特許第6790146号(P6790146)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6790146耐黒変性及び耐食性に優れたクロムフリーコーティング組成物及び表面処理鋼板
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6790146
(24)【登録日】2020年11月6日
(45)【発行日】2020年11月25日
(54)【発明の名称】耐黒変性及び耐食性に優れたクロムフリーコーティング組成物及び表面処理鋼板
(51)【国際特許分類】
   C09D 175/04 20060101AFI20201116BHJP
   C09D 7/61 20180101ALI20201116BHJP
   C09D 7/65 20180101ALI20201116BHJP
   C09D 5/08 20060101ALI20201116BHJP
   C23C 28/00 20060101ALI20201116BHJP
   B32B 15/095 20060101ALI20201116BHJP
   B32B 15/18 20060101ALI20201116BHJP
   B32B 27/18 20060101ALI20201116BHJP
   B32B 27/40 20060101ALI20201116BHJP
【FI】
   C09D175/04
   C09D7/61
   C09D7/65
   C09D5/08
   C23C28/00 A
   B32B15/095
   B32B15/18
   B32B27/18 E
   B32B27/40
【請求項の数】9
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2019-26183(P2019-26183)
(22)【出願日】2019年2月18日
(62)【分割の表示】特願2017-533764(P2017-533764)の分割
【原出願日】2015年12月22日
(65)【公開番号】特開2019-112644(P2019-112644A)
(43)【公開日】2019年7月11日
【審査請求日】2019年3月18日
(31)【優先権主張番号】10-2014-0190170
(32)【優先日】2014年12月26日
(33)【優先権主張国】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】592000691
【氏名又は名称】ポスコ
【氏名又は名称原語表記】POSCO
(73)【特許権者】
【識別番号】513243815
【氏名又は名称】ノル コイル コーティングズ カンパニー リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100095500
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 正和
(74)【代理人】
【識別番号】100111235
【弁理士】
【氏名又は名称】原 裕子
(72)【発明者】
【氏名】カク、 ヨン−ジン
(72)【発明者】
【氏名】キム、 テ−ヨプ
(72)【発明者】
【氏名】キム、 ドン−ユン
(72)【発明者】
【氏名】チョ、 ヨン−ジン
(72)【発明者】
【氏名】チェ、 ミョン−ヒ
【審査官】 吉岡 沙織
(56)【参考文献】
【文献】 特開2006−152435(JP,A)
【文献】 国際公開第2007/069783(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D
B05D
C23C
B32B
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
硬化剤0.5〜5重量%、黒変防止剤0.5〜5重量%、防錆剤〜5重量%、及び潤滑剤0.5〜5重量%を含み、残部はシラン変性水分散ポリウレタン及び溶媒を含み、
前記硬化剤は、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリプロポキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリイソプロポキシシラン、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、及び2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリエトキシシランからなる群より選択されたいずれか一つ以上であり、
前記黒変防止剤は、ニッケル系化合物、ジルコニウム系化合物、セリウム系化合物及びモリブデン系化合物からなる群より選択されたいずれか一つ以上の金属化合物であって、前記金属化合物は塩化物、窒素酸化物、硫黄酸化物及びアンモニウム塩からなる群から選択されたずれか一つ以上であり、
前記防錆剤は、リチウムシリケート、ナトリウムシリケート及びカリウムシリケートからなる群より選択されたいずれか一つ以上であり、
前記潤滑剤は、ポリエチレン系潤滑剤、テトラフルオロエチレン系潤滑剤、ポリプロピレン系潤滑剤及びポリシロキサン系潤滑剤から選択されたいずれか一つ以上である、耐黒変性及び耐食性に優れたクロムフリーコーティング組成物。
【請求項2】
前記シラン変性水分散ポリウレタンは、数平均分子量が10,000〜60,000である、請求項1に記載の耐黒変性及び耐食性に優れたクロムフリーコーティング組成物。
【請求項3】
前記シラン変性水分散ポリウレタンは、シラン変性水分散ポリウレタン全量に対して1〜5重量%の含量で有機シランを含有する、請求項1又は2に記載の耐黒変性及び耐食性に優れたクロムフリーコーティング組成物。
【請求項4】
前記有機シランは、下記化学式の構造を有する化合物である、請求項3に記載の耐黒変性及び耐食性に優れたクロムフリーコーティング組成物。
NCHCHNHCHCHCH−Si−(C2x+13−z(OC2y+1
(前記化学式において、xは1〜2の整数であり、y及びzは1〜3の整数である。)
【請求項5】
前記有機シランは、N−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルトリエトキシシラン、及びN−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルトリプロポキシシランからなる群より選択されたいずれか一つ以上である、請求項3に記載の耐黒変性及び耐食性に優れたクロムフリーコーティング組成物。
【請求項6】
前記防錆剤は、防錆剤全量に対して、金属の含量が0.1〜2重量%である、請求項1から5のいずれか一項に記載の耐黒変性及び耐食性に優れたクロムフリーコーティング組成物。
【請求項7】
マグネシウムを含有する鋼板と、前記鋼板の少なくとも一面に形成されるコーティング層とを含み、前記コーティング層は、請求項1から6のいずれか一項に記載のクロムフリーコーティング組成物の硬化物である、耐黒変性及び耐食性に優れた表面処理鋼板。
【請求項8】
前記コーティング層は、乾燥皮膜付着量が300〜1200mg/mである、請求項7に記載の耐黒変性及び耐食性に優れた表面処理鋼板。
【請求項9】
前記クロムフリーコーティング組成物は、硬化温度が70〜180℃である、請求項7又は8に記載の耐黒変性及び耐食性に優れた表面処理鋼板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
耐黒変性及び耐食性に優れたクロムフリーコーティング組成物及び表面処理鋼板に関する。
【背景技術】
【0002】
Zn−Al−Mg、Zn−Al−Mg−Si、Zn−Mg、Mg/Zn、Al−Mg、Al−Mg−Siなどのようなマグネシウム合金めっき鋼板及びマグネシウム板材は、耐食性に優れるが、運送及び保管中に空気中の酸素及び水蒸気によって鋼板の表面が黒色に変化するという黒変が発生し易い。
【0003】
このような黒変は、マグネシウムを含有するめっき鋼板が水分と接触する時に、鋼板の表層に存在するマグネシウム及び亜鉛が複合水酸化物または酸化物に転換することにより発生する。上記黒変は、製品の外観品質を低下させ、マグネシウムと亜鉛の硬度差による加工部のクラック発生程度が顕著であり、加工性を低下させるという問題がある。
【0004】
このような問題の解決方策として、マグネシウム鋼板またはマグネシウム合金めっき鋼板の表面に塗油処理、陽極皮膜形成または有機皮膜形成の方法で耐黒変性を付与する方法が広く行われてきた。しかし、塗油処理の場合は、長時間の保全による耐黒変性の改善を期待し難いという限界がある。また、陽極皮膜を形成する方法は、環境及び人体に危険な強い無機酸を多く使用して安定性を確保することが困難であり、作業が複雑かつ作業時間が多く所要されて、連続で生産するラインに適用するのに制限がある。有機皮膜を形成する方法は、皮膜形成のために高い温度が求められ、形成された皮膜を乾燥するのに多くの時間が求められるという短所がある。
【0005】
従来の表面処理技術としては、特許文献1に、全10段階の方法でマグネシウム合金製品を表面処理する陽極皮膜処理方法が開示されている。この特許文献に開示された方法は、鋼板ではなく部品の形態で表面処理され、処理段階が多く時間が多く所要され、経済的でないという問題点がある。特許文献2には、有機ポリシラン、非反応性シリコンオイル及びシランで処理された酸化亜鉛などでマグネシウム合金鋼板の耐化学性を向上させるという方法が開示されている。しかし、この技術も、低温であるが、長時間の乾燥時間を要求し、使用される有機ポリシロキサン及びシリコンオイルは、上塗りのペンキ付着性を困難にするため、マグネシウム鋼板及び合金鋼板の多様な用途に合わせて使用するには問題点がある。特許文献3には、Zn−Mgめっき層をリン酸濃度0.01〜30重量%のリン酸酸洗浴に浸漬して、めっき層表層部のマグネシウム濃度を低下させることで、表層部位の黒変を防止するという技術が提示されている。しかし、酸洗処理の際にZn−Mgめっき鋼板固有の光沢及び表面外観を失い、酸洗処理による酸洗処理領域のスラッジを処理しなければならないという問題点がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】韓国公開特許公報第2007−0082367号
【特許文献2】米国公開特許公報第2010−7754799号
【特許文献3】日本公開特許公報第1997−241828号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、マグネシウムが含有された鋼板の耐黒変性、耐食性及び加工性を向上させ、フッ素化合物のような強い酸化剤及び重金属系のクロムを使用しないコーティング組成物及び上記組成物によってコーティング層が形成された鋼板を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一実施形態によると、シラン変性水分散ポリウレタン20〜70重量%、硬化剤0.5〜5重量%、黒変防止剤0.5〜5重量%、防錆剤0.5〜5重量%、潤滑剤0.5〜5重量%及び残部溶媒を含む耐黒変性及び耐食性に優れたクロムフリーコーティング組成物を提供する。
【0009】
上記シラン変性水分散ポリウレタンは、数平均分子量が10,000〜60,000であることができる。
【0010】
上記シラン変性水分散ポリウレタンは、シラン変性水分散ポリウレタン全量に対して、有機シランの含量が1〜5重量%であることができる。
【0011】
上記有機シランは、下記化学式の構造を有する化合物であることができる。
NCHCHNHCHCHCH−Si−(C2x+13−z(OC2y+1
(上記化学式において、xは1〜2の整数であり、y及びzは1〜3の整数である。)
【0012】
上記有機シランは、N−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルトリエトキシシラン及びN−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルトリプロポキシシランから選択されたいずれか一つ以上であることができる。
【0013】
上記硬化剤は、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリプロピルシラン、3−グリシドキシプロピルトリイソプロピルシラン、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン及び2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリエトキシシランから選択されたいずれか一つ以上であることができる。
【0014】
上記黒変防止剤は、ニッケル化合物、バナジウム系化合物、ジルコニウム系化合物、セリウム系化合物及びモリブデン系化合物から選択された少なくともいずれか一つであることができる。
【0015】
上記防錆剤は、リチウムシリケート、ナトリウムシリケート及びカリウムシリケートから選択された少なくともいずれか一つであることができる。
【0016】
上記防錆剤は、防錆剤全量に対して、金属の含量が0.1〜2重量%であることができる。
【0017】
本発明の他の実施形態によると、マグネシウムを含有する鋼板と、上記鋼板の少なくとも一面に形成されるコーティング層とを含み、上記コーティング層は、上記クロムフリーコーティング組成物の硬化物である耐黒変性及び耐食性に優れた表面処理鋼板を提供する。
【0018】
上記コーティング層は、乾燥皮膜付着量が300〜1200mg/mであることができる。
【0019】
上記クロムフリーコーティング組成物は、硬化温度が70〜180℃であることができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明のクロムフリーコーティング組成物は、上記組成物を含むコーティング層が形成された鋼板の耐黒変性、耐食性、耐アルカリ性、耐溶剤性及び耐指紋性を向上させる効果がある。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下では、多様な実施形態を参照して本発明の好ましい実施形態を説明する。しかし、本発明の実施形態は、様々な他の形態に変形されることができ、本発明の範囲が以下で説明する実施形態に限定されるものではない。
【0022】
本発明の一実施形態は、耐黒変性及び耐食性に優れたクロムフリーコーティング組成物に関し、具体的には、シラン変性水分散ポリウレタン20〜70重量%、硬化剤0.5〜5重量%、黒変防止剤0.5〜5重量%、防錆剤0.5〜5重量%、潤滑剤0.5〜5重量%及び残部溶媒を含む耐黒変性及び耐食性に優れたクロムフリーコーティング組成物を提供することができる。
【0023】
上記シラン変性水分散ポリウレタンは、水分散形態を有するポリウレタンとして有機シラン(organosilane)を鎖延長剤(Chain extender)として使用することができる。上記シラン変性水分散ポリウレタンは、数平均分子量が10,000〜60,000であることが好ましい。数平均分子量が10,000未満であれば、分子量が小さ過ぎて、乾燥後に容易に脱落したり溶解されたりする性質があり、コーティング塗膜用として適宜ではなく、数平均分子量が60,000を超えれば、水分散が作られたとしても粒子が大き過ぎて、コーティング層を均質に形成し難い。
【0024】
上記シラン変性水分散ポリウレタンの含量は、20〜70重量%であることが好ましい。含量が20重量%未満であれば、外部腐食因子がめっき鋼板の表面に浸透することを十分に抑制できず耐食性及び付着性に劣り、70重量%を超えれば、他の機能を有する硬化剤、黒変防止剤、防錆剤及び潤滑剤などの含量が不足し、所望する複合的な機能を得難い。
【0025】
上記シラン変性水分散ポリウレタンで変性されたシランが含まれない水分散ポリウレタンは、通常の方法で製造可能である。例えば、非黄変性ポリカーボネートジオールまたはポリエステルジオールなどのポリオール、ジメチロールプロピオン酸、無黄変イソシアネート単量体、中和用有機アミン及び水などを利用して製造することができる。
【0026】
上記水分散ポリウレタンを変性するための有機シランは、水分散ポリウレタンの鎖延長段階で使用することができるものであり、上記有機シランの種類は特に限定しないが、鎖延長のためのアミノ基を有する有機シランであれば使用可能である。例えば、上記有機シランは、下記の化学式の構造を有することが好ましい。
NCHCHNHCHCHCH−Si−(C2x+13−z(OC2y+1
(上記化学式において、xは1〜2の整数であり、y及びzは1〜3の整数である。)
【0027】
上記有機シランは、N−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルトリエトキシシラン及びN−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルトリプロポキシシランからなる群より選択されたいずれか一つ以上であることができる。
【0028】
上記シラン変性水分散ポリウレタンは、シラン変性水分散ポリウレタン全量に対して、有機シランの含量が1〜5重量%であることが好ましい。含量が1重量%未満であれば、充分な分子量上昇の効果が得られず、有機シランの特性である内部架橋が不十分であり付着性及び耐食性などを劣らせ得る。一方、5重量%を超えれば、水分散ウレタン粒子の大きさが大き過ぎるか粘度が増加して、コーティング用樹脂として使用し難い。
【0029】
上記コーティング組成物に含まれる硬化剤は、シラン変性水分散ポリウレタンとマグネシウムが含有された鋼板間の付着性及び架橋性を向上させることができる。上記硬化剤は、有機シランの加水分解生成物であるシラノール基と直接的に架橋するか、水分散ポリウレタンのウレタン基またはカルボキシル基と直接的に架橋することができる。また、上記硬化剤は、マグネシウムが含有された鋼板の極性基と直接的な反応を通じた共有結合を誘導することができる。
【0030】
上記硬化剤は、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリプロピルシラン、3−グリシドキシプロピルトリイソプロピルシラン、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン及び2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリエトキシシランからなる群より選択されたいずれか一つ以上であることができる。
【0031】
コーティング組成物全量中の硬化剤の含量は、0.5〜5重量%であることが好ましい。含量が0.5重量%未満であれば、架橋密度が落ちて、耐食性、耐溶剤性及び耐アルカリ性などの物性に劣り、5.0重量%を超えれば、未反応硬化剤によって耐食性を減少させ、シラン変性水分散ポリウレタンの粘度を増加させて溶液安定性を劣らせ得る。
【0032】
一方、マグネシウムが含有された鋼板は、塗膜内に水分が浸透する際に、マグネシウムの高い酸化速度によって速いpH上昇が誘発される。これにより、強いアルカリ性のめっき層が塗膜との界面で形成されて、めっき層の変色と樹脂の加水分解が促進され得る。本発明のコーティング組成物に含まれる黒変防止剤は、塗膜内に水分が浸透する際に発生する速いpH上昇を抑制して、変色を防止することができる。
【0033】
上記黒変防止剤は、ニッケル化合物、バナジウム系化合物、ジルコニウム系化合物、セリウム系化合物及びモリブデン系化合物からなる群より選択されたいずれか一つ以上であることが好ましく、黒変防止剤中の各金属化合物は、塩化物、窒素酸化物、硫黄酸化物及びアンモニウム塩からなる群より選択されたいずれか一つ以上を使用することができる。
【0034】
コーティング組成物全量中の黒変防止剤の含量は、0.5〜5重量%であることが好ましい。含量が0.5重量%未満であれば、耐食性試験中または恒温恒湿試験中に発生する黒変現象を防止することができず、5重量%を超えれば、過度な酸化性物質の増加により、めっき成分中のマグネシウムの初期の変色を促進させながら、耐黒変性と耐食性に劣るようになる。
【0035】
上記クロムフリーコーティング組成物に含まれる防錆剤は、金属と結合されているシリケート物質を使用することができる。上記シリケート物質に結合されている金属物質は、シリケートの速い溶解に役立ち、シリケートがめっき層のマグネシウムイオンや亜鉛イオンと容易に錯化合物を形成できるようにする。これにより、上記防錆剤は、追加のマグネシウムまたは亜鉛の溶出を抑制して、防錆性を表すことができる。
【0036】
上記防錆剤は、金属と結合されているシリケート物質であれば制限なく使用することができるが、例えば、リチウムシリケート、ナトリウムシリケート及びカリウムシリケートからなる群より選択された少なくともいずれか一つであることができる。
【0037】
コーティング組成物全量中の、防錆剤の含量は、0.5〜5重量%であることが好ましい。含量が0.5重量%未満であれば、充分な耐食性を発揮し難く、5重量%を超えれば、未反応防錆剤により塗膜の形成が難しく、耐水性の低下により耐食性が悪化し、塗装性に劣る。
【0038】
上記防錆剤は、防錆剤全量に対して、金属の含量が0.1〜2重量%であることが好ましい。金属の含量が0.1重量%未満であれば、シリケートの溶解が遅くて効果的な耐食性が発揮できず、2重量%を超えれば、速過ぎる溶解で潮解性が表れて、塗膜の湿潤化を招き、耐食性、耐アルカリ性などに劣る。
【0039】
上記クロムフリーコーティング組成物に含まれる潤滑剤は、コーティング組成物の潤滑性を阻害しない条件で使用可能であり、ポリエチレン系、テトラフルオロエチレン系、ポリエチレンとテトラフルオロエチレン系が化学的に結合した製品、ポリアミド系、ポリプロピレン系及びポリシロキサン系などを使用することができる。
【0040】
コーティング組成物全量中の潤滑剤の含量は、0.5〜5重量%であることが好ましい。含量が0.5重量%未満であれば、加工過程における十分な潤滑特性を発揮し難く、5重量%を超えれば、潤滑剤に含まれた分散剤などの含量が多くなり、耐食性が悪化し、潤滑剤の離型性で再塗装性に劣る。
【0041】
本発明の他の実施形態によると、マグネシウムを含有する鋼板及び上記鋼板の少なくとも一面に形成されるコーティング層を含み、上記コーティング層は、上述したクロムフリーコーティング組成物の硬化物である耐黒変性及び耐食性に優れた表面処理鋼板を提供することができる。
【0042】
上記コーティング層は、乾燥皮膜付着量が300〜1200mg/mであることが好ましい。付着量が300mg/m未満であれば、充分な耐食性及びその他の物性を確保し難く、1200mg/mを超えれば、伝導性及び経済性に劣る。
【0043】
上記クロムフリーコーティング組成物は、硬化温度が70〜180℃であることが好ましい。硬化温度が70℃未満であれば、未乾燥及び未硬化による塗装ラインのブロッキング問題と耐アルカリ性に劣り、180℃を超えれば、エネルギーの過剰使用によって経済性に劣る。
【実施例】
【0044】
以下では、実施例を通じて本発明をさらに詳しく説明する。但し、下記の実施例は、本発明をさらに詳しく説明するための例示であるだけで、本発明の権利範囲を限定しない。
【0045】
<合成例1>水分散ポリウレタンの製造
2Lのフラスコ、攪拌機、加熱用メントール、コンデンサ及び温度計を準備し、イソホロンジイソシアネート(IPDI)240g、ポリカーボネートジオール(分子量500)350g、N−メチルピロリドン(NMP)溶剤110gを上記フラスコに投入し、窒素をフラスコ内部に充填して95℃で2時間反応させた。以後、90℃に冷却した後、ジメチロールプロピオン酸(DMPA)35g、トリメチロールプロパン(TMP)15g及びキシレンに10%希釈したジブチル錫ジラウレート(DBTDL)1gを反応器に投入した。投入が終わった後、NCO valueを測定して、5以下になるまで反応温度を維持し、反応が完了したプレポリマーを80℃に冷却させた後、3価アミンであるトリエチルアミン(TEA)を使用して中和させた。
【0046】
他の3Lのフラスコを準備して、蒸留水1,050gを入れた後、30℃に加熱して維持させ、水分散が投入されたフラスコに既に製造したプレポリマーを注ぎながら強く撹拌した。上記プレポリマーを入れて30分間撹拌した後、30%のヒドラジンハイドレート70gを10分間均一滴下させた。均一滴下が完了すると、50℃で2時間反応を維持し、反応が終わった後、固形分約34%の均質な水分散ポリウレタンを得た。
【0047】
<合成例2>シラン変性水分散ポリウレタンの製造
合成例1のように水分散ポリウレタンの製造が完了した状態で、アミノシラン系製品であるKBM−603(日本信越社製)20g及び30%のヒドラジンハイドレート50gをそれぞれ10分間均一滴下させた。均一滴下が完了すると、50℃で2時間反応を維持し、反応が終わった後、固形分34%の均質なシラン変性水分散ポリウレタンを得た。
【0048】
<合成例3〜8>シラン変性水分散ポリウレタンの製造
合成例2と同様に装置と過程を経るが、鎖延長剤を下記の表1のように投入反応して、シラン変性水分散ポリウレタンを製造した。
【0049】
【表1】
得られたシラン変性水分散ウレタンに、硬化剤(S−501、日本チッソ社製)、黒変防止剤(アンモニウムモリブデートテトラハイドレート、米国シグマアルドリッチ社製)、防錆剤(リチウムポリシリケート、米国グレイス社製)、潤滑剤(W−500、日本三井ケミカル社製)及び浄水を下記の表2に記載された含量で投入してコーティング組成物を製造した。
【0050】
【表2】
マグネシウムを含有するめっき鋼板の片面に上記実施形態1〜7及び比較例1のコーティング組成物をバーコータ(bar coater)で塗布し、PMT 150℃で乾燥して塗膜を形成したところ、上記コーティング組成物の付着量は1,000mg/mであった。以後、下記の条件で実施形態1〜7及び比較例1のコーティング組成物の乾燥塗膜性能を評価した。その結果は、表3に示す通りである。
【0051】
<平板耐食性検査>
ASTM B117に規定した方法に基づいて、表面処理鋼板の時間経過とともに白錆発生率(72時間基準)を確認して平板耐食性を評価した。
◎:白錆が発生せず
○:5%未満の白錆発生
X:5%以上の白錆発生
【0052】
<耐アルカリ性検査>
液温40〜45℃で強アルカリ脱脂剤(FC−4460、日本パーカライジング製造)20g/Lに準備した試片を2分間浸漬した後、流水に水洗して乾燥した後、外観の変色や剥離有無を評価した。
◎:無変色、無剥離
○:色差1以内の変色、無剥離
X:剥離
【0053】
<耐黒変性検査>
50℃、95%RHが維持される恒温恒湿器に10〜20kgf/cmの圧力で試片を120時間放置して、実験前後の色相変化(ΔE)を測定し、下記の基準によって評価した。
◎:ΔE<2
○:2≦≦ΔE<3
X:ΔE≧≧3
【0054】
<耐溶剤性検査>
純度98%以上のエタノールとアセトンを十分に含ませたガーゼを準備し、試片に対して、5Nの力で溶剤を含ませたガーゼを5回往復した後、外観の変化を評価した。
◎:外観変化なし
○:往復3回以上で剥離
X:往復3回未満で剥離
【0055】
<塗装性検査>
アクリルメラミン系焼付型塗料を試片に厚さ30μmとなるようにスプレー塗装乾燥後、1mm間隔の100個のマスが出るようにコーティング層に微細切れ目を入れた。以後、マス部分にセロハンテープで付着性を評価した。
◎:マス脱落なし
○:マス1つの一部分脱落
X:マス1つ以上脱落
【0056】
<耐指紋性検査>
準備された試片にワセリンの塗布1時間前後の色差値(ΔL)を測定評価した。
◎:ΔL<1
○:1≦≦ΔE<2
X:ΔE≧≧2
【0057】
【表3】
シラン変性をしていない比較例1と対比して、実施例1〜7の全てにおいて、耐食性、耐アルカリ性、耐黒変性及び耐溶剤性が良好な結果を得た。
【0058】
実施例4で使用された合成例5のシラン変性水分散ポリウレタンに硬化剤、黒変防止剤、防錆剤、潤滑剤及び浄水を下記の表4に記載された含量となるように含ませて、コーティング組成物を製造した。以後、実施例8〜19及び比較例2〜9のコーティング組成物の乾燥塗膜性能を評価した。その結果は、表4に示す通りである。
【0059】
【表4】
上記表4の結果に示すように、本発明による実施例8〜19は、比較例2〜9に比べて、耐食性、耐アルカリ性、耐黒変性、耐溶剤性、塗装性及び耐指紋性に優れることを確認した。