(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記予め定められた加圧速度が4[kPa/ms]の場合に、前記測定領域の変位量の最大値をa[μm]とし、前記測定領域の変位が収束した後の前記測定領域の変位量をb[μm]とした場合に、前記aおよび前記bを用いて(a−b)/bで算出されるE[−]が、0.2≦E≦3.0の条件を満たす、請求項1に記載の画像形成装置。
記録面に凹凸を有する記録媒体に対して画像形成する場合において、前記二次転写ローラーに巻き掛けられている前記中間転写ベルトの曲率半径が40mm以下である、請求項1から請求項6のいずれか1項に記載の画像形成装置。
前記二次転写部は、硬度および径の少なくとも一方が異なる複数の二次転写ローラー、もしくは、硬度および径の少なくとも一方が異なる複数の対向ローラーのいずれかを含み、
前記巻き掛け量調整部が、前記記録媒体種別情報取得部が取得した記録媒体に応じて、前記複数の二次転写ローラーもしくは前記複数の対向ローラーの中から適切なローラーを選択して前記二次転写部を構成することで、前記巻き掛け量を調整する、請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の画像形成装置。
【発明を実施するための形態】
【0039】
以下、本発明の実施の形態について、図を参照して詳細に説明する。なお、以下に示す実施の形態においては、同一のまたは共通する部分について図中同一の符号を付し、その説明は繰り返さない。
【0040】
<画像形成装置>
図1は、本実施の形態における画像形成装置の概略図である。まず、この
図1を参照して、本実施の形態における画像形成装置1について説明する。なお、本実施の形態における画像形成装置1は、いわゆるデジタル複合機である。
【0041】
図1に示すように、画像形成装置1は、画像読取部2と、画像処理部3と、画像形成部4と、用紙搬送部5と、定着装置6とを備えている。
【0042】
画像読取部2は、自動原稿給紙装置2aと、原稿画像走査装置2b(スキャナー)とを有している。このうち、原稿画像走査装置2bには、コンタクトガラスと、各種のレンズ系と、CCDセンサ7とが設けられている。CCDセンサ7は、画像処理部3に接続されている。画像処理部3は、入力された画像に所定の画像処理を行なう。
【0043】
画像形成部4は、Y(イエロー)、M(マゼンタ)、C(シアン)、K(ブラック)の各色トナーによる画像を形成する画像形成ユニット10(10Y,10M,10C,10K)を有している。これらについては、収容されるトナー以外はいずれも同じ構成を有するので、以後、色を表す記号を省略する。画像形成部4は、さらに、中間転写ユニット20および二次転写ユニット30を有している。
【0044】
画像形成ユニット10は、露光装置11と、現像装置12と、感光体ドラム13と、帯電装置14と、ドラムクリーニング装置15とを有している。感光体ドラム13の表面は、光導電性を有しており、たとえば負帯電型の有機感光体である。感光体ドラム13は、トナー像を担持する像担持体である。
【0045】
帯電装置14は、たとえばコロナ帯電器であるが、帯電ローラーや帯電ブラシ、帯電ブレードなどの接触帯電部材を感光体ドラム13に接触させて帯電させる接触帯電装置であってもよい。露光装置11は、たとえば半導体レーザーで構成される。
【0046】
現像装置12は、たとえば二成分現像方式の現像装置であるが、キャリアを含まない一成分現像方式の現像装置であってもよい。
【0047】
中間転写ユニット20は、中間転写ベルト21と、中間転写ベルト21を感光体ドラム13に圧接させる一次転写ローラー22と、対向ローラー24を含む複数の支持ローラー23と、ベルトクリーニング装置25とを有している。中間転写ベルト21は、無端状の中間転写ベルトである。ここで、主として一次転写ローラー22により、感光体ドラム13に担持されたトナー像を中間転写ベルト21に転写する一次転写部が構成されることになる。
【0048】
中間転写ベルト21は、複数の支持ローラー23によりループ状に張架され、移動可能となっている。複数の支持ローラー23のうちの少なくとも一つの駆動ローラーが回転することにより、中間転写ベルト21は矢印A方向に一定速度で走行する。
【0049】
二次転写ユニット30は、無端状の二次転写ベルト31と、二次転写ローラー33を含む複数の支持ローラー32とを有している。ここで、主として二次転写ローラー33と対向ローラー24とにより、中間転写ベルト21に担持されたトナー像を記録媒体に転写する二次転写部が構成されることになる。
【0050】
二次転写ベルト31は、二次転写ローラー33および支持ローラー32によってループ状に張架される。複数の支持ローラー32のうちの少なくとも一つの駆動ローラーが回転することにより、二次転写ベルト31は矢印B方向に走行する。なお、上述した駆動ローラーおよびこれを駆動させるための駆動源が、後述する搬送ベルト駆動機構39(
図2参照)を構成することになる。
【0051】
定着装置6は、記録媒体としての用紙に転写されたトナー像を用紙上に定着させるためのものであり、用紙上のトナー像を加熱および融解する定着ローラー6aと、用紙を定着ローラー6aに向けて押圧する加圧ローラー6bとを有している。
【0052】
用紙搬送部5は、給紙部5aと、排紙部5bと、搬送経路部5cとを有している。給紙部5aを構成する給紙トレイユニット5a1〜5a3には、坪量やサイズ等に基づいて識別された用紙が予め設定された種類ごとに収容される。搬送経路部5cは、レジストローラー対5c1などの複数の搬送ローラー対を有している。排紙部5bは、排紙ローラー5b1によって構成されている。
【0053】
搬送経路部5cにおける用紙の搬送速度は、後述するように、制御部8によって決定される。搬送経路部5cは、上述した二次転写ベルト31および複数の搬送ローラー対に加えて、モーター、モータードライバ、ギア等を含んでおり、このうちの二次転写ベルト31を駆動するための構成要素が、上述した搬送ベルト駆動機構39に該当する。これら複数の搬送ローラー対、モーター、モータードライバ、ギア等は、制御部8からの電気信号を受けて各種モーターを回転させることで、用紙を搬送する。
【0054】
上述した各種モーターによって回転させられる部材には、たとえば現像装置12に含まれる現像ローラーや、感光体ドラム13、中間転写ベルト21、二次転写ローラー33、定着ローラー6a、上述した搬送ローラー対等があるが、これらの部材は、1個のモーターで一元的に駆動されてもよいし、複数のモーターで別々に駆動されてもよい。ただし、これら部材の外周面は、同じ線速度(この線速度は、一般にシステム速度と称される)で駆動されることが好ましい。なお、制御部8は、これら各種モーターの回転数やギアを切り替えることにより、システム速度を変更させることができる。
【0055】
本実施の形態は、二次転写部と定着装置6との間において用紙を搬送する手段として、搬送ベルトおよびこれを駆動する搬送ベルト駆動機構39を用いた場合を例示するものであるが、当該手段は、用紙を二次転写部から定着装置6へと搬送できるものであればどのような手段にて構成されていてもよい。たとえば、ベルトを使用せずに、用紙を搬送する搬送ローラー対と、これを駆動する搬送ローラー対駆動機構とによって、当該手段を構成してもよいし、二次転写ローラー33および対向ローラー24によって直接的に定着装置6へと用紙が搬送されるように、これら二次転写ローラー33および対向ローラー24と、これらを駆動するローラー駆動機構とによって、当該手段を構成してもよい。
【0056】
図2は、
図1に示す画像形成装置1の主要な機能ブロックの構成を示す図である。制御部8は、画像形成装置1の全体を制御する部位であり、
図2に示すように、主たる構成要素として、CPU(Central Processing Unit)8a等のプロセッサと、ROM(Read Only Memory)やRAM(Random Access Memory)等のメモリー部8bを含んでいる。典型的には、CPU8aがメモリー部8bに格納されている各種プログラムを実行することで、画像形成装置1における画像形成に係る処理等が実行される。
【0057】
図2に示すように、画像形成装置1は、上述した構成に加え、表示操作部9a、温湿度センサ9b、用紙センサ9c、および、巻き掛け量調整部60をさらに備えている。
【0058】
表示操作部9aは、制御部8の指令に基づいて画像形成装置1の状態等を使用者に対して表示したり、使用者による画像形成装置1に対する操作を受け付けて制御部8に入力したりするための部位である。
【0059】
温湿度センサ9bは、画像形成装置1の内部もしくは周囲の温度および湿度を検知し、検出結果を制御部8に入力するためのものである。温湿度センサ9bは、定着装置6などの、画像形成装置1の構成上高温となり得る装置の周辺の温度、および当該画像形成装置1の排気の温度を検出しないように、構成されている。温湿度センサ9bは、最も好ましくは、中間転写ベルト21の温度を検出するように構成されている。
【0060】
用紙センサ9cは、記録媒体種別を取得する記録媒体種別情報取得部であり、より具体的には、画像形成に使用される記録媒体種別が、平滑紙、厚紙、普通紙、または、エンボス紙であるかを識別して当該記録媒体種別を情報として取得する部位である。さらにエンボス紙である場合にどの程度の凹部深さを有するエンボス紙であるか等を識別して当該記録媒体種別を情報として取得する部位である。
【0061】
当該用紙センサ9cは、たとえば給紙部5aに収納された用紙の表面の凹凸の大きさを検出することができる光学式センサにて構成される。その場合、当該用紙センサ9cは、可視光または赤外光を用紙の表面に対して斜めに照射する発光ダイオード等からなる発光素子と、用紙の表面からの反射光を受光するフォトダイオード等からなる受光素子とによって構成される。
【0062】
当該用紙センサ9cは、用紙から反射光の受光量に応じて凹部深さを検出し、その検出結果を制御部8に出力する。制御部8は、当該検出結果に基づいて上述した記録媒体種別の取得を行なう。
【0063】
用紙センサ9cとしては、上述した光学式センサの使用に限られず、記録媒体種別の識別が可能な他の方式のセンサを使用することもできる。また、記録媒体種別情報取得部としては、上述した用紙センサ9cの使用に限られず、表示操作部9a等によって給紙部5aに収容される記録媒体種別が指定されることで制御部8がこれを取得してもよい。
【0064】
本実施の形態における画像形成装置1においては、制御部8が、表示操作部9a、温湿度センサ9bおよび用紙センサ9c等からの入力を受けて、最適な画像形成条件を決定し、これに基づいて巻き掛け量調整部60により巻き掛け量を調整するものであるが、その詳細についても後述することとする。
【0065】
次に、画像形成装置1による画像形成の処理について説明する。原稿画像走査装置2bは、コンタクトガラス上の原稿を光学的に走査して読み取る。原稿からの反射光は、CCDセンサ7により読み取られ、入力画像データとなる。入力画像データは、画像処理部3において所定の画像処理が施され、露光装置11に送られる。入力画像データは、外部パソコンやモバイル機器などから画像形成装置1に送付されたものであってもよい。
【0066】
感光体ドラム13は、一定の周速度で回転する。帯電装置14は、感光体ドラム13の表面を一様に負極性に帯電させる。露光装置11は、各色成分の入力画像データに対応するレーザー光を感光体ドラム13に照射し、感光体ドラム13の表面に静電潜像を形成する。現像装置12は、感光体ドラム13の表面にトナーを付着させ、感光体ドラム13上の静電潜像を可視化させる。こうして感光体ドラム13の表面に静電潜像に応じたトナー像が形成される。
【0067】
感光体ドラム13の表面のトナー像は、中間転写ユニット20によって中間転写ベルト21に転写される。転写後に感光体ドラム13の表面に残存する転写残トナーは、感光体ドラム13の表面に摺接するドラムクリーニングブレードを有するドラムクリーニング装置15によって除去される。一次転写ローラー22によって中間転写ベルト21が感光体ドラム13に圧接されることにより、中間転写ベルト21に各色のトナー像が順次重なって転写される。
【0068】
二次転写ローラー33は、中間転写ベルト21および二次転写ベルト31を介して、対向ローラー24に圧接される。これにより、転写ニップが形成される。用紙は、用紙搬送部5によって転写ニップへ搬送され、この転写ニップを通過する。用紙の傾きの補正および搬送のタイミングの調整は、レジストローラー対5c1が配設されたレジストローラー部により行われる。
【0069】
転写ニップに用紙が搬送されると、二次転写ローラー33へ所定の電圧が印加される。この電圧の印加によって、中間転写ベルト21に担持されているトナー像は用紙に転写される。中間転写ベルト21の表面に残存する転写残トナーは、中間転写ベルト21の表面に摺接するベルトクリーニングブレードを有するベルトクリーニング装置25によって除去される。ベルトクリーニング装置25については、中間転写ベルト21上の残留トナーを清掃するものであれば、ブラシによるクリーニング方式を採用したものであってもよい。また、転写率の高いトナー粒子を使用する場合には、クリーニング装置を使用しない態様もありえる。トナー像が転写された用紙は、二次転写ベルト31によって定着装置6に向けて搬送される。
【0070】
二次転写ベルトを用いずに、二次転写ローラーが直接用紙と接する構成としてもよい。この場合、トナー像が転写された用紙は、二次転写ベルト31の回転によって定着装置6に向けて送出される。
【0071】
定着装置6は、トナー像が転写されて搬送されてきた用紙をニップ部で加熱および加圧する。こうしてトナー像は用紙に定着する。トナー像が定着された用紙は、排紙ローラー5b1を備えた排紙部5bにより機外に排紙される。
【0072】
トナー粒子は、バインダー樹脂中に着色剤や、必要に応じて荷電制御剤や離型剤等を含有させ、外添剤を処理させたものであり、一般に使用されている公知のトナー粒子を使用することができる。トナー粒子の体積平均粒径は、好ましくは2[μm]以上12[μm]以下の範囲の粒子であり、画質の点でより好ましくは、3[μm]以上9[μm]以下の範囲の粒子がよい。
【0073】
トナー粒子の形状係数SF−1は、100から140であることが好ましいが、必ずしもこの範囲に限定されない。
【0074】
形状係数SF−1は、走査型電子顕微鏡により、5000倍で撮影したトナーをランダムに100個、スキャナーで取り込み、画像処理解析装置「LuzexAP」(ニレコ社製)を用いて解析し、下記の式により導出される形状係数(SF−1)の平均値から求められる。
SF−1=〔{(粒子の絶対最大長)2/(粒子の投影面積)}×(π/4)〕×100
トナー粒子の外添剤は、シリカやチタニアといった金属酸化物の微粒子が使用され、大きさは30[nm]といった小粒径のものから、100[nm]といった比較的大きな粒径のものが使用される。粉体流動性や帯電制御等の目的で、平均1次粒径が40[nm]以下の無機微粒子を用いてもよい。さらに、必要に応じて付着力低減のため、それより大径の無機あるいは有機微粒子を併用してもよい。無機微粒子としては、シリカやチタニアのほかに、アルミナ、メタチタン酸、酸化亜鉛、ジルコニア、マグネシア、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、リン酸カルシウム、酸化セリウム、チタン酸ストロンチウム等が挙げられる。また、分散性や粉体流動性をあげるため、無機微粒子の表面を別途処理してもよい。
【0075】
キャリアは、特に限定されず、一般に使用されている公知のキャリアを使用することができ、バインダー型キャリアやコート型キャリアなどが使用できる。キャリア粒径としてはこれに限定されるものではないが、15[μm]以上100[μm]以下が好ましい。
【0076】
<中間転写ベルト>
図3は、
図1に示す中間転写ベルト21の断面図である。次に、この
図3を参照して、中間転写ベルト21の構成について説明する。
【0077】
図3に示すように、中間転写ベルト21は、相対して位置する一対の露出主面である第1主面21s1および第2主面21s2を有する部材からなり、基層21aと、弾性層21bと、表層21cとを含んでいる。
【0078】
弾性層21bは、基層21aを覆うように設けられており、表層21cは、弾性層21bを覆うように設けられている。これにより、上述した第1主面21s1は、表層21cによって規定されており、上述した第2主面21s2は、基層21aによって規定されている。
【0079】
中間転写ベルト21は、上述したように担持したトナー像を用紙等の記録媒体に対して転写するためのものであり、トナー像は、上述した第1主面21s1上において担持される。
【0080】
基層21aは、中間転写ベルト21全体としての機械的強度を向上させるための層であり、たとえば有機高分子化合物からなる層にて構成される。基層21aを構成する有機高分子化合物としては、たとえば、ポリカーボネート、フッ素系樹脂、ポリスチレン、クロロポリスチレン、ポリ−α−メチルスチレン、スチレン−ブタジエン共重合体、スチレン−塩化ビニル共重合体、スチレン−酢酸ビニル共重合体、スチレン−マレイン酸共重合体、スチレン−アクリル酸エステル共重合体(スチレン−アクリル酸メチル共重合体、スチレン−アクリル酸エチル共重合体、スチレン−アクリル酸ブチル共重合体、スチレン−アクリル酸オクチル共重合体及びスチレン−アクリル酸フェニル共重合体等)、スチレン−メタクリル酸エステル共重合体(スチレン−メタクリル酸メチル共重合体、スチレン−メタクリル酸エチル共重合体、スチレン−メタクリル酸フェニル共重合体等)、スチレン−α−クロルアクリル酸メチル共重合体、スチレン−アクリロニトリル−アクリル酸エステル共重合体等のスチレン系樹脂(スチレンまたはスチレン置換体を含む単重合体または共重合体)、メタクリル酸メチル樹脂、メタクリル酸ブチル樹脂、アクリル酸エチル樹脂、アクリル酸ブチル樹脂、変性アクリル樹脂(シリコーン変性アクリル樹脂、塩化ビニル樹脂変性アクリル樹脂、アクリル・ウレタン樹脂等)、塩化ビニル樹脂、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体、ロジン変性マレイン酸樹脂、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、ポリエステル樹脂、ポリエステルポリウレタン樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブタジエン、ポリ塩化ビニリデン、アイオノマー樹脂、ポリウレタン樹脂、シリコーン樹脂、ケトン樹脂、エチレン−エチルアクリレート共重合体、キシレン樹脂及びポリビニルブチラール樹脂、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂、変性ポリフェニレンオキサイド樹脂、変性ポリカーボネート、およびそれらの混合物等が挙げられる。なお、基層21aは、材質の異なる複数の層にて構成されていてもよい。
【0081】
基層21aには、抵抗値の調節のために導電剤が添加されていてもよい。この導電剤としては、一種類のみが添加されていてもよいし、複数種類が添加されていてもよい。基層21aにおける導電剤の含有量は、基層材料100重量部に対して0.1重量部以上20重量部以下であることが好ましいが、これに限定されるものではない。
【0082】
弾性層21bは、中間転写ベルト21に弾性を付与するための層であり、たとえば粘弾性を呈する有機化合物からなる層にて構成される。弾性層21bを構成する有機化合物としては、たとえば、ブチルゴム、フッ素系ゴム、アクリルゴム、エチレンプロピレンゴム(EPDM)、ニトリルブタジエンゴム(NBR)、アクリロニトリルブタジエンスチレンゴム、天然ゴム、イソプレンゴム、スチレン−ブタジエンゴム、ブタジエンゴム、エチレン−プロピレンゴム、エチレン−プロピレンターポリマー、クロロプレンゴム、クロロスルホン化ポリエチレン、塩素化ポリエチレン、ウレタンゴム、シンジオタクチック1,2−ポリブタジエン、エピクロロヒドリン系ゴム、シリコーンゴム、フッ素ゴム、多硫化ゴム、ポリノルボルネンゴム、水素化ニトリルゴム、熱可塑性エラストマー(例えばポリスチレン系、ポリオレフィン系、ポリ塩化ビニル系、ポリウレタン系、ポリアミド系、ポリウレア、ポリエステル系、フッ素樹脂系)、およびそれらの混合物等が挙げられる。なお、弾性層21bは、材質の異なる複数の層にて構成されていてもよい。
【0083】
弾性層21bには、導電性を発現するための導電剤が添加されていてもよい。導電剤としては、一種類のみが添加されていてもよいし、複数種類が添加されていてもよい。弾性層21bにおける導電剤の含有量は、弾性層材料100重量部に対して0.1重量部以上30重量部以下であることが好ましいが、これに限定されるものではない。弾性層21bにおける導電剤の含有量は、その総量で、中間転写ベルト21の所望の体積抵抗率を実現する量であり、中間転写ベルト21の体積抵抗率は、たとえば1×108[Ω・cm]以上1×1012[Ω・cm]以下である。
【0084】
上述した導電剤には、イオン導電剤および電子導電剤が含まれる。イオン導電剤には、ヨウ化銀、ヨウ化銅、過塩素酸リチウム、トリフロオロメタンスルホン酸リチウム、有機ホウ素錯体のリチウム塩、リチウムビスイミド((CF3SO2)2NLi)およびリチウムトリスメチド((CF3SO2)3CLi)が含まれる。電子導電剤には、銀、銅、アルミニウム、マグネシウム、ニッケルおよびステンレス鋼等の金属や、グラファイト、カーボンブラック、カーボンナノファイバーおよびカーボンナノチューブ等の炭素化合物が含まれる。
【0085】
弾性層21bには、上述した導電剤に加えて、非繊維形状の樹脂や繊維形状の樹脂が含有されていてもよい。
【0086】
非繊維形状の樹脂としては、たとえば、フェノール樹脂、熱硬化性ウレタン樹脂、エポキシ樹脂、反応性モノマー等の熱硬化性樹脂や、ポリ塩化ビニル、ポリ酢酸ビニル、熱可塑性ウレタン等の熱可塑性樹脂が挙げられる。弾性層21bにおける非繊維形状の樹脂の弾性層材料に対する含有量は、弾性層材料100重量部に対して20重量部以上60重量部以下であることが好ましいが、これに限定されるものではない。
【0087】
繊維形状の樹脂としては、たとえば、綿、麻、絹、レーヨン、アセテート、ナイロン、アクリル、ビニロン、ビニリデン、ポリエステル、ポリスチレン、ポリプロピレン、アラミド等の樹脂系繊維が挙げられる。弾性層21bにおける繊維形状の樹脂の含有量は、弾性層材料100重量部に対して、10重量部以上40重量部以下であることが好ましいが、これに限定されるものではない。
【0088】
弾性層21bには、さらに慣用の添加剤、たとえば加硫剤、加硫促進剤、加硫助剤、共架橋剤、軟化剤、可塑剤等を含有させてもよい。これら添加剤は、単独で添加されていてもよいし、2種以上が組み合わされて添加されていてもよい。
【0089】
ここで、加硫剤としては、たとえば硫黄や有機含硫黄化合物、有機過酸化物等が使用可能である。
【0090】
また、共架橋剤としては、有機過酸化物による共架橋剤としての、エチレングリコール・ジメタクリレート、トリメチロールプロパン・トリメタクリレート、多官能性メタクリレートモノマー、トリアリルイソシアヌレート、含金属モノマー等が挙げられる。弾性層21bにおける共架橋剤の添加量は、弾性層材料100重量部に対して5重量部以下であることが好ましいが、これに限定されるものではない。
【0091】
表層21cは、その材料が特に制限されるものではないが、中間転写ベルト21へのトナーの付着力を小さくすることで転写性を高めるものであることが好ましい。当該観点から、表層21cとしては、たとえば、ポリウレタン、ポリエステル、エポキシ樹脂またはそれらの混合物を母材として、当該母材にたとえばフッ素樹脂、フッ素化合物、フッ化炭素、二酸化チタン、シリコンカーバイト等の粉体または粒子を1種類あるいは2種類以上分散させたものを使用することができる。なお、表層21cは、弾性層21bの表面を改質処理したものであってもよい。
【0092】
ここで、これら粉体および粒子は、第1主面21s1の表面エネルギーを小さくして潤滑性を高めるための材料であり、これら粉体および粒子の粒径を異ならせたものを分散させて使用することもできる。また、フッ素系ゴム材料を用い、熱処理を行うことで表面にフッ素リッチな層を形成させることにより、第1主面21s1の表面エネルギーを小さくさせてもよい。
【0093】
ここで、基層21aの硬度は、弾性層21bの硬度よりも高い。弾性層21bよりも変形しにくい基層21aにより弾性層21bが支持されることで、弾性層21bは、第2主面21s2へ向かう側には変形しにくくなり、その分、第1主面21s1へ向かう側に変形しやすくなる。基層および弾性層の硬度は、マイクロゴム硬度計(例えば、高分子計器社製:MD−1)を用いて測定することができる。
【0094】
表層21cの硬度は、弾性層21bの硬度よりも高い。弾性層21bよりも硬い表層21cは、光硬化性の樹脂を用いて、弾性層21bの表面に未硬化の樹脂を塗布し、紫外線によって樹脂を硬化することによって、形成することができる。または、弾性層21bの表面付近を硬化処理するなどの改質処理によって、弾性層21bよりも硬い表層21cを形成することもできる。
【0095】
なお、表層21cは、必ずしもこれを設ける必要はなく、中間転写ベルト21を基層21aおよび弾性層21bのみにて構成することも可能である。また、基層21aを設けずに弾性層21bのみにて中間転写ベルト21を構成してもよい。さらには、上述した基層21a、弾性層21bおよび表層21cに加えて、さらに他の層を付加して中間転写ベルト21を4層以上に多層化することもできる。
【0096】
中間転写ベルト21における第1主面21s1の十点平均表面粗さRzは、0.5[μm]以上9.0[μm]以下であることが好ましく、3.0[μm]以上6.0[μm]以下であることがなお好ましい。十点平均表面粗さRzが0.5[μm]未満であると、接触部材と密着する懸念があり、十点平均表面粗さRzが9.0[μm]よりも大きい場合には、凹凸部分にトナーおよび紙粉等が溜まり易くなり、画像品質が低下する場合がある。なお、十点平均表面粗さRzとは、JIS B0601(2001年)に規定された表面粗さのことである。
【0097】
ここで、本実施の形態における中間転写ベルト21は、後述する変位量測定装置100を用いた評価方法に基づいて評価した場合に、その表面(すなわち第1主面21s1)の一部が所定の特徴的な挙動を示して変位するものであるが、その詳細についてはこれを後述することとする。
【0098】
<二次転写部の構成>
図4は、
図1に示す二次転写部の概略図である。次に、この
図4を参照して、二次転写部の詳細な構成について説明する。なお、当該
図4においては、二次転写ベルト31の図示は省略している。
【0099】
図4に示すように、中間転写ベルト21は、画像形成装置1の二次転写部を通過するように配置される。
【0100】
二次転写部は、互いに対向するように平行に配置された二次転写ローラー33および対向ローラー24を含んでいる。二次転写ローラー33と対向ローラー24との間には、ニップ部Nが形成されている。中間転写ベルト21は、このニップ部Nを挿通するように配置されており、用紙等の記録媒体1000も同じくこのニップ部Nを通過するように供給される。
【0101】
二次転写ローラー33は、導電性の材料からなり、当該二次転写ローラー33には、二次転写電源33cが接続されている。対向ローラー24は、導電性の材料からなる芯金24aと、当該芯金24aの周面を覆う導電性の弾性部24bとを含んでおり、このうちの芯金24aは、接地されている。これにより、ニップ部Nには、二次転写ローラー33、対向ローラー24および二次転写電源33cによって所定の電界が形成されることになる。
【0102】
中間転写ベルト21は、記録媒体1000よりも対向ローラー24側を挿通するように配置されており、記録媒体1000は、中間転写ベルト21よりも二次転写ローラー33側を通過するように供給される。なお、中間転写ベルト21は、その第1主面21s1が記録媒体1000側(すなわち二次転写ローラー33側)を向くとともに、その第2主面21s2が対向ローラー24側を向くように配置されている。これにより、中間転写ベルト21の第1主面21s1は、ニップ部Nにおいて記録媒体1000の記録面1001に対面配置されることになる。
【0103】
二次転写ローラー33は、図中に示す矢印AR1方向に回転駆動され、対向ローラー24は、図中に示す矢印AR2方向に回転駆動される。また、二次転写ローラー33は、トナー像の転写に際して図中に示す矢印AR3方向に向けて後述する押圧力変更機構によって押圧され、これにより二次転写ローラー33と対向ローラー24とは、二次転写ベルト31(
図1参照)、中間転写ベルト21および記録媒体1000を介して圧接することになる。
【0104】
二次転写ローラー33の回転と対向ローラー24の回転とに基づき、中間転写ベルト21および記録媒体1000は、それぞれ図中に示す矢印AR4方向および矢印AR5方向に搬送される。その際、ニップ部Nを通過するに当たり、中間転写ベルト21および記録媒体1000が二次転写ローラー33と対向ローラー24とによって加圧された状態で挟み込まれて密着することになる。また、その際、密着した部分の中間転写ベルト21および記録媒体1000には、上述した所定の電界が作用することになる。これにより、中間転写ベルト21の第1主面21s1に付着していたトナーが記録媒体1000の記録面1001に付着することになり、トナー像の転写が行なわれる。
【0105】
ここで、二次転写ローラー33の表面の硬度が、対向ローラー24の表面の硬度よりも高い場合、これら二次転写ローラー33および対向ローラー24によって挟み込まれた部分の中間転写ベルト21および記録媒体1000は、二次転写ローラー33の表面に沿うように湾曲することになる。そのため、中間転写ベルト21の第1主面21s1には、二次転写ローラー33の軸方向に沿って延在する凹条形状の湾曲面が形成されることになり、この部分においてトナー像の転写が行なわれることになる。二次転写ローラーおよび対向ローラーの表面の硬度は、マイクロゴム硬度計(例えば、高分子計器社製:MD−1)を用いて測定することができる。
【0106】
中間転写ベルト21には、二次転写部、および上述した一次転写部で、圧力が作用する。圧力の作用によって中間転写ベルト21が変形すると、第1主面21s1とトナーとの接触面積が増加して、トナーと中間転写ベルト21との付着力が増大する。しかしながら、中間転写ベルト21が硬い表層21cを有し、中間転写ベルト21の第1主面21s1の硬度が高いことで、圧力が作用しても第1主面21s1が変形しにくくなり、または第1主面21s1が変形しても速く元に戻りやすくなる。このため、第1主面21s1とトナーとの接触面積の増加が抑制され、トナーと中間転写ベルト21との付着力の増大が抑制されるので、トナー像の転写をより確実に行なうことが可能になっている。
【0107】
本実施の形態における中間転写ベルト21は、上述した記録媒体1000として、その表面に特段の凹凸を有さない普通紙等を用いる場合に限られず、その表面に凹凸を有するエンボス紙等を用いる場合にも、良好な転写性を確保できるものであるが、そのメカニズム等について説明するに先立って、以下においては、上述した変位量測定装置100を用いた評価方法の詳細について説明する。
【0108】
<変位量測定装置>
図5は、上記変位量測定装置100の構成を示す概略図であり、
図6は、
図5に示す変位量測定装置100に具備される加圧機構の動作を示す概略図である。
図7は、
図5に示す変位量測定装置100の下側ブロックを上方から見た斜視図であり、
図8は、
図5に示す変位量測定装置100の上側ブロックを下方から見た斜視図である。
【0109】
図5に示すように、変位量測定装置100は、下側ブロック110と、上側ブロック120と、加圧機構130と、張力付与機構140と、変位計150とを主として備えている。
【0110】
図5および
図7に示すように、下側ブロック110は、幅および奥行がいずれも50[mm]で高さが20[mm]のアルミブロックからなり、幅方向における上面111の中央部に幅が20[mm]の湾曲凸条面112を有している。湾曲凸条面112の曲率半径は、20[mm]である。
【0111】
下側ブロック110の奥行方向に沿って位置する湾曲凸条面112の頂部のうち、当該奥行方向における中央部には、直径が1.25[mm](ただし、公差は±0.02[mm])の穴部113が設けられている。なお、当該穴部113の開口面から後退した位置には、変位計150のヘッド部151が配置されている。
【0112】
図5および
図8に示すように、上側ブロック120は、幅および奥行がいずれも50[mm]で高さが20[mm]のアルミブロックからなり、幅方向における下面121の中央部に幅が20[mm]の湾曲凹条面122を有している。湾曲凹条面122の曲率半径は、20.3[mm]である。
【0113】
なお、下側ブロック110の上面111と湾曲凸条面112、上側ブロック120の下面121と湾曲凹条面122の表面の公差は、すべて0.02[mm]である。
【0114】
図5に示すように、下側ブロック110の上面111と上側ブロック120の下面121とは、互いに対向するように配置されている。ここで、下側ブロック110と上側ブロック120とが位置決めして配置されることにより、上述した湾曲凸条面112と湾曲凹条面122とは、鉛直方向に沿って重なるように配置されている。
【0115】
上側ブロック120の上方には、加圧機構130が配置されている。加圧機構130は、ブロック状の部材である加圧部材131と、当該加圧部材131と上側ブロック120との間に配置されたスプリング132と、加圧部材131の上面に接するように配置されたカム133と、カム133に連結されたシャフト134と、シャフト134を回転駆動する駆動モーター135とを含んでいる。
【0116】
図6に示すように、駆動モーター135によってシャフト134が図中に示す矢印AR6方向に向けて回転駆動されることにより、シャフト134に連結されたカム133がシャフト134と共回りし、これに伴って加圧部材131が下方に向けて(図中に示す矢印AR7方向に向けて)押し下げられる。これにより、加圧部材131によって上側ブロック120がスプリング132を介して押し下げられることになり、上側ブロック120に鉛直下向きの荷重が付与されることになる。なお、当該荷重の大きさは、加圧部材131の押し下げ量dによって決まり、加圧部材131の押し下げ量dは、カム133の回転量によって調節できる。
【0117】
図5に示すように、下側ブロック110と上側ブロック120との間には、評価対象であるベルトSが配置され、当該ベルトSの両端は、下側ブロック110と上側ブロック120との間から外側に向けて引き出される。このベルトSの両端には、張力付与機構140がそれぞれ接続される。
【0118】
張力付与機構140は、フィルム141と、テープ142と、錘143とを含んでいる。フィルム141は、厚さ100[μm]のポリエチレンテレフタレート製のフィルムからなり、テープ142は、厚さ30[μm]のポリイミド製の粘着テープからなる。ベルトSの端部には、フィルム141の一端がテープ142によって貼り付けられ、フィルム141の他端には、錘143が取付けられる。ここで、錘143による引っ張り荷重は、44[N/m]に調節される。なお、評価するベルトSが十分な大きさを有している場合には、上述したフィルム141およびテープ142を用いずに、ベルトSの両端に直接的に錘143を取付けてもよい。
【0119】
変位計150は、ベルトSの表面の変位を検出するためのものであり、上述したように変位計150のヘッド部151は、ベルトSに対向するように下側ブロック110の穴部113内に設置されている。ここで、変位計150としては、キーエンス社製のマイクロヘッド型分光干渉レーザー変位計(分光ユニット(型式:SI−F01U)、ヘッド部(型式:SI−F01))を用いる。
【0120】
<評価方法>
図9は、
図5に示す変位量測定装置100を用いたベルトの評価方法を説明するためのグラフである。また、
図10は、
図5に示す変位量測定装置100を用いてベルトを加圧した状態における下側ブロックの穴部近傍の拡大断面図である。
【0121】
ベルトSの評価は、前述した
図5に示す変位量測定装置100を用いて以下の手順にて行なう。なお、評価は、温度20[℃]、湿度50[%]の環境下にて行なう。
【0122】
まず、ベルトSを変位量測定装置100にセットするに先立って、下側ブロック110の湾曲凸条面112と、上側ブロック120の湾曲凹条面122との接触部における圧力分布を測定する。圧力分布測定は、ニッタ社製のタクタイルセンサー(面圧力分布測定システムI−SCAN)を用いる。
【0123】
具体的には、タクタイルセンサーの測定部を下側ブロック110と上側ブロック120との間に挿入し、加圧部材131を押し下げて30秒経過後の圧力分布を測定する。これを繰り返し、湾曲凸条面112と湾曲凹条面122との接触部およびその近傍における圧力が、200[kPa]±40[kPa]に収まるように調整する。
【0124】
ベルトSは、測定に先立って、温度20[℃]、湿度50[%]の環境下で6時間以上保管する。評価するベルトSの大きさは、下側ブロック110および上側ブロック120の幅方向に対応した長さを60[mm]とし、下側ブロック110および上側ブロック120の奥行方向に対応した長さを50[mm]とする。下側ブロック110および上側ブロック120の幅方向に対応した長さは、35[mm]以上300[mm]以下の大きさであればよく、下側ブロック110および上側ブロック120の奥行方向に対応した長さは、50[mm]以上150[mm]以下であればよい。下側ブロック110および上側ブロック120の幅方向に対応した長さに不足がある場合には、上述したフィルム141およびテープ142を用いてその両端に錘143を取付ければよい。
【0125】
次に、タクタイルセンサーを取外し、下側ブロック110と上側ブロック120とが軽く接触した状態となるように加圧機構130にて上側ブロック120を下降させた後、当該状態を30秒間保持して接触状態を安定化させる。その後、加圧機構130を用いて上側ブロック120を下側ブロック110に向けて押し付ける。ここでの加圧条件は、後述するベルトSの加圧条件と同じとする(詳細は、後述のベルトSの加圧条件を参照のこと)。
【0126】
次に、加圧開始時点から3秒間にわたり、下側ブロック110の穴部113に対向する部分の上側ブロック120の湾曲凹条面122の位置を変位計150を用いて測定し、これを後述するベルトSの変位量測定の基線に設定する。
【0127】
次に、上側ブロック120を上昇させて下側ブロック110と上側ブロック120との接触を解除し、下側ブロック110の上面111上にベルトSを載置する。このとき、ベルトSの第1主面Saが下方(すなわち下側ブロック110側)を向くようにする。なお、当該ベルトSの載置に際しては、ベルトSと下側ブロック110との間およびベルトSと上側ブロック120との間に異物が混入しないように留意する。
【0128】
次に、上側ブロック120とベルトSとが軽く接触した状態となるように加圧機構130にて上側ブロック120を下降させた後、当該状態を30秒間保持して接触状態を安定化させる。その後、加圧機構130を用いて上側ブロック120をベルトSに向けて押し付ける。
【0129】
図9および
図10に示すように、ベルトSへの加圧は、湾曲凸条面112と湾曲凹条面122とによって挟み込まれることとなるベルトSの被加圧領域PRが、予め定められた加圧速度[kPa/ms]で加圧力が増加するように加圧されることで200[kPa]の加圧力にまで到達した後、当該被加圧領域PRが、200[kPa]の加圧力で一定に加圧された状態が保持されるように行われる。
図9を参照して、被加圧領域PRに対する加圧が開始された時点から200[kPa]の加圧力に到達した時点までの時間をt0[s]と定義する。その後、加圧開始から3秒が経過した時点でベルトSへの加圧を解除する。
【0130】
その際、加圧開始時点から加圧を解除するまでの3秒間にわたり、ベルトSの第1主面Saのうちの下側ブロック110の穴部113に対応する部分である測定領域MRの位置を変位計150を用いて測定する。その際、ベルトSの測定領域MRを含む部分は、当該部分の周囲に位置するベルトSの部位が下側ブロック110および上側ブロック120によって挟み込まれて圧縮されることで穴部113内に向けて膨らむように変形し、この変形に伴って測定領域MRの位置が変化する。
【0131】
上述した基線の測定時および測定領域MRの位置の測定時においては、変位計150の出力を横河電機社製のデジタルオシロスコープDL1640によって取り込む。このときのサンプリング周期は、5[ms]とする。
【0132】
次に、測定された測定領域MRの位置と上述した基線とをもとにこれらの差分を求めることにより、ベルトSの測定領域MRの変位を時系列データとして算出する。
【0133】
なお、測定対象であるベルトSに対して、上述した測定領域MRの位置が異なることとなるように、下側ブロック110に対するベルトSの載置位置を変更して、合計で10回にわたって上述した測定を行なう。
【0134】
<典型的な変位のパターン>
上述した変位量測定装置100を用いたベルトの評価方法を適用して弾性層を含む種々のベルトの評価を行なった場合には、ベルトの測定領域の変位の挙動を示すパターンとして、典型的に以下のパターンが確認できる。
図11は、ベルトの測定領域の変位の挙動のパターンを示すグラフである。
【0135】
図11に示すように、加圧開始後においてベルトSを加圧する加圧力の増加に伴ってベルトSの測定領域MRの変位量yが増加し、ベルトSを加圧する加圧力が200[kPa]に到達した時点(すなわちt0[s])付近においてベルトSの測定領域MRの変位に局所的なピークが発生する。その後ベルトSの測定領域MRの変位量yが減少に転じ、最終的には時間の経過とともに漸減して所定の変位量に収束する。すなわち、当該パターンは、ベルトSの測定領域MRの変位の推移にオーバーシュート部分を有するものと言える。
【0136】
以下においては、当該パターンにおけるベルトSの測定領域MRの変位量yが増加する局面における変位を一次変位と称し、ベルトSの測定領域MRの変位量yが減少する局面における変位を二次変位と称する。
【0137】
<中間転写ベルト21の変位のパターン>
上述した本実施の形態における中間転写ベルト21は、上記において詳細に述べた変位量測定装置100を用いたベルトの評価方法を適用して評価を行なった場合に、
図11に示すパターン(すなわち、オーバーシュート部分を有するパターン)を呈するものであることが好ましい。
【0138】
これは、本発明者が、ベルトを複数種類準備して、これらをそれぞれ画像形成装置1の中間転写ベルト21として使用してエンボス紙に画像形成を行なったところ、オーバーシュート部分を有しないベルトに比べて、オーバーシュート部分を有するベルトの方が飛躍的に転写性に優れたものとなることを知見したことに基づいている。
【0139】
オーバーシュート部分を有するベルトにおいて高い転写性が確保できる理由は、基本的には中間転写ベルト21を裏面(すなわち第2主面21s2)側から加圧した場合にもその表面(すなわち第1主面21s1)が大きく揺れ動くことに起因する。したがって、エンボス紙等の記録面に凹凸を有する記録媒体に対して高い転写性が確保できる中間転写ベルト21を実現するためには、上述したオーバーシュート部分に着目するとよい。
【0140】
図11を参照して、ベルトSの測定領域MRの変位の局所的なピークである変位量yの最大値をa[μm]と定義し、ベルトSの測定領域MRの変位が収束した後の変位量yである収束値をb[μm]と定義する。加圧開始時点から最大値a[μm]を観察した時点までの時間をt1[s]と定義し、加圧開始時点から最大値a[μm]が観察された後に再びベルトSの測定領域MRの変位量yが(a+b)/2に達した時点までの時間をt2[s]と定義する。
【0141】
加えて、オーバーシュート部分を有する特徴的なベルトSの測定領域MRの変位の挙動を示すパラメータとして、オーバーシュート率E[−]と、一次変位率k1[μm/s]と、二次変位率k2[μm/s]とを定義する。
【0142】
オーバーシュート率E[−]は、オーバーシュートの大きさを示すパラメータであり、E=(a−b)/bで算出される。
【0143】
一次変位率k1[μm/s]は、上述した局所的なピークに達するまでの変位である一次変位の増加率(すなわち変位量の増加の割合)を示すパラメータであり、k1=a/t1で算出される。
【0144】
二次変位率k2[μm/s]は、上述した局所的なピークに達した後の変位である二次変位の減少率(すなわち変位量の減少の割合)を示すパラメータであり、k2=(a−b)/{2×(t2−t1)}で算出される。
【0145】
これらオーバーシュート率E[−]、一次変位率k1[μm/s]および二次変位率k2[μm/s]は、いずれも中間転写ベルト21が裏面(すなわち第2主面)側から加圧された場合に、その表面(すなわち第1主面)がどの程度揺れ動くかを表わすパラメータである。より大きな変化をもって中間転写ベルト21の表面が揺れ動くものほど、これらパラメータがより大きい値をとることになる。
【0146】
より詳細には、オーバーシュート率E[−]が相対的に大きい値をとる場合には、中間転写ベルト21の表面がより大きく変位していることになる。一次変位率k1[μm/s]が相対的に大きい値をとる場合には、中間転写ベルト21の一次変位がより高速で生じていることになる。二次変位率k2[μm/s]が相対的に大きい値をとる場合には、中間転写ベルト21の二次変位がより高速で生じていることになる。
【0147】
本実施の形態における中間転写ベルト21は、以下の第1ないし第3条件を満たしている。
【0148】
第1条件は、上述したオーバーシュート率E[−]が、0.2≦E≦3を満たす条件である。当該第1条件を満たす中間転写ベルト21とすることにより、表面に凹凸を有する記録媒体に対しても高い転写性を実現することができ、また繰り返しの使用によっても画像品位が低下してしまうことが抑制できる。
【0149】
オーバーシュート率E[−]がE<0.2である場合には、中間転写ベルト21を裏面側から加圧した場合にもその表面が余り大きくは揺れ動かないことになり、転写性の面で十分な効果が期待できない。一方、オーバーシュート率E[−]が3<Eである場合には、繰り返しの使用によって中間転写ベルト21に割れや摩耗等が早期に発生してしまうおそれがあり、画像品位の低下が懸念されることになる。
【0150】
第2条件は、上述した一次変位率k1[μm/s]が、60≦k1≦320を満たす条件である。当該第2条件を満たす中間転写ベルト21とすることにより、表面に凹凸を有する記録媒体に対しても高い転写性を実現することができる。繰り返しの使用によっても画像品位が低下してしまうことが抑制できる。
【0151】
一次変位率k1[μm/s]がk1<60である場合には、中間転写ベルト21を裏面側から加圧した場合にもその表面が余り大きくは揺れ動かないことになり、転写性の面で十分な効果が期待できない。一方、一次変位率k1[μm/s]が320<k1である場合には、繰り返しの使用によって中間転写ベルト21に割れや摩耗等が早期に発生してしまうおそれがあり、画像品位の低下が懸念されることになる。
【0152】
第3条件は、上述した二次変位率k2[μm/s]が、6≦k2≦30を満たす条件である。当該第3条件を満たす中間転写ベルト21とすることにより、表面に凹凸を有する記録媒体に対しても高い転写性を実現することができる。繰り返しの使用によっても画像品位が低下してしまうことが抑制できる。
【0153】
二次変位率k2[μm/s]がk2<6である場合には、中間転写ベルト21を裏面側から加圧した場合にもその表面が余り大きくは揺れ動かないことになり、転写性の面で十分な効果が期待できない。一方、二次変位率k2[μm/s]が30<k2である場合には、繰り返しの使用によって中間転写ベルト21に割れや摩耗等が早期に発生してしまうおそれがあり、画像品位の低下が懸念されることになる。
【0154】
上述したオーバーシュート率E[−]、一次変位率k1[μm/s]および二次変位率k2[μm/s]は、上述した変位量測定装置100を用いた中間転写ベルト21の評価方法において、測定領域MRの位置を変更して得られた値である。合計で10個の時系列データからそれぞれ算出される値のうち、値がより大きい3個と値がより小さい3個とを除外した残る4個の値の平均値を算出することで求められる。
【0155】
<変位のパターンと転写性との関係>
次に、オーバーシュート部分を有するパターンを呈するベルトを画像形成装置1の中間転写ベルト21として使用してエンボス紙に画像形成を行なった場合に、高い転写性が確保できる理由について詳細に説明する。
【0156】
図12は、非弾性層のみからなる中間転写ベルト21Aを使用した場合の中間転写ベルト21Aからエンボス紙へのトナーの移動の様子を表わした概略図であり、
図13は、その場合の印加電圧と転写効率との関係を示すグラフである。
【0157】
図12に示すように、非弾性層のみからなる中間転写ベルト21Aを用いてエンボス紙1000へのトナー像の転写を行なう場合には、エンボス紙1000の凹部1002が位置しない部分(これを便宜上、以下において凸部1003と称する)の記録面1001と、中間転写ベルト21Aの第1主面21s1上に位置するトナーTとが接触した状態になる。一方、エンボス紙1000の凹部1002が位置する部分の記録面1001と、中間転写ベルト21Aの第1主面21s1上に位置するトナーTとは、非接触の状態になる。
【0158】
そのため、エンボス紙1000の凹部1002の底面にトナーTを移動させるためには、トナーTを中間転写ベルト21Aから飛翔させる必要がある。トナーTを中間転写ベルト21Aから飛翔させるためには、トナーTが電界から受ける力が、トナーTの中間転写ベルト21Aに対する付着力に打ち勝つ必要がある。当該付着力は、非静電的付着力(ファンデルワールス力)と静電的付着力(帯電したトナーがもつ電荷と中間転写ベルト21に生じる鏡像電荷とによる静電的引力)の合計である。
【0159】
トナーTが電界から受ける力Fは、トナーTの荷電量をqとし、エンボス紙1000と中間転写ベルト21Aとの間の電位差をdVとし、エンボス紙1000と中間転写ベルト21Aとの間の距離をdxとした場合に、F=q×dV/dxで表わされる。当該関係から理解されるように、上記力Fは、エンボス紙1000と中間転写ベルト21Aとの間の電位差dVに比例するため、距離dxが大きくなればなるほど、トナーTを飛翔させるために必要となる印加電圧は大きくなる。
【0160】
したがって、
図13に示すように、凹部1002において転写効率が最大になる印加電圧V1は、凸部1003において転写効率が最大になる印加電圧V0よりも高くなってしまう。なお、
図13においては、印加電圧と凸部1003に対する転写効率との関係を示す曲線に符号c1003を付し、印加電圧と凹部1002に対する転写効率との関係を示す曲線に符号c1002(21A)を付している。
【0161】
通常、画像形成装置1においては、上記印加電圧が凸部1003において転写効率が最大になる印加電圧V0付近に設定される。そのため、印加電圧V0付近において凹部1002における転写効率が高ければ高いほど、エンボス紙1000の凹部1002と凸部1003とにおける画像の濃度差が小さくなることになり、品位の高い画像が得られることになる。
【0162】
図14は、弾性層を含む中間転写ベルト21Bを使用した場合の中間転写ベルト21Bからエンボス紙へのトナーの移動の様子を表わした概略図であり、
図15は、その場合の印加電圧と転写効率との関係を示すグラフである。
【0163】
図14に示すように、弾性層を含む中間転写ベルト21Bを用いた場合には、一般的に、エンボス紙1000の凹部1002内に中間転写ベルト21Bの第1主面21s1側の一部が入り込むように中間転写ベルト21Bが変形することになり、これによってエンボス紙1000の凹部1002の底面と中間転写ベルト21Bとの間の距離dxが縮まるようになる。そのため、凹部1002において転写効率が最大になる印加電圧が下がる効果が得られる。この効果は、従来から知られている効果であり、ここではこれを追従変形効果と称する。
【0164】
一方で、当該弾性層を含む中間転写ベルト21Bが上述したオーバーシュート部分を有するパターンを呈するものである場合には、上述した中間転写ベルト21Bの変形の際に第1主面21s1が大きく揺れ動くことになり、当該第1主面21s1が伸縮変形することで中間転写ベルト21Bとこれに付着したトナーTとの位置関係(すなわちトナーTと第1主面21s1との間の距離やその接触面積等)が変わり、中間転写ベルト21Bに対するトナーTの付着力が低下することになる。そのため、凹部1002において転写効率が最大になる印加電圧がさらに下がる効果が得られる。この効果は、従前から知られているものではなく、本発明者が発見した効果であり、ここではこれを付着力低減効果と称する。
【0165】
このような追従変形効果またはこれに加えて付着力低減効果が発揮されることにより、
図15に示すように、凹部1002において転写効率が最大になる印加電圧V2は、上述した非弾性層のみからなる中間転写ベルト21Aを用いた場合に凹部1002において転写効率が最大になる印加電圧V1よりも小さくなる。なお、
図15においては、印加電圧と凹部1002に対する転写効率との関係を示す曲線に符号c1002(21B)を付している。
【0166】
したがって、上述した非弾性層のみからなる中間転写ベルト21Aを用いた場合に比べて、印加電圧V0付近において凹部1002における転写効率が高くなり、エンボス紙1000の凹部1002と凸部1003とにおける画像の濃度差が小さくなり、より品位の高い画像が得られることになる。
【0167】
付着力低減効果は、変位量測定装置100を用いて測定した変位量の推移にオーバーシュート部分を有するパターンを呈する中間転写ベルト21において、特に顕著に得られる効果である。得られる効果の程度は、上述したパターンにおけるオーバーシュート部分に大きく関係する。
【0168】
すなわち、上述した一次変位率k1[μm/s]が十分に大きい場合には、中間転写ベルト21がニップ部を通過する序盤において、中間転写ベルト21の第1主面が高速に一次変位することとなり、高い付着力低減効果が得られることになる。上述したオーバーシュート率E[−]が十分に大きい場合には、中間転写ベルト21がニップ部を通過する中盤において、中間転写ベルト21の第1主面に高速でかつ複雑な変形が生じることとなり、高い付着力低減効果が得られることになる。上述した二次変位率k2[μm/s]が十分に大きい場合には、中間転写ベルト21がニップ部を通過する終盤において、中間転写ベルト21の第1主面が高速に二次変位することとなり、高い付着力低減効果が得られることになる。
【0169】
ここで、
図15を参照して、上述した印加電圧V1と印加電圧V2との差をΔVtotalとし、上述した追従変形効果による、凹部1002において転写効率が最大になる印加電圧の低減幅をΔVgapとし、上述した付着力低減効果による、凹部1002において転写効率が最大になる印加電圧の低減幅をΔVadhとした場合には、ΔVtotal=ΔVgap+ΔVadhの関係が成立する。
【0170】
ΔVtotalは、上記のとおりV1−V2で表わされるため、ΔVadhは、V1−V2−ΔVgapで表わされることになる。V1およびV2は、いずれも中間転写ベルト21ごとに固有の値をとるが、実験によりその値を導くことが可能である。ΔVgapは、上述した変位量測定装置100を用いた中間転写ベルト21の評価方法において測定されたベルトSの測定領域MRの変位量yから実験的に導くことができる。したがって、これらの値から、ΔVadhを計算により算出することが可能である。
【0171】
<オーバーシュート率E、一次変位率k1および二次変位率k2と、ΔVadhとの関係を確認した実験>
本発明者は、弾性層に含有される樹脂や添加剤、架橋剤等の種類や量を種々調製することで弾性層の組成が異なるベルトを多数製作し、これらを上述した変位量測定装置100を用いたベルトの評価方法に基づいてそれぞれ評価し、各ベルトのオーバーシュート率E、一次変位率k1および二次変位率k2を求めた。
【0172】
これらの中から互いに異なるオーバーシュート率E、一次変位率k1および二次変位率k2を有する複数のベルトを選定し、選定した複数のベルトを用いて実験的にエンボス紙の凹部に対する転写効率を測定することにより、各ベルトのV2の値を求めた。ここで、当該V2の測定に際しては、
図5に示す変位量測定装置100を用い、下側ブロック110と上側ブロック120との間に測定対象のベルトとエンボス紙とを挟んで配置し、下側ブロック110と上側ブロック120との間に電位差が生じるようにこれら下側ブロック110および上側ブロック120に電圧を印加した上で、当該印加電圧を種々変化させて最も転写効率がよくなった場合の電圧をV2とした。
【0173】
また、非弾性ベルトを用いて同様の測定を行ない、V1の値を求めるとともに、変位量測定装置100を用いた中間転写ベルト21の評価方法において測定された各ベルトの測定領域MRの変位量からΔVgapを計算により算出した。
【0174】
これら各ベルトのデータをもとに、オーバーシュート率E、一次変位率k1および二次変位率k2と、ΔVadhとの関係を整理した。
図16は、オーバーシュート率EとΔVadhとの関係を示すグラフである。
図17は、一次変位率k1とΔVadhとの関係を示すグラフである。
図18は、二次変位率k2とΔVadhとの関係を示すグラフである。
【0175】
図16から理解されるように、オーバーシュート率EとΔVadhとの関係においては、0≦E<0.2の範囲でΔVadhが50[V]未満であり、付着力低減効果がほぼ得られていないことが確認できた。一方で、0.2≦Eの範囲では、オーバーシュート率Eの値が大きくなるにつれてΔVadhが50[V]を超えて上昇する傾向にあり、高い付着力低減効果が得られることが確認できた。
【0176】
図17から理解されるように、一次変位率k1とΔVadhとの関係においては、0≦k1<60の範囲でΔVadhが50[V]未満であり、付着力低減効果がほぼ得られていないことが確認できた。一方で、60≦k1の範囲では、一次変位率k1の値が大きくなるにつれてΔVadhが50[V]を超えて上昇する傾向にあり、高い付着力低減効果が得られることが確認できた。
【0177】
図18から理解されるように、二次変位率k2とΔVadhとの関係においては、0≦k2<6の範囲でΔVadhが50[V]未満であり、付着力低減効果がほぼ得られていないことが確認できた。一方で、6≦k2の範囲では、二次変位率k2の値が大きくなるにつれてΔVadhが50[V]を超えて上昇する傾向にあり、高い付着力低減効果が得られることが確認できた。
【0178】
以上の結果は、上述した第1ないし第3条件におけるオーバーシュート率E、一次変位率k1および二次変位率k2それぞれの下限値を定める根拠となるものであり、これら第1ないし第3条件のいずれかの下限値側の条件が満たされることにより、上述した追従変形効果に加えて十分な付着力低減効果が得られることを示すものである。
【0179】
<変位パラメータ間の相互関係>
オーバーシュート率E、一次変位率k1および二次変位率k2の3つともが十分に大きい場合には、非常に高い付着力低減効果が発揮され、エンボス紙等の記録面に凹凸を有する記録媒体に対する高い転写性を確保できる。
【0180】
他方、オーバーシュート部分を有するパターンを呈する中間転写ベルト21を用いた場合、非エンボス紙等の凹凸の段差が小さい記録媒体へのトナーの転写においては、中間転写ベルト21の表面が記録媒体の凹凸に完全に追従するように変形することになる。これにより中間転写ベルト21の表面と記録媒体の表面との接触面積が大きくなり、結果として記録媒体の中間転写ベルト21からの分離性が低下しやすい。
【0181】
しかしながら、二次変位率k2が大きい中間転写ベルト21を用いると、転写圧が最大となるニップ部の中央部で中間転写ベルト21の表面が記録媒体の凹凸に完全に追従するように変形したとしても、ニップ部の出口付近においては、中間転写ベルト21が既に変形から復帰している。
【0182】
ニップ部の出口付近で中間転写ベルト21の表面と記録媒体の表面との接触面積が小さくなっているため、記録媒体が中間転写ベルト21から容易に分離される。これに対し、二次変位率k2が小さい中間転写ベルト21を用いると、ニップ部の中央部で中間転写ベルト21の表面が記録媒体の凹凸に完全に追従するように変形した後、ニップ部の出口付近においても中間転写ベルト21の変形が十分に解消していないことになる。
【0183】
そのため、中間転写ベルト21の表面と記録媒体の表面との接触面積が大きいままとなり、記録媒体が中間転写ベルト21から分離され難くなる。
【0184】
したがって、オーバーシュート率Eおよび一次変位率k1だけでなく、二次変位率k2をも同時に大きくすることによって、凹凸を有する記録媒体に対する転写性を確保しながら、記録媒体の中間転写ベルト21からの分離性を確保することが可能になる。
【0185】
(過渡変位の時定数τ)
一般的に、過渡現象の応答速度の指標として、時定数というものがある。ゴムのような粘弾性体の歪み変形について述べる場合、歪みの遅延時間、応力の緩和時間などを、時定数と呼ぶことがある。時定数が小さいほど、歪みの変形が速く、応力の緩和も速くなる。時定数が大きいほど、歪みの変形が遅く、応力の緩和も遅くなる。時定数は、変形の速さおよび変形からの戻りの速さを示す指標である。
【0186】
そこで、本発明者は、中間転写ベルト21の過渡変位の時定数というべきものに着目し、転写ベルトの過渡変位の時定数をうまく調整することによって、オーバーシュート率E、一次変位率k1および二次変位率k2のいずれもが適正になるように設計できることを見出した。過渡変位の時定数をτ[s]と定義する。
【0187】
(時定数τの測定方法)
時定数τは、ベルトによって大きく異なる。前述した変位量測定装置100を用いて測定するベルトSの変位量から、当該ベルトSについての時定数τを求めることができる。
【0188】
図9,10を参照して説明した評価方法により、変位量測定装置100において加圧を開始してから最大圧に到達するまでの時間(すなわち、前述したt0)を変えながら変位量yを測定し、変位量yの最大値aおよび収束値bからオーバーシュート率Eを算出する。このようにして得られた一連の測定結果を、横軸を加圧時間t0とし縦軸をオーバーシュート率Eとしてプロットする。
【0189】
図19は、変位量測定装置100を用いてベルトSを加圧した場合におけるベルトSの加圧時間t0とオーバーシュート率Eとの関係を示すグラフである。
図19に示すように、加圧時間t0を長くしていったとき、すなわち加圧速度を小さくしていったとき、内部応力が相対的に早く緩和するようになる。したがって、内部応力の集中による過渡変位(オーバーシュート)がしにくくなって、オーバーシュート率Eが小さくなる。
【0190】
図19に示すように、加圧時間t0を長くしていくとオーバーシュート率Eが指数関数的に減衰するように、一連の測定結果がプロットされる。これらのプロットを、時定数τと定数α[−]とを用いた次式(1)のような指数関数にカーブフィッティングして、時定数τを求める。定数αとは、任意の係数である。
【0191】
E=α×exp(−t0/τ)・・・式(1)
図19に示すように、時定数τが小さいと、加圧時間t0を大きくしていったときにオーバーシュート率Eが急激に減衰するようなグラフとなる。時定数τが大きいと、加圧時間t0を大きくしていったときにオーバーシュート率Eが緩やかに減衰するようなグラフとなる。時定数τは、内部応力の緩和時間(緩和速度)を表す、一つの指標である。
【0192】
ベルトの変形速度と内部応力の緩和速度との間には、正の相関関係がある。すなわち、歪みの変形が速いものは応力の緩和も速くなり、歪みの変形が遅いものは応力の緩和も遅くなる。したがって、時定数τは、ベルトの変形速度と内部応力の緩和速度との両方の指標となる。
【0193】
(時定数τと変位波形との関係)
図20は、時定数τが異なるベルトの変位の挙動を示すグラフである。弾性層21b(
図3)に含有される樹脂、添加剤および架橋剤等の種類および量を種々調整して、多数のベルトを製作した。これらのベルトは、弾性層21bの組成が異なる。その結果時定数τが異なっている。これらのベルトに対して、変位量測定装置100を用いて
図9,10を参照して説明した評価方法で測定した、加圧時間に対する変位量の推移が、
図20に図示されている。
図20に示すグラフ(A)、グラフ(B)、グラフ(C)、グラフ(D)、およびグラフ(E)では、この順に時定数τが増大している。
図20に示すように、時定数τとベルトの過渡変位波形との間には、以下のような傾向がある。
【0194】
図20中のグラフ(B)に示すように、時定数τがやや小さいベルトは、ベルトの変形と緩和とが比較的速いため、一次変位率k1と二次変位率k2とは大きくなるが、オーバーシュート率Eは幾分小さくなる。
【0195】
図20中のグラフ(D)に示すように、時定数τがやや大きいベルトは、ベルトの変形と緩和とが比較的遅いため、オーバーシュート率Eは大きくなるが、一次変位率k1と二次変位率k2とは幾分小さくなる。
【0196】
図20中のグラフ(C)は、時定数τがグラフ(B)とグラフ(D)との中間であり、オーバーシュート率E、一次変位率k1、および二次変位率k2のいずれもがバランス良く大きくなる。
【0197】
図20中のグラフ(A)に示すように、時定数τがグラフ(B)よりもさらに小さくなると、オーバーシュート率Eがさらに小さくなる。オーバーシュート率Eが小さくなる結果として、一次変位率k1および二次変位率k2も小さくなる。
【0198】
図20中のグラフ(E)に示すように、時定数τがグラフ(D)よりもさらに大きくなると、一次変位率k1と二次変位率k2とがさらに小さくなり、オーバーシュート率Eは飽和傾向となる。
【0199】
したがって、
図20中のグラフ(B)、グラフ(C)、またはグラフ(D)に示すような、適度な時定数τのベルトで、オーバーシュート率E、一次変位率k1および二次変位率k2のいずれもが十分高く得られる。
【0200】
図21は、時定数τに対するオーバーシュート率E、一次変位率k1および二次変位率k2の関係を示すグラフである。
図21には、弾性層21bの組成が異なる多数のベルトに対して、変位量測定装置100を用いて
図9,10を参照して説明した評価方法で測定した、オーバーシュート率E、一次変位率k1および二次変位率k2と、時定数τとのプロットの近似曲線が、図示されている。
【0201】
図21に示すグラフの横軸は、対数表示した時定数τを示す。
図21に示すグラフの縦軸は、オーバーシュート率E、一次変位率k1、および二次変位率k2を示す。
図21のグラフにおいては、図面の分かり易さを重視し、グラフの縦軸のスケールが適宜調整されている。
図21のグラフにおいて、オーバーシュート率E、一次変位率k1、および二次変位率k2の各々について、縦軸のスケールが異なっている。
【0202】
図21に示すように、オーバーシュート率Eは、時定数τが小さいほど小さい値となる。時定数τが小さいと、ベルトの変形と内部応力の緩和とが非常に高速に起こるため、変位量測定装置100の穴部113(
図10)に向かってベルトの歪みが集中しづらくなる。この結果、穴部113の中央の変位を変位計150で観測したときに、オーバーシュートが起きにくくなり、計測されるオーバーシュート率Eは小さくなる。
【0203】
オーバーシュート率Eは、時定数τが大きくなるにつれて大きくなる。時定数τが大きくなっていくほど、ベルトの変形と内部応力の緩和とがゆっくり起こるので、穴部113の中央に向かってベルトの歪みが集中するようになる。この結果、オーバーシュートが起きやすくなり、計測されるオーバーシュート率Eは大きくなっていく。
【0204】
オーバーシュート率Eは、ある程度大きくなると飽和する。オーバーシュート率Eは、ベルトの歪みが最大限集中したときの値で飽和し、それ以上は大きくならない。
【0205】
一次変位率k1は、時定数τが小さいと、ベルトが速く変形するため、大きい値となる。時定数τを小さくしていくと、ベルトの変形が速く起こるようになり、一次変位率k1は大きくなっていく。時定数τをさらに小さくしていくと、一次変位率k1は再び小さくなっている。時定数τを小さくするほどベルトの変形速度が大きくなるものの、時定数τが小さいとオーバーシュート率Eが小さくなるため、変位量の最大値aが小さくなる。この結果、変位量が最大値aに向かう傾き、すなわち変位の増加速度も小さくなる。このようにして、一次変位率k1の時定数τに対する関係は、時定数τがある値のときにピークを持つような上凸形状となる。
【0206】
二次変位率k2は、時定数τが大きいと、ベルトの内部応力の緩和がゆっくり起こるため、小さい値となる。時定数τを小さくしていくと、ベルトの内部応力の緩和が速く起こるようになり、二次変位率k2は大きくなっていく。時定数τをさらに小さくしていくと、二次変位率k2は再び小さくなっている。時定数τを小さくするほどベルトの内部応力の緩和速度が大きくなるものの、時定数τが小さいとオーバーシュート率Eが小さくなるため、変位量の最大値aと収束値bとの差が小さくなる。この結果、変位量が最大値aをとった後収束値bに向かう傾き、すなわち変位の減少速度も小さくなる。このようにして、二次変位率k2の時定数τに対する関係は、時定数τがある値のときにピークを持つような上凸形状となる。
【0207】
したがって、
図21に示すように、オーバーシュート率E、一次変位率k1および二次変位率k2の各々が大きな値となる時定数τの範囲には、重なり領域がある。
【0208】
図21には、
図20を参照して説明したグラフ(A)(B)(C)(D)(E)に各々対応する時定数τが、横軸に示されている。
【0209】
(時定数τと付着力低減効果との関係)
図22は、時定数τと付着力低減効果との関係を示すグラフである。上述した弾性層の組成が異なる多数のベルトについて、
図19を参照して説明したカーブフィッティングにより求めた時定数τと、上述したV1,V2およびΔVgapに基づいて算出されたΔVadhを、時定数τを横軸としΔVadhを縦軸としたプロットの近似曲線が、
図22に図示されている。
【0210】
図22に示すように、ΔVadhの時定数τに対する関係は、時定数τがある値のときにピークを持つような上凸形状となる。画質改善効果を顕著に得られるΔVadhの下限値をTHとし、ΔVadh≧THとなる範囲、すなわちth1≦τ≦th2を満たす時定数τの範囲が、大きな付着力低減効果が得られ理想的であることがわかる。
【0211】
<時定数τの閾値を確認した実験>
本発明者は、コニカミノルタ社製の画像形成装置(デジタル印刷機:bizhub PRESS C8000)を用い、これに具備されている中間転写ベルト21を、オーバーシュート部分を有するパターンを呈する各種のベルトに付け替えて、画像形成を実際に行なった。
【0212】
画像形成装置の二次転写ローラーは、直径40mmの金属(材質はSUS)の剛体ローラーとした。対向ローラーは、直径24mmの芯金の周りにスポンジとゴムとからなる弾性層を設けた、直径40mmのローラーとした。マイクロゴム硬度計(高分子計器社製MD−1)で計測した弾性層の硬度は40度であった。二次転写部における圧力は200kPaとした。ニップ部の軸方向長さは340mmとした。
【0213】
(凹凸紙転写性の評価)
転写性の良否の評価には、特種東海製紙株式会社製のエンボス紙、商品名レザック66(レザックは登録商標)を使用した。このエンボス紙の坪量は、302[g/m2]とした。形成する画像は、ベタ画像とした。判定に際しては、マイクロデンシトメーターを用いてシャープで深さの深い凹部(溝部)の反射濃度と凸部の反射濃度とを測定し、これらの濃度差を算出した。濃度差が0.15未満である特に良好な場合には「優」と判定し、濃度差が0.15以上0.25未満である良好な場合には「良」と判定し、濃度差が0.25以上0.40未満の許容レベルである場合には「可」と判定し、濃度差が0.40以上の許容できないレベルである場合には「不可」と判定した。
【0214】
(用紙の分離性の評価)
分離性の良否の評価には、コニカミノルタ社製の普通紙、商品名Jペーパーを使用した。この用紙の坪量は、64[g/m2]とした。判定に際しては、濃度の各種異なる画像で1000枚印刷し、その間の二次転写部の分離不良による紙詰まりの回数をカウントした。紙詰まりの発生しない良好な場合には「良」と判定し、紙詰まりが3回以下の許容レベルである場合には「可」と判定し、紙詰まりが4回以上の許容できないレベルである場合には「不可」と判定した。
【0215】
(評価結果)
弾性層の組成が異なる複数のベルトを上述した変位量測定装置100を用いて
図9,10を参照して説明したベルトの評価方法に基づいてそれぞれ評価し、各ベルトの時定数τ、オーバーシュート率E、一次変位率k1および二次変位率k2を求めた。これらの各ベルトを中間転写ベルト21として適用した画像形成装置1を用いて、温度20℃、湿度50%、二次転写ローラーおよび対向ローラーの外周面の線速度(システム速度)200mm/secの条件のもとに、A4サイズの用紙への画出し評価を行なった。
図23は、実施例におけるベルトの評価結果および画像評価結果を示す表である。
【0216】
図23に示すベルト種A〜Gは、いずれも本発明者が製作したものであり、基層の材質がポリイミドであり、弾性層の材質がニトリルゴムである。各ベルトにおいて、弾性層に含有される樹脂や添加剤、架橋剤等の種類や量を種々調製することで、弾性層の組成が異なっており、その結果時定数τが異なっている。一方、ベルト種Xは、本発明者が製作したものではなく、市販の画像形成装置において用いられている中間転写ベルトであり、基層の材質がポリイミドであり、弾性層の材質がクロロプレンゴムである。
【0217】
実施例1で用いられたベルト種Aは、もっとも高い付着力低減効果を期待できるベルトである。このベルトを用いた場合、付着力低減効果が大きく発現し、エンボス紙の凹部において特に良好な転写性が得られ、かつ、非エンボス紙との分離性も良好であった。
【0218】
実施例1〜実施例5においては、付着力低減効果が大きく発現し、エンボス紙の凹部において特に良好な転写性が得られ、かつ、非エンボス紙との分離性も許容レベル以上であった。実施例1〜実施例5のベルトにおいて、時定数τは、0.015≦τ≦0.1の範囲にある。これより、
図22に示す時定数τの下限値である閾値th1を0.015とし、時定数τの上限値である閾値th2を0.1と定めることができる。このように時定数τの範囲を管理し、時定数τが0.015≦τ≦0.1の条件を満たす中間転写ベルトを用いることにより、凹凸紙への転写性と、紙分離性とを両立することができる。
【0219】
比較例1および比較例3で用いられたベルトは、時定数τが0.015未満であり、時定数τが上記の範囲外にある。比較例1および比較例3では、オーバーシュート率E、一次変位率k1および二次変位率k2のいずれも十分高い値が得られなかった。このため、比較例1および比較例3では、付着力低減効果がほとんど発現されず、エンボス紙の凹部において良好な転写性が得られなかった。
【0220】
比較例2で用いられたベルトは、時定数τが0.1より大きく、時定数τが上記の範囲外にある。比較例2では、オーバーシュート率Eは高い値が得られたが、一次変位率k1および二次変位率k2は十分高い値が得られなかった。このため、付着力低減効果がある程度の発現となり、エンボス紙の凹部における転写性は良好レベルに留まった。
【0221】
さらに、比較例2で用いられたベルトは、オーバーシュート率Eが大きい割に二次変位率k2が小さい。このため、転写圧が最大となるニップ部の中央部で中間転写ベルト21の表面が用紙の凹凸に完全に追従するように変形した後、ニップ部の出口付近においても十分に変形が解消しておらず、中間転写ベルト21の表面と用紙の表面との接触面積が大きいままであると考えられる。
【0222】
これにより、用紙が中間転写ベルト21から分離され難くなったため、非エンボス紙との分離性は不可レベルとなった。
【0223】
比較例1および比較例3では、紙分離性は良好な結果となっている。比較例1および比較例3では、二次変位率k2は小さいがオーバーシュート率Eも小さい。転写圧が最大となるニップ部の中央部で中間転写ベルト21の表面が用紙の凹凸に完全に追従するように変形しにくく、また変形量自体が小さい。このため、ニップ部の出口付近において、中間転写ベルト21は既に変形から復帰しており、中間転写ベルト21の表面と用紙の表面との接触面積が小さくなっていると考えられる。これにより、用紙が中間転写ベルト21から容易に分離されると考えられる。
【0224】
以上の結果に基づけば、時定数τが0.015未満、または時定数τが0.1超であれば、凹凸紙への転写性と紙分離性とを両立できないことが分かった。時定数τを0.015≦τ≦0.1の条件を満たすように適切に管理することにより、オーバーシュート率E、一次変位率k1および二次変位率k2のいずれも十分高い値を得ることができる。したがって凹凸紙への転写性と紙分離性とを両立できることが示された。
【0225】
よって、中間転写ベルト21の過渡変位の時定数τを0.015≦τ≦0.1の条件を満たすように適切に管理することにより、表面に凹凸を有する記録媒体に対しても高い転写性を実現することができ、繰り返しの使用によっても画像品位の低下を抑制でき、かつ、厚みの薄い紙やタック性の強い紙など中間転写ベルト21からの分離の難しい記録媒体に対しても確実に分離を可能としてジャムの発生のリスクを抑制できる、画像形成装置1を提供することができる。
【0226】
<中間転写ベルト21の曲げによる効果>
オーバーシュート部分を有するパターンを呈する中間転写ベルト21を用いて画像形成する際に、ニップ部Nで特定の向きに中間転写ベルト21が曲げられることで、オーバーシュートが発現しやすくなる。すなわち、中間転写ベルト21の曲げ状態によって種々の記録媒体に対する転写性等が大きく変わる。中間転写ベルト21の曲げ状態は、凹曲げ、凸曲げ、ストレートの3パターンがある。以下、中間転写ベルト21の曲げ状態の3パターンについて説明する。
【0227】
(凹曲げ状態)
図24は、凹曲げ状態の中間転写ベルト21を示す図である。凹曲げ状態とは、ニップ部Nにおいて、二次転写ローラー33に近い側である第1主面21s1(トナー担持面)が収縮し、対向ローラー24に近い側である第2主面21s2が延びるように曲げられる状態のことである。
【0228】
二次転写ローラー33は、記録媒体1000及び中間転写ベルト21を介して対向ローラー24に圧接される。外層に弾性部24bを有する対向ローラー24にむけて、二次転写ローラー33を押圧することによって、二次転写ローラー33の一部が記録媒体1000及び中間転写ベルト21を介して対向ローラー24に食い込むような形態となることがある。その結果、ニップ部Nにおける中間転写ベルト21は凹曲げ状態となる。このときの曲率は、二次転写ローラー33の外周面の曲率に概ね等しい。
【0229】
(凸曲げ状態)
図25は、凸曲げ状態の中間転写ベルト21を示す図である。凸曲げ状態とは、ニップ部Nにおいて、二次転写ローラー33に近い側である第1主面21s1(トナー担持面)が延び、対向ローラー24に近い側である第2主面21s2が収縮するように曲げられる状態のことである。
【0230】
二次転写ローラー33として外層に弾性部33bを有するようなローラーを用いた場合には、二次転写ローラー33を対向ローラー24に向けて押圧することによって、対向ローラー24の一部が中間転写ベルト21及び記録媒体1000を介して二次転写ローラー33に食い込むような形態となることがある。その結果、ニップ部Nにおける中間転写ベルト21は凸曲げ状態となる。このときの曲率は、対向ローラー24の外周面の曲率に概ね等しい。
【0231】
(ストレート状態)
図26は、ストレート状態の中間転写ベルト21を示す図である。ストレート状態とは、ニップ部Nにおいて、中間転写ベルト21が直線もしくは、ほぼ直線となった状態のことである。ストレート状態は、上記の凹曲げ状態と凸曲げ状態との間の状態である。
【0232】
二次転写ローラー33および対向ローラー24がともに外層に弾性部を有するローラーであり、双方のローラーの径と硬さが概ね等しい場合には、ニップ部Nで中間転写ベルト21が直線もしくは、ほぼ直線となる。
【0233】
二次転写ローラー33および対向ローラー24の硬さに差があったとしても、ストレート状態になることはある。例えば、二次転写ローラー33が剛体ローラーではあるが非常に径の大きいローラーであった場合、中間転写ベルト21は、ニップ部Nでほぼ直線に近い凹曲げ形状になるが、この場合も、ストレート状態とみなす。凹曲げ状態とストレート状態との境界については、実施の形態の中間転写ベルト21がオーバーシュートを発現するか否かがその基準となるが、これについては後述する。
【0234】
<凹曲げの効果>
図27は、
図24のニップ部NにおけるXXVIIで囲われた領域の拡大図である。図中の第1主面21s1に沿う方向を面内方向DR1とする。凹曲げ状態になると、第1主面21s1と第2主面21s2との間の曲率差により、第1主面21s1が面内方向DR1において圧縮される向きに力がかかる。すなわち、第2主面21s2の長さ(
図27中の両矢印A)はそのままで、第1主面21s1の長さ(
図27中の両矢印B)が圧縮されるように力がかかる。
【0235】
ゴムは一般的に非圧縮性の物体であるので、圧力を受けたときその容積を維持する方向に変形しようとする。そのため、凹曲げにより第1主面21s1が面内方向DR1において圧縮される向きに力を受けた際、記録媒体1000の表面に凹部があれば、その凹部に向かって弾性層21bが膨らむ方向(
図27中の矢印C)に変形しやすい状態になる。
【0236】
図28は、凹曲げ状態の中間転写ベルト21が加圧された状態を表す図である。二次転写ローラー33と対向ローラー24との圧接により、中間転写ベルト21が記録媒体1000に押し付けられるように圧力がかかり、凹凸を有する記録媒体1000の凸部1003に対向する弾性層21b(
図28中の両矢印D)に強い圧力がかかる。
【0237】
一方、凹凸を有する記録媒体1000の凹部1002に対向する弾性層21bは、直接圧力を受けないので、弾性層21bは記録媒体1000の凸部1003に対向する弾性層21bから凹部1002に対向する部分に向かって変形し(
図28中の矢印E)、凹部1002に向かって弾性層21bが膨らむ結果となる(
図28中の矢印F)。
【0238】
したがって、凹曲げ状態で加圧されると、凹部1002に対向する第1主面21s1付近が変形しやすい状態で加圧されることとなり、内部応力によって瞬間的に大きな歪みが引き起こされて、凹部1002に対向する部分に向かって集中し、凹部1002に対向する弾性層21bが瞬間的に大きく膨らむこととなる。このように、凹曲げ状態で加圧されることで、オーバーシュートが発現しやすくなる。以下、上記「凹曲げ」の作用を確認する実験結果とともに、さらに詳細に凹曲げについて説明する。
【0239】
<ベルトの曲率半径と変位量との関係>
変位量測定装置100を用いて、巻き掛けられているベルトの曲率半径と、そのときのベルトの変位量との関係を評価した。ベルトの曲率半径は、変位量測定装置100の下側ブロック110の湾曲凸条面112と上側ブロック120の湾曲凹条面122の曲率半径を変えることによって変更した。標準条件は上述したように、下側ブロック110の湾曲凸条面112の曲率半径20[mm]、上側ブロック120の湾曲凹条面122の曲率半径20.3[mm]とする。巻き掛けられているベルトの曲率半径は、下側ブロックの湾曲凸条面112の曲率半径に等しく、標準条件では20[mm]である。そこで、ベルトの曲率半径をr[mm]に合わせたいとき、下側ブロック110の湾曲凸条面112の曲率半径をr[mm]、上側ブロック120の湾曲凹条面122の曲率半径はr+0.3[mm]となるようにした。加圧速度は4[kPa/ms](t0=0.05[s])に設定した。
【0240】
ベルトを評価するにあたって、ベルトAおよびベルトBを用いた。ベルトAは、本実施の形態の典型的な変位のパターンを示すベルト、すなわち、変位量測定装置100を用いた評価方法を適用して評価を行なった場合に、オーバーシュート部分を有するパターンを呈するベルトである。ベルトBは、本実施の形態の典型的な変位のパターンを示さないベルト、すなわち、変位量測定装置100を用いた、評価方法を適用して評価を行なった場合に、オーバーシュート部分を有さないパターンを呈するベルトである。
【0241】
図29は、巻き掛けられているベルトの曲率半径とベルトの変位量の最大値aとの関係を示したグラフである。
図30は、巻き掛けられているベルトの曲率半径とベルトの変位量の収束値bとの関係を示したグラフである。ベルトAおよびベルトBともに、巻き掛けられているベルトの曲率半径が小さいほど、最大値aおよび収束値bが増加する傾向が見られたが、ベルトAとベルトBの傾向には明確な違いが見られた。
【0242】
図29および
図30に示す実線がベルトA、点線がベルトBを表す。ベルトBの場合には、巻き掛けられているベルトの曲率半径を小さくしていくと、最大値aと収束値bがほぼ同じような傾きで、増加していく。前述のとおり、凹曲げによって、
図10に示す変位量測定装置100の穴部113に対向する部分が膨らむ。そのため、測定される変位量は、最大値a、収束値bともに大きくなる。
【0243】
一方、ベルトAの場合には、巻き掛けられているベルトの曲率半径を小さくすると、収束値bは、ベルトBと同じような傾きで増加する。巻き掛けられているベルトの曲率半径を小さくすると、最大値aは、ベルトBの場合より大きな傾きで増加する。
【0244】
ベルトAにおけるオーバーシュートは、ベルトへの加圧が急速に増加することにより、ベルトの内部応力によって引き起こされる歪みが、変位量測定装置100の穴部113に向かって集中し、観測される変位量が最大値をとったあと、内部応力が湾曲凸条面112と湾曲凹条面122とによって挟まれる全域に拡散することによって速やかに緩和し、観測される変位量も減少して収束する現象である。
【0245】
図28に示すように、凹曲げによって穴部に対向する第1主面21s1付近が面内方向DR1において圧縮される向きに力がかかり穴部に向かって弾性層21bが膨らむ方向に変形しやすい状態になる。凹曲げ状態になると同時に圧力がかかると内部応力によって瞬間的に大きな歪みが引き起こされて、穴部に向かって集中し、観測される変位量の最大値がさらに大きくなることになる。
【0246】
図31は、巻き掛けられているベルトの曲率半径とオーバーシュート率Eとの関係を示したグラフである。
図31の測定結果は、測定値のプロットの近似曲線である。ベルトAのオーバーシュート率Eは、巻き掛けられているベルトの曲率半径を小さくするにつれて、より大きな傾きとなって増加していく。
【0247】
図31に示すベルトAにおけるオーバーシュート率は、巻き掛けられているベルトの曲率半径が40[mm]以下のときに、急激に大きくなる。したがって、オーバーシュート部分を有するパターンを呈するベルトを用いて凹凸を有する記録媒体に画像形成する際には、ニップ部Nにおいて、ベルトが凹曲げ状態であり、そのときの巻き掛けられているベルトの曲率半径が40[mm]以下であれば、凹凸を有する記録媒体への転写性向上の効果は大きいと言える。
【0248】
一方、ベルトBについては、巻き掛けられているベルトの曲率半径を小さくしていっても、オーバーシュート率が増加することがほとんどない。変位量測定装置100を用いた、評価方法を適用して評価を行なった場合に、オーバーシュート部分を有さないパターンを呈するベルトは、巻き掛けられているベルトの曲率半径を調整したとしても、ベルトのオーバーシュートによる付着力低減効果が得られる可能性がないことが分かる。
【0249】
<曲率半径と画質との関係>
上述するように本発明者らは、弾性層を含む中間転写ベルト21の過渡変位を利用してトナー付着力を下げることで凹凸紙転写性を上げる方法を提示している。オーバーシュート部分を有するパターンを呈するベルトを用いて、凹曲げ状態で画像形成することで、凹凸紙に対する転写性が向上することが明らかになっている。
【0250】
しかし、凹曲げ状態で中間転写ベルト21を使用した場合、コート紙のような表面が平滑な紙を用いた場合には、画像が乱れる(ガサツキ)ことがあることが判明した。
【0251】
表面にコート層を施した平滑紙に対して、オーバーシュート部分を有するパターンを呈するベルトを凹曲げ変形させると、圧縮された弾性層が反発して不必要に変形するためである。さらに、ボード紙のようなコシの強い(弾力があって折れにくい)紙を使用する場合、ニップ部Nで強い曲げが加わると、紙のコシが強いために反発が強く、ニップ部Nで紙がバタツいて、画像が乱れる原因になる。
【0252】
凹凸紙に対しては、凹曲げ状態にすることによって、トナー付着力低減効果を発現させ、凹凸紙に対する転写性を確保することができる。一方、平滑紙またはボード紙のようなコシの強い紙を用いる場合には、ニップ部Nでのベルトの曲率半径が大きくなるように(ストレート、もしくはストレートに近くなるように)する。これにより、オーバーシュート部分を有するパターンを呈するベルトを用いた場合でも、ニップ部Nでベルトの表面がむやみに変形したり、紙が反発したりして画像を乱すことはなくなる。
【0253】
以上のことから、紙種に応じてニップ部Nでのベルトの曲率半径を変更することで、表面に凹凸を有する記録媒体に対する転写性を確保しながら、なおかつ、幅広い記録媒体に対して、良好な画質を確保することが可能になる。
【0254】
また、0.2≦E≦3.0の範囲に入る中間転写ベルト21を用いることによって、凹凸紙に対する転写性がより向上し、耐久使用時のベルトの割れや摩耗を抑制できる。
【0255】
さらに、0.015≦τ≦0.1の範囲に入る中間転写ベルト21を用いることによって、表面に凹凸を有する記録媒体に対して高い転写性を確保しながら、繰り返しの使用によっても画像品位の低下を抑制できる。さらに、厚みの薄い紙やタック性の強い紙など中間転写ベルト21からの分離の難しい記録媒体に対しても確実に分離を可能としてジャムの発生のリスクを抑制できる。
【0256】
<巻き掛け量調整部60>
画像形成装置1は、巻き掛け量調整部60を備える。巻き掛け量調整部60は、記録媒体種別情報取得部より記録媒体種別を取得し、中間転写ベルト21の二次転写ローラー33への巻き掛け量を調整する。巻き掛け量は、二次転写ローラー33に巻き掛けられている中間転写ベルト21の長さである。巻き掛け量を調整することで、ベルトの曲げ状態を変えることができるため、凹曲げ状態、ストレート状態を作ることができる。たとえば、巻き掛け量をほぼ0に調整することで、ストレート状態を作ることができる。
【0257】
記録媒体種別情報取得部が、表面に凹凸を有する記録媒体を取得した場合は、巻き掛け量調整部60が巻き掛け量を大きくなるように調整して凹曲げ状態にすることによって、高い転写性を確保できる。記録媒体種別情報取得部が平滑紙やコシが強い記録媒体を取得した場合は、巻き掛け量調整部60が巻き掛け量を小さくなるように調整してストレート状態に近づけることによって、ガサツキを抑制することができ、良好な画質を確保することができる。
【0258】
巻き掛け量を調整する方法として、実施の形態Aおよび実施の形態Bについて説明する。
【0259】
(実施の形態A)
図32は、巻き掛け量調整部60により巻き掛け量を調整して作り出したストレート状態を示す図である。実施の形態Aにおいて、巻き掛け量調整部60は、張架部材50aを含む。張架部材50aは、ローラーである。張架部材50aは、ニップ部Nに対して記録媒体1000の搬送方向DR2の上流側で中間転写ベルト21を張架する。中間転写ベルト21の回転方向をDR3とする。無端状の中間転写ベルト21が回転することで、張架部材50aも中間転写ベルト21に伴って回転する。
【0260】
ストレート状態では、中間転写ベルト21の二次転写ローラー33への巻き掛け量がゼロに近づくように、巻き掛け量調整部60は、二次転写ローラー33、対向ローラー24、および、張架部材50aの相対位置を変える。
【0261】
ストレート状態で安定したニップ幅を確保するため、二次転写ローラー33および対向ローラー24の両方に弾性部(外層がゴムもしくはスポンジ)を設けている。ストレート状態において、記録媒体1000と接触する二次転写ローラー33の外周面は、フラットに近い形状である。
【0262】
図33は、巻き掛け量調整部60により巻き掛け量を調整して作り出した凹曲げ状態を示す図である。凹曲げ状態では、中間転写ベルト21の二次転写ローラー33への巻き掛け量が大きくなるように、巻き掛け量調整部60は、二次転写ローラー33、対向ローラー24、および、張架部材50aの相対位置を変える。ベルトの張力(テンション)によって二次転写ローラー33の弾性部33bが圧縮変形することによって、ニップ部Nにおける二次転写ローラー33の外周面が曲面となる。このことにより、中間転写ベルト21が凹曲げ状態となり、ニップ部Nに凹曲げ部が形成される。
【0263】
巻き掛け量調整部60は、記録媒体1000の種類に応じて、二次転写ローラー33、対向ローラー24、張架部材50aの相対位置を調整する。二次転写ローラー33、対向ローラー24、および、張架部材50aの相対位置を変えることにより、中間転写ベルト21の二次転写ローラー33への巻き掛け量を調整できる。
【0264】
紙種に応じて巻き掛け量を調整することで、ベルトの曲げ状態を変えることができるため、表面に凹凸を有する記録媒体に対する転写性を確保できる。さらに、幅広い記録媒体に対して、良好な画質を確保することが可能になる。
【0265】
巻き掛け量が最も小さくなる位置をストレートニップ位置として、巻き掛け量調整部60は、巻き掛け量がストレートニップ位置における巻き掛け量以上になるように二次転写ローラー33、対向ローラー24、および、張架部材50aの位置関係を調整する。これによって、凸曲げ状態にならないため、凹凸を有する記録媒体に対して、転写性を確保できる。
【0266】
図32および
図33に示すように、二次転写ローラー33および対向ローラー24のそれぞれの中心を通る直線に垂直な直線であって、ニップ部Nの中心を通る点線を第1の直線Aとする。張架部材50aを経てニップ部Nへ向かう中間転写ベルト21の進入経路に沿う点線を第2の直線Bとする。ストレート状態では、
図32に示すように第2の直線Bが第1の直線Aに概ね一致している。凹曲げ状態では、
図33に示すように、対向ローラー24の回転方向DR4を正として、第2の直線Bが第1の直線Aに対して成す角度をθ1とすると、θ1が正の値を示す。
【0267】
図34は、巻き掛け量調整部60が2つの張架部材を含む場合を示す図である。巻き掛け量調整部60は、ニップ部Nに対して搬送方向DR2の上流側に配置された張架部材50aおよび搬送方向DR2の下流側に配置された張架部材50bを含む。2つの張架部材により、確実に凹曲げ状態を作れる。
【0268】
図35は、対向ローラー24の位置を調整して作られたストレート状態を示す図である。
図36は、対向ローラー24の位置を調整して作られた凹曲げ状態を示す図である。張架部材50aを動かさずとも、対向ローラー24の位置を変えることによっても相対位置の調整が可能である。対向ローラー24の位置を変えて巻き掛け量を調整することで、ストレート状態および凹曲げ状態を作ることができる。また、二次転写ローラー33の位置を変えることによっても相対位置の調整が可能であり、巻き掛け量を調整することができる。
【0269】
(実施の形態B)
実施の形態Bにおいて、二次転写部は、硬度および径の少なくとも一方が異なる複数の二次転写ローラー33、もしくは、硬度および径の少なくとも一方が異なる複数の対向ローラー24のいずれかを含む。二次転写ローラー33もしくは対向ローラー24を切り替えることによって、巻き掛け量を調整することが可能である。
【0270】
図37は、硬度の異なる2つの二次転写ローラー33を含む二次転写部により作られたストレート状態を示す図である。二次転写部は、硬度が大きい方である第1の二次転写ローラー33eおよび硬度が小さい方である第2の二次転写ローラー33dを有する。第2の二次転写ローラー33dは、対向ローラー24と同程度の硬度もしくはそれ以上の硬度である。巻き掛け量調整部60は、ストレート状態を作り出す際に、第2の二次転写ローラー33dを選択して、二次転写部を構成する。
【0271】
第2の二次転写ローラー33d及び第2の二次転写ローラー33dに対向する対向ローラー24は、金属の芯金の周りに、スポンジやゴムからなる弾性部を設けたゴム(スポンジ)ローラーが好ましい。
【0272】
第2の二次転写ローラー33d及び第2の二次転写ローラー33dに対向する対向ローラー24の硬度が小さ過ぎると、ニップ部Nの形状が不安定になりやすい。一方、硬度が大き過ぎるとニップ幅が狭くなり過ぎて二次転写に必要な電荷を十分に供給できなくなったり、接触状態が不安定になったりする。そのため、第2の二次転写ローラー33d及び第2の二次転写ローラー33dに対向する対向ローラー24の硬度は、30度から80度が好ましい。硬度は、上述したマイクロゴム硬度計(例えば、高分子計器社製:MD−1)を用いて測定することができる。
【0273】
図38は、硬度の異なる2つの二次転写ローラー33を含む二次転写部により作られた凹曲げ状態を示す図である。巻き掛け量調整部60は、凹曲げ状態を作り出す際に、第1の二次転写ローラー33eを選択して、二次転写部を構成する。
【0274】
第1の二次転写ローラー33eは、対向ローラー24よりも硬度が大きい。凹曲げ状態を確実に実現するため、第1の二次転写ローラー33eの硬度は、対向ローラー24の硬度よりも20度以上大きい方が好ましい。例えば、第1の二次転写ローラー33eは、SUSやアルミニウムから成る剛体ローラーが好ましい。
【0275】
図39は、径の異なる2つの二次転写ローラー33を含む二次転写部により作られたストレート状態を示す図である。二次転写部は、径が大きい方である第3の二次転写ローラー33fおよび径が小さい方である第4の二次転写ローラー33gを有する。巻き掛け量調整部60は、ストレート状態を作り出す際に、第3の二次転写ローラー33fを選択して、二次転写部を構成する。第3の二次転写ローラー33fは、剛体ローラーであっても、弾性部を含む硬度の小さいローラーであっても構わない。
【0276】
図40は、径の異なる2つの二次転写ローラー33を含む二次転写部により作られた凹曲げ状態を示す図である。巻き掛け量調整部60は、凹曲げ状態を作り出す際に、第4の二次転写ローラー33gを選択して、二次転写部を構成する。
【0277】
第4の二次転写ローラー33gは、対向ローラー24よりも硬度が大きい。凹曲げ状態を確実に実現するため、第4の二次転写ローラー33gの硬度は、対向ローラー24の硬度よりも20度以上大きい方が好ましい。例えば、第4の二次転写ローラー33gは、SUSやアルミニウムから成る剛体ローラーが好ましい。
【0278】
図41は、硬度の異なる2つの対向ローラーを含む二次転写部により作られたストレート状態を示す図である。二次転写部は、硬度が大きい方である第2の対向ローラー24cおよび硬度が小さい方である第1の対向ローラー24dを有する。第2の対向ローラー24cは、二次転写ローラー33と同程度の硬度もしくはそれ以下の硬度である。巻き掛け量調整部60は、ストレート状態を作り出す際に、第2の対向ローラー24cを選択して、二次転写部を構成する。
【0279】
第2の対向ローラー24c及び第2の対向ローラー24cに対向する二次転写ローラー33の硬度が小さ過ぎると、ニップ部Nの形状が不安定になりやすい。一方、硬度が大き過ぎるとニップ幅が狭くなり過ぎて二次転写に必要な電荷を十分に供給できなくなったり、接触状態が不安定になったりする。そのため、第2の対向ローラー24c及び第2の対向ローラー24cに対向する二次転写ローラー33の硬度は、30度から80度が好ましい。
【0280】
図42は、硬度の異なる2つの対向ローラーを含む二次転写部により作られた凹曲げ状態を示す図である。巻き掛け量調整部60は、凹曲げ状態を作り出す際に、第1の対向ローラー24dを選択して、二次転写部を構成する。
【0281】
凹曲げ状態を作るためには、第1の対向ローラー24dが二次転写ローラー33よりも柔らかい必要がある。凹曲げ状態を確実に実現するため、第1の対向ローラー24dの硬度は、二次転写ローラー33の硬度よりも20度以上小さい方が好ましい。第1の対向ローラー24dは、金属の芯金の周りに、スポンジやゴムからなる弾性部を設けたゴム(スポンジ)ローラーが好ましい。
【0282】
巻き掛けられているベルトの曲率半径とオーバーシュート率との関係を調べた実験結果(
図31)によれば、ベルトの曲げの曲率半径を40[mm]より大きくすることで、平滑紙を使用する場合に、ベルトの過渡変位(オーバーシュート)を抑制してガサツキを防止することができる。
【0283】
一方、凹凸紙において、オーバーシュートを十分に発現させて大きな付着力低減効果を得るためには、ベルトの曲げの曲率半径は40[mm]以下とするのが好ましい。したがって、第1の二次転写ローラー33e、第4の二次転写ローラー33g、および第2の対向ローラー24cに対向する二次転写ローラー33の直径は、80[mm]以下であるのが好ましい。
【0284】
巻き掛け量調整部60は、記録媒体1000の種類に応じて、硬度および径の少なくとも一方が異なる複数の二次転写ローラー33、もしくは、硬度および径の少なくとも一方が異なる複数の対向ローラー24の中から適切なローラーを選択して二次転写部を構成することで、巻き掛け量を調整する。
【0285】
巻き掛け量を調整することで、ベルトの曲げ状態(すなわち、ニップ部Nでのベルトの曲率半径)を変更することができる。紙種に応じて巻き掛け量を調整することで、表面に凹凸を有する記録媒体に対する転写性を確保しながら、なおかつ、幅広い記録媒体に対して、良好な画質を確保することが可能になる。
【実施例】
【0286】
本発明者は、コニカミノルタ社製の画像形成装置(デジタル印刷機:bizhub PRESS C8000)を用い、これに具備されている中間転写ベルトを、オーバーシュート部分を有するパターンを呈する各種のベルトに付け替えて、画像形成を実際に行なった。
【0287】
画像形成装置1の二次転写ローラー33および対向ローラー24は、直径24mmの芯金の周りにNBRからなる弾性部を設けた、直径40mmのローラーとした。マイクロゴム硬度計(高分子計器社製MD−1)で計測したローラーの硬度は40度であった。二次転写部における圧力は200kPaとした。ニップ部の軸方向長さは340mmとした。
【0288】
図43は、実施例における張架部材の配置を示す図である。第1の直線Aに対して、第2の直線Bがなす角度θ1を進入角とする。張架部材50bを経てニップ部Nから出ていく中間転写ベルト21の退出経路に沿う
図43中の点線を第3の直線Cとする。二次転写ローラー33の回転方向DR5を正として、第1の直線Aに対して、第3の直線Cがなす角度θ2を退出角とする。
【0289】
ニップ部Nに対して搬送方向DR2の上流側に配置された張架部材50aと、下流側に配置された張架部材50bの位置を変えて巻き掛け量、すなわち進入角θ1および退出角θ2を調整し、凹凸紙、平滑紙、および厚紙における転写性およびベタ均一性(ガサツキ)を調べた。
【0290】
(凹凸紙の転写性の評価)
凹凸紙の転写性の評価は、ベタ画像を形成し、判定に際しては、マイクロデンシトメーターを用いてシャープで深さの深い凹部(溝部)の反射濃度と凸部の反射濃度とを測定し、これらの濃度差を算出した。濃度差が0.25未満である良好な場合には「良」と判定し、濃度差が0.25以上0.40未満の許容レベルである場合には「可」と判定し、濃度差が0.40以上の許容できないレベルである場合には「不可」と判定した。
【0291】
図44は、各進入角θ1および各退出角θ2に対する凹凸紙の転写性の評価結果を示す表である。凹凸紙の評価は、特種東海製紙株式会社製のエンボス紙、商品名レザック66(レザックは登録商標)を使用した。エンボス紙の坪量は、302[g/m2]とした。
図44より、凹凸紙において、転写性を確保するにはθ1は5°以上が好ましいことがわかる。「不可」という結果は、中間転写ベルト21が凹曲げ状態になっていないことが起因している。
【0292】
(平滑紙と厚紙の転写性の評価)
平滑紙と厚紙(コシが強い)の転写性の評価は、凹凸紙の場合とは異なり、以下の方法で行った。1色(シアン)のベタ画像を形成し、中間転写ベルト21上にテスト用トナー像として形成した。記録媒体1000への転写前のトナーの質量Aと、記録媒体1000への転写後に中間転写ベルト21上に残されたトナーの質量Bとを測定して、下式(2)により転写効率を算出した。
【0293】
転写効率[%]=((A−B)/A)×100・・・式(2)
転写効率が95%以上である場合には「良」、転写効率が90%以上95%未満である場合には「可」、転写効率が90%未満である場合には「不可」と判定した。
【0294】
上記の評価方法により、各進入角θ1および各退出角θ2における平滑紙および厚紙の転写性を評価したところ転写性は全ての場合において「良」であった。平滑紙および厚紙の画像評価として、転写性の他に後述するベタ均一性(ガサツキ)の評価を実施した。
【0295】
(ベタ均一性(ガサツキ)の評価)
ベタ均一性(ガサツキ)の評価は、ベタ画像を印刷し、当該ベタ画像の画質を観察することで行なった。判定に際しては、目視評価にて、画像にノイズがないものを「良」とし、画像にノイズがあるが軽微で許容できるものを「可」とし、画像に許容できないレベルのノイズがあるものを「不可」とした。なお、エンボス紙に対してベタ均一性を評価する際には、転写性評価と区別するため、凹部(溝部)の濃度は無視して、凹部(溝部)以外の、凸部(平坦部)のみを観察して、凸部(平坦部)の濃度の均一性を目視評価するようにした。
【0296】
上記の評価方法により、各進入角θ1および各退出角θ2における凹凸紙のベタ均一性を評価したところベタ均一性は全ての場合において「良」であった。
【0297】
図45は、各進入角θ1および各退出角θ2に対する平滑紙のベタ均一性の評価結果を示す表である。平滑紙の評価は、王子製紙社製のコート紙、OKトップコート+を使用した。このコート紙の坪量は、104.7[g/m2]とした。「不可」という結果は、中間転写ベルト21が凹曲げ状態になり、不必要に変形することが起因している。表面にコート層を施した平滑紙に対して、オーバーシュート部分を有するパターンを呈する中間転写ベルト21を凹曲げ変形させると、圧縮された弾性層が反発して不必要に変形して、画像が却って乱れる原因になるためである。
【0298】
図46は、各進入角θ1および各退出角θ2に対する厚紙のベタ均一性の評価結果を示す表である。厚紙の評価は、Mondi社製のレーザープリンタ用紙、カラーコピーを使用した。この用紙の坪量は、350[g/m2]とした。「不可」という結果は、記録媒体1000に無理な曲げが加わることが起因している。ボード紙のようなコシの強い紙を使用する際には、ニップ部Nで強い曲げが加わると、紙のコシが強いために反発が強く、ニップ部Nで紙が反発する。その結果、紙がバタついた部分で圧力の変動が生じて、画像が乱れる原因になる。
【0299】
(実施例1)
図47は、E=1.0の中間転写ベルト21を用いて、凹凸紙、平滑紙、および、厚紙それぞれに対して転写性およびベタ均一性が良好になるような最適な進入角および退出角をまとめた表である。進入角θ1および退出角θ2を調整することで、様々な紙種に対する転写性およびベタ均一性を確保できる。
【0300】
(比較例1)
図48は、凹凸紙に対して転写性およびベタ均一性が良好になるような最適な進入角および退出角に設定し、凹凸紙、平滑紙、厚紙それぞれに対する画像評価をした結果を示す表である。平滑紙および厚紙において、ベタ均一性の評価が「不可」であった。前述したように、凹曲げ変形させると、圧縮された弾性層が反発して不必要に変形するためであると考えられる。
【0301】
(比較例2)
図49は、平滑紙に対して転写性およびベタ均一性が良好になるような最適な進入角および退出角に設定し、凹凸紙、平滑紙、厚紙それぞれに対する画像評価をした結果を示す表である。厚紙において、ベタ均一性の評価が「不可」であり、凹凸紙において、転写性の評価が「不可」であった。
【0302】
凹凸紙の転写性の評価が「不可」であったことに関しては、中間転写ベルト21が凸曲げ状態となり、オーバーシュートが発現しにくくなっていることが起因していると考えられる。厚紙のベタ均一性の評価が「不可」であったことに関しては、前述したように、ニップ部Nで強い曲げが加わると、紙のコシが強いため反発が強く、ニップ部Nで紙がバタツき、圧力の変動が生じるためであると考えられる。
【0303】
(比較例3)
図50は、厚紙に対して転写性およびベタ均一性が良好になるような最適な進入角および退出角に設定し、凹凸紙、平滑紙、厚紙それぞれに対する画像評価をした結果を示す表である。凹凸紙において、転写性の評価が「不可」であった。中間転写ベルト21がストレート状態となり、オーバーシュートが発現しにくくなっていることが起因していると考えられる。
【0304】
上記のように、全ての紙種に対して転写性およびベタ均一性を良好にできるような進入角および退出角はない。しかし、紙種に応じて進入角および退出角を調整することで、様々な紙種に対する転写性およびベタ均一性を確保することができる。
【0305】
(実施例2〜実施例6)
図51〜
図55は、E=0.2、3.0の中間転写ベルト21およびτ=0.015、0.04、0.1を示す中間転写ベルト21における画像評価の結果を示す表である。
図47と同様の進入角θ1および退出角θ2の条件で、凹凸紙、平滑紙、および、厚紙の全ての紙種において、良好な転写性およびベタ均一性が確保できることが確認できた。
【0306】
E>3のベルトでは必要な耐久性が得られなかった。具体的には、上述したレザック66(レザックは登録商標)の坪量が302[g/m2]のもの1万枚に印刷を行なった後において、同装置にてベタ画像をさらに印刷し、当該ベタ画像の画質を観察したところ、画像にノイズが発生していた。
【0307】
τ>0.1のベルトでは紙分離性に問題があった。具体的には、コニカミノルタ社製の普通紙、商品名Jペーパー(坪量は64[g/m2])を使用し、濃度の各種異なる画像で1000枚印刷し、その間の二次転写部の分離不良による紙詰まりの回数をカウントしたところ、紙詰まりが4回以上発生する、「不可」レベルであった。
【0308】
このように進入角θ1および退出角θ2を調整、すなわち巻き掛け量を調整することで、各種類の用紙に対して、良好な転写性およびベタ均一性を確保できることが示された。
【0309】
以上において説明した本実施の形態においては、
図11に示す変位パターンを呈するベルトを中間転写ベルトとして具備してなる画像形成装置に本発明を適用した場合を特に例示して説明を行なったが、本発明の適用範囲はこれに限定されるものではなく、その他の変位パターンを呈する中間転写ベルトでも適用可能である。
【0310】
以上において説明した本実施の形態においては、画像形成装置としていわゆるデジタル複合機やデジタル印刷機に本発明を適用した場合を例示して説明を行なったが、その他の画像形成装置に本発明を適用することも当然に可能である。
【0311】
このように、今回開示した上記実施の形態および実施例はすべての点で例示であって、制限的なものではない。本発明の技術的範囲は特許請求の範囲によって画定され、また特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。