(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6790858
(24)【登録日】2020年11月9日
(45)【発行日】2020年11月25日
(54)【発明の名称】運転席用エアバッグ及び運転席用エアバッグ装置
(51)【国際特許分類】
B60R 21/2334 20110101AFI20201116BHJP
B60R 21/203 20060101ALI20201116BHJP
【FI】
B60R21/2334
B60R21/203
【請求項の数】2
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2017-7600(P2017-7600)
(22)【出願日】2017年1月19日
(65)【公開番号】特開2018-114879(P2018-114879A)
(43)【公開日】2018年7月26日
【審査請求日】2019年12月19日
(73)【特許権者】
【識別番号】318002149
【氏名又は名称】Joyson Safety Systems Japan株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100086911
【弁理士】
【氏名又は名称】重野 剛
(72)【発明者】
【氏名】越川 公裕
(72)【発明者】
【氏名】晝田 輝彦
(72)【発明者】
【氏名】吉川 浩通
【審査官】
鈴木 貴晴
(56)【参考文献】
【文献】
特開平04−221250(JP,A)
【文献】
特開2011−207357(JP,A)
【文献】
米国特許第05482318(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60R 21/16−21/33
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
フロントパネルとリアパネルの周縁同士を連結してなる運転席用エアバッグにおいて、
該リアパネルはタック部を備えており、
リアパネル上部にのみ該タック部が配置されているか、又はリアパネル下部よりもリアパネル上部に多くのタック部が配置されている運転席用エアバッグであって、
タック部として、左右方向に延在する第1タック部と、右上から左下に向って延在する第2タック部と、左上から右下に向って延在する第3タック部とを有し、
第2タック部と第3タック部とがリアパネルの上半部において交わることを特徴とする運転席用エアバッグ。
【請求項2】
請求項1に記載の運転席用エアバッグと、該運転席用エアバッグを膨張させるインフレータとを有することを特徴とする運転席用エアバッグ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車の衝突時に乗員を拘束するためのエアバッグ及びエアバッグ装置に係り、特に運転席用のエアバッグ及びエアバッグ装置に関する。本明細書において、運転席用エアバッグの上下及び左右は、運転席用エアバッグが車両直進状態にあるステアリングに取り付けられて、膨張した状態における上下及び左右を表わす。
【背景技術】
【0002】
ステアリングホイールに設けられた運転席用エアバッグ装置は、車両衝突時等の緊急時にインフレータ(ガス発生器)をガス噴出作動させ、エアバッグにガスを供給して、このエアバッグをステアリングホイールと運転席乗員との間に展開させるよう構成されている。
【0003】
運転席用エアバッグとして、フロントパネル及びリアパネルの周縁部同士を縫合したものが知られている。
【0004】
特許文献1には、ステアリングに設置されて膨張した状態において、下部よりも上部の厚みが大きい運転席用エアバッグが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2003−276546号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1の運転席用エアバッグは、フロントパネル及びリアパネルを帯状の中間パネルを介して縫合等により結合したものであり、フロントパネル、リアパネル及び中間パネルの3枚のパネルが必要である。
【0007】
本発明は、中間パネルを用いることなく構成された、ステアリングに設置されて膨張した状態において、下部よりも上部の厚みが大きい運転席用エアバッグを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の運転席用エアバッグは、フロントパネルとリアパネルの周縁同士を連結してなる運転席用エアバッグにおいて、リアパネルはタック部を備えており、リアパネル上部にのみ該タック部が配置されているか、又はリアパネル下部よりもリアパネル上部に多くのタック部が配置されていることを特徴とするものである。
【0009】
本発明の運転席用エアバッグ装置は、この運転席用エアバッグと、インフレータとを有する。
【0010】
本発明の一態様の運転席用エアバッグは、タック部として、左右方向に延在する第1タック部と、右上から左下に向って延在する第2タック部と、左上から右下に向って延在する第3タック部とを有する。
【0011】
本発明の一態様では、第2タック部と第3タック部とがリアパネルの上半部において交わる。
【発明の効果】
【0012】
本発明の運転席用エアバッグのリアパネルは、リアパネル上部にのみタック部が配置されているか、又は下部よりも上部に多くのタック部が設けられている。そのため、この運転席用エアバッグは、膨張完了状態にあっては、タック部が広がることにより、下部よりも上部の厚みが大きいものとなる。本発明の運転席用エアバッグは、中間パネルが不要である。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】実施の形態に係る運転席用エアバッグの膨張完了時の側面図である。
【
図2】実施の形態に係る運転席用エアバッグのフロントパネルの平面図である。
【
図3】
図3aは実施の形態に係る運転席用エアバッグのリアパネルの平面図、
図3b〜3dはその折り畳みを示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を参照して実施の形態について説明する。
【0015】
図1〜5は実施の形態に係る運転席用エアバッグ1を示している。このエアバッグ1は、乗員対向面を構成するフロントパネル2と、該乗員対向面と反対側(ステアリング側)を構成するリアパネル3とを備えている。フロントパネル2は円形のパネル(基布)よりなる。
【0016】
リアパネル3は、上下長さが左右幅よりも大きい縦長の左右対称の略々長円形状を有する。
【0017】
リアパネル3の上下方向中間よりも若干下部寄りの左右方向中央部にはインフレータ用開口5が設けられている。該インフレータ用開口5の周囲にボルト挿通用の小孔6が設けられている。インフレータ用開口5から所定距離離隔してベントホール7が設けられている。この実施の形態では、ベントホール7は2個設けられている。各ベントホール7,7は、インフレータ用開口5の中心から等距離に位置している。ベントホール7,7は、リアパネル3の左半側と右半側にそれぞれ設けられている。ベントホール7,7を結ぶ直線は、車両の左右幅方向に合致する。
【0018】
リアパネル3は、
図3a〜3dの通り、折り返し予定線11〜16に沿って折り返すことにより第1〜第3タック部21〜23(
図4〜6)を形成した後、フロントパネル2と縫合される。
【0019】
以下に、リアパネル3の形状とその折り返し方法について詳細に説明する。
【0020】
リアパネル3の下部外周縁は、フロントパネル2の下部外周縁2aと重なる第1円弧部3aとなっている。第1円弧部3aは、開口5の中心から等半径位に位置する。リアパネル3の左側辺部の外周縁は、下側が第2円弧部3bとなっており、上側が第3円弧部3cとなっている。リアパネル3の右側辺部の外周縁は、下側が第4円弧部3dとなっており、上側が第5円弧部3eとなっている。
【0021】
リアパネル3の上部は、上方へ張り出す張出部3Tとなっており、張出部3Tの外周縁が第6円弧部3fとなっている。これらの円弧部3a〜3fの曲率半径は、フロントパネル2の外周縁の曲率半径と同一である。
【0022】
第1円弧部3aの左右両端の点A,Lと第2,第4円弧部3b,3dの下端の点B,Kとの間は短い円弧部3g,3hとなっている。第2,第4円弧部3b,3dの上端の点C,Jと、第3,第5円弧部3c,3eの下端の点D,Iとの間は、短い円弧部3i,3jとなっている。第3,第5円弧部3c,3eの上端の点E,Hと、第6円弧部3fの左右両端の点F,Gとの間は短い円弧部3m,3nとなっている。これらの短い円弧部3g〜3j,3m,3nは、リアパネル3の外方に向って凸の円弧であり、その曲率半径は、円弧部3a〜3fの曲率半径と同一である。
【0023】
第1〜第6円弧部3a〜3fの開口5中心からの距離は、第6円弧部3fが最も大きく、第3、第5円弧部3c、3eが次に大きく、第2、第4円弧部3b、3dが次に大きく、第1円弧部3aが最も小さい、
【0024】
点C,Jを結ぶ直線が第1折り返し予定線11であり、点D,Iを結ぶ直線が第2折り返し予定線12である。点E,L間に第3折り返し予定線13が設置され、点F,K間に第4折り返し予定線14が設定されている。点A,H間に第5折り返し予定線15が設定され、点B,G間に第6折り返し予定線16が設定されている。
【0025】
第3,第4折り返し予定線13,14は、点E,Fと第2折り返し予定線12との間、及び第1折り返し予定線11と点L,Kとの間では、平行に右下り方向に延在している。第1,第2折り返し予定線11,12間では、第3,第4折り返し予定線13,14は平行に左下り方向に延在している。
【0026】
第5,第6折り返し予定線15,16は、点G,Hと第2折り返し予定線12との間、及び第1折り返し予定線11と点B,Aとの間では、平行に左下り方向に延在している。第1,第2折り返し予定線11,12間では、第5,第6折り返し予定線15,16は平行に右下り方向に延在している。
【0027】
図3bの通り、リアパネル3を、まず第1折り返し予定線11に沿って谷折りし、第2折り返し予定線12に沿って山折りし、第1タック部21を形成する。この折り返しにより、第2,第3円弧部3b,3cが連なり、第4,第5円弧部3d,3eが連なる。また、第3〜第6折り返し予定線13〜16はそれぞれ点E,L間、点F,K間、点A,H間、点B,G間に略一直線状に延在する。
【0028】
次に、
図3cの通り、リアパネル3を第3折り返し予定線13に沿って谷折りし、第4折り返し予定線14に沿って山折りし、第2タック部22を形成する。この折り返しにより、第3,第6円弧部3c,3fが連なり、第1,第4円弧部3a,3dが連なる。
【0029】
次に、
図3dの通り、リアパネル3を第5折り返し予定線15に沿って谷折りし、第6折り返し予定線16に沿って山折りし、第3タック部23を形成する。この折り返しにより、第6,第5円弧部3f,3eが連なり、第2,第1円弧部3b,3aが連なる。
【0030】
この結果、すべての円弧部3a〜3fがリアパネル3の中心から等半径の円周上に位置し、リアパネル3は円形の折り畳み体となる。
図3dに示す円形の折り畳み体の直径はフロントパネル2の直径とほぼ等しい。第2、第3タック部22,23同士の交角θは60〜120゜特に75〜105゜程度であることが好ましい。また、第2、第3タック部22,23同士の交点Pは、インフレータ用開口5よりも上位に位置する。交点Pと開口5の中心との距離は、フロントパネル2の半径の20〜70%特に30〜50%程度が好ましい。
【0031】
このリアパネル3の円形の折り畳み体を折り返し予定線14,16がフロントパネル2側となるようにフロントパネル2と重ね合わせ、フロントパネル2とリアパネル3折り畳み体の外周縁同士を縫合糸で縫合する。次いで開口5を通してフロントパネル2及びリアパネル3折り畳み体を反転させることにより、運転席用エアバッグ1が形成される。
【0032】
図示は省略するが、この運転席用エアバッグ1は、折り畳まれ、開口5にインフレータが装着され、リテーナに取り付けられ、モジュールカバーが被装され、運転席用エアバッグ装置が構成される。この運転席用エアバッグ装置がステアリング30(
図1)に装着される。インフレータが作動することにより、エアバッグ1が膨張する。
【0033】
このエアバッグ1のリアパネル3折り畳み体は、第1〜第3タック部21〜23を有している。第1タック部21の一部と第2,第3タック部22,23の大部分は、運転席用エアバッグ1の上半側(インフレータ用開口5よりも上側)に位置しているので、
図1の通り、最終展開状態における運転席用エアバッグ1の上部の膨張厚みが下部よりも大きい。また、このため、運転席用エアバッグ1の乗員対向面、特に乗員40の頭部付近を受け止める面が鉛直に近いものとなる。
【0034】
運転席用エアバッグ1は、上部の膨張厚み及び幅を、第2タック部22と第3タック部23との交角θにより調整できる。交角θが小さいほど、上部の膨張厚みが大きくなり、横幅は小さくなる。一方、交角θが大きいほど、上部の膨張厚みは小さくなり、横幅は大きくなる。
【0035】
上記実施の形態は本発明の一例であり、本発明は図示以外の形態とされてもよい。例えば、第1タック部21は2条以上設けられてもよい。第2、第3タック部22,23もそれぞれ2条以上設けられてもよい。リアパネル3の上部にのみタック部が配置されてもよい。第2、第3タック部22,23は、交差しなくてもよい。
【0036】
本発明では、フロントパネルとステアリング側とを連結するテザーを設けてもよい。
【符号の説明】
【0037】
1 運転席用エアバッグ
2 フロントパネル
3 リアパネル
3T 張出部
5 インフレータ用開口
7 ベントホール
11〜16 折り返し予定線
21〜23 タック部