(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記算出部は、前記監視項目毎に前記標準値の前記標準偏差に対し現在から前記第二過去所定期間において蓄積された前記計測データを用いて算出した重み付けの係数を外乱の影響の大きさに応じて変更して設定し各前記監視項目の前記許容範囲を算出する請求項1に記載の状態診断装置。
前記評価部は、現在の前記監視項目の前記計測データと、該監視項目の前記許容範囲とを比較し、該計測データが該許容範囲外であった場合に異常の兆候ありと判定する請求項1または請求項2に記載の状態診断装置。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来の閾値を超えた場合に異常を報知する方法では、対象の機器の特性に依らず、予め一意に定められた閾値以下であることを監視するのみであることから、機器の状態変化を検知できず、機器の不調の兆候を見逃す場合がある。不調の予兆を見逃したまま運転を継続することで、最終的に機器停止に陥り、機器が損傷する可能性がある。
また、上記特許文献1に開示された発明では、稼働初期の状態データを基準データとして用いているため、常に初期の状態データとの比較となり経年的な変化を捉えることができず、経年劣化予測を行うことが困難である。そのため、運転状態の変化が経年的劣化によるものか、運転状態の一時的な要因(例えばオペレーションミスなど)によるものか等、いずれの外因に依る変化であるかの判断が難しいという問題があった。
【0005】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであって、診断対象の状態を監視して不調を予見し、また経年劣化の予測が可能な状態診断装置、状態診断方法、及び状態診断プログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明の状態診断装置、状態診断方法、及び状態診断プログラムは以下の手段を採用する。
本発明の第一態様に係る状態診断装置は、診断対象の機器についての複数の監視項目における計測データを逐次収集し、蓄積する計測データ収集部と
、前記計測データ収集部に随時蓄積される前記計測データのうち現在から第一過去所定期間において蓄積された前記計測データを用いて
各前記監視項目の標準値及び
該標準値の標準偏差を随時更新する算出部と
、前記機器の状態を評価する評価部と、を備え、第二過去所定期間は、前記第一過去所定期間よりも長い期間であり、前記算出部は、
前記計測データ収集部に随時蓄積される前記計測データのうち現在から前記第二過去所定期間において蓄積された前記計測データを用いて所定の重み付けを
随時更新し、前記監視項目毎に前記標準値の前記標準偏差に対し前記所定の重み付けを設定し
、各前記監視項目の前記標準値と、該標準値の前記標準偏差と、該標準偏差に設定された前記所定の重み付けと、に基づき各前記監視項目の許容範囲を算出
して前記許容範囲を随時更新し、前記評価部は、前記算出部が算出した前記許容範囲を用いて前記機器の状態を評価する。
【0007】
本態様によれば、診断対象の機器についての複数の監視項目における計測データを逐次収集し、蓄積する計測データ収集部と、該計測データ収集部に蓄積された前記計測データから算出する各前記監視項目の標準値と該標準値の標準偏差に基づき各前記監視項目の許容範囲とを算出し、前記計測データ収集部に随時蓄積される前記計測データのうち現在から第一過去所定期間において蓄積された前記計測データを用いて前記標準値及び前記許容範囲を随時更新する算出部と、前記算出部が算出した前記許容範囲を用いて前記機器の状態を評価する評価部と、を備え、第二過去所定期間は、前記第一過去所定期間よりも長い期間であり、前記算出部は、前記監視項目毎に前記標準値の前記標準偏差に対し現在から前記第二過去所定期間において蓄積された前記計測データを用いて所定の重み付けを設定して各前記監視項目の前記許容範囲を算出するため、診断対象の機器の状態変化を捉え、機器の状態異常を短・中・長期に監視できることから、短期的には異常発生の検知、また中・長期的には経年変化の定量的把握を行い、中・長期的なメンテナンス及び経年劣化予測の指針とすることができる。
また、従来正常状態であるにもかかわらず定期点検でメンテナンスが行われる事が発生する場合があったが、許容範囲内であることが確認され異常が発生しておらずメンテナンスの必要がない機器に対する点検を省略し、メンテナンスにかかるコストを最小限に抑えることができる。
また、現在から前記第二過去所定期間において蓄積された前記計測データを用いて各監視項目毎に前記標準値の前記標準偏差に所定の重み付けを設定して各前記監視項目の前記許容範囲を算出する。標準偏差をとることにより不連続点の存在する計測データを扱うことが可能である。また、各監視項目にて異なる状態に応じて第一過去所定期間よりも長い第二過去所定期間における計測データに基づき重み付けを行うことから、長いレンジで蓄積された計測データに基づくため、計測データの傾向を許容範囲に付与するとともに、瞬間的に発生する計測データの揺れを許容範囲から除外することができる。また、各監視項目毎にきめ細かく許容範囲を設定し、実情に即した状態診断を行うことができる。
【0008】
上記第一態様では、前記算出部は、前記監視項目毎に前記標準値の前記標準偏差に対し現在から前記第二過去所定期間において蓄積された前記計測データを用いて算出した重み付けの係数を外乱の影響の大きさに応じて変更して設定するとしてもよい。
【0009】
本態様によれば、前記算出部は、前記監視項目毎に前記標準値の前記標準偏差に対し現在から前記第二過去所定期間において蓄積された前記計測データを用いて算出した重み付けの係数を外乱の影響の大きさに応じて変更して設定し各前記監視項目の前記許容範囲を算出するため、診断対象の機器の状態変化を捉え、機器の状態異常を短・中・長期に監視できることから、短期的には異常発生の検知、また中・長期的には経年変化の定量的把握を行い、中・長期的なメンテナンス及び経年劣化予測の指針とすることができる。
また、監視項目のうち外乱の影響の大きさに応じて重み付けの係数を変更して設定することから、外乱からの影響を受けやすい監視項目には重み付けの係数を外乱の影響を受けにくい項目と比較して相対的に大きく設定し実情に即した状態診断を行うことができる。また外乱からの影響を受けにくい監視項目に対し重み付けの係数を相対的に小さく設定することで、許容範囲を狭く設定することができる。さらに重み付けを省略する場合は、不必要な算出工程を省くことができる。また各々標準値の標準偏差をとることから、不連続点の存在する計測データを扱うことが可能である。
【0010】
上記第一態様では、前記評価部は、現在の前記監視項目の前記計測データと、該監視項目の前記許容範囲とを比較し、該計測データが該許容範囲外であった場合に異常の兆候ありと判定するとしてもよい。
【0011】
本態様によれば、前記評価部は、現在の前記監視項目の前記計測データと、該監視項目の前記許容範囲とを比較し、該計測データが該許容範囲外であった場合に異常の兆候ありと判定することから、時系列で動的に変化する許容範囲を用いて診断対象の機器の状態変化を監視するため、正常状態から異常状態へ変化するその途中経過を把握することができる。これにより、異常の兆候を検知することができ、異常が発生する前の段階で的確な措置を講じ不具合を未然に防止することができる。また、診断対象の機器から実際に取得したデータを用いて許容範囲を設定するため、各機器に適した範囲を設定することができる。
【0012】
上記第一態様では、現在の前記監視項目の前記計測データが前記許容範囲外である場合に報知を行う報知部を備えるとしてもよい。
【0013】
本態様によれば、現在の前記監視項目の前記計測データが前記許容範囲外である場合に報知を行う報知部を備えることから、明確に異常の兆候を報知し、異常が報知された機器についてメンテナンスを迅速に促すことができ、故障や損傷が発生する前に必要な対策を講じることができる。
【0014】
本発明の第二態様に係る状態診断方法は、診断対象の機器についての複数の監視項目における計測データを逐次収集し、蓄積する計測データ収集工程と
、前記計測データ収集工程にて随時蓄積される前記計測データのうち現在から第一過去所定期間において蓄積された前記計測データを用いて
各前記監視項目の標準値及び
該標準値の標準偏差を随時更新する算出工程と
、前記機器の状態を評価する評価工程と、を備え、第二過去所定期間は、前記第一過去所定期間よりも長い期間であり、前記算出工程では、
前記計測データ収集工程にて随時蓄積される前記計測データのうち現在から前記第二過去所定期間において蓄積された前記計測データを用いて所定の重み付けを
随時更新し、前記監視項目毎に前記標準値の前記標準偏差に対し前記所定の重み付けを設定し
、各前記監視項目の前記標準値と、該標準値の前記標準偏差と、該標準偏差に設定された前記所定の重み付けと、に基づき各前記監視項目の前記許容範囲を算出
して前記許容範囲を随時更新し、前記評価工程では、前記算出工程で算出した前記許容範囲を用いて前記機器の状態を評価する。
【0015】
本発明の第三態様に係る状態診断プログラムは、診断対象の機器についての複数の監視項目における計測データを逐次収集し、蓄積する計測データ収集ステップと
、前記計測データ収集ステップにて随時蓄積される前記計測データのうち現在から第一過去所定期間において蓄積された前記計測データを用いて
各前記監視項目の標準値及び
該標準値の標準偏差を随時更新する算出ステップと
、前記機器の状態を評価する評価ステップと、を備え、第二過去所定期間は、前記第一過去所定期間よりも長い期間であり、前記算出ステップでは、
前記計測データ収集ステップにて随時蓄積される前記計測データのうち現在から前記第二過去所定期間において蓄積された前記計測データを用いて所定の重み付けを
随時更新し、前記監視項目毎に前記標準値の前記標準偏差に対し前記所定の重み付けを設定し
、各前記監視項目の前記標準値と、該標準値の前記標準偏差と、該標準偏差に設定された前記所定の重み付けと、に基づき各前記監視項目の許容範囲を算出
して前記許容範囲を随時更新し、前記評価ステップでは、前記算出ステップで算出した前記許容範囲を用いて前記機器の状態を評価する。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、各機器に対応し逐次更新される許容範囲に基づき機器の状態を監視するので、異常発生を未然に防ぐことができるとともに、経年変化を把握することができる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下に、本発明に係る状態診断装置、状態診断方法、及び状態診断プログラムの一実施形態について、図面を参照して説明する。なお、以下の実施形態においては、本発明の状態診断装置を舶用主機タービンの状態診断に適用した場合について説明する。
【0019】
図1には、本実施形態に係る状態診断装置の概略構成がブロック図にて示されている。
図1に示されるように、状態診断装置1は、計測データ収集部12と、算出部14と、評価部15とを主な構成として備えている。
【0020】
計測データ収集部12には、舶用主機タービンの各部に取り付けられたセンサから計測データがリアルタイムで送信される。これにより、計測データ収集部12には、各監視項目における計測データ、つまり、主軸回転数、主機出力、タービン軸受温度、タービン振動値、タービン軸位置、タービン内部蒸気温度、タービン内部蒸気圧力などの計測データが逐次蓄積される。
【0021】
算出部14は、各監視項目の計測データを用いて、各監視項目の許容範囲を設定する。具体的には、算出部14は、各監視項目における計測データの標準値と標準偏差と重み付けの係数とから許容範囲を設定する。
ここで、標準値とは、所定の期間における計測データの基準となる値であり、本実施形態では所定の期間における計測データの平均値としている。
また、計測データが線型である場合は、標準値に対し所定の値を減算した値から標準値に対し所定の値を加算した値までの範囲を許容範囲とすればよい。しかし、特に舶用主機タービンの場合は、港湾における航行と外洋における航行との切り替えなどにより不連続点が生じ、線型とならない。そこで標準値の標準偏差をとることにより、計測データが不連続な値であっても適切な許容範囲を設定することができる。
さらに、重み付けは、各監視項目に対応する係数を付与するものであり、外乱など標準偏差のみでは現れない要因に対し重みを付けるものである。
例えば、算出部14は、各監視項目に対応する重み付けの係数αを有しており、重み付けの係数αに標準偏差σを乗じた値を平均値μから減算した値を許容範囲の下限値に、係数αに標準偏差σを乗じた値を平均値μに加算した値を許容範囲の上限値に設定する。
【0022】
上記許容範囲を式で表わすと以下の通りである。
下限値:μ−α*σ
上限値:μ+α*σ
【0023】
また、算出部14は、計測データ収集部12によって収集された現在から第一過去所定期間における計測データを用いて標準値及び標準偏差を更新する。また現在から第二過去所定期間における計測データを用いて重み付けの係数を更新する。そしてこれらの値を用いて所定の時間間隔で許容範囲を更新する。これにより、許容範囲は、新しい計測データを常に取り入れた形で随時更新されることとなる。
【0024】
ここで、第一過去所定期間は、例えば一度の航海期間(一の航路を運航するのに要する期間)であるとする。これにより、停泊、港湾航行、外洋航行、港湾航行、停泊、と、タービンの低負荷から高負荷まで、換言すると回転数の低回転数から高回転数まで、数値を網羅するようにサンプリングすることが可能であるため、適切に許容範囲を更新することができる。
【0025】
また第二過去所定期間は、第一過去所定期間よりも長い期間であり、例えば少なくとも1年以上、さらに好適には1年程度が設定される。季節性のある外乱(気温・海水温・海象など)が機器に及ぼす影響は、この外乱の周年変化に伴い変化する。そこで、第二過去所定期間に少なくとも1年以上の期間を設定することにより、季節性のある外乱の影響を含む計測データを用いて重み付けの係数を更新するものとする。このように、季節性の変化による影響を含めた計測データによって適切に許容範囲を更新することができる。但し、第二過去所定期間を2年以上など長く設定すると、経年劣化を含む許容範囲となるため、1年程度が好適である。
このように設定された第二過去所定期間における計測データに基づき重み付けの係数の更新を行い、許容範囲が更新される。第二過去所定期間における計測データを用いた重み付けにより、気温・海水温・海象などの季節性のある外乱の影響を受けた現在の計測データ(本来、異常と判定すべきではない計測データ)が異常と判定されないような許容範囲が設定される。
【0026】
評価部15は、算出部14によって設定された各監視項目の許容範囲を用いて、機器の状態評価を行う。具体的には、評価部15は、現在の監視項目の計測データと、該計測データが該当する許容範囲とを比較し、現在の計測データが許容範囲外であった場合に異常の兆候を検知したとして、その旨を作業員に報知する。
【0027】
状態診断装置1は、例えば、CPU(Central Processing Unit)、RAM(Random Access Memory)、ROM(Read Only Memory)、及びコンピュータ読み取り可能な記憶媒体等から構成されている。そして、各種機能を実現するための一連の処理は、一例として、プログラムの形式で記憶媒体等に記憶されており、このプログラムをCPUがRAM等に読み出して、情報の加工・演算処理を実行することにより、各種機能が実現される。なお、プログラムは、ROMやその他の記憶媒体に予めインストールしておく形態や、コンピュータ読み取り可能な記憶媒体に記憶された状態で提供される形態、有線又は無線による通信手段を介して配信される形態等が適用されてもよい。コンピュータ読み取り可能な記憶媒体とは、磁気ディスク、光磁気ディスク、CD−ROM、DVD−ROM、半導体メモリ等である。
【0028】
次に、上記構成を備える本実施形態に係る状態診断装置1の作用について
図2を参照して説明する。
まず、診断対象の機器、ここでは主機または主機の周辺に取り付けられた各種センサによって検出された計測データが計測データ収集部12に収集される(
図2のステップSA1)。このようにして収集された各計測データは、計測データ収集部12において、その計測データが計測された時間情報が対応付けられて監視項目毎に格納される。
【0029】
続いて、算出部14において、監視項目毎の計測データの平均値である標準値、標準偏差及び重み付けの係数が算出され、これらの値を用いて監視項目毎に許容範囲が設定される(
図2のステップSA2)。これにより、各監視項目について許容範囲が設定される。
【0030】
図3に、主軸回転数に対するタービン振動値のマトリクスの一例を示す。
図3(a)及び(b)において、横1行目は主軸回転数、横2行目は各回転数におけるタービン振動値の平均値、横3行目以降は各回転数におけるタービン振動値の計測データである。主軸回転数は、10rpmから90rpmまで1rpm刻みで設定される。タービン振動値は、各回転数に対してそれぞれ取得番号No.1からNo.200まで200項取得され、No.1の計測データが最も古く、No.200の計測データが最も新しい。すなわち、本実施形態における第一過去所定期間は、No.1からNo.200までの計測データを計測する期間であるといえる。また、各回転数において、これらNo.1からNo.200までの計測データの平均値が取得される。このように、No.1からNo.200までの主軸回転数に対するタービン振動値の計測データが、標準値及び許容範囲を設定するための評価対象データとなる。
図3(a)では、それぞれの回転数に対し、全てNo.1からNo.200までタービン振動値の計測データが取得され、平均値が取得された状態である。
ここで、主軸回転数88rpmの運転にて新たにタービン振動値13μmの計測データが取得されると、
図3(b)に示されるようにNo.1の計測データが評価対象データから削除され(計測データ収集部12には蓄積(保存)されたままである)、No.2のデータからNo.200のデータがそれぞれNo.1からNo.199の欄に移動される。そして、最新のデータ13μmがNo.200に入力され、新たなNo.1からNo.200のデータにより平均値が11.1μmに更新される。
【0031】
図4に、主軸回転数に対するタービン振動値の標準値及び許容範囲の一例を示す。
図4(a)及び(b)において、横軸は主軸回転数(rpm)、縦軸はタービン振動値(μm)、実線はタービン振動値の標準値、点線はタービン振動値の許容範囲を示す。
図3に示されるように、逐次求められた標準値(平均値)は、滑らかな曲線となるように繋ぎ合わせられ、
図4の実線に示されるように連続的に設定される。
この標準値から標準偏差が算出され、標準偏差及び重み付けの係数から、
図4の点線に示される許容範囲が設定される。許容範囲についても、滑らかな曲線となるように繋ぎ合わせられ、連続的に設定される。
標準値および標準偏差は、
図3に示されるように最新の計測データ(評価対象データ)に基づき逐次更新され、許容範囲も逐次更新される。
【0032】
評価部15は、計測データ収集部12に収集される各監視項目の現在の計測データを算出部14によって設定された許容範囲と比較することにより、機器の状態を評価する(
図2のステップSA3)。例えば、現在の主軸回転数に対するタービン振動値の計測データが
図4(a)の黒丸であった場合には、評価部15は、主軸回転数に対応する許容範囲とタービン振動値の計測データとを比較する。
図4(a)の場合、計測データは許容範囲内であることから、異常の兆候は無いとされる。
一方、現在の主軸回転数に対するタービン振動値の計測データが
図4(b)の黒丸であった場合には、評価部15は、計測データが許容範囲外であることから、異常の兆候ありと判断して、その旨を報知する。
また、さらに従来から異常判定に用いられているアラーム設定値及びトリップ設定値が設定されており、タービン振動値の計測データがアラーム設定値またはトリップ設定値を超えた場合には、実際に異常が発生していると判定される。
【0033】
そして、上記ステップSA1からステップSA3の処理が繰り返し行われることにより、許容範囲が算出部14によって随時更新されるとともに、更新される許容範囲に基づく機器の状態評価が評価部15によって行われる。
【0034】
なお、算出部14による許容範囲の更新の時間間隔は、評価部15による状態評価の時間間隔と異なっていてもよいし、同じであってもよい。
正常な状態において、各監視項目における計測データが急激に変化することは通常考えにくいため、許容範囲の更新の時間間隔を、状態評価の時間間隔に比べて、十分長く設定することが好ましい。このようにすることで、許容範囲の更新を頻繁に行わなくてもよいので、処理負担を軽減することができる(例えば、初期設定は1秒以上30秒以下の間隔、好適には30秒間隔のサンプリングで3年間分のデータを保持)。
また、許容範囲の更新の時間間隔及び状態評価の時間間隔を同じ値とする場合は、計測データの計測と同時に許容範囲が更新されることとなる。この場合、許容範囲の更新及び状態評価の各データの更新時間間隔を個別に設定する必要がないため、管理が容易である(例えば、初期設定は数秒間隔、好適には1秒間隔のサンプリングで3年間分のデータを保持)。
【0035】
以上説明したように、本実施形態に係る状態診断装置1によれば、以下の作用効果を奏する。
診断対象の機器についての複数の監視項目における計測データを逐次収集し、蓄積する計測データ収集部12と、該計測データ収集部12に蓄積された計測データから算出する各監視項目の標準値と該標準値の標準偏差に基づき各監視項目の許容範囲とを算出し、計測データ収集部12に随時蓄積される計測データのうち現在から第一過去所定期間において蓄積された計測データを用いて標準値及び許容範囲を随時更新する算出部14と、算出部14が算出した許容範囲を用いて機器の状態を評価する評価部15と、を備え、第二過去所定期間は、前記第一過去所定期間よりも長い期間であり、算出部14は、監視項目毎に標準値の標準偏差に対し現在から第二過去所定期間において蓄積された計測データを用いて所定の重み付けを設定して各監視項目の許容範囲を算出するため、診断対象の機器の状態変化を捉え、機器の状態異常を短・中・長期に監視できることから、短期的には異常発生の検知、また中・長期的には経年変化の定量的把握を行い、中・長期的なメンテナンス及び経年劣化予測の指針とすることができる。
また、従来正常状態であるにもかかわらず定期点検でメンテナンスが行われる事が発生する場合があったが、許容範囲内であることが確認され異常が発生しておらずメンテナンスの必要がない機器に対する点検を省略し、メンテナンスにかかるコストを最小限に抑えることができる。
また、現在から第二過去所定期間において蓄積された計測データを用いて各監視項目毎に標準値の標準偏差に所定の重み付けを設定して各監視項目の許容範囲を算出する。標準偏差をとることにより不連続点の存在する計測データを扱うことが可能であり、また、各監視項目にて異なる状態に応じて第一過去所定期間よりも長い第二過去所定期間における計測データに基づき重み付けを行うことから、長いレンジで蓄積された計測データに基づくため、計測データの傾向を許容範囲に付与するとともに、瞬間的に発生する計測データの揺れを許容範囲から除外することができる。また、各監視項目毎にきめ細かく許容範囲を設定し、実情に即した状態診断を行うことができる。
【0036】
また、評価部15は、現在の監視項目の計測データと、該監視項目の許容範囲とを比較し、該計測データが該許容範囲外であった場合に異常の兆候ありと判定することから、時系列で動的に変化する許容範囲を用いて診断対象の機器の状態変化を監視するため、正常状態から異常状態へ変化するその途中経過を把握することができる。これにより、異常の兆候を検知することができ、異常が発生する前の段階で的確な措置を講じ不具合を未然に防止することができる。また、診断対象の機器から実際に取得したデータを用いて許容範囲を設定するため、各機器に適した範囲を設定することができる。
【0037】
なお、算出部14は、監視項目毎に標準値の標準偏差に対し現在から第二過去所定期間において蓄積された計測データを用いて算出した重み付けの係数を外乱の影響の大きさに応じて変更して設定するとしてもよい。
監視項目のうち、外乱の影響を受けやすい項目と受けにくい項目とが存在する。また外乱とは、海象、海水温、気象などであり、さらにタービン以外の蒸気プラントも外乱となり得る。
【0038】
海象、海水温、気象などを外乱とした場合に影響を受けやすい項目としては、主軸回転数に対するタービン振動値および減速装置振動値、及び主機出力に対する復水器真空度および主機トルクなどが挙げられる。
またタービン以外の蒸気プラントを外乱とした場合に影響を受けやすい項目としては、主機出力に対するタービン内部蒸気圧力およびタービン内部蒸気温度などが挙げられる。
これらの外乱の影響を受けやすい項目は、外乱により計測データに揺れ(ばらつき)が生じるため、標準偏差に対する重み付けの係数を外乱の影響を受けにくい項目と比較して相対的に大きく設定することで許容範囲を広く設定することができる。これにより、異常ではなく外乱によって許容範囲を超えることを極力抑えることができ、外乱による揺れを異常とせず評価部15による正しい判定が可能である。
【0039】
一方、監視項目のうち外乱の影響を受けにくい項目には、主軸回転数に対するタービン軸受排油温度、タービン軸受パッド温度、減速装置軸受排油温度およびLO圧力、及び主機出力に対するタービン軸位置、主スラスト軸位置およびノズル弁リフトなどが挙げられる。
これら外乱の影響を受けにくい項目は、外乱が生じても計測データの揺れはほぼ生じないため、標準偏差に対する重み付けの係数を小さく設定することで許容範囲を狭く設定することができる。例えば、外乱の影響を受けにくく、標準値からの乖離が小さくとも異常と判定する必要があるなど、計測データの値の変化を詳細に評価する必要がある場合には、重み付けの係数を小さく設定するとよい。これにより、評価部15による正しい判定が可能である。さらに、重み付けを省略する場合には、不必要な算出工程を省くことができる。
【0040】
また、
参考例として、評価部15は、上述した本実施形態で説明した評価方法に代えて、または、加えて、算出部14によって随時更新される標準値または許容範囲の変化に基づいて異常の兆候を判定することとしてもよい。
例えば、算出部14により随時更新される標準値を時系列で比較していき、今まで設定されてきた標準値の傾向と今回設定された標準値の傾向とが著しく異なっていた場合に異常の兆候を検知することとしてもよい。
【0041】
図5には、
参考例としての経年変化による標準値の監視例がグラフに示されている。
図5の横軸は監視項目である基準値、縦軸は評価値であり、実線は運転開始直後(例えば運転開始後6か月時点)の標準値、一点鎖線は運転開始後3年時点の標準値、点線は運転開始後5年時点の標準値、二点鎖線は運転開始後7年時点の標準値である。ここで、「運転開始」とは、機器の初めての運転開始時であるとする。
【0042】
図5に示されるように、運転開始直後の計測データを基にした基準値に対する評価値の標準値から運転開始後3年時点での標準値への変化、及び運転開始後3年時点での標準値から運転開始後5年時点での標準値への変化は、いずれも大きな変化はなく、経年劣化は線型的に進行しているものと考えられる。しかし、運転開始後5年時点での標準値から運転開始後7年時点での標準値へはその変化がそれまでと比較して大きな変化となっており、劣化による影響が急激に進行していることが予想される。
【0043】
このように、標準値に時系列的評価を加えることで、機器の経年変化及び劣化予測が可能となり、機器の損傷に至る前に次回の定期点検での詳細点検の実施や部品交換の推奨など適切な保守指針を策定することができる。
【0044】
以上、本発明の実施形態について図面を参照して詳述してきたが、具体的な構成はこの実施形態に限られるものではない。
たとえば、上述した各実施形態においては、評価部15が異常の兆候ありと判断すると、その旨を作業員へ報知するとしたが、別途ディスプレイ、スピーカー、メッセージ送信手段などの報知部を設けるとしてもよい。これにより、現在の監視項目の計測データが許容範囲外である場合に報知を行う報知部を備えることから、明確に異常の兆候を報知し、異常が報知された機器についてメンテナンスを迅速に促すことができ、故障や損傷が発生する前に必要な対策を講じることができる。
【0045】
また、上述した実施形態では、舶用主機タービンに本発明の状態診断装置を適用した場合について説明したが、本発明の状態診断装置は、舶用主機タービンに限定されることなく、船舶に搭載する発電用蒸気タービン、及び海洋浮体設備(FPSO(Floating Production, Storage and Off-loading system:浮体式生産・貯蔵・出荷設備)/FSU(Floating Storage Unit:浮体式貯蔵設備)/FSRU(Floating Storage and Regasification Unit:浮体式貯蔵・再ガス化設備)など)に搭載する発電用蒸気タービン等、さらには一般的に状態監視が可能な機器等に広く適用可能であり、これらの余寿命予測や異常発生の事前抽出等に有効に活用される。