特許第6789993号(P6789993)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6789993
(24)【登録日】2020年11月6日
(45)【発行日】2020年11月25日
(54)【発明の名称】ヘルニア修復用プロテーゼ
(51)【国際特許分類】
   A61F 2/08 20060101AFI20201116BHJP
【FI】
   A61F2/08
【請求項の数】14
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2017-564338(P2017-564338)
(86)(22)【出願日】2016年5月10日
(65)【公表番号】特表2018-522625(P2018-522625A)
(43)【公表日】2018年8月16日
(86)【国際出願番号】FR2016051093
(87)【国際公開番号】WO2017013320
(87)【国際公開日】20170126
【審査請求日】2019年2月26日
(31)【優先権主張番号】1556867
(32)【優先日】2015年7月20日
(33)【優先権主張国】FR
(73)【特許権者】
【識別番号】517427174
【氏名又は名称】ティーエイチティー バイオ−サイエンス
(74)【代理人】
【識別番号】100091683
【弁理士】
【氏名又は名称】▲吉▼川 俊雄
(74)【代理人】
【識別番号】100179316
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 寛奈
(72)【発明者】
【氏名】ペリッシャー,エドゥアルド
(72)【発明者】
【氏名】ラージェントン,クラウド
(72)【発明者】
【氏名】エヌジーオー,フィリップ
【審査官】 安田 昌司
(56)【参考文献】
【文献】 特表2012−517319(JP,A)
【文献】 特表2011−505220(JP,A)
【文献】 国際公開第2015/011417(WO,A1)
【文献】 特表2015−506780(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2008/0269896(US,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2016/0310252(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61F 2/02− 2/08
A61B 17/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内視鏡式または開腹式腹膜前移植を目的とする鼠径ヘルニア修復用プロテーゼ(1a、1b、1c)において、鼠径部の生体組織に対面して設置されるための壁側面と呼ばれる第1の面及び、腹膜及び膀胱の前方面に対面して設置されるための前記第1の面とは反対側の腹膜面と呼ばれる第2の面を含む、生体適合性材料製の透かし細工の布帛を含むプロテーゼであって、
腹膜面はその表面の一部分の上に、粘着防止コーティングの備わった第1のゾーン(6、10、20)を含み、壁側面はその表面の一部分の上に、粘着防止コーティングの備わった第2のゾーン(7、11、21)を含み、前記第1のゾーン(6、10、20)は膀胱−前立腺器官に対面して設置され、前記第2のゾーン(7、11、21)は神経節掻把ゾーンに対面して設置されること、を特徴とするプロテーゼ。
【請求項2】
第1のゾーン(6、10、20)が、腹膜面の全表面のおよそ30%〜70%の表面上に延在していること、を特徴とする請求項1に記載のプロテーゼ。
【請求項3】
プロテーゼ(1a、1b)が矩形形状を有し、第1のゾーン(6、10)がプロテーゼの側方縁部(4)からプロテーゼ(1a、1b)の幅全体にわたって延在していること、を特徴とする請求項1または2に記載のプロテーゼ。
【請求項4】
プロテーゼが矩形形状を有し、第2のゾーン(7、11)がプロテーゼ(1a、1b)の幅の3分の1ないし2分の1の幅にわたり延在していること、を特徴とする請求項1ないし3のいずれか1項に記載のプロテーゼ。
【請求項5】
第1のゾーン(6、10、20)及び/または第2のゾーン(7、11、21)が、連続的薄膜を画定する粘着防止コーティングを含むこと、を特徴とする請求項1ないし4のいずれか1項に記載のプロテーゼ。
【請求項6】
第1のゾーン(6、10、20)及び/または第2のゾーン(7、11、21)の粘着防止コーティングが不連続であり、帯または点を含むこと、を特徴とする請求項1ないし4のいずれか1項に記載のプロテーゼ。
【請求項7】
透かし細工の布帛が、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデンで製作されていること、を特徴とする請求項1ないし6のいずれか1項に記載のプロテーゼ。
【請求項8】
第1のゾーン(6、10、20)及び/または第2ゾーン(7、11、21)が非吸収性の薄膜を含むこと、を特徴とする請求項1ないし7のいずれか1項に記載のプロテーゼ。
【請求項9】
第1のゾーン(6、10、20)及び/または第2のゾーン(7、11、21)が吸収性ゲルを含むこと、を特徴とする請求項1ないし7のいずれか1項に記載のプロテーゼ。
【請求項10】
布帛が、前方筋肉壁及び櫛状靭帯に対面して設置されるための上部部分と呼ばれる第1の部分、及び、側方では、恥骨及び腸骨管及び精液管ならびに腰筋の一部分に対面して設置されるための下部部分と呼ばれる第2の部分を含んでおり、上部部分がプロテーゼの表面の約2分の1ないし3分の2に相当しており、布帛が上部部分と下部部分の間の境界を画成する1本のラインを含んでいること、を特徴とする請求項1ないし9のいずれか1項に記載のプロテーゼ。
【請求項11】
プロテーゼの上部部分と下部部分の間の境界を画成するラインがシームを含むこと、を特徴とする請求項10に記載のプロテーゼ。
【請求項12】
プロテーゼの配向の標示手段を備えていること、を特徴とする請求項1ないし11のいずれか1項に記載のプロテーゼ。
【請求項13】
前記プロテーゼの配向の標示手段が、プロテーゼの残りの部分とは異なる色を有するゾーンを含むこと、を特徴とする請求項12に記載のプロテーゼ。
【請求項14】
布帛は編地の形をしており、異なる色のゾーンは、布帛の残りの部分の編成のために使用される1本または複数の糸とは異なる色の糸の編成によってか、または捺染によって得られること、を特徴とする請求項13に記載のプロテーゼ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヘルニア修復用プロテーゼ、詳細には鼠径ヘルニアの修復に適応されたプロテーゼに関する。
【背景技術】
【0002】
ヘルニアは、1つ以上の内臓の一部分または全体を格納する腹膜嚢または大網の、それらを格納する内腔の限界外への、解剖学的に予測可能で時として先天性または後天性の疾病素質によって助長される一時的または永続的な自然脱出として定義される。
【0003】
ヘルニアは、疼痛、歩行困難、移動障害をひき起こす可能性があり、体形を損なう。
【0004】
ヘルニアの最も重症の合併症は、絞扼性ヘルニアであり、その治療は、外科的緊急事態である。最も頻度が高く最も重篤である小腸の絞扼は、急性閉塞の原因となり、治療を施さずに進行すると、ヘルニア嚢内の腸の壊死に向かい、生死にかかわる予後が関与する。
【0005】
特許文献1は、腹壁ヘルニアの治療を目的とする、腸と接触した時に腹腔内で腹膜に粘着する面と粘着しない面とを含む腹腔内プロテーゼについて記述しており、このプロテーゼの周縁部における粘着を回避することを目的としている。
【0006】
特許文献2は、腹壁瘻孔(回腸瘻孔、結腸瘻孔)の近傍でのヘルニアの予防または治療のために特に設計されたインプラントについて記述する。
【0007】
鼠蹊部ヘルニアは、頻度の高い疾患であり、鼠蹊部ヘルニアの外科的療法は、腹部外科において最も頻繁に実践されている手術である:すなわち
− フランスの症例数は年間160,000件(非特許文献1)、包括的罹患率は、人口100,000あたり年間手術件数272件、
− 米国における症例数は800,000件(非特許文献2)、
− 英国における症例数は80,000件(非特許文献3)である。
【0008】
鼠蹊部ヘルニアの外科的治療は、特に男性に関係し、10件中8件の手術が男性関連である。
【0009】
ヘルニアが体外転位を起こす孔に応じて、鼠径部ヘルニアと大腿部ヘルニアが区別される。大腿部ヘルニアまたは大腿ヘルニアは、鼠蹊部ヘルニアの約3%にしか相当しない。
【0010】
ヘルニアのさまざまな分類が提案されてきており(非特許文献4)、鼠径部ヘルニアは、離開患部に応じて、直接ヘルニア、間接ヘルニア及び混合ヘルニアという3つの主要タイプに分けられる。鼠径部ヘルニアは、内臓を格納するかまたはしていないヘルニア嚢である腹膜憩室の、鼠径管の後方壁を構成する横筋筋膜を横断した通過として定義される。この嚢の前には、精索の外に位置することが最も多い多少の差こそあれ容積の大きいヘルニア前脂肪腫がある。
【0011】
小児においては、ヘルニア孔の閉鎖は、つねに組織の縫合により行なわれる。
【0012】
成人においては、縫合によるraphie方法(1887年に開発されたBassini技術、50年代初頭に開発されたShouldice技術)が、1990年代まで優位であったが、再発率はおよそ8%と高く、漸進的にプロテーゼの設置を含む方法により取って代わられた(非特許文献5)。
【0013】
今日、腹部ヘルニアの治療(非特許文献6)、より詳細には鼠蹊部ヘルニア(非特許文献7)用として極めて多様なインプラントが存在する。プロテーゼは、従来、最も多くの場合ポリプロピレンまたはポリエチレンの糸でできた合成メッシュ部品である。これらのネットは、修復における耐久性の保証である組織内へのこれらの取込みを担うものである生体の繊維−強膜反応を誘発する。その代償として、粘着が臓器との間で発生した場合、これらの粘着は副作用を誘発する可能性がある。
【0014】
鼠蹊部ヘルニアのプロテーゼによる修復は、再発率を減少させ、今やこの再発率はおよそ1〜2%であり、こうして、現在外科医の主要な関心事はもはや再発ではなく、慢性的疼痛及び生活の質に対するその影響にある(非特許文献8)。慢性的疼痛の発症率は、平均10〜12%と推定されており、疼痛は、0.5〜6%の症例において職業的活動を含めた活動に影響を及ぼす。
【0015】
プロテーゼの設置については、リヒテンシュタインタイプの技術及び腹膜前技術という2つの大きなタイプの手術技法が存在する。
【0016】
リヒテンシュタインタイプの技術においては、ヘルニアは、鼠蹊部レベルでの直接的切開(開腹術)により着手され、プロテーゼは筋肉平面の表面に固定される。これらの技術は、再発率が低い(およそ1〜2%)が、術後疼痛、特に慢性疼痛ならびに皮膚感覚の傷害にさらされる。これらの合併症は、鼠径部における感覚神経病巣のリスクに関係する。このリスクは、広範囲の解離、プロテーゼを固定するために必要である縫合内への神経の取込みのリスク、及びプロテーゼによって誘発される繊維−強膜硬化組織内への神経の包含のリスクに関係する。
【0017】
腹膜前技術においては、筋肉壁と腹膜の間に含まれる空間(腹膜前空間)内の筋肉平面の深い面へのプロテーゼの裾付けは、以下の方法によって行なうことができる:
− 以下のルートによる内視鏡方法(腹膜鏡検査、腹腔鏡検査):
○ 「Total Extraperitoneal hernioplasty」TEPと呼ばれる腹膜外ルート、
○ または、「Transabdominal Preperitoneal hernio−plasty」TAPPと呼ばれる腹膜内ルート(非特許文献9)、
− または、クーゲル直接切除、TIPP(Trans−inguinal Preperitoneal Patch)、TREPP(Trans Ractus Sheath Extra−Peritoneal Procedure)、及びONSTEP(非特許文献10)。
【0018】
内視鏡または開腹による腹膜前技術は特に、リヒテンシュタインタイプの技術に比べて、就業停止期間を削減し、この期間の終了時点で大部分の患者が仕事を再開できる、という利点を有する。参考として、フランスの実践経験によると、軽い肉体労働については、目安となる基準期間は、医療保険によれば、腹腔鏡による治療については10日間、開腹手術による治療については21日間である。
【0019】
腹膜鏡検査または開腹による腹膜前技術は、同様に、入院期間を短縮するという利点を有する。
【0020】
これらの技術は、リヒテンシュタイン技術と同程度に効果的で、再発率は匹敵するものの、疼痛及び感覚障害は比較的少ない(非特許文献11)。これは、鼠径管の広範な解離が無いこと、鼠径管神経とプロテーゼの接触が無いこと、そしてプロテーゼが腹圧により壁に接して適用されているためわずかしかまたは全く固定を必要としないという事実に起因している。複数の研究が、まずは直接的な方法に比べて、腹膜前プロテーゼによる修復が、以下の事実をもたらすことを示している:
− 術後の疼痛が比較的少なく、より迅速に活動を再開できる;
− 慢性疼痛が少なく、感覚障害が少ない;
− より高い生活の質。
【0021】
腹膜前プロテーゼは、膀胱及び腹膜に対するプロテーゼの粘着をひき起こし、これは、後日の根治的前立腺切除術の際に解離の問題を誘発する。これらのリスクについては、15年以上前から文献中で言及されているが、満足のいく解決法は全く提案されていない(非特許文献12〜33)。
【0022】
泌尿器系の外科医は、膀胱の前方面及び前立腺領域に対するプロテーゼの粘着を理由として、前立腺に手をつける際に解離の問題に遭遇する。その上、根治的前立腺切除術は通常、回腸脈管及び閉鎖性脈管−神経肉茎の間に含まれるゾーン内で前立腺をドレンするリンパ腺神経節のアブレーションによって補完される(神経節掻爬)。ところが、このゾーンは、同様にプロテーゼにより被覆されており、脈管に対する粘着は、脈管損傷のリスクをひき起こし、その帰結は劇的であり得る。この理由から、神経節掻爬は、症例の2分の1においてしか実施されず、これは、癌の予後にとって有害な影響をもたらす可能性がある。
【0023】
男性における膀胱癌の場合、前立腺は膀胱と同時に除去される可能性がある。鼠径部ヘルニアの治療用プロテーゼが、根治的な膀胱−前立腺切除術の場合に、解離の問題をひき起こし、リンパ節切除の拡大を妨げるかまたは縮小させ得るということが確認された(非特許文献34)。
【0024】
膀胱、前立腺及び神経節掻把ゾーンに対するプロテーゼの粘着を削減することは、先に腹膜前プロテーゼによるヘルニア療法の恩恵を受けた対象における根治的前立腺切除術及び神経節掻把を容易にする、長い間待ちわびてきた進歩となると考えられる。この進歩は、フランスにおいて健康監視研究所(Institut de veille sanitaire)によると前立腺癌が男性で最も頻度の高い癌であり、年間57,000件の新規症例があり(非特許文献35)、世界的に見ても前立腺癌が男性における最も頻度の高い癌の1つであるだけになおさら、望ましいものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0025】
【特許文献1】国際公開第2015/011417号
【特許文献2】仏国特許第2924330号明細書
【非特許文献】
【0026】
【非特許文献1】Oberlinら、「Le traitement des hernies de l’aine en 1998:un exemple de la disparite des pratiques」、Drees、Etudes et Resultats、2000年、 第92巻
【非特許文献2】Aquinaら、「The pitfalls of inguinal herniorrhaphy」、surgeon volume matters、Surgery、2015年
【非特許文献3】Bhattacharjeeら、「Surgical options in inguinal hernia:which is the best」、Indian Journal of Surgery、2006年、第68巻、p.191−197
【非特許文献4】Miserezら、「The European hernia society groin hernia classification」、Hernia、2007年
【非特許文献5】Pelissier、「Etat actuel du traitement de la hernie inguinale」、e−memoire de l’academie de chirurgie、2009年、 第8巻、第2号、p.31−33
【非特許文献6】Zogbi著、「The use of biomaterials to treat abdominal hernias、 in Biomaterials applications for nanomedecine」、2011年、ISBN 978−953−307−661−4
【非特許文献7】Bilselら、「The search for ideal hernia repair、mesh materials and types」、International Journal of Surgery、2012年、 第10巻、p.317−321
【非特許文献8】Shouldice、「International Journal of Clinical Medicine」、2014年、第5巻、p.737−740
【非特許文献9】「Guidelines for TAPP and TEP treatment of inguinal hernia」、IEHS、Surgical Endoscopy、2011年、第25巻、p.2773−2843
【非特許文献10】Andersonら、「The Initial Experience of Introducing the Onstep Technique for Inguinal Hernia Repair in a General Surgical Department」、2014年、Scandinavian Journal of Surgery
【非特許文献11】Boboら、「Meta−analysis of randomized controlled trials comparing Lichtenstein and totally extraperitoneal laparoscopic hernioplasty in treatment of inguinal hernias」、Journal of surgical research、2014年、第192巻、p.409−420
【非特許文献12】Picozziら、World Journal of Urology、2015年、第33巻、p.69−67
【非特許文献13】Spernatら、Prostate International、2014年、第2巻、第1号、p.8−11
【非特許文献14】Haiflerら、Journal of Endourology、2012年、第26巻、第11号、p.1458−1462
【非特許文献15】Peetersら、British Journal of Surgery、2012年、p.431−435
【非特許文献16】Neffら、Urologie Oncology、第29巻、2011年、p.66−69
【非特許文献17】Doら、Urology、2011年、第77巻、第4号、p.963−967
【非特許文献18】Saint Elieら、Urology、2010年、第76巻、第5号、p.1078−1082
【非特許文献19】Hocaogluら、BJU International、2010年、第106巻、p.1628−1631
【非特許文献20】Siddiquiら、Urology、2010年、第75巻、第5号、p.1079−1082
【非特許文献21】Lallasら、JSLS、2009年、第13巻、p.142−147
【非特許文献22】Tsivianら、Hernia、2009年、第13巻、p.523−527
【非特許文献23】Thomasら、Journal of the American College of Surgeons、2009年、p.371−376
【非特許文献24】Vijanら、Hernia、2008年、第12巻、p.415−419
【非特許文献25】Stolzenburgら、World Journal of Urology、2005年、第23巻、p.295−299
【非特許文献26】Stolzenburgら、Adult Urology、2005年、p.325−331
【非特許文献27】Josephら、JSLS、2005年、第9巻、p.368−369
【非特許文献28】Amid、Hernia、2004年、第8巻、p.169−170
【非特許文献29】Brownら、Urology、2004年、第63巻、第2号、p.380vii−ix
【非特許文献30】Cooperbergら、Surgery、2004年、p.452−453
【非特許文献31】Cookら、BJU International、2003年、第91巻、p.729
【非特許文献32】Borchersら、Urologia Internationalis、2001年、第67巻、p.213−215
【非特許文献33】Stoppaら、Hernia、1998年、第2巻、p.35−38
【非特許文献34】Jones、Urology、2007年、第70巻、第6号、p.1079−1081
【非特許文献35】Binder著、「Estimation nationale de l’incidence et de la mortalite par cancer en France entre 1980 et 2012. Etude a partir des registres des cancers du reseau Francim − Partie 1 : tumeurs solides」、2012年、ISBN 978−2−11−138316−6
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0027】
本発明の第1の目的は、後日の手術、詳細には根治的前立腺切除術または根治的膀胱前立腺切除術を容易にする、鼠径部ヘルニアの治療用のプロテーゼを提案することにある。
【0028】
本発明の第2の目的は、前立腺または膀胱癌の治療に際して、後日のリンパ節切除を容易にする鼠径部ヘルニアの治療用のプロテーゼを提案することにある。
【0029】
本発明の第3の目的は、プロテーゼと内蔵の間の粘着のリスクを削減する、鼠径部ヘルニアの治療用の腹膜前プロテーゼを提案することにある。
【課題を解決するための手段】
【0030】
この目的で、第1の態様によると、内視鏡式または開腹式で腹膜前移植を目的とする鼠径ヘルニア修復用プロテーゼにおいて、鼠径部の生体組織に対面して設置されるための壁側面と呼ばれる第1の面及び、腹膜及び膀胱の前方面に対面して設置されるための前記第1の面とは反対側の腹膜面と呼ばれる第2の面を含む、生体適合性材料製の透かし細工の布帛を含むプロテーゼであって、腹膜面はその表面の一部分の上に、粘着防止コーティングの備わった第1のゾーンを含み、壁側面はその表面の一部分の上に、粘着防止コーティングの備わった第2のゾーンを含むプロテーゼが提案されている。
【0031】
この措置により、鼠径ヘルニアの修復に際して、粘着防止コーティングが備わった第1のゾーン(いわゆる第1の粘着防止ゾーン)を、膀胱−前立腺器官に対面して設置することができ、粘着防止コーティングが備わった第2のゾーン(いわゆる第2の粘着防止ゾーン)を、神経節掻把ゾーンに対面して設置することができる。第2の粘着防止ゾーンの外の壁側面の広がりは、プロテーゼの粘着能力を保存する。
【0032】
「粘着防止コーティング」なる用語は、ここでは、プロテーゼの布帛の表面上の粘着防止材料の存在、及び/または粗度の低い表面状態を意味する。
【0033】
第1の粘着防止ゾーン内に存在する粘着防止コーティングは、第2の粘着防止ゾーン内に存在する粘着防止コーティングと同一であっても異なるものであってもよい。こうして、例えば、シリコーンまたはヒドロゲル系のコーティングが第1の粘着防止ゾーンを形成し、第2の粘着防止ゾーンは、この第2のゾーン内の非常に低い表面粗度の存在によって画定される。
【0034】
さまざまな実施によると、粘着防止コーティングは、連続的薄膜の形または帯または点の体裁をとる。「点」とは、ここでは削減された寸法の広がりを指し、これらの点は規則的パターンを形成することができ、あるいは無作為に配置されてもよい。
【0035】
第1及び第2の粘着防止ゾーンは、プロテーゼの相対する2つの面上に配置されている。有利には、第1及び第2の粘着防止ゾーンは、プロテーゼを平面で見た場合、互いにほぼ垂直には配置されていない。この措置によって、トロカール内へのプロテーゼの導入の邪魔になり得るプロテーゼ内の大きな余剰厚みが、粘着防止コーティングの存在によってひき起こされることはなくなる。
【0036】
本出願によると、「布帛」とは、例えば編成、製織、編組によって得られるかさらには不織である糸、繊維、フィラメント及び/またはマルチフィラメントのあらゆる配列または集合を意味し、「透かし細工の布帛」とは、それを構成する糸の配列が布帛の厚み内で透かし目、空洞、細孔または空隙を決定しているあらゆる布帛を意味し、ここで、これらの透かし目、空洞、細孔または空隙は、布帛の両側に通じる管を構成することができる。
【0037】
以下のようなさまざまな補足的特徴を、単独でまたは組合せた形で想定することが可能である。
− 第1の粘着防止ゾーンは、腹膜面の全表面のおよそ30%〜70%の表面上に延在している;
− プロテーゼは矩形形状を有し、第1の粘着防止ゾーンはプロテーゼの側方縁部からプロテーゼの幅全体にわたって延在している;
− プロテーゼは矩形形状を有し、第2の粘着防止ゾーンはプロテーゼの幅の3分の1ないし2分の1の幅にわたり延在している;
− 第1の粘着防止ゾーン及び/または第2の粘着防止ゾーンは、連続的薄膜を画定する粘着防止コーティングを含む;
− 第1の粘着防止ゾーン及び/または第2の粘着防止ゾーンの粘着防止コーティングは不連続であり、帯または点を含む;
− 透かし細工の布帛は、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)で製作されている;
− 第1の粘着防止ゾーン及び/または第2の粘着防止ゾーンは、非吸収性の薄膜を含む;
− 第1の粘着防止ゾーン及び/または第2の粘着防止ゾーンは、吸収性ゲルを含む;
− 布帛は、前方筋肉壁及び櫛状靭帯に対面して設置されるための上部部分と呼ばれる第1の部分、及び、側方では恥骨及び腸骨管及び精液管ならびに腰筋の一部分に対面して設置されるための側方部分と呼ばれる第2の部分を含んでおり、上部部分はプロテーゼの表面の約2分の1ないし3分の2に相当しており、布帛は上部部分と下部部分の間の境界を画成する1本のラインを含んでいる;
− プロテーゼの上部部分と下部部分の間の境界を画成するラインはシームを含む;
− プロテーゼは、プロテーゼの配向の標示手段を備えている;
− 前記プロテーゼの配向の標示手段は、プロテーゼの残りの部分とは異なる色を有するゾーンを含む;
− 布帛は編地の形をしており、異なる色のゾーンは、布帛の残りの部分の編成のために使用される1本または複数の糸とは異なる色の糸の編成によってか、または布帛上の捺染によって得られる。
【0038】
本発明の他の目的及び利点は、添付図面を参照しながら以下で行なう実施形態についての説明に照らして明らかになるものである
【図面の簡単な説明】
【0039】
図1】第1の実施形態に係るプロテーゼの平面図であり、目に見える面は腹膜面である。
図2図1のプロテーゼの平面図であり、目に見える面は壁側面である。
図3】第2の実施形態に係るプロテーゼの平面図であり、目に見える面は腹膜面である。
図4図3のプロテーゼの平面図であり、目に見える面は壁側面である。
図5】第3の実施形態に係るプロテーゼの平面図であり、目に見える面は腹膜面である。
図6図5のプロテーゼの平面図であり、目に見える面は壁側面である。
【発明を実施するための形態】
【0040】
図1〜6に関連して以下で説明するプロテーゼは、鼠径ヘルニアの修復を基準としたものであり、内視鏡式または開腹式腹膜前移植することを目的としたものである。しかしながら、これらのプロテーゼを、序の部分で提示した技術的現状において識別されている問題と類似の問題が提起されている他の外科的治療において使用することも同様に有利であり得るということが分かる。
【0041】
鼠径ヘルニアの修復用のプロテーゼは、右側のヘルニアについて各図に表現されている。図示されていない類似のプロテーゼを左側の鼠径ヘルニアの修復のために使用することができ、左右のプロテーゼは互いに対称であることが分かる。
【0042】
以下で説明するプロテーゼは、平面インプラントタイプのものである。ただし、本発明が同様に、熱成形に由来するかまたは鼠径部空間の解剖学的形状とぴったり一致するようにシームを含んでいる解剖学的または3次元プロテーゼと呼ばれるプロテーゼも目的としていることが理解される。
【0043】
以下で説明するプロテーゼは、布帛、特に鼠径部の生体組織に対面して設置されるための壁側面と呼ばれる第1の面及び、腹膜に対面して設置されるための前記第1の面とは反対側の腹膜面と呼ばれる第2の面を含む、生体適合性材料製の透かし細工の布帛を含む。
【0044】
腹膜面はその表面の一部分の上に、粘着防止コーティングの備わった第1のゾーンを含み、壁側面はその表面の一部分の上に、粘着防止コーティングの備わった第2のゾーンを含む。
【0045】
2つの粘着防止コーティングゾーンは、膀胱−前立腺器官及び神経節掻把ゾーンに対応する。プロテーゼの壁側面は、筋肉壁に接して適用される。腹膜面と呼ばれる反対側の面は、腹膜の深部面及び膀胱の前方面と対面している。
【0046】
より厳密には、プロテーゼの壁側面は、神経節掻把の解剖学的ゾーンを被覆し、プロテーゼの腹膜面は、3分の1/3分の2ないし2分の1/2分の1の割合で一部が腹膜と接触し一部が膀胱−前立腺器官と接触している。
【0047】
本発明にしたがって実施されるプロテーゼは、有利にも、生体環境内で改変せず、非アレルゲン性、非癌原性で、殺菌可能であり、かつ弱い炎症反応しか導かない。
【0048】
いくつかの実施において、プロテーゼは、ポリアミド、ポリエステル、特にポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデンなどの非吸収性材料で形成された布帛、特に透かし細工の布帛である。
【0049】
他の実施において、このプロテーゼは、ポリグラクチンなどの吸収性材料で形成された布帛、特に透かし細工の布帛である。
【0050】
有利にも、プロテーゼを形成する織地の透明度が低い場合、下接する解剖学的ゾーンは、プロテーゼ上で、例えば線状のマーキングによって具現される。このマーキングは、場合によってステープラによる固定が可能であるゾーンを画成すること、及びステープラによる固定を回避すべきであるゾーンを標示することを可能にする。
【0051】
粘着防止材料は、1つの実施において、例えばポリテトラフルオロエチレン(PTFE)などの非吸収性薄膜の体裁をとる。
【0052】
他の実施において、粘着防止材料は、コラーゲン、シリコーンまたはポリウレタン系のものである。
【0053】
他の実施において、プロテーゼは、吸収性材料と非吸収性材料の混合物を含む。特殊な実施においては、プロテーゼは、ポリプロピレンまたはポリプロピレン−ポリエチレンテレフタレート製の布帛、特に透かし細工の布帛を含み、第1及び第2の非粘着性ゾーンは、ヒドロゲル系のコーティングで形成され、このコーティングは、連続的薄膜の形または帯または点の体裁をとる。
【0054】
有利には、粘着防止材料は、低い濡れ性(親水性)を示し、例えばポリテトラフルオロエチレン系のものであるかまたは、発泡ポリテトラフルオロエチレンと呼ばれる加熱後に延伸されたポリテトラフルオロエチレンの形態である。他の実施形態においては、粘着防止材料は、ポリジメチルシロキサンまたはポリフッ化ビニル系のものである。
【0055】
有利には、粘着防止材料は、プロテーゼの布帛、特に透かし細工の布帛上に被覆加工される。例えば、プロテーゼは、コラーゲン系の材料の局所的被覆加工を含む。
【0056】
特定の実施において、プロテーゼは、コラーゲン系コーティングで形成された第1及び第2の粘着防止ゾーンの備わったポリエステル製の織地、特に透かし細工の織地で形成されており、このコーティングは連続的薄膜の形、または帯または点の体裁をとる。
【0057】
他の特定の実施において、プロテーゼは、シリコーン系コーティングで形成された第1及び第2の粘着防止ゾーンの備わったポリプロピレン製の織地、特に透かし細工の織地で形成されており、このコーティングは連続的薄膜の形、または帯または点の体裁をとる。
【0058】
他の特定の実施において、プロテーゼは、ポリテトラフルオロエチレン系、詳細には発泡ポリテトラフルオロエチレン系であり、平滑な第1及び第2の粘着防止ゾーンを含み、プロテーゼの残りの面は縞様である。
【0059】
他の実施において、粘着防止材料は、例えばヒアルロン酸系またはアテルコラーゲンとマルトデキストリンの混合物系の吸収性ゲルを含む。
【0060】
別の実施において、粘着防止材料は、例えば再生及び酸化セルロース系あるいはポリ乳酸とコプロラクトンの混合物系、またはヒアルロン酸とカルボキシメチルセルロースの混合物系、さらにはコラーゲン、ポリエチレングリコール及びグリセロールの混合物系の吸収性薄膜を含む。
【0061】
ここで、プロテーゼの幾何形状の実施例について説明する。
【0062】
図1〜4の実施形態において、プロテーゼ1a、1bは、矩形で平面の全体的形状を有し、上部長手方向縁部2、下部長手方向縁部及び2つの側方縁部4、5を含む。
【0063】
図1及び2の実施形態において、腹膜面上の第1の粘着防止コーティングゾーン6は、プロテーゼの幅全体にわたりかつプロテーゼの長さの3分の1ないし3分の2の長さにわたりほぼ矩形の表面上に延在している。こうして、一例として、プロテーゼが長さ15cm幅10cmの矩形である場合、第1の粘着防止コーティングゾーン6は、側方縁部4から5〜8cmにわたり延在する。この措置により、膀胱−前立腺器官の前方面に対するプロテーゼの粘着を防止することができる。図示されていない一変形実施形態では、粘着防止ゾーン6は、側方縁部4との関係においてずらされる。
【0064】
図1及び2の実施形態において、壁側面上の第2の粘着防止コーティングゾーン7は、ほぼ矩形の表面上で、プロテーゼ1aの幅の3分の1ないし2分の1にわたり、及びプロテーゼ1aの長さのほぼ2分の1にわたり延在している。第2の粘着防止コーティングゾーン7は、壁側面で、プロテーゼ1aの下側方コーナー内に位置している。こうして、一例として、プロテーゼが長さ15cm幅10cmの矩形である場合、第2の粘着防止コーティングゾーン7は、側方縁部5から5〜8cmにわたり延在し、約3.5cmの幅にわたり延在する。粘着防止ゾーンは、粘着性ゾーンを脈管の外に限定された状態に残すような形で、辺5との関係においてずらされていてよい。
【0065】
図3及び4の実施形態において、第1の粘着防止コーティングゾーン10は、腹膜面上で、プロテーゼ1bの幅とほぼ等しい高さをもつほぼ台形の表面上に延在し、この台形の長辺はプロテーゼ1bの下部長手方向縁部3の近傍に位置し、短辺はプロテーゼの上部長手方向縁部2の近傍に位置している。こうして、一例として、プロテーゼ1bが長さ15cm幅10cmの矩形である場合、粘着防止コーティングゾーン10の長辺は5〜8cm、短辺は3〜7cmの寸法を有する。
【0066】
図3及び4の実施形態において、第2の粘着防止コーティングゾーン11は、壁側面上で、プロテーゼ16の下部長手方向縁部3上にほぼ延在する長辺をもつおおよそ台形の表面上に延在している。一例として、プロテーゼは15cmの長さ及び10cmの幅を有し、台形の第2のゾーン11は、3〜5cmの高さにわたり延在し、その長編は5〜6cmの寸法を有し、その短辺は長辺よりも1〜2cm短い寸法を有する。有利にも、この措置により、約2cmの壁側平面に対するプロテーゼの粘着性ゾーンを、プロテーゼ1bの側方縁部4と第2のゾーン11の間に維持することができる。一変形形態では、台形の粘着防止ゾーンは、粘着性ゾーンを少し広くした状態に残すような形で、縁部5との関係においてずらされる。
【0067】
図5及び6の実施形態において、プロテーゼ1cは長円形の形状を有する。第1の粘着防止コーティングゾーン20は、腹膜面上で、プロテーゼ1aの幅全体にわたって、かつプロテーゼ1cの表面の2分の1にわたって、そして3分の2に至るまで延在する。第2の粘着防止コーティングゾーン21は、壁側面上で、プロテーゼ1cの長さのほぼ2分の1にわたり延在する。
【0068】
有利には、プロテーゼは、解剖学的タイプのものであり、前方筋肉壁及び櫛状靭帯に対面して設置されるための上部部分と呼ばれる第1の部分、及び、外側では、内部の恥骨及び腸骨管及び精液管ならびに腰筋の一部分に対面して設置されるための下部部分と呼ばれる第2の部分を含んでおり、上部部分はプロテーゼの表面の約2分の1ないし3分の2に相当している。布帛は上部部分と下部部分の間の境界を画成する1本のラインを含んでおり、このラインは有利にはシームを含む。このシームは、プロテーゼを広げる際に、それが鼠径部の解剖学的形状に容易に適応できるようにしている。プロテーゼの上部部分は、それ自体公知の手段(例えば接着剤、ステープラ)によるプロテーゼの固定に役立つが、プロテーゼは腹圧により壁に接して適用されていることから、この固定は、先に記されたように義務的なものではない。
【0069】
有利には、プロテーゼには、プロテーゼの残りの部分と異なる色を有するゾーンなど、プロテーゼの向きを標示する手段が具備されている。布帛は、例えば編地の形をしており、異なる色のゾーンは、布帛の残りの部分の編成のために使用される1本または複数の糸とは異なる色の糸の編成によってか、または捺染によって得られる。
【0070】
図示されていない他の実施形態において、プロテーゼは、尿失禁の治療を目的としており、尿道下テープタイプのものである。
【0071】
尿失禁の治療のためには、ポリマー材料で製造されたメッシュの形をしたテープの設置が知られており、これらのテープは、尿道を担持するハンモックを形成する。従来同じ原理は、「膀胱下垂」という表現で呼称されることの多い生殖器脱出症の一種であって、膣の前方壁を展開させ突出部を形成する膀胱壁の摺動によって出現する瘤に付随する失禁の治療のために使用されている。この治療は、特定のTICTによって必要とされている(Leanzaら、How to prevent mesh erosion in transobturator tension−free incontinence cystocele treatment TICT:a comparative survey、G.Chir、pp.21〜25、2015)。医療処置は、経膣で実施され、ハンモックを設置するために膣の前方壁が切除され、テープの両端部が、中実トロカールを用いて各々の側から導入される。
【0072】
これらのプロテーゼの合併症の1つは、プロテーゼ材料の接触時点での膣壁または尿道の潰瘍形成であり、これには膣内へのプロテーゼの体外転位、感染、疼痛、出血、性交障害そして時として膀胱の潰瘍形成が伴う。
【0073】
これらの合併症の発症率は、異なる設置技術、外科医の経験によって可変的である(Surkontら、Long term risk of complications after mid−urethral slings IVS implantation Ann Agri Environ Med、22(1)、pp.163〜166、2015)。この発症率は以下の通りである:
− Leanzaら、(Leanzaら、How to prevent mesh erosion in transobturator tension−free incontinence cystocele treatment TICT:a comparative survey、G.Chir、pp.21〜25、2015)の系列内では、約5%;
− Boudryら、(Sling exposure after treatment of urinary incontinence with sub−urethral transobturator slings、Eur J Obstet Gynecol Reprod Biol、176、pp.191〜196、2014)の系列内では、4.3〜13.8%;
− Viereckら、(Midurethral sling incision:indications and outcomes、Int Urogynecol J、24、pp.645〜653、2013)の系列内では、15%;
− Tanerら(Perioperative and postoperative complications after Ophira mini sling operations、Arch Gynecol Obstet、291、pp.341〜346、2015)の系列内では、11.9%。
【0074】
プロテーゼの合併症に苦しむ女性111名の系列について、脱出は、Hansenら、によると、症例の65%に相当している(Long term follow−up of treatment for synthetic mesh complications、Femele Pelvic Med Reconstr Surg、20、pp.126〜130、2014)。
【0075】
プロテーゼによる慢性刺激が腸癌の発症に寄与する因子であることから、仙骨膣固定術後に腸癌の症例が観察された(Ahujaら、Bowel cancer and previous mesh surgery、Gynecol Surg、8、pp.217〜221、2011)。
【0076】
仏国特許第2802798号明細書中に記載されているように、尿道を担持するベルトの形を呈する尿失禁治療用装置が公知であるが、これらのベルトは膣、尿道または膀胱の領域内で摩擦を誘発し、びらん、炎症または感染をひき起こし、さらにはベルトの拒絶を誘発し、その除去が必要となる場合がある。これらの問題を解決するために、仏国特許第2802798号明細書では、ベルトを形成するテープの一つの面上に、発泡材製の緩衝用クッションまたは空気、水、油またはシリコーンゲルを格納するカプセルを固定することが提案されており、ここでクッションの厚みはテープの厚みの20倍である。
【0077】
このようなクッションまたはこのようなカプセルが具備されたテープの使用は、複雑である。詳細には、クッションまたはカプセルの存在は、トロカールによる導入を非常に困難に、さらには不可能にする。
【0078】
テープの除去には、侵襲的または多数回におよぶ外科手術が必要となる可能性があり(Braunら、Mesh removal following transvaginal mesh placement:a case series of 104 operations、Int Urogynecol J、21、pp.423〜430、2010)、この場合、プロテーゼの設置の合併症、特に疼痛が永続的に存在し、このテープを完全に除去することは、時として不可能である。
【0079】
当該発明人らは、失禁の治療用テープに付随するリスクを削減するため、各々プロテーゼの一つの面上に設置された第1の粘着防止ゾーン及び第2の粘着防止ゾーンを想定することにより、プロテーゼを局所的に修正することを提案している。
【0080】
尿道下プロテーゼのために使用される布帛は、有利には、鼠径ヘルニアの修復用プロテーゼの製造に使用される材料よりもさらに柔軟である。この措置により、会陰部の柔軟性及び可撓性を保存して、特にせき、排便、歩行、性交渉などの日常生活に付随する運動及び力に対して適応できるようにすることが可能になる。
【0081】
使用される布帛は、有利には、開口2mm超の細孔、及び35g/m未満の低い密度を有する。
【0082】
尿道下プロテーゼは、有利には、その膣壁との接触面(膣面と呼ばれる)上に粘着防止コーティングを、そして尿道及び/または膀胱との接触面(膀胱−尿道面と呼ばれる)上に粘着防止コーティングを有する。
【0083】
「粘着防止コーティング」なる用語は、ここでは、プロテーゼの布帛の表面上の粘着防止材料の存在、及び/または粗度の低い表面状態を意味する。
【0084】
第1の粘着防止ゾーン内に存在する粘着防止コーティングは、第2の粘着防止ゾーン内に存在する粘着防止コーティングと同一であっても異なるものであってもよい。こうして、例えば、シリコーンまたはヒドロゲル系のコーティングが第1の粘着防止ゾーンを形成し、第2の粘着防止ゾーンは、この第2のゾーン内の非常に低い表面粗度の存在によって画定される。
【0085】
さまざまな実施によると、コーティングは、連続的薄膜の形または帯または点の体裁をとる。「点」とはここでは、削減された寸法の広がりを指し、これらの点は規則的パターンを形成することができ、あるいは無作為に配置されてもよい。
【0086】
一実施において、失禁治療用の尿道下プロテーゼは、テープの幅全体にわたって延在し膣面上で3〜4cmの長さ、膀胱−尿道面上で1cm〜2.5cmという寸法を有する粘着防止ゾーンを含む。
【0087】
一実施において、膀胱瘤の治療用プロテーゼは、中央部分及びアームを含み、中央部分は、1つの面上でこの中央部分の表面の80%超をカバーし、この中央部分の周囲縁部を数ミリメートル、例えば5mm〜15mmの幅にわたり自由な状態に残す粘着防止ゾーンを含む。
【0088】
他の実施においては、プロテーゼは、生殖器脱出症の治療に適応されており、後方膣壁と接触して設置されるためのものであり、このプロテーゼは、膣壁と接触する面上に、例えば帯または点などの連続したまたは不連続の少なくとも1つの粘着防止ゾーンを含む。
図1
図2
図3
図4
図5
図6