特許第6790800号(P6790800)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6790800隔膜、及びそれを用いたマルチパルスロケットモータ
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6790800
(24)【登録日】2020年11月9日
(45)【発行日】2020年11月25日
(54)【発明の名称】隔膜、及びそれを用いたマルチパルスロケットモータ
(51)【国際特許分類】
   F02K 9/36 20060101AFI20201116BHJP
   F02K 9/28 20060101ALI20201116BHJP
【FI】
   F02K9/36
   F02K9/28
【請求項の数】6
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2016-246585(P2016-246585)
(22)【出願日】2016年12月20日
(65)【公開番号】特開2018-100613(P2018-100613A)
(43)【公開日】2018年6月28日
【審査請求日】2019年10月21日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004341
【氏名又は名称】日油株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000394
【氏名又は名称】特許業務法人岡田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】詫間 浩和
(72)【発明者】
【氏名】佐野 智人
【審査官】 小岩 智明
(56)【参考文献】
【文献】 特開2015−218598(JP,A)
【文献】 特開2013−256891(JP,A)
【文献】 特開2013−029100(JP,A)
【文献】 特開2013−024034(JP,A)
【文献】 特開2012−255362(JP,A)
【文献】 特開2008−280967(JP,A)
【文献】 特開2006−266198(JP,A)
【文献】 特開平06−257514(JP,A)
【文献】 特開平05−125994(JP,A)
【文献】 特開平04−187859(JP,A)
【文献】 特開昭59−054553(JP,A)
【文献】 欧州特許出願公開第2503135(EP,A2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02K 9/00− 9/97
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
マルチパルスロケットモータの第1推進薬と第2推進薬との間に配置される隔膜であって、熱分解により炭化物層を形成する第1耐熱層と第2耐熱層とを有し、
前記第1耐熱層は、前記炭化物層の保持力が前記第2耐熱層より高く、
前記第1推進薬の燃焼中であって前記第2推進薬の燃焼前に、前記隔膜の熱分解が前記第1耐熱層側から前記第2耐熱層に達するように前記第1耐熱層と前記第2耐熱層とが積層されている隔膜。
【請求項2】
前記第1耐熱層は、前記第2耐熱層より耐熱性繊維の含有率が高い、請求項1に記載の隔膜。
【請求項3】
前記第1耐熱層は、前記第2耐熱層より含有する耐熱性繊維の平均繊維長が長い、請求項1に記載の隔膜。
【請求項4】
前記第1耐熱層及び前記第2耐熱層は、耐熱性繊維と難燃剤とを含有するゴムからなる、請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の隔膜。
【請求項5】
前記第1耐熱層と前記第2耐熱層が交互に積層された、請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の隔膜。
【請求項6】
請求項1から請求項5のいずれか一項に記載の隔膜を有するマルチパルスロケットモータ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マルチパルスロケットモータ用隔膜、及びそれを用いたマルチパルスロケットモータに関する。
【背景技術】
【0002】
複数の固体推進薬を装填したマルチパルスロケットモータは、各推進薬を順番に点火・燃焼させることで、推力を任意のタイミングで複数回発生させることができるため、ロケットモータを搭載した飛翔体の飛翔性能を高めることができる。
【0003】
推進薬は燃焼時に数十気圧〜100気圧を超える圧力と、3000度を超える温度を生じる。そのため、ロケットモータのモータケースや未燃焼の推進薬は、推進薬の燃焼火炎から保護するために、柔軟性と高い耐熱性を有する断熱材や隔膜によって覆われている(特許文献1及び2参照)。特に推進薬を保護する隔膜には、耐熱性が高いゴムの中に、さらに耐熱性を高めるために耐熱性繊維と難燃剤を配合したものが使用される。
【0004】
マルチパルスロケットモータでは、第1推進薬が点火され、第2推進薬を覆う隔膜が第1推進薬の燃焼火炎に晒されると、ゴムと共に耐熱性繊維や難燃剤が熱分解を始める。この熱分解の際に、ゴムや耐熱性繊維から発生した炭化物や難燃剤の熱分解物が隔膜表面に厚い炭化物層を形成する。一旦、隔膜表面に炭化物層が形成されると、この炭化物層が火炎をさえぎるため、ゴムへの熱伝達量が減って熱分解速度が低減される。そのため、炭化物層を保持する役割を果たす耐熱性繊維や、炭化物層を形成する難燃剤の含有量を増やすことにより、隔膜の耐熱性が向上され、結果的に隔膜を薄く軽量化することができる。
【0005】
第1推進薬が燃焼を終えると、隔膜で仕切っていた第2推進薬が点火、燃焼される。第2推進薬が点火されると、第2推進薬から生じる燃焼ガスの圧力で第2推進薬を覆っていた隔膜は変形・破断され、燃焼ガスは隔膜の破断部分を通ってノズルから噴射される。しかし、隔膜が複数の個所で破断した場合には、破断した隔膜がモータケースから脱離してその表面の炭化物層と共にノズルへと流れ、ノズルに詰まって燃焼ガスの噴射に影響を及ぼす可能性がある。
【0006】
特許文献3には、このような問題を解決するために、2枚のゴム板を平面方向に突き合わせて形成されたゴム層を複数積層することで脆弱部が形成された隔膜が開示されている。当該隔膜は、第1推進薬の燃焼中は第2推進薬を火炎から保護し、第2推進薬が点火された後は、第2推進薬から生じる燃焼ガスの圧力を受けて当該脆弱部にて破断するよう構成されている。これにより、隔膜を任意の場所で破断させることができるため、隔膜がモータケースから脱離することを防止することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平6−257514号公報
【特許文献2】特開2015−218624号公報
【特許文献3】特開2013−29100号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、特許文献3の隔膜においても、隔膜表面には生成された大量の炭化物が保持されるため、脆弱部以外の部分でも隔膜が破断した場合には大量の炭化物が一度にノズルへと流れ、ノズルを詰まらせる可能性がある。
【0009】
本発明は上記課題を解決するためになされたものであり、その目的は、推進薬の燃焼火炎に晒された場合に、隔膜表面に保持される炭化物の量が過剰にならないように低減することができる隔膜を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、マルチパルスロケットモータの第1推進薬と第2推進薬との間に配置される隔膜であって、熱分解により炭化物層を形成する第1耐熱層と第2耐熱層とを有し、前記第1耐熱層は、前記炭化物層の保持力が前記第2耐熱層より高く、前記第1推進薬の燃焼中であって前記第2推進薬の燃焼前に、前記隔膜の熱分解が前記第1耐熱層側から前記第2耐熱層に達するように前記第1耐熱層と前記第2耐熱層とが積層されている隔膜である。
【0011】
前記第1耐熱層は、前記第2耐熱層より耐熱性繊維の含有率が高いことが好ましい。
【0012】
前記第1耐熱層は、前記第2耐熱層より含有する耐熱性繊維の平均繊維長が長いことが好ましい。
【0013】
前記第1耐熱層及び前記第2耐熱層は、前記耐熱性繊維と難燃剤とを含有するゴムからなることが好ましい。
【0014】
前記第1耐熱層と前記第2耐熱層は交互に積層されていることが好ましい。
【0015】
本発明のマルチパルスロケットモータは、前記隔膜を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明の隔膜は、第1推進薬の燃焼中に、隔膜の熱分解が第1耐熱層側から第2耐熱層に達すると、第2耐熱層は炭化物層の保持力が低いため、第1耐熱層の熱分解により生じた炭化物が隔膜表面から剥離・脱落する。これにより、隔膜表面に保持される炭化物を低減し、隔膜が破断・脱離した際に大量の炭化物が一度にノズルへと流入することを防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の実施形態に係るマルチパルスロケットモータの模式断面図である。
図2】前記マルチパルスロケットモータの第1推進薬の燃焼状態を表す図である。
図3】前記マルチパルスロケットモータの第2推進薬の燃焼状態を表す図である。
図4】従来の隔膜の燃焼前の状態を表す模式断面図である。
図5】従来の隔膜の第1推進薬の燃焼中盤の状態を表す図である。
図6】従来の隔膜の第1推進薬の燃焼終盤の状態を表す図である。
図7】前記実施形態に係る隔膜の燃焼前の状態を表す模式断面図である。
図8】前記実施形態に係る隔膜の第1推進薬の燃焼中盤の状態を表す図である。
図9】前記実施形態に係る隔膜の第1推進薬の燃焼終盤の状態を表す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明を実施するための実施形態について図面を用いて説明する。最初にマルチパルスロケットモータの構成について説明した後に、そこで用いられる隔膜について説明する。
【0019】
図1に示されるように、ロケットモータ10のモータケース20内には、固体燃料である第1推進薬22と第2推進薬24とが装填されており、第1推進薬22と第2推進薬24との間は隔膜26によって隔てられている。また、モータケース20の前部(図1における左側)には、第1推進薬22及び第2推進薬24にそれぞれ点火するための第1点火装置28及び第2点火装置30が設けられ、モータケース20の後部(図1における右側)には、燃焼ガスを噴出するノズル32が設けられている。なお、本実施形態のロケットモータ10は、推進薬及び点火装置をそれぞれ2個有しているが、ロケットモータの構成に応じてそれぞれ3個以上としてもよい。また、その場合には、各推進薬の間にそれぞれ隔膜が設置される。
【0020】
モータケース20は、略円筒状に成形されており、強度の高い高張力鋼や、軽量なアルミニウム合金、FRPケースなどが使用され、その内面には、火炎から保護するために耐熱ゴムやFRP製の断熱材が接着される。また、ノズル32は高温・高圧の燃焼ガスに耐えるように、耐熱強度の高いグラファイトが使用される。
【0021】
第1推進薬22及び第2推進薬24は、一般的なコンポジット推進薬やダブルベース推進薬であり、事前に所定の形状に成形した物や、モータケース20に中子を装填して推進薬スラリーを注型して成形したものが使用される。本実施形態においては、第2推進薬24は略円筒状に成形されており、その中空部に略円筒状に成形された第1推進薬22が同心状に配置されている。第1推進薬22と第2推進薬24の間に配置されている隔膜26は、第1推進薬22の燃焼中にその火炎で第2推進薬24が燃焼しないように、モータケース20の内部空間に面する第2推進薬24の表面全体を覆っている。また、隔膜26の端部をモータケース20に接着することによって、第1推進薬22の燃焼火炎が隔膜26の裏側に回りこまないようにされている。
【0022】
第1点火装置28及び第2点火装置30は、図示省略するが、電流を流すことで発火するイニシエータと、そのイニシエータの火炎で着火する点火薬を点火薬ケースに収納したものである。第1点火装置28が燃焼すると第1推進薬22が、第2点火装置30が燃焼すると第2推進薬24がそれぞれ着火されるよう構成されている。
【0023】
続いて、隔膜26の構成について説明する。隔膜26は、図7に示すように、2層の第1耐熱層26Aと2層の第2耐熱層26Bとが交互に積層されることで構成されている。詳しい組成等は後述するが、第1耐熱層26A及び第2耐熱層26Bはいずれも熱分解により炭化物層を形成する材料で形成されており、第1耐熱層26Aの方が第2耐熱層26Bよりも炭化物層の保持力が高くなるよう形成されている。炭化物層の保持力とは、炭化物層を形成する炭化物が耐熱層表面から脱離や剥離しにくい性質を意味する。つまり、炭化物層の保持力が高いほど、炭化物が耐熱層表面から脱落しにくくなり、結果的に耐熱層表面に多くの炭化物層が生成・残存する。隔膜26は、第1推進薬22の燃焼中であって第2推進薬24の燃焼前に、隔膜26の熱分解が第1耐熱層26A側から第2耐熱層26Bに達するように設計されていればよく、第1耐熱層26A及び第2耐熱層26Bの厚み、形状等は使用態様に応じて適宜変更可能である。なお、本実施形態の第1耐熱層26A及び第2耐熱層26Bはそれぞれ2層であるが、各層はそれぞれ1層であってもよいし、3層以上であってもよい。ただし、少なくとも一つの第2耐熱層26Bが少なくとも一つの第1耐熱層26Aよりも第2推進薬24側に位置するよう隔膜26を配置する必要がある。
【0024】
隔膜26は、圧力がかかった際の変形に耐えるために柔軟性が必要であるが、第1推進薬22の高温火炎に耐えて第2推進薬24を保護するために高い耐熱性も必要である。このため、隔膜26には、柔軟性と耐熱性を有するゴムを基材とし、これに耐熱性繊維、難燃剤、加硫剤やその他添加剤を任意に配合した組成物が使用される。
【0025】
基材であるゴムとしては、柔軟性と耐熱性を有する、エチレンプロピレンジエンゴム(EPDM)、ネオプレンゴム、ブタジエンゴム、天然ゴム、ブチルゴム、ニトリルゴム、ウレタンゴムが挙げられ、中でも、EPDMやネオプレンゴムのような耐熱性と耐寒性が高いゴムが好ましい。なお、耐寒性が高いゴムを用いる利点は、低温環境においても隔膜26の柔軟性を保証できることにある。
【0026】
耐熱性繊維としては、アラミド繊維、炭素繊維、ポリイミド繊維、ポリアリレート繊維、ガラス繊維、ポリフェニレンサルファイド繊維が挙げられ、熱で炭化するアラミド繊維が好ましい。用いられる耐熱性繊維の平均繊維長は、通常0.5〜3mmである。なお、本発明において数値範囲を示す「○○〜△△」の記載は、別途記載が無い限り、その上限及び下限を含む数値範囲を意味する。つまり、「○○〜△△」は「○○以上、△△以下」を意味する。
【0027】
難燃剤としては、三酸化アンチモン、硫化亜鉛、リン化合物、塩素化合物、臭素化合物、金属水酸化物、水和金属塩が挙げられ、三酸化アンチモン、硫化亜鉛、塩素化合物、臭素化合物、リン化合物が好ましく、三酸化アンチモンが特に好ましい。
【0028】
加硫剤としては、硫黄、有機過酸化物が挙げられる。また、その他添加剤としては、塩素化パラフィン、含ハロゲン化炭化水素、カーボンブラック、酸化亜鉛、炭化水素樹脂が挙げられ、塩素化パラフィン、含ハロゲン化炭化水素を添加させると難燃性を高める点で有利である。
【0029】
本発明の第1耐熱層26Aは、第2耐熱層26Bよりも炭化物層の保持力が高くなるよう構成されていればよく、その手段は特に限定されない。そのような手段として、例えば、炭化物層を保持する役割を担う耐熱性繊維の第1耐熱層26Aにおける含有率を第2耐熱層26Bよりも高くする、第1耐熱層26Aが含有する耐熱性繊維の平均繊維長を第2耐熱層26Bよりも長くする、または、第1耐熱層26Aでは耐熱性繊維を層に垂直に配位し、第2耐熱層26Bでは耐熱性繊維を層に平行に配位することが挙げられる。本実施形態では耐熱性繊維の第1耐熱層26Aにおける含有率を第2耐熱層26Bよりも高くする手段がとられているため、以下において当該第1耐熱層26A及び第2耐熱層26Bの各成分の組成比率について説明する。
【0030】
本実施形態の第1耐熱層26Aは、ゴムを40〜65質量%、耐熱性繊維を4〜20質量%、難燃剤を8〜15質量%、加硫剤やその他添加剤を10〜35質量%配合したゴム組成物から形成される。
【0031】
一方、炭化物層保持力の低い第2耐熱層26Bは、組み合わせられる第1耐熱層26Aよりも耐熱性繊維の含有率が低いゴム組成物が用いられる。ただし、隔膜26の表面に保持される炭化物層を効果的に低減するためには、第2耐熱層26Bは、耐熱性繊維が3質量%以下、難燃剤が2〜10質量%、耐熱性繊維と難燃剤の合計量が2〜13%質量であることが好ましく、さらに好ましくは耐熱性繊維が1〜2質量%、難燃剤が5〜8質量%、耐熱性繊維と難燃剤の合計量が6〜10質量%である。なお、耐熱性繊維と難燃剤を共に0%としたゴム層は、炭化物層の保持力が非常に低く、耐熱性に劣る特性を示す。しかし、このゴム層を耐熱性の高い第1耐熱層26Aと積層することにより隔膜26に要求される耐熱性を十分に満たすことができれば、このようなゴム層を第2耐熱層26Bとして使用することもできる。
【0032】
第1耐熱層26Aと第2耐熱層26Bとを積層した隔膜26を製造するためには、2種類のゴム組成物をそれぞれシート状に成型し、これらを積層した状態で回転ローラに通して気泡を抜きながら圧着するか、平板プレスで圧着する方法を用いることができる。このようにして製造した積層構造のゴムを金型に仕込んでプレス加硫することで、所定形状の積層構造を有する隔膜26を製造することができる。
【0033】
次に、図1から図3を参照しながらロケットモータ10の作動機構を説明する。図1はロケットモータが点火される前の状態を示している。この状態で第1点火装置28が点火されると、第1推進薬22が燃焼し、燃焼ガスがノズル32から噴出して所定の推力を発生する(図2参照)。この間、第2推進薬24は隔膜26によって保護されている。所定の時間経過後に第2点火装置30を点火すると、第2推進薬24が燃焼し、発生した燃焼ガスの圧力で隔膜26が破れ、燃焼ガスがノズル32から噴出して推力を発生する(図3参照)。なお、図2及び図3中の白矢印は、それぞれ燃焼ガスの流れ方向を示す。
【0034】
続いて、第1推進薬22が燃焼している間に従来の隔膜40及び本実施形態の隔膜26が焼損する様子を図4から図9を参照しながら説明する。なお、図5,6,8及び9中の白矢印は燃焼ガスの流れ方向を示す。図4から図6は従来の隔膜40が燃焼火炎により焼損する過程を示した図である。図4に示されるように、耐熱性繊維が多量に配合されたゴムからなる隔膜40は第2推進薬24を覆うように配置されている。そして、第1推進薬の燃焼が開始されると、図5に示されるように第2推進薬24とは反対側の隔膜表面が火炎に晒され、ゴムの熱分解により生じた炭化物が隔膜40の表面に保持されることで炭化物層42が形成される。そして、第1推進薬の燃焼終了に近い時点では、図6に示されるように、隔膜40の表面に非常に厚い炭化物層42が形成される。この隔膜40は、第2推進薬24の燃焼により変形・破断する際に、保持した大量の炭化物と共にノズルへと流入し、ノズルを詰める可能性がある。
【0035】
一方、図7から図9は本実施形態の隔膜26が燃焼火炎により焼損する過程を示している。隔膜26は、図7に示されるように、第2推進薬24側に第2耐熱層26Bが位置するように配置される。そして、第1推進薬22の燃焼が開始されると、火炎によって第1耐熱層26Aが熱分解していくにつれて表面に炭化物層42が形成されていくが(図8参照)、第2耐熱層26Bまで焼損が到達した部位では、この炭化物層42は徐々に剥がれ落ちるため、多量の炭化物が隔膜26の表面に保持されることは無い(図9参照)。したがって、隔膜26が破断した際の炭化物の脱落量を低減できるため、ノズル32が詰まる危険性はない。
【実施例】
【0036】
以下に、本実施形態の隔膜26の評価試験の結果を実施例及び比較例を挙げて示すが、本発明はこれらに限られるものではない。
【0037】
<隔膜の作成>
基材ゴムとしてエチレンプロピレンジエンゴム(EPDM)を47質量%、耐熱性繊維として平均繊維長1mmのケブラー繊維を14質量%、難燃剤として三酸化アンチモンを12質量%、加硫剤として有機過酸化物(日油株式会社製:パーヘキサV40)を4質量%、その他添加剤として塩素化パラフィンを23質量%含有する膜厚2mmの第1耐熱層上に、基材ゴムとしてEPDMを59質量%、耐熱性繊維として平均繊維長1mmのケブラー繊維を2質量%、難燃剤として三酸化アンチモンを7質量%、加硫剤として有機過酸化物(日油株式会社製:パーヘキサV40)を4質量%、その他添加剤として塩素化パラフィンを28質量%含有する膜厚3mmの第2耐熱層を積層し、回転ローラにより相互に圧着した。そして、圧着されたゴム積層体を金型に仕込み、温度140℃の条件でプレス加硫することで実施例1の隔膜を形成した。
【0038】
上記実施例1の隔膜と同様の方法で、下記表1に示される組成の実施例2から4、比較例1及び2の隔膜を作成した。なお、表1中の組成の正確な単位は質量%である。
【0039】
【表1】
【0040】
得られた隔膜の耐熱性と、炭化物層の保持力とを評価するために、下記トーチバーナー試験を行った。
【0041】
<トーチバーナー試験>
各実施例及び比較例の隔膜を10cm角の大きさに切り出し、得られた試料を金属枠に取り付けた。プロパンガス:空気を1:10の比率で混合して、2.8L/sのガス流量に調整したガスバーナーを用いてこの試料を第1耐熱層側から120秒間炙ることで、第1耐熱層を完全に焼損させ、第2耐熱層を途中まで焼損させた。そして、第2耐熱層表面に残った炭化物層の生成量(炭化物層の保持力)と、耐熱性(焼損速度)を評価した。評価結果は上記表1に示す。
炭化物層の生成量は、試料表面に残存した炭化物を削り落として炭化物の質量を測定し、単位面積当たりの炭化物量を算出して、下記の4段階で評価した。
20mg/cm未満:非常に少ない
20mg/cm以上、25mg/cm未満:少ない
25mg/cm以上、30mg/cm未満:多い
30mg/cm以上:非常に多い
耐熱性は、炭化物を削り落とした試料の厚さと試験前の試料の厚さとの差を焼損厚さとし、1分間当たりの焼損速度を算出して、下記の4段階で評価した。
1mm/分未満:非常に良好
1mm/分以上、2mm/分未満:良好
2mm/分以上、3mm/分未満:悪い
3mm/分以上:非常に悪い
【0042】
表1に示すトーチバーナー試験の結果を参照すると、実施例1から4では、炭化物層の生成量は少なく、耐熱性も良好であった。一方、比較例1及び2は、耐熱性は良好であるものの、第1耐熱層の耐熱性繊維の含有率が第2耐熱層と同じであるため炭化物層の生成量が非常に多かった。
【符号の説明】
【0043】
10 ロケットモータ
20 モータケース
22 第1推進薬
24 第2推進薬
26 隔膜
26A 第1耐熱層
26B 第2耐熱層
28 第1点火装置
30 第2点火装置
32 ノズル
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9