(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、実施形態について、添付の図面を参照して説明する。
【0016】
(第1の実施形態)
図1は、第1の実施形態に係る液浸冷却装置及び液浸冷却システムを示す模式図である。また、
図2は、冷却装置及び水冷ジャケットを示す模式図である。ここでは、電子装置がサーバの場合について説明している。
【0017】
図1に示すように、電子装置10は、密閉された空間を有する筐体11と、筐体11内に配置された配線基板20とを有する。配線基板20には、CPU(演算処理装置)12、メモリ(Dual Inline Memory Module:DIMM)13、ハードディスク14、インターフェースカード15及び電源ユニット16等が接続されている。
【0018】
筐体11内には不活性で絶縁性が高い液体の冷媒17が入っており、メモリ13、ハードディスク14、インターフェースカード15及び電源ユニット16は、冷媒17中に浸漬されている。但し、CPU12は支持台19を介して配線基板20上に搭載されており、冷媒17の液面よりも上の位置に配置されている。また、CPU12の下には、冷媒17を撹拌するための撹拌機(ファン)24が設けられている。
【0019】
なお、筐体11の上蓋はねじで固定されており、ねじを緩めて上蓋を取り外すことにより、配線基板20の保守管理等が可能である。また、撹拌機24は必要に応じて設ければよく、必須ではない。CPU12は第1の発熱部品の一例であり、支持台19は支持部材の一例であり、冷媒17は第1の冷媒の一例である。
【0020】
電子装置10の大きさ及び形状は、一般的な1Uサーバの大きさ及び形状と同じに設定されている。このため、電子装置10は1Uサーバ用ラック(例えば、24Uラック、32Uラック、及び42Uラック等)に搭載することができる。1Uサーバの大きさは、高さが約45mm(1.75インチ=1U)、幅が約485mm(19インチ)である。
【0021】
本実施形態では、冷媒17として、水よりも沸点が低いものを使用する。そのような冷媒として、例えば3M社のフッ素系不活性液体(フロリナート(商標))PF−5052及びFC−72がある。PF−5052の沸点は50℃、密度は1700kg/m
3(25℃)、比熱は1050J/kgK、熱伝導度は0.062W/mKである。また、FC−72の沸点は56℃、密度は1680kg/m
3(25℃)、比熱は1050J/kgK、熱伝導度は0.059W/mKである。
【0022】
CPU12の上には、水冷ジャケット18が取り付けられている。水冷ジャケット18は銅又はアルミニウム等の熱伝導率が高い材料により形成された薄板状の部材であり、
図2に示すように、内部には冷却水が通流する流路18aが設けられている。CPU12と水冷ジャケット18との間には、両者を熱的に接続する熱伝導性シート(図示せず)が配置されている。
【0023】
水冷ジャケット18は、配管21a,21bを介して筐体11の外に配置された冷却装置22と接続されている。配管21aの途中にはポンプ23が設けられており、このポンプ23により冷却装置22と水冷ジャケット18との間を冷却水が循環する。水冷ジャケット18は液冷ジャケットの一例であり、冷却水は第2の冷媒の一例である。また、冷却装置22は第1の冷却装置の一例である。
【0024】
図2に示すように、冷却装置22は、例えば冷却水が通流するジグザグに湾曲した冷却管22aと、冷却管22aに接続した多数の放熱用のフィン22bと、フィン22b間に冷風を送るファン(送風機)22cとを有する。
【0025】
後述するように、冷却装置22には電子装置10で暖められた高温の冷却水が流入するが、冷却水は冷却管22aを通る間にフィン22b間を通る空気(冷風)と熱交換して冷却される。そして、冷却装置22から電子装置10に低温の冷却水が供給される。
【0026】
本実施形態では、1台の冷却装置22に複数の電子装置10が接続され、1台の冷却装置22から複数の電子装置10に冷却水を供給するものとする。冷却装置22として、市販の空冷式又は水冷式のチラー(冷却水循環装置)を用いてもよい。
【0027】
図3は、電子装置10を収納したラック29を示している。
【0028】
図3に示すように、ラック29は、複数(
図3では4台)の電子装置10を高さ方向に配列させて収納する。各電子装置10は、スライドレール(図示せず)を介してラック29に接続されており、保守点検時等にはスライドレールをスライドさせることで、電子装置10をラック29から容易に引き出すことができる。
図3中の符号29aは、電子装置10をラック29に固定するための固定具(ねじ)を示している。
【0029】
電子装置10をラック29内に収納すると、コネクタ(図示せず)を介して電子装置10とラック29内に敷設された配線(LANケーブル等)とが電気的に接続される。
【0030】
なお、
図3では小型のラック(1Uサイズの電子装置10を4台収納した4Uラック)を示しているが、前述したように本実施形態の電子装置10は1Uサーバ用のラックに搭載することができる。例えば32Uラックを使用した場合、上下方向に最大32台の電子装置10を搭載することができる。
【0031】
以下、本実施形態に係る液浸冷却システムの動作について、
図1及び
図4を参照して説明する。
図4は、熱の移動を示している。ここでは、冷却装置22から電子装置10に常温(20℃)の冷却水が2L(リットル)/minの流量で供給されるものとする。
【0032】
電子装置10の稼働にともなって、CPU12、メモリ13、ハードディスク14、インターフェースカード15及び電源ユニット16等で熱が発生する。但し、CPU12では多量の熱が発生するが、メモリ13、ハードディスク14、インターフェースカード15及び電源ユニット16等で発生する熱は比較的少ない。以下、説明の便宜上、液体の冷媒17中に浸漬したメモリ13、ハードディスク14、インターフェースカード15及び電源ユニット16等の部品をまとめて「メモリ13等の部品」と呼ぶ。
【0033】
CPU12で発生した熱は水冷ジャケット18に伝達され、更に水冷ジャケット18内を通る冷却水に伝達される。CPU12で発生した熱が水冷ジャケット18を介して冷却水に移動することにより、CPU12の温度はCPU12の許容上限温度以下に維持される。
【0034】
水冷ジャケット18内を通る冷却水は、CPU12から伝達された熱により温度が上昇する。ここでは、水冷ジャケット18から排出される冷却水の温度は、26℃〜29℃であるとする。
【0035】
一方、メモリ13等の部品で発生した熱は、メモリ13等の部品の周囲の冷媒17に伝達される。熱が冷媒17に移動することより、メモリ13等の部品の過度の温度上昇が回避されるとともに、冷媒17の温度が上昇する。
【0036】
冷媒17の温度が高くなると、冷媒17が蒸発しやすくなる。液体の冷媒17が蒸発して気体になるときには、周囲から蒸発熱を奪う。そして、気体となった冷媒17は、液面よりも上の空間に移動する。そのため、筐体11内の液面よりも上の空間は、冷媒17の蒸気で満たされた状態になる。
【0037】
なお、冷媒17の気泡がメモリ13等の部品に付着すると、メモリ13等の部品から液体の冷媒17への熱の移動が阻害されるおそれがある。しかし、本実施形態では、撹拌機27により液体の冷媒17を撹拌するので、メモリ13等の部品への気泡の付着が抑制される。
【0038】
配管21a,21bには冷媒17の沸点よりも低い温度(例えば、20℃〜29℃)の冷却水が流れている。そのため、配管21a,21bの近傍では、冷媒17の蒸気が冷却されて凝縮し、液体になる。このとき、凝縮熱が放出されて、配管21a,21b内を通る冷却水の温度が上昇する。配管21a,21bを通る冷却水の流量にもよるが、冷媒17の凝縮熱による冷却水の温度上昇は数℃程度である。冷媒17の凝縮を促進するために、配管21a,21bに吸熱用のフィンを設けてもよい。
【0039】
液体となった冷媒17は、例えば配管21a,21bに付着してある程度大きくなった後、重力により落下する。
【0040】
このように、本実施形態では、CPU12(発熱量が大きい部品)で発生した熱は水冷ジャケット18に移動し、水冷ジャケット18から冷却水を介して冷却装置22に輸送される。また、メモリ13等の部品(発熱量が小さい部品)で発生した熱は、液体と気体とに相変化する冷媒17を介して配管21a,21bまで移動し、更に配管21a,21b内を通る冷却水を介して冷却装置22に輸送される。そして、冷却装置22では、冷却水を介して輸送されてきた熱を大気中に放散する。
【0041】
その結果、本実施形態では、発熱量が大きい部品だけでなく、発熱量が小さい部品も十分に冷却することができる。
【0042】
また、本実施形態において、1台の電子装置10の冷却に必要な冷媒17の量は、電子装置10の体積よりも少ない。従って、本実施形態によれば、電子装置全体を冷媒中に浸漬して冷却する従来の方法に比べて、冷媒の使用量が少なくてすむ。更に、電子装置10は一般的な1Uサーバと大きさ及び形状が同じであるので、例えば32Uラックを使用した場合は高さ方向に最大32台まで搭載することができる。従って、本実施形態によれば、電子装置1台あたりの設置床面積が少なくてすむ。
【0043】
これらのことから、本実施形態によれば、液浸槽内の冷媒中に電子装置全体を浸漬する従来の方法に比べて、液浸冷却システムの構築コストを大幅に削減できる。
【0044】
更にまた、上述したように電子装置10は、一般的な1Uサーバ用ラックに搭載できるので、特定の電子装置(例えば異常が発生した電子装置)をラックから容易に取り出すことができる。従って、電子装置10のメンテナンス性が良好である。
【0045】
(第2の実施形態)
図5は、第2の実施形態に係る液浸冷却システムを示す模式図である。
図5において、
図1と同一物には同一符号を付している。
【0046】
本実施形態においても、電子装置10aは、密閉された空間を有する筐体11と、筐体11内に配置された配線基板20とを有する。配線基板20には、CPU12、メモリ13、ハードディスク14、インターフェースカード15及び電源ユニット16等が搭載されている。
【0047】
筐体11内には不活性で絶縁性が高い液体の冷媒17aが入っており、メモリ13、ハードディスク14、インターフェースカード15及び電源ユニット16は、冷媒17a中に浸漬されている。
【0048】
第1の実施形態と同様に、CPU12は支持台19を介して配線基板20上に搭載されており、冷媒17aの液面よりも上の位置に配置されている。また、CPU12の上には水冷ジャケット18が取り付けられている。電子装置10aの大きさ及び形状は、一般的な1Uサーバの大きさ及び形状と同じに設定されている。
【0049】
本実施形態では、冷媒17aとして、蒸発しにくいものを使用する。そのような冷媒として、例えば3M社のフロリナート(商標)FC−40又はFC−43を用いることができる。FC−40の沸点は155℃、密度は1870kg/m
3(25℃)、比熱は1050J/kgK、熱伝導度は0.067W/mKである。また、FC−43の沸点は174℃、密度は1880kg/m
3(25℃)、比熱は1050J/kgK、熱伝導度は0.067W/mKである。
【0050】
水冷ジャケット18は、配管21a,21bを介して筐体11の外に配置された冷却装置28と接続されている。配管21aの途中にはポンプ23が設けられており、このポンプ23により冷却装置28と水冷ジャケット18との間を冷却水が循環する。
【0051】
本実施形態では、冷却装置28として、水冷式又は空冷式のチラーを用いている。冷却装置28から電子装置10aには、例えば温度が15℃の冷却水が供給される。冷却水は第2の冷媒の一例であり、冷却装置28は第1の冷却装置の一例である。
【0052】
また、筐体11の外には冷却装置25が配置されており、冷却装置25と電子装置10aの筐体11とは配管27a,27bが接続されている。冷却装置25は、例えば第1の実施形態の冷却装置22(
図2参照)と同様の構造を有している。すなわち、冷却装置25は、冷媒17aが通流する冷却管と、冷却管に接続した多数の放熱用のフィンと、フィン間に冷風を送るファン(送風機)とを有している。
【0053】
配管27aの途中にはポンプ26が設けられており、このポンプ26により筐体11と冷却装置25との間で冷媒17aが循環する。後述するように、筐体11内の高温の冷媒17aはポンプ26により冷却装置25に輸送され、冷却装置25において外気と熱交換する。そして、冷却装置25から筐体11内に、低温(例えば、20℃)の冷媒17aが供給される。冷媒17aは第1の冷媒の一例であり、冷却装置25は第2の冷却装置の一例である。
【0054】
以下、本実施形態に係る液浸冷却システムの動作について、
図5及び
図6を参照して説明する。
図6は熱の移動を示している。
【0055】
ここでは、冷却装置28から電子装置10aに温度が15℃の冷却水が2L(リットル)/minの流量で供給されるものとする。また、冷却装置25から電子装置10aに温度が20℃の冷媒17aが2L(リットル)/minの流量で供給されるものとする。
【0056】
電子装置10aの稼働にともなって、CPU12及びメモリ13等の部品で熱が発生する。CPU12で発生した熱は水冷ジャケット18に伝達され、更に水冷ジャケット18内を通る冷却水に伝達される。CPU12で発生した熱が水冷ジャケット18を介して冷却水に移動することにより、CPU12の温度はCPU12の許容上限温度以下に維持される。
【0057】
また、CPU12から伝達された熱により、水冷ジャケット18内を通る冷却水の温度が上昇する。ここでは、水冷ジャケット18から排出される冷却水の温度は、26℃〜27℃であるとする。この高温の冷却水は冷却装置28に輸送され、冷却装置28で冷却された後、水冷ジャケット18に送られる。
【0058】
一方、メモリ13等の部品で発生した熱は、メモリ13等の部品の周囲の冷媒17aに移動する。熱が冷媒17aに移動することにより、メモリ13等の部品の過度の温度上昇が回避されるとともに、冷媒17aの温度が上昇する。
【0059】
筐体11内の高温の冷媒17aは、ポンプ26により冷却装置25に送られ、外気と熱交換を行って温度が下がる。そして、冷却装置25から電子装置10aに低温の冷媒17aが供給される。
【0060】
本実施形態においても、CPU12(発熱量が大きい部品)は水冷ジャケット18内を通る冷却水により冷却し、メモリ13等の部品(発熱量が小さい部品)は冷媒17aに浸漬して冷却する。そして、1台の電子装置10aの冷却に必要な冷媒17aの量は、電子装置10aの体積よりも少ない。
【0061】
従って、本実施形態によれば、電子装置全体を冷媒中に浸漬して冷却する従来の方法に比べて、電子装置1台あたりの冷媒使用量が少なくてすむ。
【0062】
また、電子装置10aは一般的な1Uサーバと大きさ及び形状が同じであるので、多数の電子装置10aを高さ方向に配列させて収納でき、電子装置全体を浸漬する従来の方法に比べて電子装置1台あたりの設置床面積が小さくですむ。
【0063】
これらのことから、本実施形態によれば、液浸冷却システムの構築コストを大幅に削減できる。また、電子装置10aは、一般的な1Uサーバ用ラックに搭載することが可能であり、メンテナンス性が良好である。
【0064】
以下、本実施形態の冷却能力をシミュレーションした結果について、比較例と比較して説明する。
【0065】
図7は比較例の電子装置の透視図であり、
図8は実施例の電子装置の透視図である。また、
図9は、比較例及び実施例の部品構成を示す図である。更に、
図10はシミュレーション条件を示す図であり、CPU、メモリ及びハードディスクの発熱量と、冷媒の種類、流量、及び温度とを示している。
【0066】
図7に示すように、比較例の電子装置30は、2個のCPU(CPUモジュール)32と、3台のハードディスク(HDD)34と、4枚のメモリ(DIMM)33と、2組の電源ユニット36と、1枚のインターフェースカード(I/Fカード)35と、2枚のRAIDカード(図示せず)とを有する。
【0067】
電子装置30内には不活性冷媒(フッ素化合物)が充填されており、CPU32、ハードディスク34、メモリ33、電源ユニット36、インターフェースカード35、及びRAIDカードはいずれも冷媒中に浸漬されている。
【0068】
そして、電子装置30は配管を介して外部の冷却装置に接続されており、電子装置30と冷却装置との間で冷媒が循環するようになっている。
図7中の符号37aは冷媒入り口を示し、符号37bは冷媒出口を示している。
【0069】
比較例の電子装置30のサイズは、幅Wが484mm、長さLが380mm、高さHが45mmである。
【0070】
一方、
図8に示すように、実施例の電子装置40は、2個のCPU(CPUモジュール)42と、3台のハードディスク(HDD)44と、4枚のメモリ(DIMM)43と、2組の電源ユニット46と、1枚のインターフェースカード(I/Fカード)45と、2枚のRAIDカード(図示せず)とを有する。
【0071】
電子装置40内には不活性冷媒(フッ素化合物)が入れられており、ハードディスク44、メモリ43、電源ユニット46、インターフェースカード45及びRAIDカードはいずれも冷媒中に浸漬されている。但し、CPU42は冷媒の液面よりも上に配置されている。また、CPU42の上には水冷ジャケット48が搭載されている。
【0072】
水冷ジャケット48は配管を介して外部の第1の冷却装置に接続されており、第1の冷却装置と冷水ジャケット48との間で冷却水が循環する。
【0073】
また、電子装置40は配管を介して外部の第2の冷却装置に接続されており、電子装置40と第2の冷却装置との間で冷媒が循環するようになっている。
図8中の符号47aは冷媒入り口を示し、符号47bは冷媒出口を示している。
【0074】
実施例の電子装置40のサイズは、幅Wが484mm、長さLが470mm、高さHが45mmである。実施例の電子装置40の長さLが比較例の電子装置30の長さLよりも長いのは、冷却水が通る配管を配置するスペースが必要なためである。
【0075】
上記の条件、及び
図9,
図10に示す条件で比較例の電子装置30のCPU32の付近の温度と実施例の電子装置40のCPU42の付近の温度とをシミュレーションした。その結果、比較例ではCPU32の付近の温度が192℃となり、実施例ではCPU42の付近の温度が26℃〜27℃程度となった。
【0076】
このシミュレーション結果から、実施例の電子装置40ではCPU42を十分に冷却できることが確認された。