(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下に添付図面を参照して、本実施の形態の詳細を説明する。
【0009】
(第1の実施の形態)
図1は、本実施の形態の検出器30の一例を示す模式図である。
【0010】
検出器30は、検出素子10と、電圧印加部22と、検出部24と、を備える。検出素子10と、電圧印加部22と、検出部24と、は電気的に接続されている。
【0011】
まず、検出素子10について説明する。検出素子10は、基板18と、第1電極12と、第2電極14と、有機変換層16と、第3電極20と、を備える。
【0012】
本実施の形態では、検出素子10は、基板18上に、第1電極12、有機変換層16、および第2電極14をこの順に積層した積層体である。すなわち、有機変換層16は、第1電極12と第2電極14との間に配置されている。第3電極20は、有機変換層16内に配置されている(詳細後述)。
【0013】
第1電極12は、バイアスを印加される電極である。第1電極12は、有機変換層16に対して、放射線Lの入射方向下流側に配置されている。本実施の形態では、第1電極12は、有機変換層16より放射線Lの入射方向下流側に、有機変換層16に接して配置されている。本実施の形態では、放射線Lは、検出素子10における第2電極14側から第1電極12側に向かう方向に入射する。なお、第1電極12と有機変換層16との間に、第1電極12と第2電極14との間の電場に影響を与えない層(例えば、接着層)が配置されていてもよい。
【0014】
第1電極12は、電圧印加部22および検出部24に電気的に接続されている。電圧印加部22は、第1電極12にバイアスを印加する。検出部24は、第1電極12から出力される出力信号を検出する。
【0015】
第1電極12の構成材料は、導電性を有する材料であればよく、限定されない。第1電極12は、例えば、ITO(酸化インジウムスズ、Indium Tin Oxide)、グラフェン、ZnO、アルミニウム、金などである。第1電極12の厚みは限定されない。
【0016】
第2電極14は、有機変換層16に対して、放射線Lの入射方向上流側に配置されている。本実施の形態では、第2電極14は、有機変換層16より放射線Lの入射方向上流側に、有機変換層16に接して配置されている。なお、第2電極14と有機変換層16との間に、第1電極12と第2電極14との間の電場に影響を与えず、且つ、検出対象の放射線Lの透過を阻害しない層(例えば、接着層)が配置されていてもよい。
【0017】
第2電極14は、接地されている。なお、第2電極14は、電圧印加部22に電気的に接続されていてもよい。
【0018】
第2電極14は、導電性を有する。第2電極14の構成材料は、導電性を有し、且つ、第2電極14に入射する、検出対象の放射線Lを透過する材料であればよい。放射線Lを透過する、とは、入射した放射線Lの50%以上、好ましくは80%以上を透過することを意味する。第2電極14は、例えば、ITO、グラフェン、ZnO、アルミニウム、金などである。第2電極14の厚みは限定されない。
【0019】
有機変換層16は、放射線Lのエネルギーを電荷に変換する、有機半導体層である。有機変換層16は、第1電極12と第2電極14との間に配置されている。
【0020】
有機変換層16が電荷に変換する放射線Lの種類は、例えば、β線、重粒子線、α線、中性子線、および、γ線の少なくとも一種である。本実施の形態では、有機変換層16は、β線、α線、および中性子線の少なくとも1種のエネルギーを電荷に変換する構成であることが好ましく、少なくともβ線のエネルギーを電荷に変換する構成であることが特に好ましい。
【0021】
有機変換層16は、公知の有機半導体に用いられる有機材料を主成分とした材料構成であればよい。主成分とする、とは、70%以上の含有率であること示す。
【0022】
例えば、有機変換層16に用いる有機材料は、ポリフェニレンビニレン(PPV)の誘導体、ポリチオフェン系高分子材料、の少なくとも1種から選択される。
【0023】
ポリフェニレンビニレンの誘導体は、例えば、ポリ[2−メトキシ,5−(2’−エチル−ヘキシロキシ)−p−フェニレン−ビニレン](MEH−PPV)である。ポリチオフェン系高分子材料は、例えば、ポリ−3−ヘキシルチオフェン(P3HT)などのポリ(3−アルキルチオフェン),ジオクチルフルオレンエン−ビチオフェン共重合体(F8T2)である。特に好ましくは、有機変換層16には、P3HT、F8T2、を用いればよい。
【0024】
なお、有機変換層16は、有機材料と、無機材料と、の混合物であってもよい。この場合例えば、有機変換層16は、上記有機材料と、フラーレン、フラーレン誘導体、半導体性を有するカーボンナノチューブ(CNT)、CNT化合物、などと、の混合物としてもよい。
【0025】
フラーレン誘導体は、例えば、[6,6]−フェニル−C61−酪酸メチル(PCBM)、フラーレンの二量体、アルカリ金属またはアルカリ土類金属等を導入したフラーレン化合物、などである。CNTは、例えば、フラーレンまたは金属内包フラーレンを内包したカーボンナノチューブである。また、CNTは、例えば、CNTの側壁や先端に、種々の分子を付加したCNT化合物である。
【0026】
有機変換層16の厚みは限定されない。なお、有機変換層16の厚み方向(矢印Z方向)は、第1電極12と第2電極14とが向かい合う方向に一致する。
【0027】
ここで、本実施の形態の検出素子10は、γ線の検出を抑制し、γ線以外の放射線L(β線、α線、中性子線など)を検出することが好ましい。このため、有機変換層16の厚みは、γ線を選択的に透過させ、γ線以外の放射線L(例えば、β線、α線、中性子線など)のエネルギーを選択的に電荷に変換可能な、十分な厚みであることが好ましい。
【0028】
有機変換層16の厚みを上記の十分な厚みとすることで、γ線以外の放射線(例えば、β線、α線、中性子線)により発生する電子−正孔対の数を増加させることができる。このため、上記の十分な厚みとすることで、有機変換層16を、γ線以外の放射線L(例えば、β線、α線、中性子線など)のエネルギーを選択的に電荷に変換可能な構成とすることができる。
【0029】
次に、第3電極20について説明する。第3電極20は、有機変換層16内に設けられている。本実施の形態では、第3電極20は、抵抗R1を介して電圧印加部22に接続されている。なお、第3電極20は、電圧印加部22とは異なる電圧を印加可能な電圧印加部に接続されていてもよく、また、接地されていてもよい。
【0030】
第3電極20は、シート状の電極である。
【0031】
なお、有機変換層16の厚み方向(矢印Z方向)を、以下では、厚み方向Zと称して説明する場合がある。また、厚み方向Zに直交する方向(矢印X方向)を、以下では、面方向Xと称して説明する場合がある。
【0032】
第3電極20の、有機変換層16の厚み方向Zにおける位置は、限定されない。
【0033】
但し、第3電極20は、有機変換層16の厚み方向Zの中央より、第1電極12に近い側に配置されていることが好ましい。すなわち、第1電極12と第3電極20との第1距離D1は、第2電極14と第3電極20との第2距離D2より小さいことが好ましい。
【0034】
なお、第1距離D1は、第1電極12と第3電極20との距離である。
【0035】
また、第2距離D2は、第2電極14と第3電極20との距離である。
【0036】
第3電極20の、有機変換層16の面方向Xにおける位置および範囲は限定されない。第3電極20は、有機変換層16内における面方向Xの全領域に渡って配置された、シート状であることが好ましい。なお、第3電極20は、有機変換層16における面方向Xの一部の領域を占めるシート状であってもよい。また、第3電極20は、有機変換層16の厚み方向Zにおける位置が同じであり且つ面方向Xにおける位置の異なる、複数領域からなる構成であってもよい。
【0037】
第3電極20は、有機変換層16の厚み方向Zに貫通する、1または複数の貫通孔20Aを有することが好ましい。
【0038】
第3電極20が貫通孔20Aを有すると、有機変換層16でγ線のエネルギーを電荷に変換することを抑制することができる。このため、有機変換層16が、γ線以外の他の放射線L(β線、α線、中性子線など)のエネルギーを選択的に電荷に変換することができる。これは、有機変換層16内に入射した放射線Lに含まれるγ線が、第3電極20にあたって有機変換層16を非透過となり、有機変換層16で電荷に変換されることを抑制することができるためと考えられる。
【0039】
なお、第3電極20が複数の貫通孔20Aを有する場合、複数の貫通孔20Aは、互いに同じ大きさで、且つ同じ間隔を隔てて面方向Xに沿って均一に配列されていることが好ましい。すなわち、第3電極20は、複数の貫通孔20Aによって、網目状のシートとして構成されていることが好ましい。なお、貫通孔20Aの形状は限定されない。例えば、貫通孔20Aの形状は、円形状、矩形状、の何れであってもよい。
【0040】
第3電極20の構成材料は、導電性を有し、且つ、第3電極20に入射する放射線Lを透過する材料であればよい。
【0041】
なお、第3電極20は、導電性炭素材料から構成することが好ましい。第3電極20を導電性炭素材料から構成することで、有機変換層16がγ線のエネルギーを電荷に変換することを抑制することができる。
【0042】
例えば、第3電極20は、炭素繊維、カーボンペーパー、多孔質炭素シート、活性炭シート、およびグラフェンの少なくとも1種以上から構成すればよい。
【0043】
基板18は、検出素子10における基板18以外の構成部を支持可能な部材であればよい。基板18は、例えば、シリコン基板であるが、これに限定されない。
【0044】
次に、電圧印加部22について説明する。電圧印加部22は、第1電極12にバイアスを印加する。本実施の形態では、電圧印加部22は、第1電極12にバイアスを印加すると共に、抵抗R1を介して第3電極20に電圧を印加する。
【0045】
このため、第3電極20には、第1電極12に印加される電圧以下の電圧が印加されることとなる。なお、第1電極12と第3電極20との第1電位差は、第2電極14と第3電極20との第2電位差より大きいことが好ましい。このような電位差は、第1電極12、第3電極20、および第2電極14の少なくとも1つに印加される電圧の電圧値を調整することで、実現可能である。
【0046】
本実施の形態では、第2電極14は接地されている。また、第3電極20は抵抗R1を介して電圧印加部22に接続されている。また、第1電極12は、電圧印加部22に接続されている。このため、電圧印加部22から第1電極12、および抵抗R1を介して第3電極20に電圧を印加することで、第1電極12と第3電極20との第1電位差を、第2電極14と第3電極20との第2電位差より大きくすることができる。
【0047】
検出部24は、第1電極12から出力される出力信号を検出する。出力信号は、有機変換層16で変換された電荷量を示す信号である。言い換えると、出力信号は、有機変換層16で検出された、放射線Lの検出エネルギーである。検出部24は、有機変換層16で検出された電荷の電荷量を、チャージアンプなどで計測可能な信号に変換することで、出力信号とする。なお、本実施の形態では、説明を簡略化するために、検出部24では、第1電極12から出力信号を受付けるものとして説明する。
【0048】
検出部24は、第1電極12から受付けた出力信号に基づいて、放射線Lの検出エネルギーを導出する。検出エネルギーの導出には、公知の方法を用いればよい。
【0049】
―検出器30の作製方法―
次に、検出器30の作製方法を説明する。検出器30の作製方法は限定されない。例えば、検出器30は、以下の手順で作製する。
【0050】
まず、検出素子10を作製する。基板18上に第1電極12を積層し、第1電極12上に、薄い有機変換層16A、第3電極20、有機変換層16Aより厚い有機変換層16B、第2電極14、をこの順に積層する。なお、有機変換層16Aおよび有機変換層16Bは、有機変換層16の一部である。有機変換層16Aは、有機変換層16における、第1電極12と第3電極20との間の層を示す。また、有機変換層16Bは、有機変換層16における、第3電極20と第2電極14との間の層を示す。
【0051】
第1電極12、有機変換層16(有機変換層16A、有機変換層16B)、第3電極20、第2電極14、の積層方法には、公知の成膜方法や公知の作製方法を用いればよい。
【0052】
そして、第1電極12を電圧印加部22および検出部24に電気的に接続する。また、第3電極20を、抵抗R1を介して電圧印加部22に電気的に接続する。また、第2電極14を接地する。これらの手順により、検出器30を作製する。
【0053】
―検出素子10の作用−
次に、検出素子10の作用について説明する。
【0054】
検出素子10に放射線Lが入射し、有機変換層16へ到る。有機変換層16に到った放射線Lによって、有機変換層16内に電子eと正孔hの電子−正孔対が発生する。詳細には、有機変換層16内における、有機変換層16の厚み方向Zおよび面方向Xの様々な位置で、電子−正孔対が発生する。発生した電子−正孔対における正孔hは、第2電極14側へ移動し、電子eは、第1電極12側へ移動する。
【0055】
本実施の形態では、有機変換層16内に第3電極20が設けられている。このため、有機変換層16内における、第2電極14と第3電極20との電極間の電場より、バイアスを印加される第1電極12と第3電極20との電極間の電場が強い。
【0056】
図2は、検出素子10の電場の一例を示す図である。なお、有機変換層16における第2電極14側端部(すなわち入射面Sの位置)を、厚み方向Zの位置z=0として示した(
図1も参照)。また、有機変換層16における第1電極12側端面(端面Nの位置)を、厚み方向Zの位置z=1として示した。また、第3電極20の、有機変換層16の厚み方向Zにおける位置を、位置z=Pとして示した。但し、位置z=Pは、0<P<1の関係を示す。なお、後述する図中の“z”も同様の意味である。
【0057】
図2に示すように、第2電極14と第3電極20との電極間の電場42Aに比べて、第3電極20と第1電極12との電極間の電場42Bが、強い。
【0058】
よって、第1電極12、第3電極20、および第2電極14の各々の電極間の電位は、
図3に示すものとなる。
図3は、検出素子10の電位の一例を示す図である。
図3に示すように、第1電極12と第3電極20との第1電位差M1は、第2電極14と第3電極20との第2電位差M2より大きい。また、第1電極12と第3電極20との間の電位を示す線40Aの傾きに比べて、第3電極20と第1電極12との間の電位を示す線40Bの傾きが大きい。なお、これらの線40(線40A、線40B)の傾きは、有機変換層16内における厚み方向Zの単位距離あたりの電位差に対応する。
【0059】
ここで、有機変換層16内の厚み方向Zの単位距離あたりの電位差(線40の傾き)が小さいほど、正孔hが第2電極14にたどり着く前にエネルギーを失って消滅する事を抑制することができる。すなわち、電子eのみが第1電極12に到達することを抑制することができる。
【0060】
しかし、第1電極12と第2電極14との電極間の電位差を、正孔hの消滅を防ぐ程度に小さくなるように調整するために、第1電極12側の電位を小さくすると、検出精度が低下する。これは、第1電極12から出力される出力信号に含まれるノイズ成分と、該出力信号に含まれる放射線Lのエネルギー成分と、を区別することが不可能となるためである。このため、出力信号に含まれるノイズ成分と、出力信号に含まれる放射線Lのエネルギー成分と、を分離する観点から、第2電極14の電位を“0”と仮定した場合、第1電極12側の電位は、予め定めた値以上とする必要がある(例えば、電位E2)。このため、第1電極12と第2電極14との電極間の電位差を、正孔hの消滅を防ぐ程度に小さくなるように調整すると、検出精度の低下が発生する。
【0061】
本実施の形態では、有機変換層16内に、第3電極20が設けられている。このため、第3電極20と第1電極12との第1電位差M1が、第2電極14と第3電極20との第2電位差M2より大きくなる。
【0062】
このため、本実施の形態の検出素子10では、有機変換層16内における、第2電極14と第3電極20との間の領域において、正孔hが第2電極14にたどり着く前にエネルギーを失って消滅する事を抑制することができる。また、第3電極20と第1電極12との第2電位差M2が第1電位差M1より大きいことから、ノイズ成分を分離可能な程度の強度の、出力信号が得られる。
【0063】
また、第3電極20と第1電極12との第2電位差M2が第1電位差M1より大きいことから、以下の効果が得られる。すなわち、有機変換層16内における、第2電極14と第3電極20との間の領域内で発生した電子−正孔対の電子eと、第3電極20と第1電極12との間の領域内で発生した電子−正孔対の電子eと、の双方が第1電極12へ到達することとなる。同様に、本実施の形態の検出素子10では、有機変換層16内の第2電極14と第3電極20との間の領域内で発生した電子−正孔対の正孔hと、第3電極20と第1電極12との間の領域内で発生した電子−正孔対の正孔hと、の双方が、消滅を抑制された状態で第1電極12へ到達することとなる。よって、本実施の形態の検出素子10では、有機変換層16内で発生した電子−正孔対の数を、より正確に示す出力信号が第1電極12から出力され、放射線Lの検出感度向上を図ることができる。
【0064】
このため、本実施の形態の検出素子10では、第1電極12から出力される出力信号に、有機変換層16の厚み方向Zにおける電子−正孔対の発生位置に関する位置依存性が含まれることを抑制することができる。
【0065】
図4は、本実施の形態の有機変換層16における、電子−正孔対の発生位置に対する出力波形の一例を示す図である。
図4には、100組の電子−正孔対の発生位置が、有機変換層16の厚み方向Zにおける第1電極12側に近いz=0.8である場合の出力波形48を示した。また、
図4には、100組の電子−正孔対の発生位置が、有機変換層16の厚み方向における第2電極14に近いz=0.1である場合の出力波形46を示した。なお、出力波形は、出力信号によって示される波形である。
【0066】
図4に示すように、本実施の形態の有機変換層16では、第1電極12から出力される出力信号に対する、有機変換層16の厚み方向Zにおける電子−正孔対の発生位置に関する位置依存性が、抑制されるといえる。
【0067】
一方、第3電極20を備えない従来の検出素子では、第1電極12から出力される出力信号に対する、有機変換層16の厚み方向Zにおける電子−正孔対の発生位置に関する位置依存性を抑制することは困難であった。
【0068】
図5は、比較検出器300の一例を示す模式図である。比較検出器300は、従来の検出器である。
【0069】
比較検出器300は、比較検出素子100と、電圧印加部22と、検出部24と、を備える。電圧印加部22および検出部24の機能は、本実施の形態の検出器30と同様である。
【0070】
比較検出素子100は、従来の検出素子である。比較検出素子100は、基板18と、第1電極12と、有機変換層16と、第2電極14と、を備える。比較検出素子100は、本実施の形態の第3電極20を備えない点以外は、検出素子10と同様の構成である。
【0071】
図6は、比較検出素子100の電場の一例を示す図である。第3電極20を備えない場合、有機変換層16内における第2電極14と第1電極12との電極間の電場は、略一定となる。
【0072】
このため、比較検出素子100の有機変換層16内の電位は、
図7に示すものとなる。
図7は、比較検出素子100の電位の一例を示す図である。
図7に示すように、第1電極12と第2電極14との間の電位を示す線400の傾きは、略一定となる。
【0073】
このため、従来の比較検出素子100では、正孔hが第2電極14にたどり着く前にエネルギーを失って消滅する事を抑制することは困難であった。
【0074】
また、γ線の検出を抑制し、γ線以外の放射線L(例えば、β線)の検出感度を改善させるために、比較検出素子100の有機変換層16の厚みを、上述した十分な厚みとした場合を想定する。この場合、γ線以外の放射線(例えば、β線)により発生する電子−正孔対の数を増加させることは可能である。しかし、従来の比較検出素子100では、有機変換層16の厚みが厚いほど、第2電極14にたどり着く前にエネルギーを失って消滅する正孔hの数も多くなる。このため、従来の比較検出素子100では、出力信号に対する、有機変換層16の厚み方向Zにおける電子−正孔対の発生位置に関する位置依存性が、有機変換層16の厚みが厚いほど大きくなっていた。
【0075】
図8は、従来の比較検出素子100における、電子−正孔対の発生位置に対する出力波形の一例を示す図である。
図8には、100組の電子−正孔対の発生位置が、有機変換層16の厚み方向Zにおける第1電極12側に近いz=0.8である場合の出力波形480を示した。また、
図8には、100組の電子−正孔対の発生位置が、有機変換層16の厚み方向における第2電極14に近いz=0.1である場合の出力波形460を示した。
【0076】
図8に示すように、従来の比較検出素子100では、第1電極12から出力される出力信号に対する、有機変換層16の厚み方向Zにおける電子−正孔対の発生位置に関する位置依存性が大きいことが分かる。一方、
図4を用いて説明したように、本実施の形態の検出素子10では、有機変換層16の厚み方向Z方向における電子−正孔対の発生位置に関する位置依存性を抑制することができた。
【0077】
以上説明したように、本実施の形態の検出素子10は、第1電極12と、第2電極14と、有機変換層16と、第3電極20と、を備える。第1電極12は、バイアスを印加される。有機変換層16は、第1電極12と第2電極14との間に配置され、放射線Lのエネルギーを電荷に変換する。第3電極20は、有機変換層16内に設けられている。
【0078】
このため、本実施の形態の検出素子10では、第1電極12から出力される出力信号に、有機変換層16の厚み方向Zにおける電子−正孔対の発生位置に関する位置依存性が含まれることを抑制することができる。よって、本実施の形態の検出素子10では、比較検出素子100に比べて、有機変換層16内で発生した電子−正孔対の数を、より正確に示す出力信号が第1電極12から出力される。
【0079】
従って、本実施の形態の検出素子10は、放射線Lの検出感度向上を図ることができる。
【0080】
(第2の実施の形態)
本実施の形態では、有機変換層16内に、更に電極を備えた構成を説明する。
【0081】
図9は、本実施の形態の検出器50の一例を示す模式図である。なお、第1の実施の形態の検出器50と同じ機能構成部分には、同じ符号を付与し、詳細な説明を省略する。
【0082】
検出器50は、検出素子60と、電圧印加部22と、検出部24と、を備える。検出素子60と、電圧印加部22と、検出部24と、は電気的に接続されている。電圧印加部22および検出部24は、第1の実施の形態と同様である。
【0083】
検出素子60は、基板18と、第1電極12と、第2電極14と、有機変換層16と、第3電極20と、第4電極21と、を備える。基板18、第1電極12、第2電極14、有機変換層16、および第3電極20は、第1の実施の形態と同様である。すなわち、本実施の形態の検出素子60は、第1の実施の形態の検出素子10に、第4電極21を更に備えた構成である。
【0084】
第4電極21は、有機変換層16内における、第3電極20と第2電極14との間に配置されている。第3電極20と第2電極14との間には、1つの第4電極21が配置されていてもよいし、有機変換層16の厚み方向Zにおける位置が互いに異なる複数の第4電極21が配置されていてもよい。
【0085】
本実施の形態では、第3電極20と第2電極14との間に、第4電極21Aおよび第4電極21Bの2つの第4電極21(第4電極21A、第4電極21B)が配置された形態を、一例として説明する。第4電極21Aと第4電極21Bは、厚み方向Zにおける位置が互いに異なる。第4電極21Aは、第4電極21Bより第3電極20側に設けられている。第4電極21Bは、第4電極21Aより第2電極14側に設けられている。なお、第3電極20と第2電極14との間には、3つ以上の第4電極21が配置されていてもよい。
【0086】
本実施の形態では、第4電極21は、抵抗Rを介して電圧印加部22に電気的に接続されている。具体的には、第4電極21Aは、抵抗R2および抵抗R1を介して電圧印加部22に接続されている。第4電極21Bは、抵抗R3、抵抗R2、および抵抗R1を介して電圧印加部22に接続されている。
【0087】
なお、第4電極21の各々は、電圧印加部22とは異なる電圧を印加可能な電圧印加部に接続されていてもよく、また、接地されていてもよい。
【0088】
第4電極21は、有機変換層16における、放射線Lの入射面Sに沿ったシート状の電極である。有機変換層16内の第2電極14と第3電極20との間における、厚み方向Zの第4電極21の位置は限定されない。また、有機変換層16内に複数の第4電極21が配置された構成の場合、これらの複数の第4電極21の間の間隔も限定されない。
【0089】
なお、複数の第4電極21の内の少なくとも1つが、有機変換層16における面方向Xの一部を占めるように配置されてもよい。言い換えると、複数の第1電極12の内の少なくとも1つが、有機変換層16における面方向Xの全領域に渡って配置されてもよい。
【0090】
第4電極21は、第3電極20と同様に、有機変換層16の厚み方向Zに貫通する1または複数の貫通孔23を有することが好ましい。すなわち、第4電極21は、複数の貫通孔23によって、網目状のシートとして構成されていることが好ましい。なお、貫通孔23の形状は限定されない。
【0091】
第4電極21の構成材料は、第3電極20と同様に、導電性を有し、且つ、第4電極21に入射する放射線Lを透過する材料であればよい。また、第4電極21は、第3電極20と同様に、導電性炭素材料から構成することが好ましい。
【0092】
なお、第4電極21と第3電極20との第1電位差は、第3電位差、第4電位差、および第5電位差より大きいことが好ましい。
【0093】
第3電位差は、第2電極14と、該第2電極14に隣接する第4電極21との間の電位差である。第2電極14に隣接する第4電極21とは、複数の第4電極21の内、最も第2電極14に近い位置に配置された1つの第4電極21を示す。このため、
図9に示す例の場合、第2電極14に隣接する第4電極21は、第4電極21Bである。
【0094】
第4電位差は、複数の第4電極21(第4電極21A、第4電極21B)の電極間の電位差である。なお、3つ以上の第4電極21が配置されている場合、複数の第4電極21の電極間とは、隣接する第4電極21の電極間の各々を示す。
【0095】
第5電位差は、第3電極20と第3電極20に隣接する第4電極21との電極間の電位差である。第3電極20に隣接する第4電極21とは、複数の第4電極21の内、最も第3電極20に近い位置に配置された1つの第4電極21を示す。このため、
図9に示す例の場合、第3電極20に隣接する第4電極21は、第4電極21Aである。
【0096】
このような電位差は、第1電極12、第3電極20、1または複数の第4電極21、および第2電極14の少なくとも1つに印加される電圧の電圧値を調整することで、実現可能である。
【0097】
本実施の形態では、第2電極14は接地されている。第1電極12は、電圧印加部22に接続されている。第3電極20は抵抗R1を介して電圧印加部22に接続されている。第4電極21Aは、抵抗R2および抵抗R1を介して電圧印加部22に接続されている。第4電極21Bは、抵抗R3、抵抗R2、および抵抗R1を介して電圧印加部22に接続されている。
【0098】
このため、本実施の形態の検出素子60では、第1電位差、第3電位差、第4電位差、および第5電位差が、上記関係を満たすように調整される。
【0099】
−検出素子60の作用−
次に、検出素子60の作用について説明する。
【0100】
検出素子60に放射線Lが入射し、有機変換層16へ到る。有機変換層16に到った放射線Lによって、有機変換層16内に電子eと正孔hの電子−正孔対が発生する。詳細には、有機変換層16内における、有機変換層16の厚み方向Zおよび面方向Xの様々な位置で、電子−正孔対が発生する。発生した電子−正孔対における正孔hは、第2電極14側へ移動し、電子eは、第1電極12側へ移動する。
【0101】
本実施の形態では、有機変換層16内に第3電極20が設けられている。このため、有機変換層16内における、第2電極14と第3電極20との電極間の電場より、バイアスを印加される第1電極12と第3電極20との電極間の電場が強い。
【0102】
また、本実施の形態では、有機変換層16における、第3電極20と第2電極14の間に、1または複数の第4電極21が設けられている。このため、有機変換層16内における、第2電極14と第3電極20との間の領域の電場の強さが、第2電極14側から第3電極20へ向かって段階的にまたは連続的に強くなるように、調整される。
【0103】
よって、第1電極12、第3電極20、第4電極21(第4電極21A、第4電極21B)、および第2電極14の各々の電極間の電位は、
図10に示すものとなる。
【0104】
図10は、検出素子60の電位の一例を示す図である。
【0105】
なお、有機変換層16における第2電極14側端部(すなわち入射面Sの位置)を、厚み方向Zの位置z=0として示した(
図9も参照)。また、有機変換層16における第1電極12側端面(端面Nの位置)を、厚み方向Zの位置z=1として示した。また、第3電極20の、有機変換層16の厚み方向Zにおける位置を、位置z=Pとして示した。但し、位置z=Pは、0<P<1の関係を示す。また、第4電極21Aの、有機変換層16の厚み方向Zにおける位置を、位置z=Aとして示した。また、第4電極21Bの、有機変換層16の厚み方向Zにおける位置を、位置z=Bとして示した。
【0106】
図10に示すように、第1電極12と第3電極20との第1電位差M1は、第2電極14と第3電極20との第2電位差M2より大きい。また、第1電位差M1は、第3電位差M3、第4電位差M4、および第5電位差M5より大きい。
【0107】
すなわち、第1電極12と第3電極20との間の電位を示す線40A’の傾きに比べて、第3電極20と第1電極12との間の電位を示す線40B’の傾きが大きい。
【0108】
また、第2電極14と第3電極20との間に1または複数の第4電極21(第4電極21A、第4電極21B)が設けられたことによって、第2電極14と第3電極20との間の電位を示す線40A’の傾きを、より均一とすることができる。
【0109】
このため、本実施の形態の検出素子60では、上記第1の実施の形態の検出素子10に比べて、更に、有機変換層16内で発生した電子−正孔対における正孔hが第2電極14にたどり着く前にエネルギーを失って消滅する事を抑制することができる。
【0110】
すなわち、本実施の形態の検出素子60では、第1電極12から出力される出力信号に、有機変換層16の厚み方向Zにおける電子−正孔対の発生位置に関する位置依存性が含まれることを、更に抑制することができる。
【0111】
従って、本実施の形態の検出素子60は、第1の実施の形態の効果に加えて、放射線Lの検出感度向上を、更に図ることができる。
【0112】
なお、上記実施の形態で説明した検出素子10および検出素子60の適用範囲は、限定されない。例えば、検出素子10および検出素子60は、放射線Lを検出する各種の装置に適用可能である。具体的には、検出素子10および検出素子60は、サーベイメータなどに適用できる。
【0113】
以上、本発明の実施の形態を説明したが、これらの実施の形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施の形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施の形態は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。