(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
回転軸芯を中心に回転自在に配置され、内燃機関のクランクシャフトと同期回転する駆動側回転体と、前記回転軸芯を中心に回転自在に配置され、前記駆動側回転体と相対回転自在で前記内燃機関の弁開閉用のカムシャフトと一体回転する従動側回転体と、電動アクチュエータの駆動力により前記駆動側回転体及び前記従動側回転体の相対回転位相を設定する位相調節機構と、を備え、
前記位相調節機構が、前記回転軸芯と同軸芯に配置される内歯型のリングギヤと、前記回転軸芯と平行姿勢の偏心軸芯と同軸芯に配置され前記リングギヤの内歯部の一部に外歯部を噛み合わせたインナギヤと、前記インナギヤに嵌め込まれる駆動シャフトとを備えて構成されると共に、前記電動アクチュエータの駆動力で前記駆動シャフトを、前記回転軸芯を中心に駆動回転することにより、前記偏心軸芯を中心に前記インナギヤを自転させつつ、前記回転軸芯を中心に前記インナギヤを公転させる差動型の減速機構に構成され、
前記インナギヤの外歯部を前記リングギヤの内歯部に噛合させる方向に付勢力を作用させる付勢部材を前記駆動シャフトの外周部に備え、前記駆動シャフトを基準に前記付勢部材による付勢力が作用する付勢方向と直交する方向への前記インナギヤの変位を規制する変位規制部を、前記駆動シャフトと前記インナギヤとの間に備え、
前記駆動シャフトの外周のうち、前記偏心軸芯を挟んで前記付勢部材と反対側となる反付勢側面を前記インナギヤの内周面から離間させ、
前記反付勢側面が、前記偏心軸芯より前記付勢部材の方向に偏位する中心の円周面として形成されている弁開閉時期制御装置。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載される構成では、リングギヤとインナギヤとが噛み合う方向への相対的な位置関係を付勢機構の付勢力で設定しており、この付勢方向と直交する方向へのリングギヤとインナギヤとの相対的な位置関係を連結部材によって行っている。
【0006】
リングギヤの内歯部とインナギヤの外歯部との噛合を考えると、歯面同士の間に形成される隙間(付勢方向と直交する方向への隙間)が存在する場合には、歯面同士が接触する際に異音を発生させることもある。
【0007】
このような不都合は、特許文献1に示される棒状の連結部材を備え、インナギヤが付勢方向と直交する方向への変位を規制することで解消可能である。しかしながら、連結部材によってインナギヤの変位を規制する構成では、連結部材に精度が要求されることになり改善の余地がある。
【0008】
特に、単一のリングギヤと単一のインナギヤとで減速機構を構成するものでは、特別に連結部材と同様の機能を有するものを必要とするため、部品点数の増大に繋がるものであった。
【0009】
即ち、リングギヤの内歯部とインナギヤの外歯部とに間隙が存在することに起因する異音を抑制する弁開閉時期制御装置が求められる。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の特徴は、回転軸芯を中心に回転自在に配置され、内燃機関のクランクシャフトと同期回転する駆動側回転体と、前記回転軸芯を中心に回転自在に配置され、前記駆動側回転体と相対回転自在で前記内燃機関の弁開閉用のカムシャフトと一体回転する従動側回転体と、電動アクチュエータの駆動力により前記駆動側回転体及び前記従動側回転体の相対回転位相を設定する位相調節機構と、を備え、
前記位相調節機構が、前記回転軸芯と同軸芯に配置される内歯型のリングギヤと、前記回転軸芯と平行姿勢の偏心軸芯と同軸芯に配置され前記リングギヤの内歯部の一部に外歯部を噛み合わせたインナギヤと、前記インナギヤに嵌め込まれる駆動シャフトとを備えて構成されると共に、前記電動アクチュエータの駆動力で前記駆動シャフトを、前記回転軸芯を中心に駆動回転することにより、前記偏心軸芯を中心に前記インナギヤを自転させつつ、前記回転軸芯を中心に前記インナギヤを公転させる差動型の減速機構に構成され、
前記インナギヤの外歯部を前記リングギヤの内歯部に噛合させる方向に付勢力を作用させる付勢部材を前記駆動シャフトの外周部に備え、前記駆動シャフトを基準に前記付勢部材による付勢力が作用する付勢方向と直交する方向への前記インナギヤの変位を規制する変位規制部を、前記駆動シャフトと前記インナギヤとの間に備え
、
前記駆動シャフトの外周のうち、前記偏心軸芯を挟んで前記付勢部材と反対側となる反付勢側面を前記リングギヤの内周面から離間させ、
前記反付勢側面が、前記偏心軸芯より前記付勢部材の方向に偏位する中心の円周面として形成されている点にある。
【0011】
リングギヤの内歯部と、インナギヤの外歯部との間に間隙が存在する場合には、電動アクチュエータの駆動時に、内歯部と外歯部との間隔を狭める方向にインナギヤが変位し、この変位の結果バックラッシュと同様に円滑な回転を損ない応答性を低下させ、内歯部と外歯部とが接触して異音を発生させる不都合を招くものである。これに対して、この特徴構成によると、リングギヤの内歯部と、インナギヤの外歯部との間に間隙が存在し、電動アクチュエータの駆動時に付勢方向と直交する方向への力がインナギヤに作用しても、この変位を変位規制部が規制できる。このため、応答性を向上させ、異音を発生させることもない。
【0012】
また、弁開閉時期制御装置の回転時にはカムシャフトから作用するカム変動トルクにより、インナギヤを、付勢部材による付勢力が作用する方向と直交する方向に力が作用する現象を招く。この現象を
図5で説明しており、同図には、カム変動トルクRの作用によりリングギヤ21の内歯部21Aとインナギヤ22の外歯部22Aとが最も強く接触する歯面を接触点Pとしている。この接触点Pを基準に作用するカムトルクU1と、中心方向力U2と、合力U3と、偏心方向力V1と、横方向力V2とを、ベクトル表示している。これらの力のうち、横方向力V2がスプリング25(付勢部材)による付勢力が作用する方向に対して直交する方向に作用する。これにより、インナギヤ22を変位させ、応答性の低下や異音の発生に繋がるものであった。
【0013】
特に、この構成では、駆動シャフトの形状を変更する程度の構成により、変位規制部を構成できるため、変位規制部を形成するために特別の部材を必要とすることなく、例えば、研削等の加工等の一般的な加工により変位規制部を形成することも可能である。
従って、簡単な構成でありながら、リングギヤの内歯部とインナギヤの外歯部との間隙が存在することに起因する異音を抑制し、高い応答性で作動させることが可能な弁開閉時期制御装置が構成された。
この構成では、変位規制部をインナギヤの内周面に当接させるように寸法を設定することで済むため、反付勢側面の形成に高い精度を必要とせず、加工が容易となる。しかも、加工誤差があっても、変位規制部をインナギヤの内周面の適正な位置に当接させ、変位規制部を良好に機能させることができる。これによると、反付勢側面が、円周面として形成されるため、例えば、駆動シャフトを旋盤等で製造する際に、チャックの位置を変更する程度の工程で、反付勢側面を作り出すことが可能となり加工が容易となる。また、この構成では駆動シャフトを極端に小径化することもないため強度低下を招くこともない。
【0014】
他の構成として、前記反付勢側面が前記偏心軸芯を中心にした前記内周面の半径と等しい半径で形成されても良い。
【0015】
これによると、駆動シャフトの反付勢側面と、インナギヤの内周面との間に円弧状の間隙を形成でき、この間隙にオイルを供給することも可能となる。このようにオイルが供給された場合には、駆動シャフトとインナギヤとの相対回転を円滑に行わせると共に、オイルを緩衝材として機能させ、駆動シャフトの反付勢側面とインナギヤの内周面とが接触する不都合も阻止できる。
【0016】
他の構成として、前記インナギヤの内周にリング状の軸受を備えることにより、当該軸受の内周面を前記インナギヤの内周面として機能させても良い。
【0017】
これによると、ボールベアリング等の軸受を備えた構成であっても、この軸受の内周をインナギヤの内周として機能させることにより付勢部材の付勢力の低減を可能にし、リングギヤとインナギヤとの噛み合いを良好に維持しつつ、異音を抑制し、応答速度の向上を可能にする。
【0018】
他の構成として、
前記変位規制部は、前記駆動シャフトの外周面に突出するように設けられても良い。
【0019】
これによると、
インナギヤの付勢方向と直交する方向への変位を規制する。
【0020】
他の構成として、
前記変位規制部は、前記駆動シャフトの外周面に備わる突出片と、前記突出片を外側に突出付勢するバネで構成されても良い。
【0021】
これによると、
インナギヤの付勢方向と直交する方向への変位を規制する。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
〔基本構成〕
図1〜
図4に示すように、内燃機関としてのエンジンEのクランクシャフト2と同期回転する駆動側回転体Aと、吸気カムシャフト3と一体回転する従動側回転体Bと、位相制御モータM(電動アクチュエータの一例)の駆動力により駆動側回転体Aと従動側回転体Bとの相対回転位相を設定する位相調節機構Cとを備えて弁開閉時期制御装置1が構成されている。
【0024】
エンジンEは、シリンダブロックに形成された複数のシリンダボアにピストン4を収容し、そのピストン4をコネクティングロッド5によりクランクシャフト2に連結した4サイクル型に構成されている。このエンジンEのクランクシャフト2の出力プーリ2Sと、駆動側回転体Aの駆動プーリ11Sとに亘ってタイミングベルト6(タイミングチェーン等でも良い)が巻回されている。
【0025】
これによりエンジンEの稼働時には、弁開閉時期制御装置1の全体が回転軸芯Xを中心に回転する。また、位相調節機構Cの駆動により駆動側回転体Aに対し従動側回転体Bが回転方向と同方向又は逆方向に変位可能に構成されている。
【0026】
この弁開閉時期制御装置1では、ECU等の制御装置で位相制御モータMの駆動を制御する。この制御により、位相調節機構Cで駆動側回転体Aと従動側回転体Bとの相対回転位相を設定し、この設定により、吸気カムシャフト3のカム部3Aによる吸気バルブ3Bの開閉時期(開閉タイミング)の制御を実現している。
【0027】
〔弁開閉時期制御装置〕
駆動側回転体Aは、駆動プーリ11Sが形成されたアウタケース11とフロントプレート12とを複数の締結ボルト13で締結している。アウタケース11の内部空間には、従動側回転体Bと、ハイポトロコイド型減速ギヤ(差動型減速機構の具体例)として構成される位相調節機構Cとが収容されている。
【0028】
従動側回転体Bは、多数の内歯を有する内歯部21Aが形成されたリングギヤ21で構成されている。位相調節機構Cは、リングギヤ21と、このリングギヤ21の内歯部21Aに噛合する多数の外歯を有する外歯部22Aが形成されたインナギヤ22と、インナギヤ22に嵌め込まれる駆動シャフト24と、インナギヤ22を駆動側回転体Aに連係させる連係機構としての継手部材30とで構成されている。
【0029】
図2に示すように、リングギヤ21は回転軸芯Xと同軸芯上に配置され、インナギヤ22は、回転軸芯Xと平行姿勢の偏心軸芯Yと同軸芯上に配置されている。外歯部22Aの一部がリングギヤ21の内歯部21Aの一部に噛み合い、インナギヤ22の外歯部22Aの歯数は、リングギヤ21の内歯部21Aの歯数より1歯だけ少なく設定されている。
【0030】
図1〜
図4に示すように、位相制御モータM(電動モータ)は、出力軸Maが回転軸芯Xと同軸芯上に配置するように支持フレーム7によりエンジンEに支持されている。
【0031】
リングギヤ21は、内歯部21Aが形成されたリング状部分に対して、回転軸芯Xに対して直交する姿勢の従動プレート21Pを一体化した構造を有している。この従動プレート21Pの中央の孔部24Cに連結ボルト35を挿通し、吸気カムシャフト3に螺合させることにより、このリングギヤ21が回転軸芯Xと同軸芯上において吸気カムシャフト3に連結される。
【0032】
駆動シャフト24は、回転軸芯Xに沿う方向での外端側に回転軸芯Xを中心とする外周面の第1支持部24Aが形成され、内端側に偏心軸芯Yを中心とする外周面の第2支持部24Bが形成されている。第2支持部24Bの外周には1つの切欠部24Dが形成され、この切欠部24Dに付勢部材としてスプリング25が嵌め込まれている。また、駆動シャフト24は、回転軸芯Xを中心とする孔部24Cが形成され、この孔部24Cには、位相制御モータMの出力軸Maの係合部材28が係合する一対の係合溝24Tが回転軸芯Xと平行姿勢で形成されている。
【0033】
更に、孔部24Cには、回転軸芯Xと平行姿勢となる単一の潤滑溝24Gが形成され、この潤滑溝24Gから外面に貫通する潤滑流路24Rが形成されると共に、一対の係合溝24Tから外面に貫通する一対の潤滑流路24Rが形成されている。
【0034】
図1に示すように、フロントプレート12の中央の開口と、第1支持部24Aとの間にボールベアリングで成る第1軸受26を配置することにより、駆動シャフト24が駆動側回転体Aに対し回転軸芯Xを中心に回転自在に支持されている。
【0035】
図2に示すように、インナギヤ22の内周と、駆動シャフト24の第2支持部24Bとの間にボールベアリングで成る第2軸受27を配置することにより、第2支持部24Bとインナギヤ22とが偏心軸芯Yを中心に相対回転自在となる。また、第2軸受27の内周面Sに対してスプリング25の付勢力が作用する。更に、止め輪としてのCリング29を備えることにより、第2軸受27の第2支持部24Bからの脱落が阻止される(
図1、
図4を参照)。
【0036】
これによりインナギヤ22が偏心軸芯Yを中心に回転自在に支持されると共に、
図2に示すように、その外歯部22Aの一部がリングギヤ21の内歯部21Aの一部に噛み合い、スプリング25の付勢力で噛み合いが維持される。尚、弁開閉時期制御装置1による、駆動側回転体Aと従動側回転体Bとの相対回転位相を設定する作動形態は後述する。
【0037】
〔位相調節機構:継手部材〕
図4に示すように、連係機構を構成する継手部材30は、板状部材のプレス加工等により製造されるものであり、回転軸芯Xを中心に外方に突出する一対の第1係合アーム31と、第1係合アーム31に対して直交する方向に突出する一対の第2係合アーム32と、これらを連結するリング状部33とが一体形成されている。第2係合アーム32には回転軸芯Xの方向に向けて開放する係合凹部32Aが形成されている。
【0038】
この継手部材30は、回転軸芯Xに沿う方向視において、第1係合アーム31は第1方向に沿って直線状に伸びる板状の領域で構成され、第2係合アーム32の係合凹部32Aは第1方向と直交する第2方向に沿って窪む凹状に形成される。尚、一対の第1係合アーム31と、一対の第2係合アーム32と、これらを連結するリング状部33とは、回転軸芯Xに直交する仮想平面上に配置される。
【0039】
駆動側回転体Aを構成するアウタケース11のうち、フロントプレート12に接触する連結面に対してアウタケース11の内部空間から外部空間に亘り、回転軸芯Xを中心に半径方向に伸びる一対の第1連係部ATが貫通溝状に形成されている。このように一対の第1連係部ATが並ぶ直線の方向が第1方向(
図3では左右方向)となる。また、インナギヤ22の端面には偏心軸芯Yを挟んで対向する位置に一対の第2連係部22Tが突起状に形成されている。このように一対の第2連係部22Tが並ぶ方向が第2方向(
図3では上下方向)となる。
【0040】
図3、
図4に示すように、各々の第1連係部ATには、回転軸芯Xに沿う方向視で第1方向に対して平行姿勢となる一対の第1ガイド面G1が形成されている。また、各々の第2連係部22Tには、回転軸芯Xに沿う方向視で第2方向に対して平行姿勢となる一対の第2ガイド面G2を備えた矩形に形成されている。
【0041】
この構成から、継手部材30の第1係合アーム31を第1連係部ATに係合させ、継手部材30の第2係合アーム32の係合凹部32Aを第2連係部22Tに係合させることにより、継手部材30をオルダム継手として機能させることが可能となる。
【0042】
また、この構成では、第1連係部ATの第1ガイド面G1に対して、第1係合アーム31の直線状部が接触し、第2連係部22Tの第2ガイド面G2に対して第2係合アーム32の
係合凹部32Aの直線状部が接触する位置関係となる。
【0043】
図4に示すように第1連係部ATの溝深さL1が、第1係合アーム31の厚さL2より充分に大きい値に設定されている。これにより、第1係合アーム31の表面とフロントプレート12とを接触させ、第1係合アーム31の裏面と第1連係部ATの底部との間に間隙を形成している。
【0044】
更に、リングギヤ21の端面に接触することで回転軸芯Xに沿う方向でのリングギヤ21の位置決めを行う複数の突出部12Aがフロントプレート12の内面に突出形成されている。
【0045】
〔位相調節機構の作動形態〕
この弁開閉時期制御装置1では、位相制御モータMを制御する制御装置(図示せず)を備えており、駆動側回転体Aと従動側回転体Bとの相対回転位相を維持する場合には、吸気カムシャフト3の回転速度と等しい速度で駆動シャフト24を駆動回転する。
【0046】
これに対して、駆動側回転体Aと従動側回転体Bとの相対回転位相を目標とする位相に設定する場合には、吸気カムシャフト3の回転速度より高速又は低速で位相制御モータMの出力軸Maを駆動回転する。
【0047】
これにより、第2支持部24Bの偏心軸芯Yが回転軸芯Xを中心に公転し、この公転に伴い、リングギヤ21の内歯部21Aに対するインナギヤ22の外歯部22Aに対する噛み合い位置がリングギヤ21の内周に沿って変位しつつ、インナギヤ22が偏心軸芯Yを中心に自転する。
【0048】
インナギヤ22の偏心軸芯Yが回転軸芯Xを中心に公転する際には、インナギヤ22の変位が、第2連係部22Tから係合凹部32Aに伝えられるため、継手部材30が第1方向と第2方向とに変位する形態で作動し、リングギヤ21とインナギヤ22との相対的な変位量に対応する角度だけ、駆動側回転体Aに対し従動側回転体Bを相対回転させ、弁開閉時期の制御が実現する。
【0049】
具体的には、インナギヤ22の外歯部22Aの歯数が、リングギヤ21の内歯部21Aの歯数より1歯だけ少なく設定されているため、インナギヤ22の偏心軸芯Yが回転軸芯Xを中心に1回転だけ公転した場合には、リングギヤ21に対して1歯分に対応する角度だけ回転力を作用させる減速伝動状態となり、大きい減速を実現している。
【0050】
また、この減速時には、インナギヤ22と駆動側回転体Aを構成するアウタケース11との相対回転が継手部材30により規制されるため、インナギヤ22の公転に伴いインナギヤ22を自転させる方向に作用する回転力により、リングギヤ21を、回転軸芯Xを中心に回転させる。つまり、インナギヤ22がリングギヤ21に対して公転することにより、駆動側回転体Aを基準にしてリングギヤ21を回転させることになり、結果として、駆動側回転体Aと従動側回転体Bとの相対回転位相を設定し、吸気カムシャフト3による開閉時期の設定を実現する。
【0051】
弁開閉時期制御装置1は、エンジンEの吸気カムシャフト3と、排気カムシャフトとが駆動するチェーンケースの内部に配置される。このような位置関係から、カムシャフトやチェーンに供給される潤滑油の一部がフロントプレート12の中央の開口から駆動シャフト24の孔部24Cに流れ込み、アウタケース11の内部空間の各部に供給され位相調節機構Cを円滑に作動させる。
【0052】
〔変位規制部〕
図2に示すように、この実施形態では、リング状に構成される第2軸受27を、インナギヤ22の内周面に嵌め込んでいるため、この
第2軸受27の内周面Sをインナギヤ22の内周面として機能させているが、第2軸受27を用いずにスプリング25をインナギヤ22の内周面に接触させる構成を採用しても良い。
【0053】
また、この実施形態では、第2軸受27の内周面Sをインナギヤ22の内周面として機能させているため、以下に説明する変位規制部Tを第2軸受27の内周面Sに当接させている。このような構成に代えて、第2軸受27を用いずに、変位規制部Tをインナギヤ22の内周面に当接させても良い。
【0054】
更に、インナギヤ22の内周にブッシュ状の第2軸受27を備え、この第2軸受27の内周をインナギヤ22の内周として機能させても良い。
【0055】
図5に示すように、回転軸芯Xと偏心軸芯Yを結ぶ仮想直線を偏位方向ラインLと想定すると、スプリング25からインナギヤ22(第2軸受27の内周)に付勢力を作用させる付勢方向Fが偏位方向ラインLと一致する。また、この付勢方向Fの延長上においてリングギヤ21の内歯部21Aとインナギヤ22の外歯部22Aとが最も深く噛み合う。
【0056】
前述したように、駆動シャフト24の第1支持部24Aが、フロントプレート12に対して第1軸受26を介して回転軸芯Xを中心に回転自在に支持され、この駆動シャフト24の第2支持部24Bの外周の切欠部24Dに嵌め込む状態でスプリング25が備えられている。
【0057】
このような構成であるため、例えば、インナギヤ22が規制されない構成では、リングギヤ21の内歯部21Aと、インナギヤ22の外歯部22Aとの間に間隙が存在する場合に、位相制御モータMの駆動時に、内歯部21Aと外歯部22Aとの間隔を狭める方向にインナギヤを変位させる力が作用する。この力の作用によってインナギヤ22が変位した場合には、バックラッシュと同様に円滑な回転を損ない応答性を低下させ、内歯部と外歯部とが接触して異音を発生させることもあった。
【0058】
また、弁開閉時期制御装置1の回転時に
図5に示す如くカム変動トルクRが作用する状況を考えると、偏位方向ラインLを基準にしてカム変動トルクRの作用方向の下流側において、リングギヤ21の内歯部21Aと、インナギヤ22の外歯部22Aとが最も強く接触する。
【0059】
このように、内歯部21Aの歯面と、外歯部22Aの歯面とが最も強く接触する位置を接触点Pとして力の関係をベクトル表示すると、接触点Pを基準に接線方向にカムトルクU1が作用し、接触点Pから回転軸芯Xの方向に向けて中心方向力U2が作用し、これら合力U3が考えられる。また、接触点Pには、リングギヤ21とインナギヤ22との間にはスプリング25の付勢力に抗する方向に偏心方向力V1が作用しており、この偏心方向力V1と合力U3との間に横方向力V2が存在する。尚、偏心方向力V1の絶対値と、付勢方向Fに作用する付勢力の絶対値とが等しくなる。
【0060】
また、カム変動トルクRの値は、吸気カムシャフト3の回転に伴い増減するため、横方向力V2も増減する。これにより、横方向力V2が、インナギヤ22を偏位方向ラインLに対して直交する方向に振動させるように作用する。このような理由から、カム変動トルクRの作用によっても、インナギヤ22を振動させるように偏位させ、応答性を低下させ、異音の発生を招くものであった。
【0061】
このような不都合を抑制するため、
図5に示す如くインナギヤ22の付勢方向Fと直交する方向への変位を規制する変位規制部Tを備えている。つまり、偏心軸芯Yを通過し、偏位方向ラインLと直交する姿勢のセンターラインNを想定すると、駆動シャフト24の第2支持部24Bの外周面24BSのうち、このセンターラインNと、第2軸受27の内周面S(インナレースの内周面)とが交わる2つの交点Qを想定できる。
【0062】
変位規制部Tは、想定した2つの交点Qの距離を外径とするように駆動シャフト24の第2支持部24Bの外周面24BSから僅かに大径化する形態で、第2支持部24Bの2箇所に形成されている。
【0063】
特に、第2支持部24Bの外周面24BSのうち、偏心軸芯Yを挟んでスプリング25と反対側(
図5では下側)となる反付勢側面24Uを、副軸芯Zを中心とする円周面に形成することにより、外周面24BSと第2軸受27の内周面Sとの間に僅かな間隙を形成している。また、第2支持部24Bの外周面24BSのうち、偏心軸芯Yよりスプリング25に近い側(
図5では上側)も、偏心軸芯Yを基準に副軸芯Zと反対側の軸芯を中心(図示せず)とする円周面に形成することにより、外周面24BSと第2軸受27の内周面Sとの間に僅かな間隙を形成している。
【0064】
図5に示すように、副軸芯Zは、偏位方向ラインLと交わる位置にあり、偏心軸芯Yとスプリング25との間に設定される。この副軸芯Zを中心として反付勢側面24Uまでの距離(半径)が、偏心軸芯Yを中心とする内周面Sまでの半径と等しい値に設定されている。尚、同図では、偏心軸芯Yと副軸芯Zとの距離は僅かであり、反付勢側面24Uと内周面Sとの距離も僅かであるが図面では誇張して表している。
【0065】
これと同様に、偏心軸芯Yよりスプリング25に遠い側で偏位方向ラインLと交わる位置に軸芯(図面せず)を設定している。この軸芯を中心として
図5では上側の外周面24BSまでの距離(半径)が、偏心軸芯Yを中心とする内周面Sまでの半径と等しい値に設定されている。
【0066】
このように、
図5で上側の外周面24BSと、下側の外周面24BSとの境界部分が、最も大径となるように加工することにより変位規制部Tを形成しており、これらの変位規制部TはセンターラインNのライン上に形成される。
【0067】
この構成では、インナギヤ22の第2軸受27の内周に、駆動シャフト24の第2支持部24Bを挿入した状態では、スプリング25の付勢力の作用により、一対の変位規制部Tが交点Qより僅かに反スプリング方向に変位した状態で各々の変位規制部Tが内周面に当接する。
【0068】
これにより、インナギヤ22の付勢方向Fに対して直交する方向(センターラインNに沿う方向)のインナギヤ22の変位が規制される。その結果、リングギヤ21の内歯部21Aと、インナギヤ22の外歯部22Aとの間に間隙が存在しても、位相制御モータMの駆動時に、内歯部21Aと外歯部22Aとの間隔を狭める方向へのインナギヤ22の変位が一対の変位規制部Tにより規制される。このため、弁開閉時期制御装置1の応答性を向上させ、内歯部21Aと外歯部22Aとが接触して異音の発生を招くこともない。
【0069】
また、この構成では、特別の部材を必要とすることなく、例えば、研削等の加工等の一般的な加工により変位規制部Tを形成することも可能となる。
【0070】
更に、反付勢側面24Uを第2軸受27の内周面Sから僅かに離間させ隙間を形成するため、例えば、加工誤差があっても反付勢側面24Uを第2軸受27の内周面Sから確実に離間させ、変位規制部Tを内周面Sの適正な位置に当接させ、変位規制部Tの機能を損なうことがない。
【0071】
また、駆動シャフト24の反付勢側面24Uと、インナギヤ22の内周面Sとの間に形成される円弧状の間隙にオイルを供給することも可能であり、このように供給されたオイルによって駆動シャフト24とインナギヤ22との相対回転を円滑に行わせると共に、オイルを緩衝材として機能させ、反付勢側面24Uとインナギヤ22の内周面Sとが接触する不都合も阻止できる。
【0072】
本実施形態の構成では、相対回転位相の設定を応答性良く行えるため、例えば、エンジンEを停止する際には、エンジンEの起動に適した相対回転位相となるように弁開閉時期制御装置1を制御する場合にも、迅速な作動により、エンジンEを完全に停止させるまでの時間の短縮も可能となる。
【0073】
〔別実施形態〕
本発明は、上記した実施形態以外に以下のように構成しても良い(実施形態と同じ機能を有するものには、実施形態と共通の番号、符号を付している)。
【0074】
(a)
図6に示すように、駆動シャフト24の第2支持部24Bの外周面24BSのうちセンターラインNに沿う方向に突出するように、一対の変位規制部Tを、駆動シャフト24に一体的に形成する。この構成では、一対の変位規制部Tの間隔が、センターラインNと、第2軸受27の内周面S(インナレースの内周面)とが交わる2つの交点Qの間の距離と一致する値に設定される。
【0075】
この構成においても、偏心軸芯Yを挟んでスプリング25と反対側となる反付勢側面24Uと内周面Sとの間に僅かな間隙を形成している。尚、反付勢側面24Uと、これと反対側の外周面24BSとは実施形態と同様に、偏心軸芯Yと異なる位置の所定の中心とする円周状に形成されるものあっても良い。
【0076】
(b)
図7に示すように、別実施形態(a)の構成に代えて、変位規制部Tとして、突出片45と、これを外方に突出付勢するバネ46とで構成しても良い。
【0077】
このように構成することにより、突出片45が摩耗することがあっても、内周面Sに当接させることが可能となり、突出片45が摩耗した状態において駆動シャフト24とインナギヤ22とが、付勢方向Fに直交する方向に位置関係が変動することがあっても、この変動に伴う振動を抑制することも可能となる。尚、付勢力により変位規制部Tを突出させる構成としては、例えば、板バネを内周面Sに接触させるように構成することにより、板バネを変位規制部Tとして用いても良い。
【0078】
(c)実施形態とは逆に、位相調節機構Cとして、リングギヤ21を従動側回転体Bに連係させ、インナギヤ22を駆動側回転体Aに連係させることにより弁開閉時期制御装置1を構成する。このように構成したものであっても、良好な減速を実現する。
【0079】
(d)付勢機構としてのスプリング25が付勢力を作用させる方向として、偏位方向ラインLから外れた位置に設定する。つまり、内歯部21Aと外歯部22Aとの噛み合い状態を維持するためには、必ずしも偏位方向ラインLに沿う方向にスプリング25の付勢力を作用させる必要がなく、例えば、カムシャフトの駆動反力や、カム変動トルクを考慮した方向に付勢方向を設定することも考えられる。