(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記突起部によって形成された割り込みの長さLと、前記矩形断面の鋼片の厚さTと、仕上圧延工程によって形成された圧延H形鋼のフランジの幅Fとが、以下の式(2)を満たすことを特徴とする、請求項2又は3に記載の圧延H形鋼の製造方法。
L≧0.5F−0.5T ・・・(2)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述のように、従来から、マクロ偏析に起因する圧延H形鋼のフィレット部の低温割れを抑制するために、様々な対策が提案されている。しかし、いずれの対策も従来技術であるエッジング法に対して生産性を損なう点が問題となる。
【0008】
そこで本発明の目的は、このような実情に鑑み、エッジング法に対して生産性を損なうことなく、フィレット部のマクロ偏析が軽減された圧延H形鋼及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、被圧延材の幅方向に対し、鉛直に割り込みを入れる突起部が形成された造形用孔型によって割り込みを形成し、これを起点にして順次折り曲げる工程を有することを特徴とする。このような工程によれば、スラブからフランジを形成する際に中心偏析部がフランジ全体に分散され、生産性を損なうことなく、フィレット部での中心偏析部の凝集を軽減し、その結果、低温割れを抑制することができる。
本発明の要旨は以下のとおりである。
【0010】
[1]質量%で、
C:0.01〜0.19%、
Si:0.05%〜0.50%、
Mn:0.40〜1.80%、
P:0.0010%〜0.0200%、
S:0.0010%〜0.0200%、
H:0.0002%以下、
を含み、
さらに選択的に、
Cu:0.70%以下、
Ni:0.70%以下、
Cr:0.50%以下、
V:0.12%以下、
Mo:0.30%以下、
Nb:0.08%以下、
Ti:0.05%以下、
Al:0.07%以下、
N:0.020%以下、
B:0.0030%以下、
の1種又は2種以上を含有し、
式(1)で定義するPCMが0.29以下であり、残部がFe及び不可避不純物である化学組成を有する圧延H形鋼であって、
フランジにおける最脆化部でのMn濃度の上位5%平均値が、フランジ幅方向の端面からフランジ幅方向に1/6の位置、且つ、ウェブと反対側に位置するフランジの面からフランジ厚方向に1/4の位置におけるMn濃度の1.1倍以上、1.6倍以下であることを特徴とする、圧延H形鋼。
PCM=C+Si/30+Mn/20+Cu/20+Ni/60+Cr/20+Mo/15+V/10+5B ・・・(1)
但し、式(1)におけるC、Si、Mn、Cu、Ni、Cr、Mo、V、Bは元素記号の質量分率(mass%)を示す。
また、前記フランジにおける最脆化部でのMn濃度の上位5%平均値とは、最脆化部が中心となる10mm×10mmの視野において、電子線マイクロアナライザによって測定された500点×500点のMn濃度
のうち、上位5%以上の値となる12500点の平均値である。
[2]質量%で、
C:0.01〜0.19%、
Si:0.05%〜0.50%、
Mn:0.40〜1.80%、
P:0.0010%〜0.0200%、
S:0.0010%〜0.0200%、
H:0.0002%以下、
を含み、
さらに選択的に、
Cu:0.70%以下、
Ni:0.70%以下、
Cr:0.50%以下、
V:0.12%以下、
Mo:0.30%以下、
Nb:0.08%以下、
Ti:0.05%以下、
Al:0.07%以下、
N:0.020%以下、
B:0.0030%以下、
の1種又は2種以上を含有し、
式(1)で定義するPCMが0.29以下であり、残部がFe及び不可避不純物である化学組成を有する矩形断面の鋼片を1100〜1350℃に加熱し、順に粗圧延工程、中間圧延工程、仕上圧延工程を行う、圧延H形鋼の製造方法であって、
前記粗圧延工程を行う圧延機には、被圧延材を造形する3以上の複数の孔型が刻設され、前記複数の孔型の少なくとも一つは、被圧延材の幅方向に対し鉛直に割り込みを入れる突起部が形成された上下一対のロールに刻設される割り込み形成用孔型であり、前記割り込み形成用孔型に形成される突起部の先端角度は25°以上40°以下であり、前記割り込み形成用孔型の後段において、当該割り込み形成用孔型によって形成された分割部位を順次折り曲げる造形用孔型が設けられ、
前記圧延H形鋼は、フランジにおける最脆化部でのMn濃度の上位5%平均値が、フランジ幅方向の端面からフランジ幅方向に1/6の位置、且つ、ウェブと反対側に位置するフランジの面からフランジ厚方向に1/4の位置におけるMn濃度の1.1倍以上、1.6倍以下であることを特徴とする、圧延H形鋼の製造方法。
PCM=C+Si/30+Mn/20+Cu/20+Ni/60+Cr/20+Mo/15+V/10+5B ・・・(1)
但し、式(1)におけるC、Si、Mn、Cu、Ni、Cr、Mo、V、Bは元素記号の質量分率(mass%)を示す。
また、前記フランジにおける最脆化部でのMn濃度の上位5%平均値とは、最脆化部が中心となる10mm×10mmの視野において、電子線マイクロアナライザによって測定された500点×500点のMn濃度
のうち、上位5%以上の値となる12500点の平均値である。
[3][2]に記載された圧延H形鋼の製造方法の化学組成におけるFeの一部に代えて、質量%で、
REM:0.010%以下、
Ca:0.0050%以下、
の一方又は両方を含有することを特徴とする、圧延H形鋼の製造方法。
[4]前記突起部によって形成された割り込みの長さLと、前記矩形断面の鋼片の厚さTと、仕上圧延工程によって形成された圧延H形鋼のフランジの幅Fとが、以下の式(2)を満たすことを特徴とする、
[2]又は[3]に記載の圧延H形鋼の製造方法。
L≧0.5F−0.5T ・・・(2)
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、予備加熱や圧延後の再加熱または温度保持等の特別な熱処理を施すことなく、単純な工程でフィレット部の溶接性に優れたH形鋼を得ることが可能になる。したがって、経済性を損なうことなく、圧延H形鋼を部材とする鋼構造物の信頼性をさらに向上させる事が可能になる等、本発明は、産業上の貢献が極めて顕著である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して説明する。なお、本明細書および図面において、実質的に同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
【0014】
本発明者らは、フランジ部を形成する際に割り込みを入れ、フランジ部を曲げて製造することで、偏析がフランジ全体で分散され、フィレット部における偏析の凝集が改善されるという知見を得た。先ず、本知見について簡単に説明する。なお、本実施の形態に係るフランジ部を曲げて圧延造形を行うようなH形鋼の製造方法を本明細書では「スプリット法」と呼称する。
【0015】
先ず、上記「スプリット法」の概要について
図1を参照して簡単に説明する。
図1は、H形鋼の従来の製造方法における粗圧延法の1つであるいわゆる「エッジング法」と、本実施の形態に係るH形鋼の製造方法における粗圧延法であるいわゆる「スプリット法」との比較についての概略説明図である。
【0016】
図1(a)に示すように、エッジング法は、スラブからH形鋼を製造する際の粗圧延時に、スラブ端部に当該スラブを孔型中央に誘導するための溝を付与し、粗圧延機に取り付けられた孔型ロールによって熱間圧延を行う方法である。加熱炉で加熱されたスラブを幅方向に圧延し、スラブ端部をスラブの厚み方向に伸長させることでフランジ部が形成される。このようにフランジ部が形成された被圧延材に対し、更に製品の形状や寸法を精密に整えるために、中間圧延機による中間圧延や仕上圧延機による仕上圧延等が行われ、最終的なH形鋼製品が製造される。
【0017】
一方、
図1(b)に示すように、スプリット法では、スラブからH形鋼を製造する際の粗圧延時に、スラブ端面に上記エッジング法に比べて深さの深い溝(割り込み)を割り込み形成用孔型によって付与する。そして、付与された溝に対して、当該溝を拡げるための突起部が形成された造形用孔型の孔型ロールを用いて分割部位とされたスラブ端部を割り広げるような圧延造形が行われる。このような割り広げ圧延造形を例えば複数回角度を変えて行うことでフランジ部を形成する方法がスプリット法である。このようにフランジ部が形成された被圧延材に対し、更に中間圧延や仕上圧延等が行われ、最終的なH形鋼製品が製造される。
【0018】
本発明者らは、
図1に示すエッジング法とスプリット法を比較するに際し、スラブに存在する主にMn濃度の高い部位である中心偏析部に着目し、エッジング法による粗圧延と、スプリット法による粗圧延では、スラブの中心偏析部の凝集あるいは分散の状態に大きな差異があることを見出した。
即ち、
図1(a)に示すように、エッジング法では孔型ロールによってスラブを幅方向に圧延する際に、中心偏析部がフィレット部に凝集することが分かっている。一方、
図1(b)に示すように、スプリット法ではスラブを幅方向にほとんど圧延せず、フランジ部を割り広げるといった方法を採るため、中心偏析部がフランジ部全体で分散され、フィレット部に凝集することなく粗圧延が行われることが分かっている。特に、割り込み用の孔型の突起部先端角度を40°以下の鋭角とすることで、中心偏析部の凝集を抑制させることが可能であることが分かってきている。
【0019】
そして、本発明者らは、スプリット法によって製造される圧延H形鋼の性質として、上述の通り中心偏析部の凝集が抑制されるために、フィレット部での低温割れを抑制させることが可能である事を知見した。これは、主にMn濃度の高い中心偏析部に存在するMnSや硬質相である島状マルテンサイト(MA)、上部ベイナイトの生成を抑制したためである。
【0020】
以下、上記のような知見に伴う、本実施の形態に係る圧延H形鋼及びその製造方法について詳細に説明する。
【0021】
まず、H形鋼の成分組成(化学組成)について説明する。
【0022】
(C:0.01〜0.19%)
Cは、フィレット部でのMA生成を促進し、溶接性および靭性を低下させる。しかし、Cは安価に強度を向上させる事が可能であり、製鋼の工程上Cを完全に除去することはコストの増加につながることから、C量を0.01%以上とする。一方、C量が0.19%を超えるとフィレット部の中心偏析部が凝集した位置においてMAが増加し、溶接性および靱性が低下するため、C量を0.19%以下に制限する。好ましくはC量を0.17%以下、より好ましくは0.15%未満とする。
【0023】
(Si:0.05〜0.50%以下)
Siは、脱酸元素であり、強度の向上にも寄与するが、Cと同様、MAを生成させる元素である。Si量が0.50%を超えると、硬質相の生成によって低温割れが発生するため、Si量を0.50%以下に制限する。Si量は、0.30%以下が好ましく、より好ましくは0.20%以下、更に好ましくは0.10%以下とする。しかし、Siを含有させないと脱酸の工程上コストが増加することから、Siを0.05%以上含有させる。
【0024】
(Mn:0.40〜1.80%)
エッジング法により製造されたH形鋼はスラブの中心偏析部がフィレット部に凝集する。Mnは特に中心偏析部に凝集しやすく、局所的にMnの濃度が上昇することで脆化相であるMAの形成、硬質なベイナイトの増加、MnSの増加が促進される。この結果、これらの界面がHのトラップサイトとなり、低温割れが発生しやすくなる。特に、1.80%を超えるMnを含有させると、フィレット部において、介在物の増加等によって溶接割れが生じる。このため、Mn量を1.80%以下に制限する。Mn量は好ましくは1.70%以下、より好ましくは1.50%以下とする。一方、Mnは結晶粒径の微細化に効果的な元素であるため、0.40%以上を含有させる。
【0025】
(P:0.0010〜0.0200%以下)
Pは、凝固偏析による溶接割れ、靱性低下の原因となるので、極力低減すべきである。P量は0.0200%以下に制限し、更には0.0150%以下に制限してもよく、より好ましくは0.0100%以下に制限してもよい。なお下限については、0.0010%未満まで除去すると製鋼コストが大きく上昇するため、0.0010%以上とする。
【0026】
(S:0.0010〜0.0200%以下)
Sは、凝固偏析により形成された中心偏析部においてMnSを形成し、溶接割れ、靱性低下だけではなく水素割れ等の原因となるので、極力低減すべきである。S量は0.0200%以下に制限し、更には0.0150%以下に制限してもよく、より好ましくは0.0100%以下に制限してもよい。なお下限については、0.0010%未満まで除去すると製鋼コストが大きく上昇するため、0.0010%以上とする。
【0027】
(H:0.00020%以下)
HはMA、硬質相、介在物等の界面をトラップサイトとして、室温において低温割れの原因となるので、極力低減すべきである。H量は0.00020%以下に制限し、更には0.00015%以下に制限してもよく、より好ましくは0.00010%以下に制限してもよい。なお下限については、0.00002%未満まで除去すると製鋼コストが大きく上昇するため、0.00002%以上であってもよい。
【0028】
(PCM:0.29以下)
PCM(%)は低温割れの感受性を示す指標(いわゆる溶接割れ感受性組成)として一般的に用いられており、以下の式(1)で示される値である。
PCM=C+Si/30+Mn/20+Cu/20+Ni/60+Cr/20+Mo/15+V/10+5B ・・・(1)
ここで、上記式(1)の各符号(元素記号)は、H形鋼の成分組成(化学組成)において含有される各成分の質量分率(質量%、mass%)を示している。また、各元素記号で示す成分のうち、含有されないものについては0%として計算される。
溶接部には一般に冷却に伴い引張応力が発生する。この時PCMが大きいと溶接部の硬さが上昇し、塑性変形による引張応力の緩和がなされない。その結果、引張応力の増大により低温割れが発生しやすくなることから、極力低減することが望ましい。圧延H形鋼におけるPCMは低温割れの発生が実用上殆ど問題にならなくなる0.29以下に制限すべきであり、更には0.27以下に制限することが好ましく、更には0.25以下とすることがより好ましい。なお下限については、いずれの元素も強度の向上に寄与する元素であるので、0.15以上であってもよい。
【0029】
更に、強度及び靱性等の向上を目的として、Cu、Ni、Cr、V、Mo、Nb、Ti、Al、NおよびBのうちの1種又は2種以上を含有させてもよい。
【0030】
(Cu:0.70%以下)
Cuは、強度の向上に寄与する元素である。しかし、Cu量が0.70%を超えると強度が過剰に上昇し、靭性が低下するため、Cu量を0.70%以下に制限する。Cu量は好ましくは0.50%以下とし、より好ましくは0.30%以下とする。Cu量の下限は0.01%が好ましく、より好ましくは0.10%である。
【0031】
(Ni:0.70%以下)
Niは、強度及び靭性を高めるために、極めて有効な元素である。しかし、Niは高価な元素であり、合金コストの上昇を抑制するため、Ni量を0.70%以下に制限し、好ましくは0.50%以下とする。Ni量は0.01%以上が好ましく、より好ましくは0.10%以上、更に好ましくは0.20%以上とする。
【0032】
(Cr:0.50%以下)
Crも強度の向上に寄与する元素である。しかし、0.50%を超えてCrを添加すると炭化物を生成し、溶接性を損なうことがあるため、Cr量を0.50%以下に制限し、好ましくは0.30%以下とする。Cr量の下限は0.01%とする。
【0033】
(V:0.12%以下)
Vは、窒化物(VN)を形成する元素であり、母材の強度を高めるために0.01%以上を含有させてもよい。好ましくはV量を0.02%以上、より好ましくは0.03%以上とする。一方、Vは高価な元素であるため、V量の上限は0.12%に制限し、好ましくは、0.08%に制限する。
【0034】
(Mo:0.30%以下)
Moは、焼入れ性を高め、強度の向上に寄与する元素である。しかし、0.30%を超えてMoを添加すると、フィレット部におけるMAの生成を促進し、低温割れを生じさせるため、Mo量を0.30%以下に制限し、好ましくは0.10%以下とする。Mo量の下限は0.01%が好ましい。
【0035】
(Nb:0.08%以下)
Nbはフェライトを微細化させ、靭性を向上させる元素である。しかし、0.08%を超えて添加するとフェライト変態を過剰に抑制し、MAの生成を促進するため、Nb量を0.08%以下に制限し、好ましくは0.05%以下、さらに好ましくは0.02%以下とする。
【0036】
(Ti:0.05%以下)
Tiは、TiNを形成する元素であり、Ti量が0.05%を超えるとTiNが粗大化し、脆性破壊の起点となるため、Ti量を0.05%以下に制限する。好ましくはTi量を0.02%以下とする。Ti量の下限は0%でもよいが、微細なTiNは組織の微細化に寄与するため、0.005%以上を含有させてもよい。
【0037】
(Al:0.07%以下)
Alは、脱酸元素であるが、Al量が0.07%を超えると、介在物によって母材及び溶接熱影響部の靭性が低下するため、Al量を0.07%以下に制限する。Al量は、0.05%以下が好ましく、より好ましくは0.04%以下、更に好ましくは0.03%以下とする。Al量の下限は規定せず、0%でもよいが、Alは有用な脱酸元素であり、0.01%以上を含有させても良い。
【0038】
(N:0.020%以下)
Nは、母材及び溶接熱影響部の靭性を低下させる元素である。N量が0.020%を超えると、固溶Nや粗大な析出物の形成によって靭性を損なうため、N量を0.020%以下に制限する。N量は好ましくは0.0100%以下、より好ましくは0.0070%以下とする。一方、N量を0.0020%未満に低減しようとすると製鋼コストが高くなるため、N量は0.0020%以上であってもよい。コストの観点からN量は0.0030%以上であってもよい。
【0039】
(B:0.0030%以下)
Bは焼入れ性を高める元素で、溶接熱影響部の靱性を低下させる元素である。B量が0.0030%を超えると、硬質なマルテンサイトや脆化相の生成により靱性を損なうため、B量を0.0030%以下に制限する。B量は好ましくは0.0020%以下、より好ましくは0.0015%以下とする。一方、B量を0.0002%未満に低減しようとするとスクラップを使用することができずに製鋼コストを悪化させる場合があるため、B量は0.0002%以上であってもよい。コストの観点からB量は0.0005%以上であってもよい。
【0040】
更に、介在物の形態の制御を目的として、化学組成におけるFeの一部に代えて、REM、Caのうちの1種又は2種を含有させてもよい。
【0041】
(REM:0.010%以下、Ca:0.0050%以下)
REM及びCaは、脱酸元素であり、硫化物の形態の制御にも寄与するため、添加してもよい。しかし、REM、Caの酸化物は溶鋼中で容易に浮上するため、鋼中に含有されるREM量を0.010%以下、Ca量を0.0050%以下に制限する。REM量及びCa量の下限は、それぞれ0.0005%としても良い。
【0042】
次に、本発明に係る圧延H形鋼の金属組織及び特性について説明する。
図3は、機械試験及び金属組織の観察を行った位置を示す概略説明図である。以下では、主に
図3に示した位置において、金属組織や特性について検証を行った結果について説明する。
【0043】
図3に示す通り、フランジにおけるフランジ幅方向の端面からフランジ幅方向に1/6の位置、且つ、ウェブと反対側に位置するフランジの面(即ち、外側面)からフランジ厚方向に1/4の位置は、熱間圧延時に温度が低下し易いフランジ端部と、温度が低下し難いフランジ中央部との中間である。また、中心偏析部がこの部位で観察されることはない。従って、当該位置は、温度分布からH形鋼の平均的な化学成分および機械特性を示すと考えられる。
なお、本明細書では、当該位置を、フランジ幅Fとフランジ厚tとを用いて「1/6F−1/4t」と表記する。
【0044】
本実施の形態に係るH形鋼は、フィレット部における中心偏析の凝集および低温割れを抑制している。このため、H形鋼の金属組織の観察及び機械特性(強度及びシャルピー吸収エネルギー)の測定は、
図3に示すH形鋼の1/2F−3/4t付近にある最脆化部および、1/6F−1/4tの各位置からそれぞれ試験片を採取して行う。
【0045】
最脆化部の位置は、フランジ粗圧延時の状況により図の左右方向、すなわちフランジ幅方向に対して一定ではない。そこで、中心偏析部が凝集している部分をナイタール腐食液により現出させたうえで、ウェブと反対側に位置するフランジの面からフランジ厚方向に3/4の位置(3/4t)を示す直線と、前記中心偏析部が凝集している部分が交わる部分を最脆化部の位置と定めた。位置が特定された最脆化部から試験片を採取し、y型溶接割れ試験、金属組織の観察及び機械特性の測定を実施した。
【0046】
図4は、JISZ3158に基づくy型溶接割れ試験に関する説明図であり、(a)はH形鋼における試験片の作成位置を示す概略説明図、(b)は試験片の概略平面図である。なお、
図4中の各数値の単位はmmである。
図4(a)に示すように、試験片の作成位置は、実構造物での溶接および最脆化部を評価する事を目的として、H形鋼のフランジ外側面とした。本実施の形態に係るH形鋼では、スプリット法を採用しているために、その中心偏析部はy型溶接割れ試験片の中心に存在している。また、y型溶接割れ試験の条件として最も厳しい条件下で評価を行い、低温割れの判定を行う予熱および雰囲気温度は0℃とし、溶接入熱は20kJ/cmとした。
【0047】
本発明の圧延H形鋼の金属組織の評価は、光学顕微鏡、走査電子顕微鏡(SEM)および電子線マイクロアナライザ(EPMA)によって行う。光学顕微鏡によって、
図3に示した最脆化部が中心となる10mm×10mmの視野を同定する。同定した視野において、電解研磨後に加速電圧20kV、ビーム形状を長さ20μmの帯状、ステップ20μmの条件で、定められた最脆化部の位置におけるMn濃度を測定した。視野内における500点×500点のうち、上位5%以上の値となる12500点の平均値(これを「上位5%平均値」と呼称する)を求め、最脆化部でのMn濃度(CMn−max) とした。
一方、1/6F−1/4tの位置よりサンプルを採取し、JIS G0404に従い、当該サンプルの化学成分を分析して求めたMn濃度の値を1/6F−1/4tの位置におけるMn濃度(CMn)とした。更に、(CMn−max)を(CMn)で除した値(CMn−max)/(CMn)を偏析度として評価した。
【0048】
本発明に係る圧延H形鋼の強度の目標値は、欧州圏で採用されている鋼材規格EN10225に基づいて設定した。1/6F−1/4tの位置から採取された試験片を用いて、常温で測定された降伏点(YP)又は0.2%耐力が325MPa以上、引張強度(TS)が460MPa以上であることが望ましい。靭性の目標値をΔvTrs≦40℃とする。
【0049】
図2は、H形鋼おける偏析度と低温割れおよび延性脆性遷移温度差(シャルピー遷移温度差)ΔvTrsの相関を示す図である。
図2における偏析度とは、
図3を参照して上述した最脆化部と1/6F−1/4tの位置でのMnの濃度比である。
図2に示すように、従来のエッジング法で製造された圧延H形鋼の場合は、偏析度が1.6を超えており、いずれも低温割れが発生していた。また、偏析度が1.6を超える水準では最脆化部と、1/6F−1/4tの位置との延性脆性遷移温度差ΔvTrsが40℃を超えている。この状態では最脆化部にMnが多く偏析することによってMnS、硬質相である島状マルテンサイト(MA)、上部ベイナイト等が形成され、低温割れが抑制できなくなる。
一方、最脆化部と、1/6F−1/4tの位置との延性脆性遷移温度差ΔvTrsが40℃以下である、即ち、偏析度が1.6以下となった状態では、中心偏析部の凝集が抑制され、従来品よりもフランジにおける断面内の均一性に優れた圧延H形鋼が得られる。
なお、一般的な温度条件で使用される鋼構造建築物が地震力等を受けるとき、部材のH形鋼が脆性破壊することなく所定の機械的特性を満たすためには、低温割れが生じない事が必要であり、(CMn)の位置のvTrsが0℃以下であることが望ましい。
【0050】
以上の通り、本発明に係る圧延H形鋼では、
図2に示す偏析度が1.6以下であることが好ましい。更には、偏析度が低いほど、中心偏析部の凝集が抑制されることから、1.5以下であることがより好ましい。また、偏析度は、数値の特性上1.0を下回ることは無く、例えば1.0以上あるいは1.1以上であることが好ましい。
【0051】
次に、本実施の形態に係るH形鋼の製造方法について説明する。本実施の形態では、
図5に示す工程で、生産性に優れる矩形の鋼片を加熱し、粗圧延工程、中間圧延工程、仕上圧延工程、からなる熱間圧延を行い、水冷装置によって加速冷却を行い、H形鋼を製造する。熱間圧延のうち、粗圧延は、
図1(b)に示したスプリット法により行う。
【0052】
製鋼工程(
図5中の加熱炉の上流側)では、溶鋼の化学成分の調整を行う。特にHは硬質相や介在物表面をトラップサイトとして低温割れを引き起こすため、RH真空脱ガス法等により鋼中のHを低減する。続いて合金添加により化学成分を調整した後、鋳造し、矩形の鋼片(いわゆる「スラブ」とも呼称される)を得る。鋳造は、生産性の観点から、連続鋳造が好ましい。また、鋼片の厚みは、生産性の観点から、200mm以上とすることが好ましく、偏析の低減や、熱間圧延における加熱温度の均質性などを考慮すると、350mm以下が好ましい。
【0053】
次に、加熱炉を用いて鋼片を加熱し、熱間圧延を行う。続いて、粗圧延機を用いて
図1(b)に示したスプリット法による粗圧延を行う。その後、中間ユニバーサル圧延機(中間圧延機)と水冷装置とを用いて中間圧延を行う。続いて、仕上圧延機を用いて仕上げ圧延を行って熱間圧延を終了する。このとき、必要に応じたタイミングでH形鋼を水冷してもよい。以下、各工程における条件等について説明する。
【0054】
(鋼片の加熱温度:1100〜1350℃)
鋼片の加熱温度は、1100〜1350℃とする。加熱温度が低いと変形抵抗が高くなるので、熱間圧延における造形性を確保するために1100℃以上とする。一方、鋼片の加熱温度が1350℃を超えると、素材である鋼片の表面の酸化物が溶融して加熱炉内が損傷することがある。Nbなど、析出物を形成する元素を十分に固溶させるためには、鋼片の加熱温度の下限を1150℃以上とすることが好ましい。特に、製品の板厚が薄い場合は、累積圧下率が大きくなるため、鋼片の加熱温度を1200℃以上にすることが好ましい。組織を微細にするためには、鋼片の加熱温度の上限を1300℃以下にすることが好ましい。
【0055】
(粗圧延工程における割り込み長さLの規定)
図6は本実施の形態に係る圧延H形鋼の製造において、粗圧延工程に用いるロールに刻設される孔型形状の概略と、圧延造形の概略を示す説明図である。
スプリット法による粗圧延では、矩形断面の鋼片の厚さTと、仕上圧延工程によって形成された圧延H形鋼のフランジの幅Fとが、
図6における所定の孔型先端角度(孔型内周の突起部先端角度)の孔型による割り込み長さLと下記式(2)を満足するように割り込み長さLを設定してもよい。
L≧0.5F−0.5T ・・・(2)
【0056】
上記式(2)の通り、割り込み長さLの下限は矩形断面の鋼片の厚さTと、仕上圧延工程によって形成された圧延H形鋼のフランジの幅Fに対して0.5F−0.5T以上とする。これは、粗圧延後のフランジ幅が製品のフランジ幅と同等になるまでスプリット法による圧延造形を行うことにより、中心偏析部が凝集しやすい鈍角な孔型での圧下量を抑制するためである。割り込み長さLの上限は特に設けないが、0.8F−0.5Tを超えると中間圧延時に過大なエッジング圧延が必要となり、生産性が落ちるため、0.8F−0.5T以下が望ましい。
【0057】
(割り込み時の孔型における突起部先端角度)
図1(b)、
図6に示した孔型先端角度(孔型内周の突起部先端角度)については、割り込みを形成させるのに十分鋭角な角度とすれば良く、例えばその上限は40°に設定しても良い。これは、孔型先端角度が40°を超えるとスラブの中心偏析部がフランジで分散されず、
図1(a)に示すエッジング圧延同様にフィレット部に凝集するためである。孔型先端角度を40°以下とすることで
図1(b)のスプリット法で示すように割り込み形成用孔型での圧延時に中心偏析部がフランジ内で凝集せずに分散し、フィレット部における低温割れの発生を抑制することが可能となる。
孔型先端角度の下限は特に設けないが、25°を下回ると圧延時にロールが折損する可能性があるため、25°以上が好ましい。
なお、この際、スラブの中心偏析部は
図1(b)に示すようにI姿勢での左右フランジに分かれるのではなく、左右どちらかのフランジに分散されてもよい。
【0058】
図1(b)に示すスプリット法により圧延H形鋼を製造する場合、中心偏析部は、フランジ部において分散され、フランジにおける、フランジ幅の中心付近からフランジ幅方向の両端面に向かって15mm以上、且つ、厚み方向でフランジ表層(ウェブと反対側に位置するフランジ面からフランジ厚方向に)2mm以内の領域に残存している。この表層付近に分散される中心偏析部は、前述のナイタール腐食液による同定で現出可能である。
表層付近に分散される中心偏析部でのMnの上位5%平均濃度を(CMn−surface)とし、この位置における偏析度(CMn−surface)/(CMn)は、1.1以上1.6以下であることが望ましい。スプリット法ではエッジング法に比べて、フランジ表層の偏析度が高くなる傾向にある。偏析度が1.1以上であると、表面のクラックを目視で確認でき検査が容易になるメリットがある。しかし、当該偏析度が1.6を超えると、フランジ表面に多数のクラックが入り易くなるため、偏析度は1.1以上1.6以下であることが望ましい。なお、(CMn−surface)における上位5%平均濃度の求め方は、上記(CMn−max)における上位5%平均濃度の求め方に準ずるものとする。即ち、サンプルの採取位置が異なるだけで、数値の求め方は基本的に同じである。
【0059】
(中間圧延工程)
熱間圧延の中間圧延工程では、中間ユニバーサル圧延機による制御圧延を行ってもよい。制御圧延は、圧延温度及び圧下率を制御する製造方法である。熱間圧延の中間圧延では、パス間水冷圧延加工を1パス以上施すことが好ましい。パス間水冷圧延加工では、圧延パス間で水冷を行うことにより、フランジの表層部と内部とに温度差を付与し、圧延する。パス間水冷圧延加工は、例えば、圧延パス間における水冷により、700℃以下にフランジ表面温度を水冷した後、復熱過程で圧延する製造方法である。
【0060】
パス間水冷圧延加工を行う場合、中間ユニバーサル圧延機の前後に設けた水冷装置を用いて、圧延パス間の水冷を行うことが好ましく、水冷装置によるフランジ外側面のスプレー冷却とリバース圧延とを繰り返し行うことが好ましい。パス間水冷圧延加工では、圧下率が小さい場合でも、板厚の内部まで加工歪みを導入することができる。また、水冷により圧延温度を短時間で低下させることによって、生産性も向上する。
【0061】
なお、中間圧延工程及び仕上圧延工程としての熱間圧延の終了後は、そのまま、仕上圧延機の出側に設けた水冷装置によって、フランジの内面及び外面に加速冷却を施してもよい。フランジの内外面の冷却速度が均一になり、材質及び形状精度を向上させることができる。ウェブの上面はフランジの内面に噴射した冷却水によって、上面側が冷却される。ウェブの反りを抑制するため、ウェブの下面から冷却してもよい。
【0062】
以上説明した本実施の形態に係るH形鋼の製造方法によって製造される圧延H形鋼においては、圧延造形前のスラブ内に存在する中心偏析部をフィレット部において凝集させることなく分散させて圧延造形を完了させることができる。具体的には、圧延造形後のフランジにおいて、フィレット部における低温割れの発生が抑制できる圧延H形鋼が製造され、その偏析度は1.6以下となる(
図2参照)。
【0063】
このような圧延H形鋼では、フランジのフィレット部に中心偏析部が凝集して低温割れが発生する、又は、靭性が著しく低下するといった事が回避される。即ち、鋼構造物としての信頼性に優れたH形鋼製品の製造が実現される。また、フランジにおいて分散された中心偏析部は、フランジにおける、フランジ幅の中心からフランジ幅方向の両端面に向かって15mm以上、且つ、ウェブと反対側に位置する面からフランジ厚方向に2mm以内の領域に残存するが、凝集していないために、靱性や脆化特性への影響はほとんどないものと推定される。更には、従来はフランジの内部状態を調べるために種々の検査・実験等が求められたが、本実施の形態に係るH形鋼製品では、ウェブと反対側に位置するフランジ面を目視により調べることができる。
【0064】
以上、本発明の実施の形態の一例を説明したが、本発明は図示の形態に限定されない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【実施例】
【0065】
(実施例)
先ず、実施例のNo.1〜13として、表1に示す成分組成を有する鋼を溶製し、連続鋳造により、厚みが250〜300mmの鋼片を製造した。鋼の溶製は転炉で行い、一次脱酸し、脱ガス処理を行い、合金を添加して成分を調整した。そして、得られた鋼片を表2に示す製造条件で熱間圧延を行った。熱間圧延では、粗圧延に続いて、中間ユニバーサル圧延機と、その前後に設けた水冷装置とを用いて、必要に応じてフランジ外側面のスプレー冷却とリバース圧延および圧延後の水冷を行った。
【0066】
【表1】
【表2】
【0067】
そして、上記実施の形態において
図4を参照して説明した試験片を作成し、予熱0℃、入熱20kJ/cmの条件でy形溶接割れ試験を行った。試験の詳細はJIS Z 3158に従った。また、最脆化部及び1/6F−1/4tの各位置(上記実施の形態の
図3参照)から、圧延方向を長さ方向とする試験片を採取し、機械特性を測定した。機械特性としては、降伏点(YP)、引張強度(TS)、vTrsを測定した。引張試験は、JIS Z 2241に準拠して行い、シャルピー衝撃試験は、JIS Z 2242に準拠して行った。また、最脆化部と1/6F−1/4tの各位置から試料を採取し、中心偏析部が凝集している10mm(長手方向)×10mm(フランジ厚方向)の正方形内の領域について、EPMAにより(CMn−max)と、(CMn)を測定及び算出した。
測定・算出結果を以下の表3に示す。
【0068】
【表3】
【0069】
なお、製造すべきH形鋼の各特性の目標値は、フィレット部において低温割れが生じず、常温の降伏点(YP)又は0.2%耐力が335MPa以上、引張強度(TS)が460MPa以上、ΔvTrsが40℃以下である。
【0070】
表3に示すように、実施例のNo.1〜13は、低温割れが生じておらず、常温の強度が目標範囲であり、かつ、ΔvTrsが目標値の40℃以下を満足している。また、Mnの偏析度はいずれも1.6以下であった。Mnの偏析度は望ましくは1.5以下であり、さらに望ましくは1.4以下である。
【0071】
(比較例)
比較例のNo.14〜26として、表4に示す成分組成を有する鋼を溶製し、上記実施例と同様の方法で厚みが250〜300mmの鋼片を製造した。そして、得られた鋼片を表5に示す製造条件で熱間圧延を行った。
なお、以下の表4及び表5において下線を付した箇所は、上記実施の形態で説明した本発明に係る成分組成及び製造条件を満たさない箇所である。
【0072】
【表4】
【表5】
【0073】
そして、最脆化部及び1/6F−1/4t位置(
図3参照)から、上記実施例と同様に、y形溶接割れ試験片及び機械特性を測定した。機械特性として、降伏点(YP)、引張強度(TS)、vTrsを測定した。また、最脆化部と1/6F−1/4tの各位置から試料を採取し、上記実施例と同様に、EPMAにより(CMn−max)と、(CMn)を測定及び算出した。
測定・算出結果を以下の表6に示す。なお、以下の表6において下線を付した箇所は、製造すべきH形鋼の各特性の目標値から外れた値である。
【0074】
【表6】
【0075】
表6に示すように、No.14、16、18はC、Mn、Si量が少ないため強度が不足している。No.15、17、19、20、21、25、26、はそれぞれC量、Si量、Mn量、P量、S量、H量、PCMが多く、低温割れが発生している。No.22は粗圧延の孔型先端角度が40°を超えており、スラブ中心偏析部が分散せずに凝集したため、低温割れが発生している。No.23、24は割り込みの長さLが不足しており、スラブ中心偏析部が分散せずに凝集したため、低温割れが発生している。