特許第6790812号(P6790812)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6790812
(24)【登録日】2020年11月9日
(45)【発行日】2020年11月25日
(54)【発明の名称】ガラス繊維強化樹脂成形品
(51)【国際特許分類】
   C08J 5/08 20060101AFI20201116BHJP
   C08K 3/40 20060101ALI20201116BHJP
   C08L 101/00 20060101ALI20201116BHJP
   C03C 13/02 20060101ALI20201116BHJP
【FI】
   C08J5/08CER
   C08J5/08CEZ
   C08K3/40
   C08L101/00
   C03C13/02
【請求項の数】3
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2016-252078(P2016-252078)
(22)【出願日】2016年12月26日
(65)【公開番号】特開2017-52974(P2017-52974A)
(43)【公開日】2017年3月16日
【審査請求日】2019年5月20日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003975
【氏名又は名称】日東紡績株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000800
【氏名又は名称】特許業務法人創成国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】土金 あかね
(72)【発明者】
【氏名】小野寺 雄哉
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼橋 勇太
(72)【発明者】
【氏名】栗田 忠史
(72)【発明者】
【氏名】相澤 恒史
【審査官】 石塚 寛和
(56)【参考文献】
【文献】 特表2006−520314(JP,A)
【文献】 特開2000−309707(JP,A)
【文献】 特開平11−292567(JP,A)
【文献】 特開2012−211270(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J 5/04−5/10、5/24
B29B 11/16、15/08−15/14
C08L 1/00−101/14
C08K 3/00−13/08
C03C 1/00−14/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラス繊維強化樹脂成形品の全量に対し10〜90質量%の範囲のガラス繊維と、90〜10質量%の範囲の樹脂とを含有するガラス繊維強化樹脂成形品であって、
該ガラス繊維は、ガラス繊維全量に対し52.0〜57.0質量%の範囲のSiOと、13.0〜17.0質量%の範囲のAlと、15.0〜21.5質量%の範囲のBと、2.0〜6.0質量%の範囲のMgOと、2.0〜6.0質量%の範囲のCaOと、1.0〜4.0質量%の範囲のTiOと、1.5質量%未満のFとを含み、かつ、LiO、NaO及びKOの合計量が0.6質量%未満であり、Fe、Cr、ZrO、MoO、SO及びClの合計量が0.4質量%未満であり、0.05〜0.15質量%の範囲のFeを含む組成を備え、
該ガラス繊維は、30〜5000μmの数平均繊維長を有する
ことを特徴とするガラス繊維強化樹脂成形品。
【請求項2】
請求項1記載のガラス繊維強化樹脂成形品において、前記ガラス繊維は、断面形状の短径に対する長径の比(長径/短径)が2.0〜10.0の範囲にあり、断面積を真円に換算したときの繊維径が3.0〜35.0μmの範囲にある非円形断面を備えることを特徴とするガラス繊維強化樹脂成形品。
【請求項3】
請求項1又は請求項2記載のガラス繊維強化樹脂成形品において、該ガラス繊維は、TiOの含有率(質量%)に対するBの含有率(質量%)の比(B(質量%)/TiO(質量%))が9.6〜11.4の範囲である組成を備えることを特徴とするガラス繊維強化樹脂成形品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガラス繊維強化樹脂成形品に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ガラス繊維は、樹脂成形品の強度を向上させるために種々の用途で広く用いられており、該樹脂成形品は、スマートフォンやノートパソコン等の電子機器の筐体又は部品に用いられることが増えている。前記スマートフォンやノートパソコン等は、持ち運ばれる機会が多く、それゆえ落下等の衝撃にさらされる機会も多いことから、前記樹脂成形品には、引張強度、曲げ強度及び曲げ弾性率に加えて、高い衝撃強さが求められている。
【0003】
また、一般に、ガラスは交流電流に対してエネルギー吸収を行い熱として吸収するので、前記樹脂成形品を前記電子機器の筐体又は部品に用いると、該樹脂成形品が発熱するという問題がある。
【0004】
ここで、ガラスに吸収される誘電損失エネルギーはガラスの成分及び構造により定まる誘電率及び誘電正接に比例し、次式(1)で表される。
【0005】
W=kfv×εtanδ ・・・(1)
ここで、Wは誘電損失エネルギー、kは定数、fは周波数、vは電位傾度、εは誘電率、tanδは誘電正接を表す。式(1)から、誘電率及び誘電正接が大きい程、また周波数が高い程、誘電損失が大きくなり、前記樹脂成形品の発熱が大きくなることがわかる。そこで、前記樹脂成形品には、高い衝撃強さに加えて、さらに、低い誘電率及び誘電正接が求められている。
【0006】
前記ガラス繊維としては、Eガラス組成(ガラス繊維の全量に対し52.0〜56.0質量%の範囲のSiOと、12.0〜16.0質量%の範囲のAlと、合計で20.0〜25.0質量%の範囲のMgO及びCaOと、5.0〜10.0質量%の範囲のBとを含む組成)を備えるガラス繊維(Eガラス繊維)が最も汎用的に用いられている。また、樹脂組成物及びその成形品に極めて高い強度を付与できるガラス繊維として、Sガラス組成(ガラス繊維の全量に対し64.0〜66.0質量%の範囲のSiOと、24.0〜26.0質量%の範囲のAlと、9.0〜11.0質量%の範囲のMgOとを含む組成)を備えるガラス繊維(Sガラス繊維)が知られている。ここで、Sガラス組成は、1000ポイズ温度(ガラス組成物の溶融物の粘度が1000ポイズ(100Pa・s)となる温度)及び液相温度(ガラス組成物の溶融物の温度を低下させたときに最初に結晶の析出が生じる温度)が高く、かつ、これら2つの温度の差で表現される作業温度範囲(ガラス繊維の製造の適した温度範囲)が狭く、Sガラス繊維の製造は必ずしも容易ではないという問題点が知られた。
【0007】
近年、Eガラス繊維よりも高い強度を樹脂成形品に付与することができ、かつ、Sガラス繊維よりも製造性に優れたガラス繊維が求められており、本出願人は、ガラス繊維全量に対し、57.0〜63.0質量%の範囲のSiOと、19.0〜23.0質量%の範囲のAlと、10.0〜15.0質量%の範囲のMgOと、4.0〜11.0質量%の範囲のCaOとを含み、かつ、SiO、Al、MgO及びCaOの合計含有量が99.5質量%以上である組成を備えるガラス繊維を提案している(特許文献1参照)。
【0008】
特許文献1記載のガラス繊維を用いることで、Eガラス繊維を用いるよりも、樹脂成形品に高い引張強度、高い曲げ強度及び高い曲げ弾性率を付与することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】国際公開第2011/155362号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、特許文献1記載のガラス繊維を含むガラス繊維強化樹脂成形品は、衝撃強さについては、Eガラス繊維を含むガラス繊維強化樹脂成形品と同等又はそれ以下であるという不都合がある。
【0011】
また、Eガラスは誘電率及び誘電正接が高く、Eガラス繊維を含むガラス繊維強化樹脂成形品は前記電子機器の筐体又は部品に用いた場合に発熱が大きくなるという不都合がある。
【0012】
本発明は、かかる不都合を解消して、高い引張強度及び衝撃強さと低い誘電率及び誘電正接を兼ね備えるガラス繊維強化樹脂成形品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
かかる目的を達成するために、本発明のガラス繊維強化樹脂成形品は、ガラス繊維強化樹脂成形品の全量に対し10〜90質量%の範囲のガラス繊維と、90〜10質量%の範囲の樹脂とを含有するガラス繊維強化樹脂成形品であって、該ガラス繊維は、ガラス繊維全量に対し52.0〜57.0質量%の範囲のSiOと、13.0〜17.0質量%の範囲のAlと、15.0〜21.5質量%の範囲のBと、2.0〜6.0質量%の範囲のMgOと、2.0〜6.0質量%の範囲のCaOと、1.0〜4.0質量%の範囲のTiOと、1.5質量%未満のFとを含み、かつ、LiO、NaO及びKOの合計量が0.6質量%未満であり、Fe、Cr、ZrO、MoO、SO及びClの合計量が0.4質量%未満であり、0.05〜0.15質量%の範囲のFeを含む組成を備え、該ガラス繊維は、30〜5000μmの数平均繊維長を有することを特徴とする。
【0014】
本発明のガラス繊維強化樹脂成形品は、前記組成を備えるガラス繊維を含有することで、高い引張強度及び衝撃強さと、低い誘電率及び誘電正接とを兼ね備えることができる。
【0015】
本発明のガラス繊維強化樹脂成形品は、該ガラス繊維強化樹脂成形品の全量に対しガラス繊維の含有量が10質量%未満又は樹脂の含有量が90質量%を超えるときには、該ガラス繊維強化樹脂成形品において十分な引張強度及び衝撃強さを得ることができない。一方、本発明のガラス繊維強化樹脂成形品は、該ガラス繊維強化樹脂成形品の全量に対しガラス繊維の含有量が90質量%を超えるか又は樹脂の含有量が10質量%未満であるときには、該ガラス繊維強化樹脂成形品の製造が困難となる。
【0016】
本発明のガラス繊維強化樹脂成形品は、成形品の強度と、成形品の製造容易性とを両立するという観点から、該ガラス繊維強化樹脂成形品の全量に対し20〜70質量%の範囲のガラス繊維と、80〜30質量%の範囲の樹脂とを含有することが好ましく、25〜60質量%の範囲のガラス繊維と、75〜40質量%の範囲の樹脂とを含有することがより好ましく、30〜50質量%の範囲のガラス繊維と、70〜50質量%の範囲の樹脂とを含有することがさらに好ましい。
【0017】
本発明のガラス繊維強化樹脂成形品に含まれるガラス繊維において、ガラス繊維の全量に対するSiOの含有量が52.0質量%未満であると、誘電率が大きくなり過ぎるとともに、耐水性及び耐酸性が低下して、ガラス繊維及びガラス繊維強化樹脂成形品の劣化を引き起こす。一方、前記ガラス繊維において、ガラス繊維の全量に対するSiOの含有量が57.0質量%を超えると、紡糸時に粘度が高くなり過ぎて、繊維化が困難となる場合がある。
【0018】
前記ガラス繊維において、ガラス繊維全量に対するSiOの含有量は、52.5〜56.8質量%の範囲とすることが好ましく、53.0〜56.6質量%の範囲とすることがより好ましく、53.5〜56.5質量%の範囲とすることがさらに好ましく、53.8〜56.3質量%の範囲とすることが特に好ましく、54.0〜56.2質量%の範囲とすることが最も好ましい。
【0019】
また、本発明のガラス繊維強化樹脂成形品に含まれるガラス繊維において、ガラス繊維全量に対するAlの含有量が13.0質量%未満であると、分相を生じ易く、そのため耐水性が悪くなる。一方、ガラス繊維において、ガラス繊維全量に対するAlの含有量が17.0質量%を超えると、液相温度が高くなるため作業温度範囲が狭くなってガラス繊維の製造が困難になる。
【0020】
前記ガラス繊維において、ガラス繊維全量に対するAlの含有量は、13.3〜16.5質量%の範囲とすることが好ましく、13.7〜16.0質量%の範囲とすることがより好ましく、14.0〜15.5質量%の範囲とすることがさらに好ましく、14.3〜15.3質量%の範囲とすることが特に好ましく、14.5〜15.1質量%の範囲とすることが最も好ましい。
【0021】
また、本発明のガラス繊維強化樹脂成形品に含まれるガラス繊維において、ガラス繊維全量に対するBの含有量が15.0質量%未満であると、誘電率、誘電正接が大きくなり過ぎる。一方、前記ガラス繊維において、ガラス繊維全量に対するBの含有量が21.5質量%を超えると、紡糸時にBの揮発量が高く、ブッシングノズル付近へ付着するBの汚れによるガラス繊維の切断がみられ、作業性、生産性において問題となる場合がある。さらに、均質なガラスを得ることができず、耐水性が悪くなり過ぎる場合がある。
【0022】
前記ガラス繊維において、ガラス繊維全量に対するBの含有量は、15.5〜21.0質量%の範囲とすることが好ましく、16.0〜20.5質量%の範囲とすることがより好ましく、16.5〜20.0質量%の範囲とすることがさらに好ましく、17.0〜19.5質量%の範囲とすることが特に好ましく、17.5〜19.4質量%の範囲とすることが最も好ましい。
【0023】
また、本発明のガラス繊維強化樹脂成形品に含まれるガラス繊維において、ガラス繊維全量に対するMgOの含有量が2.0質量%未満であると、脈理が増加し、Bの揮発量が多くなる。一方、前記ガラス繊維において、ガラス繊維全量に対するMgOの含有量が6.0質量%を超えると、分相性が強くなって耐水性が低下し、また誘電率、誘電正接が大きくなり過ぎる。
【0024】
前記ガラス繊維において、ガラス繊維全量に対するMgOの含有量は、2.5〜5.9質量%の範囲とすることが好ましく、2.9〜5.8質量%の範囲とすることがより好ましく、3.3〜5.7質量%の範囲とすることがさらに好ましく、3.6〜5.3質量%の範囲とすることが特に好ましく、4.0〜4.8質量%の範囲とすることが最も好ましい。
【0025】
また、本発明のガラス繊維強化樹脂成形品に含まれるガラス繊維において、ガラス繊維全量に対するCaOの含有量が2.0質量%未満であると、溶融性が悪くなるとともに、耐水性が悪くなり過ぎる。一方、前記ガラス繊維おいて、ガラス繊維全量に対するCaOの含有量が6.0質量%を超えると、誘電率、誘電正接が大きくなり過ぎる。
【0026】
前記ガラス繊維において、ガラス繊維全量に対するCaOの含有量は、2.6〜5.5質量%の範囲とすることが好ましく、3.2〜5.0質量%の範囲とすることがより好ましく、3.7〜4.7質量%の範囲とすることがさらに好ましく、3.9〜4.5質量%の範囲とすることが特に好ましく、4.0〜4.4質量%の範囲とすることが最も好ましい。
【0027】
また、本発明のガラス繊維強化樹脂成形品に含まれるガラス繊維において、ガラス繊維全量に対するTiOの含有量が1.0質量%未満であると、誘電正接を下げ、粘性を低下させ、初期溶融時における溶融分離を抑制し、炉表面で発生するスカムを減少させる効果が小さくなる。一方、前記ガラス繊維おいて、ガラス繊維全量に対するTiOの含有量が4.0質量%を超えると、分相を生じ易く、化学的耐久性が悪くなる。
【0028】
前記ガラス繊維において、ガラス繊維全量に対するTiOの含有量は、1.3〜3.0質量%の範囲とすることが好ましく、1.5〜2.5質量%の範囲とすることがより好ましく、1.6〜2.3質量%の範囲とすることがさらに好ましく、1.7〜2.1質量%の範囲とすることが特に好ましく、1.8〜2.0質量%の範囲とすることが最も好ましい。
【0029】
また、本発明のガラス繊維強化樹脂成形品に含まれるガラス繊維において、ガラス繊維全量に対するFの含有量が1.5質量%以上であると、ガラスが分相しやすくなるとともに、ガラスの耐熱性が悪くなることがある。一方、前記ガラス繊維おいて、Fを含むことでガラスの粘性が低下して溶融しやすくなるだけでなく、ガラスの誘電率及び特に誘電正接を低下させることができる。
【0030】
前記ガラス繊維において、ガラス繊維全量に対するFの含有量は、0.1〜1.4質量%の範囲とすることが好ましく、0.3〜1.3質量%の範囲とすることがより好ましく、0.4〜1.2質量%の範囲とすることがさらに好ましく、0.5〜1.1質量%の範囲とすることが特に好ましく、0.6〜1.0質量%の範囲とすることが最も好ましい。
【0031】
また、本発明のガラス繊維強化樹脂成形品に含まれるガラス繊維において、ガラス繊維全量に対するLiO、NaO及びKOの合計量が0.6質量%以上であると、誘電正接が高くなり過ぎ、また耐水性も悪くなる。一方、LiO、NaO及びKOを含むことでガラスの粘性が低下し、ガラスを溶融しやすくなる。
【0032】
前記ガラス繊維において、ガラス繊維全量に対するLiO、NaO及びKOの合計量の含有量は、0.02〜0.50質量%の範囲とすることが好ましく、0.03〜0.40質量%の範囲とすることがより好ましく、0.04〜0.30質量%の範囲とすることがさらに好ましく、0.05〜0.25質量%の範囲とすることが特に好ましい。
【0033】
また、本発明のガラス繊維強化樹脂成形品に含まれるガラス繊維は、ガラス繊維の全量に対して0.4質量%未満の範囲で、前記した成分以外の不純物を含みうる。前記ガラス繊維が含みうる不純物としては、Fe、Cr、ZrO、MoO、SO、Cl等が挙げられる。これらの中でも、溶融ガラス中の輻射熱の吸収やガラス繊維の着色に影響するため、ガラス繊維全量に対するFeの含有量は0.05〜0.15質量%の範囲とすることが好ましい。
【0034】
なお、本発明のガラス繊維強化樹脂成形品に含まれるガラス繊維において、前述した各成分の含有率の測定は、軽元素であるLiについてはICP発光分光分析装置を用いて、その他の元素は波長分散型蛍光X線分析装置を用いて行うことができる。
【0035】
測定方法としては、初めに、ガラス繊維強化樹脂成形品を、例えば、300〜650℃のマッフル炉で0.5〜24時間程度加熱する等して、有機物を分解する。次に、残ったガラス繊維を白金ルツボに入れ、電気炉中で1550℃の温度に6時間保持して撹拌を加えながら溶融させることにより、均質な溶融ガラスを得る。次に、得られた溶融ガラスをカーボン板上に流し出してガラスカレットを作製した後、粉砕し粉末化する。軽元素であるLiについてはガラス粉末をアルカリおよび酸溶融にて分解した後、ICP発光分光分析装置を用いて定量分析する。その他の元素はガラス粉末をプレス機で円盤状に成形した後、波長分散型蛍光X線分析装置を用いて定量分析する。これらの定量分析結果を酸化物換算して各成分の含有量及び全量を計算し、これらの数値から前述した各成分の含有率を求めることができる。
【0036】
本発明において、ガラス繊維強化樹脂成形品に含まれるガラス繊維は、30〜5000μmの数平均繊維長を有する。該ガラス繊維の数平均繊維長が30μm未満であると、該ガラス繊維強化樹脂成形品において十分な引張強度及び衝撃強さを得ることができない。また、ガラス繊維強化樹脂成形品の製造過程で、ガラス繊維の折損が発生するので、該ガラス繊維の数平均繊維長を5000μm超とすることは困難である。
【0037】
前記ガラス繊維において、数平均繊維長は、100〜3000μmの範囲であることが好ましく、150〜2000μmの範囲であることがより好ましく、200〜1000μmの範囲であることがさらに好ましく、300〜500μmの範囲であることが特に好ましく、315〜450μmの範囲であることが最も好ましい。
【0038】
なお、本発明のガラス繊維強化樹脂成形品中のガラス繊維の数平均繊維長の測定方法としては、初めに、該ガラス繊維強化樹脂成形品を、例えば、300〜650℃のマッフル炉で0.5〜24時間程度加熱する等して、有機物を分解する。次に、残ったガラス繊維をガラスシャーレに移し、アセトンを用いてシャーレの表面に分散させる。次に、表面に分散した、500本以上のガラス繊維について実体顕微鏡を用いて繊維長を測定し、数平均繊維長を算出する。
【0039】
本発明において、ガラス繊維強化樹脂成形品に含まれるガラス繊維は、断面形状の短径に対する長径の比(長径/短径)が2.0〜10.0の範囲にあり、断面積を真円に換算したときの繊維径(以下、換算繊維径ということもある)が3.0〜35.0μmの範囲にある非円形断面を備えることが好ましい。ガラス繊維強化樹脂成形品に含まれるガラス繊維がこのような断面を備える場合、ガラス繊維が円形断面を備える場合と比較して、組成以外は同一の条件でEガラス繊維を用いたガラス繊維強化樹脂成形品の引張強度及びノッチ付きシャルピー衝撃強さを基準とした、引張強度及びノッチ付きシャルピー衝撃強さの向上率が極めて高くなる。
【0040】
前記ガラス繊維において、断面形状の短径に対する長径の比(長径/短径)は、ガラス繊維強化樹脂成形品の高い引張強度及びノッチ付きシャルピー衝撃強さと、ガラス繊維の製造容易性との両立の観点から、2.2〜6.0の範囲であることが好ましく、3.2〜4.5の範囲であることがより好ましい。なお、ガラス繊維が複数本のガラスフィラメントが集束されて形成される場合、ガラス繊維の断面形状は、ガラス繊維を形成するガラスフィラメントの断面形状を意味する。
【0041】
また、前記ガラス繊維において、換算繊維径は、ガラス繊維強化樹脂成形品の高い引張強度及びノッチ付きシャルピー衝撃強さと、ガラス繊維又はガラス繊維強化樹脂成形品を製造する際の製造容易性との両立の観点から、6.0〜20.0μmの範囲であることが好ましく、6.5〜16.0μmであることがより好ましい。なお、ガラス繊維が複数本のガラスフィラメントが集束されて形成される場合、ガラス繊維の繊維径は、ガラス繊維を形成するガラスフィラメントの繊維径を意味する。
【0042】
また、前記ガラス繊維において、非円形の形状としては、ガラス繊維強化樹脂成形品を製造する際の流動性に優れることから、繭形、楕円形又は長円形(長方形の両端に半円状の形状を付けたもの、あるいはそれに類似した形状をいう)が好ましく、長円形がより好ましい。
【0043】
なお、本発明のガラス繊維強化樹脂成形品は、前記非円形断面を備えるガラス繊維と円形断面を備えるガラス繊維との両方を含むことができる。前記非円形断面を備えるガラス繊維と円形断面を備えるガラス繊維との両方を含む場合、例えば、前記非円形断面ガラス繊維の含有率(質量%)に対する円形断面ガラス繊維の含有率(質量%)の比(円形断面を備えるガラス繊維(質量%)/非円形断面を備えるガラス繊維(質量%))は、0.1〜1.0の範囲とすることができる。
【0044】
本発明において、ガラス繊維強化樹脂成形品に含まれるガラス繊維は、TiOの含有率(質量%)に対するBの含有率(質量%)の比(B(質量%)/TiO(質量%))が9.6〜11.4の範囲である組成を備えることが好ましい。
【0045】
前記ガラス繊維において、TiOの含有率(質量%)に対するBの含有率(質量%)の比は、9.8〜10.8の範囲であることがより好ましく、10.0〜10.4の範囲であることがさらに好ましい。
【0046】
本発明のガラス繊維強化樹脂成形品は、TiOの含有率(質量%)に対するBの含有率(質量%)の比が前記範囲を備えるガラス繊維を含有することで、ガラス溶融時や紡糸時の生産性を高く維持しつつ、低い誘電率及び誘電正接を兼ね備えることができる。
【発明を実施するための形態】
【0047】
次に、本発明の実施の形態についてさらに詳しく説明する。
【0048】
本実施形態のガラス繊維強化樹脂成形品は、ガラス繊維強化樹脂成形品の全量に対し10〜90質量%の範囲のガラス繊維と、90〜10質量%の範囲の樹脂とを含有するガラス繊維強化樹脂成形品であって、該ガラス繊維は、ガラス繊維全量に対し52.0〜57.0質量%の範囲のSiOと、13.0〜17.0質量%の範囲のAlと、15.0〜21.5質量%の範囲のBと、2.0〜6.0質量%の範囲のMgOと、2.0〜6.0質量%の範囲のCaOと、1.0〜4.0質量%の範囲のTiOと、1.5質量%未満のFとを含み、かつ、LiO、NaO及びKOの合計量が0.6質量%未満であり、Fe、Cr、ZrO、MoO、SO及びClの合計量が0.4質量%未満であり、0.05〜0.15質量%の範囲のFeを含む組成を備え、該ガラス繊維は、30〜5000μmの数平均繊維長を有する。
【0049】
前記ガラス繊維が、前述の範囲の組成及び数平均繊維長を備えることで、ガラス繊維強化樹脂成形品の高い引張強度及び衝撃強さと、低い誘電率及び誘電正接とが実現される。
【0050】
前記ガラス繊維は、以下の方法で製造される。初めに、前述の組成となるように調合されたガラス原料(ガラスバッチ)を溶融炉に供給し、例えば、1450〜1550℃の範囲の温度で溶融する。次に、溶融されたガラスバッチ(溶融ガラス)を所定の温度に制御されたブッシングのノズルチップから吐出し、高速で巻き取ることにより引き伸ばしながら冷却し、固化することによりガラス繊維を形成する。ここで、通常、ガラス繊維は、1本のノズルチップから引き出されたガラスフィラメントが複数本集束された状態で形成される。また、通常、ガラス繊維は円形の断面を有する。
【0051】
前記ノズルチップは、例えば、断面形状の短径に対する長径の比(長径/短径)が2.0〜10.0の範囲にある非円形断面を備えるガラス繊維を製造する場合には、ブッシング底面のノズルプレートに、短径に対する長径の比(長径/短径)が2.0〜10.0の範囲にあり、開口径が長径1.0〜10.0mm、短径0.5〜2.0mmである開口部(オリフィス孔)及び、開口部を通過した溶融ガラスを急冷するための切欠部や突起部といった冷却手段を備えるものを用いることができる。
【0052】
前記ガラス繊維は、複数本のガラスフィラメントが集束されることで、100〜10000tex(g/km)の範囲の重量を備える。
【0053】
前記ガラス繊維は、その形成過程において、フィラメントの集束性の向上、ガラス繊維と樹脂との接着性の向上等を目的として、その表面を有機物で被覆される。このような有機物としては、ウレタン樹脂、エポキシ樹脂、又は、これらの樹脂の混合物を好ましく用いることができ、これらの樹脂に加えて、シランカップリング剤、皮膜形成剤、潤滑剤等を含む樹脂組成物を用いることができる。このような樹脂組成物は、樹脂組成物に被覆されていない状態のガラス繊維の質量を基準として、0.1〜2.0質量%の割合で、ガラス繊維を被覆する。なお、有機物によるガラス繊維の被覆は、例えば、ガラス繊維の製造工程において、ローラー型アプリケーター等の公知の方法を用いて樹脂溶液又は樹脂組成物溶液をガラス繊維に付与し、その後、樹脂溶液又は樹脂組成物溶液の付与されたガラス繊維を乾燥させることで行うことができる。
【0054】
前記樹脂としては、熱可塑性樹脂又は熱硬化性樹脂を用いることができるが、高い引張強度、曲げ強度、曲げ弾性率、及び衝撃強さが求められる用途が多いことから、熱可塑性樹脂を用いることが好ましい。
【0055】
前記熱可塑性樹脂としては、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリスチレン樹脂、アクリロニトリル/ブタジエン/スチレン(ABS)樹脂、メタクリル樹脂、塩化ビニル樹脂、ポリアミド樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリエチレンテレフタレート(PET)樹脂、ポリブチレンテレフタレート(PBT)樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリフェニレンサルファイド(PPS)樹脂、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)樹脂、液晶ポリマー(LCP)樹脂、フッ素樹脂、ポリエーテルイミド(PEI)樹脂、ポリアリレート(PAR)樹脂、ポリサルフォン(PSF)樹脂、ポリエーテルサルフォン(PES)樹脂、ポリアミドイミド(PAI)樹脂等を挙げることができる。これらの中でも、高い引張強度、曲げ強度、曲げ弾性率、及び衝撃強さが求められる用途が多いことから、ポリアミド樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂、又はポリカーボネート樹脂が好ましく、ポリアミド樹脂がより好ましい。
【0056】
また、前記熱硬化性樹脂としては、不飽和ポリエステル樹脂、ビニルエステル樹脂、エポキシ樹脂、メラミン樹脂、フェノール樹脂、ウレタン樹脂、ポリイソシアネート樹脂、ポリイソシアヌレート樹脂、ポリイミド樹脂等を挙げることができる。
【0057】
前記熱可塑性樹脂又は前記熱硬化性樹脂は、単独で用いてもよく、2種以上組み合わせて用いてもよい。
【0058】
本発明のガラス繊維強化樹脂成形品は、本発明の目的を阻害しない範囲で、前記ガラス繊維及び前記樹脂以外の成分を含むことができる。このような成分としては、前記ガラス繊維以外のガラス繊維(例えば、Eガラス繊維、Sガラス繊維)、ガラス繊維以外の強化繊維(例えば、炭素繊維、金属繊維)、ガラス繊維以外の充填剤(例えば、ガラスパウダー、タルク、マイカ)、難燃剤、紫外線吸収剤、熱安定剤、酸化防止剤、帯電防止剤、流動性改良剤、アンチブロッキング剤、潤滑剤、核剤、抗菌剤、顔料等を挙げることができる。また、本発明のガラス繊維強化樹脂成形品は、ガラス繊維強化樹脂成形品の全量に対し、これらの成分を合計で0〜40質量%の範囲で含有することができる。
【0059】
本発明のガラス繊維強化樹脂成形品を得るための成形方法としては、例えば、射出成形法、射出圧縮成形法、二色成形法、中空成形法、発泡成形法(超臨界流体を用いるものも含む)、インサート成形、インモールドコーティング成形法、押出成形法、シート成形法、熱成形法、回転成形法、積層成形法、プレス成形法、ブロー成形法、スタンピング成形法、インフュージョン法、ハンドレイアップ法、スプレイアップ法、レジントランスファーモールディング法、シートモールディングコンパウンド法、バルクモールディングコンパウンド法、プルトルージョン法、フィラメントワインディング法等を挙げることができる。これらの方法の中でも、射出成形法が、製造効率に優れることから好ましい。
【0060】
例えば、射出成形法により本発明のガラス繊維強化樹脂成形品を製造する場合、複数本のガラスフィラメントが集束されて形成され、1〜25mmの長さに切断されたガラス繊維(チョップドストランド)を、樹脂と混練し、次いで、ノズルから押出し、所定長(例えば、1〜50mm)に切断することにより、ペレットの形状に加工したものを成形原料として用いることができる。または、複数本のガラスフィラメントが集束されて形成され、連続的に巻き取られたガラス繊維(ロービング)に、溶融した熱可塑性樹脂を含侵させてから、冷却し、次いで、所定長(例えば、1〜50mm)に切断することにより、ペレットの形状に加工したものを成形原料として用いることができる。
【0061】
本発明のガラス繊維強化樹脂成形品の用途としては、例えば、電子機器筐体、電子部品、車両外装部材、車両内装部材、車両エンジン周り部材、高圧タンク等を挙げることができる。高い引張強度及びノッチ付きシャルピー衝撃強さと、低い誘電率及び誘電正接とを兼ね備えることが求められることから、本発明のガラス繊維強化樹脂成形品の用途としては、スマートフォン、タブレット、ノートパソコン、携帯音楽プレイヤー、携帯ゲーム機等の携帯電子機器の筐体又は部品が好ましい。
【0062】
次に、本発明の実施例及び比較例を示す。
【実施例】
【0063】
[ガラス組成]
表1に示す2種類のガラス組成を用いた。ここで、組成1は本発明のガラス繊維強化樹脂成形品に用いるガラス繊維のガラス組成であり、組成2はEガラス組成に相当する。
【0064】
【表1】

[樹脂]
ポリアミド樹脂(表中、PAを表記する)として、UBE NYLON 1015B(商品名、宇部興産株式会社製)を用いた。
【0065】
ポリブチレンテレフタレート樹脂(表中、PBTとして表記する)として、ジュラネックス 2000(商品名、ポリプラスチックス株式会社製)を用いた。
【0066】
[引張強度]
ガラス繊維強化樹脂成形品の引張強度は、ISO527−1,2に準拠して測定した。
【0067】
[ノッチ付きシャルピー衝撃強さ]
ガラス繊維強化樹脂成形品のノッチ付きシャルピー衝撃強さは、ISO179に準拠して測定した。
【0068】
[誘電率]
ガラス繊維強化樹脂成形品の誘電率は、JIS C 2565に準拠して測定した。測定周波数は10GHzである。
【0069】
[誘電正接]
ガラス繊維強化樹脂成形品の誘電正接は、JIS C 2565に準拠して測定した。測定周波数は10GHzである。
【0070】
〔実施例1−2、比較例1−2〕
表2に示すとおり、前記組成1又は2を備える円形断面又は長円形断面を有するガラス繊維と、ポリアミド樹脂とからなるガラス繊維強化樹脂成形品について、ガラス繊維が前記組成1を備え、円形断面を備える場合を実施例1、ガラス繊維が前記組成1を備え、長円形断面を備える場合を実施例2、ガラス繊維が前記組成2を備え、円形断面を備える場合を比較例1、ガラス繊維が前記組成2を備え、長円形断面を備える場合を比較例2として、該ガラス繊維強化樹脂成形品の引張強度、ノッチ付きシャルピー衝撃強さ、誘電率及び誘電正接を評価した。
【0071】
なお、表2中、断面形状が長円形のガラス繊維における繊維径は、断面積を真円に換算したときの繊維径(換算繊維径)を意味する。
【0072】
【表2】

表2に示されるとおり、本発明に規定されるガラス組成を備える実施例1のガラス繊維強化樹脂成形品は、Eガラス組成を備える以外は実施例1と全く同一の構成を備える比較例1のガラス繊維強化樹脂成形品と比較して、引張強度は同等(比較例1を基準として差が±5.0%未満)であるが、ノッチ付きシャルピー衝撃強さが向上(比較例1を基準として上昇率が5.0%以上)しており、誘電率及び誘電正接が著しく低減(比較例1を基準として低下率が10.0%以上)していた。
【0073】
また、表2に示されるとおり、本発明に規定されるガラス組成を備える実施例2のガラス繊維強化樹脂成形品は、Eガラス組成を備える以外は実施例2と全く同一の構成を備える比較例2のガラス繊維強化樹脂成形品と比較して、引張強度は同等(比較例2を基準として差が±5.0%未満)であるが、ノッチ付きシャルピー衝撃強さが向上(比較例2を基準として上昇率が10.0%以上)しており、誘電率及び誘電正接が著しく低減(比較例2を基準として低下率が10.0%以上)していた。
【0074】
ここで、実施例1と比較例1との対比、及び、実施例2と比較例2との対比からわかるように、ガラス繊維の断面形状が非円形(長円形)である場合には、ガラス繊維の断面形状が円形である場合と比較して、本発明に規定されるガラス組成を用いることによる、ガラス繊維強化樹脂成形品のノッチ付きシャルピー衝撃強さの上昇効果が大きくなる。
【0075】
〔実施例3、比較例3〕
表3に示すとおり、前記組成1又は2を備える長円形断面を有するガラス繊維と、ポリブチレンテレフタレート樹脂とからなるガラス繊維強化樹脂成形品について、ガラス繊維が前記組成1を備える場合を実施例3、ガラス繊維が前記組成2を備える場合を比較例3として、該ガラス繊維強化樹脂成形品の引張強度、ノッチ付きシャルピー衝撃強さ、誘電率及び誘電正接を評価した。
【0076】
なお、表3中、断面形状が長円形のガラス繊維における繊維径は、断面積を真円に換算したときの繊維径(換算繊維径)を意味する。
【0077】
【表3】

表3に示されるとおり、本発明に規定されるガラス組成を備える実施例3のガラス繊維強化樹脂成形品は、Eガラス組成を備える以外は実施例3と全く同一の構成を備える比較例3のガラス繊維強化樹脂成形品と比較して、引張強度は同等(比較例3を基準として差が±5.0%未満)であるが、ノッチ付きシャルピー衝撃強さが向上(比較例3を基準として上昇率が5.0%以上)しており、誘電率が低減(比較例3を基準として低下率が5.0%以上)しており、誘電正接が著しく低減(比較例3を基準として低下率が10.0%以上)していた。