特許第6790736号(P6790736)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6790736
(24)【登録日】2020年11月9日
(45)【発行日】2020年11月25日
(54)【発明の名称】樹脂キャップの製造方法
(51)【国際特許分類】
   F16B 37/04 20060101AFI20201116BHJP
   F16C 41/00 20060101ALI20201116BHJP
   F16C 19/18 20060101ALI20201116BHJP
   B29C 45/14 20060101ALI20201116BHJP
   B29C 45/26 20060101ALI20201116BHJP
【FI】
   F16B37/04 B
   F16C41/00
   F16C19/18
   B29C45/14
   B29C45/26
【請求項の数】3
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2016-216743(P2016-216743)
(22)【出願日】2016年11月4日
(65)【公開番号】特開2018-71775(P2018-71775A)
(43)【公開日】2018年5月10日
【審査請求日】2019年8月9日
(73)【特許権者】
【識別番号】000211695
【氏名又は名称】中西金属工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100074561
【弁理士】
【氏名又は名称】柳野 隆生
(74)【代理人】
【識別番号】100124925
【弁理士】
【氏名又は名称】森岡 則夫
(74)【代理人】
【識別番号】100141874
【弁理士】
【氏名又は名称】関口 久由
(74)【代理人】
【識別番号】100163577
【弁理士】
【氏名又は名称】中川 正人
(72)【発明者】
【氏名】上願 豊
【審査官】 竹村 秀康
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−148448(JP,A)
【文献】 特開2012−232430(JP,A)
【文献】 特開2013−155881(JP,A)
【文献】 特開2011−242188(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16B 23/00−43/02
B29C 45/14
B29C 45/26
F16C 19/18
F16C 41/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属製インサートナットを合成樹脂内に埋設した樹脂キャップの製造方法であって、
前記樹脂キャップは、軸受の内輪に固定されたエンコーダの回転を検知するためのセンサを備えた車輪用軸受装置における、前記軸受の外輪に固定され、前記センサを保持するセンサホルダ部を有するセンサキャップであり、
前記インサートナットは、
軸方向の貫通孔の軸方向両端部の一方を、射出成形用金型の支持ピンが挿入されるピン挿入側端部とし、
前記貫通孔には、前記ピン挿入側端部からボルトが螺合可能な前記ねじ部を形成し、
前記貫通孔の軸方向両端部の他方は、前記ねじ部を形成しない非ねじ部を有し、
前記非ねじ部の内周面は、前記ねじ部を形成する前に穿設する下穴であり、
射出成形用金型を開いて、前記金型の支持ピンを前記インサートナットの前記ピン挿入側端部から前記貫通孔に挿入するように、前記インサートナットを前記支持ピンにセットし、前記インサートナットの前記非ねじ部のみを前記支持ピンの先端部に嵌合させる工程と、
前記金型を閉じて型締めした状態で、溶融樹脂材料を前記金型内に充填する工程と、
前記溶融樹脂材料を冷却・固化させた後、前記金型を開いて、成形品である樹脂キャップを取り出す工程と、
を含
前記インサートナットの前記非ねじ部の軸方向長さは、0.5mm以上、2mm以下であり、
前記インサートナットの前記非ねじ部の内周面と前記支持ピンの外周面の先端部との嵌合の隙間は、直径で0.01〜0.15mmである、
樹脂キャップの製造方法。
【請求項2】
金属製インサートナットを合成樹脂内に埋設した樹脂キャップの製造方法であって、
前記樹脂キャップは、軸受の内輪に固定されたエンコーダの回転を検知するためのセンサを備えた車輪用軸受装置における、前記軸受の外輪に固定され、前記センサを保持するセンサホルダ部を有するセンサキャップであり、
前記インサートナットは、
軸方向の貫通孔の軸方向両端部の一方を、射出成形用金型の支持ピンが挿入されるピン挿入側端部とし、
前記貫通孔には、前記ピン挿入側端部からボルトが螺合可能な前記ねじ部を形成し、
前記貫通孔の軸方向両端部の他方は、前記ねじ部を形成しない非ねじ部を有し、
前記非ねじ部の内周面は、前記ピン挿入側端部から遠ざかるにしたがって縮径するテーパ面を有し、
射出成形用金型を開いて、前記金型の、前記インサートナットのテーパ面に接するテーパ面が先端に形成された支持ピンを、前記インサートナットの前記ピン挿入側端部から前記貫通孔に挿入するように、前記インサートナットを前記支持ピンにセットし、前記インサートナットの前記テーパ面のみが前記支持ピンの前記テーパ面に接した状態にする工程と、
前記金型を閉じて型締めした状態で、溶融樹脂材料を前記金型内に充填する工程と、
前記溶融樹脂材料を冷却・固化させた後、前記金型を開いて、成形品である樹脂キャップを取り出す工程と、
を含
前記インサートナットの前記非ねじ部の軸方向長さは、0.5mm以上、2mm以下であり、
前記インサートナットの前記非ねじ部の内周面と前記支持ピンの外周面の先端部との嵌合の隙間は、直径で0.01〜0.15mmである、
樹脂キャップの製造方法。
【請求項3】
金属製インサートナットを合成樹脂内に埋設した樹脂キャップの製造方法であって、
前記樹脂キャップは、軸受の内輪に固定されたエンコーダの回転を検知するためのセンサを備えた車輪用軸受装置における、前記軸受の外輪に固定され、前記センサを保持するセンサホルダ部を有するセンサキャップであり、
前記インサートナットは、
軸方向の貫通孔の軸方向両端部の一方を、射出成形用金型の支持ピンが挿入されるピン挿入側端部とし、
前記貫通孔には、前記ピン挿入側端部からボルトが螺合可能な前記ねじ部を形成し、
前記貫通孔の軸方向両端部の他方は、前記ねじ部を形成しない非ねじ部を有し、
前記非ねじ部の内周面は、前記ねじ部の下穴径よりも内径が小さい小径部を設けることにより段部が形成されてなり、
射出成形用金型を開いて、前記金型の、前記インサートナットの小径部に嵌合する小径部が先端に形成された段付きの支持ピンを、前記インサートナットの前記ピン挿入側端部から前記貫通孔に挿入するように、前記インサートナットを前記支持ピンにセットし、前記インサートナットの前記小径部のみを前記支持ピンの小径部に嵌合させ、前記インサートナットの段部が前記支持ピンの端面に接した状態にする工程と、
前記金型を閉じて型締めした状態で、溶融樹脂材料を前記金型内に充填する工程と、
前記溶融樹脂材料を冷却・固化させた後、前記金型を開いて、成形品である樹脂キャップを取り出す工程と、
を含
前記インサートナットの前記非ねじ部の軸方向長さは、0.5mm以上、2mm以下であり、
前記インサートナットの前記非ねじ部の内周面と前記支持ピンの外周面の先端部との嵌合の隙間は、直径で0.01〜0.15mmである、
樹脂キャップの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は金属製インサートナットを合成樹脂内に埋設した樹脂キャップの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
回転速度検出装置を自動車のホイール支持用の転がり軸受(ハブベアリング)に備えた車輪用軸受装置があり、このような車輪用軸受装置では、N極とS極を一定間隔で周方向に交互に並べた磁気エンコーダを、前記軸受の軸方向の一端部の内輪に取り付けるとともに、前記磁気エンコーダの磁極に対向して前記磁気エンコーダの回転を検知するための磁気センサを前記軸受の外輪側に取り付けている(例えば、特許文献1及び2参照)。
特許文献1及び2では、前記磁気センサを保持するセンサホルダを有するセンサキャップ(樹脂キャップ)を、前記軸受の軸方向の一端部の外輪に取り付けており、前記センサキャップの合成樹脂製の本体にインサートナットを埋設し、このインサートナットの雌ねじを利用して前記センサを前記センサキャップに固定している。
ここで、特許文献1では、軸方向の貫通孔を形成する側壁内面に雌ねじが全長にわたって形成されたインサートナットを用いており、特許文献2では、全体が袋状に形成された袋ナットタイプのインサートナットを用いている。
【0003】
また、油圧機器の母機に取り付けられる、前記母機に備えるポンプから吐出する作動油の流量を調節する油圧制御弁がある(例えば、特許文献3参照)。
特許文献3では、前記油圧制御弁に備えたケースの開口部を閉塞するための保護キャップ(樹脂キャップ)を設けており、前記保護キャップの合成樹脂製の本体にインサートナット及びインサートワッシャを埋設し、このインサートナットの雌ねじを利用して前記保護キャップを前記油圧制御弁のベースに固定している。
ここで、特許文献3では、軸方向の貫通孔を形成する側壁内面に雌ねじが全長にわたって形成されたインサートナット、及びインサートワッシャを用いている。
【0004】
前記インサートナットは、射出成形用金型に固定された状態で射出成形により合成樹脂と一体化され、合成樹脂内に埋設された状態で雌ねじ(ねじ部)が露出する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2013−155881号公報
【特許文献2】特開2006−009889号公報
【特許文献3】特開2011−161757号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1及び2のような車輪用軸受装置では小型化が求められており、このようなニーズに応えるために、センサキャップにおけるインサートナットを埋設する樹脂部の厚みを低減する必要がある。すなわち、インサートナットの有効ねじ部の所要長さを確保しながら、可能な限りインサートナットの長さを短くする必要がある。
【0007】
ここで、特許文献1のような軸方向の貫通孔を形成する側壁内面に雌ねじが全長にわたって形成されたインサートナットをインサート品として、前記インサートナットを射出成形用金型の支持ピンに外嵌した状態でセンサキャップを射出成形する場合、金型内に射出注入された溶融樹脂が、その圧力により、インサートナットの雌ねじの螺旋状のねじ山を伝わってインサートナット内に侵入し、その状態で固化する。
【0008】
軸方向の貫通孔を形成する側壁内面に雌ねじが全長にわたって形成されたインサートナットを用いる場合、射出成形時に溶融樹脂がインサートナット内に侵入する距離(軸方向長さ)は、例えば約3mm程度になる。その場合、前記インサートナットの有効ねじ部の長さは約3mm短くなる。
また、射出成形時に溶融樹脂がインサートナット内に侵入する距離は、量産時におけるばらつきが大きい。
【0009】
したがって、量産時における大きなばらつきを考慮して、インサートナットの有効ねじ部の長さの減少が大きい場合に対して余裕を見る必要がある。
すなわち、量産時におけるインサートナットの有効ねじ部の長さの減少が最も大きい場合であっても、使用する取付ねじが螺着できる有効ねじ部の所要長さを確保するため、インサートナットを長くする必要がある。そのようにしないと、製造現場でセンサキャップにセンサを取り付ける際に、インサートナットに対して取付ねじが途中までしか螺合しない、すなわちセンサの取付ができないという不具合が発生する恐れがあるためである。
【0010】
以上のとおり、軸方向の貫通孔を形成する側壁内面に雌ねじが全長にわたって形成されたインサートナットでは、射出成形時に溶融樹脂がインサートナット内に侵入する距離が大きく、量産時における前記距離のばらつきも考慮する必要があることから、インサートナットの長さを短くすることはできない。よって、センサキャップにおけるインサートナットを埋設する樹脂部の厚みを低減するという小型化のニーズに応えることができない。
【0011】
特許文献2のような、全体が袋状に形成された袋ナットタイプのインサートナットをインサート品として、前記インサートナットを射出成形用金型の支持ピンに外嵌した状態でセンサキャップを射出成形する場合、インサートナット内に前記溶融樹脂が侵入することはない。
しかしながら、特許文献2のような袋ナットタイプのインサートナットは、前記雌ねじが全長にわたって形成されたインサートナットよりも全長が大きいことから、インサートナットを埋設する樹脂部の厚みを低減できないので、前記ニーズに応えることができない。
【0012】
また、特許文献3のような軸方向の貫通孔を形成する側壁内面に雌ねじが全長にわたって形成されたインサートナットに加えてインサートワッシャを用いる構成では、部品点数が増えるとともに、射出成形を行う際に手間が掛かるので、製造コストが増大する。
【0013】
そこで本発明が前述の状況に鑑み、解決しようとするところは、樹脂キャップにおけるインサートナットを埋設する樹脂部の厚みを低減するという小型化のニーズに応えることである。その実現のために、本発明の課題は、軸方向の貫通孔を有するインサートナットの有効ねじ部の所要長さを確保しながら、可能な限りインサートナットの長さを短くできる構造を得ることである。
【課題を解決するための手段】
【0021】
本発明に係る樹脂キャップの製造方法は、前記課題解決のために、
金属製インサートナットを合成樹脂内に埋設した樹脂キャップの製造方法であって、
前記樹脂キャップは、軸受の内輪に固定されたエンコーダの回転を検知するためのセンサを備えた車輪用軸受装置における、前記軸受の外輪に固定され、前記センサを保持するセンサホルダ部を有するセンサキャップであり、
前記インサートナットは、
軸方向の貫通孔の軸方向両端部の一方を、射出成形用金型の支持ピンが挿入されるピン挿入側端部とし、
前記貫通孔には、前記ピン挿入側端部からボルトが螺合可能な前記ねじ部を形成し、
前記貫通孔の軸方向両端部の他方は、前記ねじ部を形成しない非ねじ部を有し、
前記非ねじ部の内周面は、前記ねじ部を形成する前に穿設する下穴であり、
射出成形用金型を開いて、前記金型の支持ピンを前記インサートナットの前記ピン挿入側端部から前記貫通孔に挿入するように、前記インサートナットを前記支持ピンにセットし、前記インサートナットの前記非ねじ部のみを前記支持ピンの先端部に嵌合させる工程と、
前記金型を閉じて型締めした状態で、溶融樹脂材料を前記金型内に充填する工程と、
前記溶融樹脂材料を冷却・固化させた後、前記金型を開いて、成形品である樹脂キャップを取り出す工程と、
を含み、
前記インサートナットの前記非ねじ部の軸方向長さは、0.5mm以上、2mm以下であり、
前記インサートナットの前記非ねじ部の内周面と前記支持ピンの外周面の先端部との嵌合の隙間は、直径で0.01〜0.15mmである(請求項)。
【0022】
このような製造方法によれば、前記形状の非ねじ部を有するインサートナットを用いているとともに、インサートナットを金型の支持ピンにセットした状態では、インサートナットの非ねじ部が前記支持ピンの先端部に嵌合する。
したがって、金型を閉じて型締めし、金型内に溶融樹脂材料を充填する工程を行った際に、インサートナットの非ねじ部の内周面と、支持ピンの外周面の先端部との嵌合の隙間を、使用する樹脂材料の流動性に応じて、樹脂が回り込まない範囲に設定することにより、螺旋状のねじ山がない非ねじ部が、金型内に射出注入された溶融樹脂のインサートナット内への侵入を堰き止める効果を有するので、インサートナット内への溶融樹脂の侵入を抑制できる。
その上、従来の軸方向の貫通孔を形成する側壁内面に雌ねじが全長にわたって形成されたインサートナットを用いた場合のように、溶融樹脂がインサートナット内に侵入する距離(軸方向長さ)が大きくばらつくことがない。
よって、インサートナットの有効ねじ部の所要長さを確保しながら、可能な限りインサートナットの長さを短くできるので、本製造方法による成形品である樹脂キャップにおけるインサートナットを埋設する樹脂部の厚みを低減するという小型化のニーズに応えることができる。それにより、前記樹脂キャップである、センサキャップを小型化できるので、小型化が求められている車輪用軸受装置に用いるセンサキャップの製造方法として好適なものになる。
その上さらに、前記インサートナットの前記非ねじ部の軸方向長さを、0.5mm以上、2mm以下にすることにより、インサートナット内への溶融樹脂の侵入抑制効果を備えながら、インサートナットの全長を比較的短くできる。
また、前記インサートナットの前記非ねじ部の内周面と前記支持ピンの外周面の先端部との嵌合の隙間を、直径で0.01〜0.15mmにすることにより、インサートナットの前記非ねじ部のみを前記支持ピンの先端部に嵌合させる構造において樹脂が回り込まない。
【0023】
また、本発明に係る樹脂キャップの製造方法は、前記課題解決のために、
金属製インサートナットを合成樹脂内に埋設した樹脂キャップの製造方法であって、
前記樹脂キャップは、軸受の内輪に固定されたエンコーダの回転を検知するためのセンサを備えた車輪用軸受装置における、前記軸受の外輪に固定され、前記センサを保持するセンサホルダ部を有するセンサキャップであり、
前記インサートナットは、
軸方向の貫通孔の軸方向両端部の一方を、射出成形用金型の支持ピンが挿入されるピン挿入側端部とし、
前記貫通孔には、前記ピン挿入側端部からボルトが螺合可能な前記ねじ部を形成し、
前記貫通孔の軸方向両端部の他方は、前記ねじ部を形成しない非ねじ部を有し、
前記非ねじ部の内周面は、前記ピン挿入側端部から遠ざかるにしたがって縮径するテーパ面を有し、
射出成形用金型を開いて、前記金型の、前記インサートナットのテーパ面に接するテーパ面が先端に形成された支持ピンを、前記インサートナットの前記ピン挿入側端部から前記貫通孔に挿入するように、前記インサートナットを前記支持ピンにセットし、前記インサートナットの前記テーパ面のみが前記支持ピンの前記テーパ面に接した状態にする工程と、
前記金型を閉じて型締めした状態で、溶融樹脂材料を前記金型内に充填する工程と、
前記溶融樹脂材料を冷却・固化させた後、前記金型を開いて、成形品である樹脂キャップを取り出す工程と、
を含み、
前記インサートナットの前記非ねじ部の軸方向長さは、0.5mm以上、2mm以下であり、
前記インサートナットの前記非ねじ部の内周面と前記支持ピンの外周面の先端部との嵌合の隙間は、直径で0.01〜0.15mmである(請求項)。
【0024】
このような製造方法によれば、インサートナットを支持ピンにセットした状態では、インサートナットのテーパ面が支持ピンのテーパ面に接しているので、金型を閉じて型締めし、金型内に溶融樹脂材料を充填する工程を行った際に、インサートナットのねじ部への溶融樹脂の侵入を阻止できる。
その上、前記インサートナットの前記非ねじ部の軸方向長さを、0.5mm以上、2mm以下にすることにより、インサートナット内への溶融樹脂の侵入抑制効果を備えながら、インサートナットの全長を比較的短くできる。
また、前記インサートナットの前記非ねじ部の内周面と前記支持ピンの外周面の先端部との嵌合の隙間を、直径で0.01〜0.15mmにすることにより、インサートナットの前記テーパ面のみが前記支持ピンの前記テーパ面に接する構造において樹脂が回り込まない。
【0025】
さらに、本発明に係る樹脂キャップの製造方法は、前記課題解決のために、
金属製インサートナットを合成樹脂内に埋設した樹脂キャップの製造方法であって、
前記樹脂キャップは、軸受の内輪に固定されたエンコーダの回転を検知するためのセンサを備えた車輪用軸受装置における、前記軸受の外輪に固定され、前記センサを保持するセンサホルダ部を有するセンサキャップであり、
前記インサートナットは、
軸方向の貫通孔の軸方向両端部の一方を、射出成形用金型の支持ピンが挿入されるピン挿入側端部とし、
前記貫通孔には、前記ピン挿入側端部からボルトが螺合可能な前記ねじ部を形成し、
前記貫通孔の軸方向両端部の他方は、前記ねじ部を形成しない非ねじ部を有し、
前記非ねじ部の内周面は、前記ねじ部の下穴径よりも内径が小さい小径部を設けることにより段部が形成されてなり、
射出成形用金型を開いて、前記金型の、前記インサートナットの小径部に嵌合する小径部が先端に形成された段付きの支持ピンを、前記インサートナットの前記ピン挿入側端部から前記貫通孔に挿入するように、前記インサートナットを前記支持ピンにセットし、前記インサートナットの前記小径部のみを前記支持ピンの小径部に嵌合させ、前記インサートナットの段部が前記支持ピンの端面に接した状態にする工程と、
前記金型を閉じて型締めした状態で、溶融樹脂材料を前記金型内に充填する工程と、
前記溶融樹脂材料を冷却・固化させた後、前記金型を開いて、成形品である樹脂キャップを取り出す工程と、
を含
前記インサートナットの前記非ねじ部の軸方向長さは、0.5mm以上、2mm以下であり、
前記インサートナットの前記非ねじ部の内周面と前記支持ピンの外周面の先端部との嵌合の隙間は、直径で0.01〜0.15mmである(請求項)。
【0026】
このような製造方法によれば、インサートナットを支持ピンにセットした状態では、インサートナットの段部が支持ピンの端面に接しているので、金型を閉じて型締めし、金型内に溶融樹脂材料を充填する工程を行った際に、インサートナットのねじ部への溶融樹脂の侵入を阻止できる。
その上、前記インサートナットの前記非ねじ部の軸方向長さを、0.5mm以上、2mm以下にすることにより、インサートナット内への溶融樹脂の侵入抑制効果を備えながら、インサートナットの全長を比較的短くできる。
また、前記インサートナットの前記非ねじ部の内周面と前記支持ピンの外周面の先端部との嵌合の隙間を、直径で0.01〜0.15mmにすることにより、インサートナットの前記小径部のみを前記支持ピンの小径部に嵌合させる構造において樹脂が回り込まない。
【発明の効果】
【0028】
以上のような本発明に係樹脂キャップの製造方法によれば、軸方向の貫通孔を有するインサートナットの有効ねじ部の所要長さを確保しながら、可能な限りインサートナットの長さを短くできるので、樹脂キャップにおけるインサートナットを埋設する樹脂部の厚みを低減するという小型化のニーズに応えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
図1】本発明の実施の形態に係るインサートナットを示しており、(a)は斜視図、(b)は縦断面図である。
図2】前記インサートナットが埋設された樹脂キャップであるセンサホルダ部を有するセンサキャップを示す縦断面斜視図である。
図3】同じく縦断面図である。
図4】前記センサキャップにセンサを取り付けた状態を示す縦断面斜視図である。
図5】車輪用軸受装置の縦断面図である。
図6】本発明の実施の形態に係る樹脂キャップの製造方法で使用する射出成形用金型の要部拡大縦断面図である。
図7】本発明の実施の形態に係るインサートナットと射出成形用金型の支持ピンを示す要部拡大縦断面図であり、(a)はインサートナットを支持ピンに取り付ける前の状態、(b)はインサートナットを支持ピンに取り付けた状態を示している。
図8】従来のインサートナットと射出成形用金型の支持ピンを示す要部拡大縦断面図であり、(a)はインサートナットを支持ピンに取り付ける前の状態、(b)はインサートナットを支持ピンに取り付けた状態を示している。
図9】インサートナットの変形例を示す縦断面図であり、(a)は非ねじ部の内周面をテーパ面にするとともに周溝の軸方向位置を変えた例、(b)は非ねじ部の内周面に小径部を設けるとともに周溝の軸方向位置を変えた例、(c)は周溝を複数設けた例、(d)はピン挿入側端部に大きな面取りを設けた例を示している。
図10図9(a)のインサートナットを射出成形用金型の支持ピンに取り付けた状態を示す要部拡大縦断面図である。
図11図9(b)のインサートナットを射出成形用金型の支持ピンに取り付けた状態を示す要部拡大縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
次に本発明の実施の形態を添付図面に基づき詳細に説明するが、本発明は、添付図面に示された形態に限定されず特許請求の範囲に記載の要件を満たす実施形態の全てを含むものである。
以下に示すインサートナット1は、黄銅、ステンレス、チタン、アルミ、又は鉄等の金属材料から製造される。インサートナット1が鉄系の材料から製造された場合は、メッキ処理を施すのが望ましい。また、自動車の足回り部品であるセンサキャップ11にインサートナット1を使用する場合は、風雪や風雨、塩化カルシウムを主成分とする融雪剤等の過酷な条件に晒されるため、インサートナット1の材質を黄銅製にするのが望ましい
本明細書において、インサートナット1の雌ねじ(ねじ部3)に螺合する取付ボルト15の軸方向を、「軸方向」と定義する。
【0031】
<インサートナット>
図1(a)の斜視図、及び図1(b)の縦断面図に示すように、本発明の実施の形態に係る金属製インサートナット1は、軸方向の貫通孔2を有し、貫通孔2の軸方向両端部2A,2Bの一方の端部2Aを、図6の要部拡大縦断面図、並びに図7(a)及び(b)の要部拡大縦断面図に示す射出成形用金型Aの支持ピン20が挿入されるピン挿入側端部Bとしている。
また、インサートナット1の貫通孔2には、ピン挿入側端部Bから、図4の縦断面斜視図及び図5の縦断面図に示す取付ボルト15が螺合可能な雌ねじであるねじ部3を形成し、貫通孔2の軸方向両端部2A,2Bの他方の端部2Bは、ねじ部3を形成しない非ねじ部4を有する。
ここで、非ねじ部4の内周面は、ねじ部3を形成する前に穿設する下穴4Aである。
さらに、インサートナット1の外周面には、周溝7を形成している。
【0032】
ここで、非ねじ部4の軸方向長さは、0.5mm以上、2mm以下であるのが好ましい実施態様である。
非ねじ部4の軸方向長さは、要求仕様に応じて変更することができ、0.5mm以上、2mm以下が実用面から好適な範囲である。すなわち、非ねじ部4の軸方向長さが前記範囲内であれば、後述するインサートナット1内への溶融樹脂の侵入抑制効果を備えながら、インサートナット1の全長を比較的短くできる。
また、インサートナット1の端部2Bに非ねじ部4を備えることから、雌ねじ3を形成するためのタップが貫通しないため、軸方向の貫通孔2を形成する側壁内面に雌ねじであるねじ部3が全長にわたって形成された従来のインサートナットにおける、タップを貫通させて雌ねじを加工した場合のような、バリ取りの役目を兼ねた端面2Bの面取り加工が不要になるので、前記面取り加工による有効ねじ部の減少がない。
【0033】
<樹脂キャップ>
図2の縦断面斜視図、及び図3の縦断面図、並びに図4の縦断面斜視図に示すように、本発明の実施の形態に係る樹脂キャップであるセンサキャップ11は、鋼板を円筒状に成形した円筒状部材12、及びインサートナット1、並びに合成樹脂Rである円盤状部材13等からなり、インサートナット1は、合成樹脂R内に埋設された状態でねじ部3が露出する。
円盤状部材13は、円筒状部材12と外周部が結合された本体部13A、及び磁気センサ10を取り付けるための取付ボルト15が螺合するインサートナット1を保持するとともに、磁気センサ10が挿入されるセンサ取付穴14が形成されたセンサホルダ部13Bを有する。
ここで、センサキャップ11はインサート成形品であり、金属製の円筒状部材12及びインサートナット1はインサート品である。
【0034】
<車輪用軸受装置>
図5の縦断面図に示すように、センサキャップ11を取り付けた車輪用軸受装置21は、外輪23に対して内輪22が回転する軸受の他に、磁気エンコーダ16及び磁気センサ10等を備える。
前記軸受は、外周面に内輪軌道面22Aが形成された内輪22、及び内周面に外輪軌道面23Aが形成された外輪23、並びに、内輪軌道面22A及び外輪軌道面23A間を転動する転動体24,24,…等を有する。
磁気エンコーダ16は、N極とS極を一定間隔で周方向に交互に並べたものであり、前記軸受の軸方向の一端部に位置する支持部材17により内輪22に固定される。
また、センサキャップ11は、軸受の外輪23に円筒状部材12を圧入することにより軸受の外輪23に固定され、前記軸受の軸方向の一端部を密封するとともに、磁気センサ10を保持するセンサホルダ部13Bを有する。
さらに、センサキャップ11のセンサホルダ部13Bに装着された磁気センサ10は、磁気エンコーダ16に対向し、磁気エンコーダ16の回転を検知する。
また、軸受装置21は、前記軸受の軸方向の他端部に配置したシール部材25等を備える。
【0035】
<樹脂キャップの製造方法>
次に、本発明の実施の形態に係る樹脂キャップである図2及び図3のセンサキャップ11の製造方法について、図6の要部拡大縦断面図に示す射出成形用金型A、並びに図7(a)及び(b)の要部拡大縦断面図に示す支持ピン20を参照して説明する。
使用する樹脂材料は、例えば、ポリアミド(ナイロン6、ナイロン66、ナイロン612等)、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、又はポリブチレンテレフタレート(PBT)に、ガラス繊維を20〜70重量%含有したものを用いる。
【0036】
先ず、射出成形用金型Aを開いて、金型A(固定型18)の支持ピン20をインサートナット1の前記ピン挿入側端部Bから貫通孔2に挿入するように、インサート品であるインサートナット1を支持ピン20にセットし、インサートナット1の非ねじ部4を支持ピン20の先端部20Aに嵌合させる。インサートナット1の非ねじ部4の内周面(下穴4A)と、支持ピン20の外周面の先端部20Aとの嵌合の隙間は、使用する樹脂材料の流動性に応じて、樹脂が回り込まない範囲に設定する。前記隙間は、例えば直径で0.01〜0.15mmの範囲に設定する。
なお、支持ピン20の先端側部分20Bは、先端に近づくしたがって縮径する、傾斜の緩いテーパ面であるので、インサートナット1のセットが容易になる。
また、インサート品である円筒状部材12を可動型19にセットする。
【0037】
次に、射出成形機に取り付けられた固定型18及び可動型19を型締めした状態で、溶融樹脂材料をスプルーから注入してゲートGから固定型18及び可動型19間のキャビティC内に充填する。
【0038】
次に、前記溶融樹脂材料を冷却・固化させた後、金型Aを開いて、成形品であるセンサキャップ11を取り出す。
【0039】
以上のような射出成形を経て製造されたセンサキャップ11において、インサートナット1の周溝7に合成樹脂が入り込んでいるので、インサートナット1の抜け止めがされる。
また、円筒状部材12の軸方向端の屈曲部に本体部13Aの外周部が回り込んでいるので、円筒状部材12と円盤状部材13は機械的に結合する。
【0040】
(従来のインサートナットを含む樹脂キャップの射出成形)
ここで、図8(a)及び(b)の要部拡大縦断面図に示すような、非ねじ部4がない、従来の軸方向の貫通孔2を形成する側壁内面に雌ねじ3が全長にわたって形成されたインサートナット1Aを金型Aの支持ピン20にセットした状態で射出成形を行うと、金型A内に射出注入された溶融樹脂が、その圧力により、インサートナット1Aの雌ねじの螺旋状のねじ山を伝わってインサートナット1A内に侵入しやすいとともに、溶融樹脂がインサートナット1A内に侵入する距離(軸方向長さ)のばらつきが大きくなる。
【0041】
(本発明の実施の形態に係るインサートナットを含む樹脂キャップの射出成形)
それに対して、図7(a)及び(b)の要部拡大縦断面図に示すような、非ねじ部4がある、本発明の実施の形態に係るインサートナット1を金型Aの支持ピン20にセットした状態で射出成形を行うと、インサートナット1を金型Aの支持ピン20にセットした状態では、インサートナット1の非ねじ部4が支持ピン20の先端部20Aに嵌合する。
したがって、金型Aを閉じて型締めし、金型A内に溶融樹脂材料を充填する工程を行った際に、インサートナット1の非ねじ部4の内周面(下穴4A)と、支持ピン20の外周面の先端部20Aとの嵌合の隙間を、使用する樹脂材料の流動性に応じて、樹脂が回り込まない範囲に設定することにより、螺旋状のねじ山がない非ねじ部4が、金型A内に射出注入された溶融樹脂のインサートナット1内への侵入を堰き止める効果を有するので、インサートナット1内への溶融樹脂の侵入を抑制できるとともに、溶融樹脂がインサートナット1内に侵入する距離(軸方向長さ)が大きくばらつくことがない。
よって、インサートナット1の有効ねじ部の所要長さを確保しながら、可能な限りインサートナット1の長さを短くできるので、センサキャップ11におけるインサートナット1を埋設する樹脂部の厚みを低減するという小型化のニーズに応えることができる。
【0042】
<インサートナットの変形例>
次に、インサートナット1の変形例について説明する。
【0043】
図9(a)の縦断面図は、非ねじ部4の内周面をテーパ面5にするとともに周溝8の軸方向位置を変えた例を、図9(b)の縦断面図は、非ねじ部4の内周面に小径部6Aを設けるとともに周溝の軸方向位置を変えた例を示している。
すなわち、図9(a)の例における非ねじ部4の内周面は、ピン挿入側端部Bから遠ざかるにしたがって(端部2Bに近づくにしたがって)縮径するテーパ面5であり、図9(b)の例における非ねじ部4の内周面には、ねじ部3の下穴径よりも内径が小さい小径部6Aを設けることにより段部6Bを形成している。
【0044】
図10は、図9(a)のインサートナット1を射出成形用金型Aの支持ピン20に取り付けた状態を示す要部拡大縦断面図であり、支持ピン20の先端には、インサートナット1のテーパ面5に接するテーパ面20Cを形成している。
このようにインサートナット1を支持ピン20にセットした状態では、インサートナット1のテーパ面5が支持ピン20のテーパ面20Cに接しているので、金型Aを閉じて型締めし、金型A内に溶融樹脂材料を充填する工程を行った際に、インサートナット1のねじ部3への溶融樹脂の侵入を阻止できる。
【0045】
図11は、図9(b)のインサートナット1を射出成形用金型Aの支持ピン20に取り付けた状態を示す要部拡大縦断面図であり、支持ピン20の先端を、インサートナット1の小径部6Aに嵌合する小径部20Dが形成された段付き形状としている。
このようにインサートナット1を支持ピン20にセットした状態では、インサートナット1の段部6Bが支持ピン20の大径側端面20Eに接しているので、金型Aを閉じて型締めし、金型A内に溶融樹脂材料を充填する工程を行った際に、インサートナット1のねじ部3への溶融樹脂の侵入を阻止できる。
【0046】
また、図9(a)及び図9(b)において、インサートナット1の外周面に形成した周溝8は、軸方向の中央部から端部2B寄りに片寄った位置にあるので、インサートナット1を金型Aの支持ピン20にセットする際に、ピン挿入側端部Bの認識が容易になる。
なお、周溝8は、軸方向の中央部から端部2A(ピン挿入側端部B)寄りに片寄らせてもよい。
【0047】
図9(c)の縦断面図は、インサートナット1の外周面に、3つの周溝9A,9B,9Cを形成した例を、図9(d)の縦断面図は、ピン挿入側端部Dに大きな面取りDを設けた例を示している。
これらのように、周溝の位置や数、端部の面取り等は、インサートナット1の要求仕様に応じて、適宜変更することができる。
【符号の説明】
【0048】
1,1A インサートナット
2 貫通孔
2A,2B 端部
3 ねじ部
4 非ねじ部
4A 下穴
5 テーパ面
6A 小径部
6B 段部
7,8,9A,9B,9C 周溝
10 磁気センサ
11 センサキャップ(樹脂キャップ)
12 円筒状部材
13 円盤状部材
13A 本体部
13B センサホルダ部
14 センサ取付穴
15 取付ボルト
16 磁気エンコーダ
17 支持部材
18 固定型
19 可動型
20 支持ピン
20A 先端部
20B 先端側部分
20C テーパ面
20D 小径部
20E 大径側端面
21 車輪用軸受装置
22 内輪
22A 内輪軌道面
23 外輪
23A 外輪駆動面
24 転動体
25 シール部材
A 射出成形用金型
B ピン挿入側端部
C キャビティ
D 面取り
G ゲート
R 合成樹脂
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11