(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
2つの高周波インバータ回路を備え、各高周波インバータ回路を制御する駆動信号の位相差を変化させることで、出力電力を変化させる高周波電源装置が知られている。このような高周波電源装置は、プラズマ処理システムや誘導加熱装置などに用いられている。特許文献1には、このような高周波電源装置を用いた誘導加熱装置が開示されている。
【0003】
図7は、従来の高周波電源装置の一例を示す回路構成図である。図に示すように、高周波電源装置A100は、直流電源1、インバータ回路21,22、および、制御回路4を備えており、負荷Lに電力を供給する。インバータ回路21より出力された電流I
1と、インバータ回路22より出力された電流I
2とが合成され、合成された電流I
0が負荷Lに流れ、負荷Lに電圧V
0が印加される。制御回路4は、インバータ回路21のスイッチング素子Q1(Q2)に出力する駆動信号と、インバータ回路22のスイッチング素子Q3(Q4)に出力する駆動信号との位相差を変化させることで、負荷Lに流れる電流を変化させて、負荷Lに出力する電力を変化させる。
【0004】
図8は、
図7に示す回路においてシミュレーションを行ったときの各電流および電圧を示す波形図である。当該シミュレーションでは、直流電源1の出力電圧を300[V]としている。各図においては、インバータ回路21の出力電流I
1、インバータ回路22の出力電流I
2、両者の合成電流I
0、および、負荷Lに印加される電圧V
0の各波形を示している。
【0005】
図8(a)は、スイッチング素子Q1に入力する駆動信号とスイッチング素子Q3に入力する駆動信号との位相差を0°(同位相)とした場合の波形図である。出力電流I
1と出力電流I
2とが同位相になるので、合成電流I
0は最大となり、電圧V
0も最大になっている。したがって、この場合、高周波電源装置A100の出力電力(負荷Lへの供給電力)が最大になる。
【0006】
図8(b)は、スイッチング素子Q1に入力する駆動信号とスイッチング素子Q3に入力する駆動信号との位相差を180°(逆位相)とした場合の波形図である。出力電流I
1と出力電流I
2とが逆位相になるので、合成電流I
0は最小(0[A])となり、電圧V
0も最小(0[V])になっている。したがって、この場合、高周波電源装置A100の出力電力(負荷Lへの供給電力)が最小(0[W])になる。
【0007】
図8(c)は、スイッチング素子Q1に入力する駆動信号とスイッチング素子Q3に入力する駆動信号との位相差を90°とした場合の波形図である。合成電流I
0および電圧V
0は、最大(
図8(a)参照)と最小(
図8(b)参照)との間になっている。したがって、この場合、高周波電源装置A100の出力電力(負荷Lへの供給電力)も最大と最小との間になっている。なお、スイッチング素子Q1に入力する駆動信号の位相が、スイッチング素子Q3に入力する駆動信号の位相より進んでいるので、出力電流I
1が出力電流I
2より大きくなっている。
【0008】
図9は、
図7に示す回路においてシミュレーションを行ったときの、駆動信号の位相差(以下では、「インバータ位相差」と記載する場合がある)に応じた各値の変化を示す図である。
図9(a)において、φは出力電流I
1と出力電流I
2との位相差(以下では、「電流位相差」と記載する場合がある)を示し、I
1pは出力電流I
1のピーク値を示しI
2pは出力電流I
2のピーク値を示している。また、
図9(b)においては、高周波電源装置A100の出力電力Pfを示している。
【0009】
図9に示すように、インバータ位相差が0°のとき、電流位相差φも0°であり、出力電力Pfは最大になっている。また、インバータ位相差が180°のとき、電流位相差φも180°であり、出力電力Pfは最小になっている。インバータ位相差が0°から180°の間では、インバータ位相差が大きくなるに従い、電流位相差φも大きくなっている。ただし、インバータ回路21とインバータ回路22とが同じ負荷Lに繋がって影響しあうため、電流位相差φはインバータ位相差に応じて線形的に変化するのではない。例えば、
図8(c)のように、インバータ位相差が90°のとき、電流位相差φは約170°になっている(
図9(a)参照)。また、インバータ位相差が0°から180°の間で、インバータ位相差が大きくなるに従い、出力電力Pfは小さくなっている。
【0010】
このように、高周波電源装置A100は、制御回路4が出力する駆動信号の位相差に応じて、出力電力を変化させることができる。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の好ましい実施の形態を、添付図面を参照して具体的に説明する。
【0022】
図1は、第1実施形態に係る高周波電源装置を示す回路構成図である。
【0023】
高周波電源装置A1は、直流電源1、インバータ回路21,22、制御回路4、および電圧制限回路5を備えている。高周波電源装置A1は、直流電源1が出力する直流電力を、インバータ回路21,22で交流電力に変換して、負荷Lに供給する。高周波電源装置A1は、例えばプラズマ処理システムに用いられる。この場合、負荷Lは、インピーダンス整合装置が接続されたプラズマチャンバになる。負荷Lは、インピーダンス整合装置によって、例えば50Ωの特性インピーダンスに整合される。
【0024】
直流電源1は、直流電力を出力するものであり、例えば、電力系統から入力される交流電力を整流する整流回路と、平滑する平滑コンデンサとを備えている。
【0025】
インバータ回路21,22は、単相ハーフブリッジ型の高周波インバータであり、直流電源1から入力される直流電力を高周波電力に変換して、負荷Lに出力する。
【0026】
インバータ回路21は、2つのスイッチング素子Q1,Q2および共振回路31を備えている。本実施形態では、スイッチング素子Q1,Q2としてMOSFET(Metal Oxide Semiconductor Field Effect Transistor)を使用している。なお、スイッチング素子Q1,Q2はMOSFETに限定されず、バイポーラトランジスタ、IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor : 絶縁ゲート・バイポーラトランジスタ)などであってもよい。スイッチング素子Q1とスイッチング素子Q2とは、スイッチング素子Q1のソース端子とスイッチング素子Q2のドレイン端子とが接続されて、直列接続されている。スイッチング素子Q1のドレイン端子は直流電源1の正極側に接続され、スイッチング素子Q2のソース端子は直流電源1の負極側に接続されて、ブリッジ構造を形成している。なお、スイッチング素子Q1,Q2には、フライホイールダイオードやスナバコンデンサが接続されていてもよい。スイッチング素子Q1,Q2のゲート端子には、制御回路4から駆動信号が入力される。スイッチング素子Q1に入力される駆動信号と、スイッチング素子Q2に入力される駆動信号とは逆位相になっている。スイッチング素子Q1とスイッチング素子Q2との接続点aには共振回路31が接続されている。スイッチング素子Q1がオン状態でスイッチング素子Q2がオフ状態の場合、接続点aの電位は直流電源1の正極側の電位となる。一方、スイッチング素子Q1がオフ状態でスイッチング素子Q2がオン状態の場合、接続点aの電位は直流電源1の負極側の電位となる。これにより、直流電源1の正極側の電位と負極側の電位とが切り替えられたパルス状の交流信号が接続点aから出力される。
【0027】
共振回路31は、インダクタL1とコンデンサC1とを直列接続した直列共振回路である。インダクタL1およびコンデンサC1は、共振周波数がスイッチング素子Q1,Q2のスイッチング周波数f
sw(制御回路4から入力される駆動信号の周波数)と一致するように設計される。共振回路31の一方の端子は、接続点aに接続されている。共振回路31の共振特性により、接続点aから入力される交流信号は、共振周波数(スイッチング周波数f
sw)の正弦波信号になって出力される。
【0028】
インバータ回路22は、2つのスイッチング素子Q3,Q4および共振回路32を備えている。インバータ回路22の構成は、インバータ回路21の構成と同様である。スイッチング素子Q3とスイッチング素子Q4とは直列接続されており、ブリッジ構造を形成している。スイッチング素子Q3,Q4のゲート端子には、制御回路4から駆動信号が入力される。スイッチング素子Q3に入力される駆動信号と、スイッチング素子Q4に入力される駆動信号とは逆位相になっている。スイッチング素子Q3とスイッチング素子Q4との接続点bには共振回路32が接続されている。接続点bからは、直流電源1の正極側の電位と負極側の電位とが切り替えられたパルス状の交流信号が出力される。共振回路32は、インダクタL2とコンデンサC2とを直列接続した直列共振回路である。インダクタL2およびコンデンサC2は、共振周波数がスイッチング周波数f
swと一致するように設計される。共振回路32の一方の端子は、接続点bに接続されている。共振回路32の共振特性により、接続点bから入力される交流信号は、共振周波数(スイッチング周波数f
sw)の正弦波信号になって出力される。
【0029】
共振回路31と共振回路32とは、接続点cで接続されている。接続点cと、直流電源1の負極側の接続線上の接続点dとの間に、負荷Lが接続されている。インバータ回路21から出力された電流と、インバータ回路22から出力された電流とは、接続点cで合成されて負荷Lに流れる。
図1に示すように、インバータ回路21から出力された電流を電流I
1とし、インバータ回路22から出力された電流を電流I
2とし、負荷Lに流れる電流を電流I
0としている。また、負荷Lに印加される電圧を、電圧V
0としている。
【0030】
制御回路4は、高周波電源装置A1の出力電力の制御を行う回路である。制御回路4は、インバータ回路21のスイッチング素子Q1(Q2)に出力する駆動信号の位相に対して、インバータ回路22のスイッチング素子Q3(Q4)に出力する駆動信号の位相を遅らせて、その位相差を変化させることで、高周波電源装置A1の出力電力を変化させる。駆動信号の位相差(インバータ位相差)θは0°から180°まで変化できる。インバータ位相差θが0°(同位相)の場合、電流I
1と電流I
2とが同位相になるので、合成された電流I
0は最大となり、電圧V
0も最大になる。したがって、この場合、高周波電源装置A1の出力電力(負荷Lへの供給電力)が最大になる。位相差が180°(逆位相)の場合、電流I
1と電流I
2とが逆位相になるので、合成された電流I
0は最小(0[A])となり、電圧V
0も最小(0[V])になる。したがって、この場合、高周波電源装置A1の出力電力(負荷Lへの供給電力)が最小(0[W])になる。インバータ位相差θは0°から180°まで変化し、インバータ位相差θが大きくなるに従って、出力電力は小さくなる。制御回路4は、検出した高周波電源装置A1の出力電力と目標電力との偏差に応じてインバータ位相差θを変化させることで、出力電力のフィードバック制御を行っている。
【0031】
電圧制限回路5は、共振回路31のコンデンサC1および共振回路32のコンデンサC2の端子間電圧が所定電圧より大きくなることを制限する。電圧制限回路5は、コンデンサC1の端子間電圧を制限する電圧制限部51、および、コンデンサC2の端子間電圧を制限する電圧制限部52を備えている。
【0032】
電圧制限部51は、トランスT1、ダイオードD1,D2およびコンデンサC3を備えている。トランスT1は、1次巻線Lp1、2次巻線Ls1aおよび2次巻線Ls1bを備えており、1次巻線Lp1と2次巻線Ls1aおよび2次巻線Ls1bとは磁気結合されている。本実施形態では、2次巻線Ls1aの巻き数と2次巻線Ls1bの巻き数とを、同じ巻き数Ns1としている。そして、1次巻線Lp1の巻き数Np1を、巻き数Ns1の2倍としている。つまり、巻き数比N1=Np1/Ns1=2である。なお、巻き数比N1は限定されない。トランスT1の1次巻線Lp1は、コンデンサC1に並列接続している。1次巻線Lp1には、直流電流を遮断するためのコンデンサC3が直列接続されている。コンデンサC3の静電容量は、コンデンサC1の静電容量と比べて十分大きなものとしている。2次巻線Ls1aの一方の端子は、ダイオードD1を介して直流電源1の正極側に接続されている。他方の端子は、直流電源1の負極側に接続されている。2次巻線Ls1bの一方の端子は、ダイオードD2を介して直流電源1の正極側に接続されている。他方の端子は、直流電源1の負極側に接続されている。2次巻線Ls1aの一方の端子と2次巻線Ls1bの一方の端子とは、極性が反対になっている。ダイオードD1は、アノード端子が2次巻線Ls1aの一方の端子に接続され、カソード端子が直流電源1の正極側に接続されている。ダイオードD2は、アノード端子が2次巻線Ls1bの一方の端子に接続され、カソード端子が直流電源1の正極側に接続されている。2次巻線Ls1aの他方の端子の電位に対する一方の端子の電位差が直流電源1の出力電圧より大きくなった場合、ダイオードD1が導通して電流が流れる。また、2次巻線Ls1bの他方の端子の電位に対する一方の端子の電位が直流電源1の出力電圧より大きくなった場合、ダイオードD2が導通して電流が流れる。
【0033】
電圧制限部52は、電圧制限部51と同様の構成であり、トランスT2、ダイオードD3,D4およびコンデンサC4を備えている。トランスT2は、1次巻線Lp2、2次巻線Ls2aおよび2次巻線Ls2bを備えており、1次巻線Lp2と2次巻線Ls2aおよび2次巻線Ls2bとは磁気結合されている。本実施形態では、2次巻線Ls2aの巻き数と2次巻線Ls2bの巻き数とを、同じ巻き数Ns2としている。そして、1次巻線Lp2の巻き数Np2を、巻き数Ns2の2倍としている。つまり、巻き数比N2=Np2/Ns2=2である。なお、巻き数比N2は限定されない。トランスT2の1次巻線Lp2は、コンデンサC2に並列接続している。1次巻線Lp2には、直流電流を遮断するためのコンデンサC4が直列接続されている。コンデンサC4の静電容量は、コンデンサC2の静電容量と比べて十分大きなものとしている。2次巻線Ls2aの一方の端子は、ダイオードD3を介して直流電源1の正極側に接続されている。他方の端子は、直流電源1の負極側に接続されている。2次巻線Ls2bの一方の端子は、ダイオードD4を介して直流電源1の正極側に接続されている。他方の端子は、直流電源1の負極側に接続されている。2次巻線Ls2aの一方の端子と2次巻線Ls2bの一方の端子とは、極性が反対になっている。ダイオードD3は、アノード端子が2次巻線Ls2aの一方の端子に接続され、カソード端子が直流電源1の正極側に接続されている。ダイオードD4は、アノード端子が2次巻線Ls2bの一方の端子に接続され、カソード端子が直流電源1の正極側に接続されている。2次巻線Ls2aの他方の端子の電位に対する一方の端子の電位差が直流電源1の出力電圧より大きくなった場合、ダイオードD3が導通して電流が流れる。また、2次巻線Ls2bの他方の端子の電位に対する一方の端子の電位が直流電源1の出力電圧より大きくなった場合、ダイオードD4が導通して電流が流れる。
【0034】
次に、電圧制限回路5の動作について説明する。以下では、電圧制限部51の動作について説明する。電圧制限部51と電圧制限部52とは同様の構成なので、同様の動作を行う。したがって、電圧制限部52の動作についての説明は省略する。
【0035】
コンデンサC1の端子間電圧をV
C1とすると、1次巻線Lp1の端子間電圧もV
C1となる(コンデンサC3の静電容量は大きく、端子間電圧は十分小さくなるので無視できる)。トランスT1の巻き数比N1=2なので、2次巻線Ls1aおよび2次巻線Ls1bの端子間電圧は(1/2)V
C1になる。2次巻線Ls1aの他方の端子の電位に対する一方の端子の電位差が直流電源1の出力電圧V
DCより大きくなった場合、ダイオードD1が導通して電流が流れるので、2次巻線Ls1aの端子間電圧は、電圧V
DCにクランプされる。また、2次巻線Ls1bの他方の端子の電位に対する一方の端子の電位差が直流電源1の出力電圧V
DCより大きくなった場合、ダイオードD2が導通して電流が流れるので、2次巻線Ls1bの端子間電圧は、電圧V
DCにクランプされる。なお、ダイオードD1(D2)の順方向電圧は無視している。2次巻線Ls1a(Ls1b)の端子間電圧が電圧V
DCにクランプされるので、1次巻線Lp1の端子間電圧は、2V
DCにクランプされる。したがって、コンデンサC1の端子間電圧V
C1も2V
DCにクランプされる。つまり、電圧制限部51は、コンデンサC1の端子間電圧V
C1が2V
DCを超えないようにクランプする。同様に、電圧制限部52は、コンデンサC2の端子間電圧V
C2が2V
DCを超えないようにクランプする。
【0036】
なお、クランプ電圧は、直流電源1の出力電圧V
DCおよびトランスT1(T2)の巻き数比N1(N2)によって決定される。例えば、出力電圧V
DC=300[V]、巻き数比N1=2の場合、コンデンサC1の端子間電圧V
C1は、600[V]にクランプされる。クランプしたい電圧になるように、直流電源1の出力電圧V
DCおよびトランスT1(T2)の巻き数比N1(N2)が設計される。なお、トランスT1(T2)を、巻き数比を切り替えることができるものにすれば、クランプ電圧を切り替えることができる。
【0037】
インバータ回路21の出力電流I
1は、トランスT1の一次電流をI
Lp1、コンデンサC1を流れる電流をI
C1とすると、I
1=I
Lp1+I
C1となる。コンデンサC1のインピーダンスをZ
C1とすると、I
C1=V
C1/Z
C1となるので、I
1=I
Lp1+V
C1/Z
C1となる。上述したように、端子間電圧V
C1は2V
DCにクランプされるので、インバータ回路21の出力電流I
1は、I
Lp1+2V
DC/Z
C1以下になる。同様に、インバータ回路22の出力電流I
2は、トランスT2の一次電流をI
Lp2、コンデンサC2のインピーダンスをZ
C2とすると、I
Lp2+2V
DC/Z
C2以下になる。
【0038】
図2は、
図1に示す回路においてシミュレーションを行ったときの各電流および電圧を示す波形図であり、スイッチング素子Q1に入力する駆動信号とスイッチング素子Q3に入力する駆動信号との位相差(インバータ位相差)を180°(逆位相)とした場合の波形図である。当該シミュレーションでは、
図8におけるシミュレーションと同様、直流電源1の出力電圧V
DCを300[V]としている。
【0039】
図2(a)はインバータ回路21の出力電流I
1の波形を示しており、
図2(b)はコンデンサC1の端子間電圧V
C1の波形を示している。
図2(c)はインバータ回路22の出力電流I
2の波形を示しており、
図2(d)はコンデンサC2の端子間電圧V
C2の波形を示している。
図2(e)はトランスT1の一次電流I
Lp1の波形、および、I
Lp1の実効値I
Lp1#rmsを示している。
図2(f)はトランスT1の2次巻線Ls1aを流れる電流I
Ls1aの波形、および、I
Ls1aの実効値I
Ls1a#rmsを示している。
図2(g)はトランスT1の2次巻線Ls1bを流れる電流I
Ls1bの波形、および、I
Ls1bの実効値I
Ls1b#rmsを示している。
【0040】
図2(b)に示すように、コンデンサC1の端子間電圧V
C1は、約−450[V]から約750[V]の間に制限されている。以下、この現象について説明する。
【0041】
本シミュレーションではインバータ回路21,22が0[V]と300[V]とを切り替えて出力するので、端子間電圧V
C1の波形は、直流電圧成分である150[V]分だけプラス側にシフトしている。そのため、トランスT1の1次巻線Lp1の端子間電圧がクランプ電圧300[V]の+2倍の電圧に150[V]を加算した電圧である約750[V](300×2+150[V])に達すると、トランスT1の2次巻線Ls1aの端子間には、±300[V]の電圧が印加される。上記のように、ダイオードD1のアノード端子に印加される電圧が直流電源1の出力電圧より大きくなった場合にダイオードD1が導通するので、ダイオードD1のアノード端子に+300[V]を超える電圧が印加されると、トランスT1の1次巻線Lp1に一次電流I
Lp1が流れ(
図2(e)参照)、トランスT1の2次巻線Ls1aに電流I
Ls1aが流れる(
図2(f)参照)。その結果、トランスT1の1次巻線Lp1の端子間電圧が約750[V]にクランプされる。また、上記のように、トランスT1の1次巻線Lp1の端子間電圧とコンデンサC1の端子間電圧V
C1とは略等しいので、コンデンサC1の端子間電圧V
C1も約750[V]にクランプされている(
図2(b)参照)。
【0042】
同様に、トランスT1の1次巻線Lp1の端子間電圧がクランプ電圧300[V]の−2倍の電圧に150[V]を加算した電圧である約−450[V](300×(−2)+150[V])に達すると、トランスT1の2次巻線Ls1bの端子間には、±300[V]の電圧が印加される。上記のように、ダイオードD2のアノード端子に印加される電圧が直流電源1の出力電圧より大きくなった場合にダイオードD2が導通するので、ダイオードD2のアノード端子に+300[V]を超える電圧が印加されると、トランスT1の1次巻線Lp1に一次電流I
Lp1が流れ(
図2(e)参照)、トランスT1の2次巻線Ls1bに電流I
Ls1bが流れる(
図2(g)参照)。その結果、トランスT1の1次巻線Lp1の端子間電圧が約−450[V]にクランプされる。また、上記のように、トランスT1の1次巻線Lp1の端子間電圧とコンデンサC1の端子間電圧V
C1とは略等しいので、コンデンサC1の端子間電圧V
C1も約−450[V]にクランプされている(
図2(b)参照)。
【0043】
これにより、インバータ回路21の出力電流I
1は、ピーク値が10[A]程度になっている(
図2(a)参照)。同様に、コンデンサC2の端子間電圧V
C2も約−450[V]から約750[V]の間に制限され(
図2(d)参照)、インバータ回路22の出力電流I
2は、ピーク値が10[A]程度になっている(
図2(c)参照)。
【0044】
図3は、
図2に示す回路においてシミュレーションを行ったときのインバータ位相差θに応じた各値の変化を示す図である。
図3(a)において、φは出力電流I
1と出力電流I
2との電流位相差を示し、I
1pは出力電流I
1のピーク値を示しI
2pは出力電流I
2のピーク値を示している。また、
図3(b)においては、高周波電源装置A1の出力電力Pfを示している。
【0045】
図3に示すように、インバータ位相差θが0°のとき、電流位相差φも0°であり、出力電力Pfは最大になっている。また、インバータ位相差θが180°のとき、電流位相差φも180°であり、出力電力Pfは最小になっている。インバータ位相差θが0°から180°の間では、インバータ位相差θが大きくなるに従い、電流位相差φも大きくなっている。また、インバータ位相差θが0°から180°の間で、インバータ位相差θが大きくなるに従い、出力電力Pfは小さくなっている。
【0046】
また、
図3(a)に示すように、出力電流I
1のピーク値I
1pおよび出力電流I
2のピーク値I
2pは、インバータ位相差θが180°のときに約10[A]であり、インバータ位相差θが0°から180°の間でも、約10[A]以内となっている。
【0047】
次に、本実施形態に係る高周波電源装置A1の作用および効果について説明する。
【0048】
本実施形態によると、電圧制限回路5は、コンデンサC1(C2)の端子間電圧を所定電圧にクランプする。したがって、コンデンサC1(C2)を流れる電流が制限されるので、インバータ回路21(22)の出力電流I
1(I
2)は抑制される。これにより、インバータ位相差θを大きくして出力電力Pfを小さくした場合でも、出力電流I
1(I
2)が大きくなることを抑制することができる。よって、高周波電源装置A1の低出力時に、インバータ回路21,22での導通損失を低減することができる。
【0049】
高周波電源装置A1においては、インバータ位相差θが180°のとき、
図2(a)に示すように、インバータ回路21の出力電流I
1のピーク値I
1pは約10[A]になっている。したがって、出力電流I
1の実効値は、約7[A]になっている。一方、電圧制限回路5を備えていない高周波電源装置A100においては、
図8(b)に示すように、インバータ回路21の出力電流I
1のピーク値I
1pは約30[A]になっている。したがって、出力電流I
1の実効値は、約21[A]になっている。出力電流I
1の実効値が約3分の1になっているので、インバータ回路21での導通損失を大幅に低減できる。このときのトランスT1の一次電流I
Lp1の実効値I
Lp1#rmsは約2.5[A](
図2(e)参照)、2次巻線Ls1aを流れる電流I
Ls1aの実効値I
Ls1a#rmsは約4[A](
図2(f)参照)、2次巻線Ls1bを流れる電流I
Ls1bの実効値I
Ls1b#rmsも約4[A](
図2(g)参照)と小さい。また、トランスT1などでの導通損失は、インバータ回路21での導通損失と比べると小さいものである。したがって、電圧制限回路5を追加したことによる導通損失の増加は微々たるものである。インバータ回路22においても同様である。したがって、インバータ位相差θが180°のとき、高周波電源装置A1は、高周波電源装置A100と比べて、導通損失を大幅に低減できていることは明らかである。
【0050】
また、本実施形態によると、出力電流I
1(I
2)のピーク値が大きくなることを抑制することができるので、インバータ回路21,22のスイッチング素子Q1〜Q4を、許容電流の小さいものとすることができる。電圧制限回路5を備えていない高周波電源装置A100においては、
図9(a)に示すように、ピーク値I
1p,I
2pは、インバータ位相差θに応じて約30[A]まで変化する。したがって、インバータ回路21,22のスイッチング素子Q1〜Q4は、最大電流30[A]を許容できるものにする必要がある。一方、高周波電源装置A1においては、
図3(a)に示すように、ピーク値I
1p,I
2pは、インバータ位相差θの全ての範囲で、約10[A]以下になっている。したがって、インバータ回路21,22のスイッチング素子Q1〜Q4は、最大電流10[A]を許容できるものであればよい。
【0051】
上記第1実施形態においては、高周波電源装置A1をプラズマ処理システムに用いて、インピーダンス整合装置が接続されたプラズマチャンバである負荷Lに高周波電力を供給する場合について説明したが、これに限られない。高周波電源装置A1は、例えば誘導加熱装置に用いて、コイルに高周波電力を供給するようにしてもよい。また、その他の高周波電力を用いる装置にも用いることができる。
【0052】
図4〜
図6は、本発明の他の実施形態を示している。なお、これらの図において、上記実施形態と同一または類似の要素には、上記実施形態と同一の符号を付している。
【0053】
図4(a)は、第2実施形態に係る高周波電源装置を示す回路構成図である。
図4(a)においては、制御回路4の記載を省略している(
図4(b)、
図5(a)、
図5(b)、
図6についても同様)。
【0054】
図4(a)に示す高周波電源装置A2は、電圧制限部51(52)において、トランスT1(T2)が2次巻線Ls1b(Ls2b)を備えておらず、ダイオードD2(D4)も備えていない点で、第1実施形態に係る高周波電源装置A1(
図1参照)と異なっている。
【0055】
第2実施形態に係る電圧制限部51(52)は、コンデンサC1(C2)の端子間電圧が一方の極性のときにのみ電圧のクランプを行う。
図4(a)においては、コンデンサC1の接続点a側の端子の電位が接続点c側の端子の電位より高いときにはコンデンサC1の端子間電圧がクランプされるが、コンデンサC1の接続点a側の端子の電位が接続点c側の端子の電位より低いときにはコンデンサC1の端子間電圧はクランプされない。したがって、第1実施形態の場合ほどではないが、インバータ回路21(22)の出力電流I
1(I
2)は抑制される。したがって、第2実施形態においても、第1実施形態と同様の効果を奏することができる。さらに、第2実施形態においては、電圧制限回路5の回路構成を簡略化することができる。なお、電圧制限部51を第1実施形態に係る電圧制限部51としてもよいし、2次巻線Ls1bおよびダイオードD2を備え、2次巻線Ls1aおよびダイオードD1を備えないようにしてもよい。電圧制限部52についても同様である。
【0056】
図4(b)は、第3実施形態に係る高周波電源装置を示す回路構成図である。
【0057】
図4(b)に示す高周波電源装置A3は、電圧制限回路5が電圧制限部52を備えていない点で、第1実施形態に係る高周波電源装置A1(
図1参照)と異なっている。
【0058】
第3実施形態に係る電圧制限回路5は、コンデンサC1の端子間電圧のみをクランプする。したがって、インバータ回路21の出力電流I
1を抑制することができる。第3実施形態においても、インバータ回路21の出力電流I
1は抑制されるので、高周波電源装置A3の低出力時に、インバータ回路21での導通損失を低減することができる。また、インバータ回路21のスイッチング素子Q1,Q2を、許容電流の小さいものとすることができる。さらに、第3実施形態においては、電圧制限回路5の回路構成を簡略化することができる。なお、電圧制限回路5が電圧制限部51を備えず、電圧制限部52だけを備えるようにしてもよい。
【0059】
図5(a)は、第4実施形態に係る高周波電源装置を示す回路構成図である。
【0060】
図5(a)に示す高周波電源装置A4は、ダイオードD1〜D4のカソード端子が直流電源1の正極側に接続される代わりに、直流電源6の正極側に接続されている点で、第1実施形態に係る高周波電源装置A1(
図1参照)と異なっている。
【0061】
直流電源6は、出力電圧を変化させることができる直流電源である。コンデンサC1、C2の端子間電圧のクランプ電圧は、直流電源6の出力電圧V
DC’およびトランスT1(T2)の巻き数比N1(N2)によって決定される。直流電源6は、出力電圧V
DC’を変化させることができるので、クランプ電圧を変化させることができる。
【0062】
第4実施形態においても、第1実施形態と同様の効果を奏することができる。さらに、第4実施形態においては、直流電源6の出力電圧V
DC’を変化させることで、コンデンサC1、C2の端子間電圧のクランプ電圧を変化させることができる。例えば、直流電源6の出力電圧V
DC’を低下させると、コンデンサC1の端子間電圧のクランプ電圧を低下させることができる。すなわち、ダイオードD1,D2が導通するような条件では、電圧制限部51が無い場合に比べてコンデンサC1の端子間電圧が低下するので、コンデンサC1の静電容量が大きくなった状態を擬似的に作り出すことになる。ここで、インダクタL1の自己インダクタンスをL
1、コンデンサC1の静電容量をC
1とすると、共振回路31のリアクタンス成分はωL
1−(1/ωC
1)となるので、共振状態(ωL
1=(1/ωC
1))からコンデンサC1の静電容量C
1が大きくなる方向に移行すると、共振回路31のリアクタンス成分が大きくなる。ひいてはインバータ回路21から負荷L側を見たインピーダンスが大きくなるので、共振状態を基準とするとインバータ回路21の出力電流I
1は低下する。また、共振回路31の共振状態からコンデンサC1の静電容量C
1が大きくなる方向に移行すると、インバータ回路21から負荷L側を見たインピーダンスは遅れ負荷(誘導性)の方向に移行する。もちろん、直流電源6の出力電圧V
DC’を上昇させると、上記とは逆の動作になる。したがって、クランプ電圧の調整によって、インバータ回路21から負荷L側を見たインピーダンスの遅れ負荷の度合いを調整できる。なお、上記では電圧制限部51側を例にして説明したが、電圧制限部52側でも同様である。一般的にインバータ回路では、スイッチング損失を低減させるために、所定の遅れ負荷にすることが望ましい。そのため、上記のように直流電源6の出力電圧V
DC’を調整することにより、インバータ回路21から負荷L側を見たインピーダンスの遅れ負荷の度合いを調整できる構成にすることは非常に有用である。
【0063】
なお、
図5(b)のように、電圧制限部51側と電圧制限部52側とで、直流電源6’の出力電圧V
DC’を個別に調整できるようにしてもよい。このような構成にすると各インバータ回路21,22に適した遅れ負荷にそれぞれ調整できるので、より柔軟な制御が可能となる。
【0064】
なお、直流電源6(6’)は、出力電圧を変化できない直流電源であってもよい。この場合は、クランプ電圧を変化させることはできないが、直流電源1の出力電圧V
DCとは関係なく、クランプ電圧を設定することができる。
【0065】
図6は、第5実施形態に係る高周波電源装置を示す回路構成図である。
【0066】
図6に示す高周波電源装置A5は、負荷Lが、インバータ回路21の出力端子とインバータ回路22の出力端子との間に直列接続されている点で、第1実施形態に係る高周波電源装置A1(
図1参照)と異なっている。
【0067】
第5実施形態の場合、第1実施形態とは異なり、インバータ位相差θが0°(同位相)のとき出力電力は最小となり、インバータ位相差θが180°(逆位相)のとき出力電力は最大となる。また、インバータ位相差θが180°(逆位相)のとき、出力電流I
1および出力電流I
2が最大になる。
【0068】
第5実施形態においては、高周波電源装置A5の高出力時に、インバータ位相差θが大きくなって出力電流I
1,I
2が大きくなった場合でも、電圧制限回路5がコンデンサC1(C2)の端子間電圧を所定電圧にクランプするので、出力電流I
1,I
2は抑制される。したがって、第5実施形態においても、第1実施形態と同様の効果を奏することができる。
【0069】
上記第1〜第5実施形態においては、インバータ回路21,22がハーフブリッジ型のインバータである場合について説明したが、これに限られない。インバータ回路21,22は、例えばE級アンプなどの他のアンプやインバータであってもよい。
【0070】
上記第1〜第5実施形態においては、電圧制限回路5を、トランスおよびダイオードを組み合わせた回路で実現した場合について説明したが、これに限られない。電圧制限回路5は、コンデンサC1(およびコンデンサC2)の端子間電圧を所定電圧に制限するものであれば、どのような構成でも構わない。
【0071】
本発明に係る高周波電源装置は、上述した実施形態に限定されるものではない。本発明に係る高周波電源装置の各部の具体的な構成は、種々に設計変更自在である。