(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
鉱山の採掘現場において、運搬車両の一種であるダンプトラックは、積込地点から放土地点まで土砂や鉱石を運搬する役割を担っている。積込地点において、運搬車両は、掘削機械が作業をしている掘削ベンチに向かって前進もしくは後進して近づき、積込地点で停止する。そして掘削機械による積込みが完了した後に、前進して搬送路に向けて移動する。
【0003】
また放土地点において、運搬車両は、例えば土砂を積載していた場合、土砂を埋め立てるエリアに進入後、放土地点に向かって後進して近づき停止する。次に運搬車両のベッセルを後方に傾転させ積載している土砂を後方に放出する。その際、放出した土砂が地表に堆積してベッセルから落ち切らない場合には、ベッセルを起床したままで運搬車両が前進し、ベッセル内の積載物を全て放出する。そして土砂を全て放出した後にベッセルを倒伏させ、前進して搬送路に向けて移動する。
【0004】
つまり、積込及び放土作業の双方において、前進して作業地点から離脱する作業手順が一般的である。ここで、運搬車両のオペレータが不注意により、積込もしくは放土作業の後に誤って運搬車両を後進させてしまった場合、運搬車両が掘削ベンチや放土土砂と衝突する可能性がある。その結果、運搬車両が破損してしまう恐れがある。
【0005】
上記のような発車事故を防ぐ技術として、特許文献1には「停車時進行方向判定部は、車両が停車する際の前後進の別(停車時進行方向)を判定し、停車時進行方向記憶部がその判定結果を記憶する。一方、発車時進行方向判定部は、発車の際の前後進の別(発車時進行方向)を判定するとともに、その発車時進行方向と、停車時進行方向記憶部に記憶された停車時進行方向とを比較する。両者が一致すれば、発車時進行方向は安全な方向でないと判定し、この場合、警報部がその旨を警報するとともに、車両制御部が、車両の進行を禁止する制御を実行して、事故を未然に防止する(要約抜粋)」とする記載がある。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態について、図面を用いて説明する。全図を通じて同一の構成には同一の符号を付し、重複説明を省略する。
【0013】
以下の説明において運搬車両1としてダンプトラックを用いる。以下において、「左」とはダンプトラックの運転室2から前方を見たときの左側であり、「右」とは運転室2から前方を見たときの右側になる。
【0014】
<鉱山現場>
図1は、本実施形態における鉱山現場の概略構成を示す図である。鉱山現場では、
図1で示すように、掘削作業や積込作業等を行う少なくとも1台の積込機械30と、積込機械30によりで掘削された砕石や土砂等の積荷を積込場から放土場へ運搬する少なくとも1台の運搬車両1とが運用されている。
【0015】
運搬車両1は、t1時点で積込機械30に向かって前進し、t2時点で積込地点に停車する。積込作業が終了するt3時点で、放土場に向かって前進することがある。
【0016】
<運搬車両の構成>
図2は運搬車両1の左側面図を示しており、
図3は運搬車両1の後面図を示しており、
図4は運搬車両1の放土姿勢における左側面図を示している。これらの図に示すように、運搬車両1は、運転室2と車体フレーム3と、車体フレーム3の上に起伏動可能に搭載されたベッセル4と、前輪5と、後輪6と、ホイストシリンダ7とを備える。
【0017】
運転室2はオペレータが搭乗して運搬車両1を操作するために設けられており、運搬車両1の左前方に配置されているものが多い。
【0018】
車体フレーム3は運搬車両1の枠組みを構成するものであり、車体フレーム3の前方には一対の前輪5が設けられ、後方には一対の後輪6が設けられている。前輪5と後輪6は図示しない前後左右4本のサスペンションシリンダによって懸架されている。
【0019】
車体フレーム3後方の内部には少なくとも1つの走行用電動モータ10が設けられる。走行用電動モータ10は減速機11を介して後輪6に接続される。走行用電動モータ10の回転に応じて後輪6が駆動する。前輪5は図示しないステアリングシリンダにより左右に操舵自在となっている。車体フレーム3とベッセル4の間にはホイストシリンダ7が取り付けられている。ホイストシリンダ7が伸長すると、
図4に示すように、車体フレーム3に対してベッセル4が起床する。ホイストシリンダ7が収縮すると、ベッセル4が着座する。放土時にはベッセル4を起床させることで、ベッセル4に積載された土砂等が運搬車両1の後方に放出される。
【0020】
<運搬車両1の走行制御装置20の構成>
図5は本実施形態における運搬車両1の走行制御装置20の構成を示すブロック図である。運転室2内には、走行制御装置20が備えられる。走行制御装置20には入力系として、操作装置としてのアクセルペダル12と、ブレーキペダル13と、前進又は後進に走行方向を切替えるシフトレバー14とが接続される。更に走行制御装置20の入力系として、サスペンションシリンダ圧センサ16と、ベッセル角度センサ17と、車速センサ18とが接続されている。
【0021】
走行制御装置20の出力系として走行用電動モータ10が接続されている。
【0022】
アクセルペダル12と、ブレーキペダル13と、シフトレバー14とにより走行用電動モータ10への指令を行い、運搬車両1の前後方向への移動を指示する。また運転室2内に備えられた図示しないステアリングホイールによりステアリングシリンダへの指令を行い、前輪5の左右方向への操舵を指示する。
【0023】
サスペンションシリンダ圧センサ16はサスペンションシリンダの圧力を検出する。
【0024】
ベッセル角度センサ17はベッセル4の傾転角度を検出し、それを示す出力値を走行制御装置20に出力する。よってベッセル角度センサ17は傾転角度検出器に相当する。
【0025】
車速センサ18は前輪5に備えられ、前輪5の回転数及び回転方向から運搬車両1の車速を検知する。
【0026】
走行制御装置20は、積載荷重値演算部21と、後進制限判断部22と、電動モータ指令値生成部23とを有している。
【0027】
積載荷重値演算部21は、サスペンションシリンダ圧センサ16の出力値(サスペンションシリンダ圧値)から運搬車両1の積載荷重値を算出する。サスペンションシリンダ圧値から積載荷重値を算出する技術は一般的に広く知られている技術を用いてもよい。積載荷重値演算部21を走行制御装置20に備えることにより走行制御装置20が荷重計測装置としての機能を有する。
【0028】
後進制限判断部22は、ベッセル角度センサ17の出力値と、車速センサ18の出力値と、積載荷重値演算部21で算出した積載荷重値とを用いて、後進制限設定値を判断する。本実施形態では、後進制限設定値として後進制限フラグの値を用い、値「1」はON、「0」はOFFとして説明する。後進制限判断部22の内部には後進制限フラグ格納領域22aが備えられる。後進制限判断部22における処理内容は後述する。
【0029】
電動モータ指令値生成部23は、アクセルペダル12の指令値(アクセルペダル指令値)と、ブレーキペダル13の指令値(ブレーキペダル指令値)と、シフトレバー14の指令値(前進位置信号、後進位置信号)と、後進制限フラグ格納領域22aに格納された後進制限フラグの値とを用いて、電動モータ指令値を算出し、算出した電動モータ指令値を走行用電動モータ10に出力する。電動モータ指令値生成部23における処理内容は後述する。
【0030】
図6は走行制御装置20のハードウェア構成図である。走行制御装置20は、演算を行うCPU231と、各種処理(プログラム)を保存するROM232と、荷重計測値や後進制限フラグを保存するRAM233と、記憶装置としてのHDD234と、センサ入力や通信を行う入力インターフェース235(入力I/F)と、出力インターフェース(出力I/F)236と、これら各構成要素を接続するバス237とを備えたコンピュータ(走行コントローラ)により構成される。上記コンピュータの構成は一例にすぎず、プロセッサやサーキット等ハードウェアの種類は限定されない。
【0031】
<走行制御装置20の処理>
走行制御装置20の各部における処理について説明する。
【0032】
<後進制限判断部22の処理>
図7は後進制限判断部22の処理フローチャートである。
図7を用いて、後進制限判断部22の処理について説明する。後進制限判断部22の処理は周期的に実行される。
【0033】
後進制限判断部22は処理を開始すると(S11)、後進制限フラグ格納領域22aに格納された後進制限フラグの現在の値を読み取る(S12)。現在の後進制限フラグが「0(OFF)」の場合(S12/OFF)、S13に進み、現在の後進制限フラグが「1(ON)」の場合(S12/ON)、S17に進む。
【0034】
後進制限判断部22は、車速センサ18の値から運搬車両1が停車しているか否かを判断する(S13)。運搬車両1が停車していない場合(S13/No)、処理を終了する(S19)。運搬車両1が停車している場合(S13/Yes)、S14に進む。
【0035】
後進制限判断部22は、積載荷重値の変化から運搬車両1への積込作業が開始されたか否かを判断する(S14)。後進制限判断部22は、積載荷重値が空荷時の値から一定値以上大きくなった場合、運搬車両1への積込作業が開始したと判断し(S14/Yes)、後進制限フラグの値を「1(ON)」に設定し(S16)、処理を終了する(S19)。
【0036】
一方、後進制限判断部22は、積載荷重値が空荷時の値から変化しない場合、運搬車両1への積込作業は未開始と判断し(S14/No)、S15に進む。
【0037】
後進制限判断部22は、ベッセル角度センサ17の出力値から運搬車両1の放土作業が開始されたか否かを判断する(S15)。後進制限判断部22は、ベッセル角度センサ17の出力値が変化し、ベッセル4が起床して放土作業を開始したと判断した場合(S15/Yes)、後進制限フラグの値を「1(ON)」に設定し(S16)、処理を終了する(S19)。
【0038】
後進制限判断部22は、ベッセル角度センサ17の値が変化しない場合、放土作業は未開始と判断し(S15/No)、処理を終了する(S19)。
【0039】
S17では、後進制限判断部22は車速センサ18の値から運搬車両1が前進しているか否かを判断する。後進制限判断部22は運搬車両1が前進していないと判断すると(S17/No)処理を終了する(S19)。後進制限判断部22は運搬車両1が前進した場合には(S17/Yes)、後進制限フラグの値を「0(OFF)」に書き換え(S18)、処理を終了する(S19)。
【0040】
上記処理を実行することで、運搬車両1が積込作業もしくは放土作業を開始した際に、後進制限フラグの値が「1(ON)」となる。また後進制限フラグの値が「1(ON)」状態で、運搬車両1が前進した場合に、後進制限フラグの値が「0(OFF)」となる。
【0041】
<電動モータ指令値生成部23の処理>
図8は電動モータ指令値生成部23の処理フローチャートを示し、
図9は電動モータ指令値生成部23の通常指令値生成を示す概念図を示し、
図10A,
図10Bは電動モータ指令値生成部23の後進制限指令値生成を示す概念図を示している。
図8、9、10A、10Bを用いて、電動モータ指令値生成部23の処理について説明する。電動モータ指令値生成部23の処理は周期的に実行される。
【0042】
電動モータ指令値生成部23は処理を開始すると(S21)、シフトレバー14の前進/後進を確認する(S22)。シフトレバー14が前進位置に設定されていれば前進位置信号、後進位置に設定されていれば後進位置信号が走行制御装置20に出力される。走行制御装置20は前進位置信号又は後進位置信号を基にシフトレバー14の位置を判断する。シフトレバー14が後進位置にあれば(S22/後進)S23に進み、シフトレバー14が前進位置にあれば(S22/前進)S24に進む。
【0043】
S23では電動モータ指令値生成部23は後進制限フラグの値を確認する。後進制限フラグの値が「1(ON)」の場合(S23/ON)S25に進み、後進制限フラグの値が「0(OFF)」の場合(S23/OFF)S24に進む。
【0044】
S24において、電動モータ指令値生成部23は、アクセルペダル12から取得したアクセルペダル指令値及びブレーキペダル13から取得したブレーキペダル指令値に基づき、特に制限を設けることなく、通常通りに電動モータ指令値(通常指令値)を生成し、通常指令値からなる電動モータ指令値を走行用電動モータ10に出力し(S26)、処理を終了する(S27)。
【0045】
アクセルペダル指令値及びブレーキペダル指令値から電動モータ指令値を算出する方法は一般的に広く知られている技術である。一例として、
図9に示すように、アクセルペダル指令値の大きさに合わせて、線形に電動モータ指令値を増加させていく方式がある。ここで電動モータ指令値は、走行用電動モータ10を駆動する指令値であり、例えばモータの回転数を示す値であるが、これに限らず、トルク指令値や速度指令値等を自由に選択してよい。
【0046】
S25では、電動モータ指令値生成部23は、アクセルペダル指令値やブレーキペダル指令値に対し、制限を加えて電動モータ指令値(後進制限指令値)を生成し(S25)、後進制限指令値からなる電動モータ指令値を走行用電動モータ10に出力し(S26)、処理を終了する(S27)。
【0047】
ある電動モータ指令値に対して制限を加える方法は一般的に広く知られている技術であるが、本実施形態では3つの例を示す。1つ目の例では、
図10Aに示すように、旧電動モータ指令値(後退制限が加わらない通常指令値)に対して1より小さい正の定数を乗じた後退制限指令値を新電動モータ指令値とする。2つ目の例では、
図10Bに示すように、旧電動モータ指令値に対して上限値を設け、その上限値以上の旧電動モータ指令値に対しては上限値からなる後退制限指令値を新電動モータ指令値とする。3つ目の例では、アクセルペダル指令値の大きさに関わらず、電動モータ指令値をゼロ(走行停止)とし、後進を完全に禁止する。これらを用いて、例えば後進走行速度を旧電動モータ指令値による走行速度よりも遅い速度、又はゼロにする。
【0048】
本実施形態によれば、後進制限フラグの値が「1(ON)」になっている時の運搬車両1の後進動作を制限することができる。これにより、積込もしくは放土作業の後は後進制限フラグの値が「1(ON)」となり後進制限がかかる。従って、運搬車両1のオペレータが不注意により、積込もしくは放土作業の後に運搬車両1を後進させようとした場合にのみ、運搬車両1の後進に対し制限を加えることで、操作性を低下させることなく、運搬車両1と掘削ベンチや放土土砂との衝突による衝撃を回避・軽減することが可能となり、その結果、運搬車両1の破損被害を軽減することが可能となる。
【0049】
また積載荷重による放土作業識別と比較して、運搬車両1が土砂を実際に放土する前のベッセル4の傾きから放土作業を識別することができ、より早い適切なタイミングで運搬車両1の後進制限を行うことが可能となる。
【0050】
更に運搬車両1が積込もしくは放土作業の後に、正常に前進したことを識別して、後進制限を解除することが可能となり、不必要なタイミングで後進制限が加わることを防ぐことが可能となる。
【0051】
本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本明細書に開示される技術的思想の範囲内において当業者による様々な変更及び修正が可能である。以下に変形例を記載する。
【0052】
<積載荷重値で放土判断>
本実施形態では、後進制限判断部22において、ベッセル角度センサ17の出力値の変化から運搬車両1が放土作業を開始したと判断しているが、積載荷重値の変化からベッセル4内の積載荷重が減少していることを検知し、運搬車両1が放土作業を開始したと判断しても良い。
【0053】
<シフトレバー14+アクセルペダル12で前進判断>
本実施形態では、後進制限判断部22において、車速センサ18の出力値から運搬車両1が前進しているか否かを判断しているが、シフトレバー指令値とアクセルペダル指令値から運搬車両1の前進を判断しても良い。具体的には、シフトレバー14が“前進”を選択された状態でアクセルペダル12が踏下されてアクセルペダル指令値が走行制御装置20に出力されると、運搬車両1が前進したと判断する。
【0054】
<ベッセル4の起床で後進制限>
本実施形態では、後進制限判断部22において、ベッセル4の起床から放土作業の有無を判定して後進制限の実施を決めているが、ベッセル4の傾転そのものを基準として後進制限の実施を判断しても良い。
【0055】
上記実施形態では、運搬車両1として鉱山用ダンプトラックを例示したが、ホイールローダのようにフロント作業機のバケットを備え、土砂を積み込む作業機械や車両に備えたタンクに水を蓄える給水車にも本発明を適用することができる。この場合、放土作業についての判断は行わず積込作業についての判断だけを行って本発明を適用してもよい。更に鉱山用ではない一般の建設現場等で用いられる運搬車両にも本発明は適用できる。