【文献】
J. Org. Chem.,1992年,Vol. 57,pp. 123-127
【文献】
J. Org. Chem.,1993年,Vol. 58,pp. 4144-4146
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記有機還元化合物が、アルコール、ポリオール、糖類などから選択される、ヒドロキシル官能基を有する水素供与性有機還元化合物である、請求項1から3のいずれか一項に記載の方法。
前記チオール基を有するアミノ酸または前記チオール基を有するペプチドが、システイン、ホモシステイン、グルタチオンおよびチオレドキシンから選択される、請求項1から5のいずれか一項に記載の方法。
【技術分野】
【0001】
本発明は、L−メチオニン前駆体であるジメチルジスルフィド(DMDS)と有機還元化合物との酵素反応による、L−メチオニンの製造方法に関する。本発明はまた、L−メチオニン前駆体とメチルメルカプタンとの間の酵素反応によるL−メチオニンの製造のための2ステップ法に関し、メチルメルカプタンはDMDSの酵素的水素化分解によって得られる。
【0002】
メチオニンは人体の必須アミノ酸の1つであり、動物飼料用添加物として広く使用される。メチオニンは医薬品の出発材料としても使用される。メチオニンは、コリン(レシチン)およびクレアチンなどの化合物の前駆体として作用する。メチオニンは、システインおよびタウリンの合成出発材料でもある。
【0003】
S−アデノシル−L−メチオニン(SAM)は、L−メチオニンの誘導体であり、脳における種々の神経伝達物質の合成に関与する。L−メチオニンおよび/またはSAMは、体内での脂質の蓄積を阻害し、脳、心臓および腎臓における血液循環を改善する。L−メチオニンはまた、有毒物質または鉛などの重金属の消化、解毒および排泄を補助するためにも使用され得る。L−メチオニンは、骨および関節疾患に対する抗炎症効果を有し、毛髪の必須栄養素でもあるため、毛髪の望ましくない早期損失を防止する。
【0004】
メチオニンは、例えばFR2903690、WO2008006977、US2009318715、US5990349、JP19660043158およびWO9408957の文献に記載されているように、石油化学由来の出発材料から化学的経路によって工業的に調製されることが既に既知である。これらの調製方法が持続可能な開発の過程に含まれないという事実とは別に、これらの化学的経路には、2種のL−エナンチオマーおよびD−エナンチオマーの等量混合物が製造されるという欠点がある。
【0005】
例えば国際出願WO07077041、WO09043372、WO10020290およびWO10020681に記載されているように、メチオニンのL−エナンチオマーのみを製造するという利点を備えた、細菌発酵による完全生物合成が文献において提案されている。これにもかかわらず、これまで大規模に工業的に実施されていないため、これらの方法の性能および/または原価がなお満足できないものであると推定される。
【0006】
最近、混合化学的/生物的方法の工業化をCJ Cheil−Jedang社と出願人が共同で成功させ、ここではL−メチオニン前駆体を細菌発酵によって製造し、次いでメチルメルカプタンと酵素的に反応させて、L−メチオニンのみを製造する(WO2008013432および/またはWO2013029690を参照のこと。)。これらの方法は高レベルの性能を有するが、メチルメルカプタンのオンサイト合成が必要であり、これには次に水蒸気メタン改質による水素の合成、硫黄の水素化による硫化水素の合成およびメタノールと硫化水素からのメチルメルカプタンの合成が必要である。即ち、既に存在するものよりも年間生産量の点でより小規模の工業的外挿とはあまり適合しない、非常に大規模な装置が必要である。
【0007】
従って、メチルメルカプタンの合成に必要な装置が水素、硫化水素およびメタノールから出発する合成の場合よりも小型である混合法により、L−メチオニンを製造する必要性がなお存在する。本発明はこの観点に含まれる。
【0008】
実際に、本発明は、以下にまとめる方法(WO2008013432および/またはWO2013029690)のメチルメルカプタンをジメチルジスルフィド(DMDS)で置き換えることを提案する。
【0009】
【化1】
【0010】
ここでは、メチルメルカプタン(MeSH)を第2ステップで直接使用する。本発明は、メチルメルカプタンを、前ステップでのジメチルジスルフィドの酵素的水素化分解の生成物で置換すること、またはグルコースおよびDMDSがL−メチオニンを製造する「ワンポット」反応で全てを化合させることを提案する。
【0011】
ジメチルジスルフィドからのメチルメルカプタンの合成に関して、以下の要素を先行技術に見出すことができる
【0012】
特許出願EP0649837は、遷移金属硫化物を用いた、ジメチルジスルフィドの水素による触媒的水素化分解によるメチルメルカプタンの合成方法を提案している。この方法は効率的であるが、工業的に有利なレベルの生産性を得るためには、200℃程度の比較的高温が必要である。
【0013】
当業者には、ナトリウムメチルメルカプチド(CH
3SNa)の水溶液の酸性化によってメチルメルカプタンを調製することが可能であることも既知である。この方法には、塩酸または硫酸の使用に応じて、塩化ナトリウムまたは硫酸ナトリウムなどの多量の塩が製造されるという大きな欠点がある。これらの塩類水溶液は、処理が非常に困難であることが多く、残存する微量の悪臭生成物の影響は、工業的規模でのこの方法を容易に想起できないことを意味する。
【0014】
L−メチオニンの合成前のステップの間にジメチルジスルフィド(DMDS)を酵素還元することによってメチルメルカプタンを調製できることが今や見出され、驚くべきことに、このメチオニン合成中のDMDSを酵素還元できることも見出されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
従って、本発明の主題は、L−メチオニンの調製方法であって、国際出願WO2008013432および/またはWO2013029690で提案されたものと同様であり、メチオニンの合成における前記メチルメルカプタンの使用直前に、DMDSの酵素触媒作用の反応において前記メチルメルカプタンを生成させることにより、またはL−メチオニン合成用の反応装置内でのインサイチューのDMDS酵素触媒作用の反応において前記メチルメルカプタンを生成させることにより、メチルメルカプタンの処理を不要にするまたは少なくとも低減することができる方法である。
【課題を解決するための手段】
【0017】
より詳細には、本発明の第1の主題は、L−メチオニンの調製方法であって、少なくとも:
a)
1)ジメチルジスルフィド(DMDS)、
2)触媒量の、チオール基を有するアミノ酸またはチオール基含有ペプチド、
3)触媒量の、前記チオール基を有するアミノ酸または前記チオール基含有ペプチドのジスルフィド架橋の還元反応を触媒する酵素、
4)ジスルフィド、特にDMDSに対して化学量論量の有機還元化合物、
5)触媒量の、当該有機還元化合物の脱水素反応を触媒する酵素、
6)触媒量の、触媒系の2種の酵素(デヒドロゲナーゼおよびレダクターゼ)に共通の補因子
を含む混合物を調製するステップ、
b)メチルメルカプタン(CH
3−SH)を形成するための酵素反応を行うステップ、
c)L−メチオニンの前駆体を添加し、ステップb)で形成されたメチルメルカプタンを用いて前記前駆体を変換するステップ、および
d)形成されたL−メチオニンを回収し、任意選択で精製するステップ
を含む方法である。
【0018】
上記のステップa)の成分は、異なる順序で添加してよい(ステップaにおける添加の順序は限定的ではない。)。本発明の一実施形態において、チオール基を有するアミノ酸および/またはチオール基を有するペプチドは、それぞれ前記アミノ酸および/または前記ペプチドのジスルフィド形、例えばグルタチオンジスルフィド形のグルタチオンであり得る。
【0019】
一般的に、前記チオール基を有するアミノ酸または前記チオール基含有ペプチドの2個の等価物の間に生じたジスルフィド架橋の還元を触媒する酵素は、レダクターゼ酵素である。「レダクターゼ」という用語は、本発明の説明の記載の残りで使用される。同様に、ステップb)に関与する有機還元化合物の脱水素を触媒する酵素は一般にデヒドロゲナーゼ酵素と呼ばれ、本発明の説明の記載の残りでは「デヒドロゲナーゼ」という用語が選択される。
【0020】
還元および脱水素を触媒する2種の酵素(レダクターゼおよびデヒドロゲナーゼ)に共通の補因子のうち、フラビン補因子およびニコチン補因子を非限定的な例として挙げることができる。ニコチン補因子、より詳細にはニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NAD)、またはより良好にはニコチンアミドアデニンジヌクレオチドリン酸(NADPH)を使用することが好ましい。上記の補因子は、これの還元形(例えばNADPH、H+)および/またはこれの酸化形(例えばNADP+)で有利に使用され、即ちこれらは還元形および/または酸化形で反応媒体中に添加され得る。
【0021】
ステップa)における成分1)から6)の添加の構成および順序は、異なる方法で実施され得る。ステップb)の酵素反応は、ステップa)の混合物の触媒系の成分の1つ:酵素、または化学量論量で添加された化合物の1つ(ジスルフィドもしくは有機還元化合物)、または触媒量で添加された化合物の1つ(チオール基を有するアミノ酸もしくはチオール基含有ペプチドまたは前記チオールに対応するジスルフィドもしくは前記ペプチドまたはさもなければ補因子)の添加によって引き起こされる。
【0022】
従って、本発明の一実施形態により、L−メチオニンの調製方法は、少なくとも以下の:
a’)
・ジメチルジスルフィド(DMDS)、
・触媒量の、チオール基を有するアミノ酸またはチオール基含有ペプチド、
・触媒量の、前記チオール基を有するアミノ酸または前記チオール基含有ペプチドに対応するレダクターゼ酵素、
・触媒量のNADPH
を含む混合物を調製するステップ、
b’)ジメチルジスルフィド)に対して化学量論量の有機還元化合物を、触媒量の対応するデヒドロゲナーゼ酵素と共に添加するステップ、
c’)メチルメルカプタン(CH
3−SH)を形成するための酵素反応を行うステップ、
d’)ステップc’)で形成されたメチルメルカプタンによってL−メチオニン前駆体を変換するステップ、および
e’)形成されたL−メチオニンを回収し、任意選択で精製するステップ
を含む。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明の方法により、メチルメルカプタンは、一般に気体状態で形成され、次いで、以下に記載するように、メチオニン前駆体と直接接触する。
【0025】
本発明によるL−メチオニンの合成方法は、まず下記の反応に従い、グルコースを有機還元化合物(水素供与体)として使用する、以下に定義するような水素供与体である有機還元化合物によるジメチルジスルフィドの酵素還元に基づく:
【0027】
この反応は、添付図面1に記載されているように、水素供与性有機化合物により再生された、(アミノ酸またはペプチド)/対応するレダクターゼ酵素複合体の形のチオール基含有アミノ酸またはチオール基含有ペプチド、例えばグルタチオンを用いる酵素系によって容易に触媒されることが今や見出されている。
【0028】
従って、
図1の図解によれば、ペプチド(「グルタチオン」と示す。)は、ジスルフィド架橋(「グルタチオンジスルフィド」と示す。)を有するペプチドへの変換により、ジスルフィド(「DMDS」と示す。)をメルカプタン(「メチルメルカプタン」と示す。)に還元する。リダクターゼ酵素(「グルタチオンレダクターゼ」と示す、EC 1.8.1.7またはEC 1.6.4.2)は、補因子(「NADPH、H+」と示す。)を酸化すると同時にペプチド(グルタチオン)を再生する。酸化形(「NADP+1.1.1.47)は次いで、当業者に周知であり、関与するデヒドロゲナーゼ酵素(酵素分類番号ECの例によって示す「グルコースデヒドロゲナーゼ」)および有機還元分子(「グルコース」と示す。)を含む、「再循環」酸化還元酵素複合体によって還元される。次いで有機還元化合物の酸化形が得られる(「グルコノラクトン」と示す。)。
【0029】
より具体的には、ペプチド(示した例はグルタチオンである。)は、ジスルフィド架橋(グルタチオンジスルフィドと示す。)を有するペプチドに変換されることにより、ジメチルジスルフィドをメチルメルカプタンに還元する。レダクターゼ酵素(グルタチオンレダクターゼと示す、EC 1.8.1.7またはEC 1.6.4.2)は、ペプチド(グルタチオン)を再生し、この同じ酵素は、当業者に周知の酸化還元酵素複合体、例えばNADPH/NADP+(ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドホスフェート(還元形および酸化形))複合体によって再生される。NADP+は、これの酸化形(ここではグルコノラクトン)への変換により水素(水素供与体)を与える前記有機還元化合物(グルコースと示す。)により、使用される有機還元化合物(ここでは、グルコースデヒドロゲナーゼ、EC 1.1.1.47)に対応するデヒドロゲナーゼ酵素によってNADPHに再生される。
【0030】
最も特に好適な実施形態により、グルタチオンレダクターゼ酵素と化合したグルタチオン/グルタチオンジスルフィド系によって、本発明により、DMDSをメチルメルカプタンに還元することが可能になる。
【0031】
グルタチオンは、生物学において広く用いられているトリペプチドである。この種は還元形(グルタチオン)または酸化形(グルタチオンジスルフィド)で、細胞内にて重要な酸化還元対を形成する。従って、グルタチオンは、生物から重金属を排除するために不可欠である。従って、例えば、出願WO05107723では、グルタチオンを使用してキレート化調製物が形成される配合物について記載され、特許US4657856は、グルタチオンによりグルタチオンペルオキシダーゼを介してH
2O
2などの過酸化物がH
2Oに分解可能になることも教示している。最後に、グルタチオンは、タンパク質中に存在するジスルフィド架橋の還元も可能にする(Rona Chandrawati,「Triggered Cargo Release by Encapsulated Enzymatic Catalysis in Capsosomes」,Nano Lett.,(2011),vol.11,4958−4963)。
【0032】
本発明の方法により、ジメチルジスルフィドからメチルメルカプタンを製造するために、触媒量の、チオール基を有するアミノ酸またはチオール基含有ペプチドが使用される。
【0033】
本発明の方法で使用され得るチオール基を有するアミノ酸としては、システインおよびホモシステインが非限定的な例として挙げられる。これらの場合、使用した酸化還元酵素系は、システイン/シスチンレダクターゼEC 1.8.1.6およびホモシステイン/ホモシステインレダクターゼの系と同様に触媒サイクルを再生することができる。
【0034】
このアミノ酸は、OAHS(L−メチオニン前駆体)、硫化水素(H
2S)およびメチオニン酵素、即ちメチオニンをもたらす反応を触媒する酵素から調製できるため、ホモシステインを使用することが有利であり得る。従って、反応媒体中のごく少量のH
2Sによって、インサイチューでグルタチオンの等価サイクルが生成される。
【0035】
本発明の方法において使用され得るチオール基を有するペプチドとしては、グルタチオンおよびチオレドキシンが非限定的な例として挙げられる。従って、上記のグルタチオン/グルタチオンレダクターゼ系を、チオレドキシン(CAS番号52500−60−4)/チオレドキシンレダクターゼ(EC 1.8.1.9またはEC 1.6.4.5)系に代えてよい。
【0036】
グルタチオンおよびグルタチオン/グルタチオンレダクターゼ系は、これらの化合物のコストおよびそれらの調達容易性のために、本発明にとって最も特に好ましい。
【0037】
本発明の文脈内で使用され得る有機還元化合物のうち、水素供与性化合物が最も好ましく、これらのうち完全に好適な化合物は、ヒドロキシル官能基を有する水素供与性有機還元化合物、例えばアルコール、ポリオール、糖類などである。
【0038】
使用される酵素は、水素含有化合物を脱水素化することができる酵素、例えばアルコールデヒドロゲナーゼである。グルコースは、グルコノラクトンを得るためのグルコースデヒドロゲナーゼを用いた本発明の方法において使用される最も特に好適な糖である。
【0039】
本発明による方法において、DMDSの酵素還元をL−メチオニンの合成とは別の反応装置で行う場合、グルコースのみを化学量論量で使用し、他の全ての成分(グルタチオン、補因子(例えばNADPH)および2種の酵素)を触媒量で使用する。単一の反応装置(「ワンポット」)内でDMDSの酵素還元反応をL−メチオニンの合成と共に行う場合、L−メチオニン前駆体も化学量論量で添加し、この合成のための補助試薬、例えばピリドキサールホスフェート(PLP)およびこの反応に特異的な酵素を触媒量で添加する。
【0040】
ピリドキサールホスフェートおよび前駆体に特異的な酵素の好ましい濃度は、国際出願WO2008013432および/またはWO2013029690に見出すことができる濃度である。
【0041】
2連続ステップまたは「ワンポット」法のいずれの場合でも、酵素触媒作用によるジメチルジスルフィドからのメチルメルカプタンの合成によって利点がもたらされる。これらの利点の中でも、非常に穏やかな温度ならびに圧力条件下および中性に近いpH条件下で、水性または水性有機溶液中で操作できることが挙げられる。これらの条件は全て、「グリーン」または「持続可能な」方法に特有であり、国際出願WO2008013432および/またはWO2013029690で記載されているL−メチオニンの調製と完全に適合している。
【0042】
方法がジメチルジスルフィドを使用する場合の別の利点は、製造されたメチルメルカプタンが、反応条件下で気体状態にあり、形成されたまま反応媒体から離れることである。従って、メチルメルカプタンは、例えばWO2008013432および/またはWO2013029690に記載されているように、反応装置を離脱する際に、即ち、例えばO−アセチルホモセリンまたはO−スクシニルホモセリンおよび酵素、例えばそれぞれO−アセチルホモセリンスルフヒドリラーゼまたはO−スクシニルホモセリンスルフヒドリラーゼからのL−メチオニンの合成に直接使用され得る。
【0043】
メチルメルカプタンはまた、例えば単離したい場合には、ただちに低温で液化することもできる。場合により、低流量の不活性ガス、有利には窒素をバブリングによって導入することにより、反応媒体からの離脱を促進することができる。
【0044】
メチルメルカプタンがL−メチオニンに完全に変換されていない場合には、窒素およびメチルメルカプタンを含有する出口ガスを、所望および必要に応じて、第2反応装置内への通過(L−メチオニン合成)後に、第1反応装置内へ再循環(DMDSの酵素還元)してよい。従って、本発明による方法は、L−メチオニン前駆体およびDMDSからの2つの連続酵素ステップにおけるL−メチオニンの合成方法について記載する。
【0045】
1個の同じ反応装置内で、L−メチオニンの合成を行うこともできる。この場合、L−メチオニンの合成に必要な全ての試薬をDMDSの酵素還元のための系に添加し(上記のステップa))、DMDSのインサイチュー酵素還元で形成されたメチルメルカプタンの損失を避けるために反応装置を密閉する。次に、メチルメルカプタンをL−メチオニン前駆体と反応させてL−メチオニンを得る。従って、本発明の方法は、添付図面2に図解するような、L−メチオニン前駆体およびDMDSからのL−メチオニンの直接合成、またはOAHS、DMDSおよびグルコースからの合成のための方法について記載する。
【0046】
ジメチルジスルフィド(DMDS)は、メチルメルカプタンおよび例えば酸素、硫黄または過酸化水素水溶液などの酸化剤、またはさもなければジメチルサルフェートおよびナトリウムジスルフィドとは別の場所で製造してもよい。DMDSはまた、例えば国際公開第2014033399号記載された反応蒸留によって精製されたジスルフィド油(DSO)の供給源に由来するものでもよい。
【0047】
酵素触媒作用によるDMDSの還元は、メチルメルカプタンの製造場所から既存の工業的経路によって、製造場所と異なる場合に使用場所へメチルメルカプタンを輸送することを回避できる方法と考えられ得る。実際、メチルメルカプタンは室温にて有毒で極めて悪臭のガスであるため、輸送が著しく困難となっている、DMDSとは異なり、輸送が既に厳重に規制されている。従って、DMDSは、L−メチオニンの合成においてメチルメルカプタンを使用する場所で直接メチルメルカプタンを製造するために使用され、これによりこの生成物の毒性および臭気に関連する欠点と、これに関連する工業上のリスクがさらに低減される。
【0048】
2つの連続ステップにおける合成方法の場合、DMDSが反応で消費され、メチルメルカプタンが形成されたまま反応媒体を離れ、グルコースおよびDMDSが連続的に供給されると仮定すると、有機還元化合物の脱水素の生成物、例えばグルコノラクトンのみが反応媒体中に蓄積する。グルコノラクトン濃度が反応条件下で飽和点を超えると、グルコノラクトンは析出し、次いで当業者に既知である任意の手段によって反応媒体から単離され得る。
【0049】
グルコノラクトンは、幾つかの用途を有し得る。グルコノラクトンは例えば、規格E575によって既知である食品添加物として使用される。グルコノラクトンは、酸性水性媒体中で加水分解されてグルコン酸を形成し、グルコン酸も食品添加物(E574)として使用される。グルコノラクトンは、食品産業用の豆腐(CN103053703参照)の製造にも使用される。
【0050】
とりわけ有利には、本発明による方法からの「廃棄物」を表すという意味で、グルコノラクトンは、バイオエタノールまたは糖もしくはデンプンの発酵から生じる他の任意の分子のどちらかを製造する考えられる発酵反応において、グルコースに代わり得る。
【0051】
実際に、ある細菌は、J.P.van Dijken,「Novel pathway for alcoholic fermentation of gluconolactone in the yeast Saccharomyces bulderi」,J.Bacteriol.,(2002),Vol.184(3),672−678によって記載されているように、グルコノラクトンを発酵の炭素源として使用し得る。
【0052】
本発明による方法におけるグルコノラクトンの明白な利点は、グルコノラクトンをL−メチオニン前駆体の合成に再循環させることである。実際に、この合成はグルコースを使用する細菌発酵であるため、グルコノラクトンはこのグルコースの一部に容易に代わることができる。このような条件下では、この再循環は非常に重要な経済的優位性となり得る。
【0053】
上記で定義した「ワンポット」条件下で反応を行い、グルコノラクトンがL−メチオニンよりもはるかに溶解性である場合でさえ、当業者に周知である従来の技術を用いて反応媒体からグルコノラクトンを分離することは容易である。
【0054】
本発明の方法においてまた他の糖を使用してよく、例えばグルコース/グルコノラクトン/グルコースデヒドロゲナーゼ系を、以下の系:グルコース6−リン酸/6−ホスホグルコノ−δ−ラクトン/グルコース6−リン酸デヒドロゲナーゼ(EC 1.1.1.49)に代えることができる。
【0055】
本発明の方法において、糖の代わりにアルコールを使用し、従ってグルコース/グルコノラクトン/グルコースデヒドロゲナーゼ系の代わりに以下の一般的な系:アルコール/ケトンまたはアルデヒド/アルコールデヒドロゲナーゼ(EC 1.1.1)、より詳細にはイソプロパノール/アセトン/イソプロパノールデヒドロゲナーゼ系(EC 1.1.1.80)を使用することも可能である。
【0056】
実際に、この系によって、DMDSおよびイソプロパノールから、反応媒体を離れる、メチルメルカプタン(MeSH)およびアセトンからなる混合物を得ることができる(従っていかなる生成物も蓄積しない。)。MeSHおよびアセトンは、所望ならば簡単な蒸留によって容易に分離され得る。
【0057】
一実施形態により、本発明による方法は、DMDSの酵素還元による調製、次いで、L−メチオニンを得るための、形成されたメチルメルカプタンとL−メチオニン前駆体との反応を含む。この場合、本発明による方法は、少なくとも以下のステップ:
ステップ1:例えばグルコースの細菌発酵によるL−メチオニン前駆体の調製(WO2008013432および/またはWO2013029690を参照のこと。)、
ステップ2:前記反応装置R1から離脱するメチルメルカプタンの形成を伴う、反応装置R1におけるDMDSの酵素還元(上記のステップa’)からc’)に相当)、
ステップ3:ステップ1からの前駆体およびステップ2からのメチルメルカプタンを用いた反応装置R2におけるL−メチオニンを酵素合成(上記ステップd’に相当)、
ステップ4(任意選択):ステップ3で形成されたグルコノラクトンのステップ1への再循環、
ステップ5:形成されたL−メチオニンの回収および任意選択の精製(上記のステップe’に対応)
を含む。
【0058】
ステップ1では、使用可能な条件の範囲は、以下の特許に見出される(WO2008013432および/またはWO2013029690を参照のこと。)。
【0059】
ステップ2では、反応温度は10℃から50℃、好ましくは15℃から45℃、より好ましくは20℃から40℃の範囲内である。
【0060】
反応のpHは6から8、好ましくは6.5から7.5であってよい。反応媒体のpHは、緩衝液によって調節してよい。全く好ましくは、例えば0.1mol.l
−1リン酸緩衝液のpHは、7.3となるように選択される。
【0061】
反応に使用する圧力は、使用する試薬および装置に応じて、大気圧に比べて減圧から数バール(数百kPa)までの範囲であり得る。減圧は、形成されたメチルメルカプタンのより迅速な脱気を実際に可能にし得るが、水およびDMDSの飽和蒸気圧を上昇させ、形成されたメチルメルカプタンをやや多く汚染するという欠点を有する。好ましくは、大気圧から20バール(2MPa)の範囲の圧力が使用され、さらにより好ましくは、方法は大気圧から3バール(300kPa)の範囲の圧力下で行われる。
【0062】
ステップ3で、メチルメルカプタンが反応装置R2で完全に反応していない場合は、窒素流を反応装置R1に導入して反応装置R2に流入させ、これらのガスを所望の圧力にて反応装置R2から反応装置R1に再循環させるという考えられる相違点を有する、理想的な条件のための国際出願WO2013029690を参照する。
【0063】
別の実施形態(別の変形形態)により、本発明の方法は、同一の反応装置(「ワンポット」)で行われ、この場合、少なくとも以下のステップ:
ステップ1’:例えば、グルコースの細菌発酵によるL−メチオニン前駆体の調製(上記のステップ1と同様)、
ステップ2’:メチルメルカプタンのインサイチュー形成およびこれと同時の同じ反応装置中におけるステップ1’で得た前駆体によるL−メチオニンの酵素合成を伴う、反応装置R1におけるDMDSの酵素還元、
ステップ3’(任意選択):ステップ2’で形成したグルコノラクトンのステップ1’への再循環、
ステップ4’:形成されたL−メチオニンの回収および任意選択の精製
を含む。
【0064】
ステップ1’では、使用可能な条件の範囲は、国際出願WO2008013432および/またはWO2013029690に見出される。
【0065】
ステップ2’の場合の操作条件は以下の通りである。
【0066】
反応温度は、10℃から50℃、好ましくは15℃から45℃、より好ましくは20℃から40℃の範囲である。
【0067】
反応のpHは有利には6から8、好ましくは6.2から7.5である。全く好ましくは、反応は0.2mol.l
−1リン酸緩衝液の、7.0に等しいpHで行う。
【0068】
好ましくは、方法は、大気圧から20バール(2MPa)、さらにより好ましくは大気圧から3バール(300kPa)の範囲の圧力で行う。
【0069】
DMDS/L−メチオニン前駆体のモル比は0.1から10、一般に0.5から5であり、好ましくはモル比は化学量論(モル比=0.5)であるが、反応速度に有益であることが判明すれば、より高いモル比でもよい。
【0070】
本発明による方法の一方または他方の変形形態において、方法は、選択された操作条件および使用される試薬に応じて、ガラス反応装置または金属反応装置中で、バッチ式でまたは連続的に行うことができる。
【0071】
本発明による方法の一方または他方の変形形態において、理想的な有機還元化合物/DMDSのモル比は化学量論(モル比=1)であるが、当業者が利益を見出す場合、例えば還元化合物を最初から反応装置に導入しながらDMDSが連続添加されている場合は、0.01から100まで変化してよい。好ましくは、このモル比は、反応全体にわたって、全体として0.5から5の間で選択される。
【0072】
上記のステップa)で調製した混合物中に触媒量で存在する成分(チオール基を有するアミノ酸もしくはチオール基含有ペプチド、またはさもなければ前記アミノ酸に対応するジスルフィドもしくは前記ペプチドに対応するジスルフィド、レダクターゼ酵素、デヒドロゲナーゼ酵素、補因子、例えばNADPH)は、容易に商業的に入手可能であるか、または当業者に周知の技術によって調製することができる。これらの各種成分は、固体または液体形態であってもよく、非常に有利には、本発明の方法において使用される水に溶解されてもよい。使用する酵素は、支持体(支持された酵素の場合)にグラフトされてもよい。
【0073】
アミノ酸またはペプチドを含む酵素複合体の水溶液も、例えばこれらの成分を含む細胞の透過化によって、当業者に公知の方法によって再構成され得る。この水溶液は、以下の実施例1に示す組成物を反応媒体の総重量に対して0.01%から20%の含有率で使用され得る。好ましくは、0.5%から10%の含有率が使用される。
【実施例】
【0074】
本発明は、本発明の範囲を制限しない以下の実施例により、より良好に理解される。
【0075】
[実施例1]
2連続ステップ
グルタチオン酵素複合体(Aldrich)10mlおよびグルコース19.2g(0.1mol)を、pH7.30の0.1mol/lリン酸緩衝液150mlを含有する反応装置R1に導入する。酵素複合体の溶液は、グルタチオン185mg(0.6mmol)、グルタチオンレダクターゼ200U、NADPH 50mg(0.06mmol)およびグルコースデヒドロゲナーゼ200Uを含有する。反応媒体を機械撹拌しながら25℃とする。第1のサンプルをt=0にて採取する。続いて、ジメチルジスルフィド(9.4g、0.1mol)をビュレットに入れ、反応装置に滴加すると、反応が開始する。窒素流を反応装置に導入する。
【0076】
反応装置から出るガスのガスクロマトグラフィー分析によって、ほぼ本質的に窒素およびメチルメルカプタン(多少の水)の存在を示す。これらの出口ガスは、反応装置R2に送達される。反応装置R1にDMDSを6時間で導入する。反応装置R1の反応媒体の最終的なガスクロマトグラフィー分析によってDMDSが存在しないことが確認され、UPLC/質量分析による分析によって、微量のグルコースおよびほぼ排他的に存在するグルコノラクトン(微量のグルコン酸)を示す。
【0077】
これと並行して、O−アセチル−L−ホモセリン(OAHS)5g(O−アセチルホモセリンは、Sadamu Nagai,「Synthesis of O−acetyl−l−homoserine」,Academic Press,(1971),vol.17,pp.423−424に従って、L−ホモセリンと無水酢酸から合成した。)を、pH6.60の0.1mol.l
−1リン酸緩衝液75mlを含有する第2反応装置R2に導入する。溶液を機械撹拌しながら35℃とする。
【0078】
反応開始前に、反応媒体1mlの試料(t=0)を採取する。ピリドキサールホスフェート(1.6mmol、0.4g)および酵素O−アセチル−L−ホモセリンスルフヒドリラーゼ(0.6g)の溶液を10mlの水に溶解し、次いで反応装置に添加する。
【0079】
メチルメルカプタンは、反応装置R1の反応によって導入され、窒素流によって推進される。その後、反応が開始する。L−メチオニンの形成およびOAHSの消失をHPLCによって監視する。反応装置R2からの出口ガスは、20%水酸化ナトリウム水溶液中に取込まれる。分析により、OAHSが52%の程度でL−メチオニンに変換され、過剰量のDMDSが水酸化ナトリウムトラップ中に見出されるメチルメルカプタンに変換されたことが示されている。
【0080】
[実施例2]
「ワンポット」法
酵素複合体10ml、グルコース6g(33mmol)およびO−アセチル−L−ホモセリン5g(31mmol)(OAHS、O−アセチル−L−ホモセリンは、Sadamu Nagai,「Synthesis of O−acetyl−l−homoserine」,Academic Press,(1971),vol.17,pp.423−424に従って、L−ホモセリンと無水酢酸から合成した。)をpH7の0.2mol.l
−1リン酸緩衝液150mlを含有する反応装置に導入する。酵素複合体の溶液は、グルタチオン185mg(0.6mmol)、グルタチオンレダクターゼ200U、NADPH 50mg(0.06mmol)、グルコースデヒドロゲナーゼ200U、ピリドキサールホスフェート0.4g(1.6mmol)およびO−アセチル−L−ホモセリンスルフヒドリラーゼ0.6gを含有する。
【0081】
反応媒体を機械撹拌しながら27℃とする。t=0にて第1のサンプルを採取する。続いて、ジメチルジスルフィド(3g、32mmol)をビュレットに入れ、メチルメルカプタンの放出を回避するために閉鎖されている反応装置に滴加すると、反応が開始する。反応をHPLCによって監視し、OAHSの消失およびL−メチオニンの形成を確認する。6時間後、OAHSの21%がL−メチオニンに変換され、L−メチオニン前駆体、DMDSおよび有機還元化合物からの「ワンポット」法によってL−メチオニンを製造できることが実証された。