(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
連続鋳造鋳片の製造では、鋳型内においてパウダーやアルミナ等の非金属介在物が凝固シェル内に捕捉される。凝固シェルの内部に捕捉された非金属介在物は、連続鋳造された鋳片を熱間圧延して鉄鋼製品を製造する際に表面疵の原因となる。特に薄板製品の表面疵は連続鋳造鋳片の表面から20mm以内の表層部に存在する非金属介在物に起因して発生することが多い。
【0003】
表面疵の原因となる非金属介在物は鋳片段階では鋳片表層部に存在しており、場所が特定できないため、表面品質に厳格な製品では鋳片全面に対して鋳片表層のスカーフィングを行って鉄分ごと除去するか、さらにスカーフィング後に露出した非金属介在物を研削することにより、鉄鋼製品としての品質確保を図るのが一般的である。
【0004】
鋳片などの被検査体の疵検査については以下のような技術が開示されている。
特許文献1では、赤色光を自発光する高温鋳片の疵検査技術として、自発光と干渉しない短波長光源を用いて光切断法によって被検査体表面の凹凸情報を取得すると共に、被検査体の表面輝度画像情報を取得し、これら双方の情報に基づいて被検査体表面の凹凸疵を検査する技術が開示されている。これにより、被検査体表面に模様やスケールがあっても精度のよい検査が可能になるとされている。
特許文献2では、被検査材表面を撮像して疵有無の一次判定を行い、一次判定で疵有り二次検査要と判定されたものについて画像表示装置に画像を表示し、判定員が表示された画像を観察して疵有無の二次判定を行う技術が開示されている。これにより、本来合格とすべき被検査材を疵有り不合格とする過検出、及び本来疵有り不合格とすべき被検査材を合格としてしまう未検出をともに極少にして精度の高い疵検査を行うことが可能になるとされている。
特許文献3では、周波数10MHz以上の超音波を用いて垂直超音波探傷法により鋳片の内部に存在する非金属介在物又は気泡を検査するに際して、鋳片の表面を研削して鋳片の表面に対して0.03〜0.2ラジアンの傾斜角を有する傾斜平面を形成し、該傾斜平面上で探触子を走査して超音波探傷を行う技術が開示されている。これにより、鋳片の表面から20mm程度迄に存在する非金属介在物等の欠陥の深さ方向の分布を簡便かつ迅速に検査することが可能になるとされている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
近年、省エネルギー化を図るため、連続鋳造した鋳片を常温まで冷却せず高温のまま熱間圧延工程に搬送して圧延するホットチャージローリングが行われている。そのため、高温のまま鋳片の疵検査が可能な技術が求められている。
特許文献1や特許文献2に記載の技術は、高温のままの連続鋳造鋳片表面に発生した疵を見つけることはできるものの、鋳片段階では表面に露出しておらず熱間圧延時に表面疵発生の原因となる、連続鋳造鋳片の表層部に存在する非金属介在物に起因する欠陥(以下、「介在物系欠陥」と呼ぶ。)を捉えることはできない。
また、特許文献3記載の技術は、鋳片の表面から20mm程度迄に存在する非金属介在物の検査が可能であるが、連続鋳造した鋳片を一旦常温まで冷却することが必要であり、高温のままの鋳片の疵検査は不可能である。
【0007】
本発明はかかる事情に鑑みてなされたもので、従来、発見が困難であった
製品時の表面疵となる介在物系欠陥を、鋳片が高温のままで発見して除去することが可能な連続鋳造鋳片
の表層欠陥処理方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するため、本発明は、
連続鋳造設備と熱間圧延設備の間のラインに設置され、前記連続鋳造設備から排出される鋳片を幅圧下する幅圧下装置と、前記幅圧下装置で幅圧下された鋳片の表面を検査する検査装置と、前記検査装置によって発見された前記鋳片の表面疵を除去する精整装置とを備える、連続鋳造鋳片の表層欠陥処理設備を用いて鋳片の表層部に存在する介在物系欠陥を発見して除去する方法であって、
予め鉄鋼製品ごとに、製品時の表面疵となる介在物系欠陥を鋳片表面に露出させるための幅圧下比を求め、前記連続鋳造設備から排出される鋳片を
前記幅圧下比で幅圧下
し、前記幅圧下された鋳片の表面を検査
し、前記検
査によって発見された前記鋳片の表面疵を除去す
ることを特徴としている。
【0010】
本発明では、連続鋳造設備から排出される鋳片を幅圧下することによって、
製品時の表面疵となる介在物系欠陥を鋳片表面に露出させるので、幅圧下後の鋳片の表面を検査することにより、高温のままで
製品時の表面疵となる介在物系欠陥を容易に発見して除去することができる。
【0011】
また、
本発明に係る連続鋳造鋳片の表層欠陥処理方法では、前記
幅圧下比は(1)式
で求めることを好適とする。
α≧K/(d/t)+1 (1)
ここで、α:
製品時の表面疵となる介在物系欠陥を鋳片表面に露出させるための幅圧下比、K:定数、d:鉄鋼製品時の疵幅[mm]、t:鋳造時換算疵深さ[mm]
【0012】
なお、「鋳造時換算疵深さ」は、鉄鋼製品時の疵深さに、鋳片の厚さ/鉄鋼製品の厚さを乗じたものである。
【0013】
当該構成では、幅圧下工程における鋳片の幅圧下比の下限値を規定することにより、
製品時の表面疵となる殆ど全ての介在物系欠陥を幅圧下によって鋳片表面に露出させることができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、連続鋳造設備から排出される鋳片を幅圧下することによって、
製品時の表面疵となる介在物系欠陥を鋳片表面に露出させるので、鋳片が高温のままで介在物系欠陥を容易に発見して除去することができる。その結果、後工程の熱間工程での表面疵の発生を減少させることができる。
また、介在物系欠陥を表面に露出させることにより疵の有無が判断できるので、疵部位の部分手入れを行うだけでよく、歩留ロスを最小限に抑えることができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
続いて、添付した図面を参照しつつ、本発明を具体化した実施の形態について説明し、本発明の理解に供する。
【0017】
[本発明の技術思想]
製品時の表面疵となる介在物系欠陥は、表面に露出していないため、鋳片段階の検査において発見することは従来、不可能であった。その結果、次工程(例えば熱間圧延工程)において、鉄鋼製品に表面疵として顕在化し、品質/歩留の観点から悪影響を及ぼしていた。その対策として、介在物系欠陥の発生部以外も含む鋳片表面全面にスカーフィングを行うことで、鋳片表面〜数mmの範囲での欠陥除去を図っており、過剰対応によって歩留ロスを招いている。
そこで、本発明では、この介在物系欠陥を鋳片段階にて表面に露出させることにより、表面疵発現部位のみを精整する技術を提案する。
【0018】
図1は、鋳片の表層欠陥を発見して除去するプロセスについて従来方法と本発明による方法とを比較したものである。
従来例1は、鋳片表面のみ検査する方法であるため、鋳片表面に露出していない介在物系欠陥を発見することができず、鉄鋼製品において表面疵が発現している。
また、従来例2は、鋳片表層部を全てスカーフィングする方法である。従来例2では、製品品質が厳格な対象に対して、熱間圧延工程で表面疵の原因となる介在物系欠陥の有無に関わらず溶削除去を行うことによって製品品質を維持するが、鉄分ロスが多大であり、歩留の観点から好ましくない。
一方、本発明では、連続鋳造設備から排出される鋳片を幅圧下することによって、
製品時の表面疵となる介在物系欠陥を鋳片表面に露出させる。そして、グラインダー等により介在物系欠陥周辺のみを熱間精整(除去)するので、製品品質を維持しつつ歩留ロスを最小限に抑えることができる。
【0019】
[鋳片段階での介在物系欠陥露出の有無と、幅圧下比、製品時の疵幅、鋳造時換算疵深さとの関係]
図4(A)〜(C)は、介在物系欠陥によって鉄鋼製品に発生する表面疵を模式的に示したものである。鋳片段階では表層部に埋没していた介在物系欠陥が熱間圧延によって表面に露出して表面疵になることを示している。表面疵の幅は、介在物系欠陥のサイズとほぼ同じである。
【0020】
熱間圧延工程において、表層の介在物を起点として表面疵が発現した材質の異なる鉄鋼製品A及びBのコイルについて、表面疵部の外観から疵幅を算出すると共に、表面疵部の断面を調査して疵深さを測定した(
図4(B)、(C)参照)。
【0021】
疵深さに(鋳片の厚さ/鉄鋼製品の厚さ)を乗じて算出される鋳造時換算疵深さと製品時の疵幅との関係として示したグラフが
図5である。疵幅は起点となった介在物系欠陥のサイズを表わし、鋳造時換算疵深さは介在物系欠陥の深さ位置を表す。
同図より、疵幅が大きいほど、即ち介在物系欠陥のサイズが大きいほど、深い位置のものまで表面疵となることがわかる。また、同じ介在物系欠陥でも製品によって表面疵となる深さが変わることがわかる。
【0022】
また、
図5に示すように、表面疵が発生する領域と表面疵が発生しない領域を分かつ境界線を、製品ごとに引くことができる。この境界線は原点を通る直線であり、各直線より下側では表面疵の発生が見られない。この直線の傾きは、鉄鋼製品時の疵幅d/鋳造時換算疵深さtであり、各製品について、熱間圧延時に表面疵となるd/tの下限値を示している。製品Aではd/t=1.01、製品Bではd/t=1.51である。
【0023】
製品A及びBについて、鋳片段階で幅圧下を行い、介在物系欠陥の露出の有無を確認した後、欠陥を除去する手入れを行わずに熱間圧延して、発生した表面疵の疵幅と疵深さを測定すると共に、鋳片を幅圧下した段階で各表面疵が露出していたかどうか整理した。その結果を、横軸にd/t、縦軸に幅圧下比を採り、
図6に示す。ここで、幅圧下比は、幅圧下前の鋳片の幅を幅圧下後の鋳片の幅で除した値である。
幅圧下による介在物系欠陥の露出の有無が製品Aでは実線で示す境界線、製品Bでは破線で示す境界線で区別できる。それぞれの境界線よりも大きな幅圧下比の幅圧下を鋳片に加えることで、熱間圧延で発生する介在物起因の表面疵を鋳片段階で発現させることが可能となる。
【0024】
[
製品時の表面疵となる介在物系欠陥を鋳片表面に露出させるための幅圧下比]
図6に示す表面疵を鋳片段階で発現させることができる領域は、(2)式のように表現できる。本発明では、
製品時の表面疵となる介在物系欠陥を鋳片表面に露出させるための幅圧下比を(2)式を用いて求める。
α≧K/(d/t)+1 (2)
ここで、α:
製品時の表面疵となる介在物系欠陥を鋳片表面に露出させるための幅圧下比、K:定数、d:鉄鋼製品時の疵幅[mm]、t:鋳造時換算疵深さ[mm]
【0025】
上式における定数Kは、鋼種ごとに回帰分析等により求めておく必要がある。
図6の例では、鉄鋼製品Aの定数Kは0.462、鉄鋼製品Bの定数Kは0.320である。
【0026】
鉄鋼製品A及びBにおいて、熱間圧延時に欠陥となり得る全ての疵を鋳片段階で露出させるために必要となる最小幅圧下比を算出した一例を
図7に示す。最小幅圧下比を求める際のd/tは
図5に示す下限値であり、前述したように、鉄鋼製品Aではd/t=1.01、鉄鋼製品Bではd/t=1.51である。
d/tとKをそれぞれ(2)式に代入して、
製品時の表面疵となる介在物系欠陥を鋳片表面に露出させるための幅圧下比αを求めると、鉄鋼製品Aではα≧1.46、鉄鋼製品Bではα≧1.21となる。
【0027】
[本発明の一実施の形態に係る連続鋳造鋳片
の表層欠陥処理方法]
本発明の一実施の形態に係る
連続鋳造鋳片の表層欠陥処理方法を実施する、連続鋳造鋳片の表層欠陥処理設備10のブロック図を
図2に示す
。連続鋳造鋳片の表層欠陥処理設備10は、連続鋳造設備14と熱間圧延設備15の間のラインに設置されており、連続鋳造設備14から排出される鋳片を幅圧下する幅圧下装置11と、幅圧下装置11で幅圧下された鋳片の表面を検査する検査装置12と、検査装置12によって発見された鋳片の表面疵を除去する精整装置13とを備えている。
また、本実施の形態では、連続鋳造設備14から排出された鋳片を、連続鋳造鋳片の表層欠陥処理設備10に搬送する前に加熱できるように、加熱炉16が設置されている。
なお、熱間圧延設備15には、熱間圧延前に鋳片を加熱する加熱炉を含む。
【0028】
次に、本発明の一実施の形態に係る連続鋳造鋳片の表層欠陥処理方法の手順について、
図2のブロック図及び
図3のフロー図を用いて説明する。
(1)連続鋳造工程(ST10):連続鋳造設備14を用いて鋳片を製造する。
(2)加熱工程(ST12):連続鋳造設備14によって製造された鋳片の温度が1080℃未満の場合、加熱炉16に鋳片を投入し、1080℃以上に加熱する。
【0029】
(3)幅圧下工程(ST11):連続鋳造設備14から直接、あるいは加熱炉16によって加熱された後、表層欠陥処理設備10に鋳片が搬送され、幅圧下装置11によって幅圧下される。その際、鋳片の幅圧下量は(2)式を満足することが望ましい。
(4)検査工程(ST13):幅圧下された鋳片の表面を検査装置12を用いて検査する。検査方法としては、特許文献1や特許文献2に記載されている方法を用いることができる。高温状態にある鋳片は赤熱しているため、その自発光と干渉しない短波長の光源(青色)を用いることが有効である。
【0030】
(5)精整工程(ST14):検査工程(ST13)において鋳片表面に疵が発見された場合、精整装置13により、疵部位の部分除去が行われる。
(6)熱間圧延工程(ST15):検査装置12から直接、あるいは精整装置13によって精整された後、熱間圧延設備15に鋳片が搬送され、加熱された後、熱間圧延される。
【0031】
以上、本発明の一実施の形態について説明してきたが、本発明は何ら上記した実施の形態に記載の構成に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載されている事項の範囲内で考えられるその他の実施の形態や変形例も含むものである。
【実施例】
【0032】
本発明の効果について検証するために実施した検証試験について説明する。
実施例三条件と従来例一条件について検証試験を実施した。その結果を表1に示す。
実施例では、加熱炉にて1080℃に昇温した鋳片を表1に示す幅圧下比で幅圧下を行った後、鋳片表面の疵検査を熱間で行った。一方、従来例では幅圧下を行わず、鋳片表面の疵検査を熱間で行った。そして、疵を確認した鋳片については熱間精整による部分手入れを行った後、疵が発見されなかった鋳片については精整工程を経ることなく、熱間圧延工程へ払い出した。
【0033】
製造した鋳片は、いずれも鉄鋼製品C([C]が0.03〜0.05質量%の低炭素アルミキルド鋼)である。なお、予め求めた鉄鋼製品Cのd/tは1.17、Kは0.49であり、これらを(2)式に代入するとα≧1.42であった。
【0034】
条件を変えて各条件ごとに鋳片を100本製造し、鋳片段階で発見した介在物系欠陥数の平均値と、製品で発見した表面疵数の平均値について調査した。その結果を表1に示す。評価は、製品の表面疵が5個以上を×(不可)、1〜4個を○(良)、0個を◎(優良)とした。
【0035】
【表1】
【0036】
表1より以下のことがわかる。
・従来例の場合、幅圧下しなかったため、
製品時の表面疵となる介在物系欠陥を露出させることができず、熱間圧延で多数の表面疵が発生した。
・実施例1の場合、鋳片段階の幅圧下を行ったことで介在物系欠陥の一部を露出させ除去することができたが、幅圧下比が1.42未満であったため、
製品時の表面疵となる介在物系欠陥を全て露出させることができず、製品時に表面疵が若干発生した。
・実施例2及び3の場合、幅圧下比が1.42以上であったため、
製品時の表面疵となる介在物系欠陥を全て露出させることができ、製品時に表面疵が発生しなかった。