(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記足状部材の長さは、前記足状部材の一端部が接続される部分と前記プリテンショナの前記引き込み部材の引き込み方向を変える部分との間の長さよりも短いことを特徴とする請求項1に記載のシートベルト装置のバックル装置。
前記足状部材の長さは、前記足状部材の一端部が接続される部分と前記プリテンショナの前記引き込み部材の引き込み方向を変える部分との間の長さよりも短いことを特徴とする請求項5に記載のシートベルト装置のバックル装置。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、非特許文献1に記載のシートベルト装置では、ラップベルトとショルダーベルトの分離を可能にするための複雑な機構が必要となる。
【0008】
また、特許文献1に記載のプリテンショナでは、バックルが取り付けられたワイヤの傾斜方向に沿ってバックルを引き込むので、乗員が前方移動しようとする際に、シートベルトによる乗員の拘束位置がずれてしまう可能性がある。
【0009】
本発明は、上記事情を考慮し、車両衝突時、衝突初期に乗員が前方移動しようとする場合であっても、シートベルトによる乗員の拘束位置を維持することができるシートベルト装置のバックル装置、及び、該バックル装置を用いて、シートベルトによる乗員の拘束位置を維持することで、あばら骨への負担を軽減し、胸たわみを低減することができるシートベルト装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、以下の構成によって達成される。
(1) シートベルト上に設けられたタングを係合可能なバックルと、
緊急時に前記バックルを引き込み、前記シートベルトによる拘束力を高めるためのプリテンショナと、
を備え、
前記プリテンショナは、
前記緊急時に発生するガス圧で作動するピストンと、
前記ピストンを摺動可能に収容するシリンダと、
前記ピストンと前記バックルとを接続し、前記緊急時に前記ピストンによって引き込まれる引き込み部材と、
前記引き込み部材を前記ピストンに貫通させると共に、前記ピストンを収容する前記シリンダを保持するハウジングと、
を有し、
前記引き込み部材は、前記バックルから下方に向かって、前記ピストンが作動時の当該ピストンの進行方向と鋭角をなす方向に傾斜している所定の傾斜方向に延びた、シートベルト装置のバックル装置であって、
前記緊急時に前記引き込み部材が引き込まれた際、前記バックルおよび前記引き込み部材を、前記所定の傾斜方向よりも下方に向けて前記鋭角の前記緊急時前の角度を小さくするように移動させるバックル引き込み方向変更手段をさらに備えることを特徴とするシートベルト装置のバックル装置。
(2) 前記バックル引き込み方向変更手段は、一端部が前記プリテンショナの一部分又はシートフレームを含む車体の一部分に接続され、他端部が前記バックルの近傍の所定箇所に設けられた保持部によって前記引き込み部材に接続された足状部材を備え、
前記足状部材は前記保持部で摺動自在に保持され、前記緊急時に前記保持部によって当該足状部材の引っ張り方向が変更されるように構成されることを特徴とする(1)に記載のシートベルト装置のバックル装置。
(3) 前記足状部材の長さは、前記足状部材の一端部が接続される部分と前記プリテンショナの前記引き込み部材の引き込み方向を変える部分との間の長さよりも短いことを特徴とする(2)に記載のシートベルト装置のバックル装置。
(4) 前記保持部は、前記足状部材の先端部に形成された摺動リングを備え、
前記引き込み部材は、前記摺動リング内を貫通するように構成されることを特徴とする(2)または(3)に記載のシートベルト装置のバックル装置。
(5) 前記保持部は、前記足状部材の先端部に形成されたプーリーを備え、
前記引き込み部材は、前記プーリーの外周面に接触するように設けられることを特徴とする(2)または(3)に記載のシートベルト装置のバックル装置。
(6) 前記バックル引き込み方向変更手段は、一端部が前記プリテンショナの一部分又はシートフレームを含む車体の一部分に接続され、他端部が前記バックルの近傍の所定箇所に設けられた保持部によって前記引き込み部材に接続された足状部材を備え、
前記保持部は、前記足状部材の先端部が前記引き込み部材に溶着されていることを特徴とする(1)に記載のシートベルト装置のバックル装置。
(7) 前記足状部材の長さは、前記足状部材の一端部が接続される部分と前記プリテンショナの前記引き込み部材の引き込み方向を変える部分との間の長さよりも短いことを特徴とする(6)に記載のシートベルト装置のバックル装置。
(8) 前記バックル引き込み方向変更手段は、一端部が前記プリテンショナの一部分またはシートフレームを含む車体の一部分に接続され、他端側が前記緊急時に引き込まれる前記引き込み部材である、前記引き込み部材と一体的に形成されたワイヤ部材を備え、
前記バックル引き込み方向変更手段は、前記バックルの所定箇所に設けられ、前記ワイヤ部材を摺動自在に保持する保持部を更に含み、
前記保持部によって前記ワイヤ部材の引張方向が変更されるように構成されることを特徴とする(1)に記載のシートベルト装置のバックル装置。
(9) 前記バックルの乗員側側面に対向して配置され、前記バックルの乗員側側面を覆う大きさを有し、前記バックルが引き込まれた際に前記バックルが摺動する保護プレートを有することを特徴とする(1)〜(8)のいずれかに記載のシートベルト装置のバックル装置。
(10) (1)〜(9)のいずれか1項に記載のバックル装置を備え、
前記ウェビングが乗員の肩部から腰部までにかかる肩ベルトと、腰部に当該乗員の両側にわたってかかる腰ベルトとを有して乗員を拘束し、
前記肩ベルトと前記腰ベルトとの境界部は、シートベルト装着状態において、車両正面方向から見て前記乗員の腰部とオーバーラップすることを特徴とするシートベルト装置。
(11) 前記シートベルトの端部を車体に固定するラップアンカーと、
緊急時に前記ラップアンカーを引き込み、前記シートベルトによる拘束力を高めるためのラップ側プリテンショナと、
を備え、
前記ラップ側プリテンショナは、
前記緊急時に発生するガス圧で作動するピストンと、
前記ピストンを摺動可能に収容するシリンダと、
前記ピストンと前記ラップアンカーとを接続し、前記緊急時に前記ピストンによって引き込まれる引き込み部材と、
前記引き込み部材を前記ピストンに貫通させると共に、前記ピストンを収容する前記シリンダを保持するハウジングと、
を有し、
前記引き込み部材は、前記ラップアンカーから下方に向かって、前記ピストンが作動時の当該ピストンの進行方向と鋭角をなす方向に傾斜している所定の傾斜方向に延び、
前記緊急時に前記引き込み部材が引き込まれた際、前記ラップアンカーおよび前記引き込み部材を、前記所定の傾斜方向よりも下方に向けて前記鋭角の前記緊急時前の角度を小さくするように移動させるラップアンカー引き込み方向変更手段をさらに備えることを特徴とする(10)に記載のシートベルト装置。
(12) 前記タングに設けられたベルト挿通孔に一端部が接続される延長ベルトと、
前記延長ベルトの他端部が接続される第1の挿通孔と、前記境界部を構成する第2の挿通孔と、を有する中間バックル部材と、をさらに備えることを特徴とする(10)又は(11)に記載のシートベルト装置。
(13) 前記シートベルトは、非装着状態において、前記タングと対向する位置に磁石が配置されていることを特徴とする(12)に記載のシートベルト装置。
【0011】
なお、前記バックルの引き込み方向は、前記引き込み部材の前記所定の傾斜方向よりも下方であればよく、前記ピストンの摺動方向(車両の前方)に向かう方向であってもよい。
【発明の効果】
【0012】
本発明のシートベルト装置のバックル装置は、緊急時に引き込み部材が引き込まれた際、バックルおよび引き込み部材を、所定の傾斜方向よりも下方に向けて、引き込み部材の傾斜方向とピストンの進行方向とがなす鋭角が緊急時前の角度より小さくなるように移動させるバックル引き込み方向変更手段をさらに備える。これにより、車両衝突時、衝突初期に乗員が前方移動しようとする場合であっても、シートベルトによる乗員の拘束位置を維持することができ、例えば、乗員がシートベルトに対してもぐりこむようなサブマリン現象を防止することができる。
【0013】
また、本発明のシートベルト装置は、該バックル装置を備え、肩ベルトと前記腰ベルトとの境界部は、シートベルト装着状態において、車両正面方向から見て乗員の腰部とオーバーラップするので、複雑な機構を用いることなく、車両衝突時に、肩部と腰部を通るように掛け渡されたシートベルトによる乗員の拘束位置を維持することができ、あばら骨への負担を軽減し、胸たわみを低減することができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の3点式のシートベルト装置に係る各実施形態について、図面を参照して説明する。
【0016】
(第1実施形態)
図1(a)は、本実施形態の3点式のシートベルト装置30の装着状態を車両前方から見た正面図であり、
図1(b)は、
図1(a)を乗員右側から見た側面図である。シートベルト装置30は、シートベルト31と、車室内の壁部に設けられ、シートベルト31を乗員Mの肩近傍で折り返すスルーアンカ20と、スルーアンカ20の下方に設置され、シートベルト31の一端側を巻き取るリトラクタ22と、シートベルト31の他端部を車体に固定するラップアンカー23と、シートベルト31に取り付けられたタング32が係合可能なバックル装置40、を主に備える。
【0017】
シートベルト31は、シート25に着座した乗員Mの左右一方の片側上部(図の例では乗員Mの左側上部)から他側下部へ、肩部Msから胸部の前を通り腰部Mwまで斜めにかかる肩ベルト31Aと、左右一方の片側(図の例では乗員Mの左側)から他側へ、腰部Mwに乗員Mの両側にわたってかかる腰ベルト31Bと、を有し、肩ベルト31Aと腰ベルト31Bとは、連続した1本で帯状に形成されている。肩ベルト31Aは、スルーアンカ20によってガイドされ、乗員Mの肩部Msから胸部に良好にフィットするようになっている。タング32は、シートベルト31に移動可能に支持されており、ベルト装着時にバックル装置40に挿入係止されることで、シートベルト31を肩ベルト31Aと腰ベルト31Bに分ける。即ち、タング32のベルト挿通孔32aは、肩ベルト31Aと腰ベルト31Bとの境界部33を形成する。
なお、本実施形態における乗員Mとしては、国際統一側面衝突ダミー(World Side Impact Dummy:WorldSID)のAM50(米国人成人男性の50パーセンタイル)が使用されているが、他のダミーが適用されてもよい。
【0018】
バックル装置40は、タング32を係合可能なバックル41と、緊急時にバックル41を引き込み、シートベルト31による拘束力を高めるためのプリテンショナ60と、を備える。バックル装置40は、シート25側方の床面に取付けられたアンカプレート21を介して、車体に取り付けられる(
図2参照)。なお、バックル装置40は、シート25のシートクッションの側方に取り付けられても良い。
【0019】
図3にも示すように、プリテンショナ60は、緊急時に発生するガス圧で作動するピストン61と、ピストン61を摺動可能に収容するシリンダ62と、ピストン61とバックル41とを接続し、緊急時にピストン61によって引き込まれる引き込み部材64及び後述のバックル引き込み方向変更手段69を構成するワイヤ部材46と、ワイヤ部材46をピストン61に貫通させると共に、ピストン61を収容するシリンダ62を保持するハウジング65と、を有する。
【0020】
また、ハウジング65には、ピストン61をシリンダ62内で動かすための高圧ガスを発生するガスジェネレータ66が取り付けられている。ガスジェネレータ66は、図示しないガス発生部と着火部とを有し、図示しないセンサにより車両の急減速が検出されると、着火部に着火信号が送られて着火部が作動し、ガス発生部が高温のガスを噴出させる。
【0021】
また、ワイヤ部材46は、一端部がシリンダ62の外部に設けられた固定部63に接続され、バックル41の所定箇所(根元部)に設けられた保持部47、及びハウジング65に設けられたガイド部68を経由して、他端部がピストン61に接続されている。固定部63は、車両前後方向において、バックル41よりも前方となる位置に設けられている。また、ガイド部68は、車両前後方向において、バックル41よりも後方となる位置に設けられており、ピストン61から延びるワイヤ部材46をバックル41に向かうように引き込み方向を変えている。なお、ワイヤ部材46の一端部は、プリテンショナ60の一部分である固定部63の代わりに、シートフレームを含む車体の一部分に固定されてもよい。
【0022】
ワイヤ部材46は、バックル41の保持部47、及びハウジング65のガイド部68によって略三角形を形成するように曲げられ、摺動自在に保持されている。具体的に、ワイヤ部材46は、ピストン61からハウジング65のガイド部68までは、ハウジング65内をピストン61が作動時の当該ピストン61の進行方向と反対方向に延在し、また、バックル41の保持部47からハウジング65のガイド部68までは、バックル41から下方に向かって、ピストン61の進行方向と鋭角θをなす方向に傾斜している所定の傾斜方向Xに延びる。また、ワイヤ部材46は、バックル41の保持部47から固定部63までは、バックル41から下方に向かってピストン61の進行方向に延びるように傾斜している。
【0023】
したがって、本実施形態では、ワイヤ部材46のうち、ピストン61からハウジング65のガイド部68を経由してバックル41の保持部47までの部分が引き込み部材64として構成される。また、バックル41の保持部47から固定部63までの部分が、緊急時にピストン61がシリンダ62内に引き込まれた際、バックル41およびワイヤ部材46を、所定の傾斜方向よりも下方に向けて鋭角θが緊急時前の角度よりも小さくなるように移動させるバックル引き込み方向変更手段69を構成する。
【0024】
さらに、ハウジング65とバックル41との間には、軸方向伸縮可能、且つ該軸方向と直交する任意の方向に変形可能な中空状のカバー部材45が取り付けられている。したがって、バックル41は、ワイヤ部材46及びカバー部材45によって自立可能に支持されている。
【0025】
したがって、緊急時には、プリテンショナ60のガスジェネレータ66から噴射された高圧ガスが、シリンダ62内に供給され、ピストン61の移動に伴って、ワイヤ部材46をシリンダ62内に引き込む。この時、バックル41の保持部47から固定部63までのワイヤ部材46の部分(バックル引き込み方向変更手段69の部分)が短くなる。このため、
図5に示すように、バックル41とハウジング65との間で延在するワイヤ部材46の所定の傾斜方向Xに対して、バックル41は、この傾斜方向Xよりも下方に向けて引き込まれ、鋭角θが緊急時前の角度よりも小さくなる。
【0026】
また、本実施形態では、バックル装置40は、従来のものよりもワイヤ部材46によって構成される部分が長く形成されており、
図1に示す車両正面方向から見て、シートベルト装着状態におけるバックル41は、シート25の側面よりも車幅方向内側に位置しており、ワイヤ部材46も車幅方向内側に湾曲している。これにより、肩ベルト31Aと腰ベルト31Bとの境界部33を構成するタング32のベルト挿通孔32aの位置は、シートベルト装着状態において、車両正面方向から見て乗員Mの腰部Mwとオーバーラップしている。
【0027】
このように腰部Mwの上に位置する境界部33は、乗員Mの骨格上から見ると、骨盤を構成する寛骨の上方を占める扁平な腸骨Miと車両正面方向から見てオーバーラップする位置に配置される。
例えば、境界部33の左右方向位置(左右位置ラインRL)としては、大腿部直上を中心に、乗員Mの左右方向内側に50mm〜該乗員Mの左右方向外側に100mmの範囲で適宜変更可能である。
【0028】
境界部33は、ワイヤ部材46の長さによって腰部Mwの上に位置されるが、この境界部33が、腸骨Miと車両前後方向でオーバーラップする位置に配置されているか否かを確認する確認手段を設けるようにしても良い。具体的に、乗員Mが乗車する際に、静電容量センサなどの乗員検知センサによって乗員Mが座ったことを検知したのち、車室内乗員検知用カメラや骨密度センサにより腸骨位置を特定又は想定して可動支持部材で、境界部33が上前腸骨上に位置するようにバックル41およびアンカー位置を乗員の体格に合わせて調整することが望ましい。
また、シート角度を乗員によって予め登録することで、自動調整支持部材が自動で境界部33が上前腸骨上に位置するように調整されてもよい。
【0029】
このように構成されたシートベルト装置では、車両正面衝突時、衝突初期に車両前方へ移動しようとする慣性体としての乗員Mは、肩部(鎖骨)Msと腰部(骨盤)Mwを通るように掛け渡された肩ベルト31Aによって拘束される。
ここで、
図6(a)に模式的に示すように、従来のバックル装置を用いたシートベルト装置では、肩ベルト31Aと腰ベルト31Bとの境界部33Xとなる、バックル41と係合したタング32のベルト挿通孔32aは、シート25に近い位置となる。このため、あばら骨Mrの下部と、肩ベルトのなす角度をθとすると、乗員Mの前方移動に伴って、角度θが小さくなり、あばら骨Mrが撓む向きの力が増大する。
一方、
図6(b)に示す、本実施形態のシートベルト装置では、肩ベルト31Aと腰ベルト31Bとの境界部33は、腸骨Miの前縁になるため、乗員Mが移動しても角度θは、一定であり、あばら骨Mrの撓みは、鎖骨と骨盤の間に限定される。したがって、衝突時に境界部33が乗員Mの腹部に食い込むことが防止され、乗員Mの胸たわみを低減することができる。
【0030】
また、車両正面衝突時に、バックル41がプリテンショナ60によって下方に向けて引き込まれるので、衝突初期に乗員Mが車両前方へ移動しようとして、乗員Mがシートベルト31に対してもぐりこむようなサブマリン現象が防止される。この結果、肩部Msと腰部Mwを通るように掛け渡された肩ベルト31Aの拘束を維持することができ、衝突時に境界部33が乗員Mの腹部に食い込むことが防止され、乗員Mの胸たわみをより確実に低減することができる。
【0031】
また、本実施形態のバックル41は、プリテンショナ60の作動時に、乗員Mの大腿部などを滑って移動する。そのため、バックル41が直接接触しながら滑る衣類や皮膚を傷付けるのを防止するため、
図4に示すように、バックル41と衣類や皮膚との間に、バックル41が引き込まれても移動しない保護プレート71や保護カバーが設けられてもよい。保護プレート71は、バックル41の乗員側側面41aに対向して配置され、バックル41の乗員側側面41aを覆う大きさを有し、バックル41が引き込まれた際にバックル41がその表面上を摺動する。例えば、保護プレート71としては、中空状のカバー部材45の上部の乗員側部分をバックル41が引き込まれた際に伸縮しないように部分的に切り込み、該切り込んだ部分に保護プレート71が接続されるようにしてもよい。
【0032】
以上説明したように、本実施形態のシートベルト装置のバックル装置40によれば、ワイヤ部材46は、バックル41から下方に向かって、ピストン61が作動時の当該ピストン61の進行方向と鋭角θをなす方向に傾斜する所定の傾斜方向Xに延びる引き込み部材64を構成するとともに、ワイヤ部材46によって、緊急時にワイヤ部材46が引き込まれた際、バックル41およびワイヤ部材46を、所定の傾斜方向Xよりも下方に向けて鋭角θの緊急時前の角度を小さくするように移動させるバックル引き込み方向変更手段69を備える。これにより、車両衝突時、衝突初期に乗員が前方移動しようとする場合であっても、シートベルトによる乗員の拘束位置を維持することができ、例えば、乗員がシートベルトに対してもぐりこむようなサブマリン現象を防止することができる。
【0033】
また、本実施形態のシートベルト装置によれば、上記バックル装置40を備え、肩ベルト31Aと腰ベルト31Bとの境界部33は、シートベルト装着状態において、車両正面方向から見て乗員Mの腰部Mwとオーバーラップするので、複雑な機構を用いることなく、車両衝突時に、肩部Msと腰部Mwを通るように掛け渡されたシートベルト31による乗員の拘束位置を維持することができ、あばら骨Mrへの負担を軽減し、胸たわみを低減することができる。
【0034】
また、バックル引き込み方向変更手段は、一端部がプリテンショナ60の一部分である固定部63又はシートフレームを含む車体の一部分に接続され、他端部が緊急時に引き込まれる引き込み部材64である、引き込み部材64と一体的に形成されたワイヤ部材46を備え、バックル引き込み方向変更手段は、バックル41の所定箇所に設けられ、ワイヤ部材を摺動自在に保持する保持部47を更に含み、緊急時に保持部47によってワイヤ部材46の引張方向を変更するように構成されるので、車両衝突時に、バックル41の下方への引き込みを容易に行うことができる。
【0035】
なお、本実施形態の変形例として、例えば、
図7及び
図8に示すように、プリテンショナ60によって引き込まれる引き込み部材64とバックル引き込み方向変更手段69とを一体的に形成するワイヤ部材46に加え、ピストン61と接続され、バックル41を所定の傾斜方向に引き込む他の引き込み部材を形成する他のワイヤ部材70を、別途設けるようにしてもよい。
【0036】
また、上記実施形態では、バックル引き込み方向変更手段69は、ワイヤ部材46をプリテンショナで引き込むことで構成されているが、
図9に示す他の変形例では、ワイヤ部材46は、引き込み部材64として構成され、バックル引き込み方向変更手段69は、ワイヤ部材46と別部材である足状部材72によって構成されてもよい。この場合、足状部材72は、一端部がプリテンショナ60の一部分である固定部63又はシートフレームを含む車体の一部分に接続され、他端部がバックル41の近傍の所定箇所に設けられた保持部73によってワイヤ部材46に接続される。
【0037】
なお、保持部73としては、
図10(a)に示すように、足状部材72の先端部に形成された摺動リング73aを備え、ワイヤ部材46は、摺動リング73a内を貫通するように構成されてもよい。或いは、
図10(b)に示すように、保持部73は、足状部材72の先端部に形成されたプーリー73bを備え、ワイヤ部材46は、プーリー73bの外周面に接触するように設けられてもよい。これによって、足状部材72は保持部73で摺動自在に保持され、緊急時に保持部73によって足状部材72の引っ張り方向が変更されるように構成される。
【0038】
また、この場合、足状部材72の長さL1は、足状部材72の一端部が接続される部分(固定部63)とプリテンショナ60のワイヤ部材46の引き込み方向を変える部分(ハウジング65のガイド部68)との間の長さL2よりも短く設定される。これにより、ワイヤ部材46が引き込まれることで、バックル41も保持部73に当接して引き込まれるが、固定部63と緊急時前のワイヤ状部材46との距離よりも足状部材72の長さL1が短くなった段階で、鋭角θの緊急時前の角度を小さくするようにワイヤ部材46を移動させるので、バックル41が下方に引き込まれる。
【0039】
このような構成は、特に、リアシート等、シート間のスペースに余裕がなく、バックル41の根元部を2方向の部材で支持することが難しい場合に好適である。これにより、ワイヤ部材46の中間部分(バックル41の近傍の所定箇所)を摺動リング73aやプーリー73bなどを用いて支持する方向を変えることで、バランスがとれれば、バックル41の根元部を2方向の部材で支持するものに近い効果が得られる。
【0040】
なお、足状部材72は保持部73を構成する摺動リング73aやプーリー73bによって摺動自在に保持されているが、さらに他の変形例として、保持部73は、足状部材72の先端部が引き込み部材64に溶着されている構成であってもよい。この場合も、足状部材72の長さL1は、足状部材72の一端部が接続される部分(固定部63)とプリテンショナ60のワイヤ部材46の引き込み方向を変える部分(ハウジング65のガイド部68)との間の長さL2よりも短く設定される。
【0041】
さらに、本実施形態の他の変形例として、
図11に示すように、一度下方に引き込んだバックル41が元の位置に戻らないように、ワイヤ部材46には、ラチェット機構82が設けられることが好ましい。例えば、ラチェット機構82は、ワイヤ部材46の周囲に取り付けられた複数のラック歯83と、ラック歯83と噛合可能に進退自在にハウジング65に収容された係合歯84とを備え、ワイヤ部材46がピストン61の摺動方向にのみ引き込まれるようにしてもよい。
【0042】
さらに、本実施形態のプリテンショナ60には、所定の荷重が加わった際に金属部分が伸びる、既存のエネルギ吸収機構を付加することも可能である。
【0043】
(第2実施形態)
次に、第2実施形態に係るシートベルト装置について、
図12及び
図13を参照して説明する。なお、第1実施形態のものと同一又は相当する構成要素については、同一符号を付して説明を省略或いは簡略化する。
【0044】
第1実施形態では、プリテンショナ60は、バックル装置40に設けられているが、第2実施形態では、ラップ側プリテンショナ60Aが、ラップアンカー23に設けられている。なお、ラップ側プリテンショナ60Aの構成は、バックル装置40に設けられたプリテンショナ60と実質的に同様の構成を備えている。即ち、ラップ側プリテンショナ60Aでは、中空状のカバー部材45の上端部にラップアンカー23が設けられており、引き込み部材64(ワイヤ部材46)の保持部47Aがラップアンカー23に取り付けられている。
【0045】
また、
図12に示すように、ラップアンカー23のベルト挿通孔23aは、シートベルト装着状態において、車両正面方向から見て乗員Mの腰部とオーバーラップ、好ましくは、腸骨Miと車両正面方向から見てオーバーラップするように配置されている。即ち、ラップアンカー23のベルト挿通孔23aは、従来のものよりも高く、且つ、シート25の側面よりも車幅方向内側に位置している。
【0046】
したがって、第2実施形態のシートベルト装置は、緊急時にラップアンカー23を引き込み、シートベルト31による拘束力を高めるためのラップ側プリテンショナ60Aを備え、ラップ側プリテンショナ60Aは、緊急時に発生するガス圧で作動するピストン61と、ピストン61を摺動可能に収容するシリンダ62と、ピストン61とラップアンカー23とを接続し、緊急時にピストン61によって引き込まれるワイヤ部材46と、ワイヤ部材46をピストン61に貫通させると共に、ピストン61を収容するシリンダ62を保持するハウジング65と、を有する。ワイヤ部材46は、ラップアンカー23から下方に向かって、ピストン61が作動時の当該ピストン61の進行方向と鋭角をなす方向に傾斜している所定の傾斜方向Xに延び、緊急時にワイヤ部材46が引き込まれた際、ラップアンカー23およびワイヤ部材46を、所定の傾斜方向Xよりも下方に向けて鋭角の緊急時前の角度を小さくするように移動させるラップアンカー引き込み方向変更手段69Aをさらに備える。
つまり、バックル装置40とラップアンカー23の両方にプリテンショナ60、60Aを設けることで、車両衝突時に、肩部Msと腰部Mwを通るように掛け渡されたシートベルト31による乗員の拘束位置をさらに維持することができ、あばら骨への負担を軽減し、胸たわみを低減することができる。
その他の構成及び作用については、第1実施形態のものと同様である。
【0047】
なお、これらのプリテンショナ60,60Aは、衝突時に同時に作動してもよいが、リトラクタ側にプリテンショナが設けられている場合には、バックル装置側のプリテンショナ単独、又はバックル装置側及びラップアンカー側の両方のプリテンショナがほぼ同時に作動して腸骨を拘束した直後に、上胴部のスラッグを除去するように、リトラクタ側のプリテンショナが遅れて作動することが望ましい。
【0048】
また、ラップ側プリテンショナ60Aにおいても、ラチェット機構82や既存のエネルギー吸収機構を付加することができる。
【0049】
(第3実施形態)
次に、第3実施形態に係るシートベルト装置について、
図14〜
図16を参照して説明する。なお、第1実施形態のものと同一又は相当する構成要素については、同一符号を付して説明を省略或いは簡略化する。
【0050】
第3実施形態のバックル装置40Aは、第1実施形態のバックル装置40と機構自体は同じとする一方、第1実施形態のバックル装置40より小型のものを使用している。このため、本実施形態のバックル41は、第1実施形態のものと比べて、シート25の外側寄りで、且つ、低い位置に配置されている。
【0051】
一方、本実施形態では、タング32は、延長ベルト31C及び中間バックル部材35を介してシートベルト31に設けられ、ベルト装着時にバックル41に挿入係止されることで、中間バックル部材35は、シートベルト31を肩ベルト31Aと腰ベルト31Bに分ける。
【0052】
中間バックル部材35は、金属プレートを樹脂モールドすることで構成され、
図15に示すように、一端側にはスリット状の第1の挿通孔35eが、他端側には同じくスリット状で第1の挿通孔35eと平行な第2の挿通孔35fが形成されている。そして、第1の挿通孔35eには、所定の長さを有する延長ベルト31Cが巻掛けられており、第2の挿通孔35fには、シートベルト31が巻掛けられて、肩ベルト31Aと腰ベルト31Bの境界部33を形成している。
【0053】
延長ベルト31Cは、中間バックル部材35とは反対側に設けられたタング32のベルト挿通孔32aに挿通されて、該タング32と接続されている。したがって、延長ベルト31Cがバックル41に対して着脱自在に構成されている。この延長ベルト31Cは、シートベルト装着状態においては、腰ベルト31Bの延長線に沿って延びる。この結果、境界部33は、シートベルト装着時において、バックル41からシート25の中心寄りに所定の距離Lだけ離れた位置で、大腿部上に配置される。
【0054】
このように延長ベルト31Cが設けられたことにより、シートベルト装着状態において、肩ベルト31Aと腰ベルト31Bとの境界部33は、第1実施形態と同様に、車両正面方向から見て乗員Mの腰部Mw、好ましくは、腸骨Miとオーバーラップする位置に配置される(
図14参照)。
【0055】
なお、延長ベルト31Cの長さは、10〜20cmの範囲で設定されているが、特に制限するものではなく、境界部33が上述した所定位置となるように、乗員Mの体格、バックル41の位置やシート25の形状により、適宜調整できるようにしてもよい。
【0056】
ここで、リアシートなどでは、第1実施形態の様に、バックル装置40を長くすると、乗員Mの尻あたりなど、使い勝手の悪い面が発生するため、好ましくない場合がある。肩ベルト31Aと腰ベルト31Bとの境界部33を、タング32のベルト挿通孔32aとして、タング32の金属プレートを伸ばすようにして、タング32の先端部をバックルに係合するようにすれば、バックル装置40はシート面から大きく起立させる必要はなくなる。しかしながら、その場合、タング32の金属プレートが長くなるため、タング32が重くなってしまう。
【0057】
このため、本実施形態の様に、タング32に設けられたベルト挿通孔32aに一端部が接続される延長ベルト31Cと、延長ベルト31Cの他端部が接続される第1の挿通孔35eと、境界部33を構成する第2の挿通孔35fと、を有する中間バックル部材35と、を備えることで、タング32を大型化することなく、肩ベルト31Aと腰ベルト31Bとの境界部33を、シートベルト装着状態において車両正面方向から見て乗員Mの腰部Mwとオーバーラップするように位置することができる。
【0058】
したがって、本実施形態によれば、タング32に設けられたベルト挿通孔32aに一端部が接続される延長ベルト31Cと、延長ベルト31Cの他端部が接続される第1の挿通孔35eと、境界部33を構成する第2の挿通孔35fと、を有する中間バックル部材35と、を備えるので、肩ベルト31Aと腰ベルト31Bとの境界部33を、シートベルト装着状態において車両正面方向から見て乗員Mの腰部Mwとオーバーラップするように位置することができる。したがって、バックル装置40を大きくすることなく、延長ベルト31Cと中間バックル部材35を備えた比較的簡単な構成で、境界部33の位置を適切に設定することができる。
【0059】
また、本実施形態では、
図14に示すように、シートベルト31の固定やシート25の条件によっては、ラップアンカー23側のシートベルト31に5cm程度の弛みを予め与えて、この弛み部分80を軽く破断可能に縫製しプリテンショナの作動時に開放できるように保持させてもよい。リトラクタ22のプリテンショナが作動するとき、またはその直前に弛み部分80の縫製糸が切れることで、若干弛んだシートベルト31が乗員の大腿部上を滑り、タング32のベルト挿通孔32aを通してリトラクタ22のプリテンショナの荷重によって張らせることができれば、ラップアンカー23とタング32間の腰ベルト31Bに張力を与えることができ、腰ベルト31Bで骨盤にかかる過大な荷重を和らげながら保持することが可能になると考えられる。
【0060】
また、本実施形態では、シートベルト装置の非装着状態では、タング32が設けられた延長ベルト31Cは、シートベルト31に対して、中間バックル部材35を支点に移動自在であるため、タング32が車室内で自由に移動してしまう可能性がある。このため、シートベルト装置の非装着状態において、延長ベルト31Cに取り付けられたタング32が車室内に張り出さず、且つ、移動を抑えることが好ましい。
【0061】
このため、本実施形態では、
図16に示すように、中間バックル部材35は、延長ベルト31Cの他端部が接続される第1の挿通孔35eと、シートベルト31が挿通される第2の挿通孔35fの挿通方向が互いに直交するように、段付き形状に形成されている。そして、中間バックル部材35がシートベルト31の所定の位置に設けられたストッパ76によって車室内の壁部に沿って保持されるシートベルト装置の非装着状態において、第2の挿通孔35fは、上下方向に指向される一方、第1の挿通孔35eは、水平方向に指向される。このため、中間バックル部材35は、第2の挿通孔35fを境に、互いに平行な第1及び第2の平板部35g、35hを備え、シートベルト装置の非装着状態では、第1及び第2の平板部35g、35hは、いずれも車室内の壁部に沿って延びることから、延長ベルト31Eに取り付けられたタング32も、シートベルト31と平行に垂下され、タング32が車室側に張り出すのが防止できる。
【0062】
また、シートベルト装置の非装着状態で、タング32が垂下されている状態において、タング32のプレート部分32bが対向するシートベルト31の位置に、磁石77を埋め込むようにしてもよい。これにより、シートベルト装置の非装着状態において、タング32を磁石77によって保持することができる。
その他の構成及び作用については、第1実施形態のものと同様である。
【0063】
なお、本発明は、前述した各実施形態に限定されるものではなく、適宜、変形、改良、等が可能である。