特許第6790531号(P6790531)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6790531
(24)【登録日】2020年11月9日
(45)【発行日】2020年11月25日
(54)【発明の名称】軟磁性金属粉末および圧粉磁心
(51)【国際特許分類】
   H01F 1/147 20060101AFI20201116BHJP
   H01F 1/22 20060101ALI20201116BHJP
   H01F 27/255 20060101ALI20201116BHJP
   C22C 38/00 20060101ALI20201116BHJP
   B22F 1/00 20060101ALI20201116BHJP
【FI】
   H01F1/147
   H01F1/22
   H01F27/255
   C22C38/00 303S
   B22F1/00 Y
【請求項の数】2
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2016-137862(P2016-137862)
(22)【出願日】2016年7月12日
(65)【公開番号】特開2018-10938(P2018-10938A)
(43)【公開日】2018年1月18日
【審査請求日】2019年4月26日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003067
【氏名又は名称】TDK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001494
【氏名又は名称】前田・鈴木国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】三浦 晃嗣
(72)【発明者】
【氏名】中澤 遼馬
(72)【発明者】
【氏名】安原 克志
(72)【発明者】
【氏名】水戸瀬 智久
【審査官】 井上 健一
(56)【参考文献】
【文献】 特開2003−082401(JP,A)
【文献】 特開2007−281017(JP,A)
【文献】 中国特許出願公開第104240890(CN,A)
【文献】 特開2002−075721(JP,A)
【文献】 特開平02−250901(JP,A)
【文献】 特開平05−195168(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2011/0050376(US,A1)
【文献】 特開2004−052095(JP,A)
【文献】 再公表特許第02/058085(JP,A1)
【文献】 特表2001−500432(JP,A)
【文献】 特開平03−294403(JP,A)
【文献】 再公表特許第2011/155494(JP,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2007/0151630(US,A1)
【文献】 特開2008−297622(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01F 1/147
H01F 1/22
H01F 1/24
H01F 27/255
B22F 1/00
C22C 38/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
Fe−Co系合金から構成される軟磁性金属粒子を複数含む軟磁性金属粉末であって、
前記Fe−Co系合金は、Coを0.50質量%以上4.00質量%以下、Siを0.50質量%以上8.00質量%以下含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなる軟磁性金属粉末(ただし、Siの含有量が6.5〜6.6質量%の範囲を除く)
【請求項2】
請求項1に記載の軟磁性金属粉末から構成される圧粉磁心。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、軟磁性金属粉末および圧粉磁心に関する。
【背景技術】
【0002】
民生および車載用等の各種電子機器の電源回路に用いられる電子部品として、トランス、チョークコイル、インダクタ等のコイル型電子部品が知られている。
【0003】
このようなコイル型電子部品は、所定の磁気特性を発揮する磁性体の周囲あるいは内部に、電気伝導体であるコイル(巻線)が配置されている構成を有している。磁性体としては、所望の特性に応じて、種々の材料を用いることができる。従来、コイル型電子部品においては、磁性体として、高透磁率かつ低電力損失であるフェライト材料が用いられてきた。
【0004】
近年、コイル型電子部品のさらなる小型化、大電流化に対応するため、フェライト材料よりも、飽和磁束密度が高く、高磁界下においても良好な直流重畳特性を有する軟磁性金属材料が磁性体として用いられている。たとえば、軟磁性金属粒子を含む軟磁性金属粉末を圧縮成形して、磁性体としての磁心(コア)を得ることができる。
【0005】
軟磁性金属材料としては、純鉄、Fe−Si系合金等が例示される。これらの材料は、Feを主成分とした金属であるため、絶縁性または耐食性(特に、酸化に対する耐食性)を高める必要があった。従来、絶縁性または耐食性を確保する方法として、軟磁性金属粒子に対して、有機物または無機物で構成される絶縁被膜を設けることが行われてきた。
【0006】
しかしながら、軟磁性金属粉末を圧縮成形する場合、それらの被膜は、軟磁性金属粒子の変形、金型との摩擦等により剥離する恐れがあった。その結果、圧縮成形後の圧粉磁心の絶縁性および耐食性の低下が問題となっていた。
【0007】
そこで、たとえば、特許文献1には、軟磁性金属粒子として、Feに、Coと、Al、Si、Cr等の元素とを添加した粒子とすることにより、絶縁性を確保することが記載されている。
【0008】
また、特許文献2には、軟磁性金属粒子として、Feに、CrおよびMnと、Si、Al等の元素とを添加した粒子とすることにより、耐食性を向上させることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2008−297622号公報
【特許文献2】特開2003−160847号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、このような実状に鑑みてなされ、その目的は、耐食性の良好な軟磁性金属粉末等を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、鉄を主成分とする合金から構成される軟磁性金属材料の耐食性、特に酸化に対する耐食性について検討した結果、湿度が高い環境等の水分が存在するような酸化環境下では、耐食性を向上させる元素として通常用いられるCrに依存しなくても、Coの含有量を特定の範囲に制御することにより軟磁性金属材料が良好な耐食性を示すことを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0012】
また、Coに加えて、Siを用いて、その含有量を特定の範囲に制御することにより金属材料が良好な軟磁気特性および耐食性を示すことを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0013】
すなわち、本発明の第1の態様は、
[1]Fe−Co系合金から構成される軟磁性金属粒子を複数含む軟磁性金属粉末であって、
前記Fe−Co系合金は、Coを0.50質量%以上8.00質量%以下含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなる軟磁性金属粉末である。
【0014】
上記の軟磁性金属粉末は、水分が存在するような酸化環境下であっても、Crに依存することなく、酸化に対して良好な耐食性を示すことができる。しかも、Coは常温で強磁性を示す元素であるため、Crを含有した場合に悪化する飽和磁化等に関し、所定の磁気特性を発揮することができる。
【0015】
[2]Coを1.00質量%以上4.00質量%以下含有する[1]に記載の軟磁性金属粉末である。
【0016】
Fe−Co系合金におけるCoの含有量の割合を上記の範囲とすることにより、上記の効果をより向上させることができる。
【0017】
[3]前記Fe−Co系合金は、さらにSiを0.50質量%以上8.00質量%以下含有する[1]または[2]に記載の軟磁性金属粉末である。
【0018】
上記の軟磁性金属粉末が、Siを上記の範囲で含有することにより、飽和磁化等に関し、所定の磁気特性を発揮しつつ、保磁力を低減できる。
【0019】
本発明の第2の態様は、
[1]から[3]のいずれかに記載の軟磁性金属粉末から構成される圧粉磁心である。
【0020】
上記の圧粉磁心は、上記の軟磁性金属粉末を用いて構成されるため、酸化に対して良好な耐食性を有していることに加えて、直流重畳特性等に関し、所定の磁気特性が得られる。さらに、Siを含有する軟磁性金属粉末を用いて圧粉磁心を構成した場合には、ヒステリシス損に関する磁気特性も良好にできる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1図1は、本発明の実施例および比較例において、Coの含有量と、軟磁性金属粉末の耐食性との関係を示すグラフである。
図2図2は、本発明の実施例および比較例において、Coの含有量と、圧粉磁心の耐食性との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明を、具体的な実施形態に基づき、以下の順序で詳細に説明する。
1.軟磁性金属粉末
2.圧粉磁心
3.軟磁性金属粉末の製造方法
4.圧粉磁心の製造方法
5.本実施形態の効果
【0023】
(1.軟磁性金属粉末)
本実施形態に係る軟磁性金属粉末は、複数の軟磁性金属粒子の集合体である。本実施形態では、軟磁性金属粒子はFe−Co系合金から構成される。Fe−Co系合金としては、第1に、Coを0.50質量%以上8.00質量%以下含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなるFe−Co合金が例示される。
【0024】
このFe−Co合金は、Coを含有することにより、粒子表面に薄いCoを含む酸化被膜が形成され、腐食の進行が妨げられると考えられる。
【0025】
したがって、このようなFe−Co合金から構成される軟磁性金属粒子を含む軟磁性金属粉末は、水分が存在するような酸化環境下における耐食性を良好にすることができる。しかも、飽和磁化等に関し、所定の磁気特性を発揮することができる。その結果、たとえば、粉末製造時における錆(酸化被膜)の発生、屋外等の多湿環境下における軟磁性金属粉末の酸化を好適に抑制することができる。さらに、当該軟磁性金属粉末を用いて圧粉磁心等の磁性磁心を構成することにより、酸化に対する耐食性が良好であり、かつ所定の磁気特性を有するコイル型電子部品等を得ることができる。
【0026】
Fe−Co合金において、Coの含有量は0.50質量%以上であり、好ましくは1.00質量%以上である。Coが少なすぎると、耐食性が悪化する傾向にある。
【0027】
また、Fe−Co合金において、Coの含有量は8.00質量%以下であり、好ましくは4.00質量%以下である。Coが多すぎると、耐食性は良好であるものの、保磁力が高くなりすぎ、コイル型電子部品等の磁性体の原料として好ましくない傾向にある。
【0028】
本実施形態に係るFe−Co系合金としては、第2に、Coを0.50質量%以上8.00質量%以下、Siを0.50質量%以上8.00質量%以下含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなるFe−Co−Si合金が例示される。このFe−Co−Si合金もCoおよびSiを含有することにより、粒子表面に薄いCoまたはCoおよびSiを含む酸化被膜が形成され、腐食の進行が妨げられると考えられる。
【0029】
したがって、Fe−Co合金と同様に、このようなFe−Co−Si合金から構成される軟磁性金属粒子を含む軟磁性金属粉末は、水分が存在するような酸化環境下における耐食性を良好にすることができる。しかも、飽和磁化等に関し、所定の磁気特性を発揮することができる。その結果、たとえば、粉末製造時における錆(酸化被膜)の発生、屋外等の多湿環境下における軟磁性金属粉末の酸化を好適に抑制することができる。さらに、当該軟磁性金属粉末を用いて圧粉磁心等の磁性磁心を構成することにより、酸化に対する耐食性が良好であり、かつ所定の磁気特性を有するコイル型電子部品等を得ることができる。特に、Fe−Co−Si合金から構成される軟磁性金属粒子を含む軟磁性金属粉末は、Fe−Co合金から構成される軟磁性金属粒子を含む軟磁性金属粉末よりも、飽和磁化等の磁気特性は若干劣る傾向にあるが、保磁力が小さい傾向にある。
【0030】
Fe−Co−Si合金において、Coの含有量は0.50質量%以上であり、好ましくは1.00質量%以上である。Coが少なすぎると、耐食性が悪化する傾向にある。
【0031】
また、Fe−Co−Si合金において、Coの含有量は8.00質量%以下であり、好ましくは4.00質量%以下である。Coが多すぎると、耐食性は良好であるものの、保磁力が高くなりすぎ、コイル型電子部品等の磁性体の原料として好ましくない傾向にある。
【0032】
さらに、Fe−Co−Si合金において、Siの含有量は0.50質量%以上であり、好ましくは3.00質量%以上である。Siを含むことにより、保磁力を低減できる。
【0033】
また、Fe−Co−Si合金において、Siの含有量は8.00質量%以下であり、好ましくは6.55質量%以下である。Siが多すぎると、保磁力の低減効果は大きくなるものの、飽和磁化等の磁気特性が悪化する傾向にあるため、コイル型電子部品等の磁性体の原料として好ましくない傾向にある。
【0034】
上記のFe−Co系合金(Fe−Co合金およびFe−Co−Si合金)は、通常、不可避的不純物を含んでいる。この不可避的不純物は、目的物(本実施形態では、軟磁性金属粉末)の原料、あるいは、製造過程等において混入し、目的物に残存する微量成分であり、目的物の所定の特性に影響を与えない程度で含有されている。
【0035】
したがって、不可避的不純物は、目的物の純度の観点からは除去した方がよいが、除去に要するコスト等と、所望の特性とのバランスを考慮して、目的物に所定量残存することが許容される成分である。
【0036】
本実施形態では、不可避的不純物としては、C、P、S、N、O等が例示される。
【0037】
また、本実施形態に係るFe−Co系合金に関して、Si以外の添加元素として、たとえば、Al等が考えられるが、これらの元素は飽和磁化等に関して所定の磁気特性が悪化する傾向にあるため、好ましくない。
【0038】
本実施形態に係る軟磁性金属粉末の平均粒子径(D50)は、用途に応じて選択すればよい。本実施形態では、平均粒子径(D50)は、1〜100μmの範囲内であることが好ましい。軟磁性金属粉末の平均粒子径を上記の範囲内とすることにより、十分な成形性あるいは所定の磁気特性を維持することが容易となる。平均粒子径の測定方法としては、特に制限されないが、レーザー回折散乱法を用いることが好ましい。なお、軟磁性金属粉末を構成する軟磁性金属粒子の形状は特に制限されない。
【0039】
(2.圧粉磁心)
本実施形態に係る圧粉磁心は、上述した軟磁性金属粉末から構成され、所定の形状を有するように形成されていれば特に制限されない。本実施形態では、当該圧粉磁心は、当該軟磁性金属粉末と結合剤とを含み、当該軟磁性金属粉末を構成する軟磁性金属粒子同士が結合剤を介して結合することにより所定の形状に固定されている。また、当該圧粉磁心は、上述した軟磁性金属粉末と他の磁性粉末との混合粉末から構成され、所定の形状に形成されていてもよい。
【0040】
このような圧粉磁心は、上述した軟磁性金属粉末から構成されているので、酸化に対する耐食性が良好であることに加えて、直流重畳特性等に関し、所定の磁気特性を発揮することができる。
【0041】
(3.軟磁性金属粉末の製造方法)
続いて、上記の軟磁性金属粉末を製造する方法について説明する。本実施形態では、軟磁性金属粉末は、公知の軟磁性金属粉末の製造方法と同様の方法を用いて得ることができる。具体的には、ガスアトマイズ法、水アトマイズ法、回転ディスク法等を用いて製造することができる。これらの中では、所望の磁気特性を有する軟磁性金属粉末が得られやすいという観点から、ガスアトマイズ法を用いることが好ましい。
【0042】
本実施形態に係る軟磁性金属粉末は、上述したように、水分が存在するような酸化環境下においても良好な耐食性を有しているので、水アトマイズ法による粉末製造時においても錆の発生を効果的に抑制することができる。
【0043】
水アトマイズ法またはガスアトマイズ法では、溶融した原料(溶湯)をルツボ底部に設けられたノズルを通じて線状の連続的な流体として供給し、供給された溶湯に高圧の水またはガスを吹き付けて、溶湯を液滴化するとともに、急冷して微細な粉末を得る。
【0044】
本実施形態では、Feの原料、Coの原料およびSiの原料を溶融し、この溶融物を、水アトマイズ法またはガスアトマイズ法により微粉化することにより、本実施形態に係る軟磁性金属粉末を製造することができる。
【0045】
(4.圧粉磁心の製造方法)
本実施形態では、このようにして得られた軟磁性金属粉末を用いて、圧粉磁心を製造する。磁心の製造方法としては、特に制限されず、公知の方法を採用することができる。まず、軟磁性金属粉末と、結合剤としての公知のバインダとを混合し、混合物を得る。また、必要に応じて、得られた混合物を造粒粉としてもよい。そして、混合物または造粒粉を金型に充填して圧縮成形し、作製すべき磁性体(磁心)の形状を有する成形体を得る。得られた成形体に対して、熱処理を行うことにより、軟磁性金属粒子が固定された所定形状の圧粉磁心が得られる。得られた圧粉磁心に、巻線を所定回数だけ巻回することにより、インダクタ等のコイル型電子部品が得られる。
【0046】
また、上記の混合物または造粒粉と、巻線を所定回数だけ巻回して形成された空心コイルとを、金型に充填して圧縮成形しコイルが内部に埋設された成形体を得てもよい。得られた成形体に対して、熱処理を行うことにより、コイルが埋設された所定形状の圧粉磁心が得られる。このような圧粉磁心は、その内部にコイルが埋設されているので、インダクタ等のコイル型電子部品として機能する。
【0047】
(5.本実施形態の効果)
上記の(1)から(4)において説明した本実施形態では、軟磁性金属粉末に含まれる軟磁性金属粒子を、Fe−Co合金粒子またはFe−Co−Si合金粒子で構成し、CoおよびSiの含有量範囲を特定の範囲としている。
【0048】
このようにすることにより、本実施形態に係る軟磁性金属粉末は、耐食性を向上させる元素として通常用いられるCrに依存することなく、酸化に対する耐食性を向上させることができる。したがって、水アトマイズ法による粉末製造時における粉末の酸化(錆の発生)を抑制できる。また、水分が存在するような多湿環境下であっても、粉末の酸化(錆の発生)を抑制できる。しかも、飽和磁化等の磁気特性を悪化させるCrではなく、常温で強磁性を示すCoを含有しているので、飽和磁化等の磁気特性をも良好にすることができる。
【0049】
また、Coに加えて、Siを特定の範囲内で含有することにより、飽和磁化等の低下を抑制して所定の磁気特性を維持しつつ、保磁力を低減することができる。
【0050】
また、本実施形態に係る圧粉磁心は、本実施形態に係る軟磁性金属粉末で構成することにより、酸化に対する耐食性が良好になる。したがって、水分が存在するような多湿環境下であっても、磁心表面における錆の発生を抑制でき、磁心が有する磁気特性が損なわれず、直流重畳特性等に関し、所定の磁気特性を発揮することができる。また、Fe−Co−Si合金粒子を含む軟磁性金属粉末から構成される圧粉磁心については、保磁力が低減されているので、ヒステリシス損を低減することができる。
【0051】
以上、本発明の実施形態について説明してきたが、本発明は上記の実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の範囲内において種々の態様で改変しても良い。
【実施例】
【0052】
以下、実施例を用いて、発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0053】
(実験例1)
まず、原料として、Fe単体およびCo単体のインゴット、チャンク(塊)、またはショット(粒子)を準備した。次に、それらを混合して、ガスアトマイズ装置内に配置されたルツボに収容した。続いて、不活性雰囲気下において、ルツボ外部に設けたワークコイルを用いて、ルツボを高周波誘導により1600℃以上まで加熱し、ルツボ中のインゴット、チャンクまたはショットを溶融、混合して溶湯を得た。
【0054】
次いで、ルツボに設けられたノズルから、線状の連続的な流体を形成するように供給された溶湯に、1〜10MPaのガス流を衝突させ、液滴化すると同時に急冷することにより、Fe−Co合金粒子からなる軟磁性金属粉末を製造した。
【0055】
得られた軟磁性金属粉末を篩い分けして、粒度を調整し、平均粒子径を25μmである軟磁性金属粉末を得た。
【0056】
得られた軟磁性金属粉末をペレット化して蛍光X線分析法により組成分析した結果、表1に示す組成を有していた。
【0057】
続いて、得られた軟磁性金属粉末の磁気特性および耐食性を評価した。磁気特性は、飽和磁化および保磁力を測定した。まず、飽和磁化は、玉川製作所製VSM(振動試料型磁力計)を用いて測定した。本実施例では、飽和磁化は大きいほど好ましい。結果を表1に示す。
【0058】
保磁力は、φ6mm×5mmのプラスチックケースに20mgの粉末を入れ、パラフィンを融解、凝固させて固定したものを、東北特殊鋼製保磁力計(K-HC1000型)を用いて測定した。測定磁界は150kA/mとした。保磁力は、粉末粒子径にも影響されるため、絶対値による評価は必要ないが、本実施例では、保磁力は純鉄(比較例1a)が示す保磁力に近いほど好ましく、1300A/m程度であれば許容範囲内である。結果を表1に示す。
【0059】
耐食性は以下のようにして評価した。まず、得られた軟磁性金属粉末を5%食塩水溶液に浸漬して、35℃で24時間維持する試験を行った。試験後の軟磁性金属粉末をイオン交換水で洗浄し、乾燥させた後、試験前後の重量から錆(酸化)による重量変化を算出し、耐食性の評価を行った。結果を表1に示す。なお、表1において、重量変化率が0.300%以上の場合を「×」と表記し、耐食性が低いと判定した。重量変化率が0.250%以上0.300%未満の場合を「△」と表記し、耐食性を有すると判定した。重量変化率が0.150%以上0.250%未満の場合を「○」と表記し、耐食性が優れていると判定した。重量変化率が0.150%未満の場合を「◎」と表記し、耐食性が非常に優れていると判定した。
【0060】
続いて、圧粉磁心の評価を行った。熱硬化樹脂であるエポキシ樹脂および硬化剤であるイミド樹脂の総量が、得られた軟磁性金属粉末100質量%に対して4質量%となるようにして、さらにアセトンに加えて溶液化し、その溶液と軟磁性金属粉末とを混合した。混合後、アセトンを揮発させて得られた顆粒を、355μmのメッシュで整粒した。これを外径17.5mm、内径11.0mmのトロイダル形状の金型に充填し、成形圧588MPaで加圧し圧粉磁心の成形体を得た。成形体重量は5gとした。作製した圧粉磁心の成形体を180℃で3時間、大気中での熱硬化処理を行った。
【0061】
熱硬化処理後の圧粉磁心に巻線を巻きつけ(一次巻線:50ts、二次巻線:10ts)、直流磁化測定装置(METRON SK110)を用いて、磁界8kA/mにおける磁束密度を測定した。本実施例では、磁束密度が大きいほど好ましい。結果を表2に示す。また、直流重畳特性は、LCRメータ(アジレント・テクノロジー社製4284A)と直流バイアス電源(アジレント・テクノロジー社製42841A)を用いて測定を行った。結果を表2に示す。表2において、直流重畳特性における初透磁率はμ0とし、μ0が80%まで低下する磁場をH(μ0×0.8)と記載した。
【0062】
また、保磁力は、軟磁性金属粉末の場合と同様にして、保磁力計(東北特殊鋼社製、K-HC1000型)にて測定した。結果を表2に示す。
【0063】
耐食性は以下のようにして評価した。まず、作製した圧粉磁心の成形体に対し、5%食塩水溶液を噴霧して、35℃で24時間保持する試験を行った。試験後の圧粉磁心をイオン交換水で洗浄し、乾燥させた後、発錆状況を光学顕微鏡(50倍)で観察し、任意の視野内において、錆と考えられる部分に印をつけ、錆が占める面積率を市販の画像解析ソフト (Mountech社製のMac View)を用いて計算した。結果を表2に示す。なお、表2において、錆が占める面積率が10.0%以上の場合を「×」と表記し、耐食性が低いと判定した。面積率が8.0%以上10.0%未満の場合を「△」と表記し、耐食性を有すると判定した。面積率が5.0%以上8.0%未満の場合を「○」と表記し、耐食性が優れていると判定した。面積率が5.0%未満の場合を「◎」と表記し、耐食性が非常に優れていると判定した。
【0064】
【表1】
【0065】
【表2】
【0066】
表1より、Fe−Co合金におけるCoの含有量が上述した範囲内である場合には、良好な耐食性が得られていることが確認できた。また、磁気特性も良好であることが確認できた。
【0067】
一方、Coの含有量が少なすぎる場合には、耐食性が悪化する傾向にあることが確認できた。また、Coの含有量が多すぎる場合には、耐食性の向上効果が飽和する傾向にあるのに対し、保磁力が大きくなるので好ましくないことが確認できた。
【0068】
上記の傾向は、Coの含有量と軟磁性金属粉末の耐食性との関係を示すグラフである図1からも明らかである。すなわち、図1は、Coの含有量が増えるにつれ、耐食性が良好になることを示している。
【0069】
また、表2より、圧粉磁心についても、表1の粉体と同様に、良好な耐食性および磁気特性が得られていることが確認できた。上記の傾向は、図1と同様に、Coの含有量と、圧粉磁心の耐食性と、の関係を示すグラフである図2からも明らかである。
【0070】
(実験例2)
原料として、Fe単体およびCo単体に加えて、Si単体を用いて、Fe−Co−Si合金とした以外は、実験例1と同じ方法により粉末試料を作製し、実験例1と同じ方法により組成および粉体特性を評価した。結果を表3に示す。
【0071】
また、上記で作製したFe−Co−Si合金の軟磁性金属粉末を用いて、実験例1と同じ方法により圧粉磁心の試料を作製し、実験例1と同じ方法により磁心特性を評価した。結果を表4に示す。
【0072】
【表3】
【0073】
【表4】
【0074】
表3より、Fe−Co−Si合金の場合についても、実験例1と同様に、Coの含有量およびSiの含有量が上述した範囲内である場合には、良好な耐食性が得られていることが確認できた。図1も、Siの含有量が6.5質量%の場合に、Coの含有量が増えるにつれ、耐食性が良好になることを示している。また、磁気特性も良好であることが確認できた。
【0075】
また、表4より、圧粉磁心についても、表3の粉体と同様に、良好な耐食性および磁気特性が得られていることが確認できた。図2も、Siの含有量が6.5質量%の場合に、Coの含有量が増えるにつれ、耐食性が良好になることを示している。
図1
図2