【実施例1】
【0010】
まず、構成を説明する。
実施例1におけるロックアップクラッチ付きトルクコンバータは、車両の流体継手として、エンジン車やハイブリッド車等に搭載されるものである。以下、実施例1の構成を、「ロックアップクラッチ付きトルクコンバータの構成」と「ロックアップクラッチ付きトルクコンバータの製造方法」に分けて説明する。
【0011】
[ロックアップクラッチ付きトルクコンバータの構成]
図1は、実施例1におけるロックアップクラッチ付きトルクコンバータAの構成の断面図を示す。以下、
図1に基づいて、実施例1のロックアップクラッチ付きトルクコンバータAの構成を説明する。
【0012】
前記ロックアップクラッチ付きトルクコンバータAは、ポンプインペラ1と、タービンランナ2と、ステータ3と、多板クラッチ4(ロックアップクラッチ)と、ロックアップピストン5と、リターンスプリング6と、を備える。また、ロックアップクラッチ付きトルクコンバータAは、ハブロックアップ部材7と、トルクコンバータカバー8と、ネジ部材91(回転止め構造)と、ダンパ10(例えば、トーションスプリング等を用いたダンパ)と、を有する。このロックアップクラッチ付きトルクコンバータAでは、トルクコンバータカバー8の内部(
図1のトルクコンバータカバー8の左側)に多板クラッチ4が配置される。このロックアップクラッチ付きトルクコンバータAは、トルク増大機能を有する発進要素である。また、ロックアップクラッチ付きトルクコンバータAは、トルク増大機能を必要としないとき、多板クラッチ4が締結されることにより、エンジン等の駆動源に連結される入力軸11と出力軸12(例えば、変速機入力軸)を直結するものである。なお、出力軸12の中心軸を、回転中心軸CLとする。
【0013】
前記ポンプインペラ1は、トルクコンバータカバー8に連結される。このトルクコンバータカバー8は、入力軸11に連結される。
【0014】
前記タービンランナ2は、ポンプインペラ1に対向配置される。タービンランナ2は、出力ハブ13に連結される。この出力ハブ13は、出力軸12に連結される。
【0015】
前記ステータ3は、ポンプインペラ1とタービンランナ2の間に配置される。また、ステータ3は、ポンプインペラ1とタービンランナ2の対向領域のうち内側領域に配置される。このステータ3は、ワンウェイクラッチ14と固定係止部材15を介して、静止部材16(トランスミッションケース等)に設けられる。
【0016】
前記多板クラッチ4は、クラッチハブ4a(ハブスプライン部材)と、クラッチドラム4bと、ドライブプレート4cと、ドリブンプレート4dと、を有する。多板クラッチ4は、クラッチ締結により入力軸11と出力ハブ13・出力軸12とを直結することでロックアップ状態とするクラッチである。クラッチハブ4aとクラッチドラム4bは、径方向に重なり合うと共に、径方向に所定の間隔を介して対向配置される。
【0017】
前記クラッチハブ4aは、ロックアップピストン5とトルクコンバータカバー8との間に配置される。このクラッチハブ4aは、トルクコンバータカバー8に取り付けられる。また、クラッチハブ4aは、外周側(
図1のクラッチドラム4b側)にスプライン歯が形成される。なお、クラッチハブ4aは、円周上に複数の突起部4a1を有する。この突起部4a1は、後述するピストン溝部5aと嵌合する。
【0018】
前記クラッチドラム4bは、トルクコンバータカバー8とダンパ10との間に配置される。クラッチドラム4bは、ダンパ10に接続される。このダンパ10は、出力ハブ13に接続される。また、クラッチドラム4bは、内周側にスプライン歯が形成される。
【0019】
前記ドライブプレート4cは、複数枚(例えば、4枚)用意された円環形状のプレートである。このドライブプレート4cは、クラッチハブ4aのスプライン歯にスプライン嵌合される。また、ドライブプレート4cは、クラッチハブ4aが回転すると回転中心軸CLを中心として回転する。
【0020】
前記ドリブンプレート4dは、複数枚(例えば、4枚)用意された円環形状のプレートである。このドリブンプレート4dは、クラッチドラム4bのスプライン歯にスプライン嵌合される。また、ドリブンプレート4dは、クラッチドラム4bが回転すると回転中心軸CLを中心として回転する。ドリブンプレート4dの回転中心軸CL方向の両面には、動力伝達面になる領域にクラッチフェーシング(摩擦材)が貼り付けられる。
【0021】
前記ロックアップピストン5は、一部(ピストン部分)が多板クラッチ4とダンパ10との間に配置され、残りの一部(ピストンアーム部分)がハブロックアップ部材7とトルクコンバータカバー8との間に配置される。このロックアップピストン5の一部は、ドライブプレート4c及びドリブンプレート4dが交互に配置されたプレート群の端部位置(回転中心軸CL方向のダンパ10側)に設けられる。また、ロックアップピストン5は、ハブロックアップ部材7のシリンダ部7aにストローク移動可能に支持される。このロックアップピストン5は、第1オイルシール17と第2オイルシール18によりピストン油室5bを画成する。このピストン油室5bにクラッチ作動油が供給されると、ロックアップピストン5がクラッチ締結方向(
図1の右方向、回転中心軸CL方向のトルクコンバータカバー8側)にストロークする。これにより、ロックアップピストン5は、クラッチフェーシングが貼り付けられたプレート摺動面を圧接する締結力を与える。一方、ピストン油室5bからクラッチ作動油を抜くと、リターンスプリング6による付勢力によりロックアップピストン5はクラッチ締結位置からクラッチ解放位置(回転中心軸CL方向のハブロックアップ部材7側)へ戻る。このように、ロックアップピストン5は、多板クラッチ4を締結/解放する。さらに、ロックアップピストン5は、ピストン溝部5aを有する。このピストン溝部5aは、クラッチハブ4aの突起部4a1(円周上の複数箇所)と嵌合する。
ここで、「クラッチ締結位置」とは、ロックアップピストン5がハブロックアップ部材7から離れた位置であって、ロックアップピストン5が多板クラッチ4を締結する位置である。また、「クラッチ解放位置」とは、ロックアップピストン5がハブロックアップ部材7のシリンダ部7aに接する位置であって、ロックアップピストン5が多板クラッチ4を解放する位置である。
【0022】
前記リターンスプリング6は、ロックアップピストン5とトルクコンバータカバー8との間に配置される。このリターンスプリング6は、ロックアップピストン5とトルクコンバータカバー8に取り付けられる。また、リターンスプリング6は、多板クラッチ4の解放時、ロックアップピストン5(ピストンアーム部分)に対しクラッチ解放方向(
図1の左方向、回転中心軸CL方向のハブロックアップ部材7側)の付勢力を与える。
【0023】
前記ハブロックアップ部材7は、トルクコンバータカバー8と出力ハブ13との間に配置される。ハブロックアップ部材7の一部は、ロックアップピストン5と出力ハブ13との間に配置される。このハブロックアップ部材7は、シリンダ部7aと、ハブ部7bと、を有する。即ち、ハブロックアップ部材7は、シリンダ部材とハブ部材とを一体化した部材である。また、ハブロックアップ部材7は、トルクコンバータカバー8を形成する材料よりも強度を持つ強度金属材で形成される。例えば、ハブロックアップ部材7は鉄製である。
【0024】
前記シリンダ部7aは、ロックアップピストン5をストローク移動可能に支持する。即ち、シリンダ部7aは、ロックアップピストン5のうち回転中心軸CLに近い内周側と回転中心軸CLから遠い外周側をストローク移動可能に支持する。また、シリンダ部7aと、ロックアップピストン5のうち回転中心軸CLに近い内周側と、の間には、第1オイルシール17が設けられる。さらに、シリンダ部7aと、ロックアップピストン5のうち回転中心軸CLから遠い外周側と、の間には、第2オイルシール18が設けられる。
【0025】
前記ハブ部7bは、トルクコンバータカバー8に組付け固定される。ハブ部7bは、雄ネジ7cと貫通孔7dを有する。雄ネジ7cは、ハブ部7bの外周側(
図1の上方向、多板クラッチ4側)に形成される。貫通孔7dは、ハブ部7bの径方向内側であって、雄ネジ7cより径方向内側に形成される。この貫通孔7dは、回転中心軸CL方向に貫通する。この貫通孔7dにはネジ部材91が挿入される。
【0026】
前記トルクコンバータカバー8は、ポンプインペラ1と入力軸11に連結される。このトルクコンバータカバー8は、ハブロックアップ部材7の外側面71(回転中心軸CL方向の入力軸11側の面)を閉鎖する全閉構造に形成される。言い換えると、トルクコンバータカバー8は、ハブロックアップ部材7の外側面71の全面を覆う。ここで、ハブロックアップ部材7の外側面71は、シリンダ部7aのシリンダ外側面71aとハブ部7bのハブ外側面71bとからなる。また、トルクコンバータカバー8は、ハブロックアップ部材7を形成する材料よりも軽い軽量金属材で形成される。例えば、トルクコンバータカバー8は、アルミニウム製である。さらに、トルクコンバータカバー8は、雌ネジ8aとカバーネジ穴8bを有する。雌ネジ8aは、トルクコンバータカバー8の内周側(
図1の下方向、カバーネジ穴8b側)に形成される。この雌ネジ8aは、雄ネジ7cと径方向に重なり合うと共に、径方向に対向配置される。カバーネジ穴8bは、トルクコンバータカバー8の径方向内側の出力軸12側であって、雌ネジ8aより径方向内側に形成される。このカバーネジ穴8bは、回転中心軸CL方向の出力軸12側へ向かって開口する。このカバーネジ穴8bにはネジ部材91が挿入される。なお、トルクコンバータカバー8には、クラッチハブ4aやボス部材19(周方向に複数個)が取り付けられる。
【0027】
雌ネジ8aに雄ネジ7cがネジ嵌合されたネジ嵌合部20により、ハブロックアップ部材7とトルクコンバータカバー8が組付け固定される。雄ネジ7cと雌ネジ8aに、所定のねじ込み回転位置(回転角度位置)に位置決めを行う位置決めネジ構造を設ける。この位置決めネジ構造は、雄ネジ7cと雌ネジ8aのネジピッチP(=リード、例えば一条ネジ)である。これにより、所定のねじ込み回転位置(ねじ込み嵌合時の回転角度位置)に位置決めを行うことができる。
ここで、「所定のねじ込み回転位置」とは、トルクコンバータカバー8に対するハブロックアップ部材7の回転中心軸CL方向の位置である。言い換えると、ロックアップピストン5がクラッチ締結位置からクラッチ解放位置へ移動するとき、ロックアップピストン5が突き当たるハブロックアップ部材7(シリンダ部7a)の回転中心軸CL方向の位置である。即ち、「所定のねじ込み回転位置」とは、多板クラッチ4からロックアップピストン5までの隙間(クリアランス)を決める位置である。この所定のねじ込み回転位置とすることでロックアップピストン5がクラッチ締結位置からクラッチ解放位置へ移動する適正なストローク量(
図6のSA)に調整される。このストローク量(
図6のSA)は広すぎると、多板クラッチ4が解放状態から締結状態になるまでの応答性が悪化する。反対に、ストローク量(
図6のSA)は狭すぎると、多板クラッチ4が解放状態にもかかわらず、ドライブプレート4cとドリブンプレート4dが接触して、引き摺り状態になる(引き摺りトルクが発生する)。このため、適正なストローク量(
図6のSA)は、少なくともこの2つの事項(応答性と引き摺り状態)を考慮した量となる。
【0028】
前記ネジ部材91は、ネジ嵌合部20よりも径方向内側の位置で、貫通孔7dとカバーネジ穴8bに挿入される。このネジ部材91は、回転中心軸CL方向の出力軸12側から入力軸11側に向かって、貫通孔7dとカバーネジ穴8bに挿入される。即ち、ネジ部材91は、所定のねじ込み回転位置で、ハブ部7bとトルクコンバータカバー8とのネジ嵌合を回転止めする。
【0029】
[ロックアップクラッチ付きトルクコンバータの製造方法]
図2は実施例1におけるロックアップクラッチ付きトルクコンバータAの溶接・加工工程を示し、
図3はスプリング・クラッチ組付け工程を示し、
図4はピストン組付け工程と押付位置維持工程を示す。また、
図5はねじ込み工程を示し、
図6はストローク量調整工程を示し、
図7は回転止め工程を示す。以下、
図2〜
図7に基づいて、実施例1におけるロックアップクラッチ付きトルクコンバータAの製造方法を構成する各工程を説明する。
【0030】
(溶接・加工工程)
前記溶接・加工工程では、
図2に示すように、トルクコンバータカバー8に、クラッチハブ4aと、ボス部材19と、を溶接する。また、トルクコンバータカバー8の内周側には、雌ネジ8aを加工する。なお、溶接・加工工程の前に、そのアルミニウム製のトルクコンバータカバー8を鋳造により製造する。また、
図2は、トルクコンバータカバー8のカバーサブアッシー(ASSY)を示す。
【0031】
(スプリング・クラッチ組付け工程)
前記スプリング・クラッチ組付け工程では、
図3に示すように、溶接・加工工程に続き、カバーサブアッシーのクラッチハブ4aに多板クラッチ4のセット40を組み付ける。ここで「多板クラッチ4のセット40」とは、ドライブプレート4cとドリブンプレート4dとを、交互に4枚ずつ重ねたものである。また、スプリング・クラッチ組付け工程では、
図3に示すように、トルクコンバータカバー8にリターンスプリング6を組み付ける。なお、リターンスプリング6の個数は、締結状態の多板クラッチ4を解放状態にするために必要な個数を組み付ける。
【0032】
(ピストン組付け工程)
前記ピストン組付け工程では、
図4に示すように、スプリング・クラッチ組付け工程に続き、トルクコンバータカバー8に、リターンスプリング6の位相に合わせて、ロックアップピストン5を組み付ける。このとき、ロックアップピストン5に、第2オイルシール18を取り付ける。次いで、ロックアップピストン5を組み付けたまま、リターンスプリング6を縮めながらロックアップピストン5を多板クラッチ4側へ押し付ける(押し下げる)。
【0033】
(押付位置維持工程)
前記押付位置維持工程では、
図4に示すように、ピストン組付け工程に続き、ロックアップピストン5を多板クラッチ4側へ押し付けた際、クランプ治具21を用いて、ロックアップピストン5の位置や姿勢を安定させたまま押し付けた状態を維持する。即ち、
図4に示すように、クランプ治具21のクランプ力により押付位置(押下位置)にロックアップピストン5を維持する。また、このとき、
図4に示すように、クラッチハブ4aの複数の突起部4a1と、ロックアップピストン5のピストン溝部5aと、を嵌合する。これにより、ロックアップピストン5とトルクコンバータカバー8との回転位置関係に、ずれが生じなくなる。
【0034】
(ねじ込み工程)
前記ねじ込み工程では、
図5に示すように、押付位置維持工程に続き、ロックアップピストン5の押付位置をクランプ治具21により維持したまま、トルクコンバータカバー8の雌ネジ8aに合わせて、ハブロックアップ部材7の雄ネジ7cをねじ込んでいく。このとき、ハブロックアップ部材7に、第1オイルシール17を取り付ける。また、ねじ込み前に、雄ネジ7cと雌ネジ8aには、予めシール剤を塗布しておく。雄ネジ7cをねじ込むにつれて、ハブロックアップ部材7のシリンダ部7aはロックアップピストン5に近づいていく。このねじ込み初期では、ロックアップピストン5と第1オイルシール17との回転摺動、及び、ハブロックアップ部材7(実線)と第2オイルシール18との回転摺動は、発生しない。しかしながら、ねじ込み終期(ハブロックアップ部材7(二点破線))では、それらの回転摺動が発生する。このため、第1オイルシール17と第2オイルシール18には、予め作動油を塗布しておく。これにより、回転摺動が生じても、第1オイルシール17と第2オイルシール18には損傷等が発生しにくくなる。なお、ねじ込み加工よりも前に、その鉄製のハブロックアップ部材7を鋳造により製造する。また、ねじ込み加工よりも前に、ハブロックアップ部材7には雄ネジ7cを加工する。
【0035】
(ストローク量調整工程)
前記ストローク量調整工程では、
図6に示すように、ねじ込み工程に続き、クランプ治具21を外し、ロックアップピストン5のストローク量SAを調整する。このストローク量SAの調整は、まず、クランプ治具21を外す。このため、リターンスプリング6の付勢力で、ロックアップピストン5が、回転中心軸CL方向のハブロックアップ部材7側に移動する。これにより、ロックアップピストン5とハブロックアップ部材7のシリンダ部7a(破線)とが底付き(
図6のS部分)する。ここで、「底付き」とは、ロックアップピストン5とハブロックアップ部材7のシリンダ部7aとが、回転中心軸CL方向で接することである。次いで、その底付き状態で、ハブロックアップ部材7をさらにねじ込む。これにより、ロックアップピストン5と、多板クラッチ4のセット40のクラッチ面4eと、が接触する。この接触した状態が、ロックアップピストン5のストローク量SAがゼロとなる。次いで、このストローク量SAがゼロの位置すなわちロックアップピストン5のピストン面5cの位置を測定する。このストローク量SAがゼロの位置を、基準値とする。次いで、この基準値から、所定のストローク量SAを調整するために、ハブロックアップ部材7のねじ込みを一定量(所定のストローク量SA)戻すことにより、ハブロックアップ部材7のねじ込みを調整する。このような手順を経過して、ストローク量SAが調整される。なお、所定のストローク量SAを確保するには、基準値に対するロックアップピストン5のピストン面5cの増分を管理すればよいことになる。つまり、ネジピッチPは決まっているので、ねじ込みを戻す角度で管理することができる。
【0036】
(回転止め工程)
前記回転止め工程では、
図7に示すように、ストローク量調整工程に続き、所定のねじ込み回転位置に位置決めを行った後、ハブロックアップ部材7に貫通孔7dを加工し、トルクコンバータカバー8にカバーネジ穴8bを加工する。次いで、貫通孔7dとカバーネジ穴8bにネジ部材91を挿入する。これにより、ハブロックアップ部材7とトルクコンバータカバー8のネジ嵌合部20が回転止め(固定)される。次いで、ネジ部材91を挿入する貫通孔7dとカバーネジ穴8bの入口部分をかしめる。これにより、ネジ部材91の弛みや脱落が抑制される。
【0037】
このように、溶接・加工工程と、スプリング・クラッチ組付け工程と、ピストン組付け工程と、押付位置維持工程と、ねじ込み工程と、ストローク量調整工程と、回転止め工程と、を経過することにより、カバーアッシーが製造される。このカバーアッシーに、ポンプインペラ1やタービンランナ2やステータ3やクラッチドラム4bやダンパ10等が組み付けられ、
図1のロックアップクラッチ付きトルクコンバータAが製造される。
【0038】
次に、作用を説明する。
実施例1のロックアップクラッチ付きトルクコンバータ及びその製造方法における作用を、「ロックアップクラッチ付きトルクコンバータの特徴作用」と「ロックアップクラッチ付きトルクコンバータの製造方法の特徴作用」に分けて説明する。
【0039】
[ロックアップクラッチ付きトルクコンバータの特徴作用]
例えば、従来、発進装置において、センターピースとカバー本体とが軸方向突き当て部位を有し、且つ、インロー部を有している。このインロー部の界面に沿ったフロントカバー外側からの全周溶接により、センターピースとカバー本体とが固定されている。また、従来の発進装置においては、ロックアップピストンとフランジ部材とにより、発進装置の油圧室外周側に第1円筒嵌合部が形成されている。さらに、ロックアップピストンとセンターピースとにより、発進装置の油圧室内周側に第2円筒嵌合部が形成されている。また、フランジ部材とセンターピースとにより、第3円筒嵌合部が形成されている。そのフランジ部材とセンターピースは、スナップリングを介して固定されている。
【0040】
しかし、センターピースが全周に亘って溶接固定されるために、その入熱歪みにより第2円筒嵌合部の精度(円筒度、垂直度等)悪化を招いてしまう。このため、ロックアップピストンの作動性あるいは油圧保持性に対して悪影響を及ぼすおそれがある。これに対し、溶接後に第2円筒嵌合部を仕上げ加工する場合はこの限りでは無いが、工程増すなわちコスト増を招く、という課題がある。
【0041】
これに対し、実施例1では、ハブロックアップ部材7のハブ部7bには雄ネジ7cが形成される。トルクコンバータカバー8には雌ネジ8aが形成される。また、ハブロックアップ部材7のハブ部7bとトルクコンバータカバー8とは、ネジ嵌合により組み付けられる。
即ち、ハブ部7bとトルクコンバータカバー8とは、ネジ嵌合により組み付けられるので、ハブ部7bを含むハブロックアップ部材7に溶接による入熱歪みがない。このため、ハブ部7bの加工精度はトルクコンバータカバー8に組み付け後にも維持される。これにより、ネジ嵌合の後に、仕上げ加工を必要としない。
この結果、仕上げ加工を必要とすることなく、ロックアップピストン5の作動性および油圧保持性が確保される。
【0042】
実施例1では、ハブロックアップ部材7は、シリンダ部7aとハブ部7bと、を一体に有する。このハブロックアップ部材7は、ロックアップピストン5のうち回転中心軸CLに近い内周側と回転中心軸CLから遠い外周側をストローク移動可能に支持する。
例えば、従来の発進装置においては、ロックアップピストンは、外周側の第1円筒嵌合部ではフランジ部材と嵌合され、内周側の第2円筒嵌合部ではセンターピースと嵌合されている。即ち、ロックアップピストンは、外周側と内周側で別々の部材に嵌合されている。このため、フランジ部材とセンターピースの両方の芯ずれ及び倒れの影響により、ロックアップピストンの作動性あるいは油圧保持性に関して、ロックアップピストンが1つの部材で支持される場合よりも悪くなる。また、このように、ロックアップピストンの外周側と内周側が別々の部材であるため、部品点数が増し、コストがかかる。
これに対し、実施例1では、ロックアップピストン5は、その外周側と内周側で同一のハブロックアップ部材7に支持される。
即ち、ロックアップピストン5は同一部材であるハブロックアップ部材7により支持されるので、ロックアップピストン5の内周側と外周側の支持部分において芯ずれ及び倒れの懸念が無い。
従って、ロックアップピストン5の作動性および油圧保持性をより確保することができる。加えて、ハブロックアップ部材7はシリンダ部7aとハブ部7bとを一体に有する(一体構造である)ので、シリンダ部7aとハブ部7bを別々に製造するよりもコストを抑えられる。
【0043】
実施例1では、雄ネジ7cと雌ネジ8aに、所定のねじ込み回転位置に位置決めを行う位置決めネジ構造(ネジピッチP)を設ける。この所定のねじ込み回転位置で、ハブロックアップ部材7のハブ部7bとトルクコンバータカバー8のネジ嵌合を回転止めするネジ部材91を有する。
例えば、従来の発進装置において、フランジ部材とセンターピースとにより、第3円筒嵌合部が形成され、そのフランジ部材とセンターピースがスナップリングを介して固定されてしまうと、フランジ部材の調整代がない。このため、クラッチプレートの厚みばらつき等の影響を排除したロックアップピストンのストローク量の調整が困難となる。
これに対し、実施例1では、雄ネジ7cと雌ネジ8aに、所定のねじ込み回転位置に位置決めを行う位置決めネジ構造(ネジピッチP)を設ける。
即ち、位置決めネジ構造であるネジピッチPにより、ねじ込み嵌合時の回転位置に応じてトルクコンバータカバー8に対するハブロックアップ部材7の回転中心軸CL方向の位置の調整が可能となる。このため、ロックアップピストン5がクラッチ締結位置からクラッチ解放位置へ移動するとき、ロックアップピストン5が突き当たるシリンダ部7aの回転中心軸CL方向の位置調整が可能となる。つまり、ロックアップピストン5のストローク量SAの調整が可能となる。
そして、ストローク量SAを調整した後、ネジ部材91により、ハブロックアップ部材7のハブ部7bとトルクコンバータカバー8のネジ嵌合を回転止めする。これにより、そのストローク量SA(所定のねじ込み回転位置)を維持することができる。
従って、多板クラッチ4のプレート(ドライブプレート4cやドリブンプレート4d)の厚みにばらつき等の影響を排除して、ロックアップピストン5のストローク量SAの調整と維持が可能である。
【0044】
実施例1では、トルクコンバータカバー8は、ハブロックアップ部材7の外側面71を閉鎖する全閉構造に形成される。
従って、ネジ嵌合部20(雄ネジ7cと雌ネジ8a)からオイルリークがあっても、ロックアップクラッチ付きトルクコンバータAの外に漏れ出すことを防ぐことができる。加えて、ネジ嵌合部20の回転中心軸CL方向の前/後にシール部材が不要となる。
【0045】
実施例1では、ハブロックアップ部材7は、トルクコンバータカバー8よりも強度を持つ強度金属材(例えば、鉄)で形成される。トルクコンバータカバー8は、ハブロックアップ部材7よりも軽い軽量金属材(例えば、アルミニウム)で形成される。
例えば、従来の発進装置において、軽量化を目的に、センターピースとカバーの一方をアルミニウム製とし、他方を鉄製とする。このように材料を選択した場合、センターピースとカバーの固定において、異種金属間の溶接接合となる。一般に異種金属間の溶接接合は困難であるため、センターピースとカバーの溶接接合も困難となる。
これに対し、実施例1では、ハブロックアップ部材7とトルクコンバータカバー8とは、ネジ嵌合により組み付けられる。
従って、異種金属間の組み付け固定を容易に実現できる。
【0046】
[ロックアップクラッチ付きトルクコンバータの製造方法の特徴作用]
実施例1では、スプリング・クラッチ組付け工程において、トルクコンバータカバー8にリターンスプリング6と多板クラッチ4を組み付ける。次いで、ピストン組付け工程において、トルクコンバータカバー8に、リターンスプリング6の位相に合わせてロックアップピストン5を組み付ける。次いで、押付位置維持工程において、リターンスプリング6の付勢力に抗してロックアップピストン5を多板クラッチ4の側に押し付けた押付位置に、クランプ治具21を用いてロックアップピストン5を維持する。次いで、ねじ込み工程において、ロックアップピストン5を維持した状態で、トルクコンバータカバー8にハブロックアップ部材7をねじ込む。次いで、ストローク量調整工程において、クランプ治具21を外し、ハブロックアップ部材7のねじ込み調整により、ロックアップピストン5と多板クラッチ4との間を所定のストローク量SAに調整する。続いて、回転止め工程において、ネジ部材91により、ハブロックアップ部材7とトルクコンバータカバー8を回転止めする。
【0047】
例えば、従来の発進装置は、多板クラッチを有している。この多板クラッチを有する構成では、複数枚のプレートを用いることから多板クラッチ全体の厚さのばらつきや、関連部品の寸法ばらつきが存在する。このため、多板クラッチを有する構成では、ロックアップピストンのストローク量(クラッチとピストンとの隙間)を、適正なストローク量に調整する必要がある。具体的には、ストローク量が広すぎると、多板クラッチが解放状態から締結状態になるまでの応答性が悪化する。反対に、ストローク量が狭すぎると、多板クラッチが解放状態にもかかわらず、第1摩擦板(セパレータプレート)と第2摩擦板(フリクションプレート)が接触して、引き摺り状態になる。しかし、従来の発進装置において、フランジ部材とセンターピースとにより、第3円筒嵌合部が形成され、そのフランジ部材とセンターピースがスナップリングを介して固定されてしまうと、フランジ部材の調整代がなくなる。このため、従来の発進装置においては、ロックアップピストンのストローク量を調整できず、多板クラッチの応答性が悪化するおそれや、引き摺り状態になるおそれがある。
【0048】
これに対し、実施例1のストローク量調整工程では、ハブロックアップ部材7のねじ込み調整により、ロックアップピストン5と多板クラッチ4との間を所定のストローク量SAに調整する。
即ち、ストローク量調整工程では、ハブロックアップ部材7を回転させるねじ込みにより、ロックアップピストン5と多板クラッチ4との間のストローク量SAを調整するので、調整自由度がある。この調整自由度を活用することにより、製品ごとに、ロックアップピストン5と多板クラッチ4との間が適正なストローク量SAに調整される。
そして、ストローク量調整工程後の回転止め工程では、ネジ部材91により、ハブロックアップ部材7とトルクコンバータカバー8が回転止めされる。これにより、ストローク量調整工程にて調整された適正なストローク量SAを維持することができる。
従って、多板クラッチ全体の厚さのばらつき等の影響を排除して、ロックアップピストン5の適正なストローク量SAの調整と維持を行うことができる。
【0049】
次に、効果を説明する。
実施例1におけるロックアップクラッチ付きトルクコンバータA及びその製造方法にあっては、下記に列挙する効果が得られる。
【0050】
(1) トルクコンバータカバー8の内部にロックアップクラッチ(多板クラッチ4)を配置した(
図1)。
このロックアップクラッチ付きトルクコンバータAにおいて、ロックアップピストン5と、シリンダ部材(ハブロックアップ部材7のシリンダ部7a)と、ハブ部材(ハブロックアップ部材7のハブ部7b)と、を備える(
図1)。
ロックアップピストン5は、ロックアップクラッチ(多板クラッチ4)を締結/解放する。
シリンダ部材(ハブロックアップ部材7のシリンダ部7a)は、ロックアップピストン5をストローク移動可能に支持する。
ハブ部材(ハブロックアップ部材7のハブ部7b)は、シリンダ部材(ハブロックアップ部材7のシリンダ部7a)に接続され、トルクコンバータカバー8に固定される。
トルクコンバータカバー8とハブ部材(ハブロックアップ部材7のハブ部7b)の一方(トルクコンバータカバー8)には雌ネジ8aが形成され、他方(ハブロックアップ部材7のハブ部7b、ハブ部材)には雄ネジ7cが形成される(
図1)。
トルクコンバータカバー8とハブ部材(ハブロックアップ部材7のハブ部7b)とは、ネジ嵌合により組み付けられる(
図1)。
このため、仕上げ加工を必要とすることなく、ロックアップピストン5の作動性および油圧保持性を確保するロックアップクラッチ付きトルクコンバータAを提供することができる。
【0051】
(2) シリンダ部材(ハブロックアップ部材7のシリンダ部7a)とハブ部材(ハブロックアップ部材7のハブ部7b)とを一体化し、一体化した部材をハブロックアップ部材7とする(
図1)。
ハブロックアップ部材7は、ロックアップピストン5のうち回転中心軸CLに近い内周側と回転中心軸CLから遠い外周側をストローク移動可能に支持する(
図1)。
このため、(1)の効果に加え、ロックアップピストン5の作動性および油圧保持性を、より確保することができる。
【0052】
(3) トルクコンバータカバー8とハブ部材(ハブロックアップ部材7のハブ部7b)の雌雄ネジ(雌ネジ8a、雄ネジ7c)に、所定のねじ込み回転位置に位置決めを行う位置決めネジ構造(ネジピッチP)を設ける(
図1)。
所定のねじ込み回転位置で、トルクコンバータカバー8とハブ部材(ハブロックアップ部材7のハブ部7b)のネジ嵌合を回転止めする回転止め構造(ネジ部材91)を有する(
図1)。
このため、(1)〜(2)の効果に加え、多板クラッチ4のプレート(ドライブプレート4cやドリブンプレート4d)の厚みにばらつき等の影響を排除して、ロックアップピストン5のストローク量SAの調整と維持が可能である。
【0053】
(4) トルクコンバータカバー8は、シリンダ部材(ハブロックアップ部材7のシリンダ部7a)とハブ部材(ハブロックアップ部材7のハブ部7b)の外側面71を閉鎖する全閉構造に形成される(
図1)。
このため、(1)〜(3)の効果に加え、ネジ嵌合部20(雄ネジ7cと雌ネジ8a)からオイルリークがあっても、ロックアップクラッチ付きトルクコンバータAの外に漏れ出すことを防ぐことができる。
【0054】
(5) トルクコンバータカバー8とハブ部材(ハブロックアップ部材7のハブ部7b)の一方(ハブロックアップ部材7のハブ部7b)は強度を持つ強度金属材で形成される。他方(トルクコンバータカバー8)は強度金属材よりも軽い軽量金属材で形成される(
図1)。
このため、(1)〜(4)の効果に加え、異種金属間の組み付け固定を容易に実現できる。
【0055】
(6) トルクコンバータカバー8の内部に多板クラッチ4であるロックアップクラッチ(多板クラッチ4)を配置した(
図1)。
このロックアップクラッチ付きトルクコンバータAの製造方法であって、ロックアップピストン5と、リターンスプリング6と、ハブロックアップ部材7と、を備える(
図1)。
ロックアップピストン5は、多板クラッチ4を締結する。
リターンスプリング6は、多板クラッチ4を解放する。
ハブロックアップ部材7は、ロックアップピストン5をストローク移動可能に支持するシリンダ部7aと、トルクコンバータカバー8に固定されるハブ部7bと、を一体に有する。
トルクコンバータカバー8とハブ部7bの一方(トルクコンバータカバー8)には雌ネジ8aが形成され、他方(ハブ部7b)には雄ネジ7cが形成される(
図1)。
このロックアップクラッチ付きトルクコンバータAの製造方法において、スプリング・クラッチ組付け工程と、ピストン組付け工程と、押付位置維持工程と、ねじ込み工程と、ストローク量調整工程と、回転止め工程と、を有する。
スプリング・クラッチ組付け工程(
図3)は、トルクコンバータカバー8にリターンスプリング6と多板クラッチ4を組み付ける。
ピストン組付け工程(
図4)は、スプリング・クラッチ組付け工程後、トルクコンバータカバー8に、リターンスプリング6の位相に合わせてロックアップピストン5を組み付ける。
押付位置維持工程(
図4)は、ピストン組付け工程後、リターンスプリング6の付勢力に抗してロックアップピストン5を多板クラッチ4の側に押し付けた押付位置に、クランプ治具21を用いてロックアップピストン5を維持する。
ねじ込み工程(
図5)は、押付位置維持工程後に、ロックアップピストン5を維持した状態で、トルクコンバータカバー8とハブロックアップ部材7とをねじ込む。
ストローク量調整工程(
図6)は、ねじ込み工程後に、クランプ治具21を外し、ハブロックアップ部材7のねじ込みにより、ロックアップピストン5と多板クラッチ4との間を所定のストローク量(適正なストローク量SA)に調整する。
回転止め工程(
図7)は、ストローク量調整工程後に、トルクコンバータカバー8とハブロックアップ部材7を回転止めする。
このため、多板クラッチ全体の厚さのばらつき等の影響を排除して、ロックアップピストン5の適正なストローク量SAの調整と維持を行うロックアップクラッチ付きトルクコンバータAの製造方法を提供することができる。
【実施例4】
【0081】
実施例4では、トルクコンバータカバー8は、ハブロックアップ部材7の外側面71の一部を閉鎖する構造に形成される例である。また、実施例4では、ハブロックアップ部材7は軽量金属材で形成され、トルクコンバータカバー8は強度金属材で形成される例である。
【0082】
まず、構成を説明する。
実施例4におけるロックアップクラッチ付きトルクコンバータは、実施例1と同様に、車両の流体継手として、エンジン車やハイブリッド車等に搭載されるものである。以下、実施例4の構成を、「ロックアップクラッチ付きトルクコンバータの構成」と「ロックアップクラッチ付きトルクコンバータの製造方法」に分けて説明する。
【0083】
[ロックアップクラッチ付きトルクコンバータの構成]
図10は、実施例4におけるロックアップクラッチ付きトルクコンバータDの構成の断面図を示す。以下、
図10に基づいて、実施例4のロックアップクラッチ付きトルクコンバータDの構成を説明する。
【0084】
前記ハブロックアップ部材7は、入力軸11と出力ハブ13との間に配置される。ハブロックアップ部材7の一部は、ロックアップピストン5と出力ハブ13との間に配置される。また、ハブロックアップ部材7は、トルクコンバータカバー8を形成する材料よりも軽い軽量金属材で形成される。例えば、ハブロックアップ部材7は、アルミニウム製である。他の構成は、実施例1のハブロックアップ部材7と同様であるので説明を省略する。
【0085】
前記ハブ部7bは、入力軸11に連結される。ハブ部7bは、トルクコンバータカバー8に組付け固定される。また、ハブ部7bは、雄ネジ7cとネジ穴7eを有する。雄ネジ7cは、入力軸11が連結される部分よりも外周側に形成される。ネジ穴7eは、雄ネジ7cよりも回転中心軸CL方向の入力軸11側に形成される。このネジ穴7eは、ハブ部7bの径方向外側へ向かって開口する。このネジ穴7eにはネジ部材91が挿入される。なお、実施例4のハブ部7bは貫通孔7dを有さない。他の構成は、実施例1のハブ部7bと同様であるので説明を省略する。
【0086】
前記トルクコンバータカバー8は、ポンプインペラ1とハブ部7bに連結される。このトルクコンバータカバー8は、ハブロックアップ部材7の外側面71の一部を閉鎖する構造に形成される。即ち、トルクコンバータカバー8は、ハブロックアップ部材7の外側面71のうち、シリンダ部7aのシリンダ外側面71aを閉塞する構造に形成される。言い換えると、トルクコンバータカバー8は、シリンダ部7aのシリンダ外側面71aを覆う。また、トルクコンバータカバー8は、ハブロックアップ部材7を形成する材料よりも強度を持つ強度金属材で形成される。例えば、トルクコンバータカバー8は鉄製である。さらに、トルクコンバータカバー8は、雌ネジ8aとカバー貫通孔8dとシール部材22(例えば、Oリング)を有する。雌ネジ8aは、トルクコンバータカバー8の内周側(
図1の下方向、カバー貫通孔8d側)に形成される。カバー貫通孔8dは、トルクコンバータカバー8の内周側であって、雌ネジ8aとシール部材22より回転中心軸CL方向の入力軸11側に形成される。このカバー貫通孔8dは、径方向に貫通する。このカバー貫通孔8dには、ネジ部材91が挿入される。シール部材22は、回転中心軸CL方向で雌ネジ8aとカバー貫通孔8dとの間に設けられる。なお、実施例4のトルクコンバータカバー8はカバーネジ穴8bを有さない。他の構成は、実施例1のトルクコンバータカバー8と同様であるので説明を省略する。
【0087】
前記ネジ部材91は、ネジ嵌合部20よりも回転中心軸CL方向の入力軸11側の位置で、ネジ穴7eとカバー貫通孔8dに挿入される。このネジ部材91は、径方向外側から径方向内側に向かって、ネジ穴7eとカバー貫通孔8dに挿入される。他の構成は、実施例1のネジ部材91と同様であるので説明を省略する。
【0088】
[ロックアップクラッチ付きトルクコンバータの製造方法]
図10に基づいて、実施例4のロックアップクラッチ付きトルクコンバータDの製造方法を構成する回転止め工程を説明する。なお、鉄製のトルクコンバータカバー8は、プレス加工により製造する。また、アルミニウム製のハブロックアップ部材7は、鋳造により製造する。
【0089】
前記回転止め工程では、ストローク量調整工程に続き、所定のねじ込み回転位置に位置決めを行った後、ハブロックアップ部材7にネジ穴7eを加工し、トルクコンバータカバー8にカバー貫通孔8dを加工する。次いで、ネジ穴7eとカバー貫通孔8dにネジ部材91を挿入する。これにより、ハブロックアップ部材7とトルクコンバータカバー8のネジ嵌合部20が回転止め(固定)される。次いで、ネジ部材91を挿入するネジ穴7eとカバー貫通孔8dの入口部分をかしめる。これにより、ネジ部材91の弛みや脱落が抑制される。
なお、実施例4のロックアップクラッチ付きトルクコンバータDの製造方法において、その他の溶接・加工工程、スプリング・クラッチ組付け工程、ピストン組付け工程、押付位置維持工程及びストローク量調整工程は、実施例1と同様であるので、説明を省略する。
【0090】
このように、溶接・加工工程と、スプリング・クラッチ組付け工程と、ピストン組付け工程と、押付位置維持工程と、ねじ込み工程と、ストローク量調整工程と、回転止め工程と、を経過することにより、カバーアッシーが製造される。このカバーアッシーに、ポンプインペラ1やタービンランナ2やステータ3やクラッチドラム4bやダンパ10等が組み付けられ、
図10のロックアップクラッチ付きトルクコンバータDが製造される。
【0091】
次に作用を説明する。
実施例4の作用は、実施例1のロックアップクラッチ付きトルクコンバータAを、ロックアップクラッチ付きトルクコンバータDに置き換えると、実施例1と同様の作用を示す。即ち、実施例4の作用は、実施例1と同様に、「ロックアップクラッチ付きトルクコンバータの特徴作用」と「ロックアップクラッチ付きトルクコンバータの製造方法の特徴作用」を示す。
【0092】
ただし、実施例4では、トルクコンバータカバー8は、ハブロックアップ部材7の外側面71の一部を閉鎖する構造に形成される。このため、実施例4では、実施例1と異なり、トルクコンバータカバー8は、その雌ネジ8aよりも回転中心軸CL方向の入力軸11側に、シール部材22(例えば、Oリング)を有する(
図10)。これにより、ネジ嵌合部20(雄ネジ7cと雌ネジ8a)からのオイルリークがあっても、ロックアップクラッチ付きトルクコンバータDの外に漏れ出すことを防ぐことができる。
【0093】
よって、実施例4におけるロックアップクラッチ付きトルクコンバータD及びその製造方法にあっては、実施例1と同様に、実施例1の(1)〜(3)及び(5)〜(6)に記載した効果が得られる。
【0094】
以上、本開示のロックアップクラッチ付きトルクコンバータ及びその製造方法を実施例1〜実施例4に基づき説明してきた。しかし、具体的な構成については、実施例1〜実施例4に限られるものではなく、特許請求の範囲の各請求項に係る発明の要旨を逸脱しない限り、設計の変更や追加等は許容される。
【0095】
実施例1〜実施例4では、ロックアップクラッチを多板クラッチ4とする例を示した。しかし、これに限られない。例えば、ロックアップクラッチを単板クラッチとしても良い。
【0096】
実施例1〜実施例4では、シリンダ部7aとハブ部7bとを一体に有するハブロックアップ部材7とする例を示した。しかし、これに限られない。例えば、シリンダ部とハブ部を別々の部材としても良い。即ち、シリンダ部をシリンダ部材とし、ハブ部をハブ部材としても良い。ただし、この場合、シリンダ部材とハブ部材は接続される。このように構成しても、実施例1の(1)及び(3)〜(5)に記載した効果が得られる。
【0097】
実施例1〜実施例4では、ハブ部7bに雄ネジ7cが形成され、トルクコンバータカバー8に雌ネジ8aが形成される例を示した。しかし、これに限られない。例えば、ハブ部に雌ネジが形成され、トルクコンバータカバーに雄ネジが形成されても良い。
【0098】
実施例1〜実施例4では、位置決めネジ構造を、ネジピッチP(=リード、例えば一条ネジ)とする例を示した。しかし、これに限られない。例えば、二条ネジ等にしても良い。
【0099】
実施例1,3〜4では、回転止め構造をネジ部材91とする例を示した。また、実施例2では、回転止め構造を突き当たり圧接部92とする例を示した。しかし、これに限られない。例えば、回転止め構造は、ピン部材等でも良い。要するに、回転止め構造は、所定のねじ込み回転位置で、ハブ部7bとトルクコンバータカバー8のネジ嵌合を回転止めする部材や構造であれば良い。
【0100】
実施例1〜実施例4では、ハブロックアップ部材7とトルクコンバータカバー8の一方が強度金属材(鉄)で形成され、他方は軽量金属材(アルミニウム)で形成される例を示した。しかし、これに限られない。例えば、ハブロックアップ部材とトルクコンバータカバーの両方とも軽量金属材で形成されても良い。また、ハブロックアップ部材とトルクコンバータカバーの両方とも強度金属材で形成されても良い。このように、ハブロックアップ部材とトルクコンバータカバーの両方とも同じ金属材で形成されても、同じ金属材同士を溶接接合せずに、ネジ嵌合により両部材間の組み付け(固定)を容易に実現できる。これにより、金属材の熱歪み(溶接による入熱歪み)を回避することができる。なお、強度金属材は鉄に限られないし、軽量金属材はアルミニウムに限られない。即ち、強度金属材は、軽量金属材よりも強度を持つ金属材であれば良い。また、軽量金属材は、強度金属材よりも軽い金属材であれば良い。
【0101】
実施例1〜実施例4では、ねじ込み工程において、トルクコンバータカバー8の雌ネジ8aに合わせて、ハブロックアップ部材7の雄ネジ7cをねじ込んでいく例を示した。しかし、これに限られない。例えば、ハブロックアップ部材の雄ネジに合わせて、トルクコンバータカバーの雌ネジをねじ込んでも良い。また、ハブロックアップ部材とトルクコンバータカバーとを両方とも回転させて、ハブロックアップ部材とトルクコンバータカバーとをねじ込んでも良い。
【0102】
実施例1〜実施例4では、ねじ込み工程より前に、雄ネジ7cと雌ネジ8aには、予めシール剤を塗布する例を示した。しかし、これに限られない。即ち、雄ネジと雌ネジには、シール剤は塗布しなくても良い。
【0103】
実施例1〜実施例4では、ハブロックアップ部材7を鋳造により製造する例を示した。また、実施例1では、トルクコンバータカバー8を鋳造により製造する例を示した。さらに、実施例2〜4では、トルクコンバータカバー8をプレス加工により製造する例を示した。しかし、これに限られない。例えば、ハブロックアップ部材7やトルクコンバータカバー8はダイカスト等により製造しても良い。