(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
露光源としてEUV光を用いた場合、アウトオブバンド(OoB:Out Of Band)光と呼ばれる真空紫外光及び紫外光(波長:190〜400nm)が発生することが知られている。上述した多層反射膜掘り込み遮光帯型のEUVリソグラフィ用反射型マスク(以下、単に「反射型マスク」という。)では、遮光帯領域では基板が露出しているため、露光源に含まれるアウトオブバンド光は、基板面での反射や、基板を透過して基板の裏面に設けられた導電膜による反射が生じてしまう。隣接した回路パターン領域は複数回露光されるため、反射したアウトオブバンド光の光量積算値は無視できない大きさとなる。そのため、アウトオブバンド光により配線パターンの寸法に影響を与えてしまうという問題が発生する。
【0009】
特許文献4には、基板と多層反射層(多層反射膜)との間に、ITO(酸化インジウム・スズ)、酸化亜鉛、酸化スズ、モリブデンシリサイド(MoSi)の酸化物、窒化物、酸窒化物などの透明導電層を有する反射型マスクブランクが記載されている。特許文献4には、この透明導電層により、遮光枠領域でアウトオブバンドの表面反射率低減及び減衰が起こることが記載されている。
【0010】
本発明は、上記の点に鑑みてなされたものである。本発明は、半導体装置の製造工程において、EUV光を用いた露光光によってウエハ上に所定のパターンを転写する際に、アウトオブバンド光を低減することのできる反射型マスクを提供することを目的とする。また、本発明は、アウトオブバンド光を低減することが可能な反射型マスクの製造に用いることのできる反射型マスクブランクを提供することを目的とする。また、本発明は、アウトオブバンド光を低減することのできる反射型マスクの製造に用いることが可能な多層反射膜付き基板及びマスクブランク用基板を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するため、本発明は以下の構成を有する。
【0012】
(構成1)
本発明の構成1は、基板上に下地膜を備えるマスクブランク用基板であって、190nm以上280nm以下の波長範囲において、前記下地膜は、前記基板よりも小さい屈折率を有する材料で形成され、190nm以上280nm以下の波長範囲における前記基板の表面に配置された前記下地膜の反射率が、前記基板の反射率より小さいことを特徴とするマスクブランク用基板である。
【0013】
本発明の構成1のマスクブランク用基板を用いることにより、EUV光を用いた露光光によってウエハ上に所定のパターンを転写する際に、アウトオブバンド光を低減することのできる反射型マスクを製造することができる。
【0014】
(構成2)
本発明の構成2は、前記基板の表面に配置された前記下地膜の反射率が、5%以下である、構成1に記載のマスクブランク用基板である。
【0015】
本発明の構成2によれば、基板の表面に配置された下地膜の反射率が、5%以下であることにより、その基板を用いて製造される反射型マスクにおいて、EUV光を用いた露光光によってウエハ上に所定のパターンを転写する際に、下地膜表面で反射されるアウトオブバンド光を低減することができる。
【0016】
(構成3)
本発明の構成3は、前記下地膜の屈折率は、1.6未満である、構成1又は2に記載のマスクブランク用基板である。
【0017】
本発明の構成3によれば、下地膜の屈折率が所定の範囲であることにより、下地膜表面で反射されるアウトオブバンド光を低減することを確実にできる。
【0018】
(構成4)
本発明の構成4は、前記下地膜は、ケイ素化合物を含む材料からなる、構成1〜3の何れかに記載のマスクブランク用基板である。
【0019】
本発明の構成4によれば、下地膜がケイ素化合物を含む材料からなることにより、190nm以上280nm以下の波長範囲において、基板よりも小さい屈折率を有する下地膜を得ることができる。この結果、下地膜の表面で反射されるアウトオブバンド光を低減することを確実にできる。
【0020】
(構成5)
本発明の構成5は、前記下地膜の膜厚は、6〜65nmである、構成1〜4の何れかに記載のマスクブランク用基板である。
【0021】
本発明の構成5によれば、下地膜の膜厚が所定の範囲であることにより、アウトオブバンド光を低減する効果を有する下地膜を、経済的に確実に形成することできる。
【0022】
(構成6)
本発明の構成6は、前記下地膜が設けられた面に対して、反対側の面に形成された裏面導電膜と、前記基板と前記裏面導電膜との間に設けられた中間膜とを有し、前記基板の表面に配置された前記下地膜の、280nm超320nm以下の波長範囲における反射率が10%以下である、構成1〜5の何れかに記載のマスクブランク用基板である。
【0023】
本発明の構成6によれば、本発明のマスクブランク用基板が、基板と裏面導電膜との間に設けられた中間膜を有することにより、半導体装置の製造工程において、EUV光を用いた露光光によってウエハ上に所定のパターンを転写する際に、基板の裏面から反射されるアウトオブバンド光を低減することができる反射型マスクを得ることができる。
【0024】
(構成7)
本発明の構成7は、前記基板の表面に配置された前記下地膜の、280nm超400nm以下の波長範囲における反射率が15%以下である、構成6に記載のマスクブランク用基板である。
【0025】
本発明の構成7のマスクブランク用基板を用いることにより、280nm超320nm以下の波長範囲のみならず、280nm超400nm以下の波長範囲のアウトオブバンド光を低減することができる反射型マスクを製造することができる。
【0026】
(構成8)
本発明の構成8は、前記中間膜が、タンタル、ホウ素及び酸素を含む材料からなる、構成6又は7に記載のマスクブランク用基板である。
【0027】
本発明の構成8によれば、本発明のマスクブランク用基板の中間膜が、タンタル、ホウ素及び酸素を含む材料からなることにより、アウトオブバンド光を低減する効果を有する中間膜を、比較的容易に形成することができる。
【0028】
(構成9)
本発明の構成9は、前記中間膜の膜厚が、2〜40nmである、構成6〜8の何れかに記載のマスクブランク用基板である。
【0029】
本発明の構成9によれば、中間膜の膜厚が所定の範囲であることにより、アウトオブバンド光を低減する効果を有する中間膜を、経済的に確実に形成することできる。
【0030】
(構成10)
本発明の構成10は、構成1〜9の何れかに記載のマスクブランク用基板における前記下地膜上に露光光を反射する多層反射膜を有することを特徴とする多層反射膜付き基板である。
【0031】
本発明の構成10の多層反射膜付き基板を用いることにより、アウトオブバンド光を低減することのできる反射型マスクを製造することができる。
【0032】
(構成11)
本発明の構成11は、前記多層反射膜上に保護膜を有することを特徴とする構成10に記載の多層反射膜付き基板である。
【0033】
本発明の構成11によれば、多層反射膜上に保護膜が形成されていることにより、多層反射膜付き基板を用いて反射型マスクを製造する際の多層反射膜表面へのダメージを抑制することができるので、EUV光に対する反射率特性が良好となる。
【0034】
(構成12)
本発明の構成12は、構成10に記載の多層反射膜付き基板の前記多層反射膜上、又は構成11に記載の多層反射膜付き基板の前記保護膜上に、吸収体膜を有することを特徴とする反射型マスクブランクである。
【0035】
本発明の構成12の反射型マスクブランクを用いることにより、アウトオブバンド光を低減することのできる反射型マスクを製造することができる。
【0036】
(構成13)
本発明の構成13は、構成12に記載の反射型マスクブランクの前記吸収体膜をパターニングして、前記多層反射膜上に吸収体パターンを有することを特徴とする反射型マスクである。
【0037】
本発明の構成13の反射型マスクを用いることにより、半導体装置の製造工程において、EUV光を用いた露光光によってウエハ上に所定のパターンを転写する際に、パターン転写のアウトオブバンド光を低減することができる。
【0038】
(構成14)
本発明の構成14は、前記吸収体パターンが形成された転写パターン領域の外側に、前記吸収体膜及び前記多層反射膜が除去された遮光帯を有することを特徴とする構成13に記載の反射型マスクである。
【0039】
本発明の構成14によれば、EUV光を用いた露光光によってウエハ上に所定のパターンを転写する際に、反射型マスクの遮光帯からの反射によるアウトオブバンド光を低減することができる。
【0040】
(構成15)
本発明の構成15は、構成13又は14に記載の反射型マスクを用いて、露光装置を使用したリソグラフィープロセスを行い、被転写体上に転写パターンを形成する工程を有することを特徴とする半導体装置の製造方法である。
【0041】
本発明の構成15の半導体装置の製造方法によれば、パターン転写の際のアウトオブバンド光を低減することができるので、微細でかつ高精度の転写パターンを有する半導体装置を製造することができる。
【発明の効果】
【0042】
本発明によれば、半導体装置の製造工程において、EUV光を用いた露光光によってウエハ上に所定のパターンを転写する際に、アウトオブバンド光を低減することのできる反射型マスクを提供することができる。また、本発明によれば、アウトオブバンド光を低減することのできる反射型マスクの製造に用いることが可能な反射型マスクブランクを提供することができる。また、本発明によれば、アウトオブバンド光を低減することのできる反射型マスクの製造に用いることが可能な多層反射膜付き基板及びマスクブランク用基板を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0044】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しながら具体的に説明する。なお、以下の実施形態は、本発明を具体的に説明するための形態であって、本発明をその範囲内に限定するものではない。
【0045】
<マスクブランク用基板120及び反射型マスクブランク100>
図1は、本発明の第1のEUVリソグラフィ用の反射型マスクブランク100の一例の、断面模式図である。
図1に示す反射型マスクブランク100は、基板1と、基板1の第1主面(表面)側に形成された所定の下地膜3と、露光光であるEUV光を反射する多層反射膜5と、多層反射膜5を保護するための保護膜6と、EUV光を吸収する吸収体膜7と、を有し、これらがこの順で積層される。また、
図1に示す反射型マスクブランク100の基板1の第2主面(裏面)側には、静電チャック用の裏面導電膜2が形成される。
【0046】
図2に、本発明のマスクブランク用基板120の一例の断面模式図を示す。
図2に示すマスクブランク用基板120は、
図1に示す反射型マスクブランク100の製造に用いることができる。
図2に示すマスクブランク用基板120は、基板1の上に、好ましくは基板1の表面に接して、所定の下地膜3を備える。
【0047】
図2に示すマスクブランク用基板120の所定の下地膜3は、190nm以上280nm以下の波長範囲において、基板1よりも小さい屈折率を有する薄膜である。また、基板1の表面に配置された所定の下地膜3は、190nm以上280nm以下の波長範囲における反射率が、前記基板1の反射率より小さい材料で形成される。本発明のマスクブランク用基板120及び反射型マスクブランク100が所定の下地膜3を有することにより、特に190nm以上280nm以下の波長範囲のアウトオブバンド光を低減することのできる反射型マスク200を製造することができる。
【0048】
図3は、本発明の第2の反射型マスクブランク100の断面模式図である。
図3に示す反射型マスクブランク100は、基板1と、基板1の第1主面(表面)側に形成された所定の下地膜3と、露光光であるEUV光を反射する多層反射膜5と、多層反射膜5を保護するための保護膜6と、EUV光を吸収する吸収体膜7と、を有し、これらがこの順で積層されるものである。また、
図3に示す反射型マスクブランク100の基板1の第2主面(裏面)の上には、所定の中間膜4及び静電チャック用の裏面導電膜2が形成される。所定の中間膜4は、基板1に接するように形成され、裏面導電膜2は、所定の中間膜4に接するように形成されることが好ましい。
【0049】
図4に、本発明のマスクブランク用基板120の一例の断面模式図を示す。
図4に示すマスクブランク用基板120は、
図3に示す反射型マスクブランク100の製造に用いることができる。
図4に示すマスクブランク用基板120は、下地膜3が設けられた表面とは反対側の表面の上に、裏面導電膜2と、基板1と裏面導電膜2との間に形成された所定の中間膜4とを有する。所定の中間膜4は、基板1に接するように形成され、裏面導電膜2は、所定の中間膜4に接するように形成されることが好ましい。
【0050】
所定の中間膜4は、基板1の反対側の表面に配置された下地膜の反射率を測定したときに、280nm超320nm以下の波長範囲における反射率が10%以下となるような薄膜である。本発明のマスクブランク用基板120及び反射型マスクブランク100が、基板1と裏面導電膜2との間に設けられた中間膜4を有することにより、半導体装置の製造工程において、EUV光を用いた露光光によってウエハ上に所定のパターンを転写する際に、基板1の裏面からの反射による、280nm超320nm以下の波長範囲のアウトオブバンド光を低減することができる反射型マスク200を得ることができる。
【0051】
本明細書において、「マスクブランク用基板120」とは、基板単体(基板1)の他、下地膜3、中間膜4及び裏面導電膜2等の、多層反射膜5以外の薄膜が基板1の上に形成されているものを含む。また、本明細書において、「多層反射膜付き基板110」とは、マスクブランク用基板120の上に多層反射膜5が形成されたものをいう。
図5に、多層反射膜付き基板110の断面模式図の一例を示す。なお、「多層反射膜付き基板110」は、吸収体膜7以外の薄膜、例えば保護膜6が形成されたものを含む。本明細書において、「反射型マスクブランク100」とは、多層反射膜付き基板110の上に吸収体膜7が形成されたものをいう。なお、「反射型マスクブランク100」は、エッチングマスク膜及びレジスト膜等の、さらなる薄膜が形成されたものを含む。
【0052】
本発明は、所定のマスクブランク用基板120における前記下地膜3上に露光光を反射する多層反射膜5を有する所定の多層反射膜付き基板110を包含する。本発明の多層反射膜付き基板110を用いることにより、アウトオブバンド光を低減することのできる反射型マスク200を製造することができる。
【0053】
本発明は、所定の多層反射膜付き基板110の上に吸収体膜7を有する所定の反射型マスクブランク100を包含する。具体的には、本発明の反射型マスクブランク100は、所定の多層反射膜付き基板110の多層反射膜5上、又は所定の多層反射膜付き基板110の保護膜6上に、吸収体膜7を有する。本発明の反射型マスクブランク100を用いることにより、アウトオブバンド光を低減することのできる反射型マスク200を製造することができる。
【0054】
本明細書において、「多層反射膜5の上(多層反射膜5上)に吸収体膜7を配置(形成)する」とは、吸収体膜7が、多層反射膜5の表面に接して配置(形成)されることを意味する場合の他、多層反射膜5と、吸収体膜7との間に他の膜を有することを意味する場合も含む。その他の膜についても同様である。また、本明細書において、例えば「膜Aが膜Bの表面に接して配置される」とは、膜Aと膜Bとの間に他の膜を介さずに、膜Aと膜Bとが直接、接するように配置されていることを意味する。
【0055】
本明細書において、アウトオブバンド光とは、露光装置の光源からの露光光としてEUV光を用いた場合に発生する所定の波長範囲の真空紫外光及び紫外光である。所定の波長範囲とは、190nm以上400nm以下の波長であることができる。特に、本発明によれば、190nm以上280nm以下の波長範囲のアウトオブバンド光、280nm超320nm以下の波長範囲のアウトオブバンド光、及び280nm超400nm以下の波長範囲のアウトオブバンド光などの低減に効果を奏することができる。
【0056】
以下、マスクブランク用基板120及び反射型マスクブランク100に含まれる各薄膜等について説明をする。
【0057】
<<基板1>>
本発明のマスクブランク用基板120及び反射型マスクブランク100の基板1は、EUV露光時の熱による吸収体パターン歪みの発生を防止することが必要である。そのため、基板1としては、0±5ppb/℃の範囲内の低熱膨張係数を有するものが好ましく用いられる。この範囲の低熱膨張係数を有する素材としては、例えば、SiO
2−TiO
2系ガラス、及び多成分系ガラスセラミックス等を用いることができる。
【0058】
基板1の転写パターン(後述の吸収体膜7がこれを構成する)が形成される側の第1主面は、少なくともパターン転写精度、位置精度を得る観点から、所定の平坦度となるように表面加工される。EUV露光の場合、基板1の転写パターンが形成される側の主表面の132mm×132mmの領域において、平坦度が0.1μm以下であることが好ましく、より好ましくは0.05μm以下、さらに好ましくは0.03μm以下である。また、吸収体膜7が形成される側と反対側の第2主面は、露光装置にセットするときに静電チャックされる表面である。第2主面は、132mm×132mmの領域において、平坦度が0.1μm以下であることが好ましく、より好ましくは0.05μm以下、さらに好ましくは0.03μm以下である。なお、反射型マスクブランク100における第2主面の平坦度は、142mm×142mmの領域において、平坦度が1μm以下であることが好ましく、より好ましくは0.5μm以下、さらに好ましくは0.3μm以下である。
【0059】
また、基板1の表面平滑性の高さも極めて重要な項目である。転写用吸収体パターンが形成される第1主面の表面粗さは、二乗平均平方根粗さ(Rms)で0.15nm以下、より好ましくはRmsで0.10nm以下であることが好ましい。なお、表面平滑性は、原子間力顕微鏡で測定することができる。
【0060】
さらに、基板1は、基板1の上に形成される膜(多層反射膜5など)の膜応力による変形を防止するために、高い剛性を有しているものが好ましい。特に、基板1は、65GPa以上の高いヤング率を有しているものが好ましい。
【0061】
<<下地膜3>>
本発明は、基板1上に下地膜3を備えるマスクブランク用基板120である。下地膜3は、基板1と多層反射膜5との間に形成される薄膜である。
【0062】
下地膜3は、190nm以上280nm以下の波長範囲において、基板1よりも小さい屈折率を有する材料で形成される。この場合には、基板1の表面に配置された下地膜3の反射率は、190nm以上280nm以下の波長範囲において、基板1の反射率より小さくなる。このような性質を有する下地膜3を備えるマスクブランク用基板120を用いることにより、アウトオブバンド光を低減することのできる反射型マスク200を製造することができる。
【0063】
本発明のマスクブランク用基板120の下地膜3の反射率は、5%以下であることが好ましい。下地膜3の反射率が、5%以下であることにより、本発明のマスクブランク用基板120を用いて製造される反射型マスク200において、下地膜3表面で反射されるアウトオブバンド光を低減することができる。
【0064】
本発明のマスクブランク用基板120の下地膜3の屈折率は、1.6未満であることが好ましい。下地膜3の屈折率が所定の範囲であることにより、下地膜3の表面で反射されるアウトオブバンド光を低減することを確実にできる。なお、空気の屈折率は約1なので、当然のことながら、下地膜3の屈折率は1より大きい。下地膜3の屈折率は、基板1の屈折率と、空気の屈折率との間であることにより、下地膜3の表面で反射されるアウトオブバンド光を低減することを確実にできる。
【0065】
下地膜3の材料は、ケイ素化合物を含むことが好ましい。ケイ素化合物として、具体的には、SiO
2及びSiO
xを挙げることができる。反射型マスクの基板として一般的に用いられるSiO
2−TiO
2基板の波長範囲190〜400nmの屈折率は、約1.45〜1.65である。一方、SiO
2の上記波長範囲の屈折率は、1.48〜1.57でなので、SiO
2の下地膜3の屈折率を、基板1の屈折率と、空気の屈折率との間にすることができる。また、SiO
xの酸素の含有量xを調整することにより、SiO
xの下地膜3の屈折率を、基板1の屈折率と、空気の屈折率との間にすることができる。したがって、SiO
2及びSiO
xなどのケイ素化合物により下地膜3を形成することにより、上述の所定の波長範囲において基板1よりも小さい屈折率を有する下地膜3を得ることができる。この結果、下地膜3の表面で反射されるアウトオブバンド光を低減することを確実にできる。
【0066】
なお、下地膜3の材料としては、ケイ素化合物以外にも、屈折率が、基板1の屈折率と、空気の屈折率との間である材料を用いることができる。このような材料として、CaF
2(1.45〜1.50)、LiF(1.41〜1.45)、MgF
2(1.39〜1.43)及びNaF(1.34〜1.39)等を挙げることができる。なお、カッコ内の数値範囲は、波長範囲190〜320nmの屈折率である。
【0067】
本発明のマスクブランク用基板120では、下地膜3の膜厚は、6〜65nmであることが好ましい。また、下地膜3の膜厚は、45nm以下がより好ましく、25nm以下がさらに好ましい。下地膜3の膜厚が6nmより薄い場合には、薄すぎて下地膜3としての機能を果たすことができない。また、下地膜3の膜厚が65nmより厚い場合には、下地膜3の形成に時間がかかりすぎるため不経済である。したがって、下地膜3の膜厚が上述の所定の範囲であることにより、アウトオブバンド光を低減する効果を有する下地膜3を、経済的に確実に形成することできる。
【0068】
下地膜3の形成方法としては、スパッタリング法が用いられる。なお、SiO
2及びSiO
xを材料とする下地膜3は、SiO
2ターゲットを用いたArガス雰囲気でのスパッタリング法、又はSiターゲットを用いたArとO
2の混合ガス雰囲気での反応性スパッタリング法により、形成することができる。さらに、下地膜3を構成する材料のスパッタ粒子を、基板1の主表面の法線に対して45度以下の角度で入射させると、表面平滑性をさらに一層向上できるためより好ましい。
【0069】
<<多層反射膜5>>
多層反射膜5は、反射型マスク200において、EUV光を反射する機能を付与するものである。多層反射膜5は、屈折率の異なる元素を主成分とする各層が周期的に積層された多層膜である。
【0070】
一般的には、多層反射膜5として、高屈折率材料である軽元素又はその化合物の薄膜(高屈折率層)と、低屈折率材料である重元素又はその化合物の薄膜(低屈折率層)とが交互に40から60周期程度積層された多層膜が用いられる。
【0071】
多層反射膜5として用いられる多層膜は、基板1(下地膜3)側から高屈折率層と低屈折率層をこの順に積層した高屈折率層/低屈折率層の積層構造を1周期として複数周期積層しても良い。また、多層反射膜5として用いられる多層膜は、基板1側から低屈折率層と高屈折率層をこの順に積層した低屈折率層/高屈折率層の積層構造を1周期として複数周期積層しても良い。なお、多層反射膜5の最表面の層、すなわち、基板1側と反対側の多層反射膜5の表面層は、高屈折率層とすることが好ましい。上述の多層膜において、下地膜3側から高屈折率層と低屈折率層をこの順に積層した高屈折率層/低屈折率層の積層構造を1周期として複数周期積層する場合は、最上層が低屈折率層となる。この場合、低屈折率層が多層反射膜5の最表面を構成すると、低屈折率層が容易に酸化されてしまうため、反射型マスク200の反射率が減少する。そのため、最上層の低屈折率層上に高屈折率層をさらに形成して多層反射膜5とすることが好ましい。一方、上述の多層膜において、基板1側から低屈折率層と高屈折率層をこの順に積層した低屈折率層/高屈折率層の積層構造を1周期として複数周期積層する場合は、最上層が高屈折率層となる。したがって、この場合には、さらなる高屈折率層を形成する必要はない。
【0072】
本実施形態において、高屈折率層としては、ケイ素(Si)を含む層が採用される。Siを含む材料としては、Si単体の他に、Siに、ボロン(B)、炭素(C)、窒素(N)、及び/又は酸素(O)を含むSi化合物を用いることができる。Siを含む高屈折率層を用いることによって、EUV光の反射率に優れた反射型マスク200が得られる。また、低屈折率層としては、モリブデン(Mo)、ルテニウム(Ru)、ロジウム(Rh)、及び白金(Pt)から選ばれる金属単体、又はこれらの合金を用いることができる。例えば波長13nmから14nmのEUV光を反射するための多層反射膜5としては、Mo膜とSi膜とを交互に40から60周期程度積層したMo/Si周期積層膜が好ましく用いられる。なお、多層反射膜5の最上層である高屈折率層をケイ素(Si)で形成し、最上層(Si)と保護膜6との間に、ケイ素と酸素とを含むケイ素酸化物層を形成することができる。この構造の場合には、マスク洗浄耐性を向上させることができる。
【0073】
多層反射膜5の単独での反射率は通常65%以上であり、上限は通常73%である。なお、多層反射膜5の各構成層の膜厚及び周期は、露光波長により適宜選択することができる。具体的には、多層反射膜5の各構成層の膜厚及び周期は、ブラッグ反射の法則を満たすように選択することができる。多層反射膜5において、高屈折率層及び低屈折率層はそれぞれ複数存在する。この場合、高屈折率層同士の膜厚、又は低屈折率層同士の膜厚は、必ずしも同じでなくても良い。また、多層反射膜5の最表面のSi層の膜厚は、反射率を低下させない範囲で調整することができる。最表面のSi(高屈折率層)の膜厚は、3nmから10nmとすることができる。
【0074】
多層反射膜5の形成方法は、本技術分野において公知である。多層反射膜5の各層は、例えばイオンビームスパッタリング法により、成膜することで形成できる。上述のMo/Si周期多層膜の場合、例えばイオンビームスパッタリング法により、まずSiターゲットを用いて膜厚4nm程度のSi膜を下地膜3の上に成膜する。その後Moターゲットを用いて膜厚3nm程度のMo膜を成膜する。このSi膜及びMo膜を1周期として、40から60周期積層して、多層反射膜5を形成する(最表面の層はSi層とする)。
【0075】
下地膜3と多層反射膜5の成膜は、減圧真空下において連続して行われることが望ましい。大気開放工程及び真空引き工程を行うと、異物欠陥率が高まる。一方、減圧真空下において連続して成膜することにより、異物欠陥を低減できる。なお、設備の効率運用を鑑みて、下地膜3の成膜の後、一旦大気開放して、別装置で多層反射膜5を成膜することも可能である。
【0076】
<<保護膜6>>
本発明の多層反射膜付き基板110は、多層反射膜5上に保護膜6を有することが好ましい。多層反射膜5上に保護膜6が形成されていることにより、多層反射膜付き基板110を用いて反射型マスク200を製造する際の多層反射膜5表面へのダメージを抑制することができる。そのため、得られる反射型マスク200のEUV光に対する反射率特性が良好となる。
【0077】
保護膜6は、後述する反射型マスク200の製造工程におけるドライエッチング及び洗浄から、多層反射膜5を保護するために、多層反射膜5の上に形成される。また、保護膜6は、電子線(EB)を用いたマスクパターンの黒欠陥修正の際の多層反射膜5の保護という機能も兼ね備える。ここで、
図1及び
図3では、保護膜6が1層の場合を示している。しかしながら、保護膜6を3層以上の積層構造とし、最下層及び最上層を、例えばRuを含有する物質からなる層とし、最下層と最上層との間に、Ru以外の金属、若しくは合金を介在させたものすることができる。保護膜6は、例えば、ルテニウムを主成分として含む材料により形成される。ルテニウムを主成分として含む材料としては、Ru金属単体、Ruにチタン(Ti)、ニオブ(Nb)、モリブデン(Mo)、ジルコニウム(Zr)、イットリウム(Y)、ホウ素(B)、ランタン(La)、コバルト(Co)、及び/又はレニウム(Re)などの金属を含有したRu合金、並びにそれらに窒素を含む材料が挙げられる。この中でも特にTiを含有したRu系材料からなる保護膜6を用いることが好ましい。この場合には、多層反射膜5の構成元素であるケイ素が、多層反射膜5の表面から保護膜6へと拡散するという現象を抑制できる。このため、マスク洗浄時の表面荒れが少なくなり、また、膜はがれが起こりにくくなる。表面荒れの低減は、EUV露光光に対する多層反射膜5の反射率低下防止に直結するので、EUV露光の露光効率改善、及びスループット向上のために重要である。
【0078】
保護膜6に用いるRu合金のRu含有比率は50原子%以上100原子%未満、好ましくは80原子%以上100原子%未満、より好ましくは95原子%以上100原子%未満である。特に、Ru合金のRu含有比率が95原子%以上100原子%未満の場合には、保護膜6に対する多層反射膜5の構成元素(ケイ素)の拡散を抑えることが可能になる。また、この場合の保護膜6は、EUV光の反射率を十分確保しながら、マスク洗浄耐性、吸収体膜7をエッチング加工した時のエッチングストッパ機能、及び多層反射膜5の経時変化防止の機能を兼ね備えることが可能となる。
【0079】
EUVリソグラフィでは、露光光に対して透明な物質が少ないので、マスクパターン面への異物付着を防止するEUVペリクルが技術的に簡単ではない。このことから、ペリクルを用いないペリクルレス運用が主流となっている。また、EUVリソグラフィでは、EUV露光によってマスクにカーボン膜が堆積したり酸化膜が成長するといった露光コンタミネーションが起こる。このため、マスクを半導体装置の製造に使用している段階で、度々洗浄を行ってマスク上の異物やコンタミネーションを除去する必要がある。このことから、EUV反射型マスク200では、光リソグラフィ用の透過型マスクに比べて桁違いのマスク洗浄耐性が要求されている。Tiを含有したRu系材料からなる保護膜6を用いると、硫酸、硫酸過水(SPM)、アンモニア、アンモニア過水(APM)、OHラジカル洗浄水、及び濃度が10ppm以下のオゾン水などの洗浄液に対する洗浄耐性が特に高くなり、マスク洗浄耐性の要求を満たすことが可能となる。
【0080】
保護膜6の膜厚は、保護膜6としての機能を果たすことができる限り特に制限されない。EUV光の反射率の観点から、保護膜6の膜厚は、好ましくは、1.0nmから8.0nm、より好ましくは、1.5nmから6.0nmである。
【0081】
保護膜6の形成方法としては、公知の膜形成方法を特に制限なく採用することができる。具体例としては、保護膜6の形成方法として、スパッタリング法及びイオンビームスパッタリング法が挙げられる。
【0082】
多層反射膜5上に保護膜6が形成された状態で、100℃以上300℃以下、好ましくは120℃以上250℃以下、より好ましくは150℃以上200℃以下で熱処理(アニール)することが望ましい。このアニールにより、応力が緩和して、マスクブランク応力歪による平坦度の低下を防止できるとともに、多層反射膜5のEUV光反射率経時変化を防止できる。特に、保護膜6がTiを含むRuTi合金である場合は、このアニールによる多層反射膜5からのSiの拡散が強く抑制され、EUV光に対する反射率低下を防止できる。
【0083】
<<吸収体膜7>>
吸収体膜7は、多層反射膜5の上(保護膜6が形成されている場合には、保護膜6の上)に形成される。吸収体膜7の基本的な機能は、EUV光を吸収することである。吸収体膜7は、EUV光の吸収を目的とした吸収体膜7であっても良いし、EUV光の位相差も考慮した位相シフト機能を有する吸収体膜7であっても良い。位相シフト機能を有する吸収体膜7とは、EUV光を吸収するとともに一部を反射させて位相をシフトさせるものである。すなわち、位相シフト機能を有する吸収体膜7がパターニングされた反射型マスク200において、吸収体膜7が形成されている部分では、EUV光を吸収して減光しつつパターン転写に悪影響がないレベルで一部の光を反射させる。また、吸収体膜7が形成されていない領域(フィールド部)では、EUV光は、保護膜6を介して多層反射膜5から反射する。そのため、位相シフト機能を有する吸収体膜7からの反射光と、フィールド部からの反射光との間に所望の位相差を有することになる。位相シフト機能を有する吸収体膜7は、吸収体膜7からの反射光と、多層反射膜5からの反射光との位相差が170度から190度となるように形成される。180度近傍の反転した位相差の光同士がパターンエッジ部で干渉し合うことにより、投影光学像の像コントラストが向上する。その像コントラストの向上にともなって解像度が上がり、露光量裕度、及び焦点裕度等の露光に関する各種裕度を大きくすることができる。
【0084】
吸収体膜7は単層の膜であっても良いし、複数の膜(例えば、下層吸収体膜71及び上層吸収体膜72)からなる多層膜であっても良い。単層膜の場合は、マスクブランク製造時の工程数を削減できて生産効率が上がるという特徴がある。多層膜の場合には、上層吸収体膜72が、光を用いたマスクパターン検査時の反射防止膜になるように、その光学定数と膜厚を適当に設定することができる。このことにより、光を用いたマスクパターン検査時の検査感度が向上する。また、上層吸収体膜72に酸化耐性が向上する酸素(O)及び窒素(N)等が添加された膜を用いると、経時安定性が向上する。このように、吸収体膜7を多層膜にすることによって様々な機能を付加させることが可能となる。吸収体膜7が位相シフト機能を有する吸収体膜7の場合には、多層膜にすることによって光学面での調整の範囲を大きくすることができるので、所望の反射率を得ることが容易になる。
【0085】
吸収体膜7の材料としては、EUV光を吸収する機能を有し、エッチング等により加工が可能(好ましくは塩素(Cl)やフッ素(F)系ガスのドライエッチングでエッチング可能)である限り、特に限定されない。そのような機能を有するものとして、タンタル(Ta)単体又はTaを主成分として含むタンタル化合物を好ましく用いることができる。
【0086】
上述のタンタル及びタンタル化合物等の吸収体膜7は、DCスパッタリング法及びRFスパッタリング法などのマグネトロンスパッタリング法で形成することができる。例えば、タンタル及びホウ素を含むターゲットを用い、酸素又は窒素を添加したアルゴンガスを用いた反応性スパッタリング法により、吸収体膜7を成膜することができる。
【0087】
吸収体膜7を形成するためのタンタル化合物は、Taの合金を含む。吸収体膜7がTaの合金の場合、平滑性及び平坦性の点から、吸収体膜7の結晶状態は、アモルファス状又は微結晶の構造であることが好ましい。吸収体膜7の表面が平滑・平坦でないと、吸収体パターン7a及び7bのエッジラフネスが大きくなり、パターンの寸法精度が悪くなることがある。吸収体膜7の好ましい表面粗さは、二乗平均平方根粗さ(Rms)で、0.5nm以下であり、より好ましくは0.4nm以下、さらに好ましくは0.3nm以下である。
【0088】
吸収体膜7の形成のためのタンタル化合物としては、TaとBとを含む化合物、TaとNとを含む化合物、TaとOとNとを含む化合物、TaとBとを含み、さらにOとNの少なくとも何れかを含む化合物、TaとSiとを含む化合物、TaとSiとNとを含む化合物、TaとGeとを含む化合物、及びTaとGeとNとを含む化合物、等を用いることができる。
【0089】
Taは、EUV光の吸収係数が大きく、また、塩素系ガス及び/又はフッ素系ガスで容易にドライエッチングすることが可能な材料である。そのため、Taは、加工性に優れた吸収体膜7の材料であるといえる。さらにTaにB、Si及び/又はGe等を加えることにより、アモルファス状の材料を容易に得ることができる。この結果、吸収体膜7の平滑性を向上させることができる。また、TaにN及び/又はOを加えれば、吸収体膜7の酸化に対する耐性が向上するため、経時的な安定性を向上させることができるという効果が得られる。
【0090】
吸収体膜7を、TaBNの下層吸収体膜71及びTaBOの上層吸収体膜72からなる積層膜とし、上層吸収体膜72のTaBOの膜厚を約14nmとすることにより、光を用いたマスクパターン欠陥検査の際、この上層吸収体膜72が反射防止膜となる。そのため、マスクパターン欠陥検査の際の検査感度を上げることができる。
【0091】
また、吸収体膜7を構成する材料としては、タンタル又はタンタル化合物以外に、Cr、CrN、CrCON、CrCO、CrCOH、及びCrCONH等のクロム及びクロム化合物、並びに、WN、TiN及びTi等の材料が挙げられる。
【0092】
<<中間膜4>>
図3に示すように、本発明のマスクブランク用基板120は、基板1の表面(主面)のうち、下地膜3が設けられた方面とは反対側の表面(裏面)に、基板1と裏面導電膜2との間に形成された所定の中間膜4を有することが好ましい。
【0093】
本発明のマスクブランク用基板120は、下地膜3が設けられた面に対して、反対側の面に中間膜4を形成し、さらに裏面導電膜2を形成した場合、基板1の表面に配置された下地膜3の表面における280nm超320nm以下の波長範囲における反射率が10%以下であることが好ましい。
【0094】
基板1の第2主面(裏面)側(多層反射膜5形成面の反対側)には、静電チャック用の裏面導電膜2を形成する必要がある。しかしながら、反射型マスク200の裏面に裏面導電膜2が存在することにより、EUV光を用いた露光の際、EUV光に含まれるアウトオブバンド光が裏面導電膜2により反射されて、パターン転写に影響を及ぼす。反射型マスク200が、基板1と裏面導電膜2との間に形成された所定の中間膜4を有することにより、アウトオブバンド光の反射、特に280nm超320nm以下の波長範囲(場合によっては、280nm超400nm以下の波長範囲)におけるアウトオブバンド光の反射を低減することができる。すなわち、基板1と中間膜4との界面での反射光と、中間膜4と裏面導電膜2との界面での反射光との干渉により、基板1を透過して裏面導電膜2によって反射される280nm超から320nmの波長範囲(場合によっては、280nm超400nm以下の波長範囲)のアウトオブバンド光を抑制することができる。そのため、280nm超320nm以下の波長範囲(場合によっては、280nm超400nm以下の波長範囲)のアウトオブバンド光を低減することができる。
【0095】
具体的には、所定の中間膜4を適切に選択することにより、基板1の表面に配置された下地膜3の表面における280nm超320nm以下の波長範囲の反射率を10%以下にすることができる。なお、190nm以上280nm以下の波長範囲のアウトオブバンド光については、上述の下地膜3を透過する際に減衰するので、低減が可能である。以上述べたように、本発明のマスクブランク用基板120が、基板1と裏面導電膜2との間に設けられた中間膜4を有することにより、半導体装置の製造工程において、EUV光を用いた露光光によってウエハ上に所定のパターンを転写する際に、基板1の裏面からの反射によるアウトオブバンド光を低減することができる反射型マスク200を得ることができる。
【0096】
本発明のマスクブランク用基板120は、基板1の表面に配置された下地膜3の、280nm超400nm以下の波長範囲における反射率が15%以下であることが好ましい。反射型マスク200が、基板1と裏面導電膜2との間に形成された所定の中間膜4を有することにより、露光光の反射、280nm超320nm以下の波長範囲より広い範囲、特に280nm超400nm以下の波長範囲における露光光の反射を低減することができる。そのため、280nm超400nm以下の波長範囲のアウトオブバンド光を低減することができる。
【0097】
本発明のマスクブランク用基板120の中間膜4は、タンタル、ホウ素及び酸素を含む材料(TaBO)からなることが好ましい。TaBOを材料とする中間膜4は、TaBをターゲットに用いて、Arガス及びO
2ガスの混合ガス雰囲気にて反応性スパッタリング法で形成することができる。中間膜4がTaBO膜である場合には、アウトオブバンド光を低減する効果を有する中間膜4を、比較的容易に形成することができる。なお、中間膜の効果をより確実にするために、TaBO膜中の酸素含有量は、50原子%以上であることが好ましい。
【0098】
本発明のマスクブランク用基板120の中間膜4の膜厚は、2〜40nmであることが好ましく、18〜35nmであることが好ましい。中間膜4の膜厚が2nmより薄い場合には、薄すぎて中間膜4としての機能を果たすことができない。また、中間膜4の膜厚が40nmより厚い場合には、中間膜4の形成に時間がかかりすぎるため不経済である。したがって、中間膜4の膜厚が上述の所定の範囲であることにより、アウトオブバンド光を低減する効果を有する中間膜4を、経済的に確実に形成することできる。
【0099】
<<裏面導電膜2>>
基板1の第2主面(裏面)側(多層反射膜5形成面の反対側であり、中間膜4が形成されている場合には中間膜4の上)には、静電チャック用の裏面導電膜2が形成される。静電チャック用として、裏面導電膜2に求められるシート抵抗は、通常100Ω/□以下である。裏面導電膜2の形成方法は、例えば、クロム又はタンタル等の金属、又はそれらの合金のターゲットを使用したマグネトロンスパッタリング法又はイオンビームスパッタリング法である。裏面導電膜2のクロム(Cr)を含む材料は、Crにホウ素、窒素、酸素、及び炭素から選択した少なくとも一つを含有したCr化合物であることが好ましい。Cr化合物としては、例えば、CrN、CrON、CrCN、CrCON、CrBN、CrBON、CrBCN及びCrBOCNなどを挙げることができる。裏面導電膜2のタンタル(Ta)を含む材料としては、Ta(タンタル)、Taを含有する合金、又はこれらのいずれかにホウ素、窒素、酸素、炭素の少なくとも一つを含有したTa化合物を用いることが好ましい。Ta化合物としては、例えば、TaB、TaN、TaO、TaON、TaCON、TaBN、TaBO、TaBON、TaBCON、TaHf、TaHfO、TaHfN、TaHfON、TaHfCON、TaSi、TaSiO、TaSiN、TaSiON、及びTaSiCONなどを挙げることができる。裏面導電膜2の膜厚は、静電チャック用としての機能を満足する限り特に限定されないが、通常10nmから200nmである。また、この裏面導電膜2はマスクブランク100の第2主面側の応力調整も兼ね備えている。すなわち、裏面導電膜2は、第1主面側に形成された各種膜からの応力とバランスをとって、平坦な反射型マスクブランク100が得られるように調整される。
【0100】
<<その他の薄膜>>
本発明の反射型マスクブランク100は、吸収体膜7上にエッチング用ハードマスク膜(「エッチングマスク膜」ともいう。)及び/又はレジスト膜を備えることができる。エッチング用ハードマスク膜の代表的な材料としては、ケイ素(Si)、並びにケイ素に酸素(O)、窒素(N)、炭素(C)、及び/又は水素(H)を加えた材料等がある。具体的には、SiO
2、SiON、SiN、SiO、Si、SiC、SiCO、SiCN、及びSiCON等が挙げられる。但し、吸収体膜7が酸素を含む化合物の場合、エッチング用ハードマスク膜として酸素を含む材料、例えばSiO
2はエッチング耐性の観点から避けたほうが良い。エッチング用ハードマスク膜を形成した場合には、レジスト膜の膜厚を薄くすることが可能となり、パターンの微細化に対して有利である。
【0101】
<反射型マスク200及びその製造方法>
【0102】
本発明は、上述の反射型マスクブランク100の吸収体膜7をパターニングして、多層反射膜5上に吸収体パターンを有する反射型マスク200である。本発明の反射型マスク200を用いることにより、半導体装置の製造工程において、EUV光を用いた露光光によってウエハ上に所定のパターンを転写する際に、パターン転写のアウトオブバンド光を低減することができる。
【0103】
本実施形態の反射型マスクブランク100を使用して、反射型マスク200を製造する。ここでは概要説明のみを行い、後に実施例において図面を参照しながら詳細に説明する。
【0104】
反射型マスクブランク100を準備して、その第1主面の最表面(以下の実施例で説明するように、吸収体膜7上)に、レジスト膜8を形成し(反射型マスクブランク100としてレジスト膜を備えている場合は不要)、このレジスト膜8に回路パターン等の所望のパターンを描画(露光)し、さらに現像、リンスすることによって所定のレジストパターン8aを形成する。
【0105】
このレジストパターン8aをマスクとして使用して、吸収体膜7をドライエッチングすることにより、吸収体パターン7aを形成する。なお、エッチングガスとしては、Cl
2、SiCl
4、及びCHCl
3等の塩素系のガス、塩素系ガスとO
2とを所定の割合で含む混合ガス、塩素系ガスとHeとを所定の割合で含む混合ガス、塩素系ガスとArとを所定の割合で含む混合ガス、CF
4、CHF
3、C
2F
6、C
3F
6、C
4F
6、C
4F
8、CH
2F
2、CH
3F、C
3F
8、SF
6、及びF
2等のフッ素系のガス、並びにフッ素系ガスとO
2とを所定の割合で含む混合ガス等から選択したものを用いることができる。ここで、エッチングの最終段階でエッチングガスに酸素が含まれていると、Ru系保護膜6に表面荒れが生じる。このため、Ru系保護膜6がエッチングに曝されるオーバーエッチング段階では、酸素が含まれていないエッチングガスを用いることが好ましい。
【0106】
その後、アッシングやレジスト剥離液によりレジストパターン8aを除去し、所望の回路パターンが形成された吸収体パターン7aを作製する。
【0107】
なお、ここではレジストパターン8aをエッチングマスクとした時の場合を示したが、エッチング用ハードマスクを用いて所望の回路パターンが形成された吸収体パターン7aを作製することもできる。この場合は、吸収体膜7の上にエッチング用ハードマスクを形成し、さらにその上にレジスト膜8を形成する。エッチング用ハードマスクとしては、吸収体膜7とエッチング選択性が取れる膜が選択される。このレジスト膜8に回路パターン等の所望のパターンを描画(露光)し、さらに現像、リンスすることによって所定のレジストパターン8aを形成する。このレジストパターン8aをマスクとしてエッチング用ハードマスク膜をドライエッチングしてハードマスクパターンを形成し、レジストパターン8aをアッシングやレジスト剥離液などで除去する。その後、このハードマスクパターンをマスクにして吸収体膜7をドライエッチングすることにより、所望の回路パターンが形成された吸収体パターン7aを作製する。その後、ハードマスクパターンをウェットエッチングあるいはドライエッチングによって除去する。
【0108】
また、ハードマスクパターン形成直後にはレジストパターン8aを除去せず、レジストパターン付きハードマスクパターンで吸収体膜7をエッチングする方法もある。この場合は、吸収体膜7をエッチングする際にレジストパターン8aが自動的に除去され、工程が簡略化されるという特徴がある。一方、レジストパターン8aが除去されたハードマスクパターンをマスクにして吸収体膜7をエッチングする方法では、エッチング途中に消失するレジストからの有機生成物(アウトガス)の変化ということがなく、安定したエッチングができるという特徴がある。
【0109】
次に、レジスト膜9を形成する。このレジスト膜9に遮光帯パターンを描画(露光)し、さらに現像、リンスすることによって遮光帯形成用のレジストパターン9bを形成する。
【0110】
本発明の反射型マスク200は、吸収体パターンが形成された転写パターン領域の外側に、吸収体膜7及び多層反射膜5が除去された遮光帯部11を有することができる。遮光帯部11は、EUV用反射型マスク200において、位相シフト膜型マスクはもとより吸収体膜型マスクでも、隣接して行われる露光からの露光光の反射の影響を十分低減するために設けられる。すなわち、遮光帯部11とは、マスクの転写パターン領域(回路パターン領域)を囲むように設けられた遮光枠(領域)であり、露光光が、ウエハ上のパターン転写されるブロックに隣接する領域、例えば隣に転写形成される転写パターン領域に漏れないようにするためのものである。転写パターン領域は、例えば、反射型マスクブランクの中心を基準に132mm×132mmの領域である。本発明の反射型マスク200は、遮光帯部11からの反射によるアウトオブバンド光を、十分に低減することができる。なお、アウトオブバンド光を低減するために、遮光帯部11には、下地膜3が存在することが必要である。そのため、遮光帯部11を形成する際には、基板1に下地膜3を残した状態で、多層反射膜5のエッチングを停止することが必要である。
【0111】
次に、遮光帯部11形成用のレジストパターン9aをマスクとして使用して、吸収体膜7を前記方法でドライエッチングした後、保護膜6及び多層反射膜5もドライエッチングする。ここで、保護膜6及び多層反射膜5のエッチングガスとしては、Cl
2、SiCl
4、及びCHCl
3等の塩素系のガスにO
2を含む混合ガスを用いる。保護膜6がRu系材料の場合、塩素系のガスにO
2を含む混合ガスによるドライエッチングで、保護膜6及び多層反射膜5を一括でエッチングすることが可能になる。そのため、この方法の製造効率が高いという特徴がある。
【0112】
なお、保護膜6及び多層反射膜5は一括でドライエッチングせずに、別々のエッチングガスを用いてドライエッチングすることも可能である。例えば、O
2とCl
2の混合ガス、あるいはO
2とBr系の混合ガスを用いて保護膜6をドライエッチングし、Cl
2ガスを用いて多層反射膜5をドライエッチングしてもよい。また、多層反射膜5のドライエッチングの途中でエッチングガスを変えることも可能である。例えば、多層反射膜5の上部は塩素系ガスでエッチングし、途中からO
2ガスを導入して多層反射膜5の下部は塩素系ガスとO
2ガスの混合ガスでドライエッチングしてもよい。
【0113】
その後、アッシングやレジスト剥離液によりレジストパターンを除去し、所望の遮光帯パターン(遮光帯部11)を作製する。その後、酸性やアルカリ性の水溶液を用いたウェット洗浄とマスクパターンEB欠陥検査を行い、マスク欠陥修正を適宜行う。
【0114】
以上の工程により、本発明の反射型マスク200を得ることができる。
【0115】
<半導体装置の製造方法>
本発明は、上述の反射型マスク200を用いて、露光装置を使用したリソグラフィープロセスを行い、被転写体上に転写パターンを形成する工程を有する、半導体装置の製造方法である。本発明の半導体装置の製造方法によれば、パターン転写の際のアウトオブバンド光を低減することができるので、微細でかつ高精度の転写パターンを有する半導体装置を製造することができる。
【0116】
具体的には、上記本実施形態の反射型マスク200を使用してEUV露光を行うことにより、半導体基板1上に所望の転写パターンを形成することができる。このリソグラフィ工程に加え、被加工膜のエッチングや絶縁膜、導電膜の形成、ドーパントの導入、あるいはアニールなど種々の工程を経ることで、所望の電子回路が形成された半導体装置を高い歩留まりで製造することができる。
【実施例】
【0117】
以下、各実施例について図面を参照しつつ説明する。
【0118】
(実施例1)
実施例1として、
図2に示すような下地膜3が形成されたマスクブランク用基板120の、下地膜3が形成された側とは反対側の主面に、裏面導電膜2を形成したマスクブランク用基板120を作製した。表1に、実施例1のマスクブランク用基板120の下地膜3及び裏面導電膜2の材料及び膜厚を示す。実施例1のマスクブランク用基板120を作製は、次のようにして行った。
【0119】
((基板1))
第1主面及び第2主面の両表面が研磨された6025サイズ(約152mm×152mm×6.35mm)の低熱膨張ガラス基板であるSiO
2−TiO
2系ガラス基板を準備し、基板1とした。平坦で平滑な主表面となるように、粗研磨加工工程、精密研磨加工工程、局所加工工程、及びタッチ研磨加工工程よりなる研磨を行った。
【0120】
このようにして製造した基板1の単体(基板単体)の反射率を測定した。
図8に、基板単体の、波長180〜400nmの範囲での反射率の波長依存性を示す。波長範囲190〜280nmの反射率の最大値、及び波長範囲280超〜320nmの反射率の最大値は、表1に示すとおりだった。
【0121】
((裏面導電膜2))
SiO
2−TiO
2系ガラス基板1の第2主面(裏面)にCrNからなる裏面導電膜2を、マグネトロンスパッタリング(反応性スパッタリング)法により、下記の条件にて形成した。裏面導電膜2の形成条件:Crターゲット、ArとN
2の混合ガス雰囲気(Ar:90原子%、N:10原子%)、膜厚20nm。
【0122】
(((下地膜3)))
次に、表1に示すように、Arガス雰囲気中でSiO
2ターゲットを使用したイオンビームスパッタリングを行って、裏面導電膜2が形成された側と反対側の基板1の主表面(第1主面)上に、膜厚20nmのSiO
2膜からなる下地膜3を形成した。ここで、Si及びOのスパッタ粒子は、基板1の主表面の法線に対して30度の角度で入射させた。同様の方法で下地膜3まで作製した試料を用いて波長範囲190〜320nmの屈折率及び消衰係数を測定したところ、表1に示す範囲だった。
【0123】
実施例1のマスクブランク用基板120の反射率を測定した。
図8に、実施例1の、波長180〜400nmの範囲での反射率の波長依存性を示す。波長範囲190〜280nmの反射率の最大値、及び波長範囲280超〜320nmの反射率の最大値は、表1に示すとおりだった。
【0124】
(実施例2)
実施例2として、下地膜3の膜厚を12nmとした以外は実施例1と同様に、基板1の第1主面に下地膜3、及び基板1の第2主面に裏面導電膜2が形成されたマスクブランク用基板120を製造した。表1に、実施例2のマスクブランク用基板120の下地膜3及び裏面導電膜2の材料及び膜厚を示す。
【0125】
実施例2のマスクブランク用基板120の反射率を測定した。波長範囲190〜280nmの反射率の最大値、及び波長範囲280超〜320nmの反射率の最大値は、表1に示すとおりだった。
【0126】
(実施例3)
実施例3として、基板1と裏面導電膜2との間に所定の中間膜4を形成し、裏面導電膜2を膜厚70nmのTaBN膜とした以外は実施例1と同様に、基板1の第1主面に下地膜3、並びに基板1の第2主面に中間膜4及び裏面導電膜2が形成されたマスクブランク用基板120を製造した。表1に、実施例3のマスクブランク用基板120の下地膜3、中間膜4及び裏面導電膜2の材料及び膜厚を示す。
【0127】
((中間膜4))
実施例3の中間膜4は、次のようにして形成した。すなわち、SiO
2−TiO
2系ガラス基板1の第2主面(裏面)に、TaBOからなる中間膜4をマグネトロンスパッタリング(反応性スパッタリング)法により下記の条件にて形成した。中間膜4形成条件:TaBターゲット(原子比は80:20)、ArとO
2の混合ガス雰囲気(Ar:67流量%、O
2:33流量%)、膜厚22nm。
【0128】
((裏面導電膜2))
実施例3の裏面導電膜2は、次のようにして形成した。すなわち、中間膜4が形成されたSiO
2−TiO
2系ガラス基板1の第2主面(裏面)に、TaBNからなる裏面導電膜2をマグネトロンスパッタリング(反応性スパッタリング)法により下記の条件にて形成した。裏面導電膜2の形成条件:TaBターゲット(原子比は80:20)、XeとN
2の混合ガス雰囲気(Xe:66流量%、N
2:34流量%)、膜厚70nm。
【0129】
実施例3のマスクブランク用基板120の反射率を測定した。
図8に、実施例3の、波長180〜400nmの範囲での反射率の波長依存性を示す。波長範囲190〜280nmの反射率の最大値、及び波長範囲280超〜320nmの反射率の最大値は、表1に示すとおりだった。
【0130】
(比較例1)
比較例1として、下地膜3を形成しなかった以外は実施例1と同様に、基板1の第2主面に裏面導電膜2が形成されたマスクブランク用基板120を製造した。表1に、比較例1のマスクブランク用基板120の裏面導電膜2の材料及び膜厚を示す。
【0131】
比較例1のマスクブランク用基板120の反射率を測定した。
図8に、比較例1の、波長180〜400nmの範囲での反射率の波長依存性を示す。波長範囲190〜280nmの反射率の最大値、及び波長範囲280超〜320nmの反射率の最大値は、表1に示すとおりだった。
【0132】
(参考例1)
参考例1として、下地膜3を形成しなかった以外は実施例3と同様に、基板1の第2主面に中間膜4及び裏面導電膜2が形成されたマスクブランク用基板120を製造した。表1に、参考例1のマスクブランク用基板120の中間膜4及び裏面導電膜2の材料及び膜厚を示す。
【0133】
参考例1のマスクブランク用基板120の反射率を測定した。
図8に、参考例1の、波長180〜400nmの範囲での反射率の波長依存性を示す。波長範囲190〜280nmの反射率の最大値、及び波長範囲280超〜320nmの反射率の最大値は、表1に示すとおりだった。
【0134】
(反射率の測定結果)
表1及び
図8から明らかなように、基板単体、比較例1及び参考例1の反射率は、約280nm以下の波長範囲では、同様な値だった。また、表1及び
図8から明らかなように、実施例1及び実施例3の反射率は、約280nm以下の波長範囲では、同様な値だった。
【0135】
表1及び
図8から明らかなように、基板単体及び比較例1と、実施例1とを比較すると、基板単体及び比較例1の波長範囲190〜280nmでの反射率の最大値は5.7%であったのに対し、実施例1の波長範囲190〜280nmでの反射率の最大値は4.2%と低かった。このことは、下地膜3の存在により、波長範囲190〜280nmのアウトオブバンド光を低下することができることを示している。また、基板単体と、比較例1との比較から、裏面導電膜2の存在により、波長範囲280超〜320nmの反射率が高くなることが見て取れる。
【0136】
表1及び
図8から明らかなように、参考例1と、実施例3とを比較すると、参考例1の波長範囲190〜280nmでの反射率の最大値は5.7%であったのに対し、実施例3の波長範囲190〜280nmでの反射率の最大値は4.2%と低かった。このことは、下地膜3の存在により、波長範囲190〜280nmのアウトオブバンド光を低下することができることを示している。
【0137】
表1から明らかなように、比較例1と、実施例2とを比較すると、比較例1の波長範囲190〜280nmでの反射率の最大値は5.7%であったのに対し、実施例2の波長範囲190〜280nmでの反射率の最大値は4.8%と低かった。このことは、12nmという比較的薄い下地膜3の存在によっても、波長範囲190〜280nmのアウトオブバンド光を低下することができることを示している。
【0138】
表1及び
図8から明らかなように、中間膜4が存在する参考例1及び実施例3と、裏面導電膜2を有するが中間膜4が存在しない比較例1及び実施例1を比較すると、参考例1及び実施例3の場合には、波長範囲280nm超での反射率が大きく低下していることが見て取れる。このことは、中間膜4が存在することによって、裏面導電膜2により反射される280nm超320nm以下の波長範囲、さらには280nm超400nm以下の波長範囲のアウトオブバンド光を低下することができることを示している。
【0139】
表1及び
図8から明らかなように、下地膜3及び中間膜4の両方が存在する実施例3の場合には、波長範囲190〜280nm及び波長範囲280nm超の両方での反射率が大きく低下していることが見て取れる。このことは、下地膜3及び中間膜4の両方が存在することによって、190〜320nm以下の波長範囲、さらには190〜400nm以下の波長範囲のアウトオブバンド光を低下することができることを示している。
【0140】
(反射型マスクブランク100)
上述の実施例1〜3のマスクブランク用基板120を用いて、反射型マスクブランク100を製造することができる。以下、反射型マスクブランク100の製造方法について、説明する。
【0141】
(((多層反射膜5)))
上述のマスクブランク用基板120の第1主面の下地膜3上に、多層反射膜5を形成した。すなわち、多層反射膜5を下地膜3工程から減圧真空下で連続的に形成した。この多層反射膜5は、波長13.5nmのEUV光に適した多層反射膜5とするために、SiとMoからなる周期多層反射膜5とした。多層反射膜5は、SiターゲットとMoターゲットを使用し、Arガス雰囲気中でイオンビームスパッタリングにより下地膜3上にSi層及びMo層を交互に積層して形成した。ここで、Si及びMoのスパッタ粒子は、基板1の主表面の法線に対して30度の角度で入射させた。まず、Si膜を4.2nmの膜厚で成膜し、続いて、Mo膜を2.8nmの膜厚で成膜した。これを1周期とし、同様にして40周期積層し、最後にSi膜を4.0nmの膜厚で成膜し、多層反射膜5を形成した。したがって、多層反射膜5の最下層、すなわち下地膜3と接する多層反射膜5の材料はSiであり、また多層反射膜5の最上層、すなわち保護膜6と接する多層反射膜5の材料もSiである。なお、ここでは40周期としたが、それに限るものではなく、例えば60周期でも良い。60周期とした場合、40周期より工程数は増えるが、EUV光に対する反射率を高めることができる。
【0142】
((保護膜6))
引き続き、Arガス雰囲気中で、Ruターゲットを使用したイオンビームスパッタリングによりRuからなる保護膜6を2.5nmの膜厚で成膜した。ここで、Ruのスパッタ粒子は、基板1の主表面の法線に対して30度の角度で入射させた。その後、大気中で130℃のアニールを行った。
【0143】
((吸収体膜7))
次に、DCスパッタリング法により、下層吸収体膜71として膜厚56nmのTaBN膜を、上層吸収体膜72として膜厚14nmのTaBO膜を積層して、この2層膜よりなる吸収体膜7を形成した。TaBN膜は、TaBをターゲットに用いて、ArガスとN
2ガスの混合ガス雰囲気にて反応性スパッタリング法で形成した。TaBO膜は、TaBをターゲットに用いて、ArガスとO
2ガスの混合ガス雰囲気にて反応性スパッタリング法により形成した。TaBO膜は経時変化の少ない膜であるとともに、この膜厚のTaBO膜は光を用いたマスクパターン検査の時に反射防止膜として働き、検査感度を向上させる。EBでマスクパターン検査を行う場合でも、スループットの関係で、光によるマスクパターン検査を併用する方法が多用されている。すなわち、メモリセル部のような微細パターンが用いられている領域に対しては検査感度の高いEBでマスクパターン検査を行い、間接周辺回路部のような比較的大きなパターンで構成されている領域に対してはスループットの高い光でマスクパターン検査を行う。
【0144】
以上のようにして、実施例1〜3のマスクブランク用基板120を用いて、反射型マスクブランク100を製造した。
【0145】
(反射型マスク200)
次に、上記の反射型マスクブランク100を用いて、反射型マスク200を製造した。実施例3のマスクブランク用基板120を用いた反射型マスクブランク100から反射型マスク200を製造する場合を例に、
図6を参照して反射型マスク200の製造方法を説明する。実施例1及び2のマスクブランク用基板120を用いた反射型マスクブランク100を用いる場合も、同様にして反射型マスク200を製造することができる。
【0146】
まず、
図6(b)に示されるように、反射型マスクブランク100の上層吸収体膜72の上に、レジスト膜8を形成した。そして、このレジスト膜8に回路パターン等の所望のパターンを描画(露光)し、さらに現像、リンスすることによって所定のレジストパターン8aを形成した(
図6(c))。次に、レジストパターン8aをマスクにしてTaBO膜(上層吸収体膜72)を、CF
4ガスを用いてドライエッチングし、引き続き、TaBN膜(下層吸収体膜71)を、Cl
2ガスを用いてドライエッチングすることで、第1の吸収体パターン7aを形成した(
図6(d))。Ruからなる保護膜6はCl
2ガスに対するドライエッチング耐性が極めて高く、十分なエッチングストッパとなる。その後、レジストパターン8aをアッシング及び/又はレジスト剥離液などで除去した(
図6(e))。
【0147】
その後、第1の吸収体パターン7aが形成された反射型マスクブランク100の上に、レジスト膜9を形成した(
図6(f))。そして、このレジスト膜9に遮光帯パターンを描画(露光)し、さらに現像、リンスすることによって所定の遮光帯レジストパターン9aを形成した(
図6(g))。次に、レジストパターン9aをマスクにして、CF
4ガスを用いてTaBO膜を、Cl
2ガスを用いてTaBN膜を、Cl
2とO
2の混合ガスを用いて保護膜6及び多層反射膜5をドライエッチングすることで、遮光帯部11が形成された第2のパターンを形成した(
図6(h))。この第2のパターンは、
図6(h)に示されているように、上層吸収体パターン72b及び下層吸収体パターン71bの2層パターンからなる吸収体パターン7b、保護膜パターン6b、及び多層反射膜パターン5bからなる。下地膜3は上述のようにケイ素化合物の薄膜である。この材料はCl
2とO
2の混合ガスに対して極めて高いエッチングストッパ機能を有しており、膜厚の減少もごく僅かである。その後、レジストパターン8bをアッシング及び/又はレジスト剥離液などで除去し、硫酸過水(SPM)洗浄とアルカリ性の水溶液を用いたウェット洗浄を行って、反射型マスク200を製造した(
図6(i))。その後マスクパターンEB欠陥検査を行い、適宜必要に応じてマスク欠陥修正を行った。
【0148】
上記方法によって製造された反射型マスク200の上面図を
図7に示す。
【0149】
(半導体装置の製造)
実施例1〜3のマスクブランク用基板120を用いて製造した反射型マスク200をEUVスキャナにセットし、半導体基板上に被加工膜とレジスト膜が形成されたウエハに対してEUV露光を行った。そして、この露光済レジスト膜を現像することによって、被加工膜が形成された半導体基板上にレジストパターンを形成した。
【0150】
実施例1〜3のマスクブランク用基板120を用いて製造した反射型マスク200は、パターン転写の際のアウトオブバンド光を低減することができるので、微細でかつ高精度の転写パターンを形成することができた。また、遮光帯部11における波長130nmから280nmの光に対する反射率は5%以下であり、遮光帯部11からのアウトオブバンド反射光も十分少なく、転写精度も高かった。
【0151】
このレジストパターンをエッチングにより被加工膜に転写し、また、絶縁膜、導電膜の形成、ドーパントの導入、あるいはアニールなど種々の工程を経ることで、所望の特性を有する半導体装置を高い歩留まりで製造することができた。
【0152】
【表1】