特許第6790130号(P6790130)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 日本発條株式会社の特許一覧

<>
  • 特許6790130-懸架装置 図000002
  • 特許6790130-懸架装置 図000003
  • 特許6790130-懸架装置 図000004
  • 特許6790130-懸架装置 図000005
  • 特許6790130-懸架装置 図000006
  • 特許6790130-懸架装置 図000007
  • 特許6790130-懸架装置 図000008
  • 特許6790130-懸架装置 図000009
  • 特許6790130-懸架装置 図000010
  • 特許6790130-懸架装置 図000011
  • 特許6790130-懸架装置 図000012
  • 特許6790130-懸架装置 図000013
  • 特許6790130-懸架装置 図000014
  • 特許6790130-懸架装置 図000015
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6790130
(24)【登録日】2020年11月6日
(45)【発行日】2020年11月25日
(54)【発明の名称】懸架装置
(51)【国際特許分類】
   F16F 1/06 20060101AFI20201116BHJP
   B60G 15/07 20060101ALI20201116BHJP
   F16F 1/12 20060101ALI20201116BHJP
【FI】
   F16F1/06 N
   B60G15/07
   F16F1/06 J
   F16F1/12 N
【請求項の数】3
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2018-565518(P2018-565518)
(86)(22)【出願日】2018年1月26日
(86)【国際出願番号】JP2018002588
(87)【国際公開番号】WO2018143105
(87)【国際公開日】20180809
【審査請求日】2019年4月19日
(31)【優先権主張番号】15/421,384
(32)【優先日】2017年1月31日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】000004640
【氏名又は名称】日本発條株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001737
【氏名又は名称】特許業務法人スズエ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】西沢 真一
【審査官】 鵜飼 博人
(56)【参考文献】
【文献】 特開2005−016645(JP,A)
【文献】 特開2000−351311(JP,A)
【文献】 特開2002−178736(JP,A)
【文献】 特開2000−055096(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16F 1/00− 6/00
B60G 11/06, 15/07
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下側のばね座(10)と、上側のばね座(11)と、螺旋形に成形された素線(4)からなり前記下側のばね座(10)と前記上側のばね座(11)との間に圧縮した状態で配置されたコイルばね(2)とを備え、前記下側のばね座(10)と前記上側のばね座(11)とが互いに平行でないストラットタイプの懸架装置であって、
前記コイルばね(2)が、
前記下側のばね座(10)に接する下側の座巻部(20)と、
前記上側のばね座(11)に接する上側の座巻部(21)と、
前記下側の座巻部(20)と前記上側の座巻部(21)との間の有効部(22)と、
前記有効部(22)を圧縮する力が前記下側の座巻部(20)と前記上側の座巻部(21)とに負荷された状態において、前記下側の座巻部(20)に加わる力の重心(C1)と前記上側の座巻部(21)に加わる力の重心(C2)とを結ぶ直線からなる荷重軸(FL)とを有し、
前記荷重軸(FL)が前記下側のばね座(10)と前記上側のばね座(11)とに対し角度(θ3)をなして傾き、
前記有効部(22)は、圧縮されていない自由形状において該有効部(22)の軸まわりに円筒形でかつピッチが一定であり、
前記下側のばね座(10)と前記上側のばね座(11)との間で指定高さまで圧縮された圧縮形状では、前記荷重軸(FL)をZ軸とする座標系に関し、前記Z軸方向にピッチが一定でかつコイル径が実質的に一定の円筒形をなしている懸架装置
【請求項2】
請求項1に記載の懸架装置において、
前記コイルばね(2)の前記荷重軸(FL)と前記下側のばね座(10)の中心との差、および前記荷重軸(FL)と前記上側のばね座(11)の中心との差に応じて、前記下側の座巻部(20)と前記上側の座巻部(21)とをコイル中心から偏心させ、かつ、前記指定高さにおける前記下側の座巻部(20)と上側の座巻部(21)の傾きを、それぞれ、前記下側のばね座(10)と上側のばね座(11)の傾きに対応させた懸架装置
【請求項3】
請求項1に記載の懸架装置において、
前記コイルばね(2)の前記圧縮形状の前記有効部(22)のコイル径が、前記自由形状の前記有効部(22)のコイル径と比較して、前記荷重軸(FL)まわりの全周にわたり同等に拡大する懸架装置
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、例えば車両の懸架装置などに使用可能なコイルばねに関する。
【背景技術】
【0002】
コイルばねを製造する方法として、熱間でコイルばねを成形する方法と、冷間でコイルばねを成形する方法とが知られている。熱間で成形されるコイルばねは、高温(例えば鋼のオーステナイト化温度)に加熱された素線を芯金(マンドレル)に所定ピッチで巻付けることにより螺旋形に成形される。素線の長さはコイルばね1個分である。この明細書では、熱間でコイルばねを製造する装置を熱間成形コイリングマシンと称し、熱間で成形されたコイルばねを熱間成形コイルばねと称す。熱間成形コイリングマシンは、加熱されて柔らかくなった素線を芯金に巻付けるため、素線径が比較的大きいコイルばねを製造するのに適している。
【0003】
これに対し冷間で成形されるコイルばねは、コイルばね複数個分の長さの素線をコイリングマシンの第1ピンと第2ピンとの間に供給し、第1ピンと第2ピンとの間で素線を連続的に円弧状に成形する。1個分のコイルばねが成形されると、素線がカッタによって切断される。この明細書では、冷間でコイルばねを製造する装置を冷間成形コイリングマシンと称し、冷間で成形されたコイルばねを冷間成形コイルばねと称す。冷間成形コイリングマシンは、円筒形以外の特殊形状のコイルばねを製造することもできる。
【0004】
図13Aに従来のコイルばね100の一例が模式的に示されている。コイルばね100の下側の座巻部100aは、下側のばね座101によって支持されている。コイルばね100の上側の座巻部100bは、上側のばね座102によって支持されている。ばね座101,102の位置は、コイルばねを支える相手部品の仕様に応じて決められている。素線が螺旋形に巻かれているため、コイルばね100はコイル中心に対し左右対称形ではない。このためコイルばね100に圧縮の荷重F1を加えると、有効部100cが矢印f1で示す方向に曲がり、いわゆる胴曲り(bowing)が生じることが知られている。特に巻数が少ないコイルばね(例えば巻数が5以下)の場合、胴曲りが生じやすい。胴曲りを生じたコイルばね100は、周囲の部品と干渉する可能性があり、好ましくない。
【0005】
胴曲りが生じることを防ぐために、図13Bに示す他の従来例のように、荷重が負荷されていない自由形状(free shape)がC形あるいはS形となるように成形されたコイルばね110も提案されている。このコイルばね110は、圧縮の荷重F1を加えた状態において、有効部110cが矢印f2で示す方向に変形することにより、有効部110cが真っ直ぐになることをねらっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平1−156119公報
【特許文献2】特許第2642163号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1(特開平1−156119公報)あるいは特許文献2(特許第2642163号公報)に、C形に成形されたコイルばねが示されている。このような特殊形状のコイルばねは、熱間成形コイリングマシンによって製造することが実際には難しいことがあるため、冷間成形コイリングマシンが使用される。しかし冷間成形コイリングマシンは、線径が大きいコイルばねを製造する場合に、コイリングマシンの構造や制御に格別な対策が必要であった。
【0008】
本発明の目的は、熱間成形コイリングマシンによって製造することが可能で、しかも胴曲りが抑制されたコイルばねを有する懸架装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の1つの実施形態は、下側のばね座と、上側のばね座と、螺旋形に成形された素線からなり前記下側のばね座と前記上側のばね座との間に圧縮した状態で配置されたコイルばねとを備え、前記下側のばね座と前記上側のばね座とが互いに平行でないストラットタイプの懸架装置であって、前記コイルばね(2)が、前記下側のばね座に接する下側の座巻部と、前記上側のばね座に接する上側の座巻部と、前記下側の座巻部と前記上側の座巻部との間の有効部と、前記有効部を圧縮する力が前記下側の座巻部と前記上側の座巻部とに負荷された状態において前記下側の座巻部に加わる力の重心と前記上側の座巻部に加わる力の重心とを結ぶ直線からなる荷重軸とを有し、前記荷重軸が前記下側のばね座と前記上側のばね座とに対し角度をなして傾いている。前記有効部は、このコイルばねが圧縮されていない自由形状(無荷重時)において、前記有効部の軸まわりに円筒形である。つまりこのコイルばねは、無荷重時に前記有効部の軸を中心軸とした円筒形である。また前記有効部は、このコイルばねが圧縮されていない自由形状(無荷重時)において、前記有効部の軸をZ軸としたとき、Z軸方向にピッチが一定である。
【0010】
しかも前記有効部は、前記下側のばね座と前記上側のばね座との間で指定高さまで圧縮された圧縮形状(圧縮時)において、前記荷重軸をZ軸とする座標系に関し、前記Z軸方向にピッチが一定でかつコイル径が実質的に一定の円筒形(荷重軸を中心軸とした円筒形)をなしている。さらにこのコイルばねは、前記荷重軸と前記下側のばね座の中心との差、および前記荷重軸と前記上側のばね座の中心との差に応じて、前記下側の座巻部と前記上側の座巻部とをコイル中心から偏心させ、かつ、前記指定高さにおける前記下側の座巻部と上側の座巻部の傾きを、それぞれ、前記下側のばね座と上側のばね座の傾きに対応させるとよい。
【発明の効果】
【0011】
本実施形態のコイルばねによれば、指定高さに圧縮された状態において、有効部に胴曲りが生じない。このためこのコイルばねは、例えば車両の懸架装置に組込まれた状態において、周囲の部品と干渉することが回避される。しかも本実施形態のコイルばねは、熱間成形コイリングマシンによって製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1図1は、第1の実施形態に係るコイルばねを備えた懸架装置の断面図である。
図2図2は、図1に示されたコイルばねの側面図である。
図3図3は、同コイルばねが最大に圧縮された状態の側面図である。
図4図4は、同コイルばねが最大に伸びた状態の側面図である。
図5図5は、図1に示された懸架装置の下側のばね座と上側のばねを模式的に示す図である。
図6図6は、3種類のコイルばねの素線の巻数位置と荷重軸(force line)からの距離との関係をそれぞれ示す図である。
図7図7は、図2に示されたコイルばねの素線の巻数位置とピッチとの関係を示す図である。
図8図8は、3種類のコイルばねの素線の巻数位置と高さとの関係をそれぞれ示す図である。
図9図9は、熱間成形コイリングマシンの一部の平面図である。
図10図10は、第2の実施形態に係るコイルばねの側面図である。
図11図11は、図10に示されたコイルばねが最大に圧縮された状態の側面図である。
図12図12は、図10に示されたコイルばねが最大に伸びた状態の側面図である。
図13A図13Aは、従来のコイルばねの断面図である。
図13B図13Bは、他の従来のコイルばねの断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に本発明の1つの実施形態に係るコイルばねについて、図1から図9を参照して説明する。
図1に示す MacPherson Strut type の懸架装置1は、懸架用コイルばね2(これ以降、単にコイルばね2と称す)と、ショックアブソーバからなるストラット3とを備えている。コイルばね2は、螺旋形に成形されたばね鋼からなる素線4を有している。コイルばね2は、下側のばね座10と上側のばね座11との間で圧縮された状態で、懸架装置1に取付けられている。ストラット3の上端は、マウントインシュレータ12を介して車体13に取付けられている。ストラット3の下部にブラケット15が設けられている。ブラケット15には、車軸を支持するためのナックル部材16(一部のみ示す)が取付けられている。ストラット3は、重力の鉛直線XLに対し、上端側が車両内側に角度θ1だけ軸線X0が傾いた状態で車体13に取付けられている。
【0014】
図2に示されるようにコイルばね2は、下側のばね座10と上側のばね座11との間で圧縮されている。図3は、コイルばね2が最大に圧縮された状態を示している。図4は、コイルばね2が最大に伸びた状態を示している。コイルばね2は、下側のばね座10によって支持される下側の座巻部20と、上側のばね座11によって支持される上側の座巻部21と、座巻部20,21間の有効部22とを含んでいる。下側の座巻部20の下面20aは、下側のばね座10に接している。上側の座巻部21の上面21aは、上側のばね座11に接している。有効部22は、コイルばね2が最大に圧縮された状態において、互いに隣り合う素線4の巻回部どうしが互いに接することがなく、ばねとして有効に機能する部分である。有効部22の巻数の一例は4である。下側の座巻部20は、素線4の下端から例えば0.6〜0.7巻き付近までである。上側の座巻部21は、素線4の上端から例えば0.8巻き付近までである。下側のばね座10は、上側のばね座11に対してストラット3の軸線X0方向に相対的に移動することができる。
【0015】
コイルばね2が圧縮された状態において、下側のばね座10と座巻部20とが互いに接し、座巻部20に加わる力の重心C1が存在する。力の重心C1は座巻部20の巻きの中心(曲率中心)にあるとは限らない。すなわち力の重心C1は、ばね座10と座巻部20との接触力の分布に依存する。上側のばね座11と座巻部21とが互いに接しているため、座巻部21に加わる力の重心C2が存在する。この明細書では、下側の座巻部20の力の重心C1と上側の座巻部21の力の重心C2とを結ぶ直線を荷重軸FL(force line)と称する。荷重軸の位置(force line position)を略してFLPと称することもある。荷重軸FLは、下側の座巻部20の巻きの中心と上側の座巻部21の巻きの中心から径方向に偏心した位置にある。
【0016】
本実施形態のコイルばね2は、圧縮された状態(圧縮形状)において、有効部22のコイル中心が荷重軸FLと一致するように、座巻部20,21の形状と座巻部20,21の曲率の中心の偏心位置とが調整されている。つまりコイルばね2の有効部22は、荷重軸FLを中心としてコイル径が実質的に一定の円筒形である。ここで「実質的に一定」とは、素線4を熱間成形コイリングマシンの芯金に巻付けることによって円筒形の有効部22を成形した場合に、許容範囲内の成形誤差やスプリングバックによる形状の乱れを無視できる程度であることを意味している。有効部22のピッチP1(図2に示す)は、荷重軸FLをZ軸とした座標系において、実質的に一定である。このためこのコイルばね2は、Z軸方向に作用する圧縮の荷重に対し、荷重軸FLまわりに均等に潰れる。
【0017】
図2から図4に示された2点鎖線CY1は、有効部22の外周の位置を表している。図2中の破線CY2は、従来のコイルばねの有効部の外周の位置を表している。従来の有効部は、本実施形態の有効部22よりも車両内側に配置されていた。ばね座10,11の位置は、従来も本実施形態も同じである。
【0018】
コイルばね2にZ軸方向の圧縮の荷重を加えると、下側のばね座10と上側のばね座11との間で有効部22が圧縮される。本実施形態のコイルばね2は、圧縮されていない自由形状と圧縮形状とのいずれの場合も、胴曲りを生じていない。
【0019】
自由形状(無荷重時)において、有効部22は、その軸まわりに円筒形である。つまり自由形状の有効部22は、有効部22の軸を中心軸とした円筒形である。また自由形状の有効部22は、有効部22の軸をZ軸としたときZ軸方向にピッチが一定である。
【0020】
指定高さまで圧縮された圧縮形状の有効部22は、荷重軸FLをZ軸とする座標系において、Z軸(荷重軸FL)方向にピッチが一定の円筒形である。圧縮されたコイルばね2の有効部22は、荷重軸FLをZ軸とする座標系に関し、荷重軸FLを中心としたピッチ一定の円筒形をなしている。
【0021】
圧縮形状の有効部22は、自由形状と比較して、荷重軸FLまわりの全周にわたり、コイル径が同等に大きくなる。すなわちコイルばね2が圧縮されると、荷重軸FLまわりに均等に胴膨れを生じる。胴膨れを生じたコイルばね2は、胴曲りを生じるコイルばねと比較して、周囲の部品と干渉する可能性は小さい。
【0022】
図5に示されるように、下側のばね座10は、荷重軸FLと直角な線分S1に対し、角度θ2をなして傾いている。上側のばね座11は、荷重軸FLと直角な線分S2に対し、角度θ3をなして傾いている。すなわち下側のばね座10と上側のばね座11とは、互いに平行ではない。しかも荷重軸FLは、下側のばね座10と上側のばね座11に対して、角度θ2,θ3をなして斜めに傾いている。
【0023】
胴曲りをなくしたいばね高さ(指定高さ)における荷重軸FLと座巻部の中心との偏差分を、下側のばね座10と上側のばね座11の偏心量として与える。そして角度θ2,θ3を下側のばね座10と上側のばね座11の座面角度として与える。ただし、コイルばねの胴曲り方向がばね座10,11の傾き方向からずれていることもある。その場合には、その胴曲りを相殺する方向へ、ばね座10,11の座面の方向と角度を少し修正する必要がある。
【0024】
例えば本実施形態のコイルばね2は、荷重軸FLと下側のばね座10の中心との差、および荷重軸FLと上側のばね座11の中心との差に応じて、下側の座巻部20と上側の座巻部21とをコイル中心から偏心させている。また指定高さにおける下側の座巻部20と上側の座巻部21との傾きを、それぞれ、下側のばね座10と上側のばね座11の傾きに対応させている。
【0025】
図6中の線L1は、コイルばね2の素線4の巻数位置と荷重軸FLからの距離との関係を示している。図6中の線L1で示されるように、有効部では、荷重軸FLから素線までの距離が荷重軸FLまわりにほぼ一定である。下側の座巻部の一例では、W1で示されるように、素線の下端から有効部に向かって、荷重軸FLからの距離が大きくなってから小さくなる波形をなしている。上側の座巻部の一例では、W2で示されるように、素線の上端から有効部に向かって、荷重軸FLからの距離が小さくなってから大きくなる波形をなしている。図6中の線L2は、従来のコイルばね(巻数:4)の素線の巻数位置と荷重軸FLからの距離との関係を示している。従来のコイルばねは、荷重軸FLから素線までの距離が荷重軸FLまわりに大きく変化している。
【0026】
図7中の線L3は、コイルばね2が圧縮された状態(圧縮形状)において、素線の巻数位置とピッチとの関係を示している。図7中の線L4は、コイルばね2が圧縮されていない自由形状において、素線の巻数位置とピッチとの関係を示している。圧縮形状において、有効部のピッチは荷重軸FLに沿う方向(Z軸方向)に関して実質的に一定である。荷重が負荷されていない自由形状において、有効部のピッチは、有効部のコイル中心に関して実質的に一定である。
【0027】
図8中の線L5は、コイルばね2の自由形状での素線の巻数位置と高さとの関係を示している。図8中の線L5で示されるように、有効部は、巻数位置に応じて次第に高さが大きくなっている。下側の座巻部の一例では、素線の下端から有効部に向かって、高さが大きく増加してから高さの増加が小さくなる(波形にうねる)形状である。上側の座巻部の一例では、素線の上端に向かって高さが増加している。これに対し従来のコイルばねの一例は、図8中の線L6で示されるように、下側の座巻部と上側の座巻部の高さが、それぞれ、ほとんど変化せずにフラットな形状である。
【0028】
図9は、コイルばねを製造するための熱間成形コイリングマシン30の一部を示している。このコイリングマシン30は、円柱形の芯金31と、チャック33と、ガイド部35とを含んでいる。芯金31の一方の端部31aは、コイルばねの一端側(巻始め側)の座巻部に応じた形状である。ガイド部35はガイド部材39a,39bを含んでいる。
【0029】
ばね鋼からなる素線4は、予めコイルばねの1個分の長さに切断されている。この素線4は、オーステナイト化温度(A変態点以上、1150℃以下)に加熱され、供給機構によって芯金31に供給される。チャック33は、素線4の先端を芯金31に固定する。ガイド部35は、芯金31に巻付く素線4の位置を制御する。芯金31の一方の端部31aは、芯金駆動ヘッド40によって保持されている。芯金31は、芯金駆動ヘッド40によって、軸線X1まわりに回転する。芯金31の他方の端部31bは、芯金ホルダ50によって回転自在に支持されている。ガイド部35は、芯金31の軸線X1に沿う方向に移動し、成形すべきコイルばねのピッチ角に応じて素線4を案内する。
【0030】
素線4はコイルばね1個分の長さである。この素線4が加熱炉によって、熱間成形に適した温度に加熱される。加熱された素線4の先端がチャック33によって芯金31に固定される。芯金31が回転するとともに、芯金31の回転に同期して、ガイド部35が芯金31の軸線X1に沿う方向に移動する。これにより、芯金31に素線4が所定ピッチで巻付いてゆく。以上の説明はコイルばねを熱間成形コイリングマシン30によって製造する場合についてである。本実施形態のコイルばねは、冷間成形コイリングマシンによって製造することも可能である。
【0031】
図10は、第2の実施形態に係るコイルばね2Aを示している。図11は、コイルばね2Aが最大に圧縮された状態の側面図である。図12は、コイルばね2Aが最大に伸びた状態の側面図である。コイルばね2Aは、第1の実施形態のコイルばね2と同様に、下側のばね座10によって支持される下側の座巻部20Aと、上側のばね座11によって支持される上側の座巻部21Aと、座巻部20A,21A間の有効部22Aとを含んでいる。
【0032】
有効部22Aの巻数は3である。有効部22Aのコイル径は、第1の実施形態の有効部22のコイル径よりも大きい。この有効部22Aは、第1の実施形態の有効部22と同様に、自由形状および圧縮形状のいずれの場合も、荷重軸FLまわりに胴曲りが生じていない形状(円筒形)である。すなわち有効部22Aは、圧縮されていない自由形状において、有効部22Aの軸まわりに円筒形である。また指定高さまで圧縮された圧縮形状では、荷重軸FLをZ軸とする座標系において、Z軸(荷重軸FL)方向にピッチが一定の円筒形をなしている。
【0033】
第2の実施形態の素線4Aの線径は、第1の実施形態の素線4の線径よりも小さい。図10から図12に示された2点鎖線CY3は、有効部22Aの外周の位置を表している。図10中の破線CY4は、従来のコイルばねの有効部の外周の位置を表している。従来の有効部は、本実施形態の有効部22Aよりも車両内側に配置されていた。ばね座10,11の位置は、従来も本実施形態も同じである。
【0034】
図6中の線L17は、第2の実施形態のコイルばね2Aの素線の巻数位置と荷重軸FLからの距離との関係を示している。図6中の線L17で示されるように、有効部では、荷重軸FLから素線までの距離が荷重軸FLまわりにほぼ一定である。下側の座巻部は、W1で示されるように、素線の下端から有効部に向かって、荷重軸FLからの距離が大きくなってから小さくなる波形をなしている。上側の座巻部は、W2で示されるように、素線の上端から有効部に向かって、荷重軸FLからの距離が小さくなってから大きくなる波形をなしている。
【0035】
図8中の線L18は、第2の実施形態のコイルばね2Aの自由形状での素線の巻数位置と高さとの関係を示している。図8中の線L18で示されるように、有効部は、巻数位置に応じて次第に高さが大きくなっている。下側の座巻部は、素線の下端から有効部に向かって、高さが大きくなってから小さくなる(波形にうねる)形状である。上側の座巻部は、素線の上端に向かって高さが増加している。
【産業上の利用可能性】
【0036】
このコイルばねは、ストラットタイプのサスペンションに限らず、例えばリンクモーションタイプのサスペンションに使用することもできる。また本実施形態のコイルばねは、懸架装置以外の用途に使用することも可能である。
【符号の説明】
【0037】
1…懸架装置、2…コイルばね、3…ストラット、4…素線、10…下側のばね座、11…上側のばね座、20…下側の座巻部、21…上側の座巻部、22…有効部、C1,C2…力の重心、FL…荷重軸。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13A
図13B