特許第6790101号(P6790101)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6790101
(24)【登録日】2020年11月6日
(45)【発行日】2020年11月25日
(54)【発明の名称】銅−亜鉛合金からなる摺動部材
(51)【国際特許分類】
   C22C 9/04 20060101AFI20201116BHJP
   C22F 1/08 20060101ALN20201116BHJP
   C22F 1/00 20060101ALN20201116BHJP
【FI】
   C22C9/04
   !C22F1/08 K
   !C22F1/00 612
   !C22F1/00 630K
   !C22F1/00 631A
   !C22F1/00 651B
   !C22F1/00 685Z
   !C22F1/00 691B
   !C22F1/00 691C
   !C22F1/00 630A
   !C22F1/00 630C
   !C22F1/00 630D
【請求項の数】7
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2018-536435(P2018-536435)
(86)(22)【出願日】2017年2月3日
(65)【公表番号】特表2019-510132(P2019-510132A)
(43)【公表日】2019年4月11日
(86)【国際出願番号】EP2017000144
(87)【国際公開番号】WO2017140411
(87)【国際公開日】20170824
【審査請求日】2018年8月21日
(31)【優先権主張番号】102016001994.8
(32)【優先日】2016年2月19日
(33)【優先権主張国】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】592179160
【氏名又は名称】ヴィーラント ウェルケ アクチーエン ゲゼルシャフト
【氏名又は名称原語表記】WIELAND−WERKE AKTIENGESELLSCHAFT
(74)【代理人】
【識別番号】100081570
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 彰芳
(72)【発明者】
【氏名】クアン ハンス アチーム
(72)【発明者】
【氏名】ボウム スサンヌ
(72)【発明者】
【氏名】ネウブランド トビアス
(72)【発明者】
【氏名】ガーハード ツァム
(72)【発明者】
【氏名】ボルガー ヴォッガサー
【審査官】 川口 由紀子
(56)【参考文献】
【文献】 特開平07−048665(JP,A)
【文献】 特開平07−317804(JP,A)
【文献】 特開2001−164328(JP,A)
【文献】 特表2016−511792(JP,A)
【文献】 中国特許出願公開第101680056(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 9/04
C22F 1/00
C22F 1/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(重量%で)以下の成分:
Cu 60.0から64.0%まで、
Si 0.2から0.5%まで、
Fe 0.6から1.2%まで、
選択的に、さらにSn 最大1.5%まで、
選択的に、さらにPb 最大0.25%まで、
選択的に、さらにP 最大0.08%まで、
残部Znおよび不可避な不純物
を含有する銅−亜鉛合金からなる摺動部材において、
前記銅−亜鉛合金には珪化鉄が混在しており、体積分率が少なくとも合金全体の90%であるα相、およびβ相からなる構造を有していることを特徴とする、銅−亜鉛合金からなる摺動部材。
【請求項2】
Si含有量に対するFe含有量の比が、少なくとも1.5かつ多くとも3.8であることを特徴とする、請求項1に記載の摺動部材。
【請求項3】
前記した珪化鉄は少なくとも第1と第2の二種類の珪化鉄部分が存在し、第1の珪化鉄が、大きくとも0.3μmの直径、および1000μm当たりの粒子が200から400個の密度を有し、かつ第2の珪化鉄が、少なくとも1μmかつ大きくとも15μmの直径、および100000μm当たりの粒子が20から50個の密度を有することを特徴とする、請求項1または2に記載の摺動部材。
【請求項4】
Sn含有量が少なくとも0.5重量%であることを特徴とする、請求項1から3までのいずれか1項に記載の摺動部材。
【請求項5】
α相とβ相の界面には高スズ相が堆積しており、β相の体積分率が多くとも、この高スズ相を含めた合金全体の5%であることを特徴とする、請求項4に記載の摺動部材。
【請求項6】
Sn含有量が多くとも0.09重量%であることを特徴とする、請求項1から3までのいずれか1項に記載の摺動部材。
【請求項7】
β相の体積分率が多くとも珪化鉄を含めた合金全体の4%であることを特徴とする、請求項6に記載の摺動部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、銅−亜鉛合金からなる摺動部材に関するものである。
【背景技術】
【0002】
銅−亜鉛合金からなる摺動部材は、例えば内燃機関において、コネクティングロッドの両側ベアリング位置に使用される。摺動部材の材料に対する技術的な要求は、最新式エンジンの開発に伴って大きくなっている。それに加えて、法的規制により、材料中の鉛含有量を最小限まで削減することが求められている。同時に、摺動部材のコスト削減という圧力は増している。
【0003】
公知の摺動部材用銅−亜鉛合金は、CuZn31Si1である。この合金には、材料の機械加工性を改善するために、0.8重量%までの鉛が混ざっていてもよい。この合金中の銅割合が高いことにより、摺動部材は高価になる。さらに、この合金では耐摩耗性構造成分の接触領域が小さすぎるので、将来的に、最新式エンジン内にかかる負荷には耐えられない。
【0004】
特許文献1から、摺動部材にとって大変好適な機械特性を有する鉛不含の銅−亜鉛−アルミニウム鍛錬材料が公知である。しかし、その熱伝導率は小さいので、連続鋳造の際に効率的な速度で行なうことを妨げている。
【0005】
さらに、特許文献2から、高い負荷を受ける摺動部材のための銅−亜鉛合金が公知である。この材料は、α相からなるマトリックスを有する耐摩耗性構造を有しており、この中には島状にβ相および硬質混合珪化物が混在している。この材料は、特性の組み合わせが優れていることにより際立っているが、その複雑な構造により、プロセスの実施に費用がかかり、かつ慎重さが求められる。
【0006】
摺動部材の特別な形態は、滑り軸受ブッシュである。滑り軸受ブッシュでは、製造方法の違いに基づき、巻きブッシュと、旋盤加工ブッシュに区別される。
【0007】
巻きブッシュは、帯状の半製品から、対応する寸法に合わせた帯部分を中空円筒体に成形して、その突き合わせた帯の端部同士を結合することにより製造される。有利には、原材料は帯体鋳造で製造される。このとき、鋳造形状として、比較的薄い帯体が鋳造される。これを、熱間加工をしないで、僅かな冷間加工により最終寸法まで圧延し、必要な場合には、中間焼鈍を行なってもよい。したがって、使用する合金は、鋳造性が良好でかつ冷間加工性が非常に良好でなくてはならない。さらに、この合金は、僅かな冷間加工で十分な強度と硬度が得られるように、冷間加工により迅速に硬化しなくてはならない。
【0008】
旋盤加工ブッシュは、棒状または管状の半製品から、機械加工により製造される。半製品を製造するために、ボルト状の鋳造形状が鋳造され、そこから熱間圧縮工程により、圧縮管またはロッドが圧縮成形される。それぞれの圧縮成形品から、一連の延伸工程により半製品が得られ、それから滑り軸受ブッシュが製造される。この製造法のためには、使用する合金は熱間加工性および冷間加工性が良好でなくてはならない。さらに、この合金は機械加工性が良好でなくてはならない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】欧州特許第1158062号明細書
【特許文献2】独国特許第102007029991号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の課題は、鋼に対する摩擦による摩耗に対して耐久性のある、従来技術から公知の摺動部材よりも安価な摺動部材を提供することである。このとき、費用削減は主に、滑り軸受を作る半製品を安価に製造することにより行なうべきである。この費用に関する利点は、滑り軸受の巻きブッシュの製造においても、旋盤加工ブッシュの製造においても、実現されうるべきである。前記摺動部材は、技術的および法的要求を満たさなくてはならない。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、請求項1の特徴により記載されている。その他の従属請求項は、本発明の好適な実施態様と発展形態に関するものである。
【0012】
本発明は、銅−亜鉛合金からなる摺動部材を包含し、前記銅−亜鉛合金は(重量%で)以下の組成:
Cu 60.0から64.0%まで、
Si 0.2から0.5%まで、
Fe 0.6から1.2%まで、
選択的に、さらにSn 最大1.5%まで、
選択的に、さらにPb 最大0.25%まで、
選択的に、さらにP 最大0.08%まで、
残部Znおよび不可避な不純物
を有する。このとき、前記銅−亜鉛合金には珪化鉄が混在しており、体積分率が少なくとも合金全体の90%であるα相、およびβ相からなる構造を有している。
【0013】
銅−亜鉛合金からなる軸受材料は、通常、90体積%より少ないα相含有量を有する。というのも、α相は付着しやすく、そのためβ相より強く摩耗する傾向があるからである。一方、α相の含有量が大きいと、材料は延性を持つ。本発明は、銅含有量が60から64重量%である銅−亜鉛合金に鉄と珪素を添加することにより、非常に延性があり、同時に非常に耐摩耗性のある鍛錬材料を形成するという認識に基づいている。このとき、前記合金の珪素含有量は、少なくとも0.2重量%かつ多くとも0.5重量%であり、鉄含有量は、少なくとも0.6重量%かつ多くとも1,2重量%である。前記合金は、任意に、さらにスズ1.5重量%まで、鉛0.25重量%まで、およびリン0.08重量%までを含有する。前記合金の亜鉛含有量は、合金の正確な組成に応じて、32.5から38.5重量%の間、有利には33.5から38重量%の間、特に有利には34から37.5重量%の間にあってよい。この組成を有する鍛錬用銅−亜鉛合金から製造される材料は、α相の体積分率が少なくとも90%であるα相およびβ相からなる構造を有する。この構造中には珪化鉄が混在しており、その体積分率は1.5から4.5%であってよい。したがって、β相の含有量は9体積%より小さく、通常は5体積%より小さく、有利には3体積%より小さい。典型的には、少なくとも0.3体積%のβ相が前記構造中に存在する。
【0014】
珪化鉄は、硬質相として前記材料の良好な耐摩耗性の元となっている。珪素含有量が0.2重量%より小さい場合、あまりにも少ない珪化鉄しか形成されない。珪素含有量が0.5重量%を超えると、β相の形成が多くなり、そのため延性が減少することになる。特に有利には、珪素含有量は最大0.47重量%であってよい。鉄含有量が0.6重量%より小さい場合、あまりにも少ない珪化鉄しか形成されない。特に有利には、鉄含有量は少なくとも0.8重量%である。鉄含有量が1.2重量%を超えると、溶融の際に合金内で溶解しないことになる。そうなると、材料中に純粋な鉄粒子が形成されることになるが、それらは柔らかく、その上材料から突出しやすいので、望ましくない。前記珪化鉄は球状の形を有する硬質相であり、鋭い角を持たない。したがって、角の鋭い硬質相において成形加工後に生じうる構造内部の溝や空洞の発生が抑えられる。
【0015】
前記銅−亜鉛合金のそれぞれの構造成分の体積分率は、金属組織を検鏡した研磨面に基づいて求められる。調査により、研磨面画像で求められたそれぞれの構造成分の面積分率は試料中の研磨面の配向とは無関係であることが示されている。つまり、それぞれの相の分布は等方性であるとみなすことができ、研磨面で求められた面積分率はそれぞれの構造成分の体積分率として認定することができる。
【0016】
選択的に、前記合金にはさらにスズ1.5重量%までを添加してよい。スズは、固溶強化により材料の耐摩耗性を高める。一方、スズの亜鉛当量は2であり、そのためβ相が形成されてα相の負担になることが促進されるので、材料の延性は減少する。スズ含有量として1.5重量%の上限が好適であることは証明されている。
【0017】
基本的に、前記合金中の鉛含有量は0.8重量%までであってよい。法的規制が許すならば、前記合金に、必要な場合はチップブレーカとして鉛を0.25重量%まで添加してもよい。有利には、鉛含有量は、最大0.1重量%である。しかし、特に有利には、合金は不可避な不純物の範囲内の鉛含有量を有する。本発明による摺動部材の機能は、前記銅−亜鉛合金中に鉛が不在であることによって損なわれることはない。
【0018】
選択的に、前記合金に、さらにリン0.08重量%までを添加してよい。リンは、溶融物の脱酸素に役立ち、そのためスズが存在する場合には酸化スズの回避に役立つ。
【0019】
本発明による摺動部材は、前記の鍛錬用銅−亜鉛合金の半製品から製造される。このとき、前記半製品の製造は、合金の溶融、鋳造および成形加工の工程をこの記載した通りの順序で含む方法を用いて行われる。このとき、成形加工工程は専ら冷間加工であってよく、あるいは、鋳造形状の鋳造と最初の冷間加工の間に熱間加工を実施してもよい。必要な場合には、2つの成形加工の間に熱処理を行なってもよい。
【0020】
前記の鍛錬用銅−亜鉛合金は、摺動部材に適した半製品の安価な製造を可能にする性質を有する。前記合金の熱伝導率は高いので、鋳造速度は通常の特殊黄銅の鋳造速度の水準にある。鋳造構造のβ相の含有量はなお十分大きいので、半製品を熱間加工により効率的に製造することが可能である。特別な利点は、材料の良好な冷間加工性にある。80%までの変形度は、中間焼鈍がなくても達成できる。この場合、成形加工時の断面積の減少を変形度として定義する。したがって、前記半製品の最終寸法は少ない工程で、特に、少ない中間焼鈍により得ることができる。さらに、材料の強度は冷間加工の際に非常に速く増大するので、軸受材料に典型的な半製品寸法で必要な材料の強度を得るためには少ない冷間加工工程で十分である。
【0021】
前記材料は、最後の冷間加工の後に、200から350℃の温度で2から4時間熱処理される。これにより延性は高まるが、同時に強度は減少する。このとき、前記材料の降伏点Rp0.2の減少は、引張強さRの減少よりも大きい。したがって、熱処理により、R対Rp0.2の比は変化する。その点において、R対Rp0.2の比を熱処理の強さの尺度として使用できる。本発明による摺動部材の材料について、R対Rp0.2の比は最終的な熱処理の前では通常1.05から1.1の間である。熱処理後は、商R/Rp0.2は、1.5を超える値にまで達することができる。熱処理により延性が増し、したがって破断伸び率Aが上昇する。熱処理が強い程、破断伸び率の上昇は大きくなる。熱処理後に達成される破断伸び率は、商R/Rp0.2と関連している。本発明による摺動部材の材料には、一般的に、破断伸び率A(%表記)と商R/Rp0.2の間に以下の関係が当てはまる:
≧41%×(R/Rp0.2)−38%
【0022】
前記材料は、最終状態で十分な延性を持っているので、滑り軸受の巻きブッシュを製造することができる。さらに、製造した滑り軸受ブッシュの較正は問題なく可能である。
【0023】
本発明による摺動部材の耐摩耗性は、適切な実験に基づいて求められ、公知の材料からなる摺動部材の耐摩耗性と関連付けられる。鋼製体に対する摩擦における試料体の質量損失として摩耗を算出する摩擦計試験では、本発明による摺動部材における質量損失は、材料CuZn31Siからなる摺動部材の約半分であることがわかる。このとき、摩擦係数は全ての材料でほぼ同じである。この驚くべき結果は、摺動部材用材料としての使用における前記銅−亜鉛合金の優れた特性を表している。
【0024】
基本材料は主に面心立方晶系α相からなっているので、延性が大きいことにより硬い汚れ粒子の埋入が保障されている。
【0025】
好適には、Si含有量に対するFe含有量の比が、少なくとも1.5かつ多くとも3.8であってよい。この場合、珪化鉄FeSi、FeSiおよびFeSiを形成するための特に有利な条件が存在する。このとき、珪化鉄中に結合していない過剰な鉄もしくは珪素は非常に少ない。珪化鉄中に結合していない過剰な珪素は、合金のマトリックス中に存在する。これは亜鉛当量10を有し、したがって合金中の亜鉛含有量の増加と同じような効果を及ぼす。過剰な珪素が多い結果、固溶強化が強まり、それにより材料の延性が減少することになり、ならびに、望まないにもかかわらず構造中のβ相含有量が増加することになる。特に有利には、Si含有量に対するFe含有量の比は、少なくとも2.2かつ多くとも3.0であってよい。Fe含有量とSi含有量をこのように相互に調整すれば、珪化鉄の集団型の数が増加する。このとき、粒子径により異なる複数の珪化鉄部分が生じてよい。
【0026】
本発明の有利な形態では、前記摺動部材の銅−亜鉛合金中に少なくとも2つの珪化鉄部分が存在してよい。このとき、第1の珪化鉄が、少なくとも0.02mかつ大きくとも0.3μmの直径、および1000μm当たりの粒子が200から400個の密度を有し、かつ第2の珪化鉄が、少なくとも1μmかつ大きくとも15μmの直径、および100000μm当たりの粒子が20から50個の密度を有していない。ここでは、粒子に対して体積が同じ球の直径を珪化鉄粒子の直径として定義する。この形態では、本発明による摺動部材の合金はつまり、比較的小さい珪化鉄からなる第1集団と、比較的大きい珪化鉄からなる第2集団を有する。前記第2の珪化鉄は、特に耐摩耗性のある接触領域として作用する。構造中のその体積分率は、1から2%の間であってよい。第2の珪化鉄の密度が小さいので、これらの間には比較的大きな隙間が残る。これらの隙間は、前記第1の珪化鉄により安定する。第1の珪化鉄がないと、材料のマトリックスは第2の珪化鉄間の隙間において摩耗により速く削り取られることになる。くぼみが生じる。それにより、第2の珪化鉄が前記マトリックスから島状に削られ、そうして材料から突出しやすくなる。第1の珪化鉄が前記隙間内のマトリックスを安定させるので、第2の珪化鉄の突出が妨げられる。前記材料の特別な耐摩耗性にとって、第1と第2の珪化鉄の組み合わせは重要である。
【0027】
本発明の有利な実施態様では、前記銅−亜鉛合金のSn含有量は少なくとも0.5重量%であってよい。スズは、強度と硬度およびそれゆえ合金の耐摩耗性に好適に作用する。0.5重量%より低いスズ含有量では、この作用は小さい。特に有利には、合金中のスズ含有量は少なくとも0.8重量%である。一方、スズ含有量が大きいと、熱処理の際に材料の延性が上昇するのを妨げる。したがって、合金中のスズ含有量は多くとも1.2重量%であれば特に好適である。さらに、本発明のこの実施態様は、引張強さと硬度が高い水準のままであるにも関わらず材料の降伏点は明らかに減少している最終状態を熱処理により調整できるという点で優れている。この特別な性質は、成形加工後にさらに較正しなくてはならない旋盤加工ブッシュの製造にとって、ならびに、硬い汚れ粒子に対する摺動部材の適合性にとって、好適である。
【0028】
本発明のこの有利な実施態様に記載された材料について、焼鈍後に得られる硬度HBを引張強さRと降伏点Rp0.2の商と関連付けると、以下の関係が生じる:
HB≧350−140×(R/Rp0.2
【0029】
本発明の特に有利な実施態様では、スズ含有量が少なくとも0.5重量%の銅−亜鉛合金の場合、β相の体積分率は多くとも5%であり、かつα相とβ相の界面には高スズ相が堆積していてよい。β相の体積分率は、合金の実際のZn含有量と、熱処理の際の適切なプロセスの実施により調整することができる。β相の含有率が多くとも5体積%であれば、材料の冷間加工性は大変良好である。前記高スズ相は、1から3μmの幅を有する縁取りのように界面に形成されている。前記高スズ相は、スズ7から13重量%、亜鉛34から38重量%および残部として銅を含有する。これはFeおよびSiを含有しない。前記高スズ相は、前記珪化鉄に加えて、主にα相からなる構造内で耐摩耗性接触領域のように作用する。本発明による滑り軸受のこの特に有利な実施態様はつまり、非常に良好な冷間加工性があり、同時に非常に耐摩耗性のある材料で優れている。
【0030】
本発明による摺動部材の別の好適な実施態様では、前記銅−亜鉛合金のSn含有量が多くとも0.09重量%であってよい。このような低スズ合金は、特に高い延性で優れている。したがって、前記合金は、少しの冷間加工および中間焼鈍の工程数で最終寸法にすることができる。これにより、本発明による滑り軸受の製造コストは少なくて済む。前記材料の最終状態については、熱処理の強さが小さくても、つまり低い焼鈍温度および/または短い焼鈍時間でも、高い延性が得られることが好ましい。これにより、焼鈍後の材料の降伏点は比較的高い水準のままである。本発明による摺動部材のこの好適な実施態様の材料には、破断伸び率A(%表記)と商R/Rp0.2の間に以下の関係が当てはまる:
≧46%×(R/Rp0.2)−38%
【0031】
最終状態の材料の延性が高いことは、滑り軸受の巻きブッシュを製造するために好適である。一方、このような滑り軸受は、材料の降伏点が大きいので、操業中の塑性変形に対し高い抵抗力を有する。
【0032】
本発明のこの別の好適な実施態様において、低スズの銅−亜鉛合金では、β相の体積分率は有利には多くとも4%、特に有利には多くとも3%であってよい。β相の体積分率は、合金の実際のZn含有量と、熱処理の際の適切なプロセスの実施により調整することができる。β相の体積分率を限定することは、材料の延性に対して有利な作用を及ぼす。本発明による滑り軸受のこの特に有利な実施態様はつまり、高い強度で特に大きな延性を有する材料で優れている。
【発明を実施するための形態】
【0033】
本発明を、実施例に基づいて詳細に説明する。
【0034】
様々な銅−亜鉛合金試料を溶融し、鋳造した。表1は、それぞれの試料の組成を示している。最後から2番目の欄には、珪素に対する鉄の比が記載されている。最後の欄からは、それぞれの合金が課題で定義された目的のためにどの程度適しているのかがわかる。ここでは、半製品の製造性に関する合金の適性も、摺動部材としての使用に関するその適性も評価に入れられている。
【0035】
表1:重量%で表した試料組成

【0036】
試料No.1から6は、約1重量%のスズ含有量を有し、一方、試料No.11から16はスズ最大0.013重量%を含有している。それぞれの合金から、鋳造後に2つの異なる方法により、摺動部材の製造に適した半製品を製造した。
【0037】
第1の方法は、鋳造後に以下の工程を含む:
1.押出成形
2.冷間加工
3.500℃/3時間で中間焼鈍
4.冷間加工
5.300℃で熱処理
【0038】
この方法は、滑り軸受の旋盤加工ブッシュ用半製品の製造に対応する。
【0039】
第2の方法は、鋳造後に以下の工程を含む:
1.冷間加工(圧延)
2.500℃/3時間で中間焼鈍
3.冷間加工(圧延)
4.300℃で熱処理
【0040】
この方法は、滑り軸受の巻きブッシュ用半製品の製造に対応する。
【0041】
試料No.6(スズ含有)および11(低スズ)を詳細に調べた。このとき、最終的な熱処理の温度と期間を変化させた。試料No.6については、表2に示した機械特性値が得られた。試料No.11については、表3に示した機械特性値が得られた。
【0042】
表2:熱処理後の試料No.6の機械特性値
【0043】
表3:熱処理後の試料No.11の機械特性値
【0044】
両方の試料では、熱処理の温度と期間を適切に選択することにより、破断伸び率Aを少なくとも15%まで上昇させることができた。このとき、硬度は170から180HBの間、引張強さは550から600MPaの範囲内にあった。このとき、試料No.11では、降伏点は試料No.6よりもやや高い水準にあった。
【0045】
破断伸び率Aを少なくとも20%まで上昇させるように熱処理を実施したら、材料の引張強さは少なくとも520MPaで、硬度は少なくとも150HBであった。
【0046】
本発明による摺動部材の摩擦特性および摩耗特性を、リング・オン・ディスク型摩擦計を使用して調べた。このとき、本発明による摺動部材は、それぞれ試料6および試料11に記載の材料からなるディスクで表された。相手部材として鋼製リングを使用した。比較対象物として、材料CuZn31Si1からなる摺動部材を使用した。調査のために、最終的な熱処理後に約15%の破断伸び率Aを有する材料からなる試験体をそれぞれ使用した。摩擦係数は、公知の方法で定義し算出した。材料の摩耗の尺度として、特定の試験期間後の試験体の質量損失を使用した。この質量損失を、比較対象物の質量損失と関連させて、相対的な質量損失として表示した。表4に、これらの調査の結果をまとめている。
【0047】
表4:摩耗特性の調査結果
【0048】
試料6の摩擦係数は、CuZn31Si1からなる試料の摩擦係数よりも11%上であり、試料11の摩擦係数は、CuZn31Si1からなる試料の摩擦係数より10%下であった。本発明による摺動部材の質量損失は、CuZn31Si1からなる比較対象物で算出された質量損失の半分よりも少ない。したがって、本発明による摺動部材の材料は、CuZn31Si1よりも著しく耐摩耗性がある。