(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態について説明する。なお、本件明細書に添付する図面においては、図示と理解のしやすさの便宜上、適宜縮尺および縦横の寸法比等を、実物のそれらから変更し誇張してある。
【0014】
(第1実施形態)
図1は、第1実施形態に係る燃料電池構造体1の斜視図である。
図1に示すように、燃料電池構造体1は、燃料電池セルにおける電気化学反応により発電する構造体である。すなわち、燃料電池構造体1は、セル積層体10と、2つの集電板20と、2つの絶縁板25と、燃料電池締付構造体30とを備えて構成されている。セル積層体10は、複数の燃料電池セルを積層したものである。燃料電池セルは、水素を含む燃料ガスと酸素を含む空気との電気化学反応により発電する。すなわち、燃料電池セルは、例えば、電解質膜を挟んで燃料極及び酸化剤極を配置して構成される電解質膜・電極接合体と、電解質膜・電極接合体にガス供給を行うと共に燃料と酸化剤を分離する機能を有するセパレータとを有する。セパレータは、例えば微細孔を有する導電性多孔質板で構成されている。また、セパレータは、冷却水流路を有する。冷却水流路は、供給された冷却水をその表面から蒸発し、燃料電池セルを加湿する。なお、冷却水路を有しないセパレータを用いてもよい。
【0015】
セル積層体10の積層方向の両側には、2つの集電板20が配置されている。2つの集電板20は、板状の導電体であり、セル積層体10の両端面のそれぞれに配置されている。2つの絶縁板25は、板状の絶縁体であり、2つの集電板20と、2つの締付板100との間にそれぞれ配置されている。このように、セル積層体10の積層方向の両側には、2つの集電板20と2つの絶縁板25が順に配置されており、これらを一体的に積層方向の両側から2つの締付板100で締め付けることで、燃料電池構造体1が得られる。
【0016】
燃料電池締付構造体30は、セル積層体10に面圧を加える構造体であり、2つの締付板100と、複数の連結具200と、を備えて構成されている。2つの締付板100は、複数の燃料電池セルが積層されたセル積層体10の積層方向の両側からセル積層体10を締め付ける部材である。締付板100は、押圧部110と、梁部120とを有している。これら押圧部110と、梁部120とは一体形成されている。締付板100の詳細な構造は、後述する。
【0017】
連結具200は、2つの締付板100を連結させる部材である。すなわち、本実施形態における連結具200は、タイロッド202と、二つの座金204と、二つのナット206と、を有している。
図1に示すように、2つの締付板100に設けられた対向する孔部にタイロッド202を通した状態で、座金204を介してナット206が締め付けられ、2つの締付板100が連結されている。
【0018】
図1の燃料電池構造体1におけるセル積層体10の周囲にはマニホールドが装着される。マニホールドとは、燃料ガス、空気および冷却水の流路を備えた部材である。
【0019】
図2は、マニホールドを装着した状態の燃料電池構造体1を示す図である。
図2に示す燃料電池構造体1は、第1マニホールド40と、第2マニホールド42と、第3マニホールド44と、第4マニホールド46とを更に有する。
【0020】
第1マニホールド40は、冷却水マニホールドと空気ガスマニホールドを有している。第2マニホールド42は、燃料ガスマニホールドである。第3マニホールド44は、冷却水マニホールドと空気ガスマニホールドを有している。第4マニホールド46は、燃料ガスマニホールドである。冷却水入口40Aから導入された冷却水は、セパレータ側面から供給され、セパレータの流水路を介して冷却水出口44Aから排出される。一方で、空気ガス入口40Bから空気ガスが導入され、セル積層体10内の電気化学反応によって消費されなかった空気ガスが空気ガス出口40Cから排出される。また、燃料ガス入口46Aから燃料ガスが導入され、セル積層体10内の電気化学反応によって消費されなかった燃料ガスが燃料ガス出口46Aから排出される。
【0021】
図1及び
図2を参照にしつつ、
図3に基づき締付板100の形状を説明する。
図3は、締付板100の斜視図である。
図1及び
図2に示すように、押圧部110は、セル積層体10に対向配置され、セル積層体10を積層方向に押圧する。実際には、セル積層体10の積層方向の両側には、集電板20と絶縁体25が配置されているため、押圧部110は、絶縁体25と集電板20を介して、セル積層体10を両側から押圧することになる。
図3に示すように、押圧部110は、部分押圧部110A、110B、110C、110D、110Eと、押圧部110の面方向に交差する方向に折り曲げられた折り返し部112A、112B、112C、112Dとを、有している。このうち、部分押圧部110Eは、押圧部110の中央側に配置され、その周囲に部分押圧部110A、110B、110C、110Dが配置されている。折り返し部112A、112B、112C、112Dはそれぞれ、部分押圧部110A、110B、110C、110Dの縁側を折り曲げて形成されている。
図2に示すように、折り返し部112A、112B、112C、112Dにはそれぞれ、第4マニホールド46と、第1マニホールド40と、第2マニホールド42と、第3マニホールド44とが取り付けられる。
【0022】
図3に示すように、梁部120は、押圧部110からセル積層体10とは反対側に突き出して押圧部110の面に沿って延在する凸状の梁である。梁部120は、複数の連結具200を固定する複数の締結部122A、122B、122C、122Dを有している。これら複数の締結部122A、122B、122C、122Dは、梁部120の縁側に配置されている。これらから分かるように、2つの締付板100は、複数の連結具200を複数の締結部122A、122B、122C、122Dに固定することで、セル積層体10を積層方向に押圧する。
【0023】
また、梁部120は、複数の締結部122A、122B、122C、122Dのうち、隣接する2つの締結部同士を繋ぐ複数の凸状部124A、124B、124C、124Dを有し、凸状部124A、124B、124C、124Dの中央側の凸状サイズは、凸状部124A、124B、124C、124Dの締結部122A、122B、122C、122D側の凸状サイズよりも小さく形成されている。例えば、凸状部124A、124B、124C、124Dの中央側の凸状高さは、凸状部124A、124B、124C、124Dの締結部122A、122B、122C、122D側の凸状高さよりも低く形成されている。
【0024】
さらにまた、凸状部124A、124B、124C、124Dの一端側の締結部から他端側の締結部まで、連続的に凸状高さが変化するように形成されている。このような形状にすることで、凸状部124A、124B、124C、124Dの中央側の肉厚が薄くなるおそれがなくなる。仮に、凸状部124A、124B、124C、124Dの凸状サイズが長手方向の全長にわたって同一であるとすると、これら4つの凸状部は長手方向の中央側でより接近しているため、中央側の肉厚サイズが締結部側の肉厚サイズよりも薄くなりやすい。肉厚サイズが薄くなると、亀裂が生じやすくなり、セル積層体10を押圧する面内圧力も不均一になりやすい。これに対して、本実施形態のように、中央側の凸状高さを締結部側の凸状高さよりも低くすれば、中央側の肉厚サイズが薄くならなくなり、亀裂も生じにくくなって、セル積層10を押圧する面内圧力も均一化できる。また、凸状部124A、124B、124C、124Dの中央側の凸状高さを締結部側の凸状高さよりも低くすることにより、凸状部124A、124B、124C、124Dの全体での板材料の使用量を削減でき、軽量化を図ることができる。
【0025】
凸状部124A、124B、124C、124Dは、押圧部110の中央部に配置される部分押圧部110Eの外側に配置されている。また、凸状部124A、124B、124C、124Dは、押圧部110の面内で押圧部110の中心位置に対して点対称に配置されている。これにより、セル積層体10の押圧力が面内で均一化される。また、梁部120は、複数の締結部122A、122B、122C、122D付近に、押圧部110と面一の鍔部126A、126B、126C、126Dを有している。鍔部126A、126B、126C、126Dを設けることで、絶縁体25との接触面積を増大できる。
【0026】
本実施形態に係る締付板100は、例えば、厚さ2.0ミリメータの高張力鋼(引っ張り強度400MPa)を母材とし、金型を使用して複数回の加圧プレス工程を経て成形される。
【0027】
上述のように金型を使用して複数回の加圧プレス工程で締付板100を製作し、締付板100の強度と外観形状を評価した。
図4は、評価の参考に用いた比較例1の締付板を示す図であり、表面側の締付板100aの斜視図と、裏面側の締付板100bの斜視図とを示している。
図4の締付板では、比較参照のため、凸形状の梁部120Aの凸状高さを長手方向に沿って同一にしている。
図5は、比較例2の締付板を示す図である。この締付板では、折り返し部が設けられていない。なお、
図5における凸状部の構造は、
図3に示す本実施形態の凸状部と同様である。また、特許文献1に記載の締付板と同様の構造の締付板を従来例として評価した。
【0028】
本実施形態に係る締付板100の母材厚さを1.5〜3.5ミリメータの間で変更し、締付板100の強度と外観形状を評価した。締付板100の材料は高張力鋼(引っ張り強度400MPa)とし、金型を使用して複数回の加圧プレス工程を経て成形した。
【0029】
次に本実施の形態による作用、効果について説明する。まず、
図3に示す凸状部124A、124B、124C、124Dの凸状高さの効果について説明する。
図6は、評価した締付板の強度、形状変化についてまとめた図である。
図6に示すように、同一の母材を使用しても、比較例1の締付板(
図4)のように凸形状の梁部の凸状高さを中心部と外周部で同一にすると、一部で亀裂が発生する。これは、加圧プレス工程における中央部での凸形状の梁部の形成時に、肉厚不足が発生するためと考えられている。
【0030】
一方、
図3に示す本実施形態に係る締付板100(具体例1)は、梁部の凸状高さに勾配を持たせて、凸状部124A、124B、124C、124Dの一端側の締結部から他端側の締結部まで、連続的に凸状高さを変化させ、中央部から外周部にかけて徐々に高くなるような形状を採用している。このような形状を採用することにより、中央部での肉厚サイズが薄くならなくなるため、凸形状の梁部に亀裂が生じなくなる。
【0031】
さらに、上述のように、凸状部124A、124B、124C、124Dの中央側の凸状高さを低くすることで、梁部120を構成する板材料の使用量を削減でき、締付板100を軽量化できる。
【0032】
次に、本実施形態に係る締付板100が有する折り返し部112A、112B、112C、112D(折り返し構造)の作用、効果について説明する。折り返し部を有しない締付板である比較例2(
図5)を連結具200に所定の締付圧で締結したところ、押圧部と、梁部との境界に変形が生じた。
【0033】
一方、
図3に示す本実施の形態に係る締付板100を比較例2(
図5)と同等の締付圧で連結具200に締結したところ、比較例2のような変形は生じなかった。これは、折り返し部112A、112B、112C、112Dを設けることで、締付板100の強度がより増加するためである。
【0034】
次に、本実施形態に係る締付板100の母材の厚さに関する作用、効果について説明する。
図7は、母材の厚さと締付板の強度、形状変化についてまとめた図である。
図7に示すように、母材厚さを2.0ミリメータ未満となる1.5ミリメータ(比較例3)を使用した場合には、一体ブレス後に局所的に肉厚が過小となる箇所が散見され、シワが発生した。一方、厚さ3.0ミリメータを超える母材(比較例4)を使用した場合には、一体プレス工程で肉厚分布が不均一となり、一部箇所で亀裂が発生した。
【0035】
一方で、具体例1から4に示すように、高張力鋼(引っ張り強度400MPa)の母材厚さを2.0ミリメータ以上3.0ミリメータ以下にすると、締付板100の外観形状にシワも亀裂も生じなかった。これにより、高張力鋼(引っ張り強度400MPa)の母材厚さが2.0ミリメータ以上3.0ミリメータ以下の場合には、金型を使用した複数回の加圧プレス工程による締付板100の製造に適していることがわかる。
【0036】
以上説明したように、本実施形態に係る燃料電池締付構造体30によれば、締付板100の梁部120の凸状高さに勾配を持たせて、凸状部124A、124B、124C、124Dの一端側の締結部から他端側の締結部まで、連続的に凸状高さを変化させ、凸状高さが長手方向の中央部から締結部側にかけて徐々に高くなるような形状とした。これにより、押圧部110と梁部120とを一体成形する加圧プレス工程における肉厚不足が解消されるとともに軽量化が可能となる。
【0037】
また、凸状部124A、124B、124C、124Dは、押圧部110の面内で押圧部110の中心位置に対して点対称に配置されている。これにより、セル積層体10を押圧する面圧をより均一化することが可能である。
【0038】
さらにまた、締付板100に折り返し部112A、112B、112C、112Dを設けることにより、締付板100の強度を向上できる。本実施形態では、押圧部110、梁部120および折り返し部112A〜Dを有する締付板100を一体成形するので、溶接加工を行わずとも締付板100を製造可能であり、溶接加工よりも製造工数を低減できる。
【0039】
(変形例)
図8は、変形例に係る締付板の斜視図である。
図8に示すように、変形例に係る締付板は、凸状体の凸状高さを一端側の締結部から他端側の締結部まで、連続的に変化させ、凸状高さが中央部から外周部にかけて徐々に高くなるような形状を有する。これにより、
図3と同様に、押圧部110と梁部120とを一体成形する加圧プレス工程における肉厚不足が解消されるとともに軽量化が可能となる。また、梁部120の凸状を
図3に示す凸状と同様の形状としてもよい。
【0040】
(第2実施形態)
第1の実施形態による締付板100にてセル積層体10を締め付けた場合、梁部120と折り返し部112A、112B、112C、112Dとの接合付近に応力が集中し、押圧部110の押圧力が高くなると、上述した接合付近(以下、応力集中部と呼ぶ)に亀裂が生じるおそれがある。第2の実施形態は、上述した応力集中部の応力を緩和するものである。
【0041】
第2実施形態に係る締付板100は、鍔部と折り返し部とを面接合させる面接合部300A、300B、300C、300D、300E、300F、300G、300Hを有することで、第1実施形態に係る締付板100と相違する。以下に第1実施形態と相違する点を説明する。第1実施形態と同等の構成には、同一の番号を付して説明を省略する。
【0042】
図9は、第2実施形態に係る締付板100の斜視図である。この
図9に示すように、押圧部110は、鍔部126A、126B、126C、126Dと折り返し部112A、112B、112C、112Dとを面接合させる面接合部300A、300B、300C、300D、300E、300F、300G、300Hを更に有している。
【0043】
図10は、締付板100をA方向から見た側面図である。
図11は、締付板100をB方向から見た側面図である。
図10と
図11からわかるように、A方向とB方向のいずれにおいても、締付板100の側面図はほぼ同一である。
図12(a)は、
図9の一部領域Cに対応する
図3で示す締付板の部分を拡大した図であり、
図12(b)は、
図9の一部領域Cの拡大図である。
【0044】
これら
図9乃至
図12に示すように、鍔部126A、126B、126C、126Dと折り返し部112A、112B、112C、112Dとは、面接合されている。これにより、鍔部126A、126B、126C、126Dと折り返し部112A、112B、112C、112Dとの接合面積が第1の実施形態よりも広くなる。
【0045】
図13は、第1実施形態に係る締付板100と、第2実施形態に係る締付板100の強度、形状変化についてまとめた図である。すなわち、
図3で示す第1実施形態に係る締付板100が具体例3に対応し、
図9で示す第2実施形態に係る締付板100が具体例5に対応する。ここで、強度に関しては、有限要素法による強度解析を行った。
【0046】
図13に示すように、第1実施形態に係る締付板100(具体例3)、及び第2実施形態に係る締付板100(具体例5)のいずれも、表面形状に亀裂やシワ等の異常領域は発生しない。一方で、第1実施形態に係る締付板100と、第2実施形態に係る締付板100を比較すると、面接合部300A、300B、300C、300D、300E、300F、300G、300Hを設けることで、応力集中部の相当応力が891MPaから285MPaまで68%も低減する。このように、締付板100に面接合部300A、300B、300C、300D、300E、300F、300G、300Hを設けることで、締付板100における応力集中部の応力を緩和でき、締付板100の締付圧力をより高くすることができる。
【0047】
以上説明したように、本実施形態に係る燃料電池締付構造体30によれば、締付板100の押圧部110と面一の鍔部126A、126B、126C、126Dと、押圧部110の面方向に交差する方向に折り曲げられた折り返し部112A、112B、112C、112Dとを面接合させる面接合部300A、300B、300C、300D、300E、300F、300G、300Hを設けるため、これら面接合部の相当応力を低減させることができ、締付板100の強度を向上できる。
【0048】
(第3実施形態)
第3実施形態に係る締付板100では、押圧部110のセル積層体10に対向する面側の中央部110Eを、押圧部110のセル積層体10に対向する面側の縁部よりも、セル積層体10側に突き出させたものである。以下に第2実施形態と相違する点を説明する。第2実施形態と同等の構成には、同一の番号を付して説明を省略する。
【0049】
図14は、締付板100と電流端子350とを示す図である。
図14に示すように中央部の部分押圧部110Eに、集電板20に接続される電流端子350が設けられている。
【0050】
図15は、燃料電池構造体1の断面図を模式的に示す図である。この
図15に示すように、セル積層体10は、複数の燃料電池セル12を積層して構成されている。燃料電池構造体1は、セル積層体10の両端に、集電板20と、絶縁板25と、締付板100とを配置し、タイロッド202及び二つのナット206によって締め付けることにより構成されている。燃料電池セル12は、固体高分子膜の両端に、触媒を塗布した燃料極及び酸化剤極を配し、その両端に燃料極流路と酸化剤極流路を備えた燃料極流路板と酸化剤極流路板によって構成されている。このような燃料電池構造体1では、燃料電池セルの1枚では起電力が1V程度と小さいため、燃料電池セル12を一般に10枚以上積層して、電気的に直列につなぎ高電圧出力を得ている。
【0051】
また、絶縁板25には、
図14に示す電流端子350に対応する位置に、電極端子350を集電板20まで通すための孔部が設けられている。電極端子350は、この孔部を介して集電板20に接続されている。
【0052】
図16は、第3施形態に係る締付板100の側面図を示す図である。この
図16に示すように、押圧部110のセル積層体10に対向する面側の中央部110Eは、押圧部110のセル積層体10に対向する面側の部分押圧部110A、110B、110C、110Dよりも、セル積層体10側に突き出している。
図16では、セル積層体10に対向する面側の部分押圧部110A、110B、110C、110Dよりも突き出ている中央部110Eの段差距離をΔtとしている。
【0053】
複数の連結具200が複数の締結部122A、122B、122C、122Dに固定されていない状態では、押圧部110の中央部110Eは、押圧部110の折り返し部112A、112B、112C、112Dよりも、0.6mm乃至0.7mmの範囲内の大きさでセル積層体10側に突き出している。
【0054】
一方で、複数の連結具200が複数の締結部122A、122B、122C、122Dに固定された状態では、押圧部110のセル積層体10に対向する面側の中央に位置する部分押圧部110Eと、その周囲の部分押圧部110A、110B、110C、110Dは、ともにセル積層体10を締め付ける。すなわち、この場合、押圧部110のセル積層体10に対向する面側の中央に位置する部分押圧部110Eと、その周囲の部分押圧部110A、110B、110C、110Dはともに、複数の連結具200の締めつけ力により面一となってセル積層体10を押圧し、面圧は均一になる。
【0055】
図14に示すように、電流端子350は、上述のように絶縁板25に設けられた孔部を介して、セル積層体10側に突き出している締付板100の中央部110Eに対応する絶縁板20上の領域と、中央部110Eに対応する集電板25上の領域との間に接続されている。中央部104Eは、押圧部110のセル積層体10に対向する面側の縁部よりも、セル積層体側に突き出しているので、電流端子350が電気的に接合される集電板20の周辺には、絶縁板25を介して中央部104Eの押圧力が常にかかっている。これにより、電極端子350と集電板20との間の接触抵抗が低減されると共に安定化する。
【0056】
上述のように、厚さ2.6ミリメータの高張力鋼(引っ張り強度440MPa)を母材とし、金型を使用して複数回の加圧プレス工程を経て締付板100を製作した。ここでは、比較例として段差距離Δt=0.1〜0.5ミリメータの締付板100を製作した。また、特許文献1に記載の締付板と同様の構成の締付板を従来例として評価した。
【0057】
評価として、セル積層体10の面圧分布を測定した。
図17は、集電板20とセル積層体10の境界面における面圧を測定した領域を示す図である。ここでは、
図17に示すように、集電板20とセル積層体10との境界面における領域1〜13の面圧を測定し、評価を行った。
【0058】
図18は、段差距離Δtと面圧の標準偏差との関係についてまとめた図である。
図19は、セル積層体10における面圧分布の標準偏差を示すグラフの図である。横軸は段差距離Δtを示し、縦軸は面圧分布の標準偏差を示す。
図18及び
図19に示すように、段差距離Δtが小さくなるに従い、面圧の標準偏差が増加する。これは、連結具200の締付力で締付板100の中央部がたわみ、段差距離Δtが小さくなるに従い、中央部にかかる押圧が低減するためである。これにより、面圧が不均一となると共に、抵抗増大の原因となっている。
【0059】
逆に、Δtの増加に伴い、中央部付近の面圧不足が解消する。したがって、Δtの値を調整することで、面圧の標準偏差が最小化する。本実施形態に係る締付板100では、Δtを0.6〜0.7ミリメータの範囲内とすることで、面圧の標準偏差が最小化している。この値は、従来例1で示す曲げ加工した部材を溶接した締付板よりも低い値となっている。すなわち、本実施形態に係る締付板100が連結具200に締結された場合、従来用いられている一般的な締付板よりも面圧がより均一化する。このように、締付板100の軽量化、薄型化を進めることで発生しうるたわみにも、例えば1ミリメータ未満の段差を設けることで、対応可能となる。
【0060】
図20は、セル積層体10の発電特性を示す図である。縦軸は平均セル電圧を示し、横軸は、電流密度を示す。ここで、平均セル電圧は、セル積層体10を構成する単セルの電圧平均値であり、電流密度は、各セルを流れる電流の密度である。この
図20に示すように、本実施形態に係る締付板100が連結具200に締結された場合、平均セル電圧の低下に伴う、電流密度の低下が電流密度の全範囲で一番少なく、最も発電特性が良いことを示している。このように、セル積層体10の面圧分布を均一化すると、セル積層体10の発電特性もより改善される。
【0061】
以上説明したように、本実施形態に係る燃料電池締付構造体30によれば、締付板100の押圧部110のセル積層体10に対向する面側の中央部104Eを、押圧部のセル積層体に対向する面側の縁部よりも、セル積層体10側に突き出すことで、所定圧で締付板100を締結する場合にたわみが生じても、押圧部110のセル積層体に対向する面側の中央部104Eの押圧力を維持でき、セル積層体10の面圧分布をより均一化できる。このため、セル積層体10の発電特性もより改善される。
【0062】
(第4実施形態)
第4実施形態に係る締付板100は、セル積層体10を破損させることなく、締付体100の締付力を適正化するものである。
【0063】
以下に第3実施形態と相違する点を説明する。第3実施形態と同等の構成には、同一の番号を付して説明を省略する。
【0064】
図9を参照にしつつ、
図21及び
図22に基づき、第4実施形態に係る締付板100の構成を説明する。
図21は、第4実施形態に係る締付板100の背面、すなわちセル積層体10に対向する面側の構造を示す図である。
図22は、締付板100を連結具200に締結する工程順序を示す図である。
【0065】
図21及び
図22に示すように、締付板100は、梁部120により分断された複数の部分押圧部110A、110B、110C、110D、110Eを有し、複数の部分押圧部110A、110B、110C、110D、110Eのうち、部分押圧部110Eは、押圧部110の中央に配置され、それ以外の部分押圧部110A、110B、110C、110Dは、部分押圧部110Eの周囲に配置されている。部分押圧部110Eは第3の実施形態と同様にセル積層体10側に突き出していてもよいし、第1または第2の実施形態のように突き出していなくてもよい。
【0066】
また、
図9、
図21及び
図22に示すよう、部分押圧部110A、110B、110C、110D、110Eは、梁部120に接している。
図21は、締付体100をセル積層体10側から見た図であり、梁部120の部分は、凹状に窪んでいる。部分押圧部110A、110B、110C、110D、110Eは、凹状に窪んだ部分に接するように配置されている。
【0067】
部分押圧部110A、110B、110C、110D、110Eのセル積層体10に対向する面側は、平坦または曲面であり、積層体受け部400として機能する。積層体受け部400は、セル積層体10を積層方向の両側から押圧する部分であり、理想的には、セル積層体10の端面の全体が積層体受け部400に面接触するのが望ましい。本実施形態では、部分押圧部110A、110B、110C、110D、110Eのセル積層体10側の面を平坦または曲面にしているため、セル積層体10の両端面との接触性がよくなる。なお、セル積層体10の両端面には、上述のように絶縁板25が配置されている。
【0068】
また、部分押圧部110A、110B、110C、110D、110Eのセル積層体10側の面を平坦または曲面にするということは、角部がないことを意味し、締付体100にてセル積層体10を締め付けたときに、セル積層体10の両端面を傷付けるおそれがなくなる。
【0069】
また、第3の実施形態と同様に、押圧部110の中央に位置する部分押圧部110Eを、セル積層体10側に突き出させることで、より、セル積層体10との接触性を向上できる。これにより、締付板100の締結時にたわみが生じた場合に、曲面が平坦化し、たわみの影響を低減可能である。なお、本実施形態に係る締付板100の材料は、例えば、高張力鋼、亜鉛メッキ工板、SUS板などである。
【0070】
図22に示すように、本実施形態に係る締付板100の締結部122A、122B、122C、122Dは、平坦面部128A、128B、128C、128Dを有している。平坦面部128A、128B、128C、128Dは、梁部120におけるタイロッド202を通す孔部の周辺に配置されており、座金204が接触する部分である。座金204が接触する部分が湾曲した形状を持つと、締付時に座金204が梁部120の上で傾き、タイロッド202がセル積層体10に対して傾くことがある。タイロッド202が斜めに傾いた状態でセル積層体10を締め付けると、セル積層体10の締付力が狙いの締付圧とならなくなってしまう。このため、セル積層体10中のシール機能の働きが弱くなり、ガスリークが生じえる。また締付面圧が小さくなることで燃料電池セル間の接触抵抗が大きくなり、発電効率が低下することがある。さらには、タイロッド202が斜めに傾いた状態でセル積層体10を締め付けると、締付板100の座金接触部に傾いた方向で力が掛かり、締付板100が破損してしまう恐れがある。
【0071】
これに対して、本実施形態に係る締付板100は、座金204が接触する部分に平坦面部128A、128B、128C、128Dを設けているため、座金204が平坦面部128A、128B、128C、128Dに面接触する。よって、タイロッド202がセル積層体10に対して傾くという不具合が生じなくなる。よって、本実施形態によれば、セル積層体10の締付圧を高めることができ、ガスリークを防止できるとともに、発電効率の向上や締付板100の破損防止を図ることができる。
【0072】
より具体的には、
図22に示すように、タイロッド202は、締付板100の対向する孔部を通り、セル積層体10とは反対側における締付板100の平坦面部128A、128B、128C、128Dに締結具であるナット206と座金204とにより取り付けられる。すなわち、連結具200は、締結具204、206を締結させて、対応する締結部122A、122B、122C、122Dに固定される。
【0073】
また、本実施形態に係る締付板100は、梁部120における凸状の一部を平坦にした抑え部130A、130B、130C、130Dを有している。抑え部130A、130B、130C、130Dは、締付板100を締結する際に、不図示の締付装置との接触面積を大きくするために設けられている。なお、抑え部130A、130B、130C、130Dの面積と、締付装置側の接触部の面積とを異ならせてもよい。例えば、締付装置側の接触部の面積を抑え部130A、130B、130C、130Dの面積よりも大きくすることで、抑え部130A、130B、130C、130Dと締付装置側の接触部とのずれにも対応可能となる。
【0074】
燃料電池締付構造体30により燃料電池構造体1を締結する際には、先ず、2つの締付板100によりセル積層体10を狭持させる。続いて、不図示の締付装置により締付板100に所定の圧を加え、セル積層体10と、集電板20と、絶縁板25と、締付板100とを仮固定する。この場合、締付板100の抑え部130A、130B、130C、130Dが、締付装置と接する。抑え部130A、130B、130C、130Dは平面であり、締付装置の接触部も平面であるので、抑え部130A、130B、130C、130Dと締付装置とは平面が重なるように接する。
【0075】
次に、締結具であるナット206を所定の締め付け圧で締め付け、固定する。そして、締付装置が締付板100に加えている圧を減圧し、締付板100から締付装置を開放する。
【0076】
本実施形態に係る燃料電池締付構造体30では、部分押圧部110A、110B、110C、110D、110Eのセル積層体10に対向する面側を平坦または曲面にしているため、締付板100の締結時にセル積層体10との接触性がよくなり、セル積層体10の両端面を損傷させずに、所望の締付力でセル積層体10を締め付けることができる。
【0077】
また、本実施形態では、締結部122A、122B、122C、122Dに平坦面部128A、128B、128C、128Dを設けるため、座金204が平坦面部128A、128B、128C、128Dに面接触し、タイロッド202がセル積層体10に対して傾くおそれがなくなる。
【0078】
さらにまた、締付板100に抑え部130A、130B、130C、130Dを設けることにより、締付装置と締付板100との接触性がよくなり、締付板100によるセル積層体10の締付力を適性化することができる。これにより、セル積層体10の面圧を均一化できる。
【0079】
以上、本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施することが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これらの実施形態やその変形例は、発明の範囲や要旨に含まれると共に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。