(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明に係る好適な実施形態について詳細に説明する。なお、本発明は、以下に記載された実施形態のみに限定されるものではなく、本発明の要旨を変更しない範囲において実施される各種の変形例も含むものとして理解されるべきである。なお、本明細書における「(メタ)アクリル〜」とは、「アクリル〜」および「メタクリル〜」の双方を包括する概念である。また、「〜(メタ)アクリレート」とは、「〜アクリレート」および「〜メタクリレート」の双方を包括する概念である。
【0017】
1.熱可塑性エラストマー
本実施形態に係る熱可塑性エラストマーは、水分を100〜1000ppm含有するが、100〜800ppm含有することが好ましく、100〜600ppm含有することがより好ましい。水分含有率が前記範囲を超えると、水分が射出成形機のシリンダー内で加熱され熱可塑性エラストマー中で気泡となり、成形品表面で破泡して外観不良(シリバーストリーク)になる可能性がある。また、接合体を作製する際に接合部において、他方の成形体との接合不良を引き起こしたり、接合部に気泡が残ることで接合強度が低下したり
することがある。また、射出成形の計量過程において、成形毎の計量時間の変動が大きくなる可能性があるため、計量時間が長くなった場合は生産性が低下したり、計量時間が短くなった場合は熱可塑性エラストマーの可塑化が不良になることがある。一方、水分含有率が前記範囲未満であると、乾燥し過ぎるために過剰な加熱処理(温度×時間)が必要となるため、材料自体の変質(劣化、ブリードアウト等)が生じ、接合強度が低下することがある。
【0018】
なお、本願発明において「熱可塑性エラストマーの水分含有率」とは、熱可塑性エラストマーのペレットの水分含有率と同義である。
【0019】
本願発明における熱可塑性エラストマーの水分含有率は、JIS K7251 「プラスチック−水分含有率の求め方」に準拠して測定した値である。
【0020】
熱可塑性エラストマーの水分含有率は、熱可塑性エラストマーを脱湿乾燥機、減圧乾燥機、熱風乾燥機などのペレット乾燥機を用い、使用する熱可塑性エラストマーに適した温度及び時間で加熱処理して制御することができる。乾燥温度が高く、乾燥時間が長いと水分量を大幅に減少させることができるが、熱可塑性エラストマーのペレットがブロッキングを生じたり、ブリードアウトなどの変質を引き起こす可能性がある。また、乾燥温度が低く、乾燥時間が短いと、水分含有率が増大する傾向がある。いずれにしても、このように乾燥温度と乾燥時間を制御することにより、水分含有率を制御することができる。
【0021】
本実施形態に係る熱可塑性エラストマーとしては、特に限定されないが、例えば特開2005−272528号公報等に記載されているスチレン系水添ブロック共重合体;(A)エチレン・α−オレフィン・非共役ポリエン共重合体、(B)α−オレフィン系熱可塑性樹脂、および(C)架橋剤を含有する原料組成物から製造されるエラストマー(以下、「特定エラストマー」ともいう。)、他にも塩ビ系熱可塑性エラストマー、エステル系熱可塑性エラストマー、ウレタン系熱可塑性エラストマー、アミド系熱可塑性エラストマー等が挙げられるが、特定エラストマーが特に好適である。以下、特定エラストマーの製造に用いられる原料組成物について説明する。
【0022】
1.1.(A)エチレン・α−オレフィン・非共役ポリエン共重合体
(A)エチレン・α−オレフィン・非共役ポリエン共重合体(以下、「(A)成分」ともいう。)は、本実施形態に係る熱可塑性エラストマーに柔軟性を付与することを主たる目的として使用される成分であり、エチレン、α−オレフィン及び非共役ポリエンのそれぞれに由来する繰り返し単位を有する共重合体であることが好ましい。
【0023】
上記α−オレフィンとしては、炭素数3〜10のα−オレフィンが好ましい。上記α−オレフィンは、炭素数3〜8であることがより好ましく、炭素数3〜6であることが更に好ましく、炭素数3〜4であることが特に好ましい。炭素数3〜10のα−オレフィンを用いることにより、当該α−オレフィンと他の単量体との共重合性が良好となるため好ましい。α−オレフィンとしては、例えばプロピレン、1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン、3−メチル−1−ペンテン、4−メチル−1−ペンテン、1−オクテン、1−デセン等を挙げることができる。これらのうち、プロピレン、1−ブテン、1−ヘキセン及び1−オクテンが好ましく、プロピレンおよび1−ブテンが更に好ましい。(A)成分は、これらのα−オレフィンのうち、1種のα−オレフィンのみに由来する繰り返し単位を含むものであってもよいし、2種以上のα−オレフィンに由来する繰り返し単位を含むものであってもよい。
【0024】
上記非共役ポリエンとしては、例えば直鎖の非環状ジエン、分岐を有する非環状ジエン、脂環式ジエン等を挙げることができる。上記直鎖の非環状ジエンとしては、例えば1,
4−ヘキサジエン、1,5−ヘキサジエン、1,6−ヘキサジエン等が挙げられる。上記分岐を有する非環状ジエンとしては、例えば5−メチル−1,4−ヘキサジエン、3,7−ジメチル−1,6−オクタジエン、5,7−ジメチルオクタ−1,6−ジエン、3,7−ジメチル−1,7−オクタジエン、7−メチルオクタ−1,6−ジエン、ジヒドロミルセン等が挙げられる。上記脂環式ジエンとしては、例えばテトラヒドロインデン、メチルテトラヒドロインデン、ジシクロペンタジエン、ビシクロ[2.2.1]−ヘプタ−2,5−ジエン、5−メチレン−2−ノルボルネン、5−エチリデン−2−ノルボルネン、5−プロペニル−2−ノルボルネン、5−イソプロピリデン−2−ノルボルネン、5−シクロヘキシリデン−2−ノルボルネン、5−ビニル−2−ノルボルネン等が挙げられる。これらのうち、1,4−ヘキサジエン、ジシクロペンタジエン及び5−エチリデン−2−ノルボルネンが好ましい。(A)成分は、これらの非共役ポリエンのうち、1種の非共役ポリエンのみに由来する繰り返し単位を含むものであってもよいし、2種以上の非共役ポリエンに由来する繰り返し単位を含むものであってもよい。
【0025】
(A)成分におけるエチレン単位の含有率は、(A)成分を構成するエチレン単位及びα−オレフィン単位の合計を100mol%とした場合に、50〜90mol%であることが好ましい。(A)成分におけるα−オレフィン単位の含有率は、(A)成分を構成するエチレン単位及びα−オレフィン単位の合計を100mol%とした場合に、5〜50mol%であることが好ましい。(A)成分における非共役ポリエン単位の含有率は、(A)成分を構成するすべての繰り返し単位の合計を100mol%とした場合に、3〜10mol%であることが好ましい。
【0026】
上記特定エラストマーを製造するための原料組成物は、(A)エチレン・α−オレフィン・非共役ポリエン共重合体及び(B)α−オレフィン系熱可塑性樹脂の合計を100質量%とした場合に(A)成分を10〜95質量%含有することが好ましい。
【0027】
(A)成分は、エチレン・α−オレフィン・非共役ポリエン共重合体を基本骨格とする置換共重合体又はグラフト共重合体であってもよい。置換共重合体としては、例えば前記共重合体が有する水素原子の一部が塩素原子、臭素原子等のハロゲン原子に置換されたハロゲン化共重合体等を挙げることができる。グラフト共重合体としては、例えば前記重合体等に不飽和モノマーをグラフト重合させたグラフト共重合体等を挙げることができる。前記不飽和モノマーとしては、例えば塩化ビニル、酢酸ビニル、(メタ)アクリル酸、マレイン酸、メチル(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリルアミド、無水マレイン酸、マレイミド、マレイン酸ジメチル、ブタジエン、イソプレン、クロロプレン等の、従来から公知の不飽和モノマーを用いることができる。
【0028】
(A)成分は、公知の方法により合成することができ、例えば特開2014−193969号公報等に記載されている方法により合成することができる。
【0029】
1.2.(B)α−オレフィン系熱可塑性樹脂
(B)α−オレフィン系熱可塑性樹脂(以下、「(B)成分」ともいう。)は、本実施形態に係る熱可塑性エラストマーに機械的強度及び耐熱性を付与することを主たる目的として使用することができる。かかる場合には、(B)成分は、α−オレフィン単位を主成分とする重合体からなる樹脂であることが好ましい。例えば、重合体全体を100mol%とした場合に、α−オレフィン単位を80mol%以上含有する重合体からなる樹脂であることが好ましい。
【0030】
また、(B)成分は、本実施形態に係る熱可塑性エラストマーの溶融粘度を下げて流動性を付与し、金型内の流動過程で固化するのを防止することを主たる目的として使用することができる。かかる場合には、(B)成分は、α−オレフィンの単独重合体もしくは2
種類以上のα−オレフィンの共重合体であるか、又はα−オレフィンと、α−オレフィン以外の不飽和単量体との共重合体であることが好ましい。これらの(B)成分は、添加目的に応じて適時二種類以上使用することができる。
【0031】
ここにいう「α−オレフィン」とは、エチレンをも含む概念である。(B)成分におけるα−オレフィン単位を導くα−オレフィンとしては、エチレン及び炭素数3〜12のα−オレフィンが好ましく、例えばエチレン、プロピレン、1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン、3−メチル−1−ペンテン、4−メチル−1−ペンテン、3−エチル−1−ペンテン、1−オクテン、1−デセン、1−ウンデセン等を挙げることができる。これらのうち、α−オレフィンの少なくとも一部として、有機過酸化物崩壊型のプロピレン及び1−ブテンよりなる群から選択される1種以上を使用することが、成形時の加工性を維持する観点から好ましい。
【0032】
(B)成分としては、例えばプロピレン単独重合体、プロピレン・エチレン共重合体、プロピレン・1−ブテン共重合体、プロピレン・1−ペンテン共重合体、プロピレン・3−メチル−1−ブテン共重合体、プロピレン・1−ヘキセン共重合体、プロピレン・3−メチル−1−ペンテン共重合体、プロピレン・4−メチル−1−ペンテン共重合体、プロピレン・3−エチル−1−ペンテン共重合体、プロピレン・1−オクテン共重合体、プロピレン・1−デセン共重合体、プロピレン・1−ウンデセン共重合体等を挙げることができる。また、例えば特開2015−189088号公報等に記載されている、ケイ素含有化合物とビニル基含有化合物との反応によって得られる、シリル化ポリオレフィン等も挙げることが出来る。これらのうち、プロピレン単独重合体及びプロピレン・エチレン共重合体が好ましい。
【0033】
上記特定エラストマーを製造するための原料組成物は、(A)成分及び(B)成分の合計を100質量%とした場合に(B)成分を3〜65質量%含有することが好ましい。
【0034】
また、特定エラストマー組成物中のゴムのゲル分率は95%以上であり、96%以上であることが好ましい、ゲル分率が95%未満であると、接合体の接合強度が良好とはいえない場合がある。尚、ゲル分率の測定方法は下記の通りである。
【0035】
熱可塑性エラストマー組成物を約200mg秤量して、細かく裁断する。次いで、得られた細片を密閉容器中にて100mlのシクロヘキサンに23℃で48時間浸漬する。次に、この試料を濾紙上に取り出し、真空乾燥機にて105℃で1時間減圧下で乾燥する。この乾燥残渣の質量から、(1)ゴム、及び熱可塑性樹脂以外のシクロヘキサン不溶成分の質量、及び(2)シクロヘキサン浸漬前の試料中の熱可塑性樹脂の質量を減じた値を、「補正された最終質量(p)」とする。
【0036】
一方、試料の質量から、(3)ゴム、及び熱可塑性樹脂以外のシクロヘキサン可溶成分の質量、(1)ゴム、及び熱可塑性樹脂以外のシクロヘキサン不溶成分の質量、及び(4)熱可塑性樹脂の質量を減じた値を、「補正された初期質量(q)」とする。ここにゲル分率(シクロヘキサン不溶解分)は、下式(1)により求められる。
ゲル分率[質量%]=〔{補正された最終質量(p)}÷{補正された初期質量(q)}〕×100 (1)
上記ゲル分率を高めるためには、熱可塑性エラストマー組成物中の原料にヨウ素価の高いゴムを使用する方法、ゴムがエチレン・α−オレフィン系ゴムの場合はエチレン単位や非共役ジエン単位の含有割合を高くする方法、架橋材・架橋助材の配合量を多くする方法、等が挙げられる。
【0037】
(B)成分は、公知の組成や製造方法により合成することができ、例えば特開2014
−193969号公報等に記載されている組成や製造方法により合成することができる。
【0038】
1.3.(C)架橋剤
(C)架橋剤(以下、「(C)成分」ともいう。)は、加熱処理によって、(A)成分および(B)成分の少なくとも一部を、同種の成分間又は異種の成分相互間で架橋する機能を有する。
【0039】
このような(C)成分としては、例えばフェノール系架橋剤、有機過酸化物、硫黄、硫黄化合物、p−キノン、p−キノンジオキシムの誘導体、ビスマレイミド化合物、エポキシ化合物、シラン化合物、アミノ樹脂、ポリオール架橋剤、ポリアミン、トリアジン化合物、金属石鹸等を挙げることができる。これらのうち、フェノール系架橋剤又は有機過酸化物を用いることが好ましい。(C)成分としてフェノール系架橋剤を用いる場合には、架橋促進剤を併用することが好ましい。(C)成分として有機過酸化物を用いる場合には、架橋助剤を併用することが好ましい。
【0040】
上記フェノール系架橋剤としては、o−置換フェノール・アルデヒド縮合物、m−置換フェノール・アルデヒド縮合物、臭素化アルキルフェノール・アルデヒド縮合物、下記一般式(2)で表される化合物等を挙げることができる。これらのうち、下記一般式(2)で示される化合物が好ましい。
【0042】
上記式(2)中、複数存在するRは、それぞれ独立に、炭素数1〜15の飽和炭化水素基であり、mは0〜10の整数であり、X及びYは、それぞれ独立に、水酸基又はハロゲン原子である。
【0043】
上記一般式(2)で表される化合物は、例えば米国特許第3287440号明細書や、米国特許第3709840号明細書に記載されるように、ゴム用の架橋剤として一般的に使用されている化合物である。この化合物は、アルカリ触媒の存在下、置換フェノールとアルデヒドとを縮重合することにより製造することができる。
【0044】
(C)成分としてフェノール系架橋剤を用いる場合、原料組成物は、(A)成分および(B)成分の合計を100質量部とした場合に、該フェノール系架橋剤を0.2〜10質量部含有することが好ましい。
【0045】
フェノール系架橋剤はそれのみで使用してもよいが、架橋速度を調節するために、架橋促進剤を併用することが好ましい。架橋促進剤としては、例えば塩化第一スズ、塩化第二鉄等の金属ハロゲン化物;塩素化ポリプロピレン、臭化ブチルゴム、クロロプレンゴム等の有機ハロゲン化物等を用いることができる。架橋促進剤に加えて、酸化亜鉛等の金属酸化物やステアリン酸等の分散剤を、更に併用することが更に好ましい。
【0046】
上記有機過酸化物としては、例えば1,3−ビス(t−ブチルパーオキシイソプロピル
)ベンゼン、2,5−ジメチル−2,5−ビス(t−ブチルパーオキシ)ヘキシン−3、2,5−ジメチル−2,5−ビス(t−ブチルパーオキシ)ヘキセン−3、2,5−ジメチル−2,5−ビス(t−ブチルパーオキシ)ヘキサン、2,2’−ビス(t−ブチルパーオキシ)−p−イソプロピルベンゼン、ジクミルパーオキシド、ジ−t−ブチルパーオキシド、t−ブチルパーオキシド、p−メンタンパーオキシド、1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、ジラウロイルパーオキシド、ジアセチルパーオキシド、t−ブチルパーオキシベンゾエート、2,4−ジクロロベンゾイルパーオキシド、p−クロロベンゾイルパーオキシド、ベンゾイルパーオキシド、ジ(t−ブチルパーオキシ)パーベンゾエート、n−ブチル−4,4−ビス(t−ブチルパーオキシ)バレレート、t−ブチルパーオキシイソプロピルカーボネート等を挙げることができる。
【0047】
(C)成分として有機過酸化物を用いる場合、原料組成物は、(A)成分及び(B)成分の合計を100質量部とした場合に、該有機過酸化物を0.05〜10質量部含有することが好ましい。
【0048】
有機過酸化物はそれのみで使用してもよいが、架橋反応を穏やかに進行し、均一な架橋を形成するために、架橋助剤を併用することが好ましい。架橋助剤としては、例えば硫黄、硫黄化合物、p−キノンオキシム、p,p’−ジベンゾイルキノンオキシム等のオキシム化合物、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、テトラエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ジアリルフタレート、テトラアリルオキシエタン、トリアリルシアヌレート、N,N’−m−フェニレンビスマレイミド、N,N’−トルイレンビスマレイミド、無水マレイン酸、ジビニルベンゼン、ジ(メタ)アクリル酸亜鉛等の多官能性モノマー等を挙げることができる。
【0049】
1.4.その他の成分
本実施形態に係る熱可塑性エラストマーを製造するための原料組成物は、(D)伸展油(以下、「(D)成分」ともいう。)をさらに含有していてもよい。この(D)成分は、得られる熱可塑性エラストマーに流動性を付与することを主たる目的として使用される。(D)成分としては、例えば鉱物油系炭化水素、低分子量炭化水素等が挙げられるが、好物油系炭化水素が好ましい。
【0050】
鉱物油系炭化水素としては、例えば、いずれも商品名で、ダイアナプロセスオイルPW90、PW100、PW380(以上、出光興産(株)製)等を挙げることができる。低分子量炭化水素としては、例えば低分子量ポリブテン、低分子量ポリブタジエン等を挙げることができる。
【0051】
本実施形態に係る熱可塑性エラストマーを製造するための原料組成物における(D)成分の含有率は、(A)成分及び(B)成分の合計を100質量部とした場合に、300質量部以下とすることが好ましい。(D)成分は、(A)成分及び(B)成分のうちの少なくとも1種を油展品として使用し、該油展品に含有された形態で原料組成物中に添加されてもよく、(A)成分及び(B)成分とは分離した形態で原料組成物中に添加されてもよく、或いは、その双方であってもよい。
【0052】
本実施形態に係る熱可塑性エラストマーを製造するための原料組成物は、上記の成分以外に、更に、その他の成分を含有してもよい。その他の成分としては、例えば高分子化合物、オリゴマー、防菌・防かび剤、可塑剤、結晶核剤、難燃剤、粘着付与剤、発泡助剤、酸化防止剤、帯電防止剤、ブロッキング剤、シール性改良剤、滑剤、安定剤(例えば老化
防止剤、熱安定剤、耐候剤、金属不活性剤、紫外線吸収剤、光安定剤、銅害防止剤等)、着色剤・顔料(例えば酸化チタン、カーボンブラック等)、金属粉末(例えばフェライト等)、無機繊維(例えばガラス繊維、金属繊維等)、有機繊維(例えば炭素繊維、アラミド繊維等)、複合繊維、無機ウィスカー(例えばチタン酸カリウムウィスカー等)、充填剤としてフィラー(例えばガラスビーズ、ガラスバルーン、ガラスフレーク、アスベスト、マイカ、炭酸カルシウム、タルク、湿式シリカ、乾式シリカ、アルミナ、アルミナシリカ、ケイ酸カルシウム、ハイドロタルサイト、カオリン、けい藻土、グラファイト、軽石、エボ粉、コットンフロック、コルク粉、硫酸バリウム、フッ素樹脂、ポリマービーズ、ポリオレフィンワックス、セルロースパウダー、ゴム粉、木粉、カーボンブラック等)、導電性フィラーとして、カーボン系材料(例えばケッチェンブラック等のファーネスブラック、アセチレンブラック、チャンネルブラック、ガスブラック等のカーボンブラック;PAN系炭素繊維、ピッチ系炭素繊維、レーヨン系炭素繊維等のカーボンファイバー;球状黒鉛、鱗片状黒鉛、塊状黒鉛、土状黒鉛等のグラファイト;フラーレン、カーボンマイクロコイル、カーボンナノチューブ等)、セルロース系繊維(例えばセルロースファイバー、セルロースナノファイバー、セルロースミクロフィブリル等)、金属系材料(例えば銀粉、金粉、銅粉、鉄粉、ステンレス粉、ニッケル粉、アルミニウム粉、白金粉等の金属粉末;酸化亜鉛、酸化アンチモン、酸化インジウム等の金属酸化物粉;銅繊維、ステンレス繊維、アルミ繊維、ニッケル繊維等の金属繊維等)、セラミック系材料(例えばアルミナ−チタンカーバイド系セラミック、ジルコニア系セラミック、炭化珪素系セラミック等の導電性セラミック等)を、表面を導電性材料でコーティングした複合材料(上記カーボン系材料、金属系材料、又はセラミック系材料でコーティングしたガラス、シリカ、ポリマー粒子等)等を挙げることができる。
【0053】
本実施形態に係る熱可塑性エラストマーを製造するための原料組成物は、本発明の効果を阻害しない範囲で、高分子化合物やオリゴマーをさらに含有してもよい。例えば、熱可塑性エラストマー(オレフィン系、スチレン系、塩ビ系、エステル系、ウレタン系、アミド系等)、熱可塑性樹脂(ポリ塩化ビニル、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、アクリロニトリルブタジエンスチレン、ポリエチレンテレフタレート、ナイロン、ポリカーボネート、ポリブチレンテレフタレート等)、ゴム(エチレンプロピレンゴム、天然ゴム、ブタジエンゴム、スチレンブタジエンゴム、ブチルゴム、クロロプレンゴム、イソプレンゴム、アクリロニトリルブタジエンゴム、シリコーンゴム、ふっ素ゴム、アクリルゴム、ウレタンゴム、エピクロルヒドリンゴム等)、官能基含有オリゴマー(分子鎖中に少なくとも一つ以上の水酸基、チオール基、エポキシ基、アミノ基を有するオリゴマー等)等が挙げられる。
【0054】
本実施形態に係る熱可塑性エラストマーは、メルトフローレート(MFR)が0.1〜1000g/10分であることが好ましい。熱可塑性エラストマーの十分な射出成形性を得る観点からは、MFRが0.1g/10分以上であることが好ましい。一方、熱可塑性エラストマーの機械的強度の低下を防ぐ観点からは、1000g/10分以下であることが好ましい。なお、ここにいう「メルトフローレート(MFR)」とは、温度230℃、荷重2.16kgの条件で測定されたメルトフローレートを意味するものとする。
【0055】
また、本実施形態に係る熱可塑性エラストマーは、硬さがA10〜A90、A90を超える場合はD40〜D70であることが好ましい。熱可塑性エラストマーの十分な機械的強度を得ることから上記範囲であることが好ましい。なお、ここにいう「硬さ」とは、JIS K 6253−3に準拠して測定された硬さを意味するものとする。
【0056】
2.接合体の製造方法
本実施形態に係る接合体の製造方法は、成形体(Ι)が載置された金型内に、水分を100〜1000ppm含有する熱可塑性エラストマーを溶融させた後、射出して、前記熱
可塑性エラストマーに由来する成形体(II)と前記成形体(Ι)とを一体化させることを特徴とする。
【0057】
成形体(I)を構成する材料は、接合体の用途や目的、前述の熱可塑性エラストマーとの接合性により適宜選択することができる。成形体(I)を構成する材料としては、特に制限されるものではないが、例えば熱可塑性エラストマー(オレフィン系、スチレン系、塩ビ系、エステル系、ウレタン系、アミド系等)、熱可塑性樹脂(ポリ塩化ビニル、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、アクリロニトリルブタジエンスチレン、ポリエチレンテレフタレート、ナイロン、ポリカーボネート、ポリブチレンテレフタレート等)、加硫ゴム(エチレンプロピレンゴム、天然ゴム、ブタジエンゴム、スチレンブタジエンゴム、ブチルゴム、クロロプレンゴム、イソプレンゴム、アクリロニトリルブタジエンゴム、シリコーンゴム、ふっ素ゴム、アクリルゴム、ウレタンゴム、エピクロルヒドリンゴム等)、金属等が挙げられる。加硫ゴムとしてエチレンプロピレンゴムを用いる場合は、エチレン・プロピレン・5−ビニル−2−ノルボルネン共重合体、エチレン・プロピレン・5−エチリデン−2−ノルボルネン共重合体、エチレン・プロピレン・ジシクロペンタジエン共重合体が挙げられ、架橋反応のための架橋剤としては、硫黄、有機過酸化物、ヒドロシリコーン化合物等が挙げられる。
【0058】
成形体(Ι)は、熱可塑性エラストマー、熱可塑性樹脂、加硫ゴムからなる発泡体を含んでいても良い。発泡体は化学発泡、物理発泡、マイクロバルーン等を用いた公知の方法で得ることが出来る。
【0059】
なお、成形体(Ι)を構成する材料が前述の熱可塑性エラストマーと同様の成分を含有する材料で構成されている場合、接合面の機械的強度をより向上させることができるため好ましい。成形体(Ι)を構成する材料に加硫ゴムを用いる場合は、加硫ゴム中にオレフィン系熱可塑性樹脂を含有させると、接合面の機械的強度をより向上させることができるため好ましい。また、成形体(Ι)を構成する材料は、接合体の用途や目的により、複数のものを適宜使用することができる。例えば、熱可塑性エラストマー、熱可塑性樹脂、加硫ゴム、金属の何れか二種以上を、押出成形機で共押出成形する方法が挙げられる。
【0060】
本実施形態に係る接合体の製造方法では、前記熱可塑性エラストマーに由来する成形体(ΙΙ)と成形体(Ι)とを一体化させるが、この際、成形体(Ι)と成形体(ΙΙ)との接合面が形成される。ここで、成形体(Ι)は、未加工の成形体(Ι)を切断して、その切断面を接合面とすることが好ましい。また、大気暴露されていなかった成形体(Ι)を切断し、その切断面を接合面とすることにより、例えば大気中から水分や塵等の汚染物質の吸着による接合不良を抑制できると考えられる。更に成形体(Ι)を切断してから成形体(ΙΙ)と一体化させるまでの時間が短いほど、例えば大気中から水分や塵等の汚染物質の吸着による接合不良をより抑制できることや、また切断面からのブリードアウトによる接合不良を抑制できることも考えられる。成形体(Ι)を切断してから成形体(ΙΙ)と一体化させるまでの時間は、24時間以下であることが好ましい。
【0061】
成形体(Ι)は、接合体の要求される使用目的に応じて、接合体の機械的強度をより向上させるために、フィラー等を含有した材料を用いて製造することができる。成形体(Ι)がフィラーを含有する場合、フィラーの算術平均粒子径が0.001〜5μmであることが好ましく、0.01〜3μmであることがより好ましい。フィラーの算術平均粒子径が前記範囲内にあると、機械的強度と良好な外観を共に満足できる接合体を容易に製造することができる。なお、算術平均粒子径は、例えばレーザー散乱式粒度分布測定法によって測定された粒径分布から算出される。
【0062】
成形体(I)がフィラーを含有する場合、フィラーの材質としては炭素材料や無機材料
が挙げられるが、炭素材料としてはカーボンブラック、無機材料としては炭酸カルシウム等を好ましく使用することができる。フィラーとして炭素材料や無機材料を使用することにより、接合体の機械的強度をより向上させることができるだけでなく、接合体に難燃性を付与することもできる。なお、フィラーとしてカーボンブラックを使用する場合、カーボンブラックの算術平均粒子径は0.02〜1μmであることが好ましい。フィラーとして炭酸カルシウムを使用する場合、炭酸カルシウムの算術平均粒子径は0.5〜3μmであることが好ましい。
【0063】
成形体(I)の接合面における算術平均粗さ(Ra)は、0.1〜5μmであることが好ましく、0.5〜4μmであることがより好ましい。ここで、算術平均粗さ(Ra)とは、表面粗さを示す指標の一種であり、基準長さにおける高さの絶対値の平均を算出することによって求められる。算術平均粗さが小さい場合には、表面の凹凸形状の高さの値が小さい(起伏が小さい)ことを意味し、算術平均粗さが大きい場合には、表面の凹凸形状の高さの差が大きい(起伏が大きい)ことを意味する。成形体(I)の接合面における算術平均粗さ(Ra)が前記範囲内にあると、成形体(II)との接合部においてシルバーストリークが発生せずに外観が良好となりやすく、またアンカー効果により継ぎ目の接合強度を良好なものとすることができる。
【0064】
成形体(I)の接合面における粗さ曲線のクルトシス(Rku)は、1〜30であることが好ましく、5〜24であることがより好ましい。ここで、クルトシス(Rku)とは、表面粗さを示す指標の一種であり、表面に形成された凹凸形状の尖り度合いを示す指標のことである。具体的には、クルトシスは、基準長さにおける高さの4乗を、表面粗さの標準偏差を意味する二乗平均根高さの4乗で除算することによって求められる。クルトシスが小さい場合には、表面の凹凸形状がなだらかになっている状態であることを意味し、クルトシスが大きい場合には、表面の凹凸形状が鋭角状に尖った状態であることを意味する。成形体(I)の接合面における粗さ曲線のクルトシス(Rku)が前記範囲内にあると、成形体(II)との接合面においてシルバーストリークが発生せずに外観が良好となりやすく、またアンカー効果により継ぎ目の接合強度を良好なものとすることができる。
【0065】
成形体(I)の接合面における算術平均粗さ(Ra)や粗さ曲線のクルトシス(Rku)は、成形体(I)がフィラーを含有する場合であれば、フィラーの算術平均粒子径や含有量を調整することにより制御することができる。また、成形体(I)の成形体(II)との接合面をヤスリ等で研磨することによっても制御することができる。
【0066】
以下、図面を参照しながら、本実施形態に係る接合体の製造方法の一態様について詳細に説明する。
【0067】
図1〜
図4は、本実施形態に係る接合体の製造方法の一具体例を模式的に示す説明図である。まず、
図1に示すような射出成形金型100を用意する。射出成形金型100は、
図1に示すように、固定型10と、該固定型10に対して離接する方向に相対スライド可能な可動型12とを備える。固定型10と可動型12の対向面は、それぞれ射出成形金型100を完全に型締めした状態において、目的とする接合体の形状を有するキャビティが形成されるようになっている。また、水分を100〜1000ppm含有する熱可塑性エラストマー20を射出するノズル14が可動型12に設けられており、当該ノズル14と前記キャビティとは連通している。
【0068】
本実施形態では、固定型10が略凹形状となっており、可動型12が略凸形状となっている。そのため、射出成形金型100を型締めすると、固定型10が可動型12の凸部を覆うように型合わせされる。
【0069】
次いで、
図2に示すように、固定型10に、予め作製された成形体30(成形体(I))を載置する。その後、可動型12を固定型10方向へスライドさせて射出成形金型100を型締めする。
【0070】
成形体30の材料としては、特に制限されるものではなく、上記例示した材料を使用することができるが、例えば加硫ゴム、熱可塑性エラストマー、熱可塑性樹脂、金属等を好ましく使用することができる。これらの材料は、必要に応じて2種以上組み合わせて使用することもできる。また成形体30は、発泡されていてもよい。
【0071】
加硫ゴムとしては、例えばEPDMから得られた加硫ゴム等が挙げられる。熱可塑性エラストマーとしては、オレフィン系エラストマー(TPO)、動的架橋型熱可塑性エラストマー(Thermoplastic. Vulcanizates;TPV)、スチレン系熱可塑性エラストマー(TPS)等が挙げられる。熱可塑性樹脂としては、PP等のオレフィン系熱可塑性樹脂等が挙げられる。
【0072】
成形体30は、押出成形や射出成形等の公知の方法によって製造することができる。
【0073】
次いで、
図3に示すように、射出成形金型100を型締めした後、水分を100〜1000ppm含有する溶融させた熱可塑性エラストマー20を射出して成形体32(成形体II)と成形体30(成形体(I))とを一体化させる。このとき、射出する熱可塑性エラストマー20の水分含有率が100〜1000ppmであると、成形体30と成形体32との接合面34において、シリバーストリークによる外観不良が発生することなく、接合強度に優れた接合体40が得られる。また、射出する熱可塑性エラストマー20の水分含有率が100〜1000ppmであることで、射出成形の計量過程において、成形毎の計量時間の変動が小さくなるため成形加工性が良好となる。水分を100〜1000ppm含有する熱可塑性エラストマー20としては、上記「1.熱可塑性エラストマー」の項で説明した熱可塑性エラストマーを好ましく使用することができる。
【0074】
本実施形態に係る接合体の製造方法は、成形体同士の接合面における外観や接合強度に優れるため、
図3に示すような成形体30(成形体(I))が断面を有する場合に特に効果を発揮する。
【0075】
熱可塑性エラストマー20を射出成形金型100に供給する際には、ペレット状で供給されることが好ましく、球状ペレットであることがより好ましい。球状ペレットを用いることで、射出成形金型100の供給口でのペレット同士の互着によるブロッキングなどを抑制することができる。また、そのペレットの粒径は、2〜5mmであることが好ましい。ペレットの粒径が大きすぎても、小さすぎても、射出成形金型100への供給が不良となる可能性がある。
【0076】
射出成形の条件としては、シリンダー温度は、200℃〜300℃であることが好ましく、240℃〜260℃であることがより好ましい。熱可塑性エラストマーの射出率は、10〜150cm
3/secであることが好ましく、20〜90cm
3/secであることがより好ましい。金型温度は、20℃〜100℃であることが好ましく、45℃〜60℃であることがより好ましい。このような条件で射出成形すると、成形体30(成形体(I))と成形体32(成形体II)との接合強度がより大きくなる点で好ましい。
【0077】
最後に、
図4に示すように、可動型12を固定型10から離れる方向へスライドさせることにより、接合体40が得られる。
【0078】
本実施形態で用いることのできる射出成形機としては、特に限定されないが、縦型締・
縦射出式の射出成形機、縦型締・横射出式の射出成形機、横型締・横射出の射出成形機等が挙げられ、縦型締・縦射出式の射出成形機が特に好適である。
【0079】
3.接合体の用途
上記のようにして得られた接合体は、種々の用途、例えば自動車のバンパー;外装用モール;ウインドシール用ガスケット;ドアシール用ガスケット;トランクシール用ガスケット;ルーフサイドレール;エンブレム;インナーパネル、ドアトリム、コンソールボックス等の内外装表皮材;ウェザーストリップ;静電塗装性(体積固有抵抗値10
8Ω・cm以下)が必要とされるウェザーストリップ;耐傷付性の必要とされるレザーシート;航空機・船舶用のシール材及び内外装表皮材;土木・建築用のシール材、内外装表皮材、防水シート材等;一般機械・装置用のシール材等;弱電部品・水道のパッキン;燃料電池スタック中のシール材、表皮材、ハウジング等;鉄道用軌道パッド;情報機器用ロール;クリーニングブレード;電子部品用フィルム;半導体及びフラットパネルディスプレイ(FPD)製造工程における保護フィルム;写真等の画像保護膜;医療用機器部品;電線;日用雑貨品;スポーツ用品等の一般加工品に幅広く適用することができる。
【0080】
4.実施例
以下、本発明を実施例に基づいて具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。実施例、比較例中の「部」および「%」は、特に断らない限り質量基準である。
【0081】
4.1.実施例1
<接合体の製造>
エチレン・プロピレン・5−エチリデン−2−ノルボルネン三元共重合体(商品名「EP 103AF」、JSR(株)製、エチレン単位含量59質量%、プロピレン単位含量36.5質量%、ムーニー粘度91)100質量部、カーボンブラック(商品名「シースト116」、東海カーボン(株)製)145質量部、パラフィン系のプロセスオイル(商品名「PW380」、出光興産(株)製)85質量部、活性亜鉛華(堺化学工業(株)製)5質量部、ステアリン酸((株)ADEKA製)1質量部、加工助剤(商品名「ヒタノール1501」、日立化成工業(株)製)1質量部、離型剤(商品名「ストラクトールWB212」、Schill+Seilacher GmbH製)2質量部及び可塑剤(ポリエチレングリコール)1質量部を、バンバリーミキサーを用いて50℃、70rpm、2.5分の条件で混合して混合物を得た。
【0082】
得られた混合物の全量(340質量部)に、脱水剤(商品名「ベスタPP」、井上石灰工業(株)製)10質量部、加硫促進剤として商品名「ノクセラーM−P」1質量部、商品名「ノクセラーPX」1質量部、商品名「ノクセラーTT−P」0.5質量部及び商品名「ノクセラーD」1質量部(以上、いずれも大内新興化学工業(株)製)並びに硫黄2.2質量部を添加し、オープンロールを用いて50℃において混練した後、170℃において10分間加硫して、120mm×120mm×2mm(縦×横×厚さ)の加硫ゴムシートとした。このシートを、ダンベルカッターを用いて長さ60mm、幅50mmに打ち抜くことにより、成形体(I)を得た。
【0083】
得られた成形体(I)の断面の算術平均粗さRa及び粗さ曲線のクルトシスRkuを、レーザー顕微鏡(オリンパス株式会社製、LEXT OLS4000)を用いて倍率432倍で測定したところRa=0.9μm、Rku=21.5であった。
【0084】
熱可塑性エラストマーとして、EXCELINK1805B(JSR製・デュロメータ硬さA80、MFR20g/10min(230℃/2.16kg)、ゲル分率95%、粒径3mmの球状ペレット)を用いた。このEXCELINK1805Bの水分含有率を
JIS K7251(B法)に準拠して測定したところ、4080ppmであった。
【0085】
上記EXCELINK1805Bのペレットの水分含有率を小さくするために、乾燥機(商品名「並行流回分式乾燥機」、佐竹化学機械工業(株)製)を用いて、乾燥温度80℃とし、適時乾燥時間を変更して乾燥を行った。その結果、EXCELINK1805Bのペレットの水分含有率を乾燥時間によって制御できることがわかった。そこで、上記乾燥機を用いて、乾燥温度80℃とし、乾燥時間を960分としたところ、上記EXCELINK1805Bのペレットの水分含有率が100ppmとなった。
【0086】
次に、型締力110トンの射出成形機(商品名「J−110AD」、(株)日本製鋼所製)の割型内に、上記で得たオレフィン系加硫ゴム被着体を予め貼り付けた。
【0087】
次に、上記のように乾燥により水分含有率を100ppmに制御したEXCELINK1805Bを、欠部(上記成形体(I)を貼り付けた割型内)に収まるように、シリンダー温度250℃、金型温度50℃、射出率50cm
3/secの条件にて上記割型内に射出成形し、上記熱可塑性エラストマーに由来する成形体(II)と上記成形体(I)が接合した接合体(120mm×120mm×2mm(縦×横×厚さ))を得た。
【0088】
<外観評価>
得られた接合体を目視で観察し、成形体(ΙΙ)のシルバーストリーク(silver
streak、接合体表面にきらきらした筋状の模様)の有無を調べた。シリバーストリークが発生しない場合が理想的であり良好と判断できる。しかしながら、評価は実用的な観点より、シリバーストリークが視認できない場合を射出成形外観良好と判断して「○」、シリバーストリークが激しく、実用的に使用不能である場合は射出成形外観不良として「×」と、表1に示した。
【0089】
<接合強度の評価>
得られた接合体を、JIS−3号ダンベルカッターで打ち抜いて加硫ゴム接着性評価用の試験片(ダンベル状試験片)とした。このとき、上記平板は、射出融着面(熱可塑性エラストマーとオレフィン系加硫ゴム被着体とが射出融着した面)が、標線の間に位置し、且つ引張り方向に対して垂直となるように打ち抜いて接合強度評価用の試料片を作製した。
【0090】
引張り試験機(型名「AG−2000」、(株)島津製作所製)を用いて、負荷速度200mm/分にて上記接合強度評価用の試料片を引っ張り、破断強度の値(単位MPa)をもって加硫ゴム接着性の指標とした。接合強度の値が大きい方が、接合性に優れると判断することができる。前記破断強度の値が大きいほど良好であるといえるが、実用的には3MPa以上の場合は接合強度が良好と判断できる。3MPa未満の場合は接合強度が不良である。
【0091】
<成形加工性の評価>
前記<接合体の製造>の項と同じ方法にて射出成形を50回繰り返し行い、射出成形機が同じ成形体の射出成形のために必要な一定量のペレット量を計量するのに必要な計量時間を集計した。集計した計量時間の最長時間と最短時間の差を成形加工性の指標とした。計量時間の変動が小さいほど安定した大量生産を行うことができるため好ましいが、最長時間と最短時間の差が2秒以下である場合は、実用的に安定した大量生産が可能であるため成形加工性が良好と判断して「○」、2秒を超えた場合は計量時間の変動幅が大きく安定した大量生産が困難と困難であるため成形加工性が不良として「×」と、表1に示した。
【0092】
4.2.実施例2〜15、19〜22、比較例1〜5、7〜10
上記EXCELINK1805Bのペレットの水分含有率を下表1〜3の通りとし、また下表1〜3に示した射出成形条件とし、成形体(I)の組成を下表1〜3の通りとした以外は、上記実施例1と同様に接合体を作製し、評価した。EXCELINK1805Bのペレットの水分含有率は、上記の通り、乾燥機(商品名「並行流回分式乾燥機」、佐竹化学機械工業(株)製)を用いて、乾燥温度80℃とし、適時乾燥時間を変更することにより調整した。
【0093】
4.3.実施例16
上記実施例1と同様にして成形体(I)を作製し、成形体(I)の成形体(II)との接合面となる断面を、粒度400のシートペーパー(商品名「GBS−400」、トラスコ中山株式会社製)で研磨し、算術平均粗さ(Ra)が3μm、クルトシス(Rku)が6.3の断面(接合予定面)を備えた成形体(I)を作製した。
【0094】
次いで、乾燥機(商品名「並行流回分式乾燥機」、佐竹化学機械工業(株)製)を用いて、乾燥温度80℃とし、適時乾燥時間を変更することによりペレットの水分含有率を150ppmとし、下表2に示した射出成形条件とした以外は、上記実施例1と同様にして接合体を作製し、評価した。
【0095】
4.4.実施例17〜18、比較例6
下記の粒度を有するシートペーパーを使用して、成形体(I)の成形体(II)との接合面となる断面を、下表2に記載の算術平均粗さ(Ra)及びクルトシス(Rku)に調整した以外は上記実施例16と同様にして成形体(I)を作製した。次いで、乾燥機(商品名「並行流回分式乾燥機」、佐竹化学機械工業(株)製)を用いて、乾燥温度80℃とし、適時乾燥時間を変更することによりペレットの水分含有率を下表2の通りとし、下表2に示した射出成形条件とした以外は、上記実施例1と同様にして接合体を作製し、評価した。
<使用したシートペーパー>
・実施例17:粒度600のシートペーパー(商品名「GBS−600」、トラスコ中山株式会社製)
・実施例18:粒度800のシートペーパー(商品名「GBS−800」、トラスコ中山株式会社製)
・比較例6:粒度1200のシートペーパー(商品名「GBS−1200」、トラスコ中山株式会社製)
【0096】
4.5.実施例23
槽内温度が180℃の加圧式ニーダー(株式会社森山製作所製、内容量10L)に、EXCELINK1805B 100質量部、炭素繊維(商品名「HT C702 6mm」、東邦テナックス株式会社製)10質量部を投入し、溶融、混練して混練物を得た。得られた混練物を、フィーダールーダー(株式会社森山製作所製)を用いて連続的に押し出し、ストランドカットすることによりペレットを作製した。作製したペレットを、乾燥機(製品名「並行流回分式乾燥機」、佐竹化学機械工業株式会社製)を用いて、乾燥温度80℃とし、適時乾燥時間を変更することによりペレットの水分含有率を490ppmとした。作製したペレットを使用し、表4に示した射出成形条件とした以外は、実施例1と同様にして接合体を作製し、評価した。
【0097】
低抵抗率計(株式会社三菱化学アナリテック製、製品名「ロレスタGP MCP−T610」)を用いて、印加電圧10Vの条件で、作製した接合体の成形体(II)の体積固有抵抗を測定したところ、10
1Ω・cmであり、静電塗装用に良好な導電性を有する成形体であることが判明した。
【0098】
作製した接合体の成形体(II)の表面に、前処理を施すことなく、エアースプレ−ガンを用いて、水性メラミン系塗料を厚さ15μmとなるように塗布し、120℃で1時間焼き付け乾燥した後、23℃で48時間静置した。この後、表面上にセロハン粘着テープ(JIS−Z1522)を充分に圧着した。その後、セロハン粘着テープを引き剥がしたところ、塗膜の全面剥離は認められず、静電塗装により良好な塗膜が作製できたことを確認した。
【0099】
4.6.実施例24
槽内温度が180℃の加圧式ニーダー(株式会社森山製作所製、内容量10L)に、EXCELINK1805B 100質量部、炭素繊維(商品名「HT C702 6mm」、東邦テナックス社製)10質量部、水素添加ポリヒドロキシポリブタジエン(商品名「ポリテールH」、三菱化学株式会社製)5質量部を投入し、溶融、混練して混練物を得た。得られた混練物を、フィーダールーダー(株式会社森山製作所製)を用いて連続的に押し出し、ストランドカットすることによりペレットを作製した。作製したペレットを、乾燥機(商品名「並行流回分式乾燥機」、佐竹化学機械工業株式会社製)を用いて、乾燥温度80℃とし、適時乾燥時間を変更することによりペレットの水分含有率を530ppmとした。作製したペレットを使用し、表4に示した射出成形条件とした以外は、実施例23と同様にして接合体を作製し、評価した。
【0100】
実施例23と同様に作製した接合体の成形体(II)の体積固有抵抗を測定したところ、10
2Ω・cmであり、静電塗装用に良好な導電性を有する成形体であることが判明した。また、実施例23と同様に作製した接合体の成形体(II)の表面に塗膜を作製し、表面上にセロハン粘着テープ(JIS−Z1522)を充分に圧着した。その後、セロハン粘着テープを引き剥がしたところ、塗膜の全面剥離は認められず、静電塗装により良好な塗膜が作製できたことを確認した。
【0101】
4.7.評価結果
下表1〜4に、実施例1〜24及び比較例1〜10で使用した成形体(I)の組成、射出成形条件、及び評価結果を示す。
【0106】
なお、上表1〜4における各成分の略称または商品名は、それぞれ以下の成分を意味する。また、上表1〜4における成形体(I)の組成における各成分の数値は質量部を表す。
<EPDM>
・EP103AF:エチレン・プロピレン・5−エチリデン−2−ノルボルネン三元共重合体(商品名「EP 103AF」、JSR株式会社製、エチレン単位含量59質量%、プロピレン単位含量36.5質量%、ムーニー粘度91)
・EP57C:エチレン・プロピレン・5−エチリデン−2−ノルボルネン三元共重合体(商品名「EP 57C」、JSR株式会社製)
<天然ゴム>
・RSS3:RSS3号
<BR>
・BR01:ポリブタジエンゴム(商品名「JSR BR01」、JSR株式会社製、シス1,4結合量95質量%、ムーニー粘度45)
<SBR>
・SL552:溶液重合スチレンブタジエンゴム(商品名「JSR SL552」、JSR株式会社製、結合スチレン量23.5質量%、ビニル結合量33.5質量%、ムーニー粘度55)
<オレフィン樹脂>
・VESTOPLAST508:エチレン・プロピレン・1−ブテン共重合体(商品名「VESTOPLAST508」、Evonik Degussa社製、エチレン単位含量16mol%、プロピレン単位含量24mol%、溶融粘度(190℃、ASTM−D3236)8,000MPa・s、密度0.87g/cm3)
<パラフィン系のプロセスオイル>
・PW380:商品名「ダイアナプロセスオイルPW380」、出光興産株式会社製
・PW90:商品名「ダイアナプロセスオイルPW90」、出光興産株式会社製
<ナフテン系のプロセスオイル>
・NM280:商品名「ダイアナプロセスオイルNM280」、出光興産株式会社製
<アロマ系のプロセスオイル>
・アロマックス3:商品名「アロマックス3」、富士興産株式会社製
<加工助剤>
・ヒタノール1501:商品名「ヒタノール1501」、日立化成工業株式会社製
<離型剤>
・ストラクトールWB212:商品名「ストラクトールWB212」、Schill+Seilacher GmbH製
<老化防止剤>
・ノクラック6C:商品名「ノクラック6C」、大内新興化学工業株式会社製
・ノクラック810NA:商品名「ノクラック810NA」、大内新興化学工業株式会社製
<脱水剤>
・ベスタPP:商品名「ベスタPP」、井上石灰工業株式会社製
<加硫促進剤>
・ノクセラーM−P:商品名「ノクセラーM−P」、大内新興化学工業株式会社製
・ノクセラーPX:商品名「ノクセラーPX」、大内新興化学工業株式会社製
・ノクセラーTT−P:商品名「ノクセラーTT−P」、大内新興化学工業株式会社製
・ノクセラーD:商品名「ノクセラーD」、大内新興化学工業株式会社製
・ノクセラーCZ−G:商品名「ノクセラーCZ−G」、大内新興化学工業株式会社製
・ノクセラーBZ−P:商品名「ノクセラーBZ−P」、大内新興化学工業株式会社製
・ノクセラーNS−P:商品名「ノクセラーNS−P」、大内新興化学工業株式会社製
・ノクセラーDM−P:商品名「ノクセラーDM−P」、大内新興化学工業株式会社製
<カーボンブラック>
・シースト116:商品名「シースト116」、東海カーボン株式会社製、算術平均粒子径0.038μm
・シーストSO:商品名「シーストSO」、東海カーボン株式会社製、算術平均粒子径0.043μm
・シースト3:商品名「シースト3」、東海カーボン株式会社製、算術平均粒子径0.028μm
<炭酸カルシウム>
・スーパーSSS:商品名「スーパーSSS」、算術平均粒子径1.8μm、丸尾カルシウム株式会社製
・スーパーS:商品名「スーパーS」、算術平均粒子径2.7μm、丸尾カルシウム株式会社製
・NS#2300:商品名「NS#2300」、算術平均粒子径1μm、日東粉加工業株式会社製
・重炭N−35:商品名「重炭N−35」、算術平均粒子径6.3μm、丸尾カルシウム株式会社製
【0107】
上表1〜4に示す実施例1〜24によれば、本願発明に係る熱可塑性エラストマー、及びそれを用いる接合体の製造方法により、成形加工性が良好となり、また得られた接合体は、成形外観及び接合強度の点で良好な特性を示すことがわかった。これに対して、本願発明に相当しない熱可塑性エラストマー、及び本願発明に該当しない方法では、水分含有率が1000ppmを超える熱可塑性エラストマーを使用した場合には成形加工性が不良となり、また得られた接合体は、成形外観もしくは接合強度の点で不良となることがわかった。
【0108】
本発明は、上記の実施形態に限定されるものではなく、種々の変形が可能である。本発明は、実施形態で説明した構成と実質的に同一の構成(例えば、機能、方法および結果が同一の構成、あるいは目的および効果が同一の構成)を包含する。また本発明は、上記の実施形態で説明した構成の本質的でない部分を他の構成に置き換えた構成を包含する。さらに本発明は、上記の実施形態で説明した構成と同一の作用効果を奏する構成または同一
の目的を達成することができる構成をも包含する。さらに本発明は、上記の実施形態で説明した構成に公知技術を付加した構成をも包含する。