【実施例1】
【0025】
5レベル電力変換器では、2E,E,NP,−E,−2Eのいずれかの電圧を出力する際には、各相4個の半導体スイッチがオンしており、表1に示す5つの相電圧(出力電圧)の状態(N=55,44,33,22,11)に対応する。この5個の状態間を遷移する際に通過するのがデッドタイム状態であり、各相3個の半導体スイッチがオンしている4個の状態(N=54,43,32,21)を持つ。
【0026】
【表2】
【0027】
表2で示すようにデッドタイム状態では、遷移前と遷移後に共通の3個の半導体スイッチがオンしており、電流の向きにより相電圧は遷移前もしくは遷移後の状態となる。このように定義されたデッドタイム状態を通過することで、直流側の電源短絡を防止するだけでなく、遷移毎の相電圧の変動を±Eに抑制でき、スイッチング時の相電圧変動を抑制できる。
【0028】
ここで、デッドタイム中でのスイッチ素子のオン、オフ状態の遷移(ゲート状態遷移)について説明する。
【0029】
図7の5レベル電力変換器では、相電圧レベルが2E→EまたはE→2Eに移行するとき、S1とS2の同時オンによる短絡状態を回避するために、S1とS2を同時にオフさせる期間(デッドタイム)を設ける。同様に、相電圧レベルが−2E→−Eまたは−E→−2Eに移行するとき、S7とS8の同時オンによる短絡状態を回避するために、S7とS8を同時にオフさせる期間(デッドタイム)を設ける。
【0030】
デッドタイムにおける動作例として、状態遷移信号N=55(相電圧レベル:2E)からN=44(相電圧レベル:E)へ遷移する際の動作を
図1に示す。
図1の破線は、出力電流Iが正の場合の電流経路である。一点鎖線は、出力電流Iが負の場合の電流経路である。
【0031】
N=55では、電流の向きによらず出力電圧は2Eとなる。N=55からN=44へ遷移する際に通過するデッドタイム状態がN=54であり、N=44とオン状態が重なるS3,S4,S7はそのままに、S1をオフさせてN=55からN=54に遷移する。
【0032】
N=54では、電流が正の場合は電流がS2の還流ダイオードを通るために出力電圧はEになり、電流が負の場合はS1の還流ダイオードを通るため、出力電圧は2Eとなる。所定のデッドタイム期間はN=54に状態を固定し、デッドタイム期間とする。
【0033】
所定のデッドタイム期間が経過後にS2をオンさせてN=54からN=44へ遷移する。N=44では、電流の向きによらず出力電圧はEとなる。このように、遷移前から遷移後へ移動させる際に1個ずつスイッチング状態を変化させ、半導体スイッチのゲート状態を変化させることで、デッドタイム処理を実現する。
【0034】
本発明では、さらにこのスイッチング状態の遷移(ゲート状態遷移)を、デッドタイム中だけではなく装置の起動時や停止時に対しても拡張するもので、2個の素子がオンしているN=53,42,31の3状態、1個の素子がオンしているN=52,41の2状態、全ての素子がオフ状態であるN=51の1状態をそれぞれ定義する。
【0035】
各スイッチング状態間の遷移はゲート信号の変化が半導体スイッチ1個のみの状態で可能であり、
図2のゲート状態遷移図に示すように制限される。このようにゲートの信号状態を変化させることで、起動と停止時においても相電圧の急変を抑制する。
【0036】
表3に、各状態遷移番号Nにおける相電圧(出力電圧)とスイッチ状態を示す。表中の「1」はスイッチオン状態、「0」はスイッチオフ状態を示す。
【0037】
【表3】
【0038】
図3は、停止処理時のN=55からN=51へ遷移する際に、
図2による遷移制限を行った場合の遷移状態を示したものである。
【0039】
図8に示すN=55からゲート信号を全て同時にオフする場合とは異なり、
図2に示す状態遷移図によりN=55→54→53→52→51と遷移を制限すれば、遷移毎の電圧変化は±Eに抑制できる。これにより、装置停止時に相電圧の変化量を最少にできる。
【0040】
また、過電流などによる一時的なゲートブロック状態(一定の短時間のみ、各スイッチのゲート信号をオフさせる状態)からの復帰時においても有効であり、ゲート信号全停止状態のN=51から、N=55,44,33,22,11のいずれかの状態に直接遷移すると2E以上の相電圧変化が発生する可能性があるが、
図2に示すように遷移することで、相電圧の変化量を±Eに抑制できる。本発明では、このゲートブロック状態からの復帰の動作も、起動処理動作の一種とみなす。
【0041】
したがって、実施例1によれば、予め決められたパターンでゲートを操作することで相電圧の変化量を最少に抑制でき、かつ定常運転中のデッドタイム処理と起動・停止処理を共通に実施できるものである。
【0042】
なお、本発明は、
図7に示す3相変換器以外にも適用でき、1相、2相、4相以上の5レベル電力変換器にも適用できるものである。
【実施例2】
【0043】
図4は第2の実施例に適用されるマルチレベル電力変換装置の単相分の構成図を示したもので、この電力変換装置についいては特許文献3の
図23によって公知となっている。
【0044】
直流モジュールDMは、端子A(+2E)と端子B(+E)との間に直列接続された第9,第10半導体スイッチSa,Sbと、端子B(+E)と端子C(NP)との間に直列接続された第11,第12半導体スイッチSc,Sdと、端子C(NP)と端子D(−E)との間に直列接続された第13,第14半導体スイッチSe,Sfと、端子D(−E)と端子E(−2E)との間に直列接続された第15,第16半導体スイッチSg,Shと、第9,第10半導体スイッチSa,Sbの中間と、第11,第12半導体スイッチSc,Sdの中間との間に接続された第1フライングキャパシタFCPと、第13,第14半導体スイッチSe,Sfの中間と、第15,第16半導体スイッチSg,Shの中間との間に接続された第2フライングキャパシタFCNと、端子A(+2E)と端子C(NP)との間に接続された第1直流電源DCPと、端子E(−2E)と端子C(NP)との間に接続された第2直流電源DCNと、を備えている。
【0045】
なお、相モジュールPMについては、特許文献3の
図23では半導体スイッチとして2直列のIGBT(Su4a,Su4bとSu5a,Su5b)および2直列ダイオード(Du1a,Du1bとDu2a,Du2b)となっているが、
図4で示す相モジュールPMでは1つのIGBT(S5,S4)、1つのダイオード(D2,D1)で表しており、他の相モジュールPMは
図7と同一構成であることからその説明を省略する。
【0046】
直流モジュールDMは、4つのキャパシタ(第1,第2直流電源DCP,DCN,第1,第2フライングキャパシタFCP,FCN)と8つの半導体スイッチSa〜Shにより構成されている。各相モジュールPMの入力端子a〜eを、直流モジュールDMの出力端子A〜Eに並列に接続する。3相の場合には、相モジュールが3台、直流モジュールDMの出力端子A〜Eに接続されることになる。
【0047】
また、直流モジュールDMは、第1,第2直流電源DCP,DCNの電圧を2E[V]、第1,第2フライングキャパシタFCP,FCNの電圧をE[V]に保つ。これにより、直流モジュールDMの出力端子A〜Eの電位は、NP点を基準として表4となり、相モジュールPMは直流モジュールDMの電位を選択することで5つの電位を出力する。また、端子Oに電流Iが流れ、これにより、5レベル電力変換器が構成される。
図4における半導体スイッチのスイッチングパターンを表5に示す。
【0048】
【表4】
【0049】
【表5】
【0050】
ここで、相モジュールPMの電圧出力指令を[+2E],[+E],[NP],[−E],[−2E]とし、直流モジュールDMの電圧指令を[DD],[CD],[DC],[CC]とする。電圧出力指令[+2E]は、中性点端子Nに対しての出力端子Oの電圧指令が2Eであることを意味する。[+E],[NP],[−E],[−2E]も同様である。電圧出力指令[NP]は、中性点端子NPに対しての出力端子Oの電圧指令が0Vであることを意味する。
【0051】
また、直流モジュールDMの電圧指令の[D]は電流Iが正のときの放電指令、[C]は充電指令を意味する。電圧指令の1つ目は第1フライングキャパシタFCPの指令、2つ目は第2フライングキャパシタFCNの指令である。例えば、電圧指令[CD]の場合、第1フライングキャパシタFCPは充電指令、第2フライングキャパシタFCNは放電指令を意味する。また、表5中の1はゲートオン(ゲート信号がオン状態)、0はゲートオフ(ゲート信号がオフ状態)を意味する。半導体スイッチは、ゲートオン時にオン状態、ゲートオフ時にオフ状態となる。
【0052】
図4に示すような5レベル電力変換器において、すべての半導体スイッチのゲート信号を同時にオフにして装置を停止する場合を例に挙げる。この場合、スイッチ特性によって各半導体スイッチがオフとなる順序がばらつく恐れがある。これにより、(相電圧であるO端子−NP端子間電圧)の変化が±2E以上となるレベルスキップが発生して、モータ等の負荷に対して過度な電圧サージが印加される可能性がある。
【0053】
実施例1では、
図2で示すように相モジュールの半導体スイッチのゲートオフの順序を規定することで、相電圧のレベルスキップを抑制していたが、これは、
図7のNP端子に対しての+2E端子、+E端子、−E端子、−2E端子の各電位が安定しているという前提条件で動作する。しかし、
図4ではこれらの電位を出力する直流モジュールDMにも半導体スイッチが存在するため、装置の停止動作において、相モジュールPMの半導体スイッチより先に直流モジュールDMの半導体スイッチがオフした場合、相電圧にレベルスキップが発生する可能性がある。
【0054】
実施例2では、直流モジュールDMに半導体スイッチを用いた場合のレベルスキップを防止するものである。
【0055】
装置の停止時に、直流モジュールの半導体スイッチをゲートオフする時間に遅延を持たせ、相モジュールの半導体スイッチのゲートオフがすべて終わってから、直流モジュールの半導体スイッチをゲートオフする。すなわち、実施例1で示した相モジュールの半導体スイッチのゲートオフ順序の後に、直流モジュールの半導体スイッチのゲート信号をオフする。そのためには、ゲート信号はゲート指令信号とゲートイネーブル信号の論理積で出力される場合、ゲートイネーブル信号に待機時間を設ければ実現可能になる。この待機時間中は、直流モジュールの半導体スイッチのゲート信号は変化させないことになる。
【0056】
図5に基づいて具体的に説明する。
図5は装置停止時の各半導体スイッチのゲートイネーブル信号を示したもので、直流モジュールDMの半導体スイッチSa〜Shのゲート信号は、時刻t0で表5の[DD],[CD],[DC],[CC]で示す何れかの状態を待機時間中に保持する。これにより、待機時間中にSa〜Shはオン→オフに変化することがないため、直流モジュールDMの出力端子の電位は表4の値に保持される。したがって、待機時間中に相モジュールPMの半導体スイッチS1〜S8が
図5に示す順序でゲートオフしても、レベルスキップは発生しない。
【0057】
装置の起動時も同様の動作を行う。起動時の動作は
図6を用いて説明する。直流モジュールDMの半導体スイッチSa〜Shのゲート信号は、時刻t0で表5の[DD],[CD],[DC],[CC]で示す何れかの状態を待機時間中に保持する。
【0058】
これにより、待機時間中にSa〜Shのゲート信号は変化することがないため、直流モジュールの出力端子の電位は表1の値のいずれかに保持される。したがって、待機時間中に相モジュールの半導体スイッチが
図6に示す順序でゲートオンしても、レベルスキップは発生しない。そして、すべての相モジュールの半導体スイッチS1〜S8のゲートイネーブル信号がオン状態となった時に待機時間が終了して、Sa〜Shのゲート信号の変化を許可する。
【0059】
直流モジュール用の待機時間は、相モジュールの遮断シーケンス時間(起動もしくは停止時に相モジュールのスイッチング状態の遷移が完了するのに要する時間)にデッドタイムを加算した値以上であればよい。そこで遮断シーケンス時間をTseq_ph、デッドタイムTd、待機時間をTseq_dcとすると遮断に必要な時間は下式で表現される。
Tseq_dc ≧ Tseq_ph + Td
以上、この実施例によれば、半導体スイッチを直流モジュールに使用したマルチレベル電力変換装置において、装置の起動および停止時に直流モジュールの出力端子の電位が変化しないため、相モジュールの出力に意図しない電位変動(レベルスキップ)の発生を防止することができる。また、意図しない電位変動がないため、モータ等の負荷に過度なサージ電圧が印加されず、これによって負荷の劣化が防止され、負荷の寿命が向上するものである。