特許第6790775号(P6790775)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6790775高温浸炭用鋼、その製造方法および浸炭部品
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6790775
(24)【登録日】2020年11月9日
(45)【発行日】2020年11月25日
(54)【発明の名称】高温浸炭用鋼、その製造方法および浸炭部品
(51)【国際特許分類】
   C22C 38/00 20060101AFI20201116BHJP
   C22C 38/38 20060101ALI20201116BHJP
   C21D 8/06 20060101ALI20201116BHJP
   C21D 1/06 20060101ALI20201116BHJP
   C21D 1/28 20060101ALI20201116BHJP
【FI】
   C22C38/00 301N
   C22C38/38
   C21D8/06 A
   C21D1/06 A
   C21D1/28
【請求項の数】6
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2016-237515(P2016-237515)
(22)【出願日】2016年12月7日
(65)【公開番号】特開2018-90883(P2018-90883A)
(43)【公開日】2018年6月14日
【審査請求日】2019年10月28日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003713
【氏名又は名称】大同特殊鋼株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100137589
【弁理士】
【氏名又は名称】右田 俊介
(74)【代理人】
【識別番号】100160864
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 政治
(72)【発明者】
【氏名】神谷 尚秀
【審査官】 鈴木 毅
(56)【参考文献】
【文献】 特開2016−199784(JP,A)
【文献】 特開2002−146438(JP,A)
【文献】 特開2003−027135(JP,A)
【文献】 特開2017−106079(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 38/00 − 38/60
C21D 8/06
C21D 1/28
C21D 1/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
C:0.1〜0.3質量%、Si:0.05〜1.0質量%、Mn:0.3〜2.0質量%、P:0.03質量%以下、S:0.03質量%以下、Cr:0.3〜1.5質量%、Al:0.02〜0.05質量%、残部がFeおよび不可避的不純物からなり、
フェライト面積率が40%以上であり、
フェライトで区切られたパーライト単位を個別パーライトと定義したとき、下記式(I)を満たす個別パーライトの面積を合計して求めた面積率が30%以上であり、かつ、個別パーライトの円相当径が250μm未満である、高温浸炭用鋼。
式(I): S1≧(3×108)/V12
1は各個別パーライトの面積(μm2)を意味する
1は、Nb含有率が30ppm超の場合、3×(Al含有率(ppm)×N含有率(ppm)−3000)1/2+(Nb含有率(ppm)−30)とし、Nb含有率が30ppm以下の場合、3×(Al含有率(ppm)×N含有率(ppm)−3000)1/2とする。
【請求項2】
C:0.1〜0.3質量%、Si:0.05〜1.0質量%、Mn:0.3〜2.0質量%、P:0.03質量%以下、S:0.03質量%以下、Cr:0.3〜1.5質量%、Al:0.02〜0.05質量%、残部がFeおよび不可避的不純物からなり、
フェライト面積率が40〜70%、ベイナイト面積率が15%以下であり、
フェライトで区切られたパーライト+ベイナイト単位を個別パーライト+ベイナイトと定義したとき、下記式(II)を満たす個別パーライト+ベイナイトの面積を合計して求めた面積率が30%以上であり、かつ、個別パーライト+ベイナイトの円相当径が250μm未満である、高温浸炭用鋼。
式(II): S2≧(3×108)/V22
2は各個別パーライト+ベイナイトの面積(μm2)を意味する。
2は、Nb含有率が30ppm超の場合、3×(Al含有率(ppm)×N含有率(ppm)−3000)1/2+(Nb含有率(ppm)−30)とし、Nb含有率が30ppm以下の場合、3×(Al含有率(ppm)×N含有率(ppm)−3000)1/2とする。
【請求項3】
さらにNb:0.1質量%以下、Mo:0.5質量%以下のいずれか1種または2種を含むことを特徴とする、請求項1または2に記載の高温浸炭用鋼。
【請求項4】
浸炭前熱処理として850〜1000℃で焼ならしをし、その後の降温過程において、
800℃から680℃までの保持時間を90分以内とし、
800℃から730℃までの保持時間を30分以上とし、
730℃から680℃までを10℃/分以下の降温速度で徐冷し、
請求項1〜3のいずれかに記載の高温浸炭用鋼が得られる、高温浸炭用鋼の製造方法。
【請求項5】
浸炭前熱処理として850〜1000℃で焼ならしをし、その後の降温過程において、
800℃から680℃までの保持時間を90分以内とし、
800℃から730℃までを2℃/分以下の降温速度で徐冷し、
730℃から680℃までを10℃/分以下の降温速度で徐冷し、
請求項1〜3のいずれかに記載の高温浸炭用鋼が得られる、高温浸炭用鋼の製造方法。
【請求項6】
加熱途中の730〜830℃までの間において5分以上かけて徐加熱するか、または5分以上保持することを特徴とする浸炭処理を請求項1〜3のいずれかに記載の高温浸炭用鋼に施して浸炭部品を得る、浸炭部品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は高温浸炭用鋼、その製造方法および浸炭部品に関する。
【背景技術】
【0002】
高温での浸炭処理において発生する結晶粒の粗大化を防止するため、従来、いくつかの提案がなされている。
例えばAlN、NbCに代表されるピン止め粒子量を増やし、さらに微細に分散させて数を増やすことで、ピン止め力によって粗大化を防止する方法が挙げられる。具体的には、ピン止め元素を増量し、高温熱処理により固溶化させた後に、焼ならし温度程度の低温で熱処理をして微細分散させると粗大化温度が上昇する。これに関連する従来法として、例えば特許文献1,2に記載の方法が挙げられる。
また、例えば、浸炭前のミクロ組織も粗大化温度に影響することが知られており、フェライト+パーライト組織では浸炭加熱途中のオーステナイト変態した時点で結晶粒が揃っており、また微細粒を抑制できるため粗大化しにくいこと、ベイナイトが多く存在する粗大化温度が低下することが知られている。さらにフェライトのサイズを制御して粗大化を抑制できる。これに関連する従来法として、例えば特許文献3,4に記載の方法が挙げられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2015−108182号公報
【特許文献2】特開2008−189989号公報
【特許文献3】特開2006−249570号公報
【特許文献4】特開2001−303174号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来のピン止め粒子量を増やす方法では、前熱処理温度を高温化する必要がある。実操業では前熱処理の高温化によりピン止め粒子の残存や粗大化が依然として課題となっている。また、ピン止め粒子の過度な微細化は浸炭熱処理中にピン止め粒子が固溶化し、かえって粗大化を促進する。また、浸炭加熱中の結晶粒を微細化させてしまい、かえって異常粒成長の原因となる。このように、従来、高温浸炭時の結晶粒粗大化を安定的に抑制できていなかった。
また、従来の浸炭前の組織制御では、単純にフェライト+パーライト組織に着目していたが、これでは高温浸炭時の粗大化を抑制できなかった。また、フェライトサイズの制御は焼入れ性、製造性を犠牲にした低Mnまたは実操業の条件を著しく制約してでしか達成しえなかったため、汎用性が低かった。また、このような制約を設けて尚、高温浸炭時の結晶粒粗大化を安定的に抑制できていなかった。
【0005】
本発明は上記のような課題を解決することを目的とする。
すなわち、本発明の目的は、高温での浸炭処理を施しても異常粒成長が抑制される高温浸炭用鋼およびその製造方法を提供することである。また、その高温浸炭用鋼を用いた浸炭部品を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は上記課題を解決するため鋭意検討し、本発明を完成させた。
本発明は以下の(1)〜(6)である。
(1)C:0.1〜0.3質量%、Si:0.05〜1.0質量%、Mn:0.3〜2.0質量%、P:0.03質量%以下、S:0.03質量%以下、Cr:0.3〜1.5質量%、Al:0.02〜0.05質量%、残部がFeおよび不可避的不純物からなり、
フェライト面積率が40%以上であり、
フェライトで区切られたパーライト単位を個別パーライトと定義したとき、下記式(I)を満たす個別パーライトの面積を合計して求めた面積率が30%以上であり、かつ、個別パーライトの円相当径が250μm未満である、高温浸炭用鋼。
式(I): S1≧(3×108)/V12
1は各個別パーライトの面積(μm2)を意味する。
1は3×(Al含有率(ppm)×N含有率(ppm)−3000)1/2とする。
1は、Nb含有率が30ppm超の場合、3×(Al含有率(ppm)×N含有率(ppm)−3000)1/2+(Nb含有率(ppm)−30)とし、Nb含有率が30ppm以下の場合、3×(Al含有率(ppm)×N含有率(ppm)−3000)1/2とする。
(2)C:0.1〜0.3質量%、Si:0.05〜1.0質量%、Mn:0.3〜2.0質量%、P:0.03質量%以下、S:0.03質量%以下、Cr:0.3〜1.5質量%、Al:0.02〜0.05質量%、残部がFeおよび不可避的不純物からなり、
フェライト面積率が40〜70%、ベイナイト面積率が15%以下であり、
フェライトで区切られたパーライト+ベイナイト単位を個別パーライト+ベイナイトと定義したとき、下記式(II)を満たす個別パーライト+ベイナイトの面積を合計して求めた面積率が30%以上であり、かつ、個別パーライト+ベイナイトの円相当径が250μm未満である、高温浸炭用鋼。
式(II): S2≧(3×108)/V22
2は各個別パーライト+ベイナイトの面積(μm2)を意味する。
2は、Nb含有率が30ppm超の場合、3×(Al含有率(ppm)×N含有率(ppm)−3000)1/2+(Nb含有率(ppm)−30)とし、Nb含有率が30ppm以下の場合、3×(Al含有率(ppm)×N含有率(ppm)−3000)1/2とする。
(3)さらにNb:0.1質量%以下、Mo:0.5質量%以下のいずれか1種または2種を含むことを特徴とする、上記(1)または(2)に記載の高温浸炭用鋼。
(4)浸炭前熱処理として850〜1000℃で焼ならしをし、その後の降温過程において、
800℃から680℃までの保持時間を90分以内とし、
800℃から730℃までの保持時間を30分以上とし、
730℃から680℃までを10℃/分以下の降温速度で徐冷し、
上記(1)〜(3)のいずれかに記載の高温浸炭用鋼が得られる、高温浸炭用鋼の製造方法。
(5)浸炭前熱処理として850〜1000℃で焼ならしをし、その後の降温過程において、
800℃から680℃までの保持時間を90分以内とし、
800℃から730℃までを2℃/分以下の降温速度で徐冷し、
730℃から680℃までを10℃/分以下の降温速度で徐冷し、
上記(1)〜(3)のいずれかに記載の高温浸炭用鋼が得られる、高温浸炭用鋼の製造方法。
(6)加熱途中の730〜830℃までの間において5分以上かけて徐加熱するか、または5分以上保持することを特徴とする浸炭処理を上記(1)〜(3)のいずれかに記載の高温浸炭用鋼に施して浸炭部品を得る、浸炭部品の製造方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、高温での浸炭処理を施しても異常粒成長が抑制される高温浸炭用鋼およびその製造方法を提供することができる。また、その高温浸炭用鋼を用いた浸炭部品を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
<本発明の高温浸炭用鋼>
本発明の高温浸炭用鋼について説明する。本発明の高温浸炭用鋼は、次のような2つの態様を含む。
【0009】
本発明の高温浸炭用鋼の第1の態様は、C:0.1〜0.3質量%、Si:0.05〜1.0質量%、Mn:0.3〜2.0質量%、P:0.03質量%以下、S:0.03質量%以下、Cr:0.3〜1.5質量%、Al:0.02〜0.05質量%、残部がFeおよび不可避的不純物からなり、フェライト面積率が40%以上であり、フェライトで区切られたパーライト単位を個別パーライトと定義したとき、下記式(I)を満たす個別パーライトの合計の面積率が30%以上であり、かつ、個別パーライトの円相当径が250μm未満である、高温浸炭用鋼である。
式(I): S1≧(3×108)/V12
ここで、S1は各個別パーライトの面積(μm2)を意味する。
また、V1は、Nb含有率が30ppm超の場合、3×(Al含有率(ppm)×N含有率(ppm)−3000)1/2+(Nb含有率(ppm)−30)とし、Nb含有率が30ppm以下の場合、3×(Al含有率(ppm)×N含有率(ppm)−3000)1/2とする。
このような高温浸炭用鋼を、以下では「本発明の高温浸炭用鋼1」または「態様1」ともいう。
【0010】
本発明の高温浸炭用鋼の第2の態様は、C:0.1〜0.3質量%、Si:0.05〜1.0質量%、Mn:0.3〜2.0質量%、P:0.03質量%以下、S:0.03質量%以下、Cr:0.3〜1.5質量%、Al:0.02〜0.05質量%、残部がFeおよび不可避的不純物からなり、フェライト面積率が40〜70%、ベイナイト面積率が15%以下であり、フェライトで区切られたパーライト+ベイナイト単位を個別パーライト+ベイナイトと定義したとき、下記式(II)を満たす個別パーライト+ベイナイトの合計の面積率が30%以上であり、かつ、個別パーライト+ベイナイトの円相当径が250μm未満である、高温浸炭用鋼である。
式(II): S2≧(3×108)/V22
ここで、S2は各個別パーライト+ベイナイトの面積(μm2)を意味する。
また、V2は、Nb含有率が30ppm超の場合、3×(Al含有率(ppm)×N含有率(ppm)−3000)1/2+(Nb含有率(ppm)−30)とし、Nb含有率が30ppm以下の場合、3×(Al含有率(ppm)×N含有率(ppm)−3000)1/2とする。
このような高温浸炭用鋼を、以下では「本発明の高温浸炭用鋼2」または「態様2」ともいう。
【0011】
以下において単に「本発明の高温浸炭用鋼」と記した場合、本発明の高温浸炭用鋼1および本発明の高温浸炭用鋼2のいずれをも意味しているものとする。
【0012】
このような本発明の高温浸炭用鋼は、サイズが限定されたパーライトまたはパーライト+ベイナイトがフェライトで囲まれているため(すなわち、上限サイズが限定された、個別パーライトまたは個別パーライト+ベイナイトが一定比率以上で存在しているため)、浸炭加熱過程においてパーライトがオーステナイトに変態した後、フェライトは残存し一定以上の粒度にはならず、フェライト近傍のオーステナイトが揃って成長し、浸炭加熱温度(例えば830℃)に到達時点の前には、微細オーステナイト結晶粒が消失し、結晶粒が揃うので、異常粒成長は抑制される。
【0013】
<成分>
本発明の高温浸炭用鋼の成分について説明する。
【0014】
Cは鉄鋼の強化に欠かせない元素であり、芯部強度確保、しかし過度の添加は加工性を低下させる。したがって、本発明の高温浸炭用鋼におけるC含有率は0.1〜0.3質量%であり、0.15〜0.25質量%であることが好ましい。
【0015】
Siは焼入れ性高め、脱酸元素として有効であるが、過度の添加は加工性の悪化を招く。したがって、本発明の高温浸炭用鋼におけるSi含有率は0.05〜1.0質量%であり、0.1〜0.5質量%であることが好ましい。
【0016】
Mnは焼入れ性を向上させ強度を増すが、過度の添加は加工性の悪化を招く。したがって、本発明の高温浸炭用鋼におけるMn含有率は0.3〜2.0質量%であり、0.5〜1.5質量%であることが好ましい。
【0017】
Pは粒界脆化の促進するため抑制することが望ましいが、過度の抑制は工程の延長によりコストの増大の要因となる。したがって、本発明の高温浸炭用鋼におけるP含有率は0.03質量%以下である。
【0018】
SはMnと結合しMnSを形成し得るが、MnSの量が増大すると疲労強度低下するため抑制することが望ましい。一方、過度の抑制は工程の廷長によりコストの増大の要因となる。したがって、本発明の高温浸炭用鋼におけるS含有率は0.03質量%以下である。
【0019】
Crは焼入れ性を向上させる重要元素であり、その効果は0.3質量%以上で顕著である。しかし過度の添加により被削性を悪化させるため、1.5質量%以下とする。したがって、本発明の高温浸炭用鋼におけるCr含有率は0.3〜1.5質量%である。
【0020】
Alは脱酸作用があり、また焼ならし工程でNと結合し、微細なAlNを多量に形成し、結晶粒をピンニングさせることで結晶粒の粗大化を抑制する重要元素である。しかし、過剰の添加は途中工程でAlNを残存させ、周りのAlおよびNを引き寄せることで巨大化し、焼ならし工程でのAlN形成をかえって妨げるため結晶粒粗大化抑制効果が低下する。また曲げ疲労強度が低下する。したがって、本発明の高温浸炭用鋼におけるAl含有率は0.02〜0.05質量%である。
【0021】
NはAlと結合し、AlNを形成する重要元素である。AlN量はAlとNの添加量の積に関係する。
【0022】
Nbは焼ならし工程で微細なNbCを形成し、AlNの結晶粒粗大化抑制を補助するが、過度の添加は鋼材のコストを上げ、また被削性を低下させる。そのため微量で効果が発揮される0.1質量%以下ならば添加してもよい。
【0023】
Moは焼入れ性および耐摩耗性を向上させるが高価である。また、多量添加によってベイナイト組織が現れる。したがって、本発明の高温浸炭用鋼におけるMo含有率は0.5質量%以下であること好ましく、0.3質量%以下であることがより好ましい。
【0024】
本発明の高温浸炭用鋼は、上記のように、C、Si、Mn、P、S、CrおよびAlを特定範囲の含有率で含有する。また、Nbおよび/またはMoを、上記のような特定範囲の含有率でさらに含有してもよい。そして、残部はFeおよび不可避的不純物である。
【0025】
<組織>
本発明の高温浸炭用鋼1(態様1)について光学顕微鏡を用いて100倍で観察すると、フェライト面積率が40%以上である。
また、光学顕微鏡を用いて100倍で観察するとフェライトで区切られたパーライト単位が観察され、これを「個別パーライト」と定義する。別の言い方をすれば、フェライトで囲まれたパーライトの部分を、1つの「個別パーライト」とする。そして、この個別パーライトの面積をS1(μm2)とすると、前述の式(I)を満たす個別パーライトが多く存在する。そして、それらの式(I)を満たす個別パーライトの面積を合計し、面積率(視野内に占める面積率)を計測すると、30%以上となる。さらに、個別パーライトの円相当径は250μm未満である。
【0026】
本発明の高温浸炭用鋼2(態様2)について光学顕微鏡を用いて100倍で観察すると、フェライト面積率が40〜70%以上、ベイナイト面積率が15%以下である。
また、光学顕微鏡を用いて100倍で観察するとフェライトで区切られたパーライト+ベイナイト単位が観察され、これを「個別パーライト+ベイナイト」と定義する。別の言い方をすれば、フェライトで囲まれたパーライト+ベイナイトの部分(パーライトとベイナイトとの集合体の部分)を、1つの「個別パーライト+ベイナイト」とする。そして、この個別パーライト+ベイナイトの面積をS2(μm2)とすると、前述の式(II)を満たす個別パーライト+ベイナイトが多く存在する。そして、それらの式(II)を満たす個別パーライト+ベイナイトの面積を合計し、面積率(視野内に占める面積率)を計測すると、30%以上となる。さらに、個別パーライト+ベイナイトの円相当径は250μm未満である。
【0027】
浸炭前の組織構成でフェライトで分断された個別のパーライト(またはパーライト+ベイナイト)のサイズが次工程の浸炭加熱途中にオーステナイト変態した時のオーステナイト結晶粒径を決める。微細オーステナイト結晶粒はその周りのオーステナイト結晶粒に食われ周りの結晶粒粗大の要因となる。そのため粗大パーライトは粗大オーステナイトの原因となり異常粒成長を引き起こす。粗大パーライトはその面積を円相当径で示したときに250μm未満であり、200μm未満であることが好ましい。
【0028】
―方、微細パーライトからは微細オーステナイト結晶粒が形成するため、隣の粗大オーステナイトの異常粒成長を助長する。よって、微細パーライトは、一定量以下に制限する必要がある。この時のパーライトの許容サイズは焼ならし時のピン止め粒子AlNおよびNbCの量が関係し、ピン止め粒子量を前述のV1またはV2のパラメータで示したときに、光学顕微鏡による観察の結果、個別パーライトの面積(S1)または個別パーライト+ベイナイトの面積(S2)が、(3×108)/V12以上または(3×108)/V22以上のサイズであり、それらのパーライトサイズ(S1)または許容パーライト+ベイナイトサイズ(S2)が面積率で30%以上であると異常粒成長の抑制をする。
フェライトはパーライトを分断し、パーライトサイズを小さくすることで、浸炭加熱途中でのオーステナイト結晶粒径が粗大になるのを防ぐため、面積率にして40%以上であることが望ましい。
ベイナイトは微細オーステナイト結晶粒の原因となるため抑制することが望ましいが、過度の抑制は鋼種・工程の制限を招く。少量ならベイナイト由来の微細オーステナイトはすぐさま周りのパーライト由来の粗大オーステナイト結晶粒により消滅するため、面積率にして15%程度のベイナイトは許容される。好ましくは0%である。
【0029】
<本発明の高温浸炭用鋼の製造方法>
以上のような本発明の高温浸炭用鋼を得るためには、浸炭前熱処理として850〜1000℃で焼ならしをし、その後の降温過程において、800℃から680℃までの保持時間を90分以内(好ましくは60分以内)とし、800℃から730℃までの保持時間を30分以上とし、730℃から680℃までを10℃/分以下の降温速度で徐冷する。
または、浸炭前熱処理として850〜1000℃で焼ならしをし、その後の降温過程において、800℃から680℃までの保持時間を90分以内(好ましくは60分以内)とし、800℃から730℃までを2℃/分以下の降温速度で徐冷し、730℃から680℃までを10℃/分以下の降温速度で徐冷する。
これにより焼ならし温度でオーステナイト結晶粒が揃った状態から冷却時にはその揃ったオーステナイト結晶粒の粒界にフェライトが生成・成長し、一方、粒内フェライトの生成を防ぐことができるため、その後生成するパーライトはフェライトに分断されることなく、個別パーライトサイズが揃った組織となる。
【0030】
上記のような本発明の高温浸炭用鋼を浸炭して浸炭部品を製造することができる。
ここで本発明の高温浸炭用鋼を浸炭するときの加熱途中の730〜830℃までの間において5分以上かけて徐加熱するか、または5分以上保持すると、結晶粒粗大化防止効果がさらに向上する。
【実施例】
【0031】
真空高周波誘導溶解炉を用いて、第1表に示す組成を備える11種類の円柱状のインゴット(断面直径:100mm、50kg)を作製した。そして、インゴットを1250℃で2時間加熱した後に、断面直径が30mmとなるまで鍛造し、得られた棒材を950℃で焼きならした。
その後、小型炉に移して各種熱処理および制御冷却を実施した。熱処理および冷却条件を第2表および第3表に示す。
【0032】
次に、各種熱処理および制御冷却を実施した棒材から、断面直径8mm、長さ12mmの円柱状試料を切り出し、浸炭を模擬した処理を施した。具体的には、円柱状試料の側面であって、長さ方向の中心部に、加工フォーマスタに繋がる熱電対を接合し、1050℃まで90℃/minで加熱し、その温度にて1時間保持した後、Heガスで冷却して、結晶粒粗大化判定用の試料とした。ここで、加熱温度を1050℃の他、1100℃とし、その他を同様とした処理も行って、別の結晶粒粗大化判定用の試料も得た。さらに、加熱温度を1050℃または1100℃とし、90℃/minでの加熱の途中である800℃において10分間保持し、その後、再度、90℃/minで加熱する徐加熱状態を模擬する処理も行って、さらに別の結晶粒粗大化判定用の試料も得た。すなわち、4種類の結晶粒粗大化判定用の試料も得た。
次に、各試料を長さ方向に切断し、切断面を研磨できるように樹脂に埋め込み、研磨した後、研磨面をピクリン酸(ピクリン酸10gを水500mlに加えた水溶液)を用いて腐食して、研磨面に結晶粒を現出させた。そして、試料の長さ方向の中心から3mm以内かつ半径方向の中心から1.5〜2.5mmの位置(1/2R)において、JISG0551に従った光学顕微鏡(100倍)を用いた粒度測定を行った。そして、5視野の全てにおいて、粒度が5番以下のオーステナイトが存在しない場合に、粗大化を抑制できたと判断した。第2表では、粗大化を抑制できたものを「○」、できなかったものを「×」と記した。
【0033】
次に、各種熱処理および制御冷却を実施した棒材から、組織観察用の試料を採取した。そして、棒材の長さ方向に切断し、切断面を研磨できるように樹脂に埋め込み、研磨した後、研磨面をピクラール(ピクリン酸25gをアルコール150mlに加えた溶液)を用いて腐食して、研磨面においてフェライトとパーライト+ベイナイトとを識別できるようにした。そして、試料の半径方向の中心から5〜10mmの位置を光学顕微鏡(100倍)を用いて5視野観察し、市販の画像処理ソフトを用いて、フェライト、パーライト、ベイナイトの各々の面積と、フェライトで区切られたパーライト+ベイナイトの面積を測定した。
【0034】
【表1】

【0035】
【表2】
【0036】
【表3】
【0037】
<焼ならし後の保持温度とその後の冷却の影響>
実施例1〜6は、焼ならし後に3分間、大気中にて冷却して800℃程度に冷却した後、750℃、780℃または730℃に調整した炉内に30分保持し、その後、5℃/minにて冷却した材料である。これらの場合、1050℃および1100℃のいずれで処理した場合であっても、結晶粒の粗大化は確認されなかった。また、個別パーライトの中で式(I)を満たすものの面積率は30%以上であった。
【0038】
<比較例:焼ならし後の冷却工程省略>
一方、比較例1、4は750℃で30分保持後、大気中にて冷却した材料、比較例2、5は焼ならし後、大気中にて冷却した材料であり、いずれも浸炭模擬後の結晶粒に粗大化が確認された。また、パーライト+ベイナイトのサイズが微細となるため、個別パーライトの中で式(I)を満たすものの面積率は30%未満であった。このことから、750℃保持と徐冷を省くと、組織が微細となるため、次工程の浸炭時に結晶粒が粗大になることが分かる。
【0039】
<比較例:焼ならし後の保持温度の影響>
一方、比較例9〜14は、焼ならし以後の保持温度が730℃未満であった材料である。いずれも浸炭模擬後に結晶粒粗大化が確認された。また、パーライトサイズが微細であり、個別パーライトの中で式(I)を満たすものの面積率は30%未満であった。
【0040】
<焼ならし後の冷却制御の影響>
実施例7〜10は焼ならし後の800℃から730℃までは1℃/minまたは2℃/minで徐冷し、730℃以下は冷却速度を5℃/minに速くした材料である。浸炭模擬後の結晶粒の粗大化は一部与条件を除いて確認されなかった。また、個別パーライトの中で式(I)を満たすものの面積率は30%以上であった。
【0041】
一方、比較例15、16は、焼ならし後の800℃から730℃までは5℃/minで徐冷し、730℃以下についても冷却速度を5℃/minに速くした材料である。この場合、浸炭模擬後の結晶粒の粗大化が確認された。また、個別パーライトの中で式(I)を満たすものの面積率は30%未満であった。これより、800℃から730℃まで徐冷することで、次工程の浸炭時における結晶粒粗大化を抑制できることが分かる。
【0042】
<比較例:焼ならし後に遅い冷却>
比較例3、6は、焼ならし後に炉の電源を落として炉内で冷却した材料である。800℃から680℃に下がるまでには120分かかっていた。これらの材料はいずれも浸炭模擬後に結晶粒の粗大化が確認された。また、焼ならし後の組織はフェライトとパーライトがそれぞれバンド状に存在し、円相当径で250μm超の粗大なパーライトとなっていた。このことから800℃から680℃までをただ徐冷すればよいのでなく、90分以内に冷却することで粗大パーライトを抑制できると考えられる。特に60分以内で冷却することで円相当径が200μm未満となっており、1100℃でも浸炭模擬時に結晶粒の粗大化が抑制できている。
【0043】
<組成の影響>
実施例11、12と比較例17、18はAl量を変えたときの例で、Al量を減らしても0.02%以上あって、かつ、式(I)を満たす個別パーライトの面積率が30%以上であると、浸炭模擬後の粗大化は確認されないことが分かる。
一方、比較例19はAlを過剰に添加した例で、ピン止め力が弱まるため、式(I)を満たす個別パーライトの面積率が30%以上であるものの、浸炭模擬後の結晶粒の粗大化が確認された。
実施例13、14および比較例20、21はベイナイト(B)が存在した例であり、ベイナイト(B)の面積率が15%以下では浸炭模擬後の結晶粒粗大化は確認されないが、15%を超えると粗大化が確認された。