特許第6790110号(P6790110)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6790110発泡成形用ポリプロピレン系樹脂組成物、ポリプロピレン系発泡成形体、ポリプロピレン系多層発泡成形体およびポリプロピレン系発泡成形体の製造方法
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  • 特許6790110-発泡成形用ポリプロピレン系樹脂組成物、ポリプロピレン系発泡成形体、ポリプロピレン系多層発泡成形体およびポリプロピレン系発泡成形体の製造方法 図000005
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6790110
(24)【登録日】2020年11月6日
(45)【発行日】2020年11月25日
(54)【発明の名称】発泡成形用ポリプロピレン系樹脂組成物、ポリプロピレン系発泡成形体、ポリプロピレン系多層発泡成形体およびポリプロピレン系発泡成形体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08J 9/12 20060101AFI20201116BHJP
   B32B 5/18 20060101ALI20201116BHJP
   B32B 27/20 20060101ALI20201116BHJP
   B32B 27/32 20060101ALI20201116BHJP
【FI】
   C08J9/12CES
   B32B5/18
   B32B27/20 Z
   B32B27/32 E
【請求項の数】18
【全頁数】23
(21)【出願番号】特願2018-547537(P2018-547537)
(86)(22)【出願日】2017年10月11日
(86)【国際出願番号】JP2017036833
(87)【国際公開番号】WO2018079261
(87)【国際公開日】20180503
【審査請求日】2018年11月14日
(31)【優先権主張番号】特願2016-213792(P2016-213792)
(32)【優先日】2016年10月31日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000220099
【氏名又は名称】三井化学東セロ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110928
【弁理士】
【氏名又は名称】速水 進治
(72)【発明者】
【氏名】又吉 智也
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 孝行
(72)【発明者】
【氏名】江里口 真男
【審査官】 横島 隆裕
(56)【参考文献】
【文献】 特開2004−306405(JP,A)
【文献】 特開平10−330522(JP,A)
【文献】 特開2001−192515(JP,A)
【文献】 特開2002−105874(JP,A)
【文献】 特開平11−080402(JP,A)
【文献】 特開2004−122717(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J 9/00−9/42
B32B 1/00−43/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリプロピレン系樹脂と、無機フィラーとを含む発泡成形用ポリプロピレン系樹脂組成物であって、
前記無機フィラーがタルクおよびシリカから選択される少なくとも一種を含み、
前記無機フィラーの水分含有率が前記無機フィラー全体に対して0.10質量%以下である発泡成形用ポリプロピレン系樹脂組成物。
【請求項2】
請求項1に記載の発泡成形用ポリプロピレン系樹脂組成物において、
前記無機フィラーがタルクを含む発泡成形用ポリプロピレン系樹脂組成物。
【請求項3】
請求項1または2に記載の発泡成形用ポリプロピレン系樹脂組成物において、
当該ポリプロピレン系樹脂組成物中の前記無機フィラーの含有量が、前記ポリプロピレン系樹脂および前記無機フィラーの合計量を100質量部としたとき、5質量部以上90質量部以下である発泡成形用ポリプロピレン系樹脂組成物。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか一項に記載の発泡成形用ポリプロピレン系樹脂組成物において、
当該発泡成形用ポリプロピレン系樹脂組成物中の前記ポリプロピレン系樹脂および前記無機フィラーの含有量の合計が、当該発泡成形用ポリプロピレン系樹脂組成物の全体を100質量%としたとき、50質量%以上100質量%以下である発泡成形用ポリプロピレン系樹脂組成物。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれか一項に記載の発泡成形用ポリプロピレン系樹脂組成物において、
ASTM D1238に準拠し、230℃、2.16kg荷重の条件で測定される前記ポリプロピレン系樹脂のメルトフローレートが0.5g/10分以上20g/10分以下である発泡成形用ポリプロピレン系樹脂組成物。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれか一項に記載の発泡成形用ポリプロピレン系樹脂組成物において、
ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)により測定される、前記ポリプロピレン系樹脂のZ平均分子量(Mz)/重量平均分子量(Mw)が7以上20以下である発泡成形用ポリプロピレン系樹脂組成物。
【請求項7】
請求項1乃至6のいずれか一項に記載の発泡成形用ポリプロピレン系樹脂組成物により構成されたポリプロピレン系発泡成形体。
【請求項8】
請求項7に記載のポリプロピレン系発泡成形体において、
当該ポリプロピレン系発泡成形体の密度が1.0g/cm以下であるポリプロピレン系発泡成形体。
【請求項9】
請求項7または8に記載のポリプロピレン系発泡成形体において、
当該ポリプロピレン系発泡成形体の厚みが0.5mm以上30mm以下であるポリプロピレン系発泡成形体。
【請求項10】
請求項7乃至のいずれか一項に記載のポリプロピレン系発泡成形体において、
木質ボードの代替品として用いられるポリプロピレン系発泡成形体。
【請求項11】
請求項7乃至10のいずれか一項に記載のポリプロピレン系発泡成形体により構成されたポリプロピレン系発泡層と、
前記ポリプロピレン系発泡層の一方の面に設けられ、かつ、熱可塑性樹脂および無機フィラーを含む第1非発泡性樹脂層と、
前記ポリプロピレン系発泡層の他方の面に設けられ、かつ、熱可塑性樹脂および無機フィラーを含む第2非発泡性樹脂層と、
を備えるポリプロピレン系多層発泡成形体。
【請求項12】
請求項11に記載のポリプロピレン系多層発泡成形体において、
前記第1非発泡性樹脂層および前記第2非発泡性樹脂層の厚みがそれぞれ0.05mm以上5mm以下であるポリプロピレン系多層発泡成形体。
【請求項13】
請求項11または12に記載のポリプロピレン系多層発泡成形体において、
前記ポリプロピレン系多層発泡成形体全体の厚みに対する前記第1非発泡性樹脂層の厚みの比が0.01以上0.5以下であり、
前記ポリプロピレン系多層発泡成形体全体の厚みに対する前記第2非発泡性樹脂層の厚みの比が0.01以上0.5以下であるポリプロピレン系多層発泡成形体。
【請求項14】
請求項11乃至13のいずれか一項に記載のポリプロピレン系多層発泡成形体において、
前記第1非発泡性樹脂層および前記第2非発泡性樹脂層中の前記無機フィラーが、それぞれタルク、マイカおよびシリカから選択される一種または二種以上を含むポリプロピレン系多層発泡成形体。
【請求項15】
請求項11乃至14のいずれか一項に記載のポリプロピレン系多層発泡成形体において、
前記第1非発泡性樹脂層および前記第2非発泡性樹脂層中の前記無機フィラーの含有量が、前記第1非発泡性樹脂層および前記第2非発泡性樹脂層に含まれる前記熱可塑性樹脂および前記無機フィラーの合計量を100質量部としたとき、それぞれ5質量部以上90質量部以下であるポリプロピレン系多層発泡成形体。
【請求項16】
請求項11乃至15のいずれか一項に記載のポリプロピレン系多層発泡成形体において、
前記第1非発泡性樹脂層および前記第2非発泡性樹脂層は同一の組成を有し、かつ、同じ厚みであるポリプロピレン系多層発泡成形体。
【請求項17】
請求項11乃至16のいずれか一項に記載のポリプロピレン系多層発泡成形体において、
木質ボードの代替品として用いられるポリプロピレン系多層発泡成形体。
【請求項18】
ポリプロピレン系樹脂と、無機フィラーとを含むポリプロピレン系発泡成形体を製造するための製造方法であって、
前記無機フィラーがタルクおよびシリカから選択される少なくとも一種を含み、
無機フィラーを加熱することにより前記無機フィラーの水分含有率を前記無機フィラー全体に対して0.10質量%以下に調整する工程と、
得られた水分含有率が0.10質量%以下である前記無機フィラーと、ポリプロピレン系樹脂とを含むポリプロピレン系樹脂組成物を発泡成形する工程と、
を含むポリプロピレン系発泡成形体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発泡成形用ポリプロピレン系樹脂組成物、ポリプロピレン系発泡成形体、ポリプロピレン系多層発泡成形体およびポリプロピレン系発泡成形体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ハードボード、中密度繊維板等の木質ボードは、軽量で、かつ、機械的特性に優れることから、例えば、建材、家具、仕切材、断熱材、梱包材等として用いられている。
【0003】
このような木質ボードに関する技術としては、例えば、特許文献1(特開2014−151599号公報)および特許文献2(特開2010−64306号公報)に記載のものが挙げられる。
【0004】
特許文献1には、木質チップまたは木質繊維を接着剤により接着して成形してなる木質ボードであって、竹を破砕した竹繊維から柔細胞を除去した柔細胞除去竹繊維を含有することを特徴とする木質ボードが記載されている。
【0005】
また、特許文献2には木質材料を接着剤とともに熱圧成形して得られる木質ボードであって、上記木質ボードは平均粒径が40μm以上180μm以下である亜硫酸ナトリウムの微粉末を木質材料の全乾重量に対し0.1重量%〜30重量%で含むことを特徴とする木質ボードが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2014−151599号公報
【特許文献2】特開2010−64306号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
地球環境保護の観点から、森林伐採が抑制され木材資源の入手が困難になっていくことが予想されているため、木質ボードの代替品が求められている。
本発明者らは木質ボードの代替として、ポリプロピレン系樹脂と、無機フィラーとを含むポリプロピレン系発泡シートを用いることを検討した。しかし、ポリプロピレン系樹脂と、無機フィラーとを含むポリプロピレン系発泡シートは、表面に色ムラ等のムラや縦筋(流れ模様)等が発生し、外観が悪化する場合があることが明らかになった。
【0008】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、外観に優れ、木質ボードの代替品として使用することが可能なポリプロピレン系発泡成形体およびポリプロピレン系多層発泡成形体を実現できる発泡成形用ポリプロピレン系樹脂組成物を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、外観に優れ、木質ボードの代替品として使用することが可能なポリプロピレン系発泡成形体およびポリプロピレン系多層発泡成形体を実現するために鋭意検討した。その結果、本発明者らは、水分含有率が特定値以下である無機フィラーをポリプロピレン系樹脂に対して配合させた樹脂組成物が外観に優れ、木質ボードの代替品として使用することが可能なポリプロピレン系発泡成形体およびポリプロピレン系多層発泡成形体を実現することができることを見出した。
【0010】
すなわち、本発明によれば、以下に示す発泡成形用ポリプロピレン系樹脂組成物、ポリプロピレン系発泡成形体、ポリプロピレン系多層発泡成形体およびポリプロピレン系発泡成形体の製造方法が提供される。
【0011】
[1]
ポリプロピレン系樹脂と、無機フィラーとを含む発泡成形用ポリプロピレン系樹脂組成物であって、
上記無機フィラーがタルクおよびシリカから選択される少なくとも一種を含み、
上記無機フィラーの水分含有率が上記無機フィラー全体に対して0.10質量%以下である発泡成形用ポリプロピレン系樹脂組成物。
[2]
上記[1]に記載の発泡成形用ポリプロピレン系樹脂組成物において、
上記無機フィラーがタルクを含む発泡成形用ポリプロピレン系樹脂組成物。
[3]
上記[1]または[2]に記載の発泡成形用ポリプロピレン系樹脂組成物において、
当該ポリプロピレン系樹脂組成物中の上記無機フィラーの含有量が、上記ポリプロピレン系樹脂および上記無機フィラーの合計量を100質量部としたとき、5質量部以上90質量部以下である発泡成形用ポリプロピレン系樹脂組成物。
[4]
上記[1]乃至[3]のいずれか一つに記載の発泡成形用ポリプロピレン系樹脂組成物において、
当該発泡成形用ポリプロピレン系樹脂組成物中の上記ポリプロピレン系樹脂および上記無機フィラーの含有量の合計が、当該発泡成形用ポリプロピレン系樹脂組成物の全体を100質量%としたとき、50質量%以上100質量%以下である発泡成形用ポリプロピレン系樹脂組成物。
[5]
上記[1]乃至[4]のいずれか一つに記載の発泡成形用ポリプロピレン系樹脂組成物において、
ASTM D1238に準拠し、230℃、2.16kg荷重の条件で測定される上記ポリプロピレン系樹脂のメルトフローレートが0.5g/10分以上20g/10分以下である発泡成形用ポリプロピレン系樹脂組成物。
[6]
上記[1]乃至[5]のいずれか一つに記載の発泡成形用ポリプロピレン系樹脂組成物において、
ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)により測定される、上記ポリプロピレン系樹脂のZ平均分子量(Mz)/重量平均分子量(Mw)が7以上20以下である発泡成形用ポリプロピレン系樹脂組成物。
[7]
上記[1]乃至[6]のいずれか一つに記載の発泡成形用ポリプロピレン系樹脂組成物により構成されたポリプロピレン系発泡成形体。
[8]
上記[7]に記載のポリプロピレン系発泡成形体において、
当該ポリプロピレン系発泡成形体の密度が1.0g/cm以下であるポリプロピレン系発泡成形体。

上記[7]または記載のポリプロピレン系発泡成形体において、
当該ポリプロピレン系発泡成形体の厚みが0.5mm以上30mm以下であるポリプロピレン系発泡成形体。
10
上記[7]乃至[]のいずれか一つに記載のポリプロピレン系発泡成形体において、
木質ボードの代替品として用いられるポリプロピレン系発泡成形体。
11
上記[7]乃至[10]のいずれか一つに記載のポリプロピレン系発泡成形体により構成されたポリプロピレン系発泡層と、
上記ポリプロピレン系発泡層の一方の面に設けられ、かつ、熱可塑性樹脂および無機フィラーを含む第1非発泡性樹脂層と、
上記ポリプロピレン系発泡層の他方の面に設けられ、かつ、熱可塑性樹脂および無機フィラーを含む第2非発泡性樹脂層と、
を備えるポリプロピレン系多層発泡成形体。
12
上記[11]に記載のポリプロピレン系多層発泡成形体において、
上記第1非発泡性樹脂層および上記第2非発泡性樹脂層の厚みがそれぞれ0.05mm以上5mm以下であるポリプロピレン系多層発泡成形体。
13
上記[11]または[12]に記載のポリプロピレン系多層発泡成形体において、
上記ポリプロピレン系多層発泡成形体全体の厚みに対する上記第1非発泡性樹脂層の厚みの比が0.01以上0.5以下であり、
上記ポリプロピレン系多層発泡成形体全体の厚みに対する上記第2非発泡性樹脂層の厚みの比が0.01以上0.5以下であるポリプロピレン系多層発泡成形体。
14
上記[11]乃至[13]のいずれか一つに記載のポリプロピレン系多層発泡成形体において、
上記第1非発泡性樹脂層および上記第2非発泡性樹脂層中の上記無機フィラーが、それぞれタルク、マイカおよびシリカから選択される一種または二種以上を含むポリプロピレン系多層発泡成形体。
15
上記[11]乃至[14]のいずれか一つに記載のポリプロピレン系多層発泡成形体において、
上記第1非発泡性樹脂層および上記第2非発泡性樹脂層中の上記無機フィラーの含有量が、上記第1非発泡性樹脂層および上記第2非発泡性樹脂層に含まれる上記熱可塑性樹脂および上記無機フィラーの合計量を100質量部としたとき、それぞれ5質量部以上90質量部以下であるポリプロピレン系多層発泡成形体。
16
上記[11]乃至[15]のいずれか一つに記載のポリプロピレン系多層発泡成形体において、
上記第1非発泡性樹脂層および上記第2非発泡性樹脂層は同一の組成を有し、かつ、同じ厚みであるポリプロピレン系多層発泡成形体。
17
上記[11]乃至[16]のいずれか一つに記載のポリプロピレン系多層発泡成形体において、
木質ボードの代替品として用いられるポリプロピレン系多層発泡成形体。
18
ポリプロピレン系樹脂と、無機フィラーとを含むポリプロピレン系発泡成形体を製造するための製造方法であって、
上記無機フィラーがタルクおよびシリカから選択される少なくとも一種を含み、
無機フィラーを加熱することにより上記無機フィラーの水分含有率を上記無機フィラー全体に対して0.10質量%以下に調整する工程と、
得られた水分含有率が0.10質量%以下である上記無機フィラーと、ポリプロピレン系樹脂とを含むポリプロピレン系樹脂組成物を発泡成形する工程と、
を含むポリプロピレン系発泡成形体の製造方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、外観に優れ、木質ボードの代替品として使用することが可能なポリプロピレン系発泡成形体およびポリプロピレン系多層発泡成形体を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
上述した目的、およびその他の目的、特徴および利点は、以下に述べる好適な実施の形態、およびそれに付随する以下の図面によってさらに明らかになる。
【0014】
図1】本発明に係る実施形態のポリプロピレン系発泡成形体の構造の一例を模式的に示した断面図である。
図2】本発明に係る実施形態のポリプロピレン系多層発泡成形体の構造の一例を模式的に示した断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態について、図面を用いて説明する。なお、数値範囲の「A〜B」は特に断りがなければ、A以上B以下を表す。
【0016】
1.発泡成形用ポリプロピレン系樹脂組成物について
本実施形態に係る発泡成形用ポリプロピレン系樹脂組成物は、ポリプロピレン系樹脂と、無機フィラーとを含む。そして、上記無機フィラーがタルクおよびシリカから選択される少なくとも一種を含み、上記無機フィラーの水分含有率が上記無機フィラー全体に対して0.10質量%以下である。
【0017】
また、本実施形態に係る無機フィラーの水分含有率は無機フィラー全体に対して好ましくは0.08質量%以下、より好ましくは0.07質量%以下、さらに好ましくは0.06質量%以下、特に好ましくは0.05質量%以下である。本実施形態に係る無機フィラーの水分含有率の下限は特に限定されないが、例えば、無機フィラー全体に対して0.001質量%以上である。
ここで、無機フィラーの水分含有率は、例えば、窒素気流中で、無機フィラーを加熱することにより発生した水分をカールフィッシャー電量滴定法により定量し、得られた水分量から算出することができる。
【0018】
前述したように、地球環境保護の観点から、森林伐採が抑制され木材資源の入手が困難になっていくことが予想されているため、木質ボードの代替品が求められている。
本発明者らは木質ボードの代替として、ポリプロピレン系樹脂と、無機フィラーとを含むポリプロピレン系発泡シートを用いることを検討した。しかし、ポリプロピレン系樹脂と、無機フィラーとを含むポリプロピレン系発泡シートは、表面に色ムラ等のムラや縦筋(流れ模様)等が発生し、外観が悪化する場合があることが明らかになった。
そこで、本発明者らは、外観に優れ、木質ボードの代替品として使用することが可能なポリプロピレン系発泡成形体およびポリプロピレン系多層発泡成形体を実現するために鋭意検討した。その結果、本発明者らは、水分含有率が特定値以下である無機フィラーをポリプロピレン系樹脂に対して配合させた樹脂組成物が外観に優れ、木質ボードの代替品として使用することが可能なポリプロピレン系発泡成形体およびポリプロピレン系多層発泡成形体を実現することができることを見出した。
すなわち、水分含有率が上記上限値以下である無機フィラーを用いると、表面における艶ムラ、色ムラ等のムラや縦筋(流れ模様)等の発生が抑制されたり、発泡セルの均一性がより良好になったりするため、外観に優れたポリプロピレン系発泡成形体を得ることができる。
水分含有率が上記上限値以下である無機フィラーは、例えば、除湿乾燥機や真空乾燥機等を用いて無機フィラーを80〜150℃で、0.5〜48時間程度加熱処理して無機フィラーの内部に吸着している水分を除去することにより得ることができる。
【0019】
さらに、本実施形態に係る発泡成形用ポリプロピレン系樹脂組成物によれば、無機フィラーとしてタルクおよびシリカから選択される少なくとも一種を含むことにより、例えば無機フィラーとして炭酸カルシウムを用いた場合等に比べて、得られるポリプロピレン系発泡成形体を軽量化することができる。
また、本実施形態に係る発泡成形用ポリプロピレン系樹脂組成物によれば、無機フィラーとしてタルクおよびシリカから選択される少なくとも一種を含むことにより、例えば無機フィラーとしてガラス繊維を用いた場合等に比べて、ポリプロピレン系発泡成形体の外観を良好にすることができる。
【0020】
なお、ガラス繊維は毛羽立つため取扱いにくく、さらに成形体の表面や端部にガラス繊維が露出し、成形体の外観が悪化する場合があるため好ましくない。
また、本実施形態に係る発泡成形用ポリプロピレン系樹脂組成物はプラスチックであるポリプロピレン系樹脂を用いているため、得られるポリプロピレン系発泡成形体は木質ボードに比べて耐水性に優れ、水にぬれたり、湿度が高い環境下に長時間置かれたりしても優れた機械的特性を維持することができる。また、本実施形態に係る発泡成形用ポリプロピレン系樹脂組成物により構成されたポリプロピレン系発泡成形体は木質ボードのように切りくずが生じ難く、取扱い性にも優れている。
【0021】
本実施形態に係る発泡成形用ポリプロピレン系樹脂組成物中のポリプロピレン系樹脂および無機フィラーの含有量の合計は、ポリプロピレン系発泡成形体100の全体を100質量%としたとき、好ましくは50質量%以上100質量%以下、より好ましくは70質量%以上100質量%以下、さらに好ましくは90質量%以上100質量%以下、特に好ましくは95質量%以上100質量%以下である。これにより、軽量性、機械的特性、リサイクル性、取扱い性、外観、成形性、耐湿性等のバランスにより優れたポリプロピレン系発泡成形体を得ることができる。
【0022】
以下、発泡成形用ポリプロピレン系樹脂組成物を構成する各成分について説明する。
【0023】
<ポリプロピレン系樹脂>
本実施形態に係る発泡成形用ポリプロピレン系樹脂組成物は必須成分としてポリプロピレン系樹脂を含む。
本実施形態に係るポリプロピレン系樹脂としては、例えば、プロピレン単独重合体、プロピレンとエチレンまたは炭素数が4〜20のα−オレフィンとの共重合体等が挙げられる。上記炭素数が4〜20のα−オレフィンとしては、1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン、4−メチル−1−ペンテン、1−オクテン、1−デセン、1−ドデセン、1−テトラデセン、1−ヘキサデセン、1−オクタデセン、1−エイコセン等が挙げられる。これらの中ではエチレンまたは炭素数が4〜10のα−オレフィンが好ましく、エチレンがより好ましい。これらのα−オレフィンは、プロピレンとランダム共重合体を形成してもよく、またブロック共重合体を形成してもよい。これらのα−オレフィンから導かれる構成単位の含有量は、ポリプロピレン系樹脂中に5モル%以下であることが好ましく、2モル%以下であることがより好ましい。発泡成形用ポリプロピレン系樹脂組成物中のポリプロピレン系樹脂は、1種類単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
これらの中でも、より高い剛性を有するポリプロピレン系発泡成形体が得られる観点から、ポリプロピレン系樹脂としてはプロピレン単独重合体が好ましい。
【0024】
本実施形態に係るポリプロピレン系樹脂は種々の方法により製造することができる。例えばチーグラー・ナッタ系触媒やメタロセン系触媒等の公知の触媒を用いて製造することができる。
【0025】
ASTM D1238に準拠し、230℃、2.16kg荷重の条件で測定される本実施形態に係るポリプロピレン系樹脂のメルトフローレート(MFR)は、流動性および成形性の観点から、好ましくは0.5g/10分以上、より好ましくは1g/10分以上であり、成形性をより安定化させ、発泡セルの破泡をより抑制する観点から、好ましくは20g/10分以下、より好ましくは10g/10分以下、さらに好ましくは7g/10分以下である。
【0026】
本実施形態に係るポリプロピレン系樹脂は、溶融張力および溶融伸びが高く、成形性に優れる観点から、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)により測定されるZ平均分子量(Mz)/重量平均分子量(Mw)が好ましくは7以上20以下であり、より好ましくは10以上20以下である。
Mz/Mw値が上記範囲内であるポリプロピレン系樹脂は広い分子量分布を示し、高分子量の成分を多く含んでいるため、溶融張力および溶融伸びが高く、発泡を含む成形性に優れている。そのため、Mz/Mw値が上記範囲内であるポリプロピレン系樹脂を用いることにより、発泡成形用ポリプロピレン系樹脂組成物の発泡成形性を向上させることができ、無機フィラーを高充填させたとしても、発泡セルの均一性をより良好にしたり、ポリプロピレン系発泡成形体の穴あきやシート切れをより抑制したりすることができ、その結果、外観により優れたポリプロピレン系発泡成形体を実現することができる。
Mz/Mw値が上記範囲内であるポリプロピレン系樹脂の含有量は、発泡成形用ポリプロピレン系樹脂組成物に含まれるポリプロピレン系樹脂の全体を100質量%としたとき、好ましくは50質量%以上、より好ましくは60質量%以上である。
【0027】
<無機フィラー>
本実施形態に係る発泡成形用ポリプロピレン系樹脂組成物は必須成分として無機フィラーを含む。
無機フィラーとしては、軽量性、機械的特性、リサイクル性、取扱い性および外観に優れたポリプロピレン系発泡成形体を得る観点から、タルクおよびシリカから選択される少なくとも一種を含む。これらの中でも、ポリプロピレン系樹脂との相性や発泡性、成形性、着色性、低価格、安全性等の観点から、タルクが好ましい。
【0028】
本実施形態に係る発泡成形用ポリプロピレン系樹脂組成物中の上記無機フィラーの含有量は、上記ポリプロピレン系樹脂および上記無機フィラーの合計量を100質量部としたとき、好ましくは5質量部以上、より好ましくは15質量部以上、さらに好ましくは25質量部以上であり、さらにより好ましくは35質量部以上、特に好ましくは45質量部以上である。
また、本実施形態に係る発泡成形用ポリプロピレン系樹脂組成物中の上記無機フィラーの含有量は、上記ポリプロピレン系樹脂および上記無機フィラーの合計量を100質量部としたとき、好ましくは90質量部以下で、より好ましくは80質量部以下、さらに好ましくは70質量部以下、特に好ましくは65質量部以下である。
【0029】
無機フィラーの含有量を上記下限値以上にすることにより、得られるポリプロピレン系発泡成形体の曲げ特性や引張特性等の機械的特性や耐熱性、耐湿性、寸法安定性等をより向上させることができる。
また、無機フィラーの含有量を上記上限値以下にすることにより、得られるポリプロピレン系発泡成形体の軽量性および高剛性のバランスをより良好にできるとともに、ポリプロピレン系発泡成形体の成形性や発泡セルの均一性をより向上させたり、ポリプロピレン系発泡成形体の穴あきやシート切れ等をより抑制したりすることができ、その結果、外観により一層優れたポリプロピレン系発泡成形体を実現することができる。
【0030】
また、無機フィラーは無処理のまま使用してもよく、ポリプロピレン系樹脂との界面接着性を向上させ、ポリプロピレン系樹脂に対する分散性を向上させるために、シランカップリング剤や、チタンカップリング剤、界面活性剤等で表面を処理して使用してもよい。
【0031】
<その他の成分>
本実施形態に係る発泡成形用ポリプロピレン系樹脂組成物は、必要に応じて、耐熱安定剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、顔料、帯電防止剤、銅害防止剤、難燃剤、中和剤、発泡剤、可塑剤、造核剤、気泡防止剤、架橋剤、耐候安定剤、耐光安定剤、老化防止剤、脂肪酸金属塩、軟化剤、分散剤、着色剤、滑剤、天然油、合成油、ワックス等の添加剤を配合してもよい。
【0032】
2.ポリプロピレン系発泡成形体について
図1は本発明に係る実施形態のポリプロピレン系発泡成形体100の構造の一例を模式的に示した断面図である。
本実施形態に係るポリプロピレン系発泡成形体100は、前述した本実施形態に係る発泡成形用ポリプロピレン系樹脂組成物により構成され、発泡成形用ポリプロピレン系樹脂組成物を発泡成形することにより得ることができる。本実施形態に係るポリプロピレン系発泡成形体100の形状は特に限定されないが、例えば、シート状である。
【0033】
ポリプロピレン系発泡成形体100の密度は1.0g/cm以下が好ましく、1.0g/cm未満がより好ましい。密度が上記上限値以下または未満であると、より一層軽量なポリプロピレン系発泡成形体100を得ることができる。また、密度が上記上限値以下または未満であると、ポリプロピレン系発泡成形体は水に浮くことができるため、構成成分をより分別し易くなり、リサイクル性を向上させることができる。
また、ポリプロピレン系発泡成形体100の密度は0.35g/cm以上が好ましく、0.40g/cm以上がより好ましく、0.45g/cm以上がさらに好ましく、0.50g/cm以上が特に好ましい。密度が上記下限値以上であると、ポリプロピレン系発泡成形体100の曲げ特性や引張特性等の機械的特性をより向上させることができる。
ポリプロピレン系発泡成形体100の密度は、例えば、ポリプロピレン系樹脂、無機フィラー等の種類や配合量、ポリプロピレン系発泡成形体100の発泡倍率等をそれぞれ適切に制御することにより、上記範囲内に制御することができる。
【0034】
23℃、50%RHの環境下で測定される本実施形態に係るポリプロピレン系発泡成形体100の曲げ弾性率は1.0GPa以上が好ましく、1.5GPa以上がより好ましく、2.0GPa以上がさらに好ましく、2.5GPa以上がさらにより好ましく、3.0GPa以上が特に好ましい。
曲げ弾性率を上記下限値以上とすることにより、ポリプロピレン系発泡成形体100の剛性をより向上させることができ、その結果、ポリプロピレン系発泡成形体100の外部応力に対する変形を抑制したり、ポリプロピレン系発泡成形体100の耐傷性や耐熱性、寸法安定性等を向上せたりすることができる。
また、本実施形態に係るポリプロピレン系発泡成形体100の曲げ弾性率は10GPa以下が好ましく、9GPa以下がより好ましい。
曲げ弾性率を上記上限値以下とすることにより、ポリプロピレン系発泡成形体100の外部応力に対する耐変形性と靱性とのバランスをより良好にすることができる。
ここで、ポリプロピレン系発泡成形体100の曲げ弾性率は、3点曲げ試験により測定することができる。例えば、JIS A5905に記載された曲げ強さ試験を参考にして、23℃、50%RHの環境下で、試験片厚さt:3mm、試験片幅b:50mm、試験片長さ:150mm、スパン間距離L:100mm、曲げ速度:50mm/分の条件で試験荷重F[N]に対するたわみ量Y[mm]を測定する。得られた荷重−たわみ線図での初期の直線部分の勾配ΔF/ΔYを求め、下記式(1)より曲げ弾性率:E[GPa]を求める。
E={L/(4b・t)}・(ΔF/ΔY) (1)
MD方向とTD方向に対しそれぞれ1点ずつ測定し、それらの平均値を曲げ弾性率として採用することができる。
ポリプロピレン系発泡成形体100の曲げ弾性率は、例えば、ポリプロピレン系樹脂、無機フィラー等の種類や配合量、ポリプロピレン系発泡成形体100の発泡倍率等をそれぞれ適切に制御することにより、上記範囲内に制御することができる。
【0035】
ポリプロピレン系発泡成形体100のヤング率は0.3GPa以上が好ましく、0.5GPa以上がより好ましく、0.8GPa以上がさらに好ましく、1.0GPa以上が特に好ましい。
ヤング率を上記下限値以上とすることにより、ポリプロピレン系発泡成形体100の剛性をより向上させることができ、その結果、ポリプロピレン系発泡成形体100の外部応力に対する変形を抑制したり、ポリプロピレン系発泡成形体100の耐傷性や耐熱性、寸法安定性等を向上させたりすることができる。
また、本実施形態に係るポリプロピレン系発泡成形体100のヤング率は5GPa以下が好ましく、3GPa以下がより好ましい。
ヤング率を上記上限値以下とすることにより、ポリプロピレン系発泡成形体100の外部応力に対する耐変形性と靱性とのバランスをより良好にすることができる。
ここで、ポリプロピレン系発泡成形体100のヤング率は、23℃、50%RHの環境下で、かつ、試験片形状:短冊状、試験片幅:10mm、チャック間距離:50mm、引張速度:20mm/分の条件でMD方向とTD方向に対しそれぞれ1点ずつ測定し、それらの平均値を採用することができる。
ポリプロピレン系発泡成形体100のヤング率は、例えば、ポリプロピレン系樹脂、無機フィラー等の種類や配合量、ポリプロピレン系発泡成形体100の発泡倍率等をそれぞれ適切に制御することにより、上記範囲内に制御することができる。
【0036】
ポリプロピレン系発泡成形体100表面の算術平均粗さRaは、表面における艶ムラ、色ムラ等のムラや縦筋(流れ模様)等の発生をより抑制し、外観をより良好にする観点から、2.5μm以下であることが好ましい。
ポリプロピレン系発泡成形体100表面の算術平均粗さRaの下限は特に限定されないが、例えば、0.1μm以上である。
ポリプロピレン系発泡成形体100表面の算術平均粗さRaは、JIS−B0601−1994に準拠して測定することができる。
【0037】
表面の算術平均粗さRaが上記範囲内であるポリプロピレン系発泡成形体100を実現するためには、ポリプロピレン系樹脂、無機フィラー等の種類や配合量、ポリプロピレン系発泡成形体100の発泡倍率等をそれぞれ適切に選択しつつ、水分含有率が低い無機フィラーを用いることが重要となる。
【0038】
ポリプロピレン系発泡成形体100の厚みは特に限定されないが、例えば0.5mm以上30mm以下であり、好ましくは1.0mm以上20mm以下であり、より好ましくは1.5mm以上12mm以下であり、さらに好ましくは2.0mm以上9.0mm以下である。ポリプロピレン系発泡成形体100の厚みがこの範囲内であると、軽量性、機械的特性、リサイクル性、取扱い性、外観、成形性等のバランスがより優れている。
【0039】
<ポリプロピレン系発泡成形体の製造方法>
ポリプロピレン系発泡成形体100は、例えば、本実施形態に係る発泡成形用ポリプロピレン系樹脂組成物を所定の形状に発泡成形することにより得ることができる。成形装置および成形条件としては特に限定されず、従来公知の成形装置および発泡成形条件を採用することができる。
【0040】
(発泡成形用ポリプロピレン系樹脂組成物の調製方法)
本実施形態に係るポリプロピレン系樹脂組成物は、各成分をドライブレンド、タンブラーミキサー、バンバリーミキサー、単軸押出機、二軸押出機、高速二軸押出機、熱ロール等により混合または溶融・混練することにより調製することができる。
【0041】
(ポリプロピレン系発泡成形体の成形方法)
ポリプロピレン系発泡成形体100は、例えば、押出成形機や射出成形機を用いて、上述した発泡成形用ポリプロピレン系樹脂組成物を所定の形状に発泡成形することにより得ることができる。
ポリプロピレン系発泡成形体100の成形の際に発泡剤としては、化学発泡剤、炭酸ガス等が挙げられる。
化学発泡剤としては、重炭酸ナトリウム、重炭酸アンモニウム、各種カルボン酸塩、水素化ホウ素ナトリウム、アゾジカルボアミド、N,N−ジニトロソペンタメチレンテトラミン、P,P−オキシビス(ベンゼンスルホニルヒドラジッド)、アゾビスイソブチロニトリル、パラトルエンスルホニルヒドラジッド等が挙げられる。
炭酸ガスとしては、ガス状、液状または超臨界状態のいずれでも供給することが可能である。
【0042】
化学発泡剤は押出成形機に投入する前に発泡成形用ポリプロピレン系樹脂組成物と配合して均一に混合することが好ましい。
また、発泡剤として炭酸ガスを使用する場合は、発泡成形用ポリプロピレン系樹脂組成物が押出成形機内で混練、可塑化された状態になった後、直接押出成形機内へ圧入することが好ましい。
【0043】
発泡成形用ポリプロピレン系樹脂組成物の発泡倍率は特に限定されず、得られるポリプロピレン系発泡成形体100の諸物性を考慮して適宜決定することができる。
【0044】
<ポリプロピレン系発泡成形体の用途>
ポリプロピレン系発泡成形体100は、外観に優れ、さらに軽量性および機械的特性の性能バランスにも優れるため、木質ボードの代替品、特にハードボード、中密度繊維板等の高剛性の木質ボードの代替品として用いることができる。
より具体的には、床材や壁材、扉材、内装材、外装材、窓枠等の建材;家具;電気・電子部品;仕切材;断熱材;梱包材;自動車の内外装用部品;化粧シート;玩具;養生板;雑貨;スポーツ用品等として用いることができる。さらに具体的には、通函、物流容器、枕木、当て板、敷板、養生板、スペーサー、看板板、棚板、背板、底板、中敷、天井材、芯材、緩衝材、吸音材、補強板、下地板、畳床、コンテナ、部品治具、運搬用資材、デッキボード、イベント・災害向け部材、コンクリート型枠、ベッド、楽器等として用いることができる。
【0045】
2.ポリプロピレン系多層発泡成形体について
図2に、本発明に係る実施形態のポリプロピレン系多層発泡成形体200の構造の一例を模式的に示した断面図である。
本実施形態に係るポリプロピレン系多層発泡成形体200は、本実施形態に係るポリプロピレン系発泡成形体100により構成されたポリプロピレン系発泡層100と、ポリプロピレン系発泡層100の一方の面に設けられ、かつ、熱可塑性樹脂および無機フィラーを含む第1非発泡性樹脂層110と、ポリプロピレン系発泡層100の他方の面に設けられ、かつ、熱可塑性樹脂および無機フィラーを含む第2非発泡性樹脂層120と、を備える。
本実施形態に係るポリプロピレン系多層発泡成形体200は表面に未発泡の無機フィラー含有樹脂層を有するため、本実施形態に係るポリプロピレン系発泡成形体100に比べて、曲げ特性や引張特性等の機械的特性を向上させることができる。
本実施形態に係るポリプロピレン系多層発泡成形体200の形状は特に限定されないが、例えば、シート状である。
【0046】
本実施形態に係るポリプロピレン系多層発泡成形体200の厚みは特に限定されないが、例えば0.5mm以上30mm以下であり、好ましくは1.0mm以上20mm以下であり、より好ましくは1.5mm以上12mm以下であり、さらに好ましくは2.0mm以上9.0mm以下である。ポリプロピレン系多層発泡成形体200の厚みがこの範囲内であると、軽量性、機械的特性、リサイクル性、取扱い性、外観、成形性等のバランスがより優れている。
【0047】
また、第1非発泡性樹脂層110および第2非発泡性樹脂層120の厚みは特に限定されないが、それぞれ0.05mm以上5mm以下であることが好ましく、0.1mm以上3mm以下であることがより好ましい。
また、ポリプロピレン系多層発泡成形体200の厚みに対する第1非発泡性樹脂層110の厚みの比が好ましくは0.01以上0.5以下であり、より好ましくは0.02以上0.3以下であり、さらに好ましくは0.05以上0.2以下である。
また、ポリプロピレン系多層発泡成形体200の厚みに対する第2非発泡性樹脂層120の厚みの比が好ましくは0.01以上0.5以下であり、より好ましくは0.02以上0.3以下であり、さらに好ましくは0.05以上0.2以下である。
【0048】
以下、本実施形態に係る第1非発泡性樹脂層110および第2非発泡性樹脂層120を構成する各成分について説明する。
【0049】
<熱可塑性樹脂>
本実施形態に係る第1非発泡性樹脂層110および第2非発泡性樹脂層120は必須成分として熱可塑性樹脂を含む。
本実施形態に係る熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリオレフィン系樹脂を用いることができる。ポリオレフィン系樹脂としては、例えばエチレン、プロピレン、ブテン−1、3−メチルブテン−1、3−メチルペンテン−1、4−メチルペンテン−1等のα−オレフィンの単独重合体やこれらの共重合体、あるいはこれらと他の共重合可能な不飽和単量体との共重合体等が挙げられる。
より具体的には、高密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン、超高分子量ポリエチレン、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−アクリル酸エチル共重合体等のポリエチレン系樹脂;ポリプロピレン系樹脂;ポリブテン−1;ポリ4−メチルペンテン−1等を挙げることができる。ポリオレフィン系樹脂は1種用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。これらの中でも、軽量性、剛性、引張強度、耐傷付き性、低吸水性、耐熱性に優れている点から、ポリプロピレン系樹脂が好ましい。
ポリプロピレン系樹脂としては、例えば、前述した本実施形態に係るポリプロピレン系発泡成形体100で用いるポリプロピレン系樹脂と同様のものを挙げることができる。
【0050】
<無機フィラー>
本実施形態に係る第1非発泡性樹脂層110および第2非発泡性樹脂層120は必須成分として無機フィラーを含む。
無機フィラーとしては、例えばタルク、マイカ、クレー、ワラストナイト、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、カオリン、パーライト、硫酸カルシウム、硫酸バリウム、チタン酸カリウム、硫酸バリウム、亜硫酸カルシウム、ケイ酸カルシウム、シリカ、ケイ藻土、アルミナ、酸化チタン、ガラス繊維、ガラスビーズ、ガラスバルーン、ミルドファイバー、モンモリロナイト、ベントナイト、グフファイト、アルミニウム粉、ガラスフレーク、炭素繊維、炭素フレーク、炭素バルン、カーボンビーズ、カーボンミルドファイバー、カーボンブラック、グラファイト、カーボンナノチューブ、セラミック繊維、硫化モリブデン、アラミド粒子、アラミド繊維、ボロン繊維、炭化ケイ素繊維、ポリエチレン繊維、ポリプロピレン繊維、ポリエステル繊維、ポリアミド繊維、ポリアリレート繊維、各種ウィスカー、木粉、パルプ、セルロースナノファイバー、もみがら、ペーパースラッジ等が挙げられる。これらは、1種単独であるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0051】
これらの中でも、第1非発泡性樹脂層110および第2非発泡性樹脂層120中の無機フィラーとしては、軽量性、機械的特性、リサイクル性、取扱い性および外観に優れたポリプロピレン系多層発泡成形体200を得る観点から、それぞれタルク、マイカおよびシリカから選択される一種または二種以上を含むことが好ましい。これらの中でも、低価格の点からタルクおよびマイカが好ましく、ポリプロピレン系樹脂との相性や発泡性、成形性、着色性、低価格、安全性等の観点から、タルクがより好ましい。
【0052】
また、無機フィラーは無処理のまま使用してもよく、熱可塑性樹脂との界面接着性を向上させ、熱可塑性樹脂に対する分散性を向上させるために、シランカップリング剤や、チタンカップリング剤、界面活性剤等で表面を処理して使用してもよい。
【0053】
また、本実施形態に係る無機フィラーの水分含有率は無機フィラー全体に対して好ましくは0.10質量%以下、より好ましくは0.08質量%以下、さらに好ましくは0.07質量%以下、さらにより好ましくは0.06質量%以下、特に好ましくは0.05質量%以下である。本実施形態に係る無機フィラーの水分含有率の下限は特に限定されないが、例えば、無機フィラー全体に対して0.001質量%以上である。
ここで、無機フィラーの水分含有率は、例えば、窒素気流中で、無機フィラーを加熱することにより発生した水分をカールフィッシャー電量滴定法により定量し、得られた水分量から算出することができる。
水分含有率が上記上限値以下である無機フィラーを用いると、表面における艶ムラ、色ムラ等のムラや縦筋(流れ模様)等の発生が抑制され、外観により優れたポリプロピレン系多層発泡成形体200を得ることができる。
水分含有率が上記上限値以下である無機フィラーは、例えば、除湿乾燥機や真空乾燥機等を用いて無機フィラーを80〜150℃で、0.5〜48時間程度加熱処理して無機フィラーの内部に吸着している水分を除去することにより得ることができる。
【0054】
第1非発泡性樹脂層110および第2非発泡性樹脂層120中の無機フィラーの含有量は、第1非発泡性樹脂層110および第2非発泡性樹脂層120に含まれる熱可塑性樹脂および無機フィラーの合計量を100質量部としたとき、それぞれ好ましくは5質量部以上、より好ましくは15質量部以上、さらに好ましくは25質量部以上であり、さらにより好ましくは35質量部以上、特に好ましくは45質量部以上である。
また、第1非発泡性樹脂層110および第2非発泡性樹脂層120中の無機フィラーの含有量は、第1非発泡性樹脂層110および第2非発泡性樹脂層120に含まれる熱可塑性樹脂および無機フィラーの合計量を100質量部としたとき、それぞれ好ましくは90質量部以下であり、より好ましくは80質量部以下、さらに好ましくは70質量部以下、特に好ましくは65質量部以下である。
【0055】
第1非発泡性樹脂層110および第2非発泡性樹脂層120中の無機フィラーの含有量を上記下限値以上にすることにより、ポリプロピレン系多層発泡成形体200の曲げ特性や引張特性等の機械的特性、耐熱性、耐湿性、および寸法安定性をより一層向上させることができる。
また、第1非発泡性樹脂層110および第2非発泡性樹脂層120中の無機フィラーの含有量を上記上限値以下にすることにより、ポリプロピレン系多層発泡成形体200の軽量性および高剛性のバランスをより良好にできるとともに、ポリプロピレン系多層発泡成形体200の成形性を向上させたり、ポリプロピレン系多層発泡成形体200の穴あきや切れを抑制したりすることができ、その結果、外観により優れたポリプロピレン系多層発泡成形体200を実現することができる。
【0056】
本実施形態に係るポリプロピレン系多層発泡成形体200において、第1非発泡性樹脂層110および第2非発泡性樹脂層120は同一の組成を有し、かつ、同じ厚みであることが好ましい。こうすることで、第1非発泡性樹脂層110および第2非発泡性樹脂層120の線膨張係数を同程度の値に揃えることができるため、熱応力や吸湿に伴う反り等の変形による寸法変化をより効果的に抑制でき、さらに曲げ特性や引張特性等の機械的特性および耐熱性により一層優れたポリプロピレン系多層発泡成形体200を得ることができる。
【0057】
<その他の成分>
本実施形態に係る第1非発泡性樹脂層110および第2非発泡性樹脂層120は、必要に応じて、耐熱安定剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、顔料、帯電防止剤、銅害防止剤、難燃剤、中和剤、発泡剤、可塑剤、造核剤、気泡防止剤、架橋剤、耐候安定剤、耐光安定剤、老化防止剤、脂肪酸金属塩、軟化剤、分散剤、着色剤、滑剤、天然油、合成油、ワックス等の添加剤を配合してもよい。
【0058】
<ポリプロピレン系多層発泡成形体の製造方法>
本実施形態に係るポリプロピレン系多層発泡成形体200は、例えば、本実施形態に係るポリプロピレン系発泡成形体100の両面に無機フィラーおよび熱可塑性樹脂を含む無機フィラー含有熱可塑性樹脂組成物により構成された樹脂層を形成することにより得ることができる。
【0059】
(無機フィラー含有熱可塑性樹脂組成物の調製方法)
本実施形態に係る無機フィラー含有熱可塑性樹脂組成物は、各成分をドライブレンド、タンブラーミキサー、バンバリーミキサー、単軸押出機、二軸押出機、高速二軸押出機、熱ロール等により混合または溶融・混練することにより調製することができる。
【0060】
(ポリプロピレン系多層発泡成形体の成形方法)
本実施形態に係るポリプロピレン系多層発泡成形体200の成形方法は、例えば、多層押出機あるいはラミネーション成形機等を用いる公知の方法によって行うことができる。ポリプロピレン系多層発泡成形体200は、例えば、ポリプロピレン系発泡層100を形成するための発泡成形用ポリプロピレン系樹脂組成物と、第1非発泡性樹脂層110および第2非発泡性樹脂層120を形成するための無機フィラー含有熱可塑性樹脂組成物と、を多層押出機の主押出機および従押出機のホッパーから供給してTダイ先端からシート状に多層押出成形することにより得ることができる。
また、ポリプロピレン系多層発泡成形体200は、ポリプロピレン系発泡層100、第1非発泡性樹脂層110および第2非発泡性樹脂層120をそれぞれ別々に成形し、これらを積層して加熱成形することによっても得ることができる。この場合、ポリプロピレン系発泡層100と第1非発泡性樹脂層110との間や、ポリプロピレン系発泡層100と第2非発泡性樹脂層120との間に、例えば低融点のポリオレフィン樹脂により構成された熱接着層を介在させてもよい。このような低融点のポリオレフィン樹脂としては特に限定されないが、例えば、ポリプロピレン系樹脂を用いることができ、プロピレンとα−オレフィンとのランダム共重合体が好ましい。
【0061】
<ポリプロピレン系多層発泡成形体の用途>
本実施形態に係るポリプロピレン系多層発泡成形体200は、軽量性および機械的特性の性能バランスに優れるため、木質ボードの代替品、特にハードボード、中密度繊維板等の高剛性の木質ボードの代替品として用いることができる。
より具体的には、床材や壁材、扉材、内装材、外装材、窓枠等の建材;家具;電気・電子部品;仕切材;断熱材;梱包材;自動車の内外装用部品;化粧シート;玩具;養生板;雑貨;スポーツ用品;等として用いることができる。さらに具体的には、通函、物流容器、枕木、当て板、敷板、養生板、スペーサー、看板板、棚板、背板、底板、中敷、天井材、芯材、緩衝材、吸音材、補強板、下地板、畳床、コンテナ、部品治具、運搬用資材、デッキボード、イベント・災害向け部材、コンクリート型枠、ベッド、楽器等として用いることができる。
【0062】
以上、図面を参照して本発明の実施形態について述べたが、これらは本発明の例示であり、上記以外の様々な構成を採用することもできる。
【実施例】
【0063】
以下、本発明を実施例に基づいて具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0064】
1.測定方法
(1)ポリプロピレン系発泡(多層)シートの密度
ポリプロピレン系発泡(多層)シートから試験片を切り出し、試験片質量(g)を、試験片の外形寸法から求められる体積(cm)で割って求めた。
【0065】
(2)ポリプロピレン系樹脂のMFR
ASTM D1238に準拠し、230℃、2.16kg荷重の条件で測定した。
【0066】
(3)ポリプロピレン系樹脂のMz/Mw
GPC測定用移動相20mlに試料20mgを145℃で溶解させ、得られた溶液を孔径が1.0μmの焼結フィルターでろ過し、測定サンプルを得た。
次いで、東ソー社製のゲル浸透クロマトグラフ(商品名「HLC−8321 GPC/HT型」)を使用し、以下のようにしてポリプロピレン系樹脂のZ平均分子量(Mz)および重量平均分子量(Mw)を測定し、Mz/Mwを算出した。
分離カラムには、商品名「TSKgel GMH6−HT」を2本、および商品名「TSKgel GMH6−HTL」を2本使用した。カラムサイズは、いずれも内径7.5mm、長さ300mmとし、カラム温度は140℃とし、移動相にはo−ジクロロベンゼン(和光純薬工業社製)および酸化防止剤としてBHT(和光純薬工業社製)0.025重量%を用いた。
移動相を1.0ml/分の速度で移動させ、試料注入量は400μlとし、検出器として示差屈折計を用いた。標準ポリスチレンは東ソー社製のものを用いた。分子量は、ユニバーサル校正してポリプロピレン系樹脂に換算した値である。
【0067】
(4)ポリプロピレン系発泡(多層)シートの曲げ弾性率
ポリプロピレン系発泡(多層)シートの曲げ弾性率は、JIS A5905に記載された曲げ強さ試験を参考にして、23℃、50%RHの環境下で、試験片厚さ:3mm、試験片幅:50mm、試験片長さ:150mm、スパン間距離:100mm、曲げ速度:50mm/分の条件でMD方向とTD方向に対しそれぞれ1点ずつ測定し、それらの平均値を採用した。
【0068】
(5)ポリプロピレン系発泡(多層)シートのヤング率
ポリプロピレン系発泡(多層)シートのヤング率は、23℃、50%RHの環境下で、かつ、試験片形状:短冊状、試験片幅:10mm、チャック間距離:50mm、引張速度:20mm/分の条件でMD方向とTD方向に対しそれぞれ1点ずつ測定し、それらの平均値を採用した。
【0069】
(6)ポリプロピレン系発泡(多層)シート表面の算術平均粗さRa
ポリプロピレン系発泡(多層)シート表面の算術平均粗さRaは、JIS−B0601−1994に準拠し、東京精密社製の表面粗さ測定機(型式:E−MD−S189A、触針先端形状(先端半径:2μm、60度円錐、材質:ダイヤモンド))を用いて、評価長さ:10mm、測定速度:0.3mm/秒、カットオフ値:0.8mm、測定方向:シート表面のTD方向と平行な向きの条件で測定した。
【0070】
(7)無機フィラーの水分含有率
無機フィラーの水分含有率は以下の方法により算出した。まず、窒素気流中(100ml/分)で、無機フィラーを200℃で15分間加熱することにより発生した水分をカールフィッシャー電量滴定法により定量した。次いで、得られた水分量から無機フィラーの水分含有率を算出した。
【0071】
(8)ポリプロピレン系発泡(多層)シートの外観評価
ポリプロピレン系発泡(多層)シート表面に対し、目視にて縦筋(流れ模様)、ムラ(艶ムラ、色ムラ)の程度を観察し、以下の基準で評価した。
○:縦筋(流れ模様)、ムラ(艶ムラ、色ムラ)がなく、外観が良好である
×:縦筋(流れ模様)、ムラ(艶ムラ、色ムラ)が少し観察される
××:縦筋(流れ模様)、ムラ(艶ムラ、色ムラ)が目立つ
【0072】
(9)ポリプロピレン系発泡(多層)シートの発泡セル形態の評価
X線CTスキャンによりポリプロピレン系発泡(多層)シートにおける発泡セルの微細構造を観察し、以下の基準で発泡セル形態を評価した。
○:発泡セルが比較的均一で、セル形状が良好である
×:発泡セル同士が融合し、シート表面近傍に気泡(ボイド)が観察される
【0073】
2.原料
実施例および比較例で用いた原料について以下に示す。
(1)ポリプロピレン系樹脂
PP1:プロピレン単独重合体(プライムポリマー社製VP103W、MFR:3g/10分、Mz/Mw値:14)
【0074】
(2)無機フィラーおよびポリプロピレン系樹脂を含有するマスターバッチ
PPタルクMB1(三福工業社製、銘柄:MFP−TP20、組成:プロピレン単独重合体20質量%及びタルク80質量%を含有、タルクの水分含有率:0.15質量%)
PPタルクMB2(PPタルクMB1を105℃で18時間加熱処理し、タルクの水分含有率を0.05質量%まで低減したもの)
PPマイカMB(白石カルシウム社製、銘柄:HIFILLMER MAT−MPH80−60(MFR:3g/10分、組成:ブロック共重合体からなるポリプロピレン20質量%及びマイカ80質量%を含有、マイカの水分含有率:0.20質量%)を120℃で18時間加熱処理し、マイカの水分含有率を0.075質量%まで低減したもの)
PP炭酸カルシウムMB(東洋インキ社製、銘柄:PPM10245AL(プロピレン単独重合体20質量%及び炭酸カルシウム80質量%を含有)を120℃で18時間加熱処理したもの)
なお、PPタルクMB1は市販されている汎用品の受取状態をそのまま用いた。
【0075】
3.ポリプロピレン系発泡(多層)シートの作製
[実施例1〜6および比較例1〜8]
成形機としては、単軸押出成形機(シリンダー内径D:50mm、フルフライトスクリュー、スクリュー有効長LとしたときL/D:32mm、炭酸ガス供給位置:スクリュー供給部側から17.5D)、Tダイ(ダイ幅:320mm、リップ開度:0.5mm)、冷却ロール(外径50mm、鏡面仕上げ硬質クロムメッキ表面処理付のスチール製、水冷式)、炭酸ガス供給装置、冷却ロール、及び引取機、とからなる装置を用いた。
まず、各原料を表1に示す配合(表中の単位は質量部)でそれぞれドライブレンドし、得られた混合物をホッパーに投入し、さらに炭酸ガス供給装置から押出成形機のシリンダーの途中(位置17.5D)に炭酸ガスを10〜19MPaの圧力で注入した。このとき炭酸ガスの注入量としては押出量に対して、0.17〜0.33質量%となるよう調整にした。シリンダー各部の温度173〜193℃、スクリュー回転数30〜55rpmの条件で各成分原料を溶融・混練し、シリンダーヘッド部の樹脂温度186〜215℃で、押出量10〜19kg/時間となるようにTダイから押出した。押し出された発泡シートは、冷却ロール(ロール内部通水温度45℃)で冷却して、引取機を用いて引き取り(引取速度0.4〜0.7m/分)、シート幅約300mmのポリプロピレン系発泡シートをそれぞれ得た。得られたポリプロピレン系発泡シートを用いて各評価をおこなった。得られた結果を表1にそれぞれ示す。
【0076】
[比較例9]
無機フィラーを含まないポリプロピレン系発泡シートとして三井化学東セロ社製のパロニア(登録商標)を用いて各評価をおこなった。得られた結果を表1に示す。
【0077】
[実施例7〜10]
実施例1〜6で用いた押出成形機に各原料を表2に示す配合(表中の単位は質量部)でホッパー内に投入し、シリンダー温度205〜215℃、ダイ温度220℃、スクリュー回転数22〜28rpmの条件で各原料を溶融・混練し、シリンダーヘッド部の樹脂温度229〜231℃で、押出量8〜13kg/時間となるようにTダイから押出した。押し出された発泡シートは、引取機を用いて引取速度1.0m/分で引き取り、シート幅290〜300mmを有するポリプロピレン系非発泡性シート1〜4をそれぞれ得た。
次いで、表3に示す層構成でポリプロピレン系発泡多層シートをそれぞれ作製し、各評価をおこなった。得られた結果を表3にそれぞれ示す。
ここで、ポリプロピレン系発泡多層シートは、各層の間に熱接着層(融点が139℃のランダム共重合体からなるポリプロピレンフィルム、厚さ:0.07mm)を挿入し積層した。さらに、加熱プレス装置及び冷却プレス装置の定盤と接する多層シートの上下の平坦部には、表面平滑性と定盤からの離型性を付与するため、重ね合せた多層シートの上下に、耐熱性と鏡面を有するポリイミドフィルム(算術平均粗さRaが0.1μm以下、厚さ0.1mm)を配置した。
加熱プレス装置を用いて、温度150℃圧力2.5MPaで8分間加熱プレスし、次いで、温度150℃圧力10MPaで1分間加熱プレスした。その後、上下のポリイミドフィルムを含む多層シートを冷却プレス装置に挿入し、温度25℃圧力5MPaで冷却した。なお、加熱プレス前に予め、上下のポリイミドフィルムの内側、かつ各多層シートの外側周囲に、スペーサーとなる厚さ3mmの金枠を配置しておいた。このようにして、加熱接着・冷却後、総厚が約2.8〜3.0mmのポリプロピレン系発泡多層シートをそれぞれ得た。
【0078】
【表1】
【0079】
【表2】
【0080】
【表3】
【0081】
表1および3から明らかなように、水分含有率が0.10質量%以下であるタルクを用いた実施例1〜6のポリプロピレン系発泡シート、および実施例7〜10のポリプロピレン系発泡多層シートは外観に優れていることがわかった。さらに、密度や曲げ弾性率がハードボードや中密度繊維板等の木質ボードと同レベルの値を示し、軽量性および機械的特性の性能バランスに優れていることがわかった。すなわち、本実施形態に係るポリプロピレン系発泡成形体100は木質ボードの代替品として好適であることが理解できる。
一方、比較例1〜8のポリプロピレン系発泡シートはいずれも外観に劣っていた。また、比較例9のポリプロピレン系発泡シートは軽量性および機械的特性の性能バランスが悪く、木質ボードの代替としては適していなかった。
【0082】
この出願は、2016年10月31日に出願された日本出願特願2016−213792号を基礎とする優先権を主張し、その開示の全てをここに取り込む。
図1
図2