【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、請求項1の特徴により記載されている。その他の従属請求項は、本発明の好適な実施態様と発展形態に関するものである。
【0012】
本発明は、銅−亜鉛合金からなる摺動部材を包含し、前記銅−亜鉛合金は(重量%で)以下の組成:
Cu 60.0から64.0%まで、
Si 0.2から0.5%まで、
Fe 0.6から1.2%まで、
選択的に、さらにSn 最大1.5%まで、
選択的に、さらにPb 最大0.25%まで、
選択的に、さらにP 最大0.08%まで、
残部Znおよび不可避な不純物
を有する。このとき、前記銅−亜鉛合金
には珪化鉄が混在しており、体積分率が少なくとも合金全体の90%であるα相、およびβ相からなる構造を有している。
【0013】
銅−亜鉛合金からなる軸受材料は、通常、90体積%より少ないα相含有量を有する。というのも、α相は付着しやすく、そのためβ相より強く摩耗する傾向があるからである。一方、α相の含有量が大きいと、材料は延性を持つ。本発明は、銅含有量が60から64重量%である銅−亜鉛合金に鉄と珪素を添加することにより、非常に延性があり、同時に非常に耐摩耗性のある鍛錬材料を形成するという認識に基づいている。このとき、前記合金の珪素含有量は、少なくとも0.2重量%かつ多くとも0.5重量%であり、鉄含有量は、少なくとも0.6重量%かつ多くとも1,2重量%である。前記合金は、任意に、さらにスズ1.5重量%まで、鉛0.25重量%まで、およびリン0.08重量%までを含有する。前記合金の亜鉛含有量は、合金の正確な組成に応じて、32.5から38.5重量%の間、有利には33.5から38重量%の間、特に有利には34から37.5重量%の間にあってよい。この組成を有する鍛錬用銅−亜鉛合金から製造される材料は、α相の体積分率が少なくとも90%であるα相およびβ相からなる構造を有する。この構造中には珪化鉄が混在しており、その体積分率は1.5から4.5%であってよい。したがって、β相の含有量は9体積%より小さく、通常は5体積%より小さく、有利には3体積%より小さい。典型的には、少なくとも0.3体積%のβ相が前記構造中に存在する。
【0014】
珪化鉄は、硬質相として前記材料の良好な耐摩耗性の元となっている。珪素含有量が0.2重量%より小さい場合、あまりにも少ない珪化鉄しか形成されない。珪素含有量が0.5重量%を超えると、β相の形成が多くなり、そのため延性が減少することになる。特に有利には、珪素含有量は最大0.47重量%であってよい。鉄含有量が0.6重量%より小さい場合、あまりにも少ない珪化鉄しか形成されない。特に有利には、鉄含有量は少なくとも0.8重量%である。鉄含有量が1.2重量%を超えると、溶融の際に合金内で溶解しないことになる。そうなると、材料中に純粋な鉄粒子が形成されることになるが、それらは柔らかく、その上材料から突出しやすいので、望ましくない。前記珪化鉄は球状の形を有する硬質相であり、鋭い角を持たない。したがって、角の鋭い硬質相において成形加工後に生じうる構造内部の溝や空洞の発生が抑えられる。
【0015】
前記銅−亜鉛合金のそれぞれの構造成分の体積分率は、金属組織を検鏡した研磨面に基づいて求められる。調査により、研磨面画像で求められたそれぞれの構造成分の面積分率は試料中の研磨面の配向とは無関係であることが示されている。つまり、それぞれの相の分布は等方性であるとみなすことができ、研磨面で求められた面積分率はそれぞれの構造成分の体積分率として認定することができる。
【0016】
選択的に、前記合金にはさらにスズ1.5重量%までを添加してよい。スズは、固溶強化により材料の耐摩耗性を高める。一方、スズの亜鉛当量は2であり、そのためβ相が形成されてα相の負担になることが促進されるので、材料の延性は減少する。スズ含有量として1.5重量%の上限が好適であることは証明されている。
【0017】
基本的に、前記合金中の鉛含有量は0.8重量%までであってよい。法的規制が許すならば、前記合金に、必要な場合はチップブレーカとして鉛を0.25重量%まで添加してもよい。有利には、鉛含有量は、最大0.1重量%である。しかし、特に有利には、合金は不可避な不純物の範囲内の鉛含有量を有する。本発明による摺動部材の機能は、前記銅−亜鉛合金中に鉛が不在であることによって損なわれることはない。
【0018】
選択的に、前記合金に、さらにリン0.08重量%までを添加してよい。リンは、溶融物の脱酸素に役立ち、そのためスズが存在する場合には酸化スズの回避に役立つ。
【0019】
本発明による摺動部材は、前記の鍛錬用銅−亜鉛合金の半製品から製造される。このとき、前記半製品の製造は、合金の溶融、鋳造および成形加工の工程をこの記載した通りの順序で含む方法を用いて行われる。このとき、成形加工工程は専ら冷間加工であってよく、あるいは、鋳造形状の鋳造と最初の冷間加工の間に熱間加工を実施してもよい。必要な場合には、2つの成形加工の間に熱処理を行なってもよい。
【0020】
前記の鍛錬用銅−亜鉛合金は、摺動部材に適した半製品の安価な製造を可能にする性質を有する。前記合金の熱伝導率は高いので、鋳造速度は通常の特殊黄銅の鋳造速度の水準にある。鋳造構造のβ相の含有量はなお十分大きいので、半製品を熱間加工により効率的に製造することが可能である。特別な利点は、材料の良好な冷間加工性にある。80%までの変形度は、中間焼鈍がなくても達成できる。この場合、成形加工時の断面積の減少を変形度として定義する。したがって、前記半製品の最終寸法は少ない工程で、特に、少ない中間焼鈍により得ることができる。さらに、材料の強度は冷間加工の際に非常に速く増大するので、軸受材料に典型的な半製品寸法で必要な材料の強度を得るためには少ない冷間加工工程で十分である。
【0021】
前記材料は、最後の冷間加工の後に、200から350℃の温度で2から4時間熱処理される。これにより延性は高まるが、同時に強度は減少する。このとき、前記材料の降伏点R
p0.2の減少は、引張強さR
mの減少よりも大きい。したがって、熱処理により、R
m対R
p0.2の比は変化する。その点において、R
m対R
p0.2の比を熱処理の強さの尺度として使用できる。本発明による摺動部材の材料について、R
m対R
p0.2の比は最終的な熱処理の前では通常1.05から1.1の間である。熱処理後は、商R
m/R
p0.2は、1.5を超える値にまで達することができる。熱処理により延性が増し、したがって破断伸び率A
5が上昇する。熱処理が強い程、破断伸び率の上昇は大きくなる。熱処理後に達成される破断伸び率は、商R
m/R
p0.2と関連している。本発明による摺動部材の材料には、一般的に、破断伸び率A
5(%表記)と商R
m/R
p0.2の間に以下の関係が当てはまる:
A
5≧41%×(R
m/R
p0.2)−38%
【0022】
前記材料は、最終状態で十分な延性を持っているので、滑り軸受の巻きブッシュを製造することができる。さらに、製造した滑り軸受ブッシュの較正は問題なく可能である。
【0023】
本発明による摺動部材の耐摩耗性は、適切な実験に基づいて求められ、公知の材料からなる摺動部材の耐摩耗性と関連付けられる。鋼製体に対する摩擦における試料体の質量損失として摩耗を算出する摩擦計試験では、本発明による摺動部材における質量損失は、材料CuZn31Siからなる摺動部材の約半分であることがわかる。このとき、摩擦係数は全ての材料でほぼ同じである。この驚くべき結果は、摺動部材用材料としての使用における前記銅−亜鉛合金の優れた特性を表している。
【0024】
基本材料は主に面心立方晶系α相からなっているので、延性が大きいことにより硬い汚れ粒子の埋入が保障されている。
【0025】
好適には、Si含有量に対するFe含有量の比が、少なくとも1.5かつ多くとも3.8であってよい。この場合、珪化鉄FeSi、Fe
5Si
3およびFe
2Siを形成するための特に有利な条件が存在する。このとき、珪化鉄中に結合していない過剰な鉄もしくは珪素は非常に少ない。珪化鉄中に結合していない過剰な珪素は、合金のマトリックス中に存在する。これは亜鉛当量10を有し、したがって合金中の亜鉛含有量の増加と同じような効果を及ぼす。過剰な珪素が多い結果、固溶強化が強まり、それにより材料の延性が減少することになり、ならびに、望まないにもかかわらず構造中のβ相含有量が増加することになる。特に有利には、Si含有量に対するFe含有量の比は、少なくとも2.2かつ多くとも3.0であってよい。Fe含有量とSi含有量をこのように相互に調整すれば、珪化鉄の集団型の数が増加する。このとき、粒子径により異なる複数の珪化鉄部分が生じてよい。
【0026】
本発明の有利な形態では、前記摺動部材の銅−亜鉛合金中に少なくとも2つの珪化鉄部分が存在してよい。このとき、第1の珪化鉄が、少なくとも0.02mかつ大きくとも0.3μmの直径、および1000μm
2当たりの粒子が200から400個の密度を有し、かつ第2の珪化鉄が、少なくとも1μmかつ大きくとも15μmの直径、および100000μm
2当たりの粒子が20から50個の密度を有していない。ここでは、粒子に対して体積が同じ球の直径を珪化鉄粒子の直径として定義する。この形態では、本発明による摺動部材の合金はつまり、比較的小さい珪化鉄からなる第1集団と、比較的大きい珪化鉄からなる第2集団を有する。前記第2の珪化鉄は、特に耐摩耗性のある接触領域として作用する。構造中のその体積分率は、1から2%の間であってよい。第2の珪化鉄の密度が小さいので、これらの間には比較的大きな隙間が残る。これらの隙間は、前記第1の珪化鉄により安定する。第1の珪化鉄がないと、材料のマトリックスは第2の珪化鉄間の隙間において摩耗により速く削り取られることになる。くぼみが生じる。それにより、第2の珪化鉄が前記マトリックスから島状に削られ、そうして材料から突出しやすくなる。第1の珪化鉄が前記隙間内のマトリックスを安定させるので、第2の珪化鉄の突出が妨げられる。前記材料の特別な耐摩耗性にとって、第1と第2の珪化鉄の組み合わせは重要である。
【0027】
本発明の有利な実施態様では、前記銅−亜鉛合金のSn含有量は少なくとも0.5重量%であってよい。スズは、強度と硬度およびそれゆえ合金の耐摩耗性に好適に作用する。0.5重量%より低いスズ含有量では、この作用は小さい。特に有利には、合金中のスズ含有量は少なくとも0.8重量%である。一方、スズ含有量が大きいと、熱処理の際に材料の延性が上昇するのを妨げる。したがって、合金中のスズ含有量は多くとも1.2重量%であれば特に好適である。さらに、本発明のこの実施態様は、引張強さと硬度が高い水準のままであるにも関わらず材料の降伏点は明らかに減少している最終状態を熱処理により調整できるという点で優れている。この特別な性質は、成形加工後にさらに較正しなくてはならない旋盤加工ブッシュの製造にとって、ならびに、硬い汚れ粒子に対する摺動部材の適合性にとって、好適である。
【0028】
本発明のこの有利な実施態様に記載された材料について、焼鈍後に得られる硬度HBを引張強さR
mと降伏点R
p0.2の商と関連付けると、以下の関係が生じる:
HB≧350−140×(R
m/R
p0.2)
【0029】
本発明の特に有利な実施態様では、スズ含有量が少なくとも0.5重量%の銅−亜鉛合金の場合、β相の体積分率は多くとも5%であり、かつα相とβ相の界面には高スズ相が堆積していてよい。β相の体積分率は、合金の実際のZn含有量と、熱処理の際の適切なプロセスの実施により調整することができる。β相の含有率が多くとも5体積%であれば、材料の冷間加工性は大変良好である。前記高スズ相は、1から3μmの幅を有する縁取りのように界面に形成されている。前記高スズ相は、スズ7から13重量%、亜鉛34から38重量%および残部として銅を含有する。これはFeおよびSiを含有しない。前記高スズ相は、前記珪化鉄に加えて、主にα相からなる構造内で耐摩耗性接触領域のように作用する。本発明による滑り軸受のこの特に有利な実施態様はつまり、非常に良好な冷間加工性があり、同時に非常に耐摩耗性のある材料で優れている。
【0030】
本発明による摺動部材の別の好適な実施態様では、前記銅−亜鉛合金のSn含有量が多くとも0.09重量%であってよい。このような低スズ合金は、特に高い延性で優れている。したがって、前記合金は、少しの冷間加工および中間焼鈍の工程数で最終寸法にすることができる。これにより、本発明による滑り軸受の製造コストは少なくて済む。前記材料の最終状態については、熱処理の強さが小さくても、つまり低い焼鈍温度および/または短い焼鈍時間でも、高い延性が得られることが好ましい。これにより、焼鈍後の材料の降伏点は比較的高い水準のままである。本発明による摺動部材のこの好適な実施態様の材料には、破断伸び率A
5(%表記)と商R
m/R
p0.2の間に以下の関係が当てはまる:
A
5≧46%×(R
m/R
p0.2)−38%
【0031】
最終状態の材料の延性が高いことは、滑り軸受の巻きブッシュを製造するために好適である。一方、このような滑り軸受は、材料の降伏点が大きいので、操業中の塑性変形に対し高い抵抗力を有する。
【0032】
本発明のこの別の好適な実施態様において、低スズの銅−亜鉛合金では、β相の体積分率は有利には多くとも4%、特に有利には多くとも3%であってよい。β相の体積分率は、合金の実際のZn含有量と、熱処理の際の適切なプロセスの実施により調整することができる。β相の体積分率を限定することは、材料の延性に対して有利な作用を及ぼす。本発明による滑り軸受のこの特に有利な実施態様はつまり、高い強度で特に大きな延性を有する材料で優れている。