(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記規制部分の厚みは、前記ノズルが前記溶融金属に浸漬されるノズル浸漬深さが、目標とするノズル浸漬深さになったときに溶融完了するように設定される、請求項1または2に記載の双ロール鋳造装置。
【背景技術】
【0002】
双ロール鋳造装置によるアルミニウムや鉄等の金属ストリップの連続鋳造は、水平方向に対向配置された一対の鋳造ロールを冷却して相反方向に回転させ、当該鋳造ロール間に高温の溶融金属を供給して行われる。
【0003】
双ロール鋳造装置10を用いた双ロール鋳造法では、
図8に示すように、回転する鋳造ロール11a、11bの両端に耐火物製のサイド堰12a、12bを設置し、鋳造ロール11a、11b及びサイド堰12a、12bにより形成される空間13に高温の溶融金属5を貯留して溶融金属5の湯溜りを形成させる。高温の溶融金属5は、タンディッシュ14に収容され、ロール間隙(
図9の符号17)の上方に配置されたノズル15を通して、タンディッシュ14から空間13に供給される。そして、空間13に溶融金属5が供給されると、溶融金属5の湯溜りにおいて、内部を冷却されている鋳造ロール11a、11bの表面に凝固殻が形成される。凝固殻がロール間隙を通過する際に鋳造ロール11a、11bによって両側から貼り合わされるようにして送り出されることにより、ロール間隙からストリップ7となって取り出される。
【0004】
双ロール鋳造装置により製造されるストリップ等の鋳片には、幅方向になるべく均一な厚みと組織を有することが要求される。このため、鋳造ロールの表面に向かって開口し、鋳造ロールの回転軸方向に沿って形成されたスリット状あるいは複数の開口からなる吐出口を有するノズルを用いて、鋳造ロールの表面に溶融金属を供給することが行われている(例えば、特許文献1〜3)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献1〜3のようなノズルを使用した場合、溶融金属5の供給開始時には、
図9に示すように、高温の溶融金属5はノズル15の吐出口16から鋳造ロール11a、11bの表面に対して水平方向に吐出される。
図8に示したような溶融金属5の湯溜まりが形成された定常状態では、ノズル15から吐出された溶融金属5は湯溜まりによって吐出速度が弱められ、高温の溶融金属5が鋳造ロール11a、11bの表面に直接衝突することはない。しかし、溶融金属5の供給開始時は、湯溜まりが形成されていないため、ノズル15から吐出した溶融金属5が高温の噴流として鋳造ロール11a、11bの表面に衝突する。また、溶融金属5の供給開始時、鋳造ロール11a、11bは回転されていないため、
図10に示すように鋳造ロール11a、11bの一部の表面に高温の熱衝撃が与えられることになる。
【0007】
また、溶融金属5の供給開始時では、溶融金属5は吐出口16の開口と対向する鋳造ロール11a、11bの表面に集中的に供給されるため、鋳造ロール11a、11bのキッシングポイントより周方向上方において温度が高くなる。このため、
図11に示すように、鋳造ロール11a、11bはキッシングポイントより周方向上方において回転軸方向に膨張して、キッシングポイント付近において耐火物製のサイド堰12a、12bと鋳造ロール11a、11bと間に隙間が形成されてしまう。
【0008】
この隙間から溶融金属5が漏れると、製造された鋳片には端部にバリが生じる。生じたバリが大きいと、鋳片が鋳造方向に移動する際にサイド堰12a、12bの耐火物面を傷めてしまい、さらなる溶融金属5の漏れにつながり、さらには、鋳片の破断や大量の溶融金属5の漏洩による鋳造中止にもつながる。また、サイド堰12a、12bと接触している鋳造ロール11a、11bの端面も傷めてしまい、鋳造ロール11a、11bの補修も必要となる。
【0009】
例えば特許文献4には、発生するバリへの対策として、サイド堰の溶融金属と接する面に開口を形成し、鋳片の幅方向に厚みの小さい横バリを発生させるように構成された双ロール式連続鋳造装置が開示されている。しかし、特許文献4では、バリカッターで除去しやすい横バリを意図的に発生させることで縦バリの発生を抑制するものであり、バリの発生自体を抑制するものではない。このため、バリを除去する作業は必要である。
【0010】
そこで、本発明は、上記問題に鑑みてなされたものであり、本発明の目的とするところは、バリの発生を抑制することが可能な、新規かつ改良された双ロール鋳造装置及び双ロール鋳造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するために、本発明のある観点によれば、
鋳片を鋳造する双ロール鋳造装置であって、一対の鋳造ロールと、鋳造ロールの回転軸方向両端に設けられたサイド堰と、鋳造ロールのロール間隙上方に配置され、略水平方向に開口し、鋳造ロールと対向するように形成された吐出口から鋳造ロールとサイド堰により形成される空間に溶融金属を供給するノズルと、ノズルの吐出口から吐出される溶融金属が鋳造ロールへ衝突するのを防止するための規制部分
と、規制部分を支持する支持部分とを有する吐出方向規制部材と、を備え、規制部分は、ノズルの吐出口の開口方向において、吐出口と当該吐出口と対向する鋳造ロールとの間に配置され、鋳片を鋳造する金属の融点よりも低い融点を有する材料から形成され、溶融金属の供給開始時から溶融金属にノズルの吐出口全体が浸漬されるまでは少なくとも存在し、その後溶融完了する厚みを有
し、支持部分は、規制部分と同一材質にて形成され、定常状態での溶融金属の湯面位置より上方に設けられ、当該支持部分が溶解する温度とならない双ロール鋳造装置の構成部材に取り付けられる、双ロール鋳造装置が提供される。
【0012】
規制部分の吐出口と対向する面は、鋳造ロールの回転軸方向及び鉛直方向に平行となるように配置されてもよい。
【0013】
また、規制部分の厚みは、ノズルが溶融金属に浸漬されるノズル浸漬深さが、目標とするノズル浸漬深さになったときに溶融完了するように設定されてもよい。
【0014】
また、上記課題を解決するために、本発明の別の観点によれば、上述の双ロール鋳造装置を用いて鋳片の鋳造を行う、双ロール鋳造方法が提供される。
【0015】
このとき、鋳造開始時にダミーシートを用いてもよい。
【発明の効果】
【0016】
以上説明したように本発明によれば、バリの発生を抑制することができる。鋳片端部での疵の発生や端部のトリム等の歩留まり落ちの要因であったバリの発生が抑制されるので、鋳片の鋳造歩留まりを向上できるとともに、鋳造ロール等のロールメンテナンスの負荷を軽減することができる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
【0019】
<1.双ロール鋳造装置の構成>
まず、
図1〜
図4を参照して、本発明の一実施形態に係る吐出方向規制部材を備える双ロール鋳造装置の概略構成について説明する。
図1は、本実施形態に係る吐出方向規制部材を備える双ロール鋳造装置の概略構成を示す概略側面図であって、溶融金属の供給開始時の状態を示す。
図2は、
図1の平面図である。
図3は、本実施形態に係る吐出方向規制部材を備える双ロール鋳造装置の概略構成を示す概略側面図であって、溶融金属の湯溜まりが形成された定常状態を示す。
図4は、
図3の平面図である。
【0020】
本実施形態に係る双ロール鋳造装置100は、
図8に示した一般的な双ロール鋳造装置10の構成と略同一であり、ノズルから鋳造ロールとサイド堰により形成される空間へ供給される溶融金属の吐出方向を規制する吐出方向規制部材を備える点で相違する。すなわち、本実施形態に係る双ロール鋳造装置100は、
図1に示すように、一対の鋳造ロール110a、110bと、サイド堰120a、120bと、ノズル150と、吐出方向規制部材180とを備える。
【0021】
一対の鋳造ロール110a、110bは、供給された溶融金属5を冷却して凝固させ、鋳片を形成させる。鋳造ロール110a、110bは、所定の大きさの間隙(「ロール間隙」ともいう。)を有して略水平方向に対向して配置されている。鋳造ロール110a、110bは内部を冷却されており、溶融金属5を冷却して凝固殻を形成させる。鋳造ロール110a、110bのロール間隙の上方には、タンディッシュ(図示せず。)から溶融金属5を供給するノズル150が配置されている。ノズル150から溶融金属5の供給が開始されると、鋳造ロール110a、110bの上部側の表面とサイド堰120a、120bの内面とにより形成される空間に溶融金属5が貯留されていき、湯溜まりを形成する。溶融金属5は、ノズル150の吐出口160が溶融金属5に浸漬されるくらいまで貯留される。
【0022】
図3及び
図4に示すように、溶融金属5の湯溜まりが形成され、定常状態となると、鋳造ロール110a、110bは、当該鋳造ロール110a、110bの表面に形成された凝固殻を下方へ送り出すように互いに逆回転となるように回転される。凝固殻は、ロール間隙を通過する際に鋳造ロール110a、110bによって両側から貼り合わされるようにして送り出されることで、ロール間隙からストリップ7となって取り出される。
【0023】
サイド堰120a、120bは、鋳造ロール110a、110bとともに溶融金属5の湯溜まりを形成させる耐火物製の板状部材である。サイド堰120a、120bは、鋳造ロール110a、110bの両端に設けられ、例えば鋳造ロール110a、110bの回転軸の高さ位置から上端までの鋳造ロール110a、110b間を覆うように設けられる。これにより、溶融金属5の湯溜まりを形成させるための空間を形成することができる。
【0024】
ノズル150は、タンディッシュ(図示せず。)に収容された溶融金属5を鋳造ロール110a、110b及びサイド堰120a、120bにより形成される空間に供給する。ノズル150は、略水平方向に開口する吐出口160が鋳造ロール110a、110bと対向するように形成されている。本実施形態において、吐出口160は、
図2に示すように、各鋳造ロール110a、110bについて、回転軸方向(Y軸方向)に沿ってそれぞれ4つの開口部161〜164、165〜168が形成されている。これにより、製造される鋳片の厚みを幅方向に均一にし易くなる。なお、吐出口160の形状はかかる例に限定されず、開口部の数は4つ以外でもよく、鋳造ロールの回転軸方向に沿った1本のスリット状の開口としてもよい。
【0025】
吐出方向規制部材180は、鋳造ロール110a、110b及びサイド堰120a、120bにより形成される空間にノズル150から溶融金属5の供給が開始された供給開始時に、吐出口160から吐出する溶融金属5の吐出方向を規制する部材である。吐出方向規制部材180は、
図1に示すように、一対の規制部材180a、180bからなり、各鋳造ロール110a、110bに対応して設けられる。規制部材180aは、当該部材を設備に固定させるための支持部181aと、支持部181aから突出する突出部183aとからなる。同様に、規制部材180bも、支持部181bと突出部183bとからなる。突出部183a、183bは、対向する吐出口160(開口部161〜164、165〜168)と所定の距離だけ離隔した位置に配置される。突出部183a、183bは、吐出口160から吐出する溶融金属5を受け止め、流れの向きを変更する規制部分である。
【0026】
吐出方向規制部材180は、鋳造ロール110a、110b及びサイド堰120a、120bにより形成される空間への溶融金属5の供給開始時に、吐出口160から吐出された溶融金属5がそのまま吐出口160の開口と対向する鋳造ロール110a、110bの表面に向けて流れないようにするために設けられる。一方で、溶融金属5の湯溜まりが形成された定常状態では、介在物の鋳片への混入を抑制するために溶融金属5が湯溜まりに水平方向に供給されるのがよい。そこで、本実施形態では、鋳片を鋳造する金属の融点よりも低い融点を有する材料を用いて吐出方向規制部材180を形成する。これにより、鋳造ロール110a、110bへの溶融金属5の供給開始時には突出部183a、183bが存在し、溶融金属5の湯溜まりの湯面高さが所定の位置となったときには突出部183a、183bは溶融するようにし、溶融金属5の供給開始時に吐出口160の開口と対向する鋳造ロール110a、110bの表面へ高温の溶融金属5が衝突するのを防止することができる。ここで、突出部183a、183bの吐出口と対向する面が、鋳造ロールの回転軸方向及び鉛直方向に平行となるように配置されれば、溶融金属5の供給開始時の吐出流がキッシングポイントへ向かうので望ましい。
【0027】
<2.吐出方向規制部材>
以下、
図5に基づいて、吐出方向規制部材180の構成について、より詳細に説明する。
図5は、本実施形態に係る双ロール鋳造装置100の吐出方向規制部材180の構成を説明するための説明図である。
【0028】
吐出方向規制部材180は、鋳造ロール110a、110b及びサイド堰120a、120bにより形成される空間への溶融金属5の供給開始時から所定の期間、吐出口160から吐出された溶融金属5が噴流として鋳造ロール110a、110bへ直接衝突しないようにする部材であり、本実施形態では、鋳片を鋳造する金属の融点よりも低い融点を有する材料を用いて形成される。吐出方向規制部材180に用いる材料は、鋳造する金属と成分が近いものが望ましい。
【0029】
また、吐出方向規制部材180の突出部183a、183bには吐出口160から吐出する溶融金属5が衝突する。このため、突出部183a、183bは、溶融金属5が衝突しても容易に変形することなく溶融貫通して消失するように、所定の厚みを持たせて形成するのがよい。より具体的には、突出部183a、183bの厚みは、溶融金属5の供給開始時から溶融金属5に吐出口160全体が浸漬されるまでは少なくとも存在するように設定する。ここで、溶融金属5の湯面からノズル150の下端までの距離をノズル浸漬深さとすると、溶融金属5の湯面の上昇に伴ってノズル150が溶融金属5に浸漬されていくことで変動するノズル浸漬深さは、目標とするノズル浸漬深さ(以下、「目標ノズル浸漬深さ」ともいう。)になったときに溶融完了するように設定されるのが望ましい。
【0030】
目標ノズル浸漬深さは、少なくとも吐出口160全体が溶融金属5に浸漬する状態となるノズル浸漬深さに設定する必要がある。この条件を満たす中で、ノズル浸漬深さを浅く設定するほど吐出流が下方へ向かう時間が短くなるため、介在物の鋳片への混入が抑制される。しかし、その一方で、ノズル浸漬深さを浅く設定し過ぎると操業時に吐出口160全体が溶融金属5に浸漬する前に突出部183a、183bが溶融完了する可能性が高まる。したがって、吐出口160全体が溶融金属5に浸漬する前に突出部183a、183bが溶融完了しないノズル浸漬深さの範囲を検討し、目標ノズル浸漬深さを設定するのがよい。目標ノズル浸漬深さを深く設定するほど、溶融金属5の供給開始から目標ノズル浸漬深さとなるまでの時間が長くなるので、突出部183a、183bの厚みwは厚く設定される。
【0031】
突出部183a、183bの厚みwは、通常10〜30mm程度とされる。また、吐出方向規制部材180は、薄板を束ねて形成したものを用いてもよい。なお、目標ノズル浸漬深さを定常状態でのノズル浸漬深さよりも浅く設定すれば、突出部183a、183bが溶融完了後も、溶融金属5の湯面は定常状態になるまで上昇する。
【0032】
例えば、突出部183a、183bについて、初期温度を常温(例えば300K)とし、一片側は断熱条件、他片側は供給される溶融金属5の温度条件を仮定する。そして、突出部183a、183bの密度、比熱、熱伝導率、溶融潜熱を与えて非定常伝熱計算し、突出部183a、183bのすべてが固相線温度以上になる時間を算出する。なお、完全溶融条件は液相線温度であるが、固液共存域でも注入流が貫通する可能性があるので、安全をとって固相線温度以上となる時間を算出する。そして、算出された時間と、設定された操業条件で溶融金属5が定常状態時の湯面位置に到達する時間とを比較することにより、突出部183a、183bに必要な厚みを決定することができる。
【0033】
なお、突出部183a、183bが溶融するまでは、突出部183a、183bが変形せずに吐出口160からの吐出流が下方に向かう所望の流れとなるように、突出部183a、183bを支持する支持部181a、181bの支持構造を強固にして変形を抑制することが望ましい。支持部181a、181bは、突出部183a、183bと同一材質から形成してもよいが、この場合、定常状態での溶融金属5の湯面位置より上方に設けるようにする。また、支持部181a、181bを突出部183a、183bと同一材質にて形成した場合、例えば支持部181a、181bをノズル150に固定させると、ノズル150は溶融金属5が流れて高温となっていることから、支持部181a、181bが溶融してしまう可能性がある。このため支持部181a、181bは、例えば
図5に示すように、支持部181a、181bが溶解するような高温とならない双ロール鋳造装置100の構成部材等に取り付けるようにするのがよい。支持部181a、181bを取り付ける部材としては、例えば溶融金属5の湯溜まりに挿入されるスカム堰190を支持する支持部材191、その他の支持部材193等を用いることができる。
【0034】
また、吐出方向規制部材180の突出部183a、183bの下端は、
図5に示すように、吐出口160の下端よりも下方に位置するように設けられる。突出部183a、183bの下端が吐出口160の下端の位置Lより上方にあると、吐出口160からの溶融金属5の吐出流が突出部183a、183bからすり抜けてしまい、吐出口160の開口と対向する鋳造ロール110a、110bの表面へ高温の溶融金属5が衝突してしまう。このため、鋳造ロール110a、110bの局所的な温度上昇を十分に抑制できず、鋳造ロール110a、110bがキッシングポイントより周方向上方において回転軸方向へ膨張する可能性がある。したがって、吐出方向規制部材180の突出部183a、183bの下端は、吐出口160の下端よりも下方に位置するように設けるのがよい。
【0035】
なお、吐出方向規制部材180と鋳造ロール110a、110bとの距離dは、特に限定はされないが、少なくとも吐出方向規制部材180と鋳造ロール110a、110bとが接触しないようにする必要がある。
【0036】
このような本実施形態に係る双ロール鋳造装置100を用いることで、溶融金属5の供給開始時の鋳造ロール110a、110bの局所的な加熱が抑制される。
【0037】
ここで、双ロール鋳造においては、鋳造後に鋳片を巻き取る都合上、鋳造開始時にはダミーシートと呼ばれる薄板が配置される。
図6に、従来の双ロール鋳造装置におけるダミーシート19a、19bの配置と、溶融金属5の供給開始時の状態を示す。
図6に示すように、ダミーシート19a、19bは、キッシングポイントより上方まで鋳造ロール11a、11bに沿うように配置され、溶融金属5が凝固した凝固殻と結合されて鋳造をガイドする。このダミーシート19a、19bは冷却材も兼ねており、溶融金属5がロールに直接衝突しないようにする機能も有する。ダミーシート19a、19bが設けられているキッシングポイント付近のロール温度は、溶融金属5が衝突しても温度上昇が抑制されるため、他の部分と比較して低くなる。このため、
図6のように溶融金属5がダミーシート19a、19bに接触する部分と、鋳造ロール11a、11bと直接接触する部分とが存在すると、鋳造ロール11a、11bの回転軸方向への膨張がより顕著となる可能性がある。
【0038】
そこで、
図6に示したようなダミーシート19a、19bの上方で溶融金属5が鋳造ロール11a、11bと直接接触する部分がなくなるように、ダミーシート19a、19bをさらに上方まで設け、鋳造ロール11a、11bの局所的な加熱を抑制することも考えられる。しかし、鋳造ロール11a、11bのキッシングポイントより周方向上方に長くダミーシート19a、19bを設けると、ダミーシート19a、19bに衝突した溶融金属5が凝固して形成される凝固層は、ダミーシート19a、19bが設けられていない場合よりもさらに厚くなる。このため、その後鋳造が開始されると、分厚い凝固層がキッシングポイントを通過する際に鋳造ロール11a、11bのロール間隙を大きく押し広げることとなり、鋳造開始時の鋳造トラブルに繋がる。したがってダミーシート19a、19bは上方まで延設することができず、吐出口から吐出された溶融金属5が鋳造ロール11a、11bに直撃することを避けることができない。
【0039】
このように冷却材として機能するダミーシート19a、19bが配置されていても、溶融金属5の吐出流が吐出口の開口と対向する鋳造ロール11a、11bの表面に直撃するため、鋳造ロール11a、11bはキッシングポイントより周方向上方において局所的に加熱されて回転軸方向に膨張する。そして、鋳造ロール11a、11bに一定の圧力で押し付けられているサイド堰12a、12bが押し広げられ、キッシングポイント付近において鋳造ロール11a、11bとサイド堰12a、12bとの間に定常的な隙間が生ずるようになる。したがって、溶融金属5の供給が進むにつれて、溶融金属5の一部は鋳造ロール11a、11bとサイド堰12a、12bとの隙間に浸潤し、鋳片のバリとなる。
【0040】
一方、
図7に示す本実施形態に係る双ロール鋳造装置では、吐出方向規制部材180が設けられていることで、供給開始時の溶融金属5の流れは、吐出方向規制部材180の突出部183a、183bに衝突して、下方に向けられる。これにより、鋳造ロール110a、110b上に設置されたダミーシート195a、195bに対して溶融金属5を落下させることができ、ダミーシート195a、195bを周方向に延設することもなく、溶融金属5が鋳造ロール110a、110bに直撃しないようにすることができる。ダミーシート195a、195bは冷却材としても機能するため、鋳造ロール110a、110bの局所的な温度上昇が防止され、回転軸方向への膨張は抑制される。したがって、鋳造ロール110a、110bとサイド堰120a、120bとの隙間から溶融金属5が漏れ出ることがなく、バリの発生を抑制できる。
【0041】
また、従来は、
図9に示したように、鋳造ロール11a、11bの表面に吐出された溶融金属5は、鋳造ロール11a、11bの表面上で回転軸方向には殆ど広がることなく上方へ広がっていた。このため、鋳造ロール11a、11bによる冷却で、鋳造ロール11a、11bの回転軸方向中央部に厚い凝固層が形成される。このような状態から鋳造開始により鋳造ロール11a、11bの回転が始まると、鋳造ロール11a、11bの回転軸方向中央部に形成された凝固層は下方に移動し、鋳造ロール11a、11bのロール間隙17を通過する。この際、一時的にロール間隙17を広げることとなり、鋳造開始時の鋳造トラブルに繋がる。一方、
図7に示す本実施形態に係る双ロール鋳造装置では、吐出方向規制部材180を設けることで、供給された溶融金属5が鋳造ロール110a、110bの表面に沿って上方へ広がることも抑制され、鋳造開始時の鋳造トラブルの発生も抑制することができる。
【実施例】
【0042】
実施例として、本発明の吐出方向規制部材が設けられた双ロール鋳造装置を用いたときの、鋳片のバリ発生状況について検証した。
【0043】
本実施例では、幅400mm、直径600mmの鋳造ロールを備える双ロール鋳造装置において、鋳造速度0.9m/s、厚み1.5mmの鋳片を接触弧角45°で鋳造した。鋳造ロールに対する溶融金属の供給は、外厚み30mmのフラットノズルを用いて行った。当該フラットノズルは、内厚み20mm、内幅170mm、内容量4.2Lであり、定常状態における湯溜まりの湯面に対する吐出口中心の浸漬深さは25mmとした。フラットノズルはスリット状の吐出口を有し、吐出口の開口が鋳造ロールと対応するように配置した。吐出口の寸法は高さ8mm、幅170mmとし、幅方向2箇所に、スリット幅が等間隔となるように強度確保のための10mm幅の支柱がある。そして、吐出口の開口方向において、吐出口と鋳造ロールとの間に吐出方向規制部材を配置した。吐出方向規制部材は、C:1.00質量%、Mn:0.45質量%、P:0.023質量%、S:0.038質量%を含有する鋼板(液相線温度1470℃、固相線温度1450℃)から形成した。
【0044】
溶融金属は、C:0.25質量%、Si:0.35質量%、Mn:0.90%質量、P:0.040質量%、S:0.006質量%を含有する鋼(液相線温度1520℃、固相線温度1500℃)とし、フラットノズル上方に設けられているタンディッシュ内に、供給開始前温度1600℃の溶融金属を深さ300mmで貯留した状態で、タンディッシュとノズルとの連通状態を設定するストッパーを全開状態相当に設定し、鋳造ロールへの溶融金属の供給を開始した。このとき、タンディッシュからノズルへは、直径40mmの羽口ノズルを介して溶融金属を注入した。このときの溶融金属の流量は3L/sであった。定常状態における溶融金属の湯面は、鋳造ロールのキッシングポイントから210mm上方にあり、湯溜まりの容積は4.8Lであった。すなわち、ノズル内の容積と湯溜まりの容積との合計は9Lであり、注入速度3L/sであることから、約3秒で定常状態における溶融金属の湯面位置に到達する条件であった。吐出方向規制部材の突出部の厚さは、予め上述の計算により算出し、3mmとした。
【0045】
なお、比較例として、吐出方向規制部材を備えていない従来の双ロール鋳造装置を用いて鋳造された鋳片のバリの発生状況を検証した。
【0046】
鋳造された鋳片50mmについて、バリの発生状況を検証したところ、まず、比較例として、吐出方向規制部材を備えていない従来の双ロール鋳造装置を用いて鋳造された鋳片には、最大2mm、平均0.5mmのバリが発生していた。一方、本発明の吐出方向規制部材が設けられた双ロール鋳造装置により製造された鋳片では、最大のバリは0.2mmであり、平均も0.1mm未満であった。以上より、本発明の吐出方向規制部材を備えた双ロール鋳造装置を用いることで、バリの発生が抑制されることがわかる。これより、鋳片の鋳造歩留まりを向上できるとともに、鋳造ロール等のロールメンテナンスの負荷が軽減されることが期待できる。
【0047】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について詳細に説明したが、本発明はかかる例に限定されない。本発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、これらについても、当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。