特許第6790142号(P6790142)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6790142タイヤ力推定システムおよびタイヤ力推定方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6790142
(24)【登録日】2020年11月6日
(45)【発行日】2020年11月25日
(54)【発明の名称】タイヤ力推定システムおよびタイヤ力推定方法
(51)【国際特許分類】
   G01L 5/16 20200101AFI20201116BHJP
   G01L 5/20 20060101ALI20201116BHJP
   B60C 19/00 20060101ALI20201116BHJP
   G01M 17/02 20060101ALI20201116BHJP
【FI】
   G01L5/16
   G01L5/20
   B60C19/00 B
   B60C19/00 H
   G01M17/02
【請求項の数】6
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2019-15801(P2019-15801)
(22)【出願日】2019年1月31日
(65)【公開番号】特開2020-122753(P2020-122753A)
(43)【公開日】2020年8月13日
【審査請求日】2020年3月12日
【早期審査対象出願】
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003148
【氏名又は名称】TOYO TIRE株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105924
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 賢樹
(72)【発明者】
【氏名】榊原 一泰
【審査官】 森 雅之
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許第9739689(US,B1)
【文献】 韓国登録特許第1228291(KR,B1)
【文献】 特許第3314280(JP,B2)
【文献】 特許第6420589(JP,B2)
【文献】 特開2019−67221(JP,A)
【文献】 国際公開第2019/142870(WO,A1)
【文献】 特許第6450170(JP,B2)
【文献】 米国特許第9120356(US,B2)
【文献】 米国特許第9874496(US,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01L
B60C
G01M
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
タイヤの物理量を計測するセンサと、
前記センサで計測された前記物理量を取得するセンサ情報取得部と、
入力層にタイヤの物理量を入力して出力層からタイヤ力を出力する学習型モデルでなる演算モデルを有し、タイヤの経年情報、摩耗情報、および走行する路面情報の少なくとも2つに基づいて前記演算モデルを補正し、前記センサ情報取得部により取得された前記物理量を前記入力層に入力して前記演算モデルによってタイヤ力を算出するタイヤ力算出部と、
を備えることを特徴とするタイヤ力推定システム。
【請求項2】
前記タイヤ力算出部は、外部からの情報に基づいて前記演算モデルを更新する更新処理部を有することを特徴とする請求項に記載のタイヤ力推定システム。
【請求項3】
前記演算モデルは、通信ネットワークを介して提供されることを特徴とする請求項1または2に記載のタイヤ力推定システム。
【請求項4】
前記物理量の情報、および前記タイヤ力算出部で算出されたタイヤ力の情報のうち、少なくとも一方の情報を通信ネットワークを介して外部装置へ送信する送信部を備えることを特徴とする請求項1からのいずれか1項に記載のタイヤ力推定システム。
【請求項5】
前記センサは、加速度センサであり、前記物理量として加速度を計測し、
前記タイヤ力算出部は、加速度の情報を入力して前記演算モデルによりタイヤ力を算出することを特徴とする請求項1からのいずれか1項に記載のタイヤ力推定システム。
【請求項6】
センサによってタイヤの物理量を計測する計測ステップと、
前記計測ステップにより計測された前記物理量を取得するセンサ情報取得ステップと、
入力層にタイヤの物理量を入力して出力層からタイヤ力を出力する学習型モデルでなる演算モデルを有し、タイヤの経年情報、摩耗情報、および走行する路面情報の少なくとも2つに基づいて前記演算モデルを補正し、前記センサ情報取得ステップにより取得された前記物理量を前記入力層に入力して前記演算モデルによりタイヤ力を算出するタイヤ力算出ステップと、
を備えることを特徴とするタイヤ力推定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タイヤ力推定システムおよびタイヤ力推定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、タイヤおよび路面間の摩擦係数の推定方法としては、車両の加速度やエンジントルク等の車両情報を用いる方法が知られている。
【0003】
特許文献1には従来の路面摩擦推定システムが記載されている。この路面摩擦推定システムは、車両の複数のタイヤに取り付けられた複数のタイヤ負荷推定センサを使用する。各タイヤの負荷およびスリップ角は、センサデータから推定される。複数の車両CANバスセンサから、車両加速度およびヨーレート動作パラメータが取得され、ダイナミックオブザーバモデルは、横方向および縦方向の力推定値を複数のタイヤのそれぞれにおいて算出する。個別ホイール力推定値は、各タイヤについて、タイヤごとの横方向および縦方向の力推定値から算出される。各タイヤにおけるダイナミックスリップ角推定値および複数のタイヤのそれぞれにおける個別ホイール力推定値から、モデルベースの摩擦推定値が生成される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2015−081090号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載の路面摩擦推定システムは、タイヤ力の推定において、車両側から車両加速度およびヨーレート動作パラメータの情報が必要となっており、改善の余地があることに本発明者は気づいた。すなわち、タイヤ力を推定するシステムの簡素化を図るためには、車両加速度およびヨーレート動作パラメータ等の車両側からの情報を用いずにタイヤ力を推定することが必要である。また、タイヤ力の推定をタイヤ側で完結することで、システム的に簡素化を図り得る。
【0006】
本発明は、斯かる事情に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、タイヤ力を推定することができるタイヤ力推定システムおよびタイヤ力推定方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のある態様はタイヤ力推定システムである。タイヤ力推定システムは、タイヤの物理量を計測するセンサと、前記センサで計測された前記物理量を取得するセンサ情報取得部と、前記物理量に基づいてタイヤ力を算出する演算モデルを有し、前記センサ情報取得部により取得された前記物理量を前記演算モデルに入力してタイヤ力を算出するタイヤ力算出部と、を備える。
【0008】
本発明の別の態様はタイヤ力推定方法である。タイヤ力推定方法は、センサによってタイヤの物理量を計測する計測ステップと、前記計測ステップにより計測された前記物理量を取得するセンサ情報取得ステップと、前記物理量に基づいてタイヤ力を算出する演算モデルを有し、前記センサ情報取得ステップにより取得された前記物理量を入力して前記演算モデルによりタイヤ力を算出するタイヤ力算出ステップと、を備える。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、タイヤ力を推定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】タイヤ力推定システムの概要を説明するための模式図である。
図2】実施形態1に係るタイヤ力推定システムの機能構成を示すブロック図である。
図3】補正項の内容を表す図表である。
図4】タイヤ力推定装置によるタイヤ力推定処理の手順を示すフローチャートである。
図5】実施形態2に係るタイヤ力推定システムの機能構成を示すブロック図である。
図6】サーバ装置の機能構成を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を好適な実施の形態をもとに図1から図6を参照しながら説明する。各図面に示される同一または同等の構成要素、部材には、同一の符号を付するものとし、適宜重複した説明は省略する。また、各図面における部材の寸法は、理解を容易にするために適宜拡大、縮小して示される。また、各図面において実施の形態を説明する上で重要ではない部材の一部は省略して表示する。
【0012】
(実施形態1)
図1は、タイヤ力推定システム100の概要を説明するための模式図である。タイヤ力推定システム100は、タイヤ10に配設されたセンサ20およびタイヤ力推定装置30を備える。また、タイヤ力推定システム100は、タイヤ力Fを推定する演算モデルを更新するために通信ネットワーク91を介して接続されるサーバ装置40などを含んでもよい。
【0013】
センサ20は、タイヤ10における加速度および歪、タイヤ空気圧、並びにタイヤ温度などタイヤ10の物理量を計測しており、計測したデータをタイヤ力推定装置30へ出力する。タイヤ力推定装置30は、センサ20で計測されたデータに基づいてタイヤ力Fを推定する。タイヤ力推定装置30は、タイヤ力Fを推定する演算において、車両加速度等の車両側からの情報を必要とせず、タイヤ力Fの推定演算に関して車両制御装置90と独立している。
【0014】
タイヤ力推定装置30は、推定したタイヤ力Fを例えば車両制御装置90へ出力する。車両制御装置90は、タイヤ力推定装置30から入力されたタイヤ力Fを、例えば路面摩擦係数や制動距離の推定、車両制御への適用、更には車両の安全走行に関する情報の運転者への報知などに用いる。また車両制御装置90は、地図情報や気象情報などを用いて、将来における車両の安全走行に関する情報を提供することもできる。また、タイヤ力推定システム100は、車両制御装置90が車両を自動運転する機能を有する場合には、自動運転における車速制御等に用いるデータとして、推定したタイヤ力Fを車両制御装置90へ提供する。
【0015】
図2は、実施形態1に係るタイヤ力推定システム100の機能構成を示すブロック図である。タイヤ力推定システム100のセンサ20は、加速度センサ21、歪ゲージ22、圧力ゲージ23および温度センサ24等を有し、タイヤ10における物理量を計測する。これらのセンサは、タイヤ10の物理量として、タイヤ10の変形や動きに関わる物理量を計測している。
【0016】
加速度センサ21および歪ゲージ22は、タイヤ10とともに機械的に運動しつつ、それぞれタイヤ10に生じる加速度および歪量を計測する。加速度センサ21は、例えばタイヤ10のトレッド、サイド、ビードおよびホイール等に配設されており、タイヤ10の周方向、軸方向および径方向の3軸における加速度を計測する。
【0017】
歪ゲージ22は、タイヤ10のトレッド、サイドおよびビード等に配設されており、配設箇所での歪を計測する。また、圧力ゲージ23および温度センサ24は、例えばタイヤ10のエアバルブに配設されており、それぞれタイヤ空気圧およびタイヤ温度を計測する。温度センサ24は、タイヤ10の温度を正確に計測するために、タイヤ10に直接、配設されていてもよい。タイヤ10は、各タイヤを識別するために、例えば固有の識別情報が付与されたRFID11等が取り付けられていてもよい。例えば、タイヤ10に取り付けたRFID11の固有情報に応じて、後述するタイヤ力算出部32の演算モデル32aおよび補正処理部32bにおける各補正項等を、予め用意したデータ群の中から選択して設定してもよいし、または通信ネットワーク91上のサーバ装置40などで提供されるデータベースから選択するようにしてもよい。また、RFID11の固有情報に対して後述するタイヤ10の仕様が記録され、更にタイヤ10の仕様に応じた演算モデル32aおよび各補正項等がデータベースで提供されてもよい。RFID11の固有情報からタイヤ10の仕様を呼び出し、演算モデル32aおよび各補正項等を設定してもよいし、呼び出したタイヤ10の仕様に応じた演算モデル32aおよび各補正項等をデータベースから選択するようにしてもよい。
【0018】
タイヤ力推定装置30は、センサ情報取得部31、タイヤ力算出部32、補正処理部32bおよび通信部33を有する。タイヤ力推定装置30は、例えばPC(パーソナルコンピュータ)等の情報処理装置である。タイヤ力推定装置30における各部は、ハードウェア的には、コンピュータのCPUをはじめとする電子素子や機械部品などで実現でき、ソフトウェア的にはコンピュータプログラムなどによって実現されるが、ここでは、それらの連携によって実現される機能ブロックを描いている。したがって、これらの機能ブロックはハードウェア、ソフトウェアの組合せによっていろいろな形態で実現できることは、当業者には理解されるところである。
【0019】
センサ情報取得部31は、無線通信等によりセンサ20で計測された加速度、歪、空気圧および温度の情報を取得する。通信部33は、車両制御装置90、サーバ装置40および保守端末装置50等の外部装置との間で有線または無線通信等によって通信する。通信部33は、センサ20で計測されたタイヤ10の物理量、およびタイヤ10について推定したタイヤ力F等を通信回線、例えばCAN(コントロールエリアネットワーク)、インターネット等を介して外部装置へ送信する。
【0020】
タイヤ力算出部32は、演算モデル32aを有し、センサ情報取得部31からの情報を演算モデル32aに入力し、タイヤ力Fを算出する。図2に示すように、タイヤ力Fは、タイヤ10の前後方向の前後力Fx、横方向の横力Fy、および鉛直方向の荷重Fzの3軸方向成分を有する。タイヤ力算出部32は、これら3軸方向成分のすべてを算出してもよいし、少なくともいずれか1成分の算出または任意の組合せによる2成分の算出を行うようにしてもよい。
【0021】
演算モデル32aは、例えばニューラルネットワーク等の学習型モデルを用いる。演算モデル32aは、センサ情報取得部31からの情報を入力層のノードへ入力し、中間層への重みづけを設けた入力層からのパスによって演算を実行する。演算モデル32aは、中間層から出力層への重みづけを設けたパスによって更に演算を行い、出力層のノードからタイヤ力Fを出力する。ニューラルネットワーク等の学習モデルでは、線形演算に加えて、活性化関数などを用いて非線形演算を実行するようにしてもよい。
【0022】
演算モデル32aは、例えばタイヤ10で計測されるタイヤ軸力を教師データとして学習させることでタイヤ力Fの推定精度の良いモデルが得られる。また、演算モデル32aは、基本的にタイヤ10の仕様に応じて階層数等の構成や、重みづけが変わるが、各仕様のタイヤ10(ホイールを含む)での回転試験において演算モデル32aの学習を実行することができ、また実際の車両にタイヤ10を装着し、該車両を試験走行させて演算モデル32aの学習を実行することもできる。タイヤ10の仕様には、例えばタイヤサイズ、タイヤ幅、扁平率、タイヤ強度、タイヤ外径、ロードインデックス、製造年月日など、タイヤの性能に関する情報が含まれる。
【0023】
演算モデル32aへ入力される情報は、例えばタイヤ10における加速度のみであってもよい。また演算モデル32aへ入力される情報は、タイヤ10における加速度に加えて、タイヤ温度およびタイヤ空気圧を含んでいてもよく、更にタイヤ10における歪量を含んでいてもよい。
【0024】
補正処理部32bは、タイヤ10の状態に基づいて演算モデル32aを補正する。タイヤ10は、経時的にゴム硬度等の物性値が変化し、走行することによって摩耗が進行する。また走行する路面状態、例えば乾燥、湿潤、積雪または氷結状態に応じて、タイヤ10の状態が変化する。物性値や摩耗、路面状態等の要素を含むタイヤ10の状態が使用状況によって変化し、演算モデル32aによるタイヤ力Fの算出に誤差が生じる。補正処理部32bは、演算モデル32aの誤差を低減するためにタイヤ10の状態に応じた補正項を演算モデル32aに付加する処理を行う。
【0025】
図3は補正項の内容を表す図表である。補正項は、例えば、劣化項、摩耗項および路面項などとする。劣化項は、タイヤ10の物性値変化に基づく補正を演算モデル32aに付加する。劣化項について、例えばタイヤ10の経年情報に基づいて5段階でレベル判定し、レベルに応じて劣化項を設定する。摩耗項について、例えば、タイヤ10の摩耗推定情報や摩耗検査結果に基づいて5段階でレベル判定し、レベルに応じて摩耗項を設定する。路面項について、例えば路面判別情報、気象情報および位置情報に基づいて4段階(例えば乾燥、湿潤、積雪または氷結に対応する。)でレベル判定し、レベルに応じて路面項を設定する。尚、各補正項のレベル判定の段階数は、上述の例に限られず、また各補正項は、タイヤ10の状態に対する関数によって設定されてもよい。
【0026】
補正処理部32bは、各補正項のレベル判定において、経年情報、摩耗検査結果、摩耗推定値、路面判別情報、気象情報および位置情報等の情報ソースを利用するが、これらの情報ソースは、通信部33を介して、サーバ装置40および保守端末装置50等から提供する。また、経年情報については初期に製造年月日などの情報を入力しておけば、その後の経年は補正処理部32bにおいて自動計算することができる。
【0027】
サーバ装置40は、タイヤ力推定装置30から、センサ20で計測されたタイヤ10の物理量、およびタイヤ10について推定したタイヤ力F等を取得する。サーバ装置40は、複数の車両から、タイヤ10の物理量およびタイヤ力Fの情報を蓄積する。
【0028】
次にタイヤ力推定システム100の動作を説明する。図4は、タイヤ力推定装置30によるタイヤ力推定処理の手順を示すフローチャートである。タイヤ力推定装置30は、センサ20で計測されたタイヤ10における加速度、歪、タイヤ空気圧およびタイヤ温度などの物理量を、センサ情報取得部31によって取得する(S1)。
【0029】
一方、補正処理部32bは、補正項のレベル判定に用いる情報を、通信部33を介して外部装置から取得する(S2)。補正処理部32bは、上述の劣化項、摩耗項および路面項等の各補正項についてレベル判定を実行する(S3)。補正処理部32bは、ステップS3での判定結果に応じた補正項を演算モデル32aに付加する(S4)。
【0030】
タイヤ力算出部32は、ステップS4によって補正された演算モデル32aに、ステップS1によって取得されたタイヤ10の物理量を入力し、タイヤ力Fを算出し(S5)、処理を終了する。タイヤ力推定装置30は、ステップS1からステップS5までの処理を繰り返すことによって、時系列的にタイヤ力Fを算出して推定する。
【0031】
タイヤ力推定装置30は、ステップS5によって算出したタイヤ力Fを車両制御装置90へ出力する。タイヤ力推定装置30は、例えば車両加速度等の車両側からの情報を用いずにタイヤ力Fを推定することができ、車両側とは独立したタイヤ推定システムを構築することができる。また、タイヤ力推定装置30は、車両側からの情報を用いずにタイヤ力Fを推定するので、推定システムの簡素化を図ることができる。
【0032】
車両制御装置90は、タイヤ力推定装置30から入力されたタイヤ力Fに基づいて、路面摩擦係数や制動距離の推定、車両制御への適用、更には車両の安全走行に関する情報の報知などを行うことができる。また車両制御装置90は、入力されたタイヤ力Fに基づいて、地図情報や気象情報などを用いた将来における車両の安全走行に関する情報提供や、自動運転における車速制御等に用いることができる。
【0033】
また、タイヤ力推定装置30は、ステップS1において取得したタイヤ10における物理量、ステップS3における各補正項のレベル判定結果、およびステップS5により算出したタイヤ力Fを対応付けて記録し、通信部33を介してサーバ装置40へ送信する。サーバ装置40は、複数の車両のタイヤ力推定装置30から、タイヤ10における物理量、補正項のレベル判定結果、およびタイヤ力Fを取得し蓄積する。サーバ装置40は、蓄積した情報に基づいて、例えば、タイヤ10が実際にどのように運用されているかを分析することができる。
【0034】
タイヤ力推定装置30は、補正処理部32bによって演算モデル32aを補正することで、タイヤ10の物性値の劣化や、タイヤ10の摩耗状態、路面状態等に応じて、タイヤ力Fを精度良く推定することができる。また、演算モデル32aをニューラルネットワーク等の学習型のモデルとすることで、多種多様なタイヤ10への適応性を高めることができる。また後述するように学習型のモデルを使用することで、更に演算モデルに学習等をさせて更新することもできる。
【0035】
タイヤ力推定装置30は、加速度センサ21で計測するタイヤ10における加速度を演算モデル32aの入力情報として用いることにより、タイヤ10の変形やタイヤ10で生じる振動などの走行状態におけるタイヤ10の挙動を反映し、精度良くタイヤ力Fを推定することができる。
【0036】
(実施形態2)
図5は実施形態2に係るタイヤ力推定システム100の機能構成を示すブロック図であり、図6はサーバ装置40の機能構成を示すブロック図である。実施形態2に係るタイヤ力推定システム100は、通信ネットワーク91を介して通信接続されるサーバ装置40から提供される演算モデルや補正項によって、演算モデル32aを更新する。図5において、実施形態2に係るタイヤ力推定装置30は更新処理部32cを有している。タイヤ力推定装置30において、更新処理部32c以外の各部の構成および作用は実施形態1で説明した各部の構成および作用と同等であり、以下に特に述べるほか、記載の簡潔のため説明を省略する。
【0037】
タイヤ力推定装置30の更新処理部32cは、通信部33を介して、サーバ装置40から更新用の演算モデルおよび補正項を取得する。更新処理部32cは、取得した更新用の演算モデルおよび補正項によって、既存の演算モデル32aおよび補正処理部32bにおける補正項を書き換える。更新処理部32cに対する更新用の演算モデルおよび補正項の提供は、サーバ装置40に限られず、例えば保守端末装置50や記憶媒体によって提供されてもよい。
【0038】
図6を参照し、サーバ装置40は、演算モデル分析部40a、補正項分析部40bおよび更新部40cを備える。演算モデル分析部40aでは、複数の車両から得られたタイヤ10における物理量、および推定されたタイヤ力Fのばらつきなどを統計的手法により分析する。例えば、演算モデル分析部40aは、分析の結果、ばらつきが大きい場合や、異常値が存在している場合などに、ばらつきが大きくなる原因や異常値が存在する原因を解析する。
【0039】
また、補正項分析部40bでは、複数の車両から得られた各補正項のレベル判定結果をもとに補正量を求め、補正量のばらつきなどを統計的手法により分析する。例えば、補正項分析部40bは、分析の結果、ばらつきが大きい場合や、異常値が存在している場合などに、ばらつきが大きくなる原因や異常値が存在する原因を解析する。
【0040】
更新部40cは、解析結果に基づき原因となった演算モデルおよび補正項の修正を自動で行ってもよいし、オペレータによる作業を伴って演算モデルおよび補正項の修正を行うようにしてもよい。また、演算モデル分析部40aおよび補正項分析部40bは、分析の結果を表示するなどしてオペレータに知得させ、別途作成される更新用の演算モデルおよび補正項を更新部40cに提供するようにしてもよい。更新部40cは、更新用の演算モデルおよび補正項を通信ネットワーク91を介して、タイヤ力推定装置30の更新処理部32cへ送信する。
【0041】
タイヤ力算出部32は、サーバ装置40等の外部装置から取得する更新用の演算モデルおよび補正項の情報に基づいて、更新処理部32cによって、演算モデル32aおよび補正処理部32bにおける補正項を更新する。これにより、タイヤ力推定装置30は、最新の演算モデル32aおよび補正項によって、タイヤ力Fを算出し推定することができる。また、演算モデル32aおよび補正項は、通信ネットワーク91を介して提供されることで、サーバ装置40から一元的に演算モデル32aおよび補正項を配信することができる。
【0042】
次に実施形態に係るタイヤ力推定システム100の特徴について説明する。
実施形態に係るタイヤ力推定システム100は、センサ20と、センサ情報取得部31と、タイヤ力算出部32とを備える。センサ20は、タイヤ10の物理量を計測する。センサ情報取得部31は、センサ20で計測された物理量を取得する。タイヤ力算出部32は、物理量に基づいてタイヤ力Fを算出する演算モデル32aを有し、センサ情報取得部31により取得された物理量を演算モデル32aに入力してタイヤ力Fを算出する。これにより、タイヤ力推定システム100は、例えば車両加速度等の車両側からの情報を用いずにタイヤ力Fを推定することができる。
【0043】
またタイヤ力算出部32は、タイヤ10の状態に基づいて演算モデル32aを補正する補正処理部32bを有する。これにより、タイヤ力推定システム100は、タイヤ10の物性値の劣化や、タイヤ10の摩耗状態、路面状態等に応じて、タイヤ力Fを精度良く推定することができる。
【0044】
また演算モデル32aは学習型モデルである。これにより、タイヤ力推定システム100は、演算モデル32aに学習等をさせて更新することができる。
【0045】
またタイヤ力算出部は、外部からの情報に基づいて演算モデル32aを更新する更新処理部32cを有する。これにより、タイヤ力推定システム100は、最新の演算モデル32aおよび補正項によって、タイヤ力Fを算出し推定することができる。
【0046】
また演算モデル32aは、通信ネットワーク91を介して提供される。これにより、タイヤ力推定システム100は、例えばサーバ装置40から一元的に演算モデル32aおよび補正項を配信することができる。
【0047】
またタイヤ力推定システム100は、タイヤ10の物理量の情報、およびタイヤ力算出部32で算出されたタイヤ力Fの情報のうち、少なくとも一方の情報を通信ネットワーク91を介して外部装置へ送信する送信部としての通信部33を備える。これにより、タイヤ力推定システム100は、例えばサーバ装置40などの外部装置においてデータを蓄積し、分析することができる。
【0048】
またセンサ20は、加速度センサ21であり、物理量として加速度を計測する。タイヤ力算出部32は、加速度の情報を入力して演算モデル32aによりタイヤ力Fを算出する。これにより、タイヤ力推定システム100は、タイヤ10の変形やタイヤ10で生じる振動などの走行状態におけるタイヤ10の挙動を反映し、精度良くタイヤ力Fを推定することができる。
【0049】
タイヤ力推定方法は、計測ステップと、センサ情報取得ステップと、タイヤ力算出ステップとを備える。計測ステップは、センサ20によってタイヤ10の物理量を計測する。センサ情報取得ステップは、計測ステップにより計測された物理量を取得する。タイヤ力算出ステップは、物理量に基づいてタイヤ力Fを算出する演算モデル32aを有し、センサ情報取得ステップにより取得された物理量を入力して演算モデル32aによりタイヤ力Fを算出する。このタイヤ力推定方法によれば、例えば車両加速度等の車両側からの情報を用いずにタイヤ力Fを推定することができる。
【0050】
以上、本発明の実施の形態をもとに説明した。これらの実施の形態は例示であり、いろいろな変形および変更が本発明の特許請求範囲内で可能なこと、またそうした変形例および変更も本発明の特許請求の範囲にあることは当業者に理解されるところである。従って、本明細書での記述および図面は限定的ではなく例証的に扱われるべきものである。
【符号の説明】
【0051】
10 タイヤ、 20 センサ、 21 加速度センサ、
31 センサ情報取得部、 32 タイヤ力算出部、 32a 演算モデル、
32b 補正処理部、 32c 更新処理部、 33 通信部(送信部)、
91 通信ネットワーク、 100 タイヤ力推定システム。
図1
図2
図3
図4
図5
図6