特許第6790760号(P6790760)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6790760可変磁束モータの電流制御方法、及び電流制御装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6790760
(24)【登録日】2020年11月9日
(45)【発行日】2020年11月25日
(54)【発明の名称】可変磁束モータの電流制御方法、及び電流制御装置
(51)【国際特許分類】
   H02P 6/185 20160101AFI20201116BHJP
   H02P 27/06 20060101ALI20201116BHJP
   H02M 7/48 20070101ALI20201116BHJP
【FI】
   H02P6/185
   H02P27/06
   H02M7/48 E
【請求項の数】18
【全頁数】23
(21)【出願番号】特願2016-227899(P2016-227899)
(22)【出願日】2016年11月24日
(65)【公開番号】特開2018-85851(P2018-85851A)
(43)【公開日】2018年5月31日
【審査請求日】2019年9月11日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003997
【氏名又は名称】日産自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002468
【氏名又は名称】特許業務法人後藤特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】谷本 勉
(72)【発明者】
【氏名】加藤 崇
【審査官】 池田 貴俊
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2008/117497(WO,A1)
【文献】 特開2008−141835(JP,A)
【文献】 特開2009−089524(JP,A)
【文献】 特開2007−049843(JP,A)
【文献】 特開2009−254081(JP,A)
【文献】 特開2013−192396(JP,A)
【文献】 特開2013−085461(JP,A)
【文献】 特開平06−335279(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02P 6/185
H02M 7/48
H02P 27/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
固定子巻線を有する固定子と、
複数の永久磁石を有する回転子と、を備え、
インバータから前記固定子巻線に印加される電流が形成する磁界の作用で前記永久磁石の着磁率を変化可能な可変磁束モータの電流制御方法において、
前記固定子巻線に供給する電流を前記インバータに発生させるためのq軸電流指令値と、q軸PI制御ゲインと、に基づいて前記インバータに与えるq軸電圧指令値を算出し、
前記固定子巻線に供給する電流を前記インバータに発生させるためのd軸電流指令値と、d軸PI制御ゲインと、に基づいて前記インバータに与えるd軸電圧指令値を算出し、
前記q軸電流指令値に基づいて、q軸インダクタンスを推定し、
前記可変磁束モータの回転数を取得し、
前記d軸電流指令値及び前記q軸電流指令値と、前記d軸電圧指令値と、前記回転数と、推定した前記q軸インダクタンスと、d軸インダクタンスの前回推定値と、に基づいて前記d軸インダクタンスを推定し、
推定した前記d軸インダクタンスに応じて前記d軸PI制御ゲインを調整し、
前記q軸電圧指令値と前記d軸電圧指令値とに応じたq軸電流及びd軸電流を、前記インバータから前記固定子巻線に供給し、
着磁率指令値に基づいて前記永久磁石の着磁率を変化させるための着磁用d軸電流指令値及び着磁用q軸電流指令値を算出し、
前記着磁用d軸電流指令値及び着磁用q軸電流指令値に応じて、着磁用PI制御ゲインを算出し、
前記永久磁石の着磁率を変化させる際には、前記d軸PI制御ゲインおよび前記q軸PI制御ゲインを用いた電流制御から、前記着磁用PI制御ゲインを用いた電流制御に切り替える、
ことを特徴とする可変磁束モータの電流制御方法。
【請求項2】
請求項1に記載の可変磁束モータの電流制御方法において、
前記q軸インダクタンスは、前記d軸電流及びq軸電流と、前記q軸インダクタンスとの関係を予め記憶させたマップを用いて、前記q軸電流指令値及び前記d軸電流指令値から推定される、
ことを特徴とする可変磁束モータの電流制御方法。
【請求項3】
請求項1に記載の可変磁束モータの電流制御方法において、
前記q軸インダクタンスは、予め定めた前記q軸インダクタンスの最大値と最小値との間を補間する補間式を用いて、前記q軸電流指令値から推定される、
ことを特徴とする可変磁束モータの電流制御方法。
【請求項4】
請求項3に記載の可変磁束モータの電流制御方法において、
前記補間は線形補間である、
ことを特徴とする可変磁束モータの電流制御方法。
【請求項5】
請求項3に記載の可変磁束モータの電流制御方法において、
前記補間は非線形補間である、
ことを特徴とする可変磁束モータの電流制御方法。
【請求項6】
請求項1から5のいずれか一項に記載の可変磁束モータの電流制御方法において、
前記d軸インダクタンスの初期値として、予め定めた固定値を使用する、
ことを特徴とする可変磁束モータの電流制御方法。
【請求項7】
請求項6に記載の可変磁束モータの電流制御方法において、
推定した前記d軸インダクタンスを初期化する初期化シーケンスを実行する際は、推定した前記d軸インダクタンスの値を前記固定値に設定する、
ことを特徴とする可変磁束モータの電流制御方法。
【請求項8】
請求項6に記載の可変磁束モータの電流制御方法において、
前記固定子巻線に発生する誘起電圧を計測または算出し、
推定した前記d軸インダクタンスを初期化する初期化シーケンスを実行する際は、前記誘起電圧から求められる磁石磁束に基づいて算出されたd軸インダクタンス算出値を前記初期値として設定する、
ことを特徴とする可変磁束モータの電流制御方法。
【請求項9】
請求項8に記載の可変磁束モータの電流制御方法において、
前記可変磁束モータが、前記q軸電流に対する前記磁石磁束の変化率が略0となる動作域において動作する際に、前記初期化シーケンスを実行する、
ことを特徴とする可変磁束モータの電流制御方法。
【請求項10】
請求項9に記載の可変磁束モータの電流制御方法において、
前記初期化シーケンスでは、
前記q軸電流が略0のときに、第1のd軸電流を前記固定子巻線に流すことにより算出された第1のd軸磁束と、第2のd軸電流を前記固定子巻線に流すことにより算出された第2のd軸磁束とに基づいて算出された前記d軸インダクタンス算出値を、前記初期値として設定する、
ことを特徴とする可変磁束モータの電流制御方法。
【請求項11】
請求項9に記載の可変磁束モータの電流制御方法において、
前記初期化シーケンスでは、
前記q軸電流が略最大値のときに、第1のd軸電流を前記固定子巻線に流すことにより算出された第1のd軸磁束と、第2のd軸電流を前記固定子巻線に流すことにより算出された第2のd軸磁束とに基づいて算出された前記d軸インダクタンス算出値を、前記初期値として設定する、
ことを特徴とする可変磁束モータの電流制御方法。
【請求項12】
請求項1から11のいずれか一項に記載の可変磁束モータの電流制御方法において、
推定したd軸インダクタンスが予め定めたd軸インダクタンス上限値以上の場合は、前記d軸インダクタンスを前記d軸インダクタンス上限値に設定し、
推定したd軸インダクタンスが予め定めたd軸インダクタンス下限値以下の場合は、前記d軸インダクタンスを前記d軸インダクタンス下限値に設定する、
ことを特徴とする可変磁束モータの電流制御方法。
【請求項13】
請求項12に記載の可変磁束モータの電流制御方法において、
推定した前記d軸PI制御ゲインが、前記d軸インダクタンスが前記d軸インダクタンス下限値の場合でも電流制御が発散しない最大のゲインを予め定めたゲイン最大値以上の場合は、前記d軸PI制御ゲインを前記ゲイン最大値に設定する、
ことを特徴とする可変磁束モータの電流制御方法。
【請求項14】
請求項12に記載の可変磁束モータの電流制御方法において、
推定した前記d軸インダクタンスが前記d軸インダクタンス上限値以上、もしくは、推定した前記d軸インダクタンスが前記d軸インダクタンス下限値以下になった場合は、その後最初に前記q軸電流に対する磁石磁束の変化率が略0となった時に、推定した前記d軸インダクタンスを初期化する初期化シーケンスを実行する、
ことを特徴とする可変磁束モータの電流制御方法。
【請求項15】
請求項に記載の可変磁束モータの電流制御方法において、
前記永久磁石の着磁率を推定し、
前記着磁率指令値と推定した前記着磁率とに応じて前記着磁用PI制御ゲインを調整する、
ことを特徴とする可変磁束モータの電流制御方法。
【請求項16】
請求項15に記載の可変磁束モータの電流制御方法において、
推定した前記d軸インダクタンスと前記q軸インダクタンスとに応じて、前記着磁用PI制御ゲインをさらに調整する、
ことを特徴とする可変磁束モータの電流制御方法。
【請求項17】
請求項1から16のいずれか一項に記載の可変磁束モータの電流制御方法において、
推定した前記d軸インダクタンスと前記q軸インダクタンスとに応じて前記着磁用d軸電流指令値及び着磁用q軸電流指令値の変化率を調整する、
ことを特徴とする可変磁束モータの電流制御方法。
【請求項18】
固定子巻線を有する固定子と、
複数の永久磁石を有する回転子と、を備え、
インバータから前記固定子巻線に印加される電流が形成する磁界の作用で前記永久磁石の着磁量を変化可能な可変磁束モータの電流制御装置において、
前記固定子巻線に供給する電流を前記インバータに発生させるためのq軸電流指令値と、q軸PI制御ゲインと、に基づいて前記インバータに与えるq軸電圧指令値を算出するq軸PI制御部と、
前記固定子巻線に供給する電流を前記インバータに発生させるためのd軸電流指令値と、d軸PI制御ゲインと、に基づいて前記インバータに与えるd軸電圧指令値を算出するd軸PI制御部と、
前記q軸電流指令値に基づいて、q軸インダクタンスを推定するLq推定部と、
前記可変磁束モータの回転数を取得する回転数取得部と、
前記d軸電流指令値及び前記q軸電流指令値と、前記d軸電圧指令値と、前記回転数と、推定した前記q軸インダクタンスと、d軸インダクタンスの前回推定値と、に基づいて前記d軸インダクタンスを推定するLd推定部と、
推定した前記d軸インダクタンスに応じて前記d軸PI制御ゲインを調整するd軸PI制御ゲイン調整部と
着磁率指令値に基づいて前記永久磁石の着磁率を変化させるための着磁用d軸電流指令値及び着磁用q軸電流指令値を算出し、前記着磁用d軸電流指令値及び着磁用q軸電流指令値に応じて、着磁用PI制御ゲインを算出する着磁用PI制御部と、
を備え、
前記q軸電圧指令値と前記d軸電圧指令値とに応じたq軸電流及びd軸電流を、前記インバータから前記固定子巻線に供給し、
前記永久磁石の着磁率を変化させる際には、前記d軸PI制御ゲインおよび前記q軸PI制御ゲインを用いた電流制御から、前記着磁用PI制御ゲインを用いた電流制御に切り替える、
ことを特徴とするモータの電流制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、可変磁束モータの電流制御方法、及び電流制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、保持力の異なる2以上の永久磁石を回転子内に有する永久磁石同期モータにおいて、永久磁石同期モータの運転中に誘起電圧を測定し、測定した誘起電圧に基づいて永久磁石の磁束を推定し、推定した磁束に基づいて制御ゲインを変化させることにより、永久磁石同期モータの電流制御性を安定させる技術が開示されている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005−304204号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ここで、磁石磁束の推定値を算出する際は、その算出式のパラメータとしてインダクタンス値を使用する。特許文献1の永久磁石同期モータでは、磁石磁束だけが変化するので、固定のインダクタンス値を用いて磁石磁束を推定することができた。
【0005】
しかしながら、固定子巻線に印加される電流に応じて着磁量を変化可能な永久磁石を備え、磁石磁束だけでなくインダクタンスも大きく変化する可変磁束モータでは、電流制御性を安定させるための制御ゲインを調整する際にインダクタンスの推定値も必要となるが、その推定方法は報告されていない。
【0006】
本発明は、磁石磁束とインダクタンスとが変化する可変磁束モータのインダクタンスを推定し、推定したインダクタンスに基づいて制御ゲインを調整することができる電流制御方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明による可変磁束モータの電流制御方法は、固定子巻線を有する固定子と、複数の永久磁石を有する回転子と、を備え、インバータから前記固定子巻線に印加される電流が形成する磁界の作用で前記永久磁石の着磁率を変化可能な可変磁束モータの電流制御方法であって、固定子巻線に供給する電流をインバータに発生させるためのq電流指令値と、q軸PI制御ゲインと、に基づいてインバータに与えるq軸電圧指令値を算出し、固定子巻線に供給する電流をインバータに発生させるためのd電流指令値と、d軸PI制御ゲインと、に基づいてインバータに与えるd軸電圧指令値を算出し、q軸電流指令値に基づいて、q軸インダクタンスを推定し、さらに、可変磁束モータの回転数を取得する。そして、d軸電流指令値及びq軸電流指令値と、d軸電圧指令値と、回転数と、推定したq軸インダクタンスと、d軸インダクタンスの前回推定値と、に基づいてd軸インダクタンスを推定して、推定したd軸インダクタンスに応じてd軸PI制御ゲインを調整し、q軸電圧指令値とd軸電圧指令値とに応じたq軸電流及びd軸電流を、インバータから固定子巻線に供給する。さらに、着磁率指令値に基づいて永久磁石の着磁率を変化させるための着磁用d軸電流指令値及び着磁用q軸電流指令値を算出し、着磁用d軸電流指令値及び着磁用q軸電流指令値に応じて、着磁用PI制御ゲインを算出し、永久磁石の着磁率を変化させる際には、d軸PI制御ゲインおよびq軸PI制御ゲインを用いた電流制御から、着磁用PI制御ゲインを用いた電流制御に切り替える。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、磁石磁束とインダクタンスとが変化する可変磁束モータのインダクタンスを推定して、インダクタンスの推定値に基づいて制御ゲインを調整することができるので、制御安定性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1は、第1実施形態の可変磁束型回転電機の電流制御装置の制御ブロック図である。
図2図2は、PI制御ゲインの調整方法を説明するための図である。
図3図3は、第2実施形態の可変磁束型回転電機の電流制御装置の制御ブロック図である。
図4図4は、q軸インダクタンスLqの線形補間を説明する図である。
図5図5は、q軸インダクタンスLqの非線形補間を説明する図である。
図6図6は、q軸電流に対する磁石磁束の変化率を示す図であって、初期化シーケンスの実行タイミングを説明する図である。
図7図7は、q軸電流に対する磁石磁束の変化率を示す図であって、初期化シーケンスの実行タイミングを説明する図である。
図8図8は、d軸インダクタンスLdの上限値を説明する図である。
図9図9は、d軸インダクタンスLdの下限値を説明する図である。
図10図10は、PI制御ゲインの最大値を説明する図である。
図11図11は、初期化シーケンスのフローを示すフローチャーである。
図12図12は、第6実施形態の可変磁束モータの電流制御装置の制御ブロック図である。
図13図13は、着磁用PI制御ゲインを調整する前後での着磁用d軸電流指令値に対する実電流の追従性を示す図である。
図14図14は、着磁用d軸電流指令値の時間変化率を調整する前後での着磁用d軸電流指令値に対する実電流の追従性を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
[第1実施形態]
図1は、第1実施形態にかかる可変磁束型回転電機の電流制御装置100(以下単に電流制御装置100という)の構成を示す制御ブロック図である。本実施形態の電流制御装置100は、q軸PI制御器101と、d軸PI制御器102と、q軸インダクタンス推定器103と、d軸インダクタンス推定器104と、q軸PI制御ゲイン調整器105と、d軸ゲイン調整器106と、d軸ゲイン(N+1)推定器107と、回転数推定器108と、インバータ109と、q軸減算器111と、d軸減算器112とを備え、可変磁束モータ110を制御対象とする電流制御装置である。
【0011】
ただし、電流制御装置100が備える上記構成のうち、インバータ109を除く各構成は、一つあるいは複数のコントローラが機能部として備え、後述する各機能を実行するようにプログラムされているものとする。なお、インバータ109と可変磁束モータ110は、説明の都合上それぞれ二つに分けて図示したが、実際は一つとする。
【0012】
まず、可変磁束モータ110について説明する。本発明の制御対象である可変磁束モータ110(以下、単にモータ110ともいう)は、回転子が備える永久磁石(低保磁力磁石)の着磁量が、インバータからモータ110に印加される電流に応じて変化可能に構成されている。より具体的には、モータ110は、固定子巻線を有する固定子と、複数の永久磁石を有する回転子とから構成されており、インバータ109から固定子巻線に印加される電流が形成する磁界の作用で永久磁石の着磁量(着磁率)を変化させることで、永久磁石の磁力(磁束)そのものを変化させることが出来る。このため、モータの運転状態(動作点)に応じて永久磁石の磁力を制御することにより、幅広い動作領域におけるモータの効率を向上させることができる。永久磁石の着磁量を変化させる制御方法については、図12を参照して後述する。
【0013】
以上説明したような可変磁束モータを電流制御する場合に電流制御の制御ゲインを一定にしていると、動作点の変化に対して電流が追従しなくなるため、制御が不安定となる。
【0014】
ここで、モータの電流制御においては、背景技術にて上述したように、磁石磁束だけが変化するようなモータでのゲイン調整技術は公知である。しかしながら、磁石磁束とインダクタンスとがともに変化するモータにおけるゲイン調整技術は本発明以前には報告されていない。
【0015】
本発明は、磁石磁束とインダクタンスとが変化するモータのインダクタンスを推定し、推定したインダクタンスに基づいて制御ゲインを調整することで、磁石磁束とインダクタンスとが変化するモータの電流制御性を安定させることができる技術を提供する。以下、図1に戻って説明を続ける。
【0016】
q軸減算器111は、q軸電流指令値Iq*(N)から、可変磁束モータ110に入力される三相交流電流から取得したq軸電流検出値Iq(N−1)を減算する。q軸電流指令値Iq*は、後述するd軸電流指令値Id*とともに、モータ110に所望のトルクを出力させるためにモータ110が有する固定子巻線に供給する電流(q軸電流Iq)をインバータ109に発生させるために不図示の電流指令値設定手段により設定された値である。電流指令値設定手段は、電流制御装置100が有する各構成と同様に上記のコントローラが一機能部として備える構成であっても良いし、電流制御装置100の各構成を備えるコントローラとは別のコントローラが備える機能部であっても良い。q軸減算器111の出力値はq軸PI制御器101に出力される。
【0017】
なお、ここで説明する電流制御装置において用いられる各値の検出、算出、或いは推定は、システムの起動中一定の間隔で行われる。以下に示す値の末尾の(N)は現制御タイミングにおける値を、(N−1)は前回の制御タイミングにおける値(前回値)を示す。
【0018】
q軸PI制御器101は、入力されるq軸減算器111の出力値、及び、後述するq軸PI制御ゲイン調整器105から入力されるq軸PI制御ゲインから比例積分(PI)制御演算によりq軸電圧指令値Vq*(N)を算出し、インバータ109へ出力する。
【0019】
d軸減算器112は、電流指令値Id*(N)から、可変磁束モータ110に入力される三相交流電流から取得したd軸電流検出値Id(N−1)を減算する。d軸電流指令値Id*は、上述したq軸電流指令値Iq*とともに、モータ110に所望のトルクを出力させるためにモータ110が有する固定子巻線に供給する電流(d軸電流Id)をインバータ109に発生させるために、不図示の電流指令値設定手段により設定された値である。d軸減算器112の出力値は、d軸PI制御器102に出力される。
【0020】
d軸PI制御器102は、入力される電流指令値Id*、及び、後述するd軸ゲイン(N+1)推定器107から入力されるd軸PI制御ゲインから比例積分(PI)制御演算によりd軸電圧指令値Vd*(N)を算出し、インバータ109へ出力する。
【0021】
q軸インダクタンス推定器103は、q軸インダクタンスLqを推定する。具体的には、q軸電流およびd軸電流と、q軸インダクタンスLqとの関係を定めたマップを予め取得して、q軸電流指令値Iq*(N)と、d軸電流指令値Id*(N)とに基づいて、当該マップを参照することによりq軸インダクタンスLqを推定する。推定されたq軸インダクタンスLqは、q軸PI制御ゲイン調整器105に入力される。
【0022】
q軸PI制御ゲイン調整器105は、q軸インダクタンスLqに応じたq軸PI制御ゲインを算出して、q軸PI制御器101に出力する。q軸PI制御ゲインは、例えば図2に図示するように、q軸インダクタンスLqが大きくなるほど大きな値になるように算出される。
【0023】
d軸インダクタンス推定器104は、d軸インダクタンスLdを推定する。具体的には、電圧方程式から導かれる以下式(1)に従って、d軸PI制御器102の出力値であるd軸電圧指令値Vd*(N)と、回転数推定器108の出力値であるモータ回転数ω(N)と、d軸電流指令値Id*(N)と、q軸電流指令値Iq*(N)と、予め取得したモータ110に備わる固定子巻線の巻線抵抗Raと、q軸インダクタンス推定器103で推定されたq軸インダクタンスLqと、一つ前の制御タイミングで推定されたd軸インダクタンスLd(N−1)とから、d軸インダクタンスLdが推定される。推定されたd軸インダクタンスLdは、d軸ゲイン調整器106に出力される。
【0024】
【数1】
【0025】
d軸ゲイン調整器106は、d軸インダクタンスLdに応じたd軸PI制御ゲインを算出して、d軸ゲイン(N+1)推定器107に出力する。d軸PI制御ゲインは、例えば図2に図示するようにd軸インダクタンスLdが大きくなるほど大きな値になるように算出される。このように、第1実施形態の電流制御装置100によれば、d軸インダクタンスLdを推定し、推定したd軸インダクタンスLdに応じてd軸PI制御ゲインを調整することができる。
【0026】
d軸ゲイン(N+1)推定器107は、d軸PI制御ゲイン(N)から、d軸ゲイン調整器106において次の制御タイミングで算出されると予測されるd軸PI制御ゲイン(N+1)を推定する。算出したd軸PI制御ゲイン(N+1)は、d軸PI制御器102に出力される。これにより、d軸PI制御ゲイン(N+1)が推定されたタイミングの次の制御タイミングにおいて、d軸PI制御器102にd軸電流指令値Id*(N)が入力された時に、d軸電圧指令値Vd*(N)をより正しく推定することができる。なお、現在値、あるいは過去値から現在値までの推移に基づいて次の制御タイミングにおける値を推定する方法は、特に限定されず、公知の方法を用いればよい。
【0027】
回転数推定器108は、不図示のレゾルバやエンコーダ等の回転センサの検出値に基づいて算出された一つ前の制御タイミングにおける回転数ω(N−1)から、回転数ω(N)を推定して、d軸インダクタンス推定器104に出力する。これにより、d軸インダクタンス推定器104において、遅れ要素が排除されるので、遅れの無いより正しいd軸インダクタンスLdを推定することができる。なお、過去値から現在値を推定する方法は特に限定されず、d軸ゲイン(N+1)推定器107においてd軸PI制御ゲイン(N+1)が推定されたのと同様に、公知の方法を用いればよい。
【0028】
そして、インバータ109は、q軸PI制御器101から入力されるq軸電圧指令値Vq*に応じたq軸電流Iqと、d軸PI制御器102から入力されるd軸電圧指令値Vd*とに応じたd軸電流Idとを、モータ110に出力する。
【0029】
以上が本実施形態における電流制御の詳細である。このような制御構成により、d軸インダクタンスLdと磁石磁束Ψaとの双方が変化する可変磁束モータであっても、動作点に応じてPI制御ゲインを調整することができる。その結果、動作点の変化に伴う電流追従性が向上し、電流制御の制御安定性を向上させることができるので、幅広い運転領域においてモータ110の効率を向上させることができる。
【0030】
以上、第1実施形態の可変磁束モータの電流制御装置100は、固定子巻線を有する固定子と、複数の永久磁石を有する回転子と、を備え、インバータから固定子巻線に印加される電流が形成する磁界の作用で永久磁石の着磁率を変化可能な可変磁束モータの電流制御方法を実現する電流制御装置100である。電流制御装置100は、固定子巻線に供給する電流をインバータに発生させるためのq軸電流指令値Iq*と、q軸PI制御ゲインと、に基づいてインバータ109に与えるq軸電圧指令値Vq*を算出し、固定子巻線に供給する電流をインバータ109に発生させるためのd軸電流指令値Id*と、d軸PI制御ゲインと、に基づいてインバータ109に与えるd軸電圧指令値Vd*を算出し、q軸電流指令値Iq*に基づいて、q軸インダクタンスLqを推定し、さらに、可変磁束モータ110の回転数を取得する。そして、d軸電流指令値Id*及びq軸電流指令値Iq*と、d軸電圧指令値Vd*と、回転数と、推定したq軸インダクタンスLqと、d軸インダクタンスLdの前回推定値(N−1)と、に基づいてd軸インダクタンスLdを推定して、推定したd軸インダクタンスLdに応じてd軸PI制御ゲインを調整し、q軸電圧指令値Vq*とd軸電圧指令値Vd*とに応じたq軸電流Iq及びd軸電流Idを、インバータ109から固定子巻線に供給する。
【0031】
これにより、磁石磁束とインダクタンスとが変化する可変磁束モータ110のd軸インダクタンスLdを推定することができるので、d軸インダクタンスLdの推定値に基づいてPI制御ゲインを調整することにより、制御安定性が向上し、幅広い運転領域においてモータ110の効率を向上させることができる。
【0032】
また、第1実施形態の可変磁束型回転電機の電流制御装置100によれば、q軸インダクタンスLqは、d軸電流Id及びq軸電流Iqと、q軸インダクタンスLqとの関係を予め記憶させたマップを用いて、q軸電流指令値Iq*及びd軸電流指令値Id*から推定される。これにより、q軸インダクタンスLqを精度よく推定することができる。
【0033】
[第2実施形態]
第2実施形態の電流制御装置200は、q軸インダクタンスLqの推定方法が第1実施形態と主に異なる。
【0034】
図3は、第2実施形態の電流制御装置200の構成を示す制御ブロック図である。なお、第1実施形態と同様の構成部分は同じ符号を付して説明を省略する。
【0035】
図3に示すように、本実施形態のq軸インダクタンス推定器223には、第1実施形態とは異なりd軸電流指令値Id*(N)は入力されず、q軸電流指令値Iq*(N)からq軸インダクタンスLqを推定する。
【0036】
具体的には、q軸インダクタンス推定器223は、q軸電流指令値iq*(N)に基づいて、予め定めたq軸インダクタンスLqの最大値Lq_maxと最小値Lq_minとの間を補間する補間式を用いて、q軸インダクタンスLqを算出する。当該補間式には、最大値Lq_maxと最小値Lq_minとを係数とする線形もしくは非線形な関数で構成され、図4、5で例示される複数パターンのうちのいずれかが用いられる。
【0037】
図4は、q軸インダクタンスLqを、その最大値Lq_maxと最小値Lq_minとを線形補間することによって演算する方法を説明する図である。図4で示すとおり、線形補間では、最大値Lq_maxと最小値Lq_minとの2点を直線で結ぶq軸電流Iqの一次関数に基づいて、q軸インダクタンスLqを算出する。これにより、第1実施形態のq軸インダクタンス推定器103のようにマップを格納しておく必要がないので、電流制御装置200が備えるメモリの使用量を低減することができる。
【0038】
図5(a)、(b)は、q軸インダクタンスLqを、その最大値Lq_maxと最小値Lq_minとを非線形に補間することによって演算する方法を説明する図である。図5(a)、(b)で示すように、非線形補間では、最大値Lq_maxと最小値Lq_minとの2点を結ぶq軸電流Iqの非線形な関数に基づいて、q軸インダクタンスLqが算出される。なお、図5(a)、(b)で示す非線形の補間式は例示であって、制御対象のモータ特性に応じて事前に調整される。これにより、第1実施形態のq軸インダクタンス推定器103のようにマップを格納するのに比べて、電流制御装置200が備えるメモリの使用量を低減することができる。
【0039】
以上、第2実施形態の可変磁束モータ110の電流制御装置200によれば、q軸インダクタンスLqは、予め定めたq軸インダクタンスLqの最大値と最小値との間を補間する補間式を用いて、q軸電流指令値Iq*から推定される。当該補間は、線形、あるいは非線形な補間である。これにより、d軸電流Id及びq軸電流Iqと、q軸インダクタンスLqとの関係を記憶させたマップを用意する必要がなくなるので、電流制御装置200が利用するメモリの使用量を低減することができる。
【0040】
[第3実施形態]
第3実施形態の電流制御装置300は、d軸インダクタンスLdを推定する際の最初の制御タイミング時に、初期値としての固定値Ld(0)が設定された下記式(2)を使用する点に特徴がある。初期値として設定される固定値Ld(0)は、制御対象モータの特性に応じて事前に取得した値を使用する。
【0041】
【数2】
【0042】
なお、ここでの最初の制御タイミングとは、車両が起動した後の最初の制御タイミングであって、車両の制御システムが起動して、モータ110が備える固定子巻線に電流が最初に通電された時の制御タイミングのことをいう。
【0043】
また、その後の電流制御において推定したd軸インダクタンスLdを初期値にリセットする際にも、上記の固定値Ld(0)を用いて、Ld(N)=Ld(0)に設定する。なお、電流制御において推定したd軸インダクタンスLdを初期値にリセットすることを、以下では初期化シーケンスと呼ぶ。
【0044】
これにより、d軸インダクタンスと磁石磁束とが双方とも変化するモータにおいて、d軸インダクタンスLdを車両システムの起動時から精度よく推定することが可能となるので、モータ110のモード効率をより向上させることができる。
【0045】
また、マップ等を参照して演算するのではなく、事前に取得した固定値Ld(0)を使用するので、電流制御装置300が備えるメモリ使用量を低減することができる。
【0046】
以上、第3実施形態の可変磁束モータ110の電流制御装置300によれば、d軸インダクタンスLdの初期値として、予め定めた固定値Ld(0)を使用する。これにより、磁石磁束とインダクタンスの双方が変化するモータにおいて、車両システムの起動時からd軸インダクタンスLdを精度よく推定することができる。
【0047】
また、第3実施形態の可変磁束モータ110の電流制御装置300によれば、推定したd軸インダクタンスLdを初期化する初期化シーケンスを実行する際は、推定したd軸インダクタンスLdの値を固定値Ld(0)に設定する。これにより、磁石磁束とインダクタンスの双方が変化するモータにおいて、より精度よくd軸インダクタンスLdを推定することができる。
【0048】
[第4実施形態]
第4実施形態の電流制御装置400は、電流制御中において初期値Ld(0)を演算する点が、第3実施形態と異なる。以下、その演算方法について図等を参照して説明する。
【0049】
図6、7は、モータ110において、d軸電流Idが略0の時のq軸電流Iqとd軸磁束λdとの関係を示す図である。図中の点線が、本発明の制御対象であるモータ110においての、q軸電流Iqに対するd軸磁束λdを示す。図中の実線は、本発明の対象外の通常のモータ特性であり、q軸電流Iqに対して変化しないd軸磁束λdを示す。すなわち、モータ110は、d軸電流Idが略0の時に、q軸電流Iqによって、磁石磁束Ψaが略10%以上変化する。
【0050】
本実施形態における初期値Ld(0)の演算は、q軸電流Iqに対する磁石磁束の変化率dΨa/dIdが略0の時に実施される。より具体的には、車両の停車中等のq軸電流Iqが略0の時(図6の丸で囲む領域)、或いは、q軸電流Iqが最大値付近の時(図7の丸で囲む領域)に、少なくとも固定子巻線に発生する誘起電圧を算出できる程度の微小電流Id1(第1のd軸電流)、Id2(第2のd軸電流)を固定子巻線にパルスで2回流し、その時々の誘起電圧を取得する。そして、取得した誘起電圧に基づいて、d軸磁束λd1、λd2を求めると、以下式(3)のように表すことができる。なお、誘起電圧は、計測器により計測しても良いし、公知の方法により算出しても良い。
【0051】
【数3】
【0052】
この時、q軸電流Iqに対する磁石磁束Ψaの変化率dΨa/dIqは略0なので、磁石磁束Ψaは一定値とみなせる。したがって、式(3)より、d軸インダクタンスLdを算出することができる。そして、算出したd軸インダクタンスLdが初期値Ld(0)に設定される。また、本実施形態においては、初期化シーケンスの実行時にも、d軸インダクタンスLd(N)に、式(3)に基づき算出されたd軸インダクタンスLdが初期値Ld(0)として設定される。これにより、d軸インダクタンスと磁石磁束とが双方とも変化するモータにおいて、d軸インダクタンスLdをより精度よく推定することができ、モータ110のモード効率をより向上させることができる。
【0053】
なお、図6図7で示したq軸電流Iqとd軸磁束λdとの関係に電流の位相は考慮されていないが、モータの特性によっては電流位相も影響するので、電流位相を考慮してq軸電流Iqに対する磁石磁束の変化率dΨa/dIdを算出してもよい。
【0054】
以上、第4実施形態の可変磁束モータ110の電流制御装置400は、固定子巻線に発生する誘起電圧を計測または算出し、推定したd軸インダクタンスLdを初期化する初期化シーケンスを実行する際は、誘起電圧から求められる磁石磁束に基づいて算出された値を初期値として設定する。これにより、モータ110の運転中に初期値が算出されるので、より精度よくd軸インダクタンスLdを推定することができる。
【0055】
また、第4実施形態の可変磁束モータ110の電流制御装置400は、可変磁束モータが、q軸電流Iqに対する磁石磁束の変化率dψa/dIqが0となる動作域において動作する際に、初期化シーケンスを実行する。これにより、モータ110の運転中において適切なタイミングで初期化が実行されるので、より精度よくd軸インダクタンスLdを推定し続けることができる。
【0056】
また、第4実施形態の可変磁束モータ110の電流制御装置400によれば、初期化シーケンスでは、q軸電流が略0のときに、第1のd軸電流を固定子巻線に流すことにより算出されたd軸磁束λd1と、第2のd軸電流を固定子巻線に流すことにより算出されたd軸磁束λd2とに基づいて算出された値を、初期値として設定する。これにより、モータ110の運転中において初期値が算出されるので、より精度よくd軸インダクタンスLdを推定することができる。
【0057】
あるいは、第4実施形態の可変磁束モータ110の電流制御装置400によれば、初期化シーケンスでは、q軸電流が略最大値のときに、第1のd軸電流を固定子巻線に流すことにより算出されたd軸磁束λd1と、第2のd軸電流を固定子巻線に流すことにより算出されたd軸磁束λd2とに基づいて算出された値を、初期値として設定する。これにより、モータ110の運転中において初期値が算出されるので、より精度よくd軸インダクタンスLdを推定することができる。
【0058】
[第5実施形態]
第5実施形態の電流制御装置500は、推定したd軸インダクタンスLdと、当該d軸インダクタンスLdに基づいて算出したd軸PI制御ゲインとに上下限の制限を設ける点が上述した各実施形態とは異なる。以下、図等を参照して説明する。
【0059】
図8は、推定したd軸インダクタンスLdの上限値を説明する図である。d軸インダクタンスLdの上限値Ld_maxは、モータ特性に応じて予め設定される。そして、推定したd軸インダクタンスLdが上限値Ld_maxを超える場合は、d軸インダクタンスLdの推定値をLd_maxに設定する。言い換えると、Ld≧Ld_maxの時は、Ld=Ld_maxとする。
【0060】
図9は、推定したd軸インダクタンスLdの下限値を説明する図である。d軸インダクタンスLdの下限値Ld_minは、モータ特性に応じて予め設定される。そして、推定したd軸インダクタンスが下限値Ld_min以下になると、d軸インダクタンスLdの推定値をLd_minに設定する。言い換えると、Ld≦Ld_minの時は、Ld=Ld_minとする。
【0061】
このように、d軸インダクタンスLdの推定値に制限を設けることによって、d軸PI制御ゲインとの関係において、電流制御が発散することを防ぐことができる。
【0062】
ここで、d軸インダクタンスLdの値が小さくなると、電流の変化率が大きくなるので、制御が特に発散しやすくなる。そこで、d軸インダクタンスLdが、Ld=Ld_minとなった場合でも、制御が発散しないゲイン最大値Gain_maxを事前に設定する。
【0063】
図10は、d軸PI制御ゲインの最大値を説明する図である。d軸PI制御ゲインがゲイン最大値Gain_max以上になると、d軸PI制御ゲインをGain_maxに設定する。言い換えると、d軸PI制御ゲイン≧Gain_maxの時は、d軸PI制御ゲイン=Gain_maxとする。これにより、推定したd軸インダクタンスLdがどんなに小さな値になったとしても、制御が発散するのを回避することができる。
【0064】
また、本実施形態の電流制御装置500では、上述したように推定したd軸インダクタンスLdが上下限値になった場合には、次に初期化可能なタイミングで初期化シーケンスを実行する。例えば、第3実施形態で説明したように事前に取得した初期値Ld(0)を用いて初期化シーケンスを実行する場合には、推定したd軸インダクタンスLdが上下限値になった後、モータ110が停止したタイミングで実行する。また、第4実施形態で説明したように電流制御中に算出された初期値Ld(0)を用いて初期化シーケンスを実行する場合には、推定したd軸インダクタンスLdが上下限値になった後、q軸電流Iqに対する磁石磁束の変化率dΨa/dIqが略0になったタイミング(図6、7参照)で実行する。
【0065】
図11は、初期化シーケンスのフローを説明するフローチャートである。当該フローは、電流制御装置500の各構成が備わるコントローラが、車両システムが起動している間、所定の間隔で繰り返し実行するようにプログラムされている。
【0066】
ステップS1101では、d軸インダクタンスLdが推定される。
【0067】
ステップS1102では、ステップS1101にて推定されたd軸インダクタンスが、上下限値に達しているか否かを判定する。d軸インダクタンスが上限値Ld_max、または、下限値Ld_minであると判定されると、初期化フラグをONに設定するためにステップS1103の処理が実行される。d軸インダクタンスが上限値Ld_max、または、下限値Ld_minではないと判定された場合は、初期化フラグの状態を判定するために続くステップS1104の処理を実行する。
【0068】
ステップS1103では、d軸インダクタンスLdの推定値の初期化が必要であることを示す初期化フラグをONに設定する。そして、現フロー中において初期化シーケンスを実行可能であるかを判定するために続くステップS1105の処理を実行する。
【0069】
ステップS1104では、前回までのフローにおいて初期化フラグがONに設定されているか否かを判定する。d軸インダクタンスLdが一度でも上下限値に達した場合は、推定誤差が大きくなっている可能性があり、値が信用できないので、初期化を行う必要がある。したがって、前回フローにおいてd軸インダクタンスLdが上下限値に達していても、初期化シーケンスが実行されていなければ、初期化が実行されるまで初期化フラグがONの状態が維持される。初期化フラグがONに設定されていれば、現フローにおいて初期化シーケンスを実行可能であるかを判定するために続くステップS1105の処理を実行する。初期化フラグがONに設定されていなければ、本タイミングに係る初期化シーケンス実行フローを終了する。
【0070】
ステップS1105では、初期化シーケンスを実行可能なタイミングか否かが判定される。上述したように、事前に取得した初期値Ld(0)を用いて初期化シーケンスを実行する場合には、モータ110が停止したか否かが判定される。電流制御中に算出された初期値Ld(0)を用いて初期化シーケンスを実行する場合には、q軸電流Iqに対する磁石磁束の変化率dΨa/dIqが略0であるか否かが判定される。モータ110が停止した、あるいは、q軸電流Iqに対する磁石磁束の変化率dΨa/dIqが略0であると判定された場合には、初期化シーケンスを実行するステップS1106の処理が実行される。
【0071】
モータ110が停止した、あるいは、q軸電流Iqに対する磁石磁束の変化率dΨa/dIdが略0であると判定されなかった場合には、現フローは初期化シーケンスを実行するタイミングではないので、本タイミングに係る初期化シーケンス実行フローを終了する。
【0072】
ステップS1106では、前ステップにおいて初期化可能なタイミングであると判定されたので、初期化シーケンスが実行される。初期化シーケンスが実行された後は、続くステップS1107の処理において初期化フラグがOFFに設定され、ステップS1101の処理に戻って再びd軸インダクタンスLdが推定される。車両の制御システムが起動する間、以上のフローが繰り返されることで、d軸インダクタンスLdを監視して、d軸インダクタンスLdが上下限値に達した場合には初期化が実行されるので、推定されたd軸インダクタンスLdの精度が担保される。この結果、制御の発散を防ぐことができ、電流制御性が安定するので、モード効率を向上させることができる。
【0073】
以上、第5実施形態の可変磁束モータ110の電流制御装置500は、推定したd軸インダクタンスLdが予め定めたd軸インダクタンス上限値Ld_max以上の場合は、d軸インダクタンスLdをd軸インダクタンス上限値Ld_maxに設定し、推定したd軸インダクタンスLdが予め定めたd軸インダクタンス下限値Ld_min以下の場合は、d軸インダクタンスLdをd軸インダクタンス下限値Ld_minに設定する。これにより、d軸インダクタンスLdに上下限の制限が設けられるので、電流制御が発散するのを防止することができる。
【0074】
また、第5実施形態の可変磁束モータ110の電流制御装置500は、推定したd軸PI制御ゲインが、d軸インダクタンスLdがd軸インダクタンス下限値Ld_minの場合でも電流制御が発散しない最大のゲインを予め定めたゲイン最大値Gain_max以上の場合は、d軸PI制御ゲインをゲイン最大値Gain_maxに設定する、これにより、d軸インダクタンスLdがどのような値になっても電流制御の発散を抑えることができるので、電流制御性をより安定させることができる。
【0075】
また、第5実施形態の可変磁束モータ110の電流制御装置500は、d軸インダクタンスLdがd軸インダクタンス上限値Ld_max以上、もしくは、d軸インダクタンスLdがd軸インダクタンス下限値以下になった場合は、その後最初にq軸電流Iqに対する磁石磁束の変化率dΨa/dIqが略0となった時に、初期化シーケンスを実行する。このように、d軸インダクタンスLdが上下限制限値に達した場合に、初期化可能な次のタイミングで初期化シーケンスが実行されることにより、PI制御における積分計算で加算されている誤差がリセットされるので、d軸インダクタンスLdを精度よく推定し続けることができる。
【0076】
[第6実施形態]
第6実施形態の可変磁束モータ110の電流制御装置600は、固定子巻線に印加する電流(巻線電流)により発生させた磁界の作用でモータ110の着磁率を変化させる磁力制御シーケンスを実行する点に特徴がある。以下、磁力制御シーケンスを実行するための構成、及び、磁力制御シーケンスが実行される場合のPI制御ゲイン(着磁用PI制御ゲイン)の調整方法について図等を参照して説明する。
【0077】
図12は、第6実施形態にかかる可変磁束モータ110の電流制御装置600の構成を示す制御ブロック図である。
【0078】
着磁状態保持制御部11には、車両の運転状態に応じたトルク指令値Tr*、及び、磁束オブザーバ24にて推定されるモータ110の磁石の着磁量推定値Ψaが入力される。そして、着磁状態保持制御部11は、これらの入力値に基づいて、モータ110を回転駆動させるための基本波成分、及び、磁石の着磁率を維持するのに必要な維持成分を含むd軸電流指令値Id1*、及び、q軸電流指令値Iq1*を算出する。
【0079】
そして、着磁状態保持制御部11は、d軸電流指令値Id1*をd軸演算器12dに出力するとともに、q軸電流指令値Iq1*をq軸演算器12qに出力する。さらに、着磁状態保持制御部11は、d軸電流指令値Id1*及びq軸電流指令値Iq1*を、非干渉制御部15に出力する。
【0080】
d軸演算器12dには、d軸電流指令値Id1*、及び、3相−dq変換部21から出力されるモータ110のd軸電流値Idが入力される。そして、d軸演算器12dは、d軸電流指令値Id1*からd軸電流値Idを減ずることによりd軸電流指令値Id2*を算出する。d軸演算器12dは、d軸電流指令値Id2*をPI−dq電流制御器13に出力する。
【0081】
同様に、q軸演算器12qには、q軸電流指令値Iq1*、及び、3相−dq変換部21から出力されるモータ110のq軸電流値Iqが入力される。そして、q軸演算器12qは、q軸電流指令値Iq1*からq軸電流値Iqを減ずることによりq軸電流指令値Iq2*を算出する。q軸演算器12qは、q軸電流指令値Iq2*をPI−dq電流制御器13に出力する。
【0082】
PI−dq電流制御器13には、d軸電流指令値Id2*及びq軸電流指令値Iq2*が入力される。PI−dq電流制御器13は、d軸演算器12d、及び、q軸演算器12qにおける演算途中にて求められる指令値と測定値との偏差と、第1から第5実施形態において説明したのと同様に設定される電流制御用のPI制御ゲイン(d軸PI制御ゲイン、q軸PI制御ゲイン)とから、PI制御演算によってd軸電圧指令値vd1とq軸電圧指令値vq1とを算出する。そして、PI−dq電流制御器13は、d軸電圧指令値vd1をd軸加算器14dに出力するとともに、q軸電圧指令値vq1をq軸加算器14qに出力する。
【0083】
d軸加算器14dには、d軸電圧指令値vd1と、非干渉制御部15から出力されるd軸干渉電圧指令値vd’とに加えて、着磁用PI制御部601から出力される着磁用d軸電圧指令値Vdm*が入力される。d軸加算器14dは、d軸電圧指令値vd1とd軸干渉電圧指令値vd’と着磁用d軸電圧指令値Vdm*とを加算し、その加算結果であるd軸電圧指令値vdをdq−3相変換部16に出力する。
【0084】
q軸加算器14qには、q軸電圧指令値vq1と、非干渉制御部15から出力されるq軸干渉電圧指令値vq’とに加えて、着磁用PI制御部601から出力される着磁用q軸電圧指令値Vqm*が入力される。q軸加算器14qは、q軸電圧指令値vq1とq軸干渉電圧指令値vq’と着磁用q軸電圧指令値Vqm*とを加算し、その加算結果であるq軸電圧指令値vqをdq−3相変換部16に出力する。
【0085】
非干渉制御部15は、d軸電流指令値Id1*、q軸電流指令値Iq1*、及び、モータ110の電気角速度ωに基づいて、d軸電流とq軸電流における干渉を抑制するための、d軸干渉電圧指令値vd’及びq軸干渉電圧指令値vq’を求める。そして、非干渉制御部15は、d軸干渉電圧指令値vd’をd軸加算器14dに出力するとともに、q軸干渉電圧指令値vq’をq軸加算器14qに出力する。
【0086】
dq−3相変換部16には、d軸電圧指令値vd、及び、q軸電圧指令値vqに加えて、位相速度演算部22から出力されるモータ110の回転子位相角θが入力される。そして、dq−3相変換部16は、指令値に対して回転子位相角θに基づいて、3相電圧指令値vu、vv、vwを算出する。そして、dq−3相変換部16は、算出した3相電圧指令値vu、vv、vwを変調率演算部17に出力する。
【0087】
変調率演算部17は、3相電圧指令値vu、vv、vwと、モータ110への印可電圧を生成するインバータ19における基準電圧であるDC電圧Vdcとに基づいて、PWM信号の生成に用いる変調率mu、mv、mwを算出して、それらの変調率を三角波比較部18に出力する。
【0088】
三角波比較部18は、入力される変調率mu、mv、mwと三角波とを比較することにより、PWM信号を生成し、このPWM信号をインバータ19に出力する。
【0089】
インバータ19は、PWM信号に基づいて、上アーム及び下アームからなるスイッチ回路(図示省略)を制御することにより、直流電圧から3相交流信号を生成する。そして、インバータ19は、それらの3相交流信号をモータ110に出力する。これにより、モータ110を回転駆動させることができる。
【0090】
電流センサ20は、インバータ19とモータ110との間に設けられており、u相電流Iu、及び、w相電流Iwを測定する。そして、電流センサ20は、測定した電流値を、3相−dq変換部21に出力する。
【0091】
3相−dq変換部21には、u相電流Iu、及び、w相電流Iwが入力されるとともに、位相速度演算部22から回転子位相角θが入力される。そして、3相−dq変換部21は、これらの入力に基づいて、モータ110に流れる電流値をdq軸で示したd軸電流値Id、及び、q軸電流値Iqを算出する。そして、3相−dq変換部21は、d軸電流値Idをd軸演算器12dに出力し、q軸電流値Iqをq軸演算器12qに出力する。同時に、3相−dq変換部21は、d軸電流値Id及びq軸電流値Iqを、インダクタンス推定部602、磁束オブザーバ24、及び、着磁用PI制御部601に出力する。
【0092】
位相速度演算部22においては、モータ110に設けられているレゾルバ等の回転角度センサ23により検出された信号に基づいて、モータ110の回転子位相角θを求める。位相速度演算部22は、回転子位相角θを、dq−3相変換部16及び3相−dq変換部21に出力する。更に、位相速度演算部22は、モータ110の電気角速度ωを演算により求め、求めた電気角速度ωを磁束オブザーバ24に出力する。
【0093】
磁束オブザーバ24においては、d軸電流値Id、q軸電流値Iq、及び、モータ110の電気角速度ωが入力される。磁束オブザーバ24は、これらの入力に基づいて、着磁量推定値Ψaを算出し、算出した着磁量推定値Ψaを、着磁状態保持制御部11、及び、着磁用PI制御部601に出力する。ここで、着磁量推定値Ψaとは、磁石の磁石磁束Ψaを表す着磁量(磁束数)の推定値であって、固定子コイルにより発生する磁束と鎖交する磁束の合計数を示す値である。
【0094】
具体的には、磁束オブザーバ24は、d軸電流値Id、q軸電流値Iq、及び、電気角速度ωに基づきモータ電圧方程式を予め記憶している。そして、磁束オブザーバ24は、モータ電圧方程式を用いて着磁量推定値Ψaを算出する。
【0095】
インダクタンス推定部602には、d軸電流値Id、q軸電流値Iq、および、d軸電圧指令値vdが入力される。そして、インダクタンス推定部602は、第1から第5実施形態において説明したq軸インダクタンス推定器103、223、及びd軸インダクタンス推定器104と同様の方法により、d軸インダクタンスLd及びq軸インダクタンスLq(これらをまとめて、以下、dq軸インダクタンス推定値ともいう)を推定する。dq軸インダクタンス推定値は、着磁用PI制御部601に出力される。
【0096】
着磁用PI制御部601の前段には減算器27が設けられている。減算器27には、上位システム(不図示)から出力される磁石の着磁量指令値Ψa*から、磁束オブザーバ24から出力される着磁量推定値Ψaを減じて、着磁量偏差ΔΨaを算出する。なお、上位システムにおいては、運転状態に応じて最適な磁石の着磁量となるような着磁量指令値Ψa*が求められている。
【0097】
着磁用PI制御部601には、着磁量偏差ΔΨaと、d軸電流値Idと、q軸電流値Iqと、dq軸インダクタンス推定値とが入力される。
【0098】
着磁用PI制御部601は、着磁量偏差ΔΨaに応じて、着磁用d軸電流指令値Idm*、及び、着磁用q軸電流指令値Iqm*を算出する。具体的には、着磁量偏差ΔΨaと、着磁用d軸電流指令値Idm*及び着磁用q軸電流指令値Iqm*との関係を定めたマップ、あるいは関係式を予め記憶して、当該マップあるいは関係式を参照することにより、入力される着磁量偏差ΔΨaから、着磁用d軸電流指令値Idm*及び着磁用q軸電流指令値Iqm*を生成する。
【0099】
また、着磁用PI制御部601は、生成した着磁用d軸電流指令値Idm*とd軸電流値Idとの偏差、及び、生成した着磁用q軸電流指令値Iqm*とq軸電流値iqとの偏差に応じて、着磁用電流PI制御を行う。これにより、着磁用d軸電流指令値Idm*及び着磁用q軸電流指令値Iqm*と後述する着磁用PI制御ゲインとから着磁用d軸電圧指令値Vdm*及び着磁用q軸電圧指令値Vqm*が算出される。算出された着磁用d軸電圧指令値Vdm*はd軸加算器14dに出力され、着磁用q軸電圧指令値Vqm*はq軸加算器14qに出力される。
【0100】
この着磁用電流PI制御において用いられる着磁用PI制御ゲインは、着磁量偏差ΔΨaから算出される着磁用d軸電流指令値Idm*及び着磁用q軸電流指令値Iqm*と、着磁用PI制御ゲインとの関係を定めたマップ、あるいは関係式を予め記憶して、当該マップあるいは関係式を参照することにより求められる。なお、永久磁石に対する着磁を行う際は、PI−dq電流制御器13においてPI制御ゲイン(d軸PI制御ゲイン、q軸PI制御ゲイン)を用いて行われた電流制御から、着磁用PI制御部601において着磁用PI制御ゲインを用いて行う電流制御に切り替わる。
【0101】
このように、着磁量指令値Ψa*と着磁量推定値Ψaとの偏差に応じて着磁用PI制御ゲインを調整することにより、着磁用電流(磁力制御用電流)がモータ110に通電される前に、着磁用電流の電流振幅と位相とを決定することが出来る。その結果、電流やモータの運転条件によって変動するインダクタンスに応じたPI制御ゲインを適切に設定することが出来る。
【0102】
さらに、着磁用PI制御部601は、入力されるdq軸インダクタンス推定値に応じて着磁用PI制御ゲインを調整する。モータ110が備える永久磁石が着磁されることによりその磁束量が大きくなると、磁気飽和によりインダクタンスが下がる傾向になる。インダクタンスが低下すると電流制御が発散しやすくなる。したがって、着磁用PI制御ゲインをインダクタンスに応じて調整することにより、電流制御における着磁用d軸電流指令値Idm*、及び、着磁用q軸電流指令値Iqm*に対する実電流の追従性が向上するので、制御安定性をより向上させることができる。
【0103】
図13は、着磁用PI制御ゲインを調整する前後での着磁用d軸電流指令値Idm*に対する実電流の追従性を示す図である。図13(a)は、着磁用PI制御ゲインを調整する前の実電流の追従性を示し、図13(b)は、着磁用PI制御ゲインを調整した後の実電流の追従性を示している。図中の実線は、着磁用d軸電流指令値Idm*を表し、点線は実電流(d軸電流)を表している。図示するとおり、着磁用PI制御ゲインを調整することによって、実電流の追従性が向上していることが分かる。
【0104】
このように、dq軸インダクタンス推定値に応じて着磁用PI制御ゲインを能動的に調整することにより、モータの運転条件等が変化している過渡状態においても安定して磁力制御を行うことが出来る。
【0105】
着磁用PI制御部601は、以上の通り調整された着磁用PI制御ゲインを用いて着磁用電流PI制御を行うことにより、着磁用d軸電圧指令値Vdm*及び着磁用q軸電圧指令値Vqm*を生成する。生成された着磁用d軸電圧指令値Vdm*は、d軸加算器14dに出力され、着磁用q軸電圧指令値Vqm*はq軸加算器14qに出力される。
【0106】
また、着磁用PI制御部601は、着磁用d軸電流指令値Idm*及び着磁用q軸電流指令値Iqm*の時間変化率を調整することもできる。電流制御においては、インダクタンスの大きさによって電流指令値に対する実電流の応答性(追従性)が変化する。したがって、dq軸インダクタンス推定値に応じて着磁用d軸電流指令値Idm*及び着磁用q軸電流指令値Iqm*の時間変化率の上限値を設定する。例えば、インダクタンスが小さく、電流制御が発散しやすい場合には、電流変化率の上限値を下げることで着磁用d軸電流指令値Idm*及び着磁用q軸電流指令値Iqm*の立ち上りをより緩やかにする。これにより、着磁用d軸電流指令値Idm*及び着磁用q軸電流指令値Iqm*に対する実電流の追従性を向上させることができる。この上限値は、着磁用d軸電流指令値Idm*及び着磁用q軸電流指令値Iqm*に対して実電流が追従可能な範囲内の電流変化率に設定される。
【0107】
図14は、着磁用d軸電流指令値Idm*の時間変化率を調整する前後での着磁用d軸電流指令値Idm*に対する実電流の追従性を示す図である。図14(a)は、着磁用d軸電流指令値Idm*の時間変化率を調整する前の実電流の追従性を示し、図14(b)は、着磁用d軸電流指令値Idm*の時間変化率を調整した後の実電流の追従性を示している。図中の実線は、着磁用d軸電流指令値Idm*を表し、点線は実電流(d軸電流)を表している。
【0108】
図示するとおり、着磁用d軸電流指令値Idm*の時間変化率を調整することにより着磁用d軸電流指令値Idm*の変化率が制限されて、着磁用d軸電流指令値Idm*の立ち上りおよび立ち下りが緩やかになるので、実電流の追従性が向上していることが分かる。
【0109】
以上、第6実施形態の可変磁束モータ110の電流制御装置600は、着磁率指令値Ψa*に基づいて永久磁石の着磁率を変化させるための着磁用d軸電流指令値Idm*及び着磁用q軸電流指令値Iqm*を算出し、前記着磁用d軸電流指令値Idm*及び着磁用q軸電流指令値Iqm*に応じて、着磁用PI制御ゲインを算出する。永久磁石の着磁率を変化させる際には、d軸PI制御ゲインおよびq軸PI制御ゲインを用いた電流制御から、着磁用PI制御ゲインを用いた電流制御に切り替える。。これにより、通常の電流制御とは異なる応答性が要求される磁力制御シーケンスを実行する場合には、磁力制御シーケンスに適したPI制御ゲインが選択されるので、磁力制御シーケンスを実行する際にも安定して、電流制御を行うことが出来る。
【0110】
また、第6実施形態の可変磁束モータ110の電流制御装置600は、永久磁石の着磁率を推定し、着磁率指令値Ψa*と着磁量推定値Ψaとに応じて着磁用PI制御ゲインを調整する。これにより、磁力制御シーケンスが実行される間、電流やモータの運転条件によって変動するインダクタンスに応じたPI制御ゲインを適切に設定することが出来る。
【0111】
また、第6実施形態の可変磁束モータ110の電流制御装置600は、推定したd軸インダクタンスLdと推定したq軸インダクタンスLqとに応じて、着磁用PI制御ゲインを調整する。。これにより、インダクタンスの変化に応じて電流制御の応答性が変化している過渡状態においても、インダクタンスの変化に応じて着磁用PI制御ゲインを変化させることが出来るので、磁力制御シーケンスが実行される間、安定して磁力制御を行うことが出来る。
【0112】
また、第6実施形態の可変磁束モータ110の電流制御装置600は、推定したd軸インダクタンスLdとq軸インダクタンスLqとに応じて着磁用dq軸電流指令値の変化率を調整する。これにより、インダクタンスの変化に応じて着磁用dq軸電流指令値に対する実電流の追従性が変化する場合でも、インダクタンスの変化に応じて着磁用dq軸電流指令値の変化率を調整することが可能となる。この結果、実電流の追従性をより向上させることが出来るので、着磁用PI制御ゲインのみを調整するよりもさらに電流制御の安定性を向上させることができる。
【0113】
本発明は、上述した一実施形態に限定されることはない。例えば、dq軸インダクタンス推定値に応じた着磁用PI制御ゲインの調整と、着磁用d軸電流指令値Idm*及び着磁用q軸電流指令値Iqm*の時間変化率の調整とを全て実行する必要は必ずしもなく、省略することもできる。各実施形態で説明した構成は、矛盾が生じない範囲で適宜組み合わされてもよい。
【符号の説明】
【0114】
101…q軸PI制御部(q軸PI制御器)
102…d軸PI制御部(d軸PI制御器)
103…Lq推定部(q軸インダクタンス推定器)
104…Ld推定部(d軸インダクタンス推定器)
106…d軸PI制御ゲイン調整部(d軸ゲイン調整器)
108…回転数取得部(回転数推定器)
109…インバータ
図1
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