(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記炭化珪素層の中の前記第1のn型炭化珪素領域と前記第2の電極との間に設けられ、前記第1のn型不純物濃度よりも高い第2のn型不純物濃度を有する第2のn型炭化珪素領域を、備え、
前記第2の電極と前記第2のn型炭化珪素領域との間の接合はオーミック接合である請求項1ないし請求項7いずれか一項記載の半導体装置。
前記第1の熱処理の前に、前記第1の面の側からp型不純物のイオン注入を行い、第1のp型炭化珪素領域及び前記第1のp型炭化珪素領域と離間する第2のp型炭化珪素領域を形成し、
1650℃以上1900℃以下の第2の熱処理を行い、
前記第2の熱処理の後に前記第1の熱処理を行う請求項16又は請求項17記載の半導体装置の製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下、図面を参照しつつ本発明の実施形態を説明する。なお、以下の説明では、同一又は類似の部材等には同一の符号を付し、一度説明した部材等については適宜その説明を省略する。
【0008】
また、以下の説明において、n
+、n、n
−及び、p
+、p、p
−の表記は、各導電型における不純物濃度の相対的な高低を表す。すなわちn
+はnよりもn型の不純物濃度が相対的に高く、n
−はnよりもn型の不純物濃度が相対的に低いことを示す。また、p
+はpよりもp型の不純物濃度が相対的に高く、p
−はpよりもp型の不純物濃度が相対的に低いことを示す。なお、n
+型、n
−型を単にn型、p
+型、p
−型を単にp型と記載する場合もある。
【0009】
(第1の実施形態)
第1の実施形態の半導体装置は、第1の電極と、第2の電極と、第1の電極と第2の電極との間に設けられた炭化珪素層と、炭化珪素層の中に設けられた第1のn型炭化珪素領域と、炭化珪素層の中の第1のn型炭化珪素領域と第1の電極との間に設けられ、第1のn型炭化珪素領域の第1のn型不純物濃度よりも高い第1の窒素濃度を有する第1の窒素領域と、を備える。
【0010】
図1は、第1の実施形態の半導体装置の模式断面図である。第1の実施形態の半導体装置は、SBD100である。
【0011】
SBD100は、炭化珪素層10、カソード領域12(第2のn型炭化珪素領域)、ドリフト領域14(第1のn型炭化珪素領域)、アノード電極34(第1の電極)、カソード電極36(第2の電極)、第1の窒素領域61を備える。カソード領域12、ドリフト領域14、第1の窒素領域61は、炭化珪素層10の中に設けられる。
【0012】
炭化珪素層10は、単結晶のSiCである。炭化珪素層10は、例えば、4H−SiCである。
【0013】
図2は、炭化珪素半導体の結晶構造を示す図である。炭化珪素半導体の代表的な結晶構造は、4H−SiCのような六方晶系である。六角柱の軸方向に沿うc軸を法線とする面(六角柱の頂面)の一方が(0001)面である。(0001)面と等価な面を、シリコン面と称し{0001}面と表記する。シリコン面にはシリコン(Si)が配列している。
【0014】
六角柱の軸方向に沿うc軸を法線とする面(六角柱の頂面)の他方が(000−1)面である。(000−1)面と等価な面を、カーボン面と称し{000−1}面と表記する。カーボン面には炭素(C)が配列している
【0015】
一方、六角柱の側面(柱面)が、(1−100)面と等価な面であるm面、すなわち{1−100}面である。また、隣り合わない一対の稜線を通る面が(11−20)面と等価な面であるa面、すなわち{11−20}面である。m面及びa面には、シリコン(Si)及び炭素(C)の双方が配列している。
【0016】
炭化珪素層10は第1の面P1(表面)と、第2の面P2(裏面)を有する。炭化珪素層10の表面P1は、例えば、(0001)面に対し0度以上8度以下傾斜した面である。(0001)面は、シリコン面と称される。炭化珪素層10の裏面P2は、例えば、(000−1)面に対し0度以上8度以下傾斜した面である。
【0017】
炭化珪素層10は、アノード電極34(第1の電極)とカソード電極36(第2の電極)との間に設けられる。
【0018】
図3は、第1の実施形態の半導体装置の元素の濃度分布を示す図である。炭化珪素層10とアノード電極34を含む断面の、窒素の濃度分布を示す。
【0019】
カソード領域12は、n
+型のSiCである。カソード領域12は、ドリフト領域14とカソード電極36との間に設けられる。カソード領域12は、例えば、窒素(N)をn型不純物として含む。カソード領域12のn型不純物の不純物濃度(第2のn型不純物濃度)は、ドリフト領域14のn型不純物の不純物濃度(第1のn型不純物濃度)より高い。カソード領域12のn型不純物の不純物濃度(第2のn型不純物濃度)は、例えば、1×10
18cm
−3以上1×10
21cm
−3以下である。
【0020】
ドリフト領域14は、n
−型のSiCである。ドリフト領域14は、カソード領域12の上に設けられる。ドリフト領域14は、n
−型のSiCである。ドリフト領域14は、例えば、窒素をn型不純物として含む。
【0021】
ドリフト領域14のn型不純物の不純物濃度(第1のn型不純物濃度)は、カソード領域12のn型不純物の不純物濃度(第2のn型不純物濃度)より低い。ドリフト領域14のn型不純物の不純物濃度は、例えば、1×10
15cm
−3以上2×10
16cm
−3以下である。
【0022】
ドリフト領域14は、例えば、カソード領域12の上にエピタキシャル成長により形成されたSiCのエピタキシャル成長層である。ドリフト領域14の厚さは、例えば、5μm以上100μm以下である。
【0023】
アノード電極34は、ドリフト領域14に電気的に接続される。アノード電極34は、炭化珪素層10の表面P1の側に設けられる。アノード電極34は、炭化珪素層10に接する。
【0024】
アノード電極34は、第1の窒素領域61に接する。アノード電極34と第1の窒素領域61との間の接合はショットキー接合である。
【0025】
アノード電極34は、例えば、金属又は金属化合物である。アノード電極34は、例えば、Ni(ニッケル)のバリアメタル層と、バリアメタル層上のアルミニウムのメタル層との積層で構成される。ニッケルのバリアメタル層と炭化珪素層10は、反応してニッケルシリサイド(NiSi、Ni
2Si等)を形成しても構わない。ニッケルのバリアメタル層とアルミニウムのメタル層とは、反応により合金を形成していてもよい。
【0026】
カソード電極36は、カソード領域12に電気的に接続される。カソード電極36は、炭化珪素層10の裏面P2の側に設けられる。カソード電極36は炭化珪素層10に接する。
【0027】
カソード電極36は、カソード領域12に接する。カソード電極36とカソード領域12との間の接合はオーミック接合である。
【0028】
カソード電極36は、例えば、金属又は金属化合物である。カソード電極36は、例えば、ニッケルである。ニッケルは、炭化珪素層10と反応して、ニッケルシリサイド(NiSi、Ni
2Si等)を形成しても構わない。
【0029】
第1の窒素領域61は、炭化珪素層10の中に設けられる。第1の窒素領域61は、アノード電極34に隣り合って設けられる。第1の窒素領域61は、アノード電極34に接する。
【0030】
第1の窒素領域61は、炭化珪素層10の表面P1に隣り合って設けられる。第1の窒素領域61は、炭化珪素層10の表面P1に接する。
【0031】
第1の窒素領域61は、窒素(N)を含有する。第1の窒素領域61は、窒素(N)を含有するn型の炭化珪素である。
【0032】
第1の窒素領域61の窒素濃度(第1の窒素濃度)は、ドリフト領域14のn型不純物の不純物濃度(第1のn型不純物濃度)よりも高い。例えば、ドリフト領域14のn型不純物が窒素の場合、第1の窒素領域61の窒素濃度は、ドリフト領域14の窒素濃度よりも高い。
【0033】
第1の窒素領域61の窒素濃度(第1の窒素濃度)は、例えば、1×10
17cm
−3以上1×10
22cm
−3以下である。
【0034】
図3に示すように、第1の窒素領域61の窒素の濃度分布は、例えば、アノード電極34との界面でピークを備える。第1の窒素領域61の窒素のピーク濃度は、例えば、1×10
17cm
−3以上1×10
22cm
−3以下である。第1の窒素領域61の窒素の濃度分布の半値幅は、例えば、0.5nm以上5nm以下である。
【0035】
図4は、第1の実施形態の半導体装置の第1の窒素領域の説明図である。第1の窒素領域61は、
図4に示すような、2個の窒素原子が炭化珪素格子の炭素位置に存在する構造を備える。言い換えれば、第1の窒素領域61は、炭化珪素格子の炭素空孔Vcに2個の窒素原子が入った構造を備える。以下、この構造をVcNN構造と称する。
【0036】
VcNN構造は、
図4に示すように、2個のシリコン原子Si1、Si2と結合する第1の窒素原子N1と、第1の窒素原子N1と結合し2個のシリコン原子Si3、Si4と結合する第2の窒素原子N2と、を有する。
【0037】
第1の窒素領域61は、VcNN構造を備えることで、炭化珪素層10の炭素空孔Vcの密度が低減されている。なお、VcNN構造中の窒素は、ドーパントとしては機能しない。VcNN構造中の窒素は、不活性な窒素である。
【0038】
炭化珪素層10の中の窒素の結合状態、及び、窒素の炭化珪素格子中の位置は、例えば、XPS(X−ray Photoelectron Spectroscopy)により、判定することが可能である。炭化珪素層10の中の窒素、n型不純物、p型不純物の分布は、例えば、SIMS(Secondary Ion Mass Spectrometry)により測定することが可能である。また、炭化珪素層10内の領域がp型であるかn型であるかは、例えば、SCM(Scanning Capacitance Microscopy)で判定することが可能である。
【0039】
次に、第1の実施形態の半導体装置の製造方法について説明する。
【0040】
第1の実施形態の半導体装置の製造方法は、第1の面と第2の面とを有し、第1のn型炭化珪素領域を有し、第1の面が露出した炭化珪素層に対し、酸素分圧が0.1ppm以下のN
2ガス中で1300℃以上1500℃以下の第1の熱処理を行い、窒素を含む第1の窒素領域を形成し、第1の熱処理の後に、第1の面に第1の電極を形成し、第1の熱処理の後に、第2の面に第2の電極を形成する。さらに、第1の熱処理の前に、第1の面に熱酸化膜を形成し、第1の熱処理の前に、熱酸化膜を剥離する。
【0041】
図5、
図6、
図7は、第1の実施形態の半導体装置の製造方法において、製造途中の半導体装置を示す模式断面図である。
【0042】
まず、シリコン面である第1の面P1(表面)と、カーボン面である第2の面P2(裏面)を有するn
+型の炭化珪素基板を準備する。炭化珪素基板は、炭化珪素層10のカソード領域12に対応する。次に、炭化珪素基板の上に、エピタキシャル成長法により、n
−型のドリフト領域14を形成する(
図5)。
【0043】
次に、炭化珪素層10の表面P1に熱酸化膜50を形成する(
図6)。次に、熱酸化膜50を剥離する。熱酸化膜50は、いわゆる犠牲酸化膜である。犠牲酸化膜の形成と剥離により、例えば、炭化珪素層10の表面P1を清浄化する。
【0044】
次に、表面P1が露出した炭化珪素層10に対し、酸素分圧が0.1ppm以下のN
2ガス中で1300℃以上1500℃以下の第1の熱処理を行う(
図7)。第1の熱処理により炭化珪素層10の中に第1の窒素領域61が形成される。第1の窒素領域61には、VcNN構造が形成される。
【0045】
その後、公知のプロセスにより、アノード電極34、カソード電極36を形成し、
図1に示す第1の実施形態のSBD100が製造される。
【0046】
以下、第1の実施形態の半導体装置及び半導体装置の製造方法の作用及び効果について説明する。
【0047】
炭化珪素を用いてSBDを形成する場合、ショットキー障壁高さが不安定になるという問題がある。ショットキー障壁高さが低くなると、例えば、SBDの耐圧が低下する。また、チップ間でショットキー障壁高さがばらつくと、例えば、SBDの耐圧がばらつく。また、チップ間でショットキー障壁高さがばらつくと、例えば、順方向電圧(VF)がばらつく。また、同一チップの電極内でショットキー障壁高さがばらつくと、一部領域への電流集中が生じ、SBDが破壊に至るおそれがある。
【0048】
ショットキー障壁高さが不安定になる原因の一つは、炭化珪素層10の中に炭素空孔Vcが存在することにあると考えられる。炭素空孔Vcは、例えば、炭化珪素層10の酸化の際に形成されると考えられる。
【0049】
第1の実施形態のSBD100は、炭化珪素層10の表面P1にVcNN構造を備える。VcNN構造を備えることで、炭化珪素層10の炭素空孔Vcの密度が低減されている。よって、SBD100のショットキー障壁高さが安定する。以下、詳述する。
【0050】
図8は、第1の実施形態の半導体装置及び半導体装置の製造方法の作用の説明図である。
図8(a)は炭素空孔Vcの説明図、
図8(b)はVcNN構造の説明図、
図8(c)はVcN構造の説明図である。なお、VcN構造とは、炭化珪素格子の炭素空孔Vcに1個の窒素原子が入った構造である。
【0051】
例えば、炭化珪素層10の表面から、酸化の際に酸素(O)が炭化珪素層10中に供給されるとする。この場合、炭化珪素格子中の炭素(C)と酸素が結合して一酸化炭素(CO)が生成される。結果として、炭素空孔Vcが形成される(
図8(a))。炭素空孔Vcは、例えば、酸素の供給以外にも、不純物のイオン注入によっても形成される。
【0052】
第1原理計算の結果、炭素空孔Vcに2個の窒素原子が入ったVcNN構造が安定に存在し得ることが明らかになった。そして、VcNN構造を形成するためには、N
2分子が励起された状態で炭素空孔Vcの存在する炭化珪素層10に供給されることが望ましいことが明らかになった(
図8(b))。すなわち、一対の窒素原子が励起された状態で炭素空孔Vcと共存する状態から、VcNN構造が形成され得ることが明らかになった。具体的には、高温のN
2ガス雰囲気中で熱処理を行うことにより、VcNN構造が形成される。
【0053】
例えば、窒素プラズマ処理では、窒素は1個の原子として励起された状態になるので、VcNN構造は形成されず、VcN構造が形成される(
図8(c))。
【0054】
図9は、第1の実施形態の半導体装置及び半導体装置の製造方法の作用の説明図である。
図9は、炭素空孔Vcの電子状態の説明図である。
図9は、炭素空孔Vcが存在する場合の炭化珪素のバンド図を示す。
【0055】
炭素空孔Vcにより4つのシリコンのダングリングボンドが形成され、
図9の左図に示すように、それぞれがエネルギー準位を形成する。なお、黒丸はエネルギー準位が電子で埋まった状態、白丸はエネルギー準位が電子で埋まっていない状態を示す。それぞれのエネルギー準位が相互作用することにより、右図に示すように、バンドギャップ中及び伝導帯CBの下端に局在状態が形成される。
【0056】
伝導帯CBの下端の局在状態は、電子のトラップとして働く。このため、フェルミレベルピニングが生じ、アノード電極34とドリフト領域14との間のキャリアの障壁が低くなる。したがって、SBD100のショットキー障壁が低くなる。仮に、炭化珪素層10の中の炭素空孔Vcの密度がばらつくと、SBD100のショットキー障壁がばらつき不安定となる。
【0057】
図10は、第1の実施形態の半導体装置及び半導体装置の製造方法の作用の説明図である。
図10(a)が炭化珪素格子中に炭素空孔Vcが存在する場合のバンド図、
図10(b)が炭化珪素格子中にVcNN構造がある場合のバンド図である。
図10は、シミュレーション結果である。
【0058】
図10(a)に示すように、炭素空孔Vcが存在する場合は、バンドギャップ中及び伝導帯CBの下端に局在状態が形成されることが分かる。これに対し、
図10(b)に示すように、VcNN構造がある場合は、局在状態が消滅する。
【0059】
VcNN構造が形成されることにより、炭素空孔Vcが消滅し、バンドギャップ中及び伝導帯CBの下端の局在状態が消滅する。したがって、アノード電極34とドリフト領域14との間のキャリアの障壁の低下が抑制される。よって、ショットキー障壁高さが安定するSBD100が実現される。
【0060】
なお、VcNN構造に代えて、
図8(c)に示したVcN構造が形成された場合、VcN構造はドナーとして働く。このため、アノード電極34とドリフト領域14との間のキャリアの障壁が低下する。したがって、SBD100のショットキー障壁が低くなるという問題が生じる。
【0061】
第1の窒素領域61の窒素濃度(第1の窒素濃度)は、1×10
17cm
−3以上1×10
22cm
−3以下であることが好ましい。上記範囲を下回ると、ショットキー障壁高さが安定しないおそれがある。また、上記範囲を上回ることは製造上困難である。
【0062】
第1の実施形態の製造方法において、第2の熱処理は、1300℃以上1500℃以下で行う。上記範囲を下回ると、N
2分子の励起が不足しVcNN構造が形成されない。また、上記範囲を上回ると、N
2分子が分離し、単独の窒素原子となりVcNN構造が形成されない。
【0063】
第1の実施形態の製造方法において、VcNN構造を形成する熱処理の酸素分圧は可能な限り低いことが望ましい。熱処理の際に酸素が存在すると、炭化珪素層10の表面の酸化が進み、VcNN構造を十分形成できないおそれがある。酸素分圧は0.1ppm以下であり、0.01ppm以下であることが好ましい。
【0064】
第1の実施形態の製造方法では、炭化珪素層10の表面P1が露出した状態で、N
2ガス中で高温のアニールを行う。これにより、励起されたN
2分子の炭化珪素層10内部への侵入が促進される。したがって、炭化珪素層10の中の炭素空孔VcをVcNN構造に変えることができる。
【0065】
第1の実施形態の製造方法において、炭化珪素層10の中のVcNN構造を形成する観点から、熱処理の際の全圧は、大気圧よりも高いことが好ましい。全圧を大気圧よりも高くすることで、励起されたN
2分子の炭化珪素層10内部への侵入が促進される。
【0066】
以上、第1の実施形態によれば、VcNN構造の形成により、炭素空孔Vcが低減され、ショットキー障壁高さが安定するSBD100及びその製造方法が実現される。
【0067】
(第2の実施形態)
第2の実施形態の半導体装置は、炭化珪素層の中の第1のn型炭化珪素領域と第1の電極との間に設けられた第1のp型炭化珪素領域と、炭化珪素層の中の第1のn型炭化珪素領域と第1の電極との間に設けられ、第1のp型炭化珪素領域と離間した第2のp型炭化珪素領域と、炭化珪素層の中の第1のp型炭化珪素領域と第1の電極との間に設けられ、第1のn型不純物濃度よりも高い第2の窒素濃度を有する第2の窒素領域と、炭化珪素層の中の第2のp型炭化珪素領域と第1の電極との間に設けられ、第1のn型不純物濃度よりも高い第3の窒素濃度を有する第3の窒素領域と、を備える点で、第1の実施形態と異なっている。以下、第1の実施形態と重複する内容については一部記述を省略する。
【0068】
図11は、第2の実施形態の半導体装置の模式断面図である。第2の実施形態の半導体装置は、MPSダイオード200(Merged PiN Schottky Diode)である。MPSダイオード200は、SBDがPiNダイオードに挟まれる構造を有する。
【0069】
MPSダイオード200は、炭化珪素層10、カソード領域12(第2のn型炭化珪素領域)、ドリフト領域14(第1のn型炭化珪素領域)、第1のアノード領域21(第1のp型炭化珪素領域)、第2のアノード領域22(第2のp型炭化珪素領域)、アノード電極34(第1の電極)、カソード電極36(第2の電極)、第1の窒素領域61、第2の窒素領域62、第3の窒素領域63を備える。カソード領域12、ドリフト領域14、第1のアノード領域21、第2のアノード領域22、第1の窒素領域61、第2の窒素領域62、第3の窒素領域63は、炭化珪素層10の中に設けられる。
【0070】
炭化珪素層10は、単結晶のSiCである。炭化珪素層10は、例えば、4H−SiCである。
【0071】
第1のアノード領域21は、p型のSiCである。第1のアノード領域21は、ドリフト領域14とアノード電極34との間に設けられる。第1のアノード領域21は、ドリフト領域14の表面に設けられる。
【0072】
第1のアノード領域21は、例えば、アルミニウム(Al)をp型不純物として含む。第1のアノード領域21のp型不純物の不純物濃度は、例えば、1×10
17cm
−3以上1×10
22cm
−3以下である。第1のアノード領域21の深さは、例えば、0.5μm以上2.0μm以下である。
【0073】
第2のアノード領域22は、p型のSiCである。第2のアノード領域22は、ドリフト領域14とアノード電極34との間に設けられる。第2のアノード領域22は、ドリフト領域14の表面に設けられる。第2のアノード領域22は、第1のアノード領域21と離間して設けられる。
【0074】
第2のアノード領域22は、例えば、アルミニウム(Al)をp型不純物として含む。第2のアノード領域22のp型不純物の不純物濃度は、例えば、1×10
17cm
−3以上1×10
22cm
−3以下である。第2のアノード領域22の深さは、例えば、0.5μm以上2.0μm以下である。
【0075】
第2の窒素領域62は、炭化珪素層10の中に設けられる。第2の窒素領域62は、第1のアノード領域21とアノード電極34の間に設けられる。第2の窒素領域62は、アノード電極34に隣り合って設けられる。第2の窒素領域62は、アノード電極34に接する。
【0076】
第2の窒素領域62は、炭化珪素層10の表面P1に隣り合って設けられる。第2の窒素領域62は、炭化珪素層10の表面P1に接する。
【0077】
第2の窒素領域62は、窒素(N)を含有する。第2の窒素領域62は、窒素(N)を含有するp型の炭化珪素である。
【0078】
第2の窒素領域62の窒素濃度(第2の窒素濃度)は、ドリフト領域14のn型不純物の不純物濃度(第1のn型不純物濃度)よりも高い。例えば、ドリフト領域14のn型不純物が窒素の場合、第2の窒素領域62の窒素濃度は、ドリフト領域14の窒素濃度よりも高い。
【0079】
第2の窒素領域62の窒素濃度(第2の窒素濃度)は、例えば、1×10
18cm
−3以上5×10
22cm
−3以下である。
【0080】
第2の窒素領域62は、VcNN構造を含む。第2の窒素領域62は、VcNN構造を備えることで、炭化珪素層10の炭素空孔Vcの密度が低減されている。なお、VcNN構造中の窒素は、ドーパントとしては機能しない。VcNN構造中の窒素は、不活性な窒素である。
【0081】
第3の窒素領域63は、炭化珪素層10の中に設けられる。第3の窒素領域63は、第2のアノード領域22とアノード電極34の間に設けられる。第3の窒素領域63は、アノード電極34に隣り合って設けられる。第3の窒素領域63は、アノード電極34に接する。
【0082】
第3の窒素領域63は、炭化珪素層10の表面P1に隣り合って設けられる。第3の窒素領域63は、炭化珪素層10の表面P1に接する。
【0083】
第3の窒素領域63は、窒素(N)を含有する。第3の窒素領域63は、窒素(N)を含有するp型の炭化珪素である。
【0084】
第3の窒素領域63の窒素濃度(第3の窒素濃度)は、ドリフト領域14のn型不純物の不純物濃度(第1のn型不純物濃度)よりも高い。例えば、ドリフト領域14のn型不純物が窒素の場合、第3の窒素領域63の窒素濃度は、ドリフト領域14の窒素濃度よりも高い。
【0085】
第3の窒素領域63の窒素濃度(第3の窒素濃度)は、例えば、1×10
18cm
−3以上5×10
22cm
−3以下である。
【0086】
第3の窒素領域63は、VcNN構造を含む。第3の窒素領域63は、VcNN構造を備えることで、炭化珪素層10の炭素空孔Vcの密度が低減されている。なお、VcNN構造中の窒素は、ドーパントとしては機能しない。VcNN構造中の窒素は、不活性な窒素である。
【0087】
アノード電極34は、ドリフト領域14、第1のアノード領域21、第2のアノード領域22に電気的に接続される。アノード電極34は、炭化珪素層10の表面P1の側に設けられる。アノード電極34は、炭化珪素層10に接する。
【0088】
アノード電極34は、第1の窒素領域61、第2の窒素領域62、第3の窒素領域63に接する。アノード電極34と第1の窒素領域61との間の接合はショットキー接合である。アノード電極34と第2の窒素領域62との間の接合はオーミック接合である。アノード電極34と第3の窒素領域63との間の接合はオーミック接合である。
【0089】
アノード電極34は、例えば、金属又は金属化合物である。アノード電極34は、例えば、Ni(ニッケル)のバリアメタル層と、バリアメタル層上のアルミニウムのメタル層との積層で構成される。ニッケルのバリアメタル層と炭化珪素層10は、反応してニッケルシリサイド(NiSi、Ni
2Si等)を形成しても構わない。ニッケルのバリアメタル層とアルミニウムのメタル層とは、反応により合金を形成していてもよい。
【0090】
カソード電極36は、カソード領域12に電気的に接続される。カソード電極36は、炭化珪素層10の裏面P2の側に設けられる。カソード電極36は炭化珪素層10に接する。
【0091】
カソード電極36は、カソード領域12に接する。カソード電極36とカソード領域12との間の接合はオーミック接合である。
【0092】
次に、第2の実施形態の半導体装置の製造方法について説明する。
【0093】
第2の実施形態の半導体装置の製造方法は、第1の熱処理の前に、第1の面の側からp型不純物のイオン注入を行い、第1のp型炭化珪素領域及び第1のp型炭化珪素領域と離間する第2のp型炭化珪素領域を形成し、1650℃以上1900℃以下の第2の熱処理を行い、第2の熱処理の後に第1の熱処理を行う点で、第1の実施形態と異なっている。以下、第1の実施形態と重複する内容については記述を一部省略する。
【0095】
まず、シリコン面である第1の面P1(表面)と、カーボン面である第2の面P2(裏面)を有するn
+型の炭化珪素基板を準備する。炭化珪素基板は、炭化珪素層10のカソード領域12に対応する。次に、炭化珪素基板の上に、エピタキシャル成長法により、n
−型のドリフト領域14を形成する(
図12)。
【0096】
次に、炭化珪素層10の表面P1に熱酸化膜50を形成する(
図13)。次に、熱酸化膜50を剥離する。熱酸化膜50は、いわゆる犠牲酸化膜である。犠牲酸化膜の形成と剥離により、例えば、炭化珪素層10の表面P1を清浄化する。
【0097】
次に、炭化珪素層10の表面P1にマスク材52を形成する。次に、マスク材52をマスクに、イオン注入を行いp型の第1のアノード領域21とp型の第2のアノード領域22を形成する(
図14)。炭化珪素層10の表面P1の側からp型不純物のイオン注入を行う。p型不純物は、例えば、アルミニウム(Al)である。
【0098】
次に、マスク材52を剥離する(
図15)。次に、炭化珪素層10の表面P1に図示しない炭素膜を堆積する。次に、1650℃以上1900℃以下の第2の熱処理を行う。炭素膜は、高温の第2の熱処理の際に炭化珪素層10の表面P1からシリコンが離脱することを防止する。
【0099】
第2の熱処理により、p型の第1のアノード領域21とp型の第2のアノード領域22のp型不純物を活性化する。第2の熱処理は、例えば、アルゴン雰囲気中で行なわれる。
【0100】
次に、炭素膜を剥離する。その後、炭化珪素層10の表面P1の上の例えば図示しない表面膜をウェットエッチングで除去する。表面膜は、酸素を含む膜である。表面膜は、例えば、第2の熱処理の際に、残留酸素により形成された酸化膜である。
【0101】
次に、表面P1が露出した炭化珪素層10に対し、酸素分圧が0.1ppm以下のN
2ガス中で1300℃以上1500℃以下の第1の熱処理を行う(
図16)。第1の熱処理により炭化珪素層10の中に第1の窒素領域61、第2の窒素領域62、第3の窒素領域63が形成される。第1の窒素領域61、第2の窒素領域62、第3の窒素領域63には、VcNN構造が形成される。
【0102】
その後、公知のプロセスにより、アノード電極34、カソード電極36を形成し、
図11に示す第2の実施形態のMPSダイオード200が製造される。
【0103】
以下、第2の実施形態の半導体装置及び半導体装置の製造方法の作用及び効果について説明する。
【0104】
炭化珪素を用いてMPSダイオードを形成する場合、オン抵抗が高いという問題がある。オン抵抗が高い原因の一つは、p型のアノード領域の中に炭素空孔Vcが存在することにあると考えられる。炭素空孔Vcは、例えば、アノード領域を形成する際の、p型不純物のイオン注入によるダメージで形成されると考えられる。
【0105】
第2の実施形態のMPSダイオード200は、炭化珪素層10の中にVcNN構造を備える。VcNN構造を備えることで、炭化珪素層10の炭素空孔Vcの密度が低減されている。よって、MPSダイオード200のオン抵抗が低減する。以下、詳述する。
【0106】
第1の実施形態で説明したように、炭素空孔Vcにより伝導帯CBの下端に局在状態が形成される。伝導帯CBの下端の局在状態は、電子のトラップとして働く。このため、フェルミレベルピニングが生じ、アノード電極34とp型の第1のアノード領域21、アノード電極34とp型の第2のアノード領域22との間のキャリアの障壁が高くなる。したがって、アノード電極34のコンタクト抵抗が大きくなるおそれがある。アノード電極34のコンタクト抵抗が大きくなることにより、MPSダイオード200のオン抵抗が高くなる。また、ホールの障壁ができることで、ホールの注入・消滅に時間がかかるようになり、スイッチング損失が大きくなる。
【0107】
第2の実施形態のMPSダイオード200では、VcNN構造が形成されることにより、炭素空孔Vcが消滅し、伝導帯CBの下端の局在状態が消滅する。したがって、アノード電極34のコンタクト抵抗が小さくなる。よって、オン抵抗の低いMPSダイオード200が実現される。
【0108】
第2の窒素領域62の第2の窒素濃度、及び、第3の窒素領域63の第3の窒素濃度は、例えば、1×10
18cm
−3以上5×10
22cm
−3以下であることが好ましい。上記範囲を下回ると、アノード電極34のコンタクト抵抗が十分下がらないおそれがある。また、上記範囲を上回ることは製造上困難である。
【0109】
なお、アノード電極34と第1の窒素領域61との間のショットキー障壁高さが安定する点については第1の実施形態と同様である。
【0110】
以上、第2の実施形態によれば、VcNN構造の形成により、炭素空孔Vcが低減され、ショットキー障壁高さが安定し、かつ、オン抵抗の低減するMPSダイオード200及びその製造方法が実現される。
【0111】
以上、第1及び第2の実施形態では、炭化珪素の結晶構造として4H−SiCの場合を例に説明したが、本発明は6H−SiC、3C−SiC等、その他の結晶構造の炭化珪素に適用することも可能である。
【0112】
第1及び第2の実施形態において、n型不純物は、例えば、窒素(N)やリン(P)が好ましいが、ヒ素(As)あるいはアンチモン(Sb)を適用することも可能である。また、p型不純物は、例えば、アルミニウム(Al)が好ましいが、ボロン(B)、ガリウム(Ga)、インジウム(In)を適用することも可能である。
【0113】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。例えば、一実施形態の構成要素を他の実施形態の構成要素と置き換え又は変更してもよい。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。