(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記Siアバランシェ増倍部の周縁部と、前記化合物半導体受光層の周縁部との間の距離が、キャリア拡散長以上であることを特徴とする請求項1または2に記載の半導体受光素子。
前記Si−pn接合の前記接合端部が、前記化合物半導体受光層を含む化合物半導体層の最下面より、前記Si基板側の面に設けられ、前記パッシベーション膜が前記Si−pn接合の前記接合端部に接して設けられたシリコン酸化膜を含むことを特徴とする請求項1から5の何れかに記載の半導体受光素子。
前記アバランシェ増倍部上に化合物半導体受光層を貼合する工程は、化合物半導体受光層を素子単位、又はアレイ素子単位に分割して貼合することを特徴とする請求項9から12の何れかに記載の半導体受光素子の製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、適宜図面を参照しながら実施形態の説明を行っていく。説明の便宜のため、各図面の縮尺は必ずしも正確ではなく、相対的な位置関係などで示す場合がある。また、同一または同様の要素には、同じ符号を付している。
【0009】
自動車の自動運転、ロボットの自律走行などを目的とした各種測距センサが開発されており、中でも光測距センサは距離分解能、2次元または3次元画像化などの点で優位性が高い。100m前後の比較的長距離の光測距センサでは、レーザーを光源とし、ガイガーモード動作する受光素子で反射遅延時間を計測する方法でセンシングしている。これまで一般的に、これらの光測距センサは可視光から近赤外光が用いられており、特に、太陽の背景光が弱くなる窓波長で、比較的低コストなSi受光素子が適用可能な900〜950nm前後の光が多く用いられている。また、900nm帯は可視光に比べて眼の網膜への到達率が低くなり、人間のセンシングに用いても比較的安全な所謂アイセーフ光となる。
【0010】
しかしながら、900nm帯の背景光が弱くなる理由が大気中の水蒸気吸収に拠るため光透過率も低いという問題があり、大気吸収損失による測距距離制限や天候などの影響があった。
【0011】
一方、水吸収の少ない比較的長い波長では、背景太陽光自体が弱く、900nm帯と同程度の背景光強度となり、それでいて大気による光吸収が少なく、眼への光暴露も桁違いに低下するため光センシングには有利となる。例えば波長1590nmの光では、幅の狭い水蒸気吸収ピークを除いて背景光強度が900nm帯とほぼ同等であり、900nm帯の光透過率が50%前後なのに対し1590nmはほぼ100%の光透過率となる。また、眼の網膜への光暴露は900nm帯に比し1桁以上低くなる。即ち、1600nm帯で光センシングを行えば光源強度を1桁高く設定することも可能であり、光透過率も高いため、光センシングでのS/N比の大幅向上により、高分解能、長距離の光測距などに有利となる。また、水分による光吸収が殆どないため、水滴や雪による光散乱は受けるものの、光吸収が実質ない分、天候の影響が軽減される利点もある。
【0012】
ところが、1600nm帯は低コストなSi受光素子に殆ど感度がなく、1550nm帯の長距離光ファイバ通信などで用いられるGaInAs/InP系受光素子やGe受光素子が必要になる。Ge受光素子は、バンドギャップの狭い単結晶Geにpn接合を形成するためトンネル電流が生じ易く、また、pn接合表面の強固なパッシベーション形成が難しいため、Si受光素子ほどの低コスト化や低雑音化が難しい。一方、化合物半導体のGaInAs/InP系受光素子は、Si、Geのような単結晶半導体に比し結晶成長の安定性が低いためウェハの大口径化が難しく、また、稀少材料からなる小径ウェハで製造するため素子あたりの材料費および加工費を低減することが難しい。
【0013】
一般に、LSIなどのSiデバイスは、大口径Siウェハによる大量一括加工を行うため1素子あたりの加工費を低減可能である。但し、大口径ウェハでは設備投資も大きくなるため、デバイス需要数に応じたウェハ径最適化が必要となる。一般的に、需要数量の多い半導体デバイスは、大口径ウェハによる製造が低コスト化に有利である。従って、ウェハ大口径化が難しい化合物半導体では、デバイス需要数に関わらずSiデバイスよりコスト低減が難しい問題がある。このため、1600nm帯で低雑音且つ低コストな半導体受光素子の新規提案が求められており、実施形態はこの課題に対応可能である。
(第1の実施形態)
図1は、第1の実施形態を示す概略構成図であり、(a)は概略断面図、(b)は概略上面図である。
図1(a)は、
図1(b)の矢視I−I’断面に相当している。
図1において、1はn−Si基板(例えばn=5×10
18cm
−3)、2はn−Siエピ層(例えばn=5×10
16cm
−3、厚さ5μm)、3はp−Siガードリング(例えばBイオン注入、p=2×10
17cm
−3、深さ3μm)、4はp−Si(例えばBイオン注入、p=1×10
19cm
−3、深さ0.2μm)、5は低濃度p型またはノンドープのInP(例えば残留キャリア濃度2×10
14cm
−3、厚さ0.05μm)、6はノンドープGa
0.47In
0.53As(例えば残留キャリア濃度3×10
14cm
−3、厚さ1μm、以下単にGaInAsと記す)、7はp−InP(例えばp=1×10
19cm
−3、厚さ0.5μm)、8はSiO
2パッシベーション膜(例えば厚さ0.3μm)、9はAR(Anti-Reflection)コート(例えば屈折率2.0の窒化シリコン(SiN)、厚さ0.2μm)、10はp電極(例えばTi/Pt/Au)、11はn電極(例えばAl)である。p−Si4の周縁部は、
図1(b)に示すようにp−Si3のガードリングに一部重なっており、p−Si4の領域端での局所ブレークダウンを抑制するよう構成されている。また、p−Si4とp−Si3のガードリングは初めから接している必要はなく、p−Si4の領域端での局所ブレークダウンが起こる前にp−Si4から伸びる空乏層がp−Si3に達する距離に隔離されていてもよい。これについては後述の実施例で例示する。
【0014】
ここで、InP5、GaInAs6、p−InP7は、p−Si(p−Si3およびp−Si4)領域上に形成し、理想的にはp−Si4の上部のみに形成する。この場合、少なくともInP5がp−Si4の領域に形成されていれば良く、GaInAs6、P−InP7が上部でp−Si4の領域からはみ出していても構わない。p−Si3(ガードリング)の外周は、InP5の周縁から電子(または正孔)の拡散長以上隔離しておくことが望ましい。これは、ガードリング3の外周に化合物半導体層の受光キャリアが到達して局所ブレークダウンすることなどの抑制に有効となる。また、同様に前述したp−Si3のガードリングとp−Si4との間が隔離される場合、p−Si4の外周は、InP5の周縁から電子(または正孔)の拡散長以上隔離しておくことが望ましい。
【0015】
また、後述するように、InP5とGaInAs6の残留キャリア濃度を十分に低くしておくことで、p−Si4とInP5の電子親和力差(ヘテロバリア、0.4〜0.5eV)による内部電位が、熱平衡状態でのp−Si4とp−InP7のフェルミレベルを合わせるためにGaInAs6を空乏化する。
【0016】
この素子に逆バイアス電圧(電極10が負極、電極11が正極)を印加すると、p−Si4とn−Si2のpn接合(片側階段接合)部分で電界強度が上がり、p−Si4の不純物濃度が高いためn−Si2の領域に空乏層が拡大する。逆バイアス電圧を更に上げていくと、p−Si4に接するn−Siエピ層2の高電界領域がアバランシェ増倍し始め、アバランシェブレークダウン電圧(V
B)に達すると暗電流を種とした素子電流が急激に増えて素子電圧が増加できなくなる。上述の不純物濃度と厚さの設定であれば、V
Bはおよそ20V前後となる。Siは電子のイオン化率が正孔の10〜50倍あり、上記アバランシェ増倍は電子増倍が主体となる。
【0017】
一般的に、電子と正孔のイオン化率の比が大きいほどアバランシェ増倍の過剰雑音が小さくなり、Siは一般的な半導体材料の中で最もイオン化率比が大きい(アバランシェ過剰雑音が小さい)。実施形態の半導体受光素子では、アバランシェ増倍部をSiで構成しており、非常に低雑音なアバランシェ増倍が可能である。
【0018】
上記の素子にV
B以下の逆バイアスを加え、アバランシェ増倍可能な状態で素子の上面から例えば波長1600nmの光を照射すると、6のGaInAs層で光吸収されて電子正孔対が発生する。上述したように、GaInAs6はヘテロ界面の内部電位差により空乏化しており、電子がp−Si4側、正孔がp−InP7側にドリフト移動する。正孔は負極に吸収されて消滅するが、電子はGaInAs6とInP5の界面、InP5とp−Si4の界面に蓄積し、熱平衡分布の高エネルギー側の電子がp−Si4に注入される。そしてp−Si4に注入された電子は濃度差拡散によりn−Si2に達し、アバランシェ増倍可能な状態にあるn−Si2で電子増倍されて素子電流の主成分となる。上記素子では、波長950〜1700nmでの受光が可能であり、Si受光素子で受光が難しい1000nm以上の波長だけでなく、従来主に用いられてきた900nm帯の光も受光可能となる。
【0019】
また、上記素子の電極(例えば電極10)と電源の間に外部抵抗として例えば200kΩを接続し、上記素子にかかる電圧をV
B以上(例えばV
B+5V)とすれば、素子の暗電流増倍による電流と上記外部抵抗による電圧降下が起こり、素子電流25μA前後、素子電圧がV
B近傍になる。この状態で、例えば1600nmの光を照射すると、比較的弱い光でもアバランシェ増倍による数100〜数1000倍の大きな電流が流れ、上記の外部抵抗による電圧降下ですぐにアバランシェ増倍が抑制される。この電流を観測するとパルス状の電流となっており、僅かな光入力によりパルス発生する所謂ガイガーモードの動作となる。この間に発生した電流(キャリア電荷)は、電極10と電極11の間の素子容量(pn接合容量など)に蓄積され、外部抵抗とのCR積に応じた放電により、徐々に元のバイアス状態に回復していく。
【0020】
アバランシェ増倍のための高電界が発生するp−Si4とn−Si2のpn片側階段接合(アバランシェ増倍部)は、周囲をp−Si3のガードリングに囲われており、pn片側階段接合のエッジ局所ブレークダウンを防いでいる。ガードリング(p−Si3)とn−Si2のpn接合は、p−Si3が比較的低濃度であるためp−Si3側にも空乏層拡大し、比較的電界ピーク強度が低くなるとともに、ガードリング外側下部の凸部曲率を等価的に緩やかにして局所的電界集中を抑制している。また、p−Si3とn−Si2のpn接合がn−Si2の表面に接合端を露出しており、高電界のかかるアバランシェ増倍部から隔離された位置でSi同士の低電界pn接合を構成しているため、SiO
2などのパッシベーション膜により強固に保護して非常に低い暗電流とすることが可能である。
【0021】
結果として、化合物半導体により決まる受光波長において、Siアバランシェによる低ノイズ増倍を利用して等価的な高感度受光を可能とし、後述する疑似的な大口径化合物半導体ウェハによるコスト低減と合せ、高性能で低コストな任意波長受光素子が実現可能となる。
【0022】
尚、900nm帯Siアバランシェフォトダイオード(以下Si−APDと記す)は、受光層となるSiの光吸収係数が低いため、厚いSi受光層(空乏領域)が必要となる。例えば、量子効率80%を得るためのSi厚みが850nmでは25μm程度であるが、950nmでは80μm程度が必要になる。このため、アバランシェ増倍に必要な電圧と合せ、50V〜150Vといった高電圧が必要になる。また、アバランシェ増倍部以外のSi(例えばガードリング3外側のn−Si2)でも光吸収が可能であるため、バイアス電圧印加した際に空乏化してないSi領域で光吸収して電子正孔対を発生し、拡散により空乏化領域に到達するキャリア(所謂拡散電流)が遅延電流やアレイ受光素子でのクロストークを発生する問題がある。更に、ガードリング部に光照射すると、光吸収キャリアによりガードリングの空乏層を縮小変形して局所ブレークダウンを誘引したり、pn接合端パッシベーションに電流チャネルを形成してサージ絶縁破壊したりすることがある。
【0023】
実施形態の半導体受光素子では、GaInAsの吸収係数が1600nm帯で十分高いため、3μm程度の厚さで量子効率80%を得ることができる。上述した1μm厚さでも量子効率40%が可能であり、アバランシェ増倍を利用してフォトンカウンティングする場合などには十分な厚さとなる。また、バイアス電圧も、受光層はヘテロ界面内部電位で自動的にバイアスしており、アバランシェ電圧も20V程度であるため動作電圧が低い。更に、アバランシェ増倍部、ガードリング近傍など空乏層領域やその他の非空乏化領域が1600nmで殆ど光吸収せず、光照射による局所ブレークダウンやパッシベーションの絶縁破壊などの心配がない。実施形態の半導体受光素子を例えば950nmで使用しても受光効率は同様であり、アバランシェ増倍部、ガードリング近傍など空乏層領域やその他の非空乏化領域で光吸収されるが、化合物半導体の受光キャリア数が非常に大きく、バイアス電圧の低い状態で動作可能なため、実質的に光照射による局所ブレークダウンやパッシベーション絶縁破壊などの心配がなくなる。
【0024】
また、特許文献1、非特許文献1などは、実施形態に類似したGaInAsやGeの受光層とSiアバランシェ増倍層による半導体受光素子が開示されているが、メサ型素子のため、受光層で発生したキャリアがアバランシェ増倍部に注入されると同時に、Si−pn接合端(パッシベーション部分)にも到達してパッシベーションの不安定化やサージ破壊を起こす問題があった。
【0025】
実施形態の半導体受光素子では、GaInAsなど化合物半導体による受光部をp−Si領域上にのみ形成しており、ガードリング3周囲のpn接合部から十分隔離した領域(理想的にはアバランシェ増倍部上のみ)に形成するため、pn接合端パッシベーション部分にはほとんど受光キャリアが到達しないよう設計可能であり、信頼性と特性安定性を向上可能である。
【0026】
図2は、第1の実施形態の半導体受光素子の製造過程を示す概略断面図であり、
図1と同一の部分は同一の番号を付している。
【0027】
図2(a)は、n−Si基板1へのn−Si2の形成であり、例えば、SiHCl
3を原料としたCVD(Chemical Vapor Deposition)によりP、As、Sbなどの不純物を用いてn型Si結晶を成長させる。
【0028】
図2(b)は、ガードリングp−Si3の形成であり、例えば、Bのイオン注入と熱アニールで形成し、イオン注入は浅い注入から深い注入までを多段注入して均一化する。
【0029】
図2(c)は、高濃度p−Si4の形成であり、例えば、浅い高濃度Bイオン注入とRTA(Rapid Thermal Annealing)により急峻な濃度勾配となるように形成する。
【0030】
図2(d)は、化合物半導体エピウェハを分割したエピチップの貼合であり、InP5をp−Si4に清浄状態で接触させ、加圧しながら加熱処理してInPとSiの接着を行わせる。12はInP基板であり、p−InP7、GaInAs6、InP5の順番でMO−CVD(Metal Organic Chemical Vapor Deposition)などにより結晶成長する。このとき、InP基板にバッファーInP、GaInAsなどのエッチングストッパ層を最初に結晶成長してもよく、この場合、後工程でInP基板除去が選択エッチングにより行えるようになる。また、p−InP7とGaInAs6、GaInAs6とInP5の間に、薄いGaInAsP(例えばGa
0.28In
0.72As
0.61P
0.39、厚さ0.01μm)をそれぞれ成長しておいても構わない。この場合、GaInAsが光吸収して発生したキャリアがヘテロ界面を超えて移動する際、ヘテロギャップへのキャリア滞留を緩和する効果がある。
【0031】
図2(d)の段階では、化合物半導体のエピチップは、p−Si4の領域より大きめ(例えばp−Si4領域に位置合わせ余裕を加えた面積)としておくことでも構わない。また、エピチップの貼合は、特許文献2などに開示されている方法を用いることでも構わない。このとき、Siウェハに大口径ウェハ(例えば8インチΦ、12インチΦなど)を用いることができ、化合物半導体エピウェハのサイズとは独立に設定することができる。化合物半導体のエピチップは、半導体受光素子の受光領域サイズ、または半導体受光素子アレイなどの場合、アレイ領域をカバーするサイズなどの単位で貼合すればよく、化合物半導体エピウェハ数枚から取得した化合物半導体エピチップをSiウェハ1枚に貼合するなど、Siウェハと化合物半導体エピウェハのサイズを全く独立に設定可能である。これにより、小径の化合物半導体エピウェハを用いて、疑似的な大口径化合物半導体ウェハを構成することができ、以降の工程を大口径Siウェハの単位で加工して、1素子あたりの製造加工費を低減することができる。
【0032】
図2(e)は、化合物半導体層のトリミングとパッシベーション膜8の形成であり、InP基板12を機械研削およびエッチングで除去し、フォトリソグラフィーにより受光領域を残して化合物半導体をエッチング除去する。このとき、前述したGaInAsなどエッチングストッパ層がInP基板に結晶成長してあれば、塩酸溶液によるInP基板の選択エッチング除去が可能になる。GaInAsなどのエッチングストッパ層は、硫酸系エッチング液(例えば硫酸、過酸化水素、水)で選択除去することが可能である。フォトリソグラフィーによる受光領域の形成は、同様な選択エッチングの組合せやドライエッチングで行うことができる。尚、
図2(d)の段階で化合物半導体のエピチップが多少位置ずれしていても、フォトリソグラフィーのマスクパターンで最終的な受光領域を規定できるため、
図2(e)の段階で受光領域とp−Si4を正確に位置合わせできる。
【0033】
その後、パッシベーション膜8を形成する。例えば、SiO
2をプラズマCVDにより形成し、例えば600℃の熱処理を行う。SiとInPは熱膨張係数が2倍近く異なり、ウェハレベル接合や数mmサイズチップの接合では、このような高温処理で熱応力によるウェハ反りやクラックを生じてしまうが、
図2(e)のように光素子サイズ(例えば直径100μmΦ)にトリミングされていれば熱応力の絶対値が小さく、問題なく熱処理可能となる。このため、CVDのSiO
2膜でも比較的良好なパッシベーション膜とすることができる。また、SiにはSiO
2が良好なパッシベーション膜となるが、InPなどの化合物半導体に対しては窒化Si(SiN)が良好なパッシベーション膜をとなることが多い。このため、
図2(e)の段階で、Siのpn接合(n−Si2とp−Si3)にはSiO
2膜、5〜7の化合物半導体の側面にはSiN膜を設けて熱処理してもよい。この場合、SiNパッシベーション膜は後述のAR膜9を兼ねることも可能である。
【0034】
図2(f)は、フォトリソグラフィーとCVDによるAR膜9の形成と、電極10、11の形成である。電極金属は、例えばスパッタ、電子ビーム蒸着などで形成できる。
【0035】
このように、実施形態の半導体受光素子は、大口径の化合物半導体ウェハを用いなくとも、疑似的な大口径化合物半導体ウェハを構成して多数個の素子を一括加工することによる加工費用の低減が可能である。これにより、ウェハ大口径化の難しい化合物半導体がデバイス需要数に関わらずコスト低減できなかった問題を解消可能である。
【0036】
図3は、第1の実施形態の半導体受光素子のバンド構造を示す概略図であり、
図1と同一の部分は同一の番号を付している。
【0037】
図3(a)は、
図1の実施形態の半導体受光素子のアバランシェ増倍部(中心部)を上下に切り抜いた概略断面図であり、
図3(b)は、
図3(a)の各半導体層に対応する熱平衡状態バンド図である。13、14は、
図2(d)の説明でも示したGaInAsP(例えばバンドギャップ波長1300nm:Ga
0.28In
0.72As
0.61P
0.39、ノンドープ、厚さ0.01μm)であり、GaInAs6の光吸収で発生したキャリアがそれぞれヘテロ界面を超える際、ヘテロ界面でのキャリア滞留を緩和する効果がある。
【0038】
図3(b)の一点鎖線はフェルミレベルを示しており、n−Si1、p−Si4、p−InP7といった高濃度ドーピング層により各層のバンド状態が決められている。n−Si2は必ずしも熱平衡状態で空乏化しないが、便宜的に空乏化状態で記述した。一方、InP5からGaInAsP14までの低濃度層は、4のp−Siと5のInPとの電子親和力の差(ヘテロバリア、0.4〜0.5eV)がp−InP7のフェルミレベルへの引き上げにより電位差としてかかるため空乏化する。但し、この電子親和力差でInP5からGaInAsP14までを空乏化させるためには、GaInAs6の厚さが1μmの場合で7×10
−14cm
−1以下、1.5μmの場合で3×10
−14cm
−1以下といったレベルまで残留キャリア濃度を低減する必要がある。
【0039】
図3(c)は、n−Si1側を正極、p−InP7側を負極として逆バイアスを印加した状態であり、前述したように4のp−Siと2のn−Siの境界領域に電界ピークを持つバイアスが加わる。この状態で、6のGaInAsが光吸収してキャリア発生すると電子がp−Si4に向かって移動し、n−Si2に注入されてアバランシェ増倍される。
(第2の実施形態)
図4は、第2の実施形態を示す半導体受光素子の断面構成とバンド構造を示す概略図であり、
図1と同一の部分は同一の番号を付している。
【0040】
図4(a)は、実施形態の半導体受光素子のアバランシェ増倍部(中心部)を上下に切り抜いた概略断面図であり、
図4(b)は、
図4(a)の各半導体層に対応する熱平衡状態バンド図である。第1の実施形態では、p−Si4とInP5を貼合したが、第2の実施形態ではGaInAsP13(例えばバンドギャップ波長1300nm:Ga
0.28In
0.72As
0.61P
0.39、ノンドープ、厚さ0.01μm)で行う。この場合、p−Si4とGaInAsP13との接合のためヘテロバリアが0.3〜0.4eVと小さくなり、GaInAs6の低濃度化や薄膜化が必要となって受光効率の低下を伴うが、n−Si2のアバランシェ増倍で発生した正孔がp−Si4からGaInAs6へ放出される際のキャリア停留を改善できる。即ち、正孔消滅時間を短縮して、受光素子としての応答速度を高めることが可能となる。
(第3の実施形態)
図5は、第3の実施形態を示す概略構成図であり、
図1と同一の部分は同一番号を付与している。ここではn−Si2とp−Si3のpn接合にパッシベーション膜15を追加しており、例えば、15として1100℃で熱酸化したSiO
2を0.3μm形成する。SiO
2はSiの最も良好なパッシベーションとなるが、一般に1000℃以上で熱処理しないと界面準位などによるリーク電流が発生する。しかしながら、InP、GaAsといった化合物半導体は結晶成長温度自体が800℃以下であり、1000℃以上の熱処理には耐えられない。従って、Siと化合物半導体の同時パッシベーション形成は700℃程度までが限度であり、Siにとっては熱処理温度がやや低い。
【0041】
そこで、
図5の実施形態では、Si−pn接合と化合物半導体のパッシベーションを分離しており、例えば、Si−pn接合には15の高温酸化SiO
2、化合物半導体にはプラズマCVDと500〜600℃処理による8のSiNを用いる。これにより、半導体材料ごとに最適なパッシベーション材料を用いることが可能となり、非常に低い暗電流と安定なパッシベーション膜を得ることが可能となる。この場合、8のSiNを全面に形成する必要はなく、化合物半導体層およびその周囲(例えば化合物半導体層から幅5μmの領域)に設けておけば良い。
【0042】
但し、熱酸化SiO
2はSiの一部を酸化して得られる膜のため、選択形成する場合は一般に表面が平坦にならない。即ち、p−Si3およびp−Si4を形成し、n−Si2とのpn接合にSiO
2パッシベーションを例えば0.3μm形成する場合、p−Si4表面を保護するSiNなどを形成して熱酸化すると、SiをSiO
2に供給するためSi表面が0.15μm程度下になり、逆に形成されたSiO
2膜表面が0.15μm程度上になる。従って、元々平坦なSi表面が、保護膜形成した部分で凹部となり、SiO
2熱酸化膜を形成した部分で凸部となる。このため、
図2(d)で示した化合物半導体エピチップ貼合工程で、p−Si4と化合物半導体との接合ができなくなる問題がある。
【0043】
また、SiO
2をCVDで形成し、例えば1100℃のアニール処理を行ってパッシベーション膜15とする場合も熱酸化膜同様に良好なパッシベーションが可能であるが、最終的にp−Si4の領域のSiO
2膜をエッチング除去して開口する必要があり、結果的に選択熱酸化と同様に平坦面ではなくなる。
【0044】
このため、
図5の実施形態においては、p−Si4以外のSi表面を予めエッチングして低く形成し、15の熱酸化SiO
2表面が4のp−Si表面より低くなるように構成している。また、同様に、p−Si4以外のSi表面を予めエッチングして低く形成し、4のp−Si表面より突出しない厚さでCVDのSiO
2を形成して800℃以上で熱処理し、4のp−Si表面部分のSiO
2をエッチング開口することでもよい。
【0045】
これにより、化合物半導体エピチップを貼合する面の平坦性を確保しながらSiO
2の突出による化合物半導体エピチップの貼合不良を回避できる。また、p−Si4の表面と同時にn−Si2のチップ外周(p−Si3より外側の領域)にも保護膜を形成し、p−Si4と同じ高さにしてもよい。この場合、化合物半導体エピチップを貼合する際の外周支持面とすることができ、化合物半導体エピチップの貼合工程を安定化できる。
【0046】
図6は、第3の実施形態の半導体受光素子の製造過程を示す概略断面図であり、
図5と同一の部分は同一の番号を付している。
【0047】
図6(a)は、n−Si基板1へのn−Si2の形成であり、例えば、SiHCl
3を原料としたCVD(Chemical Vapor Deposition)によりP、As、Sbなどの不純物を用いてn型Si結晶を成長させる。
【0048】
図6(b)は、ガードリングp−Si3および高濃度p−Si4の形成である。ガードリングp−Si3は、例えば、Bイオン注入と熱アニールで形成し、イオン注入を浅い注入から深い注入までを多段注入して均一化する。4の高濃度p−Siは、例えば、浅い高濃度Bイオン注入とRTA(Rapid Thermal Annealing)により急峻な濃度勾配となるように形成する。
【0049】
図6(c)は、SiO
2パッシベーション膜15の形成であり、例えば、p−Si4の上部に厚さ0.3μmのSiN保護膜16を形成し、RIE(Reactive Ion Etching)でSi露出面を0.2μmエッチングする。続いて、800℃以上、例えば、1100℃の熱酸化を行い、SiO
2膜15を0.3μm形成する。このとき、上記したSi露出面のエッチングの深さを形成するSiO
2膜15の膜厚の1/2以上とすれば、SiO
2膜15がp−Si4の表面より突出することがない。SiN保護膜16は、例えば熱リン酸で選択的にエッチング除去する。
【0050】
図6(d)は、化合物半導体エピウェハを分割したエピチップの貼合であり、InP5をp−Si4に清浄状態で接触させ、加圧しながら加熱処理してInPとSiの接着を行わせる。
図6(d)の段階では、化合物半導体のエピチップは、p−Si4の領域より大きめ(例えばp−Si4領域に位置合わせ余裕を加えた面積)としておくことでも構わない。また、化合物半導体のエピチップ貼合は、特許文献2などに開示されている方法を用いても構わない。Siウェハは、大口径ウェハ(例えば8インチΦ、12インチΦ)を用いることができ、化合物半導体エピウェハのサイズとは独立に設定することができる。化合物半導体のエピチップは、半導体受光素子の受光領域サイズ、または半導体受光素子アレイなどの場合、アレイ領域をカバーするサイズなどの単位で貼合すればよく、化合物半導体エピウェハ数枚から取得した化合物半導体エピチップをSiウェハ1枚に貼合するなど、Siウェハと化合物半導体エピウェハのサイズを全く独立に設定可能である。
【0051】
これにより、小径の化合物半導体エピウェハを用いて、疑似的な大口径化合物半導体ウェハを構成することができ、以降の工程を大口径Siウェハの単位で加工して、1素子あたりの製造加工費を低減することができる。
【0052】
図6(e)は、化合物半導体層のトリミングとパッシベーション膜8の形成であり、InP基板12を機械研削およびエッチングで除去し、フォトリソグラフィーにより受光領域を残して化合物半導体をエッチング除去する。
図6(d)の段階で化合物半導体エピチップが多少位置ずれしていても、この段階でフォトリソグラフィーのマスクパターンで最終的な受光領域を規定できる。パッシベーション膜8は、例えば、SiN膜をプラズマCVDにより形成し、例えば600℃で熱処理を行う。パッシベーション膜8は、全面に形成する必要はなく、化合物半導体層とその周囲(例えば化合物半導体層から幅5μmの領域)にのみ設けることでも良い。パッシベーション膜8のSiNは、後述のAR膜9を兼ねることも可能である。
【0053】
図6(f)は、フォトリソグラフィーとCVDによるAR膜9の形成と、電極10、11の形成である。電極金属は、例えばスパッタ、電子ビーム蒸着などで形成できる。
このように、実施形態の半導体受光素子は、Si−pn接合のパッシベーション膜に熱酸化または高温処理したSiO
2膜を用いることができ、素子の信頼性を向上できる。
(第4の実施形態)
図7は、第4の実施形態を示す概略構成図であり、
図6と同一の部分は同一番号を付与している。ここではAR膜9をn−Si基板1に設けており、電極10をp−InP7の大部分を覆うように形成している。第4の実施形態では、光入射を化合物半導体層の上側ではなく、裏面のSi基板側からとしている。
【0054】
Si受光素子の場合、光入射面をSi基板側に変更すると、主な光吸収がSi基板の裏面表層になり、Si基板全体を空乏化させないと受光素子として機能しない。従って、Si受光素子では裏面光入射のために全く異なる素子構造とする必要がある。
【0055】
実施形態の半導体受光素子では、光吸収部を化合物半導体層としているため、Siの吸収波長より長い波長(例えば1200〜1700nm)に関し、光入射部以外の構造を大幅に変更することなく裏面光入射構造に変更可能である。
【0056】
実施形態の裏面入射型半導体受光素子では、主に光吸収する部分がGaInAs6のSi基板側であり、光吸収による電子濃度のピークがp−Si4近傍となって、Siアバランシェ増倍部への電子注入効率が高くなる。また、GaInAs6で吸収できなかった入射光を電極10で反射し、再度GaInAs6を通過させて吸収させることができる。このため、実施形態の半導体受光素子では、電極10の最下層を例えばAl、Ag、Niなどとし、GaInAs6の厚さが
図5の表面入射型と同じでも受光効率を約1.6倍に向上することができる。また、同じ受光効率であれば、GaInAs6の厚さを薄くして残留キャリア濃度マージンを向上することができ、結晶成長歩留りの向上でコスト低減が可能である。また、GaInAs6を薄くする分だけ結晶成長コストそのものを低減できることは、述べるまでもないことである。
(第5の実施形態)
図8は、第5の実施形態を示す概略構成図であり、
図6と同一の部分には同一番号を付与している。ここではp−Siの領域に第3の電極17(例えばAl)を設けている。第4の実施形態までが、電極10と電極11に一括で電圧印加していたのに対し、第5の実施形態では、化合物半導体受光層とSiアバランシェ増倍部を独立に電圧バイアスすることが可能になる。これにより、受光層とアバランシェ増倍部をそれぞれ独立に最適バイアスに設定することや、アバランシェ増倍部をパルス駆動すること、電極17からアバランシェ増倍による正孔電流を引出して高速応答させるといった駆動が可能になる。
【0057】
(第6の実施形態)
図9は、第6の実施形態を示す概略構成図であり、
図5と同一部分は同一番号を付与している。
【0058】
本実施形態が第1の実施形態と異なる点は、p−Si3(ガードリング)をp−Si4(アバランシェ増倍領域)と離して設けたことである。p−Si3がp−Si4と接していないため、p−Si4の電圧がp−Si3に直接印加されず、p−Si4から延びる空乏層がp−Si3に達するまでの電圧分だけ耐圧を高め易い。逆を言えば、耐圧向上分に相当するガードリング曲率の縮小が可能となり、ガードリング(p−Si3)の領域幅を狭くすることが可能となる。但し、この場合、p−Si4から延びる空乏層がp−Si3に達するまでの電圧でp−Si4の周囲が局所ブレークダウンを起こさないことが条件となる。これにより、ガードリング占有面積を小さくして受光領域を拡大、即ち、有効開口率の向上に有効である。
【0059】
(第7の実施形態)
図10及び
図11は、第7の実施形態の概略構造を説明するためのもので、
図10は概略断面図、
図11は概略平面図であり、
図9と同一部分には同一符号を付している。また、
図10は
図11の矢視II−II’断面に相当しているが、説明の便宜上、図の縮尺は適宜変更している。また、
図12は、第7の実施形態に係る半導体受光素子の製造工程を示す概略断面図である。
【0060】
本実施形態は、複数の半導体受光素子をアレイ配置した例であり、n−Si基板1上にn−Siエピ層2を設け、p−Si3(ガードリング)と、p−Si4(アバランシェ増倍領域)をマトリクス状に配設している。また、各々のアバランシェ増倍領域上には、InP5,GaInAs6,p−InP7からなる化合物半導体エピ層をそれぞれ設けている。なお、
図11では4つの部分のみを示しているが、これは更に多数のアレイ素子であっても構わない。
【0061】
隣接する受光素子間は、トレンチアイソレーション(SiO
2)18により素子分離している。このトレンチアイソレーション18は、ガードリングやアバランシェ増倍部を形成する前に予め形成しておく。具体的には、n−Si基板1上にn−Si2をエピタキシャル成長し(
図12(a))、素子分離のための溝部分以外に窒化膜を形成、この窒化膜(不図示)をマスクとしてRIE等で溝(トレンチ)を形成、この溝を埋め込むようにシリコン酸化膜を堆積、CMP(Chemical Mechanical Polishing)等により不要なシリコン酸化膜を除去した後に、マスクに用いた窒化膜を除去すれば得られる(
図12(b))。
【0062】
次に、p−Si3(ガードリング)、p−Si4(アバランシェ増倍領域)を形成し、例えば、p−Si4の上部に厚さ0.3μmのSiN保護膜16を形成し、RIEでSi露出面を0.2μmエッチングする。このとき、トレンチアイソレーション18が僅かに突出するが、これはそのままでも構わなく、ウェットエッチング等で突出部をエッチングしても構わない。続いて、例えば、1100℃の熱酸化を行い、SiO
2膜15を0.3μm形成する(
図12(c))。その後、SiN保護膜16は、例えば熱リン酸で選択的にエッチング除去する。しかる後、化合物半導体エピ層(5,6,7)をInP基板12ごと貼り合わせ(
図12(d))、InP基板12を選択除去した後、化合物半導体エピ層のパターニングを行う(
図12(e))。その後、SiNパッシベーション膜8を形成(
図12(d))し、電極とAR膜の形成を経て素子が完成する。
【0063】
p−Si4および化合物半導体エピ層5,6,7は矩形に近い形状となっているが、その角部は局所ブレークダウンを起こさない程度の曲率を持たせている。これにより、受光部開口率を高めることが可能となる。
【0064】
以上、本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は例として提示したものであり、発明の範囲を限定するものではない。これらの新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲において、種々の省略、置換え、変更、変形を行うことができる。これらの実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明と、その均等の範囲に含まれる。