(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1のような波長変換部材は、ガラスマトリックス中に蛍光体粉末が分散されてなるガラス母材を、研磨して厚みを薄くすることにより作製されている。しかしながら、このような方法で得られた波長変換部材においては、発光色の色ばらつき(色度のばらつき)が生じることがあった。そのため、所望とする色度の波長変換部材を精度良く得ることができない場合があった。
【0005】
本発明の目的は、色度を高精度に調整することができる、波長変換部材及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る波長変換部材は、互いに対向する第1の主面及び第2の主面を有する波長変換部材であって、ガラスマトリックスと、ガラスマトリックス中に配置されている蛍光体粒子とを備え、第1の主面及び第2の主面における蛍光体粒子の濃度が、第1の主面及び第2の主面から20μm内側における蛍光体粒子の濃度よりも低いことを特徴としている。
【0007】
第1の主面と第2の主面の間の中央部における蛍光体粒子の濃度が高く、第1の主面及び第2の主面に向かうにつれて蛍光体粒子の濃度が低くなっていることが好ましい。
【0008】
本発明に係る波長変換部材の製造方法は、本発明に従い構成された波長変換部材の製造方法であって、ガラスマトリックスとなるガラス粒子と、蛍光体粒子とを含むスラリーを調製する工程と、スラリーを基材に塗布して乾燥させ、乾燥が完了するまでの間に蛍光体粒子を下方に沈降させることにより、下面における蛍光体粒子の濃度が上面における蛍光体粒子の濃度よりも高い、第1,第2のグリーンシートを得る工程と、下面同士を重ね合わせるように、第1,第2のグリーンシートを積層し、一体化して焼成する工程とを備えることを特徴とする。
【0009】
波長変換部材の第1の主面及び/または第2の主面を研磨する工程をさらに備えることが好ましい。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、色度を高精度に調整することができる、波長変換部材及びその製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、好ましい実施形態について説明する。但し、以下の実施形態は単なる例示であり、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。また、各図面において、実質的に同一の機能を有する部材は同一の符号で参照する場合がある。
【0013】
(第1の実施形態)
図1は、本発明の第1の実施形態に係る波長変換部材の模式的正面断面図である。
図1に示すように、波長変換部材1は、ガラスマトリックス2と、ガラスマトリックス2中に配置されている蛍光体粒子3とを備える。波長変換部材1は、互いに対向する第1,第2の主面1a,1bを有する。
【0014】
本実施形態において、第1の主面1aは、励起光を入射させる入射面である。励起光の入射により蛍光体粒子3から蛍光が出射される。第2の主面1bは、蛍光及び励起光を出射させる出射面である。なお、本実施形態では、第1の主面1aと第2の主面1bとが対向している方向を厚み方向とする。
【0015】
ガラスマトリックス2は、無機蛍光体等の蛍光体粒子3の分散媒として用いることができるものであれば特に限定されない。例えば、ホウ珪酸塩系ガラス、リン酸塩系ガラス、スズリン酸塩系ガラス、ビスマス酸塩系ガラス等を用いることができる。ホウ珪酸塩系ガラスとしては、質量%で、SiO
2 30〜85%、Al
2O
3 0〜30%、B
2O
3 0〜50%、Li
2O+Na
2O+K
2O 0〜10%、及びMgO+CaO+SrO+BaO 0〜50%を含有するものが挙げられる。スズリン酸塩系ガラスとしては、モル%で、SnO 30〜90%、P
2O
5 1〜70%を含有するものが挙げられる。ガラスマトリックス2の軟化点は、250℃〜1000℃であることが好ましく、300℃〜950℃であることがより好ましく、500℃〜900℃の範囲内であることがさらに好ましい。ガラスマトリックス2の軟化点が低すぎると、波長変換部材1の機械的強度や化学的耐久性が低下する場合がある。また、ガラスマトリックス2自体の耐熱性が低くなるため、蛍光体粒子3から発生する熱により軟化変形する場合がある。一方、ガラスマトリックス2の軟化点が高すぎると、製造時の焼成工程によって、蛍光体粒子3が劣化して、波長変換部材1の発光強度が低下する場合がある。また、ガラスマトリックス2は無アルカリガラスであることが好ましい。これにより、蛍光体粒子3の失活を抑制することができる。なお、波長変換部材1の機械的強度及び化学的耐久性を高める観点からはガラスマトリックス2の軟化点は500℃以上であることが好ましく、600℃以上であることがより好ましく、700℃以上であることがさらに好ましく、800℃以上であることがさらに好ましく、特に850℃以上であることが好ましい。そのようなガラスとしては、ホウ珪酸塩系ガラスが挙げられる。ただし、ガラスマトリックス2の軟化点が高くなると、焼成温度も高くなり、結果として製造コストが高くなる傾向がある。よって、波長変換部材1を安価に製造する観点からは、ガラスマトリックス2の軟化点は550℃以下であることが好ましく、530℃以下であることがより好ましく、500℃以下であることがさらに好ましく、480℃以下であることがさらに好ましく、特に460℃以下であることが好ましい。そのようなガラスとしては、スズリン酸塩系ガラス、ビスマス酸塩系ガラスが挙げられる。
【0016】
蛍光体粒子3は、励起光の入射により蛍光を出射するものであれば、特に限定されるものではない。蛍光体粒子3の具体例としては、例えば、酸化物蛍光体、窒化物蛍光体、酸窒化物蛍光体、塩化物蛍光体、酸塩化物蛍光体、硫化物蛍光体、酸硫化物蛍光体、ハロゲン化物蛍光体、カルコゲン化物蛍光体、アルミン酸塩蛍光体、ハロリン酸塩化物蛍光体及びガーネット系化合物蛍光体から選ばれた1種以上等が挙げられる。励起光として青色光を用いる場合、例えば、緑色光、黄色光または赤色光を蛍光として出射する蛍光体を用いることができる。
【0017】
蛍光体粒子3の平均粒子径は、1μm〜50μmであることが好ましく、5μm〜25μmであることがより好ましい。蛍光体粒子3の平均粒子径が小さすぎると、発光強度が低下する場合がある。一方、蛍光体粒子3の平均粒子径が大きすぎると、発光色が不均質になる場合がある。
【0018】
ガラスマトリックス2中での蛍光体粒子3の含有量は、1〜70体積%の範囲内であることが好ましく、1.5〜50体積%の範囲内であることがより好ましく、2〜30体積%の範囲内であることがさらに好ましい。蛍光体粒子3の含有量が少なすぎると、波長変換部材1の発光強度が不十分になる場合がある。一方、蛍光体粒子3の含有量が多すぎると、所望の発光色が得られない場合がある。また、波長変換部材1の機械的強度が低下する場合がある。
【0019】
波長変換部材1の厚みは、0.01mm〜1mmの範囲内であることが好ましく、0.03mm〜0.5mmの範囲内であることがより好ましく、0.05mm〜0.35mmの範囲内であることがさらに好ましく、0.075mm〜0.3mmの範囲内であることが特に好ましく、0.1mm〜0.25mmの範囲内であることが最も好ましい。波長変換部材1の厚みが厚すぎると、波長変換部材1における光の散乱や吸収が大きくなりすぎ、蛍光の出射効率が低くなってしまう場合がある。波長変換部材1の厚みが薄すぎると、十分な発光強度が得られにくくなる場合がある。また、波長変換部材1の機械的強度が不十分になる場合がある。
【0020】
本実施形態の特徴は、第1の主面1a及び第2の主面1bにおける蛍光体粒子3の濃度が、第1の主面1a及び第2の主面1bから20μm内側における蛍光体粒子3の濃度よりも低いことにある。以下、本実施形態の特徴について、
図1〜
図3を参照して説明する。
【0021】
図1に示すように、本実施形態では、第1の主面1aから20μm内側の面を表層底面1cとする。同様に、第2の主面1bから20μm内側の面を表層底面1dとする。第1の主面1aから表層底面1cまでの領域及び第2の主面1bから表層底面1dまでの領域が、本実施形態における表層Bである。また、表層底面1cと表層底面1dの間の領域が、本実施形態における中央部Aである。
【0022】
図2は、第1の主面1aにおける蛍光体粒子3の濃度を示す模式的平面図である。
図3は、第1の主面1aから20μm内側の表層底面1cにおける蛍光体粒子3の濃度を示す模式的平面断面図である。
図2及び
図3に示すように、第1の主面1aにおける蛍光体粒子3の面積占有率は、表層底面1cにおける蛍光体粒子3の面積占有率よりも小さくなっている。従って、第1の主面1aにおける蛍光体粒子3の濃度は、第1の主面1aから20μm内側の表層底面1cにおける蛍光体粒子3の濃度よりも低くなっている。
【0023】
同様に、第2の主面1b側においても、第2の主面1bにおける蛍光体粒子3の面積占有率は、表層底面1dにおける蛍光体粒子3の面積占有率よりも小さくなっている。従って、第2の主面1bにおける蛍光体粒子3の濃度は、第2の主面1bから20μm内側の表層底面1dにおける蛍光体粒子3の濃度よりも低くなっている。
【0024】
第1の主面1a及び第2の主面1bにおける蛍光体粒子3の面積占有率は、表層底面1c及び表層底面1dにおける蛍光体粒子3の面積占有率の10%以上であることが好ましく、20%以上であることがより好ましく、特に30%以上であることが好ましく、70%以下であることが好ましく、60%以下であることがより好ましく、特に50%以下であることが好ましい。当該面積占有率が小さすぎると、研磨した際の色度変化量が小さすぎて、生産効率が低下する傾向がある。一方、当該面積占有率が大きすぎると、研磨した際の色度変化量が大きすぎて、色度調整を高精度に行うことが困難になる。
【0025】
なお、面積占有率は各主面及び各表層底面のSEM(走査型電子顕微鏡)画像を二値化し、単位面積あたりに占める蛍光体粒子部分の面積比率により算出する。表層底面については、主面を研磨することにより表層底面を露出させた状態で画像を撮影する。
【0026】
本実施形態では、第1の主面1aと第2の主面1bの間の中央部Aにおける蛍光体粒子3の濃度が高く、第1の主面1a及び第2の主面1bに向かうにつれて蛍光体粒子3の濃度が低くなっている。本実施形態の波長変換部材1は、より詳細には、中央部Aの中心部から、第1の主面1a及び第2の主面1bに向かうにつれて蛍光体粒子3の濃度が徐々に低くなる濃度勾配を有している。従って、表層Bも、第1の主面1a及び第2の主面1bに向かうにつれて蛍光体粒子3の濃度が徐々に低くなる濃度勾配を有している。なお、
図1において、表層Bに蛍光体粒子3が図示されていないが、
図2に示すように、表層Bにも蛍光体粒子3が含有されていてもよい。
図1においては、中央部Aにおける蛍光体粒子3の濃度が高いことを示すため、中央部Aにのみ蛍光体粒子3を図示している。
【0027】
波長変換部材1は、入射した励起光の波長を変換して蛍光を出射する目的で用いられる。白色光の発光デバイスの場合には、例えばLED等の光源からの励起光である青色光と、蛍光である黄色光との合成光としての白色光が波長変換部材1から出射される。波長変換部材1から出射される光の色度の調整は、一般に、波長変換部材1の第1の主面1a及び第2の主面1bの少なくとも一方を研磨し、波長変換部材1の厚みを薄くすることにより調整される。波長変換部材1の厚みを薄くすることにより、波長変換部材1から出射する蛍光の割合を少なくし、波長変換部材1を透過する励起光の割合を多くすることができる。波長変換部材1の厚みの調整は、一般に表層Bの領域内で研磨することにより行われる。
【0028】
本実施形態においては、第1の主面1a及び第2の主面1bにおける蛍光体粒子3の濃度は、表層底面1c及び表層底面1dにおける蛍光体粒子3の濃度よりも低くなっている。そのため、第1の主面1aまたは第2の主面1bを研磨することによる厚みの変化に対する色度の変化が小さい。すなわち、研磨による厚みの変化に対し、色度をわずかに変化させることができ、色度を微調整することができる。従って、本実施形態によれば、色度を高精度に調整することができる。
【0029】
以下において、波長変換部材1の製造方法の一例について説明する。
【0030】
(波長変換部材の製造方法)
図4(a)〜(d)は、第1の実施形態に係る波長変換部材の製造方法の一例を説明するための模式的正面断面図である。
【0031】
波長変換部材1の製造方法では、まず、ガラスマトリックスとなるガラス粒子と、蛍光体粒子と、バインダー樹脂や溶剤等の有機成分とを含むスラリーを調製する。次に、
図4(a)に示すように、スラリー4を、基材であるポリエチレンテレフタレート等の樹脂フィルム6上にドクターブレード法等により塗布する。
【0032】
次に、スラリー4を乾燥させる。このとき、スラリー4の乾燥が完了するまでの間に、蛍光体粒子3を下方に沈降させる。これにより、
図4(b)に示す、下面5Abにおける蛍光体粒子3の濃度が上面5Aaにおける蛍光体粒子3の濃度よりも高い、第1のグリーンシート5Aを得る。
【0033】
なお、スラリー4のガラス粒子の密度は、蛍光体粒子3の密度よりも小さい。それによって、蛍光体粒子3を好適に沈降させることができる。よって、第1のグリーンシート5Aにおいて、より確実に上記のような蛍光体粒子3の濃度分布とすることができる。
【0034】
他方、
図4(a)及び
図4(b)に示した工程と同様の方法により、
図4(c)に示す第2のグリーンシート5Bを得る。第2のグリーンシート5Bも、下面5Bbにおける蛍光体粒子3の濃度は上面5Baにおける蛍光体粒子3の濃度よりも高い。
【0035】
次に、
図4(c)に示すように、下面5Ab,5Bb同士を重ね合わせるように、第1,第2のグリーンシート5A,5Bを積層する。次に、第1,第2のグリーンシート5A,5Bの熱圧着を行い、一体化して焼成を行う。これにより、
図4(d)に示す波長変換部材1を作製する。
【0036】
さらに、波長変換部材1の第1の主面1a及び第2の主面1b、またはいずれか一方を研磨することにより、波長変換部材1の色度調整を行ってもよい。研磨の方法としては、特に限定されず、例えば、ラップ研磨や、鏡面研磨により行うことができる。ラップ研磨は鏡面研磨より研磨速度が速いという利点がある。一方、鏡面研磨はラップ研磨より研磨面精度を高めることが可能である。波長変換部材1の厚みと色度には相関関係があるので、予めこの相関関係を求めておくことにより、所望の色度を得るための波長変換部材1の目標厚みを求めることができる。厚みと色度の相関関係は、例えば目標色度より高い状態で研磨を行いながら厚みと色度を測定することにより求めることができる。この場合、色度と厚みとの相関関係を精度良く得る観点からは、最終製品の仕上げ面と同等の表面状態(表面粗さ)となる研磨方法を採用することが好ましい。例えば、最終製品の仕上げを鏡面研磨により行う場合は、色度と厚みの相関関係を求める際の研磨方法も鏡面研磨を採用することが好ましい。
【0037】
(第2の実施形態)
図5は、第2の実施形態に係る波長変換部材の模式的正面断面図である。本実施形態の波長変換部材11は、
図4(c)に示した第1,第2のグリーンシート5A,5Bに加え、第1,第2のグリーンシート5A,5Bと同様の方法により作製した第3のグリーンシートをさらに積層して製造することができる。具体的には、第3のグリーンシートにおける、蛍光体粒子3の濃度が高い下面を、第1,第2のグリーンシート5A,5Bの積層体に積層し、一体化して焼成することにより製造することができる。
【0038】
本実施形態においても、第1の主面11a及び第2の主面11bにおける蛍光体粒子3の濃度は、表層底面11c及び表層底面11dにおける蛍光体粒子3の濃度よりも低くなっている。そのため、第1の主面11aまたは第2の主面11bを研磨することによる厚みの変化に対する色度の変化が小さく、色度を高精度に調整することができる。