(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の搬送装置として使用可能なインクジェットプリンタについて、図面を参照しつつ説明する。
図1に示すように、インクジェットプリンタ1(以下、プリンタ1)は、直方体形状の筐体1aを有する。筐体1aの天板上部には、排出口2及び排紙トレイ3が設けられている。排出口2は、筐体1a内から筐体1a外へと用紙Pを排出するための開口である。排紙トレイ3は、排出口2から排出された用紙Pを支持可能である。
【0012】
また、筐体1aには、タッチパネル4(
図2参照)が設けられている。このタッチパネル4は、ユーザからの各種入力を受け付け可能である。さらに、タッチパネル4は、各種の設定画面や動作状態等をユーザに対して表示することが可能である。
【0013】
筐体1a内の下部には、上下方向に並ぶ2段の給紙トレイ10U,10Dが筐体1aに対して着脱可能に収容されている。これら給紙トレイ10U,10Dは、上面が開口した箱であり、複数の用紙Pを積層した状態で収容可能である。また、2つの給紙トレイ10U,10Dは、それぞれ、互いに用紙サイズが異なる複数種類の用紙Pを収容可能である。
【0014】
筐体1a内には、給紙トレイ10U,10Dから排出口2に至る、用紙Pの搬送路Rが規定されている。搬送路Rは、3つの搬送路R1〜R3から構成されている。搬送路R1は、上段の給紙トレイ10Uから延びる搬送路であり、ガイド45により規定されている。搬送路R2は、下段の給紙トレイ10Dから延び、下流端において搬送路R1の下流端と合流する搬送路である。この搬送路R2は、ガイド46、及び、上段の給紙トレイ10U内に形成されたトレイ内案内路47により規定されている。
【0015】
搬送路R3は、搬送路R1の下流端及び搬送路R2の下流端に接続され、排出口2まで延びる経路である。即ち、搬送路R3は、2つの給紙トレイ10U,10Dに共通の搬送路である。この搬送路R3は、ガイド48a〜48eにより規定されている。なお、以下では、各搬送路R1〜R3における給紙トレイ10U,10Dから排出口2に向かう方向を「搬送方向」と称する。
【0016】
また、筐体1a内には、2つの給紙トレイ10U,10D以外に、ヘッド5、ヘッド5にブラックインクを供給するカートリッジ(図示略)、2つの給送機構20U,20D、搬送機構30、2つの用紙残量検知センサ50U,50D、2つの用紙検知センサ55,56、及び、プリンタ1各部を制御する制御装置100などが収容されている。
【0017】
ヘッド5は、主走査方向(後述する)に長尺な略直方体形状を有するラインヘッドである。ヘッド5の下面は吐出面5aとなっており、ブラックインクを吐出する複数の吐出口が開口している。ヘッド5の内部には、カートリッジから供給されたブラックインクが吐出口に至るまでの流路が形成されている。また、ヘッド5は、ヘッドホルダ6を介して筐体1aに固定支持されている。即ち、プリンタ1は、ヘッド5を固定させた状態で画像記録を行うライン式のインクジェットプリンタである。また、ヘッド5の下方には、吐出面5aと対向する位置に、用紙Pを支持するための平板状のプラテン7が配置されている。ヘッドホルダ6は、ヘッド5とプラテン7との間に記録に適した所定の間隙が形成されるように、ヘッド5を保持している。
【0018】
給送機構20Uは、上段の給紙トレイ10Uに収容された用紙Pを搬送路R1に給送するための機構である。給送機構20Uは、ピックアップローラ21Uと、ピックアップローラ21Uを駆動するピックアップモータ22U(
図2参照)と、押圧板23Uと、押圧板移動機構24U(
図2参照)とを有する。ピックアップローラ21Uは、給紙トレイ10Uに収容された複数の用紙Pのうちの、最上位に位置する用紙Pの上面と接触している。そして、ピックアップローラ21Uは、制御装置100による制御の下、ピックアップモータ22Uにより回転駆動されることで、当該最上位に位置する用紙Pをピックアップして搬送路R1に給送する。押圧板23Uは、給紙トレイ10Uに収容された用紙Pの前端部(ピックアップローラ21U側の端部)が載置される板である。押圧板23Uは、後端部に設けられた回転軸を中心に回動することで、その前端部が上下に変位することが可能に構成されている。押圧板移動機構24Uは、制御装置100による制御の下、押圧板23Uに載置されている用紙P(給紙トレイ10Uに収容されている用紙P)の減少に応じて、その用紙Pの減少分に相当する量だけ押圧板23Uの前端部を上昇変位させる機構である。これにより、給紙トレイ10Uに収容された複数の用紙Pのうちの、最上位に位置する用紙Pとピックアップローラ21Uとの接触面圧(給紙圧)を一定の範囲内に維持することができるため、ピックアップローラ21Uの給送不良を抑制することができる。
【0019】
給送機構20Dは、下段の給紙トレイ10Dに収容された用紙Pを搬送路R2に給送するための機構である。この給送機構20Dは、給送機構20Uと同様な構成であり、ピックアップローラ21Dと、ピックアップローラ21Dを駆動するピックアップモータ22D(
図2参照)と、押圧板23Dと、押圧板移動機構24D(
図2参照)とを有する。そして、ピックアップローラ21Dは、制御装置100による制御の下、ピックアップモータ22Dにより回転駆動されることで、給紙トレイ10Dの最上位に位置する用紙Pをピックアップして搬送路R2に給送する。
【0020】
搬送機構30は、給送機構20U,20Dにより給送された用紙Pを受け取って、当該用紙Pを搬送方向に沿ってさらに搬送する機構である。この搬送機構30は、2つの分離ローラ対31,32、7つの搬送ローラ対33〜39、2つのフィードモータ41f,42f(
図2参照)、2つのリタードモータ41r,42r(
図2参照)、及び搬送モータ43(
図2参照)を備えている。
【0021】
分離ローラ対31,32は、給送機構20U,20Dから複数の用紙Pが送られてきた場合に、複数の用紙Pのうち最上位の用紙Pを当該最上位以外の用紙Pと分離して搬送するものである。つまり、分離ローラ対31,32は用紙Pの重送を防止するものである。
【0022】
分離ローラ対31は、搬送路R1上に配置されており、フィードローラ31fとリタードローラ31rとを含む。フィードローラ31fは、制御装置100による制御の下、フィードモータ41fにより、
図1において時計回りの方向(搬送方向下流側に用紙Pを搬送する方向)に回転駆動する。リタードローラ31rは、制御装置100による制御の下、リタードモータ41rにより回転駆動する。リタードローラ31rは、トルクリミッタを有し、1枚の用紙Pをフィードローラ31fとで挟持した場合はフィードローラ31fに従動して
図1において反時計周りに回転する。一方で、リタードローラ31rは、複数の用紙Pをフィードローラ31fとで挟持した場合は
図1において時計周りに回転する。これにより、給送機構20Uから複数の用紙Pが給送されたときに、複数の用紙Pのうち最上位にある用紙Pのみが、当該用紙P以外の用紙Pと分離されて、搬送路R3に向けて搬送される。
【0023】
分離ローラ対32は、搬送路R2上に配置されており、分離ローラ対31と同様に、フィードローラ32fとリタードローラ32rを含む。そして、制御装置100による制御の下、フィードローラ32fはフィードモータ42fにより回転駆動され、リタードローラ32rはリタードモータ42rにより回転駆動される。
【0024】
搬送ローラ対33〜39は、互いに接触する2つのローラを含み、用紙Pを当該2つのローラで挟持しつつ搬送するように構成されている。各搬送ローラ対33〜39を構成する2つのローラの一方は、駆動ローラであり、制御装置100の制御の下、搬送モータ43により回転駆動する。各搬送ローラ対33〜39を構成する2つのローラの他方は、従動ローラであり、駆動ローラの回転に伴い、駆動ローラと接触しながら駆動ローラと逆の方向に回転する。
【0025】
搬送ローラ対33は、搬送路R2において、分離ローラ対32よりも搬送方向下流側に配置されている。この搬送ローラ対33の回転により、分離ローラ対32から搬送されてきた用紙Pが、搬送路R3に向けて搬送される。
【0026】
搬送ローラ対34〜39は、搬送路R3に沿って順に配置されている。これら搬送ローラ対34〜39の回転により、搬送路R1及び搬送路R2から搬送されてきた用紙Pが、搬送路R3に沿って搬送され、排出口2から筐体1a外へと排出される。この排出口2から排出された用紙Pは、排紙トレイ3上に落下して支持される。
【0027】
搬送ローラ対36,37は、ヘッド5を搬送方向に関して挟むように配置されている。これら搬送ローラ対36,37の回転により、ヘッド5の吐出面5aと対向する対向領域において、用紙Pがプラテン7に支持されながら水平方向に沿って搬送される。そして、搬送ローラ対36,37の回転により用紙Pがヘッド5の真下を通過する際に、制御装置100の制御の下、ヘッド5の吐出口から用紙Pの表面に向けてインクが吐出されて画像が記録される。なお、
図1中の副走査方向は、用紙Pがこの搬送ローラ対36,37の回転により搬送される搬送方向と平行且つ水平な方向であり、主走査方向は、水平面に平行且つ副走査方向に直交する方向である。
【0028】
用紙残量検知センサ50Uは、給紙トレイ10Uの上方、且つ、平面視で押圧板23Uの配置領域内に配置されている。用紙残量検知センサ50Uは、給紙トレイ10Uに収容された用紙Pの残量を検知するためのセンサであり、その検知結果を制御装置100に出力する。本実施形態では、用紙残量検知センサ50Uは、給紙トレイ10Uに収容された用紙Pの上面の上下方向位置、又は用紙Pの上面との距離を測定し、その測定結果から用紙Pの残量を検知するように構成されている。この用紙残量検知センサ50Uとしては、メカニカルセンサや光センサなどが採用される。例えば、用紙残量検知センサ50Uとして、発光素子と受光素子とを備えた光反射型の光学センサを採用した場合には、収容された用紙Pの上面(測定対象物)に対して光を照射し、その反射光量によって用紙Pの上面との距離を測定し、その測定結果から用紙Pの残量を検出するものであってもよい。
【0029】
また、用紙残量検知センサ50Uは、給紙トレイ10Uに収容された複数の用紙Pのうち、ピックアップローラ21Uに接触する最上位の用紙Pの収容位置を検知位置(以下、上流検知位置と称す)として、当該上流検知位置における用紙Pの有無を検知し、その検知結果も制御装置100に出力する。例えば、用紙残量検知センサ50Uとして、上記光学センサを採用した場合には、上流検知位置に用紙Pが有る場合と無い場合とで、用紙残量検知センサ50Uにより測定される測定対象物までの距離は、用紙Pの厚み分だけ異なることになる。従って、用紙残量検知センサ50Uは、測定した測定対象物までの距離に基づいて、上流検知位置における用紙Pの有無を検知することができる。制御装置100は、このように用紙残量検知センサ50Uから出力された検知結果に基づいて、給紙トレイ10Uに収容された最上位の用紙Pの後端が、上流検知位置を通過したか否かを判断する。なお、本実施形態では、用紙残量検知センサ50Uの上流検知位置は、ピックアップローラ21Uと用紙Pとの接触位置よりも搬送方向上流側に位置している。従って、用紙Pの後端が上流検知位置を通過していない場合には、当該用紙Pはピックアップローラ21Uと接触している状態にある。
【0030】
用紙残量検知センサ50Dは、給紙トレイ10Dの上方、且つ、平面視で押圧板23Dの配置領域内に配置されている。用紙残量検知センサ50Dは、給紙トレイ10Dに収容された用紙Pの残量を検知するためのセンサであり、用紙残量検知センサ50Uと同様なセンサである。また、この用紙残量検知センサ50Dについても、給紙トレイ10Dに収容された複数の用紙Pのうち、ピックアップローラ21Dに接触する最上位の用紙Pの収容位置を上流検知位置として、当該上流検知位置における用紙Pの有無を検知し、その検知結果も制御装置100に出力する。従って、制御装置100は、この用紙残量検知センサ50Dの検知結果に基づいて、給紙トレイ10Dに収容された最上位の用紙Pの後端が用紙残量検知センサ50Dの上流検知位置を通過したか否かを判断することが可能となる。
【0031】
用紙検知センサ55,56は、それぞれ、搬送路R3上の所定位置を検知位置として、当該検知位置における用紙の有無を検知するためのセンサであり、その検知結果を制御装置100に出力する。用紙検知センサ55,56としては、光学センサなどを採用することができる。
【0032】
用紙検知センサ55は、搬送ローラ対34よりも搬送方向下流側であり、且つ搬送ローラ対35よりも搬送方向上流側の搬送路R3上の位置を検知位置(以下、下流検知位置とも称す)としている。この用紙検知センサ55は、各給紙トレイ10U,10Dから、当該下流検知位置までの用紙Pの搬送異常を検知するためのセンサである。用紙Pの搬送異常については、後で詳細に説明する。
【0033】
用紙検知センサ56は、搬送ローラ対35よりも搬送方向下流側であり、且つヘッド5よりも搬送方向上流側の搬送路R3上の位置を検知位置としている。この用紙検知センサ56の検知結果は、ヘッド5からのインク吐出開始時点を決定するために用いられる。具体的には、制御装置100は、用紙検知センサ56の検知結果に基づいて、用紙Pの先端が検知位置に到達した到達時点を判断する。そして、この到達時点から、用紙検知センサ56の検知位置とヘッド5(詳細には最も搬送方向上流にある吐出口)との距離を用紙Pの搬送速度で除算して得られる時間が経過した時点をインク吐出開始時点として決定する。
【0034】
制御装置100は、
図2に示すように、CPU(Central Processing Unit)101、ROM(Read Only Memory)102、RAM(Random Access Memory)103、不揮発性メモリ104、制御回路105、バス106等を含む。ROM102には、CPU101が実行するプログラム、各種固定データ等が記憶されている。RAM103には、プログラム実行時に必要なデータ(画像データ等)が一時的に記憶される。不揮発性メモリ104は、各給送機構20U,20Dが給送動作をリトライした回数(以下、リトライ回数)を記憶するためのリトライカウンタ104aなどを備える。制御回路105には、ヘッド5や各種モータ等、プリンタ1の様々な装置あるいは駆動部と接続されている。また、制御回路105は、PC等の外部装置60と接続されている。
【0035】
CPU101は、外部装置60から送信された印刷指令に基づいて、用紙Pに画像等を記録する画像記録処理を行う。具体的には、CPU101は、画像記録処理においては、給送機構20U,20D及び搬送機構30を制御して、給紙トレイ10U,10Dから排出口2まで用紙Pを搬送する搬送処理を行う。また、このとき、CPU101は、ヘッド5を制御して、用紙Pの搬送に同期させてインクの吐出を行う吐出処理を行う。
【0036】
なお、本実施形態では、制御装置100は、単一のCPUにより各処理を実行するように構成されているが、複数のCPU、単一のASIC(application specific integrated circuit)、複数のASIC、あるいは、CPUと特定のASICの組み合わせにより各処理を実行するように構成されていてもよい。
【0037】
次に、CPU101が、上記搬送処理の際における、用紙Pの搬送異常の検知について説明する。CPU101は、上記搬送処理の際に、用紙検知センサ55の検知結果に基づいて、給紙トレイ10U,10Dから用紙検知センサ55の下流検知位置までの搬送路R上において、用紙Pの搬送異常が生じたか否かを判定する。
【0038】
具体的には、CPU101は、用紙検知センサ55の検知結果に基づいて、給送機構20U,20Dにより給送された用紙Pの先端が下流検知位置に到達(存在)したか否かを判断することができる。また、用紙検知センサ55の下流検知位置は固定であり、給紙トレイ10U及び給紙トレイ10Dそれぞれから下流検知位置までの搬送路R上の搬送距離は決まっている。加えて、CPU101は、搬送ローラ対33〜39や分離ローラ対31,32に対する制御内容から、搬送機構30による用紙Pの搬送速度を算出することができる。従って、CPU101は、給送機構20U,20Dによる用紙Pの給送動作を開始した時点から、当該用紙Pの先端が下流検知位置に到達すべき時点までの時間(以下、第1時間)を算出することができる。
【0039】
本実施形態においては、給送機構20Uにより給紙トレイ10Uから用紙Pを給送する場合においては、給紙トレイ10Uから下流検知位置までの搬送距離を搬送速度で除算した値に、搬送精度等を考慮して多少のマージンを付加した時間を第1時間としている。また、給送機構20Dにより給紙トレイ10Dから用紙Pを給送する場合においては、給紙トレイ10Dから下流検知位置までの搬送距離を搬送速度で除算した値にマージンを付加した時間が第1時間としている。また、本実施形態では、給紙トレイ10U及び給紙トレイ10Dそれぞれから下流検知位置までの搬送路R上の搬送距離は、不揮発性メモリ104に予め記憶されている。そして、CPU101は、この不揮発性メモリ104に記憶された搬送距離、及び搬送ローラ対33〜39や分離ローラ対31,32に対する制御内容に基づいて、上記第1時間を算出するように構成されている。変形例として、用紙Pの搬送速度が予め決められているならば、その搬送速度に応じた第1時間が不揮発性メモリ104に予め記憶されていてもよい。
【0040】
そして、CPU101は、給送機構20U,20Dによる用紙Pの給送動作を開始した時点から、上記第1時間が経過した時点(以下、異常判定時点と称す)までに当該用紙Pが下流検知位置に到達していないと判断した場合に、搬送異常が生じていると判定する。
【0041】
ところで、上記搬送異常の原因としては、例えば、搬送路R上の用紙詰りであるジャム、搬送機構30と用紙Pとの間で生じたスリップ、及び、給送機構20U,20Dによる用紙Pの空送などがある。搬送異常が生じた後に行うべき処理内容は、これらの原因毎に異なる。以下、具体的に説明する。
【0042】
搬送異常の原因がジャムである場合には、これ以降も、搬送機構30による用紙Pの搬送を継続すると、ジャムが悪化する可能性がある。従って、搬送異常の原因がジャムである場合には、搬送機構30による用紙Pの搬送を停止して、搬送路R上でジャムした用紙Pをユーザが除去する必要がある。
【0043】
搬送異常の原因がスリップである場合には、用紙Pの搬送位置が、本来の位置よりも搬送方向下流側にずれていることになる。従って、搬送異常の原因がジャムである場合と異なり、スリップの場合には搬送機構30による用紙Pの搬送を停止する必要はない。また、給送機構20U,20Dにより一定の時間間隔で用紙Pの給送が行われていた際には、後続して給送される用紙Pとの間での用紙間隔が短くなり、その結果として、ジャムなどの発生原因となり得る。従って、搬送異常の原因がスリップである場合には、給送機構20U,20Dによる後続の用紙Pの給送を、必要な用紙間隔が確保されるまで待機する必要がある。
【0044】
搬送異常の原因が空送である場合には、ピックアップローラ21U,21Dが給紙トレイ10U,10Dに収容されている用紙Pのピックアップができていない。つまり、用紙Pが給紙トレイ10U,10Dに収容されたままであり、用紙Pが搬送路Rに給送されていない。従って、搬送異常の原因が空送である場合には、給送機構20U,20Dによる用紙Pの給送動作をリトライする必要がある。
【0045】
以上のように、搬送異常の原因に応じて、搬送異常後に行うべき処理内容が異なる。このため、搬送異常が生じた以後の処理を適切に行うためには、その搬送異常の原因を識別する必要がある。
【0046】
そこで、本実施形態では、CPU101は、搬送異常が生じていると判定した際には、その搬送異常の原因を識別する異常原因識別処理を実行する。この異常原因識別処理では、用紙残量検知センサ50U,50Dの上流検知位置と用紙検知センサ55の下流検知位置との搬送方向の離隔距離、給紙トレイ10U,10Dに収容された用紙Pの搬送方向の用紙長さ、及び、用紙残量検知センサ50U,50Dの検知結果に基づいて、上記搬送異常の原因を識別する。
【0047】
以下、
図3及び
図4を参照しつつ、給送機構20Uにより給紙トレイ10Uから給送された用紙Pに搬送異常が生じたと判定したときの、CPU101が行う、搬送異常の原因の識別方法について説明する。なお、
図3及び
図4は、説明の便宜上、押圧板23Uは省き、且つ、給紙トレイ10Uから下流検知位置までの搬送路Rを直線経路として表した模式図である。
【0048】
まず、
図3を参照して、給紙トレイ10Uに収容された用紙Pが、その搬送方向の用紙長さ(以下、用紙長さと称す)が、用紙残量検知センサ50Uの上流検知位置と、用紙検知センサ55の下流検知位置との搬送方向の離隔距離(以下、センサ間距離)以上となる用紙P1である場合の、搬送異常の原因の識別方法について説明する。
【0049】
図3(a)に示すように、給送機構20Uによる用紙P1の給送、及び、搬送機構30による用紙P1の搬送が正常に行われると、給送機構20Uによる用紙P1の給送動作を開始した時点から、上記第1時間が経過するまでに当該用紙P1の先端が下流検知位置に到達する。また、用紙P1の用紙長さは、センサ間距離以上であるため、用紙P1の先端が下流検知位置に到達した時点では、用紙P1の後端は上流検知位置を通過していない。なお、上述したように、上記第1時間は、搬送精度等を考慮して多少のマージンが付加された時間であるため、給送動作を開始した時点から第1時間が経過した時点においては、用紙P1の先端が下流検知位置よりも搬送方向下流側に位置して、用紙P1の後端が上流検知位置を通過していることもある。
【0050】
図3(b)及び
図3(c)に示すように、用紙P1の搬送異常が生じると、給送機構20Uによる用紙P1の給送動作を開始した時点から上記第1時間が経過した時点である異常判定時点においては、用紙P1の先端が下流検知位置に到達していない。この異常判定時点において、用紙P1の後端が上流検知位置を通過していない場合には、
図3(b)に示すように、用紙P1は給紙トレイ10Uに収容された状態のままである。従って、CPU101は、異常判定時点において、用紙残量検知センサ50Uの検知結果に基づいて、給送動作を開始した時点においてピックアップローラ21Uに接触していた用紙P1の後端が、上流検知位置を通過していないと判断した場合には、用紙P1の搬送異常は空送が原因であると識別する(
図5参照)。なお、給送機構20Uによる給送により、用紙P1の先端が、実際には、給紙トレイ10Uから搬送路R上に移動している場合もあり得るが、この場合においても、用紙P1の後端が上流検知位置を通過しておらず、当該用紙P1はピックアップローラ21Uに未だ接触した状態であるため、搬送異常は空送が原因であると識別しても特に問題は生じない。
【0051】
一方で、異常判定時点において、用紙P1の後端が上流検知位置を通過している場合には、用紙P1は、上流検知位置と下流検知位置との間に存在することになる。ここで、用紙P1の用紙長さは、センサ間距離以上であり、この場合には、
図3(c)に示すように、用紙P1は上流検知位置と下流検知位置との間の搬送路R上で必ず撓んでいることになる。従って、CPU101は、異常判定時点において、用紙残量検知センサ50Uの検知結果に基づいて、用紙P1の後端が上流検知位置を通過していると判断した場合には、用紙P1の搬送異常はジャムが原因であると識別する(
図5参照)。
【0052】
次に、
図4を参照して、給紙トレイ10Uに収容された用紙Pが、用紙長さがセンサ間距離未満となる用紙P2である場合の、搬送異常の原因の識別方法について説明する。
【0053】
図4(a)に示すように、給送機構20Uによる用紙P2の給送、及び、搬送機構30による用紙P2の搬送が正常に行われると、給送機構20Uによる用紙P2の給送動作を開始した時点から、上記第1時間が経過するまでに当該用紙P2の先端が下流検知位置に到達することになる。また、用紙P2の用紙長さは、センサ間距離未満であるため、用紙P2の先端が下流検知位置に到達した時点では、用紙P2の後端は上流検知位置を既に通過している。
【0054】
図4(b)〜
図4(d)に示すように、用紙P2の搬送異常が生じると、異常判定時点においては、用紙P2の先端が下流検知位置に到達していない。この異常判定時点において、用紙P1の後端が上流検知位置を通過していない場合には、
図4(b)に示すように、用紙P2は給紙トレイ10Uに収容された状態のままである。従って、CPU101は、異常判定時点において、用紙残量検知センサ50Uの検知結果に基づいて、給送動作を開始した時点においてピックアップローラ21Uに接触していた用紙P2の後端が、上流検知位置を通過していないと判断した場合には、用紙P2の搬送異常は空送が原因であると識別する(
図5参照)。なお、この場合においても、給送機構20Uによる給送により、用紙P2の先端が、実際には、給紙トレイ10Uから搬送路R上に移動している場合もあり得るが、当該用紙P2はピックアップローラ21Uに未だ接触した状態であるため、搬送異常は空送が原因であると識別しても特に問題は生じない。
【0055】
一方で、異常判定時点において、用紙P2の後端が上流検知位置を通過している場合には、用紙P2は、上流検知位置と下流検知位置との間に存在することになる。ここで、用紙P2の用紙長さは、センサ間距離未満であるため、この場合には、用紙P2がジャムにより撓んでいる可能性もあり(
図4(c)参照)、用紙P2がスリップに起因して本来よりも搬送方向下流側にある可能性もある(
図4(d)参照)。従って、CPU101は、異常判定時点において、用紙残量検知センサ50Uの検知結果に基づいて、用紙P2の後端が上流検知位置を既に通過していると判断した場合には、用紙P2の搬送異常はジャム及びスリップのいずれかが原因であると識別する(
図5参照)。
【0056】
そして、CPU101は、異常判定時点において、用紙P2の後端が上流検知位置を既に通過していると判断した場合には、用紙P2の搬送異常がジャム及びスリップのいずれであるかを識別するための詳細識別処理をさらに実行する。具体的には、CPU101は、搬送機構30による用紙P2の搬送を異常判定時点以降も、給送動作を開始した時点から第2時間が経過するまで継続する。ここで、第2時間は、上記第1時間に、搬送機構30と用紙P2との間のスリップにより想定される遅延時間を加算した時間である。つまり、第2時間は、第1時間よりも長い時間であり、スリップが生じていると仮定した際の時間である。この第2時間は、給紙トレイ10Uから下流検知位置までの搬送距離を、スリップが生じていると仮定した際の搬送速度で除算した値に、上記マージン分を加算することで得ることができる。なお、搬送ローラ対34と用紙Pとの間でスリップが生じる可能性が、分離ローラ対31と用紙Pとの間でスリップが生じる可能性よりも低い場合には、分離ローラ対31と用紙Pとの間でのみスリップが生じると仮定してもよい。この場合、給紙トレイ10Uから搬送ローラ対34までの搬送距離を、スリップが生じていると仮定したときの分離ローラ対31の用紙Pの搬送速度で除算して得られる値と、当該搬送距離を分離ローラ対31の正常のときの搬送速度で除算して得られる値との差分を算出する。そして、この差分を第1時間に加算した時間が第2時間となる。
【0057】
以上より、搬送異常の原因がスリップの場合には、給送機構20Uによる用紙P2の給送動作を開始した時点から第2時間が経過するまでに用紙P2の先端が下流検知位置に到達することになる。一方で、搬送異常の原因がジャムの場合には、給送機構20Uによる用紙P2の給送動作を開始した時点から第2時間が経過したとしても用紙P2の先端が下流検知位置に到達することはない。
【0058】
従って、CPU101は、用紙検知センサ55の検知結果に基づいて、給送機構20Uによる用紙P2の給送動作を開始した時点から第2時間が経過するまでに、用紙P2の先端が下流検知位置に到達したと判断した場合には搬送異常の原因がスリップであると識別し、用紙P2の先端が下流検知位置に到達していないと判断した場合には、搬送異常の原因がジャムであると識別する。
【0059】
以上のように、CPU101は、異常原因識別処理において、用紙残量検知センサ50Uの上流検知位置と用紙検知センサ55の下流検知位置との搬送方向の離隔距離、給紙トレイ10Uに収容された用紙Pの用紙長さ、及び、用紙残量検知センサ50Uの検知結果に基づいて、搬送異常の原因を識別することができる。
【0060】
また、本実施形態では、異常原因識別処理を実行する前において、給紙トレイ10Uに収容された用紙Pの用紙長さを取得する記録媒体長取得処理を実行し、取得した用紙長さを不揮発性メモリ104に記憶している。本実施形態では、外部装置60からプリンタドライバを介して出力される印刷指令に、給紙トレイ10Uに収容された用紙Pの用紙長さに関する用紙サイズ情報が含まれている。そして、CPU101は、外部装置60から受信した印刷指令に基づいて、給紙トレイ10Uに収容された用紙Pの用紙長さを取得する。なお、用紙Pの用紙長さの取得方法は、この形態に限られるものではなく、例えば、タッチパネル4を介してユーザから取得してもよく、給紙トレイ10Uに収容された用紙Pの用紙長さを検知可能なセンサを設けて、このセンサの検知結果に基づいて用紙長さを取得してもよい。
【0061】
また、用紙残量検知センサ50Uの上流検知位置及び用紙検知センサ55の下流検知位置は固定されているため、これらのセンサ間距離についても不揮発性メモリ104に予め記憶されている。
【0062】
以上説明した識別方法は、上段の給紙トレイ10Uから給送された用紙Pの搬送異常の原因の識別方法であるが、下段の給紙トレイ10Dから給送された用紙Pの搬送異常の原因の識別方法も同様である。ただし、上記記録媒体長取得処理においては、給紙トレイ10Dに収容された用紙Pの用紙長さを取得する。そして、給紙トレイ10Dから給送された用紙Pの搬送異常の原因の識別については、記録媒体長取得処理により取得した給紙トレイ10Dに収容された用紙Pの用紙長さ、用紙残量検知センサ50Dの上流検知位置と用紙検知センサ55の下流検知位置との離隔距離(センサ間距離)、及び、用紙残量検知センサ50Dの検知結果に基づいて行う。これにより、上段の給紙トレイ10Uに収容された用紙Pに係る搬送異常の原因、下段の給紙トレイ10Dに収容された用紙Pに係る搬送異常の原因をそれぞれ正確に識別することができる。
【0063】
(インクジェットプリンタの動作)
次に、プリンタ1の処理動作の一例について、
図6及び
図7を参照しつつ説明する。
【0064】
まず、
図6に示すように、外部装置60から印刷指令を受信すると(S1:YES)、CPU101は、当該印刷指令に従い、用紙Pの給送元となる給紙トレイを決定し、且つ、印刷指令に含まれる用紙サイズ情報に基づいて、給送元となる給紙トレイに収容された用紙Pの用紙長さを取得して、不揮発性メモリ104に記憶する。(S2:記録媒体長取得処理)。なお、以下では、説明の便宜上、CPU101は、給送元の給紙トレイとして給紙トレイ10Uを決定したものとして説明する。
【0065】
次に、CPU101は、給紙トレイ10Uから用紙Pを搬送路Rに給送する給送動作を給送機構20Uにさせ、且つ、給送機構20Uにより給送された用紙Pを搬送路Rに沿ってさらに搬送する搬送動作を搬送機構30にさせる(S3:搬送処理)。次に、給送機構20Uによる用紙Pの給送動作を開始した時点から第1時間が経過した時点において、CPU101は、用紙検知センサ55の検知結果に基づいて、用紙Pの先端が下流検知位置に到達したか否かを判断する(S4:第1判断処理)。用紙Pの先端が下流検知位置に到達したと判断した場合(S4:YES)には、CPU101は、搬送異常が生じていないと判定して、印刷指令に基づく印刷が終了したか否かを判断する(S5)。印刷が終了したと判断した場合(S5:YES)には、本処理動作を終了する。一方で、印刷が終了していないと判断した場合(S5:NO)には、給紙トレイ10Uから次の用紙Pを搬送路Rに給送すべく、S3の処理に戻る。
【0066】
S4の処理で、用紙Pの先端が下流検知位置に到達していないと判断した場合(S4:NO)には、CPU101は、搬送異常が生じていると判定する(S6:異常判定処理)。次に、CPU101は、用紙残量検知センサ50Uの検知結果に基づいて、給送動作を開始した時点においてピックアップローラ21Uに接触していた用紙Pの後端が上流検知位置を通過したか否かを判断する(S7:第2判断処理)。そして、用紙Pの後端が上流検知位置を通過していないと判断した場合(S7:NO)には、CPU101は、搬送異常は空送が原因であると識別する(S8)。
【0067】
次に、CPU101は、不揮発性メモリ104のリトライカウンタ104aを参照して、給送動作のリトライ回数が所定回数(例えば、5回)未満か否かを判断する(S9)。給送動作のリトライ回数が所定回数未満と判断した場合(S9:YES)には、リトライカウンタ104aに記憶されたリトライ回数に1加算して(S10)、給送動作をリトライすべく、S3の処理に戻る。一方で、リトライ回数が所定回数に達していると判断した場合(S9:NO)には、CPU101は、給送機構20Uにおいて機械的な異常等が生じているとして、空送エラー画面をタッチパネル4に表示させて(S11)、本処理動作を終了する。なお、上記リトライカウンタ104aに記憶されるリトライ回数は、給送機構20Uによる給送動作が成功したとき(用紙Pの先端が下流検知位置に到達したとき)に零に初期化されるように構成されていてもよい。また、リトライカウンタ104aに記憶されるリトライ回数は、タッチパネル4等を介したユーザ入力に基づいて零に初期化されるように構成されていてもよい。
【0068】
S7の処理で、用紙Pの後端が上流検知位置を通過したと判断した場合(S7:YES)には、
図7に示すように、CPU101は、給紙トレイ10Uに収容された用紙長さ、及び、用紙残量検知センサ50Uの上流検知位置と用紙Pの下流検知位置との間のセンサ間距離を不揮発性メモリ104から読み出す(S11)。そして、CPU101は、用紙長さがセンサ間距離以上であるか否かを判断する(S12)。用紙長さがセンサ間距離以上であると判断した場合(S12:YES)には、CPU101は、搬送異常はジャムが原因と識別して(S13)、搬送機構30による用紙Pの搬送を停止し、ジャムエラー画面をタッチパネル4に表示させて(S14)、本処理動作を終了する。
【0069】
一方で、用紙長さがセンサ間距離未満であると判断した場合(S12:NO)には、CPU101は、搬送異常はジャム及びスリップの何れかが原因と識別する。そして、搬送異常の原因がジャム及びスリップの何れであるかを識別すべく、CPU101は、給送機構20Uによる用紙Pの給送動作を開始した時点から第2時間が経過した時点において、用紙検知センサ55の検知結果に基づいて、用紙Pの先端が下流検知位置に到達したか否かを判断する(S15:第4判断処理)。用紙Pの先端が下流検知位置に到達していないと判断した場合(S15:NO)には、CPU101は、搬送異常はジャムが原因であると識別して(S13)、S14の処理に移る。
【0070】
一方で、用紙Pの先端が下流検知位置に到達したと判断した場合(S15:YES)には、搬送異常はスリップが原因であると識別して(S16)、S5の処理に移る。なお、このS5の処理に移るときには、用紙Pは既に下流検知位置に到達している。従って、この後に、給送機構20Uにより後続の用紙Pが給送される場合においても、この後続の用紙Pとの間の用紙間隔が短くなることはなく、必要な用紙間隔は確保されている。以上、プリンタ1の処理動作について説明した。
【0071】
以上、本実施形態によると、CPU101が、搬送異常が生じていると判定したときに、用紙検知センサ55の検知結果、用紙残量検知センサ50U,50Dの検知結果、及び、給紙トレイ10U,10Dに収容された用紙Pの用紙長さとセンサ間距離との比較結果を用いることで、搬送異常の原因が、ジャム、スリップ、及び空送の何れであるかを識別することができる。
【0072】
また、CPU101は、搬送異常はジャムが原因であると識別したときには、搬送機構30による用紙Pの搬送を停止することで、ジャムが悪化することを抑制することができる。また、CPU101は、搬送異常はスリップが原因であると識別したときには、搬送機構30による用紙Pの搬送を継続することで、用紙Pの搬送が不要に停止されることを抑制することができる。さらに、CPU101は、搬送異常は空送が原因であると識別したときには、給送機構20U,20Dによる用紙Pの給送動作をリトライすることで、用紙Pを搬送路Rに確実に搬送することができる。
【0073】
以上説明した実施形態において、給送機構20U,20Dが「給送部」に相当し、分離ローラ対31,32、搬送ローラ対33,34が「搬送部」に相当する。用紙残量検知センサ50U,50Dが「上流センサ」に相当し、用紙検知センサ55が「下流センサ」に相当する。また、「第1時間」が「第1規定時間」に相当し、「第2時間」が「第3規定時間」に相当する。タッチパネル4が「受付部」に相当する。
【0074】
次に、上記の実施形態の変更形態について説明する。上記の実施形態では、CPU101は、上記S12の処理で給紙トレイ10Uに収容された用紙Pの用紙長さがセンサ間距離以上であると判断した場合、搬送異常の原因はジャムであると識別している。しかしながら、不揮発性メモリ104に記憶された、用紙Pの用紙長さの値と、センサ間距離の値との差が殆どない場合、CPU101が、用紙長さがセンサ間距離以上であると判断したとしても、搬送異常の実際の原因がスリップであることがある。以下、具体的に、その理由を説明する。
【0075】
用紙残量検知センサ50U,50Dの組み付け誤差や、用紙検知センサ55の組み付け誤差により、不揮発性メモリ104に記憶されたセンサ間距離の値と、実際の値とが異なる場合がある。また、給紙トレイ10U,10Dに収容された用紙Pの用紙長さに多少のばらつきがあるため、印刷指令の用紙サイズ情報に基づいて取得した用紙長さの値と、実際の値とが異なる場合がある。従って、不揮発性メモリ104に記憶された用紙長さがセンサ間距離以上であったとしても、実際には用紙長さがセンサ間距離未満となることがある。
【0076】
また、用紙Pのコシが弱い場合には、搬送機構30により搬送される際に用紙Pは多少撓みながら搬送される。従って、用紙Pの用紙長さがセンサ間距離よりも多少長い場合でも、その用紙Pのコシが弱いと、異常判定時において、ジャムが発生していないにも関わらず、用紙検知センサ55及び用紙残量検知センサ50U,50Dの何れにおいても用紙Pの存在を検知できないことがある。
【0077】
以上の理由により、搬送異常の実際の原因がスリップであるにも関わらず、CPU101が、搬送異常の原因がジャムであると誤って識別する可能性がある。この問題を解決する方法として、上記S12の処理において、不揮発性メモリ104に記憶された用紙長さと比較する距離を、センサ間距離とはせずに、センサ間距離も上記誤差等を考慮したマージン分だけ長い所定長さとする方法が考えられる。この場合、CPU101が、搬送異常の実際の原因がスリップであるにも関わらず、誤ってジャムが原因であると識別する可能性を低減することができる。
【0078】
しかしながら、上記方法だと、不揮発性メモリ104に記憶された用紙長さが上記所定長さ未満であり、且つセンサ間距離以上の場合においても、搬送異常の原因がジャム及びスリップの何れであるかを識別するために、CPU101が、上記詳細識別処理を実行する必要がある。つまり、給送機構20Uによる用紙Pの給送動作を開始した時点から第2時間が経過するまでは、搬送機構30による用紙Pの搬送を継続する必要がある。従って、搬送異常の実際の原因がジャムである場合には、そのジャムが悪化する虞がある。加えて、搬送異常の原因は、給送動作を開始した時点から第2時間が経過するまでは詳細には識別することができず、搬送異常の原因を識別するまでの時間が長くなる。なお、以下では、不揮発性メモリ104に記憶された用紙長さが上記所定長さ未満であり、且つセンサ間距離以上の場合に実行する詳細識別処理を第1詳細識別処理とし、用紙長さがセンサ間距離未満の場合に実行する詳細識別処理を第2詳細識別処理として説明する。
【0079】
ここで、不揮発性メモリ104に記憶された用紙長さ及びセンサ間距離の値と、実際の値との間の誤差が小さく、また、給紙トレイ10U,10Dに収容された用紙Pのコシが強い場合には、異常判定時において、用紙検知センサ55及び用紙残量検知センサ50U,50Dの何れにおいても用紙Pの存在を検知できないときの搬送異常の原因は、スリップである可能性よりもジャムである可能性の方が著しく高い。つまり、この場合には、CPU101が、第1詳細識別処理において、搬送異常の原因がジャムであると識別する可能性が著しく高い。従って、CPU101が、過去の第1詳細識別処理において、ジャムであると識別した識別結果が多い場合には、第1詳細識別処理を実行せずに、搬送異常の原因がジャムであると識別することも可能である。
【0080】
そこで、本変更形態では、
図8に示すように、不揮発性メモリ104は、ジャム回数を記憶するジャムカウンタ104bを備えている。このジャム回数は、CPU101が、過去の第1詳細識別処理において、搬送異常の原因がジャムであると識別した回数である。つまり、ジャム回数は過去の搬送異常の原因に関する異常情報である。
【0081】
そして、CPU101は、異常原因識別処理において、用紙Pの後端が上流検知位置を通過しておらず、不揮発性メモリ104に記憶された用紙長さが、所定長さ未満であり、且つセンサ間距離以上であると判断した場合には、まず、ジャムカウンタ104bに記憶されたジャム回数に基づいて、搬送異常の原因がジャムであると識別することが可能か否かを判断するジャム判断処理を実行する。具体的には、ジャム回数が所定の閾値(例えば、5回)に達していた場合には搬送異常の原因がジャムであると識別することが可能と判断し、ジャム回数が閾値未満の場合には搬送異常の原因がジャムであると識別することできないと判断する。
【0082】
そして、搬送異常の原因がジャムであると識別することが可能であると判断した場合には、CPU101は、上記第1詳細識別処理を実行せずに、搬送異常の原因がジャムであると識別する。これにより、搬送異常の原因を識別するまでの時間を短くすることができる。
【0083】
一方で、ジャム回数が閾値未満の場合には搬送異常の原因がジャムであると識別することできないと判断し、上記第1詳細識別処理を実行する。具体的には、給送機構20Uによる用紙Pの給送動作を開始した時点から第2時間が経過した時点において、CPU101は、用紙検知センサ55の検知結果に基づいて、用紙Pの先端が下流検知位置に到達したか否かを判断する。そして、用紙Pの先端が下流検知位置に到達したと判断した場合には搬送異常の原因がスリップであると識別し、用紙Pの先端が下流検知位置に到達していないと判断した場合には搬送異常の原因がジャムであると識別する。そして、搬送異常の原因がジャムであると識別した場合には、ジャムカウンタ104bに記憶されたジャム回数に1加算する。これにより、以後のジャム判断処理において、搬送異常の原因がジャムであると識別しやすくなる。
【0084】
ところで、給紙トレイ10U,10Dに収容される用紙Pの種類が変更されて、用紙Pの用紙長さや、用紙Pのコシが変化する場合がある。この場合、ジャムカウンタ104bに記憶されたジャム回数が、給紙トレイ10U,10Dに収容された用紙Pの種類には適しておらず、以後の異常原因識別処理を適切に行うことができない可能性がある。そこで、本実施形態では、CPU101は、タッチパネル4を介したユーザからの入力に基づいて、ジャムカウンタ104bに記憶されたジャム回数を零に初期化する。これにより、給紙トレイ10U,10Dに収容された用紙Pの種類が変更されたとしても、以後の異常原因識別処理を適切に行うことができる。
【0085】
以下、この変更形態に係るプリンタ1の処理動作の一例について、
図6及び
図7を参照して説明したプリンタ1の処理動作との相違点のみ、
図9を参照して説明する。
【0086】
本変形形態では、
図9に示すように、S11の処理で、不揮発性メモリ104を参照して、用紙長さ、及び、センサ間距離を読み出した後、CPU101は、用紙長さが所定長さ以上であるか否かを判断する(S51)。用紙長さが所定長さ以上であると判断した場合(S51:YES)には、CPU101は、搬送異常はジャムが原因と識別して(S52)、搬送機構30による用紙Pの搬送を停止し、ジャムエラー画面をタッチパネル4に表示させて(S53)、本処理動作を終了する。
【0087】
一方で、S51の処理で、用紙長さが所定長さ未満であると判断した場合(S51:NO)には、CPU101は、用紙長さがセンサ間距離以上であるか否かを判断する(S54)。用紙長さがセンサ間距離以上であると判断した場合(S54:YES)には、CPU101は、ジャムカウンタ104bに記憶されたジャム回数が、閾値に到達しているか否かを判断する(S55)。ジャム回数が閾値に到達していると判断した場合(S55:YES)には、CPU101は、搬送異常はジャムが原因と識別して(S52)、S53の処理に移る。
【0088】
一方で、ジャム回数が閾値未満であると判断した場合(S55:NO)には、CPU101は、給送機構20Uによる用紙Pの給送動作を開始した時点から第2時間が経過した時点において、用紙検知センサ55の検知結果に基づいて、用紙Pの先端が下流検知位置に到達したか否かを判断する(S56)。用紙Pの先端が下流検知位置に到達していないと判断した場合(S56:NO)には、CPU101は、搬送異常はジャムが原因であると識別して(S57)、ジャムカウンタ104bに記憶されたジャム回数を1加算する更新を行い(S58:更新処理)、S53の処理に移る。一方で、用紙Pの先端が下流検知位置に到達したと判断した場合(S56:YES)には、CPU101は、搬送異常はスリップが原因であると識別して(S59)、S5の処理に移る。
【0089】
S54の処理で、用紙長さがセンサ間距離未満であると判断した場合(S54:NO)には、給送機構20Uによる用紙Pの給送動作を開始した時点から第2時間が経過した時点において、用紙検知センサ55の検知結果に基づいて、用紙Pの先端が下流検知位置に到達したか否かを判断する(S60)。用紙Pの先端が下流検知位置に到達していないと判断した場合(S60:NO)には、CPU101は、搬送異常はジャムが原因であると識別して(S61)、S53の処理に移る。一方で、用紙Pの先端が下流検知位置に到達したと判断した場合(S60:YES)には、CPU101は、搬送異常はスリップが原因であると識別して(S61)、S5の処理に移る。以上、本変更形態に係るプリンタ1の処理動作について説明した。
【0090】
以上、本変更形態によると、搬送異常の原因がジャム及びスリップの何れであるかをより正確に識別することができる。また、ジャム判断処理において用いるジャム回数は、第1詳細識別処理において、搬送異常はジャムが原因であるとする識別結果が反影されて更新される情報である。このため、ジャム判断処理を正確に行うことができる。加えて、ジャム判断処理を、ジャム回数と閾値との比較という簡易な方法で行うことができる。
【0091】
なお、本変更形態では、不揮発性メモリ104に記憶された、ジャム判断処理において用いる異常情報はジャム回数であったが、特にこれに限定されるものではなく、第1詳細識別処理においてジャムが原因であると識別した識別結果に基づいて、ジャム判断処理において搬送異常はジャムが原因であると識別しやすくなるように更新される情報であればよい。例えば、上記異常情報は、過去複数回の第1詳細識別処理において、搬送異常はジャムが原因であると識別した割合を示す情報であってもよい。この場合、この割合が所定の閾値を超えた場合に、ジャム判断処理において搬送異常はジャムが原因であると識別することが可能であると判断することになる。
【0092】
以上、本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は上記の実施形態に限られるものではなく、特許請求の範囲に記載した限りにおいて様々な変更が可能なものである。例えば、上記の実施形態では、プリンタ1は2つの給紙トレイ10U,10Dを備えていたが、特にこれに限定されるものではない。従って、プリンタ1は、給紙トレイを1つのみ備えていてもよく、3以上の給紙トレイを備えていてもよい。
【0093】
また、上記の実施形態では、CPU101による、搬送異常の判定は、用紙検知センサ55からの検知信号に基づいて行われていたが特にこれに限定されるものではない。例えば、インク吐出開始時点の決定に用いられる用紙検知センサ56からの検知信号に基づいて行われてもよい。
【0094】
また、搬送機構30は、搬送ローラ対により用紙Pを搬送していたが、搬送ベルトにより用紙Pを搬送してもよい。また、給送機構20U,20Dは、給紙トレイ10U,10Dに収容された最上位の用紙Pと接触して搬送路Rに給送する機構であったが、最下位の用紙Pと接触して搬送路Rに給送する機構であってもよい。この場合、用紙残量検知センサ50U,50Dの上流検知位置は、給紙トレイ10U,10Dに収容された最下位の用紙Pの収容位置となる。
【0095】
また、用紙残量検知センサ50U,50Dとは別に、上流検知位置における用紙Pの有無の検知するためのセンサを設けてもよい。以下、この変形形態の一例について、
図10を参照しつつ説明する。本変形形態では、
図10に示すように、プリンタ1は、給紙トレイ10U,10D各々に収容された最上位の用紙Pと接触する従動ローラ26と、この従動ローラ26の回転の有無を検知するためのセンサ27をさらに備えている。
【0096】
従動ローラ26は、給送機構20U,20Dによる最上位の用紙Pの給送(移動)に伴い、最上位の用紙Pと接触しながら回転するローラである。従って、この従動ローラ26は、給送機構20U,20Dにより最上位の用紙Pが給送されて、用紙Pの後端が従動ローラ26と接触しなくなったとき、その回転が停止する。
【0097】
センサ27は、最上位の用紙Pと従動ローラ26との接触位置を上流検知位置としている。そして、センサ27は、給送機構20U,20Dによる給送動作を開始した後、従動ローラ26が回転している間は上流検知位置に用紙Pが有ると検知し、回転していた従動ローラ26が停止したときに上流検知位置に用紙Pが無いと検知する。なお、給送機構20U,20Dにより用紙Pの空送が発生しているときには、給送機構20U,20Dによる給送動作を開始しても従動ローラ26は回転しないことになるため、センサ27は、このような場合には、上流検知位置に用紙Pが有ると検知する。
【0098】
以上、本変更形態においても、制御装置100は、センサ27の検知結果に基づいて、最上位の用紙Pの後端が上流検知位置を通過したか否かを判断することができる。
【0099】
ところで、制御装置100が、用紙残量検知センサ50U,50Dの検知結果に基づいて、用紙Pの後端が上流検知位置を通過したか否かを判断する構成の場合、用紙残量検知センサ50U,50Dは、測定対象物との距離が、用紙Pの一枚の厚み分だけ変化したことを検知する必要があるため、高い性能が必要である。その結果、用紙残量検知センサ50U,50Dのコストが高くなる。また、押圧板移動機構24U,24Dによる押圧板23U,23Dの位置決め精度が悪く、例えば、制御目標位置と実際の位置との間の誤差が用紙Pの一枚の厚み分以上となる場合には、用紙残量検知センサ50U,50Dが高性能であったとしても、制御装置100は、用紙Pの後端が上流検知位置を通過したか否かを正確に判断することができない可能性もある。
【0100】
一方で、本変更形態では、制御装置100は、最上位の用紙Pの給送に伴い回転する従動ローラ26の回転の有無を検知するセンサ27の検知結果に基づいて、用紙Pの後端が上流検知位置を通過したか否かを判断しているため、当該判断をより正確に行うことができる。加えて、センサ27は、従動ローラ26の回転の有無のみを検知さえすればよいので、センサ27として比較的安価なセンサを採用することもできる。なお、センサ27は、従動ローラ26の回転量に基づいて、最上位の用紙Pの搬送量(移動量)を検知することが可能に構成されていてもよい。この場合、給送機構20U,20Dにより最上位の用紙Pの給送動作を開始した以降において、当該用紙Pの搬送位置を正確に判断することもできるため、給送機構20U,20Dにより用紙Pの空送が発生しているか否かをより正確に判断することができる。
【0101】
本発発明の搬送装置を画像記録装置の一種であるインクジェットプリンタに適用した例であるが、本発明の搬送装置はレーザプリンタやサーマルプリンタなどインクジェットプリンタ以外の画像記録装置など、記録媒体を搬送する種々の装置に適用可能である。