特許第6790545号(P6790545)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6790545
(24)【登録日】2020年11月9日
(45)【発行日】2020年11月25日
(54)【発明の名称】電極の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/04 20060101AFI20201116BHJP
   H01M 4/1391 20100101ALN20201116BHJP
【FI】
   H01M4/04 Z
   !H01M4/1391
【請求項の数】10
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2016-143342(P2016-143342)
(22)【出願日】2016年7月21日
(65)【公開番号】特開2018-14249(P2018-14249A)
(43)【公開日】2018年1月25日
【審査請求日】2019年3月28日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003997
【氏名又は名称】日産自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002468
【氏名又は名称】特許業務法人後藤特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100075513
【弁理士】
【氏名又は名称】後藤 政喜
(74)【代理人】
【識別番号】100120260
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 雅昭
(74)【代理人】
【識別番号】100148231
【弁理士】
【氏名又は名称】村瀬 謙治
(74)【代理人】
【識別番号】100187137
【弁理士】
【氏名又は名称】小澤 和敏
(72)【発明者】
【氏名】柴原 壮太
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 仁
(72)【発明者】
【氏名】上原 義貴
【審査官】 吉川 潤
(56)【参考文献】
【文献】 特開平06−203830(JP,A)
【文献】 特開平11−144715(JP,A)
【文献】 特開平03−140401(JP,A)
【文献】 特開2006−068795(JP,A)
【文献】 特開2005−145737(JP,A)
【文献】 特開2012−069310(JP,A)
【文献】 特開2014−056747(JP,A)
【文献】 特開2000−127123(JP,A)
【文献】 特開2004−171890(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/02 − 4/04
H01M 4/1391
B28B 3/00
B30B 11/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電極の集電体に空孔が形成された活物質層を形成する形成工程と、
前記活物質層の表面を、液体の少なくとも一部が前記空孔の幅よりも大きい固体へと相転移した流体により加圧しつつ、前記空孔への前記流体の流入を前記固体により抑制する加圧工程と、
を含むことを特徴とする電極の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の電極の製造方法であって、
前記加圧工程では、前記流体としてゲル状の流体を用いて前記活物質層の表面を加圧する、
電極の製造方法。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の電極の製造方法であって、
前記加圧工程では、前記集電体に前記活物質層を積層した積層体を容器に収容し、前記容器に前記流体を満たして前記活物質層の表面を加圧する、
電極の製造方法。
【請求項4】
請求項1又は請求項2に記載の電極の製造方法であって、
前記加圧工程では、前記集電体に前記活物質層を積層した積層体を容器に収容し、前記容器に満たされた液体の一部を固化させることにより前記活物質層の表面を加圧する、
電極の製造方法。
【請求項5】
請求項3又は請求項4に記載の電極の製造方法であって、
前記加圧工程では、前記容器の温度及び圧力のうちの少なくとも一方を変化させることにより前記流体を生成する、
電極の製造方法。
【請求項6】
請求項5に記載の電極の製造方法であって、
前記加圧工程では、前記流体の体積膨張により前記活物質層の表面を加圧する、
電極の製造方法。
【請求項7】
請求項5に記載の電極の製造方法であって、
前記流体は、有機溶媒であり、
前記加圧工程では、前記容器の容積を小さくすることにより前記容器の圧力を高くする、
電極の製造方法。
【請求項8】
請求項7に記載の電極の製造方法であって、
前記有機溶媒は、凝固点が0℃から25℃までの液体である、
電極の製造方法。
【請求項9】
請求項7又は請求項8に記載の電極の製造方法であって、
前記有機溶媒は、少なくともエチレンカーボネートを含む、
電極の製造方法。
【請求項10】
請求項1から請求項9までのいずれか1項に記載の電極の製造方法であって、
前記形成工程では、前記活物質層の断面形状が凹凸状となるよう前記活物質層を形成する、
電極の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、電極の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、3次元的立体的構造を有する電極の密度を高めるため、電極の集電体に活物質層を積層した積層体をチャンバに収容してチャンバ内にアルゴンガスを充填することにより活物質層の表面を加圧する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2012−69310号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述のような加圧技術では、活物質層の表面に対して、活物質層の内部圧力よりも大きな圧力が加わるようにチャンバ内の圧力を高くする必要がある。
【0005】
しかしながら、チャンバ内に満たされたアルゴンガスは活物質層の空孔に入り込むため、チャンバ内の圧力上昇に伴って活物質層の内部圧力も上昇してしまう。その結果、チャンバ内の圧力を15MPa(メガパスカル)よりも高くしなければならず、耐圧性の高い容器が必要になる。これに伴い設備の構成が複雑になり設備自体が大掛かりになることから、電極の製造コストが増加するという問題がある。
【0006】
本発明は、このような問題点に着目してなされたものであり、電極の製造コストを抑制しつつ活物質層の密度を高める電極の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のある態様によれば、電極の製造方法は、集電体に空孔が形成された活物質層を形成する形成工程と、前記活物質層の表面を液体の少なくとも一部が空孔の幅よりも大きい固体へと相転移した流体により加圧しつつ、空孔への流体の流入を固体により抑制する加圧工程を含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
この態様によれば、電極の製造コストを抑制しつつ活物質層の密度を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1は、本発明の第1実施形態における電極を含む二次電池の断面構造の一例を示す断面図である。
図2図2は、本実施形態における二次電池の製造方法のうち集電箔の配置工程から電極層の加圧工程までの一連の工程を説明する図である。
図3図3は、二次電池の製造方法のうち加圧後の電極層の搬出工程から電極層の重ね合わせ工程までの一連の工程を説明する図である。
図4図4は、電極層の表面をゲル状の流体によって加圧する加圧ユニットの構成例を示す構成図である。
図5図5は、加圧ユニットによる電極層の加圧状態を示す模式図である。
図6図6は、加圧ユニットによる電極層の密度変化を示す図である。
図7図7は、本実施形態における二次電池の製造方法の一例を示すフローチャートである。
図8図8は、電極層の加圧工程に関する処理手順例を示すフローチャートである。
図9図9は、本発明の第2実施形態における電極層の加圧工程に関する処理手順例を示すフローチャートである。
図10図10は、本発明の第3実施形態における加圧ユニットの構成例を示す構成図である。
図11図11は、本発明の第4実施形態における二次電池の内部構成を示す図である。
図12図12は、本実施形態における二次電池の製造方法の一連の工程を説明する図である。
図13図13は、容器に電極の積層体を搬入した加圧ユニットの外観を示す外観図である。
図14図14は、本実施形態における二次電池の製造方法の一例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、添付図面を参照しながら本発明の実施形態について説明する。
【0011】
(第1実施形態)
図1は、本発明の第1実施形態における二次電池10の構造を示す断面図である。
【0012】
二次電池10は、充電及び放電を交互に繰り返し行うことが可能な電池である。二次電池10は、例えば、電動車両に搭載されて、電動車両の電動モータ等に電力を供給したり、電動モータによる回生電力を蓄えたりする。
【0013】
二次電池10は、例えばリチウムイオン電池により実現される。二次電池10は、第1電極積層体1と、セパレータ層2と、第2電極積層体3とを有する。第1電極積層体1は、第1の集電箔1aと電極層1bを有し、第2電極積層体3は、第2の集電箔3aと対極電極層3bを有する。
【0014】
第1の集電箔1aの表面には電極層1bが形成され、電極層1bの表面にはセパレータ層2が形成され、セパレータ層2の表面には対極電極層3bが形成され、対極電極層3bには第2の集電箔3aが形成される。本実施形態では、二次電池10は、セパレータ層2を介して第1電極積層体1と第2電極積層体3を互いに重ね合わせることにより形成される。
【0015】
第1の集電箔1aは、二次電池10の基板であり、電子を通す集電層を構成する。本実施形態における第1の集電箔1aは、電子を通しつつイオンを遮断するイオン隔壁である。第1の集電箔1aは、正極集電層及び負極集電層のうちの一方の集電層を構成する。正極集電層は、例えばアルミニウムなどにより形成され、負極集電層は、例えば銅などにより形成される。
【0016】
電極層1bは、正極層及び負極層のうち一方の電極層を構成する。正極層は、正極活物質の材料、例えばLiCoO2(LCO)により形成される。負極層は、負極活物質の材料、例えばLi4Ti512(LTO)により形成される。このように、電極層1bは活物質層により形成される。
【0017】
セパレータ層2は、正極層と負極層の間でイオンを透過させるものの、正極層と負極層を電気的に絶縁する。セパレータ層2は、例えば、複数の固体電解質を連続して形成した薄膜であり、ポリエチレンオキサイド及びポリスチレンにより形成される。
【0018】
対極電極層3bは、電極層1bの極性に対して反対の極性を有する電極層であり、正極層及び負極層のうち他方の電極層を構成する。例えば、電極層1bが正極層である場合は、対極電極層3bが負極層となる。
【0019】
第2の集電箔3aは、第1の集電箔1aと同様、電子を通しつつイオンを遮断するイオン隔壁である。第2の集電箔3aは、正極集電層及び負極集電層のうち他方の集電層を構成する。例えば、第1の集電箔1aが正極集電層である場合は、第2の集電箔3aが負極集電層となる。
【0020】
次に、本実施形態における二次電池10の製造方法について図2及び図3を参照しながら説明する。
【0021】
図2は、二次電池10の製造方法のうち集電箔1aの配置工程から電極層1bの加圧工程までの一連の工程を説明する図である。図2(a)は集電箔1aの配置工程を示し、図2(b)は電極層1bの形成工程を示し、図2(c)は電極層1bの乾燥工程を示し、図2(d)は電極層1bの加圧工程を示す。
【0022】
まず、図2(a)に示すように、二次電池10の基板である第1の集電箔1aがプレートに配置される。
【0023】
そして、図2(b)に示すように、第1の集電箔1aの表面(上)に、断面形状が凹凸状となるよう電極層1bが形成される。
【0024】
続いて、図2(c)に示すように、電極層1bに含まれる溶媒が揮発するよう、例えば不図示の加温器を用いて電極層1bが加熱される。加温器は、例えば第1の集電箔1aの裏面(下)に配置される。
【0025】
その後、図2(d)に示すように、加圧ユニット90を用いて電極層1bの表面が加圧(プレス)される。これにより、電極層1bの密度を高めることができる。
【0026】
このように、図2(a)から図2(d)までの一連の工程を実行することにより、第1電極積層体1が形成される。さらに第1電極積層体1と同様に、第2電極積層体3が形成される。
【0027】
次に、二次電池10の製造方法における電極層1bの加圧工程後の工程について説明する。
【0028】
図3は、二次電池10の製造方法のうち第1電極積層体1の搬出工程から第2電極積層体3の重ね合わせ工程までの一連の工程を説明する図である。図3(e)は、加圧後の第1電極積層体の搬出工程を示し、図3(f)はセパレータ層2の形成工程を示し、図3(g)は第2電極積層体3の重ね合わせ工程を示す。
【0029】
図2(d)に示した加圧工程が終了した後、図3(e)に示すように、電極層1bの表面を加圧した第1電極積層体1が加圧ユニット90の容器から取り出される。
【0030】
続いて、図3(f)に示すように、電極層1bの表面に、不図示のスプレー手段を用いて薄膜のセパレータ層2が塗布される。その後、セパレータ層2が不図示の加熱器を用いて加熱されてセパレータ層2の揮発溶媒が取り除かれる。これにより、セパレータ層2が乾燥する。
【0031】
その後、図3(g)に示すように、第1電極積層体1と同様に形成された第2電極積層体3がセパレータ層2の表面に積層される。本実施形態においては、セパレータ層2を介して第1電極積層体1と第2電極積層体3が互いに重ね合わされる。これにより、三次元構造を有する二次電池10が形成される。
【0032】
次に、本実施形態における電極層1bの加圧工程について説明する。
【0033】
図4は、電極層1bの表面をゲル状の流体により加圧する加圧ユニット90の構成例を示す模式図である。
【0034】
加圧ユニット90は、第1電極積層体1を収容するための容器91と、第1電極積層体1を設置するステージ92と、第1電極積層体1を搬送するキャリア93と、容器91を冷却する冷却機94とを備える。
【0035】
そして、加圧ユニット90は、流体を溜める流体タンク901と、流体タンク901に溜められた流体を吐出するポンプ902と、ポンプ902から吐出された流体を容器91に供給する供給通路904と、供給通路904を開閉するバルブ903とを備える。また、加圧ユニット90は、容器91から流体を排出する排出通路905と、排出通路905を開閉するバルブ906とを備える。さらに加圧ユニット90は、流体タンク901の内部温度を調整する温度調整器95を有する。
【0036】
流体タンク901には、液体の一部が固体へと相転移した流体が溜められている。例えば、水や有機溶媒などの液体の一部が固化したゲル状の流体が流体タンク901に溜められる。有機溶媒としては、例えば、セパレータ層2に注入される電解液が用いられる。流体タンク901内の流体がゲル状態で維持されるよう、温度調整器95によって流体タンク901の内部温度が調整される。
【0037】
容器91の内部空間SPに第1電極積層体1が搬入されると、バルブ906が閉じられ、その後にバルブ903が開かれてポンプ902が駆動される。これにより、流体タンク901から供給通路904を介してゲル状の液体が容器91に供給される。内部空間SPにゲル状の液体が充填されると、容器91の圧力が所定の値に達するまでポンプ902が駆動される。ここにいう所定の値は、電極層1bの密度が高まるよう実験等を通じてあらかじめ定められた圧力値である。
【0038】
図5(a)は、電極層1bの加圧状態を観念的に示す。図5(a)に示すように、容器91に満たされた流体91aによって、凹凸状の電極層1bの表面に圧力が均一に加えられる。
【0039】
ゲル状の流体91aには液体の一部が固化したものが含まれており、この固体は、電極層1bに形成された空孔の幅よりも大きい。このため、電極層1bに存在する多数の空孔への流体の流入が抑制されるとともに、固体により一部の空孔が塞がれるので電極層1bの空孔に液体が入り込み難くなる。
【0040】
仮に電極層1bの表面を液体だけで加圧しようとすると、電極層1bの多数の空孔に液体が入り込むため、容器91の圧力上昇に伴って電極層1bの内部圧力も上昇する。その結果、電極層1bの表面を加圧するのに必要となる容器91の圧力を、例えば15MPa(メガパスカル)よりも高くしなければならず、加圧ユニットの構成が複雑で大掛かりなものとなってしまう。このため、高価な加圧ユニットを準備することが必要になるので、電極の製造に要する設備費用が増加する。
【0041】
これに対し、本実施形態によれば、ゲル状の流体91aを用いることにより、液体のみを用いる場合に比べて容器91の圧力上昇に伴う電極層1bの内部圧力の上昇を抑えることができる。よって、電極層1bの内部圧力と電極層1bの外部圧力との差圧を確保するために、容器91の圧力を、例えば15Mpa(メガパスカル)よりも高くする必要がなくなる。したがって、加圧ユニット90の設備費用の増加を抑制しつつ電極層1bの密度を高めるこができる。
【0042】
図5(b)は、図5(a)に示した加圧工程後の電極層1bの断面形状を示す。図5(b)に示すように、電極層1bが損傷せず、かつ、電極層1bの縦と横の比率(アスペクト比)が変化することなく、電極層1bの密度を均一に高めることができる。
【0043】
このように、電極層1bの表面を、液体ではなく液体の一部が固体へと相転移したゲル状の流体を用いて加圧することにより、電極層1bの空孔に流体が入り込み難くなるので、電極層1bの内部圧力が増加するのを抑えることができる。したがって、容器91の圧力が高くなり過ぎるのを回避できるので、加圧ユニット90の設備費用の増加を抑制することができる。このため、第1電極積層体1及び第2電極積層体3に要する製造コストを低減することができる。
【0044】
図6は、水及び氷が混合したゲル状の流体を用いて電極層1bを加圧したときの電極層1bの体積の変化を説明する図である。図6では、電極Aは、加圧前の電極層1bの膜厚であり、電極Bは、加圧後の電極層1bの膜厚である。
【0045】
図6に示すように、水及び氷が混合したゲル状の流体により電極層1bの膜厚が小さくなる。例えば、黒鉛の負極活物質によって形成された電極層1bをゲル状の流体により加圧したときには、電極層1bの膜厚は約30%(パーセント)小さくなる。なお、使用する活物質材料の種類や、電極層1bの各種物性(電極密度、材料の混合比など)により電極層1bの膜厚の変化量は異なる。
【0046】
このように、ゲル状の流体を用いることにより、電極層1bのアスペクト比を変えることなく、電極層1bの密度を高めることができる。
【0047】
図7は、本実施形態における二次電池10の製造方法に関する工程を示すフローチャートである。
【0048】
ステップS110においては、電極層1bを形成するために、例えば、フォトリソグラフィ法や、ノズルスキャン法、スリットダイコータ方式、インクジェット方式などにより、集電箔1aの表面にスラリー状の電極部材が塗布される。
【0049】
ステップS120においては、電極層1bを乾燥させるために、例えば加温器により電極層1bが加熱される。これにより、電極層1bに含まれる揮発溶媒が取り除かれる。
【0050】
ステップS130においては、電極層1bの密度を高めるために、加圧ユニット90により電極層1bが加圧される。この電極層1bの加圧工程については図8を参照して後述する。
【0051】
ステップS140においては、セパレータ層2を形成するために、例えば、スプレー方式やインクジェット方式などにより、電極層1bの表面にセパレータ部材が塗布される。
【0052】
ステップS150においては、対極の電極積層体を形成するために、第1電極積層体1と同様に形成された第2電極積層体3をセパレータ層2の表面に重ね合わせる。
【0053】
ステップS160においては、二次電池10を形成するためにセパレータ層2に電解液が注入される。
【0054】
図8は、ステップS130で実行される電極層1bの加圧工程における処理手順の一例を示すフローチャートである。
【0055】
ステップS131において加圧ユニット90は、容器91に第1電極積層体1を搬入してキャリア93に配置する。
【0056】
ステップS132において加圧ユニット90は、流体タンク901からゲル状の流体を容器91の内部空間SPに導入する。
【0057】
ステップS133において加圧ユニット90は、ポンプ902を駆動して容器91の圧力を所定の値まで高めることにより、電極層1bの表面をゲル状の流体により加圧する。
【0058】
ステップS134において加圧ユニット90は、容器91からゲル状の流体を排出通路905に排出する。
【0059】
ステップS135において加圧ユニット90は、容器91から第1電極積層体1を搬出して、電極層1bの加圧工程に関する一連の処理を終了する。
【0060】
このように、容器91に導入する流体としてゲル状の流体を用いることにより、電極層1bの内部圧力の上昇が抑えられることから、容器91の耐圧性を高める必要がなくなるため、加圧ユニット90の構成を簡素にすることができる。したがって、加圧ユニット90に要する費用を低減することができる。
【0061】
本発明の第1実施形態によれば、電極の製造方法は、ステップS110及び120において集電体1aの表面に電極層1bを構成する活物質層を形成する形成工程と、ステップ130において活物質層の表面を、液体の少なくとも一部が固体へと相転移した流体91aにより加圧する加圧工程を含む。
【0062】
このように、電極層1bの表面を加圧する流体として、液体と固体が混在する流体91aを用いることにより、活物質層の空孔に流体91aが入り込み難くなるため、電極層1bの内部圧力の上昇が抑えられる。したがって、電極層1bの加圧に必要となる容器91の圧力を抑制することができるので、加圧ユニット90に要する費用の増大を抑制しつつ電極層1bの密度を高めることができる。
【0063】
また、本実施形態によれば、ステップS130において加圧ユニット90は、流体91aとしてゲル状の流体を用いて電極層1bの表面を加圧する。これにより、電極層1bの内部圧力の上昇を抑制しつつ電極層1bの密度を高めることができる。
【0064】
また、本実施形態によれば、ステップS130において加圧ユニット90は、集電体1aに電極層1bを積層した積層体1を容器91に収容し、図5(a)に示したように、容器91にゲル状の流体91aを満たして電極層1bの表面を加圧する。
【0065】
このように、流体タンク901からゲル状の流体91aを容器91に導入するだけで済むので、加圧ユニット90の構成を複雑にすることなく電極層1bの密度を高めることができる。すなわち、二次電池10の製造コストを抑制することができる。
【0066】
また、本実施形態によれば、ステップS110において塗工ユニットは、電極層1bの断面形状が凹凸状となるよう電極層1bを形成する。これにより、電極層1bの表面積が大きくなるので、電子の移動量が多くなって効率よく充放電を繰り返すことが可能になる。これに加えて、電極層1bを加圧することにより電極層1bの密度が高くなるので、二次電池10の充放電性能をさらに向上させることができる。
【0067】
本実施形態ではゲル状の流体91aをそのまま容器91に導入したが、容器91に液体のみを導入した後、容器91の内部空間SBに溜められた液体の一部を固化するようにしてもよい。以下では、容器91内の液体の一部を固化させる実施形態について説明する。
【0068】
(第2実施形態)
本発明の第2実施形態の加圧ユニットは、図4に示した加圧ユニット90の構成と基本的に同じである。そのため、図4に示した構成と同じものについては同一符号を付して説明する。
【0069】
本実施形態の流体タンク901には、ゲル状の流体ではなく、水や電解液などの液体のみが蓄えられている。そして、加圧ユニット90は、ポンプ902を駆動して容器91に液体を導入し、容器91に液体が満たされた状態で冷却機94を用いて容器91を冷却する。
【0070】
本実施形態では、加圧ユニット90は、容器91に満たされた液体の一部が固体へと相転移するまで容器91を継続して冷却する。そして加圧ユニット90は、ポンプ902を駆動して容器91の圧力を所定の値まで上昇させる。
【0071】
例えば、流体タンク901に溜められる液体として水を用いる場合には、加圧ユニット90は、容器91に水を充填し、その状態で容器91の内部温度を例えば0℃まで低下させる。そして、水と氷が混ざり合ってゲル状の流体になった時点で容器91の圧力を所定の値まで上げる。
【0072】
このように、加圧ユニット90は、容器91に液体を充填した後、容器91に充填した液体の一部を固化させることによりゲル状の流体を生成する。そして加圧ユニット90は、容器91の圧力を上昇させることにより、電極層1bの表面をゲル状の流体で加圧する。
【0073】
図11は、本実施形態における電極層1bの加圧工程における処理手順例を示すフローチャートである。
【0074】
本実施形態の加圧工程は、図7に示したステップS132の処理に代えてステップS132a及びS132bの処理を備えている。他の処理については図7に示した処理内容と同じであるため、同一符号を付して説明を省略する。
【0075】
ステップS132aにおいて加圧ユニット90は、流体タンク901に蓄えられた液体をそのまま容器91に導入する。
【0076】
ステップS132bにおいて加圧ユニット90は、冷却機94を用いて容器91の液体の一部を固化させる。これにより、電極層1bの表面にはゲル状の流体が生成される。その後ステップS133の処理により電極層1bの表面が加圧される。
【0077】
なお、本実施形態では、容器91に配置した冷却機94を用いて容器91の内部温度を低下させる例について説明したが、流体タンク901や供給通路904などに冷却機94を配置し、容器91に導入する前に液体をゲル状の流体に転移させるようにしてもよい。
【0078】
あるいは、流体タンク901や供給通路904などに新たに冷却機を配置し、液体を固化しない程度に冷却して容器91へ導入するようにしもよい。これにより、液体をゲル状の流体に転移させるまでの時間を短くすることができる。
【0079】
または、凝固点が室温又は0℃〜25℃程度の電解液を流体タンク901に蓄えておき、温度調整器95を用いて流体タンク901の内部温度を室温よりも高い温度に維持するようにしてもよい。これにより、流体タンク901から容器91に電解液を導入するだけで、容器91の内部空間SBで電解液の一部が固化してゲル状の流体が生成されるので、冷却機94を駆動することなく、電極層1bの表面をゲル状の流体で加圧することが可能になる。したがって、冷却機94の消費電力を削減することができる。
【0080】
本発明の第2実施形態によれば、ステップS132bにおいて加圧ユニット90は、第1電極積層体1を容器91に収容し、容器91に充填した液体の一部を固化させることにより電極層1bを構成する活物質層の表面を加圧する。これにより、容器91に流体を充填するのに要する時間が短くなるので、速やかに電極層1bの加圧工程を完了させることができる。
【0081】
また、本実施形態によれば、加圧ユニット90は、容器91の内部温度を変化させることによりゲル状の流体を生成する。例えば、流体として水を容器91に導入した場合には、加圧ユニット90は、冷却機94を用いて液体の温度を低下させることにより、水と氷が混ざったゲル状の流体を生成する。このように、流体として水を用いる場合には、高価な溶媒を使用することなく、速やかに電極層1bの加圧工程を完了させることができる。
【0082】
なお、本実施形態では、容器91に充填した液体の一部を固体へと相転移させる例について説明したが、冷却機94を用いて容器91に充填した液体の全部を固化させるようにしてもよい。このような場合には、液体から固体への体積膨張により電極層1bの表面をさらに加圧することが可能になる。例えば、加圧ユニット90は、容器91の圧力を所定の値まで高くした状態で冷却機94を用いて液体の全てを固化させる。これにより、電極層1bの密度をさらに高めることができる。
【0083】
また、本実施形態では容器91内の液体の温度を変化させることでゲル状の流体を生成したが、これに限られるものではない。以下に容器91の圧力を変化させることでゲル状の流体を生成する実施形態について説明する。
【0084】
(第3実施形態)
図10は、本発明の第3実施形態における加圧ユニット90の構成を示す模式図である。
【0085】
本実施形態の加圧ユニット90は、図4に示した容器91に代えて容器96a及び加圧部96bを備えている。他の構成については図4に示した構成と同じであるため、同一符号を付して説明を省略する。
【0086】
本実施形態では、流体タンク901に液体の電解液が蓄えられている。電解液としては電解液に僅かな圧力を加えることで固化するものが好ましい。例えば、少なくともエチレンカーボネートを含む流体が挙げられる。このエチレンカーボネートの凝固点は34℃〜37℃程度であり、エチレンカーボネートに僅かに圧力を加えることでエチレンカーボネートは固化しやすくなる。
【0087】
加圧ユニット90は、流体タンク901から液体の電解液を容器96aに導入し、ポンプ902を駆動して容器96aに電解液を充填する。そして、加圧ユニット90は、加圧部96bをステージ92に向かって下げることで、容器96aと加圧部96bとで形成される内部空間SPの体積を小さくする。
【0088】
これにより、容器96aの電解液が固化しながら容器96aの圧力が高くなるので、ゲル状の流体により電極層1bの表面を加圧することができる。このように、容器96aの圧力を高くするだけで、容器96aの電解液を液体からゲル状の流体へと転移させるとともに電極層1bを加圧することができる。
【0089】
本発明の第3実施形態によれば、ステップS130において加圧ユニット90は、容器96aの圧力を変化させることによってゲル状の流体を生成する。これにより、第2実施形態とは異なり、容器96aに充填した流体を冷却する冷却工程を省略できるので、加圧ユニット90の消費電力を抑制しつつ、電極層1bの密度を高めるのに要する時間を短くすることができる。
【0090】
また、本実施形態によれば、流体タンク901に蓄えられた液体は有機溶媒であり、加圧ユニット90は、容器96aの容積を小さくすることにより内部空間SPの圧力を高くする。これにより、僅かに加圧することで固化しやすくなる有機溶媒を、液体からゲル状の流体に相転移させることが可能になる。
【0091】
有機溶媒としては、凝固点が0℃から25℃までの液体を用いるのが好ましい。これにより、冷却機を用いることなく容器96aにおいて有機溶媒がゲル状に相転移するので、冷却工程を省略することができる。
【0092】
例えば、有機溶媒としてはエチレンカーボネートを含む流体が挙げられる。エチレンカーボネートは、凝固点が34℃〜37℃であって室温に近く、かつ、僅かな圧力で固化しやすいという特性を有している。さらに電解液に用いられる有機溶媒であることから、流体として水を用いる場合に比べて、電極層1bの加圧工程後にエチレンカーボネートを取り除く必要性はない。このように、二次電池10に対して親和性の高いエチレンカーボネートを用いることにより、二次電池10の製造に要する工程を簡素にすることができる。
【0093】
また、容器96aの内部圧力と内部温度を調整することで有機溶媒の凝固点が変わることから、有機溶媒の凝固点が室温となるよう圧力部96b及び冷却機の作動を制御するようにしてもよい。これにより、加圧ユニット90の消費電力の低減と二次電池10の製造工程の簡素化とを図ることが可能になる。
【0094】
なお、上記実施形態ではセパレータ層2を介して第1電極積層体1と第2電極積層体3とを組み合わせたが、二次電池10の電極構造はこれに限られるものではない。
(第4実施形態)
図11は、本発明の第4実施形態における二次電池を構成する電極積層体20の構造を示す模式図である。図11(a)は電極積層体20の俯瞰を示し、図11(b)は図11(a)のA−A断面を示す。
【0095】
図11(b)に示すように、電極積層体20は、第1電極積層体21と第2電極積層体22と、基板23とを有する。
【0096】
第1電極積層体21は、図1に示した第1電極積層体1に対応し、第1の集電箔21aと電極層21bとを有する。第2電極積層体22は、図1に示した第2電極積層体3に対応し、第2の集電箔22aと対極電極層22bとを有する。
【0097】
図11(a)に示すように、電極層1bと対極電極層3bとが交互に直線的に形成されており、第1の集電箔21aは、各電極層1bの一端を通過するように形成され、第2の集電箔22aは、各対極電極層3bの他端を通過するように形成される。
【0098】
図12は、本実施形態における二次電池11の製造方法の一例を説明する図である。
【0099】
図12(a)乃至図12(d)は、それぞれ、電極層21bと対極電極層22bの形成工程、加圧工程、搬出工程、及び封入工程を示す。
【0100】
図12(a)に示すように、基板23に形成された第1及び第2の集電箔21a及び22aの上に、それぞれ電極層21b及び対極電極層22bが形成される。電極層21b及び対極電極層22bは、例えばフォトリソグラフィ法により形成される。
【0101】
図12(b)に示すように、図4に示した加圧ユニット90を用いて電極層21b及び対極電極層22bの表面が加圧される。すなわち、電極層21b及び対極電極層22bの表面がゲル状の流体により加圧される。これにより、電極層21b及び対極電極層22bの密度が大きくなる。
【0102】
図12(c)に示すように、加圧ユニット90から電極積層体20が搬出され、図12(d)に示すように、電極積層体20を嵌め込んだ筐体24に電解液が充填される。これにより、二次電池11が形成される。
【0103】
図13は、本実施形態における加圧ユニット90の構成を示す模式図である。
【0104】
本実施形態では、二次電池11に封入される電解液をゲル状にした流体が流体タンク901に溜められており、流体タンク901から供給通路904を通じてゲル状の電解液が容器91に導入される。そして容器91の圧力が所定の値に達するまでポンプ902が駆動される。その後、容器91からゲル状の電解液が排出通路905へ排出されて、電極積層体20が搬出される。
【0105】
本実施形態では、ゲル状の流体として電解液を用いることにより、電極積層体20の搬出後に電極積層体20に付着した電解液を除去する必要がなくなることから、電極積層体20の乾燥工程を省略することができる。
【0106】
図14は、本実施形態における二次電池11の製造方法に関する工程の一例を示すフローチャートである。
【0107】
ステップS210において図10(a)に示したように電極積層体20が形成され、ステップS220において電極積層体20が乾燥するように電極積層体20が加熱される。
【0108】
ステップS230において加圧ユニット90は、例えば、図7及び図8に示したステップS130の加圧工程と同じように、電極層21b及び対極電極層22bの表面をゲル状の電解液によって加圧する。加圧後の電極積層体20は、電解液を取り除く必要がないため、乾燥させることなく搬出される。
【0109】
ステップS240において電極積層体を嵌め込んだ筐体24に電解液が充填されて二次電池11が形成され、二次電池11の製造方法の一連の工程が終了する。
【0110】
本発明の第4実施形態によれば、加圧ユニット90は、電極層21b及び対極電極層22bの表面を加圧する流体としてゲル状の流体を容器91に充填する。これにより、加圧後における電極積層体20の乾燥工程を省略できるので、二次電池11の製造時間を短縮することができる。
【0111】
また、本実施形態によれば、断面形状が凹凸状となるよう電極積層体20を形成することにより、電極層21b及び対極電極層22bの表面積が大きくなるので、二次電池11の充放電性能を高めることができる。
【0112】
なお、二次電池11を形成するにあたり、必要に応じて電極積層体20の表面にセパレータ層を形成するようにしてもよい。このような場合であっても上記実施形態と同様の作用効果を得ることができる。
【0113】
以上、本発明の実施形態について説明したが、上記実施形態は本発明の適用例の一部を示したに過ぎず、本発明の技術的範囲を上記実施形態の具体的構成に限定する趣旨ではない。
【0114】
なお、上記実施形態は、適宜組み合わせ可能である。
【符号の説明】
【0115】
1a、3a、21a、22a 集電箔(集電体)
1b、21b 電極層(活物質層)
3b、22b 対極電極層(活物質層)
91a 流体(ゲル状の流体)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14