプラントシミュレータ3を備える。なお、このプラントシミュレータ3は、アイソレーション作業の計画を生成するときにプラントをシミュレートすることに用いる解析部4と、生成された作業計画に従ってアイソレーション作業を実行した場合にプラントで生じる各種変化をシミュレートすることに用いる検証部5と、各種データを保持するデータ保持部81とを備える。
【0016】
さらに、解析部4は、アナログ回路の解析を行うアナログ回路解析部6と、論理回路の解析を行う論理回路解析部7と、グラフ理論などに基づいた経路探索の解析を行う経路探索解析部8とを備える。なお、前述の3つの解析部6,7,8の他にも任意の解析手法(ロジック)を解析部4にインストールすることも可能である。なお、解析部4は、アイソレーション作業の対象箇所に関する機器またはシステムの状態を変化させたときに、他の機器またはシステムで生じる状態の変化のパターンを統合データベース2に記憶された情報に基づいて解析する。また、検証部5も解析部4と同一構成を成し、生成された作業計画を統合データベース2に記憶された情報に基づいて検証する。
【0017】
また、アイソレーション管理システム1は、統合データベース2のデータおよびプラントシミュレータ3の解析結果に基づいて、アイソレーション計画の生成に関わる処理を行う深層学習部9を備える。この深層学習部9は、多層のニューラルネットワーク10を備える。なお、プラントシミュレータ3は、プラントの挙動をシミュレートするコンピュータである。一方、深層学習部9は、機械学習を行う人工知能を備えるコンピュータである。
【0018】
また、深層学習部9は、学習済みの多層のニューラルネットワーク10を構築するために必要な学習データを生成するための学習データ生成部11を備える。この学習データ生成部11は、解析部4が解析した第1種類の機器(要素)の状態を入力量Xとする第1行列データを生成する第1行列データ生成部12と、解析部4が解析した第2種類の機器(要素)の状態を出力量Yとする第2行列データを生成する第2行列データ生成部13とを備える。
【0019】
さらに、深層学習部9は、統合データベース2に記憶された各種情報に報酬関数を設定する報酬関数設定部14と、報酬関数に基づいてアイソレーション計画の価値が最も高くなるものを抽出する強化学習部15と、アイソレーション作業の操作手順(実行順序)を抽出する操作手順抽出部16とを備える。
【0020】
なお、プラントシミュレータ3および深層学習部9は、個別の機器上に実装しても良いし、プラントに関する施設内のコンピュータまたはサーバなどに実装しても良いし、プラントに関する施設外のクラウドサーバに実装しても良い。
【0021】
また、アイソレーション管理システム1は、深層学習部9にて抽出された所定のパターンに基づいて作業計画を生成する計画生成部17と、アイソレーション管理システム1の管理者が用いるユーザインターフェース18とを備える。
【0022】
なお、ユーザインターフェース18は、例えば、プラントに関する施設内のパーソナルコンピュータまたはタブレット端末などで構成される。また、ユーザインターフェース18は、プラントにおけるアイソレーション作業の対象となる機器などが存在する箇所の指定を受け付ける受付部19と、生成された作業計画を出力する出力部20とを備える。さらに、受付部19は、管理者が入力作業を行うキーボードおよびマウスなどの入力機器を備える。また、出力部20は、作業計画の出力先となる表示機器、印刷機器、またはデータ保存機器などを備える。
【0023】
また、アイソレーション管理システム1は、統合データベース2とプラントシミュレータ3と深層学習部9と計画生成部17とユーザインターフェース18とを統合的に制御するメイン制御部100を備える。また、深層学習部9は、各種データを保持するデータ保持部82を備える。
【0024】
次に、多層のニューラルネットワーク10の一例を
図2に示す。この多層のニューラルネットワーク10では、ユニットが複数の層状に並べられ、それらが結合している。各ユニットは複数の入力uを受け、出力zを計算する。ユニットの出力zは総入力uの活性化関数fの出力として表される。活性化関数は重みやバイアスを有する。このニューラルネットワーク10は、入力層21と出力層22と少なくとも1層以上の中間層23とを備える。
【0025】
本実施形態では、6層のレイヤー24を有する中間層23が設けられたニューラルネットワーク10を用いている。なお、中間層23の各レイヤー24は、300個のユニットで構成されている。また、多層のニューラルネットワーク10に学習データを予め学ばせておくことで、回路またはシステムの状態の変化のパターンの中にある特徴量を自動で抽出することができる。なお、多層のニューラルネットワーク10は、ユーザインターフェース18上で、任意の中間層数、ユニット数、学習率、学習回数、活性化関数を設定することができる。
【0026】
また、ニューラルネットワーク10とは、脳機能の特性をコンピュータのシミュレーションによって表現した数学モデルである。例えば、シナプスの結合によりネットワークを形成した人工ニューロン(ノード)が、学習によってシナプスの結合強度を変化させ、問題解決能力を持つようになるモデルを示す。なお、本実施形態のニューラルネットワーク10は、深層学習により問題解決能力を取得する。
【0027】
次に、本実施形態のアイソレーションの作業計画を生成するプロセスを説明する。本実施形態では、プラント内の電源供給システムの一部を成す配電システム25の改造工事作業を例示する。
【0028】
図3は、アイソレーション作業前の配電システム25の状態を示す構成図である。
図4は、アイソレーション作業中の配電システム25の状態を示す構成図である。なお、理解を助けるために、配電システム25の回路を簡素化して図示している。
【0029】
図3および
図4に示すように、配電システム25は、複数の遮断器26〜34と複数の断路器35〜45と複数の変圧器46〜52と複数の分電盤53〜60とを備える。これらの要素を用いて配電システム25が構築される。なお、遮断器26〜34と断路器35〜45とが第1種類の要素を成し、これらに接続される分電盤53〜60が第2種類の要素を成す。また、複数の母線61〜63が設けられ、これらの母線61〜63から分電盤53〜60を介して、プラントの各装置に電力供給がなされる。
【0030】
また、
図3および
図4において、紙面上方側が電源に近い上流側の要素であり、紙面下方側が電源から遠い下流側の要素である。本実施形態では、所定の1つの分電盤53を修理するために、この分電盤53を配電システム25からアイソレーション(隔離)する例を示す。なお、図中の「×」の印が付いている遮断器26〜34または断路器35〜45は、開放されていること(絶縁状態:OFF状態)を示す。一方、「×」の印が付いていない遮断器26〜34または断路器35〜45は、閉じていること(導通状態:ON状態)を示す。
【0031】
本実施形態では、3つの母線61〜63のそれぞれに対し、分電盤53〜55が接続される。なお、これらの分電盤53〜55は、遮断器26〜28および変圧器46〜47を介して母線61〜63に接続される。そして、これらの分電盤53〜55を介して、さらに下流側の分電盤56〜60に電力が供給される。なお、上流側の分電盤53〜55と下流側の分電盤56〜60とは、遮断器29〜34、断路器35〜39、および変圧器48,49,51,52を介して接続される。また、下流側の分電盤56〜60同士は、断路器40〜44を介して互いに接続される。
【0032】
なお、それぞれの遮断器26〜34および断路器35〜45は、ONとOFFとの2つの状態がある。さらに、分電盤53〜60は、動作と停止との2つの状態がある。本実施形態では、これらの要素の各状態を変化させたときのパターンが複数存在する。これらのパターンのうちでアイソレーションに最適な状態を示すパターンを特定する。なお、以下の説明において、アイソレーションの対象となる1つの分電盤53を、本実施形態における対象箇所Tの分電盤53と称する場合がある。
【0033】
図3に示すように、アイソレーション作業前において、所定の母線61から対象箇所Tの分電盤53に電力供給がなされている。さらに、この分電盤53を介して下流側の分電盤56,57に電力供給がなされている。なお、他の1つの分電盤54が停止しており、この分電盤54に接続された遮断器27,33および断路器38が開放されている。さらに他の分電盤55は、動作しているものの、この分電盤55の下流側の遮断器34および断路器39が開放されている。つまり、下流側の5つの分電盤56〜60に対しては、対象箇所Tの分電盤53を介して電力供給がなされている。
【0034】
例えば、対象箇所Tの分電盤53のアイソレーションを行う場合に、この分電盤53に直接的に接続されている全ての遮断器26,29〜32を開放し(
図3において遮断器29は既に開放された状態で図示してある)、さらに開放された遮断器29〜32の下流側の断路器35,36を開放する。すると、対象箇所Tの分電盤53と、下流側の全ての分電盤56〜60とに対し、母線61からの電力供給が停止される。つまり、対象箇所Tに関する遮断器26,29〜32および断路器35,36の状態を変化させたときに、他の箇所の分電盤56〜60の状態が変化する。
【0035】
ここで、下流側の特定の分電盤56は、通電状態を維持するという運用ルールがあるとする。この運用ルールに基づくと、対象箇所Tの分電盤53のアイソレーションを行った時点で、特定の分電盤56が停電状態になってしまうので、異常警報が発せられてしまう。このように、各要素の状態の変化のパターンが、異常警報が発せられてしまうパターンとならないように、別の電力供給ルートを通して特定の分電盤56に電力供給を行うパターンを特定する必要がある。
【0036】
例えば、
図4に示すように、別の電力供給ルートとして、他の母線63からの電力供給を行うルートを確保する。この母線63に対応する分電盤55に接続された遮断器34および断路器39を閉じることで、下流側の分電盤60に電力供給がなされる。そして、この分電盤60から特定の分電盤56に電力供給がなされる。この
図4に示す状態が、アイソレーションが完了した最適な状態を示す特定のパターンである。
【0037】
なお、アイソレーション作業には、所定の機器の操作手順(順序)がある。例えば、特定の分電盤56がある場合に、この分電盤56に対する別の電力供給ルートが確保された後に、アイソレーション作業を行う。また、所定の遮断器34および断路器39を閉じた後に、他の遮断器26〜32および断路器35,36の開放を行うようにする。また、遮断器30,31および断路器35,36が互いに接続されている場合において、遮断器30,31の開放の後に、これに対応する断路器35,36の開放を行うようにする。
【0038】
本実施形態では、アイソレーションに最適な各要素の状態の変化のパターンを、プラントシミュレータ3および深層学習部9を用いて自動的に抽出する。まず、深層学習を行うために必要な学習済みの多層のニューラルネットワーク10のモデルが無い場合について説明する。
【0039】
図1に示すように、作業計画を生成する際に、アイソレーション管理システム1は、まず、アイソレーションの対象箇所Tの指定を受け付ける。そして、管理者は、ユーザインターフェース18を用いて対象箇所Tの分電盤53を指定する入力操作を行う。この入力操作を受け付けたアイソレーション管理システム1は、対象箇所Tの分電盤53が接続されている機器およびシステムに関連する設計図書などを統合データベース2から呼び込む。
【0040】
そして、設計図書に含まれる接続情報、機器情報、および属性情報をリスト化し、プラントシミュレータ3の解析部4に取り込む。さらに、統合データベース2に記憶された機器のプロセスおよび状態情報(例えば、遮断器26〜34が開放されているか閉じているかを示す情報)などを解析部4に取り込む。
【0041】
ここで、解析部4は、機器、属性、接続、状態情報がリストになったものに基づいて、アナログ回路解析部6、論理回路解析部7、若しくは、経路探索解析部8を用いたシミュレーションを行う。なお、これらの解析部6,7,8は、対象となる回路またはシステムに応じて、1つ若しくは2つ以上を組み合わせることが可能である。例えば、単結線図をベースにしたシステム図とIBDとから成るシミュレーションを対象とする場合に、論理回路解析部7と経路探索解析部8とを組み合わせることが可能である。このようにすれば、アイソレーション作業を行ったときにプラントの各要素に与える影響および挙動をシミュレーションすることができる。
【0042】
また、解析部4では、各要素(機器)の状態、例えば、全ての遮断器26〜34および断路器35〜45の状態をそれぞれ変化させた場合の対象箇所Tの分電盤53の導通状態を出力する。なお、それぞれの変化のパターンが多数存在する。これらの変化のパターンを、深層学習部9の学習データ生成部11に送信する。
【0043】
また、学習データ生成部11では、解析部4から出力された遮断器26〜34および断路器35〜45(第1種類の要素)の属性または状態を入力量Xとし、解析部4から出力された分電盤53〜60(第2種類の要素)の属性または状態を出力量Yとしてリスト化する。
【0044】
また、学習データ生成部11の第1行列データ生成部12では、遮断器26〜34および断路器35〜45のそれぞれの状態、すなわち開放状態または遮断状態を、0または1で表現し、入力量Xの第1行列データとして生成する。
【0045】
また、学習データ生成部11の第2行列データ生成部13では、遮断器26〜34および断路器35〜45がそれぞれ所定の状態であるときの分電盤53〜60の状態、すなわち導通状態または非導通状態を、0または1で表現し、出力量Yの第2行列データとして生成する。なお、本実施形態では、出力量として、0、1の離散値を出力しているが、出力層での活性化関数等を任意のものに設定することで、0、1以外の多クラスに分類することや、連続値を出力することも可能である。
【0046】
このリスト化された行列データを学習データとして、多層のニューラルネットワーク10に学習させる。なお、深層学習部9では、出力結果の正答率が高くなるように、学習済みのニューラルネットワーク10を構築する。例えば、検証用のデータを入力した場合の出力結果と答え(期待される出力)との齟齬が小さくなるように、学習済みのニューラルネットワーク10を構築する。
【0047】
次に、学習済みの多層のニューラルネットワーク10を用いて、アイソレーション計画を生成する手順を説明する。まず、ユーザインターフェース18を用いて対象箇所Tの分電盤53の指定を受け付ける。本実施形態では、工事の対象箇所Tの分電盤53をOFFにする指示が入力される。
【0048】
また、統合データベース2から対象箇所Tの分電盤53と、この分電盤53に接続されている機器およびシステムに設けられている要素であって、遮断器26〜34および断路器35〜45の状態情報を深層学習部9に出力する。この深層学習部9では、これらの入力量Xに基づいて構築された学習済みのニューラルネットワーク10を用いて、対象箇所Tの分電盤53がOFFとなる遮断器26〜34および断路器35〜45の状態の組み合わせパターンを抽出する。
【0049】
本実施形態では、対象箇所Tの分電盤53に関する遮断器26〜34および断路器35〜45のON/OFFの組み合わせのパターンを、入力量Xとして学習済みのニューラルネットワーク10に入力する。そして、分電盤53〜60の状態のうち、対象箇所Tの分電盤53がOFFとなる遮断器26〜34および断路器35〜45のON/OFFの組み合わせのパターンを抽出する。
【0050】
ここで、遮断器26〜34および断路器35〜45の実際の操作に関して、その操作手順がない場合(現場の作業者がいずれの操作から開始しても良い場合)は、抽出されたON/OFFの組み合わせのパターンに基づいて作業計画の生成を行うことができる。一方、特定の操作手順がある場合(現場の作業者が特定の操作から開始しなければならない場合)に、深層学習部9は、抽出されたON/OFFの組み合わせのパターン(特定のパターン)と、操作手順のルールおよびロジックとを操作手順抽出部16に入力する。この操作手順抽出部16は、ルールおよびロジックに従った遮断器26〜34および断路器35〜45のON/OFFの操作手順を抽出し、抽出した操作手順を出力する。なお、操作手順のルールおよびロジックは、ユーザインターフェース18上で入力することや、あらかじめ統合データベース2に記録しておくことができる。
【0051】
なお、操作手順抽出部16では、アイソレーション作業の操作の過程で取り得る遮断器26〜34および断路器35〜45のON/OFFの組み合わせのパターンを入力量Xとして学習済みのニューラルネットワーク10に入力し、分電盤53〜60の状態のパターンを出力量Yとして出力する。その際に、操作手順抽出部16に入力された操作手順のルールまたはロジックに基づいて、入力量Xおよび出力量Yを絞り込む。そして、最終的に対象箇所Tの分電盤53が目的の状態となる操作手順を抽出する(リスト化する)。
【0052】
また、抽出されたパターン(リスト)および操作手順には、複数の計画案(候補)が存在することが想定される。そこで、プラント内の環境情報などの任意の情報を用いて、複数の計画案の中から最適な計画案を、強化学習部15を用いて抽出する。この強化学習部15では、機械学習の一種である強化学習を用いる。この強化学習では、行動価値を表す価値関数を規定する必要がある。本実施形態では、価値関数を多層のニューラルネットワーク10で表現する深層強化学習を用いる。
【0053】
なお、抽出されたパターンおよび操作手順が強化学習部15に入力される。さらに、統合データベース2に記憶された環境情報を含む任意の情報が強化学習部15に入力される。例えば、発電所内のエリア毎の放射線量、温度、湿度、位置情報(座標)、または作業者の移動距離などが入力される。さらに、これらの情報を報酬関数で定義する。例えば、対象箇所Tの分電盤53が配置されるエリアの環境が、放射線量が1μSv/h、温度が25℃、湿度が30%、移動距離が10mである場合に、これらに対応する報酬関数を、それぞれ−1点、−1点、−6点、−6点であると定義する。
【0054】
なお、これらの報酬関数の設定には、管理者が規定した任意の関数を用いることができる。例えば、遮断器30,31が配置されるエリア、断路器35,36が配置されるエリアなどのように、各要素が配置されるエリア毎に環境情報を報酬関数として定義する。これらの報酬関数と入力されたパターンと操作手順に関する少なくともいずれかの情報であって、遮断器26〜34および断路器35〜45のON/OFFの作業に伴う作業エリアの遷移を入力量Xとし、多層のニューラルネットワーク10を用いて価値関数を表現する。このような価値関数を用いることで、複数の計画案のうち、最も価値が高くなる計画案を決定する。
【0055】
そして、決定された計画案に基づいて計画生成部17が作業計画を生成する。この作業計画は、作業者が認識可能な文章および図面で構成される書類であっても良いし、作業を支援するデータであっても良い。この計画生成部17にて生成された作業計画は、最終的にアウトプットされる前に、プラントシミュレータ3の検証部5に入力される。
【0056】
この検証部5では、作業計画に従ってアイソレーション作業を実施した場合のプラントへの影響を検証する。例えば、シミュレータをもとにした評価システムで、回路図またはシステム図などの物理モデルに基づいた検証を行う。そして、作業計画に従ってアイソレーション作業を実施した場合に、異常警報の発生、またはアイソレーション作業の間違いの発生などがないかを検証する。このようにすれば、深層学習部9が抽出した特定のパターンに基づく作業計画が適切であるか否かを、実際にアイソレーション作業を行う前に検証することができる。この検証の結果、作業計画に問題が無い場合は、ユーザインターフェース18の出力部20によってアウトプットされる。
【0057】
このように本実施形態では、多層のニューラルネットワーク10を用いた深層学習部9とプラントシミュレータ3とを組み合わせることで、アイソレーションの作業計画を自動で生成することができる。さらに、シミュレータ単独でアイソレーションの作業計画を立てる場合と比較して、計算コストを抑えることができる。また、強化学習部15を用いることで、作業を最も効率的に行うことが可能なアイソレーション作業の計画立案を自動で行うことができる。
【0058】
本実施形態では、多層のニューラルネットワーク10により変化のパターンの特徴量が取得され、この特徴量に基づいて特定のパターンが抽出されることで、複数の変化のパターンから特定のパターンが抽出するための処理効率を向上させることができる。
【0059】
また、学習済みの多層のニューラルネットワーク10により特定のパターンが抽出されることで、複数の変化のパターンから特定のパターンが抽出する時間を短縮することができる。
【0060】
また、学習データ生成部11は、統合データベース2に記憶された過去の作業計画に基づいて学習データを生成することで、過去に行われたアイソレーション作業を踏襲した作業計画を生成することができ、作業計画の信頼性を高めることができる。
【0061】
また、深層学習部9は、第1行列データおよび第2行列データを含む学習データを多層のニューラルネットワーク10に学習させることで、プラントを構成する各種類の要素に応じた学習データを生成することができ、プラントのアイソレーション作業に適した多層のニューラルネットワーク10を構築することができる。
【0062】
また、強化学習部15は、複数の特定のパターンからそれぞれ生成された複数の計画案から、報酬関数に基づいて価値が最も高くなる計画案を抽出することで、アイソレーション作業に最も適したパターンを抽出することができる。なお、強化学習部15は、強化学習の1つのオプションとして、ニューラルネットワークを用いた深層強化学習機能15Aを有する。
【0063】
また、操作手順抽出部16は、抽出された特定のパターンに基づいてアイソレーション作業の操作手順を抽出することで、アイソレーション作業に最も適した操作手順を抽出することができる。
【0064】
本実施形態のアイソレーション管理システム1は、CPU、ROM、RAM、HDDなどのハードウェア資源を有し、CPUが各種プログラムを実行することで、ソフトウェアによる情報処理がハードウェア資源を用いて実現されるコンピュータで構成される。さらに、本実施形態のアイソレーション管理方法は、プログラムをコンピュータに実行させることで実現される。
【0065】
次に、アイソレーション管理システム1が実行する処理について
図5から
図8のフローチャートを用いて説明する。なお、フローチャートの各ステップの説明にて、例えば「ステップS11」と記載する箇所を「S11」と略記する。
【0066】
図5に示すように、まず、統合データベース2は、プラントに関する設計図書、運転情報、人員計画情報、環境情報、工事情報、トラブル情報、および過去の作業計画を含む各種情報を記憶する(S11:
図1の経路R1)。次に、ユーザインターフェース18の受付部19は、管理者の入力操作に基づいて、アイソレーション作業の対象箇所Tの指定を受け付ける(S12:
図1の経路R2,R3)。例えば、対象箇所Tの分電盤53の指定を受け付ける。
【0067】
次に、アイソレーション管理システム1のメイン制御部100は、ユーザインターフェース18において指定された対象箇所Tの分電盤53(要素)に関する情報であって、この分電盤53の近傍の遮断器26〜34および断路器35〜45の情報、例えば各分電盤や遮断器26〜34、断路器35〜45のON・OFFや開閉の状態を、統合データベース2からプラントシミュレータ3のデータ保持部81および深層学習部9のデータ保持部82に呼び出す(S13:
図1の経路R6,R11)。
【0068】
次に、メイン制御部100は、ユーザインターフェース18において指定された対象箇所に関して既に学習済みのニューラルネットワーク10があるか否かを判定する(S14:
図1の経路R4)。ここで、学習済みのニューラルネットワーク10が無い場合は、後述のS20に進む。一方、学習済みのニューラルネットワーク10が有る場合は、S15に進む。
【0069】
S15にてメイン制御部100は、統合データベース2から呼び出した情報に基づいて、対象箇所Tの要素と状態を深層学習部9に設定する(
図1の経路R6)。例えば、分電盤53をOFFにする設定を行う。
【0070】
次に、メイン制御部100は、統合データベース2に記憶された情報に基づいて、対象箇所Tに関する要素の状態の組み合わせパターンのリストを生成する(S16)。例えば、対象箇所Tの分電盤53に直接的または間接的に接続されている遮断器26〜34および断路器35〜45のON/OFFの状態を示す組み合わせのリストを生成する。
【0071】
次に、メイン制御部100は、メイン制御部100が生成した対象箇所Tに関する要素の状態の組み合わせパターンのリストを学習済みの深層学習部9のニューラルネットワーク10に入力する(S17:
図1の経路R7)。
【0072】
次に、ニューラルネットワーク10は、対象箇所Tの要素の状態と、この要素に関する他の要素に対する影響および警報の有無などの解析結果を得る(S18)。次に、メイン制御部100は、ニューラルネットワーク10の深層学習により特定のパターン、つまり、対象箇所Tの分電盤53がOFFとなる遮断器26〜34および断路器35〜45のON/OFFの組み合わせのパターンをデータ保持部82に抽出し(S19:
図1の経路R20)、後述のS30に進む。
【0073】
図6に示すように、前述のS14にて学習済みのニューラルネットワーク10が無い場合に進むS20において、学習データ生成部11は、統合データベース2から取得した情報に含まれる各種情報をリスト化し、または既にリスト化されているものを呼び出す(
図1の経路R8)。なお、リスト化とは、データをピックアップしたり、変換を行ったりする処理を示す。次に、プラントシミュレータ3の解析部4が各種情報のリストを取り込む(S21:
図1の経路R9)。次に、解析部4は、データ保持部81に保持されたデータに基づいて(
図1の経路R21)、プラントの配電システム25のシミュレーションモデルを生成する(S22)。
【0074】
次に、メイン制御部100は、深層学習を利用するか否かを判定する(S23)。ここで、アイソレーション作業に適した特定のパターンの抽出のための計算量(判定値)が所定の閾値未満である場合、つまり、総当り方式のシミュレーションで処理が可能な場合は、深層学習を利用しないと判定し、後述のS28に進む。一方、アイソレーション作業に適した特定のパターンの抽出のための計算量(判定値)が所定の閾値以上である場合、つまり、深層学習を利用した処理が必要である場合は、深層学習を利用すると判定し、S24に進む。
【0075】
S24にてプラントシミュレータ3の解析部4は、各要素の状態を示すデータの生成を行う。例えば、全ての遮断器26〜34および断路器35〜45の状態をそれぞれ変化させた場合の対象箇所Tの分電盤53の導通状態を示すデータを生成し、学習データ生成部11に送る(
図1の経路R10)。
【0076】
次に、深層学習部9の学習データ生成部11は、学習データの生成を行う(S25)。例えば、学習データ生成部11は、遮断器26〜34および断路器35〜45のそれぞれの状態を示す第1行列データ、および分電盤53〜60の状態を示す第2行列データの生成を行う。
【0077】
次に、メイン制御部100は、深層学習部9において、行列データを学習データとして多層のニューラルネットワーク10に学習させる(S26:
図1の経路R5)。次に、深層学習部9では、学習済みのニューラルネットワーク10を構築し(S27)、前述のS15に戻る。
【0078】
前述のS23にて深層学習を利用しないと判定した場合に進むS28において、解析部4のシミュレーションモデルに対象箇所Tの要素と状態を設定する(
図1の経路R11)。次に、総当り方式のシミュレーションを行い、アイソレーション作業に適した特定のパターンを抽出し(S29)、S30に進む。
【0079】
図7に示すように、S30にてメイン制御部100は、データ保持部81に抽出した特定のパターンの操作、つまり、遮断器26〜34および断路器35〜45の実際の操作に関して特定の操作手順が必要であるか否かを判定する。ここで、特定の操作手順が必要ない場合は、後述のS34に進む。一方、特定の操作手順が必要である場合は、S31に進む。
【0080】
S31にてメイン制御部100は、データ保持部81,82に保持した特定のパターンを深層学習部9の操作手順抽出部16に入力する(
図1の経路R12,R13)。次に、メイン制御部100は、遮断器26〜34および断路器35〜45の実際の操作に関する操作手順のルールおよびロジックを深層学習部9の操作手順抽出部16に入力する(S32:
図1の経路R12,R13)。次に、操作手順抽出部16は、ルールおよびロジックに従った操作手順を特定し、この操作手順を得る(S33)。
【0081】
S34にてメイン制御部100は、深層学習部9において特定のパターンおよび操作手順に基づいて候補となる複数の計画案を生成する。次に、メイン制御部100は、深層学習部9において候補となる複数の計画案を強化学習部15に入力する(S35:
図1の経路R15)。
【0082】
次に、メイン制御部100は、プラントに関する任意の情報であって統合データベース2から取得した環境情報を含む情報を強化学習部15に入力する(S36:
図1の経路R15)。次に、メイン制御部100は、入力されたプラントに関する任意の情報に報酬関数を深層学習部9の報酬関数設定部14に設定し(S37:
図1の経路R14)、S38に進む。なお、報酬関数設定部14に設定された報酬関数が強化学習部15に入力される(
図1の経路R23)。また、操作手順に関する情報も強化学習部15に入力される(
図1の経路R24)。
【0083】
図8に示すように、S38にてメイン制御部100は、複数の計画案の中から最適な計画案を抽出するために深層強化学習を利用するか否かを判定する。ここで、最適な計画案の抽出のための計算量(判定値)が所定の閾値未満である場合、つまり、総当り方式で最適な計画案の抽出処理が可能な場合は、深層強化学習を利用しないと判定し、総当り方式で価値関数を定義し(S40)、S41に進む。
【0084】
一方、最適な計画案の抽出のための計算量(判定値)が所定の閾値以上である場合、つまり、深層強化学習で最適な計画案の抽出処理が必要である場合は、深層強化学習を利用するとメイン制御部100が判定し、多層のニューラルネットワーク10を用いて価値関数を表現し(S39)、S41に進む。
【0085】
S41にてメイン制御部100は、深層学習部9の強化学習部15において候補となる複数の計画案毎に価値関数で計算した報酬を特定し、この特定した報酬に関する情報を計画生成部17に出力する(
図1の経路R16)。次に、計画生成部17は、報酬が最も高い計画案に基づいて作業計画を生成し、この作業計画をプラントシミュレータ3の検証部5に出力する(S42:
図1の経路R17)。
【0086】
次に、検証部5は、データ保持部81に保持されたデータに基づいて(
図1の経路R22)、作業計画に従ってアイソレーション作業を実施した場合のプラントへの影響を検証する処理を行う(S43)。次に、検証部5は、作業計画が適切であるか否かを判定する(S44:
図1の経路R18)。ここで、作業計画が適切である場合は、計画生成部17を介して、この作業計画がユーザインターフェース18の出力部20によってアウトプットされ(S45:
図1の経路R19)、処理を終了する。一方、作業計画が適切でない場合は、ユーザインターフェース18の出力部20によって不適切報知を行い(S46)、処理を終了する。
【0087】
なお、本実施形態の所定の値と判定値との判定において「判定値以上か否か」の判定をしているが、この判定は、「判定値を超えているか否か」の判定でも良いし、「判定値以下か否か」の判定でも良いし、「判定値未満か否か」の判定でも良い。
【0088】
なお、本実施形態のフローチャートにおいて、各ステップが直列に実行される形態を例示しているが、必ずしも各ステップの前後関係が固定されるものでなく、一部のステップの前後関係が入れ替わっても良い。また、一部のステップが他のステップと並列に実行されても良い。
【0089】
本実施形態のアイソレーション管理システム1は、専用のチップ、FPGA(Field Programmable Gate Array)、GPU(Graphics Processing Unit)、またはCPU(Central Processing Unit)などのプロセッサを高集積化させた制御装置と、ROM(Read Only Memory)またはRAM(Random Access Memory)などの記憶装置と、HDD(Hard Disk Drive)またはSSD(Solid State Drive)などの外部記憶装置と、ディスプレイなどの表示装置と、マウスまたはキーボードなどの入力装置と、通信I/Fとを、備えており、通常のコンピュータを利用したハードウェア構成で実現できる。
【0090】
なお、本実施形態のアイソレーション管理システム1で実行されるプログラムは、ROMなどに予め組み込んで提供される。もしくは、このプログラムは、インストール可能な形式または実行可能な形式のファイルでCD−ROM、CD−R、メモリカード、DVD、フレキシブルディスク(FD)などのコンピュータで読み取り可能な記憶媒体に記憶されて提供するようにしても良い。
【0091】
また、アイソレーション管理システム1で実行されるプログラムは、インターネットなどのネットワークに接続されたコンピュータ上に格納し、ネットワーク経由でダウンロードさせて提供するようにしても良い。また、このアイソレーション管理システム1は、構成要素の各機能を独立して発揮する別々のモジュールを、ネットワークまたは専用線で相互に接続し、組み合わせて構成することもできる。
【0092】
なお、本実施形態では、プラント内の電源供給システムの一部を成す配電システム25の改造工事作業を例示しているが、配電システム以外のアイソレーションの作業計画を生成するために本発明を適用しても良い。
【0093】
なお、深層学習部9は、特定パターンとして他の箇所で生じる変化が最小となるパターンを抽出するようにしても良い。このようにすれば、他の箇所に与える影響が最も少なく、かつアイソレーション作業に最も適したパターンを抽出することができる。
【0094】
以上説明した実施形態によれば、指定された対象箇所に関する要素の状態を変化させたときに、他の箇所の要素で生じる状態の変化のパターンを解析する解析部と、解析された変化のパターンが複数あり、これらの変化のパターンから特定のパターンを深層学習に基づいて抽出する深層学習部とを備えることにより、アイソレーション作業に最も適した作業計画を効率的に生成することができる。
【0095】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更、組み合わせを行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。