特許第6790730号(P6790730)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6790730
(24)【登録日】2020年11月9日
(45)【発行日】2020年11月25日
(54)【発明の名称】密封装置
(51)【国際特許分類】
   F16J 15/3224 20160101AFI20201116BHJP
   F16J 15/3204 20160101ALI20201116BHJP
【FI】
   F16J15/3224
   F16J15/3204 201
【請求項の数】5
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2016-214255(P2016-214255)
(22)【出願日】2016年11月1日
(65)【公開番号】特開2018-71718(P2018-71718A)
(43)【公開日】2018年5月10日
【審査請求日】2019年10月14日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001247
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクト
(74)【代理人】
【識別番号】110000280
【氏名又は名称】特許業務法人サンクレスト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】清水 陽平
【審査官】 的場 眞夢
(56)【参考文献】
【文献】 実開平02−102075(JP,U)
【文献】 実開平02−066766(JP,U)
【文献】 特開2009−216130(JP,A)
【文献】 特開2010−144930(JP,A)
【文献】 特開2003−174205(JP,A)
【文献】 特開2010−068667(JP,A)
【文献】 特開2016−046953(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16J 15/00−15/3296
15/46−15/53
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
円筒内周面を有する外側部材と当該円筒内周面の径方向内側の軸との間に設けられる密封装置であって、
前記外側部材に取り付けられる環状の芯部材と、弾性を有し前記芯部材に固定されている環状のシール本体と、を備え、
前記シール本体は、前記芯部材に固定されている固定部と、前記軸に接触可能であるリップ先部と、前記固定部と前記リップ先部とを繋ぐリップ基部と、を有し、
前記リップ基部における一面側及び他面側のそれぞれに柔軟性を有する電極が設けられ
前記一面側の前記電極及び前記他面側の前記電極からの電気信号の変化を検出する検出制御部を、更に備えている、密封装置。
【請求項2】
円筒内周面を有する外側部材と当該円筒内周面の径方向内側の軸との間に設けられる密封装置であって、
前記外側部材に取り付けられる環状の芯部材と、弾性を有し前記芯部材に固定されている環状のシール本体と、を備え、
前記シール本体は、前記芯部材に固定されている固定部と、前記軸に接触可能であるリップ先部と、前記固定部と前記リップ先部とを繋ぐリップ基部と、を有し、
前記リップ基部における一面側及び他面側のそれぞれに柔軟性を有する電極が設けられ、
前記電極は、絶縁材により周方向に沿って複数に区画されている、密封装置。
【請求項3】
円筒内周面を有する外側部材と当該円筒内周面の径方向内側の軸との間に設けられる密封装置であって、
前記外側部材に取り付けられる環状の芯部材と、弾性を有し前記芯部材に固定されている環状のシール本体と、を備え、
前記シール本体は、前記芯部材に固定されている固定部と、前記軸に接触可能であるリップ先部と、前記固定部と前記リップ先部とを繋ぐリップ基部と、を有し、
前記リップ基部における一面側及び他面側のそれぞれに柔軟性を有する電極が設けられ、
前記電極は、絶縁材により前記固定部から前記リップ先部に向かう方向に沿って複数に区画されている、密封装置。
【請求項4】
前記一面側の前記電極と前記他面側の前記電極との間に電圧を調整して印加する電源制御部を、更に備えている請求項1〜3のいずれか一項に記載の密封装置。
【請求項5】
前記一面側は前記リップ基部における内周面側であり、前記他面側はリップ基部における外周面側であり、
前記一面側の前記電極よりも前記他面側の前記電極は前記固定部側に寄って設けられている、請求項1〜のいずれか一項に記載の密封装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、密封装置に関する。
【背景技術】
【0002】
回転する軸を支持するために転がり軸受が広く用いられており、一般的に、転がり軸受は、軸とハウジングとの間に形成される環状空間に設けられている。この環状空間には更に密封装置が設けられており、密封装置は、転がり軸受側へ異物が侵入するのを防止したり、転がり軸受のグリース等の潤滑剤が流出するのを防止したりしている。
【0003】
図6に示すように、密封装置として、ハウジング99に取り付けられる環状の芯部材91と、この芯部材91と一体となっている環状のゴム製シール本体92とを備えたオイルシール90が知られている(例えば、特許文献1参照)。オイルシール90は、ハウジング99に対する軸98の偏心や傾きを考慮し、軸98に対して所定の締め代Sを持たせて環状空間97に取り付けられている。このようなオイルシール90は、例えば風力発電機の主軸を支持する軸受ユニットに用いられることもある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−214532号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
風力発電機の主軸は例えば工作機械の主軸等と比べて大型であり、偏心量や傾き量も大きくなる。このような大型の軸98を備えている機器にオイルシール90を適用する場合、軸98の偏心量や傾き量が想定されている値(許容値)を超えることがある。図6の一点鎖線で示すように、軸98の偏心量や傾き量が大きくなりすぎると、密封性を確保することが困難になるという問題点がある。
【0006】
そこで、本発明は、密封装置の性能を向上させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、円筒内周面を有する外側部材と当該円筒内周面の径方向内側の軸との間に設けられる密封装置であって、前記外側部材に取り付けられる環状の芯部材と、弾性を有し前記芯部材に固定されている環状のシール本体と、を備え、前記シール本体は、前記芯部材に固定されている固定部と、前記軸に接触可能であるリップ先部と、前記固定部と前記リップ先部とを繋ぐリップ基部と、を有し、前記リップ基部における一面側及び他面側のそれぞれに柔軟性を有する電極が設けられ、前記一面側の前記電極及び前記他面側の前記電極からの電気信号の変化を検出する検出制御部を、更に備えている。
【0008】
この密封装置によれば、一面側の電極と、他面側の電極と、リップ基部の内の前記両電極間の一部とによって、誘電アクチュエータが構成される。このため、前記電極間に電圧を与えることでリップ基部を変形させ、例えば軸の偏心や傾きにリップ先部を追従させることが可能となり、また、シール本体が変形すると電極間の静電容量が変化することから、この変化に基づいて電極から出力される電気信号を取得することで、シール本体の変形態様を検知することが可能となる。つまり、密封装置は、このような機能を備えることで、密封性能を向上させることが可能となる。なお、電極は柔軟性を有することから、軸に対してシール本体が備えている元来の追従性は損なわれない。
さらに、前記密封装置は、前記一面側の前記電極及び前記他面側の前記電極からの電気信号の変化を検出する検出制御部を、更に備えているので、シール本体が変形すると前記電極間の静電容量が変化することから、この変化に基づく電気信号の変化を検出することでシール本体の変形態様を検知することが可能となる。例えば、軸に対するリップ先部の締め代の減少/増加を検知することが可能となる。
【0009】
また、本発明は、円筒内周面を有する外側部材と当該円筒内周面の径方向内側の軸との間に設けられる密封装置であって、前記外側部材に取り付けられる環状の芯部材と、弾性を有し前記芯部材に固定されている環状のシール本体と、を備え、前記シール本体は、前記芯部材に固定されている固定部と、前記軸に接触可能であるリップ先部と、前記固定部と前記リップ先部とを繋ぐリップ基部と、を有し、前記リップ基部における一面側及び他面側のそれぞれに柔軟性を有する電極が設けられ、前記電極は、絶縁材により周方向に沿って複数に区画されている。
【0010】
また、本発明は、円筒内周面を有する外側部材と当該円筒内周面の径方向内側の軸との間に設けられる密封装置であって、前記外側部材に取り付けられる環状の芯部材と、弾性を有し前記芯部材に固定されている環状のシール本体と、を備え、前記シール本体は、前記芯部材に固定されている固定部と、前記軸に接触可能であるリップ先部と、前記固定部と前記リップ先部とを繋ぐリップ基部と、を有し、前記リップ基部における一面側及び他面側のそれぞれに柔軟性を有する電極が設けられ、前記電極は、絶縁材により前記固定部から前記リップ先部に向かう方向に沿って複数に区画されている。
【0011】
上記構成によれば、前記電極が複数の領域に区画されていることで、区画された各電極部分を選択的に用いることができる。例えば、電気信号の検出対象とする電極部分を選択することで、より厳密にシール本体の変形態様を検知することが可能となり、また、印加する対象とする電極部分を選択することで、より厳密に(より部分的に)シール本体を変形させることが可能となる。
【0012】
また、前記密封装置は、前記一面側の前記電極と前記他面側の前記電極との間に電圧を調整して印加する電源制御部を、更に備えているのが好ましい。この密封装置によれば、前記電極間に電圧を印加することでこれら電極間においてリップ基部を変形させ、軸の偏心や傾きにリップ先部を追従させることが可能となる。
また、前記一面側は前記リップ基部における内周面側であるとともに、前記他面側はリップ基部における外周面側である場合、前記一面側の電極よりも前記他面側の前記電極は前記固定部側に寄って設けられているのが好ましい。この場合、一面側の電極と他面側の電極との間に電圧を印加して両者の間隔を小さくすることでリップ基部を湾曲させるように変形させることが可能となる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、シール本体が有するリップ基部の両側に設けられている電極と、これら電極間の一部とによって誘電アクチュエータが構成され、これをセンサとして利用したりアクチュエータとして利用したりすることによって、密封装置の性能を向上させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の密封装置の実施の一形態を示す断面図である。
図2】密封装置のブロック図である。
図3】(A)は第一電極の説明図であり、(B)は第二電極の説明図である。
図4】軸及び密封装置を、密封装置の中心線に平行な方向から見た場合のイメージ図である。
図5】密封装置の断面図である。
図6】従来の密封装置の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
図1は、本発明の密封装置の実施の一形態を示す断面図である。本実施形態の密封装置10は、風力発電機の主軸(以下、単に軸5という)を支持する転がり軸受(図示せず)と共に設けられている。具体的に説明すると、軸5を支持する軸受ボックスは、円筒内周面6aを有するハウジング(外側部材)6を備えており、このハウジング6と、円筒内周面6aの径方向内側の軸5との間に環状空間4が形成されている。この環状空間4の中央に前記転がり軸受が設けられており、その軸方向両側に図1に示す密封装置10が設けられている。
【0016】
密封装置10は、ハウジング6に取り付けられる環状の芯部材11と、この芯部材11に固定されている環状のシール本体20とを備えている。芯部材11は、ステンレス鋼等の金属製であり、断面L字形状を有している。芯部材11は、シール本体20の一部(後述する固定部21の一部24)を介してハウジング6に固定されている。シール本体20は、誘電体により構成されており、例えばNBR、FKM、ACM等のゴム製(エラストマー)であり、弾性を有している。シール本体20は、加硫接着によって芯部材11と一体化されている。
【0017】
シール本体20は、固定部21、リップ基部22及びリップ先部23を有している。固定部21は芯部材11に固定されている部分であり、リップ先部23は軸5に接触可能となる部分であり、リップ基部22は固定部21とリップ先部23とを繋ぐ部分である。リップ基部22の外周面26及び内周面27それぞれは、リップ先部23側に向かうにしたがって縮径するテーパ形状を有している。固定部21を基準として、リップ基部22及びリップ先部23は軸方向一方側(図1において左側)に延びて設けられている。図1に示すシール本体20は、更に、固定部21から軸方向他方側に延びて設けられている補助リップ29を有している。図1に示す密封装置10は、リップ先部23の外周側に取り付けられている環状のスプリング19を有しており、スプリング19はリップ先部23を軸5に締め付ける機能を有している。
【0018】
軸5は、ハウジング6の円筒内周面6aと同心状となるようにして組み付けられており、これらの軸線を中心として環状である密封装置10は環状空間4に取り付けられている。この状態で、リップ先部23は所定の締め代Sを有して軸5に接触している。なお、軸5は偏心したり傾いたりする場合があり、これにより締め代Sは大きくなったり小さくなったりし、密封装置10の密封性能は変化する。そこで、この密封性能の変化(低下)を補うために、本実施形態の密封装置10は、軸5の偏心や傾きに応じて生じるシール本体20の変形を検知したり、偏心したり傾いたりする軸5にシール本体20(リップ先部23)を積極的に追従させたりする機能を備えている。
【0019】
密封装置10は、前記機能を具備するために、シール本体20に第一電極31及び第二電極32が設けられている。また、図2に示すように、密封装置10は、電極31,32と信号線Lを介して接続されている制御ユニット50を備えている。図2は、密封装置10のブロック図である。
【0020】
図1において、第一電極31は、シート形状を有しており、リップ基部22の外周面26に沿って全周にわたって設けられている。第二電極32は、シート形状を有しており、リップ基部22の内周面27に沿って全周にわたって設けられている。第一電極31はハウジング6側に設けられている電極となり、第二電極32が軸5側に設けられている電極となる。図1に示すように、第二電極32は、第一電極31よりも固定部21側に寄ってリップ基部22に設けられている。電極31,32は薄膜状に構成されており、本実施形態ではリップ基部22に接着されている。電極31,32の厚さを、例えば0.1ミリメートルとすることができる。
【0021】
第一電極31及び第二電極32は、導電性材料を含むゴムにより構成されており、導電性を有し、かつ、柔軟性(弾性)を有している。このため、電極31,32は、伸縮可能であり、リップ基部22に取り付けられた状態でリップ基部22と共に(追従するようにして)弾性変形することができる。本実施形態の電極31,32は、シリコンゴムに導電性カーボンブラックを含ませたものにより構成されており、例えば、粒子径(平均粒子径)55ナノメートルの導電性カーボンブラックを5〜10phrの割合でシリコンゴムに配合することで得られる。
【0022】
電極31,32の硬さ(デュロメータ タイプA)はA20〜40程度である。なお、シール本体20の硬さ(デュロメータ タイプA)はA60〜70程度であり、電極31,32はシール本体20よりも硬さが低い。
このように、本実施形態の密封装置10では、シール本体20が有するリップ基部22の一面側(ハウジング6側)及び他面側(軸5側)のそれぞれに、柔軟性を有する電極31,32が設けられている。
【0023】
図3(A)は、第一電極31の説明図であり、図3(B)は、第二電極32の説明図である。なお、第一電極31及び第二電極32それぞれはリップ基部22に取り付けられた状態でテーパ形状を有しているが、図3では、説明を容易にするために、これら電極31,32を平面に展開し更に直線状として示している。この図に示すように、第一電極31は、絶縁材33により周方向に沿って複数に区画されている。また、本実施形態では、第一電極31は、周方向に直交する方向(軸方向)についても絶縁材33により複数に区画されている。絶縁材33を格子状とし、絶縁材33により囲まれて構成された各マトリクスが電極部分31aとなる。これら電極部分31aと絶縁材33とにより、第一電極31が構成されている。そして、隣り合う電極部分31a,31a同士は絶縁された状態にある。各マトリクスの一辺、つまり、電極部分31aの一辺の長さを5ミリメートル程度とすることができる。絶縁材33は非導電性を有していればよく、本実施形態ではナイロン(樹脂)製の紐状部材(糸)からなる。
【0024】
第二電極32も第一電極31と同じ構成であり、周方向及びその直交方向に沿って絶縁材33により複数に区画されている。複数の電極部分32aと絶縁材33とにより、第二電極32が構成されている。第二電極32は第一電極31と構成が同じであることから、第二電極32についての詳しい説明については省略する。
【0025】
図2において、制御ユニット50は、電源制御部51及び検出制御部52を機能部として有している。具体的に説明すると、制御ユニット50は、図示しないが、演算処理装置(CPU)及びメモリ等からなる記憶部を備えており、この記憶部に記憶されているコンピュータプログラムを前記演算処理装置が実行することにより、電源制御部51及び検出制御部52それぞれの機能が発揮される。制御ユニット50は前記環状空間4(図1参照)の外に設けられている。
【0026】
電源制御部51は、電源60から第一電極31及び第二電極32に電力を供給する機能を有し、更に、これら電極31,32間に与える電圧の大きさを調整する。なお、電源60については、制御ユニット50が備えていてもよいし、制御ユニット50とは別の装置であってもよい。与える電圧(電圧値)は、後述する検出用の電圧よりもはるかに大きな値であり、例えば数千ボルトとすることができる。
【0027】
第一電極31は複数に区画されていることから(図3(A)参照)、区画された複数の電極部分31aそれぞれと制御ユニット50とが信号線Lを介して接続されており、電極部分31a毎に異なる電圧を印加することが可能となっている。また、これと同様に、第二電極32も複数に区画されていることから(図3(B)参照)、区画された複数の電極部分32aそれぞれと制御ユニット50とが信号線Lを介して接続されており、電極部分32a毎に異なる電圧を印加することが可能となっている。このように、電源制御部51は、第一電極31と第二電極32との間に電圧(直流電圧)を調整して印加する機能を有している。
【0028】
ここで、図1において、締め代Sを有してリップ先部23が接触している軸5が偏心したり軸5の傾きが変化したりすると、シール本体20(特にリップ基部22)が弾性変形する。リップ基部22の両面には前記のとおり電極31,32が設けられていることから、リップ基部22が変形すると電極31,32間の距離が変わってこれら電極31,32間の静電容量が変化する。
【0029】
そこで、図2に示すように、電極31,32それぞれには制御ユニット50の検出制御部52が接続されており、リップ基部22を挟んで対向した配置にある電極31,32間の静電容量が変化すると、これらの間の電圧値(電位)が変化する。なお、これら電極31,32間には、検出用の微小な電圧を印加している。そこで、静電容量の変化に基づく電圧値の変化を検出制御部52が検出する。電極31,32それぞれはアンプ53を介して検出制御部52と接続されており、電圧値が増幅されて、その変化を検出制御部52は検出する。
【0030】
また、第一電極31及び第二電極32それぞれは複数に区画されていることから(図3(A)(B)参照)、区画された複数の第一電極部分31a及び複数の第二電極部分32aそれぞれと制御ユニット50とが電気的に接続されており、所定の第一電極部分31aと所定の第二電極部分32aとの間の静電容量の変化に起因する電圧値の変化を検出制御部52は検出することが可能となっている。このように、検出制御部52は、第一電極31及び第二電極32それぞれからの電気信号として電圧値を取得すると共に、この電気信号(電圧値)の変化を検出する機能を有している。
なお、検出制御部52による検出用の前記微小な電圧と、前記電源制御部51による変形用の大きな電圧とは、異なるタイミングで印加させる。また、検出制御部52が取得する電気信号は、電圧値でなく、電流値であってもよい。
【0031】
以上の構成を備えている密封装置10が有する機能として、偏心したり傾いたりする軸5にシール本体20(リップ先部23)を積極的に追従させるための機能の具体例について説明する。
図4は、軸5及び密封装置10を、密封装置10の中心線に平行な方向から見た場合のイメージ図である。図4に示すように、密封装置10が設けられている位置において、軸5が下方へ変位したとする。なお、図4では、変位前の軸5を二点鎖線で示している。軸5が下方へ変位すると、密封装置10のシール本体20の上側の部分Tでは軸5に対するリップ先部23の締め代S(図5参照)が、図1の通常状態と比較して小さくなる。
【0032】
図3(A)において、第一電極31のうち前記の上側の部分Tに相当する領域は、矢印Q1が指し示す領域であり、また、図3(B)において、第二電極32のうち前記の上側の部分Tに相当する部分は、矢印Q2が指し示す領域である。
【0033】
図4及び図5に示すように、軸5が下方へ変位すると、その変位前と比較して、シール本体20の上側の部分Tが弾性復元力によって下へ変形する。本実施形態では、シール本体20のうち、固定部21は芯部材11に固定されていることからほとんど変形しないが、リップ基部22及びリップ先部23が下方に変位する。この際、シール本体20の上側の部分Tでは、第二電極32は固定部21寄りに設けられており変位が少ないのに対して、第一電極31はリップ先部23寄りに設けられていることから変位が大きくなり、第一電極31と第二電極32との間の距離が、軸5の変位前と比較して小さくなる。このため、シール本体20の上側の部分Tにおける電極31,32間の静電容量が小さくなり、図3(A)に示す第一電極31の内の矢印Q1で示す領域に存在する電極部分31aと、図3(B)に示す第二電極32の内の矢印Q2で示す領域に存在する電極部分32aとの間の電圧値の変化を、前記検出制御部52は検出することができる。つまり、軸5に対するリップ先部23の締め代Sの変化を検知することが可能となる。
【0034】
図4及び図5に示すように軸5が下方へ変位すると、シール本体20の上側の部分Tにおいて、軸5に対する締め代Sが小さくなり密封性能が低下するおそれがある。そこで、次に、電源制御部51は、この上側の部分Tにおいて、軸5に対する締め代Sを回復させるべく、所定の電極部分31a,32aに対して電圧を印加することで、電極31,32を含むリップ基部22を誘電アクチュエータとして機能させ、シール本体20の上側の部分Tにおけるリップ基部22を軸5側へ変形させる。このように誘電アクチュエータとして機能させることで変形させた後のシール本体20を、図5において二点鎖線で示す。
例えば、電源制御部51は、図3(A)に示す第一電極31の内の矢印Q1で示す領域に存在する電極部分31aと、図3(B)に示す第二電極32の内の矢印Q2で示す領域に存在する電極部分32aとに、所定の電圧を印加する制御(つまり、所定の電位差とする制御)を行う。これにより、下方に変位した軸5に対するリップ先部23の締め代Sを、変位前の状態に近づける(復帰させる)ことが可能となり、密封性能の低下が解消される。
【0035】
なお、このような誘電アクチュエータによるシール本体20の変形により、上側の部分Tにおける前記電極31,32間の静電容量は、軸5の変位前の状態に近づく。以上の説明によれば、リップ基部22の周方向の一部(例えば、前記上側の部分T)を挟む配置にある一対の電極31,32それぞれに含まれる電極部分31a,32a間の静電容量が、軸5の変位前後(又は傾き前後)において一定となるように、これら電極31,32に与える電圧を制御すればよく、これにより、軸5が変位しても(傾いても)締め代Sを一定に保つことができる。
【0036】
シール本体20の変形に関して更に説明する。本実施形態では(図5参照)、第二電極32は、リップ基部22の内周面27に設けられているが、その外周面26に設けられている第一電極31よりも、シール本体20の固定部21側に寄って設けられている。固定部21は、芯部材11に固定されていることから、この固定部21側に寄って設けられている第二電極32は、第一電極31と比較して、シール本体20の変形の影響を受け難い(つまり、変形し難い)。このため、前記のとおりシール本体20の上側の部分Tに位置する第一電極31の電極部分31aと第二電極32の電極部分32aとに電圧を印加して、リップ基部22におけるこれら電極部分31a,32aの間隔が小さくなるようにリップ基部22を圧縮すると、第二電極32が取り付けられている内周面27側が固定側となり、第一電極31が取り付けられている外周面26側が変位側となり、前記圧縮によってリップ先部23が縮径する方向にリップ基部22を湾曲変形させることができる。この湾曲変形によりリップ先部23を軸5側に寄せることが可能となり、締め代Sを確保することができる。
【0037】
以上のように、本実施形態の密封装置10によれば、第一電極31と、第二電極32と、リップ基部22の内の両電極31,32間の一部とによって、誘電アクチュエータが構成される。
【0038】
そして、この誘電アクチュエータをセンサとして用いることができ、前記のとおり、軸5に対するリップ先部23の締め代Sの減少(又は増加)を検知することが可能となる。つまり、シール本体20が変形すると電極31,32間の静電容量が変化することから、この変化に基づく電気信号(電圧値)の変化を検出することで、シール本体20の変形態様を検知することが可能となる。この検知のために、密封装置10は、検出制御部52を備えており、検出制御部52は、第一電極31及び第二電極32からの電気信号の変化として電圧値の変化を検出する。
【0039】
また、前記のように構成された誘電アクチュエータを、シール本体20を強制的に弾性変形させるアクチュエータとして用いることができる。すなわち、電極31,32間に電圧(電位差)を与えることで、リップ基部22を変形させることができる。このために、密封装置10は、電源制御部51を備えており、電源制御部51は、第一電極31と第二電極32との間に電圧を調整して印加する。電極31,32に所定の大きさの電圧を与えることで、リップ基部22を変形させ、軸5の偏心や傾きにリップ先部23を追従させることが可能となる。
【0040】
なお、リップ先部23を軸5に追従させるために、電極31,32に印加する前記電圧を、誘電アクチュエータをセンサとして用いることで得られた電気信号(電圧値)の変化(つまり、シール本体20の変形量)に基づいて決定してもよい。つまり、センサとして用いることで得られた電気信号(電圧値)の変化が大きい場合、これに応じて大きな電圧を電極31,32に印加してシール本体20を大きく変形させ、軸5に対する締め代Sを所望の値とする。
【0041】
このように、前記各構成を備えている密封装置10によれば、密封性能を向上させることが可能となる。また、軸5の傾きや偏心が大きくなっていない通常状態で回転している場合においても、電極31,32は柔軟性を有していることから、軸5に対してシール本体20が備えている元来の追従性は損なわれない。
【0042】
そして、前記のとおり、第一電極31及び第二電極32それぞれは、絶縁材33により周方向に沿って複数の領域に区画されている。この構成によれば、区画された電極部分31a,32aを選択的に用いることができる。つまり、電圧の検出対象とする電極部分31a,32aを選択することで、周方向のどの位置(例えば、前記上側の位置T)でシール本体20が変形しているのか検知可能であり、より厳密にシール本体20の変形態様を検知することができる。また、印加する対象とする電極部分31a,32aを選択することで、周方向の任意の位置でシール本体20を強制的に弾性変形させて、より厳密に(より部分的に)シール本体20を変形させることが可能となり、軸5に対する所望の締め代Sを確保することができる。
【0043】
更に、本実施形態では、第一電極及び第二電極32それぞれは、絶縁材33により固定部21からリップ先部23に向かう方向(軸方向)に沿って複数の領域に区画されている。このように区画されていることで、電圧の検出対象とする電極部分31a,32aを選択することで、より厳密にシール本体20の変形態様を検知することが可能となり、また、印加する対象とする電極部分31a,32aを選択することで、より厳密に(より部分的に)シール本体20を変形させることが可能となる。
【0044】
なお、前記の説明では、シール本体20の上側の部分Tにおけるリップ先部23と軸5との間で生じる締め代Sの減少を防ぐために、この上側の部分Tにおけるリップ基部22を軸5側に向かって強制的に変形させる場合について説明した。しかし、これとは反対の下側の部分B(図4参照)では、軸5の偏心によって、締め代Sが増加する。そこで、下側の部分Bにおいては、シール本体20と電極31,32とを(前記説明の場合と同様に)誘電アクチュエータとして機能させ、所定の電極部分31a,32aに電圧を付与し、この下側の部分Bにおけるリップ基部22を軸5から離れる方向に強制的に変形(湾曲変形)させるようにしてもよい。これにより、締め代Sが過大とならず、発熱や異常摩耗を防ぐことができ、長寿命化に貢献する。
【0045】
以上のように密封性能を向上させるための手段として、シール本体20に電極31,32を設ければよいことから、設計自由度が高い。つまり、軸5の大きさや、環状空間4の広さや、シール本体20の形態の変更があっても、それに応じた大きさや配置に電極31,32を設けることで、密封性能を向上させることが可能となる。
【0046】
以上のとおり開示した実施形態はすべての点で例示であって制限的なものではない。つまり、本発明の密封装置は、図示する形態に限らず本発明の範囲内において他の形態のものであってもよい。
前記実施形態では、スプリング19を有しているオイルシールの場合として説明したが、他の形態を有する密封装置であってもよい。また、本発明の密封装置は、風力発電機用として説明したが、その他の機器にも適用可能である。例えば、図示しないが、サーボモータの回転軸とハウジングとの間に設けられる密封装置に適用可能である。サーボモータは急加速する場合があり、この場合、スティックスリップ現象により、軸との間に隙間が生じやすいが、本発明の密封装置を適用することで、この隙間を解消して、密封性を高めることが可能となる。
【符号の説明】
【0047】
5:軸 6:ハウジング(外側部材) 6a:円筒内周面
10:密封装置 11:芯部材 20:シール本体
21:固定部 22:リップ基部 23:リップ先部
31:第一電極 32:第二電極 33:絶縁材
51:電源制御部 52:検出制御部
図1
図2
図3
図4
図5
図6