(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ドレッシングは、容器に収容された状態で長期間保存すると、劣化して味覚が変わってしまうことがある。特に、樹脂製の容器に保存した場合には、ドレッシングの種類によっては、劣化が急速に進行する場合がある。そこで、ドレッシングの種類によらず、ドレッシングの劣化を抑制する技術を確立することが求められている。
【0005】
そこで、本発明は、一つの側面において、内部の視認性を良好に維持しつつ、醤油を含有するドレッシングの劣化を抑制することが可能なドレッシング用容器及び当該容器用の容器本体を提供することを目的とする。本発明は、別の側面において、内部の視認性を良好に維持しつつ、醤油を含有するドレッシングの劣化を抑制することが可能な容器の使用方法を提供することを目的とする。本発明は、さらに別の側面において、内部の視認性を良好に維持しつつ、醤油を含有するドレッシングの劣化が抑制された
ドレッシング入り容器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
ドレッシングの劣化のメカニズムとしては、ドレッシングに含まれる油脂の酸化が考えられる。酸化を抑制する技術としては、容器の酸素透過度を低くすることが挙げられる。また、油脂の酸化は、光が照射されると促進される。このような光による酸化の促進作用は、通常は、大きいエネルギーを有する波長の短い紫外域の光の方が、可視光域の光よりも大きいと考えられる。このため、油脂含有率が高いドレッシングの劣化を低減する技術としては、酸素透過度が低く且つ紫外域の光を遮断できるようなドレッシング用容器が有効であると考えられる。
【0007】
しかしながら、本発明者らの検討によれば、油脂を含有しないドレッシングの場合も、含有成分によっては、保管条件に応じて劣化が進行し、外観や風味が損なわれてしまうことが分かった。そして、特に醤油を含有するドレッシングの場合に、可視光域の光によって劣化が促進されることが分かった。
【0008】
本発明は、このような知見に基づいてなされたものであり、一つの側面において、醤油を含有するドレッシングを収容するドレッシング用容器であって、開口を有する上部、底部、及びこれらの間に胴体部を有し、透明又は半透明である樹脂製の容器本体と、開口を覆う蓋と、を備え、胴体部における450〜550nmの波長域の光線透過率が55%以下であり、550nmを超え650nm以下の波長域の光線透過率が10%を超えるドレッシング用容器を提供する。
【0009】
本発明のドレッシング用容器は、内容物であるドレッシングの視認性を確保するため、透明又は半透明である樹脂製の容器本体を備える。そして、容器本体のうち、光が最も照射されやすい胴体部における450〜550nmの波長域の光線透過率が55%以下であり、550nmを超え650nm以下の波長域の光線透過率が10%を超える。このため、容器に収容された醤油を含有するドレッシングの視認性を良好に維持しつつ、容器に収容される醤油を含有するドレッシングの劣化を抑制することができる。
【0010】
幾つかの実施形態において、上記容器本体の胴体部における、500nm〜550nmの波長域の光線透過率は10%以上であることが好ましい。これによって、容器内にドレッシングが収容された状態、すなわち
ドレッシング入り容器(パッケージ)の外観を良好にすることができる。また、ドレッシングの劣化の有無を目視にて視認し易くすることができる。
【0011】
幾つかの実施形態において上記容器本体の胴体部における、350nmを超え450nm未満の波長域の光線透過率が35%以下であることが好ましい。紫外域に近い可視光の光線透過率を35%以下にすることによって、容器に収容されるドレッシングの劣化を一層抑制することができる。
【0012】
幾つかの実施形態において、容器本体は、胴体部の外周面の少なくとも一部を覆うように光バリア性を有するフィルムを備えていてもよい。これによって、ドレッシングの劣化を一層抑制することができる。幾つかの実施形態において、容器本体はポリエステル樹脂で構成されていてもよい。これによって、製造コストを十分に低減しつつ、ドレッシングの劣化を抑制することが可能なドレッシング用容器とすることができる。
【0013】
幾つかの実施形態において、容器本体は緑色を呈していてもよい。これによって、ドレッシングの劣化を一層抑制することができる。
【0014】
本発明は、別の側面において、醤油を含有するドレッシングを収容する容器用の樹脂製の容器本体であって、透明又は半透明であり、開口を有する上部、底部、及びこれらの間に胴体部を有し、胴体部における450〜550nmの波長域の光線透過率が55%以下であり、550nmを超え650nm以下の波長域の光線透過率が10%を超える容器本体を提供する。
【0015】
本発明の容器本体は、内容物であるドレッシングの視認性を確保するため、透明又は半透明である樹脂製の容器本体を備える。そして、容器本体のうち、光が最も照射されやすい胴体部における450〜550nmの波長域の光線透過率が55%以下であり、550nmを超え650nm以下の波長域の光線透過率が10%を超える。このため、容器本体に収容される醤油を含有するドレッシングの視認性を良好に維持しつつ、容器本体内に収容される醤油を含有するドレッシングの劣化を抑制することができる。
【0016】
本発明は、さらに別の側面において、開口を有する上部、底部、及びこれらの間に胴体部を有し、透明又は半透明である樹脂製の容器本体に、醤油を含有するドレッシングを収容する工程と、開口を密閉して、容器本体を備える容器内にドレッシングを密封する工程と、を有し、胴体部における450〜550nmの波長域の光線透過率が55%以下であり、550nmを超え650nm以下の波長域の光線透過率が10%を超える、容器の使用方法を提供する。
【0017】
本発明の使用方法では、光の照射の影響を最も大きく受ける胴体部において、450〜550nmの波長域の光線透過率が55%以下であり、550nmを超え650nm以下の波長域の光線透過率が10%を超える容器本体を備える容器を使用する。このため、容器本体に収容される醤油を含有するドレッシングの視認性を良好に維持しつつ、容器内に保管される、醤油を含有するドレッシングの劣化を十分に抑制することができる。
【0018】
本発明は、さらに別の側面において、開口を有する上部と底部との間の胴体部における450〜550nmの波長域の光線透過率が55%以下であり、550nmを超え650nm以下の波長域の光線透過率が10%を超える、透明又は半透明の容器本体と、開口を覆う蓋と、を有する容器と、容器内に保存される、醤油を含有するドレッシングと、を備える、
ドレッシング入り容器を提供する。
【0019】
上記
ドレッシング入り容器は、醤油を含有するドレッシングを、450〜550nmの波長域の光線透過率が55%以下であり、550nmを超え650nm以下の波長域の光線透過率が10%を超える、透明又は半透明の容器本体を用いている。ドレッシングをこのようなパッケージとすることによって、醤油を含有するドレッシングの視認性を良好に維持しつつ、醤油を含有するドレッシングの劣化を十分に抑制することができる。
【0020】
上記
ドレッシング入り容器におけるドレッシングは、オリーブ、青じそ、オニオンエキス、チキンエキス及びカツオ節エキスから選ばれる少なくとも一つの成分を含んでいてもよい。上述の成分の少なくとも一つを含むと、当該成分に含まれる油脂によって、ドレッシングの劣化が進行し易い傾向にある。しかしながら、本発明の一側面に係る
ドレッシング入り容器は、所定の光線透過率を有する容器本体を備えることから、醤油及び油脂の分解が抑制され、ドレッシングの劣化を十分に抑制することができる。また、醤油に含まれるメラノイジンによって、油脂の分解を抑制できると推察される。
【発明の効果】
【0021】
本発明は、一つの側面において、内部の視認性を良好に維持しつつ、醤油を含有するドレッシングの劣化を抑制することが可能なドレッシング用容器及び当該容器用の容器本体を提供することができる。本発明は、別の側面において、内部の視認性を良好に維持しつつ、醤油を含有するドレッシングの劣化を抑制することが可能な容器の使用方法を提供することができる。本発明は、さらに別の側面において、内部の視認性を良好に維持しつつ、ドレッシングの劣化が抑制された
ドレッシング入り容器を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明の一実施形態を以下に詳細に説明する。
図1は、本実施形態の容器の正面図である。ドレッシング用容器100(以下、「容器100」ということもある。)は、容器本体10と、容器本体10の上部に取り付けられる蓋30とを備える。蓋30は、容器本体10から着脱可能に構成される。容器本体10への蓋30の取り付け方法は特に限定されない。例えば、蓋30の内側には内ねじが形成され、容器本体10の上部16の外側には外ねじが形成されていてもよい。これによって、容器本体10と蓋30とを螺合させて、容器本体10に蓋30を固定してもよい。又は、蓋30の内面に形成された凸部と、容器本体10の上部16の表面に形成された、当該凸部と相補的な形状を有する凹部とを嵌合させることによって、容器本体10に蓋30を装着してもよい。
【0024】
容器100と、容器100の内部に収容される醤油を含有するドレッシング150は、
ドレッシング入り容器300を構成する。
【0025】
容器100内に収容されたドレッシングを使用する場合、蓋30を容器本体10から取り外す。その後、使用者が容器本体10の胴体部12を把持して容器本体10を傾ける。これによって、容器本体10の上部16から、対象物(例えば、サラダ)に向けてドレッシングをかけることができる。
【0026】
容器本体10の胴体部12は、450〜550nmの波長域における光線透過率が55%以下である。容器100内に保管されるドレッシングの劣化を十分に抑制する観点から、胴体部12における450〜550nmの波長域の光線透過率は、55%以下であり、好ましくは52%以下である。容器本体10内に収容される醤油を含有するドレッシングの視認性を良好に維持する観点から、胴体部12における550nmを超え650nm以下の波長域の光線透過率は10%を超えており、好ましくは15%を超える。本明細書における光線透過率は、JIS K 0115:2004に準拠して、市販の測定装置を用いて測定することができる。
【0027】
容器本体10の胴体部12は、
ドレッシング入り容器300を保管する際にテーブル等の被載置物と対向する底部14と、蓋30に覆われる上部16との間の部分である。胴体部12は、
ドレッシング入り容器300の保管時及び使用時において、底部14及び上部16よりも長い時間、光に直接照射される。このため、胴体部12の光線透過率が、容器100に充填されたドレッシングの劣化に大きく影響を及ぼす。胴体部12の光線透過率を上述の範囲とすることによって、容器100内に収容されたドレッシング150の劣化を抑制することができる。なお、上部16及び底部14を含む容器本体10の全体において、450〜550nmの波長域の光線透過率が上述の範囲であってもよい。これによって、ドレッシング150の劣化を一層確実に抑制することができる。
【0028】
一方、容器100内にドレッシング150を収容した状態における外観、及びドレッシング150の視認性を良好にする観点から、胴体部12における500nm〜550nmの波長域の光線透過率は、好ましくは10%以上である。通常、商品選択及び使用の際には、主に容器本体10の胴体部12を通じてドレッシング150の外観が視認される。醤油を含むドレッシング150の場合、胴体部12の光線透過率を上述の範囲にすることによって、
ドレッシング入り容器300の外観とドレッシング150の視認性を良好にすることができる。なお、上部16及び底部14を含む容器本体10の全体において、500〜550nmの波長域の光線透過率が上述の範囲であってもよい。
【0029】
ドレッシング150の劣化を一層抑制する観点から、胴体部12における350nmを超え450nm未満の波長域の光線透過率は、好ましくは35%以下であり、より好ましくは32%以下である。なお、上部16及び底部14を含む容器本体10の全体において、350nmを超え450nm以下の波長域の光線透過率が上述の範囲であってもよい。
【0030】
容器本体10は、透明又は半透明である。本明細書における「透明又は半透明」とは、可視光を照射したときに、少なくとも一部の可視光が透過することを意味しており、可視光を全く透過しないものを排除している。容器本体10は、可視光の一部を透過しなくてもよく、光をある程度散乱してもよい。
【0031】
容器本体10は、例えば合成樹脂製である。合成樹脂としては、例えば、低密度ポリエチレン樹脂(LDPE)、中密度ポリエチレン樹脂(MDPE)、高密度ポリエチレン樹脂(HDPE)、直鎖状低密度ポリエチレン樹脂(L−LDPE)等のポリエチレン系樹脂;ポリプロピレン樹脂(PP)等のポリプロピレン系樹脂;ポリスチレン系樹脂;ポリカーボネート系樹脂;ポリアミド系樹脂;ポリエチレンテレフタレート樹脂(PET)等のポリエステル樹脂;ポリ乳酸樹脂;その他の熱可塑性成形用樹脂塔等が挙げられる。
【0032】
上述の合成樹脂の一種を単独で、又は複数を組み合わせて用いてもよい。また、上述の合成樹脂と、エチレン−ビニルアルコール共重合樹脂及びナイロン樹脂などのバリア性樹脂とを組み合わせて用いてもよい。さらに、必要に応じて添加剤を含有していてもよい。添加剤は、安定剤、顔料等の着色剤、酸化防止剤、熱劣化防止剤、紫外線劣化防止剤、及び帯電防止剤等が挙げられる。合成樹脂は、光透過性、強度、コスト、成形性などの点から、好ましくはポリエステル系樹脂、ポリエチレン系樹脂又はポリプロピレン系樹脂を含む。ポリエステル系樹脂としては、ポリエチレンテレフタレート樹脂(PET)が好ましい。
【0033】
容器本体10は、胴体部12の外周面の一部又は全部を覆うように、光バリア性を有するシュリンクフィルムを有していてもよい。シュリンクフィルムとしては、塩化ビニル、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリスチレン、ポリアミド、ポリエステル系樹脂等の延伸フィルム基材に、遮光性のインク(例えば、白色)をコーティングしたもの等が挙げられる。遮光性のインクは、入射光を全て遮断するものに限られず、入射光の一部を透過させるものであってもよい。また、一部の紫外線をカットする紫外線カット性を有していてもよい。
【0034】
シュリンクフィルムは、容器本体に巻き付けた状態で加熱することによって、胴体部12上に装着することができる。容器本体10は、光バリア性を有するフィルムと併せて、又は、光バリア性を有するフィルムに代えて、胴体部12の外周面の一部又は全部を覆うように、酸素バリア性を有するフィルムを有していてもよい。そのようなフィルムとしては、ナイロンフィルム、及びシリカ等の無機フィルム等が挙げられる。
【0035】
容器本体10の光線透過率は、容器本体10の厚み、樹脂の種類、及び着色剤の配合量を変えることによって調整することができる。容器本体10は、緑色を呈することが好ましい。本明細書における「色」は、JISの標準色票の使用方法(JIS Z 8721)にしたがって、容器本体10の色調とJIS標準色票の色見本とを見比べて判定することができる。本明細書における「緑色」とは、色調がJIS標準色票の色見本の内、色相:10GY〜10G、明度:3〜7、彩度:6〜10の色調である。マンセル値の色相としては、例えば5Y,5YR,10YR,5G等が挙げられる。
【0036】
蓋30は、例えば樹脂製である。樹脂は、容器本体10と同じであってもよく異なっていてもよい。蓋30は、可視光を透過しない非透過性の材質で構成されていてもよく、可視光を一部透過する半透過性のものであってもよい。
【0037】
容器100の酸素透過度は、ドレッシングの酸化を抑制する観点から、低い方が好ましい。容器100の酸素透過度は、容器100一本あたり、例えば0.05ml/日以下であり、好ましくは0.03ml/日以下である。酸素透過度は、JIS K 7126−2で規定されるmocon法によって測定することができる。なお、測定開始当初は、容器本体10に溶け込んでいる酸素が溶出するため、高い酸素濃度が検出される傾向にある。このため、酸素透過度は、酸素濃度が一定値に収束した後、当該酸素濃度に基づいて算出することができる。
【0038】
容器本体10は、その水平断面が長軸と短軸とを有する楕円形状を有するように扁平している。ただし、容器本体10及びドレッシング用容器100は、このような形状に限定されない。
【0039】
図2及び
図3は、容器本体10の製造方法の一例を説明するための模式図である。この製造方法は、射出成形によってプリフォームを得るプリフォーム成形工程と、プリフォームを用いて容器本体10を得るブロー成形工程とを有する。プリフォーム成形工程では、
図2に示すように、上述の樹脂のペレット及び着色剤を含む原料を投入口62から成形機60内に供給する。成形機60は、供給された原料を加熱して溶融しながら、成形機60の先端側に配置された金型64の型枠内に溶融樹脂を射出する。金型64の型枠内に射出された溶融樹脂はプリフォーム70を形成する。冷却後、金型64から成形されたプリフォーム70を取り出す。
【0040】
図3の(a)に示すように、プリフォーム70を、ブロー成形用の金型66の型枠内にセットして加熱する。
図3の(b)に示すように、金型66内に固定されたプリフォーム70の開口から、延伸ロッド80を挿入してプリフォーム70の底部を押圧して、プリフォーム70の縦延伸を行う。続いて、
図3の(c)に示すように、プリフォーム70内に空気を吹き込んで、プリフォーム70の横延伸を行う。
【0041】
冷却後、金型66から容器本体10を取り出す。このようにして、一体成形された容器本体10を製造することができる。ブロー成形工程の後には、容器本体10の表面上に蒸着又はコーティングの処理を行ってもよい。ナイロン又はシリカ等の酸素バリア性を有するフィルム、又は、紫外線カット性を有するシュリンクフィルムを、容器本体10の表面上に設けてもよい。
【0042】
容器本体10の製造方法は、上述の方法に限定されない。例えば、射出成形のみで製造してもよいし、押し出し成形とブロー成形とを行うダイレクトブロー成形法によって製造してもよい。蓋30も、通常の射出成形によって製造することができる。
【0043】
容器100に収容されるドレッシング150は、醤油を含有する。醤油の含有量は、例えば、1〜80質量%であり、好ましくは5〜50質量%である。ドレッシング150に含まれる醤油は、還元糖とアミノ化合物との反応(メイラード反応)によって生成するメラノイジンを含有する。このメラノイジンは抗酸化作用を有するが、450〜550nmの波長域の光によって、ラジカルを生成し易い傾向にあると考えられる。このラジカルによって、ドレッシング150に含まれる香味成分等が分解され、劣化が進行すると考えられる。本実施形態の容器100では、胴体部12において、450〜550nmの波長域の光線透過率が55%以下であるため、このような劣化を抑制することができる。
【0044】
ドレッシング150が劣化する別の要因としては、ドレッシング150に含まれる油脂の酸化による劣化が考えられる。ドレッシング150には、通常、油脂が含まれている。例えば、ノンオイルドレッシングであっても、3質量%以下の油脂を含有する。また、ドレッシング150に含まれる、オリーブ、チキンエキス、カツオ節エキス、オニオンエキス等に由来する油脂を含有する場合もある。このような油脂の酸化には、下記式(1)に示す自動酸化と下記式(2)及び(3)に示す光増感酸化が含まれる。これらの酸化では、ハイドロパーオキサイドが生成する。
【0045】
RH +
3O
2 → ROOH (1)
式(1)中、RHは脂質分子を示し、
3O
2は三重項酸素を示し、ROOHはハイドロパーオキサイドを示す。式(1)の反応は、酸素の存在下、徐々に進行する。
【0046】
3O
2 + hν →
1O
2 (2)
RH +
1O
2 → ROOH +hν (3)
式(2)中、
3O
2は三重項酸素を示し、hはプランク定数(Js)を示し、νは振動数(s
−1)を示す。式(3)中、RHは脂質分子を示し、
1O
2は一重項酸素を示し、ROOHはハイドロパーオキサイドを示す。
【0047】
式(2)に示すように、ドレッシング150中に含まれる光増感剤は、光の照射によって励起され、隣接する酸素分子を三重項酸素から一重項酸素に励起する。この一重項酸素は、三重項酸素よりも反応性に富む。三重項酸素は、式(3)に示すように、脂質を酸化してハイドロパーオキサイドを生成する。この時に、エネルギー(hν)を放出する。このエネルギーは、式(2)に示すように、酸素分子を励起する。このように式(2)及び(3)が繰り返されることによって、酸化反応が高速で進行する。
【0048】
ここで、醤油を含むドレッシング150に含まれるメラノイジンは、式(1)及び(3)に示すような脂質の過酸化反応に対して高い抗酸化作用を有すると考えられる。すなわち、ドレッシング150は、醤油を含有することによって、式(1)及び(3)の過酸化反応を抑制することができる。このため、ドレッシング150が油脂を含有する場合、光線透過率が低減された胴体部12を備える容器本体10と、醤油に含まれるメラノイジンの相乗作用によって、ドレッシング150の劣化を効果的に抑制することができる。
【0049】
容器本体10は、少なくとも胴体部12において、450〜550nmの波長域の光線透過率が55質量%以下であるため、式(2)及び式(3)による光増感酸化を十分に抑制することができる。すなわち、ドレッシング150を容器100内で保存することによって、劣化を抑制することができる。ドレッシング150の劣化の指標は、油脂中の過酸化脂質量を示す過酸化物価(POV)で評価することができる。過酸化物価(POV)は、油脂1kg中の過酸化物によって、ヨウ化カリウムから遊離されるヨウ素量のmg数である。
【0050】
ドレッシング150における油脂の含有率は特に限定されない。ドレッシング150は、醤油に加えて、醸造酢、オリーブ、チキンエキス、カツオ節エキス、オニオンエキス、胡麻、味噌、青じそ、甘味料、香辛料、梅肉、甘味料、食塩、増粘多糖類等を含んでいてもよい。ドレッシング150の劣化を十分に抑制する観点から、油脂の含有率は10質量%未満であってもよく、3質量%未満であってもよい。
【0051】
容器100を用いていることから、油脂を含有するドレッシングであっても、ドレッシングの劣化を抑制することができる。醤油を含むものであれば、ドレッシング150の種類に特に制限はなく、ノンオイルドレッシングであってもよく、分離液状ドレッシングであってもよい。ドレッシング150における油脂含有率は、農林水産省の「ドレッシングの日本農林規格(昭和50年10月4日 農林省告第九百五十五号)における第7条に記載の測定方法によって測定することができる。
【0052】
酸素バリア性を有する成分を含有する樹脂で形成され、450〜550nmの波長域の光線透過率が80%以上である容器本体(A)と、酸素バリア性を有する成分を含有しない樹脂で形成され、450〜550nmの波長域の光線透過率が10〜55%である容器本体(B)とを用いて、醤油及び油脂を含有するドレッシングを保管した場合の油脂の酸化を以下にシミュレーションする。なお、容器本体(A)及び(B)を対比するためのシミュレーションであることから、酸素の単位は明示しない。容器本体(B)は、例えば容器本体10である。一方、容器本体(A)は比較例に相当する。
【0053】
<前提条件>
ドレッシング中の溶存酸素:30
容器中の空隙部分(ヘッドスペース)に存在する酸素:なし
容器内に流入する酸素:2/日[容器本体(A)],8/日[容器本体(B)]
酸化速度:自動酸化=1/日,光増感酸化=10/日
【0054】
<容器本体(A)で、ドレッシングを4日間保管した場合>
・容器内に存在する酸素:30+2×4=38
・酸素消費量:8×4=32
この場合、「酸素消費量>容器内に存在する酸素」であることから、容器内に存在する酸素が全て油脂の酸化反応に消費されることとなる。
【0055】
<容器本体(B)で、ドレッシングを4日間保管した場合>
・容器内に存在する酸素:30+8×4=62
・酸素消費量:1×4=4
この場合、「酸素消費量<容器内に存在する酸素」である。このため、容器内に存在する酸素は、一部のみしか消費されない。したがって、容器本体(B)の酸素バリア性が低くても、油脂の酸化を十分に抑制することができる。すなわち、容器本体10内に収容されたドレッシング150の劣化を抑制することができる。
【0056】
図4は、幾つかの実施形態に係る、種々の色に着色された容器本体10の胴体部12の光線透過率を示すグラフである。
図4のa〜eの符号は、表1の符号に対応する。表1には、容器本体10の胴体部12における色と光線透過率を示している。
【0058】
表1に示す符号a〜eの容器本体のうち、ドレッシングの劣化を十分に抑制するとともに、ドレッシングの視認性とデザイン性に優れたドレッシング用容器とする観点から、符号eのものが好ましい。
【0059】
容器本体10の胴体部12には、光バリア性を有するシュリンクフィルムが装着されていてもよい。シュリンクフィルムとしては、例えば市販のフィルム基材に遮光性インキがコーティングされたものが挙げられる。なお、本実施形態の容器本体10における胴体部12の光線透過率は、シュリンクフィルムを含まない胴体部12の光線透過率である。ただし、シュリンクフィルムが装着された胴体部12における光線透過率も、上述の範囲を満足することが好ましい。
【0060】
光線透過率を十分に低減したい場合には、容器本体10の少なくとも胴体部12に、高い光バリア性(紫外線カット性)を有するシュリンクフィルムを装着することができる。一方、ドレッシングの視認性を優先したい場合には、低い光バリア性を有するシュリンクフィルムを装着することができる。また、胴体部12の一部のみに光バリア性を有するシュリンクフィルムを装着してもよい。幾つかの実施形態では、容器100は、容器本体10の胴体部12のみならず、容器本体10の全体を覆うように、シュリンクフィルムなどのフィルムを有していてもよい。
【0061】
容器100の使用方法(
ドレッシング入り容器300の製造方法)は、開口を有する上部16、底部14、及びこれらの間に胴体部42を有し、透明又は半透明である樹脂製の容器本体10に、醤油を含有するドレッシング150を収容する工程と、上部16における開口を密閉して、容器本体10を備える容器100内にドレッシング150を密封する工程と、を有する。この使用方法は、容器100及び
ドレッシング入り容器300についての上記説明に基づいて実施することができる。容器100を、このような使用方法で使用することによって、外観及びドレッシングの視認性を良好に維持しつつ、ドレッシング150の劣化を抑制することができる。
【0062】
以上、本発明の実施形態を説明したが、本発明が上述の実施形態に限定されないことはいうまでもない。容器、容器本体及び蓋の形状は、上述の形状に限定されず、ドレッシングを収容可能な形状であれば特に限定されない。容器本体は、例えば略円柱形状であってもよく、略角柱形状であってもよい。また、胴体部にリブが形成されていてもよい。
【実施例】
【0063】
実施例及び比較例を参照して本発明の内容をより詳細に説明するが、本発明は下記の実施例に限定されるものではない。
【0064】
(実施例1)
市販のポリエステル樹脂(PET)と着色剤(緑色、大日精化工業株式会社製)とを、ポリエステル樹脂100質量部に対して着色剤4質量部の割合で配合して、成形用の原料を調製した。この原料を、
図2に示すような成形機に供給し、射出成形によって所定の形状のプリフォームを得た。次に、
図3に示すような金型を用いて延伸ブロー成形を行い、プリフォームから、緑色のポリエステル樹脂製の容器本体(内容積:280ml)を得た。
【0065】
<光線透過率の測定>
市販の分光光度計を用い、JIS K 0115:2004に準拠して、200〜800nmの波長域における、容器本体の胴体部の光線透過率を測定した。測定結果を、
図5の曲線1に示した。また、各波長範囲における光線透過率を表2に示した。
【0066】
<酸素透過度の測定>
容器本体の開口部にキャップを取り付けて密閉した。JIS K 7126−2に準拠して、容器の酸素透過度を測定した(mocon法)。具体的には、容器内に窒素ガスを供給及び排出するための一対の管体を、容器の導体部を構成する壁面を貫通させ、一対の管体の先端を容器内に配置した。窒素ガスの供給開始当初は、容器本体に溶け込んでいる酸素が溶出するため、高い酸素濃度が検出された。酸素濃度が一定値に収束するまで、窒素ガスの供給及び排出を継続して行った。酸素濃度が一定値に収束したときの酸素濃度を測定した。その結果に基づいて酸素透過度を算出したところ、0.0772ml/日であった。
【0067】
<過酸化物価(POV)の測定>
醤油と油脂を含有するドレッシング(油脂含有率:20質量%)の保管開始前の過酸化物価を測定した。この測定値を初期値とした。このドレッシングを容器本体内に充填し、容器本体の開口部にキャップを取り付けて密封し、
ドレッシング入り容器とした。密封後、常温(約20℃)において、蛍光灯の照射下、4ヶ月間保管した。1ヶ月経過毎に、容器本体内のドレッシングのサンプリングを行い、過酸化物価の測定を行った。測定結果は表3に示すとおりであった(単位:meq/kg)。
【0068】
(比較例1)
着色剤を配合しなかったこと以外は、実施例1と同様にして、無色透明のポリエステル樹脂製の容器本体を作製した。これを、比較例1の容器とした。そして、実施例1と同様にして、光線透過率、及び過酸化物価の測定を行った。容器本体の胴体部の光線透過率の測定結果を、
図5の曲線4及び表2に示した。過酸化物価の測定結果は表3に示すとおりであった。
【0069】
(比較例2)
着色剤に代えて、バリアナイロン(三菱化学株式会社製、商品名:MXナイロン)をポリエステル樹脂100質量部に対して7質量部配合したこと以外は、実施例1と同様にして容器本体を作製した。これを比較例2の容器本体とした。そして、実施例1と同様にして、光線透過率、酸素透過度、及び過酸化物価の測定を行った。容器本体の胴体部の光線透過率の測定結果を、
図5の曲線2及び表2に示した。酸素透過度は、0.0539ml/日であり、実施例1よりも低かった。過酸化物価の測定結果は表3に示すとおりであった。
【0070】
(比較例3)
比較例1の容器本体の胴体部に、シリカを蒸着させて、シリカからなるバリア層を形成した。これを比較例3の容器本体とした。そして、実施例1と同様にして、光線透過率、及び過酸化物価の測定を行った。バリア層を形成した容器本体の胴体部の光線透過率は、表2に示すとおり、比較例1とほぼ同等であった。過酸化物価の測定結果は表3に示すとおりであった。
【0071】
(比較例4)
着色剤に代えて、UV吸収剤(大日精化工業株式会社製)を、ポリエステル樹脂100質量部に対して4質量部配合したこと以外は、実施例1と同様にして容器本体を作製した。これを比較例4の容器本体とした。そして、実施例1と同様にして、光線透過率、及び過酸化物価の測定を行った。容器本体の胴体部の光線透過率の測定結果を、
図5の曲線3及び表2に示した。過酸化物価の測定結果は表3に示すとおりであった。
【0072】
【表2】
【0073】
【表3】
【0074】
表3に示すとおり、実施例1の容器本体では、過酸化物価の増加幅を各比較例よりも十分に低減することができた。このことから、実施例1の容器本体は、各比較例に比べてドレッシングに含まれる油脂の酸化を抑制できることが確認された。
【0075】
次に、市販のポリスチレン製のフィルム基材に、市販のインクを3層コーティング(白色インク、白色インク及び遮光性を有するセピア色のインク)したシュリンクフィルムを、実施例1及び比較例1〜4の各容器本体の胴体部に装着した。実施例1及び比較例1〜4のシュリンクフィルムを装着した胴体部における450〜550nmにおける光線透過率は、いずれも10%以上であった。これらを用いたこと、及び、醤油及び油脂を含有する別のドレッシング(油脂含有率:20質量%)を用いたこと以外は、上述の実施例1及び比較例1〜4と同様にして、ドレッシングを容器内に密封して保管し、1ヶ月経過毎に過酸化物価を測定した。測定は、6ヶ月が経過するまで行った。測定結果は、表4に示すとおりであった。
【0076】
【表4】
【0077】
表4に示す結果からも、実施例1の容器本体は、過酸化物価の増加幅を各比較例の容器本体よりも十分に低減できることが確認された。また、表3と表4の対比から、遮光性(紫外線カット性)を有するインクがコーティングされたシュリンクフィルムを装着することによって、ドレッシングの劣化を一層抑制できることが確認された。なお、シュリンクフィルムを装着した各容器本体の胴体部における光線透過率は、装着していない各容器本体よりも、それぞれ低くなっていたが、実施例1の
ドレッシング入り容器は、良好な外観とドレッシングの視認性を有していた。
【0078】
表3に示す実施例1及び比較例2の過酸化物価(初期値及び1ヶ月)の結果から、油脂の酸化に消費された酸素量を算出した。その結果を表5に示す。なお、過酸化物価の変化幅は、過酸化物価の初期値と1ヶ月経過後の差異を、30日で割って算出した。油脂の酸化に消費された消費量は、過酸化物価を1(meq/kg)上昇させるために必要な酸素量を0.008gと仮定して算出した。酸素の質量から体積への換算は、温度20℃、圧力1atmの前提で行った。容器本体(ボトル)に保管された油脂の量は145gとして、容器本体1本当たりの酸素消費量を算出した。
【0079】
【表5】
【0080】
表5に示す結果から、比較例2の容器本体の方が、実施例1の容器本体よりも酸素透過度が低いにもかかわらず、酸素を多く消費していたことが確認された。また、比較例2は、容器本体の酸素透過度(0.0539ml/ボトル/日)に対し、表5の酸化に消費された酸素量の方が大きくなっている。これは、ドレッシング中に溶存していた酸素、及び、容器本体内にドレッシングと共存していた空気中の酸素が、酸化に消費されたためと推察される。
【0081】
(実施例2)
上述とは別のノンオイルドレッシング(油脂含有率:3質量%以下、含有成分:醤油、オリーブ、チキンエキス)と、表1及び
図4の符号eに示す光線透過率を有する、緑色のポリエステル樹脂製の容器本体を準備した。容器本体のサイズ及び形状は実施例1及び比較例1〜4と同じである。準備したノンオイルドレッシングを容器本体内に充填し、容器本体の開口部にキャップを取り付けて密封し、
ドレッシング入り容器とした。この
ドレッシング入り容器を室内(約20℃)で1ヶ月保管した。保管後に、容器を開封して官能試験を行い、保管前からのドレッシングの臭気の変化を以下の基準で評価した。評価結果を表6に示す。
【0082】
<評価基準>
A:臭気が変化しておらず、良好な品質が維持されていた。
B:臭気が若干変化していた。
C:臭気が明らかに変化していた。
【0083】
実施例1、比較例1〜比較例4の容器本体を用いて、実施例2と同様の官能試験を行った。ドレッシングは、実施例2で用いたものと同じものとした。評価結果を表6に示す。
【表6】
【0084】
表6に示すとおり、実施例1,2では、臭気が変化しておらず、良好な品質が維持されていることが確認された。このことから、ノンオイルドレッシングの場合でも、実施例1,2のドレッシング用容器を用いることによって、外観及び視認性を良好に維持しつつ、ドレッシングの劣化を十分に抑制できることが確認された。